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特許異議申立

2024-700342

全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池

審判番号
2024-700342
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-539428
登録番号
7371633
請求日
2024年04月15日
審決日
2025年03月27日
公報発行日
2025年09月26日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】日本ゼオン株式会社
  • 【権利者代理人】杉村 憲司
  • 【権利者代理人】杉村 光嗣
  • 【権利者代理人】塚中 哲雄
  • 【権利者代理人】寺嶋 勇太
  • 【異議申立人】中田 覚史
審判長/審判官
  • 審判長 岩間 直純
  • 審判官 ▲高▼橋 徳浩
  • 審判官 須原 宏光
分類
P1651.113-ZDA(H01M) / P1651.121-ZDA(H01M) / P1651.537-ZDA(H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7371633号発明「全固体二次電池用スラリー組成物、固体電解質含有層および全固体二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7371633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、7-12〕、4、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第7371633号の請求項1-3、7-12に係る特許を取り消す。 同請求項4-6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7371633号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2019年8月23日(優先権主張 平成30年8月31日)を国際出願日とする出願であって、令和5年10月23日に特許権の設定登録がされ、令和5年10月31日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。 令和6年 4月15日 :特許異議申立人中田覚史による請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立て 令和6年 6月24日付け:取消理由通知書 令和6年 8月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和6年 9月30日 :特許異議申立人による意見書の提出 令和6年10月28日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和6年12月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和7年 2月20日 :特許異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和6年12月24日の訂正請求の趣旨は、特許第7371633号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記塩基性官能基含有化合物は、分子量が1000以下の化合物であり、」と記載されているのを、「前記塩基性官能基含有化合物は、分子量が1000以下の非環式化合物(但し、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に1級アミノ基を有するものおよびドデシルアミンを除く)であり、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2、3、7~12も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に、 「前記塩基性官能基含有化合物が、アミン類およびニトリル類からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項1~3の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、 「無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物は、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に、 「前記塩基性官能基含有化合物が非環式化合物である、請求項1~4の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、 「無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物は、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5の何れか」と記載されているのを、「請求項5」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6の何れか」と記載されているのを、「請求項1~3の何れか」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項8~12も同様に訂正する。) (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7の何れか」と記載されているのを、「請求項1~3および7の何れか」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9~12も同様に訂正する。) (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8の何れか」と記載されているのを、「請求項1~3、7および8の何れか」に訂正する。(請求項9の記載を引用する請求項10~12も同様に訂正する。) (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10の何れか」と記載されているのを、「請求項1~3および7~10の何れか」に訂正する。(請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。) (9)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~12は、訂正の対象となる請求項1を引用しているものであるから、請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12は一群の請求項を構成する。 本件訂正請求は、一群の請求項〔1~12〕に対して請求されたものである。 (10)別の訂正単位とする求め 訂正後の請求項4、5、6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。 2 訂正の適否についての判断(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否) (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1は、「塩基性官能基含有化合物」について、訂正前の請求項1では「分子量が1000以下の化合物であり」と特定されていたのを、「分子量が1000以下の非環式化合物(但し、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に1級アミノ基を有するものおよびドデシルアミンを除く)であり」と、化合物の構造を特定し、更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 「塩基性官能基含有化合物」が「非環式化合物」であることは、訂正前の請求項5に「前記塩基性官能基含有化合物が非環式化合物である」、願書に添付した明細書の段落【0042】に「塩基性官能基含有化合物は、・・・非環式化合物であることが好ましい。」と記載されている。 また、「(但し、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に1級アミノ基を有するものおよびドデシルアミンを除く)」という限定は、取消理由に関して、請求項に係る発明が甲第1号証及び下記引用文献1に記載された発明と重なるため新規性が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く訂正であり、新たな技術事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1~3の何れかを引用するものであったのを、請求項2、3の引用を削除し、請求項1を引用するものについて、請求項1との引用関係を解消すると共に、訂正前の請求項4に記載された「アミン類およびニトリル類」を、「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4ーメチルイミダゾールおよびイソブチロニトリル」と具体的に特定し、更に限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 願書に添付した明細書の段落【0043】に「そして、塩基性官能基含有化合物としては、・・・イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、イソブチロニトリル、4-メチルイミダゾールが好ましく」と記載されているので、訂正事項2は新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項2は、訂正前の請求項4に係る発明について引用関係を解消すると共に、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項1~4の何れかを引用するものであったのを、請求項2~4の引用を削除し、請求項1を引用するものについて、請求項1との引用関係を解消すると共に、訂正前の請求項5に記載された「非環式化合物」を、「メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」と具体的に特定し、更に限定するものである。 したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 願書に添付した明細書の段落【0043】に「そして、塩基性官能基含有化合物としては、特に限定されることなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、イミダゾール、4-メチルイミダゾール等のアミン類;メタンイミン、エタンイミン等のイミン類;2-エチル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン類;および、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;などが挙げられ」と記載されているので、訂正事項3は新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項3は、訂正前の請求項5に係る発明について引用関係を解消すると共に、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4~8 ア 訂正の目的 訂正事項4~8は、それぞれ、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4~8は、引用請求項数を削減する訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合する。 そして、特許権者から、訂正後の請求項4、5、6についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがあった。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、7~12〕、4、〔5、6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし12に係る発明(以下「本件発明1ないし12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物は、分子量が1000以下の非環式化合物(但し、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に1級アミノ基を有するものおよびドデシルアミンを除く)であり、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項2】 前記塩基性官能基含有化合物の塩基性官能基が、不対電子を有する窒素原子を含む、請求項1に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項3】 前記塩基性官能基含有化合物が、炭素数3以上の炭化水素基を有する、請求項1または2に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項4】 無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物は、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項5】 無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物は、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項6】 前記塩基性官能基含有化合物が1級アミンまたは2級アミンである、請求項5に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項7】 前記溶媒が、ヘキサン、ジイソブチルケトン、酪酸ブチルおよびキシレンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~3の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項8】 前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質を含む、請求項1~3および7の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項9】 電極活物質を更に含む、請求項1~3、7および8の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項10】 導電材を更に含む、請求項9に記載の全固体二次電池用スラリー組成物。 【請求項11】 請求項1~3および7~10の何れかに記載の全固体二次電池用スラリー組成物を用いて形成した、固体電解質含有層。 【請求項12】 請求項11に記載の固体電解質含有層を備える、全固体二次電池。」 第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 当審が令和6年10月28日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 1.(新規性)請求項1-4、6、8、11、12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1-4、6、8、11、12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2.(進歩性)請求項1-4、6-12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-4、6-12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 引用文献1:特開2016-212990号公報(令和6年9月30日提出の特許異議申立人による意見書の公知文献a) 2 引用文献1の記載事項、引用発明 (1)引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様)。 「【0015】 図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、積層した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。固体電解質組成物は、上記固体電解質層の成形材料として好ましく用いることができ、電極活物質層用組成物は、上記負極活物質層、正極活物質層の成形材料として好ましく用いることができる。」 「【0030】 本発明においては、固体電解質層は硫化物系固体電解質を含有する。また、正極活物質層および負極活物質層の各層は、なかでも硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。硫化物系固体電解質は総じて酸化物系固体電解質に比べてより硬度が低いため、全固体二次電池において界面抵抗の上昇を生じにくく、本発明を適用することにより、その対応として効果がより顕著になる。 上記無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」 「【0082】 分散剤は、分子量180以上3,000未満であって、かつ、下記官能基群(I)から選択される少なくとも1種の官能基と、炭素数8以上のアルキル基または炭素数10以上のアリール基とを有する化合物である。」 「【0084】 官能基群(I)において、酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、塩基性窒素原子を有する基としては、アミノ基、ピリジル基などが挙げられる。・・・ 官能基群(I)のなかでも酸性基、塩基性窒素原子を有する基、シアノ基が好ましく、より好ましくは酸性基である。酸性基のなかでもカルボキシ基が最も好ましい。」 「【0086】 炭素数8以上のアルキル基としては、炭素数8以上50以下のアルキル基が好ましく、炭素数8以上30以下のアルキル基がより好ましく、炭素数8以上20以下のアルキル基がさらに好ましく、炭素数8以上18以下のアルキル基が特に好ましい。 具体的には、ノルマルオクチル基、ノルマルデシル基、ノルマルドデシル基、ノルマルテトラデシル基、ノルマルヘキサデシル基、ステアリル基、ラウリル基、リノール基、リノレン基、2-エチルヘキシル基、2-エチルオクチル基、2-エチルドデシル基、ポリエチレングリコールモノメチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロドデシル基等が挙げられる。 【0087】 これらの中でも、ノルマルオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノルマルノニル基、ノルマルデシル基、ノルマルウンデシル基、ノルマルドデシル基、ノルマルテトラデシル基、及びノルマルオクタデシル基(ステアリル基)が好ましい。」 「【0142】 (分散媒体) 本発明においては、各層の成形材料として用いられる固体電解質組成物が、上記の各成分を分散させる分散媒体を含有していてもよい。分散媒体の具体例としては、例えば、下記の溶媒が挙げられる。 ・・・ 【0145】 ケトン化合物溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。 【0146】 芳香族化合物溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンが挙げられる。 【0147】 脂肪族化合物溶媒は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンが挙げられる。」 「【0163】 (2)固体電解質組成物(K-2)~(K-6)および(HK-1)の調製 固体電解質組成物(K-1)の調製において、組成を表1に示すように変更したこと以外は、固体電解質組成物(K-1)と同様にして、固体電解質組成物(K-2)~(K-6)および(HK-1)を調製した。 【0164】 【表1】 [図:0001426810000001.jpg] 【0165】 <表の注釈> ・LLT:Li0.33La0.55TiO3(平均粒径3.25μm) ・Li-P-S:上記で合成したLi-P-S系ガラス ・B-1:PVdF-HFP(ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体) アルケマ(株)社製 質量平均分子量10万 ・B-2:SBR(スチレンブタジエンゴム) アルドリッチ(株)社製 質量平均分子量15万 ・B-3:アクリル系ポリマー(メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体)(ラジカル重合品、開始剤:V-601(和光純薬(株)製)、モノマー構成比:メタクリル酸メチル70モル%、アクリル酸ブチル30モル%) ・B-4:ウレタン系ポリマー(メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)-ブタンジオール-ポリエチレングリコール1000の共重合体)(重縮合品、開始剤:ネオスタンU-600(日東化成(株)製)、モノマー構成比:メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)50モル%、ブタンジオール25モル%、ポリエチレングリコール1000 25モル%) ・B-5:アクリル系樹脂微粒子:テクポリマーMBX-5(商品名、平均粒子径5μm、積水化成品工業(株)社製) ・B-6:ウレタン系樹脂微粒子:ダイミックビーズUCN-8070CM(商品名、平均粒子径7μm、大日精化(株)社製) 」 「【0176】 -全固体二次電池用電極シートの製造- 上記で製造した二次電池用正極シートの正極活物質層の上に、上記で調製した固体電解質組成物(K-1)を、クリアランスが調節可能なアプリケーターにより塗布し、80℃で1時間加熱した後、さらに110℃で1時間加熱し、厚み10μmの固体電解質層を形成した。その後、上記で調製した二次電池負極用組成物(S-1)を、乾燥後の固体電解質層上にさらに塗布し、80℃で1時間加熱後、さらに110℃で1時間加熱し、厚み100μmの負極活物質層を形成した。負極活物質層上に厚み20μmの銅箔(負極側の集電体)を載置し、ヒートプレス機を用いて、固体電解質層及び負極活物質層が任意の密度になるように加熱及び加圧し、下記表4に示す試験No.101の全固体二次電池用電極シートを製造した。 試験No.101の全固体二次電池用電極シートの製造において、組成物および膜厚を表4に示すように変更したこと以外は、試験No.101の全固体二次電池用電極シートと同様にして、試験No.102~106およびc11~c12の全固体二次電池用電極シートを製造した。 全固体二次電池用電極シートの層構造を図1に示す。全固体二次電池用電極シートは、銅箔/負極活物質層/固体電解質層/二次電池用正極シート(正極活物質層/アルミ箔)の積層構造を有している。 【0177】 -全固体二次電池の製造- 上記で製造した全固体二次電池用電極シートを直径14.5mmの円板状に切り出し、図2に示すように、スペーサーとワッシャーを組み込んだステンレス製の2032型コインケース14に入れて、トルクレンチで8ニュートンメートル(N・m)の力で締め付け、下記表4に記載の試験No.101~106およびc11~c12の全固体二次電池を製造した。」 ここで、【0163】、【0164】(表1)、【0165】の記載より、固体電解質組成物(K-5)は、Li-P-S系ガラス9.5質量部、アクリル系樹脂微粒子0.4質量部、ドデシルアミン0.1質量部、オクタン15質量部とを含むものであることが解る。 また、【0015】の記載より、固体電解質組成物は全固体二次電池用であることが解る。 (2)引用発明 固体電解質組成物(K-5)に着目すると、上記記載事項より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「Li-P-S系ガラス9.5質量部、アクリル系樹脂微粒子0.4質量部、ドデシルアミン0.1質量部、オクタン15質量部とを含む、全固体二次電池用固体電解質組成物(K-5)。」 3 当審の判断 (1)本件発明1 ア 対比 本件発明1と引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「Li-P-S系ガラス」、「アクリル系樹脂微粒子」、「ドデシルアミン」、「オクタン」は、それぞれ、本件発明1の「無機固体電解質」、「バインダー」、「塩基性官能基含有化合物」、「溶媒」に相当する。 (イ)引用発明の「ドデシルアミン」の分子量は185.4である。また、分子式がCH3(CH2)11NH2 であるから、主鎖の片端に1級アミノ基を有する非環式化合物である。 したがって、本件発明1と引用発明は、「前記塩基性官能基含有化合物は、分子量が1000以下の非環式化合物(但し、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に1級アミノ基を有するものを除く)」である点で共通する。 但し、塩基性官能基含有化合物で分子量が1000以下の非環式化合物について、本件発明1は「(但し、ドデシルアミンを除く)」のに対して、引用発明の「ドデシルアミン」である点で相違する。 (ウ)引用発明は「ドデシルアミン」の含有量が、「Li-P-S系ガラス」100質量部当たり0.01質量部(ドデシルアミン0.1質量部/Li-P-S系ガラス9.5質量部)である。 したがって、引用発明の「ドデシルアミン」の含有量は、本件発明1の「前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である」に含まれる。 (エ)引用発明の「全固体二次電池用固体電解質組成物(K-5)」は、本件発明1の「全固体二次電池用スラリー組成物」に相当する。 すると、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物は、分子量が1000以下の非環式化合物(但し、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に1級アミノ基を有するものを除く)であり、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。」 (相違点1) 塩基性官能基含有化合物で分子量が1000以下の非環式化合物について、本件発明1は「(但し、ドデシルアミンを除く)」のに対して、引用発明の「ドデシルアミン」である点。 イ 判断 第29条第2項について 上記相違点1について検討する。 引用文献1には、分散剤は官能基群(I)から選択される少なくとも1種の官能基と、炭素数8以上のアルキル基とを有する化合物であることが記載され(【0082】)、官能基群(I)において、塩基性窒素原子を有する基としては、アミノ基が示されている(【0084】)。 また、炭素数8以上のアルキル基としては、ノルマルオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノルマルノニル基、ノルマルデシル基、ノルマルウンデシル基、ノルマルドデシル基、ノルマルテトラデシル基、及びノルマルオクタデシル基(ステアリル基)が好ましいことが記載されている(【0086】、【0087】)。 そうすると、引用発明の「ドデシルアミン」を、ドデシルアミンと類似の特性を有する、アミノ基とノルマルテトラデシル基等を有する化合物で置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、上記相違点1に係る構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得たことである。 よって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2、3 第29条第2項について 本件発明1で検討した、引用発明の「ドデシルアミン」を置換したアミノ基とノルマルテトラデシル基を有する化合物は、不対電子を有する窒素原子を含んでおり、炭素数3以上である。 したがって、本件発明2、3は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明4 ア 対比 本件発明1と引用発明との対比を踏まえると、本件発明4と引用発明との相違点は以下のとおりである。 (相違点2) 塩基性官能基含有化合物について、本件発明4は「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、引用発明の「ドデシルアミン」である点。 イ 判断 a 第29条第1項第3号について 本件発明4と引用発明とは相違点2を有しているので、本件発明4は引用文献1に記載された発明でない。 b 第29条第2項について 上記相違点2について検討する。 引用文献1には、分散剤は炭素数8以上のアルキル基または炭素数10以上のアリール基とを有する化合物であることが記載されている(【0082】)。 しかしながら、本件発明4の「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリル」は、アルキル基の炭素数が3以下である。 そうすると、引用発明において「ドデシルアミン」に換えて、炭素数8以上のアルキル基を有する化合物にすることは想定し得るが、アルキル基の炭素数が3以下の上記相違点2に係る構成を得ることは想定できず、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明4は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明6 ア 対比 本件発明1と引用発明との対比を踏まえると、本件発明6と引用発明との相違点は以下のとおりである。 (相違点3) 塩基性官能基含有化合物について、本件発明6は「メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、引用発明の「ドデシルアミン」である点。 イ 判断 a 第29条第1項第3号について 本件発明6と引用発明とは相違点3を有しているので、本件発明6は引用文献1に記載された発明でない。 b 第29条第2項について 上記相違点3について検討する。 本件発明6の「メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」は、アルキル基の炭素数が3以下である。 したがって、本件発明4と同様な理由により、上記相違点3に係る構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明6は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明7 第29条第2項について 引用文献1には分散媒体として、ヘキサン(【0147】)、ジイソブチルケトン(【0145】)、キシレン(【0146】)を用いることが記載されている。 したがって、本件発明7は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (6)本件発明8 第29条第2項について 引用発明の「Li-P-S系ガラス」は、硫化物系無機固体電解質である。 したがって、本件発明8は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (7)本件発明9、10 第29条第2項について 引用文献1には、正極活物質層および負極活物質層の各層は、硫化物系固体電解質を含有することが好ましいと記載されている(【0030】)。 そうすると、引用発明の「固体電解質組成物(K-5)」に電極活物質を含ませて、正極活物質層や負極活物質層に用いることは当業者が容易になし得ることである。 また、正極活物質層や負極活物質層に導電材を含有させることは、例示するまでもなく周知の技術である。 したがって、本件発明9、10は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (8)本件発明11、12 第29条第2項について 引用文献1には、固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成し、全固体二次電池を製造することが記載されている(【0176】、【0177】)。 したがって、本件発明11、12は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (9)小括 以上のとおりであるから、本件発明1ないし3、7ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 また、当該取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由により、本件発明4、6に係る特許を取り消すことはできない。 第5 取消理由通知(決定の予告)等において採用しなかった特許異議申立理由等について 1 訂正前の請求項4-6に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 (1)申立理由1 請求項4-6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、 請求項4、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、 請求項4-6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項4-6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2 請求項4-6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、 請求項4-6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、 請求項4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4-6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3 請求項4-6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項4-6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2014-241240号公報 甲第2号証:特開2018-88306号公報 甲第3号証:国際公開第2020/75749号 2 引用文献の記載事項、引用発明 (1)甲第1号証に記載された発明 実施例の増粘物質Dに着目すると、甲第1号証(【0008】、【0040】-【0043】等)には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「硫化物固体電解質、バインダー、1,8-オクタンジアミン、及び、溶媒であるペプタンを含み、 硫化物固体電解質1000mgに対して、1,8-オクタンジアミンを10mg混合した、硫化物全固体電池用ペースト状組成物。」 (2)甲第2号証に記載された発明 固体電解質組成物S-4に着目すると、甲第2号証(【0016】、【0018】、【0144】、【0149】等)には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「硫化物系無機固体電解質(A)と、バインダー(D)と、アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製))と、分散媒(C)とを含み、 硫化物系無機固体電解質(A)0.8質量部に対して、アミン系酸化防止剤を0.008質量部混合した、全固体二次電池用固体電解質組成物。」 3 当審の判断 (1)申立理由1(第29条第1項第3号)、申立理由2(第29条第2項)について ア 甲第1号証に記載された発明について (ア)本件発明4 a 対比 本件発明4と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。 (a)甲1発明の「硫化物固体電解質」、「1,8-オクタンジアミン」、「硫化物全固体電池用ペースト状組成物」は、それぞれ、本件発明4の「無機固体電解質」、「塩基性官能基含有化合物」、「全固体二次電池用スラリー組成物」に相当する。 但し、塩基性官能基含有化合物について、本件発明4は「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、甲1発明は「1,8-オクタンジアミン」である点で相違する。 (b)甲1発明の「硫化物固体電解質1000mgに対して、1,8-オクタンジアミンを10mg混合」することは、本件発明4の「前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である」ことに含まれる。 すると、本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。」 (相違点1a) 塩基性官能基含有化合物について、本件発明4は「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、甲1発明は「1,8-オクタンジアミン」である点。 b 判断 (a)第29条第1項第3号について 本件発明4と甲1発明とは相違点1aを有しているので、本件発明4は甲第1号証に記載された発明でない。 (b)第29条第2項について 上記相違点1aについて検討する。 甲第1号証には「S1で使用する増粘物質は、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に官能基を有し、この官能基は、ベンゾイルオキシ基、ベンゾイル基、エポキシ基、及び、1級アミノ基からなる群より選択されている。」(【0015】)と記載されている。 しかしながら、甲1発明の「1,8-オクタンジアミン」の官能基を上記の示唆に従い置換しても、上記相違点1aに係るイソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルを得ることはできない。 更に、甲第1号証は、「しかしながら、増粘剤を使用することなく作製した、薄膜化の観点から特定された濃度の硫化物固体電解質を含む組成物は、粘度が不十分であるため、固体電解質層作製時に金属箔の外側にはみ出て無駄になる硫化物固体電解質が増大したり、固体電解質層を狙った形態に形成することが困難になりやすかったりする虞があった。」(【0005】)、「増粘物質を用いない場合には、ペースト状組成物が塗工領域からはみ出すことが多いが、増粘物質Aを用いて作製したペースト状組成物は、塗工領域からはみ出すことなく塗工することができた。」(【0049】)と記載されているように、塗工領域からのはみ出しを防止するために、増粘物質を用いるのであるから、本件発明4のように塗工時のレベリング性に着目し、塩基性官能基含有化合物の中から上記のイソプロピルアミン等を選択することは、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 また、甲第3号証には、無機固体電解質と組み合わせて用いるバインダーとして([0007])、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及び(メタ)アクリルニトリル化合物から選択される少なくとも2種の(メタ)アクリル化合物を重合して得られるポリマーが記載されているにすぎない([0084])。 よって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明5 a 対比 本件発明4と甲1発明との対比を踏まえると、本件発明5と甲1発明との相違点は以下のとおりである。 (相違点2a) 塩基性官能基含有化合物について、本件発明5は「メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、甲1発明は「1,8-オクタンジアミン」である点。 b 判断 (a)第29条第1項第3号について 本件発明5と甲1発明とは相違点2aを有しているので、本件発明5は甲第1号証に記載された発明でない。 (b)第29条第2項について 上記相違点2aについて検討する。 甲第1号証には「S1で使用する増粘物質は、2価の有機基である主鎖及び該主鎖の両端に官能基を有し、この官能基は、ベンゾイルオキシ基、ベンゾイル基、エポキシ基、及び、1級アミノ基からなる群より選択されている。」(【0015】)と記載されている。 しかしながら、甲1発明の「1,8-オクタンジアミン」の官能基を上記の示唆に従い置換しても、上記相違点2aに係るメチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルを得ることはできない。 更に、甲第1号証は、塗工領域からのはみ出しを防止するために、増粘物質を用いるのであるから(【0005】、【0049】)、本件発明5のように塗工時のレベリング性に着目し、塩基性官能基含有化合物の中から上記のメチルアミン等を選択することは、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明6 本件発明5を引用する本件発明6は、本件発明5の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明5と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明でない。また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、上記のように甲第3号証には、無機固体電解質と組み合わせて用いるバインダーとして、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物及び(メタ)アクリルニトリル化合物から選択される少なくとも2種の(メタ)アクリル化合物を重合して得られるポリマーが記載されているにすぎないので、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 甲第2号証に記載された発明について (ア)本件発明4 a 対比 本件発明4と甲2発明を対比すると、次のことがいえる。 (a)甲2発明の「硫化物系無機固体電解質(A)」、「バインダー(D」、「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製))」、「分散媒(C)」、「全固体二次電池用固体電解質組成物」は、それぞれ、本件発明4の「無機固体電解質」、「バインダー」、「塩基性官能基含有化合物」、「溶媒」、「全固体二次電池用スラリー組成物」に相当する。 但し、塩基性官能基含有化合物について、本件発明4は「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、甲2発明は「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製))」である点で相違する。 (b)甲2発明の「硫化物系無機固体電解質(A)0.8質量部に対して、アミン系酸化防止剤を0.008質量部混合」することは、本件発明4の「前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である」ことに含まれる。 すると、本件発明4と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、 前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。」 (相違点1b) 塩基性官能基含有化合物について、本件発明4は「イソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、甲2発明は「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製))」である点。 b 判断 (a)第29条第1項第3号について 本件発明4と甲2発明とは相違点1bを有しているので、本件発明4は甲第2号証に記載された発明でない。 (b)第29条第2項について 上記相違点1bについて検討する。 甲第2号証には「アミン系酸化防止剤として、例えば、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン等の芳香族アミンが挙げられる。」(【0048】)と記載されている。 しかしながら、甲2発明の「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製)」を上記の示唆に従い1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン等に置換しても、上記相違点1bに係るイソプロピルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、4-メチルイミダゾールおよびイソブチロニトリルを得ることはできない。 更に、甲2発明の「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製)」は酸化防止剤であるから、本件発明4のように塗工時のレベリング性に着目し、塩基性官能基含有化合物の中から上記のイソプロピルアミン等を選択することは、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明5 a 対比 本件発明4と甲2発明との対比を踏まえると、本件発明5と甲2発明との相違点は以下のとおりである。 (相違点2b) 塩基性官能基含有化合物について、本件発明5は「メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物」であるのに対して、甲2発明は「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製))」である点。 b 判断 第29条第2項について 上記相違点2bについて検討する。 甲第2号証には「アミン系酸化防止剤として、例えば、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン等の芳香族アミンが挙げられる。」(【0048】)と記載されている。 しかしながら、甲2発明の「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製)」を上記の示唆に従い芳香族アミンに置換しても、上記相違点2bに係るメチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メタンイミン、エタンイミン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびイソブチロニトリルを得ることはできない。 更に、甲2発明の「アミン系酸化防止剤(アデカスタブLA-52(商品名、ADEKA社製)」は酸化防止剤であるから、本件発明5のように塗工時のレベリング性に着目し、塩基性官能基含有化合物の中から上記のメチルアミン等を選択することは、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件発明6 本件発明5を引用する本件発明6は、本件発明5の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明5と同様に上記相違点2bを有しており、甲第2号証に記載された発明でない。また、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)申立理由3(第36条第6項第1号)について ア 特許異議申立人の主張 本件特許発明1は、「無機固体電解質」、「バインダー」、「分子量が1000以下の塩基性官能基含有化合物」、「溶媒」の用語、及び「無機固体電解質と塩基性官能基含有化合物の量比のパラメータ」で特定されているが、その効果が示される実施例では、それぞれの用語に対応する化合物は、ごく一部であり、また、「無機固体電解質と塩基性官能基含有化合物の量比」だけでなく、その他のバインダー等の成分との量比も限られたものである。したがって、本件特許発明1、およびこれを引用する本件特許発明2-12は、課題を解決できると当業者が認識し得るように発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものではない。(特許異議申立書28頁) イ 当審の判断 発明の詳細な説明の「記従来の全固体二次電池用スラリー組成物には、流動性を高めて塗工時のレベリング性を向上させると共に、スラリー組成物を用いて形成した固体電解質層や電極合材層等の固体電解質を含有する層(以下、「固体電解質含有層」と称する。)のイオン伝導性を高めるという点において改善の余地があった。」(【0007】)の記載からすると、本件特許の課題は、塗工時のレベリング性を向上させること、及び固体電解質含有層のイオン伝導性を高めることである。 そして、発明の詳細な説明に「無機固体電解質と、バインダーと、所定量の塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含むスラリー組成物が、流動性が高くて塗工時のレベリング性に優れていると共に、イオン伝導性に優れる固体電解質含有層を形成可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。」(【0009】)、「[含有量] なお、スラリー組成物中における塩基性官能基含有化合物の含有量は、無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上5質量部以下であることを必要とし、・・・2質量部以下であることが好ましく、・・・塩基性官能基含有化合物の含有量が上記下限値以上であれば、無機固体電解質の分散性を高め、スラリー組成物の塗工時のレベリング性を向上させることができる。また、塩基性官能基含有化合物の含有量が上記上限値以下であれば、固体電解質含有層に含まれている成分が劣化するのを抑制し、固体電解質含有層に良好なイオン伝導性を発揮させることができる。」(【0047】)と記載されているように、無機固体電解質と、バインダーと、無機固体電解質100質量部当たり0.005質量部以上2質量部以下である塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含むスラリー組成物が、スラリー組成物の塗工時のレベリング性を向上させ、且つ固体電解質含有層に良好なイオン伝導性を発揮させることが解る。さらに、複数種類の塩基性官能基含有化合物を用い、その配合量を変化させた実施例により、レベリング性び向上と良好なイオン伝導性が確認されている(【0081】、表1)。 そうすると、発明の詳細な説明には、無機固体電解質と、バインダーと、無機固体電解質100質量部当たり0.005質量部以上2質量部以下である塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含むスラリー組成物により、上記課題を解決できることが記載されているといえる。 したがって、「無機固体電解質と、バインダーと、塩基性官能基含有化合物と、溶媒とを含み、」「前記塩基性官能基含有化合物の含有量が、前記無機固体電解質100質量部当たり、0.005質量部以上2質量部以下である、全固体二次電池用スラリー組成物。」と特定される本件特許発明4-6は、上記課題を解決するための手段が反映されているといえる。 よって、本件特許発明4-6は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲であるので、発明の詳細な説明に記載したものである。 よって、上記主張を採用することができない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由1-3によって、本件発明4-6に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1-3、7-12に係る特許は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-3、7-12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1-3、7-12に係る特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。 また、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項4-6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項4-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700342

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