特許異議申立
2024-700312
歯科用接着性組成物
- 審判番号
- 2024-700312
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-561549
- 登録番号
- 7356456
- 請求日
- 2024年04月04日
- 審決日
- 2025年07月23日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】クラレノリタケデンタル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人青藍国際特許事務所
- 【権利者代理人】鎌田 耕一
- 【権利者代理人】田村 康晃
- 【異議申立人】中丸 剛
- 審判長/審判官
- 審判長 前田 佳与子
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7356456号発明「歯科用接着性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7356456号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7356456号の請求項1~7に係る特許を維持する。
特許第7356456号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7356456号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和1年12月20日(優先権主張 平成30年12月21日)を国際出願日とする特許出願(特願2020-561549号)であって、令和5年9月26日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年10月4日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年4月4日に、特許異議申立人である中丸 剛(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~8)がされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和6年 7月24日付け 取消理由通知
同年 9月26日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年11月13日 意見書の提出(申立人)
令和7年 1月23日付け 取消理由通知(決定の予告)及び審尋
同年 3月31日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
なお、令和6年9月26日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、申立人に対し、令和7年4月11日付け通知書により、令和7年3月31日に訂正の請求があった旨を通知し、意見を述べる機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年3月31日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)、および一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)を含み、
前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)100質量部に対して、0.05~5.0質量部である、歯科用接着性組成物。
【化1】
[図:0001427928000001.jpg]
(1)
【化2】
[図:0001427928000002.jpg]
(2)
(式中、R1は、水素原子またはメチル基を表す。X1およびX2は、それぞれ独立して、直鎖状または分岐鎖状の置換基を有していてもよい炭素数8~16の炭化水素基を表し、前記炭化水素基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、スルフィド基(-S-)、およびフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。)」とあるうち、
「X1およびX2は、それぞれ独立して、直鎖状または分岐鎖状の置換基を有していてもよい炭素数8~16の炭化水素基を表し、前記炭化水素基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、スルフィド基(-S-)、およびフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。」との記載を、
「X1およびX2は、それぞれ独立して、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。」に訂正し、
「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)、および一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)を含み、」との記載を、
「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)、および一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)を含み、
水を含まず、」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7においても、同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、X1およびX2を、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基に減縮し、前記アルキレン基がフェニレン基を含まないように減縮し、また、「水を含まず」という事項を特定して、歯科用接着性組成物を、水を含まないものに減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1のうち、「X1およびX2」が「直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基」であって、前記アルキレン基がフェニレン基を含まないようにする減縮は、本件特許の明細書の段落【0021】の「X1は、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基であってもよい。」との記載、段落【0030】の「X2は、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基であってもよい。」との記載、及び、段落【0135】~【0159】の実施例1及び実施例2の記載に基づくものである。
また、訂正事項1のうち、「水を含まず」という事項を特定して、歯科用接着性組成物を、水を含まないものにする減縮は、下記(ア)~(ウ)に基づくものである。
(ア)本件特許に係る訂正前の請求項8に「水を含まない」という記載があること。
(イ)本件特許の明細書の段落【0124】の「〔溶媒(G)〕本発明の歯科用接着性組成物は、その具体的な実施形態によっては、溶媒(G)を含むことが好ましい。溶媒(G)としては、水、有機溶媒、およびこれらの混合溶媒等が挙げられる。」、及び「【0125】本発明の歯科用接着性組成物が水を含む場合には、・・・含むことが好ましい。」という記載から、訂正前の請求項1に係る歯科用接着性組成物には、水を含む実施形態と、水を含まない実施形態の両方があると解されること。
(ウ)本件特許の明細書の段落【0152】【表1】及び段落【0158】【表2】には、実施例・比較例で用いられた歯科用接着性組成物の成分組成が記載されているところ、実施例・比較例の歯科用接着性組成物は、すべて水を含まない組成物であること。
したがって、訂正事項1は、本件特許の明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1により、訂正後の請求項1において「水を含まず」という事項が特定されたことに伴って、請求項8を削除したものであり、特許請求の範囲を減縮するものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、請求項8を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正事項2によって請求項8は削除された。
したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(4)独立特許要件について
訂正前の請求項1~8の全てについて特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、順に、「訂正発明1」~「訂正発明8」といい、「訂正発明1」~「訂正発明7」を合わせて「訂正発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)、および一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)を含み、
水を含まず、
前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)100質量部に対して、0.05~5.0質量部である、歯科用接着性組成物。
【化1】
[図:0001427928000003.jpg]
(1)
【化2】
[図:0001427928000004.jpg]
(2)
(式中、R1は、水素原子またはメチル基を表す。X1およびX2は、それぞれ独立して、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。)
【請求項2】
リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)と共重合可能な重合性単量体(C)を含む、請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
重合開始剤(D)をさらに含む、請求項1または2に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のX1および前記一般式(2)中のX2が同一である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項5】
前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)100質量部に対して、0.2~1.0質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項6】
X1およびX2が、それぞれ独立して、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項7】
リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)と共重合可能な重合性単量体(C)を含み、前記重合性単量体(C)が、酸性基を有しない疎水性重合性単量体(C-1)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項8】
(削除)」
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(サポート要件違反)
・対象請求項1~8
本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立書19~28頁の項目「(6)」)。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
・対象請求項1~8
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(申立書28~31頁の項目「(7)」(項目「(7)」において引用する項目「(6)」を含む。))。
申立理由1及び2について、具体的理由の概要は以下のとおり。
本件特許発明は、水の存在の有無が特定されていない点、「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」がメタクリロイル基を有する化合物であることが特定されていない点、酸性基含有重合性単量体(C-3)の有無が特定されていない点、「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」及び「リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)」の構造的関係が特定されていない点、並びに、「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」及び「リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)」の量的関係が特定されていない点で、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において本件課題が解決されると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものであり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された内容は、本件特許発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるものではない。よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(3)申立理由3(明確性要件違反)
・対象請求項1~8
本件特許発明1における「成分(A)」100質部に対する「成分(B)」の量が0.05~5.0質量部であることの特定が、各成分を混合後の歯科用接着性組成物におけるものであるのか、あるいは「外部添加」の量であるのかを明確に把握することができないから、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~8に係る発明は明確ではない(申立書31~32頁の項目「(8)」)。
(4)申立理由4(甲第1号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如)
・対象請求項1~4、6、7(新規性欠如)
・対象請求項1~8(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4、6、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書32~57頁の項目「(9)」のうち、甲第1号証についての部分。)。
(5)申立理由5(甲第2号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如)
・対象請求項1~4、6、7(新規性欠如)
・対象請求項1~8(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4、6、7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書32~57頁の項目「(9)」のうち、甲第2号証についての部分。)。
(6)申立理由6(甲第1号証又は甲第2号証に基づく進歩性欠如)
・対象請求項5、8
本件特許の請求項5、8に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項5、8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書58頁の項目「(10)オ」)。
2 証拠方法
(1)申立人が、申立書に添付した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:Operative Dentistry, 2009, No.34, Vol.4, pp472-480
甲第2号証:特開2005-179283号公報
甲第3号証:“歯科接着剤の化学”、坂本猛ら、日本接着学会誌、2016年、Vol.52、No.5、152~165頁
甲第4号証:Journal of American Chemical Society, 1971, Vol.93, No.11, pp.2779-2781
甲第5号証:Journal of American Chemical Society, 1977, Vol.99, No.16, pp.5450-5452
(以下、甲第1号証~甲第5号証をそれぞれ「甲1」~「甲5」という。)
(2)特許権者が、令和7年3月31日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:Journal of Dental Research, 2010, Vol.89, No.11, pp.1281-1286
乙第2号証:有機化学のためのスペクトル解析法-UV,IR,NMR,MSの解説と演習-、(株)化学同人、2004年、80、81、162、163、166、167頁
乙第3号証:有機化合物のスペクトルによる同定法(第6版)-MS,IR,NMRの併用-、株式会社東京化学同人、2000年、214-219、234-237頁
(以下、乙第1号証~乙第3号証をそれぞれ「乙1」~「乙3」という。)
3 当審において通知した取消理由
令和6年7月24日付け取消理由通知書において通知した取消理由1~3の概要は下記(1)のとおりであり、令和7年1月23日付け取消理由通知(決定の予告)において通知した取消理由1~4の概要は下記(2)のとおりである。
なお、下記(1)及び(2)の取消理由1.(サポート要件)は申立理由1(サポート要件違反)と、下記(1)及び(2)の取消理由2.(実施可能要件)は申立理由2(実施可能要件違反)と、下記(1)の取消理由3.(進歩性)(ア)及び下記(2)の取消理由3.(甲1に基づく新規性欠如、進歩性欠如)は申立理由4及び申立理由6のうち甲第1号証(主引用発明)に基づくものと、下記(2)の取消理由3.(進歩性)(イ)及び下記(2)の取消理由4.(甲2に基づく新規性欠如、進歩性欠如)は申立理由5及び申立理由6のうち甲第2号証(主引用発明)に基づくものと、おおむね同旨である。
(1)令和6年7月24日付け取消理由通知書において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。なお、下記取消理由1~3における「請求項」は、本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項を意味する。
ア 取消理由1.(サポート要件)
・対象請求項1~8
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(ア)、(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 取消理由2.(実施可能要件)
・対象請求項1~8
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記(ア)、(イ)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア)歯科用接着性組成物が水を含む場合について
・対象請求項1~7
MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェート)は、接着材成分としての機能はないHDP(10-ヒドロキシデシルジヒドロジェンホスフェート)とメタクリル酸に加水分解されることは、当業者に知られた技術的事項であるから、水を含む場合を包含する請求項1~7に係る発明の歯科用接着性組成物は、加水分解により接着材成分としての機能はないHDPとメタクリル酸を含むことによって、水を含まない場合と異なり、高い初期接着力及び高い接着耐久性を示す歯科用接着性組成物を提供するという請求項1~7に係る発明の課題を解決できるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載から、請求項1~7に係る発明が歯科用接着性組成物として使用できることを、当業者が理解できない。
(イ)一般式(1)及び一般式(2)におけるX1及びX2について
・対象請求項1~5、7、8
請求項1~5、7、8に係る発明の一般式(1)及び(2)におけるX1及びX2が直鎖状の無置換のアルキレン基ではない場合であっても、本件特許の明細書の実施例における(A)及び(B)を用いた場合と同様に、高い初期接着力及び高い接着耐久性を示す組成物が得られ、請求項1~5、7、8に係る発明の課題を解決できると推認することはできず、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、請求項1~5、7、8に係る発明の課題を解決できると推認することはできないし、発明の詳細な説明の記載から、請求項1~5、7、8に係る発明が歯科用接着性組成物として使用できることを、当業者が理解できない。
ウ 取消理由3.(進歩性)
・対象請求項1~7
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(ア)甲1を主引用文献とする進歩性欠如
請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲1及び甲3に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)甲2を主引用文献とする進歩性欠如
請求項1~7に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲2及び甲3に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)令和7年1月23日付け取消理由通知(決定の予告)において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。なお、下記取消理由1~3における「請求項」は、令和6年9月26に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された請求項を意味する。
ア 取消理由1.(サポート要件)
・対象請求項1~7
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 取消理由2.(実施可能要件)
・対象請求項1~7
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記(ア)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア)歯科用接着性組成物が水を含む場合について
MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェート)は、接着材成分としての機能はないHDP(10-ヒドロキシデシルジヒドロジェンホスフェート)とメタクリル酸に加水分解されることは、当業者に知られた技術的事項であるから、水を含む場合を包含する請求項1~7に係る発明の歯科用接着性組成物は、加水分解により接着材成分としての機能はないHDPとメタクリル酸を含むことによって、水を含まない場合と異なり、高い初期接着力及び高い接着耐久性を示す歯科用接着性組成物を提供するという請求項1~7に係る発明の課題を解決できるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載から、請求項1~7に係る発明が歯科用接着性組成物として使用できることを、当業者が理解できない。
(当審注:上記(ア)は、上記(1)ア及びイにおける(ア)と同一内容である。令和6年9月26に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲において、上記(1)ア及びイにおける(イ)の点は解消されていたため、取消理由通知(決定の予告)において、請求項8は取消理由1及び2の対象外になった。)
ウ 取消理由3.(甲1に基づく新規性欠如、進歩性欠如)
・対象請求項1~7
本件発明1~7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
エ 取消理由4.(甲2に基づく新規性欠如、進歩性欠如)
・対象請求項1~7
本件発明1~7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 取消理由についての当審の判断
(当審注:第5における「請求項」は、本件訂正(上記第2)により訂正された請求項を意味する。)
1 令和6年7月24日付けで通知した取消理由通知における取消理由1~3(第4の3(1))について
上記第4の3(1)ア、イの(ア)についての取消理由1(サポート要件)及び取消理由2(実施可能要件)は、本件訂正により、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7において、取消理由の対象とされていなかった請求項8の発明特定事項に対応する「水を含まず」という事項が特定されたことによって、解消された。
上記第4の3(1)ア、イの(イ)についての取消理由1(サポート要件)及び取消理由2(実施可能要件)は、本件訂正により、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~5、7において、「X1およびX2」が直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基に減縮され、前記アルキレン基がフェニレン基を含まないように減縮され、さらに請求項8が削除されたことによって、解消された。
上記第4の3(1)ウについての取消理由3(進歩性)は、本件訂正により、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7において、取消理由の対象とされていなかった請求項8の発明特定事項に対応する「水を含まず」という事項が特定されたことによって、解消された。
2 令和7年1月23日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)における取消理由1~4(第4の3(2))について
上記第4の3(2)ア、イの(ア)についての取消理由1(サポート要件)及び取消理由2(実施可能要件)は、本件訂正により、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7において、取消理由の対象とされていなかった請求項8の発明特定事項に対応する「水を含まず」という事項が特定されたことによって、解消された。
上記第4の3(2)ウ、エについての取消理由3(甲1に基づく新規性欠如、進歩性欠如)及び取消理由4(甲2に基づく新規性欠如、進歩性欠如)は、本件訂正により、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7において、取消理由の対象とされていなかった請求項8の発明特定事項に対応する「水を含まず」という事項が特定されたことによって、解消された。
第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由についての当審の判断
(当審注:請求項8に対する申立理由4及び5の判断は、上記第5の1の取消理由3の判断、並びに上記第5の2の取消理由3及び4の判断と実質的に同一であるため、当該判断の記載を省略した。また、第6における「請求項」は、本件訂正(上記第2)により訂正された請求項を意味する。)
1 申立理由3(明確性要件違反)について(上記第4の1(3))
上記第2のとおり、本件訂正により請求項8は削除されたため、以下では、請求項1~7を対象とする申立理由3の判断を記載する。
(1)特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否か、すなわち、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の特許出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
上記(1)を踏まえて、以下、判断を記載する。
(2)上記第4の1(3)のとおり、申立理由3の概要は、本件特許発明1における「成分(A)」100質部に対する「成分(B)」の量が0.05~5.0質量部であることの特定が、各成分を混合後の歯科用接着性組成物におけるものであるのか、あるいは「外部添加」の量であるのかを明確に把握することができないから、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~8に係る発明は明確ではない、というものである。
ここで、申立書20頁の「(6-1-2)」の項目に記載されているように、リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)であるMDPが、水の存在下で、リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)であるHDPに加水分解されることは、本件特許の出願時の技術常識である。
そして、申立書31頁下から2行~最下行の「水とを含む場合、組成物中には、MDPの加水分解に由来するHDPと、HDPの外部添加に由来するHDPとが混在するものとなるところ、両者は完全に同一物質である。」という記載から、申立理由3における「外部添加」の量とは、成分(A)の加水分解によって生じたものではない、成分(B)の量を意味するものと解される。
これに対し、請求項1では「水を含まず」という事項が特定されているから(上記第3参照)、訂正発明1の歯科用接着性組成物に含まれるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)が、水の存在を前提とするリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)の加水分解によって生じたものではないことは明らかである。
(3)さらに、申立書32頁2~4行には、「水を含まない場合には、MDPの製造時の不純物に由来するHDPと、HDPの外部添加に由来するHDPとが混在するものとなるところ、両者もまた完全に同一物質である。」という記載もある。
しかし、そもそも、MDPの製造時の不純物に由来するHDPと、「外部添加」に由来するHDPとは同一物質であるから、請求項1における「前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)100重量部に対して、0,05~5.0質量部である」という記載から、HDP(当審注:成分(B)に相当する。)が「不純物」由来であるか、あるいは「外部添加」由来であるかには関係なく、請求項1において特定された、成分(A)と成分(B)の配合比は明確であることは明らかである。
(4)以上のとおりであるから、請求項1の記載は明確である。
請求項1を直接又は間接的に引用して記載する請求項2~7についても同様である。
よって、訂正発明1~7は、明確である。
2 申立理由1(サポート要件)及び申立理由2(実施可能要件)について(上記第4の1(1)及び(2)のうち、申立書の22~28頁の(6-2)~(6-5)、29~31頁の(7-2)~(7-5))
(1)訂正発明における成分(A)について
訂正発明における成分(A)は、下記一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体である。
「
[図:0001427928000005.jpg]
(1)
(式中、R1は、水素原子またはメチル基を表す。X1は、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。)」
これに対し、本件特許の明細書の実施例で用いられている成分(A)は、MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェート)、又はMOP(8-メタクリロイルオキシオクチルジヒドロジェンホスフェート)のみである。
しかし、「R1は、水素原子またはメチル基を表す。X1は直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。」という記載で定義される一般式(1)の化合物は、アクリロイル基又はメタクリロイル基という類似の構造を有するものであって、MDP又はMOPと類似の構造を有することから、当業者は、成分(A)としてMDP及びMOP以外の一般式(1)の化合物を用いた場合でも、本件課題をが解決されると認識でき、また、当業者は過度の試行錯誤を要することなく訂正発明を実施できるといえる。
(2)訂正発明における成分(B)について
訂正発明における成分(B)は、一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)である。
「
[図:0001427928000006.jpg]
(2)
(式中、X2は直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。)」
これに対し、本件特許の明細書の実施例で用いられている成分(B)は、HDP(10-ヒドロキシデシルジヒドロジェンホスフェート)、又はHOP(8-ヒドロキシオキシオクチルジヒドロジェンホスフェート)のみである。
しかし、「X2は直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。」と定義される一般式(2)の化合物は、いずれもHDP又はHOPと類似の構造を有することから、当業者は、成分(B)としてHDP及びHOP以外の一般式(2)の化合物を用いた場合でも、本件課題をが解決されると認識でき、また、当業者は過度の試行錯誤を要することなく訂正発明を実施できるといえる。
なお、訂正発明における成分(B)が、成分(A)の加水分解によって生じたものではないことは、上記1(2)で説示したとおりである。
(3)成分(A)と成分(B)の関係について
上記(1)及び(2)で説示したように、本件特許の明細書の実施例で用いられている成分(A)は、MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェート)、又はMOP(8-メタクリロイルオキシオクチルジヒドロジェンホスフェート)のみであり、本件特許の明細書の実施例で用いられている成分(B)は、HDP(10-ヒドロキシデシルジヒドロジェンホスフェート)、又はHOP(8-ヒドロキシオキシオクチルジヒドロジェンホスフェート)のみである。
一方、訂正発明における成分(A)及び成分(B)における「X1」及び「X2」は、いずれも「直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基」であるから、両者の分子量が顕著に異なるとはいえないし、また、訂正発明は、水を含まないものであるから、加水分解によって成分(A)及び成分(B)の配合比が混合の前後で変わるものではない。
そうすると、当業者は、訂正発明において、成分(A)としてMDP及びMOP以外の一般式(1)の化合物を用い、成分(B)としてHDP及びHOP以外の一般式(2)の化合物を用いた場合でも、本件課題が解決されると認識でき、また、当業者は過度の試行錯誤を要することなく訂正発明を実施できるといえる。
(4)酸性基含有単量体成分(C-3)について
訂正発明は、酸性基含有単量体成分(C-3)を含むことが特定されていないし、本件特許の明細書をみても、訂正発明が酸性基含有単量体成分(C-3)を必須の成分として含むと解すべき特段の事情は見あたらない。
そうすると、訂正発明は、酸性基含有単量体成分(C-3)を必須の成分として含むとはいえないから、本件課題を解決できると当業者が認識でき、また、当業者は過度の試行錯誤を要することなく訂正発明を実施できるといえる。
3 申立理由6(甲第1号証又は甲第2号証に基づく進歩性欠如:対象請求項5及び8)について(上記第4の1(4)~(6))
(1)本件訂正(上記第2)の訂正事項1により請求項1において特定された「水を含まず」という事項は、請求項8における「水を含まない」という特定事項と同義である。そして、訂正事項2により請求項8は削除された。
そこで、以下においては、本件訂正による訂正後の請求項1に係る発明(すなわち訂正発明1)、及び訂正後の請求項1を引用する訂正発明5に対する、申立理由6の判断を記載する。
(2)各号証に記載された事項
ア 甲号証及び乙号証に記載された事項
ア-1 甲号証に記載された事項
甲1~甲3には、以下の記載がある。外国語で記載されたものについては、当審合議体による訳文を記載する。下線は当審で付したものもある。
(ア) 甲1に記載された事項
(甲1a)473頁右欄「METHODS AND MATERIALS」の項
「Clearfil Tri-S Bond (TSB、クラレメディカル、大阪、日本)は、オールインワン接着剤システムの1ステップ接着剤として用いられた。Clearfil Mega Bond Primer(MBP、クラレメディカル)は、2ステップ接着剤システムのセルフエッチングプライマーとして用いられた。TSBとMBPは、両方とも製造後2日以内に受け取った。2ステップ接着システムの結合剤として、Clearfil Mega Bond(クラレメディカル)を用いた。化学組成とロット番号を表1に示す。」
(甲1b)474頁の表1
「表1:本研究に用いた1ステップ又は2ステップ接着剤及び結合剤の組成とロット番号
接着剤 pH 組成 ロット番号
[図:0001427928000007.jpg]
結合剤
[図:0001427928000008.jpg]
」
(甲1c)473頁右欄「METHODS AND MATERIALS」の項
「2.方法
13CNMR技術を用いたHEMA及びMDPの加水分解量の定量的な量の決定
いずれも製造後2日以内に受領したTSB及びMBPを、直ちに8℃(冷蔵庫)、20℃(恒温槽)又は40℃(保温器)にてそれぞれ1、3、7及び14週間保存した。各保存期間の終了時に、保存したTSB又はMBPの13CNMR観察をEX-270分光計(JEOL、東京、日本)によって実行し、メタクリルオキシエステル部分が加水分解されたHEMA及びMDPの定量的な量を決定した。」
(甲1d)477頁頁左欄1~6行
「表2に示すように、TSBの変化段階は、HEMAで2.0%及びMDPで0%(保存期間:0日、対照)、HEMAで4.3%及びMDPで3.6%(保存:8℃、14週間)、HEMAで5.1%及びMDPで2.6%(保存:20℃、14週間)、又はHEMAで19.1%及びMDPで8.2%(保存:40℃、14週間)であった。」
(甲1e)477頁の表2
「
[図:0001427928000009.jpg]
(合議体注:表2の「TSB」又は「MBP」の下の欄に記載された「8」、「20」、「40」は、温度の「8℃」、「20℃」、「40℃」を意味する。)」
(甲1f)480頁左欄「結論」の段落の18~28行
「メーカーがより長い保存期限を掲げているとしても、歯に対するレジンの予想される接着強度を得るために、1ステップ及び2ステップのセルフエッチング接着剤は、使用しないときは冷蔵保存することを推奨する。同様に重要なことであるが、セルフエッチング接着剤の使用期限に関する関連する履歴情報は、いつプライマーが製造されたか、どれくらいの期間保管されていたのか、及び、いかなる温度でプライマーが保管されていたのか、を含めて、通常明確にわかっていないため、セルフエッチング接着剤は受け取ったらできるだけ早く使用する必要がある。」
(イ) 甲2に記載された事項
(甲2a)
「【請求項1】
酸性基含有重合性単量体(a)と、水溶性の(メタ)アクリルアミド化合物(b)と、水(c)と、硬化剤(d)と、架橋性重合性単量体(e)とを含有する1液型の歯科用接着剤組成物。」
(甲2b)
「【0001】
本発明は、1液型の歯科用接着剤組成物に係わり、詳しくは、歯牙の硬質組織(歯質)と歯科用コンポジットレジン、歯科用コンポマー、歯科用レジンセメント等の歯科用修復材料とを接着するために用いる1液型の歯科用接着剤組成物に関する。」
(甲2c)
「【実施例】
【0061】
実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下で用いる略記号は次の通りである。
【0062】
〔酸性基含有重合性単量体(a)〕
MDP:10-メタクリロリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
PDP:ピロリン酸ビス(10-メタクリロイルオキシデシル)
4-MET:4-メタクリロキシエチルトリメリット酸
【0063】
〔水溶性重合性単量体〕
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(下記化10で表される水溶性重合性単量体)
【0064】
【化10】
[図:0001427928000010.jpg]
【0065】
DAAA:下記化11で表される水溶性アクリルアミド化合物(b)
【化11】
[図:0001427928000011.jpg]
【0066】
DEMA:下記化12で表される水溶性メタクリルアミド化合物(b)
【0067】
【化12】
[図:0001427928000012.jpg]
【0068】
THMA:下記化13で表される水溶性メタクリルアミド化合物(b)
【0069】
【化13】
[図:0001427928000013.jpg]
【0070】
〔硬化剤(d)〕
CQ:dl-カンファーキノン
TMDPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
DABE:4-N,N―ジメチルアミノ安息香酸エチル
【0071】
〔架橋性重合性単量体(e)〕
UDMA:〔2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)〕ジメタクリレート
Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
Bis-M4:下記化14で表される架橋性重合性単量体(e)
【0072】
【化14】
[図:0001427928000014.jpg]
【0073】
U4TH:下記化15で表される架橋性重合性単量体(e)
【0074】
【化15】
[図:0001427928000015.jpg]
【0075】
〔フィラー(g)〕
R972:アエロジル社製の微粒子シリカ
【0076】
〔その他〕
BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(安定剤(重合禁止剤))」
(甲2d)
「 【0077】
(実施例1)
MDP(10重量部)と、DAAA(45重量部)と、蒸留水(10重量部)と、Bis-GMA(35重量部)と、TMDPO(2重量部)と、CQ(1重量部)と、DABE(1重量部)と、BHT(0.05重量部)とを混合して、歯科用接着剤組成物を調製した。また、同様に調製した歯科用接着剤組成物を50°Cの恒温器に15日間貯蔵した。次いで、これらの調製直後の歯科用接着剤組成物(非貯蔵品)及び50°Cの恒温器に15日間貯蔵した歯科用接着剤組成物(貯蔵品)について、下記の接着力試験方法及び貯蔵安定性試験方法により、接着力及び貯蔵安定性を調べた。以下の実施例及び比較例で調べた接着力及び貯蔵安定性も、下記の接着力試験方法及び貯蔵安定性試験方法により調べたものである。表1に、この歯科用接着剤組成物の配合比(重量部)及び試験結果を示す。表1に示す接着強度の数値は、いずれも8個の試験片についての測定値の平均値である。」
(甲2e)
「 【0080】
(実施例2~6及び比較例1)
表1に示す6種の歯科用接着剤組成物を調製し、それぞれの接着力及び貯蔵安定性を調べた。表1に、各歯科用接着剤組成物の配合比(重量部)及び試験結果を示す。
【0081】
【表1】
[図:0001427928000016.jpg]
」
(ウ) 甲3に記載された事項
(甲3a)154頁左欄、表1
「
[図:0001427928000017.jpg]
」
「
[図:0001427928000018.jpg]
」
(甲3b)154頁右欄~155頁左欄
「
[図:0001427928000019.jpg]
[図:0001427928000020.jpg]
」
(甲3c)155頁
「
[図:0001427928000021.jpg]
」
(甲3d)161頁左欄
「
[図:0001427928000022.jpg]
」
(甲3e)161頁のスキーム2
「
[図:0001427928000023.jpg]
」
甲3a~甲3e、特に甲3eのスキーム2によれば、甲3には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。
「1ステップ1液型接着材(1-SEA)に含まれる接着性モノマーである10-MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)は、接着材成分としての機能はないメタクリル酸と10-ヒドロキシデシルジヒドロジェンホスフェートに加水分解される。」(以下「甲3事項」という。)
ア-2 乙号証に記載された事項
乙1には、以下の記載がある。乙1は外国語で記載されているため、当審合議体による訳文を記載する。下線は当審で付したものもある。
(ア) 乙1に記載された事項
(乙1a)1283頁 Figure. 2
[図:0001427928000024.jpg]
「図2. 異なる期間保存したMDP-NMGlyプライマーのカルボニル及びメチレン領域の典型的な13C NMRスペクトルと、MDP、NMGIy、及びMDPとNMGlyの加水分解によって生成された分解生成物MA、HDP、グリシンに起因する炭素のNMRピーク割り当て。」
(乙1b)1284頁 Figure. 3
[図:0001427928000025.jpg]
「図3. 異なる期間保存したMDP-HEMAプライマーのカルボニル及びメチレン領域の典型的な13C NMRスペクトルと、MDP、HEMA、及びMDPとHEMAの加水分解によって生成された分解生成物MA、HDP、HDMA、EGに起因する炭素のNMRピークの割り当て。」
(3)訂正発明1に対する申立理由6(甲1に基づく進歩性欠如)について
ア 甲1に記載された発明
甲1の「TSB」は、「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ及びコロイダルシリカ」を含む1ステップセルフエッチング接着剤(甲1a、表1)である。
甲1の表2には、TSBを「20℃で14週間」保存したときの「MDPの加水分解量」が「2.6%」であることが記載されている(甲1e)。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、20℃で14週間保存後のMDPの加水分解量が2.6%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明1」という。)
また、甲1の表2には、同様に、「8℃で7週間」保存したときのMDPの加水分解量が「2.9%」であり、「20℃で7週間」保存したときのMDPの加水分解量が「3.4%」であり、「8℃で14週間」保存したときのMDPの加水分解量が「3.6%」であり、「40℃で1週間」保存したときのMDPの加水分解量が「3.8%」であり、「40℃で3週間」保存したときのMDPの加水分解量が「5.0%」であったことが記載されている(甲1e)。
そうすると、甲1には、以下の発明も記載されていると認められる。
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、8℃で7週間保存後のMDPの加水分解量が2.9%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明2」という。)
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、20℃で7週間保存後のMDPの加水分解量が3.4%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明3」という。)
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、8℃で14週間保存後のMDPの加水分解量が3.6%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明4」という。)
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、40℃で1週間保存後のMDPの加水分解量が3.8%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明5」という。)
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、40℃で3週間保存後のMDPの加水分解量が5.0%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明6」という。)
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、40℃で7週間保存後のMDPの加水分解量が6.5%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明7」という。)
また、甲1発明1~甲1発明7を総合すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「水、MDP、Bis-GMA、HEMA、エタノール、疎水性DMA、CQ、シラン化コロイダルシリカを含み、20℃で14週間保存後の、8℃で7週間保存後の、20℃で7週間保存後の、8℃で14週間保存後の、40℃で1週間保存後の、40℃で3週間保存後、又は、40℃で7週間保存後のMDPの加水分解量が2.6%、2.9%、3.4%、3.6%、3.8%、5.0%又は6.5%である、1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB。」(以下「甲1発明」 という。)
イ 訂正発明1について
(ア)対比
訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「MDP」は、訂正発明1の「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」に相当する。
甲1発明の「1ステップセルフエッチング接着剤であるTSB」は、訂正発明1の「歯科用接着性組成物」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)を含む、歯科用接着性組成物。
【化1】
[図:0001427928000026.jpg]
(式中、R1は、水素原子またはメチル基を表す。X1およびX2は、それぞれ独立して、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。)」
<相違点>
相違点1 訂正発明1は、更に「一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)」を含み、「前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)100質量部に対して、0.05~5.0質量部である」のに対し、甲1発明は、「20℃で14週間保存後の、8℃で7週間保存後の、20℃で7週間保存後の、8℃で14週間保存後の、40℃で1週間保存後の、40℃で3週間保存後、又は、40℃で7週間保存後のMDPの加水分解量が2.6%、2.9%、3.4%、3.6%、3.8%、5.0%又は6.5%である」点。
相違点2 訂正発明1は、歯科用接着性組成物が水を含まないことが特定されているのに対し、甲1発明は、水を含むものである点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点2から検討する。
甲1には、リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体と水を必須成分として含む1ステップセルフエッチング接着剤であるTSBが記載されているが、甲1の1ステップセルフエッチング接着剤であるTSBから水を除いた態様について記載も示唆もない。
また、甲3には、酸性水溶液である1-SEAでは、モノマーが安定に保存できなければならず、10-MDPでは加水分解が起こり、接着材成分としての機能はない分解生成物が生じることが記載されている(甲3d)が、酸性水溶液である1-SEAは「水」が必須である(甲3a)から、酸性水溶液である1-SEAから水を除くことが示唆されているとはいえない。
さらに、甲2、4、5をみても、甲1の1ステップセルフエッチング接着剤であるTSBから水を除くことが示唆されているとはいえない。
そうすると、甲1発明において、甲1に記載された1ステップセルフエッチング接着剤であるTSBから、必須成分である水を除くことによって、相違点2の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)訂正発明1の効果について
本件特許の明細書には、MDP又はMOP(訂正発明1の成分(A))と、HDP又はHOP(訂正発明1の成分(B))を含み、水を含まない歯科用プライマー組成物又は歯科用セメントが、訂正発明1の成分(B)を含まない場合と比較して接着耐久性が優れることが記載されている(表1、表2)。
そして、甲1~5をみても、水を含まない歯科用プライマー組成物又は歯科用セメントが、本件特許の明細書に記載された効果を奏することは記載も示唆もされていない。
したがって、訂正発明1の効果は、甲1~5に記載された事項から、当業者が予測できたものとはいえない。
ウ まとめ
よって、訂正発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明及び甲1~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)訂正発明1に対する申立理由6(甲2に基づく進歩性欠如)について
ア 甲2に記載された発明
甲2a~甲2e、特に甲2eの表1の実施例1によれば、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「10重量部のMDP、45重量部のDAAA、10重量部の蒸留水、35重量部のBis-GMA、2重量部のTMDPO、1重量部のCQ、1重量部のDABE、0.05重量部のBHTを含み、50℃で15日間貯蔵後の、1液型の歯科用接着剤組成物。」(以下「甲2発明」という。)
イ 訂正発明1について
(ア)対比
訂正発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「MDP」は、訂正発明1の「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」に相当する。
甲2発明の「1液型の歯科用接着剤組成物」は、訂正発明1の「歯科用接着性組成物」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A) を含む、歯科用接着性組成物。
【化1】
[図:0001427928000027.jpg]
(式中、R1は、水素原子またはメチル基を表す。X1およびX2は、それぞれ独立して、直鎖状の無置換の炭素数8~16のアルキレン基を表し、前記アルキレン基は、炭化水素鎖中にオキシ基(-O-)、およびスルフィド基(-S-)からなる群から選ばれる1種以上の基を有していてもよい。)」
<相違点>
相違点3 訂正発明1は、更に「一般式(2)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)」を含み、「前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)100質量部に対して、0.05~5.0質量部である」のに対し、甲2発明は、対応する事項が特定されていない点。
相違点4 訂正発明1は、歯科用接着性組成物が水を含まないことが特定されているのに対し、甲2発明は、水を含むものである点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点4から検討する。
甲2には、リン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体と水を必須成分として含む1液型の歯科用接着剤組成物が記載されているが、甲2の1液型の歯科用接着剤組成物から水を除いた態様について記載も示唆もない。
また、甲3には、酸性水溶液である1-SEAでは、モノマーが安定に保存できなければならず、10-MDPでは加水分解が起こり、接着材成分としての機能はない分解生成物が生じることが記載されている(甲3d)が、酸性水溶液である1-SEAは「水」が必須である(甲3a)から、酸性水溶液である1-SEAから水を除くことが示唆されているとはいえない。
さらに、甲1、4、5をみても、甲2の1液型の歯科用接着剤組成物から水を除くことが示唆されているとはいえない。
そうすると、甲2発明において、甲2に記載された1液型の歯科用接着剤組成物から、必須成分である水を除くことによって、相違点4の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)訂正発明1の効果について
本件特許の明細書には、MDP又はMOP(訂正発明1の成分(A))と、HDP又はHOP(訂正発明1の成分(B))を含み、水を含まない歯科用プライマー組成物又は歯科用セメントが、訂正発明1の成分(B)を含まない場合と比較して接着耐久性が優れることが記載されている(表1、表2)。
そして、甲1~5をみても、水を含まない歯科用プライマー組成物又は歯科用セメントが、本件特許の明細書に記載された効果を奏することは記載も示唆もされていない。
したがって、訂正発明1の効果は、甲1~5に記載された事項から、当業者が予測できたものとはいえない。
ウ まとめ
よって、訂正発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲2発明及び甲1~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)訂正発明5に対する申立理由6について
訂正発明5は、訂正発明1の「前記リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)の含有量が、前記リン酸二水素モノエステル含有重合体(A)100質量部に対して、0.05~5.0質量部である」という記載における「0.05~5.0質量部」を、より狭い範囲である「0.2~1.0質量部」に特定したものである。
そして、上記(4)イ(イ)と同様の理由により、甲1発明又は甲2発明を、訂正発明5の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、上記(4)イ(ウ)と同様の理由により、訂正発明5の効果は、当業者が予測し得た程度のものではない。
4 申立人の主張について
(1)申立理由3(明確性要件違反)について
申立人は、申立書において、本件特許発明1における「成分(A)」100質部に対する「成分(B)」の量が0.05~5.0質量部であることの特定が、各成分を混合後の歯科用接着性組成物におけるものであるのか、あるいは「外部添加」の量であるのかを明確に把握することができないから、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2~8に係る発明は明確ではない(申立書31~32頁の項目「(8)」)旨、主張する(上記第4の1(3)の再掲)。
しかし、上記1(2)及び(3)で説示したように、訂正発明1は「水を含まず」という事項が特定されているから、訂正発明1の歯科用接着性組成物に含まれるリン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)が、水の存在を前提とするリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)の加水分解によって生じたものではないことは明らかであるし、そもそも、MDPの製造時の不純物に由来するHDP(当審注:成分(B)に相当する。)と、「外部添加」に由来するHDPとは同一物質であるから、HDPが「不純物」由来であるか、あるいは「外部添加」由来であるかには関係なく、訂正発明1の成分(A)と成分(B)の配合比は明確であることは明らかである。
よって、申立人の主張は採用することができない。
(2)申立理由1(サポート要件)及び申立理由2(実施可能要件)について
申立人は、申立書において、本件特許発明は、水の存在の有無が特定されていない点、「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」がメタクリロイル基を有する化合物であることが特定されていない点、酸性基含有重合性単量体(C-3)の有無が特定されていない点、「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」及び「リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)」の構造的関係が特定されていない点、並びに、「一般式(1)で表されるリン酸二水素モノエステル基含有重合性単量体(A)」及び「リン酸二水素モノエステル基含有化合物(B)」の量的関係が特定されていない点で、本件特許の明細書の発明の詳細な説明において本件課題が解決されると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものであり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された内容は、本件特許発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるものではない。よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない(申立書19~28頁の項目「(6)」及び申立書28~31頁の項目「(7)」)旨、主張する(上記第4の1(1)及び(2)の再掲)。
一方、申立人は、成分(A)としてアクリロイル基(式(1)のR1が水素原子の場合)を有する化合物を用いた場合、リン酸基以外の酸性基含有重合性単量体(C-3)をある程度含む場合、実施例で用いられた化合物以外の成分(A)及び成分(B)の組合せを用いた場合、のいずれについても、訂正発明の効果にどのような影響が生じるのかについて確認できる実験結果等は提示していない。
そして、上記2(1)~(4)で説示したように、訂正発明は、本件課題を解決できると当業者が認識でき、また、当業者は過度の試行錯誤を要することなく訂正発明を実施できるといえるものである。
よって、申立人の主張は採用することができない。
(3)申立理由6(甲1又は甲2に基づく進歩性欠如)について
申立人は、申立書において、甲1発明又は甲2発明は、水を含む点で訂正発明1と相違するものの、本件特許の明細書には、水を含まない場合に、そうでない場合と比較して当業者が予測できない顕著な効果を発揮することについての記載はなく、また実施例においてもそのような効果は示されていないから、甲1発明又は甲2発明において、水を含まないものとすることは当業者が容易に想到できた事項であるか、単なる設計変更に過ぎない旨、主張する(49~50頁の「(9)申立ての理由4(特許法第29条第1項第3号)及び申立ての理由5(特許法第29条第2項)」の項目イ(ク))。
しかし、上記3(3)イ(イ)及び3(4)イ(イ)で説示したように、甲1発明又は甲2発明において、甲1又は甲2に記載された歯科用接着性組成物から、必須成分である水を除くことは、当業者が容易に想到し得たことではないから、訂正発明の効果について、本件特許の明細書において水を含まない場合との比較がなされてないとしても、上記3(3)イ(イ)及び3(4)イ(イ)で説示した結論を左右するものではない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
第7 むすび
本件特許の請求項1~7に係る特許は、令和6年7月24日付け取消理由通知書において通知した取消理由1~3、令和7年1月23日付け取消理由通知(決定の予告)において通知した取消理由1~4、及び取消理由通知において採用しなかった申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項8に係る発明の特許は、訂正により削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700312