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特許異議申立

2025-700187

二次電池正極用バインダー組成物、二次電池正極用導電材ペースト組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極及びその製造方法、並びに二次電池

審判番号
2025-700187
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-522253
登録番号
7533453
請求日
2025年02月13日
審決日
2025年06月26日
公報発行日
2025年08月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本ゼオン株式会社
  • 【権利者代理人】杉村 憲司
  • 【権利者代理人】杉村 光嗣
  • 【権利者代理人】寺嶋 勇太
  • 【権利者代理人】結城 仁美
  • 【異議申立人】小宮 邦彦
審判長/審判官
  • 審判長 岩間 直純
  • 審判官 畑中 博幸
  • 審判官 ▲吉▼澤 雅博
分類
P1651.537-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7533453号発明「二次電池正極用バインダー組成物、二次電池正極用導電材ペースト組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極及びその製造方法、並びに二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7533453号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7533453号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)年5月19日(優先日 令和1年5月31日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和6年8月5日にその特許権の設定登録がされ、令和6年8月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年2月13日に特許異議申立人小宮 邦彦(以下、「異議申立人」という。)により、請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。 第2 本件発明 特許第7533453号の請求項1ないし11の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物であって、 前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位、及び、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有し、且つ、前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、 前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である、 二次電池正極用バインダー組成物。 【請求項2】 前記重合体のヨウ素価が3g/100g以上60g/100g以下である、請求項1に記載の二次電池正極用バインダー組成物。 【請求項3】 前記重合体が、芳香族ビニル単量体単位を更に含む、請求項1又は2に記載の二次電池正極用バインダー組成物。 【請求項4】 前記重合体が、親水性基含有単量体単位を更に含む、請求項1~3の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物。 【請求項5】 前記重合体のガラス転移温度が、15℃超である、請求項1~4の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物。 【請求項6】 前記重合体の硝酸量が、質量基準で50ppm以下である、請求項1~5の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物。 【請求項7】 導電材、有機溶媒、及び、請求項1~6の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物を含む、二次電池正極用導電材ペースト組成物。 【請求項8】 正極活物質、導電材、有機溶媒、及び、請求項1~6の何れかに記載の二次電池正極用バインダー組成物を含む、二次電池正極用スラリー組成物。 【請求項9】 集電体上に、請求項8に記載の二次電池正極用スラリー組成物を用いて形成した正極合材層を有する、二次電池用正極。 【請求項10】 請求項8に記載の二次電池正極用スラリー組成物を、集電体の少なくとも片面に塗布し、乾燥して正極合材層を形成する工程を含む、二次電池用正極の製造方法。 【請求項11】 正極、負極、セパレータ、及び、電解液を含む二次電池であって、前記正極が、請求項9に記載の二次電池用正極である、二次電池。」 第3 申立理由の概要 1 異議申立人の申立理由の概要は、次のとおりである。 (1)申立理由1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件) 請求項1ないし11に係る発明は、明確でない。 よって、請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 請求項1ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 よって、請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件) 発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし11に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 よって、請求項1ないし11に係る発明の特許は、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (4)申立理由4 特許法第29条第2項(進歩性) 請求項1ないし5、7ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第4号証に記載された技術に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 提出された証拠 異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。 甲第1号証:特許第6156149号公報 甲第2号証:特開2017-157481号公報 甲第3号証:特開2013-157086号公報 甲第4号証:特開2019-9041号公報 第4 申立理由についての当審の判断 1 申立理由1(明確性)について (1)当審の判断 ア 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。以下検討する。 イ 本件発明1ないし11は、前記第2のとおりであって、特許請求の範囲の記載は明確である。 請求人は次に示すように主張するが、格別、本件発明1ないし11に第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとすべき点は見当たらない。 (2)申立人の主張について ア 異議申立人は特許異議申立書において、「本件特許発明1の記載を参照すると、「重合体の抽出液」の意味が (i)重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液をイオン交換水により10倍希釈したもの自体を意味するのか(以下、ケース1という。)、または、(ii)重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液をイオン交換水により10倍希釈した溶液とは異なる別の液体を意味するのか(以下、ケース2という。)判然としない。以下、それぞれのケースについて検討する。」と主張(23頁13ないし19行という。)した上で、概略次のように主張する。 (ア)「ケース1」の場合 NMP溶液を重合体の8質量%NMP溶液に調整するとき、重合体の含有量に対するNMPの含有量が圧倒的に大きいので、重合体の8質量%NMP溶液のpH、NMP自体のpH (通常、7以上)に従わざるを得ず、また、重合体の8質量%NMP溶液をイオン交換水により10倍以上希釈する場合、重合体の8質量%NMP溶液の含有量に対するイオン交換水の含有量が圧倒的に大きいので、希釈溶液(即ち、重合体の抽出液)のpHが、イオン交換水のpHと類似した程度の値になることは自明である。 従って、「重合体の抽出液」のpHは、イオン交換水のpHに大きく左右されるが、イオン交換水のpHは、イオン交換水の種類(例えば、カチオン交換水、アニオン交換水、完全イオン交換水など)により異なるものであるので、請求項1の記載は明確ではなく、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~本件特許発明11は、特許法第36条第6項第2号に規定する明確性の要件を満たしていない。(23頁21行ないし24頁1行) (イ)「ケース2」の場合 仮に、イオン交換水の希釈液から分離していない状態でpHを測定したものを、重合体の抽出液のpHとして認めるとしても、抽出液の含有量に対するイオン交換水の含有量が圧倒的に大きいことは自明である。 従って、上記ケース1において検討したのと同様に 「重合体の抽出液」のpHは、結局のところ、イオン交換水のpHによって大きく左右されるものとなるが、イオン交換水のpHは、イオン交換水の種類(例えば、カチオン交換水、アニオン交換水、完全イオン交換水など)により異なるので、請求項1の記載は明確ではない。従って、本件特許発明1は明確ではなく、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~本件特許発明11は、特許法第36条第6項第2号に規定する明確性の要件を満たしていない。(24頁下から3行ないし25頁5行) イ そこで、申立人の上記主張について判断する。 (ア)始めに、異議申立人が主張する本件発明1の「重合体の抽出液」の意味について検討する。 請求項1には、 「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物であって、 前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位、及び、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有し、且つ、前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、 前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である、 二次電池正極用バインダー組成物。」 と記載されているところ、「抽出液」に関し、「前記抽出液」の記載前には、「前記重合体の抽出液」との記載しか見当たらないことから、「前記抽出液」の「前記」が、「前記重合体の抽出液」を意味し、「前記重合体の抽出液」とは、「前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」と解される。 そして、「前記重合体の抽出液」が、「重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液をイオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液」とは異なる別の液体であると解する理由もなく、異議申立人もこのように解釈できる理由を説明していない。 してみれば、「重合体の抽出液」が「重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液」とは異なる別の液体を意味するとはいえない。 よって、申立人の「重合体の抽出液」の意味が (i)重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液をイオン交換水により10倍希釈したもの自体を意味するのか(以下、ケース1という。)、または、(ii)重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液をイオン交換水により10倍希釈した溶液とは異なる別の液体を意味するのか(以下、ケース2という。)判然としない。」との主張、及び、ケース2に関する上記ア(イ)の主張は採用できない。 (イ)次に、上記ア(ア)の主張について検討する。 異議申立人は、「希釈溶液(即ち、重合体の抽出液)のpHが、イオン交換水のpHと類似した程度の値になることは自明」、「『重合体の抽出液』のpHは、イオン交換水のpHに大きく左右される」と主張する。 一般にイオン交換水とは、純水の一種であって、イオン交換樹脂等により陽イオン及び陰イオンを除去したものを意味すると認められる。 (参考:イオン交換水[ion-exchanged water, deionized water]陽イオンおよび陰イオン交換樹脂を充填した筒型の容器に通水して精製した水。イオン分の大部分が除去されるため,通常電気伝導率は1μS/cm以下となり,過マンガン酸カリウムを溶かしてもその紫色は1時間以上脱色されない。」社団法人日本化学会 第2版 標準化学用語辞典 平成17年3月31日発行) してみれば、イオン交換水のH+及びOH-以外のイオンの濃度はほぼゼロとみなせるから、異議申立人の主張する重合体の抽出液のpHが、イオン交換水のpHに大きく左右されることはあり得ず、重合体AのNMP溶液中のイオンの種類及び量に応じたpHとなると考えられる。 そして、本件特許明細書の段落【0081】には、「<重合体の抽出液のpH> 実施例、比較例で調製した重合体AのNMP溶液を固形分濃度8.0%になる様に調整した。重合体AのNMP溶液10gに対し、イオン交換水を90g投入し、薬さじで撹拌及び圧搾し、イオン交換水相中にて、凝固した重合体Aに内包されている液を抽出し、抽出液を得た。抽出液のpHを、25℃にて、JIS Z8802(2011)に準じて測定した。」と記載され、同段落【0103】の表1によれば、実施例1ないし3、7ないし18のpHは「9.0」、実施例4のpHは「6.0」、実施例5のpHは「7.0」、実施例6のpHは「10.0」、比較例1のpHは「3.0」、比較例2のpHは「5.0」であり、各実施例、比較例のpHがイオン交換水のpH(理想的には中性であるpH7)と類似した程度の一定の値ではなく、重合体AのNMP溶液中のイオンの種類及び量に応じたpHであるといえる。 してみると、本件発明1ないし本件発明11は明確であり、上記ア(ア)の主張は採用できない。 (3)まとめ 以上から、本件発明1ないし11は不明確であるとはいえず、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)当審の判断 ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。 イ 本件特許明細書によれば、本件発明1は「導電材と混合した際に導電材の分散均一性を高めうる、二次電池正極用バインダー組成物を提供する」という課題(段落【0008】)を解決するために、バインダー組成物に含まれる重合体が、ニトリル基含有単量体単位、及び、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有し、該重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液のpHが5.5以上としたものであり(段落【0009】、【0010】、【0023】、【0024】、【0026】、【0029】、【0043】)、同明細書には、ニトリル基含有単量体単位、及び、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有する重合体の抽出液のpHが5.5以上であった実施例1ないし18のバインダー組成物は、導電材と混合した際に導電材の分散均一性を高められたことも記載されている。 してみれば、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。 本件発明1を引用する本件発明2ないし11も同様である。 (2)申立人の主張について ア 上記1(2)アで述べたのと同様に、異議申立人は特許異議申立書において、「重合体の抽出液」の意味がケース1に該当するのか、または、ケース2に該当するのか判然としないとした上で、それぞれのケースについて概略以下のように主張している。 (ア)「ケース1」の場合 当該分野において一般的に認められるイオン交換水のpHは、通常5以上であり、NMP溶液のpHが7以上であることを考慮すると、ケース1の場合、「重合体の抽出液」のpHは、重合体の種類にかかわらず、常に5.5以上である蓋然性が十分に高い。従って、本件特許発明1は、実質的に全てのバインダー組成物を含むものとなり、発明の詳細な説明の記載を超えるものであるので、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~本件特許発明11は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たしていない。(24頁2ないし9行) (イ)「ケース2」の場合 当該分野において一般的に認められるイオン交換水のpHは、通常5以上であり、NMP溶液のpHが7以上であることを考慮すると、ケース1の場合、「重合体の抽出液」のpHは、重合体の種類にかかわらず、常に5.5以上である蓋然性が十分に高い。従って、本件特許発明1は、実質的に全てのバインダー組成物を含むものとなり、発明の詳細な説明の記載を超えるものであるので、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~本件特許発明11は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たしていない。(24頁6ないし13行) イ そこで、申立人の上記主張ア(ア)について検討する。 (ア)上記1(2)イ(イ)aで述べたように、一般にイオン交換水とは、純水の一種であって、イオン交換樹脂等により陽イオン及び陰イオンを除去したものを意味すると認められる。 してみれば、イオン交換水のH+及びOH-以外のイオンの濃度はほぼゼロとみなせるから、異議申立人の主張する重合体の抽出液のpHが、イオン交換水のpHに大きく左右されることはあり得ず、重合体AのNMP溶液中のイオンの種類及び量に応じたpHとなると考えられる。 そして、本件特許明細書の段落【0081】には、「<重合体の抽出液のpH> 実施例、比較例で調製した重合体AのNMP溶液を固形分濃度8.0%になる様に調整した。重合体AのNMP溶液10gに対し、イオン交換水を90g投入し、薬さじで撹拌及び圧搾し、イオン交換水相中にて、凝固した重合体Aに内包されている液を抽出し、抽出液を得た。抽出液のpHを、25℃にて、JIS Z8802(2011)に準じて測定した。」と記載され、同段落【0103】の表1によれば、実施例1ないし3、7ないし18のpHは「9.0」、実施例4のpHは「6.0」、実施例5のpHは「7.0」、実施例6のpHは「10.0」、比較例1のpHは「3.0」、比較例2のpHは「5.0」であり、各実施例、比較例のpHがイオン交換水のpH(理想的には中性であるpH7)と類似した程度の一定の値ではなく、重合体AのNMP溶液中のイオンの種類及び量に応じたpHであるといえる。 よって、上記ア(ア)の主張は採用できない。 (イ)次に、上記ア(イ)の主張について検討する。 ケース2に関する上記ア(イ)の主張は、上記1(2)イ(ア)と同様な理由により、採用できない。 (3)まとめ 以上から、本件発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載したものではないといえず、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 3 申立理由3(実施可能要件)について (1)当審の判断 ア 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。以下検討する。 イ 本件特許明細書の【実施例】の欄に「実施例、比較例で調製した重合体AのNMP溶液を固形分濃度8.0%になる様に調整した。重合体AのNMP溶液10gに対し、イオン交換水を90g投入し、薬さじで撹拌及び圧搾し、イオン交換水相中にて、凝固した重合体Aに内包されている液を抽出し、抽出液を得た。抽出液のpHを、25℃にて、JIS Z8802(2011)に準じて測定した。」(段落【0081】)と記載され、また、同段落【0084】ないし【0088】には、調整した重合体Aを用いて、二次電池正極用のバインダー組成物を調整した実施例1が記載されている。 してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の二次電池正極用バインダー組成物について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、本件発明1を引用する本件発明2ないし11も同様である。 (2)申立人の主張について ア 上記1(2)アで述べたのと同様に、異議申立人は特許異議申立書において、「重合体の抽出液」の意味がケース1に該当するのか、または、ケース2に該当するのか判然としないとした上で、ケース2について概略以下のように主張している。 本件特許発明1を実施するためには、「重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈した溶液」から「重合体の抽出液」を別途分離するための方法が、発明の詳細な説明に具体的に記載されていなければならない。 しかしながら、重合体の抽出液のpHを測定する方法が記載されている本件特許の段落[0081]には、「実施例、比較例で調製した重合体AのNMP溶液を固形分濃度8.0%になるように調整した重合体AのNMP溶液10gに対し、イオン交換水を90投入し、薬さじで撹拌及び圧搾し、イオン交換水相中にて、凝固した重合体Aに内包されている液を抽出し、抽出液を得た。抽出液のpHを、25℃にて、JIS Z8802(2011)に準じて測定した」と記載されているだけであり、「重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液をイオン交換水により10倍希釈した溶液」から「重合体の抽出液」を別途分離する方法については、全く記載されておらず、その実施において当業者に過度の試行錯誤を要するものである。従って、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1を当業者が実施するために十分かつ明確に記載されたものではなく、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~本件特許発明11は、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない。(24頁11ないし32行) イ そこで、申立人の上記主張について検討する。 (ア)上記1(2)イ(ア)で検討したように、「重合体の抽出液」が「重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液」とは異なる別の液体を意味するとはいえないことから、そもそも「ケース2」に係る主張は、その前提において誤りである。 (イ)そして、上記(1)イで検討したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の二次電池正極用バインダー組成物について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 してみれば、申立人の上記アの主張は採用できない。 (3)まとめ 以上から、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1ないし11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえず、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 4 申立理由4(進歩性)について (1)甲各号証の記載事項 ア 甲第1号証 (ア)甲第1号証(特許第6156149号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。) 「【0011】 本発明の目的は上記事情を鑑み、少量でも優れた結着性を有し、優れた耐電解液性を示すバインダー組成物、優れた安定性を示すスラリー組成物、高い平滑性、結着性及び耐電解液性を有する正極、及び優れたサイクル特性(特に高温サイクル特性)を有する二次電池を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0012】 このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下の通りである。 〔1〕ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含有するバインダーであって、 エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した電解液に対する膨潤度が、100~500%であることを特徴とする二次電池正極用バインダー組成物。」 「【0025】 二次電池正極用バインダー組成物 本発明の二次電池正極用バインダー組成物(「正極用バインダー組成物」と記載することがある。)は、特定のバインダーを含有する。 【0026】 (バインダー) 前記バインダーは、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含有し、電解液(エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した溶液)に対する膨潤度が、100~500%である。」 「【0055】 また、後述する電解液に対するバインダーの膨潤度は100~500%、好ましくは110~400%、より好ましくは120~300%である。バインダーの膨潤度を上記範囲とすることで、電解液に対するバインダーの溶解性を抑制できバインダーの結着性に優れるため、二次電池の高温サイクル特性の向上が図られる。 ここでは、膨潤度の指標として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解した溶液に対する膨潤度を採用する。 電解液に対するバインダーの膨潤度が100%未満である場合には、二次電池正極内でバインダーが十分に電解液を含むことができないことがある。通常、バインダーは電極内で電解液を含むことにより、バインダー自体もLi伝導性を示すが、バインダーが電解液に対して膨潤しない場合には、バインダー自体がLi伝導経路とならず抵抗が大きくなり、結果として当該電極を用いた二次電池のサイクル特性、出力特性が低下することがある。また、前記バインダーの電解液に対する膨潤度が500%を超える場合には、二次電池正極内でバインダーが電解液に膨潤しすぎることで導電ネットワークが切断され抵抗が上昇し、結果として当該電極を用いた二次電池のサイクル特性、出力特性が低下することがある。」 「【0105】 本発明に用いるバインダーが分散媒に分散している時のpHは、5~13が好ましく、更には5~12、最も好ましくは10~12である。バインダーのpHが上記範囲にあることにより、バインダーの保存安定性が向上し、さらには、機械的安定性が向上する。 【0106】 前記バインダーのpHを調整するpH調整剤は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物、水酸化アルミニウムなどの長周期律表でIIIA属に属する金属の水酸化物などの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などの炭酸塩;などが例示され、有機アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミンなどのアルキルアミン類;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミンなどのアルコールアミン類;アンモニア水などのアンモニア類;などが挙げられる。これらの中でも、結着性や操作性の観点からアルカリ金属水酸化物が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。」 「【0179】 <バインダーの膨潤度> バインダーのNMP溶液をポリテトラフルオロエチレン製シートにキャストし、乾燥してキャストフィルムを得た。このキャストフィルム4cm2を切り取って重量(浸漬前重量A)を測定し、その後、温度60℃の電解液中に浸漬した。浸漬したフィルムを72時間後に引き上げ、タオルペーパーで拭きとってすぐに重量(浸漬後重量B)を測定した。バインダーの電解液膨潤度を下記の式より算出し、以下の基準で評価する。膨潤度が低いほど耐電解液性と電池特性(高温サイクル特性)に優れることを示す。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。 膨潤度(%)=B/A×100(%)」 【0183】 (実施例1) 〔正極用バインダー組成物の製造〕 撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル20部、2-エチルヘキシルアクリレート30部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、1,3-ブタジエン45部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位及び共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。 【0184】 前記重合体に対して水を用いて全固形分濃度を12質量%に調整した400ミリリットル(全固形分48グラム)の溶液を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。 【0185】 次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。 【0186】 その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮してバインダー水分散液を得た。また、このバインダー水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、正極用バインダー組成物として、上記バインダーのNMP溶液を得た。該NMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得、NMRで分析したところ、バインダーは、重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、親水性基(カルボン酸基)を有する重合単位(メタクリル酸単量体単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合単位(2-エチルヘキシルアクリレート単量体単位)を30質量%含んでいた。ここで、前記1,3-ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位38.8質量%と未水添ブタジエン重合単位2.1質量%と1,2-付加重合単位4.1質量%とから形成されていた。また、バインダーのガラス転移温度は-35℃であり、SP値は10.0(cal/cm3)1/2であった。なお、バインダーのヨウ素価は10mg/100mgであった。さらに、バインダーの膨潤度は、200%であった。 イ 上記アの記載事項より、次のことがいえる。 (ア)段落【0025】によれば、甲第1号証には、二次電池正極用バインダー組成物が記載されている。 (イ)段落【0186】によれば、実施例1のバインダー組成物は、重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、親水性基(カルボン酸基)を有する重合単位(メタクリル酸単量体単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合単位(2-エチルヘキシルアクリレート単量体単位)を30質量%含み、前記1,3-ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位38.8質量%と未水添ブタジエン重合単位2.1質量%と1,2-付加重合単位4.1質量%とから形成されるバインダーのNMP溶液を含む。 また、同段落によれば、実施例1のバインダーの膨潤度は200%であり、段落【0026】、【0055】、【0179】によれば、バインダーの膨潤度は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した溶液に対する膨潤度である。 ウ よって、上記イによれば、甲第1号証には、実施例1に基づく次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、親水性基(カルボン酸基)を有する重合単位(メタクリル酸単量体単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合単位(2-エチルヘキシルアクリレート単量体単位)を30質量%含み、前記1,3-ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位38.8質量%と未水添ブタジエン重合単位2.1質量%と1,2-付加重合単位4.1質量%とから形成されるバインダーのNMP溶液を含み、 バインダーの膨潤度が200%であり、バインダーの膨潤度は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した溶液に対する膨潤度である、 二次電池正極用バインダー組成物。」 イ 甲第2号証 (ア)甲第2号証(特開2017-157481号公報)には、以下の各記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) 「【請求項1】 重合体と、有機溶媒とを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物であって、 前記重合体は、テトラヒドロフラン不溶解分量が3質量%以上50質量%以下であり、 前記重合体中のアミド基の量が0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、 前記重合体中の酸基の量が0mmol/g以上1.0mmol/g以下である、非水系二次電池電極用バインダー組成物。」 「【0008】 そこで、本発明は、導電材の分散性に優れ、且つ、ピール強度に優れる電極合材層を形成可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。」 「【0023】 (非水系二次電池電極用バインダー組成物) 本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、テトラヒドロフラン不溶解分量(以下、「THF不溶解分量」と称することがある。)が3質量%以上50質量%以下であり、アミド基の量が0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、且つ、酸基の量が0mmol/g以上1.0mmol/g以下である重合体と、有機溶媒とを含むことを特徴とする。」 「【0029】 [重合体の調製] ここで、上述した性状を有する重合体は、特に限定されることなく、例えば下記の調製方法(1)または(2)を用いて調製することができる。 (1)酸基含有単量体単位を含有する酸基含有重合体と、第一級アミンおよび第二級アミンからなる群より選択されるアミン化合物とを混合し、酸基含有重合体が分子中に有する酸基の一部または全部をアミン化合物で変性して、アミド基を有する変性重合体を含む重合体を調製する方法。 (2)アクリルアミドおよびメタクリルアミドなどのアミド基を有する単量体を含有し、任意に酸基を有する単量体を更に含有する単量体組成物を重合して重合体を調製する方法。 【0030】 中でも、調製される重合体のTHF不溶解分量、アミド基の量および酸基の量の調節の容易性の観点からは、重合体は、調製方法(1)を用いて調製することが好ましい。そこで、以下では、重合体の調製方法(1)について、詳細に説明する。」 「【0095】 (実施例1) <酸基含有重合体の調製> 金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル35部、カルボン酸基を有する単量体(酸基含有単量体)としてのメタクリル酸5部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部を添加した。金属製ボトルを5℃に保ち、重合開始剤としてのクメンハイドロパーオキサイド0.1部を添加し、金属製ボトルを回転させながら16時間重合させた。次いで、重合停止剤として濃度10質量%のハイドロキノン水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、共重合体の水分散液(固形分濃度約30質量%)を得た。 次いで、上記にて得られた水分散液に含有される共重合体の乾燥重量に対するパラジウム含有量が750ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造した水分散液およびパラジウム触媒(1質量%酢酸パラジウムアセトン溶液とイオン交換水とを1:1(質量比)で混合した溶液)を添加した。そして、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、水添共重合体を得た。 続いて、得られた水添共重合体の水分散液に有機溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を水添共重合体の固形分濃度が7%になるよう添加した。そして、温度90℃にて減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、酸基含有重合体として水添共重合体を含むNMP溶液(固形分濃度8%)を得た。 <酸基含有重合体の変性> 水添共重合体を含むNMP溶液に対し、アミン化合物としてのn-ヘキシルアミンを、酸基含有重合体としての水添共重合体100部当たりのn-ヘキシルアミンの量が3部となる割合で添加した。そして、温度110℃で10時間混合し、変性重合体を含む重合体と、有機溶媒としてのNMPとを含む非水系二次電池正極用バインダー組成物を得た(変性工程)。 そして、重合体のTHF不溶解分量、並びに、重合体中のアミド基の量および酸基の量を測定した。結果を表1に示す。」 「【表1】 [図:0001425782000001.jpg] 」 イ 上記アの記載事項によれば、次のことがいえる。 段落【0095】によれば、甲第2号証には、実施例1として、金属製ボトルにイオン交換水180部、濃度10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル35部、カルボン酸基を有する単量体(酸基含有単量体)としてのメタクリル酸5部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込んだ後、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部を添加し、重合させ、共重合体の水分散液を得て、次に、オートクレーブ中に製造した水分散液およびパラジウム触媒を添加して水素添加反応を行い、水添共重合体を得て、続いて、得られた水添共重合体の水分散液にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、水および過剰なNMPを除去し、酸基含有重合体として水添共重合体を含むNMP溶液(固形分濃度8%)を得て、水添共重合体を含むNMP溶液に対し、アミン化合物としてのn-ヘキシルアミンを添加して混合して得られた、変性重合体を含む重合体とNMPとを含む非水系二次電池正極用バインダー組成物が記載されているといえる。 また、段落【0108】の表1によれば、実施例1の重合体のTHF不溶解分量は10質量%、重合体中のアミド基の量が0.26mmol/g、酸基の量が0.31mmol/gである。 ウ よって、上記イによれば、甲第2号証には、実施例1に基づく次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「金属製ボトルにイオン交換水180部、濃度10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル35部、カルボン酸基を有する単量体(酸基含有単量体)としてのメタクリル酸5部、および、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込んだ後、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部を添加し、重合させ、共重合体の水分散液を得て、次に、オートクレーブ中に製造した水分散液およびパラジウム触媒を添加して水素添加反応を行い、水添共重合体を得て、続いて、得られた水添共重合体の水分散液にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、水および過剰なNMPを除去し、酸基含有重合体として水添共重合体を含むNMP溶液(固形分濃度8%)を得て、水添共重合体を含むNMP溶液に対し、アミン化合物としてのn-ヘキシルアミンを、酸基含有重合体としての水添共重合体100部当たりのn-ヘキシルアミンの量が3部となる割合で添加して混合して得られた、変性重合体を含む重合体とNMPとを含み、 重合体のTHF不溶解分量が10質量%、重合体中のアミド基の量が0.26mmol/g、酸基の量が0.31mmol/gである、 非水系二次電池正極用バインダー組成物。」 ウ 甲第3号証 (ア)甲第3号証(特開2013-157086号公報)には、以下の各記載がある。(なお、下線は当審が付与した。)。 「【0004】 しかしながら、水素化したニトリルゴムを用いた従来の二次電池では、充放電サイクル特性が低くなる傾向があった。 本発明は前記の課題に鑑みて創案されたもので、充放電サイクル特性に優れる二次電池が得られるバインダー組成物及びその製造方法、そのバインダー組成物を含むスラリー組成物、そのスラリー組成物を用いた二次電池用正極の製造方法、並びに、その製造方法で得られた正極を備える二次電池を提供することを目的とする。」 「【0011】 [1.バインダー組成物] 本発明のバインダー組成物は、二次電池用正極を製造するためのバインダー組成物であって、共役ジエン単量体単位及びニトリル基含有単量体単位を含む重合体(以下、適宜「ベースポリマー」と呼ぶことがある。)を水素化した水添重合体を含む。また、通常は、本発明のバインダー組成物は溶媒を含む。 【0012】 本発明のバインダー組成物は、白金族元素を含まないか、含むとしても含有量が少ない。ここで白金族元素とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金のことを表す。また、本発明に係る水添重合体は、ウォーレス可塑度が特定の範囲に収まっている。このため、本発明のバインダー組成物を用いて製造された二次電池の充放電サイクル特性を改善することができる。」 「【0149】 〔実施例1〕 (ベースポリマーA1の作製) 撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル20部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸4.5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した。その後、共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン45.5部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。重合転化率が85%となった時点で重合を終了し、重合体A1の水分散液を得た。この重合体A1のウォーレス可塑度は、10であった。 【0150】 (水添工程) 前記の重合体A1の水分散液を、水を用いて希釈して、固形分濃度を25%に調整した水分散液を用意した。 ガラス製のトップかく拌機(上部から攪拌羽根で攪拌しうるタイプの攪拌機)、冷却器、蠕動ポンプを備えた攪拌容器中に、水5.5部、ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部、触媒としてホウ酸(H3BO3)0.68部、前記の希釈した重合体A1の水分散液25部、酸化防止剤として1,4-ジメチルフェニル(-N’-フェニル)-p-フェニレンジアミン0.625部、消泡剤としてシリコーンオイルを数滴添加した。 【0151】 攪拌容器を40℃まで加熱し、数分間かく拌した。内容物をかく拌しながら、30%過酸化水素水溶液13.30部を、12時間かけて、蠕動ポンプを使用して滴下して、重合体A1を水素化し、水添重合体A2の水分散液を得た。この水分散液100部にNMP320部を加えた。その後、減圧下において水及びNMPを蒸発させて、バインダー組成物として、水添重合体A2の8%NMP溶液を得た。 【0152】 上述した方法により、前記の水添重合体A2の8%NMP溶液に含まれる白金族元素の残留量を測定したところ、水添重合体A2の単位重量当たり0μg/gであった。これは、水添重合体A2の量を100重量部として、0重量部に相当する。 また、上述した方法により、水添重合体A2のウォーレス可塑度を測定したところ、75であった。また、上述した方法により、水添重合体A2のヨウ素価を測定したところ、12mg/100mg以下であった。 さらに、上述した方法により、水添重合体A2のTHF不溶分量を測定した。」 (イ)上記(ア)の記載事項によれば、次のことがいえる。 a 段落【0011】によれば、甲第3号証には、二次電池用正極を製造するためのバインダー組成物が記載されている。 b 段落【0149】ないし【0150】によれば、甲第3号証には、実施例1として、撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル20部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸4.5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン45.5部を圧入し、重合反応させ、重合体A1の水分散液を得て、得られた重合体A1の水分散液を、水を用いて希釈して、固形分濃度を25%に調整した水分散液を用意し、攪拌容器中に、水5.5部、ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部、触媒としてホウ酸(H3BO3)0.68部、前記の希釈した重合体A1の水分散液25部、酸化防止剤として1,4-ジメチルフェニル(-N’-フェニル)-p-フェニレンジアミン0.625部、を添加し、加熱し、かく拌しながら、30%過酸化水素水溶液13.30部を滴下して、重合体A1を水素化し、水添重合体A2の水分散液を得て、この水分散液100部にNMP320部を加えた後、減圧下において水及びNMPを蒸発させて、得られた水添重合体A2の8%NMP溶液であるバインダー組成物が記載されているといえる。 また、段落【0152】によれば、実施例1の水添重合体A2の8%NMP溶液に含まれる白金族元素の残留量は、水添重合体A2の量を100重量部として、0重量部であり、水添重合体A2のウォーレス可塑度は75である。 (ウ)よって、上記(イ)によれば、甲第3号証には、実施例1に基づく次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル20部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸4.5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン45.5部を圧入し、重合反応させ、重合体A1の水分散液を得て、得られた重合体A1の水分散液を、水を用いて希釈して、固形分濃度を25%に調整した水分散液を用意し、攪拌容器中に、水5.5部、ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部、触媒としてホウ酸(H3BO3)0.68部、前記の希釈した重合体A1の水分散液25部、酸化防止剤として1,4-ジメチルフェニル(-N’-フェニル)-p-フェニレンジアミン0.625部、を添加し、加熱し、かく拌しながら、30%過酸化水素水溶液13.30部を滴下して、重合体A1を水素化し、水添重合体A2の水分散液を得て、この水分散液100部にNMP320部を加えた後、減圧下において水及びNMPを蒸発させて、得られた水添重合体A2の8%NMP溶液を含み、 水添重合体A2の8%NMP溶液に含まれる白金族元素の残留量は、水添重合体A2の量を100重量部として、0重量部であり、水添重合体A2のウォーレス可塑度は75である、 二次電池用正極を製造するためのバインダー組成物。」 エ 甲第4号証 (ア)甲第4号証(特開2019-9041号公報)には、以下の各記載がある。(なお、下線は当審が付与した。)。 「【0001】 本開示は、アルカリ二次電池用正極の製造方法、およびアルカリ二次電池の製造方法に関する。」 「【0005】 ニッケル正極は、正極活物質として水酸化ニッケルおよびオキシ水酸化ニッケルの少なくとも一方を含む。正極活物質の合成には、たとえば、硝酸ニッケル水溶液、アンモニア水等が使用される。そのため正極活物質には、不純物として硝酸イオン(NO3-)、アンモニウムイオン(NH4+)等の窒素化合物イオンが含まれることがある。窒素化合物イオンがアルカリ二次電池内に持ち込まれると、シャトル効果により、アルカリ二次電池の自己放電が促進される可能性がある。」 「【0014】 [5]少なくとも正極活物質、バインダおよび溶媒が容器内で混合されることにより、正極ペーストが調製されてもよい。容器内にイオン捕捉剤が配置されることにより、窒素化合物イオンが低減された正極ペーストが調製されてもよい。これにより自己放電の抑制が期待される。」 (イ)よって、上記(ア)によれば、甲第4号証には、以下の技術(以下、「甲第4号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。 「アルカリ二次電池用正極の製造方法であって、ニッケル正極は、正極活物質として水酸化ニッケルおよびオキシ水酸化ニッケルの少なくとも一方を含み、正極活物質の合成には、たとえば、硝酸ニッケル水溶液、アンモニア水等が使用されため正極活物質には、不純物として硝酸イオン(NO3-)、アンモニウムイオン(NH4+)等の窒素化合物イオンが含まれることがあり、。窒素化合物イオンがアルカリ二次電池内に持ち込まれると、シャトル効果により、アルカリ二次電池の自己放電が促進される可能性があることから、正極活物質、バインダおよび溶媒を容器内で混合して正極ペーストを調製する際、容器内にイオン捕捉剤を配置し、窒素化合物イオンを低減すること。」 (2)当審の判断 ア 本件発明1について (ア)甲第1号証を主引例とした場合 a 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (a)甲1発明の「バインダー」は、「重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、親水性基(カルボン酸基)を有する重合単位(メタクリル酸単量体単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合単位(2-エチルヘキシルアクリレート単量体単位)を30質量%含」むものであるから重合体といえ、本件発明1の「重合体」に相当する。 してみると、甲1発明の「バインダー」を含む「二次電池正極用バインダー組成物」は、本件発明1の「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物」に相当する。 (b)甲1発明の「ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)」は、本件発明1の「ニトリル基含有単量体単位」に相当する。 また、甲1発明の「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」は、本件発明1の「炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位」に相当する。 してみると、甲1発明の「バインダー」が、「ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)」と「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」を含むことは、本件発明1の「重合体が、ニトリル基含有単量体単位、及び、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有」することに相当する。 (c)本件発明1は「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。 上記(a)ないし(c)により、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。 (一致点) 「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物であって、 前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位、及び、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有する、 二次電池正極用バインダー組成物。」 (相違点1) 本件発明1は「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。 b 相違点に対する判断 (a)甲第1号証には、甲1発明の「バインダーのNMP溶液」を濃度8質量%に調整し、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」を得ることの記載や示唆はない。まして、当該「抽出液」のpHを調節することも何等記載されておらず、当該「抽出液」のpHを調節する理由も見当たらない。 してみると、甲第1号証に接した当業者は、甲1発明の「バインダーのNMP溶液」を濃度8質量%に調整し、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」のpHを5.5以上とすることを当業者は導き出すことはできない。 (b)さらに、甲第1号証の段落【0105】に「本発明に用いるバインダーが分散媒に分散している時のpHは、5~13が好ましく、更には5~12、最も好ましくは10~12である。バインダーのpHが上記範囲にあることにより、バインダーの保存安定性が向上し、さらには、機械的安定性が向上する。」と、同段落【0106】に「前記バインダーのpHを調整するpH調整剤は、・・・;などが挙げられる。これらの中でも、・・・、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。」と、それぞれ記載されている。 しかし、上記記載に基づいて、甲1発明の「バインダーのNMP溶液」のpHを5~13の範囲に調整することを容易に想到し得たとしても、pHが調整された「バインダーのNMP溶液」を濃度8.0質量%になるようにさらに調整し、イオン交換水により10倍希釈して得られる「抽出液」のpHが必ず5.5以上であることを裏付ける根拠は認められない。 (c)してみると、相違点1に係る構成は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 (d)また、上記(1)イ(ア)によれば、甲第2号証には、導電材の分散性に優れ、且つ、ピール強度に優れる電極合材層を形成可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物を提供する(段落【0008】)ために、非水系二次電池電極用バインダー組成物を、テトラヒドロフラン不溶解分量が3質量%以上50質量%以下であり、前記重合体中のアミド基の量が0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、前記重合体中の酸基の量が0mmol/g以上1.0mmol/g以下である重合体と、有機溶媒を含むように構成すること(【請求項1】、段落【0023】)が記載されているところ、甲2発明は、重合体のTHF不溶解分量が10質量%、重合体中のアミド基の量が0.26mmol/g、酸基の量が0.31mmol/gであるものである。 一方、甲第1号証には、少量でも優れた結着性を有し、優れた耐電解液性を示すバインダー組成物を提供する(段落【0011】)ために、バインダーが、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含有し、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した電解液に対する膨潤度を100~500%とすること(段落【0012】、【0026】)が記載されているところ、甲1発明は、バインダーは、ニトリル基を有する重合単位、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位、親水性基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位を含み、バインダーの膨潤度が200%である。 してみると、甲1発明と甲2発明とは、二次電池電極用バインダー組成物である点で共通するものの、発明が解決しようとする課題、及び、作用機能が異なるものであって、甲第1号証に接した当業者は、甲1発明に甲2発明を適用することを容易に想到し得ないといえる。 さらに、仮に、甲1発明に甲2発明を適用することが容易に想到し得たとしても、甲2発明には、二次電池正極用バインダー組成物において、重合体の抽出液のpHを5.5以上とすることは何等記載されていないから、甲1発明に甲2発明を適用したとしても、相違点1に係る構成を導き出すことはできない。 (e)してみると、相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 c 異議申立人の主張について (a)異議申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張する。 (a-1)甲1発明に基づく進歩性について 甲第1号証には、上記のように段落【0105】にバインダーが分散媒に分散しているときのpHは、5~13が好ましく、最も好ましくは10~12であることが開示されており、そして、pHを調整できるpH調整剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族金属などの水酸化物、炭酸塩、そして、有機アミンまたはアンモニア化合物が挙げられると開示されている。 つまり、甲第1号証に記載の発明においても、バインダーのpHを調節しなければならないという技術的事項を十分に認識しており、具体的には塩基性を有さなければならないという技術的事項まで認識しているものである。 そのため、本件特許発明1の発明特定事項である「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり」とは、重合体のpHが5.5以上であることを単に限定しただけであり、「物」の発明である以上、本件特許において「強塩基性イオン交換樹脂」を用いて重合体を塩基性に改質したとしても、これは製造方法上の特徴であることに過ぎず、バインダー組成物自体の進歩性判断に寄与する余地はなく、甲第1号証の実施例では重合体のpHを調整してはいないが、甲第1号証には様々な方式でバインダーのpHを調整できることが開示されており、その技術的事項も十分に認識しているので、当業者は、甲第1号証の発明の詳細な説明に記載の内容を単純に適用することにより、本件特許発明1の発明特定事項である「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であ」ることは容易に想到することができるものである。(27頁下から9行ないし28頁12行) (a-2)甲1発明及び甲2発明に基づく進歩性について 甲第2号証は、本件特許や甲第1号証と同様に、二次電池の正極用バインダー組成物に関するものであり、バインダーがニトリル基含有単量体及び炭素数4以上の直鎖アルキルモノマーを含んで製造された重合体を適用したものであり、この重合体が、酸基含有単量体を含んで重合されたものであり、この酸基を有機アミンに介して改質したものを適用するという点を特徴とする発明を開示している。 甲第2号証において有機アミンを用いてバインダーとして用いられる重合体を改質した技術的理由は、導電材の分散性を向上させ、電極合材層との接着力を向上させるためであり、具体的には、甲第2号証の段落【0024】を参照すると、導電材に対する重合体の吸着を促進させて、導電材の分散性を向上させることができるという内容を記載しており、実施例には、有機アミンとしてn-へキシルアミンを用いて、酸基を改質させる旨が開示されている。 即ち、甲第2号証では、重合体のpHについては言及していないものの、重合体に存在する酸基を有機アミンにより改質する場合、pHが上昇すると予想するのは当業者にとって自明であり、甲第1号証にも、pH調整剤として有機アミンを使用できることが記載されており、本件特許で適用した強塩基性イオン交換樹脂を使用する場合も、単に手段が異なるだけであって、化学的な反応及びメカニズムは、実質的に同一であると言える。 従って、当業者が、甲第1号証に記載の発明に基づいて重合体のpHを調整することが望ましいという認識を有している状態で甲第2号証の開示に接する場合、導電材分散性を向上させるために、バインダーとして適用される重合体を有機アミンにより改質できるという点を参考にすることができるものであって、このように改質する場合、重合体のpHが、甲第1号証に記載の好ましい範囲を満たすと認識するのは極めて容易であり、このように認識された特徴は、本件特許発明1の発明特定事項である「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」に該当する技術的特徴である。 従って、当業者は、甲第1号証及び甲第2号証の組み合わせから、本件特許発明1の発明特定事項「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」を極めて容易に想到することができたものである。(28頁21行ないし29頁12行) (b)特許異議申立人の主張について検討する。 (b-1)主張(a-1)について 上記b(a)で検討したように、甲1発明の「バインダーのNMP溶液」の濃度を8質量%に調整し、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」を得ることの記載や示唆はなく、当該「抽出液」のpHを調整する理由もないことから、甲1発明の「バインダーのNMP溶液」の濃度を8質量%に調整し、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」のpHを5.5以上とすることを当業者は導き出すことはできない。 また、上記b(b)で検討したように、甲1発明の「バインダーのNMP溶液」のpHを5~13の範囲に調整することを容易に想到し得たとしても、pHが調整された「バインダーのNMP溶液」を濃度8.0質量%になるようにさらに調整し、イオン交換水により10倍希釈して得られる「抽出液」のpHが必ず5.5以上であることを裏付ける証拠は提出されていない。 してみれば、異議申立人の上記主張(a-1)は採用できない。 (b-2)主張(a-2)について 異議申立人は、「当業者が、甲第1号証に記載の発明に基づいて重合体のpHを調整することが望ましいという認識を有している状態で甲第2号証の開示に接する場合、導電材分散性を向上させるために、バインダーとして適用される重合体を有機アミンにより改質できるという点を参考にすることができる」旨主張している。 しかしながら、上記b(d)で検討したように、甲1発明及び甲2発明は、そもそも課題、作用機能が異なるものであるから、甲1発明に接した当業者は、甲1発明に甲2発明を適用することは容易に想到し得ないし、甲1発明に甲2発明を適用したとしても、相違点1に係る構成を導き出すことはできない。 してみれば、異議申立人の上記主張(a-2)は採用できない。 d 小括 したがって、本件の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)甲第2号証を主引例とした場合 a 対比 本件発明1と甲2発明を対比する。 (a)甲2発明の「重合体」を含む「非水系二次電池正極用バインダー組成物」は、本件発明1の「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物」に相当する。 (b)甲2発明の「ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル」は、本件発明1の「ニトリル基含有単量体単位」に相当する。 してみると、甲2発明における「ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル」と「共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン」を含む「重合体」と本件発明1の「重合体」とは、「ニトリル基含有単量体単位を含有」している点で共通する。 ただし、重合体に関し、本件発明1は「炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有」するのに対し、甲2発明は「共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン」を含む点で相違する。 (c)本件発明1は、「重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。 上記(a)ないし(c)により、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。 (一致点) 「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物であって、 前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位を含有する、 二次電池正極用バインダー組成物。」 (相違点2) 重合体に関し、本件発明1は「炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有」するのに対し、甲2発明は「共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン」を含む点 (相違点3) 本件発明1は、「重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。 b 相違点に対する判断 事案に鑑み、先に相違点3について判断する。 甲2発明は、「変成重合体を含む重合体とNMP」を含むところ、甲第2号証には、甲2発明の「変成重合体を含む重合体」の「NMP」溶液を濃度8質量%に調整し、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」を得ることの記載や示唆はない。まして、当該「抽出液」のpHを調節することも何等記載されておらず、当該「抽出液」のpHを調節する理由も見当たらない。 してみると、甲第2号証に接した当業者は、甲2発明の「変成重合体を含む重合体」を含む「NMP」溶液を濃度8質量%に調整し、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」のpHを5.5以上とすることを当業者は導き出すことはできない。 よって、相違点3に係る構成は、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 c 異議申立人の主張について (a)異議申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張する。 甲第2号証では、有機アミンを用いてバインダーとして用いられる重合体を改質した技術的理由は、導電材の分散性を向上させ、電極合材層との接着力を向上させるためであり、具体的に、甲第2号証の段落【0024】を参照すると、導電材に対する重合体の吸着を促進させて、導電材の分散性を向上させることができる旨が開示されており、実施例には、有機アミンとしてn-へキシルアミンを用いて、酸基を改質する旨が開示されている。 即ち、甲第2号証に記載において、重合体のpHについては言及されていないが、重合体に存在する酸基を有機アミンにより改質する場合、pHが上昇すると予想するのは当業者にとって自明であり、本件特許で適用した強塩基性イオン交換樹脂を使用する場合も、単に手段が異なるだけであって、化学的な反応及びメカニズムは実質的に同一であると言える。 甲第2号証の実施例では、有機アミンとしてn-へキシルアミン(pH11.6)を用いて、重合体に存在する酸基を改質する方法について開示しているが、n-へキシルアミンのpHが5.5を大きく超えているという点を考慮すると、甲第2号証に記載の発明の重合体のpHが5.5以上であることは当業者にとって容易に予測されるものである。 従って、本件特許発明1の発明特定事項である、「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」ことは、当業者が甲第2号証の開示内容を通じて極めて容易に想到することができたものである。(29頁下から11行ないし30頁11行) (b)異議申立人の主張について検討する。 (b-1)甲第2号証の段落【0029】には、酸基含有重合体が分子中に有する酸基の一部または全部をアミン化合物で変性して、アミド基を有する変性重合体を含む重合体を調製する方法が記載され、甲2発明では、アミノ化合物としてn-ヘキシルアミンを用いた酸基含有重合体の変性が行われているところ、同段落【0023】、【0029】、【0030】によれば、このような調製方法は、テトラヒドロフラン不溶解分量が3質量%以上50質量%以下であり、重合体中のアミド基の量が0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下であり、重合体中の酸基の量が0mmol/g以上1.0mmol/g以下である重合体を調製するために用いられる。 そして、甲第2号証には、重合体のpHについて何等記載されていないことからすれば、甲第2号証に接した当業者は、甲2発明において重合体のpHが上昇すると予測し得ない。 また、仮に、このような調製方法によって重合体のpHが変動するとしても、上記bで検討したように、甲第2号証には、重合体の「抽出液」のpHを調節する記載や示唆は見当たらないことから、甲2発明に基づいて、本件発明1の発明特定事項である「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」ことを導き出すことはできない。 (b-2)また、異議申立人は、n-へキシルアミンのpHが「11.6」であることから、甲2発明の重合体のpHは5.5以上であると予測される旨主張する。 しかしながら、甲2発明において得られた「重合体」の「NMP」溶液を濃度8%になるように調整し、イオン交換水により10倍希釈して得られた「抽出液」のpHが5.5以上であることを裏付ける証拠は何等提出されていない。 (b-3)以上から、異議申立人の主張は採用できない。 d 小括 したがって、本件の請求項1に係る発明は、他の相違点を検討するまでにもなく、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)甲第3号証を主引例とした場合 a 対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (a)甲3発明の「水添重合体A2」を含む「二次電池用正極を製造するためのバインダー組成物」は、本件発明1の「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物」に相当する。 (b)甲3発明の「ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル」は、本件発明1の「ニトリル基含有単量体単位」に相当する。 してみると、甲3発明における「ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル」と「共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン」を含む「水添重合体A2」と本件発明1の「重合体」とは、「ニトリル基含有単量体単位を含有」している点で共通する。 ただし、重合体に関し、本件発明1は「炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有」するのに対し、甲3発明は「共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン」を含む点で相違する。 (c)本件発明1は、「重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。 上記(a)ないし(c)により、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。 (一致点) 「重合体を含む二次電池正極用バインダー組成物であって、 前記重合体が、ニトリル基含有単量体単位を含有する、 二次電池正極用バインダー組成物。」 (相違点4) 重合体に関し、本件発明1は「炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含有」するのに対し、甲3発明は「共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン」を含む点。 (相違点5) 本件発明1は、「重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。 b 相違点に対する判断 事案に鑑み、先に相違点5について判断する。 甲3発明は、「水添重合体A2の8%NMP溶液」を含むところ、甲第3号証には、「水添重合体A2の8%NMP溶液」を、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」を得て、当該「抽出液」のpHを調節することは何等記載されておらず、当該「抽出液」のpHを調節する理由も見当たらない。 してみると、甲第3号証に接した当業者は、甲3発明の「水添重合体A2の8%NMP溶液」を、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」のpHを5.5以上とすることを当業者は導き出すことはできない。 よって、相違点5に係る構成は、甲3発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 c 異議申立人の主張について (a)異議申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張する。 甲第3号証の実施例1(段落【0150】参照)によると、水添工程時に、触媒としてホウ酸(H3BO3)0.68部が投入され、ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部が投入される旨が開示されており、 i)ホウ酸のpHが通常3.8~4.8であり、ヒドラジン1水和物のpHが通常10~11である点、及び、ii)ヒドラジン1水和物の投入量がホウ酸の投入量の10倍であることを考慮すると、甲第3号証に記載の発明で製造された重合体の抽出液のpHが5.5以上であることを当業者であれば容易に予測できるものである。 従って、本件特許発明1の発明特定事項である「前記重合体の抽出液のpHが、5.5以上であり、前記抽出液が、前記重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液を、イオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液である」は、当業者が甲第3号証の開示内容を通じて極めて容易に想到することができたものである。(30頁下から10行ないし31頁2行) (b)異議申立人の主張について検討する。 ア 上記bで検討したように、甲第3号証に接した当業者は、甲3発明の「水添重合体A2の8%NMP溶液」を、イオン交換水により10倍希釈した「抽出液」のpHを5.5以上とすることを当業者は導き出すことはできない。 イ また、甲第3号証には、実施例1の「水添工程」に関し、以下の記載がある。 「【0150】 (水添工程) 前記の重合体A1の水分散液を、水を用いて希釈して、固形分濃度を25%に調整した水分散液を用意した。 ガラス製のトップかく拌機(上部から攪拌羽根で攪拌しうるタイプの攪拌機)、冷却器、蠕動ポンプを備えた攪拌容器中に、水5.5部、ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部、触媒としてホウ酸(H3BO3)0.68部、前記の希釈した重合体A1の水分散液25部、酸化防止剤として1,4-ジメチルフェニル(-N’-フェニル)-p-フェニレンジアミン0.625部、消泡剤としてシリコーンオイルを数滴添加した。 【0151】 攪拌容器を40℃まで加熱し、数分間かく拌した。内容物をかく拌しながら、30%過酸化水素水溶液13.30部を、12時間かけて、蠕動ポンプを使用して滴下して、重合体A1を水素化し、水添重合体A2の水分散液を得た。この水分散液100部にNMP320部を加えた。その後、減圧下において水及びNMPを蒸発させて、バインダー組成物として、水添重合体A2の8%NMP溶液を得た。」 上記記載によれば、水添工程では、「ヒドラジン1水和物(N2H4・1H2O)6.31部」、「ホウ酸(H3BO3)0.68部」以外に、「希釈した重合体A1の水分散液25部」、「1,4-ジメチルフェニル(-N’-フェニル)-p-フェニレンジアミン0.625部」、「シリコーンオイル」、「30%過酸化水素水溶液13.30部」が加えられているところ、該水添工程で得られた「水添重合体A2の8%NMP溶液」をイオン交換水により10倍希釈した「抽出液」のpHが必ず5.5以上であることを裏付ける証拠は何等提出されていない。 よって、異議申立人の主張は採用できない。 d 小括 したがって、本件の請求項1に係る発明は、引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (エ)まとめ 以上から、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 イ 本件発明2ないし5、7ないし11について 請求項2ないし5、7ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2ないし5、7ないし11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5、7ないし11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 してみれば、請求項2ないし5、7ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 ウ 本件発明6について 請求項6は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものである。 そして、上記(1)エによれば、甲第4号証には、「甲第4号証に記載された技術」が記載されているものの、二次電池正極用バインダー組成物において、重合体の8質量%N-メチル-2-ピロリドン溶液をイオン交換水により10倍希釈して得られる抽出液のpHを5.5以上とすることは何等記載されていない。 してみると、本件発明1に対する判断も踏まえれば、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 また、本件発明1に対する判断と同様の理由により、本件発明6は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたもものとはいえない。 よって、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700187

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