特許異議申立
2025-700426
容器詰め炭酸飲料
- 審判番号
- 2025-700426
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-557470
- 登録番号
- 7566925
- 請求日
- 2025年04月15日
- 審決日
- 2025年08月22日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】古橋 伸茂
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 柴田 昌弘
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7566925号発明「容器詰め炭酸飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7566925号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7566925号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、
2021年(令和3年)10月15日(優先権主張 令和2年10月15日)を国際出願日とする出願であって、
令和6年10月4日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、
同年同月15日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和7年4月15日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満、炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2、および、2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbである容器詰め炭酸飲料。
【請求項2】
乳酸を800質量ppm以下で含む、請求項1に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項3】
リン酸を含有量が500質量ppmで含む、請求項1または2に記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項4】
pHが2.5~4.5である、請求項1~3のいずれかに記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項5】
前記炭酸飲料がビールテイスト飲料である、請求項1~4のいずれかに記載の容器詰め炭酸飲料。
【請求項6】
前記炭酸飲料がノンアルコールビールテイスト飲料である、請求項1~4のいずれかに記載の容器詰め炭酸飲料。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、判断の便宜上、申立理由については、主引用文献となる証拠毎に申立理由を整理した。
1 申立理由1A及び2A(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由1B及び2B(甲第8号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第8号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第8号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由1C及び2C(甲第9号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第9号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4~6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
・甲第1号証:特開2013-188221号公報
・甲第2号証:特開2016-106586号公報
・甲第3号証:乾隆子、成分プロファイリングによるホップの香気特性と健康機能に関する研究、静岡県立大学学位論文、静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府 食品栄養科学専攻 博士後期課程 食品分析化学研究室、静岡県立大学附属図書館機関リポジトリ、2017年3月30日、<URL:https://u-shizuoka-ken.repo.nii.ac.jp/records/4492>
・甲第4号証:
[図:0001426854000001.jpg]
2000年1月、第19巻、第1期、第59~62ページ
・甲第5号証:Coelho et al.、Volatile fingerprinting differentiates diverse-aged craft beers、LWT-Food Science and Technology、2019年、第108巻、第129~136ページ、<URL:DOI:https://doi.org/10.1016/j.lwt.2019.03.044>
・甲第6号証:Tsuji et al.、Volatile Compounds and the Changes in Their Concentration Levels during Storage in Beers Containing Varying Malt Concentrations、JOURNAL OF FOOD SCIENCE、2010年、第75巻、第1号、第C79~C84ページ、<URL:DOI:https://doi.org/10.1111/j.1750-3841.2009.01428.x>
・甲第7号証:Iannone et al.、From Hops to Craft Beers: Production Process, VOCs Profile Characterization, Total Polyphenol and Flavonoid Content Determination and Antioxidant Activity Evaluation、Processes、2022年 第10巻、517、第1~15ページ、<URL:DOI:https://doi.org/10.3390/pr10030517>
・甲第8号証:国際公開第2015/132974号
・甲第9号証:特開2014-64488号公報
証拠の表記はおおむね特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由1A~2Cによっては、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1A及び2A(甲1に基づく新規性・進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」について、おおむね次の事項が記載されている。下線部は当審が付与した。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ビールテイスト飲料、特に、麦芽などの成分濃度が低い、低エキス分のビールテイスト飲料に飲み応えを付与する手段は十分に検討されていない。本発明は、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料であって飲み応え感が付与された飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した。その結果、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料においては、pHをある特定の範囲に調整することにより飲み応え感が付与され、更に適度な酸味が付与されることを見出し、本発明を完成した。」
・「【0037】
ビールテイスト飲料においては、香味がビールに類似する傾向にあることから、原料の一部にホップを用いることが望ましい。ホップを使用する際には、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、還元ホップなどのホップ加工品を用いてもよい。本発明におけるホップには、これらのものが包含される。また、ホップの添加量は特に限定されないが、典型的には、飲料全量に対して0.0001重量%以上、1重量%以下程度である。」
・「【0054】
<容器詰飲料>
本発明のノンアルコールのビールテイスト飲料は、容器に充填・密閉して、容器詰めとすることができる。いずれの形態・材質の容器を用いてもよく、容器の例としては、ビン、缶、樽、又はペットボトルが挙げられる。」
・「【実施例】
【0055】
実施例において、具体例を挙げて本発明について説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
<ノンアルコールのビールテイスト飲料の製造>
ノンアルコールのビールテイスト飲料を、以下の方法により製造した。麦芽20kgを適当な粒度に粉砕して仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作った。50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃~72℃で60分間、糖化を行った。糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得た。
【0057】
得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の総量が約4.0重量%になるよう調整した。製造スケールを100Lとし、ホップを約100g、市販のカラメル色素(クラスI)約40gを添加し、100℃で80分間煮沸した。煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却した。
【0058】
当該冷却液の一部をとり、最終製品のエキス分の総量が、0.01重量%となるように冷水を適量添加して希釈した。pH調整剤として乳酸を用い、当該希釈液に対して、pH調整剤(1回目)、酸化防止剤、香料、甘味料を各々適量加え、約24時間貯蔵した。その後、pH調整剤(2回目)を添加し、炭酸ガスを適量添加し、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。pH調整剤(1回目と2回目)の量を調整することにより、pHが5.5の対照品1、及び、それよりもpH調整剤を多く用いたpHが3.0の発明品1を調製した。同様にして、pHが5.5に調整された対照品2~5(エキス分の総量が0.1~2.0重量%)、及びpHが3.0に調整された発明品2~5(エキス分の総量が0.1~2.0重量%)を調製した。」
・「【0062】
【表1】
[図:0001426854000002.jpg]
【0063】
[実施例2]
<pHの至適範囲の検討>
エキス分の総量が0.1重量%に調整されたノンアルコールのビールテイスト飲料を実施例1の方法に準じて製造した。その際、pH調整剤(1回目と2回目)を添加することにより、飲料のpHを2.5に調整して対照品6、pHを2.7~4.5に調整して本発明品6~10、そしてpHを5.0~6.0に調整して対照品7及び8を製造した。」
・「【0080】
[実施例4]
pH調整剤としてリン酸を用いてノンアルコールのビールテイスト飲料を製造した。この飲料は、pH調整剤としてリン酸を用いたこと以外は実施例2に準じて製造した。また、別に、pH調整剤として乳酸とリン酸を併用して、ビールテイスト飲料を製造した。pH調整剤としては、あらかじめ、乳酸とリン酸(モル比で1:1)を混合したものを用いた。それ以外は実施例2に準じて、この飲料を製造した。得られたノンアルコールのビールテイスト飲料について、飲み応えと酸味を評価した。専門パネリスト5名が評点法による官能試験を行い、4点満点で飲み応えと酸味を評価した。評価基準は、実施例1及び2と同じであった。結果を表4および表5に示す。
・・・
【0082】
【表4】
[図:0001426854000003.jpg]
【0083】
【表5】
[図:0001426854000004.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アに記載された内容のうち、特に実施例4を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「麦芽20kgを適当な粒度に粉砕して仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作り、50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃~72℃で60分間、糖化を行い、糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得て、得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の総量が約4.0重量%になるよう調整し、製造スケールを100Lとし、ホップを約100g、市販のカラメル色素(クラスI)約40gを添加し、100℃で80分間煮沸し、煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却し、当該冷却液の一部をとり、最終製品のエキス分の総量が、0.01重量%となるように冷水を適量添加して希釈し、当該希釈液に対して、pH調整剤(1回目)、酸化防止剤、香料、甘味料を各々適量加え、約24時間貯蔵し、その後、pH調整剤(2回目)を添加し、炭酸ガスを適量添加し、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、調整された非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料であって、pH調整剤として乳酸とリン酸(モル比で1:1)を混合したものを用いて製造され、表5で示された特性を有する、ノンアルコールのビールテイスト飲料。」(当審注:表5については、上記アを参照。以下、同様。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明の対比・判断
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「炭酸ガスを適量添加し、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、調整された非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料」は、本件特許発明1の「容器詰め炭酸飲料」に相当する。また、甲1発明は「非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料」であるし、エタノールが添加されたものでないから、本件特許発明1の「エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満」を満たす。
そうすると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満である、容器詰め炭酸飲料。」
<相違点1―1>
本件特許発明1では、「炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2」であることが特定されているのに対し、甲1発明では、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1では、「2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbである」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、そのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点1-2について検討する。
甲1には、2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbであることは記載されていない。また、全ての証拠を見ても、甲1発明の「ビールテイスト飲料」における「2-メチル-2-ペンテン酸」の含有量を伺わせる記載もない。してみれば、相違点1-2は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において2-メチル-2-ペンテン酸の含有量を30~10500質量ppbとする動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭酸ガスの含有量を抑制しながら、のど刺激を与える容器詰め炭酸飲料を提供する。さらに、不適な後味の渋みが抑制された容器詰め炭酸飲料を提供する」という効果(発明の詳細な説明【0007】)は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(イ)特許異議申立人の主張
上記相違点1-2について、特許異議申立人は、特許異議申立書(第39~40ページ)において以下のとおり主張している。
・「2-メチル-2-ペンテン酸は、多くのホップに含まれている香気成分である(記載事項3-4、記載事項4-5)。国際的に使用されている7種類のホップ品種、シュタイアーリアンゴールディング ホップ、ヘルスブルカーホップ、ハラータウブランホップ、「カスケード クライオ ホップ○R(当審注:○Rは、Rを○で囲んだ記号である。以下、同様。)」、パシフィックジェイドホップ、パシフィカホップ、トパーズホップのうち、パシフィカホップ以外の6品種には、2-メチル-2-ペンテン酸が分析可能な量含まれている(記載事項7-1、記載事項7-2)。このため、ホップを原料とするビールテイスト飲料は、2-メチル-2-ペンテン酸を含んでいる(記載事項6-3)。実際に、麦汁とホップから一般的な製法で製造されたビール(記載事項5-3、図1中の「ub」)の2-メチル-2-ペンテン酸含有量が64.6±4.2μg/Lであったことが報告されている(記載事項5-4)。これらの知見から、甲1発明のノンアルコールビールテイスト飲料の2-メチル-2-ペンテン酸含有量は、30~10500質量ppbの範囲内である蓋然性が高い。したがって、相違点1-2は、実質的な相違点とは言えない。」
・「ビールテイスト飲料中の2-メチル-2-ペンテン酸含有量は、使用するホップの種類やホップ使用量、ホップ添加時期、ホップ添加後の煮沸条件等に依存する。また、ホップはビールテイスト飲料の重要な呈味である苦味の主成分であるイソα酸をもたらす原料であり、ビールテイスト飲料においてホップの種類やホップ使用量等の条件は、求める苦味品質等を考慮して当業者が適宜決定する。このため、仮に、甲1発明のノンアルコールビールテイスト飲料の2-メチル-2-ペンテン酸含有量が30~10500質量ppbの範囲内ではなかったとしても、使用するホップを、汎用されている2-メチル-2-ペンテン酸を含有するホップ(例えば、シュタイアーリアンゴールディング ホップ、ヘルスブルカーホップ、ハラータウブランホップ、「カスケード クライオ ホップ○R」、トパーズホップ)とし、かつ使用量を適宜変更することは、当業者が通常行う設計事項であり、その結果として2-メチル-2-ペンテン酸含有量が30~10500質量ppbの範囲内になり得る。つまり、相違点1-2は、当業者が通常行う設計事項により容易に達成されるものであり、相違点1-2によっては、本件発明の進歩性は認められるべきではない。」
しかしながら、甲1発明には使用するホップの種類は特定されておらず、また、以下に示す甲7のTable.3にも記載されているとおり、一般的に使用されているホップ品種の中でも2-メチル-2-ペンテン酸が分析可能な量含まれていない品種もあることが知られている。
・「
[図:0001426854000005.jpg]
」(甲7 Table.3)
そうすると、甲1発明がホップを原料として使用しているからといって2-メチル-2-ペンテン酸を必ず含有しているとまでは認められず、また、仮に、甲1発明が2-メチル-2-ペンテン酸を含有していたとしても、2-メチル-2-ペンテン酸含有量を30~10500質量ppbの範囲内に調整する動機付けとなる記載は、甲1及び他の証拠にされていない。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではあるとはいえないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2~6について
本件特許発明2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2、4~6は、甲1発明ではなく、また、本件特許発明2~6は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1A及び2Aのまとめ
以上のことから、本件特許発明1、2及び4~6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1~6は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しないので、申立理由1A及び2Aによっては取り消すことはできない。
2 申立理由1B及び2B(甲8に基づく新規性・進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲8に記載された事項
甲8には、「難消化性デキストリンを含有する非発酵ビール風味飲料」について、おおむね次の事項が記載されている。下線部は当審が付与したものと元から付与されていたものとである。以下、同様である。
・「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0022] 本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、血中中性脂肪の上昇抑制効果を有し、低カロリーでありながら、ビールらしい風味、即ち、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が適度にバランスされた非発酵ビール風味飲料を提供することにある。」
・「[0087] 実施例4
実施例3で評価の良かった試験区10をベースにpH調整剤の種類を検討した。表10に掲げる配合物を混合し、1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させた。
[表10]
[図:0001426854000006.jpg]
[0088] ホップはBarth-Haas Group社製の「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、イソα酸含量が0.02g/Lになるように調整した。
[0089] 得られた飲料の評価を表11に示した。評価はビール類専門パネル5人により各9点満点の採点を平均した。「バランスの良さ」、「飲んだ後のキレの良さ」において、リン酸、乳酸、フィチン酸の評価が高かった。
[0090][表11]
[図:0001426854000007.jpg]
」
イ 甲8に記載された発明
上記アに記載された内容のうち、特に実施例4の試験区13を中心に整理すると、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
<甲8発明>
「表10の試験区13に掲げる配合物を混合し、1Lになるように水でメスアップし、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させた、非発酵ビール風味飲料。」(当審注:表10については、上記アを参照。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲8発明の対比・判断
本件特許発明1と甲8発明を対比する。
甲8発明の「炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させた、非発酵ビール風味飲料。」は、炭酸ガス含有量2.4kg/cm2であり、炭酸ガスを含有するため当然に容器詰めした飲料であると認められるから、本件特許発明1の「炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2である容器詰め炭酸飲料。」を満たす。
また、甲8発明の「非発酵ビール風味飲料」はエタノールを添加しておらず、また、アルコール発酵させたものでもないから、本件特許発明1の「エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満」であることを満たす。
そうすると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満、炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2である容器詰め炭酸飲料。」
<相違点8>
本件特許発明1では、「2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbである」ことが特定されているのに対し、甲8発明では、そのようには特定されていない点。
相違点8について検討する。
甲8には、2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbであることは記載されていない。また、全ての証拠を見ても、甲8発明の「非発酵ビール風味飲料」における「2-メチル-2-ペンテン酸」の含有量を伺わせる記載もない。してみれば、相違点8は実質的な相違点である。
また、甲8及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲8発明において2-メチル-2-ペンテン酸の含有量を30~10500質量ppbとする動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭酸ガスの含有量を抑制しながら、のど刺激を与える容器詰め炭酸飲料を提供する。さらに、不適な後味の渋みが抑制された容器詰め炭酸飲料を提供する」という効果は、甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(イ)特許異議申立人の主張
相違点8についての特許異議申立人の主張及び当審の判断は、上記1(2)ア(イ)と同様である。
(ウ)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は甲8発明ではあるとはいえないし、また、甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2~6について
本件特許発明2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2及び4~6は、甲8発明ではなく、また、本件特許発明2~6は甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1B及び2Bのまとめ
以上のことから、本件特許発明1、2及び4~6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1~6は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しないので、申立理由1B及び2Bによっては取り消すことはできない。
3 申立理由1C及び2C(甲9に基づく新規性・進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲9に記載された事項
甲9には、「低pH飲料」について、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0045】
飲料の製造方法
別の観点からは、本発明は、飲料の製造方法である。当該方法は、苦味物質を含みpH4.0以下である飲料に、1~3500ppmのグリセロールを配合することを特徴とする。グリセロールを添加する形態及び方法は特に限定されず、グリセロール又はグリセロールを含む物品を、原料として製造工程の任意のタイミングで添加することができる。
【0046】
本発明の飲料の製造では、原料を配合する方法は限定されない。例えば、公知の方法を用いて原料を飲料中に配合することができる。必要に応じて、殺菌、容器詰めなどの工程を適宜設けることができる。好ましい態様において、本発明の飲料は、飲料の充填工程を経て容器詰め飲料とすることができ、殺菌された容器詰め飲料とすることができる。例えば、飲料組成物を容器に充填した後にレトルト殺菌などの加熱殺菌を行ったり、飲料組成物を殺菌して容器に充填することにより、殺菌された容器詰め飲料を製造することができる。
【0047】
より具体的には、缶などの金属容器詰め飲料とする場合には、本発明の飲料組成物を容器に所定量充填し、殺菌(例えば、65℃、10分)を行うことができ、ペットボトルや紙パック、瓶飲料、缶飲料、パウチ飲料とする場合には、例えば90~130℃で1~数十秒保持するFP又はUHT殺菌を行い、所定量を充填することができる。本発明の飲料組成物を容器詰め飲料とする場合は、ホットパック充填法又は無菌充填法のいずれも用いることができる。」
・「【0064】
実施例3
市販のビールテイストノンアルコール飲料を用いてグリセロールによる香味改善効果を確認した。ビールテイストノンアルコール飲料としては、原材料に麦芽を使用するもの(オールフリー、サントリー酒類製)と麦芽を使用しないもの(ドライゼロ、アサヒビール製)を用いた。ここで使用したビールテイスト飲料は、いずれも原材料としてホップを使用しているため、本発明でいう苦味物質を含むが、後者は麦芽由来成分を含まないので麦芽飲料ではない。それぞれアルコール度数は0.00及び0.00%、pHは3.8及び3.7、また炭酸ガスのガス圧は2.1及び2.3kg/cm2程度である。また、可溶性固形分濃度(ブリックス値)は0.4度及び3.7度だった。」
イ 甲9に記載された発明
上記アに記載された内容のうち、特に実施例3を中心に整理すると、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。
<甲9発明>
「アルコール度数は0.00%、炭酸ガスのガス圧は2.1kg/cm2程度である、ビールテイスト飲料。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲9発明の対比・判断
本件特許発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明は「アルコール度数は0.00%」であるから、本件特許発明1の「エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満」に相当する。
また、甲9発明の「炭酸ガスのガス圧は2.1kg/cm2程度である、ビールテイスト飲料。」は、本件特許発明1の「炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2である」ことを満たし、当然に容器詰め飲料であるから、本件特許発明1の「炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2である容器詰め炭酸飲料。」を満たす。
そうすると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「エタノールの含有量が1.0(v/v)%未満、炭酸ガス含有量が0.10~5.0kg/cm2である容器詰め炭酸飲料。」
<相違点9>
本件特許発明1では、「2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbである」ことが特定されているのに対し、甲9発明では、そのようには特定されていない点。
相違点9について検討する。
甲9には、2-メチル-2-ペンテン酸の含有量が30~10500質量ppbであることは記載されていない。また、全ての証拠を見ても、甲9発明の「ビールテイスト飲料」における「2-メチル-2-ペンテン酸」の含有量を伺わせる記載もない。してみれば、相違点9は実質的な相違点である。
また、甲9及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲9発明において2-メチル-2-ペンテン酸の含有量を30~10500質量ppbとする動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭酸ガスの含有量を抑制しながら、のど刺激を与える容器詰め炭酸飲料を提供する。さらに、不適な後味の渋みが抑制された容器詰め炭酸飲料を提供する」という効果は、甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(イ)特許異議申立人の主張
相違点9についての特許異議申立人の主張及び当審の判断は、上記1(2)ア(イ)と同様である。
(ウ)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は甲9発明ではあるとはいえないし、また、甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明4~6について
本件特許発明4~6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明4~6は、甲9発明ではなく、また、甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1C及び2Cのまとめ
以上のことから、本件特許発明1及び4~6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1及び4~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しないので、申立理由1C及び2Cによっては取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明1~6に係る特許は、上記の特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700426