特許異議申立
2024-700085
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2024-700085
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-036314
- 登録番号
- 7319791
- 請求日
- 2024年02月02日
- 審決日
- 2025年04月07日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】細田 芳徳
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 磯貝 香苗
- 分類
- P1651.121-Y (C12G) / P1651.536-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7319791号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7319791号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7319791号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、
平成31年 2月28日に特許出願され、
令和 5年 7月25日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、
令和 5年 8月 2日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 6年 2月 2日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、
令和 6年 5月 2日付けで取消理由が通知され、
令和 6年 7月 8日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社から意見書が提出され、
令和 6年 7月22日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社から上申書が提出され、
令和 6年11月14日付けで特許異議申立人に対して審尋が送付され、
令和 6年12月 5日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
プリン体を含むビールテイスト発酵飲料であって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であり、プリン体塩基の総含有量が7.5ppm以下であり、エタノール含量が容量比で1%~10%である、原料として麦芽を含むビールテイスト発酵飲料。
【請求項2】
プリン体塩基の総含有量が0.2ppm以上である、請求項1に記載のビールテイスト発酵飲料。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 6年 2月 2日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1及び2についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
・プリン体中に含まれるヌクレオシドの割合を50質量%以下とする方法としては、少なくとも、プリン塩基量を増大させる方法と、プリン塩基量を増大させることなくヌクレオシドの量を低減させる方法がある。しかしながら、本件特許明細書の実施例1~3はすべて、ヌクレオシドの量は変化させず、プリン塩基の中の特にキサンチンを添加することによって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下とすることを達成し、雑味の低減効果を確認している。このため、本件特許明細書の記載からは、キサンチンを添加することによって雑味が低減できたことは理解できるが、キサンチンを添加させずにヌクレオシドの量を低減させた場合にも同様の効果が確認できるか、当業者は理解できない。よって、本件特許明細書に開示されている実施例だけでは、キサンチン量の増大が雑味低減に寄与しており、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が雑味低減効果と相関するかどうかも不明である。そうすると、本件特許明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されているのは、キサンチンを添加してプリン体中に占めるヌクレオシドの割合を低下させた態様のみであり、本件特許発明1及び2には、本件特許明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されていない態様が含まれる。よって、本件特許発明1及び2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許発明1及び2についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
・プリン体中に含まれるヌクレオシドの割合を50質量%以下とする方法としては、少なくとも、プリン塩基量を増大させる方法と、プリン塩基量を増大させることなくヌクレオシドの量を低減させる方法がある。しかしながら、本件特許明細書の実施例1~3はすべて、ヌクレオシドの量は変化させず、プリン塩基の中の特にキサンチンを添加することによって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下とすることを達成し、雑味の低減効果を確認している。このため、本件特許明細書の記載からは、キサンチンを添加することによって雑味が低減できたことは理解できるが、キサンチンを添加させずにヌクレオシドの量を低減させた場合にも同様の効果が確認できるか、当業者は理解できない。よって、本件特許明細書に開示されている実施例だけでは、キサンチン量の増大が雑味低減に寄与しており、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が雑味低減効果と相関するかどうかも不明である。そうすると、本件特許明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されているのは、キサンチンを添加してプリン体中に占めるヌクレオシドの割合を低下させた態様のみであり、本件特許発明1及び2には、本件特許明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されていない態様が含まれる。よって、本件特許明細書には、本件特許発明1及び2の全範囲において当業者が実施できるように記載されていない。
5 証拠方法
甲第1号証:国際公開第96/25483号
甲第2号証:特開2018-64502号公報
甲第3号証:特開2012-125205号公報
甲第4号証:特開2018-64503号公報
甲第5号証:特開2003-169658号公報
甲第6号証:特開2014-117205号公報
甲第7号証:特許第5859103号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 令和 6年 5月 2日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和 6年 5月 2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
取消理由(サポート要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件特許の発明の詳細な説明の【0006】「本発明の課題は、雑味が少ないビールテイスト飲料を提供することである。」との記載によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、雑味が少ないビールテイスト飲料を提供することである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0009】には、当該発明の課題を解決するために、「プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下とすることで、雑味が少ないビールテイスト飲料が得られることを見出し、本発明の完成に至った。このメカニズムは定かではないが、可能性としては、プリン骨格を有するヌクレオシドに含まれる糖分子が舌に作用し、雑味をとして感じられること、また、プリン骨格を有するヌクレオシドに対してそれ以外のプリン体分子がマスキング剤として働いているものと推定される。」旨記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0032】ないし【0037】においては、麦汁とホップ、糖類、食物繊維を混合して酵母に加え、発酵させた後に水と小麦スピリッツを加えてアルコール度数4%のビールテイスト飲料(参考例1)を製造し、これに、表1に記載した量のアデノシン、キサンチンを添加して、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を調整した実験例、及び、麦芽エキスを含む市販のビールテイスト飲料に炭酸水とエタノールを加えてアルコール度数4%のビールテイスト飲料(参考例2)を調製し、これに、表2に記載した量のキサンチンを添加して、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を調整した実験例が記載されており、それぞれ、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であると雑味が低減されることが示されている。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明に記載されているこれらの実験例においては、いずれもプリン体中に占めるヌクレオシドの割合を低減させるにあたり、ビールテイスト飲料にキサンチンを添加することにより、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を調整しており、キサンチン以外のプリン体塩基であっても、ヌクレオシドの雑味をマスキングできるのかどうかが明らかでない。
この点について、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】には、「プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ヌクレオシド以外のプリン体分子であるグアニン、アデニン、ヒポキサンチン、キサンチンといったプリン体塩基を添加する方法などが挙げられる」との記載があるが、ビールテイスト飲料の雑味は、グアニン、アデニン、ヒポキサンチンによっても、キサンチンと同じ様にマスキングすることができ、雑味を少なくすることができる、という技術常識はない。
したがって、キサンチン以外のプリン体塩基によって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であるときも、発明の課題が解決されると当業者は認識することはできない。
第5 令和 6年 5月 2日付け取消理由の判断
当審は以下に述べるように、令和 6年 5月2日付けで特許権者に通知した取消理由によって本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
3 判断
(1)発明が解決しようとする課題
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】「本発明の課題は、雑味が少ないビールテイスト飲料を提供することである。」との記載によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、雑味が少ないビールテイスト飲料を提供することである。
(2)判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0009】には、当該発明の課題を解決するために、「プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下とすることで、雑味が少ないビールテイスト飲料が得られることを見出し、本発明の完成に至った。このメカニズムは定かではないが、可能性としては、プリン骨格を有するヌクレオシドに含まれる糖分子が舌に作用し、雑味をとして感じられること、また、プリン骨格を有するヌクレオシドに対してそれ以外のプリン体分子がマスキング剤として働いているものと推定される。」ことが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には「本発明のビールテイスト飲料において、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合は、雑味を少なくする観点から、50質量%以下であり、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、下限値は特に限定されるものではないが、0質量%以上とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合は、プリン体塩基の総含有量に対するプリン骨格を有するヌクレオシドの含有量(プリン骨格を有するヌクレオシドの含有量/プリン体塩基の総含有量)から算出される。ここで、プリン体塩基の総含有量は、ビールテイスト飲料に対して過塩素酸による加水分解処理して得られるプリン体塩基の量を意味する。具体的には、過塩素酸による加水分解後に液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)で測定する(「酒類中のプリン体の微量分析のご案内」日本食品分析センターhttp://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html)。プリン骨格を有するヌクレオシドは、グアノシン、アデノシン、イノシン、キサントシンを指し、それぞれグアニン、アデニン、ヒポキサンチン、キサンチンにリボースが結合したものである。プリン骨格を有するヌクレオシドの含有量は、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)で測定する。プリン骨格を有するヌクレオシドの含有量はリボースを含む質量として測定されるため、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が100質量%を超える場合もあり得る。なお、何点かの市販のビールテイスト飲料についてプリン体中に占めるヌクレオシドの割合を算出したところ、70質量%~110質量%の範囲内であった。」と記載されており、同【0012】には、「本発明のビールテイスト飲料におけるプリン体塩基の総含有量は、特に限定されるものではないが、プリン体のうち、特に核酸の一部などは厚みやコクに寄与することが知られているため、ビールテイスト飲料の味の骨格形成の観点から、好ましくは0.2ppm以上であり、より好ましくは0.5ppm以上であり、さらに好ましくは1.0ppm以上である。また、近年痛風予防を目的とした低プリン体嗜好から、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下であり、さらに好ましくは15ppm以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。」と記載されており、さらに、同【0013】には、「本発明のビールテイスト飲料は、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整する以外は、公知のビールテイスト飲料と同様にして製造することができる。プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ヌクレオシド以外のプリン体分子であるグアニン、アデニン、ヒポキサンチン、キサンチンといったプリン体塩基を添加する方法などが挙げられる。ここで、ビールテイスト飲料は、アルコールを含有するビールテイスト飲料であっても、ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。以下にプリン体塩基を添加する工程を含む製造方法を例示するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。」ことが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0032】ないし【0037】には、麦汁とホップ、糖類、食物繊維を混合して酵母に加え、発酵させた後に水と小麦スピリッツを加えてアルコール度数4%のビールテイスト飲料(参考例1)を製造し、これに、表1に記載した量のアデノシン、キサンチンを添加して、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を調整した実験例、及び、麦芽エキスを含む市販のビールテイスト飲料に炭酸水とエタノールを加えてアルコール度数4%のビールテイスト飲料(参考例2)を調製し、これに、表2に記載した量のキサンチンを添加して、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を調整した実験例が記載されており、それぞれ、プリン体中に占めるヌクレオシドの量が50質量%以下であると雑味が低減されることが示されている。
そうすると、当業者はこれらの記載事項から、プリン体を含むビールテイスト飲料であって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であるビールテイスト飲料は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び2は、当該発明の課題を解決できると認識できるビールテイスト飲料をさらに限定したものであるから、本件特許発明1及び2は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1及び2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 上記第3 3の特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3における主張は、おおむね、本件特許明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されているのは、キサンチンを添加してプリン体中に占めるヌクレオシドの割合を低下させた態様のみであり、本件特許発明1及び2には、本件特許明細書において本件特許発明の効果を奏することが確認されていない態様が含まれる、というものである。
特許権者は、令和 6年 5月 2日付け取消理由通知に対し、令和 6年 7月 8日に意見書を提出し、令和 6年 7月22日に上申書に添付して乙第1号証(実験成績証明書)を提出した。
特許異議申立人の主張について以下に検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【0013】には、「プリン体中のヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ヌクレオシド以外のプリン体分子であるグアニン、アデニン、ヒポキサンチン、キサンチンといったプリン体塩基を添加する方法などが挙げられる。」と記載されており、プリン体中のヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整する方法において添加されるプリン体分子はキサンチンのみに限られるものではなく、グアニン、アデニン、ヒポキサンチンも有効であることは出願当初より認識されていた。
そして、令和 6年 7月22日提出の上申書に添付された乙第1号証(実験成績証明書)は上記本件特許の発明の詳細な説明の記載と矛盾しない
ものであって、アルコール度数が5%でプリン体塩基の総含有量が4.91ppmであり、アデニン、グアニン、ヒポキサンチンの添加によってプリン体中のヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整したビールテイスト発酵飲料においても、雑味が低減されることが確認できる。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ 令和 6年12月 5日提出の回答書における特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は令和 6年12月 5日提出の回答書において、次のとおりの主張をしている。
(ア)本件特許明細書の表1の比較例1と参考例1について
「本件明細書の表1中の参考例1、実施例1及び比較例1を比較すると、参考例1にキサンチンを添加すると雑味が低減され(実施例1)、さらにアデノシンを添加すると雑味が増強されている(比較例1)。これらのデータから、本件明細書にあたった当業者は、参考例1と比較例1の雑味の強さの差は、添加したアデノシンの雑味が引き起こす強さと、キサンチンのマスキング効果の強さが相対的に示された結果である、と理解するのであり、「キサンチン以外のプリン体塩基」が雑味低減に関係しているとは、理解できない。」(回答書第2頁第21行~末行)
(イ)本件特許明細書の段落【0013】の記載について
「本件明細書には、「プリン体に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下」とした場合に、具体的にどのような作用機序で雑味の強さ低減の効果が得られるのか、当業者が理解できるような記載は全くない。」「本件明細書には、例えば、実施例1~3の結果から、キサンチン添加により雑味の強さが低減される効果が得られることは認識できるものの、キサンチンのどの部分構造が効果に寄与しているかについては全く開示されておらず、不明である。」(回答書第3頁第20~27行)
(ウ)乙第1号証について
「仮に乙第1号証の実験データを考慮することが許されるのだとしても、当該データからは、アデニン、グアニン、及びヒポキサンチンを一緒に添加することにより雑味低減効果が得られたことが認識できるに過ぎず、アデニン、グアニン、ヒポキサンチンそれぞれに雑味低減効果があるとの結論は導き出せない。」(回答書第4頁第12~15行)
(エ)麦芽比率について
「本件明細書の段落【0002】には、「一般には麦芽含有比率を上げることで厚みが増すことが知られているが、一方で厚みが増す場合には雑味が増し、ビールテイスト飲料の味のバランスが悪くなることが知られている。」と記載されている。つまり、麦芽比率は、本件特許発明の課題である「雑味」に大きく寄与する成分である。本件明細書の実施例では、麦芽比率が不明であるが、麦芽使用比率を下げた場合にも、「プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下」にすることによって雑味低減効果があるか、そもそも雑味が感じられるかも確認されておらず、本件明細書中にも記載はない。このように、麦芽比率が特定されていない本件特許発明においては、「プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下」にしても雑味低減効果が得られない態様も含まれる蓋然性が高く、よってこの点でも、本件特許発明は、サポート要件及び実施可能要件を充たさない。」(回答書第5頁第2行~末行)
上記主張(ア)について検討する。
当業者は本件特許の発明の詳細な説明の記載から、プリン体を含むビールテイスト飲料であって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であるビールテイスト飲料は、発明の課題を解決できると認識できることは上記(2)にて検討したとおりである。
そして、特許異議申立人は、本件特許明細書の参考例1、実施例1、比較例1の対比から、キサンチンには雑味をマスキングする効果があり、アデノシンには雑味を引き起こす作用があると解釈される旨の主張しているが、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】の記載に接した当業者は、キサンチンはプリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整するために用い得る、ヌクレオシド以外のプリン体分子の一例と理解することができ、キサンチンに特定のマスキング効果を仮定することは妥当でない。よって、特許異議申立人の主張は採用することはできない。
次に、上記主張(イ)について検討する。
「プリン体に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下」とした場合の雑味低減における具体的な作用機序の解明や開示はサポート要件の充足において必須の要件ではなく、当業者は本件特許の発明の詳細な説明の記載から、プリン体を含むビールテイスト飲料であって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であるビールテイスト飲料は、発明の課題を解決できると認識できることは上記(2)にて検討したとおりである。よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
さらに、上記主張(ウ)について検討する。
乙第1号証の実験データは、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】等の記載と矛盾するものではないから、当業者は、ヌクレオシド以外のプリン体分子である、キサンチン、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン等を用いて、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下に調整することにより、発明の課題を解決し得ると認識することができ、それらを一緒に添加しなければ、雑味の低減ができないとは理解しない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
最後に、上記主張(エ)について検討する。
上記(2)において検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明から、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合を50質量%以下とすることで雑味の低減が見込まれることが理解されるところ、麦芽比率によらず、雑味の低減が見込まれると解される。
特許異議申立人は、麦芽比率が低いときに、発明の課題が解決されないことを、具体的な証拠に基づき主張するものではなく、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
第6 取消理由に採用しなかった異議申立理由に記載した申立理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した取消理由は、
・申立理由1(甲1に基づく進歩性)
・申立理由2(甲2に基づく進歩性)
・申立理由4(実施可能要件)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項
ア 甲1に記載された事項等
(ア)甲1の記載事項
甲1には、「ビールの製造法」に関し、次の事項が記載されている。
「プリン塩基とは、プリン(9H―イミダゾ〔4,5-d〕ピリミジン)の種々の部分が置換された誘導体の総称であり、アデニン、グアニン、キサンチンがある。
プリンヌクレオシドとは、プリン塩基と糖の還元基とがN-グリコシド結合した配糖体化合物の総称であり、アデノシン、グアノシン、イノシン等がある。
プリンヌクレオチドとは、プリンヌクレオシドの糖部分がリン酸とエステルをつくっている化合物の総称であり、アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸等がある。
プリン化合物とは、上記プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド等のプリン骨格を含有する化合物の総称である。」(第4頁第9~19行)
「 1)各種市販ビール中のプリン化合物は40~100mg/lと変動するが、プリンヌクレオシドがプリン塩基の2~25倍存在する。即ち、ビール中のプリン化合物の大半はプリンヌクレオシドとして存在する。
2)発酵工程中に、麦汁中のプリン塩基は酵母によって吸収・代謝されてほぼなくなる。」(第4頁下から5行~第5頁第1行)
「 つまり、通常の酵母は、プリンヌクレオシドを吸収することはできないが、プリン塩基を吸収・代謝することはできる。そこで、本発明においては、麦汁に酵素を使用させ、麦汁中に含まれるプリンヌクレオシドをプリン塩基に分解せしめ、ヌクレオシド分解麦汁を製造し、このヌクレオシド分解麦汁を用いることによりビール中のプリン化合物含量を低減することができる。なお、ヌクレオシド分解麦汁は、麦汁中のプリンヌクレオシドの一部または全てが酵素によりプリン塩基に分解されたものであり、このヌクレオシド分解麦汁中のプリンヌクレオシド含量は、添加する酵素の量、反応時間、反応温度等により調節することができるが、好ましくはプリンヌクレオシドの全てがプリン塩基に分解され、プリンヌクレオシドを含有していない麦汁がよい。」(第5頁第5~16行)
「試験例1. ビール中のプリン化合物の測定
ビール中のプリン化合物をEP-10型高速液体クロマトグラフィー(EICOM社製)によって分析した。カラムはGS320-H(7.6mmD ×250mmL、(Asahipak社製))を用い、移動層として、10mMリン酸ナトリウム(pH5.0)、流速は1.0ml/min、温度は30℃で分析した。試料をメンブレンろ過して固形分を除いた後、10μlを注入し、260nmの吸光度でプリン化合物量を定量した。
あらかじめ、基準サンプルとして既知濃度のプリン塩基3種(アデニン、グアニン、キサンチン)とプリンヌクレオシド3種(アデノシン、グアノシン、イノシン)を分析し、各プリン化合物のリテンションタイムとピーク面積を求めておく。実際のサンプル中の各プリン体化合物の同定は各ピークのリテンションタイムから、濃度は既知濃度の基準サンプルのピーク面積より求めた検量線から求めた。なお、3種のプリンヌクレオチド(アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸)は、この分析の条件ではずっと早く溶出されるので、上記6種のプリン化合物の分析を妨害しない。
各種市販ビール7種類及びワイン2種類の分析結果を表1に示した。プリン塩基とプリン塩基量に換算したプリンヌクレオシドの和で示される総プリン量は、ビールの種類によって変動し、40~100mg/lを示した。また、プリン化合物の大半はヌクレオシドで存在していた。」(第11頁下から4行~第12頁第18行)
「 なお、ビール中及び麦汁中のプリンヌクレオチドをイオン交換カラムで分析したところ、プリンヌクレオチドはビール中にも麦汁中にも存在しなかった。また、ビール及び麦汁を酸加水分解して分析しても酸加水分解前とプリン化合物の総量が変わらなかったことから、RNAやDNAなどの高分子核酸類はビール及び麦汁中には存在しないと考えられる。
試験例2. ビール製造工程中のプリン化合物の消長
ビール製造工程中でのプリン化合物の消長を、70Lスケールでの試験醸造で調査した。初発エキス濃度は12.5%、投入酵母量は5g湿重量/l、発酵温度は11.5℃で、エキス2.5%になった時点(発酵開始後260時間)で発酵タンク底部より沈降した酵母を除き、温度を0℃に低下させ、さらに300時間の貯酒を行った。
その結果を図1に示したが、アデノシンとグアノシンとイノシンの総和をプリンヌクレオシドとして示し、アデニンとグアニンとキサンチンの総和をプリン塩基として示した。プリン塩基は麦汁中に、約70mg/l存在するが、発酵初期に10mg/lまで減少し、その後の発酵、貯酒期間の間は増加しない。一方、プリンヌクレオシドは麦汁中に約90mg/lと多量に存在し、発酵期間中も貯酒期間中も変わらなかった。
この結果は、通常の麦汁に含まれるプリン塩基は酵母によって吸収・代謝されるので発酵初期の酵母増殖期に殆どなくなることを示している。」(第12頁第1~23行)
「実施例4. ヌクレオシド分解麦汁の製造
図9に麦汁製造工程における仕込釜および仕込槽の時間-温度曲線を示す。また、仕込釜及び仕込槽の原料配合の割合を表3 に示す。この製造工程において、仕込槽に熱処理、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等で部分精製したオクロバクトラム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)のヌクレオシダーゼ、約20,000u(基質:イノシン、反応温度:60℃)を破砕麦芽と共に加えて麦汁製造を行った。酵素を添加して製造した麦汁と酵素を加えずに製造した麦汁中のプリン体分析結果を図10に示す。酵素を添加した麦汁からはプリンヌクレオシドが検出されず、プリン塩基が増加していた。以下この麦汁をヌクレオシド分解麦汁と呼ぶ。
[図:0001422410000001.jpg]
実施例5. ヌクレオシド分解麦汁を用いたビール醸造
実施例4で製造したヌクレオシド分解麦汁と通常の麦汁を用いてビール醸造を行った。麦汁2リットルにビール酵母を湿重量で10.5g懸濁し、12℃で8日発酵した。その後4℃で5日間貯酒した。その発酵中のプリン体の消長を図11に示す。アデニンは発酵時間内に全て資化された。発酵液中のグアニンの量は時間と共に減少し、発酵終了時には検出されなくなる。
差し引き約90μMに相当するグアニンが酵母により資化された。従って、麦汁中の約260μMに相当するプリン体が発酵過程で消失する。酵素で処理せずに製造した麦汁を用いて醸造したビールのプリン体は約500μMで、酵素処理した麦汁を用いて醸造したビールのプリン体は計180μMであるので、計320μMプリン体を低減したビールを醸造することが出来た。発酵は酵母増殖、エキスの消費共に通常の麦汁を用いたものとほぼ変わらず、味覚の面でも大きな差は見られなかった。」(第21頁下から4行~第23頁第4行)
「
[図:0001422410000002.jpg]
」(図1)
「
[図:0001422410000003.jpg]
」(図9)
「
[図:0001422410000004.jpg]
」(図10)
「
[図:0001422410000005.jpg]
」(図11A)
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)より、甲1の実施例4及び実施例5を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「仕込釜および仕込槽に麦芽、水、部分精製したオクロバクトラム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)のヌクレオシダーゼを破砕麦芽と共に加えて、グアノシンを含有せずグアニンが約260μM含有され、アデノシンを含有せずアデニンが約310μM含有されるヌクレオシド分解麦汁を製造し、当該ヌクレオシド分解麦汁2リットルにビール酵母を湿重量で10.5g懸濁し、12℃で8日発酵し、その後4℃で5日間貯酒し、プリン体が計約180μMで、アデニンが全て資化され、グアニンも発酵終了時に検出されなくなった、ビール。」
イ 甲3の記載事項
甲3には、「プリン塩基化合物低減高香味ビール風味発酵アルコール飲料及びその製造方法」に関し、次の事項が記載されている。
「【0013】
一方、本研究における調査の結果、プリン体を構成する物質の挙動は各々異なることが判明した。プリン塩基は、先行技術文献として挙げた特許文献2に記載されているように、酵母発酵により消費されるが、プリン体代謝経路の末端物質であるキサンチンは酵母発酵により増加するため、最終的なプリン体総量に大きく影響を及ぼすことがわかった。参考として、2010年時点で通年販売されている市販ビール飲料のプリン塩基測定結果を表1に示す。表1に示されるように、市販ビール飲料のプリン塩基では、キサンチンの含量が高く、したがって、酵母代謝によって増加するプリン塩基、とりわけキサンチンをビール飲料中から選択的に除去することができれば、ビール飲料らしい香味バランスを維持したプリン体化合物低減ビール風味飲料が実現できることが見て取れる。
【0014】
【表1】
[図:0001422410000006.jpg]
」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「プリン体が計約180μMで」ある「ビール」は、本件特許発明1における「プリン体を含むビールテイスト発酵飲料」に相当する。
甲1発明における「ヌクレオシド分解麦汁」を「発酵」「貯酒」した「ビール」には、ヌクレオシドが含まれていないから、本件特許発明1における「プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下」との特定事項を満たす。
甲1発明における「ヌクレオシド分解麦汁」は、本件特許発明1における「原料として麦芽を含む」ものに相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明の一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「プリン体を含むビールテイスト発酵飲料であって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下であり、原料として麦芽を含むビールテイスト発酵飲料。」
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「プリン体塩基の総含有量が7.5ppm以下」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「エタノール含量が容量比で1%~10%」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1(第14頁第1~3行)には、「ビール中及び麦汁中のプリンヌクレオチドをイオン交換カラムで分析したところ、プリンヌクレオチドはビール中にも麦汁中にも存在しなかった。」と記載されているから、ビールと同様の原料及び醸造工程によって製造される甲1発明のビールテイスト発酵飲料も、プリンヌクレオチドは殆ど存在しない。
したがって、甲1発明の「プリン体が計約180μM」は、その殆どがプリン塩基である。
甲1(第13頁表1)によると、ビール中の主なプリン塩基は、アデニン、グアニン、キサンチンであり、甲2(【0015】)、甲3(【0013】)によると、アデニン、グアニンは、糖化工程や酵母発酵により、キサンチンに変換されることが理解される。
そして、甲1発明のビールテイスト発酵飲料は、「アデニンが全て資化され、グアニンも発酵終了時に検出されなくなった」ものであるから、甲1発明の「プリン体」「計約180μM」は、その殆どがキサンチンである。
そうすると、甲1発明のビールテイスト発酵飲料に含まれるプリン体塩基は、アデニンとグアニンの含有量が殆どゼロであるから、実質的にキサンチンのみである。このとき、甲1発明のプリン体塩基の総含有量は、キサンチンの分子量から計算すると、約180μM×152(g/mol)=約27.4ppm程度となる。よって、相違点1-1は実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、プリン体塩基の総含有量を7.5ppm以下にする動機となる記載はない。
よって、甲1発明において、プリン体塩基の総含有量を7.5ppm以下とすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
特許異議申立人は、特許異議申立書(第24頁)において、「(i)プリン体濃度の低減は、ビールテイスト飲料における一般的な課題である。特に、日本においては、プリン体濃度が5ppm未満のビールテイスト飲料を「プリン体ゼロ」と呼称することができる。このため、甲1発明のビールにおいて、さらにプリン体濃度を5ppm程度まで低減させることは、当業者にとって十分に動機付けられている。」、「(ii)麦芽はプリン体含有量が多いため、ビール様発泡性飲料のプリン体含有量は、麦芽の使用量に応じて増加することは、本願出願時の技術常識である。」「甲1発明のビールにおいて、よりプリン体濃度を低減させるために、コーングリッツ等を副原料として用い、麦芽比率を低下させることにより、プリン体濃度を7.5ppm以下」「になるように調整することは、当業者が容易になし得ることである。」と主張する。
しかしながら、原料として麦芽100%を使用したヌクレオシド分解麦汁から製造され、ヌクレオシドを含まず、アデニンとグアニンも殆ど含まない甲1発明のビールにおいて、さらに、プリン体塩基の総含有量を7.5ppm以下に低減させる動機となる記載は、甲1にはなく、他のいずれの証拠にもない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1についてのまとめ
上記のとおり、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、「麦汁の製造方法」に関し、次の事項が記載されている。
「【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、単に麦汁をヌクレオシダーゼ処理しただけでは、プリン体のうちの相当量が、酵母に資化されないキサンチンに変換されてしまうこと、麦汁の調製において、糖化処理の開始後直ちに麦芽に由来する酵素の少なくとも一部を失活させた後、ヌクレオシダーゼ処理を行うことによって、麦汁における酵母非資化性プリン体であるキサンチン、アデノシン、及びグアノシンのプリン体全体に占める比率を抑えられることを見出し、本発明を完成させた。」
「【0012】
本発明及び本願明細書における発酵麦芽飲料とは、ビールらしさ(香味上ビールを想起させる呈味)を有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)のうち、麦芽を原料として用い、かつ酵母による発酵工程を経て製造される飲料である。発酵麦芽飲料のアルコール濃度は限定されず、0.5容量%以上のアルコール飲料であってもよく、0.5容量%未満のいわゆるノンアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ノンアルコールビール等が挙げられる。発酵工程を経て製造された飲料に、アルコール含有蒸留液を混和して得られたリキュール類も、本発明における発酵麦芽飲料に含まれる。」
「【0014】
本発明及び本願明細書において、プリン体とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種に加えて、アデニル酸及びグアニル酸のようなプリンヌクレオチドと、アデノシン、グアノシン等のようなプリンヌクレオシドも含まれる。なお、アデニン、グアニン、アデニル酸、及びグアニル酸は酵母資化性プリン体であり、アデノシン、グアノシン、キサンチンは、酵母非資化性プリン体である。ただし、麦汁中の定量では、アデニル酸はアデニンと区別して定量することができず、グアニル酸はグアニンと区別して定量することができない。このため、本願発明及び本願明細書では、「アデニン」には、アデニン塩基とアデニル酸の両方が含まれる。「グアニン」も同様である。麦汁や飲料中のプリン体含有量は、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MSを用いて検出する方法(「酒類のプリン体の微量分析のご案内」、財団法人日本食品分析センター、インターネット<URL: http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html>、平成25年1月検索)や、LC-UVを用いた藤森らの方法(藤森ら:「尿酸」、1985年、第9巻、第2号、第128ページ。)等により測定することができる。
【0015】
特許文献1に記載の方法のように、麦汁をプリンヌクレオシダーゼ処理した場合には、麦汁中のアデノシン及びグアノシンの含有量を顕著に低下させることができるが、得られた麦汁を発酵させても、プリン体総含有量は十分に低下しない。このように、プリンヌクレオシダーゼ処理によるプリン体低減効果が限定的である理由は明らかではないが、糖化処理の間に、アデニンやグアニンがキサンチンへ変換されているためと推察される。実際に後記実施例に示すように、プリンヌクレオシダーゼ処理だけでは、麦汁中のキサンチン含有量はさほど低減されていなかった。酵母非資化性のキサンチンは発酵工程以降でも系外に除去されないため、プリンヌクレオシダーゼ処理のみによっては、最終的に得られる発酵麦芽飲料中のプリン体濃度を充分に低くすることはできなかった。
【0016】
本発明に係る麦汁の製造方法は、麦芽を含む穀物原料と水とを含む混合物を糖化処理して麦汁を調製する仕込工程を有し、前記仕込工程において、仕込開始後直ちに、前記混合物中の麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させる酵素失活処理を行い、その後、前記混合物に対してプリンヌクレオシダーゼ処理を行うことを特徴とする。麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させることにより、アデニン及びグアニンのキサンチンへの変換を抑えることができる。その後、プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことにより、麦汁中の酵母非資化性であるアデノシン及びグアノシンを、酵母資化性であるアデニン及びグアニンに変換する結果、プリン体全体に占める酵母非資化性プリン体の占める比率(非発酵プリン体比率)を従来になく顕著に低く抑えることができる。」
「【0042】
<プリン体濃度の測定>
以降の実施例において、麦汁や飲料中のプリン体の含有量は、LC-UVを用いた藤森らの方法(藤森ら:「尿酸」、1985年、第9巻、第2号、第128ページ。)に準じて、下記の条件で定量した。
【0043】
カラム:Shodex Asahipak GS-320 HQ(7.5mm I.D.×300mm)
溶出液:50mM KH2PO4(pH 2.5)
溶出速度:0.8mL/min
検出器:UV(260nm)
カラム温度:35℃
【0044】
アデニンとアデノシン、グアニンとグアノシンを分別して測定する場合には、過塩素酸処理を施さず分析した。この際、プリンヌクレオシドの濃度を用いると、リボース構造分濃度が大きく算出されるため、必要に応じてプリンヌクレオシドに含まれるプリン塩基の濃度に換算した。すなわちヌクレオシド形態で存在するグアニン塩基濃度(分子量151.13)及びアデニン塩基濃度(分子量135.13)は、グアノシン(分子量283.24)及びアデノシン(分子量267.24)の濃度に、それぞれ0.53、0.51を乗じることで算出した。」
「【0047】
[実施例1]
プリンヌクレオシダーゼ処理の前に麦芽と水の混合物を高温処理した場合としなかった場合とで、得られる麦汁中の各プリン体の含有量を比較した。原料には淡色麦芽を用いた。仕込開始時に糖化容器に麦芽粉砕物を投入し、それぞれの条件に則って麦汁を製造した。
【0048】
<サンプル1>
麦芽重量1に対して2.5の比率で原料水を投入し、図2に示す温度ダイアグラムで糖化工程を行った。仕込開始後、水と麦芽の混合物を65℃で60分間保持した後に、麦芽重量1に対して1.5の仕込水を投入し、糖化液温度を55℃に低下させた後、ヌクレオシダーゼ1500U/kg gristを投入し、さらに糖化を継続した。
【0049】
<サンプル2>
麦芽重量1に対して4の比率で原料水を投入し、図3に示す温度ダイアグラムで糖化工程を行った。仕込開始時に水と麦芽の混合物にヌクレオシダーゼ1500U/kg gristを投入した。
【0050】
サンプル1と2の麦汁を濾過した後、各プリン体の含有量を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1に示す各プリン体の数値は、全プリン体の合計量を1ppmとして標準化した値(相対含有量)である。この結果、非発酵比率[([アデノシン]+[グアノシン]+[キサンチン])/([アデニン]+[グアニン])]は、高温処理を行わなかったサンプル2では1.26であったのに対して、高温処理を行ったサンプル1では0.21であり、顕著に低下していた。なお、通常、ヌクレオシダーゼを使用せず、高温処理も行わず糖化処理を行って得られた麦汁のプリン体組成比率は、アデニン:アデノシン:グアニン:グアノシン:キサンチン=3:1:1:4:1に近似する比率となる。
【0051】
【表1】
[図:0001422410000007.jpg]
【0052】
サンプル1と2の麦汁それぞれについて、糖化工程終了後、濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行った。煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させてビールを製造した。」
イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2の実施例1(サンプル1)を中心に整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「麦芽重量1に対して2.5の比率で原料水を投入し、仕込開始後、水と麦芽の混合物を65℃で60分間保持して混合物の麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させる酵素失活処理を行った後、麦芽重量1に対して1.5の仕込水を投入し、糖化温度を55℃に低下させた後、ヌクレオシダーゼ1500U/kg gristを投入し、さらに糖化工程を行った麦汁(サンプル1)であって、以下の相対プリン塩基濃度、プリンヌクレオシド濃度を有し、酵母資化性プリン体の総含有量に対する、酵母非資化性プリン体の総含有量の比率が0.5以下である麦汁を、濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行い、煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させて製造したビール。
[図:0001422410000008.jpg]
」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「麦芽重量1に対して2.5の比率で原料水を投入し、仕込開始後、水と麦芽の混合物を65℃で60分間保持して混合物の麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させる酵素失活処理を行った後、麦芽重量1に対して1.5の仕込水を投入し、糖化温度を55℃に低下させた後、ヌクレオシダーゼ1500U/kg gristを投入し、さらに糖化工程を行った麦汁(サンプル1)」「を、濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行い、煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させて製造したビール」は、本件特許発明1における「原料として麦芽を含むビールテイスト発酵飲料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点、一応の相違点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「原料として麦芽を含むビールテイスト発酵飲料。」
<相違点2-1>
本件特許発明1は、「プリン体を含むビールテイスト発酵飲料であって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合が50質量%以下」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は、「プリン体塩基の総含有量が7.5ppm以下」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-3>
本件特許発明1は、「エタノール含量が容量比で1%~10%」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2には、甲2発明のビールテイスト発酵飲料のプリン体塩基の総含有量について、何ら記載がない。よって、相違点2-2は実質的な相違点である。
そして、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2発明において、プリン体塩基の総含有量を7.5ppm以下にする動機となる記載はない。
したがって、甲2発明において、プリン体塩基の総含有量を7.5ppm以下とすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
特許異議申立人は、特許異議申立書(第27頁)において、上記1(2)ア 相違点1-1についての主張と同様の主張をしている。
しかしながら、酵素失活処理とヌクレオシダーゼ処理した麦汁によって、酵母資化性プリン体の総含有量に対する酵母非資化性プリン体の総含有量の比率を0.5以下とした麦汁を使用する甲2発明のビールテイスト発酵飲料は、甲2【0038】に「プリン体含有量が40ppm以下と非常に低い発酵麦芽飲料を製造することができ」たものである旨記載されていることからみても、甲2発明のビールテイスト発酵飲料のプリン体塩基の総含有量をさらに7.5ppm以下に低減させる動機となる記載は、甲2にはなく、他のいずれの証拠にもない。
よって、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2のまとめ
上記のとおりであるから、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。
3 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1及び2は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が、本件特許の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1及び2に関して、本件特許の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の第3 4の主張について検討する。
特許異議申立人の主張は、本件特許明細書の実施例は、ヌクレオシドの量を変化させず、プリン塩基の中の特にキサンチンを添加することによって、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合として50質量%以下を達成したものであるから、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合と雑味低減効果の関係性が明らかであるとはいえないというものであるが、プリン体中に占めるヌクレオシドの割合と雑味低減効果の関係性は、実施可能要件の判断には影響しない。
また、特許異議申立人の令和 6年12月 5日提出の回答書における主張については、上記3(4)イにて検討したものと同旨である。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(4)申立理由4についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4号第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、申立理由4によって取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700085