特許異議申立
2024-701029
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法
- 審判番号
- 2024-701029
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-202207
- 登録番号
- 7470246
- 請求日
- 2024年10月15日
- 審決日
- 2025年02月25日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セトラスホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】小野田 浩之
- 【権利者代理人】奥野 剛規
- 【権利者代理人】藤本 健治
- 【異議申立人】合同会社 SAS
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-Y (C01F) / P1651.121-Y (C01F) / P1651.536-Y (C01F) / P1651.537-Y (C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7470246号発明「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、その製造方法、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7470246号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7470246号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和 5年11月29日の出願(特願2023-202207号。以下「本願」という。)であって、令和 6年 4月 9日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月17日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 6年10月15日に、請求項1~5(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である合同会社SAS(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
アルミニウムの含有量は20~300ppmであり、かつ、
前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項2】
結晶子の平均の大きさは25~60mmである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項3】
Cl、Mn、Fe、Cuから選択される少なくとも1種以上の元素を更に含む、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項4】
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法であって、
アルミニウムを含有する水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、前記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に前記反応槽から取り出す反応工程と、
取り出された前記水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを形成する形成工程と、
を備え、
前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの含有量は20~300ppmであり、
前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法。
【請求項5】
方向性電磁鋼板の製造方法であって、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、
前記スラリーを塗布された前記鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、
を備え、
前記酸化マグネシウム中のアルミニウムの含有量は20~300ppmであり、
前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、
方向性電磁鋼板の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第8号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。
1 申立理由1(明確性要件)
本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1~5について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(新規性)
(1)本件発明1、3、5は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明1、5は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件発明1、4、5は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(進歩性)
(1)本件発明1、3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明3は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明4は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明5は、甲第4号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 証拠方法
甲第1号証:特開平6-101059号公報
甲第2号証:特開昭55-58331号公報
甲第3号証:特開2007-84360号公報
甲第4号証:特開2019-173172号公報
甲第5号証:特開2018-131378号公報
甲第6号証:特許第7470245号公報
甲第7号証:山下弘巳、外2名編、「固体表面キャラクタリゼーション 機能性材料・ナノマテリアルのためのスペクトロスコピー」、株式会社講談社、2022年 3月28日、p.151-155
甲第8号証:久保亮五、外3名編、「岩波 理化学辞典 第4版」、株式会社岩波書店、1994年 7月18日、p.1342-1343
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1-1(明確性要件)
(1)ア 申立人は、「本件発明1には、「アルミニウムの濃度の変動係数」との発明特定事項が記載されている。
そして、本件明細書の段落【0059】の記載によれば、この「変動係数」は、測定対象の酸化マグネシウムをペレットに成形し、その表面から深さ約5μmまで、深さ方向に250点の測定点において、D-SIMSを用いて微量元素濃度を測定し、その250点の測定濃度から、平均値(μ)及び標準偏差(σ)を求めた上、標準偏差(σ)/平均値(μ)にて算出されるものである。
ここで、この微量元素濃度の測定においては、深さ方向に約0.02μmごとに、表面から深さ約5μmまで測定することは規定されているものの、平面方向においては、どのような範囲での濃度が測定されているかは規定されておらず、平面方向のばらつきは一切考慮していない。平面上のどのような範囲で測定するかによって、平均値(μ)及び標準偏差(σ)が大きく変動することが予測されるから、このような測定から算出された「変動係数」が、どこまで酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきを反映しているのかは不明である。
また、深さ方向も表面から約5μmまでしか測定していないが、その範囲で微量元素の濃度のばらつきが収まっている理由もなく、同じ酸化マグネシウムであっても、測定試料(実際のペレット)によって、「変動係数」が大きく異なることがあり得る。」
イ 「そして、測定箇所によって平均値(μ)が影響を受けることは、甲第6号証の実施例において、D-SIMSを用いて測定されたホウ素及びナトリウムの濃度の平均値(μ)から換算される含有量と、発光分光分析装置(ICP)によって測定された含有量とが大きく異なっていることからも推測できる。」
ウ 「さらに、SIMSによる測定は細かな条件設定が必要であることが技術常識であるし、少なくとも、SIMSによる定量分析では、一次イオンの選択が重要であるにもかかわらず、本件明細書には、D-SIMSの測定において照射する一次イオンビームの種類が記載されていない。一次イオンビームの種類が異なれば、その測定値も異なり、当然、変動係数も異なってくることは明らかである。」
エ 「以上のように、具体的な測定条件によって、値が大きく変動してしまう指標を用いた場合、ある酸化マグネシウムが、本件発明の範囲にあるか否かを特定することは困難である。また、本件発明4、5についても同様である。
よって、本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。」旨主張する。
(2)以下、検討する。
ア(ア)本件明細書の以下の記載がある。
「【0059】
1.微量元素の濃度と、その平均値、標準偏差及び変動係数
微量元素の濃度、その平均値、標準偏差及び変動係数については以下の方法で求めた。
(1)測定対象の酸化マグネシウム(粉体)を準備した。
(2)その酸化マグネシウムを、縦4mm×横4mmのペレットに成形して、試料とした。
(3)試料を、アルバック・ファイ社製のD-SIMS(Dynamic Secondary Ion Mass Spectrometry)PHI ADEPT-1010にセットする。そして、一次加速電圧が5.0kVの条件で、試料の表面から深さ約5μmまで、深さ方向に250点の測定点での微量元素の濃度を測定した。
(4)測定された250点の微量元素の濃度に基づいて、微量元素の濃度の平均値(μ)及び標準偏差(σ)を求めた。
(5)変動係数を、標準偏差(σ)/平均値(μ)により算出した。
なお、D-SIMSの各測定点での微量元素の濃度は、粒子一個一個の微量元素の濃度とは必ずしも言えない。測定点が5μm/250=0.02μm毎に存在し、その測定間隔は概ね酸化マグネシウムの粒子径よりも小さい。したがって、各測定点での微量元素の濃度は、粒子一個一個よりも詳細な微量元素の濃度に近似できる。」
「【0065】
(1)試料について
実施例1~5、比較例1~3の試料は以下のようにして製造された。」
(イ)上記記載によれば、微量元素の濃度の測定に用いられたペレットは、実施例1~5、比較例1~3に記載されるそれぞれの製造方法によって製造された酸化マグネシウムの粉末を無作為に成形したものであると解される。
そうであれば、ペレット内の酸化マグネシウムの分布はその方向によらずほぼ均質であるから、ペレットの平面方向、深さ方向等、どの方向の微量元素の濃度を測定しても、微量元素の濃度のばらつきはほぼ同等であるといえるため、測定する方向や範囲によって平均値(μ)、標準偏差(σ)及び変動係数が大きく変動するとはいえない。また、実際にそのようなことを示す具体的な根拠も見当たらない。
したがって、上記のようなペレットを測定試料とすることを前提とすれば、深さ方向に約0.02μmごとに表面から深さ約5μmまで測定するだけでも、各実施例及び比較例の酸化マグネシウム中の微量元素の濃度のばらつきを評価することができるといえる。また、同じ酸化マグネシウムであっても、測定試料(実際のペレット)によって、「変動係数」が大きく異なるとはいえない。
イ また、甲第6号証には、D-SIMSを用いて測定されたホウ素及びナトリウムの濃度の平均値(μ)から換算される含有量と、発光分光分析装置(ICP)によって測定された含有量とが異なっていることが示されているが、同一の試料の微量元素の濃度をD-SIMS及びICPで測定したときに、D-SIMSを用いて測定された微量元素の濃度の平均値(μ)から換算される含有量と、ICPによって測定された含有量とが同一になるかは不明であり、両者の相違が測定箇所(測定方向)の違いによって生じたのかは不明である。
したがって、測定試料における実際の測定箇所によって、平均値(μ)の値が影響を受けているとはいえない。
ウ さらに、SIMSによる測定において、細かな条件設定が必要であることが技術常識であり、少なくとも、SIMSによる定量分析では、一次イオンの選択が重要なのであれば、当業者は、測定対象であるアルミニウムの濃度を測定するのに最適な一次イオンを選択するはずであり、他の測定条件についても、当業者であれば、測定対象に応じて適正化するものといえる。
エ 以上のとおりであるから、申立人の上記(1)の主張はいずれも採用できない。
(3)したがって、本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、申立理由1-1(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(明確性要件)
(1)申立人は、「本件発明4には、「乱流が生じている状態」との発明特定事項が記載されている。
他方、本件明細書には、「乱流が生じている状態」について、どのような状態を意味するのかについて、一切説明がされていない。
ここで、技術常識からは、単に乱流と言っただけでは、「乱れを含む流れ」を意味するにすぎず、技術的に十分に特定がなされているとは言い難く、通常であれば、レノルズ数を規定するなどして乱流を技術的に定義する必要があると考えられる。
しかしながら、本件明細書には、「乱流が生じている状態」についての定義の記載もなく、さらに、レノルズ数も、レノルズ数を計算するための情報(管の直径、平均速度、動粘性率など)も全く記載されていないから、「乱流が生じている状態」との記載は不明確である。
よって、本件発明4について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。」旨主張する。
(2)しかしながら、住友重機械プロセス機器株式会社のウェブページ、「撹拌講座 初級コース その6 動力変化で流れが見えますか(後編)」(https://www.shi-pe.shi.co.jp/products/mixing/lecture/basic006/)の、「原則その1 実機スケールでは乱流域での運転が多い。」には、レイノルズ数(Re)が以下の式で表されることが記載されており、
Re=d2・n・ρ/μ
(d:翼径、n:回転数、ρ:液密度、μ:粘度)
また、乱流について、「撹拌槽の場合には、このRe数がおおよそ50より小さい場合は「層流域」、おおよそ1000より大きい場合は「乱流域」である、ということが言えるのです。」と記載されている。
上記記載は、「初級コース」における記載であり、当該技術分野における技術常識と認められるから、本件明細書に「乱流が生じている状態」について、どのような状態を意味するのかが説明がされていないとしても、上記技術常識を考慮すれば、「乱流が生じている状態」が、どのような状態を意味するのかは明確である。
以上のとおりであるから、申立人の上記(1)の主張は採用できない。
(3)したがって、本件発明4について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、申立理由1-2(明確性要件)によっては、本件特許の請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)
(1)申立人は、「上記1のとおり、変動係数は、理論上測定条件によって大きく変動する値であるといえるから、仮に測定された「変動係数」に基づき、本件発明1~5の範囲にある酸化マグネシウム、その製造方法等に含まれるとされたものであったとしても、実際には、本件発明の課題を解決し得ない酸化マグネシウム、その製造方法等が含まれることが理論上予測される。
よって、本件発明1~5は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題が解決できると認識できる範囲を超えるものであるといえ、サポート要件を充足しない。
また、上記2のとおり、本件明細書には、「乱流が生じている状態」についての定義がなく技術的に十分に特定されていないものであることから、仮に「乱流が生じている状態」と判断した方法であっても、実際には、不十分な乱流状態であって、本件発明の課題を解決し得ない焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの製造方法も含まれていることが予測される。この点においても、本件発明4は、サポート要件を充足しない。
よって、本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。」旨主張する。
(2)しかしながら、上記1、2で述べたとおり、本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、申立人の上記(1)の主張は、その前提を欠くものであるから採用できない。
(3)したがって、本件発明1~5について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件)
(1)申立人は、「本件発明における「変動係数」は、当該技術分野において一般的に使用されるパラメータではなく、本件特許の発明者が設定した独自のパラメータである。このような独自のパラメータを満たす発明を実施することは当業者であっても困難であるため、本件明細書には特に詳細に実施方法(特に、製造方法)を説明することが必要であるといえる。
しかしながら、本件明細書には、そのパラメータを満たすために、いかなる具体的な製造条件が必要であるかについては、一切記載がない。しかも、「変動係数」自体、どのような製造条件により影響を受け得るものであるかついてさえも一切の記載がないため、所望のアルミニウムの濃度の変動係数を有する酸化マグネシウムを得るためには、あらゆる製造条件について検討が必要となる。このため、本件特許を実施するにあたって、具体的な製造条件を設定するために、当業者に期待する程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験が必要とされる。
よって、本件発明1~5について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。」旨主張する。
(2)以下、検討する。
ア 本件明細書の段落【0023】~【0049】には、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法に関する記載があり、段落【0032】~【0034】には、3種類の方法で、本件発明の酸化マグネシウムを得ることができることが記載されている。
また、段落【0064】~【0085】の実施例には、具体的な製造条件を明示した上で、本件発明の酸化マグネシウムを製造したことも記載されている。
イ そうすると、本件明細書に、本件発明の「変動係数」を満たす発明を実施する方法(製造方法)や、具体的な製造条件が記載されていることは明らかであるから、当業者であれば、期待する程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を要することなく、本件発明1~5を実施できることが理解できるものといえる。
(3)したがって、本件発明1~5について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、申立理由3(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
5 甲第1号証を主引用例とする申立理由4(新規性)、申立理由5(進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「均一な高張力グラス被膜と優れた磁気特性を得るための方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤」(発明の名称)に関する記載があり、その請求項1の記載を前提とし、特に、表3に記載された実施例2の塗布剤No.6(本発明1)に着目すると、次の2つの発明(以下「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明1>
原料調整から最終粉砕工程を経て製造されるマグネシアにおいて、CaCl2とAlCl3の比が1:1であって、当該塩素化合物をClとして0.0200%含有するように調整された方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシア。
<甲1発明2>
方向性電磁鋼板素材を公知の方法で熱延、焼鈍、冷延を行い、最終板厚0.29mmとし、この後N225%+H275%の湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍した後、甲1発明1の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアを鋼板に塗布し、乾燥し、コイルとして巻取り1200℃×20hrの最終仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1において、CaCl2とAlCl3の比は、技術常識に照らして、モル比で1:1であるから、Al(原子量:26.98)とCl(原子量:35.45)との質量の比は、26.98:177.25(=35.45×5)となる。そして、マグネシア中のCl量は、0.0200%であるから、Al量は、(26.68×0.0200)/177.25=0.00304重量%(30.4重量ppm)となる。
なお、甲第1号証において、方向性電磁鋼板素材の化学組成が重量%で記載されていることから、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアの組成も同様に重量割合と解される。一方、本件明細書において、微量元素であるホウ素の含有量が質量%で記載されていることから(段落【0022】、【0040】)、アルミニウムの含有量も質量%で記載されていると解される。また、通常、質量%と重量%とは同じ値である。
そうすると、甲1発明1における、「方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシア」「において、CaCl2とAlCl3の比が1:1であって、当該塩素化合物をClとして0.0200%含有する」こと、すなわち、甲1発明1における、「方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシア」がAlを30.4重量ppm含有することは、本件発明1における、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム」の「アルミニウムの含有量は20~300ppm」であることに相当する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「アルミニウムの含有量は20~300ppmであ」る、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム」における、「アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である」のに対し、甲1発明1は、「方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシア」における、アルミニウムの濃度の変動係数が不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1について
a 相違点1が実質的な相違点であるかについて
甲第1号証には、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の具体的な値が記載されていないから、甲1発明1の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の値は不明である。また、技術常識を考慮しても、甲1発明1の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の値が「0.25以下」であるかも不明である。
よって、相違点1は、実質的な相違点である。
b 相違点1の容易想到性について
甲第1号証には、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」に係る事項が何ら記載されていないから、甲1発明1において、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の値を、「0.25以下」とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明1であるとはいえず、また、甲1発明1及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c 申立人の主張について
(a)申立人は、本件明細書の段落【0024】~【0026】に記載される、酸化マグネシウムの製造方法は、ごく一般的な焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの製造方法であって、何ら特徴的な工程を有しておらず、これ以外の製造方法で焼鈍分離剤用酸化マグネシウムが製造されることはありえないといってもよいほどであり、また、通常、酸化マグネシウムの製造にあたっては、製品の品質を均ーにするため、マグネシウムやその他の原料由来の微量元素の濃度は、ばらつきを抑制するようにして製造されるのが技術常識であるから、甲第1号証における酸化マグネシウムの具体的な製造方法が不明であったとしても、上記のような本件明細書に記載の製造方法によって、製造された蓋然性が高く、したがって、甲第1号証における酸化マグネシウムにおいて、アルミニウムの濃度の変動係数は、本件発明1で規定された数値範囲にある蓋然性が高い旨を主張する。
(b)しかしながら、甲第1号証には、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアを製造する際に、「原料調整」及び「最終粉砕工程」を有することは記載されるものの(請求項1)、本件明細書に記載の製造方法に従って製造することは記載されておらず、また、申立人が述べる技術常識を考慮しても、甲1発明1の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアが、本件明細書に記載の製造方法で製造されたとはいえないから、甲1発明1の方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤用マグネシアが、本件明細書に記載の製造方法によって、製造された蓋然性が高いとはいえない。
また、仮に、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含まれる微量元素の含有量に着目するという意味で、微量元素の濃度のばらつきを抑制するようにして製造されるのが技術常識であるとしても、微量元素の濃度の変動係数を指標として製造することが、技術常識であるとはいえない。
よって、申立人の上記(a)の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
甲第3号証には、平均ペリクレース結晶子径が10~50nmの範囲にある酸化マグネシウム粉末が記載されている(請求項1)。
一方、本件発明2は、本件発明1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第3号証の記載を考慮しても、本件発明2についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明3について
甲第1号証には、焼鈍分離剤用マグネシアに塩素化合物が含まれることが記載されている(請求項1)。
一方、本件発明3は、本件発明1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第1号証の記載を考慮しても、本件発明3についても同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2は、甲1発明1を含むものであるから、両者は、少なくとも上記(2)アの相違点1で相違する。
イ 判断
上記相違点1についての判断は、上記(2)イでの検討と同様である。 よって、本件発明5は、甲1発明2であるとはいえず、また、甲1発明2及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)まとめ
したがって、甲第1号証を主引用例とする申立理由4(新規性)、申立理由5(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3、5に係る特許を取り消すことはできない。
6 甲第2号証を主引用例とする申立理由4(新規性)、申立理由5(進歩性)
(1)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、「方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法」(発明の名称)に関する記載があり、その請求項1の記載を前提とし、特に、第1表に記載されたMgONo.4に着目すると、次の2つの発明(以下「甲2発明1」、「甲2発明2」という。)が記載されているものと認められる。
<甲2発明1>
B.E.T.法で測定した比表面積が25.1m2/g、X線で測定した一次粒子粒度が0.071μ、含有不純物が、Si:0.2±0.1%、Al:0.02±0.01%、Fe:0.03±0.01%、Ca:0.25±0.15%、C:0.2±0.1%、S:0.1±0.05%、B:0.1±0.05%、P:0.03±0.02%、Na:0.01±0.005%、Cl:0.02±0.01%である、焼鈍分離剤用マグネシア。
<甲2発明2>
方向性珪素鋼板の表面に主としてマグネシアからなる焼鈍分離剤を塗布してコイル状に巻取つた後高温焼鈍を施す方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法において、甲2発明1のマグネシアを焼鈍分離剤として使用する方向性珪素鋼板のフオルステライト絶縁被膜形成方法。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明1とを対比する。
(ア)甲2発明1において、焼鈍分離剤用マグネシアは、含有不純物としてのAlを0.02±0.01%含有するから、甲2発明1における、Alの含有量は、0.01~0.03重量%(100~300重量ppm)となる。なお、甲第2号証において、焼鈍分離剤の量が重量で記載されていることから、焼鈍分離剤に含まれるAlの量も同様に重量(重量%)であると解される。
そうすると、甲2発明1における、「焼鈍分離剤用マグネシア」が含有不純物としてのAlを0.02±0.01%含有すること、すなわち、甲2発明1における、「焼鈍分離剤用マグネシア」がAlを100~300重量ppm含有することは、本件発明1における、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム」の「アルミニウムの含有量は20~300ppm」であることに相当する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「アルミニウムの含有量は20~300ppmである、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム」における、「アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である」のに対し、甲2発明1は、「焼鈍分離剤用マグネシア」における、アルミニウムの濃度の変動係数が不明である点。
イ 判断
(ア)相違点2について
a 相違点2が実質的な相違点であるかについて
甲第2号証には、焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の具体的な値が記載されていないから、甲2発明1の焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の値は不明である。また、技術常識を考慮しても、甲2発明1の焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の値が「0.25以下」であるかも不明である。
よって、相違点2は、実質的な相違点である。
b 相違点2の容易想到性について
甲第2号証には、焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」に係る事項が何ら記載されていないから、甲2発明1において、焼鈍分離剤用マグネシアの「アルミニウムの濃度の変動係数」の値を、「0.25以下」とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲2発明1であるとはいえず、また、甲2発明1及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c 申立人の主張について
(a)申立人は、上記5(2)イ(ア)c(a)の主張と同様に主張する。
(b)しかしながら、甲第2号証には、焼鈍分離剤用マグネシアを製造する際に、「焼成途中で何回も攪拌して均一化をはかる方法で焼成した」ことは記載されるものの(第3ページ右下欄第6~7行)、本件明細書に記載の製造方法に従って製造することは記載されておらず、また、申立人が述べる技術常識を考慮しても、甲2発明1の焼鈍分離剤用マグネシアが、本件明細書に記載の製造方法で製造されたとはいえないから、甲2発明1の焼鈍分離剤用マグネシアが、本件明細書に記載の製造方法によって、製造された蓋然性が高いとはいえない。
また、仮に、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含まれる微量元素の含有量に着目するという意味で、微量元素の濃度のばらつきを抑制するようにして製造されるのが技術常識であるとしても、微量元素の濃度の変動係数を指標として製造することが、技術常識であるとはいえない。
よって、申立人の上記(a)の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
甲第3号証には、平均ペリクレース結晶子径が10~50nmの範囲にある酸化マグネシウム粉末が記載されている(請求項1)。
一方、本件発明2は、本件発明1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第3号証の記載を考慮しても、本件発明2についても同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明3について
甲第1号証には、焼鈍分離剤用マグネシアに塩素化合物が含まれることが記載されている(請求項1)。
一方、本件発明3は、本件発明1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、上記甲第1号証の記載を考慮しても、本件発明3についても同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2は、甲2発明1を含むものであるから、両者は、少なくとも上記(2)アの相違点2で相違する。
イ 判断
上記相違点2についての判断は、上記(2)イでの検討と同様である。
よって、本件発明5は、甲2発明2であるとはいえず、また、甲2発明2及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)まとめ
したがって、甲第2号証を主引用例とする申立理由4(新規性)、申立理由5(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
7 甲第4号証を主引用例とする申立理由4(新規性)、申立理由5(進歩性)
(1)甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板の製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、特に、請求項1、5、6、段落【0041】の記載に着目すると、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4発明>
塩化マグネシウムを純水に溶解させ、塩化マグネシウム水溶液を作製し、次に、水酸化カルシウムを純水に入れ、水酸化カルシウム分散液を作製し、これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl2/Ca(OH)2=1.1のモル比で混合し、混合液を得て、その後、ホウ酸、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸マグネシウムを適量混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで攪拌しながら313Kにて5.5時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得て、その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られた水酸化マグネシウムをその質量の100倍の質量の純水で洗浄し、378Kで12.0時間乾燥して、水酸化マグネシウム粉末を得て、得られた水酸化マグネシウム粉末に、塩化マグネシウム六水和物を適量混合した後、電気炉で焼成し、酸化マグネシウム粉末を得る、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法。
(2)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「塩化マグネシウム」は、本件明細書の段落【0028】において、「水酸化マグネシウム原料」として例示される物質であるから、甲4発明の「塩化マグネシウム」と本件発明4の「アルミニウムを含有する水酸化マグネシウム原料」とは、「水酸化マグネシウム原料」である限りにおいて共通する。
(イ)甲4発明における、「水酸化カルシウム」は、本件明細書の段落【0030】において、「アルカリ原料」として例示される物質であるから、本件発明4における、「アルカリ原料」に相当する。
(ウ)甲4発明において、塩化マグネシウムと水酸化カルシウムとを反応させる際に容器(反応槽)が用いられていることは明らかであり、また、反応後の水酸化マグネシウムスラリーをろ過する際に、水酸化マグネシウムスラリーが、容器(反応槽)から取り出されることも明らかであるから、甲4発明の「塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液を」「混合し、」「4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで攪拌しながら313Kにて5.5時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得て、その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過」することと、本件発明4の「アルミニウムを含有する水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、前記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを乱流が生じている状態で反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に前記反応槽から取り出す反応工程」とは、上記(ア)、(イ)を踏まえると、「水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、」「反応槽へ供給し」「、前記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを」「反応させ」、「反応で形成された水酸化マグネシウム」「スラリーを」「前記反応槽から取り出す反応工程」である限りにおいて共通する。
(エ)甲4発明における、(取り出された)「水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られた水酸化マグネシウムをその質量の100倍の質量の純水で洗浄し、378Kで12.0時間乾燥して、水酸化マグネシウム粉末を得て、得られた水酸化マグネシウム粉末に、塩化マグネシウム六水和物を適量混合した後、電気炉で焼成し、酸化マグネシウム粉末を得る」ことは、本件発明4における、「取り出された前記水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを形成する形成工程」に相当する。
(オ)甲4発明における、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム」は、本件発明4における、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム」に相当する。
(カ)そうすると、本件発明4と甲4発明とは、「焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法であって、
水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、反応槽へ供給し、前記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを反応させ、反応で形成された水酸化マグネシウムスラリーを前記反応槽から取り出す反応工程と、
取り出された前記水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを形成する形成工程と、
を備える、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
本件発明4は、水酸化マグネシウム原料が「アルミニウムを含有する」のに対し、甲4発明は、塩化マグネシウムがアルミニウムを含有するのか不明である点。
<相違点4-2>
本件発明4は、水酸化マグネシウム原料とアルカリ原料とを「乱流が生じている状態で反応させ」ているのに対し、甲4発明は、塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液とを含む混合液を、4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで攪拌しながら反応させているものの、乱流が生じている状態で反応させているのか不明である点。
<相違点4-3>
本件発明4は、「水酸化マグネシウム原料、及び、アルカリ原料を、それぞれ連続的に反応槽へ供給しながら、前記水酸化マグネシウム原料と前記アルカリ原料とを」「反応させつつ、反応で形成された水酸化マグネシウムの上層スラリーを連続的に前記反応槽から取り出す」のに対し、甲4発明は、塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液とを単に混合し、反応後の水酸化マグネシウムスラリーをろ過する際に、水酸化マグネシウムスラリーを容器(反応槽)から取り出すものの、これらの工程を連続的に行うものではなく、水酸化マグネシウムの上層スラリーをろ過しているか不明である点。
<相違点4-4>
本件発明4は、「前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの含有量は20~300ppmであり、前記酸化マグネシウム中の前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である」のに対し、甲4発明は、酸化マグネシウム中のアルミニウムの含有量及び酸化マグネシウム中のアルミニウムの濃度の変動係数が不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点4-4を検討する。
a 相違点4-4が実質的な相違点であるかについて
甲第4号証には、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中の「アルミニウムの含有量」及び「アルミニウムの濃度の変動係数」の具体的な値が記載されていないから、甲4発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中の「アルミニウムの含有量」及び「アルミニウムの濃度の変動係数」の値は不明である。また、技術常識を考慮しても、甲4発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中の「アルミニウムの含有量」の値が「20~300ppm」、「アルミニウムの濃度の変動係数」の値が「0.25以下」であるかも不明である。
よって、相違点4-4は、実質的な相違点である。
b 相違点4-4の容易想到性について
甲第4号証には、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中の「アルミニウムの含有量」及び「アルミニウムの濃度の変動係数」に係る事項が何ら記載されていないから、甲4発明において、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム中の「アルミニウムの含有量」の値を、「20~300ppm」、「アルミニウムの濃度の変動係数」の値を、「0.25以下」とすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。このことは、甲第5号証の段落【0037】に、焼成前の水酸化マグネシウムを形成させる際に連続反応を行うことが記載されていても変わるものではない。
よって、相違点4-1~相違点4-3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲4発明であるとはいえず、また、甲4発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c 申立人の主張について
(a)申立人は、「甲2の表1からすれば、通常、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムには、不純物としてアルミニウムが100~300ppm程度含まれることがわかる。このような不純物は、当然、原料由来と考えられることから、甲4発明において、水酸化マグネシウム原料には、アルミニウムが含有されている蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、甲第4号証には、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムにアルミニウムが含まれることが明記されていない。
そこで、甲4発明によって製造された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムに、原料由来のアルミニウムが含まれるかどうかを検討すると、甲第4号証の表1をみると、比較例2における、B、Na及びPの含有量は、それぞれ、10ppm、2ppm、1ppmであり、他の例と比較して極めて低いことから、比較例2では、製造工程において、ホウ酸、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム及びリン酸マグネシウムが添加されなかったと解するのが自然である。
そうすると、上記比較例2のB、Na及びPは、塩化マグネシウム、水酸化カルシウム由来の不純物であるといえる。
一方、甲第2号証の第1表に記載される、含有不純物としてのB、Na及びPの含有量はそれぞれ、B:0.1±0.05%(=0.05~0.15%:500~1500ppm)、Na:0.01±0.005%(=0.005~0.015%:50~150ppm)、P:0.03±0.02%、(=0.01~0.05%:100~500ppm)である。
このとおり、甲第4号証の比較例2における、B、Na及びPの含有量は、甲第2号証の第1表に記載される、含有不純物としてのB、Na及びPの含有量に包含されないから、同様に、甲4発明によって製造された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムには、100~300ppmのアルミニウムが含有されていないと推認できる。
(b)申立人は、「甲4発明は、」「反応槽中の微量元素を含む水酸化マグネシウム原料の水溶液に、アルカリ原料の水溶液を連続的に供給しながら、乱流が生じている状態でバッチ反応にて水酸化マグネシウムを合成し、その水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る方法(第二の方法)に該当する」から、「甲4発明の製造方法により製造された酸化マグネシウムは、「アルミニウムの濃度の変動係数は、0.25以下」である蓋然性が高い。」と主張する。
しかしながら、上記2(2)で述べたとおり、乱流が生じている状態であるか否かは、レイノルズ数を求めることにより判別できるところ、甲第4号証には、撹拌羽の翼径が記載されておらず、レイノルズ数を求めることができないから、甲4発明における撹拌が、乱流が生じている状態であるかは不明である。
そうすると、甲4発明の製造方法により製造された酸化マグネシウムは、「アルミニウムの濃度の変動係数は、0.25以下」である蓋然性が高いとはいえない。
(c)よって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明4は、甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明4は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明1~3、5について
ア 申立人は、甲第4号証に記載される焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムが、「アルミニウムの含有量は20~300ppmであり、かつ、前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。」である蓋然性が高いことを前提に、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるか、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明5は、甲第4号証に記載された発明であるか、甲第4号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
イ しかしながら、上記(2)ウのとおり、「アルミニウムの含有量は20~300ppmであり、かつ、前記アルミニウムの濃度の変動係数は0.25以下である」との発明特定事項を備える本件発明4が、甲第4号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様の発明特定事項を備える本件発明1、5ついても同様に、甲第4号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第4号証に記載された発明、甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない
また、本件発明2は、本件発明1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記のとおり、本件発明1が、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、甲第3号証の記載を考慮しても、本件発明2についても同様に、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明3は、本件発明1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記のとおり、本件発明1が、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、甲第1号証の記載を考慮しても、本件発明3についても同様に、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、甲第4号証を主引用例とする申立理由4(新規性)、申立理由5(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701029