特許異議申立
2025-700582
コークスの製造方法
- 審判番号
- 2025-700582
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-553506
- 登録番号
- 7593537
- 請求日
- 2025年06月03日
- 審決日
- 2026年04月28日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】齋藤 恭一
- 【権利者代理人】川原 敬祐
- 【異議申立人】福田 義道
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 山田 貴之
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P1651.537-YAA(C10B) / P1651.121-YAA(C10B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7593537号発明「コークスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7593537号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7593537号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7593537号に係る特許(以下「本件特許」ともいう。)についての出願は、2024年(令和6年)4月25日(優先権主張 令和5年9月13日)を国際出願日とする出願であって、令和6年11月25日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年12月3日に特許掲載公報が発行された。その後の特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和7年 6月 3日 特許異議申立人 福田 義道(以下「申立
人」という。)による全請求項に係る特許
に対する特許異議の申立て
同年 9月 3日付け 取消理由通知書
同年11月 4日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年12月 5日 訂正請求書を補正する手続補正書(特許権
者)
令和8年 1月 8日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 2月13日 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年12月5日提出の手続補正書により補正された同年11月4日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)は、次のとおりのものである。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記炭化バイオマスの600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下である」とあるのを、
「前記混合物に配合しようとする前記炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを前記配合炭と配合して、前記混合物とし、前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記炭化バイオマスの600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下である」とあるのを、
「前記混合物に配合しようとする前記炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを前記配合炭と配合して、前記混合物とし、前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない」と訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3、4も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1、3、4において、請求項3、4は、独立形式で記載された請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1、3及び4に対応する訂正後の請求項1、3及び4は、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項である。
同様に、本件訂正前の請求項2~4において、請求項3、4は、独立形式で記載された請求項2を引用するものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項2~4に対応する訂正後の請求項2~4は、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項である。
そして、前記一群の請求項1、3及び4と、前記一群の請求項2~4は、共通する請求項3、4を有するから、請求項1~4は全体として一群の請求項を構成する。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、
(ア)訂正前の請求項1の「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下である」「炭化バイオマス」が、「前記混合物に配合しようとする前記炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマス」であることを特定し、
(イ)訂正前の請求項1の「コークスの製造方法」について、「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを前記配合炭と配合して、前記混合物とし」との工程を備えることを特定し、
(ウ)さらに、訂正前の請求項1の「コークスのドラム強度指数」が、「前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない」ことを特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正かについての判断
前記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「炭化バイオマス」の属性を限定し、「コークスの製造方法」の工程を限定し、さらに、「コークスのドラム強度指数」を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正かについての判断
訂正事項1は、
(ア)本件明細書の【0038】の「炭化工程で得られる炭化バイオマスの収縮率は・・・炭化バイオマスから採取した試料について測定した600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し使用する。」との記載に基づいて「炭化バイオマス」の属性を特定し、
(イ)同【0027】の「本発明に係るコークスの製造方法において、配合炭と炭化バイオマスを所定の割合で配合して得られる混合物は、・・・」との記載等に基づいて「コークスの製造方法」の工程を限定し、
(ウ)さらに、同【0055】の「図1によれば、炭化バイオマスの粒度が3.0mm以下の割合が72質量%であるときと100質量%であるとき、収縮率が4.7%以上、8.9%以下の範囲では、ΔDIが-2.0%を超えて下がらなかった。」との記載及び【図1】の記載に基づいて「コークスのドラム強度指数」を特定するものである。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、
(ア)訂正前の請求項2の「600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下である」「炭化バイオマス」が、「前記混合物に配合しようとする前記炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマス」であることを特定し、
(イ)訂正前の請求項2の「コークスの製造方法」について、「600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを前記配合炭と配合して、前記混合物とし」との工程を備えることを特定し、
(ウ)さらに、訂正前の請求項2の「コークスのドラム強度指数」が、「前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない」ことを特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正かについての判断
前記アのとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された「炭化バイオマス」の属性を限定し、「コークスの製造方法」の工程を限定し、さらに、「コークスのドラム強度指数」を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正かについての判断
訂正事項2は、
(ア)本件明細書の【0038】の「炭化工程で得られる炭化バイオマスの収縮率は・・・炭化バイオマスから採取した試料について測定した600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し使用する。」との記載、及び、同【0045】の「配合炭と混合する炭化バイオマスの粒度を3.0mm以下から1.0mm以下に変更することによって、本発明を適用することが可能な炭化バイオマスの収縮率の範囲を4.0%よりも低い範囲に拡張することができる。具体的には、炭化バイオマスの粒度が1.0mm以下のとき、600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下の炭化バイオマスを使用することができる。」との記載に基づいて「炭化バイオマス」の属性を特定し、
(イ)同【0027】の「本発明に係るコークスの製造方法において、配合炭と炭化バイオマスを所定の割合で配合して得られる混合物は、・・・」との記載等に基づいて「コークスの製造方法」の工程を限定し、
(ウ)さらに、同【0056】の「図2によれば、炭化バイオマスの粒度が1.0mm以下の割合が100質量%のとき、収縮率が3.3%以上、6.9%以下の範囲では、ΔDIが-2.0%を超えて下がらなかった。」との記載及び【図2】の記載に基づいて「コークスのドラム強度指数」を特定するものである。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
4 独立特許要件についての判断
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~4に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は前記第2のとおり認められるので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下項番順に「本件訂正発明1」等という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
粒度が3.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である炭化バイオマスをコークス製造用の配合炭に所定の割合で配合して得られた混合物を乾留することによってコークスを製造するに際し、
前記混合物に配合しようとする前記炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、
選別された炭化バイオマスのみを前記配合炭と配合して、前記混合物とし、
前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない
ことを特徴とする、コークスの製造方法。
【請求項2】
粒度が1.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である炭化バイオマスをコークス製造用の配合炭に所定の割合で配合して得られた混合物を乾留することによってコークスを製造するに際し、
前記混合物に配合しようとする前記炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、
選別された炭化バイオマスのみを前記配合炭と配合して、前記混合物とし、
前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない
ことを特徴とする、コークスの製造方法。
【請求項3】
前記混合物に占める前記炭化バイオマスの割合が、1.0質量%以上、10.0質量%以下である、
請求項1又は2に記載のコークスの製造方法。
【請求項4】
コークス製造用の前記配合炭のうち粒度が3.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である、
請求項1又は2に記載のコークスの製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由、取消理由等について
1 特許異議の申立ての理由
(1)概要
申立人は、後記(2)~(4)の特許異議の申立ての理由を主張し、証拠方法として後記4(1)の甲第1号証~甲第14号証(以下、項番順に「甲1」等という。)を提出した。甲1~甲14は、本件特許の優先日前に頒布された又は電気回線を通じて公衆に利用可能となったものである。
(2)申立理由1(サポート要件)
この出願の出願時の技術常識に照らしても、任意の収縮率を有する配合炭の使用をも包含する本件発明1~4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1~4は発明の詳細な説明が記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(3)申立理由2(甲1を主引例とした進歩性)
本件発明1~4は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(4)申立理由3(甲2を主引例とした進歩性)
本件発明1~4は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 取消理由
取消理由として、前記1の(2)サポート要件、(3)甲1を主引例とした進歩性、及び(4)甲2を主引例とした進歩性、を通知した。
3 特許権者による意見書
特許権者は、令和7年11月4日提出の意見書において、後記4(2)の乙第1号証~乙第4号証(以下「乙1」等という。)を添付した。
4 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書に添付したもの
甲1:特開2004-307683号公報
甲2:西端裕子 外2名、「28.木材添加のコークス強度への影響」、石炭科学会議発表論文集 41、一般社団法人 日本エネルギー学会、2004年、61~62頁
甲3:眞邊照展 外2名、「木粉圧縮成形材の炭素化過程での物性変化と生成炭の特性」、第32回炭素材料学会年会要旨集、炭素材料学会、2005年12月7日~12月9日 信州大学繊維学部、278~279頁
甲4:「炭の製造と利用技術 多孔質炭素の拡がる用途」、吉田 隆、株式会社 エヌ・ティー・エス、2009年6月10日 初版第一刷発行、144~145頁
甲5:特開2014-214268号公報
甲6:特開2014-77086号公報
甲7:バイオマスハンドブック、社団法人日本エネルギー学会、株式会社オーム社、平成15年7月20日 第1版第2刷発行、116-117頁
甲8:河本晴雄 外4名、「3-21.リグノセルロースの熱分解機構の解明とその制御の可能性」、第12回日本エネルギー学会大会講演要旨集、一般社団法人日本エネルギー学会、2003年7月30日-2003年7月31日開催、192-193頁、
(URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jietaikaiyoushi/12/0/12_192/_article/-char/ja/)
甲9:Hannu Suopajarvi et al, "Effect of Charcoal and Kraft-Lignin Addition on Coke Compression Strength and Reactivity", Energies, 2017, 10(11), 1850, Published: 13 November 2017
(URL: https://www.mdpi.com/1996-1073/10/11/1850)
甲10:窪田征弘、「高炉の低還元材比操業を目指した高強度・高反応性コークスの製造に関する研究」、東北大学博士学位論文、2012年9月25日発行、2015年1月21日公開、105頁、108頁
甲11:「SCOPE21プロセスにおけるコークスの強度および粒度の評価」、鉄と鋼、90巻9号、2004年、686-693頁
(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane1955/90/9/90_9_686/_article/-char/ja/)
甲12:深田喜代志 外5名、「不活性原料介在のコークス収縮挙動および亀裂生成に及ぼす影響」、鉄と鋼、93巻6号、2007年、438-444頁
(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane/93/6/93_6_438/_article/-char/ja/)
甲13:特開2008-255299号公報
甲14:特開平9-263764号公報
(2)特許権者が令和7年11月4日提出の意見書に添付したもの
乙1:窪田征弘 外4名、「石炭中イナート組織の収縮挙動およびその周辺のクラックの生成機構」、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、第99巻(2013年)、第3号、175-184頁
乙2:馬伏弘恭 外2名、「コークス炉内乾留モデルの開発〔1〕-乾留過程における膨張収縮モデルの作成-」、第78回コークス特別会 研究発表要旨集、日時:昭和60年4月4日、会場:大阪科学技術センター、社団法人 燃料協会コークス部会、35-38頁
乙3:特許取消決定取消請求事件、知財高裁判決、平成17年(行ケ)第10091号
乙4:特許取消決定取消請求事件、知財高裁判決、令和2年(行ケ)第10043号
5 甲号証等の記載
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コークスの製造方法に関し、詳細には、間伐材、林地残材、建築廃材、工場残廃物等の木質系廃棄物を、コークス原料として有効に活用し得るように工夫された方法に関するものである。」
「【0015】
本発明に係るコークスの製造方法において使用可能な木質系廃棄物としては、間伐材や林地残材、建築廃材、工場残廃物などとして排出される廃木材などが挙げられる。」
「【0017】
このように予め木質系廃棄物を半炭化させておくことで、原料炭と共に加熱乾留した場合でも、生成するコークスの強度低下を抑制することができる。半炭化させることでコークスの強度低下が抑制される理由については、理論的に解明されたわけではないが、次の様に考えている。即ち、生の木質系廃棄物の収縮率は、原料として用いられる石炭に比べて大きいため、乾留時に木質系廃棄物と石炭との間に間隙が生じ、この間隙が生成コークスの強度欠陥として現れるのではないかと推測される。ところが、木質系廃棄物を予め熱処理して半炭化させておくと、当該処理法による熱分解によって木質系廃棄物中の易熱分解成分が分解放出されるため、乾留時における半炭化物の収縮率が低減し、前述したような収縮率差に起因する隙間の生成が抑えられるためと考えている。」
「【0026】
上述した本発明の方法によって得られるコークスは、原料炭のみを用いて製造されるコークスと同程度の強度を有しているため、一般的なコークスと同様に、例えば高炉装入用コークスとして用いることができる。・・・」
「【0027】
【実施例】
以下、実験例によって本発明をさらに詳述するが、下記実験例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術的範囲に含まれる。尚、下記実施例で採用したコークス強度の測定方法は下記の通りである。
【0028】
コークス強度の測定方法
内径132mm、高さ700mmの筒状のI型ドラム試験機(長谷川製作所製)に、篩により大きさを20±1mmに調整した試料(乾留後のコークス)200gを入れ、30回転/分で20分間回転させた。その後、9.56mmの篩で篩い分け、篩上に残った試料の量を測定し、投入した試料に対する残存試料割合(%)をコークス強度とした。
【0029】
木質系廃棄物の熱処理(木質系廃棄物の半炭化)
木質系廃棄物400gを、予め設定温度+50℃に予熱しておいた電気炉へ充填し、該木質系廃棄物が設定温度(温度300℃:試料1)に到達した後、同温度で30分間保持して半炭化処理を行った。尚、試料1では設定温度を300℃、試料2では350℃、試料3では400℃、試料4では500℃、試料5では600℃とした。このときの熱処理温度と熱処理後の半炭化物中に存在する揮発分量を表1に示す。
【0030】
【表1】
[図:0001437378000001.jpg]
・・・
【0034】実験例2 半炭化物の添加1
上記実験例1と同様の試験炉に、石炭A(粒度:3mm、固定炭素量:79.9%、揮発分:26.1%)に予め熱処理を施して得た前記半炭化物(試料1~3)(粒度:3mm以下)をそれぞれ3%ずつ添加した混合物を装入して、炭芯温度が850℃に到達した後、さらに30分間加熱を続けて、得られたコークスの強度を測定した(実験番号6~8)。また、比較のため石炭Aのみ(実験番号9)を乾留した時のコークス強度についても同様に測定した。結果を表3に示す。尚、このときの石炭Aに対する半炭化物の添加量は、熱処理前の木材量に換算すると、5.8%(試料1)、7.0%(試料2)、8.3%(試料3)であった。
【0035】
【表3】
[図:0001437378000002.jpg]
【0036】
表2および表3より、木質系廃棄物に熱処理を施すことで、得られるコークスの強度低下が抑制できることがわかる。また、木質系廃棄物の熱処理温度が上昇するに従って、コークス強度の低下が抑制される傾向があることが分かる。
・・・
【0040】
実験例4 半炭化物の添加2
上記実験例1と同様の試験炉を用い、石炭B(粒度:3mm、固定炭素量:79.9%、揮発分:25.9%)に半炭化物(試料1~5)(粒度:3mm以下)をそれぞれ熱処理前の木材量換算で10%添加して、炭芯温度が850℃に到達した後、さらに30分間加熱を続けて、得られたコークスの強度を測定した(実験番号15~19)。また、比較のため石炭Bのみ(実験番号20)を乾留した場合のコークス強度についても同様に測定した。結果を表5に示す。【0041】
【表5】
[図:0001437378000003.jpg]
【0042】
表4および表5より、未熱処理木質系廃棄物を使用した実験例3のコークスに比べて、熱処理を施して半炭化させた木質系廃棄物を使用した実験例4(実験番号15~19)では、コークス強度の低下が抑制されていることがわかる。特に、試料2(熱処理温度350℃)、試料3(熱処理温度400℃)を添加した実験番号16,17のコークスは、石炭Bのみから得られた実験番号20と同等の強度を有しており、コークス強度の低下はほとんど見られなかった。
【0043】
以上の結果より、予め熱処理を施して木質系廃棄物を半炭化させておくことで、生成するコークスの強度を低下させることなく、コークス製造時に多量の木質系廃棄物を処理し得ることが分かる。」
(2)甲2には、次の記載がある。
ア 61頁左欄
「
[図:0001437378000004.jpg]
[図:0001437378000005.jpg]
[図:0001437378000006.jpg]
[図:0001437378000007.jpg]
」
イ 61頁右欄
「
[図:0001437378000008.jpg]
[図:0001437378000009.jpg]
[図:0001437378000010.jpg]
」
ウ 62頁左欄
「
[図:0001437378000011.jpg]
[図:0001437378000012.jpg]
[図:0001437378000013.jpg]
[図:0001437378000014.jpg]
」
エ 62頁右欄
「
[図:0001437378000015.jpg]
[図:0001437378000016.jpg]
」
(3)甲3の279頁1~5行、Fig.2、Fig.3には、次の記載がある。
「
[図:0001437378000017.jpg]
」
(4)甲4の144頁下6行~145頁最終行には、次の記載がある。
「
[図:0001437378000018.jpg]
[図:0001437378000019.jpg]
・・・
[図:0001437378000020.jpg]
」
(5)甲5には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、バイオマスを乾留して得られるチャーを、コークス原料の配合炭(以下、単に「配合炭」という。)に混合して、高炉用の高強度コークスを製造する方法に関するものである。」
「【0003】
このことを踏まえ、バイオマスを配合炭(1種又は2種以上の銘柄の石炭を所定量切り出して配合したコークスの原料炭)の一部として用いる高炉用コークスの製造方法が幾つか提案されている(例えば、特許文献1~4、参照)。」
「【0007】
【特許文献1】特許第4050992号公報
【特許文献2】特許第4139260号公報
【特許文献3】特開2004-359898号公報
【特許文献4】特開2012-017528号公報」
「【0052】
本発明者らは、バイオマスチャーが多孔質であることに着目し、本発明方法で製造した高炉用コークスのガスとの反応性を調査した。具体的には、配合炭に混合するバイオマスチャー(残留油分混合前)の粒径(mm)とガス反応性(JIS反応性)の相関について調査した。その結果を、図2に示す。図2から、配合炭に添加するバイオマスチャーの粒径が1mm以下であると、コークスのガス反応性が顕著に向上することが解る。
【0053】
バイオマスチャーは粉砕して用いるが、コークスの反応性の点から、粒径1mm以下のバイオマスチャーが好ましいことが解る。バイオマスチャーの粒径が1mm超であると、コークスの反応性が徐々に低下することが解る。」
「【図2】
[図:0001437378000021.jpg]
」
(6)甲6には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、バイオマスを用い、高炉操業に用いるガス反応性の高い高炉用コークスを製造する方法に関するものである。」
「【0025】
石炭配合槽の石炭フィーダー(図示せず)から、各種銘柄の石炭を所定量切り出して、コークス製造用の配合炭(1種類又は2種類以上の銘柄の石炭が所定割合で配合された原料炭)とする。配合炭中の水分量は、原料ヤードの状況(天候、季節等)によって変化するが、通常、9%前後である。」
「【0029】
本発明者らは、バイオマスチャーが多孔質であることに着目し、配合炭に添加するバイオマスチャーの粒径とガス反応性の相関について調査した。その結果を図2に示す。図2から、配合炭に添加するバイオマスチャーの粒径が1mm以下であると、コークスのJIS反応性が、44%以上に顕著に向上し、通常のコークスのガス反応性が32~40%であるのに比較して、従来にない高いガス反応性のコークスが得られることが解る。それ故、本発明方法においては、配合炭に添加するバイオマスチャーの粒径は1mm以下とする。」
(7)甲7~甲14
甲7~甲9は、炭化バイオマスに関する本件特許出願前の技術常識を示す証拠として提出されたものであり、甲10~甲14は、配合炭等に関する本件特許出願前の技術常識を示す証拠として提出されたものであり、摘記を省略する。
(8)乙1~4
乙1、2は、配合炭の600℃から1000℃における収縮率が石炭の種類によらず一定であることを示す証拠として提出されたものであり、乙3、4は、数値限定発明における進歩性の判断手法を示すための証拠として提出されたものであり、摘記を省略する。
第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)
(1)判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件訂正発明の解決しようとする課題
本件明細書の段落【0009】等の記載からみて、本件訂正発明の課題は、「高炉に用いられるコークスの製造に使用される石炭の一部を置換するバイオマス由来の原料についての新たな指標を提示し、石炭にバイオマス由来の原料を配合した場合であっても強度の高いコークスを製造する手段を提供すること」と認められる。
(3)検討
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、前記第2の3で検討したとおり、「炭化バイオマス」の属性、「コークスの製造方法」の工程、及び、「コークスのドラム強度指数」を限定することにより、600℃から1000℃における収縮率が特定の範囲の収縮率の炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを配合炭と配合して混合物とし、混合物を乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数が、配合炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0を超えて下がらない(以下、このドラム強度指数DIの差分を「ΔDI」ともいう。)コークスを製造する方法に係るものとなった。
イ 発明の詳細な説明の記載
炭化バイオマスの600℃から1000℃までの収縮率(%)と、ΔDIの関係について、本件明細書の【0055】には、炭化バイオマスの最大粒度が3.0mmの前記収縮率(%)とΔDIの関係を示す【図1】には、収縮率(%)が4.7~8.9%の場合に、ΔDIが-2超であることが示され、同【0056】には、炭化バイオマスの最大粒度が1.0mmの前記収縮率(%)とΔDIの関係を示す【図2】には、収縮率(%)が3.3~6.9%の場合に、ΔDIが-2超であることが示されている。
また、本件明細書の【0039】~【0040】には「・・・石炭は600℃以上の温度域で揮発分を放出しながら収縮する。混合物を乾留したときの配合炭の収縮量が炭化バイオマスの収縮量と大きく異なると、収縮量の差によって応力が発生する。配合炭由来の部分はすでに再固化しているため、応力を緩和することができない。このため、コークス全体に歪が蓄積され、強度が低下すると考えられる。」「本実施形態に規定する収縮率の範囲を満足する炭化バイオマスは、配合炭の収縮率に近い収縮率を有する。このため、収縮量の違いによる応力の発生や歪の蓄積が起こりにくく、強度の低下が起きにくいと考えられる。」と記載され、炭化バイオマスが、石炭が原料である配合炭の600℃から1000℃までの収縮率(%)に近い収縮率を有することにより、強度の低下が起きにくい(ΔDIの値が0に近い)ことが示唆されている。
ウ 判断
訂正後の特許請求の範囲では、ΔDIが「-2.0を超えて下がらない」ことが特定されているのであるから、特許請求の範囲の記載において、配合炭の収縮率や炭化バイオマスの配合量が具体的に特定されていなくとも、当業者であれば、前記イで検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づいて、ΔDIが-2.0を超えて下がらないように、配合炭の収縮率や炭化バイオマスの配合量を調整することができる。
そうすると、訂正後の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(4)まとめ
したがって、本件訂正発明1、2並びにこれらを引用する形式で特定された本件訂正発明3、4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。
2 取消理由2(甲1を主引用例とした進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の【0035】の【表3】の「実験番号8」のコークス、及び同【0041】の【表5】の「実験番号15」~「実験番号19」のコークスに着目し、【0030】の【表1】の記載等を参照すれば、甲1には、次の発明(以下「甲1C発明」~「甲1H発明」といい、まとめて「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
なお、取消理由で、実験番号6、7のコークスから認定した「甲1A発明」及び「甲1B発明」は、ΔDIが2.0を超えるため、対比の対象から除いた。
(甲1C発明)
「粒度3mm、揮発分26.1%の石炭Aに、木質系廃棄物を400℃で30分熱処理した揮発分量53%、粒度3mm以下の半炭化物を3%添加した混合物を、850℃で30分加熱するコークスの製造方法であって、石炭AのみのI型ドラム指数との差分ΔDIが1.0%(=81.1-80.1)であるコークスの製造方法。」
(甲1D発明)
「粒度3mm、揮発分25.9%の石炭Bに、木質系廃棄物を300℃で30分熱処理した揮発分量67%、粒度3mm以下の半炭化物を、熱処理前の木材量換算で10%添加した混合物を、850℃で30分加熱するコークスの製造方法であって、石炭BのみのI型ドラム指数との差分ΔDIが1.0%(=84.2-83.2)であるコークスの製造方法。」
(甲1E発明)
「粒度3mm、揮発分25.9%の石炭Bに、木質系廃棄物を350℃で30分熱処理した揮発分量60%、粒度3mm以下の半炭化物を、熱処理前の木材量換算で10%添加した混合物を、850℃で30分加熱するコークスの製造方法であって、石炭BのみのI型ドラム指数との差分ΔDIが0.3%(=84.2-83.9)であるコークスの製造方法。」
(甲1F発明)
「粒度3mm、揮発分25.9%の石炭Bに、木質系廃棄物を400℃で30分熱処理した揮発分量53%、粒度3mm以下の半炭化物を、熱処理前の木材量換算で10%添加した混合物を、850℃で30分加熱するコークスの製造方法であって、石炭BのみのI型ドラム指数との差分ΔDIが0.6%(=84.2-83.6)であるコークスの製造方法。」
(甲1G発明)
「粒度3mm、揮発分25.9%の石炭Bに、木質系廃棄物を500℃で30分熱処理した揮発分量45%、粒度3mm以下の半炭化物を、熱処理前の木材量換算で10%添加した混合物を、850℃で30分加熱するコークスの製造方法であって、石炭BのみのI型ドラム指数との差分ΔDIが1.3%(=84.2-82.9)であるコークスの製造方法。」
(甲1H発明)
「粒度3mm、揮発分25.9%の石炭Bに、木質系廃棄物を600℃で30分熱処理した揮発分量43%、粒度3mm以下の半炭化物を、熱処理前の木材量換算で10%添加した混合物を、850℃で30分加熱するコークスの製造方法であって、石炭BのみのI型ドラム指数との差分ΔDIが2.0%(=84.2-82.2)であるコークスの製造方法。」
(2)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「木質系廃棄物を」「30分熱処理した」「粒度3mm以下の半炭化物」は、本件訂正発明1の「粒度が3.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である炭化バイオマス」に相当する。
また、甲1発明の「石炭A」又は「石炭B」と、本件訂正発明1の「コークス製造用の配合炭」とは、ともに「コークス製造用の石炭」である点で共通する
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「粒度が3.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である炭化バイオマスをコークス製造用の石炭に所定の割合で配合して得られた混合物を乾留することによってコークスを製造するに際し、
前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記石炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない、コークスの製造方法。」
<相違点1-1>
コークス製造用の石炭が、本件訂正発明1は「配合炭」であるのに対し、甲1発明は、石炭A又は石炭Bである点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1は「混合物に配合しようとする」「炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを」石炭「と配合して、前記混合物と」するのに対し、甲1発明は、木質系廃棄物の半炭化物(炭化バイオマス)の収縮率が不明であり、特定の範囲の収縮率の炭化バイオマスを選別する工程も特定されていない点。
事案に鑑み、まず、相違点1-2について検討する。
甲3の図2のグラフ
「
[図:0001437378000022.jpg]
」によれば、おが屑の600℃から1000℃の線収縮は7.5程度%であり、樹皮(bark)の600℃から1000℃の線収縮は7.2%程度であり、また、甲4の図2のグラフ
「
[図:0001437378000023.jpg]
」によれば、おが屑の600℃から1000℃の線収縮は7.0%程度であり、もみ殻の600℃から1000℃の線収縮は7.4%程度であり、樹皮の600℃から1000℃の線収縮は5.5%程度であると考えられるから、甲1発明の「木質系廃棄物を400℃で30分熱処理した・・・半炭化物」も、600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下である蓋然性が高い。
しかしながら、甲1発明を認定した甲1には「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目することについて記載されておらず、ましてや、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記収縮率が4.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることについては、記載も示唆もない。
また、甲3、甲4には、木質系廃棄物の半炭化物の600℃から1000℃の線収縮が5.5~7.5%程度であることが記載されているものの、これらの半炭化物を石炭と混合してコークスとすることについては記載も示唆もされていない。
また、甲5、甲6には、バイオマスチャーの粒径を1mm以下とすることでコークスの反応性が向上することが記載されているものの、「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目することについて記載されておらず、ましてや、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記収縮率が4.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることについては、記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明において、「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目し、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記収縮率が4.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
したがって、前記相違点1-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明並びに甲1、甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明2
本件訂正発明2と甲1発明を対比すると、前記(2)と同様の相当関係があるから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「炭化バイオマスをコークス製造用の石炭に所定の割合で配合して得られた混合物を乾留することによってコークスを製造するに際し、
前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記石炭のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない、コークスの製造方法。」
<相違点1-1’>
コークス製造用の石炭が、本件訂正発明2は「配合炭」であるのに対し、甲1発明は、石炭A又は石炭Bである点。
<相違点1-2’>
本件訂正発明2は「混合物に配合しようとする」「炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを」石炭「と配合して、前記混合物と」するのに対し、甲1発明は、木質系廃棄物の半炭化物(炭化バイオマス)の収縮率が不明であり、特定の範囲の収縮率の炭化バイオマスを選別する工程も特定されていない点。
<相違点1-3>
炭化バイオマスが、本件訂正発明2は「粒度が1.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下」であるのに対し、甲1発明は、粒度3mmである点。
事案に鑑み、まず、相違点1-2’について検討すると、前記(2)と同様の理由により、甲1発明において、「600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目し、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記した収縮率が2.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
したがって、前記相違点1-1’、相違点1-3について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1発明並びに甲1、甲3~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件訂正発明3、4
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1又は2の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)の<相違点1-2>又は前記(3)の<相違点1-2’>に係る特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3、4は、前記(2)、(3)と同じ理由により、甲1発明並びに甲1、甲3~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由3(甲2を主引用例とした進歩性)
(1)甲2に記載された発明
甲2の「2.1 試料」には、スギを、所定温度(350℃、450℃、550℃)に炉温を設定した加熱炉に設置し、試料が所定温度-50℃に到達後30分保持した後、室温まで冷却(すなわち、それぞれ、300℃、400℃、500℃で30分熱処理したということ。)後、取り出して、3mm以下に粉砕して、スギの熱処理試料を得たことが記載され、同「2.2 コークスの作成」には、Roが1.06の石炭に、前記スギの熱処理試料を添加し、乾留した後、19~21mmに整粒してコークス試料を作成したことが記載され、同「3.4 木材の熱処理効果」には、前記スギの300℃、400℃、500℃で30分熱処理した熱処理試料を3wt%添加したコークス試料のI型ドラム指数は、図6に示すとおり、300℃処理で82、400℃処理で85、500℃処理で85.7程度であったことが記載されている。
そうすると、甲2には、次の発明(以下「甲2A発明」及び「甲2B発明」といい、まとめて「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2A発明)
「水分を7%に調整した石炭に、スギを400℃で30分熱処理したものを3mm以下に粉砕したスギの熱処理試料を3wt%添加し、乾留した後、19~21mmに整粒したコークス試料であって、I型ドラム指数が85であるコークス試料。」
(甲2B発明)
「水分を7%に調整した石炭に、スギを500℃で30分熱処理したものを3mm以下に粉砕したスギの熱処理試料を3wt%添加し、乾留した後、19~21mmに整粒したコークス試料であって、I型ドラム指数が85.7程度であるコークス試料。」
(2)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「スギを」「熱処理したものを3mm以下に粉砕したスギの熱処理試料」は、本件訂正発明1の「粒度が3.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である炭化バイオマス」に相当する。
また、甲2発明の「水分を7%に調整した石炭」と、本件訂正発明1の「コークス製造用の配合炭」とは、ともに「コークス製造用の石炭」である点で共通する
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「粒度が3.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下である炭化バイオマスをコークス製造用の石炭に所定の割合で配合して得られた混合物を乾留することによってコークスを製造する、コークスの製造方法。」
<相違点2-1>
コークス製造用の石炭が、本件訂正発明1は「配合炭」であるのに対し、甲2発明は「水分を7%に調整した石炭」である点。
<相違点2-2>
本件訂正発明1は「混合物に配合しようとする」「炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを」石炭「と配合して、前記混合物とし、前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記」石炭「のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない」のに対し、甲1発明は、スギの熱処理試料(炭化バイオマス)の収縮率が不明であり、特定の範囲の収縮率の炭化バイオマスを選別する工程も特定されておらず、コークスのドラム強度指数の差分も不明である点。
事案に鑑み、まず、相違点2-2について検討する。
甲3の図2のグラフ
「
[図:0001437378000024.jpg]
」によれば、おが屑の600℃から1000℃の線収縮は7.5程度%であり、樹皮(bark)の600℃から1000℃の線収縮は7.2%程度であり、また、甲4の図2のグラフ
「
[図:0001437378000025.jpg]
」によれば、おが屑の600℃から1000℃の線収縮は7.0%程度であり、もみ殻の600℃から1000℃の線収縮は7.4%程度であり、樹皮の600℃から1000℃の線収縮は5.5%程度であると考えられるから、甲2発明の「スギを400℃で30分熱処理したものを3mm以下に粉砕したスギの熱処理試料」も、600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下である蓋然性が高い。
しかしながら、甲2発明を認定した甲2には「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目することについて記載されておらず、ましてや、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記収縮率が4.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにしたり、乾留したコークスのドラム強度指数の差分が-2.0%を超えて下がらないことについては、記載も示唆もない。
また、甲3、甲4には、木質系廃棄物の半炭化物の600℃から1000℃の線収縮が5.5~7.5%程度であることが記載されているものの、これらの半炭化物を石炭と混合してコークスとすることについては記載も示唆もされていない。
また、甲5、甲6には、バイオマスチャーの粒径を1mm以下とすることでコークスの反応性が向上することが記載されているものの、「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目することについて記載されておらず、ましてや、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記収縮率が4.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることについては、記載も示唆もない。
そうすると、甲2発明において、「600℃から1000℃における収縮率が4.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目し、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記収縮率が4.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることにより、コークスのドラム強度指数の差分ΔDIが-2.0を超えて下がらないようにすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
したがって、前記相違点2-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明並びに甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明2
本件訂正発明2と甲2発明を対比すると、前記(2)と同様の相当関係があるから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「炭化バイオマスをコークス製造用の石炭に所定の割合で配合して得られた混合物を乾留することによってコークスを製造する、コークスの製造方法。」
<相違点2-1’>
コークス製造用の石炭が、本件訂正発明2は「配合炭」であるのに対し、甲2発明は「水分を7%に調整した石炭」である点。
<相違点2-2’>
本件訂正発明2は「混合物に配合しようとする」「炭化バイオマスから採取した試料の600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマスを選別し、選別された炭化バイオマスのみを」石炭「と配合して、前記混合物とし、前記混合物を乾留することによって得られた前記コークスのドラム強度指数が、前記」石炭「のみを乾留することによって得られたコークスのドラム強度指数に比べて-2.0%を超えて下がらない」のに対し、甲2発明は、スギの熱処理試料(炭化バイオマス)の収縮率が不明であり、特定の範囲の収縮率の炭化バイオマスを選別する工程も特定されておらず、コークスのドラム強度指数の差分も不明である点。
<相違点2-3>
炭化バイオマスが、本件訂正発明2は「粒度が1.0mm以下の割合が70質量%以上、100質量%以下」であるのに対し、甲2発明は、粒度3mm以下である点。
事案に鑑み、まず、相違点2-2’について検討すると、前記(2)と同様の理由により、甲2発明において、「600℃から1000℃における収縮率が2.0%以上、10.0%以下であるような炭化バイオマス」に着目し、配合しようとする炭化バイオマスから試料を採取し、前記した収縮率が2.0%以上10.0%以下の炭化バイオマスを選別し、選別したバイオマスのみを石炭と配合して混合物とし、乾留してコークスにすることにより、コークスのドラム強度指数の差分ΔDIが-2.0を超えて下がらないようにすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
したがって、前記相違点2-1’、相違点2-3について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2発明並びに甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件訂正発明3、4
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1又は2の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)の<相違点2-2>又は前記(3)の<相違点2-2’>に係る特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3、4は、前記(2)、(3)と同じ理由により、甲2発明並びに甲2~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立人の主張について
申立人は、令和8年2月13日提出の意見書(15頁5行~16頁18行)において、明確性要件についての新たな主張、すなわち、訂正後の本件特許発明1及び2における「コークスのドラム強度指数」について、本件明細書の【0047】に「・・・日本産業規格 K 2151:2004「コークス類-試験方法」に規定するドラム法による回転強度によって評価する方法は、高炉での使用で問題となるコークスからの粉の生成を模擬した試験となっており、現在日本で最も広く用いられているので、好ましい。・・・」と記載されるのみであるから、【0048】に「・・・本明細書の実施例では、ドラムの回転数を150回転とし、ドラム試験機に挿入されたコークスの質量に対する、回転後に目の開きが15mmのふるいを通過しなかったコークスの質量の割合をドラム強度指数(%)とした。・・・」と記載されているとしても、訂正後の本件特許発明1及び2における「コークスのドラム強度指数」が、当然に「日本産業規格 K 2151:2004「コークス類-試験方法」に規定するドラム法による回転強度によって評価する方法」に示された「DI15015(150回転、金属製板ふるいの目開き15mm)」を示すものとは認められないから、「コークスのドラム強度指数」に関する規格や測定条件を規定していない本件特許発明1及び2は明確でないとの趣旨の主張を追加した。
しかしながら、特許請求の範囲で測定方法を特定しなくとも、明細書の記載を参照すれば、本件訂正発明1、2の「コークスのドラム強度指数」が「日本産業規格 K 2151:2004「コークス類-試験方法」に規定するドラム法による回転強度によって評価する方法」に示された「DI15015(150回転、金属製板ふるいの目開き15mm)」で測定されたものであることを理解できるし、逆に、それ以外の測定方法が想定されるものでもない。
そうすると、本件訂正発明1、2の「コークスのドラム強度指数」の値は第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確とはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700582