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特許異議申立

2023-700943

小児の胆汁うっ滞性肝疾患の処置のための胆汁酸再循環阻害剤

審判番号
2023-700943
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-218627
登録番号
7237544
請求日
2023年09月11日
審決日
2024年10月01日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】シャイア ヒューマン ジェネティック セラピーズ インコーポレイテッド
  • 【権利者代理人】阿部 隆徳
  • 【権利者代理人】落合 馨
  • 【権利者代理人】浦井 久蔵
  • 【権利者代理人】松井 仁志
  • 【権利者代理人】清原 義博
  • 【異議申立人】小宮 邦彦
審判長/審判官
  • 審判長 冨永 みどり
  • 審判官 岡山 太一郎
  • 審判官 齋藤 恵
分類
P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.536-Y (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7237544号発明「小児の胆汁うっ滞性肝疾患の処置のための胆汁酸再循環阻害剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7237544号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許7237544号(以下「本件特許」という)の請求項1~18に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月28日(US)アメリカ合衆国、他2件)を国際出願日とする特願2014-539087号の一部を、平成29年9月11日に新たな特許出願である特願2017-174408号とし、さらにその一部を平成30年11月21日に新たな特許出願としたものであって、令和5年3月3日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~18に係る特許について、令和5年9月11日に特許異議申立人小宮邦彦(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年2月7日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和6年4月30日(受付日)に意見書の提出を行い、申立人は、令和6年8月2日(受付日)に上申書を提出した。 第2 本件発明 特許異議の申立てがなされた特許7237544号の請求項1~18の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、特許7237544号の請求項1~18の特許に係る発明を請求項の番号順に「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということがある)。 【請求項1】 頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤(ASBTI)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小児の胆汁うっ滞性肝疾患の処置に使用するための組成物であって、 該処置が、治療上有効な量の前記組成物の製剤を、小児患者の遠位の回腸、結腸、及び/又は直腸に非全身に経口投与する工程を含み、 ASBTIは、1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピンであり、ここで、ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる、組成物。 【請求項2】 小児患者におけるそう痒症を処置または予防する、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 組成物が小児患者の処置のための適切な剤形として投与されるように適合される、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 小児の剤形は、溶液、シロップ、懸濁液、エリキシル剤、懸濁液または溶液としての再構成のための粉末剤、分散性/発泡性の錠剤、咀嚼錠、グミキャンディー、ロリポップ、フリーザーポップ、トローチ、経口の薄いストリップ、口腔内崩壊錠、小袋、軟ゼラチンカプセル剤、および散布する経口用粉末剤、または果粒剤から選択される、請求項3に記載の組成物。 【請求項5】 頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤(ASBTI)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小児の胆汁うっ滞性肝疾患を抱える小児患者におけるそう痒症の処置に使用するための組成物であって、 該処置が、治療上有効な量の組成物の製剤を、小児患者の遠位の回腸、結腸、及び/又は直腸に非全身に経口投与する工程を含み、 ASBTIは、1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピンであり、ここで、ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる、組成物。 【請求項6】 組成物は0.1mg~40mgのASBTIを含む、請求項1-5のいずれかに記載の組成物。 【請求項7】 小児の胆汁うっ滞性肝疾患は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、PFIC1型、PFIC2型、PFIC3型、アラジール症候群、デュビン‐ジョンソン症候群、胆道閉鎖症、Kasai手術後の胆道閉鎖症、肝移植後の胆道閉鎖症、肝移植後の胆汁うっ滞症、肝移植後に関連する肝疾患、腸不全に関連する肝疾患、胆汁酸媒介性の肝臓損傷、小児の原発性硬化性胆管炎、MRP2脱落症候群、新生児の硬化性胆管炎、小児の閉塞性胆汁うっ滞症、小児の非閉塞性胆汁うっ滞症、小児の肝外胆汁うっ滞症、小児の肝内胆汁うっ滞症、小児の一次性肝内胆汁うっ滞、小児の第2の肝内胆汁うっ滞、良性の再発性肝内胆汁うっ滞症(BRIC)、BRIC1型、BRIC2型、BRIC3型、非経口完全栄養に関連する胆汁うっ滞症、腫瘍随伴性の胆汁うっ滞症、シュタウファー症候群、薬物に関連する胆汁うっ滞症、感染に関連する胆汁うっ滞症、あるいは胆石症である、請求項1-6のいずれかに記載の組成物。 【請求項8】 小児の胆汁うっ滞性肝疾患は、黄疸、そう痒症、肝硬変症、高胆汁血症、新生児呼吸窮迫症候群、肺炎、胆汁酸の血清濃度の増加、胆汁酸の肝臓濃度の増加、ビリルビンの血清濃度の増加、肝細胞損傷、肝臓瘢痕化、肝不全、肝肥大、黄色腫、吸収不良、脾腫、下痢、膵臓炎、肝細胞の壊死、巨大細胞形成、肝細胞癌、胃腸出血、門脈圧亢進症、難聴、疲労、食欲不振、食欲低下、妙な匂い、暗色尿、軽度の便通、脂肪便症、成長障害、及び、腎不全、から選択された1つ以上の症状を特徴とする、請求項1-7のいずれかに記載の組成物。 【請求項9】 小児患者は0~18歳である、請求項1-8のいずれかに記載の組成物。 【請求項10】 小児患者は6ヶ月~12歳である、請求項1-9のいずれかに記載の組成物。 【請求項11】 組成物は胆汁酸の捕捉剤または結合剤をさらに含む、請求項1-10のいずれかに記載の組成物。 【請求項12】 組成物は吸収阻害剤をさらに含む、請求項1-10のいずれかに記載の組成物。 【請求項13】 吸収阻害剤はコレスチラミンである、請求項12に記載の組成物。 【請求項14】 小児の胆汁うっ滞性肝疾患は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、PFIC1型、PFIC2型、PFIC3型、アラジール症候群、胆道閉鎖症、または小児の原発性硬化性胆管炎である、請求項7に記載の組成物。 【請求項15】 小児の胆汁うっ滞性肝疾患は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)である、請求項14に記載の組成物。 【請求項16】 PFICは、そう痒症を特徴とする、請求項14に記載の組成物。 【請求項17】 ASBTIは、14μg/kg/日から約280μg/kg/日の量で投与される、請求項1-16のいずれかに記載の組成物。 【請求項18】 ASBTIは、14μg/kg/日から約140μg/kg/日の量で投与される、請求項1-17のいずれかに記載の組成物。 第3 特許異議の申立ての概要 申立人は、特許異議申立書において、本件発明についての特許を取り消すべき理由として、以下の1.に概要を示す(1)~(3)の申立ての理由(以下、「申立理由1」等という)を主張するとともに、証拠方法として、以下の2.に示す甲第1号証~甲第13号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等という。)を提出した。 1.申立人による申立ての理由の概要 (1)申立理由1(新規性) 本件発明1~18は、甲1の1に記載された発明であり、特許法第29条第1号第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきである。 (2)申立理由2(進歩性) 本件発明1~18は、甲1の1、又は、甲1の1及び甲2、並びに、本件出願日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきである。 2.申立人が提出した証拠(証拠方法) 甲1の1:国際公開第2012/064266号 甲1の2:特表2013-541584号 甲2 :国際公開第2004/020421号 甲3 :小児内科、2011年、第43巻第6号、表紙、第965-966頁、奥付 甲4 :小児内科、2011年、第43巻第6号、表紙、第1034-1037頁、奥付 甲5の1:日本小児学会雑誌、2006年、第42巻第2号、第236-242頁 甲5の2:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsps/42/2/42_KJ00004316531/_article/-char/ja/ 甲6の1:Clinics and Research in Hepatology and Gastroenterology,(2012)36,S26-S35 甲6の2:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2210740112700189 甲7 :Seminars in Liver Disease,Vol.31,Number 1,2011,pp.3-10 甲8 :小児内科、2011年、第43巻第6号、表紙、第1077-1081頁、奥付 甲9 :小児内科、2011年、第43巻第6号、表紙、第1046-1049頁、奥付 甲10 :仙台医療センター医学雑誌、2012年、第2巻、第4-15頁 甲11の1:Pediatric Pheumatology,2012,10:32 甲11の2:https://ped-rheum.biomedcentral.com/articles?query=Sarcoidosis+in+a+young+child+with&volume=10&searchType=&tab=keyword 甲12 :Journal of Hepatology, 2000;32(suppl.1)129-140 甲13 :小児内科、2011年、第43巻第6号、表紙、第1073-1076頁、奥付 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 請求項1~18に係る特許に対して、当審において令和6年2月7日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)本件請求項1~18に係る発明は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第1号証の1に記載された事項及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、本件請求項1~18に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 2.甲号証の記載事項 取消理由の判断に必要であるものについて、以下、記載事項を摘記する。なお、下線部は当審合議体が付したものであり、外国語で記載された甲号証については、当審合議体による日本語訳文で摘記する。また、文中に挿入されている参照文献番号は、特に必要がない場合には省略することがあり、文中の「・・・」は記載の省略を意味する。 (1)甲1の1 摘記ア 「【請求項 1】 肝疾患の予防および/または処置における使用のための、式IIの化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、該塩の溶媒和物、もしくはプロドラッグ: [図:0001416461000001.jpg] 式中、MはCH2またはNHであり;R1はHまたはヒドロキシであり;R2はH、CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH2CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH2CH(CH3)2、-CH(CH3)CH2CH3、-CH2OH、-CH2OCH3、-CH(OH)CH3、-CH2SCH3または-CH2CH2SCH3である。 【請求項2】 以下より選択される、請求項1記載の化合物: ・・・ 1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラ ヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピン; ・・・ 【請求項3】 前記肝疾患が、・・・;バイラー症候群;・・・、ALGS(アラジール症候群)、PFIC(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症)、・・・、PFIC1などの遺伝的形態の胆汁うっ滞などの肝内および肝外胆汁うっ滞、・・・、胆汁うっ滞/黄疸による症状(ひっかき行動、そう痒)、・・・、または胆汁うっ滞性肝疾患のそう痒などの、二次的欠陥; ・・・のうちいずれか1つである、請求項1または2記載の化合物。」(特許請求の範囲) 摘記イ 「発明の背景 回腸胆汁酸輸送体(IBAT)は、胃腸管からの胆汁酸の再吸収のための主要な機構である。その機構の部分遮断または完全遮断は、小腸壁、門脈、肝実質、肝内胆管、胆嚢を含む肝外胆管内の胆汁酸の濃度低下を生じさせる。 IBAT機構の部分遮断または完全遮断による利点を示すことがある疾患は、血清中および上記臓器内の高すぎる濃度の胆汁酸を一次的な病態生理学的欠陥として有するか、それを引き起こすか、またはその症状を有するかのいずれかである疾患でありうる。WO 2008/058630(特許文献1)では、脂肪障害に関連する肝疾患の処置における特定の回腸胆汁酸輸送(IBAT)の効果が記載されている。」(1頁6~17行) 摘記ウ 「文献では、IBAT阻害剤は異なる名称でしばしば言及される。本明細書中でIBAT阻害剤に言及する場合、この用語が、IBATの阻害によって作用するi)回腸先端ナトリウム共依存性胆汁酸輸送体(ASBT)阻害剤; ii)胆汁酸輸送体(BAT)阻害剤; iii)回腸ナトリウム/胆汁酸共輸送体系阻害剤; iv)先端ナトリウム-胆汁酸共輸送体阻害剤; v)回腸ナトリウム依存性胆汁酸輸送阻害剤; vi)胆汁酸再吸収(BARI)阻害剤; およびvii)ナトリウム胆汁酸輸送体(SBAT)阻害剤として文献公知である化合物も包含すると理解すべきである。」(4頁27~33行) 摘記エ 「本発明はさらに、肝疾患の予防および/または処置における使用のための、式(I)または式(II)の少なくとも1つのIBAT阻害剤を含む組成物に関する。 ・・・ 式Iまたは式IIのIBAT阻害剤は、本明細書に記載の少なくとも1つの他の治療活性化合物と共に、肝疾患の予防的および/または治療的処置用の医薬の調製において使用することができる。」(22頁6~14行) 摘記オ 「肝疾患 本明細書において、肝疾患は、肝臓ならびにそれに接続される臓器、例えば膵臓、門脈、肝実質、肝内胆管、肝外胆管および胆嚢における任意の胆汁酸(BA)依存性疾患として定義される。回腸胆汁酸輸送体(IBAT)は、胃腸管からの胆汁酸の再吸収のための主要な機構である。その機構の部分遮断または完全遮断は、小腸壁、門脈、肝実質、肝内胆管、肝外胆管および胆嚢内の胆汁酸の濃度低下を生じさせる。IBAT機構の部分遮断または完全遮断による利点を示すことがある疾患は、血清中および上記臓器内の高すぎる濃度の胆汁酸を一次的な病態生理学的欠陥として有するか、それを引き起こすか、またはその症状を有するかのいずれかである疾患でありうる。 本発明の一局面は、・・・; バイラー症候群;・・・、ALGS(アラジール症候群)、PFIC(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症)、・・・、PFIC1などの遺伝的形態の胆汁うっ滞などの肝内および肝外胆汁うっ滞、・・・、胆汁うっ滞/黄疸による症状(ひっかき行動、そう痒)、・・・、または胆汁うっ滞性肝疾患のそう痒などの、二次的欠陥の予防または処置における使用のための、上記で定義した式(I)または式(II)の化合物である。」(22頁17行~23頁5行) 摘記カ 「本発明はまた、本明細書に記載のIBAT阻害剤化合物と少なくとも1つの胆汁酸結合剤、例えばコレスチラミン、コレスチポールおよびコレセベラムなどの樹脂との組み合わせに関する。 胆汁酸結合剤(胆汁酸捕捉剤、樹脂) 本発明の一態様では、上記で定義した式(I)または式(II)のIBAT阻害剤を、少なくとも1つの胆汁酸結合剤も含む薬学的製剤であって、結腸内で胆汁酸結合剤を、小腸内でIBAT阻害剤を送達するように設計される製剤として投与することができる。 本発明の有用な胆汁酸結合剤の例としては、血中コレステロール値を減少させる上で有効であることが知られる親水性ポリアクリル酸四級アンモニウムアニオン交換樹脂であるコレスチラミンがある。 ・・・ 本発明の有用な胆汁酸結合剤は、コレスチラミンおよびコレスチポールなどの樹脂である。1つの利点は、胆汁酸結合剤のみを含む単剤処置におけるコレステロール血症の処置用の治療量よりも胆汁酸結合剤の用量を低く保持できる可能性があるというものである。また、胆汁酸結合剤の低用量によって、治療量に対する患者の低い許容度が引き起こす任意の潜在的副作用を回避できる可能性がある。 ・・・ 本発明のさらなる局面では、好適な胆汁酸結合剤はコレスチラミン、コレスチポールまたはコレセベラムの1つである。」(27頁1行~28頁18行) 摘記キ 「本発明の一態様は、上記で定義した式(I)もしくは式(II)のIBAT阻害剤化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、該塩の溶媒和物、もしくはプロドラッグと、胆汁酸結合剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、該塩の溶媒和物、もしくはプロドラッグとを含む、薬学的組み合わせ経口製剤であって、結腸内で胆汁酸結合剤を、小腸内でIBAT阻害剤を送達するように設計される製剤に関する。」(28頁26~31行) 摘記ク 「特定の態様では、非限定的な例として経口、非経口(例えば静脈内、皮下、筋肉内)、鼻腔内、頬側、局所、直腸または経皮投与経路などの複数の投与経路の1つまたは複数を含む任意の様式で、本明細書に記載の薬学的製剤を個体に投与する。 本明細書に記載の薬学的組成物は、剤形として製剤化される。したがって、いくつかの態様では、個体への投与に好適な、本明細書に記載の化合物を含む剤形が本明細書において提供される。特定の態様では、好適な剤形としては水性経口分散液剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、エリキシル剤、スラリー剤、懸濁液剤、固体経口剤形、エアロゾル剤、制御放出製剤、速溶性製剤、発泡性製剤、凍結乾燥製剤、錠剤、散剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、遅延放出製剤、持続放出製剤、パルス放出製剤、多粒子製剤、ならびに混合即時放出および制御放出製剤が非限定的な例として挙げられる。」(35頁20~33行) 摘記ケ 「剤形は、遠位空腸、近位回腸、遠位回腸および/または結腸内での活性物質の制御放出を可能にするマトリックスを含む。いくつかの態様では、剤形は、pH感受性であるポリマー(例えば・・・)であって、回腸および/または結腸内での活性物質の制御放出を可能にするポリマーを含む。・・・いくつかの態様では、遠位回腸内での制御放出に好適な剤形は微粒子活性物質(例えば微粉化活性物質)を含む。いくつかの態様では、非酵素分解ポリ(dl-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)コアが、遠位回腸へのIBATの送達に好適である。いくつかの態様では、IBATを含む剤形を、回腸および/または結腸への部位特異的送達のために腸溶性ポリマー(例えば・・・など)でコーティングする。いくつかの態様では、細菌活性化系が回腸への標的化送達に好適である。・・・」(37頁13~35行) 摘記コ 「本発明の併用療法は、IBAT阻害剤化合物および胆汁酸結合剤の同時、個別または連続投与を含むことが好ましいはずである。IBAT阻害剤は回腸送達用に製剤化されることが好ましい可能性があり、胆汁酸結合剤は結腸送達用に製剤化されることが好ましい可能性がある。」(38頁16~19行) 摘記サ 「投与量 通常、式(I)の化合物、・・・は温血動物に・・・約0.1~100mgまたは0.01~50mgの範囲内の単位用量で投与され、通常はこれにより治療有効量が与えられる。・・・好ましくは、1~50mgの範囲の一日量を使用する。別の局面では、0.02~20mgの範囲の一日量を使用する。しかし、一日量は、処置される宿主、特定の投与経路、および処置される疾病の重症度に応じて必ず変動する。したがって、最適な投与量を、任意の特定の患者を処置する医師が決定することができる。 ・・・ 胃腸管における標的送達を伴う本発明の薬学的製剤は、血漿中薬物濃度対時間曲線下面積(AUC)または7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オン(C4)によって測定されるような全身曝露を減少させる一方、・・・治療効果を維持し、さらには増大させる。」(38頁21~39頁8行) 摘記シ 「実施例5 1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピン、分子量740.94WO 3022286の実施例29に記載のように本化合物を調製する。」(41頁15~20行) 摘記ス 「実施例15 薬学的効果 平均阻害効果(%) ISBT Hu HEK取り込みSPA 13203 IBAT HUM回腸胆汁酸輸送体ヒトHEKグリコール酸取り込み放射測定 - SPA阻害剤IC50 平均IC50(nM)を実施例1~14の化合物について決定した。 試験系 動物 種族 マウス;系統 ApoEノックアウト;亜系統 C57BL/6;・・・ ・・・ 実験手順 ・・・動物にビヒクル(・・・)または実施例14の化合物・・・を経口投与した。30分後、微量の75SeHCAT(75Se-ホモタウロコール酸)(0.1mCi/0.1mL/マウス)を各マウスに経口投与した。・・・。糞便中および胆嚢-腸内の75SeHCATのγ放射能を・・・計数した。 ・・・ データ解析 ・・・75SeHCATの腸管吸収に対する実施例14の化合物の阻害効果を・・・計算し、化合物のED50を・・・推定した。 結果 用量(μmol/kg)0.156での平均IBAT阻害効果(%)を実施例1~14の化合物について決定した。表1において報告する。 [図:0001416461000002.jpg] [図:0001416461000003.jpg] 」(43頁14行~46頁4行) 摘記セ 「実施例16 原発性硬化性胆管炎(PSC)のインビボ動物モデル 小管リン脂質フリッパーゼをコードする多剤耐性Mdr2(Abcb4)遺伝子の標的化破壊を伴う遺伝的マウス(Mdr2-/-マウス)は、ヒト原発性硬化性胆管炎の肉眼的および顕微鏡的特徴を有する硬化性胆管炎を自発的に発生させる。これらのマウスにおける胆管損傷は胆汁リン脂質分泌欠損に関連しており、この欠損によって遊離非ミセル胆汁酸の濃度増大が生じ、続いて胆管上皮細胞(胆管細胞)損傷、胆管周囲炎、胆管増殖を伴う胆管周囲線維症、および最後に硬化性胆管炎が引き起こされる。遺伝子発現プロファイリングは、Mdr2-/-とヒトPSCとの間の著しい類似性を明らかにした。硬化性胆管炎のMdr2-/-マウスモデルと類似して、多剤耐性タンパク質MDR3/ABCB4(げっ歯類Mdr2/Abcb4のヒト相同分子種)欠損は、ヒトにおける各種胆管症の発病において役割を果たす。MDR3変異体は、PSC、原発性胆汁性肝硬変(PBC)および成人特発性胆管減少症/胆管線維症などの各種胆管症の発病において変更遺伝子としての役割を果たす。 Mdr2-/-マウスに経口量の実施例14の化合物を経管栄養によって毎日2~4週間投与し、対照にビヒクルを同様にして投与した。血清肝機能検査、肝組織診断および線維症を検討した。実施例14の化合物は肝機能検査、肝組織診断および線維症を改善する。」(46頁5行~47頁13行) 摘記ソ 「実施例17 以下の組成を有するIBAT阻害剤の遅延放出用製剤を調製する。 ・・・ 実施例18 以下の組成を有するIBAT阻害剤の遅延放出用製剤を調製する。 ・・・ 実施例19 以下の組成を有する、IBAT阻害剤の即時放出および胆汁酸結合剤の結腸放出を伴うIBAT阻害剤-コレセベラム組み合わせ錠剤を調製する。」(47頁16行~49頁22行) (2)甲4 摘記ア 「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(progressive familal intrahepatic cholestasis:PFIC)は、乳児期に胆汁うっ滞型の肝障害を発症した後、慢性かつ進行性の経過で通常10年以内に肝硬変にいたる常染色体劣性遺伝の疾患である。約45年前、Claytonらは、・・・10歳までに死にいたる肝内胆汁うっ滞症を報告し、致死性・家族性の肝内胆汁うっ滞症としてByler病と命名した。・・・現在では、PFICという言葉が広く用いられている。責任遺伝子によりPFICは1型から3型まで分類される(・・・)。PFIC1とPFIC2では、胆汁うっ滞があるにもかかわらず、γGTPが上昇しない。多くは、思春期までに肝硬変から肝不全にいたる。」(1034頁左欄2行~右欄3行) (3)甲5の1 摘記ア 「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(progressive familial intrahepatic cholestasis:以下PFIC)は、1965年Claytonらによって報告された常染色体劣性遺伝性の疾患で、AmishのByler家の家系性の疾患であったことから一般的にByler病として知られている。黄疸、肝脾腫、皮膚掻痒、成長障害、ビタミンD欠乏によるくる病等の症状で乳児期に発症し、10代までに肝硬変に移行し、20代までに死亡する予後不良な疾患である。」(236頁左欄2~9行) (4)甲6の1 摘記ア 「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、小児期の常染色体劣性疾患の異種群を指し、肝細胞由来の胆汁うっ滞は新生児期または生後1年以内に発症することが多く、通常は乳児期から思春期までの年齢で肝不全により死に至る。」(S27左欄1~6行) (5)甲7 摘記ア 「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、通常、乳児期又は小児期における肝内胆汁うっ滞を呈する希な常染色体劣性遺伝性疾患の異種群である。肝不全への進行は生後10年で起こることがある。」(3頁左欄1~5行) (6)甲8 摘記ア 「II Alagille症候群に対する肝移植の問題点 1975年に、Alagilleらが肝内胆管形成不全の30症例を検討し、特徴的な臨床症状を呈することを見出し症候群として報告した。・・・発症頻度は1/10万人であるが、小児の慢性肝内胆汁うっ滞症で比較的頻度は高い。」(1078頁右欄8行~1079頁左欄1行) 摘記イ 「III 遺伝性肝内胆汁うっ滞症に対する肝移植の問題点 遺伝性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)はPFIC-1(Byler病)、-2,-3に分類され遺伝子変異が報告されている。通常、2歳以前に発症し、進行性の肝硬変を認める疾患で、PFIC-1,-2ではγ-GTP/T-chol低値が特徴とされる。」(1079頁右欄13行~1080頁左欄3行) (7)甲9 摘記ア 「I Alagille症候群(syndrome PILDB,arteriohepatic dysplasia) Alagille症候群(AGS)は、1975年にAlagilleらによって報告された常染色体優先遺伝病である。発症頻度は7~10万の出生に1人の割合で、遺伝性胆汁うっ滞症のなかでは比較的高頻度である。」(1046頁左欄下から6行~右欄1行) 摘記イ 「2.症候 1)肝症状 典型例では、乳児期早期から胆汁うっ滞が出現する。黄疸、灰白色便、肝腫大を呈し、症状の進行に伴い皮膚掻痒感が出現する。 ・・・ 一般に、胆汁うっ滞の程度は乳児期以降に徐々に軽快する傾向があり、それとともに掻痒感や黄色腫、血液生化学所見も改善する。しかし、1歳を過ぎても高度の胆汁うっ滞が持続する症例の肝予後は不良である。」(1047頁左欄15~30行) (8)甲10 摘記ア 「<<抄録>> 子どもの肝臓病は、成人のスペクトラムと異なり多彩である。これまで、「子どもの肝臓病」に関して2編の総説を上梓したが、この総説は左記の2編を補完する(・・・、Alagille症候群の特異顔貌の診断)と共に、そのほかの分野(・・・)について記載した。」(4頁) 摘記イ 「8 Alagille症候群 Alagille症候群のほか、Watson-Alagille syndrome、Arteriohepatic dysplasiaが同義語としてある。Watson-Alagille症候群は家族性、先天性心疾患、肝機能異常を認める症例に、Alagille症候群は、家族性、慢性胆汁うっ滞、先天性心疾患、特徴的顔貌、椎骨の異常、後部胎生環を認める症例として報告されてきた。責任遺伝子は、染色体20p12(・・・)にある、JAG1(・・・)である。」(12頁右欄1~10行) (9)甲11の1 摘記ア 「Alagille症候群は、JAG1の変異に関連する小児期の慢性肝疾患の遺伝性形態である。この症候群の患者は肝内胆管が低形成で、肝外胆管は開存している。」(2頁左欄25~28行) (10)甲12 摘記ア 「小児慢性胆汁うっ滞性疾患 ・・・ 肝内胆管の症候性減少:Alagille諸侯群 1975年に最初に報告されたAlagille症候群は、家族性肝内胆汁うっ滞症の最も一般的な型である。遺伝は常染色体優性遺伝で、発現は非常に多様である。主な特徴として、慢性胆汁うっ滞につながる小胆管欠損、特徴的な顔貌、肺動脈低形成または狭窄、蝶型椎弓欠損、および後胚中毒が挙げられる。重症の罹患児は、通常12歳になっても黄疸が持続することで同定され、患者の20%を占め、肝移植を必要とすることもある。・・・ 進行性家族性肝内胆汁うっ滞(PFIC) 最近の分子遺伝学的研究により、3つのタイプのPFICの原因遺伝子が同定された。PFIC1は常染色体劣性遺伝の慢性胆汁うっ滞性疾患であり、黄疸、そう痒を繰り返し、血清ガンマグルタミルトランスフェラーゼ活性とコレステロール値は正常で、血清一次胆汁酸濃度が高く、胆汁性ケノデオキシコール酸濃度が低いことが特徴である。肝障害は肝硬変に進行し、最初の10年以内に肝不全で死亡することもある。・・・」(130頁左欄3行~131頁左欄5行) 摘記イ 「表1 慢性胆汁うっ滞状態 成人期 乳幼児期 ・・・ ・・・ 肝内胆管の症候性減少:Alagille諸侯群 ・・・ 家族性肝内胆汁うっ滞 」(130頁) (11)甲13 摘記ア 「胆汁うっ滞症に皮膚掻痒症が合併することは広く知られている。」(1073頁左欄2~3行) 摘記イ 「ここでは、皮膚掻痒症を伴う胆汁うっ滞症として、先天性慢性肝内胆汁うっ滞症(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症[PFIC]、Alagille症候群)を主に念頭において解説を進める。 ・・・ 皮膚掻痒症そのもの対する治療に加え、やはり原疾患に対する治療が重要である。複合的な効果で皮膚掻痒症が改善することに期待して、以下の治療を組み合わせて行う。」(1073頁右欄16~31行) 摘記ウ 「3.コレスチラミン、コレスチミド コレスチラミン、コレスチミドは、本来高コレステロール血症の治療薬で、腸管内で胆汁酸と結合して、胆汁酸の糞便排泄量を増大させ、外因性のコレステロールの吸収を阻害する薬剤である。つまり、腸管から再吸収される胆汁酸の量が減ることになり胆汁酸プールが減少し、血清胆汁酸を低下させることができる。それが皮膚掻痒感の減少にもつながると考えられる。」(1074頁左欄下から11~3行) 3.取消理由(進歩性)についての当審の判断 (1)優先権主張の効果について ア.本件発明について 本件特許は、2011年10月28日にした米国仮特許出願61/553094号(以下「基礎出願1」という。)、2012年3月6日にした米国仮特許出願61/607487号(以下「基礎出願2」という。)、及び、2012年3月6日にした米国仮特許出願61/607503号(以下「基礎出願3」という。)を基礎としてパリ条約による優先権を主張するものであり、2012年(平成24年)10月26日を国際出願日とする特願2014-539087号(以下「原々出願」という。)の一部を、2017年(平成29年)9月11日に新たな特許出願とした特願2017-174408号(以下「原出願」という。)について、さらにその一部を、2018年(平成30年)11月21日に新たな特許出願としたものである。 そして、原出願及び本件特許の出願は、いずれも適法に分割出願された出願であると認められるから、本件特許の出願日は原々出願の国際出願日とみなされる(以下、この日を「本件出願日」という。)。 そこで、本件発明が、基礎出願1~3それぞれの出願書類全体に記載されていたか否かについて、以下検討を行う。 本件発明は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1及び5の記載は以下のとおりである。 「【請求項1】 頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤(ASBTI)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小児の胆汁うっ滞性肝疾患の処置に使用するための組成物であって、 該処置が、治療上有効な量の前記組成物の製剤を、小児患者の遠位の回腸、結腸、及び/又は直腸に非全身に経口投与する工程を含み、 ASBTIは、1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピンであり、ここで、ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる、組成物。 【請求項5】 頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤(ASBTI)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小児の胆汁うっ滞性肝疾患を抱える小児患者におけるそう痒症の処置に使用するための組成物であって、 該処置が、治療上有効な量の組成物の製剤を、小児患者の遠位の回腸、結腸、及び/又は直腸に非全身に経口投与する工程を含み、 ASBTIは、1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピンであり、ここで、ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる、組成物。」 そして、本件発明2~3は、本件発明1の特定事項を全て備え、さらに技術的な限定を加えたものであり、本件発明6~18は、本件発明1又は5の特定事項を全て備え、さらに技術的な限定を加えたものであり、いずれも構成部分として「ここで、ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」という特定事項を備えている。 イ.優先権主張の基礎出願1~3について 基礎出願1の出願書類の全体(以下「基礎出願1明細書等」という。特に、クレーム19、[0017]、[00128]-[00130]等を参照。)には、ASBTIを胆汁うっ滞等の治療や予防に使用すること、及び、当該ASBTIが式Vで表される化合物であること等が記載されている。 しかしながら、基礎出願1明細書等には、本件特許の請求項1及び5に記載される特定の化合物(「1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピン」、以下「化合物A」ということがある。)自体すら記載されておらず、化合物Aを含む組成物であって、「化合物Aは、その投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」組成物については、何ら記載されていない。 基礎出願2の出願書類の全体(以下「基礎出願2明細書等」という。特に、クレーム22、[0002]、[0024]、実施例等を参照。)には、ASBTIを胆汁うっ滞や胆汁うっ滞性肝疾患の治療または予防に使用すること、及び、ASBTIが化合物Aであることが記載され、また、実施例として、264W94なる化合物を、糖尿病性肥満ラットに経口投与することにより、用量依存的に血清胆汁酸レベルが低下したことも記載されている。 しかしながら、基礎出願2明細書等には、化合物Aを含む組成物であって、「化合物Aは、その投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」組成物について記載されておらず、また、上記264W94なる化合物は、化合物Aとは基本骨格さえ異なる化学構造を有するものであるから、基礎出願2明細書等に、化合物Aを含む組成物であって、「化合物Aは、その投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」組成物が記載されているとはいえない。 基礎出願3の出願書類の全体(以下「基礎出願3明細書等」という。特に、クレーム15、[0009]、[00131]、実施例等を参照。)には、小児用量のASBTIを含む、小児患者における胆汁うっ滞等を治療するための医薬組成物、及び、当該ASBTIが化合物Aであることが記載され、実施例として、LUM001なる化合物を用いた臨床試験のプロトコールが記載されている。 しかしながら、基礎出願3明細書等には、化合物Aを含む組成物であって、「化合物Aは、その投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」組成物については、何ら記載されていない。 ウ.判断 上記イ.に記載したとおり、基礎出願1明細書等には、化合物Aすら開示がされていないところ、本件発明は、基礎出願1の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえず、本件発明については、基礎出願1を基礎とするパリ条約による優先権の主張の効果が認められない。 また、本件発明の構成部分である「ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%させる」という特定事項は、基礎出願1明細書等、基礎出願2明細書等及び基礎出願3明細書等のいずれにも記載されていないところ、本件発明は、基礎出願1~3の各出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえず、本件発明については、基礎出願1~3を基礎とするパリ条約による優先権の主張の効果は認められない。 なお、特許権者は、令和6年4月30日受付の意見書において、本件特許の優先権主張の効果について何ら主張を行っていない。 したがって、本件発明は、基礎出願1~3に基づく優先権主張の効果は認められず、本件発明の特許要件の判断の基準日は、本件出願日(原々出願の国際出願日)である、2012年(平成24年)10月26日となる。 (2)甲1の1に記載された発明 本件出願日よりも前に公開された甲1の1には、肝疾患の予防および/または処置における使用のための式IIの化合物として、「1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピン」(化合物A)が記載されており、当該肝疾患が、バイラー症候群、ALGS(アラジール症候群)、PFIC(進行性家族性肝内胆汁うっ滞)、PFIC1などの遺伝的形態の胆汁うっ滞などの肝内及び肝外胆汁うっ滞、胆汁うっ滞による症状(ひっかき行動、そう痒)、または胆汁うっ滞性肝疾患のそう痒であることが記載されている(上記2.(1)摘記ア)。また、甲1の1には、上記式IIの化合物が回腸胆汁酸輸送体(IBAT)阻害剤であることや、当該IBAT阻害剤を含む組成物が記載されており(同(1)摘記エ)、実施例5には上記化合物が(同(1)摘記シ)、実施例15には、上記化合物が腸管からのタウロコール酸の吸収を阻害することが具体的に開示されている(同(1)摘記ス)。加えて、実施例16には、上記化合物と構造が類似する実施例14の化合物が、Mdr2(Abcd)遺伝子の標的化破壊を伴う遺伝的マウス(Mdr2-/-マウス)における肝機能検査、肝組織診断及び線維症を改善することが記載されており、ここで、げっ歯類Mdr2/Abcdは、ヒトのMDR3/ABCD遺伝子の相同分子種であって、当該MDR3は、PFIC3の原因遺伝子であることも知られている(同(1)摘記セ、本件特許【0087】)。 上記記載事項を踏まえると、甲1の1には、次の発明が記載されていると認められる。 「回腸胆汁酸輸送体(IBAT)阻害剤を含む、肝疾患の処置に使用するための組成物であって、 該肝疾患が、バイラー症候群、ALGS(アラジール症候群)、PFIC(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症)、PFIC1などの遺伝的形態の胆汁うっ滞などの肝内および肝外胆汁うっ滞であり、該IBAT阻害剤は、1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピンである、組成物」(以下「甲1発明」という。) (3)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「回腸胆汁酸輸送体(IBAT)阻害剤」は、本件発明1の「頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤(ASBTI)」に相当する(要すれば、本件特許【0265】、上記2.(1)摘記ウ、参照)。 また、甲1発明の「バイラー症候群、ALGS(アラジール症候群)、PFIC(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症)、PFIC1などの遺伝的形態の胆汁うっ滞などの肝内および肝外胆汁うっ滞」は、いずれも乳幼児期に発症する小児の胆汁うっ滞性の疾患であって、特にPFICは、通常、思春期までに肝不全により死に至ることが、当業者に周知の事項であると認められるところ、これら疾患が「小児の胆汁うっ滞性肝疾患」であることは明らかである(本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)【0081】~【0088】、【0098】、上記2.(2)~(10)の甲4~甲12の摘記事項参照)。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤(ASBTI)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小児の胆汁うっ滞性肝疾患の処置に使用するための組成物であって、 ASBTIは、1,1-ジオキソ-3,3-ジブチル-5-フェニル-7-メチルチオ-8-(N-{(R)-α-[N-((S)-1-カルボキシプロピル)カルバモイル]-4-ヒドロキシベンジル}カルバモイルメトキシ)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,2,5-ベンゾチアジアゼピンである、組成物。」 である点で一致し(以下「一致点1」という。)、次の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1は、「該処置が、治療上有効な量の前記組成物の製剤を、小児患者の遠位の回腸、結腸、及び/又は直腸に非全身に経口投与する工程を含」むことが特定されているのに対し、甲1発明には、そのような特定がされていない点。 <相違点2> 本件発明1は、「ここで、ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」ことが特定されているのに対し、甲1発明には、そのような特定がされていない点。 イ.判断 事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。 甲1の1には、同文献に記載の肝疾患が胆汁酸(BA)依存性疾患として定義されることや、IBATが胃腸管からの胆汁酸の再吸収のための主要な機構であり、その阻害が血清中若しくは肝実質、胆管又は胆嚢といった臓器中の胆汁酸の濃度低下を生じさせることが記載されている(上記2.(1)摘記イ、オ)。また、甲1の1の実施例15には、化合物Aをマウスに経口投与することで、腸管からのタウロコール酸の吸収を阻害することが、平均IC50の値や0.156μmol/kg投与時の阻害%と共に示されており、表1にはIBAT阻害効果を確認した化合物(実施例1~14)の中で、化合物A(実施例5)が最も高い阻害効果を示したことも具体的に記載されている(同(1)摘記シ、ス)。 しかしながら、甲1の1の実施例15に記載されているのは、糞便中及び胆嚢-腸内に存在する75SeHCATのγ放射能から求めた、IBAT阻害剤の75SeHCATの腸管吸収阻害活性であって、上記マウスにおける血清胆汁酸または肝胆汁酸レベルの減少効果について開示されておらず、また、甲1の1には、同文献に記載のIBAT阻害剤をヒトに投与した場合に、どのような用法・用量で用いると、どのような効果が得られるかについて、薬理試験結果と共に具体的に記載されていない。 そして、IBAT阻害剤について、マウスにおける用法・用量とそのIC50等のデータから、ヒトにおける用法・用量とその効果が推定できることが、本件出願日における技術常識であったとも認められないところ、甲1発明において、上記甲1の1に記載された事項に基づいて、「ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」という、所望の効果が得られるように、その用法・用量を最適化することが、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 また、本件発明1の効果について検討するに、本件特許明細書の実施例19及び20には、ASBTIとしてLUM001を用いた、ヒトの成人又は小児を対象とした薬理試験結果が具体的に開示され、これら実施例においては、LUM001の投与により、血清胆汁酸のレベルが20%以上減少したことが具体的に示されており、また、実施例25には、FIC1疾患又はアラジール症候群の患者においてLUM001の忍容性が良好である旨の記載がされている。 そして、本件特許明細書の段落【0547】等において、本件特許の化合物Aが「代替的に・・・臨床試験の主題となることができる」との記載がされ、本件特許の化合物A及びLUM001が共に本件出願日において公知のIBAT阻害剤であったことを踏まえると、本件特許明細書には、化合物AがLUM001について具体的に示された薬理効果と同程度の効果を奏することが推論可能な程度に記載がされているといえ、特許権者が提出した乙36号証には、臨床試験の結果の一部が記載され、オデビキシバットの投与による血清胆汁酸の減少が統計学的に有意であったことや、好ましい耐容性プロフィールを有することが実際に確認されている。 そうしてみると、実際にヒトにおいて血清胆汁酸レベルを減少させると共に、忍容性が良好であるという本件発明1の上記効果は、甲1の1におけるマウスを用いた薬理試験結果に基づいて、当業者が予測し得たとは認められないから、本件発明1は、当業者の予測を超える効果を奏すると認められる。 したがって、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第1号証の1に記載された事項及び本件出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。 (4)本件発明5について 本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記(3)アにおいて本件発明1について検討したとおりであるから、両者は、上記(3)アで示した一致点1で一致し、相違点1及び2並びに次の点でも相違する。 <相違点3> 本件発明5は「小児の胆汁うっ滞性肝疾患を抱える小児患者におけるそう痒症の処置に使用するための組成物」であることが特定されているのに対し、甲1発明には、そのような特定がされていない点。 そして、上記(3)において本件発明1について検討したのと同様、本件発明5は、相違点2の点で、甲1の1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえず、また、当業者の予測を超える効果を奏すると認められる。 よって、本件発明5は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第1号証の1に記載された事項及び本件出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。 (5)本件発明2~4及び6~18について 請求項1又は5を直接的又は間接的に引用する本件発明2~4及び6~18は、本件発明1又は5の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(3)又は(4)において本件発明1又は5について検討したのと同様の理由により、甲第1号証の1に記載された発明、甲第1号証の1に記載された事項及び本件出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。 第5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について 1.申立理由1(新規性)について (1)申立人の主張 申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の主張(A)をし、本件発明は、甲1の1に実質的に開示されており、甲1の1に対して新規性を欠く旨主張している(特許異議申立書35頁16行~41頁16行)。 主張(A) 甲1の1には、本件発明における「ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」の部分以外が明らかに記載されている。 一方、上記文言は記載されていないものの、甲1の1には、甲1の1記載の化合物が高い胆汁酸減少効果を奏することが実質的に示されている。 また、甲1の1には、オデビキシバットを小児の胆汁うっ滞性肝疾患である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症及びアラジール症候群の治療に使用することが記載されているのであるから、本件発明において、オデビキシバットを胆汁うっ滞性肝疾患の小児患者に使用すれば当該患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルが少なくとも約20%減少するというのであれば、甲1の1記載の当該治療でもそのようなレベルの減少が生じることは明らかである。 しかしながら、前記第4 3.(3)アにおいて説示したとおり、本件発明1と甲1発明を対比すると、相違点1及び2の点で実質的に相違するところ、本件発明は、甲1の1に記載された発明とは認められず、申立人の主張する申立理由1は理由がない。 2.申立理由2(進歩性)について (1)申立人の主張 申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の主張(A)をし、本件発明は、甲1の1及び甲2、並びに、本件出願日当時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くものである旨主張している(特許異議申立書41頁17行~50頁最終行)。 主張(A) 本件発明と甲1発明とは、以下の点で相違する。 相違点a:本件発明は「小児」に使用するものであるのに対して、甲1発明は小児に使用することが特定されていない。 相違点b:本件発明は「ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」ものであるのに対して、甲1発明はそのような記載がされていない。 ○相違点aについて 少なくとも、甲1の1記載の、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症及びアラジール症候群は小児疾患であり、本件発明における「小児の胆汁うっ滞性肝疾患」に相当する。また、胆汁うっ滞性肝疾患を抱える患者が痒みの症状を訴えることも当業者の技術常識である。 そして、甲1の1には、そのIBAT阻害効果に基づき、オデビキシバットを用いて進行性家族性肝内胆汁うっ滞症及びアラジール症候群を治療可能であることが示唆されている。 してみると、オデビキシバットを進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、アラジール症候群等の小児の胆汁うっ滞性肝疾患の処置に使用することは容易想到である。 ○相違点bについて 甲1の1には、実施例15において、オデビキシバットが長官からのタウロコール酸(胆汁酸)の吸収を阻害することが示されているから、胆汁うっ滞性肝疾患を患う小児患者において、オデビキシバットが血清中の胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを低減できることは明らかである。 一方、医薬の分野において、所望の効果が得られるように、用法・用量を好適化することは、当業者が通常行うことである。 血清中の胆汁酸又は肝胆汁酸レベルの低減効果が、オデビキシバットの用法・用量に関係することは当業者に自明であるから、少なくとも20%低減するように、オデビキシバットの用法・用量を調節することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。 加えて、甲2には、回腸胆汁酸輸送阻害活性を有する化合物が、胆汁うっ滞に伴う肝障害、特に、原発性胆汁性肝硬変及び原発性硬化性胆管炎等の治療及び予防剤として使用できることを開示している(第2頁18~20行)。そして、甲2の試験例2では、回腸胆汁酸輸送阻害活性を示す様々な化合物の多くが血清胆汁酸又は肝胆汁酸のレベルを約20%以上減少させることが示されている(表6参照) してみると、甲2を踏まえれば、甲1の1において、PFIC、アラジール症候群等の胆汁うっ滞性肝疾患を患う小児患者の治療に(回腸胆汁酸輸送阻害活性を有する)オデビキシバットを使用すると、血清胆汁酸又は肝胆汁酸のレベルが20%以上低減することが予期される。 したがって、甲2を併せて検討すると、相違点2は容易想到である。 (2)甲2に記載の事項 摘記箇所中、下線部は当審合議体が付したものである。 摘記ア 「1.下記の式(1) [図:0001416461000004.jpg] [式中、R1及びR2は、・・・ mは、1又は2の整数である、R3及びR4は・・・ Yは、-NHCS-、-NHCSNH-又は-NHCSO-のいずれかを示す。但し・・・ Z-(N+R5R6R7)nは、・・・。nは、1又は2の整数である。 ・・・ X-はカウンターアニオンを示す。]で表される化合物。 ・・・ 22.請求項1項記載の化合物を有効成分として含有する医薬組成物。 ・・・ 25.該医薬組成物が胆汁うっ滞に伴う肝障害の治療または予防剤である請求項22項記載の医薬組成物。 26.該医薬組成物が原発性胆汁性肝硬変、又は、原発性硬化性胆管炎のいずれかの治療又は予防剤である請求項25項記載の医薬組成物。」(請求の範囲) 摘記イ 「上記課題を解決するために、本発明者らは種々の化合物を合成し、その活性を研究した結果、 下記の式(1)で表される、チオアミド結合及4級アンモニウム置換基を有する新規なベンゾジアゼピン化合物が、高い高脂血症治療及び予防効果を有することを確認し、更に、極めて強力な回腸胆汁酸輸送阻害活性を有し、血中コレステロール低下作用を有することを確認し、コレステロール低下剤として、特に高脂血症、動脈硬化症、シンドロームX等の治療及び予防剤として使用できることを確認した。更に、胆汁うっ滞による肝障害の治療及び予防効果を有することを確認し、胆汁うっ滞に伴う肝障害、特に原発性胆汁性肝硬変及び原発性硬化性胆管炎等の治療及び予防剤として使用できることを確認し、更に、体重減少効果及び脂肪肝治療効果を有することを確認し、肥満及 び脂肪肝の治療及び予防剤として使用できることを確認し、更に、脂肪性肝炎の治療効果及び予防効果を有することを確認し、脂肪性肝炎の治療および予防剤として使用できることを確認した。 すなわち、本発明は、下記の式(1)で表される化合物である。 [図:0001416461000005.jpg] [式中、R1及びR2は、・・・ mは、1又は2の整数である、R3及びR4は・・・ Yは、-NHCS-、-NHCSNH-又は-NHCSO-のいずれかを示す。但し・・・ Z-(N+R5R6R7)nは、・・・。nは、1又は2の整数である。 ・・・ X-はカウンターアニオンを示す。]」(2頁11行~5頁26行) 摘記ウ 「[試験例2] コール酸負荷ラットにおける門脈血中胆汁酸濃度低下作用 本試験例におけるコール酸負荷ラットにおける門脈血中胆汁酸濃度低下作用は、薬理と治療 [JpnPharmacol.Ther.,Vol.24 Suplement,1996,1 03(S-577)-110(S-584)]に記載されている方法に準じて行った。 すなわち、7から9週齢のSD(IGS)系雄性ラットを前日より絶食させ、薬物投与として、 コール酸(200mg/kg)と試験化合物を終濃度0.05%あるいは1%の界面活性剤(商品名:Tween20、BIO-RAD、あるいはHC〇-60、日本ケミカルズ株式会社)を含む蒸留水に溶解、あるいは懸濁し、強制経口投与2時間後に門脈より採血し、血清中の総胆汁酸値を測定して、試験化合物の効果を検討した(n=6)。また、対照群としてコール酸(200mg/kg)のみを負荷した群(n=6)を作成し、同様の処置を行った。胆汁酸の測定は市販キット (商品名:総胆汁酸-テストワコー、和光純薬製)を用いた。試験化合物を用いないコントロールの群の値を100%として一定量の試験化合物を用いた時の胆汁酸値の減少率(%)を求めた。 結果を下記の表6に示す。本発明の化合物は、胆汁酸値の減少示し、優れた胆汁酸再吸収阻害作用を有することを確認し、高脂血症治療及び予防剤として、更には胆汁うっ滞に伴う肝障害の治療薬として有用であることが示された。なお、表6に示した以外の本発明の実施例各化合物に関しても優れた胆汁酸再吸収阻害作用を有することを確認し、高脂血症治療及び予防剤、並びに胆汁うつ滞に伴う肝障害の治療薬として有用であることが示された。 [図:0001416461000006.jpg] [図:0001416461000007.jpg] *)比較例1は、コレスチミド(商品名:コレバイン顆粒70%、三菱東京製薬製)を用いた。 **)比較例2は、WO02/08211に特定的に記載された化合物の中で、最も強い活性を示している化合物5(合成例19);1-{4-[4-(3,3-ジブチル-7-ジメチルアミノ- 1,1一ジオキソ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-べンゾチアゼピン-5-イル)フェノキシメチル]ベンジル}-4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン クロリド (後述の化合物A)を用いた。 #)界面活性剤として、終濃度0.05%のTween20を用いた。 ##)界面活性剤として、終濃度0.1%のHCO-60を用いた。」(302頁7行~306頁8行) (3)当審の判断 ア 本件発明1について 事案に鑑み、申立人の主張する相違点bについてまず検討する。 申立人の主張する相違点bは、前記第4 3.(3)アにおいて、本件発明1と甲1発明を対比して示した相違点2と同じものである。 そして、甲2には、甲2に記載の式(1)の化合物が、回腸胆汁酸輸送阻害活性を有し、ラットにおいて門脈血中胆汁酸濃度低下作用を奏するものであることが記載されている一方、当該化合物をヒトに投与した場合の薬理試験結果については、何ら記載されていない(上記(2)摘記ア、イ、ウ)。 そうすると、前記第4 3.(3)イで説示した理由と同様に、甲1の1及び甲2を合わせて見たとしても、IBAT阻害剤をヒトに投与した場合に、どのような用法・用量で用いると、どのような効果が得られるかについて明らかとはいえず、前記甲1の1及び甲2に記載された事項に基づいて、甲1発明において、「ASBTIは、ASBTIの投与前のレベルと比較して、患者における血清胆汁酸または肝胆汁酸のレベルを少なくとも約20%減少させる」という、所望の効果が得られるように、その用法・用量を最適化することが、当業者が容易に想到し得たとは認められない。 また、本件特許明細書の記載から、本件発明1は、実際にヒトにおいて血清胆汁酸レベルを減少させると共に、忍容性が良好であるという効果を奏するものであることが理解できるものであることは上記第4 3.(3)イ.のとおりであり、当該効果は、甲1の1及び甲2におけるマウス又はラットを用いた薬理試験結果に基づいて、当業者が予測し得たとは認められないから、本件発明1は、当業者の予測を超える効果を奏すると認められる。 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第1号証の1及び甲2に記載された事項及び本件出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではないから、申立人が主張する申立理由2は理由がない。 イ 本件発明2~18について 上記アのとおりであるから、前記第4 3.(4)及び(5)において本件発明2~18について検討したのと同様に、本件発明2~18は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第1号証の1及び甲2に記載された事項及び本件出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではないから、申立人の主張する申立理由2は理由がない。 3.申立理由3(実施可能要件)について (1)申立人の主張 申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の主張(A)~(C)を挙げて、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たさない旨主張している(特許異議申立書51頁1行~54頁7行)。 主張(A) 本件特許明細書では、オデビキシバットを使用した試験は行われておらず、ましてや、「小児の胆汁うっ滞性肝疾患」又は「小児の胆汁うっ滞性肝疾患を抱える小児患者におけるそう痒症」の処置を実際にオデビキシバットを用いて行った薬理試験結果は記載されていないことから、これらの疾患の治療に使用できるか否か不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たさないものである。 主張(B) 本件特許明細書の実施例21~24では、「代替的に以下の化合物が臨床試験の主題となることができる」の文言の後に、オデビキシバットを含む幾つかの化合物が羅列されているものの(【0547】、【0553】、【0559】及び【0562】参照)、本件特許明細書記載の臨床試験において、オデビキシバットが実際に使用された訳ではなく、ましてや、「小児の胆汁うっ滞性肝疾患」又は「小児の胆汁うっ滞性肝疾患を抱える小児患者におけるそう痒症」に対するオデビキシバットの効果が確認された訳でもない。 主張(C) 本件特許の出願当初明細書にオデビキシバットに関する実験データが何ら記載されていないところ、出願当初の明細書の記載が不足していることは明らかであるから、オデビキシバットを使用した試験の結果を後出しすることはできない。 (2)実施可能要件の判断基準 発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たすためには、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。 そして、「物の発明」について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると言えるためには、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項に係る発明の物を作ることができ、かつ、その物を使用できることが必要である。 (3)当審の判断 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例17において、ASBTIである264W94、SC-435、LUM002が、それぞれラットにおいて血清胆汁酸レベルを減少させることが、実施例18において、LUM001を投与することでビーグル犬において血漿胆汁酸の濃度が減少することが記載されており、また、LUM001のヒトへの投与について、実施例19には、健康な成人において、血清胆汁酸の減少と糞便の胆汁酸の増加が見られることが、実施例20には、小児において、絶食時及び食後の血清胆汁酸の減少が見られることが、及び、実施例25には、FIC1疾患又はアラジール症候群の小児患者において、忍容性が良好であることが、それぞれ具体的に開示されている。 そして、本件特許明細書の実施例17及び18において、構造の異なる複数のASBTIが、いずれも実験動物において血清胆汁酸レベルの減少作用を奏することが示されているところ、当該記載から、ASBTIが血清胆汁酸レベルの減少作用を有する点で共通することを当業者は理解し得るといえ、また、実施例19及び20には、ASBTIの1つであるLUM001をヒトの成人又は小児に用いた場合においても、実験動物で得られた結果と同様に、血清胆汁酸レベルが低減し得ることが記載されており、段落【0200】及び実施例21~24には、本件特許の化合物AがLUM001の代替的に用いられることが記載乃至示唆され、化合物AがASBTIであることは、本件出願日における公知の事項であるところ(要すれば、甲1の1参照)、本件特許明細書の上記記載全体を踏まえると、化合物Aが、実施例17~20に記載されたASBTIと同様に、血清胆汁酸の低減作用を有することは、当業者が十分に理解し得るといえる。 そして、本件特許明細書の段落【0327】には、ASBTIが血清胆汁酸レベルの低減により、胆汁うっ滞及び/又は胆汁うっ滞性の疾患を改善し得ることについての作用機序も示されているところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の化合物Aが、「小児の胆汁うっ滞性肝疾患」又は「小児の胆汁うっ滞性肝疾患を抱える小児患者におけるそう痒症」の治療に使用できるように記載されているといえる。 そして、上記のとおりであるから、申立人が主張するように、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、化合物Aを実際に用いた薬理試験結果の記載がないとしても、発明の詳細な説明には、公知のASBTIである化合物Aが、本件特許の疾患の治療に用いられることを当業者が理解できる程度に明確かつ十分に記載されており、申立人の主張する申立理由3は理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700943

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