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特許異議申立

2025-700175

積層体および包装体

審判番号
2025-700175
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-153237
登録番号
7540984
請求日
2025年02月07日
審決日
2026年01月13日
公報発行日
2026年02月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】藤森工業株式会社
  • 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】貞廣 知行
  • 【異議申立人】鈴木 多香子
審判長/審判官
  • 審判長 八木 誠
  • 審判官 田口 傑
  • 審判官 長谷川 一郎
分類
P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7540984号発明「積層体および包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7540984号の請求項1~10に係る特許を維持する。

理由

理 由 1 手続の経緯 特許第7540984号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和3年9月21日を出願日とするものであって、令和6年8月19日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和6年8月27日発行)がされ、その後、その特許について、令和7年2月7日に特許異議申立人鈴木多香子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 2 本件特許発明 本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂から形成されたシーラント層と、ポリオレフィン系樹脂から形成された基材層と、を有する積層体であって、前記積層体を厚さ方向に貫通することなく、前記基材層の厚さ方向の一部をレーザーの照射により除去した切れ目が形成されており、前記基材層の側から、前記シーラント層に隣接する層の厚さ方向の一部まで前記切れ目が形成されており、前記基材層の少なくとも一部が、前記レーザーの吸収剤を含有し、 前記基材層は、前記積層体の厚さ方向において、前記シーラント層に近い側に配置された第1基材層と、前記シーラント層から遠い側である第2基材層とを有し、前記第1基材層が、前記シーラント層に隣接する延伸ポリエチレン系樹脂層であり、なおかつ、前記第1基材層が、一軸延伸の方向を前記切れ目の方向と合わせた一軸延伸樹脂層であることを特徴とする積層体。 【請求項2】 前記ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。 【請求項3】 前記シーラント層の少なくとも一部が、前記レーザーの吸収剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。 【請求項4】 前記シーラント層が前記積層体の最内層となるときの反対側である前記積層体の最外面のうち、少なくとも前記切れ目を形成する箇所に、前記レーザーの吸収剤を含有する塗布層または印刷層が形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。 【請求項5】 前記基材層において、ポリエチレン系樹脂層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体層と共押出により積層されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。 【請求項6】 前記基材層の前記シーラント層側の面に、金属蒸着層が形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。 【請求項7】 前記第1基材層の厚さが40μm以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。 【請求項8】 前記シーラント層と前記基材層とが前記レーザーを吸収する接着層を介して積層されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。 【請求項9】 請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体から形成された包装体。 【請求項10】 詰め替え用パウチであることを特徴とする請求項9に記載の包装体。」 3 申立理由の概要 申立人が主張する申立理由は、次のとおりである。 (1)進歩性 本件発明1~10は、甲第1号証~甲第5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)実施可能要件 本件発明1~10について、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 (3)サポート要件 本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 (4)証拠方法 甲第1号証:特開2020-203408号公報 甲第2号証:特表2018-505266号公報 甲第3号証:特開2018-34841号公報 甲第4号証:特開2021-75289号公報 甲第5号証:特開平7-291349号公報 以下、「甲第1号証」を「甲1」といい、他も同様にいう。 4 当審の判断 (1)進歩性について ア 甲1について (ア)甲1に記載された事項 甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与し、「・・・」は文章の省略を表す。以下同様。)。 「【0027】 本発明のフィルムは、白色顔料を含む。これにより、フィルム上に画像を形成した場合における、該画像の視認性を向上することができる。また、本発明のフィルムを用いて作製される包装袋に充填される内容物を隠蔽することができる。また、フィルムの遮光性を向上することができる。 さらに、このような構成のフィルムは、白色顔料を含むインキにより背景層を形成する必要がない。そのため、積層体とした場合の層間のラミネート強度の低下や、フィルムの手切れ性の低下をもたらすことがないため、好ましい。 【0028】 白色顔料としては、例えば、チタン白(酸化チタン(IV))、亜鉛華(酸化亜鉛)、リトポン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、可視領域に特定の吸収を持たず、屈折率が高いため、酸化チタンが好ましい。基材は、これら白色顔料を2種以上含んでいてもよい。」 「【0078】 (包装袋) 本発明の包装袋は、上記フィルムであって、電子線処理が一方の面のみに施されたフィルムにより構成されることを特徴とする。 【0079】 包装袋20の形状は、特に限定されるものではなく、図3に示すように、袋状の形状を有するスタンドパウチとしてもよい。 また、一実施形態において、本発明の包装袋30は、内容物が、洗剤やシャンプーなどといった、液体や粘調体や粉末である場合、図4に示されるような注出用ノズル部31を備えるスタンドパウチであってもよい。 また、開封容易性の観点から、図4に示されるような、包装袋30が内側に湾曲した湾曲部32を備えていてもよい。 さらに、レーザー光線などにより形成される切り取り部33を備えていてもよい。」 「【0087】 (積層体) 本発明の積層体50は、図6に示すように、基材として、上記フィルム10と、シーラント層51とを備える。 なお、フィルム10の一方の面にのみ電子線照射処理が施されている場合、フィルムの電子線照射面が積層体の最表面となるように基材は設けられる。 本発明の積層体において、シーラント層はフィルム(基材)と同一の材料、すなわち、ポリエチレンまたはポリプロピレンにより構成されており、これにより、積層体のリサイクル性を向上することができる。 【0088】 また、本発明の積層体50は、図7に示すように、基材10とシーラント層51との間に、中間層52を備えることができる。 さらに、本発明の積層体50は、任意の層間、例えば、図6に示すように基材10と、シーラント層51との間に、接着剤層53を備えることができる。 【0089】 (シーラント層) 一実施形態において、シーラント層は、フィルム(基材)と同一材料、すなわち、ポリエチレンまたはポリプロピレンから構成されることを特徴とする。これにより、該積層体のリサイクル性を向上することができる。」 「【0147】 (中間層) 一実施形態において、本発明の積層体は、中間層として、ポリエチレンまたはポリプロピレンにより構成される層を備える。 【0148】 また、一実施形態において、中間層は、上記白色顔料を含んでいてもよい。・・・ 【0149】 中間層は、延伸フィルムにより構成されていてもよく、一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもよく、好ましい延伸倍率については上記した通りである。 また、中間層は、ポリエチレンまたはポリプロピレンを溶融押出することにより形成した押出樹脂層であってもよい。」 (イ)甲1の記載から認定される事項 上記(ア)より、【0089】における「フィルム(基材)」との記載からみて、「基材10」と「フィルム」は同じ部材を指すものと認められる。 (ウ)甲1に記載された発明 上記(ア)、(イ)より、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。なお、括弧内は主な参照箇所である。)。 「基材10とシーラント層51との間に、中間層52を備える積層体50であって、(【0088】) シーラント層51は、基材10と同一材料、すなわち、ポリエチレンまたはポリプロピレンから構成され、(【0089】、(イ)) レーザー光線などにより形成される切り取り部33を備え、(【0079】) 基材10は、白色顔料としてチタン白(酸化チタン(IV))を含み、(【0027】、【0028】、(イ)) 積層体は、中間層として、ポリエチレンまたはポリプロピレンにより構成される層を備え、(【0147】) 中間層は、一軸延伸フィルムにより構成された、(【0149】) 積層体50。」 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「基材10」、「シーラント層51」、「積層体50」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「シーラント層」、「積層体」に相当する。 甲1発明における「シーラント層51」は、「基材10と同一材料、すなわち、ポリエチレンまたはポリプロピレンから構成され」ており、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」はポリオレフィン系樹脂であるから、甲1発明の「積層体50」は、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂から形成されたシーラント層と、ポリオレフィン系樹脂から形成された基材層と、を有する積層体であ」ることを満たす。 甲1発明の「レーザー光線などにより形成される切り取り部33」は、本件発明1の「レーザーの照射により除去した切れ目」に相当する。 甲1発明の「中間層52」は、「基材10とシーラント層51との間に」備えられたものであり、この積層順を踏まえれば、本件発明1の「シーラント層に近い側に配置された第1基材層」に相当するとともに、甲1発明の「基材10」は、本件発明1の「シーラント層から遠い側である第2基材層」に相当する。そうすると、甲1発明の「基材10」と「中間層52」は、本件発明1の「基材層は、前記積層体の厚さ方向において、前記シーラント層に近い側に配置された第1基材層と、前記シーラント層から遠い側である第2基材層とを有」することを満たす。 以上より、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、また相違する。 <一致点> 「 ポリオレフィン系樹脂から形成されたシーラント層と、ポリオレフィン系樹脂から形成された基材層と、を有する積層体であって、レーザーの照射により除去した切れ目が形成されており、 前記基材層は、前記積層体の厚さ方向において、前記シーラント層に近い側に配置された第1基材層と、前記シーラント層から遠い側である第2基材層とを有する、 積層体。」 <相違点1> レーザーの照射により除去した切れ目について、本件発明1は、「前記積層体を厚さ方向に貫通することなく、前記基材層の厚さ方向の一部をレーザーの照射により除去した切れ目が形成されており、前記基材層の側から、前記シーラント層に隣接する層の厚さ方向の一部まで前記切れ目が形成されて」いるのに対し、甲1発明の「切り取り部33」がどこまで切り取られたものであるかが不明な点。 <相違点2> 本件発明1は、「基材層の少なくとも一部が、前記レーザーの吸収剤を含有」するのに対し、甲1発明は、「基材10は、白色顔料としてチタン白(酸化チタン(IV))を含」むものである点。 <相違点3> 本件発明1は、「前記第1基材層が、前記シーラント層に隣接する延伸ポリエチレン系樹脂層であり、なおかつ、前記第1基材層が、一軸延伸の方向を前記切れ目の方向と合わせた一軸延伸樹脂層である」のに対し、甲1発明は、「中間層として、ポリエチレンまたはポリプロピレンにより構成される層を備え、中間層は、一軸延伸フィルムにより構成され」ているものの、一軸延伸の方向を切れ目の方向と合わせたものであるか不明な点。 (イ)相違点1について 甲2の【0082】には、「言及した通り、多くの適用において、下部ライナー層を損傷または切断することなく、一つ以上のフィルム層および選択的に一つ以上の接着剤層をキスカットすることが好ましい。・・・本発明の一実施例によれば、ラベル組立体110は、キスカットされてフィルム層120および選択的に接着剤130がレーザー光155により切断され、それによってライナー140の損傷および切断を防止し、切断ライン160を形成する。」と記載されている。 つまり、フィルム層をレーザー光によりキスカットするものであるが、フィルム層のどの部分までキスカットされるものかは不明である。また、キスカットする際に下部ライナー層を損傷または切断しないようにするものであって、シーラント層を備えた構成でもないことから、甲1発明における層構成とはその目的及び構成が異なっており、甲2に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けもない。 したがって、甲1発明に甲2に記載された事項を適用して本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 甲3には、「傷加工部15を設ける方法の例としては、図3に示すように、積層シート10のシーラント層側からレーザ光31を照射する。」(【0036】)、「これにより、基材11側からレーザ光を照射する場合と異なり、基材やバリア層などへのダメージを与える事無く、傷加工を施すことが可能となり、またシーラント層14の最上層であるポリオレフィン層13は、レーザ光31に対して透明であるため、ポリオレフィン層13を透過し、色素含有ポリオレフィン層12にのみ傷加工部15を形成することが可能となる。」(【0037】)と記載されている。 つまり、色素含有ポリオレフィン層12にのみ傷加工部15を形成することが可能ではあるが、色素含有ポリオレフィン層12のどの部分まで傷加工を施すものかは不明である。また、「シーラント層側からレーザ光31を照射する」ものであり、かつ「シーラント層14の最上層であるポリオレフィン層13は、レーザ光31に対して透明であるため、ポリオレフィン層13を透過」することから、最上層であるポリオレフィン層13は傷加工が施されないものである。 そうすると、本件発明1でいう「前記基材層の側から、前記シーラント層に隣接する層の厚さ方向の一部まで前記切れ目が形成されて」いる構成を充足するものではない。 したがって、甲1発明に甲3に記載された事項を適用して本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 甲4には、「積層フィルムは、(1)ポリブチレンテレフタレート層(PBT層)/蒸着ポリエチレンテレフタレート層(蒸着PET層)/無延伸ポリプロピレン層(CPP層)、または、(2)蒸着ポリエチレンテレフタレート層(蒸着PET層)/ポリブチレンテレフタレート層(PBT層)/無延伸ポリプロピレン層(CPP層)の層構成を有するものである。」(【0015】)、「積層フィルムには、その中間層(上記(1)の層構成を有する場合には蒸着PET層、上記(2)の層構成を有する場合にはPBT層)の少なくとも一部に切り込み加工部130が形成されている。・・・積層フィルムが上記(1)の層構成を有する場合には、切り込み加工部130は、中間層である蒸着ポリエチレンテレフタレート層を厚み方向に全貫通する切り込みであってもよく、さらに内層(シーラント層)の厚み方向の一部が切断されていてもよい。積層フィルムが上記(2)の層構成を有する場合には、PBT層の厚み方向の一部のみが切断された切り込みであることが好ましく、切り込み加工部130がPBT層の厚み方向の一部のみが切断された切り込みである場合には、その切断の深さは、切断されずに残るPBT層の厚みが例えば2μm以上確保される深さであればよい。」(【0036】)と記載されている。 つまり、中間層の少なくとも一部に切り込み加工部130が形成されているが、中間層に対して内層(シーラント層)とは反対側の層には切り込み加工部130が形成されないものである。 そうすると、本件発明1でいう「前記基材層の側から、前記シーラント層に隣接する層の厚さ方向の一部まで前記切れ目が形成されて」いる構成を充足するものではない。 したがって、甲1発明に甲4に記載された事項を適用して本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 以上のとおり、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項から当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~10について 本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記イ(イ)及び(ウ)で述べたように、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~10も、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 進歩性についてのまとめ よって、進歩性に係る申立理由には、理由がない。 (2)実施可能要件について ア 申立人の主張 申立人の主張は、概略次のとおりである。 どのようにしてシーラント層に隣接する層の厚さ方向の「一部まで」切れ目を形成するのかが明確ではなく、技術的に理解することができないため、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に従って、シーラント層に隣接する層の厚さ方向の一部まで切れ目が形成された積層体を製造しようとしても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要があることは明らかである。 イ 発明の詳細な悦明の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審で付した。「・・・」は省略を示す。以下同様。)。 「【0014】 波長の長いレーザーをフィルムに照射すると、照射された箇所で局所的にフィルムが発熱し、樹脂の一部が除去される。細い幅で樹脂を除去することにより、線状の切れ目が形成される。切れ目は長さ方向に連続した線状でもよく、長さ方向で断続した破線状または点線状でもよい。切れ目の長さ方向が直線状でもよく、曲線状や屈曲状でもよい。 【0015】 ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂は、分子構造が比較的単純なため、赤外線の吸光波長帯が限られており、レーザーのエネルギーを吸収しにくい。しかし、ポリオレフィン系樹脂は融点が比較的低いため、材料にエネルギーが吸収されると、比較的容易に溶融、切断等の加工が可能である。このため、ポリエチレン系樹脂層またはその近傍に、レーザーを吸収する材料を配置することにより、ポリエチレン系樹脂層を容易に加工することができる。 【0016】 従来の積層フィルムでは、PETフィルム等を基材層としたため、PETフィルムがレーザーを吸収することにより、積層フィルムにハーフカット線などの切れ目を容易に形成することができる。しかし、ポリオレフィン系樹脂層を主体とするモノマテリアル材料の場合は、切れ目の位置、深さに応じて、レーザーを吸収する材料を配置する必要がある。 【0017】 次に、図1を参照して、第1実施形態の積層体10について説明する。この積層体10は、ポリオレフィン系樹脂から形成されたシーラント層11と、ポリオレフィン系樹脂から形成された基材層12とが接着層13を介して積層されており、基材層12には、厚さ方向の少なくとも一部をレーザーの照射により除去した切れ目14が形成されている。切れ目14は、基材層12の外面に開口していてもよい。 【0018】 基材層12の少なくとも一部が、レーザー吸収剤を含有することにより、基材層12に切れ目14を形成することができる。基材層12においてレーザー吸収剤を含有する樹脂層は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂から形成することができる。基材層12が2層以上のポリオレフィン系樹脂層を有する場合は、そのうち少なくとも1層が、レーザー吸収剤を含有するポリオレフィン系樹脂層であればよい。切れ目14を設けることにより、刃物を使用しなくても、引き裂きによる易カット性、手切れ性を付与することができる。 【0019】 レーザー吸収剤としては、特に限定されないが、カーボンブラック等の炭素系材料、酸化チタンや酸化鉄等の無機系材料、顔料や染料等の着色性材料、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂材料が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂層にレーザー吸収剤を配合する場合は、レーザー吸収剤を粉末状にして溶融混練してもよい。 【0021】 切れ目14の深さは適宜調節することができ、切れ目14が基材層12の厚さ方向の一部だけに形成されてもよく、切れ目14が接着層13に達してもよい。切れ目14がシーラント層11を貫通しないように、シーラント層11が、レーザー吸収剤を含有しないポリエチレン系樹脂層から形成されてもよい。この場合、レーザー照射によって切れ目14がシーラント層11に達したとき、レーザーがシーラント層11を透過するため、シーラント層11に対する加工を抑制することができる。」 ウ 検討 上記イの記載から、 レーザーをフィルムに照射すると、照射された箇所で局所的にフィルムが発熱し、樹脂の一部が除去されること(【0014】)、 ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂はレーザーのエネルギーを吸収しにくいため、ポリエチレン系樹脂層またはその近傍に、レーザーを吸収する材料を配置することにより、ポリエチレン系樹脂層を容易に加工することができること(【0015】)、 ポリオレフィン系樹脂層を主体とするモノマテリアル材料の場合は、切れ目の位置、深さに応じて、レーザーを吸収する材料を配置する必要があること(【0016】)、 基材層12の少なくとも一部が、レーザー吸収剤を含有することにより、基材層12に切れ目14を形成することができること(【0018】)、 が分かる。そして、当業者であればこれらの記載を踏まえ、形成しようとする切れ目の位置、深さに応じて、レーザー吸収剤を基材層に含有させればよいことが理解できるものといえる。また、その際に過度の試行錯誤を要するものとも認められない。 よって、実施可能要件に係る申立理由には、理由がない。 (3)サポート要件について ア 申立人の主張 申立人の主張は、概略次のとおりである。 本件特許発明の課題解決手段は、基材層の厚さ方向の一部をレーザーの照射により除去した切れ目が形成され、さらに基材層を構成する第1基材層が、シーラント層に隣接する延伸ポリエチレン系樹脂であり、第1基材層が、一軸延伸の方向を切れ目と合わせた一軸延伸樹脂層とすることであると認められる。しかしながら、本件明細書には、基材層の側から、シーラント層に隣接する層の厚さ方向の一部まで切れ目が形成され第1基材層が、シーラント層に隣接する延伸ポリエチレン系樹脂層であり、第1基材層が、一軸延伸の方向を前記切れ目の方向と合わせた一軸延伸樹脂層である積層体が手切れ性に優れることを立証するような実施例が一切記載されていない。 イ 発明の詳細な悦明の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 近年、プラスチック製容器包装の使用後の回収に関して、2種以上の樹脂を含む包装袋は、プラスチック製容器包装としてのリサイクルが難しいという問題がある。リサイクルを容易にするため、単一の樹脂を用いるモノマテリアルの容器包装が提唱されている。単一の樹脂として、ポリエチレン系樹脂は安価で加工も容易であるが、エネルギー線の吸収性が低いため、レーザーを照射しても、ハーフカット線が形成しにくい。 【0005】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、モノマテリアルでありながら、手切れ性に優れる積層体および包装体を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 前記課題を解決するため、本発明は、ポリオレフィン系樹脂から形成されたシーラント層と、ポリオレフィン系樹脂から形成された基材層と、を有する積層体であって、前記積層体を厚さ方向に貫通することなく、少なくとも前記基材層の厚さ方向の一部をレーザーの照射により除去した切れ目が形成されていることを特徴とする積層体を提供する。」 ウ 検討 (ア)本件発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるか否かについて 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (イ)本件発明の解決しようとする課題を解決できるかについて 本件発明の解決しようとする課題について、本件明細書では、「モノマテリアルでありながら、手切れ性に優れる積層体および包装体を提供すること」(【0005】)と記載されている。 そして、この課題の解決に関し、「本発明は、ポリオレフィン系樹脂から形成されたシーラント層と、ポリオレフィン系樹脂から形成された基材層と、を有する積層体であって、前記積層体を厚さ方向に貫通することなく、少なくとも前記基材層の厚さ方向の一部をレーザーの照射により除去した切れ目が形成されていることを特徴とする積層体を提供する。」(【0006】)と記載されている。 ここで、切れ目は他の箇所と比べて薄くなっており強度が下がっているから、切れ目に沿って積層体が切れやすくなること、また、樹脂層を延伸すれば、その延伸方向に沿って切れやすくなることは、ごく一般的な技術常識であることを踏まえれば、「基材層の厚さ方向の一部をレーザーの照射により除去した切れ目が形成され」、「第1基材層が、一軸延伸の方向を前記切れ目の方向と合わせた一軸延伸樹脂層であること」が特定された本件発明は、本件発明の解決しようとする課題を解決できるものであることが明らかである。 よって、サポート要件に係る申立理由には、理由がない。 5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700175

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    同じ当事者: 鈴木 多香子
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    共通の審決分類: 121・B32B、536・B32B、537・B32B
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    共通の審決分類: 121・B32B、536・B32B、537・B32B
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    共通の審決分類: 121・B32B、536・B32B、537・B32B
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