特許異議申立
2024-700987
酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品
- 審判番号
- 2024-700987
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-154438
- 登録番号
- 7478632
- 請求日
- 2024年10月09日
- 審決日
- 2025年10月14日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】遠田 利明
- 【権利者】タテホ化学工業株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】遠田 利明
- 【異議申立人】上垣内 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 石川 雄太郎
- 分類
- P1651.113-YAA(C01F) / P1651.121-YAA(C01F) / P1651.537-YAA(C01F) / P1651.536-YAA(C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7478632号発明「酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7478632号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7478632号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7478632号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2020-154438号。以下、「本願」という。)は、令和 2年 9月15日の出願であって、令和 6年 4月24日にその特許権の設定登録がされ、同年 5月 7日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月 9日に、その請求項1~6(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である上垣内俊彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 7年 1月31日付け :取消理由通知書
令和 7年 4月 3日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 7年 7月 7日付け :通知書(訂正請求があった旨の通知)
令和 7年 8月 8日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
令和 7年 4月 3日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在せず、」の記載の後に、「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であり、」との記載を追記する。
請求項1を引用する請求項2~6についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であり、」との記載を削除する。
請求項2を引用する請求項3~6についても同様に訂正する。
2 訂正の適否についての当合議体の判断
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0022】、訂正前の請求項2の記載を根拠として、「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在せず、」の記載の後に、「前記酸化マグネシウム粒子」について、「顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」ることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であり、」との記載を追記したことに伴い、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であり、」との記載を削除するものであり、請求項1を引用する請求項2において内容が重複しないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、本件明細書等の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6について、訂正前の請求項2~6は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
また、本件訂正について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~6〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~2について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)訂正の請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和 7年 4月 3日提出で特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕についての訂正を認める。
第3 本件特許発明
令和 7年 4月 3日提出で特許権者が行った請求項1~6についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~6に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明6」といい、総称して「本件特許発明」という。
「 【請求項1】
酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在せず、
前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であり、
下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である、酸化マグネシウム粉末。
(測定方法)
前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。
【請求項2】
前記酸化マグネシウム粒子は、更に、
JIS R 1639-5:2007に準拠して測定した、累積破壊率63.2%時における粒子強度(単一顆粒圧壊強さ)が、60MPa以上120MPa以下であり、
平均粒子径が、50μm以上130μm以下である、請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム粉末と、前記酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラーとを含む、フィラー組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーがアルミナ粒子であり、
前記酸化マグネシウム粒子の含有率が、40体積%以上70体積%以下であり、
前記アルミナ粒子の含有率が、30体積%以上60体積%以下であり、
前記アルミナ粒子が、平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1.0μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、を含み、
各前記平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径である、請求項3に記載のフィラー組成物。
【請求項5】
樹脂と、請求項3又は4に記載のフィラー組成物とを含む、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載の酸化マグネシウム粉末、請求項3若しくは4に記載のフィ
ラー組成物、又は請求項5に記載の樹脂組成物を含む、放熱部品。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」~「甲9」という。)を提出し(下記4参照。)、以下の理由により、本件特許の請求項1~6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1、2(新規性、進歩性)
(1)本件訂正前の請求項1、2、6に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲7に記載された発明(補助的に甲8に記載された事項)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲7に記載された発明と甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲9に記載された発明と甲1、5、6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(9)本件訂正前の請求項4~6に係る発明は、甲9に記載された発明と甲1、5、6、9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由3(サポート要件)
(1)本件特許明細書の段落【0006】によれば、本件特許発明が解決しようとする課題とは、「樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる、特定の酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末、並びにその酸化マグネシウム粉末を含むフィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品の提供」である。
(2)本件特許明細書には、酸化マグネシウム粒子4を含むフィラー組成物(実施例3、5)が上記課題を解決できることは記載されているものの、酸化マグネシウム粒子4とは異なる粒子強度、平均球形度又は平均粒子径を有する酸化マグネシウム粒子を用いた場合においても上記課題を解決できることまでは、本件特許明細書の記載から読み取ることはできない。
(3)したがって、酸化マグネシウム粒子4とは異なる粒子強度、平均球形度又は平均粒子径を有する酸化マグネシウム粒子を用いる実施形態を包含する本件訂正前の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(4)よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由4(実施可能要件)
(1)特許権者は、令和6年2月6日提出の意見書において、本件特許の各請求項における酸化マグネシウム粒子を得るためには噴霧乾燥における乾燥温度が重要である旨主張しているが、本件特許明細書には、噴霧乾燥機のどの箇所の温度を本件特許明細書に記載された温度にするかについては記載されていないし、噴霧乾燥における温度以外の条件である、熱風の風量、サンプルの時間あたりの送入量、噴霧方式、噴霧条件についても何ら記載がないから、当業者であっても、本件特許発明を実施することができない。
(2)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1~6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(3)よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2018-131378号公報
甲第2号証:特開2008-303079号公報
甲第3号証:特開2008-184366号公報
甲第4号証:特開2007-91525号公報
甲第5号証:国際公開第2014/069567号
甲第6号証:特開2019-99413号公報
甲第7号証:特開平4-342455号公報
甲第8号証:監修:山口明良、「炭素含有耐火物」―原料から用途・課題まで―、岡山セラミックス技術振興財団、2006年3月15日、13~14頁
甲第9号証:国際公開第2020/153505号
第5 取消理由の概要
1 当審において、令和 7年 1月31日付けで、上記第4の申立理由1、2(2)、及び申立理由1、2(3)を採用し、また、申立理由1、2(5)を採用するとともに、職権による取消理由を追加して、以下の取消理由1~3を通知した。
(1)取消理由1(甲2を主たる引用文献とする新規性、進歩性)
上記第4の申立理由1、2(2)と同様。
(2)取消理由2(甲3を主たる引用文献とする新規性、進歩性)
上記第4の申立理由1、2(3)と同様。
(3)取消理由3(甲5を主たる引用文献とする新規性、進歩性)
上記第4の申立理由1、2(5)と同様。
さらに、職権によって以下の取消理由を追加した。
本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立人は、令和 7年 8月 8日提出の意見書(申立人)とともに、以下の参考文献1を提出した。
・参考文献1 特開2016-88838号公報
第6 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第4のいずれの申立理由、及び上記第5のいずれの取消理由によっても、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことができないと判断する。
1 申立理由1、2(1)(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1の請求項1~4、段落【0001】、【0005】~【0011】、【0013】、【0028】、【0037】~【0051】、図1の記載を総合勘案し、特に、請求項1の記載を前提として、実施例1(【0037】、表1)に注目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「ホウ素660ppmおよび鉄361ppmを含有し、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が60.08μmであり、SEM写真から読み取れる真球度が1.05である、球状酸化マグネシウム粒子。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「球状酸化マグネシウム粒子」は、レーザー回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が特定されているため、複数の粒子からなる粉末であることは明らかであるから、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 甲1発明の認定の基礎とされた、甲1の実施例1における「得られた水酸化マグネシウムを900℃で1時間焼成し、酸化マグネシウム粒子を得た。前記酸化マグネシウム粒子に、有機溶媒を濃度が60wt%になるように添加した。その後ボールミルを用いて4時間、湿式粉砕を行った後、スプレードライ法による噴霧乾燥を行った。得られた噴霧乾燥後の酸化マグネシウムを、電気炉を用いて1600℃、1時間焼成し、目的の球状酸化マグネシウムを得た。」(【0037】)との記載からみて、甲1発明の「球状酸化マグネシウム粒子」は、表面処理を行っていないといえるから、本件特許発明1の「表面に被覆層が存在」しない「酸化マグネシウム粒子」に相当する。
ウ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない、酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点1-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲1発明では、「SEM写真から読み取れる真球度が1.05である」ものの、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲1発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点1-2について検討を行う。
ア 甲1には、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」との測定方法(以下、「本件測定方法」という。)によって測定された、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下であることは記載されていないから、相違点1-2は本件特許発明1と甲1発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点1-2の容易想到性について検討する。
(ア)甲1には、酸化マグネシウム粒子の水銀圧入式細孔分布において、粒子間空隙が0.1~0.8cm3/gであることについては記載されている(請求項4、【0011】)ものの、本件測定方法によって測定された、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下であることについては、何ら記載されていないから、甲1の記載からは、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)なお、申立人は、特許異議申立書の第26~29、36頁において、甲1に記載された発明に係る球形酸化マグネシウムの製造方法(【0037】、実施例1)と、本件特許発明1に係る酸化マグネシウムの製造方法(【0067】、【0073】)とは、実質的に同一であるから、甲1に記載された発明の球形酸化マグネシウム粒子について、本件測定方法によって測定された、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である蓋然性が高いと主張している。
しかしながら、本件特許発明1に係る酸化マグネシウム粒子4の製造方法(本件製造方法)と、甲1に記載された発明に係る球形酸化マグネシウム の製造方法(甲1製造方法)とは、少なくとも、以下の相違点A~Cで相違している。
<相違点A>
酸化マグネシウム粒子の分散液とするときの溶媒が、本件製造方法では「ソルミックスA-7」であるのに対して、甲1製造方法では「有機溶媒」である点。
<相違点B>
スプレードライによる噴霧乾燥温度が、本件製造方法では「85℃」であるのに対して、甲1製造方法では不明である点。
<相違点C>
分散液が、本件製造方法では「酸化マグネシウム粒子の濃度60質量%の分散液」であるのに対して、甲1製造方法では「酸化マグネシウム粒子に、有機溶媒を濃度が60wt%になるように添加した」(段落【0037】参照。)ものである点。
なお、<相違点C>に関し、本件特許明細書の段落【0033】の記載「工程(3)において、分散液100質量%に対して、酸化マグネシウム粒子を50質量%以上で含まれるスラリー状態の分散液とすることが必要である。」を参照すると、本件製造方法の「60質量%」とは溶質(酸化マグネシウム)の濃度であって、溶媒(ソルミックスA-7)の濃度ではないのは明らかであり、したがって、溶媒の濃度は40質量%となるから、甲1製造方法の有機溶媒の濃度(60wt%)とは異なっている。
さらに、本件製造方法による酸化マグネシウム粒子4の平均粒子径108μmであるのに対して、甲1製造方法による実施例1のD50が60.08μmであるから、粒子径が2倍近く異なっており、さらに、本件製造方法による酸化マグネシウム粒子4の平均球形度が0.88であり球形からはずれているのに対して、甲1製造方法による実施例1の真球度は1.05でありほぼ球形である点で形状も相違している。
したがって、本件製造方法と甲1製造方法とでは、製造方法が同一であるとはいえないだけではなく、そもそも各製造方法により製造された酸化マグネシウム粒子の大きさや形状が異なっているので、同じ酸化マグネシウム粒子が製造されているといえない。
以上によれば、甲1製造方法で製造された球形酸化マグネシウムについて、本件測定方法によって測定された、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である蓋然性が高いといえない。
よって、甲1発明の酸化マグネシウムについて、本件測定方法によって測定された、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数は不明といわざるを得ず、上記相違点1-2に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
ウ よって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点1-1、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明2、6と甲1発明との対比
本件特許発明2、6と甲1発明とを対比すると、上記(2)ウと同様に、本件特許発明2、6と甲1発明とは、少なくとも、相違点1-1~1-2と同様の相違点で相違する。
(6)相違点についての検討・小括
上記相違点1-1~1-2と同様の相違点について検討すると、少なくとも、上記相違点1-1については、上記(4)で検討したとおりであるから、同様の理由により、本件特許発明2、6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由1、2(1)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1、2、及び6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(1)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1、2(2)、取消理由1(甲2を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲2の段落【0001】~【0002】、【0006】~【0007】、【0011】、【0014】~【0015】、【0039】~【0042】、図1の記載を総合勘案すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数の酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
上記酸化マグネシウム粒子は、ほぼすべてが立方体形状であり、結晶表面に微粒子が付着しておらず、結晶表面が平滑で清浄である、結晶性の良好な一次粒子であり、前記立方体形状の一次粒子が凝集することなく分離している、酸化マグネシウム粉末。」
(以下、「甲2発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「複数の酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」は、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 甲2発明の「結晶表面に微粒子が付着しておらず、結晶表面が」「清浄である」ことは、本件特許発明1において「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在」しないことに相当する。
ウ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない、酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点2-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲2発明では、「ほぼすべてが立方体形状であり」、「結晶表面が平滑で」あるものの、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点2-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲2発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点2-1について検討を行う。
ア 甲2には、酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度(以下、「本件平均球形度」という。)が、0.86以上0.93以下であることは記載されていないから、相違点2-1は本件特許発明1と甲2発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点2-1の容易想到性について検討する。
(ア)甲2発明の酸化マグネシウム粒子は、「ほぼすべてが立方体形状」であり、「結晶表面が平滑」である。現に、甲2には、段落【0009】に、「平滑な表面を有する立方体形状の一次粒子からなることが好ましい」と記載されており、形状としては、立方体が好ましいことしか記載されておらず、本件平均球形度を、0.86以上0.93以下にすることについては、何ら記載されていないから、甲2の記載からは、甲2発明において、上記相違点2-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)なお、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第3~5頁において、甲2に記載された発明の酸化マグネシウム粒子を厳密な立方体形状であると仮定すると、投影面が正方形のとき、球形度が最も小さくなり、投影面が正六角形のとき、球形度が最も大きくなることから、その球形度は、本願特許明細書の段落【0022】に従うと、0.785~0.906であり、本件特許発明1の平均球形度である0.86以上0.93以下と一部重なっているから、少なくとも透過型顕微鏡観察に供する酸化マグネシウム粒子の配向方向によっては、0.86以上0.93以下の範囲内の平均球形度が得られると主張している。
しかしながら、甲2には、甲2発明の酸化マグネシウム粒子の形状や配向によって、測定の際に、本件平均球形度が0.86以上0.93以下となることを直接的かつ具体的に示す記載はなく、甲2発明の酸化マグネシウム粒子が本件特許発明1の本件平均球形度の範囲を必ず満たすといえる具体的な根拠はない。
したがって、申立人の主張は、甲2の記載内容から直ちに本件特許発明1の本件平均球形度の範囲が得られることを裏付けるものではなく、上記相違点2-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(ウ)また、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第5~6頁において、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することには何の技術的な効果もないから、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することは当業者が適宜行う最適化又は好適化に過ぎないと主張する。
しかしながら、甲2には、甲2発明において、本件平均球形度を設定しようとする動機付けがそもそもないから、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することが当業者が適宜行う最適化又は好適化であるとはいえず、上記相違点2-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(エ)さらに、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第6頁において、甲1の図1及び参考資料1(特開2016-88838号公報)の図1乃至4及び8に示されるとおり、酸化マグネシウム粒子の形状を球形とすることは周知技術に過ぎないと主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲2には、甲2発明において、粒子の形状を球形に近づけようとする動機付けがそもそもないため、甲2発明において、当該周知技術を採用する動機付けが存在しない。仮に、甲2発明において、当該周知技術を採用する動機付けが存在するとしても、本件平均球形度が0.93を超えることも考えられるから、本件平均球形度が0.86以上0.93以下になる蓋然性が高いともいえず、上記相違点2-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(オ)よって、甲2発明において、上記相違点2-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点2-2、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1、2(2)、取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(2)、及び、取消理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1、2(3)、取消理由2(甲3を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲2の段落【0001】~【0003】、【0008】、【0014】、【0040】、【0043】~【0045】、【0048】、図1、4の記載を総合勘案し、特に実施例1、4に注目すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数の酸化マグネシウムの一次粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
上記酸化マグネシウムの一次粒子は、ほぼすべてが立方体状であり、結晶表面に微粒子が付着しておらず、結晶表面が平滑で清浄であり、
上記酸化マグネシウムの一次粒子は、凝集することなく各々分離している、酸化マグネシウム粉末。」
(以下、「甲3発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「複数の酸化マグネシウムの一次粒子を含む酸化マグネシウム粉末」は、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 甲3発明の「結晶表面に微粒子が付着しておらず、結晶表面が」「清浄であ」ることは、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在」しないことに相当する。
ウ そうすると、本件特許発明1と甲3発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない、酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点3-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲3発明では、「ほぼすべてが立方体状であり」、「結晶表面が平滑で」あるものの、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点3-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲3発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点3-1について検討を行う。
ア 甲3には、酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度(以下、「本件平均球形度」という。)が、0.86以上0.93以下であることは記載されていないから、相違点3-1は本件特許発明1と甲3発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点3-1の容易想到性について検討する。
(ア)甲3発明の酸化マグネシウム粒子は、「ほぼすべてが立方体状」であり、「結晶表面が平滑」である。現に、甲3には、「本発明の酸化マグネシウム粉末は、好ましくは、立方体状に粒子形状がそろっていて、立方体状結晶表面に微粒子が付着しておらず、当該表面が清浄、かつ平滑なものである」(段落【0017】)との記載があり、「前記前駆体が不純物を多く含むと、得られる酸化マグネシウム粉末の形状が立方体状にならず、丸みを帯びた多角形状になる傾向があるので、前駆体の不純物は少ないほうが好ましい」(段落【0022】)と記載されており、形状としては、丸みを帯びた多角形よりも立方体が好ましいことしか記載されておらず、本件平均球形度を、0.86以上0.93以下にすることについては、何ら記載されていないから、甲3の記載からは、甲3発明において、上記相違点3-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)なお、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第3~5頁において、甲3に記載された発明の酸化マグネシウム粒子を厳密な立方体形状であると仮定すると、投影面が正方形のとき、球形度が最も小さくなり、投影面が正六角形のとき、球形度が最も大きくなることから、その球形度は、本願特許明細書の段落【0022】に従うと、0.785~0.906であり、本件特許発明1の平均球形度である0.86以上0.93以下と一部重なっているから、少なくとも透過型顕微鏡観察に供する酸化マグネシウム粒子の配向方向によっては、0.86以上0.93以下の範囲内の平均球形度が得られると主張している。
しかしながら、甲3には、甲3発明の酸化マグネシウム粒子の形状や配向によって、測定の際に、本件平均球形度が0.86以上0.93以下となることを直接的かつ具体的に示す記載はなく、甲3発明の酸化マグネシウム粒子が本件特許発明1の本件平均球形度の範囲を必ず満たすといえる具体的な根拠はない。
したがって、申立人の主張は、甲3の記載内容から直ちに本件特許発明1の本件平均球形度の範囲が得られることを裏付けるものではなく、上記相違点3-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(ウ)次に、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第5頁において、甲3の比較例3で製造された酸化マグネシウム粒子は、1%程度の不純物を含むことに起因して、結晶形状が立方体ではなくなっており、平均球形度が0.86以上0.93以下である蓋然性が高いと主張する。
しかしながら、甲3の比較例3の酸化マグネシウム粒子で、本件平均球形度が0.86以上0.93以下となることを直接的かつ具体的に示す記載はなく、甲3の比較例3の酸化マグネシウム粒子が本件特許発明1の本件平均球形度の範囲を必ずしも満たすものといえる根拠がない。
したがって、申立人の主張は、甲3の記載内容から直ちに本件特許発明1の本件平均球形度の範囲が得られることを裏付けるものではなく、上記相違点3-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(エ)また、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第5~6頁において、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することには何の技術的な効果もないから、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することは当業者が適宜行う最適化又は好適化に過ぎないと主張する。
しかしながら、甲3には、甲3発明において、本件平均球形度を設定しようとする動機付けがそもそもないから、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定定することが当業者が適宜行う最適化又は好適化であるとはいえず、上記相違点3-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(オ)さらに、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第6頁において、甲1の図1及び参考資料1(特開2016-88838号公報)の図1乃至4及び8に示されるとおり、酸化マグネシウム粒子の形状を球形とすることは周知技術に過ぎないと主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲3には、甲3発明において、粒子の形状を球形に近づけようとする動機付けがそもそもないばかりか、甲3の段落【0022】より、丸みを帯びた形状が好ましくないことが示唆されているため、甲3発明において、当該周知技術を採用する動機付けが存在しない。仮、甲3発明において、当該周知技術を採用する動機付けが存在するとしても、本件平均球形度が0.93を超えることも考えられるから、本件平均球形度が0.86以上0.93以下になる蓋然性が高いともいえず、上記相違点3-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(カ)よって、甲3発明において、上記相違点3-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点3-2、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1、2(3)、取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(3)、及び、取消理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由1、2(4)(甲4を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲4に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲4の請求項1~6、段落【0001】、【0011】、【0014】、【0015】、【0021】、【0024】~【0029】、【0074】~【0101】図1~3の記載を総合勘案すると、特に、請求項1、3の記載に着目すると、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。
「結晶酸化マグネシウムの一次粒子および複数の一次粒子が集合した二次粒子を含有する粉末であって、前記粉末の平均粒径が0.5~10μmで、BET比表面積が0.1~3m2/gであり、一次粒子の形状が実質的に六面体状である、酸化マグネシウム粉末。」(以下「甲4発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲4発明との対比
ア 甲4発明の「結晶酸化マグネシウムの一次粒子および複数の一次粒子が集合した二次粒子を含有する」「酸化マグネシウム粉末」は、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲4発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点4-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲4発明では、「一次粒子の形状が実質的に六面体状である」ものの、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点4-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲4発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
<相違点4-3>
本件特許発明1では「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない」のに対して、甲4発明では、酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層があるか否かが特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点4-1について検討を行う。
ア 甲4には、酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度(以下、「本件平均球形度」という。)が、0.86以上0.93以下であることは記載されていないから、相違点4-1は本件特許発明1と甲4発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点4-1の容易想到性について検討する。
(ア)甲4発明の結晶酸化マグネシウムの一次粒子は、「一次粒子の形状が実質的に六面体状」である。現に、甲4には、「発明の酸化マグネシウム粉末を構成する結晶酸化マグネシウムの単粒子からなる一次粒子は、粒子形状が実質的に六面体状であることも特徴の一つである。なお本発明において前記実質的に六面体状であるとは立方晶乃至正方晶の粒子形状を示し、且つサンプルを倍率10,000~30,000倍で電子顕微鏡観察したときに任意に抽出した粒子100個について粒子形状が実質的に六面体状の粒子の存在率[(六面体状粒子の個数/測定粒子の総数)×100]が90%以上、好ましくは95%以上であることを示す。」(段落【0027】)と記載され、「図1において、本発明の酸化マグネシウム粉末は、結晶酸化マグネシウムの単粒子からなる一次粒子と、複数の一次粒子が集合した集合粒子からなる二次粒子が分散した粒子群からなる。」(段落【0023】)と記載されており、形状としては、一次粒子は、実質的に六面体状であることしか記載されておらず、本件平均球形度を、0.86以上0.93以下にすることについては、何ら記載されていないから、甲4の記載からは、甲4発明において、上記相違点4-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)よって、甲4発明において、上記相違点4-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点4-2、4-3、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1、2(4)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(4)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由1、2(5)、取消理由3(甲5を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲5に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲5の段落[0001]~[0003]、[0008]~[0010]、[0013]、[0022]、[0025]~[0029]、[0039]、[0044]~[0046]、[0056]、図3の記載を総合勘案すると、甲5には、次の発明が記載されていると認められる。
「頂点及び/又は辺の少なくとも一つが面取りされた直方体又は立方体形状の多角形酸化マグネシウム粒子からなる一次粒子を含有する酸化マグネシウム粉末であって、
上記多角形酸化マグネシウム粒子は、原料として用いられる酸化マグネシウム粒子が成長したものであり、
上記酸化マグネシウム粉末は、上記多角形酸化マグネシウム粒子からなる一次粒子を99%含有しており、
上記多角形酸化マグネシウム粒子からなる一次粒子は、その表面が平滑であり、その表面に微粒子の付着がない、酸化マグネシウム粉末。」
(以下、「甲5発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲5発明との対比
ア 甲5発明の「多角形酸化マグネシウム粒子からなる一次粒子を含有する酸化マグネシウム粉末」は、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 甲5発明の「多角形酸化マグネシウム粒子からなる一次粒子は、」「その表面に微粒子の付着がない」ことは、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在」しないことに相当する。
ウ そうすると、本件特許発明1と甲5発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない、酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点5-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲5発明では、「頂点及び/又は辺の少なくとも一つが面取りされた直方体又は立方体形状」であり、「表面が平滑であ」るものの、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点5-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲5発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点5-1について検討を行う。
ア 甲5には、酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度(以下、「本件平均球形度」という。)が、0.86以上0.93以下であることは記載されていないから、相違点5-1は本件特許発明1と甲5発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点5-1の容易想到性について検討する。
(ア)甲5発明の酸化マグネシウム粒子は、「頂点及び/又は辺の少なくとも一つが面取りされた直方体又は立方体形状」であり、「表面が平滑」である。現に、甲5には、段落[0022]に、「本発明の酸化マグネシウム粉末は、直方体の頂点及び/又は辺の少なくとも一つが面取りされた形状の多角形酸化マグネシウム粒子を含有する。本発明において、直方体は立方体を含む。多角形酸化マグネシウム粒子の例としては、直方体の1個の頂点もしくは辺が面取りされた7面体粒子、直方体の8個の頂点の全てが面取りされた14面体粒子、直方体の8個の頂点と12個の辺の全てが面取りされた26面体粒子を挙げることができる。多角形酸化マグネシウム粒子は14面体であることが好ましく、直方体の8個の頂点の全てが面取りされた14面体であることが特に好ましい」と記載されており、形状としては、14面体が好ましいことしか記載されておらず、本件平均球形度を、0.86以上0.93以下にすることについては、何ら記載されていないから、甲5の記載からは、甲5発明において、上記相違点5-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)なお、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第3~5頁において、甲5に記載された発明の酸化マグネシウム粒子を厳密な立方体形状であると仮定すると、投影面が正方形のとき、球形度が最も小さくなり、投影面が正六角形のとき、球形度が最も大きくなることから、その球形度は、本願特許明細書の段落【0022】に従うと、0.785~0.906であり、本件特許発明1の平均球形度である0.86以上0.93以下と一部重なっているから、少なくとも透過型顕微鏡観察に供する酸化マグネシウム粒子の配向方向によっては、0.86以上0.93以下の範囲内の平均球形度が得られると主張している。
しかしながら、甲5には、甲5発明の酸化マグネシウム粒子は面取りされているから、そもそも立方体形状ではなく、また、その形状や配向によって、測定の際に、本件平均球形度が0.86以上0.93以下となることを直接的かつ具体的に示す記載はなく、甲5発明の酸化マグネシウム粒子が本件特許発明1の本件平均球形度の範囲を必ず満たすといえる具体的な根拠はない。
したがって、申立人の主張は、甲5の記載内容から直ちに本件特許発明1の本件平均球形度の範囲が得られることを裏付けるものではなく、上記相違点5-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(ウ)また、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第5~6頁において、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することには何の技術的な効果もないから、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することは当業者が適宜行う最適化又は好適化に過ぎないと主張する。
しかしながら、甲5には、甲5発明において、本件平均球形度を設定しようとする動機付けがそもそもないから、本件平均球形度を0.86以上0.93以下に設定することが当業者が適宜行う最適化又は好適化であるとはいえず、上記相違点5-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(エ)さらに、申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第6頁において、甲1の図1及び参考資料1(特開2016-88838号公報)の図1乃至4及び8に示されるとおり、酸化マグネシウム粒子の形状を球形とすることは周知技術に過ぎないと主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲5の段落[0008]に記載のとおり、粒子同士の接触面積が小さく、熱伝導率が低いため、粒子の形状を球形に近づけようとする動機付けがそもそもないため、甲5発明において、当該周知技術を採用する動機付けが存在しない。仮に、甲5発明において、当該周知技術を採用する動機付けが存在するとしても、本件平均球形度が0.93を超えることも考えられるから、本件平均球形度が0.86以上0.93以下になる蓋然性が高いともいえず、上記相違点5-1に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(オ)よって、甲5発明において、上記相違点5-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点5-2、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5に記載された発明であるとはいえず、また、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明6と甲5発明との対比
本件特許発明6と甲5発明とを対比すると、上記(3)ウと同様に、本件特許発明6と甲5発明とは、少なくとも、相違点5-1~5-2と同様の相違点で相違する。
(6)相違点についての検討・小括
上記相違点5-1~5-2と同様の相違点について検討すると、少なくとも、上記相違点5-1については、上記(4)で検討したとおりであるから、同様の理由により、本件特許発明6は、甲5に記載された発明であるとはいえず、また、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由1、2(5)、取消理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1、及び6は、甲5に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、本件特許発明1、及び6は、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(5)、及び取消理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由1、2(6)(甲6を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲6に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲6の段落【0001】、【0005】~【0006】、【0011】、【0019】~【0020】の記載を総合勘案すると、甲6には、次の発明が記載されていると認められる。
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子表面に他の物資による処理を加えない、酸化マグネシウム粉末。」の点。
(以下「甲6発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲6発明との対比
ア 甲6発明において、「酸化マグネシウム粒子表面に他の物資による処理を加えない」ことは、甲6の段落【0005】~【0006】の記載から、本件特許発明1において、「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない」ことに相当する。
イ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲6発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない、酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点6-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲6発明では、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点6-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲6発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点6-2について検討を行う。
ア 甲6の記載(【0019】、【0020】)によれば、甲6発明の酸化マグネシウム粉末は、マグネシアクリンカーを粉砕し、研磨し、分級することで得られるものであるが、そのようにして得られた酸化マグネシウム粉末に含まれる酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数はどのようなものであるか不明であるから、相違点6-2は本件特許発明1と甲6発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点6-2の容易想到性について検討する。
(ア)甲6には、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数について何らの示唆も存在しないから、甲6の記載からは、甲6発明において、上記相違点6-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)なお、上記相違点について、特許異議申立書の第34頁において、申立人は、
a 「マグネシアクリンカーはマグネシウム塩を焼成して熱分解することによって製造されるところ、この焼成は高温で長時間実施される」
b 「ここで、酸化マグネシウム粉末を高温で長時間焼成すると該粉末の表面積が減少することは、本技術分野において周知である」、
c 「表面積が減少することは、表面に連通する開気孔の数が減少することと同義である。」、
d 「したがって、甲6発明に係る酸化マグネシウム粉末は、外粉末を構成する酸化マグネシウム粒子の表面に連通する開気孔を有しないか、又は有していたとしてもその数は極めて少数であり」、
と主張しているが、上記bの点が周知であることを示す文献は何ら提示されておらず、上記cの点についてはなぜ同義であるのか説明されていないため、上記dの結論が得られる根拠が不明である。
よって、上記相違点6-2に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(ウ)よって、甲6発明において、上記相違点6-2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点6-1、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6に記載された発明であるとはいえず、また、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1、2(6)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲6に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(6)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由1、2(7)(甲7を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)甲7に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲7の段落【0002】の記載によれば、甲7には、次の発明が記載されていると認められる。
「電融したマグネシアクリンカーインゴットを粉砕した後に分粒、整粒した骨材。」
(以下「甲7発明」という。)
(2)本件特許発明1と甲7発明との対比
ア 甲7発明の「電融したマグネシアクリンカーインゴットを粉砕した後に分粒、整粒した骨材」は、電融したマグネシアは、酸化マグネシウムのことであり、それのインゴットを粉砕すれば当然酸化マグネシウム粒子を含んだ粉末になることから、本件特許発明1の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲7発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末。」の点。
<相違点7-1>
本件特許発明1では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲7発明では、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点7-2>
本件特許発明1では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲7発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
<相違点7-3>
本件特許発明1では「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない」のに対して、甲7発明では、酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層があるか否かが特定されていない点。
(3)相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点7-2について検討を行う。
ア 甲7の【0017】、表1には、MgOを含有する原料A、Bをそれぞれ電融して得られた電融マグネシア材(クリンカーインゴット)を粉砕・整粒したものが記載されているが、このようにして得られた酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数はどのようなものであるか不明であるから、相違点7-2は本件特許発明1と甲7発明との実質的な相違点である。
イ 次に上記相違点7-2の容易想到性について検討する。
(ア)甲7には、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数について何らの示唆も存在しないから、甲7の記載からは、甲7発明において、上記相違点7-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(イ)なお、上記相違点について、申立人は、特許異議申立書の第35~36頁において、電融マグネシアクリンカーは、原料を電気炉で溶融して溶融状態の酸化マグネシウムとした後、冷却固化することによって得られるものであるところ、溶融状態の酸化マグネシウムは高い密度を有するので、ガス成分はほとんど残らないため、得られる電融マグネシアクリンカーは、その表面に連通する開気孔をほとんど有しないと考えられるとの認識を前提として、甲8の図2-3を参照して、電融マグネシアには極少数の開気孔しか観察されていないから、甲7の原料に含まれる酸化マグネシウム粒子も極少数の開気孔しか存在しないと主張している。
しかしながら、甲8の図2-3の反射電子像に白く写っているものが何であるかについて甲8には何も説明がなく、開気孔であると認めることはできない。また、仮に白く写っているものが開気孔であるとしても、甲7の酸化マグネシウム粒子と甲8の電融マグネシアとの異同が不明であり、甲7の酸化マグネシウム粒子表面の開気孔の個数と甲8の電融マグネシア表面の開気孔の個数が同じであるといえる理由が不明であるから、甲8を参照したとしても、甲7のマグネシウム粒子の開気孔の個数は依然として不明である。
よって、上記相違点7-2に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
(ウ)よって、甲7発明において、仮に甲8の図2-3を参照したとしても、上記相違点7-2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(4)小括
したがって、上記相違点7-1、7-3、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7に記載された発明であるとはいえず、また、甲7に記載された発明、及び甲8に記載された技術的な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1、2(7)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲7に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであり、甲7に記載された発明、及び甲8に記載された技術的な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(6)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
8 申立理由1、2(8)、(9)(甲9を主たる引用文献とする進歩性)について
(1)甲9に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲9の段落[0001]~[0003]、[0005]~[0006]、[0011]~[0014]、[0017]~[0018]、[0023]~[0025]、[0033]~[0035]、[0042]~[0049]の記載を総合勘案し、特に、請求項1の記載を前提として、実施例3に注目すると、甲9には、次の発明が記載されていると認められる。
「15体積%のフィラーA1、30体積%のフィラーA2、及び55体積%のフィラーA3からなるフィラー組成物において、
前記フィラーA1は、平均粒子径0.8μmで平均球形度0.88のAl2O3からなり、
前記フィラーA2は、平均粒子径10μmで平均球形度0.91のAl2O3からなり、
前記フィラーA3は、平均粒子径90μmで平均球形度0.93のMgOからなる、フィラー組成物。」
(以下、「甲9発明」という。)
(2)本件特許発明3と甲9発明との対比
本件特許発明3と甲9発明との対比を行う。ここでは、対比の便利のために、本件特許発明3のうち本件特許発明1を引用する発明を、本件特許発明1を引用しない形で次のように書き下す。
「【請求項3】
酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末と、前記酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラーとを含む、フィラー組成物であって、
前記酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在せず、
前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であり、
下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である、フィラー組成物。
(測定方法)
前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」
ア 甲9発明の「平均粒子径90μmで平均球形度0.93のMgOからなる」「フィラーA3」は、上記「平均粒子径90μmで平均球形度0.93のMgO」が酸化マグネシウム粒子を意味しており、「フィラーA3」は上記酸化マグネシウム粒子の複数からなる酸化マグネシウム粉末を意味することは明らかであるから、本件特許発明3の「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末」に相当する。
イ 甲9発明の「平均粒子径0.8μmで平均球形度0.88のAl2O3からな」る「フィラーA1」及び「平均粒子径10μmで平均球形度0.91のAl2O3からな」る「フィラーA2」は、本件特許発明3の「酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラー」に相当する。
ウ そうすると、本件特許発明3と甲9発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末と、前記酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラーとを含む、フィラー組成物。」の点。
<相違点9-1>
本件特許発明3では「前記酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であ」るのに対して、甲9発明では、「平均球形度0.93」であるものの、「投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度」は不明である点。
<相違点9-2>
本件特許発明3では「下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下である」、「(測定方法) 前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」のに対して、甲9発明では、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が特定されていない点。
<相違点9-3>
本件特許発明3では「酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しない」のに対して、甲9発明では、酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層があるか否かが特定されていない点。
(3)相違点についての検討
ア 事案に鑑み、相違点9-1、9-2についてまとめて検討する。
甲9には、MgOからなるフィラーA3について、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下であるものの平均球形度が、0.86以上0.93以下であることや、粒子表面に連通する開気孔の個数について記載されていないから、上記相違点9-1、9-2は、いずれも、本件特許発明3と甲9発明との実質的な相違点である。
イ 申立人は、特許異議申立書の第37頁において、上記フィラーA3として、甲1、甲5、甲6に記載の酸化マグネシウム粉末を用いることは、当業者が容易になし得たことであると主張しているので、以下、この点について検討する。
(ア)甲1の酸化マグネシウム粒子について
上記1で示したように、甲1の酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であるか不明であるから、甲9発明において、仮に、上記フィラーA3として、甲1の酸化マグネシウム粒子を用いたとしても、少なくとも、上記相違点9-1に係る本件特許発明3の特定事項を備えるものになるとはいえない。
(イ)甲5の酸化マグネシウム粒子について
上記5で検討したように、甲5で製造された酸化マグネシウム粒子は、顕微鏡法による投影面積円相当径が1μm以上300μm以下である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が、0.86以上0.93以下であるか不明であるから、甲9発明において、仮に、上記フィラーA3として、甲5で製造された酸化マグネシウム粒子を用いたとしても、少なくとも、上記相違点9-1に係る本件特許発明3の特定事項を備えるものになるとはいえない。
(ウ)甲6の酸化マグネシウム粒子について
上記6で検討したように、甲6の酸化マグネシウム粒子は、粒子表面に連通する開気孔の個数が不明であるから、甲9発明において、仮に、上記フィラーA3として、甲6の酸化マグネシウム粒子を用いたとしても、少なくとも、上記相違点9-2に係る本件特許発明3の特定事項を備えるものになるとはいえない。
(エ)よって、上記(ア)~(ウ)を検討しても、上記相違点9-1、9-2に係る特定事項を備えることとはならないから、当該主張は採用しない。
ウ 申立人は、令和7年8月8日提出の意見書の第6~7頁において、本件特許発明1について、甲9の実施例3に基づく新規性欠如及び進歩性欠如を主張するが、当該主張は、新たな申立理由を主張するものであり、実質的に特許異議申立書の要旨を変更するものであるから、採用しない。
(4)小括
したがって、上記相違点9-3、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲9に記載された発明と、甲1、5、6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4~6と甲9発明との対比
本件特許発明4~6と甲9発明とを対比すると、上記(2)ウと同様に、本件特許発明4~6と甲9発明とは、少なくとも、相違点9-1~9-3と同様の相違点で相違する。
(6)相違点についての検討・小括
上記相違点9-1~9-3と同様の相違点について検討すると、少なくとも、上記相違点9-1~9-2については、上記(3)で検討したとおりであるから、さらに甲9の記載を考慮したとしても、同様の理由により、本件特許発明4~6は、甲9に記載された発明と、甲1、5、6、9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由1、2(8)、(9)についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明3~6は、甲9に記載された発明と、甲1、5、6、9に記載された技術的な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。したがって、申立理由1、2(8)(9)によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
9 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件特許明細書の段落【0006】によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる、特定の酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末、並びにその酸化マグネシウム粉末を含むフィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品の提供」である。
(2)本件特許明細書の段落【0013】によれば、上記(1)に記載の課題は、
「本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子は、下記の測定方法によって測定された、前記酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、8.0×10-4個/μm2以下である。
(測定方法)
前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を200倍の倍率にて走査電子顕微鏡により観察したときの、前記酸化マグネシウム粒子中に樹脂が浸入した気孔を前記開気孔として、前記酸化マグネシウム粒子の断面の1μm2あたりの前記開気孔の個数を計数する。」(以下、「解決手段」という。)
ことによって解決することができるとされている。
(3)上記(2)に記載の解決手段によって、上記(1)に記載の課題を解決し得る機序については、本件特許明細書の段落【0016】に次のように記載されている。
「本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子は、上記の測定方法によって測定された、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が8.0×10-4個/μm2以下である。本実施形態の酸化マグネシウム粉末が、開気孔の個数が上記範囲にある酸化マグネシウム粒子を含むことにより、樹脂中において、酸化マグネシウム粉末の流動性が向上し、樹脂との摩擦抵抗が低下するため、樹脂に酸化マグネシウム粉末を充填する際の粘度上昇を抑制することができる。その結果、樹脂に、酸化マグネシウム粉末を高い割合で充填することが可能となり、樹脂中において、酸化マグネシウム粒子同士の接触が十分になり、接触面積が大きくなる。そのため、熱経路を効率よく形成でき、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。」
(4)そして、本件特許発明1と、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6は、上記解決手段を備えているから、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)なお、申立人は、特許異議申立書の第40頁において、実施例3及び5の酸化マグネシウム粒子4とは異なる粒子強度、平均球形度又は平均粒子径を有する酸化マグネシウム粒子についても、本件特許明細書の段落【0006】の課題を解決できることまでは、本件特許明細書の記載からは読み取ることができないと主張している。
しかしながら、上記(2)に記載の解決手段によれば、上記(3)に記載のとおりの機序により、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できることが明らかであるから、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔の個数が、3.0×10-4個/μm2以下であれば、粒子強度、平均球形度又は平均粒子径に関わらず、上記(1)に記載の課題を解決できることは明らかである。よって、当該主張は採用しない。
(6)したがって、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号には該当しないので、申立理由3によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
10 申立理由4(実施可能要件)について
(1)本件特許明細書には本件特許発明の酸化マグネシウム粒子の製造方法について以下の記載がある。
ア 「【0014】
本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子は、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔と、酸化マグネシウム粒子表面に連通しない閉気孔とを有する。ここで、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔は、酸化マグネシウム粒子の製造の際にガス及び水蒸気等が出ることで粒子表面に生じる孔であり、樹脂が酸化マグネシウム粒子の中に侵入できる孔、すなわち、孔の周囲に樹脂に通じる孔が少なくとも1つ以上ある孔である。酸化マグネシウム粒子表面に連通しない閉気孔とは、酸化マグネシウム粒子の製造の際にガス及び水蒸気などが出ずに粒子の中に存在する空洞であり、樹脂が酸化マグネシウム粒子の中に侵入できない孔、すなわち、孔の周囲に樹脂に通じる孔がない孔である。」
イ 「【0027】
(酸化マグネシウム粒子の製造方法)
本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子及び酸化マグネシウム粉末は、例えば、次の工程(1)乃至(5)を含むことで製造することができる。
(1)塩化マグネシウムと水とを混合した水溶液と、アルカリ水溶液とを混合して、反応させることで水酸化マグネシウムスラリーを得る工程、
(2)前記水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗、及び乾燥させた後、焼成し、酸化マグネシウム粒子を得る工程、
(3)前記酸化マグネシウム粒子に有機溶媒等の溶媒を加えて分散液とした後、この分散液中にて湿式粉砕を行う工程、
(4)次いで、噴霧乾燥を行うことで酸化マグネシウム粒子を得る工程、
(5)前記酸化マグネシウム粒子を焼成することで、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末を得る工程。」
ウ 「【0033】
・・・
工程(3)において、分散液100質量%に対して、酸化マグネシウム粒子を50質量%以上で含まれるスラリー状態の分散液とすることが必要である。スラリーの分散性の低下を抑えつつ、スラリー濃度を高めるには分散剤の添加が有効である。分散剤としては、公知の分散剤を用いることできる。スラリー濃度を高く調整をするとともに、工程(4)における噴霧乾燥の乾燥温度を高くすることで、本実施形態に係る酸化マグネシウムを得ることができる。なお、スラリー濃度の上限は、90質量%以下とする。
また、湿式粉砕としては、ボールミルを用いた粉砕など、公知の粉砕方法を用いることができる。
【0034】
工程(4)において、噴霧乾燥の方法は特に限定されないが、湿式粉砕後の酸化マグネシウム分散液を回転ディスクやノズルから噴霧し、酸化マグネシウム粒子を得るスプレードライ法等を用いることが好ましい。また、湿式粉砕及び噴霧時における分散液は、分散液中に酸化マグネシウムが50質量%以上80質量%以下になるように調整することが好ましい。
工程(4)において、乾燥温度は60℃以上とする。上記のとおり、工程(3)でのスラリー濃度を高めるとともに、工程(4)における噴霧乾燥の乾燥温度を高めることが重要である。なお、乾燥温度は、180℃以下とする。
また、工程(3)でのスラリー濃度を高めるとともに、工程(4)における噴霧乾燥の乾燥温度を高めることで粒子表面の平滑性も高めることができる。」(「・・・」は中略を示す。)
(2)上記記載(1)イ~ウによれば、工程(3)において、分散液とする際に、酸化マグネシウム粒子が50質量%以上90質量%以下のように、スラリー濃度を高くし、工程(4)において、乾燥温度を60℃以上180℃以下とすることによって、本件特許発明の酸化マグネシウム粒子を得ることができるとされており、上記記載(1)アによれば、酸化マグネシウム粒子表面に連通する開気孔は、酸化マグネシウム粒子の製造の際にガス及び水蒸気等が出ることで粒子表面に生じる孔であるとの記載も参照すると、上記工程(3)及び(4)の条件を適切に設定すれば、酸化マグネシウム粒子の製造の際にガス及び水蒸気等が粒子から出ることを抑制することにより開気孔の数を減らすことができるので、当業者であれば、技術常識を考慮しつつ、上記アの記載等を参照して適宜条件を設定することによって、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の酸化マグネシウム粉末を製造することが可能であるといえる。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
(3)なお、申立人は、特許異議申立書の第40~41頁において、特許権者は、審査における意見書中で、酸化マグネシウム粒子を得るためには、噴霧乾燥における乾燥温度が重要である旨を主張しているところ、仮に、特許権者の当該主張が正しいとすると、本件特許明細書には、噴霧乾燥機のどの箇所の温度を本件特許明細書に記載された温度に設定すればよいかについては記載されておらず、また、粉体の性状に影響を与える、噴霧乾燥における温度以外の条件である、熱風の風量、サンプルの時間あたりの送入量、噴霧方式、噴霧条件についても何ら記載がないから、当業者であっても、本件特許発明を実施することができないと主張している。
しかしながら、上記(1)ウの記載等を参照して、分散液中の酸化マグネシウム粒子の濃度を50~90質量%の範囲で変化させつつ、噴霧乾燥機の温度設定位置のいずれかの温度を60~180℃の範囲で変化させ、技術常識を考慮して、噴霧乾燥における温度以外の条件を適宜設定することによって、開気孔の個数が少なくなるように条件を最適化する程度のことは、当業者に過度の試行錯誤を要求するものとはいえない。よって、当該主張は採用しない。
(4)さらに、申立人は、特許異議申立書の第41頁において、仮に、本件特許明細書の記載が、本件の各請求項に係る発明を実施することができる程度に記載されたものである場合、そのことは、本件特許発明1に係る酸化マグネシウムの製造条件を最大限広く解釈してよいことを意味するため、甲1に記載の酸化マグネシウムの製造方法は、本件特許発明1に係る酸化マグネシウムの製造方法と実質的に相違しないことになると主張している。
しかしながら、本件特許明細書が実施可能要件を満たすか否かについての判断と、甲1に記載の製造方法が、本件特許発明1に係る酸化マグネシウムの製造方法と実質的に相違するか否かの判断とは、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)と、特許法第29条第1項第3号(新規性)、及び特許法第29条第2項(進歩性)という別個の要件の議論である。そして、上記1で検討したとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、当該主張は採用しない。
(5)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許の請求項1~6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号には該当しないので、申立理由4によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700987