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特許異議申立

2025-700194

歯科用被加工体及びその製造方法

審判番号
2025-700194
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-524950
登録番号
7535211
請求日
2025年02月14日
審決日
2025年06月17日
公報発行日
2025年07月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】クラレノリタケデンタル株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人青藍国際特許事務所
  • 【異議申立人】福田 義道
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 塩谷 領大
  • 審判官 増山 淳子
分類
P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7535211号発明「歯科用被加工体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7535211号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7535211号に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和5年6月1日(優先権主張 令和4年6月1日)を国際出願日とするものであって、令和6年8月6日に特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年2月14日に、請求項1~8に係る特許について、特許異議申立人 福田義道(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」などといい、これらをまとめて「本件発明」という場合がある。また、対応する特許を「本件特許1」~「本件特許8」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際に、エロージョン率が6.5μm/g以上、又は、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の値が15μm2/g以上であり、 ISO 6872:2015に準拠して測定した2軸曲げ強さが300MPa以上である、歯科用被加工体。 【請求項2】 マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際に、エロージョン率が8.0μm/g以上である、請求項1に記載の歯科用被加工体。 【請求項3】 前記歯科用被加工体がセラミックス焼結体である、請求項1又は2に記載の歯科用被加工体。 【請求項4】 前記セラミックス焼結体がジルコニアを含む焼結体である、請求項3に記載の歯科用被加工体。 【請求項5】 前記歯科用被加工体の平均結晶粒径が0.05~15.0μmである、請求項1又は2に記載の歯科用被加工体。 【請求項6】 マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際に、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の値が15μm2/g以上である、請求項1又は2に記載の歯科用被加工体。 【請求項7】 マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際に、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の値が15μm2/g以上であり、前記歯科用被加工体の平均結晶粒径が3.0μm~15.0μmである、請求項5に記載の歯科用被加工体。 【請求項8】 マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際のエロージョン率が8.0μm/g以上であり、前記歯科用被加工体の平均結晶粒径が0.05μm~5.0μmである、請求項5に記載の歯科用被加工体。」 第3 特許異議の申立てについて 1 申立ての理由の概要 申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。 (1)申立理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第4の1(5)ア(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)申立理由2(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記第4の2(2)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)申立理由3(明確性要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第4の3(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)申立理由4(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第4の1(5)ア(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (5)申立理由5(進歩性) 本件発明1~8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第2-1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1~8は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (6)証拠方法 甲第1-1号証:松原亨、「MSE(Micro Slurry-jet Erosion)試験法による材料表面の強度評価」、粉体技術、2021年、13巻、1号、40-47頁 甲第1-2号証:岩井善郎ら、「マイクロスラリージェットエロージョン(MSE)法を用いた膜強度評価・解析」、表面技術、2017年、68巻、12号、702-706頁 甲第2-1号証:特開2015-127294号公報 甲第2-2号証:国際公開第2021/132644号 (以下、「甲第1-1号証」などを「甲1-1」などという。) 2 甲各号証の記載事項について (1)甲1-1に記載された事項 甲1-1には、次の事項が記載されている。 「 [図:0001424614000001.jpg] [図:0001424614000002.jpg] 」 (40頁右欄1行~41頁左欄4行) (2)甲1-2に記載された事項 甲1-2には以下の事項が記載されている。 「 [図:0001424614000003.jpg] 」 (702頁) (3)甲2-1に記載された事項 甲2-1には以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。 ア 「【請求項1】 79.8~92mol%のZrO2及び4.5~10.2mol%のY2O3と、3.5~7.5mol%のNb2O5又は5.5~10.0mol%のTa2O5と、を含む正方晶ジルコニア複合粉末と、 前記ジルコニア複合粉末に対する質量比が0質量%超過2.5質量%以下であるTiO2ナノ粉末と、 を含むように形成された焼結体であり、 焼結密度が99%以上であり、 前記焼結体の粒子の平均粒径が、2μm以上であり、 前記焼結体の硬度が、4~10GPaであり、 前記焼結体の破壊靱性が、9~14MPa・m1/2であり、 前記焼結体の強度が、400~1000MPaである、加工性ジルコニア。」 イ 「【0021】 本発明によれば、高強度と高靭性を維持しながらも、ジルコニアの硬度を下げることが可能となるため、加工性に優れたジルコニアを提供することができる。また、本発明に係る加工性ジルコニアは、透光性に優れながらも、歯の色と似た色を発現することができるだけでなく、低温熱処理をする場合にも、相転移による劣化が起こらない。従って、本発明に係る加工性ジルコニアは、生体内移植用成形物、特に、歯科用補綴物に効果的に適用可能である。」 ウ 「【0023】 本発明は、ジルコニア焼結体の粒径を制御することにより、硬度を下げ、破壊靱性を増加させることで加工性を向上させ、熱間等方加圧(hot isostatic press:HIP)処理によって透光性を増加させることを特徴とする。」 エ 「【0057】 酸化物としてTiO2が添加された加工性ジルコニアは、酸化物の添加量の増加に応じて、粒径が増加し、図7に示す結果のように、強度が減少することが確認された。なお、かかる強度として、二軸強度(Biaxial strength)を公知の方法により測定した。ここで、1.0~2.0質量%の添加量の場合には、二軸曲げ強度が400MPaを上回っているので、臼歯部や3ユニットブリッジに安全に応用可能な物性を有していると判断することができる。」 オ 「【0063】 [加工性テスト] 400MPa以上の強度と低い硬度を有する、1~2質量%のTiO2が添加されたジルコニア粉末を、1650℃で40時間の間焼結することにより、加工性実験用ジルコニアブロックを製造した。加工装置(製品名:Mynx400、メーカー:Daewoo、Korea)に、直径3mmのダイヤモンドドリルを装着し、切削油を給油しながら加工を施した。この加工装置のドリルは、回転速度が5000rpm、フィード速度が18mm/sec、切込み量が0.15mmになるように固定した。加工性は、このドリルが試験片を歯の表面から6mmの深さまで加工して到達するのにかかる時間を測定することにより判断した。表5は、3mmのドリルが6mmの深さまで加工するのにかかる平均加工時間を示している。」 (4)甲2-2に記載された事項 甲2-2には以下の事項が記載されている。 「技術分野 [0001] 本発明は、加工性ジルコニア複合焼結体の製造方法に関する。 背景技術 [0002] 従来、歯科用途において、歯科用CAD/CAMシステムにより、透光性が高く審美性に優れたシリケートガラスや、強度の高いジルコニアなどのセラミックス材料を患者の歯牙の患部に適合する形状に加工して焼成し、最終的な歯科用補綴物として患者の口腔内へ装着する技術が行われており、ジルコニアが使用される場合、歯科用ジルコニアが使用されている。歯科用ジルコニアは、黎明期には強度は高いものの極めて不透明な品質であったが、患者の需要に伴い、近年では透光性が天然歯に近似するレベルまで高くなっており、ジルコニアのみで歯科用補綴物を作製することも多くなっている。 [0003] 歯科用補綴物の作製においては、短時間化が求められており、歯科医院にてジルコニア仮焼体を加工し、短時間焼成にて簡便にジルコニア製補綴物を作製することも多くなっているが、より簡便にジルコニア製補綴物を作製するため、焼結状態でも加工可能なジルコニア焼結体が特許文献1に開示されている。このジルコニア焼結体は加工後に焼成等する必要がないため、補綴物の作製時間を大幅に短縮できるだけでなく、最終的な補綴物の形状を患者の口腔に最適化された状態で提供することができる。 [0004] 特許文献1に開示されている加工性ジルコニア焼結体は、歯科用に好適な強度等の物性を保持し、焼結状態で機械加工可能であるという優れた特徴を持つ。ただし、通常、ジルコニア成形体もしくは仮焼体を焼成して焼結体を作製する際は、その焼成温度で2時間程度維持する1工程のみであるが、特許文献1の製造においては、2段階の焼成を行って焼結体を作製しており、その焼成温度での維持時間も20時間以上が適切であるとされている。このように、特許文献1に開示されている加工性ジルコニア焼結体は、歯科医院等での補綴物の作製時間は短縮できる一方、工場での製造工程においては大幅に手間やコストがかかるという課題がある。 先行技術文献 特許文献 [0005] 特許文献1:特開2015-127294号公報 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0006] 以上より、歯科用に好適な物性を保持し、焼結状態で機械加工可能である加工性ジルコニア複合焼結体を、より簡便に作製できることが求められている。 [0007] そこで本発明は、歯科用に好適な物性(特に透光性及び機械的強度)を保持し、焼結状態で機械加工可能である加工性ジルコニア複合焼結体を、従来の方法に比べて短時間で作製する方法を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0008] 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ZrO2の主たる結晶系が単斜晶系である原料組成物を使用することにより、焼結状態で機械加工可能である加工性ジルコニア複合焼結体を短時間で作製できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。 [0009] すなわち、本発明は以下の発明を包含する。 [1]78~95mol%のZrO2と、2.5~10mol%のY2O3と、2~8mol%のNb2O5及び/又は3~10mol%のTa2O5と、を含み、 かつZrO2の主たる結晶系が単斜晶系である原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、 前記成形体を焼結する工程と、を含む、 加工性ジルコニア複合焼結体の製造方法。」 第4 当審の判断 1 申立理由1、4(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 以下、この観点に立って検討する。 (2)本件発明の課題について 本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件の発明の詳細な説明」という。)には、「本発明は、歯科用として好適な強度を有し、かつ焼結体の状態で機械加工性に優れる、歯科用被加工体を提供することを目的とする。また、本発明は、焼結体の状態で機械加工することができ、機械加工による加工時間が短く、かつ、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数が多く、生産性及び経済性に優れる歯科用被加工体を提供することを目的とする。」(【0017】)と記載されている。 そうすると、本件発明の課題は、「歯科用として好適な強度を有し、かつ焼結体の状態で機械加工性に優れる、歯科用被加工体を提供すること」、「焼結体の状態で機械加工することができ、機械加工による加工時間が短く、かつ、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数が多く、生産性及び経済性に優れる歯科用被加工体を提供すること」であるといえる。 (3)本件の発明の詳細な説明の記載について ア 本件の発明の詳細な説明には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 「【0018】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、2軸曲げ強さが300MPa以上である歯科用被加工体において、マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際のエロージョン率が8.0μm/g以上、又は、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の値が15μm2/g以上であることによって、課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。」 「【0026】 ある好適な実施形態(以下、実施形態(A)とも称する)においては、本発明の歯科用被加工体は、歯科用として優れた強度と焼結体の状態での機械加工性との両方を兼ね備えることができる点から、MSE試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際のエロージョン率が6.5μm/g以上であり、8.0μm/g以上であることが好ましく、8.5μm/g以上であることがより好ましく、焼結体の状態での機械加工性により優れる点から、9.0μm/g以上であることがさらに好ましく、10.0μm/g以上であることが特に好ましく、12.0μm/g以上が最も好ましい。 実施形態(A)においては、前記エロージョン率の上限値は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、100.0μm/g以下であることが好ましく、60.0μm/g以下であることがより好ましく、40.0μm/g以下であることがさらに好ましく、30.0μm/g以下であることが特に好ましい。 【0027】 実施形態(A)においては、本発明の歯科用被加工体は、エロージョン率が前記範囲内であることによって、歯科用被加工体が、例えば、セラミックス焼結体である場合(好適には、ジルコニアを含む焼結体である場合)において、焼結体を構成する粒子の界面(以下、「粒界」とも称する)の強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることができるものと推定され、焼結体の状態での機械加工性に優れ、機械加工による加工時間を短くできるとともに、加工用工具の消耗を抑制でき、連続加工によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数を増加させることができる。 また、エロージョン率が前記範囲内であることによって、粒界強度を弱めて、焼結体の状態での機械加工性に優れる一方で、歯科用として好適な強度を損なうことがなく、強度と、焼結体の状態での機械加工性とを両立することができる。」 「【0040】 ジルコニアを含む焼結体が、前記した範囲内のエロージョン率が得られ、歯科用として好適な強度と透光性を有し、かつ高い機械加工性を有するため、焼結体の状態で機械加工できる理由は定かではないが、以下のように推測される。 ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5と、さらに第I族元素とが含まれるジルコニアを含む焼結体において、ジルコニア粒子の粒界にさらに第I族元素が存在することにより、第I族元素が粒界強度を低下させて粒子同士を剥離しやすい方向に作用し、削りやすくなり、エロージョン率が前記した範囲内となることで、強度の低下を抑制しつつ、焼結体の状態での機械加工性(特に連続加工における機械加工性)が向上していると推測される。」 「【0060】 ある好適な実施形態(以下、実施形態(B)とも称する)においては、本発明の歯科用被加工体は、歯科用として優れた強度と焼結体の状態での機械加工性との両方を兼ね備えることができる点から、MSE試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際に、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の値が15μm2/g以上であり、焼結体の状態での機械加工性により優れる点から、20μm2/g以上であることが好ましく、23μm2/g以上であることがより好ましく、25μm2/g以上がさらに好ましく、30μm2/g以上が特に好ましい。 実施形態(B)においては、前記エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の上限値は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、100μm2/g以下であることが好ましく、80μm2/g以下であることがより好ましく、65μm2/g以下がさらに好ましく、50μm2/g以下が特に好ましい。」 「【0063】 実施形態(B)において、本発明の歯科用被加工体は、第I族元素を含まないにもかかわらず、一次焼結体の作製時における焼成時間を大幅に長くする等の調整することにより、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)が前記範囲内であることによって、歯科用被加工体が、例えば、セラミックス焼結体である場合(好適には、ジルコニアを含む焼結体である場合)において、焼結体を構成する粒子の界面(以下、「粒界」とも称する)の強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることができるものと推定され、焼結体の状態での機械加工性に優れ、機械加工による加工時間を短くできるとともに、加工用工具の消耗を抑制でき、連続加工によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数を増加させることができる。 このエロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)については、エロージョン率(μm/g)の単位における分母(g)は、単位時間あたりに噴射するアルミナスラリーの質量を意図し、平均して一定速度でアルミナスラリーを試料に噴射するため、試料に対する仕事と考えることができる。分子(μm)はアルミナスラリーが噴射されることにより削り取られる試料の深さを実測したものである。 すなわち、平均結晶粒径×エロージョン率とは、単位時間あたりに単位面積(μm2)を削り取ることができるエネルギー(μm2/W)と同義といえる。 従って、この値と、機械加工性とは相関関係にあるということができ、さらに、本発明の歯科用被加工体においては、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)が前記範囲内である場合に機械加工性が顕著に向上する。 また、本発明の歯科用被加工体においては、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)が前記範囲内であることによって、粒界強度を弱めて、焼結体の状態での機械加工性に優れる一方で、歯科用として好適な強度を損なうことがなく、強度と、焼結体の状態での機械加工性とを両立することができる。」 「【0157】 【表1】 [図:0001424614000004.jpg] 」 イ 上記ア【0018】によれば、本件発明の課題を解決するための歯科用被加工体には、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上である場合と、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上である場合があるので、それぞれについて検討する。 (ア)2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上である場合について 上記ア【0026】~【0027】によれば、エロージョン率が6.5μm/g以上であることによって、歯科用被加工体である焼結体を構成する粒子の界面である粒界の強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることができ、機械加工性に優れ、機械加工による加工時間を短くでき、加工用工具の消耗を抑制でき、連続加工によって削り出せる補綴物の個数を増加させることができる一方で、歯科用として好適な強度を損なうことがなく、強度と、焼結体の状態での機械加工性とを両立することができることが記載されている。 そして、上記ア【0157】の【表1】では、実施例1~3、6~8として、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上である場合について、加工時間が短く、加工個数が多い、機械加工性の優れた焼結体となっていることが示されている。 そうすると、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上の焼結体は、「歯科用として好適な強度を有し、かつ焼結体の状態で機械加工性に優れる、歯科用被加工体を提供すること」、「焼結体の状態で機械加工することができ、機械加工による加工時間が短く、かつ、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数が多く、生産性及び経済性に優れる歯科用被加工体を提供すること」という、本件発明の課題を解決しているといえる。 (イ)2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上である場合について 上記ア【0060】、【0063】によれば、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上であることで、粒界の強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることができ、焼結体の機械加工性に優れ、機械加工による加工時間を短くでき、加工用工具の消耗を抑制でき、連続加工によって削り出せる補綴物の個数を増加させることができること、粒界強度を弱めて、焼結体の状態での機械加工性に優れる一方で、歯科用として好適な強度を損なうことがなく、強度と、焼結体の状態での機械加工性とを両立することができることが記載されている。 そして、上記ア【0157】の【表1】では、実施例1~5、8として、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上である場合について、加工時間が短く、加工個数が多い、機械加工性の優れた焼結体となっていることが示されている。 そうすると、2軸曲げ強さが300MPa以上でエロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上の焼結体は、「歯科用として好適な強度を有し、かつ焼結体の状態で機械加工性に優れる、歯科用被加工体を提供すること」、「焼結体の状態で機械加工することができ、機械加工による加工時間が短く、かつ、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって削り出すことができる歯科用補綴物の個数が多く、生産性及び経済性に優れる歯科用被加工体を提供すること」という、本件発明の課題を解決しているといえる。 (ウ)上記(ア)、(イ)によれば、歯科用被加工体において、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上である場合、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上である場合の両方において、本件発明の課題が解決されているといえる。 (4)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討 本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第2に示したとおりであるところ、本件発明1は、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上、又は、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上であることが特定された歯科用被加工体であるから、そのようなものは、上記(3)イ(ウ)で述べたとおり、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、本件発明1は、本件発明の課題を解決するものである。 そして、本件発明2~8についても、本件発明1と同様に、本件発明の課題を解決できるものであるといえる。 したがって、本件特許の請求項1~8の記載は、サポート要件を満たしている。 (5)申立人の主張について ア 申立人の主張の概要 (ア)申立理由1 申立人は、特許異議申立書において、実施例では特定の元素を含み、かつ特定の結晶平均粒径を有するジルコニア焼結体である歯科用被加工体については、機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有することが理解できるにしても、そのような特徴を有さずに従来から求められてきた課題(願望)のみによって特定されている本件発明1の範囲まで、本件特許の発明の詳細な説明で開示された内容を拡張又は一般化することはできないので、本件発明はサポート要件を満たさない旨、主張している(24~40頁)。 (イ)申立理由4 申立人は、特許異議申立書において、「エロージョン率に関する特徴及び2軸曲げ強さに関する特徴という二つの技術的な変数(パラメータ)は、歯科用被加工体が機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有するということを特定しているにすぎず、これら2つの技術的な変数とこれら2つの技術的な変数によって得られる効果(性能)との関係の技術的な意義が理解できないので、本件発明はサポート要件を満たさない旨、主張している(44~45頁)。 イ 申立人の主張についての判断 (ア)上記ア(ア)の申立理由1について 本件発明は、上記(3)イ(ア)、(イ)で述べたとおり、粒界の強度を弱めることで、2軸曲げ強さが300MPa以上で、エロージョン率が6.5μm/g以上である、又は、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上である焼結体としており、そのような焼結体は、歯科用として好適な強度を保ちつつ、機械加工性に優れたものとなっている。 そうすると、本件発明は、「特定の元素を含み、かつ特定の結晶粒径を有するジルコニア焼結体である歯科用被加工体」を用いることで、強度に優れ、機械加工性に優れた歯科用被加工体を得ているのではない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (イ)上記ア(イ)の申立理由4について 「エロージョン率に関する特徴」及び「2軸曲げ強さに関する特徴」はそれぞれ、歯科用被加工体が機械的に加工されやすいこと、大きい機械的強度を有するということを意味しており、機械的に加工されやすいことと、大きい機械的強度という、通常両立することが困難な性能を両立させたということであるため、これら2つの技術的な変数とこれら2つの技術的な変数によって得られる効果(性能)との関係の技術的な意義は明確である。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (6)申立理由1、4についての結論 以上のとおりであるから、申立理由1、4に理由はない。 2 申立理由2(実施可能要件違反)について (1)本件発明の詳細な説明について 本件の発明の詳細な説明には、上記1(3)アによれば、粒界強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることで、エロージョン率が6.5μm/g以上、又は、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上であり、2軸曲げ強さが300MPa以上である焼結体を作成できることが記載されている(【0027】、【0063】)。そして、第I族元素を存在させること(【0040】)や、一次焼結体の作製時における焼成時間を大幅に長くすること(【0063】)によって、粒界強度を弱めて、エロージョン率やエロージョン率×平均結晶粒径を調整できることが記載された上で、実施例として、エロージョン率が6.5μm/g以上、又は、エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上であり、2軸曲げ強さが300MPa以上である歯科用被加工体を多数作成している(【0157】【表1】)。 そうすると、このような記載に接した当業者は、過度の試行錯誤なく、本件発明に係る歯科用被加工体を作成することができるといえる。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。 (2)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、「特定の元素を含み、かつ特定の結晶平均粒径を有するジルコニア焼結体である歯科用被加工体においては、機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有することが理解できるとしても、本件発明1に包含される歯科用被加工体のうち、そのような特定の元素及び平均結晶粒径に関する特徴を有さない歯科用被加工体については、どのようにして、機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有するようにできるかを当業者が理解できない」ので、本件発明は実施可能要件を満たさない旨、主張している(40~42頁)。 しかし、上記(1)に記載のとおり、本件の発明の詳細な説明には、粒界強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることで、機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有する焼結体を作成できることが記載されており、第I族元素を存在させることや、一次焼結体の作製時における焼成時間を大幅に長くすることなど、そのための手段も記載されている。そうすると、第I族元素を存在させることや、一次焼結体の作製時における焼成時間を大幅に長くすることで、粒界強度を歯科用として好適な範囲内で弱めることができ、機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有する焼結体が得られるといえる。してみれば、そのような焼結体とするために、「特定の元素を含み、かつ特定の結晶平均粒径を有するジルコニア焼結体」であることは必要ではないため、上記申立人の主張は採用できない。 (3)申立理由2についての結論 以上のとおりであるから、申立理由2は、理由がない。 3 申立理由3(明確性要件違反)について (1)本件特許請求の範囲について 本件発明1は、エロージョン率又はエロージョン率×平均結晶粒径の値、及び2軸曲げ強さの値が特定の値である歯科用被加工体であるところ、それらの値は測定可能なものであり、その意味するところは明確である。 したがって、本件特許の請求項1の記載は、明確性要件を満たしている。 本件特許の請求項2~8の記載についても同様である。 (2)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、「機械的に加工されやすく、かつ大きい機械的強度を有するという従来技術の課題のみで特定されている本件発明1の歯科用被加工体は、技術的に十分に特定されていないことが明らか」であり、「本件発明1は、当業者が本件特許明細書及び図面の記載を考慮しても明確に把握することができない」として、本件発明は明確性要件を満たさない旨、主張している(42~44頁)。 しかし、エロージョン率又はエロージョン率×平均結晶粒径の値、及び2軸曲げ強さの値という、測定可能な物性で特定された本件発明1は、従来技術の課題のみで特定されているものではないから、申立人の上記主張は採用できない。 (3)申立理由3についての結論 以上のとおりであるから、申立理由3は、理由がない。 4 申立理由5(甲2-1を主たる証拠とした進歩性欠如)について (1)甲2-1に記載された発明 甲2-1には、上記第3の2(3)アによれば、強度が400~1000MPaのジルコニアが記載されているといえ、同イによれば、そのジルコニアは歯科用補綴物に適用可能なものであり、同エによれば、強度は公知の方法で測定した二軸曲げ強度を意味することが記載されているといえる。 そうすると、甲2-1には、以下の発明が記載されているといえる。 「公知の方法で測定した二軸曲げ強度が400~1000MPaの歯科用ジルコニア。」(以下、「甲2-1発明」という。) (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲2-1発明の対比 甲2-1発明の「歯科用ジルコニア」は、本件発明1の「歯科用被加工体」に相当する。 そうすると、両者は、「歯科用被加工体。」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1ではISO 6872:2015に準拠して測定した2軸曲げ強さが300MPa以上であるのに対し、甲2-1発明では、公知の方法で測定した二軸曲げ強度が400~1000MPaである点。 <相違点2> 本件発明1は、「マイクロスラリージェットエロージョン試験において、平均粒子径3.0μmの球形アルミナスラリーを投射した際に、エロージョン率が6.5μm/g以上、又は、エロージョン率(μm/g)×平均結晶粒径(μm)の値が15μm2/g以上」であるのに対し、甲2-1発明ではそのような特定がない点。 イ 相違点について 事案に鑑み、上記相違点2について検討する。 甲2-1には、「マイクロスラリージェットエロージョン試験」を行うことは記載されていない。 上記1(3)アによれば、本件発明1において、エロージョン率、エロージョン率×平均結晶粒径は、機械加工性に関する指標であるといえる。 ここで、甲2-1には、機械加工性に関しては上記第3の2(3)イ、ウによれば「破壊靱性」、「硬度」が関係することが記載されており、また、同オによれば、「加工性テスト」として、直径3mmのダイヤモンドドリルが6mmの深さまで加工するのにかかる時間を測定することが記載されている。しかし、これらの「破壊靱性」、「硬度」又は「加工性テスト」で得られる値と本件発明1の「マイクロスラリージェットエロージョン試験」との関係は不明であり、甲2-1の、破壊靱性、硬度、加工性テストで得られる値から本件発明1のエロージョン率を換算することはできない。 したがって、相違点2は実質的な相違点である。 次に、相違点2の容易想到性について検討する。甲2-1には、エロージョン率についての記載はないから、エロージョン率を調整しようとする動機付けはない。 さらに、甲2-1における、加工性に関連する他の記載について検討してみると、上記第3の2(3)ウによれば、甲2-1においては、ジルコニア焼結体の粒径を制御することにより、硬度を下げ、破壊靱性を増加させることで加工性を増加させることは記載されている。 しかし、甲2-1発明の歯科用ジルコニアは、エロージョン率又はエロージョン率×平均結晶粒径がどの程度の値であるのか不明であるところ、そのような甲2-1発明において、ジルコニア焼結体の粒径を制御することにより、硬度を下げ、破壊靱性を増加させることで加工性を増加させることによって、「エロージョン率が6.5μm以上」又は「エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上」のジルコニアとすることができるのか不明であるし、仮にできるとしても「2軸曲げ強さ」を「300MPa以上」としつつ、「エロージョン率が6.5μm以上」又は「エロージョン率×平均結晶粒径が15μm2/g以上」とすることができるかも不明である。 しかも、これらの事項が甲1-1、1-2、2-2の記載をみても、本件特許の優先日前の技術常識であるともいえない。 したがって、甲2-1発明において、本件発明1の相違点2に係る構成を採用することは当業者が容易に想到しうることではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2~8は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえない。 (4)申立人の主張 申立人は、特許異議申立書において 甲2-1の【0021】の記載は、甲2-1で得られる歯科用被加工体が機械的に加工されやすいことを特定しており、本件発明1のエロージョン率の値が大きいことは、材料が機械的に加工されやすいことを示しているに過ぎず、したがって、甲2-1に接した当業者は、本件発明1のエロージョン率又はエロージョン率×平均結晶粒径の値が所定値以上であるという特徴を満たすことによって歯科用被加工体を機械的に加工しやすくすることは、容易に想到できたものである旨、主張している(47頁)。 しかし、上記(2)で述べたとおり、甲2-1発明において、本件発明1のエロージョン率又はエロージョン率×平均結晶粒径の値が所定値以上であることを満たすようにすることは当業者が容易になしうることではないため、上記申立人の主張は採用できない。 (5)申立理由5についての結論 以上のとおりであるから、申立理由5は、理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1~8に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700194

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