特許異議申立
2025-700252
アルミナ粉末、樹脂組成物、及び放熱部品
- 審判番号
- 2025-700252
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-512032
- 登録番号
- 7543395
- 請求日
- 2025年02月28日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】山田 拓
- 【権利者代理人】遠田 利明
- 【異議申立人】池田 さおり
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 酒井 英夫
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1652.113-Y (C01F) / P1652.121-Y (C01F) / P1652.537-Y (C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7543395号発明「アルミナ粉末、樹脂組成物、及び放熱部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7543395号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7543395号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2021年(令和 3年) 3月24日(優先権主張 令和 2年 3月31日)を国際出願日とする出願(特願2022-512032号。以下「本願」という。)であって、令和 6年 8月23日にその特許権の設定登録がなされ、同年 9月 2日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 7年 2月28日に、請求項1に係る特許に対し、特許異議申立人である池田 さおり(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子と、
平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、
平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子と、を含むアルミナ粉末であって、
各前記平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径であり、
顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である前記第1のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下であり、
前記第1のアルミナ粒子のD90/D10の比が2.0以上8.0以下であり、前記D90/D10の比は、体積基準で累積粒度分布の微粒側から累積10%での粒径をD10とし、前記微粒側から累積90%での粒径をD90としたときの比である、
アルミナ粉末。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第6号証を提出し、以下の申立理由1~3により、本件特許の請求項1に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第2号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(2)本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第2号証)に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4~6号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1について、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2018/131486号
なお、特許異議申立書には、再公表特許第2018/131486号が添付されているが、国際公開第2018/131486号が添付されたものとして取り扱う。
・甲第2号証:デンカ株式会社,「denka_alumina.pdf」,[online],インターネット
<URL:https://web.archive.org/web/20160806144045/http://www.denka.co.jp/denzai/product/pdf/denka_alumina.pdf>
・甲第3号証:特許第6585594号公報
・甲第4号証:特開平7-206434号公報
・甲第5号証:特開2004-224676号公報
・甲第6号証:特開平8-290914号公報
(2)当合議体が職権調査により発見した証拠方法
・参考文献1:特開2018-135547号公報
・参考文献2:特開2017-193726号公報
・参考文献3:国際公開第2014/021260号
・参考文献4:特開2018-190831号公報
・参考文献5:国際公開第2016/031279号
第4 当審における判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲第1号証には、「熱伝導性樹脂組成物、放熱シート、放熱部材及びその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、請求項1、3、段落[0051]、[0054]、[0076]の記載を前提に、特に、段落[0083][表1]の試験例1の熱伝導性樹脂組成物における無機フィラーに着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
全体積中に無機フィラーを75体積%含む熱伝導性樹脂組成物における、無機フィラーであって、前記無機フィラーの粒度分布が、
平均粒子径(d50)が45μmの無機フィラーが、41体積%であり、
平均粒子径(d50)が5μmの無機フィラーが、23体積%であり、
平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラーが、11体積%である、無機フィラー。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲第1号証の段落[0052]、[0053]、[0076]には、甲1発明の各「無機フィラー」が、「酸化アルミニウム」(球状アルミナ粉末)であることが記載されているから、甲1発明の「平均粒子径(d50)が45μmの無機フィラーが、41体積%であり、平均粒子径(d50)が5μmの無機フィラーが、23体積%であり、平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラーが、11体積%である、無機フィラー。」と、本件発明1のアルミナ粉末とは、「平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子と、を含む」「アルミナ粉末。」である限りにおいて共通する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子と、を含むアルミナ粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
「平均粒子径」について、本件発明1の第1~第3の各「アルミナ粒子」の「平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径」であるのに対し、甲1発明の各「無機フィラー」の「平均粒子径(d50)」が、どのように測定された「平均粒子径」であるのか不明である点。
<相違点1-2>
本件発明1の「第1のアルミナ粒子」は、「顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である前記第1のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下」であるのに対し、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」は、その「平均球形度」が不明である点。
<相違点1-3>
本件発明1の「第1のアルミナ粒子」は、「D90/D10の比が2.0以上8.0以下であり、前記D90/D10の比は、体積基準で累積粒度分布の微粒側から累積10%での粒径をD10とし、前記微粒側から累積90%での粒径をD90としたときの比である」であるのに対し、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」は、その「D90/D10の比」が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点1-2を検討する。
a 相違点1-2が実質的な相違点であるかについて
(a)本件発明1の「平均球形度」について、本件明細書の段落【0014】には、「平均球形度は、下記の顕微鏡法により測定される。すなわち、走査型電子顕微鏡、及び透過型電子顕微鏡等にて撮影した粒子像を画像解析装置に取り込み、写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。その周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとなる。よって、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)2となる。投影面積円相当径が所定の範囲にある任意の粒子200個の球形度を上記のようにして求め、その相加平均値を平均球形度とする。なお、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。また、投影面積円相当径は、粒子の投影面積(A)と同一の投影面積を持つ真円の直径を指す。第1のアルミナ粒子の平均球形度を求めるに際して、上記の「所定の範囲」は0.1μm以上1μm以下である。」と記載されている。
そうすると、本件発明1における「第1のアルミナ粒子の」「球形度」は、「平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子」における、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子の粒子像から、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求めたものである。
(b)一方、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」の球形度について、甲第1号証には以下の事項が記載されている。
「[成分(D)無機フィラー]
無機フィラーは、下記の酸化アルミニウムを使用した。表の無機フィラーの体積%は、使用した各球状フィラー及び各結晶性アルミナの合計量である。
フィラーd50:70μm:デンカ株式会社製 球状アルミナDAW70
フィラーd50:45μm:デンカ株式会社製 球状アルミナDAW45S
フィラーd50:5μm:デンカ株式会社製 球状アルミナDAW05
フィラーd50:0.3μm:デンカ株式会社製 球状アルミナASFP20」(段落[0076])
「球状アルミナ粉末を使用する場合は、球形度が0.85以上である。球形度が0.85未満では流動性が低下してスペーサー内でフィラーが偏析してしまい物性のばらつきが大きくなる。球形度が0.85以上である市販品として、例えば、デンカ株式会社製の球状アルミナDAW70(商品名)、球状アルミナDAW45S(商品名)、球状アルミナDAW05(商品名)、球状アルミナASFP20(商品名)等が挙げられる。」(段落[0053])
(c)また、以下に示すように、本願の優先日前において、粉末の球形度(真球度)の算出方法が多様であることは技術常識である。なお、「・・・」は記載の省略を表す。
i 「前記球形度は、粒子のSEM像から、当面積円相当径/外接円径で求めることができる。」(参考文献1(特開2018-135547号公報)の段落【0034】)
ii 「本発明では、球形度は、光学顕微鏡で観察された粒子の長径D1に対する短径D2の比(D2/D1)である。粉末から無作為に抽出された20個の粒子の比(D2/D1)が平均されて、平均球形度が算出される。長径とは、粒子内に画かれうる最長の線分の長さである。短径とは、長径の線分と直交しかつ粒子内に画かれうる最長の線分の長さである。(参考文献2(特開2017-193726号公報)の段落【0053】)
iii 「したがって、微細で真球度(球形度)が高いガラス粉末を安定して得ることができる。・・・ガラス粒子の真球度は、ガラス粒子の透過電子顕微鏡写真において測定される、ガラス粒子の重心を通る最小直径Dminと、ガラス粒子の重心を通る最大直径Dmaxとの比Dmin/Dmaxで定義される。」(参考文献3(国際公開第2014/021260号)の段落[0061]~[0063])
iv 「真球度は、粉末の投影像(例えば走査型電子顕微鏡による投影像)における短径/長径である。ここで、長径は、投影像において粉末の幅の最大値である。短径は、長径の中点を通る直線における粉末の幅のうちの最小値である。」(参考文献4(特開2018-190831号公報)の段落【0016】)
v 「なお、本願では真球度を最も流動性の高い真球からの形状の狂いの指標として用いる。具体的には粉体表面の最小二乗平均球面の中心をその中心とする、最小外接球面半径Rmaxと最大内接球面半径Rminの比率Rmin/Rmaxにて表わす。完全な球では真球度は1であり、楕円状、扁平状のような形状となり球から歪んでいくと、この値は0と1の間でより低い値となる。」(参考文献5(国際公開第2016/031279号)の段落[0012])
(d)上記(b)に摘記したとおり、甲第1号証には、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」(平均粒子径1.0μm未満無機フィラー)として、球形度が0.85以上である市販品である「球状アルミナASFP20」を使用したことが記載されている。
しかしながら、甲第1号証には、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子から算出されたものであることは記載されていないから、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」の球形度が、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子から算出されたものであるかは不明である。また、技術常識を考慮しても、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子から算出されたものであるかは不明である。
よって、相違点1-2は、実質的な相違点である。
(e)仮に、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子から算出されたものであると仮定しても、甲第1号証には、当該「球形度」が、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求めたものであることは記載されていないから、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」の球形度が、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求めたものであるかは不明である。また、上記(c)に摘記した技術常識を考慮すると、粉末の球形度(真球度)の算出方法は多様であり、「投影面積×4π/(周囲長)2」に限られないから、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求めたものであるかは不明である。
よって、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子から算出されたものであると仮定しても、相違点1-2は、実質的な相違点である。
(f)仮に、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求めたものであると仮定しても、甲第1号証には、「球状アルミナASFP20」の球形度の値が、上記(b)に摘記したとおり、0.85以上であることは記載されているものの、「0.98以下」であることは記載されていないから、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」の球形度の値が、「0.98以下」であるかは不明である。また、技術常識を考慮しても、「球状アルミナASFP20」の球形度の値が、「0.98以下」であるかは不明である。
よって、「球状アルミナASFP20」の球形度が、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求めたものであると仮定しても、相違点1-2は、実質的な相違点である。
(g)以上のとおりであるから、相違点1-1、相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
また、このことは、甲第2号証に、「球状アルミナASFP20」のd10、d90の測定例が、それぞれ、0.2μm、1.0μmであることが記載されていても変わるものではない。
b 相違点1-2の容易想到性について
上記a(d)~(f)で述べたとおり、甲第1号証には、「球状アルミナASFP20」の球形度の算出方法(どのような粒子から算出するのか、どのような式を用いて算出するのか)が記載されておらず、球形度の値を0.98以下とする動機付けもないから、甲第2号証の記載を考慮しても、甲1発明の「平均粒子径(d50)が0.3μmの無機フィラー」の球形度を、「顕微鏡法による投影面積円相当径」が「0.1μm以上1μm以下」の粒子の粒子像から、「投影面積×4π/(周囲長)2」を算出して求め、さらに、上限値を0.98以下とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第2号証)に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(新規性、進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(進歩性)
(1)甲第3号証に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲第3号証には、「球状アルミナ粉末及びそれを用いた樹脂組成物」(発明の名称)に関する記載があり、請求項1、2の記載を前提に、特に、段落【0024】~【0027】における実施例6、7の球状アルミナ粉体に着目すると、次の2つの発明(以下「甲3発明6」、「甲3発明7」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明6>
球状アルミナ粉末粗粉A2(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.92)と、球状アルミナ粉末微粉A4(平均粒子径:5μm、平均球形度:0.91)と、超微粉A5(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92)を混合した球状アルミナ粉体。
<甲3発明7>
球状アルミナ粉末粗粉A2(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.92)と、球状アルミナ粉末微粉A4(平均粒子径:5μm、平均球形度:0.91)と、超微粉A6(平均粒子径:0.6μm、平均球形度:0.85)を混合した球状アルミナ粉体。
(2)本件発明1について
ア 甲3発明6との対比
本件発明1と甲3発明6とを対比する。
(ア)甲3発明6の「球状アルミナ粉体」における「平均球形度:0.92」である「超微粉A5」が、表1(「アルミナ粉末」との記載あり)も考慮すると、球状アルミナ粉末であることは明らかであるから、甲3発明6の「超微粉A5(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92)」、「球状アルミナ粉末微粉A4(平均粒子径:5μm、平均球形度:0.91)」及び「球状アルミナ粉末粗粉A2(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.92)」を混合した球状アルミナ粉体と、本件発明1のアルミナ粉末とは、「平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子」、「平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子」及び「平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子」「と、を含むアルミナ粉末。」である限りにおいて共通する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲3発明6とは、「平均粒子径が0.1μm以上1μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、平均粒子径が10μm以上100μm以下である第3のアルミナ粒子と、を含むアルミナ粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
「平均粒子径」について、本件発明1の第1~第3の各「アルミナ粒子」の「平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径」であるのに対し、甲3発明6の各「球状アルミナ粉末」の「平均粒子径」が、どのように測定された「平均粒子径」であるのか不明である点。
<相違点3-2>
本件発明1の「第1のアルミナ粒子」は、「顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である前記第1のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下」であるのに対し、甲3発明6の「超微粉A5」は、「平均球形度」が0.92であるものの、当該「平均球形度」が、「顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である」「超微粉A5」の「平均球形度」であるのか不明である点。
<相違点3-3>
本件発明1の「第1のアルミナ粒子」は、「D90/D10の比が2.0以上8.0以下であり、前記D90/D10の比は、体積基準で累積粒度分布の微粒側から累積10%での粒径をD10とし、前記微粒側から累積90%での粒径をD90としたときの比である」であるのに対し、甲3発明6の「超微粉A5」は、その「D90/D10の比」が不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3-3を検討する。
(ア)甲第4~6号証には、以下の事項が記載されている。
a 甲第4号証(特開平7-206434号公報)の記載事項
(a)「【0009】本発明のα-アルミナ粉末の粒度分布は、累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積90%の粒径をそれぞれD10、D90としたとき、D90/D10比が10以下、好ましくは9以下、より好ましくは7以下である。D90/D10比が10より大きい場合は、焼結体を作製したときに焼結体の密度低下や強度低下を生じる場合があり、好ましくない。
(b)「【0025】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明における各種の測定は次のようにして行った。
1.一次粒子径の測定
SEM(走査型電子顕微鏡、日本電子株式会社製:T-300)を使用して粉末粒子の写真を写し、その写真から5ないし10個の粒子を選び出して画像解析を行い、その平均値として求めた。
2.粒度分布の測定
マスターサイザー(マルバーン社製)を使用し、レーザー回折散乱法により測定した。
3.結晶相の同定
X線回折法(株式会社リガク製、RAD-C)により測定した。
4.不純物含有量の分析
ICP発光分析により行った。
【0026】実施例1
原料として住友化学工業株式会社製の遷移アルミナ粉末、AKP-G15(商品名、γ-アルミナ)を用いた。種晶として住友化学工業株式会社製のα-アルミナAKP-30(商品名)を、AKP-G15が100gに対して3g添加し、イソプロピルアルコールを溶媒として湿式でボールミル混合を行い、乾燥し混合原料とした。焼成は石英炉芯管(直径56mm、長さ1000mm)を用いた管状炉(光洋リンドバ-ク株式会社製、54434-VPS)で行った。上記混合原料30gを高純度アルミナ製ボ-トに入れ、石英炉芯管の中央部に置き、塩化水素ガス100体積%よりなる雰囲気ガスを流した。雰囲気ガスの流量は線速度で毎分50mmとした。炉芯管内を雰囲気ガスで置換してから、昇温を開始した。昇温の速度は500℃/時間とし、1100℃に到達してから同温度で30分間保持した後、自然放冷した。
【0027】得られた粉末についてX線回折による分析を行い、α-アルミナであることを確認した。それ以外のピークは見られなかった。走査型電子顕微鏡による観察の結果、8~12の面を有する多面体粒子が生成しており、その一次粒子径は1μmであった。不純物分析を行った結果、鉄含有量は2重量ppm、カルシウム含有量は2重量ppm、純度は99.99重量%以上であった。粒度分布を測定した結果、D90/D10は3.4であった。得られたα-アルミナ粉末の焼結を以下のようにして行った。α-アルミナ粉末に対してMgOとして1000重量ppmの硝酸マグネシウムを、塩酸によりpHを3に調整した水に添加し、アルミナ製ボールとポリエチレン製の広口瓶を用いてボールミルを6時間行い、50重量%のスラリーを作製した。ポリビニールアルコールの10重量%水溶液を、ポリビニールアルコールがα-アルミナ100重量部に対して2重量部となるように該スラリーに添加した。スラリーを石膏型に流し込み、スリップキャスト法により50mmx50mmx4mmの成形体を作製した後、該成形体を空気中1600℃で焼結した。得られた焼結体を切断および研削して40mmx4mmx3mmの曲げ試験片を作製しJIS-R-1601に従って3点曲げ試験を行った。強度は7点平均で630MPaであった。焼結体中のマグネシウム量はMgOに換算して500ppmであった。表1~4に結果を記す。」
(c)「【0028】実施例2
実施例1においてAKP-30の添加量をAKP-G15が100gに対して5gとする以外は実施例1と同様にして焼成した。得られた粉末のX線回折分析の結果、α-アルミナ以外のピークは見られなかった。得られたα-アルミナ粉末の粒子は8~12面を有する多面体であり、一次粒子径は0.5μm、D90/D10は5.1、鉄含有量は4ppm、カルシウム含有量は3ppm、アルミナ純度は99.99%以上であった。得られたα-アルミナ粉末を使用して実施例1と同様にして焼結体を作製し3点曲げ試験を行った結果、7点の平均で強度は710MPaと高かった。表1~4に結果を記す。」
b 甲第5号証(特開2004-224676号公報)の記載事項
(a)「【0032】
また、粒径の比(D90/D10)はセラミック粒子の粒径分布の拡がりを示すものであり、比(D90/D10)を2.0以上とすることで、セラミック粒子を効果的に充填することができ、粉体充填率を上げられるとともに、スラリーの粘性も適正にすることができ、効率的に成形することができる。
(b)「【0060】
(実施例1)
セラミック粉末として、表1に示すような各種アルミナ粉末を用いた。アルミナ粉末は、それぞれ粒子の大きなものと小さなものを混合することで調整した。
【0061】
ここで、粒径については、予め、ヘキサメタリン酸ナトリウム500ppmを溶かした蒸留水溶液にアルミナ粉末を投入し、超音波ホモジナイザーを用いて、超音波出力300~400μAでアルミナ粉末を分散させた後、マイクロトラック(日機製(株)(9320-X100))を用いたレーザー回折散乱法により、レーザーの照射時間を6分として測定した。」
(c)段落【0067】の表1には、No.13として、D50が0.6μm、D90/D10が2.3の例が記載されている。
c 甲第6号証(特開平8-290914号公報)の記載事項
(a)「【0041】上記の本発明の製造方法により製造された粉末状のα-アルミナは若干の凝集粒子を含む場合があるが、この凝集は軽度なものであり、簡単な解砕を行うことによって容易に、凝集粒子が殆どない粒度分布の狭い本発明の粉末状のα-アルミナを製造することができる。ここでいう粒度分布の狭い粉末状のα-アルミナとは、累積粒度分布の微粒子側から、累積10%径、累積90%径をそれぞれD10、D90としたとき、D90/D10の値が小さく、その値が好ましくは15以下、より好ましくは10以下、最も好ましくは5以下の粒度分布を有するものである。」
(b)「【0043】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】なお、本発明における各種の測定は次のようにして行った。
1.バイヤー法による水酸化アルミニウムおよびα-アルミナ粉末の累積粒度分布とα-アルミナ粒子の平均粒子径の測定
(1)レーザー散乱法を測定原理とするマスターサイザー(マルバーン社製)を用いて測定した。
【0045】(2)α-アルミナのSEM(走査型電子顕微鏡、日本電子株式会社製;T-220)写真を撮影し、その写真から50~100個の粒子を選び出して、画像解析を行い、円相当径の平均値を求めた。円相当径とは、面積が等しい真円の直径に換算した値をいう。」
(c)段落【0080】の表2には、実施例2として、α-アルミナ平均粒径が0.5μm、D90径/D10径が5.4の例が、実施例3として、α-アルミナ平均粒径が0.5μm、D90径/D10径が6.8の例が記載されている。
(イ)a 上記(ア)a~cに摘記したとおり、甲第4号証には、焼結体用α-アルミナ粉末において、D90/D10比が10より大きい場合は、焼結体を作製したときに焼結体の密度低下や強度低下を生じる場合があり、好ましくないため、D90/D10比を10以下とすることが記載され、甲第5号証には、セラミック粒子(アルミナ粉末)において、比(D90/D10)を2.0以上とすることで、セラミック粒子を効果的に充填することができ、粉体充填率を上げられるとともに、スラリーの粘性も適正にすることができ、効率的に成形することができることが記載され、甲第6号証には、粒度分布の狭い粉末状のα-アルミナが、D90/D10の値が15以下の粒度分布を有するものであることが記載されている。
そして、甲第4~6号証には、それぞれ、粒子径が1μm以下のオーダーのアルミナ粉末において、D90/D10の比が2.0以上8.0以下の範囲にある具体例も開示されている。
b しかしながら、甲3発明6の超微粉A5と甲第4~6号証に記載された粉末とは、アルミナ粉末である点では共通するものの、甲3発明6の用途が熱伝導性樹脂組成物であるのに対し、甲第4~6号証に記載された粉末の用途は焼結体等であり、両者の想定する用途が異なるため、甲第4~6号証に、D90/D10の比が2.0以上8.0以下の範囲にある具体例が記載されているからといって、甲3発明6の超微粉A5のD90/D10の比を、2.0以上8.0以下とすることが動機付けられるとはいえない。また、そもそも、甲第4~6号証には、D90/D10の比が2.0以上8.0以下の範囲にはない具体例も開示されていることから、甲第4~6号証に開示された複数の具体例の中から、特にD90/D10の比が2.0以上8.0以下の範囲にある具体例に着目すべき理由も見当たらない。
したがって、甲3発明6において、相違点3-3に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
(ウ)よって、相違点3-1、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明6及び甲第4~6号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 甲3発明7との対比・判断
本件発明1と甲3発明7とを対比すると、上記アにおいて検討したのと同様に、「超微粉A6」が、球状アルミナ粉末であることは明らかであるから、両者は、少なくとも上記相違点3-3と同様の点で相違する。
そして、上記相違点3-3についての判断は、上記イにおいて検討したのと同様である。
よって、本件発明1は、甲3発明7及び甲第4~6号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4~6号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)ア 本件明細書の記載によれば、本件発明1が解決しようとする課題は、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できるアルミナ粉末を提供することであると認められる(段落【0005】)。
イ 一方、本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
「【0014】
本実施形態の第1のアルミナ粒子の平均球形度は、0.80以上0.98以下である。アルミナ粉末が、平均球形度が0.80以上である第1のアルミナ粒子を含むと、樹脂にアルミナ粉末を充填する際に増粘しにくくなる。アルミナ粉末が、平均球形度が0.98以下である第1のアルミナ粒子を含むと、第1のアルミナ粒子同士、その他のアルミナ粒子との接触がより十分になり、接触面積が大きくなる結果、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。平均球形度は、下記の顕微鏡法により測定される。すなわち、走査型電子顕微鏡、及び透過型電子顕微鏡等にて撮影した粒子像を画像解析装置に取り込み、写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。その周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとなる。よって、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)2となる。投影面積円相当径が所定の範囲にある任意の粒子200個の球形度を上記のようにして求め、その相加平均値を平均球形度とする。なお、具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。また、投影面積円相当径は、粒子の投影面積(A)と同一の投影面積を持つ真円の直径を指す。第1のアルミナ粒子の平均球形度を求めるに際して、上記の「所定の範囲」は0.1μm以上1μm以下である。」
ウ 上記イに摘記した、「平均球形度が0.80以上である第1のアルミナ粒子を含むと、樹脂にアルミナ粉末を充填する際に増粘しにくくなる。」との記載によれば、第1のアルミナ粒子の「平均球形度が0.80以上」であれば、樹脂にアルミナ粉末を充填する際に増粘しにくくなるため、「樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき」ることが理解できる。
また、「平均球形度が0.98以下である第1のアルミナ粒子を含むと、第1のアルミナ粒子同士、その他のアルミナ粒子との接触がより十分になり、接触面積が大きくなる結果、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。」との記載によれば、第1のアルミナ粒子の「平均球形度が0.98以下」であれば、「その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる」ことが理解できる。
エ そうすると、「顕微鏡法による投影面積円相当径が0.1μm以上1μm以下である前記第1のアルミナ粒子の平均球形度が、0.80以上0.98以下」であるとの事項を発明特定事項として備える本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件発明1の課題を解決できることが認識できる。
オ 申立人は、「高熱伝導化が実現するためには、「第1のアルミナ粒子」が第2のアルミナ粒子及び第3のアルミナ粒子と面にて接触し、熱経路を形成しやすくなるよう、「第1のアルミナ粒子」が「多面体」である必要があると認められる。」と主張している。
確かに、本件明細書の段落【0016】によれば、「第1のアルミナ粒子」が「多面体」であることは、高熱伝導化と関連していると解する余地はあるが、上記エで述べたとおり、「第1のアルミナ粒子」が「多面体」であるか否かに関わらず、上記エの事項を発明特定事項として備える本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件発明1の課題を解決できることが認識できる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(2)小括
以上のとおり、本件発明1について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700252