特許異議申立
2025-700169
ピッチコントロール剤
- 審判番号
- 2025-700169
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-054497
- 登録番号
- 7570703
- 請求日
- 2025年02月06日
- 審決日
- 2026年04月28日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社片山化学工業研究所
- 【権利者代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 【異議申立人】中田 義直
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 笹木 俊男
- 分類
- P1651.121-YAA(D21H) / P1651.536-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7570703号発明「ピッチコントロール剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7570703号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7570703号の請求項2~5に係る特許を維持する。
特許第7570703号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7570703号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和4年3月29日を出願日とする特許出願であって、令和6年10月11日に特許権の設定登録がされ、令和6年10月22日に特許掲載公報が発行がされた。
その後の特許異議申立てに関する手続の概要は、以下のとおりである。
令和7年 2月 6日 : 特許異議申立人中田義直(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 7月 1日付け: 取消理由通知書
同年 9月 5日 : 特許権者による意見書の提出
同年12月12日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和8年 2月 6日 : 特許権者による意見書、訂正請求書の提出
同年 3月19日 : 申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和8年2月6日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(4)のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「前記プロピレンオキシドエチレンオキシド付加物が、下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物である、請求項1記載のピッチコントロール剤。」と記載されているのを、「下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含む、ピッチコントロール剤。」と訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~5も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3のいずれか」と記載されているのを、「請求項2又は3」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から3のいずれか」と記載されているのを、「請求項2又は3」と訂正する。
(5)一群の請求項
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとするための訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項1は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1、2の記載に基づくことは明らかであるから、新規事項の追加には該当しない。
また、訂正事項1は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、訂正前の請求項4、5について、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、削除された請求項1を引用しているという不明瞭な状態を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項2~5に係る発明(以下「本件発明2」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含む、ピッチコントロール剤。
【化2】
[図:0001438269000001.jpg]
Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、n1、n2、s1及びs2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、s1+s2が12~20である。
【請求項3】
POとEOとは上記式(2)で表される順番でブロック結合している、請求項2記載のピッチコントロール剤。
【請求項4】
紙の製造工程において、請求項2又は3に記載のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む、ピッチコントロール方法。
【請求項5】
紙の製造工程において、請求項2又は3に記載のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む、紙の製造方法。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、4、5に係る特許に対して、当審において令和7年12月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明1が特定するもののうち、(ア)ステアリルアミンにPOを付加した後、EOが数値範囲の上限の「25」モル添加される場合(m1+m2が25モル、l1+l2が0モルの場合)、及び(イ)ステアリルアミンにPOを付加した後、EOに続いてPOを付加する場合(l1+l2が0でない場合)は、発明の詳細な説明の実施例と比較例の記載から、発明の課題を解決できると認識できない。
よって、本件発明1は、「当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲」を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載されたものではない。本件発明1を引用する本件発明4、5も同様である。
第5 当審の判断
本件訂正により、本件訂正前の請求項1は削除されたため、上記取消理由はその対象が存在しないものとなった。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
申立人は、以下に示す甲第1号証~甲第3号証(以下「甲第〇号証」を「甲〇」等という。)を提出し、本件発明1~5に係る特許は、以下の理由により取り消すべきものである旨を主張する。
(1)申立理由1(甲1、甲2に基づく進歩性)
請求項1~5に係る発明は、下記甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲1、甲3に基づく進歩性)
請求項1、2、4、5に係る発明は、下記甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1には、EO及びAOの平均付加モル数m1+m2+l1+l2が12~25であると記載されており、発明の詳細な説明に記載のもの以外の態様も含まれるが、例えば、AOがPOである場合、EOの付加モル数m1+m2に対して、AOで示されるPOの付加モル数l1+l2はどの範囲まで発明の課題を解決できるのか、発明の詳細な説明の記載及び技術常識を考慮しても当業者は認識できない。
(4)申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項2には、EOの平均付加モル数s1+s2が12~20であると記載されているが、s1、s2のいずれかが0の場合を含む全ての組み合わせで、発明の課題を解決できるのか当業者は認識できない。また、s1が0と仮定した場合、一方が(PO)n1のみで(EO)s1が付加していないことになるが、このような化合物であっても、発明の課題を解決できるのか当業者は理解できない。
(5)申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1、2には、POの平均付加モル数n1+n2が2~4であると規定されているが、本件特許発明の課題であるピッチの分散性を向上させるためにはピッチとの親和性が高いことが重要であり、EOよりも親油性の高いPOを多く含むピッチコントロール剤が望ましいといえるから、EOの付加モル数に比して極めて少ないことの意義が明確でなく、発明の課題を解決できることを当業者は認識できない。
(6)申立理由6(実施可能要件)
本件特許の請求項1、2は、POの平均付加モル数n1+n2を2~4と規定するが、n1とn2が等しくないとき、このようなプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物をどのように製造するのか、出願時の技術常識に基いても当業者は理解できない。
(7)申立人が提出した証拠
甲1:特開2019-143264号公報
甲2:特表2003-505446号公報
甲3:特開昭60-119289号公報
2 当審の判断
(1)引用文献
ア 甲1について
(ア)甲1の記載
甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量10,000以上100,000以下のエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物を有効成分として含有することを特徴とする紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況において、本発明が解決しようとする課題は、紙の製造工程、特に古紙パルプを含む原料から紙を製造する工程において、ピッチ付着防止効果に優れたピッチ抑制剤およびピッチ抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の質量平均分子量を有する特定のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物の3成分を有効成分とするピッチ抑制剤が優れたピッチ付着防止効果を有し、特に古紙由来ピッチに対して優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。」
・「【0016】
本発明で用いられる非イオン界面活性剤として、具体的には、脂肪族アルコールへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル、脂肪酸への付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アミドへの付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸アミド、脂肪族アミンへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルアミン等が挙げられる。上記脂肪族化合物は飽和および不飽和のいずれであってもよい。
付加するアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、これらの混合物等が挙げられる。分子中に含まれるオキシアルキレン基が2種以上であるアルキレンオキサイド付加物においては、ブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
これらの中で、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましく、ピッチ付着防止効果の点から、炭素数10~20の飽和または不飽和の脂肪族アミンに、エチレンオキサイドを5~30モル付加させたもの、プロピレンオキサイドを0~15モル付加させたものが特に好ましい。
炭素数10~20の飽和または不飽和の脂肪族アミンの具体例としては、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等を挙げることができる。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。」
・「【実施例】
・・・
【0026】
実施例および比較例で使用したピッチ抑制剤の配合およびピッチ付着防止試験結果を表1に示す。
【表1】
[図:0001438269000002.jpg]
[注]ECH:エピクロロヒドリン
DMA:ジメチルアミン
Am:アンモニア
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
AA:アクリルアミド
pDADMAC:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド
POASA:ポリオキシアルキレンステアリルアミン(エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミン)
HEDP:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸」
・「【0029】
(実施例5および比較例5,6)
実施例3よりも非イオン界面活性剤の含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例5)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。・・・
【0030】
(実施例6および比較例7,8)
実施例3よりも非イオン界面活性剤の含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例6)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。・・・。」
(イ)甲1に記載の発明
上記(ア)により、甲1には、実施例のピッチ抑制剤に配合されたポリオキシアルキレンステアリルアミン(POASA)に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミンを含むピッチ抑制剤。」
イ 甲2について
(ア)甲2の記載
甲2には以下の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式:
【化1】
[図:0001438269000003.jpg]
〔式中、
Rは6~22個の炭素原子をもつ飽和または不飽和の直鎖状または分枝状脂肪族基であり、n1及びn2の各々は1~50の範囲であって、各鎖中のEO基の総数を表し、m1及びm2の各々は1~10の範囲であって、各鎖中のPO基の総数を表しているが、但し、n1+n2及びm1+m2の双方が少なくとも3であり、各鎖が2個またはそれ以上のEO基を含むときは各鎖中にEO基が2~10個のEO基から成る不連続ブロックとして存在し、各鎖中にPO基が1~10個のPO基から成る不連続ブロックとして存在し、EOがエチレンオキシ、POが1,2-プロピレンオキシを表す〕
で表されるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン脂肪族アミン。」
・「【0001】
(発明の分野)
本発明はアルコキシル化アミン及びこのようなアミンを含有する洗剤組成物に関する。より詳細には本発明はエトキシル化プロポキシル化アミン及び洗剤組成物中におけるそれらの使用に関する。」
・「【0007】
(発明の概要)
エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基が分子中に非ランダムに分布している新規なポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン脂肪族アミンがここに知見された。これらのアルコキシル化アミンは優れた界面活性剤特性を有しており、従って多様な種類の洗剤組成物に有効に含有させ得る。アルコキシル化アミンは、各反応毎に反応生成物がそれぞれ所要平均数のエチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基を含有するようになるまでアルキルアミンをエチレンオキシド及びプロピレンオキシドに交互に反応させることによって製造し得る。
【0008】
(詳細な説明)
本発明のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン脂肪族アミンは以下の一般式:
【0009】
【化3】
[図:0001438269000004.jpg]
を有しており、式中の、Rは6~22個の炭素原子をもつ飽和または不飽和の直鎖状または分枝状脂肪族基であり・・・。EOは“エチレンオキシ”を表し、POは“1,2-プロピレンオキシ”を表す。
【0010】
本発明のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルアミンはまた以下の一般式:
【0011】
【化4】
[図:0001438269000005.jpg]
によって表される。式中のR、EO及びPOは上記の定義と同義であり・・・。
【0012】
これらの一般式をもつ代表的なアルコキシル化アミンは以下の式:
【0013】
【化5】
[図:0001438269000006.jpg]
によって表すことができる。
【0014】
式中、a、b及びcの各々は1.5~10の範囲であり、x、y及びzの各々は1~10(好ましくは1.5~10)の範囲であり、各々は、それぞれEO基の各ブロック及びPO基の各ブロック中のEO基及びPO基の平均数を表し、a+b+c=n、及び、x+y+z=mである(ここにn及びmは式2と同義である)。好ましくはnは30以下、より好ましくは20以下である。
【0015】
好ましくはRは8~22個の炭素原子を有している。適当な脂肪族アミンは18個以下の炭素原子、より好ましくは16個、更に好ましくは14個以下で、少なくとも9個、更に好ましくは10個の炭素原子をもつアルキル基またはアルケニル基を有している。適当なアルコキシル化アミンは脂肪アミン、例えば、ココヤシ、獣脂、硬化獣脂またはオレイル脂肪鎖をもつ脂肪アミンに由来のアルコキシル化アミンである。環境上の理由からは、12個以下の炭素原子をもつ脂肪鎖を有しているアルコキシル化アミンが特に好適である。」
・「【0023】
本発明のアルコキシル化アミンは、極めて低い臨界ミセル濃度をもつ極めて効率的な界面活性剤である。これらのアミンは当業界で公知のアニオン性、非イオン性、カチオン性、両性及び双性の界面活性剤と併用し得る。
【0024】
これらは、洗濯、すべての種類の硬質表面、カーテン・敷物類、皮膚、頭髪などを所期用途とする洗剤組成物に極めて好適に使用され得る。化合物は一般に高い曇り点を有している。本発明の化合物と別の界面活性剤との組合せ、特にアニオン性界面活性剤との組合せは、油汚れの除去を改善しかつ溶解度が増進された生成物を生じる。更に、これらは、低発泡組成物に極めて好適であり、これらのアルコキシル化アミンと少量の脂肪酸セッケンとの組合せは抑泡剤として効果的に作用する。また、化合物は任意の量の水に容易にかつ迅速に溶解し、粘度増加またはゲル形成は全く生じない。最後に、化合物はヒドロトロープとして有用である。これらのヒドロトロープ特性は、使用前または使用中に水で希釈することが必要な濃縮洗剤組成物で特に有効である。」
(イ)甲2に記載の事項
上記(ア)により、甲2には次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「洗剤組成物に含有させる界面活性剤として、R-N-(POx.EOa)2の式(但し、式中、Rは6~22個(好ましくは8~22個)の炭素原子をもつ飽和または不飽和の直鎖状または分枝状脂肪族基であり、POは1,2-プロピレンオキシであり、EOはエチレンオキシであり、aは1.5~10の範囲であり、xは1~10(好ましくは1.5~10)の範囲であり、それぞれEO基の各ブロック及びPO基の各ブロック中のEO基及びPO基の平均数を表す。)等により表されるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン脂肪族アミンを用いること。」
ウ 甲3について
(ア)甲3の記載
甲3には以下の事項が記載されている。
・特許請求の範囲
「
[図:0001438269000007.jpg]
[図:0001438269000008.jpg]
」
・第1ページ右欄第10~11行
「
[図:0001438269000009.jpg]
」
・第2ページ右上欄第19行~左下欄第5行
「
[図:0001438269000010.jpg]
[図:0001438269000011.jpg]
」
・第4ページ
「
[図:0001438269000012.jpg]
」
(イ)甲3に記載の事項
上記(ア)により、表-Iの本発明品5に着目すると、甲3には次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。
「ピッチ付着防止剤として、ポリ(10)オキシプロピレンポリ(6)オキシエチレンラウリルアミンを用いること。」
(2)申立理由1(甲1、甲2に基づく進歩性)について
ア 本件発明2について
(ア)対比
a 甲1発明の「エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミン」は、本件発明2の「アミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物」に相当する。また、甲1発明の「ステアリルアミン」は、炭素数18のアルキル基であるステアリル基とアミノ基(-NH2)が結合した構造を有するから、本件発明2の「式(2)」中の「R-N」で表される「炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基」を含むアルキルアミン又はアルケニルアミンに相当する。そして、甲1発明の「ステアリルアミン」に「エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モルを付加した」ことは、付加したモル数の値が平均値をいうことは明らかといえるから、本件発明2の「式(2)」中のアルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子の2つの結合手に「(PO)n1-(EO)s1」、「(PO)n1-(EO)s1」がそれぞれ結合されており、「POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、n1、n2、s1及びs2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、s1+s2が12~20である」ことと、アルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子の2つの結合手に、オキシプロピレン基とオキシエチレン基がそれぞれ結合されており、オキシプロピレン基の合計の平均付加モル数が2~4であり、オキシエチレン基の合計の平均付加モル数が12~20であることに限り一致する。
b 甲1発明の「ピッチ抑制剤」は、本件発明2の「ピッチコントロール剤」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「アミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含むピッチコントロール剤であって、
炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基を含むアルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子の2つの結合手に、オキシプロピレン基とオキシエチレン基がそれぞれ結合されており、オキシプロピレン基の合計の平均付加モル数が2~4であり、オキシエチレン基の合計の平均付加モル数が12~20である
ピッチコントロール剤。」
<相違点1>
本件発明2は、アルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子の2つの結合手のそれぞれに、オキシプロピレン基が直接付加した後オキシエチレン基が付加しているのに対し、甲1発明は、「ステアリルアミン」の窒素原子に対する「エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モル」の付加順が不明である点。
(イ)判断
a 相違点1についての検討
甲2には、上記(1)イ(イ)のとおり、「洗剤組成物に含有させる界面活性剤として、R-N-(POx.EOa)2の式(但し、式中、Rは6~22個(好ましくは8~22個)の炭素原子をもつ飽和または不飽和の直鎖状または分枝状脂肪族基であり、POは1,2-プロピレンオキシであり、EOはエチレンオキシであり、aは1.5~10の範囲であり、xは1~10(好ましくは1.5~10)の範囲であり、それぞれEO基の各ブロック及びPO基の各ブロック中のEO基及びPO基の平均数を表す。)等により表されるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン脂肪族アミン」(甲2記載事項)が記載されており、脂肪族アミンにPO基、EO基を順に付加した化合物等の開示がある。
しかし、甲2記載事項における「界面活性剤」は「洗剤組成物に含有させる」ものであるから、甲1発明の「ピッチ抑制剤」に含まれる界面活性剤として採用する動機付けを見いだせない。
仮に採用することができたとしても、甲2記載事項の「ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン脂肪族アミン」のPO基、EO基の平均数x、aの数値範囲は、本件発明2の平均付加モル数n1+n2、s1+s2の数値範囲内ではないから、本件発明2の「下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物」には含まれない。また、甲2記載事項は、脂肪族アミンに対するEO基、PO基を順に付加したものをPO基、EO基の順に変更することを教示するものでもない。そのため、甲1発明に甲2記載事項を適用しても、相違点1に係る本件発明2の構成とはならない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
b 申立人の主張の検討
申立人は、特許異議申立書において、甲1発明は、アミンの窒素原子へEOが付加する場合とPOが付加する場合の両方を含み、甲2は、アミンの窒素原子にPOが直接結合している化合物を開示し、両者は技術分野が共通しているから、相違点に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る旨を主張する(18、19ページを参照。)。また、申立人は、令和8年3月19日提出の意見書において、当業者は甲1に記載のPOASAをピッチコントロール剤として使用するにあたり、甲2に記載の一般式2a及び2fのいずれを選択するのかということになり、試行錯誤に近い膨大な試験の必要もなく、単なる選択的又は設計的事項といえるから、一般式2fで表されるアルコキシル化アミンを選択することは、容易になし得る旨を主張する(3、4ページを参照。)。
しかし、甲1発明と甲2記載事項は、化合物の用途が界面活性剤という点で共通しているとしても、上記aで検討したとおり、両者は技術分野が異なるから前者において後者の化合物を採用する動機付けがなく、また仮に適用できたとしても、相違点1に係る本件発明2の構成とはならないものである。
また、本件明細書の【0044】には、「アルキルアミンのPO-EO付加物である実施例1及び2のピッチコントロール剤によれば、模擬ピッチ個数の減少と大きさ(最大径)の縮小とがさらに顕著にみられ、より優れたピッチの分散性能を示した。この優れたピッチの分散性の向上は、アルキルアミンのEO-PO付加物(アミンに直接EOが付加し、EOを介してPOが付加した化合物)である比較例1よりも顕著であった。」と記載されており、本件発明2のアミンに直接POが付加する構造により甲1発明と比較した有利な効果を参酌できるものであるから、相違点1に係る本件発明2の構成が、単なる選択的又は設計的事項であるともいえない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(ウ)小括
以上より、本件発明2は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、甲1発明及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由1のまとめ
申立理由1からは請求項2~5に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立理由1によっては、請求項2~5に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由2(甲1、甲3に基づく進歩性)について
ア 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明は、上記(2)ア(ア)のとおり、相違点1において相違し、その余の点で一致している。
(イ)判断
a 相違点1についての検討
甲3には、上記(1)ウ(イ)のとおり、「ピッチ付着防止剤として、ポリ(10)オキシプロピレンポリ(6)オキシエチレンラウリルアミンを用いること」(甲3記載事項)が記載されており、ラウリルアミンにオキシプロピレンが直接付加した化合物の開示がある。
しかし、甲3記載事項の丸括弧内の数字はオキシプロピレン、オキシエチレンの平均モル数を示すものと理解されるところ、かかる値は、本件発明2の平均付加モル数n1+n2、s1+s2の数値範囲内に含まれていない。また、甲3には、「ピッチ付着防止剤」として所定の化合物を用いることが記載されているだけであるから、ラウリルアミンに対するオキシプロピレン、オキシエチレンの付加順について何らかの教示をするものでもない。そのため、甲3記載事項を適用しても、甲1発明の「ピッチ抑制剤」に「ポリ(10)オキシプロピレンポリ(6)オキシエチレンラウリルアミン」を用いるにとどまり、相違点1に係る本件発明2の構成とはならない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
b 申立人の主張の検討
申立人は、特許異議申立書において、甲3は、アミンの窒素原子にPOが直接結合した化合物がピッチ付着防止剤として有用であることを開示しており、アミンの窒素原子にPOが直接結合しているか否かについて言及されていない甲1発明において、アミンの窒素原子にPOを直接結合させることは容易に想到できる旨を主張する(19ページを参照。)。
しかし、上記aで検討したとおり、甲3記載事項は、ラウリルアミンに対するオキシプロピレン、オキシエチレンの付加順について何ら教示をするものではないから、甲1発明に適用しても、「ステアリルアミン」の窒素原子に対する「エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モル」の付加順を変更することにはならない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(ウ)小括
以上より、本件発明2は、甲1発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、甲1発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由2のまとめ
申立理由2からは請求項2、4、5に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立理由2によっては、請求項2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由3(サポート要件)について
本件訂正により、本件訂正前の請求項1は削除されたため、申立理由3は申立ての対象が存在しないものとなった。
(5)申立理由4(サポート要件)について
本件特許の請求項2には、「下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含む、ピッチコントロール剤。」との記載があり、「ピッチコントロール剤」が「アミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含む」ことが特定されているから、「エチレンオキシド」が付加されていない構造の化合物(s1、s2のいずれかが0である場合)は含まれないというべきである。この点、特許権者も、令和7年9月5日提出の意見書において、s1及びs2のいずれもが0ではないこと、つまり本件発明2にEOが付加されていない態様が含まれないことは当業者であれば明確に理解できる旨を主張している(6ページを参照。)。
また、本件明細書の【0025】には、s1+s2は、より好ましくは12~20である旨が記載されており、当該数値範囲は、ピッチの分散性を向上させるのに好ましい範囲であると理解される。加えて、【0043】【表2】には、実施例1、2として、ステアリルアミンにPOを2モル付加した後、EOを15モル、20モル付加した場合が記載されており、特に、EOの付加モル数が少ない実施例1において模擬ピッチの個数、最大径ともに小さな値となっていることに鑑みれば、s1+s2が12~20の範囲において課題を解決できることを当業者は理解できるといえる。
そうすると、本件発明2及びその従属項である本件発明3~5について、特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するものである。
よって、申立理由4によっては、請求項2~5に係る特許を取り消すことはできない。
(6)申立理由5(サポート要件)について
発明の課題であるピッチの分散性とEO、POの付加モル数との関係について、本件明細書では機序等は明らかにされていない。しかし、実施例(【0042】~【0044】)の記載を見ると、POの付加モル数(2)がEOの付加モル数(15、20)と比べて少ない実施例1、2のピッチコントロール剤のピッチの分散性が優れていることを十分に看取できるから、ピッチの分散性の向上にはEOよりも親油性の高いPOを多く含むピッチコントロール剤が望ましいという見地から、本件明細書においてPOの付加モル数がEOの付加モル数に比して極めて少ないことの意義が明確でないとしても、発明の課題を解決できることを当業者は理解できるといえる。
そうすると、本件発明2及びその従属項である本件発明3~5について、特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するものである。
よって、申立理由5によっては、請求項2~5に係る特許を取り消すことはできない。
(7)申立理由6(実施可能要件)について
本件発明2の式(2)の化合物の製造に関し、本件明細書の【0027】には、「本開示における上記式(1)又は(2)の化合物は、一又は複数の実施形態において、アルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子にオキシプロピレン基を付加させた後、オキシエチレン基を付加させることにより製造することができる。」と記載されており、アルキルアミン又はアルケニルアミンを、所定の平均付加モル数のオキシプロピレン基が付加されるまでプロピレンオキシドと反応させた後、所定の平均付加モル数のオキシエチレン基が付加されるまでエチレンオキシドと反応させて製造できるものと理解できる。そうすると、POの平均付加モル数について、本件発明2で規定する「n1+n2が2~4」の範囲内となるようにすることは、過度の試行錯誤をすることなく当業者が行い得ることであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって、申立理由6によっては、請求項2~5に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項2~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正前の請求項1は本件訂正により削除されたため、請求項1についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700169