特許異議申立
2023-700843
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2023-700843
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-246818
- 登録番号
- 7224179
- 請求日
- 2023年08月17日
- 審決日
- 2024年06月13日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】細田 芳徳
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7224179号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7224179号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。
特許第7224179号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7224179号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年12月28日の出願であって、令和5年2月9日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年8月17日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年12月21日付けで取消理由が通知され、令和6年2月21日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月29日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年4月4日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
た。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正請求における訂正の趣旨は、「特許第7224179号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である、ビールテイスト飲料。」と記載されているのを、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である、ビールテイスト飲料(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)。」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である、ビールテイスト飲料の製造方法。」と記載されているのを、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である、ビールテイスト飲料(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)の製造方法。」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量をR-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように増やす工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」と記載されているのを、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量をR-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように増やす工程を有する、ビールテイスト飲料(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)の製造方法。」に訂正する。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1から、特定の発泡アルコール飲料に係るものを除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2から、特定の発泡アルコール飲料に係るものを除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項2の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3から、特定の発泡アルコール飲料に係るものを除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和6年2月21日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である、ビールテイスト飲料(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)。
【請求項2】
真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である、ビールテイスト飲料(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)の製造方法。
【請求項3】
真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量をR-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように増やす工程を有する、ビールテイスト飲料(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)の製造方法。
【請求項4】
真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上のビールテイスト飲料のコク味を増強する方法であって、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量をR-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように増やす工程を有する、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法に使用される、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含む、ビールテイスト飲料のコク味増強剤。」
第4 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし5に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要(下記1ないし6)は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第10号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-2(甲第10号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 申立理由3-1(麦芽比率について)
本件明細書の実施例1及び実施例2の結果からは、麦芽比率が低いビールテイスト飲料でも、実施例2と同様の効果が得られるとは、当業者には理解できない。
よって、麦芽比率が100%以外のビールテイスト飲料をも含む本件特許発明1ないし5は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
(2) 申立理由3-2(真正エキス分に対する分子量35~50kDaタンパク質の含有量の比率について)
本件特許の明細書の実施例1と実施例2のビールテイスト飲料では、比較対象のビールテイスト飲料に35~50kDaタンパク質を添加する処理のみが行われているため、添加後のビールテイスト飲料では、添加前よりも真正エキス分に対する分子量35~50kDaのタンパク質の含有量の比率は当然に大きくなっている。しかし、これらの結果は、35~50kDaタンパク質を添加することでコク味が増強されることを示しているに過ぎず、真正エキス分に対する分子量35~50kDaのタンパク質の含有量の比率とコク味の関係については何ら示されていない。また、本件特許の明細書には、いかなる作用機序によりコク味増強効果が得られるのかについての記載は一切ない。
このため、真正エキス分3.8w/w%以上のビールテイスト飲料であれば、35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%)を11以上とすることによって、実施例1及び2と同様のコク味増強効果が得られるとは当業者が理解できない。
したがって、本件特許発明1ないし5は、本件特許の明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されていない態様が含まれることから、本件特許発明1ないし5は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
6 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 申立理由4-1(麦芽比率について)
本件明細書の実施例1及び実施例2の結果からは、麦芽比率が低いビールテイスト飲料でも、実施例2と同様の効果が得られるとは、当業者には理解できない。
よって、本件特許の明細書には、本件特許発明1ないし5の全範囲において、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。
(2) 申立理由4-2(真正エキス分に対する分子量35~50kDaタンパク質の含有量の比率について)
本件特許の明細書の実施例1と実施例2のビールテイスト飲料では、比較対象のビールテイスト飲料に35~50kDaタンパク質を添加する処理のみが行われているため、添加後のビールテイスト飲料では、添加前よりも真正エキス分に対する分子量35~50kDaのタンパク質の含有量の比率は当然に大きくなっている。しかし、これらの結果は、35~50kDaタンパク質を添加することでコク味が増強されることを示しているに過ぎず、真正エキス分に対する分子量35~50kDaのタンパク質の含有量の比率とコク味の関係については何ら示されていない。また、本件特許の明細書には、いかなる作用機序によりコク味増強効果が得られるのかについての記載は一切ない。
このため、真正エキス分3.8w/w%以上のビールテイスト飲料であれば、35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%)を11以上とすることによって、実施例1及び2と同様のコク味増強効果が得られるとは当業者が理解できない。
したがって、本件特許の明細書には、本件特許発明1ないし5の全範囲において当業者が実施できるように記載されているとはいえない。
7 証拠方法
・甲第1号証 :国際公開第2011/052483号
・甲第2-1号証:特開2015-107102号公報
・甲第2-2号証:特開2002-199873号公報
・甲第2-3号証:Hu et al,“Differences in protein content and foaming properties of cloudy beers based on wheat malt content”, Journal of the Institute of Brewing, vol.125, p.235-241, The Institute of Brewing & Distilling 27, December 2018, <URL:https:// onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jib.550>
・甲第2-4号証:MiNTEL(ミンテル)GNPD(世界新商品情報データベース)、Mintel Group Ltd、記録番号715645、「Malt's Beer」、2007年5月掲載、[on Line]、[検索日:2023年6月9日]、インターネット、<URL:http//www.gnpd.com/sinatra/recordpage/715645/from_search/M1QlZ5gpqV/?page=26>
・甲第2-5号証:MiNTEL(ミンテル)GNPD(世界新商品情報データベース)、Mintel Group Ltd、記録番号432718、「MALT’S」、2006年4月掲載、[on Line]、[検索日:2023年6月9日]、インターネット、<URL:http//www.gnpd.com/sinatra/recordpage/432718/from_search/M1QlZ5gpqV/?page=27>
・甲第2-6号証:MiNTEL(ミンテル)GNPD(世界新商品情報データベース)、Mintel Group Ltd、記録番号1719759、「The Premium Malt's Beer」、2012年1月掲載、[on Line]、[検索日:2023年7月7日]、インターネット、<URL:http//www.gnpd.com>
・甲第2-7号証:MiNTEL(ミンテル)GNPD(世界新商品情報データベース)、Mintel Group Ltd、記録番号2260107、「Pilsner Beer」、2013年12月掲載、[on Line]、[検索日:2023年7月7日]、インターネット、<URL:http//www.gnpd.com>
・甲第2-8号証:Grujic et al, “Application of Hydrothermically Treated Barley in Beer Production”, Journal of the Institute of Brewing, Vol.105 No.1 1999, The Institute of Brewing & Distilling, p.45-48, <URL:https://onlinelibrary.wiley.can/doi/10.1002/j.2050-0416.1999.tb00004.x>
・甲第2-9号証:Koszyk et al,“Unmalted Grains as Maltsters' Adjuvant and Brewers'Adjunct”, Journal of the American Society of Brewing Chemists, vol.35, 1977, The American Society of Brewing Chemists, p.77-81、<URL:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1094/ASBCJ-35-0077>
・甲第3号証 :特開平6-78740号公報
・甲第4号証 :特開2018-196335号公報
・甲第5号証 :Iimure, et al,“Construction of a novel beer proteome map and its use in beer quality control”, Food Chemistry, vol.118, 2010, Elsevier Ltd., p.566-574、<URL:https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2009.05.022>
・甲第6号証 :Yokoi, et al,“Characterization of Major Proteins and Peptides in Beer”, Journal of the American Society of Brewing Chemists, vol.46, No.4, 1988, The American Society of Brewing Chemists, p.99-103、<URL:https://doi.org/10.1094/ASBCJ-46-0099>
・甲第7号証 :Leisegang, et al,“Degradation of a Foam-Promoting Barley Protein by a Proteinase from Brewing Yeast”, JOURNAL OF THE INSTITUTE OF BREWING, vol.111, No.2,
2005, The Institute of Brewing & Distilling, p.112-117、<URL:https://doi.org/10.1002/j.2050-0416.2005.tb00656.x>
・甲第8号証 :Mills, et al,“Immunological Study of Hydrophobic Polypeptides in Beer”, Journal of Agricultural and Food Chemistry, vol.46, 1998, American Chemical Society, p.4475-4483、<URL:https://doi.org/10.1021/jf9801163>
・甲第9号証 :宮地秀夫、「ビール醸造技術」、1999年12月28日、株式会社食品産業新聞社、第382~386ページ
・甲第10号証 :Niu et al,“Malt derived proteins: Effect of protein Z on beer foam stability”, Food Bioscience, vol.25, July 10 2018, Elsevier Ltd., p.21-27、<URL:https://doi.org/10. 1016/j.fbio.2018.07.003>
・甲第11号証 :渡淳二(監修)、サッポロビール価値創造フロンティア研究所(編集)、「ビールの科学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密」、ブルーバックスB-1632、株式会社講談社、2009年3月20日、第74、76ページ
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載に従った。
第5 令和5年12月21日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要
請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和5年12月21日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1-1及び申立理由2-1のうち請求項1ないし3に係る部分が包含される。
(1) 取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2) 取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 令和5年12月21日付け取消理由通知で通知した取消理由について
以下のとおり、特許権者に対し令和5年12月21日付け取消理由通知で通知した取消理由(取消理由1及び取消理由2)は、その理由がないものと判断する。
●取消理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「発泡性飲料及びその製造方法」に関し、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、発泡性飲料及びその製造方法に関し、特に、発泡性飲料の泡特性の向上に関する。」
「[0007] 本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、泡特性が効果的に向上した発泡性飲料及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。」
「[0008] 上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る発泡性飲料は、疎水性ポリペプチドを1.1g/L以上含有することを特徴とする。本発明によれば、泡特性が効果的に向上した発泡性飲料を提供することができる。」
「[0019] まず、本実施形態に係る発泡性飲料(以下、「本飲料」という。)について説明する。本実施形態において、発泡性飲料とは、炭酸ガスを含有する飲料であって、例えば、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性と、を有する飲料である。具体的に、この発泡性飲料は、例えば、EBC(European Brewery Convention:欧州醸造協会)法によるNIBEM値が50秒以上を示す飲料である。
[0020] 発泡性飲料は、例えば、発泡性アルコール飲料とすることができる。本実施形態において、発泡性アルコール飲料とは、上述のような泡特性を有する発泡性飲料であって、例えば、エタノールを1体積%以上の濃度で含有する飲料である。具体的に、発泡性アルコール飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、発泡酒にスピリッツを添加してなる発泡性アルコール飲料(日本の酒税法で定義されるリキュール類)が挙げられる。」
「[0025] すなわち、従来、例えば、ビールの泡特性を向上させるタンパク質としては、分子量が約40kDaのprotein Z(以下、「40kDaタンパク質」という。)や、LTP1(Lipid Transfer Protein 1)が知られている。これに対し、本発明の発明者らは、独自に検討に検討を進めた結果、これら40kDaタンパク質やLTP1とは異なる、泡特性を向上させる新たなポリペプチドとして、本発明に係る疎水性ポリペプチドを見出したのである。」
「[0045] 本方法は、例えば、大麦を含む原料を使用して発泡性飲料を製造する方法であって、当該大麦をプロテアーゼで処理することによって、疎水性ポリペプチドの含有量が増加した当該発泡性飲料を製造する方法とすることができる。すなわち、この場合、本方法においては、原料に含まれる大麦をプロテアーゼで処理することによって、当該大麦を当該プロテアーゼで処理しない場合に比べて、発泡性飲料における疎水性ポリペプチドの含有量を増加させる。このように大麦を原料として使用する場合、例えば、当該原料を加工する工程において当該大麦のプロテアーゼ処理を行うことにより、製造される発泡性飲料の泡特性を効果的に向上させることができる。」
「[0076] 大麦原料は、例えば、1重量%以上、100重量%以下の大麦及び0重量%以上、99重量%以下の大麦麦芽を含むことができ、32重量%以上、100重量%以下の大麦及び0重量%以上、68重量%以下の大麦麦芽を含むことができ、51重量%以上、100重量%以下の大麦及び0重量%以上、49重量%以下の大麦麦芽を含むことができ、76重量%以上、100重量%以下の大麦及び0重量%以上、24重量%以下の大麦麦芽を含むことができる。」
「実施例1
[0132][発泡性アルコール飲料の製造]
大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップ及びプロテアーゼを含む原料を使用して、インフュージョン法により発泡性アルコール飲料を製造した。
[0133] プロテアーゼとしては、7種類のプロテアーゼ(以下、「プロテアーゼP1~P7」という。)のうちいずれか1種を使用した。すなわち、プロテアーゼP1(オリエンターゼ10NL、エイチビィアイ株式会社製)、プロテアーゼP2(プロチンSD-PC10F、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP3(ウマミザイムG、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP4(Trypsin4.0T、株式会社樋口商会製)、プロテアーゼP5(スミチームLP50D、新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼP6(スミチームSP、新日本化学工業株式会社製)又はプロテアーゼP7(スミチームACP-G、新日本化学工業株式会社製)を使用した。
[0134] なお、これら7種類のプロテアーゼは、16種類のプロテアーゼを使用した予備試験において、発泡性アルコール飲料の泡特性の向上に寄与し得る好ましいプロテアーゼとして選択されたものであった。
[0135] すなわち、この予備試験におけるスクリーニングの結果、16種類のプロテアーゼのうち、次の9種類;オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ株式会社製)、オリエンターゼ10NL(エイチビィアイ株式会社製)、スミチーム焼酎(新日本化学工業株式会社製)、スミチームP(新日本化学工業株式会社製)、スミチームRPII(新日本化学工業株式会社製)、ビオプラーゼOP(ナガセケムテックス株式会社製)、アロアーゼXA-10(ヤクルト薬品工業株式会社製)、パンチダーゼP(ヤクルト薬品工業株式会社製)、Neutrase0.8L(novozymes社製);は、発泡性アルコール飲料の泡持ち特性の向上に寄与しないとの理由により採用されなかった。
[0136] まず、50℃の湯に、ホップを除く、大麦830g(大麦原料の77重量%)、大麦麦芽250g(大麦原料の23重量%)及びプロテアーゼ1.08g(大麦原料に対して0.1重量%)を含む原料を投入し、原料液を調製した。そして、この原料液を50℃で30分間保持することにより、大麦をプロテアーゼで処理するとともに、タンパク休止を行った。
[0137] その後、原料液を65℃で60分間保持することにより、糖化を行った。次いで、原料液を75℃で3分間保持した後、当該原料液をろ過し、発酵前液を得た。さらに、この発酵前液を100℃まで加熱し、ホップ7gを添加して煮沸した。煮沸後の発酵前液をろ過した後、冷却した。
[0138] 冷却された発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調製した。この発酵液を10~13℃の温度で所定期間維持することにより前発酵を行った。さらに、前発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯酒を行った。貯酒後の発酵液をろ過して、発泡性アルコール飲料を得た。
[0139] また、比較の対照として、プロテアーゼを使用しない以外は同様にして、発泡性アルコール飲料を製造した。こうして、8種類の発泡性アルコール飲料を製造した。」
「[0156] 図4には、8種類の発泡性アルコール飲料の各々について、大麦の処理に使用したプロテアーゼの種類(P1~P7)、疎水性ポリペプチドの含有量(g/L)、大麦1kgあたりの疎水性ポリペプチドの収量(g/kg-大麦)、プロテアーゼの使用による当該疎水性ポリペプチドの含有量の増加量(g/L)、プロテアーゼの使用による当該疎水性ポリペプチドの収量の増加量(g/kg-大麦)、40kDaタンパク質の含有量(mg/L)、NIBEM値(秒)を対応させて示す。なお、大麦1kgあたりの疎水性ポリペプチドの収量は、発泡性アルコール飲料における疎水性ポリペプチドの含有量(g/L)、当該発泡性アルコール飲料の製造に使用された大麦の重量(g)及び製造された当該発泡性アルコール飲料の体積(L)に基づき算出した。」
「[図4]
[図:0001414177000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載を、特に、実施例1及び図4の記載においてプロテアーゼとして「P1」を用いたものについて整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、
発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、
分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が259mg/Lである、
発泡性アルコール飲料。」(以下、「甲1P1発明」という。)
「大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とする発泡性アルコール飲料の製造方法であって、
得られる発泡性アルコール飲料は、
発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、
分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が259mg/Lである、
発泡性アルコール飲料の製造方法。」(以下、「甲1P1製法1発明」という。)
「大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とする発泡性アルコール飲料の製造方法であって、
糖化に先立ちプロテアーゼを添加し処理を行うものであって、
得られる発泡性アルコール飲料は、
発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、
分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が259mg/Lである、
発泡性アルコール飲料の製造方法。」(以下、「甲1P1製法2発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1P1発明とを対比する。
甲1P1発明の「発泡性アルコール飲料」は、その原料及び製法から見て、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1P1発明の「分子量40kDaの大麦由来タンパク質」は、本件特許の明細書の【0013】の記載からみて、本件特許発明1の「分子量35~50kDaの麦由来タンパク質」に相当するものといえる。
してみると、両者は、
「分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含有する、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で一応相違する。
(相違点1-1)
ビールテイスト飲料について、本件特許発明1は「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり」と特定するのに対し、甲1P1発明はそのような特定を有さない点。
(相違点1-2)
ビールテイスト飲料について、本件特許発明1は「R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である」と特定するのに対して、甲1P1発明はそのような特定を有さない点。
(相違点1-3)
ビールテイスト飲料について、本件特許発明1は「(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)」と特定するのに対し、甲1P1発明にはそのような特定を有さない点。
上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
本件特許発明1は「但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く」ものであるところ、甲1P1発明は「大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が259mg/Lである、発泡性アルコール飲料。」であるから、本件特許発明1に甲1P1発明が含まれないものであることは明らかである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1P1発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1P1発明において、発酵原料中の大麦麦芽の比率を変更することの動機付けはあるとしても、発酵原料中の大麦麦芽の比率の変更に伴って分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量がどのようになるのか明らかではなく、ましてや、本件特許発明1のビールテイスト飲料のコク味を優れたものとするとの効果を予測することはできないから、甲1P1発明において、相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることが、当業者において容易になし得たこととすることはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1P1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は、令和6年4月4日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、大麦麦芽の比率を変更することは容易であり、発酵原料として大麦及び大麦麦芽の合計が100%である以上、大麦由来タンパク質の含有量は同程度である旨主張する(意見書p.2-3)が、仮にそうであるとしても、本件特許発明1のビールテイスト飲料のコク味を優れたものとするとの効果を予測することはできないから、本件特許発明1は、甲1P1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1P1製法1発明とを対比すると、上記アの場合と同様の相当関係・判断が成立する。
よって、本件特許発明2は、甲1P1製法1発明ではなく、また、甲1P1製法1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1P1製法2発明とを対比すると、甲1P1製法2発明における「糖化に先立ちプロテアーゼを添加し処理を行う」点が本件特許発明3の「分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量をR-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように増やす工程」に相当し、それ以外の点は、上記アの場合と同様の相当関係・判断が成立する。
よって、本件特許発明3は、甲1P1製法2発明ではなく、また、甲1P1製法2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 甲第1号証に記載された他の発明について
上記アないしウでは、甲第1号証の実施例1のうち、プロテアーゼとして「P1」を採用した場合について対比・判断したが、甲第1号証の実施例1のうち、プロテアーゼとして、「P2」~「P7」を採用した場合においても、上記アないしウと同様に判断される。
また、甲第1号証の実施例1のうち、プロテアーゼを添加しなかった例(図4のプロテアーゼの欄において「-」と表記されている例)についても、上記ア及びイと同様に判断される。
(3) 取消理由1及び取消理由2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び取消理由2の理由では、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
2 令和5年12月21日付け取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
令和5年12月21日付け取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由1-1及び申立理由2-1のうち請求項4及び5の部分、申立理由1-2、申立理由2-2、申立理由3及び申立理由4であるが、以下のとおり、いずれの申立理由についてもその理由がないものと判断する。
(1) 申立理由1-1及び申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)のうち、請求項4及び5に係る部分について
甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明は、上記1(1)ア及びイのとおりであるところ、甲第1号証の記載から、「ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法」及び「ビールテイスト飲料のコク味増強剤」に相当する発明を認定することができない。
したがって、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、本件特許発明4および5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2) 申立理由1-2及び申立理由2-2(甲第10号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
ア 甲第10号証の記載事項等
(ア) 甲第10号証の記載事項
甲第10号証には、「Malt derived proteins: Effect of protein Z on beer foam stability」に関し、次の記載がある。なお、甲第10号証は外国語書面であるため、訳文のみ摘記する。
「2.実験材料および方法
2.1. サンプルと化学物質
異なる原料を用いて調製した18種類の市販ラガービール・サンプルを地元のスーパーマッケットで収集した(詳細な組成は表1に記載)。ウサギ抗プロテインZポリクローナル抗体はSangon Biotech社(中国・上海)から入手した。SDS-PAGE用のプレミックスプロテイン分子量マーカー(ブロード)はTAKARA(中国遼寧省大連市)から購入した。硫酸アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、エタノール、リン酸水素二ナトリウムはARグレードで、Sinopharm社(中国・上海)から購入した。
2.2. ビール泡の製造
18種類の市販ビールからビールの泡を作るには、二酸化炭素(CO2)(純度99%、v/v)(Xinnan, Wuxi, China)をビール溶液に0.5L/minでバブリングした。泡が出なくなったら、分離漏斗を使って泡を分離した。脱泡ビールおよびビールの泡中のプロテイン濃度は、ウシ血清アルブミン(純度98%以上)(BSA、Sigma、Rockford、IL、USA)を標準物質として、Bradford法(Bradford、1976)を用いて測定した。
2.3. ビールおよびビールの泡からのプロテインの抽出
硫安沈殿(10-90%, w/v)を用いて、脱泡ビールおよびビールの泡に含まれるプロテインを順次分画した。硫酸アンモニウムを80%飽和させたビール試料を4℃で一晩攪拌し、Eppendorf遠心分離機(Model 5804 R, Hamburg, Germany)を用いて8000×g, 4℃で10分間遠心分離して回収した。透析は、カットオフ分子量3.5kDaの透析バッグ(Spectrum Laboratories, Ranchodominguez, CA, USA)を用い、500mLビーカー(Shuniu, Sichuan, China)で4℃で回転させながら行い、2時間ごとに溶液を交換した。」(第22頁左欄第3段落~右欄第1段落)
「3.5. プロテインZ濃度とビールの泡の安定性の相関性
プロテインZはビールの泡の安定性に正の影響を及ぼすことが報告されている(Evans & Sheehan, 1999)。以前は、大麦麦芽中のプロテインZの量が得られ、最終的なビールの泡の安定性を予測する指標として使用されてきた(Evans & Sheehan, 1999; Evans, Hejgaard et al.)。しかし、脱泡したビールとビールの泡に含まれるプロテインZの正確な量は測定されていなかった。また、脱泡ビールやビールの泡に含まれるプロテインZの量とビールの泡の安定性との関係も明らかにされていない。表3に示すように、脱泡ビールおよびビールの泡に含まれるプロテインZの量をELISA法を用いて測定し、異なるビール試料中のプロテインZ濃度を変化させた。ビールサンプル中のプロテインZ濃度は8.46~43.5μg/mLの間で変化し、ビールの泡には10.4~67.Oμg/mlのプロテインZが含まれていた。18種類のビールサンプルのビールの泡中のプロテインZ濃度は、いずれもビール中の対応する値よりも高く、ビールの泡にプロテインZが濃縮されていることを示していた。プロテインZ濃度とビールの泡の安定性の相関分析から、プロテインZ濃度はビールの泡の安定性と高い相関があることがわかった。ビール中のプロテインZ濃度とビールの泡の安定性の間のR2値は0.362であり、ビールの泡中のプロテインZ濃度をビールの泡の安定性を相関させた場合のR2値は0.470であった(図3cおよびd)。ピアソン相関分析の結果、ビールの泡中のプロテイン濃度とビールの泡の安定性の間のp値は、脱泡ビールのプロテインZ濃度とビールの泡の安定性の間のp値よりも低かった。一方、ビールの泡中のプロテインZ濃度とビールの泡の安定性の間のr値は0.685であり、脱泡ビール中のプロテインZ濃度とビールの泡の安定性の間の値(0.602)よりも高かった。この結果は、プロテインZがビールの泡の安定性に好影響を与えることを示している。以前の研究では、ビールの泡の安定性を高めるためには、プロテインZの修飾が必要であることが示されていた(Evans, Nischwitz, Stewart, Cole, & MacLeod,1988)。完成したビール中のプロテインZはビールの泡の安定性を向上させた。」(第24頁右欄~第25頁)
「
[図:0001414177000002.jpg]
」(第22頁 表1)
「3.6. 精製プロテインZがビールの泡の安定性に及ぼす影響
プロテインZは大麦麦芽から精製され、精製プロテインZにはN-グリコシル化修飾が認められた(オンライン資料1)。プロテインZがビールの泡の安定性に及ぼす影響を更に調べるため、完成したビールに精製プロテインZを異なる量で添加した。図4に示すように、少量の精製プロテインZ(1mg/L)を添加した場合、ビールの泡の安定性値は同程度に維持された。精製プロテインZの添加量が増加すると、ビールの泡の安定性値は徐々に増加し始めた。500mLのビールに10mgの精製プロテインZを添加した場合、ビールの泡の安定性値は210秒に達し、外因性プロテインZを添加していないビールよりも12.3%高かった。」(第26頁左欄第1段落~右欄第1段落)
「
[図:0001414177000003.jpg]
」(第26頁 表3)
(イ) 甲第10号証に記載された発明
上記(ア)の記載を、特にサンプル13に着目して整理すると、甲第10号証には次の発明が記載されていると認める。
「原麦汁エキスが11.4°P、アルコール濃度が4.7%以上で、ビール液のプロテインZ濃度が43.5±0.2μg/mL、ビール泡のプロテインZ濃度が670±0.2μg/mLであるビール。」(以下、「甲10ビール発明」という。)
「甲10ビール発明の製造方法。」(以下、「甲10ビール製法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲10ビール発明とを対比する。
甲10ビール発明における「ビール」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
してみると、両者は、
「ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点10-1)
ビールテイスト飲料について、本件特許発明1は「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上であり」と特定するの対し、甲10ビール発明にはそのような特定がない点。
(相違点10-2)
ビールテイスト飲料について、本件特許発明1は「R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である」と特定するのに対し、甲10ビール発明にはそのような特定がない点。
(相違点10-3)
ビールテイスト飲料について、本件特許発明1は「(但し、大麦及び大麦麦芽のみを発酵原料とし得られる発泡性アルコール飲料であって、発酵原料中の大麦麦芽の比率が23%であり、分子量40kDaの大麦由来タンパク質の含有量が136~266mg/Lである、発泡性アルコール飲料を除く)」と特定するのに対し、甲10ビール発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点10-2について検討する。
甲10ビール発明の「プロテインZ」は40kDaの蛋白質である(要すれば甲第6号証ないし甲第9号証を参照されたい。)から、本件特許発明における「35~50kDaタンパク質」に相当するものであるところ、甲10ビール発明のビール液におけるプロテインZの濃度は43.5±0.2μg/mLである。ここで、甲10ビール発明の真正エキス分(R-Ex)は、原麦汁濃度とアルコール濃度に基づいて求めると4.01w/w%と算出されるから、プロテインZ(ppm)/R-Ex(w/w%))=43.5/4.01≒10.87と計算される。
ここで、甲10ビール発明には、ビール液のみならずビール泡も存在するところであるが、ビール液に比してビール泡の割合は極めて小さいものであるから、上記の計算に大きく影響するものとはいえない。
してみると、甲10ビール発明は、ビール泡に含まれるプロテインZを加味したとしても、プロテインZ(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上である蓋然性が高いとはいえないから、相違点10-2は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲10ビール発明ではない。
また、仮に甲10ビール発明においてプロテインZの量を調整可能であるとしても、本件特許発明1のビールテイスト飲料のコク味を優れたものとするとの効果を予測することはできないから、甲10ビール発明において、相違点10-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることが、当業者において容易になし得たこととすることはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲10ビール発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲10ビール製法発明とを対比すると、上記(ア)の場合と同様の相当関係・判断が成立する。
よって、本件特許発明2は、甲10ビール製法発明ではなく、また、甲10ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲10ビール製法発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点10-2と同旨の相違点が存在するものであり、上記(ア)と同様に判断される。
よって、本件特許発明3は、甲10ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 本件特許発明4及び5について
甲第10号証の記載から、「ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法」及び「ビールテイスト飲料のコク味増強剤」に相当する発明を認定することができない。
したがって、本件特許発明5は、甲第10号証に記載された発明ではなく、また、本件特許発明4及び5は、甲第10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 申立理由1-2及び申立理由2-2についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由1-2及び申立理由2-2の理由では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
(3) 申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「コク味に優れるビールテイスト飲料を提供すること」、「コク味が増強されたビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法、及びビールテイスト飲料のコク味増強剤を提供すること」(【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明を発明の詳細な説明には、「本発明のビールテイスト飲料は、一定水準以上のコク味を得る観点から、特定量の真正エキス分(R-Ex)および分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含む」(【0010】)との記載、「本発明者らがビールテイスト飲料のコク味増強について検討したところ、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質自体には呈味がないが、驚くべきことに、ビールテイスト飲料のコク味を増強する作用があることを新たに見出した。このメカニズムについては定かではないが、後述するように真正エキス分(R-Ex)に由来するコク味と相関関係があることが確認できたことから、真正エキス分(R-Ex)に由来するコク味を増強することが一因であると推定される」(【0011】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料におけるR-Exの含有量は、一定水準以上のコク味を得る観点から、3.8w/w%以上であり」(【0012】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料における、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))は、コク味を増強する観点から、11以上」(【0015】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、特に限定されるものではないが、既存のビールテイスト飲料のコクを増加させる場合においては、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する製造方法が例示される。より具体的には、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質をコク味増強剤として添加する態様が挙げられ」(【0017】)との記載があり、これらのことを裏付ける具体的な実施例の記載もある。
してみると、当業者であれば、ビールテイスト飲料において、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上」であり、「R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
また、当業者であれば、ビールテイスト飲料の製造方法において、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上」であり、「R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上」との特定事項を満たすこと、あるいは、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上」であり、「R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
さらに、当業者であれば、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法において、「真正エキス分(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上」であり、「R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))が11以上となるように分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できるし、ビールテイスト飲料のコク味増強剤において、「分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含む」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5は、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て有し、あるいは更に限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし5はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、麦芽比率100%以外のビールテイスト飲料において同様の効果が得られるか不明であり(申立理由4-1)、また、実施例1及び2では比較対象のビールテイスト飲料に35~50kDaタンパク質を添加する処理のみが行われているため、真正エキス分3.8w/w%以上のビールテイスト飲料であれば、35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%)を11以上とすることによって、実施例1及び2と同様のコク味増強効果が得られるとは当業者が理解できない(申立理由4-2)点をあげ、本件特許発明1ないし5は、サポート要件を満足しない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1ないし4は、「真正エキス(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上」とするものであるから、麦芽比率の特定がなくとも相応のコク味があるものと認識されるものであるし、また、本件特許の実施例においても、「真正エキス(R-Ex)の含有量が3.8w/w%以上」とする場合に、「分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量」の違いによる効果の検証もなされていることから、コク味に優れた、あるいは、コク味が増強されるとの効果は当業者であれば認識できるものであり、また、同じ実施例から、「分子量35~50kDaの麦由来タンパク質」を添加することがコク味の増強につながるものであることも、当業者であれば認識できるものといえる。
そして、特許異議申立人は、本件特許発明1ないし5の発明特定事項を満たすものにおいて、具体的に発明の課題を解決し得ないとする証拠を提示するものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
オ 申立理由3についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3の理由では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
(4) 申立理由4(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1及び5は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明2及び3は、上記第3のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか。その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、本件特許発明4は、上記第3のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法、及びビールテイスト飲料のコク味増強剤に関する」(【0001】)ものであって、「コク味に優れるビールテイスト飲料を提供することである。また、コク味が増強されたビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法、及びビールテイスト飲料のコク味増強剤を提供すること」(【0006】)を課題とすることが記載され、発明を実施するための形態の項には、「本発明のビールテイスト飲料は、一定水準以上のコク味を得る観点から、特定量の真正エキス分(R-Ex)および分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含む」(【0010】)との記載、「本発明者らがビールテイスト飲料のコク味増強について検討したところ、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質自体には呈味がないが、驚くべきことに、ビールテイスト飲料のコク味を増強する作用があることを新たに見出した。このメカニズムについては定かではないが、後述するように真正エキス分(R-Ex)に由来するコク味と相関関係があることが確認できたことから、真正エキス分(R-Ex)に由来するコク味を増強することが一因であると推定される」(【0011】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料におけるR-Exの含有量は、一定水準以上のコク味を得る観点から、3.8w/w%以上であり」(【0012】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料における、R-Exの含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%))は、コク味を増強する観点から、11以上」(【0015】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、特に限定されるものではないが、既存のビールテイスト飲料のコクを増加させる場合においては、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する製造方法が例示される。より具体的には、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質をコク味増強剤として添加する態様が挙げられ、この態様における製造方法を以下に例示する。なお、コク味増強剤には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、飲料に添加することのできる公知の添加剤が任意に含まれていてもよい。また、別の態様としては、35~50kDaタンパク質の含有量の多い、北米産高窒素麦芽原料を使用したり、マッシングによる35~50kDaタンパク質の抽出量を最大化するなど、製造工程における条件を従来の条件よりも分子量35~50kDaの麦由来タンパク質が多く生成する条件とすることで増やしてもよい」(【0017】)との記載、具体的な材料・製法に関する記載(【0019】~【0027】、【0033】~【0037】)があり、具体的な実施例の記載もある。
これらの記載によれば、本件特許発明1ないし5に関し、明細書の発明の詳細な説明には過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施できる程度に記載されているものといえ、実施可能要件を満たす。
よって、本件特許発明1ないし5に関する明細書の発明の詳細な説明に記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、麦芽比率100%以外のビールテイスト飲料において同様の効果が得られるか不明であり(申立理由3-1)、また、実施例1及び2では比較対象のビールテイスト飲料に35~50kDaタンパク質を添加する処理のみが行われているため、真正エキス分3.8w/w%以上のビールテイスト飲料であれば、35~50kDaタンパク質(ppm)/R-Ex(w/w%)を11以上とすることによって、実施例1及び2と同様のコク味増強効果が得られるとは当業者が理解できない(申立理由3-2)点をあげ、本件明細書には、本件特許発明1ないし5の全範囲において当業者が実施できるように記載されていない旨主張するが、実施可能要件は、上記イのとおり判断されるものであり、特許異議申立人の上記主張は、イの判断に何ら影響しない。
エ 申立理由4についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由4の理由では、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700843