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特許異議申立

2025-700346

球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法

審判番号
2025-700346
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-542450
登録番号
7557633
請求日
2025年03月26日
審決日
2025年12月15日
公報発行日
2026年04月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】デンカ株式会社
  • 【権利者代理人】園田・小林弁理士法人
  • 【異議申立人】池田 さおり
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 金 公彦
  • 審判官 原 賢一
分類
P1652.536-YAA(C01B) / P1652.537-YAA(C01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7557633号発明「球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7557633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第7557633号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7557633号の請求項1~8に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)8月19日(優先権主張 令和3年8月20日)を国際出願日とするものであり、令和6年9月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年3月26日に、その請求項1~6に係る特許を対象として特許異議申立人池田さおり(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年6月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月29日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求、及び同年8月22日に訂正請求書を補正する手続補正書の提出があり、それに対し、同年10月1日に異議申立人より意見書の提出があったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である」とあるのを、「粉末全体の30質量%以上がα-石英結晶である」に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「粉末全体の20~90質量%がα-石英結晶である」とあるのを、「粉末全体の30~90質量%がα-石英結晶である」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ・訂正事項1、2について 訂正事項1、2は、本件明細書の【0018】の「球状結晶質シリカ粉末は、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶であり、好ましくは粉末全体の20質量%以上がα-石英結晶であり、より好ましくは粉末全体の30質量%以上がα-石英結晶である。」との記載に基づき、α-石英結晶の質量割合の範囲を、訂正事項1では、「粉末全体の10質量%以上」から「粉末全体の30質量%以上」に、訂正事項2では、「粉末全体の20~90質量%」から「粉末全体の30~90質量%」にそれぞれ狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~6〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、特許異議申立ての対象となる本件訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に50℃~1000℃において脱離する水分子数が10μmol/g以下であり、 粉末全体の30質量%以上がα-石英結晶である、球状結晶質シリカ粉末。 【請求項2】 X線回折法により測定される粉末全体の結晶化度が30~98%である、請求項1に記載の球状結晶質シリカ粉末。 【請求項3】 粉末全体の30~90質量%がα-石英結晶である、請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末。 【請求項4】 粉末全体の0~70質量%がクリストバライト結晶である、請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末。 【請求項5】 アルカリ土類金属元素の含有量が酸化物換算で10000μg/g未満である、請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末。 【請求項6】 請求項1又は2に記載の球状結晶質シリカ粉末と、樹脂とを含む、樹脂組成物。」 第4 令和7年6月17日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和7年6月17日付けで通知した取消理由の概要 ・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~6に係る特許は、その請求項1~6の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由」という。)。 記 (1)サポート要件判断の規範と本件発明の課題 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 そして、物の発明である本件発明の課題は、【0005】に「本発明は、線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法を提供することを課題とする。」とあるように、「線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末を提供すること」にあるといえる。 (2)本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載 本件発明について、本件明細書の【0011】には、「従来、球状非晶質シリカ粉末を結晶化する試みは、結晶化度を80%以上にすることで熱伝導率等を高めようとするものであった(例えば特許文献1,2)。しかしながら、驚くべきことに、脱離する水分子数が10μmol/g以下であり、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である球状結晶質シリカは、結晶化度の高低に関わらず(結晶化度が80%に満たない場合及び結晶化度が80%を超える場合のいずれにおいても)、誘電正接が低くかつ線熱膨張係数が高い樹脂成形品を与えることができる」と記載されている。 また、結晶化度について、同【0014】には、「X線回折法により測定される粉末全体の結晶化度(以下、単に「結晶化度」ともいう。)は、好ましくは30~98%であり、さらに好ましくは35~90%であり、さらに好ましくは38~85%であり、よりさらに好ましくは38~80%である。結晶化度を30~98%にすることで、線熱膨張係数が高い球状結晶質シリカ粉末を容易に得ることができる。」と記載されている。 そして、上記【0011】の記載によれば、「誘電正接が低くかつ線熱膨張係数が高い樹脂成形品を与える」には、すなわち、上記(1)の発明の課題を解決するには、球状結晶質シリカにおいて、脱離する水分子数が10μmol/g以下にすること、及び、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶であるようにすることが重要であることが示されているといえるところ、α-石英結晶について、同【0018】には、「球状結晶質シリカ粉末は、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶であり、好ましくは粉末全体の20質量%以上がα-石英結晶であり、より好ましくは粉末全体の30質量%以上がα-石英結晶である。α-石英結晶を10質量%以上含むことで、線熱膨張係数が高く誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる。また、樹脂成形品とした場合に粉砕石英粉末に近い熱膨張挙動を示すことができる。粉砕石英粉末は、樹脂成形品とした場合にリフロー温度近辺での熱膨張による寸法変化が少ない。そのため、リフロー処理前後の温度変化による成形品のクラックや反りなどを容易に抑制することができる。一実施形態において、球状結晶質シリカ粉末は、粉末全体の40質量%以上がα-石英結晶であってよく、45質量%以上がα-石英結晶であってもよい。一実施形態において、球状結晶質シリカ粉末は、好ましくは20~90質量%がα-石英結晶であり、より好ましくは粉末全体の25~85質量%がα-石英結晶であり、さらに好ましくは粉末全体の30~70質量%がα-石英結晶である。」と記載されている。 ここで、α-石英結晶については、「粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である球状結晶質シリカは、結晶化度の高低に関わらず(結晶化度が80%に満たない場合及び結晶化度が80%を超える場合のいずれにおいても)、誘電正接が低くかつ線熱膨張係数が高い樹脂成形品を与えることができる」(【0011】)、「α-石英結晶を10質量%以上含むことで、線熱膨張係数が高く誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる。」(【0018】)と記載されるものの、何故、α-石英結晶を10質量%以上含むことで、線熱膨張係数が高く誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができるのかが理解できる、例えば、作用機序等の合理的な説明がなされていないことから、これらの記載では、α-石英結晶を10質量%以上含むことで、上記(1)の発明の課題を解決することができるとは理解することができない。 むしろ、「α-石英結晶を10質量%以上含む」本件発明には、結晶化度が、α-石英結晶のみによる10質量%程度である場合が含まれるが、上記【0014】の記載によれば、このような場合は、線熱膨張係数が高い球状結晶質シリカ粉末を容易に得るための好ましい範囲から外れるものである。 このような状況のもとでは、実際に行われた実施例の結果を参照する他ないところ、同【0057】~【0088】に記載される実施例、特に、実施例の結果を示した【表1】~【表3】を参照すると、α-石英結晶の割合は、実施例の中では実施例2-2が最小の「30.8wt%」であり、線熱膨張係数は比較例に比べて高く、樹脂シートとした場合の誘電正接は比較例に比べて低く、上記(1)の発明の課題を解決するものであることが理解できる。α-石英結晶の割合が、実施例2-2の「30.8wt%」よりも大きい他の実施例についても、実施例2-2と同様に、線熱膨張係数は比較例に比べて高く、樹脂シートとした場合の誘電正接は比較例に比べて低く、上記(1)の発明の課題を解決するものであることが理解できる。 そうすると、実際に行われた実験の結果も参照することにより、本件明細書の記載において、上記(1)の発明の課題が解決できることが理解できる範囲は、石英結晶の割合についてみれば、「30.8wt%以上」の範囲であるといえる。 (3)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比 上記(2)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(1)の発明の課題を解決することができる範囲は、石英結晶の割合についてみれば、「30.8wt%」以上の範囲であるといえるところ、これに対し、設定登録時の請求項1に係る発明(以下、単に「請求項1に係る発明」などという。)の範囲は、請求項1に係る発明では「10質量%以上」とされ、請求項3に係る発明では「20~90質量%」とされ、過大である。 そうすると、請求項1~6に係る発明は、上記(1)の発明の課題を解決することができると認識できる本件明細書の範囲を超えていることになるから、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 (4)まとめ 上記(3)について、上記(1)のサポート要件判断の規範への当てはめを行うと、請求項1~6に係る発明は、サポート要件を満たしていない。 2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由1」という。) 本件特許は、設定登録時の請求項1~6に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が下記(4)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」という。) 設定登録時の請求項1~6に係る特許は、請求項1~6の記載が下記(4)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由3」という。) 設定登録時の請求項1~6に係る特許は、請求項1~6の記載が下記(5)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)申立理由1及び申立理由2の内容 ア α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合について(申立理由1及び申立理由2) 請求項1に係る発明には、「粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である」という事項が特定されている。上記の特定事項は、α-石英結晶の質量割合が例えば100質量%の場合を含んでいる。 しかしながら、本件明細書にはα-石英結晶の質量割合が100質量%の場合は開示されていないし、本件明細書に開示された内容を、α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合を含む請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がα-石英結晶の質量割合が100質量%の場合を含む請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 具体的には、本件明細書に記載される実施例における球状結晶質シリカ粉末は、特許異議申立ての対象となっていない以下の請求項7に係る発明の「(i)球状非晶質シリカ粉末を加熱して球状結晶質シリカ粉末を得ること、 (ii)球状結晶質シリカ粉末を酸と接触させること、及び (iii)(ii)によって処理された球状結晶質シリカ粉末を800~1400℃で加熱すること、を含む、球状結晶質シリカ粉末の製造方法。」との製造方法により製造されるものであるところ、各工程における製造条件、製造される球状結晶質シリカ粉末の物性値等が本件明細書の【0087】【表1】~【表3】に記載されている。 そして、【表1】~【表3】を参照すると、工程(i)の加熱処理が行われていない比較例1-1、比較例1-2、比較例2-3、比較例2-4は、ほとんど結晶化が進んでおらず、結晶化度が2%以下、すなわち98%以上が非晶質であり、α-石英結晶の質量割合も2wt%以下である。1000℃の工程(i)の加熱処理が行われた実施例1-1~実施例1-4、実施例2-2、比較例2-2では、結晶化度が39.2%~80.5%%に増加し、α-石英結晶の質量割合が30.8wt%~77.3%に増加し、クリストバライト結晶が現れるものもありその質量割合が0wt%~8.5wt%である。1100℃の工程(i)の加熱処理が行われた実施例2-1、実施例3-2、比較例2-1、比較例3-2では、結晶化度が73%~84.10%にさらに増加し、α-石英結晶の質量割合が37.9wt%~65.1wt%となり、クリストバライト結晶の質量割合が19.0wt%~35.6wt%に増加している。1200℃の工程(i)の加熱処理が行われた実施例1-5、実施例3-1、比較例3-1では、結晶化度が79.7%~80.85%にさらに増加し、α-石英結晶の質量割合が45.0wt%~50.5wt%となり、クリストバライト結晶の質量割合が29.3wt%~35.9wt%に増加している。1300℃の工程(i)の加熱処理が行われた比較例1-3では、結晶化度が95.6%、α-石英結晶の質量割合が0wt%、クリストバライト結晶の質量割合が95.6wt%と、結晶化が進んでほとんどがクリストバライト結晶となっている。 以上の結果によれば、加熱処理の温度が高くなるとともに、非晶質→α-石英結晶→クリストバライト結晶と結晶化が進むことが確認でき、また、α-石英結晶の質量割合が高くなってくるとクリストバライト結晶も現れ始めることが確認できる。 したがって、本件明細書には、α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合は実質的に開示されていない。本件明細書には、参考例の粉砕石英の結晶化度が100%でありα-石英結晶の質量割合が100%であることが示されているが、実施例においてα-石英結晶の質量割合が100質量%の場合は実質的に開示されていない。 さらに、実施例において、結晶化が進んでα-石英結晶の質量割合が高くなってくるとクリストバライト結晶も現れ始めることが示されているので、本件明細書に開示された内容を、α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合を含む請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。 また、実施例において、結晶化が進んでα-石英結晶の質量割合が高くなってくるとクリストバライト結晶も現れ始めることが示されているので、どのような製造方法とすれば参考例の粉砕石英のようなα-石英結晶の質量割合が100%の球状結晶質シリカ粉末が得られるのか、当業者は理解できない。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がα-石英結晶の質量割合が100質量%の場合を含む請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 請求項1に係る発明に従属する、請求項2、4~6に係る発明についても同様である。 また、請求項3に係る発明には、「粉末全体の20~90質量%がα-石英結晶である」という事項が特定されている。上記の特定事項は、α-石英結晶の質量割合が90質量%の場合を含んでいる。 上述のように、本件明細書の【実施例】に開示されている実施例のα-石英結晶の質量割合は、77.3wt%までの数値であり、本件明細書にはα-石英結晶の質量割合が90質量%の場合は実質的に開示されていないので、請求項1に係る発明の場合と同様である((4-2)(イ))。 イ α-石英結晶の質量割合が10質量%の場合について(申立理由2) 請求項1に係る発明には、「粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である」という事項が特定されている。上記の特定事項は、α-石英結晶の質量割合が10質量%の場合を含んでいる。 しかしながら、本件明細書には、α-石英結晶の質量割合が10質量%の場合に、「線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法を提供する」という課題を解決できることは開示されていない。 請求項1に係る発明に従属する、請求項2、4~6に係る発明についても同様である((4-2)(ウ))。 また、請求項3に係る発明には、「粉末全体の20~90質量%がα-石英結晶である」という事項が特定されている。上記の特定事項は、α-石英結晶の質量割合が20質量%の場合を含んでいるが、本件明細書には、α-石英結晶の質量割合が20質量%の場合も、α-石英結晶の質量割合が10質量%の場合と同様に、本件発明の課題を解決できることは開示されていない。 ウ 本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいることについて(申立理由1及び申立理由2) 本件発明が解決しようとする課題は、「線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末及びその製造方法を提供すること」である(【0005】)であるところ、本件明細書の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題を解決するための手段は、球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した(工程(i))後に、酸と接触させ(工程(ii))、さらに加熱処理する(工程(iii))ことであるといえる。 一方、請求項1~6に係る発明には、「脱離する水分子数」というパラメータの数値範囲、及び結晶に関するパラメータの数値範囲が特定されているが、これらの「脱離する水分子数」及び結晶に関するパラメータの数値範囲を満たす球状結晶質シリカ粉末は、上記の製造方法以外の製造方法で製造されたものも含んでいる。 この点について、(工程(ii)及び工程(iii)が行われていない)比較例3-1、比較例3-2に対して、1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した場合を考える。 比較例3-1、比較例3-2は、工程(i)の加熱処理が行われているが、工程(ii)の酸との接触及び工程(iii)の加熱処理が行われておらず、α-石英結晶の質量割合がそれぞれ45.0wt%、65.1wt%であり、脱離する水分子数がそれぞれ17.2μmol/g、17.8μmol/gと多く、脱離する水分子数の値が請求項1に係る発明の範囲外である。 ここで、比較例2-1、比較例2-2は、工程(i)の加熱処理及び工程(ii)の酸との接触が行われているが、工程(iii)の加熱処理が行われておらず、α-石英結晶の質量割合がそれぞれ38.5wt%、31.1wt%であり、脱離する水分子数がそれぞれ18.2μmol/g、21.5μmol/gと多い。比較例2-1、比較例2-2に対して、1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した実施例2-1、実施例2-2では、α-石英結晶の質量割合はほとんど変化せずに、脱離する水分子数がそれぞれ8.2μmol/g、8.5μmol/gと少なくなっている。また、α-石英結晶の質量割合は、比較例1-2、比較例2-4において1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理により結晶化がほとんど進んでおらずα-石英結晶の質量割合が2wt%以下であることから、工程(iii)の1000℃4時間の加熱処理は、α-石英結晶の質量割合はほとんど変化させずに、脱離する水分子数を減少させるものであるといえる。 以上を考慮すると、比較例3-1、比較例3-2に対して、1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加すれば、脱離する水分子数は10μmol/g以下に減少し、比較例3-1、比較例3-2のα-石英結晶の質量割合の45.0wt%、65.1wt%からほとんど変化しないといえる。 そうすると、比較例3-1、比較例3-2に対して1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した製造方法で得られる球状結晶質シリカ粉末は、球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した後に、酸と接触させ、さらに加熱処理する、という製造方法で製造されていないが、請求項1に係る発明の構成要件を満たすことになる。 したがって、請求項1に係る発明は、球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した後に、酸と接触させ、さらに加熱処理する、という製造方法以外の製造方法で製造された場合を含むのであるから、課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項2~6に係る発明を含め、請求項1に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 また、上述のように、請求項1~6に係る発明の球状結晶質シリカ粉末は、球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した後に、酸と接触させ、さらに加熱処理する、という製造方法以外の製造方法で製造されたものを含んでいるが、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された製造方法は酸と接触させる工程を含む製造方法のみであり、酸と接触させる工程を行わない製造方法で製造された球状結晶質シリカ粉末については、具体的な製造方法が本件明細書に開示されていない。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~6に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない((4-2)(エ))。 (5)申立理由3の内容 請求項1に係る発明には、「粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶である」という事項が特定されている。 上記の特定事項には、粉末全体に対するα-石英結晶の質量割合の数値範囲の下限のみしか限定されておらず、上限が限定されていない。 したがって、請求項2、4~6に係る発明を含め、請求項1に係る発明の範囲が不明確である((4-2)(ア))。 第5 当審の判断 当審は、上記取消理由及び申立理由1~3のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 サポート要件違反に関する取消理由、申立理由2について (1)取消理由について 上記第2の1に記載した訂正事項1(訂正事項2)により、α-石英結晶の含有量が「30質量%以上」に訂正された。 ここで、上記第4の1(2)及び(3)で述べたように、取消理由では、α-石英結晶の含有量について、同(1)の発明の課題を解決することができる範囲は、「30.8wt%以上」の範囲であるとしていたので、α-石英結晶の含有量が「30質量%以上」の場合であっても、同(1)の発明の課題を解決することができるかについて、改めて判断する。 本件明細書の【0018】の「球状結晶質シリカ粉末は、粉末全体の10質量%以上がα-石英結晶であり、好ましくは粉末全体の20質量%以上がα-石英結晶であり、より好ましくは粉末全体の30質量%以上がα-石英結晶である。」との記載によれば、α-石英結晶の含有量の範囲の下限は、高くなればなるほど、発明の課題に関連する線熱膨張係数、誘電正接の値が好ましいものとなることが理解できる。 ここで、α-石英結晶の含有量が、「30.8wt%」であるのは、「実施例2-2」であるが、この例では、線熱膨張係数(CTE1及びCTE2)がそれぞれ、3.9、10.7(10-5/K)と十分に高く、誘電正接が5.9E-04と十分に低い結果を達成し、同(1)の発明の課題を解決するものである。 これに対し、α-石英結晶の含有量が高くなればなるほど、発明の課題に関連する線熱膨張係数、誘電正接の値が好ましいものとなることを考慮すると、α-石英結晶の含有量が「30.8wt%」の場合に対し、「30質量%」の場合は、それらの値が多少劣るものになる可能性はあるものの、それらの値が多少劣る、線熱膨張係数(CTE1及びCTE2)がそれぞれ、3.8、10.7(10-5/K)、誘電正接が6.3E-04である、例えば【表1】の実施例1-1も同(1)の発明の課題を解決できるものとされていること、また、「30質量%」は、「30.8wt%」に近接するものであり、上記【0018】の記載によれば、「30質量%」と「30.8wt%」の間で、急激に線熱膨張係数、誘電正接の値が変化することも読み取れないから、「30質量%」での線熱膨張係数、誘電正接の値は、「30.8wt%」での線熱膨張係数、誘電正接の値と同程度であると判断できる範囲内のものであるといえる。 そうすると、α-石英結晶の含有量が「30質量%」の場合であっても、同(1)の発明の課題を解決するといえるから、本件発明1において、α-石英結晶の含有量について、同(1)の発明の課題を解決することができる範囲は、「30質量%以上」であるといえる。 以上によれば、上記第2の1に記載した訂正事項1(訂正事項2)により、α-石英結晶の含有量が「30質量%以上」であると訂正されたので、本件訂正によって、本件発明(本件発明1~6)において、取消理由でサポート要件を充足するために必要とした事項が特定されたことになるから、本件発明は、サポート要件を充足するものであり、取消理由には、理由がない。 (2)申立理由2について ア α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合について サポート要件の判断は、上記第4の1(1)で述べた規範にしたがって判断すべきものであるところ、本件発明の課題を解決するために必要な事項は、α-石英結晶の含有量についてみれば、上記(1)で述べたとおり、「30質量%以上」の含有量であり、下限について「30質量%以上」であることは必要であるものの、上限について100質量%未満の何らかの数値に制限されるものではない。 本件明細書の記載でも、α-石英結晶の含有量が100質量%の場合に、本件発明の課題を解決できない、すなわち、この場合の球状結晶質シリカ粉末が、「線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる」ものではないことが示されているわけではない。 そうすると、発明の課題を解決する上で、球状結晶質シリカ粉末が、α-石英結晶の含有量が100質量%の球状結晶質シリカ粉末であっても何らの問題もないのであるから、α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合に、本件発明がサポート要件を満たしていない、ということはない。 念のため、「本件明細書に開示された内容を、α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合を含む本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。」という点で考えてみても、後記2(1)での実施可能要件違反に関する判断で詳しく述べるように、本件明細書の記載から、例えば、工程(i)における結晶化剤の量、加熱時間等を調節することにより、α-石英結晶の含有量を高めることができることから、α-石英結晶の質量割合が100質量%(本件発明3における90質量%の場合も)の球状結晶質シリカ粉末を製造することができることも理解できるのであるから、本件明細書の記載の範囲を、本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない、ということはない。 イ α-石英結晶の質量割合が10質量%の場合について 上記第2の1に記載した訂正事項1(訂正事項2)により、α-石英結晶の含有量が「30質量%以上」に訂正され、本件発明に、α-石英結晶の含有量が10質量%の場合、20質量%の場合は、含まれなくなった。 そうすると、この点に関する理由はないものとなった。 ウ 本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいることについて まず、球状結晶質シリカ粉末という物の発明における本件発明の課題を解決する必要な事項は、本件明細書の【0087】【表1】~【表3】で、所定範囲の脱離する水分子数及びα-石英結晶の含有量(Qua)の球状結晶質シリカ粉末において、良好な線熱膨張係数及び誘電正接の値が得られていることが示されているように、「10μmol/g以下」の範囲の脱離する水分子数や「30質量%以上」の範囲のα-石英結晶の含有量であって、「球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した後に、酸と接触させ、さらに加熱処理すること」ではない。 そうすると、本件発明の課題を解決するには、「球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した後に、酸と接触させ、さらに加熱処理すること」が必要であり、この製造方法で製造される球状結晶質シリカ粉末以外の球状結晶質シリカ粉末が発明に含まれる場合は、サポート要件に違反しているとする理由は、前提に誤りがある。 さらに、サポート要件の判断は、上記第4の1(1)で述べた規範にしたがって判断すべきものであるところ、上記第4の2(4)ウの理由は、比較例3-1、比較例3-2に対して1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した製造方法で得られる球状結晶質シリカ粉末が、仮に、本件発明1の構成要件を満たすものになったとして、その粉末が、本件発明の課題を解決できるものではないこと、すなわち、「線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末」ではないことを示すものではない。 仮に、比較例3-1、比較例3-2に対して1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した製造方法で得られる球状結晶質シリカ粉末が、本件発明1の構成要件を満たすことになるのであれば、その球状結晶質シリカ粉末は、発明の課題を解決することができるものであるといえるから、比較例3-1、比較例3-2に対して1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した製造方法で得られる球状結晶質シリカ粉末が、本件発明1の構成要件を満たすことになることは、本件発明がサポート要件に違反していることの理由にはならない。 もっとも、本件明細書の【0013】の「脱離する水分子数を10μmol/g以下にする方法としては、球状非晶質シリカ粉末を結晶化した後に、酸と接触させるとともにさらに加熱処理する工程を行う方法が挙げられる。製造方法の詳細については後述する。 結晶化工程の温度や時間を調整することで粉末表面の水酸基量を減らし、それにより脱離する水分子数を減らすこともできるが、上記したように球状結晶質シリカ粉末は結晶化時の加熱温度等によって結晶型が変わるので、粉末表面の水酸基量を減らすために温度を高くしたり時間を長くしたりすると適切な結晶相を制御できなくなってしまう場合がある。また、樹脂成形品の誘電正接が高くなってしまうことがある。」との記載によれば、比較例3-1、比較例3-2に対して、単に、1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した場合(酸と接触させる工程(ii)を欠いている。)は、α-石英結晶の質量割合が適切に保持されるのかが不明であり、比較例3-1、比較例3-2に対して1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した製造方法で得られる球状結晶質シリカ粉末は、本件発明1の構成要件を満たすことになるとまではいえない。 エ 上記ア~ウで述べたとおり、申立理由2には、理由がない。 (3) 異議申立人が令和7年10月1日に提出した意見書について 異議申立人は、上記意見書でサポート要件に関する主張を行っている。 ア 異議申立人の主張の概要 (ア)α-石英結晶の割合の下限値について 取消理由通知書において、「発明の課題が解決できることが理解できる範囲は、石英結晶の割合について見れば、「30.8wt%」以上の範囲であるといえる。」と指摘されている。 これに対し、特許権者は、「30質量%以上」とする訂正を行ったが、本件発明1等は、α-石英結晶の割合が、「30.8wt%」より小さい場合を含んでいる。 したがって、本件発明は、α-石英結晶の割合が、発明の課題が解決できることが理解できる範囲以外の範囲を含んでいる(3.(2))。 (イ)本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいることについて 上記第4の2(4)ウに記載した理由と同旨の内容を主張すると共に、本件発明1が、本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいることの例として、さらに、本件明細書の「参考例」の「粉砕石英粉末」は、【実施例】における実施例と同等の線熱膨張係数を有し、実施例よりも低い誘電正接を有することが、【表1】に示されている。参考例の粉砕石英粉末の「脱離する水分子数」の測定結果は示されていないが、本件発明1~6の数値範囲に入る蓋然性が高い。 そうすると、参考例の粉砕石英粉末が「球状」といえる範囲であれば、本件発明1~6に含まれることになるが、参考例は本件発明1~6に含まれるべきではない(3.(3))。 (ウ)α-石英結晶の割合の上限値について 上記第4の2(4)アに記載した理由と同旨の内容を主張している((3.(4))。 イ 上記アの異議申立人の主張に対する当審の判断 (ア)α-石英結晶の割合の下限値について 上記(1)で述べたとおり、α-石英結晶の含有量が、「30.8wt%」より小さい「30質量%」場合であっても、本件発明の課題を解決するものであることが理解できるから、本件発明1~6は、α-石英結晶の含有量が、発明の課題が解決できる範囲以外の範囲を含んでいる、ということはない。 (イ)本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいることについて 参考例の粉砕石英粉末が「球状」といえる範囲であれば、本件発明1~6に含まれることになることを含め、上記(2)ウで述べたように、仮に、本件発明1~6の球状結晶質シリカ粉末が、本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいたとしても、そのことだけでは、本件発明1~6がサポート要件に違反していることにはならない。 上記の参考例の場合、「粉砕石英粉末」は、「球状」であるとはいえないのであるから、本件発明1~6の範囲外のもので、「参考例」となるべきものであるが、仮に、「粉砕石英粉末」を「球状」にでき、「脱離する水分子数」を本件発明1の範囲内にすることができるのであれば、本件発明1~6の実施例であっても、何ら差し支えない。 (ウ)α-石英結晶の割合の上限値について 上記(2)アで述べたとおりであるから、上記ア(ウ)での主張は、採用できない。 (エ)以上のとおりであるから、上記意見書における異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。 2 実施可能要件違反に関する申立理由1について (1)α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合について 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する、とされているのでこの観点に従って、判断を行う。 まず、本件発明1には、α-石英結晶の含有量については、「粉末全体の30質量%以上」と特定されている。 ここで、例えば、本件明細書の【0087】【表1】には、本件発明1の「粉末全体の30質量%以上」との条件を満足する、α-石英結晶の質量割合が46.8wt%である実施例1-1の球状結晶質シリカ粉末が記載されている。 そして、本件明細書の【0057】以降の【実施例】の【0059】に、[実施例1-1]として、「球状非晶質シリカ粉末(デンカ株式会社製、「FB-5D」、平均粉末径D50:4.5μm)とCaCO3とを、モル比(SiO2:CaCO3)が100:3となるように計量し、振動式ミキサー(Resodyn社製)で3分間、乾式混合した。混合物50gをアルミナ坩堝に入れた後、純水を5ml添加して混合した。その後、坩堝を電気炉内に配置し、電気炉内温度1000℃で12時間加熱処理した(工程(i))。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、得られた粉末を乳鉢を用いて解砕し、目開き200μmの篩で分級した。 得られた粉末を500mlビーカーに入れ、そこに1Mの酢酸500mlを滴下して、60分間撹拌し混合した(工程(ii))。その後、ろ過して酢酸を除去し、得られた濾物をアルミナ坩堝に入れて電気炉内に配置して、電気炉内温度1000℃で4時間加熱処理した(工程(iii))。加熱処理後、炉内で200℃まで冷却し、デシケーター内(23℃-10%RH)で室温まで冷却して、実施例1-1の球状結晶質シリカ粉末を得た。」とあるように、本件発明1におけるα-石英結晶の含有量である「粉末全体の30質量%以上」との条件を満足する球状結晶質シリカ粉末を得る詳細な手順が示されている。 そして、この実施例では、他に、α-石英結晶の質量割合が57.5wt%(実施例1-2)、74.4wt%(実施例1-3)、77.3wt%(実施例1-4)等の例が具体的に示され、本件発明を実施する上で、α-石英結晶の含有量における相当の範囲かつ典型的な範囲で実施できることが示されていることから、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができるといえる。 さらに、本件発明は、上記第4の1(1)で述べたように、「線熱膨張係数が高くかつ誘電正接が低い樹脂成形品を与えることができる球状結晶質シリカ粉末を提供すること」を発明の課題とし、上記各実施例で、良好な線熱膨張係数かつ誘電正接が得られるのであるから、発明を実施する上では、同2(4)アの理由にあるα-石英結晶の質量割合が100質量%の場合のように極端な場合を実施しなくても事足りるのであるから、α-石英結晶の質量割合が100質量%の場合が示されていないからといって、本件発明の実施可能要件が否定されるものではない。 しかも、同2(4)アの理由では、単に工程(i)での焼成温度だけが結晶構造の形成要因であるとして、工程(i)での焼成温度が高くなると、結晶化が進んでα-石英結晶の質量割合が高くなると共に、クリストバライト結晶も現れ始めるため、α-石英結晶の質量割合が100%の場合は製造することができないとしているが、工程(i)で球状非結晶質シリカ粉末と、結晶化を促進する結晶化剤とされている(本件明細書の【0042】)CaCO3を100:3となるように混合し、1000℃で12時間加熱処理し、酢酸で酸洗し、1000℃で4時間加熱処理し、α-石英結晶の質量割合が46.8質量%、クリストバライト結晶の質量割合が0質量%である、実施例1-1と、球状非結晶質シリカ粉末と、CaCO3を100:5となるように混合し、1000℃で12時間加熱処理し、酢酸で酸洗し、1100℃で4時間加熱処理し、α-石英結晶の質量割合が74.4質量%、クリストバライト結晶の質量割合が0質量%である、実施例1-3を比べると、工程(i)での加熱時間と温度は同じであるのに、結晶化剤の量によってα-石英結晶の含有量が大きく異なってくることが示されているといえるから、結晶化剤の量も結晶構造の形成要因であるといえると共に、結晶化剤の量を増やせば、クリストバライト結晶を生成することなく、α-石英結晶の質量割合を大きく上昇させることができるといえる。 また、使用する球状非晶質シリカ粉末が異なるものの、工程(i)で球状非結晶質シリカ粉末と、CaCO3を100:3となるように混合し、1000℃で6時間加熱処理し、酢酸で酸洗し、1000℃で4時間加熱処理し、α-石英結晶の質量割合が30.8質量%、クリストバライト結晶の質量割合が8.5質量%である、実施例2-2と、球状非結晶質シリカ粉末と、CaCO3を100:3となるように混合し、1000℃で12時間加熱処理し、酢酸で酸洗し、1100℃で4時間加熱処理し、α-石英結晶の質量割合が46.8質量%、クリストバライト結晶の質量割合が0質量%である、実施例1-1を比べると、工程(i)での加熱温度は同じであるのに、工程(i)の加熱時間を長くするとα-石英結晶の含有量が高くなることが示されているといえる。 以上によれば、工程(i)での焼成温度だけが結晶構造の形成要因であることを前提とする同2(4)アの理由は正しくないと共に、上述のように、例えば、工程(i)における結晶化剤の量、加熱時間等を調節することにより、α-石英結晶の含有量を高めることができるのであるから、α-石英結晶の含有量が100質量%(本件発明3における90質量%)の球状結晶質シリカ粉末を製造することに、過度の試行錯誤を必要とするとまではいえない。 そうすると、本件発明に対応する本件明細書の記載が、実施可能要件に違反している、ということはない。 (2)本件明細書に開示された製造方法以外で製造された球状結晶質シリカ粉末を含んでいることについて 上記(1)で述べたように、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができるといえるのであるから、上記第4の2(4)ウの理由には、理由がない。 念のためさらに検討しても、仮に、比較例3-1、比較例3-2に対して1000℃4時間の工程(iii)の加熱処理を追加した製造方法で得られる球状結晶質シリカ粉末が、本件発明1の構成要件を満たすことになったとしても、この球状結晶質シリカ粉末は、本件明細書に記載される、球状非晶質シリカ粉末を加熱処理により結晶化した後に、酸と接触させ、さらに加熱処理する、という製造方法でも製造することができるのであるから、この球状結晶質シリカ粉末の製造方法が、本件明細書に開示されていない、ということはない。 (3)上記(1)及び(2)で述べたとおり、申立理由1には、理由がない。 3 明確性要件違反に関する申立理由3について α-石英結晶の質量割合について、単に、上限の規定がないことだけでは記載が不明確になるということはない。しかも、「質量%」で表される範囲であるから、少なくとも100質量%は超えることはないから、本件発明の範囲が不明確であるということはない。 そうすると、申立理由3には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1~6は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1~3では、本件特許1~6を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~6を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700346

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