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特許異議申立

2024-701016

廃水処理方法

審判番号
2024-701016
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-085699
登録番号
7468849
請求日
2024年10月16日
審決日
2025年02月28日
公報発行日
2025年04月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社片山化学工業研究所
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【権利者】ナルコジャパン合同会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【異議申立人】大石 友子
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 金 公彦
  • 審判官 田口 裕健
分類
P1651.121-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F) / P1651.536-Y (C02F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第2号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7468849号発明「廃水処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7468849号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7468849号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和3年5月20日の出願であって、令和6年4月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月16日に、請求項1~6に係る発明について、特許異議申立人 大石 友子(以下、「申立人」という。)により、甲第1~8号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許 本件特許の請求項1~6に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。以下、各請求項に係る発明及び特許を、項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、まとめて「本件発明」、「本件特許」ということがある。 「【請求項1】 製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法であって、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれるように、油分離剤を添加する油分離剤添加工程を有し、 前記油分離剤は、有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み、 前記油分離剤添加工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、油分離剤を添加するものであり、 前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であり、 前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであり、 前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持し、 前記油分離剤を添加する工程から得られる廃水は、前記廃水中の前記油分と前記懸濁物質とが分離状態で横流沈殿池又はスケールピットに送られ、前記横流沈殿池又は前記スケールピットにおける沈降分離により得られるスラッジの含油率が1.5%以下である ことを特徴とする廃水処理方法。 【請求項2】 供給水として、請求項1に記載の廃水処理方法から得られた処理水を使用する廃水処理方法。 【請求項3】 廃水から分離された油分及び/又は懸濁物質を再利用するために使用される請求項1又は2に記載の廃水処理方法。 【請求項4】 供給水は、油分及び/又は懸濁物質が生じる工程に供給される清澄な水を含む請求項1、2又は3記載の排水処理方法。 【請求項5】 製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる油分離剤であって、 有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され、 前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であり、 前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであり、 前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持する ことを特徴とする油分離剤。 【請求項6】 ノニオン系高分子化合物は、アクリルアミド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルビニルエーテル、ビニルアルコール及びビニルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを構成成分として含むホモポリマー、コポリマー又はターポリマーである請求項5に記載の油分離剤。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」とする。) 本件特許は、以下の(1)~(3)の点で、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (1)本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明1~6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1~3、5~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明1~6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由2」とする。) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由3」とする。) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記第4の3(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由4」とする。) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が後記第4の4(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 5 証拠方法 甲第1号証:特開2013-202500号公報 甲第2号証:特許第6374157号公報 甲第3号証:特許第5621254号公報 甲第4号証:特許第6654235号公報 甲第5号証:特開2000-328048号公報 甲第6号証:特許第3501843号公報 甲第7号証:特許第5644491号公報 甲第8号証:特開2007-177265号公報 (以下、甲第1号証について「甲1」などという。) 第4 当審の判断 1 申立理由1(進歩性欠如)について (1) 甲各号証の記載事項及び甲1、2、4に記載された発明 甲各号証の記載事項と、申立理由1において主たる証拠とされる甲1、2、4に記載された発明は、以下のとおりである。なお、甲各号証の摘記中の下線は当審にて付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。 ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 (ア) 甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。 a 「【請求項1】 懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水において生じる油分と油分以外の懸濁物質との吸着を、油分吸着阻害剤を少なくとも水に添加させることで連続して抑制する廃水の処理方法において、 模擬廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度とから、該濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定しておき、 連続的に通水されてくる懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水中の懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度を継続して測定し、該測定値に対応する予め決定された最適濃度となるように制御しながら油分吸着阻害剤を連続的に添加することを特徴とする高油分スラッジの発生を抑制する廃水の処理方法。」 b 「【0002】 製鐵所では鋼材を圧延する際に、圧延ロールと鋼材との摩擦軽減を目的として、鉱物油等の圧延油が使用されている。また、鋼材表面に発生する錆の除去を目的として、さらに、熱によって生じる圧延ロールの変形を防ぐための冷却を目的として、圧延時に、鋼材や圧延ロールへ水を直接かけることが行われている。 【0003】 そして、通常、上記圧延工程で使用する直接冷却水に起因して発生する大量の圧延冷却廃水は、廃水処理場において凝集沈殿処理されているが、その際、圧延油に由来する油分と、除去された錆等に由来する鉄粉等の懸濁物質とが強固に吸着し合った高油分スラッジが大量に発生する。そして、発生した大量のスラッジは、産業廃棄物として廃棄処理するか、製鐵原料としてリサイクルされている。廃棄処理やリサイクルする際には、殆どの場合、高油分スラッジを、濃縮、脱水する工程が必要となっている。 ・・・ 【0010】 したがって、本発明の目的は、例えば、圧延工程で発生する圧延冷却廃水のような、スラッジと水と多量な油分とを含んだ大量の含油廃液に対し、油分吸着阻害剤を添加して処理が困難な高油分スラッジの発生を抑制する技術において、該薬剤の使用量を極力軽減でき、しかも、処理対象の廃水の変動に対して薬剤濃度が常に適正に保たれた安定した処理を可能とするスラッジと水と油分とを含有する廃水の処理方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水において生じる油分と油分以外の懸濁物質との吸着を、油分吸着阻害剤を少なくとも水に添加させることで連続して抑制するための廃水の処理方法において、模擬廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度とから、該濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定しておき、連続的に通水されてくる懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水中の懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度を連続的に測定し、該測定値に対応する予め決定された最適濃度となるように制御しながら油分吸着阻害剤を連続的に添加することを特徴とする廃水の処理方法を提供する。 【0012】 上記本発明の廃水の処理方法の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。前記油分吸着阻害剤の添加を、油分を含む前の水に対して行うこと;前記油分吸着阻害剤の添加を、懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水に対して行うこと;前記油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定する際に、模擬廃水の流量と、該廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および油分濃度とから油分吸着阻害剤の最適濃度を決定し、前記連続的に油分吸着阻害剤を添加する際に、連続的に通水されてくる懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水の流量と、該含油廃水中の懸濁物質濃度(SS)および油分濃度とを継続して測定し、これらの測定値に対応する予め決定された最適濃度となるように制御しながら油分吸着阻害剤を連続的に添加すること;前記油分吸着阻害剤が、塩化ジアリルジメチルアンモニウムと、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなる水溶性のカチオン性共重合体のいずれかであること;前記油分濃度の測定を、油分濃度の指標となる化学的酸素要求量(COD)又は全有機炭素(TOC)の濃度を測定することで行うこと;前記懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水が、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水であることが挙げられる。 【発明の効果】 【0013】 本発明によれば、例えば、圧延工程で発生する圧延冷却廃水のような、スラッジと水と多量な油分とを含んだ大量の含油廃液に対し、油分吸着阻害剤を添加して処理が困難な高油分スラッジの発生を抑制する技術において、該薬剤の使用量を極力軽減でき、しかも、処理対象とする廃水の変動に対して薬剤濃度が常に適正に保たれた安定した処理が可能なスラッジと水と油分とを含有する廃水の処理方法が提供される。本発明によれば、常に最適な薬剤量で、経済的に高油分スラッジの発生を抑制することができ、この結果、高油分スラッジを廃棄処理やリサイクルする際に困難であった濃縮、脱水における問題を解決することができる。 ・・・ 【0018】 本発明の廃水の処理方法のより好ましい形態では、上記したような計器等により、含油廃水の流量、油分濃度もしくはその指標となる水質、および懸濁物質濃度を継続して測定し、一方、予めこれらの測定値に相関して決定される油分吸着阻害剤の最適な添加量を求めておき、この値から、上記で継続して得た処理対象である含油廃水の測定値に応じて最適な添加量を決定し、該決定された量の油分吸着阻害剤を連続して添加する。本発明者らの検討によれば、油分吸着阻害剤の添加は、含油廃水に対して行ってもよいが、高油分スラッジの発生の抑制効果をより高めるためには、油分吸着阻害剤の添加は、油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水に添加し、この時点で十分に混合することが最も望ましい。このようにすれば、圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態とできるので、より有効に、懸濁物質への油の吸着を阻害できたものと考えられる。すなわち、圧延工程後に油分吸着阻害剤を添加した場合は、既に懸濁物質への油の吸着が開始されている状態のところに薬剤が添加されることになるので、上記の場合と比較すると、薬剤によってもたらされる高油分スラッジの発生の抑制効果が若干劣るものになったと考えられる。 【0019】 本発明で使用する油分吸着阻害剤としては、特に限定されず、カチオン性第4級ポリアミンや、第4級アンモニウム塩ポリマーや、メチロールメラミン酸コロイドなどの水溶性の陽イオン性ポリマーが挙げられる。これらの薬剤は、イオン結合型水処理剤等として市販されており、脱水効率の向上や濁りの除去等を目的として種々の用途に使用されている。例えば、塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DANMAC)(※当審注:「DANMAC」は、塩化ジアリルジメチルアンモニウムの略称である「DADMAC」の誤記と認められる。以降も同様。)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるDANMACポリマー類を用いることが好ましい。該共重合体は、先に述べたように、例えば、産業廃水の処理に利用されている。本発明者らの検討によれば、これらの共重合体を用い、圧延工程前の水に油分吸着阻害剤を添加したとしても、圧延処理に対して何らの影響も生じない。 【0020】 本発明の廃水の処理方法は、上記のようにして油分吸着阻害剤を最適量、水に添加すればよいが、その際に水とよく混合されるようにすることが好ましい。さらに、その後に、含有廃水へ無機凝集剤或いは高分子凝集剤を添加して、懸濁物質のフロックを粗大化させた後、沈殿池において懸濁物質の沈殿分離と、懸濁物質への吸着しなかった油分の浮上分離を行うことが好ましい。また、沈殿槽からの処理水は、水面の油分が流入しない程度の水位から放流し、沈殿槽の水面に蓄積する油分はフロートポンプ等により定期的に回収することで、処理水への混入を防止することが好ましい。 【0021】 図1は、本発明の廃水の処理方法を、製鐵所における鋼材の圧延工程で使用する直接冷却水に適用した場合における好ましい実施形態のシステム図である。本発明者らの検討によれば、この実施形態においては、油分吸着阻害剤を使わない場合と比べて、スラッジの油分を約50%まで低減でき、さらに、油分吸着阻害剤を添加したことによる凝集沈殿後における処理水質に対しての悪影響はなかった。 【0022】 図1に例示したシステムでは、工場の圧延工程への直送水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤7を添加するように構成し、工場内で発生する懸濁物質(スラッジ)と油との吸着を最大限抑制する。直送水が送られた工場内の圧延工程では、圧延油を使用しての鋼板の圧延処理が行われ、水と油分と鉄粉等のスラッジとを含有する廃水が生じるが、該廃水中には既に油分吸着阻害剤が添加された状態となる。図1に例示したシステムでは、該含油廃水の流量を、流量計14により測定し、調整槽2’に設置した水質分析機器10により、懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度等の水質を分析する。該分析は、圧延工程における作業に合わせて、含油廃水の性状に変化があるタイミングで継続して行うように構成する。一方、事前に、油分とスラッジの濃度が異なる複数の模擬廃水を作成し、これらの模擬廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度とから、該濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定しておく。そして、上記した計測器で測定した実際の含油廃水の流量と水質の結果と、予め模擬廃水を用いて決定された懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度から、上記した直送水に添加される油分吸着阻害剤の添加量が決定され、この値となるように生業(※当審注:「生業」は「操業」の誤記と認められる。)しながら油分吸着阻害剤の添加が行われるようにする。図1に示したように、工場から出された含油廃水は、急速撹拌槽3で無機凝集剤8と混合され、その後、緩速撹拌槽4で高分子凝集剤9と混合される。そして、沈殿槽5においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽12に排出する。沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプ15により除去する。処理水は、処理水槽6から冷却塔13へと送られて冷却された後、再び工場へと送水される。」 c 「【0023】 次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。 (試験装置の構成) 図2で示した試験装置を用い、後述する方法で性状を変えた3種類の原水を用意し、連続して油分吸着阻害処理試験を行った。図2中の1は原水槽を示し、2は、原水と油分吸着阻害剤7とを混合するための反応槽を示し、3は、該反応槽2の水と無機凝集剤8とを混合するための急速撹拌槽を示し、4は、該急速撹拌槽3の水と高分子凝集剤9とを混合するための緩速撹拌槽を示す。これらの槽2~4では、それぞれの撹拌機により、目的にあった適宜な速度で連続的な撹拌が行われる。また、図2中の5は沈殿槽であり、6は処理水槽である。図2に例示した装置では、濁度計10により測定される原水の濁度と比例した量となるように、ポンプ11を稼動させることで反応槽2内に油分吸着阻害剤7を添加することができるように構成されている。 【0024】 (原水の調製) 性状を変えた3種類の原水は、下記のようにして用意した。まず、油分割合の高いスラッジを実際の廃水処理場から採取し、油を抽出した。スラッジの脱脂後、得られた油を原水中の油分として、また脱脂スラッジを懸濁物質としてそれぞれ水道水へ懸濁させ、SSの値と、n-Hex抽出物との値が表1に示したように異なる3種類の水質の原水を用意した。 【0025】 (試験方法) 上記で調製した原水について、それぞれ一定流量で反応槽2へと連続的に流入させ、同様の薬剤を使用して下記の処理を行った。始めに反応槽2で、油分吸着阻害剤[ケーイーリリーフ E-180(商品名)、日鉄環境エンジニアリング社製]と混合し、次に急速撹拌槽3で無機凝集剤〔ポリ塩化アルミニウム(PAC)、日鉄環境エンジニアリング社製〕と混合し、最後に緩速撹拌槽4で高分子凝集剤(ケーイーフロック KEA-730(商品名)、日鉄環境エンジニアリング社製)と混合した。その後、沈殿槽5でフロックを沈殿させて、原水を連続通水しながら処理をした。この際に連続通水した原水は、試験開始から80分までは、SSが800mg/Lで、n-Hex抽出物が50mg/Lの原水であり、80分経過後、160分経過までは、SSが200mg/Lで、n-Hex抽出物が13mg/Lの原水であり、160分経過後、240分までは、SSが400mg/Lで、n-Hex抽出物が25mg/Lの原水である。 【0026】 (評価方法) 連続通水中、表1に示したそれぞれの経過時間毎に沈殿槽5の下部から沈殿スラッジを採取し、その懸濁物質濃度と油分を分析し、これらの値から、その時点における乾燥スラッジに占める油分割合を算出し、結果を表1中に示した。 【0027】 (実施例) 条件1では、反応槽2へ流入する原水の濁度を濁度計10により連続して測定し、その測定値に応じて油分吸着阻害剤7を、あらかじめ行った回分試験から算出される最適濃度となるように決定して、ポンプ11を稼動させることで連続的に反応槽2に注入し、これを本実施例1とした。なお、急速撹拌槽3で添加した無機凝集剤と、緩速撹拌槽4で添加した高分子凝集剤は、一定量注入した。 【0028】 (比較例) 条件2、条件3では、上記した操作を行わず、油分吸着阻害剤7をそれぞれ、1.5mg/L(条件2)、0.8mg/L(条件3)となるように連続注入した。これをそれぞれ比較例1および2とした。尚、急速撹拌槽3で添加した無機凝集剤と、緩速撹拌槽4で添加した高分子凝集剤は、実施例の場合と同様に一定量注入した。 【0029】 (評価結果) 実施例および比較例における反応槽2への油分吸着阻害剤7の添加量を薬剤添加量として表1中に示した。また、上記した試験条件と、各条件で得られた乾燥スラッジに占める油分割合(沈殿スラッジ油分)を表1に示し、連続通水試験中における発生した沈殿スラッジ油分の推移を図3に示した。尚、本試験条件において、油分吸着阻害剤7を用いなかった場合は、3種のどの原水を用いても得られる沈殿スラッジの油分は約4%であった。 【0030】 [図:0001421380000001.jpg] 【0031】 試験の結果、表1および図3から明らかなように、油分吸着阻害剤7を原水濁度に応じて注入した実施例1の場合(条件1)にのみ、スラッジの油分が2%程度まで低減させることができた。一方、比較例1の条件2では試験開始80分目から240分目まで、条件1の実施例1の場合よりも高濃度になる一定量で薬注し、また、条件3では少なくとも試験開始から80分目まで、条件1よりも低濃度で薬注したが、どちらの場合もスラッジの油分は条件1の実施例1の時よりも高かった。」 d 「【図1】 [図:0001421380000002.jpg] 【図2】 [図:0001421380000003.jpg] 」 (イ)甲1に記載された発明 上記(ア)aの【請求項1】によれば、甲1に記載される技術は、「懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水」である「廃水の処理方法」に関するものであり、同bの【0021】及び【0022】、同dの【図1】には、「製鐵所における鋼材の圧延工程で使用する直接冷却水に適用した場合」の実施形態として、「工場の圧延工程への直送水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤7を添加するように構成し、工場内で発生する懸濁物質(スラッジ)と油との吸着を最大限抑制する」方法の記載がある。ここで、当該実施形態の適用場所からすれば、上記「工場」は「製鐵所」又は「圧延工程」を指し、「直送水」は「直接冷却水」を指すと解されるところ、当該実施形態の方法は、「製鐵所の圧延工程への直接冷却水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤7を添加するように構成し、圧延工程内で発生する懸濁物質(スラッジ)と油との吸着を最大限抑制する」、「懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水」「の処理方法」であるといえる。 そして、上記【0022】によれば、上述の「最適量の油分吸着阻害剤7を添加する」ための手段とは、詳細には、「該含油廃水の流量を、流量計14により測定し、調整槽2’に設置した水質分析機器10により、懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度等の水質を分析」し、「該分析は、圧延工程における作業に合わせて、含油廃水の性状に変化があるタイミングで継続して行うように構成する」とともに、「事前に、油分とスラッジの濃度が異なる複数の模擬廃水を作成し、これらの模擬廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度とから、該濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定してお」き、「計測器で測定した実際の含油廃水の流量と水質の結果と、予め模擬廃水を用いて決定された懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度から、上記した直送水に添加される油分吸着阻害剤の添加量が決定され、この値となるように操業しながら油分吸着阻害剤の添加が行われるようにする」ものである。 また、上記実施形態では、上記【図1】から、「工場」に向かうライン上の直接冷却水すなわち「油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水」に「油分吸着阻害剤7」が添加されることが見てとれる。そして、この構成については、同bの【0018】に、「油分吸着阻害剤の添加は、油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水に添加し、この時点で十分に混合」し、「圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態と」して、「懸濁物質への油の吸着を阻害」するものであることが記載されている。 さらに、同bの【0019】には、「油分吸着阻害剤としては、」「塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるDADMACポリマー類を用いることが好まし」く、「これらの共重合体を用い、圧延工程前の水に油分吸着阻害剤を添加したとしても、圧延処理に対して何らの影響も生じない」と記載されている。この記載によれば、前段落の「油分とその他の懸濁物質とが混合される前」すなわち「圧延工程前」に「油分吸着阻害剤」を添加する場合は、圧延処理に影響を与えないように上記「DADMACポリマー類」が用いられることになるといえる。なお、同bの【0012】によれば、当該「DADMACポリマー類」は「カチオン性共重合体」である。 加えて、上記【0022】及び【図1】によれば、上記実施形態は、「工場から出された含油廃水は、急速撹拌槽3で無機凝集剤8と混合され、その後、緩速撹拌槽4で高分子凝集剤9と混合され」、「沈殿槽5においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽12に排出」され、「沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプ15により除去」され、「処理水は、処理水槽6から冷却塔13へと送られて冷却された後、再び工場へと送水される」ものであり、この「工場」も同じく「圧延工程」を指している。 そして、上記【0021】によれば、上記実施形態は、排出された「沈殿スラッジ」について、「油分吸着阻害剤を使わない場合と比べて、スラッジの油分を約50%まで低減でき」るものである。 そうすると、甲1には、含油廃水の処理方法に関する以下の発明が記載されているといえる。 「製鐵所の圧延工程への直接冷却水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤を添加するように構成し、圧延工程内で発生する懸濁物質(スラッジ)と油との吸着を最大限抑制する、懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水の処理方法であって、 該含油廃水の流量を、流量計により測定し、調整槽に設置した水質分析機器により、懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度等の水質を分析し、該分析は、圧延工程における作業に合わせて、含油廃水の性状に変化があるタイミングで継続して行うように構成するとともに、 事前に、油分とスラッジの濃度が異なる複数の模擬廃水を作成し、これらの模擬廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度とから、該濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定しておき、 計測器で測定した実際の含油廃水の流量と水質の結果と、予め模擬廃水を用いて決定された懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度から、上記した直接冷却水に添加される油分吸着阻害剤の添加量が決定され、この値となるように操業しながら油分吸着阻害剤の添加が行われるようにし、 油分吸着阻害剤の添加は、油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水に添加し、この時点で十分に混合し、圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態として、懸濁物質への油の吸着を阻害し、 油分吸着阻害剤としては、塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるカチオン性共重合体を用い、 圧延工程から出された含油廃水は、急速撹拌槽で無機凝集剤と混合され、その後、緩速撹拌槽で高分子凝集剤と混合され、沈殿槽においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽に排出し、沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプにより除去し、処理水は、処理水槽から冷却塔へと送られて冷却された後、再び圧延工程へと送水され、 油分吸着阻害剤を使わない場合と比べて、沈殿スラッジの油分を約50%まで低減する、 含油廃水の処理方法。」 (以下、「甲1発明」という。) 加えて、上記甲1発明における「油分吸着阻害剤」に着目すれば、甲1には、甲1発明の「含油廃水の処理方法」に用いられる「油分吸着阻害剤」に関する以下の発明も記載されているといえる。 「製鐵所の圧延工程への直接冷却水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤を添加するように構成し、圧延工程内で発生する懸濁物質(スラッジ)と油との吸着を最大限抑制する、懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水の処理方法に用いられる油分吸着阻害剤であって、 含油廃水の処理方法としては、該含油廃水の流量を、流量計により測定し、調整槽に設置した水質分析機器により、懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度等の水質を分析し、該分析は、圧延工程における作業に合わせて、含油廃水の性状に変化があるタイミングで継続して行うように構成するとともに、 事前に、油分とスラッジの濃度が異なる複数の模擬廃水を作成し、これらの模擬廃水中に含まれる懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度とから、該濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度を予め決定しておき、 計測器で測定した実際の含油廃水の流量と水質の結果と、予め模擬廃水を用いて決定された懸濁物質濃度(SS)および/又は油分濃度に対応した油分吸着阻害剤の最適濃度から、上記した直接冷却水に添加される油分吸着阻害剤の添加量が決定され、この値となるように操業しながら油分吸着阻害剤の添加が行われるようにし、 油分吸着阻害剤の添加は、油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水に添加し、この時点で十分に混合し、圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態として、懸濁物質への油の吸着を阻害し、 油分吸着阻害剤としては、塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるカチオン性共重合体を用い、 圧延工程から出された含油廃水は、急速撹拌槽で無機凝集剤と混合され、その後、緩速撹拌槽で高分子凝集剤と混合され、沈殿槽においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽に排出し、沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプにより除去し、処理水は、処理水槽から冷却塔へと送られて冷却された後、再び圧延工程へと送水され、 油分吸着阻害剤を使わない場合と比べて、沈殿スラッジの油分を約50%まで低減する、 含油廃水の処理方法に用いられる油分吸着阻害剤。」 (以下、「甲1’発明」という。) イ 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 (ア)甲2の記載事項 甲2には、以下の記載がある。 a 「【請求項1】 凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法であって、 前記凝集剤として少なくとも1種の有機凝集・沈降剤を用い、 (但し、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が200万~1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上である高分子凝集剤を用いる場合を除く。 [図:0001421380000004.jpg] [図:0001421380000005.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。)) 少なくとも、粒径が50μm以上の、金属粉又は水砕スラグ又は石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが、微細な懸濁物質濃度に対する粗大な懸濁物質濃度の比(粗/微)が、その質量比で5~100の状態で併存しており、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集・沈降剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集・凝結・沈降させ、これらの懸濁物質を同時に除去できるようにしたことを特徴とする廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」 b 「【0002】 例えば、製鐵所において発生する廃水としては、連続鋳造工程における直接冷却廃水、圧延工程における直接冷却廃水、高炉、転炉、電炉工程における集塵廃水、屋外原料貯蔵ヤードから発生する雨水廃水などがあるが、その量は大量である。また、これらの廃水中には、下記に述べるように、いずれも、微細な懸濁物質のみならず、鉄等の金属粉や、水砕スラグ、石炭粉・コークス粉等の粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質(以下、粗大SSとも呼ぶ)が含まれている。後述するように、このような廃水から懸濁物質を除去する場合は、先ず、粗大な懸濁物質を沈降分離等の方法で予め除去した後、除去後の廃水を種々の凝集剤を用いて更に処理して、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質(以下、微細SSとも呼ぶ)を、凝集沈降させて除去することが多い。 ・・・ 【0017】 上記のような状況から、本発明者らは、特に、製鐵所において発生するような多様な懸濁物質を含む廃水中の懸濁物質を除去処理する方法において、下記の効果が得られ、しかも、少なくとも、廃水中の粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とを、さらには油分を含むものであったとしても、これらを、同時に一括して、スケールピット等のOver Flow Rateが10m/hr以上となる比較的小さな水槽で、分離、除去処理することを可能にする技術が提供できれば、極めて有用であると認識するに至った。製鐵所においては、例えば、循環使用されることが多い、連続鋳造工程や圧延工程から発生する直接冷却廃水等の懸濁物質を含有する各種廃水に対し、(1)簡略化された設備で処理して迅速に清澄な処理水を得ることができ、(2)維持管理費が低く、(3)できれば処理水への悪影響を生じ得る無機凝集剤を用いることなく、(4)廃水中に、金属やコークス等の懸濁物質に加えて油分が懸濁していたとしても、処理によってリサイクル困難なスラッジを発生しない、経済的で簡便な廃水中の懸濁物質の除去方法が望まれる。 【0018】 したがって、本発明は、例えば、前述したような製鐵所において発生する、粗大SSと微細SSとが併存している各種廃水中の懸濁物質を分離除去する際に下記のことを達成できる、工業上、極めて有用な廃水中の懸濁物質の除去処理方法を提供することを目的とする。すなわち、懸濁物質の除去処理に際し、粗大SSと微細SSとを同一の処理で凝集沈降させているにもかかわらず、別々に処理していた従来の処理方法で達成していたのと同等以上の清澄な水質の処理水を迅速に得ることができることに加え、同一に処理することを可能にすることで、凝集剤の総使用量を従来よりも低減することを可能とし、さらに、設備を大幅に簡略化することで設備費及び維持管理費を縮小でき、更に、発生する凝集沈降した沈殿物のリサイクル費の低減、場合によっては無機凝集剤を使用することに起因して処理水に混入される配管の腐食を促進する物質の低減をも達成できる技術の提供を可能とすることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0019】 上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法であって、上記凝集剤として少なくとも1種の有機凝集剤を用い、少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしたことを特徴とする廃水中の懸濁物質の除去処理方法を提供する。 ・・・ 【0024】 また、本発明の廃水中の懸濁物質の除去処理方法によって処理する廃水は、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した状態にあるものであればいずれのものも対象とすることができるが、例えば、大量処理が必要となる下記に挙げるような廃水を、処理対象とすることができる。本発明の廃水中の懸濁物質の除去処理方法は、例えば、製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の高炉、転炉、電炉工程における集塵廃水、製鐵所の屋外原料貯蔵ヤードから発生する雨水廃水、製鐵所の高炉滓から水砕を得る際に発生する冷却廃水等の処理に好適に用いることができる。 【発明の効果】 【0025】 本発明によれば、例えば、製鐵所等において発生する、粗大SSと微細SSとが併存している各種廃水中の懸濁物質を分離除去する際に、例えば、Over Flow Rateが10m/hr以上の比較的小さな槽のみで、粗大SSと微細SSとを同一の処理で、従来技術で処理した場合と比べてSSをより速やかに沈降させることができ、しかも、得られる処理水を、これらの懸濁物質を別々に処理していた従来の処理方法で達成していたのと同等以上の清澄な水質のものにできる、工業上、極めて有用な廃水中の懸濁物質の除去処理方法が提供される。すなわち、本発明の処理プロセスを採用することで、粗大SSと微細SSとを同一の処理で、しかも従来技術と比べて明らかに迅速に凝集沈降させることが可能になったことで、凝集剤の総使用量を従来よりも低減することが可能になり、更に設備を大幅に簡略化することもできるので、設備費及び維持管理費を縮小でき、これらに加えて、発生する凝集沈降した沈殿物のリサイクル費の低減、無機凝集剤を使用することに起因して処理水に混入される配管の腐食を促進する物質の低減をも達成できる。また、本発明の処理プロセスによって得られる処理水は、従来の処理方法で達成していたのと同等以上の清澄な水質を示すので、そのまま循環使用することが可能であり、さらに、発生する凝集沈降した沈殿物は、水離れのよい取り扱い易いものになるといった利点もあり、沈殿物の処理にかかる費用を従来の方法の場合よりも大幅に低減できるという効果も得られる。 ・・・ 【0027】 以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、先に述べた従来技術の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、無機凝集剤の使用を停止する一方で、有機凝集剤を添加した際に、或いは、有機凝集剤の添加が行われた以降に、該有機凝集剤と、粗大SSと微細SSとが、流速が0.5m/秒以上と速く、且つ、乱流状態となる中に共存する状態を生じさせる、という極めて単純な方法によって、廃水中に存在している、或いは、廃水中に存在することとなる、粗大SSと微細SSとを同一の処理で、極めて効率よく迅速に凝集沈降させることができる、という従来技術の常識を覆す驚くべき事実を見出して本発明を達成した。この結果、上記した本発明の処理方法によれば、従来の懸濁物質の除去処理方法と比較して、下記に挙げる種々の効果を得ることができる。まず、従来、粗大SSの沈降の促進に用いていた無機凝集剤の使用の必要がなく、また、粗大SSの処理の後段で微細SSを取り除く必要がなくなるので、そのための設備が不要となり、その結果、従来処理の場合よりも、設備費及び維持管理費を縮小できる。更に、粗大SSと微細SSとを同一の処理で、極めて迅速にこれらのSSを凝集沈降させることができることに加え、その沈殿物は、従来の処理で生じていた汚泥とは全く異なり、脱水性が良好で、油分の含有率も低いため、その後の処理が極めて容易であり、沈殿物の処理のために従来の処理で必要のあった設備費及び維持管理費が大幅に削減できる。更に、得られる処理水は、無機凝集剤の使用に起因して混入する塩素イオンや硫酸イオンの問題がないことに加え、従来の懸濁物質の除去処理方法で得られた処理水と同等以上の清澄な水質であり、懸濁物質の残留が極めて少ないものであり、後段で、更に微細SSを取り除くことなく良好な冷却水として再利用できる画期的なものである。 ・・・ 【0031】 本発明で規定する上記した水の状態を生じさせる方法としては、例えば、下記(1)のそのような状態の廃水中に有機凝集剤を添加する方法や、下記(2)の、粗大なSSと微細SSとが併存した廃水になる前の用水に、予め有機凝集剤を添加する方法が挙げられる。 【0032】 (1)有機凝集剤を、粗大なSSと微細SSとが併存している、流速が0.5m/秒以上で、且つ、乱流状態の廃水中に添加する。その場合における有機凝集剤の好ましい添加の位置としては、粗大なSSと微細SSとが併存している廃水が発生する地点から水処理設備の入口付近に至るまでのいずれかの地点が挙げられる。 (2)粗大なSSと微細SSとが併存した廃水になる前の用水に予め前記有機凝集剤を添加しておき、さらにこの水を使用することで、粗大なSSと微細SSとが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせる。その場合における有機凝集剤の添加の位置の一例としては、粗大なSSと微細SSとが併存した廃水になる前の用水が、前記粗大なSSと微細SSとを、前記有機凝集剤の存在下、同一の処理で凝集沈降させて、これらを同時に除去処理した後に得られる処理水を循環使用する系において、前記有機凝集剤の添加を、その使用基準を満たすまでに用水の処理がなされた地点から、該用水を使用する給水地点に至るまでのいずれかの地点で行うことが挙げられる。 【0033】 上記(1)及び(2)について、製鐵所の連続鋳造工程や圧延工程において発生する直接冷却廃水を例にとって具体的に説明すれば、上記(1)でいう「粗大なSSと微細SSとが併存している廃水の発生地点から水処理設備の入口付近に至るまでのいずれかの地点」とは、以下の地点を含むものである。先ず、冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却した時点で、冷却水は直接冷却廃水となるので、この地点が「廃水の発生地点」である。また、「廃水の発生地点から水処理設備の入口付近に至るまでのいずれかの地点」は、鋼材を冷却後、直接冷却廃水となってスケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至るので、この間の一連の地点とその近傍の地点を意味している。 ・・・ 【0036】 本発明者らの検討によれば、少なくとも1種類の有機凝集剤を用い、特に、該有機凝集剤が、粗大なSSと微細SSとが併存し、水と共に激しく流動している状態の中に共存する状態を生じさせると、高い効果が得られることがわかった。より具体的には、有機凝集剤を、粗大SS及び微細SSと激しい混合状態で共存させた場合に、有機凝集剤の凝結・凝集・沈降効果がより顕著に発揮され、粗大SSと微細SSが同一の処理で、従来技術では達成できていなかった速度で速やかに凝集沈降して、その上澄み液が従来にない清澄なものとなることを見出した。更に、これらが共存した状態で、激しく流動している時間がある程度確保された方がより高い効果が得られることと、添加作業の容易性から、例えば、図1中に2で示したように、スケールスルースのスケールピット3からできるだけ遠い地点で有機凝集剤を添加することが好ましいこともわかった。このように構成すれば、例えば、直接冷却廃水がスケールスルースを流れていくいずれの地点でも、有機凝集剤と粗大SSと微細SSとが激しい混合状態となる。その結果、驚くべきことに、スケールピット3に排出された時点で、直接冷却廃水中の粗大SSと微細SSとを含む懸濁物質は、凝結・凝集中である、または既に凝結・凝集しているため、沈殿物と清澄な処理水とに速やかに分離する。また、例えば、図1に例示したような、処理水を冷却水として循環使用する系において、スケールピット3からできるだけ遠い地点として、例えば、先に説明した廃水の発生地点の前の、得られた処理水を用水に使用することとなる給水地点に至るまでを選択し、廃水になる前の用水に有機凝集剤を添加することも有効である。勿論、処理水を循環使用する系でなくても、用水に予め有機凝集剤を添加し、当該用水を使用することで、本発明で規定する「有機凝集剤が、粗大なSSと微細SSとが併存し、水と共に激しく流動している状態の中に共存する状態を生じさせる」ものであってもよい。 ・・・ 【0038】 本発明で使用する有機凝集剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系、ポリアミン系、およびジアリルアンモニウム系の化合物から選ばれる有機凝集剤を用いることができる。本発明者らの検討によれば、下記に挙げる有機凝集剤を用いれば、より顕著な効果が得られる。具体的には、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が100万~1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.1meq/g以上であるものを用いることが有効である。 [図:0001421380000006.jpg] [図:0001421380000007.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。) 【0039】 本発明で有機凝集剤として利用することができる上記したカチオン性の共重合体は、上記式(1)及び式(2)で表されるモノマーをそれぞれ5モル%以上含む原料モノマーから、その重量平均分子量及びpH7におけるカチオンコロイド当量値が、本発明で規定する範囲内となるようにすることで誘導できる。具体的には、特許第2779732号公報に記載の合成方法が利用できる。また、両性の共重合体は、例えば、特許第3352835号公報に記載されているように、上記式(1)及び(2)で表されるカチオン性モノマーに、その他のモノマーとしてイタコン酸やアクリル酸等のアニオン性モノマーを適宜混合して原料モノマーとすることで、同様の方法で得ることができる。 【0040】 上記式(1)で示されるモノマーの代表的なもとしては、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩酸塩等が挙げられる。また、式(2)で示されるモノマーの代表例としては、アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリドが挙げられる。これらのモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。 ・・・ 【0043】 上記に例示した有機凝集剤は、カチオン性のものであるが、本発明はこれに限定されるものでなく、対象とする廃水によってはアニオン性やノニオン性の有機凝集剤を使用することもできる。例えば、本発明者らの検討によれば、転炉からの集塵廃水の場合は、カチオン性の有機凝集剤を用いた場合よりも、アニオン性の有機凝集剤を用いた方が大きな効果が得られる。また、石炭ヤードの雨水排水などからの石炭・コークス等の炭素系の粉塵を含有する廃水を処理する場合には、微アニオン性或いはノニン性の有機凝集剤の使用が適している。 ・・・ 【0046】 本発明の特徴は、少なくとも、粗大なSSと微細なSSとが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、有機凝集剤が共存する状態を生じさせることにあるが、有機凝集剤を添加する地点を、上記に挙げたような各地点とすることで、本発明で規定する上記要件を容易に満足する処理ができる。本発明の処理方法によれば、上記した極めて簡便な方法によって、以下に挙げる工業上極めて有用な種々の効果が得られる。本発明の処理方法によって得られる主な効果、またはメリットを4つ述べる。 【0047】 (1)水処理プロセスの簡略化 有機凝集剤の添加地点を工夫するだけで、廃水中の粗大なSSと微細なSSが有機凝集剤とよく混合されることで、微細な鉄粉や油と粒径の大きなスケールとが極めて速やかに凝集し、沈降させることができ、従来は、粗大な懸濁物質を処理するためのスケールピットでは除去できなかった微細な鉄粉や油も、スケールピット、またはそれに類する比較的小さい槽で沈殿分離でき、スケールピットの出側で、従来と同等或いはそれ以上のレベルまで懸濁物質の混入を低減した清浄な処理水が得られる、簡易且つ迅速な処理が可能になる。 上記の結果、従来の廃水中の微細なSSの除去処理において必要とされていた、沈殿池やろ過機、電磁フィルターといった、微細鉄粉や油の分離設備が不要となる。これに伴い、撹拌機や、ろ過機や電磁フィルターを使用した場合に必要となっていた逆流洗浄排水処理設備も不要となる。 また、本発明の廃水中の懸濁物質の除去処理方法では無機凝集剤が不要となることから、そのためのタンクやポンプ、撹拌機、送液ライン等の設備も不要となる。 したがって、製鐵所において大量に発生する、粗大なSSと微細なSSとが共存している状態の廃水に対して、新たに懸濁物質の除去処理設備を建設する場合には、上記に関連した設備スペース、及び建設費が大幅に削減できる。 (2)維持管理費の縮小 沈殿池やろ過機が不要となり、スケールピットの出側から処理水を冷却塔へ直接送水できるため、必要なポンプの台数を減らすことができ、電気代を含む維持管理費が大幅に縮小できる。 (3)腐食の低減 本発明の廃水中の懸濁物質の除去処理方法では無機凝集剤を必要としないため、ポリ塩化アルミニウムや、硫酸バンド等に代表される無機凝集剤に含まれる、腐食性陰イオンである、Cl-や、SO42-が処理水中に混入することを著しく低減できる。このため、凝集沈殿、及び冷却処理した処理水を、再度工場へ給水する場合、その配管系等、ならびに生産する鋼材表面の腐食を軽減することが可能となる。 (4)鉄スラッジのリサイクル促進 本発明の廃水中の懸濁物質の除去処理方法を採用し、粗大なSSと微細なSSとを同一の処理で凝集沈降させたことによってスケールピットにおいて発生する、粒径の大きなスケール、微細な鉄粉、及び油からなるスラッジは、脱水性と濃縮性がよく、重量あたりの油含有率が小さいため、その運搬及びリサイクルが簡便にできる。 【0048】 図1は、本発明の廃水中の懸濁物質の除去処理方法を連続鋳造工程の直接冷却廃水処理に適用した場合の好適な一実施形態を示す模式図である。図1に示したように、連続鋳造工程から発生する直接冷却廃水は、連続鋳造ラインからスケールスルース1に流れ落ち、廃水は、スケールスルース1の内部を激しく流動しながら、スケールピット3へと移動する。図1に示した例では、有機凝集剤2が、直接冷却廃水が流動していくスケールスルース1の最上流部分で添加されている。それ故、有機凝集剤2と直接冷却廃水は、スケールスルース1内の激しい流れの中で混合され、スケールピット3内に排水される。その結果、スケールピット3内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離される。そのため、スケールピット3内の上澄水は清澄なものとなるので、そのまま上澄水を冷却塔4へ揚水する。最後に、冷却塔4で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び工場へ給水される。 ・・・ 【0055】 <実施例1、2、比較例1> 本実施例の概要を図2に示した。本実施例では、図1に示したものと同様に、連続鋳造工程において発生するスプレー系冷却廃水に対して、有機凝集剤2をスプレー系冷却廃水が流動していくスケールスルース1の最上流部分で添加した。そして、スケールピット3で得た上澄み水を、電磁フィルター5で処理後に、冷却塔4で冷却し、再度、冷却水として使用した。本実施例では、有機凝集剤2として、前記した一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、それぞれ20モル%ずつ含む原料モノマーから誘導した、アクリルアミド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム・クロリド/[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム・クロリド共重合体(モル比=60/20/20)を主成分とするカチオン性のものを用いた。その重量平均分子量は300万であり、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.6~1.0meq/g程度であるものを用いた。そして、スケールスルース1内の廃水に対し、該有機凝集剤を、0mg/l(無添加)、1mg/l、2mg/lとなるように連続添加した。なお、上記で処理したスプレー系冷却廃水における粗大SSと微細SSとの比(粗/微)は、その質量比で、5~20程度であった。 【0056】 そして、上記の処理後に、JIS K0102に則して、スプレー戻水6(処理水A)、スプレー直送水7(処理水B)のSS濃度及びn-Hex抽出物質濃度(油分)を測定した。尚、ここでいうスプレー戻水とは、スケールピット3の出側の水(上澄み水)のことであり、スプレー直送水とは電磁フィルター5で処理後に、冷却された水(処理後の冷却水)のことである。また、比較例1として、有機凝集剤を添加しない場合についても、SS濃度及びn-Hex抽出物質濃度(油分)を測定した。 【0057】 表2に、上記の有機凝集剤の添加試験の結果を示した。実施例1として、有機凝集剤を1mg/lとなるように添加することで、スプレー戻水のSS濃度は19mg/l、n-Hex抽出物質濃度は5mg/lになり、無添加時(比較例1)と比べ、両汚濁物質の濃度が半減することを確認した。また、スプレー直送水においては、SS濃度が10mg/l、n-Hex抽出物質濃度が4mg/lという良好な水質が得られた。 【0058】 更に、実施例2として、有機凝集剤を2mg/lとなるようにして添加した以外は上記と同様にして試験したところ、スプレー戻水のSS濃度は9mg/lになり、n-Hex抽出物質濃度は2mg/lになった。このスプレー戻水水質は、有機凝集剤の添加濃度が1mg/lで後段の電磁フィルター5で処理を行ったスプレー直送水と同等の水質である。したがって、有機凝集剤を2mg/lになるように添加した場合は、電磁フィルター5による処理を停止しても、良好な水質を維持可能であると考えられる。 【0059】 [図:0001421380000008.jpg] 」 c 「【図1】 [図:0001421380000009.jpg] 【図2】 [図:0001421380000010.jpg] 」 (イ)甲2に記載された発明 上記(ア)aの【請求項1】によれば、甲2には、「凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法」に関する技術が記載されており、同bの【0019】によれば、この方法とは、「凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法であって、上記凝集剤として少なくとも1種の有機凝集剤を用い、少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにした」「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」である。 ここで、同bの【0024】によれば、当該「除去処理方法」は、「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」を、「処理対象とする」ものであり、同bの【0033】によれば、当該「直接冷却廃水」は、「冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却」することで生じ、「スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至る」ものである。 また、同bの【0031】及び【0032】によれば、上記「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態」という「水の状態を生じさせる」ための具体的な手段は、「(1)有機凝集剤を、粗大なSSと微細SSとが併存している、流速が0.5m/秒以上で、且つ、乱流状態の廃水中に添加する」こと又は「(2)粗大なSSと微細SSとが併存した廃水になる前の用水に予め前記有機凝集剤を添加しておき、さらにこの水を使用する」ことである。ここで、上記「SS」は、同bの【0002】の記載から「懸濁物質」を指しており、上記「廃水になる前の用水」は、前段落の「廃水」の生成過程を踏まえれば「冷却水」を指しているといえる。 さらに、同bの【0036】によれば、前段落の「廃水になる前の用水に予め前記有機凝集剤を添加」することは、「処理水を冷却水として循環使用する系」において行うことができ、同bの【0048】や同cの【図1】によれば、「処理水を冷却水として循環使用する系」とは、具体的には、「有機凝集剤2と直接冷却廃水は、スケールスルース1内の激しい流れの中で混合され、スケールピット3内に排水され」、「その結果、スケールピット3内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され」、「スケールピット3内の上澄水は清澄なものとな」り、「冷却塔4へ揚水」され、「冷却塔4で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び」「給水される」構成のものである。 加えて、同bの【0038】によれば、上述の「有機凝集剤」は、「アクリル系、ポリアミン系、およびジアリルアンモニウム系の化合物から選ばれる有機凝集剤を用いることができ」、「具体的には、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる [図:0001421380000011.jpg] [図:0001421380000012.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。)」ものである。 (なお、有機凝集剤の成分に関し、同bの【0043】には、「対象とする廃水によってはアニオン性やノニオン性の有機凝集剤を使用することもできる。」との記載があるものの、「微アニオン性或いはノニオン性の有機凝集剤の使用が適している」のは、「石炭ヤードの雨水排水などからの石炭・コークス系の炭素系の粉塵を含有する廃水を処理する場合」である旨も記載されており、他に「ノニオン性」の有機凝集剤に関する記載は存在しないところ、「スケール、微粒鉄粉」を含有する「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」に対しては、あくまでも上述の「カチオン性又は両性」の有機凝集剤が用いられると解される。) また、同bの【0055】及び同cの【図2】には、「図1に示したものと同様に、連続鋳造工程において発生するスプレー系冷却廃水に対して、有機凝集剤2をスプレー系冷却廃水が流動していくスケールスルース1の最上流部分で添加し」、「スケールピット3で得た上澄み水を、電磁フィルター5で処理後に、冷却塔4で冷却し、再度、冷却水として使用した」「実施例1、2」が記載されている。そして、同bの【0056】~【0059】及び【表2】から、「実施例1」については、「スケールピット3の出側の水(上澄み水)」である「スプレー戻水」のSS濃度が19mg/l、n-Hex抽出物質濃度が5mg/lとなり、「冷却された水(処理後の冷却水)」である「スプレー直送水」のSS濃度が10mg/l、n-Hex抽出物質濃度が4mg/lという清澄な水質を得られたことが把握でき、「実施例2」については、「スプレー戻水」のSS濃度が9mg/l、n-Hex抽出物質濃度が2mg/l、「スプレー直送水」のSS濃度が5mg/l、n-Hex抽出物質濃度が2mg/lという実施例1以上に清澄な水質を得られたことが把握できる。ここで、上述のとおり、「SS」は「懸濁物質」のことであり、上記【0056】に「n-Hex抽出物質濃度(油分)」とあるように、「n-Hex抽出物質濃度」は「油分濃度」を指している。そして、当該「実施例1、2」は、上記【0031】及び【0032】に記載の「水の状態を生じさせる」手段のうち、「(1)・・・乱流状態の廃水中に添加する」例であるものの、同段落において2つの手段が選択可能に併記されていることからすれば、「(2)・・・廃水になる前の用水に予め前記有機凝集剤を添加してお」く場合でも、「スケールピット3の出側の水(上澄み水)」すなわち「スケールピット3内の上澄水」や、「冷却された水(処理後の冷却水)」すなわち「直接冷却水として再び」「給水される」「処理水」は、「実施例1、2」と同等に低減された懸濁物質濃度及び油分濃度を得ることができるといえる。 そうすると、甲2には、廃水中の懸濁物質の除去処理方法に関する以下の発明が記載されているといえる。 「凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法であって、 上記凝集剤として少なくとも1種の有機凝集剤を用い、 少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしており、 当該除去処理方法は、製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水を処理対象とし、当該直接冷却廃水は、冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却することで生じ、スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至るものであり、 粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせるために、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水に予め前記有機凝集剤を添加しておき、この冷却水を使用し、 有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され、スケールピット内に排水され、その結果、スケールピット内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され、スケールピット内の上澄水は清澄なものとなり、冷却塔へ揚水され、冷却塔で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び給水され、 有機凝集剤は、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、 [図:0001421380000013.jpg] [図:0001421380000014.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。) スケールピット内の上澄水の懸濁物質濃度は19mg/l以下、油分濃度は5mg/l以下になり、直接冷却水として再び給水される処理水の懸濁物質濃度は10mg/l以下、油分濃度は4mg/l以下になる、 廃水中の懸濁物質の除去処理方法。」 (以下、「甲2発明」という。) 加えて、上記甲2発明における「有機凝集剤」に着目すれば、甲2には、甲2発明の「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」に用いられる「有機凝集剤」に関する以下の発明も記載されているといえる。 「凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法に用いられる有機凝集剤であって、 廃水中の懸濁物質の除去処理方法としては、少なくとも、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせることで、前記粗大な懸濁物質と前記微細な懸濁物質とを同一の処理で凝集沈降させ、これらを同時に除去できるようにしており、 当該除去処理方法は、製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水を処理対象とし、当該直接冷却廃水は、冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却することで生じ、スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至るものであり、 粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、前記有機凝集剤が共存する状態を生じさせるために、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水に予め前記有機凝集剤を添加しておき、この冷却水を使用し、 有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され、スケールピット内に排水され、その結果、スケールピット内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され、スケールピット内の上澄水は清澄なものとなり、冷却塔へ揚水され、冷却塔で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び給水され、 有機凝集剤は、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、 [図:0001421380000015.jpg] [図:0001421380000016.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。) スケールピット内の上澄水の懸濁物質濃度は19mg/l以下、油分濃度は5mg/l以下になり、直接冷却水として再び給水される処理水の懸濁物質濃度は10mg/l以下、油分濃度は4mg/l以下になる、 廃水中の懸濁物質の除去処理方法に用いられる有機凝集剤。」 (以下、「甲2’発明」という。) (ウ)付記 上記(ア)aの【請求項1】には、「但し、下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量が200万~1,300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量値が0.4meq/g以上である高分子凝集剤を用いる場合を除く。・・・」との記載があり、本件異議申立書の第4ページ等では、この記載が、本件発明の「ノニオン系高分子化合物」に関係する記載事項の1つとして摘記されている。 しかしながら、上記「除く」との記載は、甲2の記載から把握される凝集剤のうち、特定の構造、分子量及びカチオンコロイド当量値を有するカチオン性又は両性の凝集剤を、甲2に係る特許の権利範囲から除くための記載であって、何ら、カチオン性又は両性の凝集剤全てが甲2から除外されているわけではない。そして、上記(イ)で述べたとおり、上記甲2発明の「除去処理方法」に使用される具体的な有機凝集剤は、カチオン性又は両性のものと把握されるところ、上記「除く」との記載があるからといって、カチオン性又は両性でない「ノニオン系高分子化合物」を上記甲2発明の方法に使用することが、甲2の記載から把握されることにはならない。 ウ 甲3の記載事項 甲3には、以下の記載がある。 「【0002】 自動車製造工場、製鐵所、紙パルプ製造業、クリーニング、砂利産業、その他の化学工場等で発生する廃水の凝集処理としては、一般的に、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等アルミ系ないし鉄系の無機凝集剤を添加した後に更に高分子凝集剤を添加して凝集フロックを生成させ、次いで、凝集沈殿又は凝集浮上法で処理する方法が採用されている。そして、浄化された処理水は、河川や下水に放流されるのが一般的である。 ・・・ 【0011】 すなわち、本発明の要旨は、含油廃水にジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩を60~100モル%含有するジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩モノマー単独或いはノニオン性モノマーとの共重合物であり且つ固有粘度が1.0~3.0dl/gである重合体から成る有機凝結剤を添加し、次いで、アニオン性、カチオン性或いは両性高分子凝集剤を添加し、生成した凝集フロックを浮上分離することを特徴とする含油廃水の処理方法に存する。 ・・・ 【0014】 本発明で対象となる含油廃水としては、洗濯廃水、石油精製工場廃水、油田廃水、製鉄所の圧延工程廃水等が例示される。これら含油廃水中に含まれる油分は、10~3,000mg/lが一般的である。本発明の処理方法は、油分50~1,000mg/l含油廃水に好適であるが、油分量は限定されるものではない。 【0015】 本発明において有機凝結剤として使用する重合体は、カチオン性の水溶性ポリマーであり、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩モノマー単独或いはノニオン性モノマーとの共重合物である。また、ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩必須成分として含めば他のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマー成分を共重合させても構わない。ノニオン性のモノマー単位としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられるが、これらの中ではアクリルアミドが好ましい。」 エ 甲4の記載事項及び甲4に記載された発明 (ア)甲4の記載事項 甲4には、以下の記載がある。 a 「【請求項1】 熱間圧延機からミルスケールを採取する方法であって、熱間圧延機は樋を含み、方法は、 廃水中のミルスケール粒子を搬送するステップと、 熱間圧延機の樋から廃水を回収するステップと、 樋の内部で分離器を用いて廃水からミルスケール粒子を分離するステップと、 を備える方法。」 b 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、油汚染の少ないミルスケールを回収するため、熱間圧延機または塩基性酸素転炉内の樋からミルスケールを回収することを、提供する。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は、廃水中のミルスケール粒子を搬送するステップと、熱間圧延機または塩基性酸素転炉の樋から廃水を回収するステップと、分離器を用いて廃水からミルスケール粒子を分離するステップと、を備える、熱間圧延機または塩基性酸素転炉からミルスケールを採取する方法を提供する。 【0010】 本発明は、鋼スラブを再加熱するための再熱炉と、再熱炉の下流で鋼スラブを処理するための少なくとも1つのスタンドと、ミルスケール粒子および廃水を搬送する少なくとも1つのスタンドに接続された樋と、樋の中の廃水からミルスケール粒子を分離するための分離器と、を備える熱間圧延機を提供する。 ・・・ 【0024】 油およびグリースは、熱間圧延プロセス全体に存在する。軸受はグリースで潤滑化され、油圧機械は油含有流体で動作する。作業ロールもまた、油含有潤滑剤で潤滑化される。機械類および圧延機部品から漏れるグリースおよび油は、熱間圧延プロセスの間に使用される冷却水に入り込み、結果的に油性廃水を生じる。この油性廃水がミルスケールを運ぶとき、油がミルスケール粒子の表面にくっついて被覆し、これによりミルスケールを汚染する。油は、0.15重量%超の量で存在する可能性がある。 【0025】 油から粗粒子またはミルスケールを分離できることが、必要である。粗粒子またはミルスケールの分離は、油性スラッジ生成の減少により、鋼材熱間圧延機の廃水処理費用および埋め立て費用の費用を削減する。分離はBOF廃水の処理費用も削減し、BOF粗粒子は利益を伴って再生利用される。 【0026】 可能な解決策は、プロセス前分離、プロセス後分離、およびプロセス中分離を含む。プロセス前分離は、熱間圧延プロセスから油を排除すること、または油が廃水に入るのを防ぐことを含む。プロセス後分離は、熱脱油、溶媒抽出、または集中洗浄によって、油性ミルスケールおよびスラッジから油を除去することを含む。プロセス中分離は、廃水が樋の中を高速で流れている間に油および廃水からミルスケール粒子を分離することを含む。 ・・・ 【0028】 プロセス中分離は、従来の慣例に対する利点を含む。発明者らは、樋の乱流水の中ではミルスケール粒子が油の被覆に耐えることを見いだした。その結果、樋水が高速で移動している間にミルスケールが樋水から直接採取されれば、ミルスケールはきれいで再生利用可能となる。したがって、プロセス中分離の間に樋からきれいなミルスケールを抽出することが望ましい。樋水の余剰エネルギーが使用されるので、油からミルスケールを分離するために付加的なエネルギーは必要とされない。さらに、付加的な環境保護手段も必要とされない。 ・・・ 【0030】 第一の例において、樋水から採取されたスケールは、スケールがピットから採取される従来の方法によって採取されたスケールよりもきれいである。ボックス1は、中央樋に接続されたピットを表す。ボックス2は北側樋に接続されたピットを表し、ボックス3は南側樋に接続されたピットを表す。樋からのミルスケールの油濃度は、ボックス1から3によって表されるピットから採取されたスケールよりも約10倍低い。 【0031】 【表1】 [図:0001421380000017.jpg] 【0032】 本発明者らは、ミルスケールの回収用の樋の中の分離器の位置が重要であることも見いだした。源の近くに分離器を位置決めすることで、たとえば0.15重量%未満など、十分に低い油含有量を有するミルスケールの採取を可能にする。このプロセスを実施するために、十分に効率的で経済的な分離器が使用されるべきである。このような分離器は、たとえば粗粒子分離器またはCDS分離器であってもよいが、しかしながらその他のタイプの分離器もまた使用されてよい。 ・・・ 【0037】 第三の例において、スカルパー装置が最初のピットの入り口点に実装された。廃水は高速で侵入する。スカルパーは、廃水からスケールをすくい、スケールをコンベヤ上に落とす。スカルパーピットスケールは、年間約30,000NTを生産し、0.05重量%未満の油含有量を有するが、その一方でピットスケールは0.4重量%の油含有量を有し、年間約10,000NTを生産する。スカルパーピットスケールとピットスケールとの混合物は、0.18重量%の油含有量となる。きれいなミルスケールを回収する能力は、油性ミルスケールおよび埋め立てにかかわる費用を削減する。 【0038】 図1は、本発明による熱間圧延機100を示す。スラブ110は、たとえば1200℃など、所望の温度まで再加熱するための再熱炉10に侵入する。スラブはその後、スケール除去のために一次スケールブレーカスタンド12まで搬送される。スラブ110は粗スタンド14まで続き、さらに仕上スタンド16まで続いてから、冷却スタンド18およびコイラー20に到達する。コイル状に巻かれた鋼は、さらなる処理のために送り出される。たとえば、コイル状に巻かれた鋼は、冷間ローラ、ピックラーに送られるか、または別の施設に出荷される。 【0039】 プラント再利用水120は、スラブ110を洗浄およびスケール除去するために使用される。プラント再利用水120はまた、装填ロールおよびその他の圧延機部品を冷却および保護するためにも使用される。プラント再利用水の流量は、スラブをスケール除去するために使用されるときは毎分20,000から40,000ガロンの範囲であってもよく、圧縮水が毎秒3から5フィートの速度でスケールを吹き飛ばすことができる。プラント再利用水およびスケールは、樋30、32、34、36を介してそれぞれスケールピット22、24、26、28まで運ばれて、スケールが水120から分離されるのでスケールが採取可能である。 【0040】 ピット22、24、26、28は樋30、32、34、36と比較すると非常に広いので、水速が低下して樋の中の成分が沈殿する。油は上に浮き上がってスケールは底に沈殿する。従来、スケールはその後ピットから回収される。スケールを油で汚染しないように、スケールの回収には注意を払わなければならない。 【0041】 本発明によれば、スケールがピット22、24、26、28に到達する前に、スケールは樋30、32、34、36から採取されてもよい。発明者らは、水が流れている間に樋から直接スケールを採取することで、よりきれいなスケールの採取ができることを見いだした。発明者らはまた、できるだけスケール形成源の近くでスケールを採取することでもきれいなスケールの採取ができることを、見いだした。」 c 「【図1】 [図:0001421380000018.jpg] 」 (イ)甲4に記載された発明 上記(ア)aの【請求項1】によれば、甲4には、「熱間圧延機からミルスケールを採取する方法」に関する技術が記載されている。 ここで、同bの【0010】によれば、上記「熱間圧延機」は、「鋼スラブを再加熱するための再熱炉と、再熱炉の下流で鋼スラブを処理するための少なくとも1つのスタンドと、ミルスケール粒子および廃水を搬送する少なくとも1つのスタンドに接続された樋と、樋の中の廃水からミルスケール粒子を分離するための分離器と、を備える」ものである。 また、同bの【0039】や同cの【図1】によれば、上記「熱間圧延機」の具体的な形態において、「プラント再利用水120は、スラブ110を洗浄およびスケール除去するために使用され」、「プラント再利用水およびスケールは、樋30、32、34、36を介してそれぞれスケールピット22、24、26、28まで運ばれ」るものであり、同bの【0040】によれば、上記「スケールピット22、24、26、28」において、「油は上に浮き上が」ることになる。さらに、上記【図1】には、「スケールピット22、24、26、28」から外方向に伸びる「油」のラインが記載されているところ、上述の浮き上がった「油」は排出されることが見てとれる。 そして、同bの【0041】によれば、上記形態は、「スケールがピット22、24、26、28に到達する前に、」「水が流れている間に樋から直接スケールを採取することで、よりきれいなスケールの採取ができる」ものである。また、同bの【0028】によれば、上述のようにきれいなスケールの採取が可能であるのは、「樋の乱流水の中ではミルスケール粒子が油の被覆に耐え」ているためであることが把握できる。 そうすると、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。 「熱間圧延機からミルスケールを採取する方法であって、 熱間圧延機は、鋼スラブを再加熱するための再熱炉と、再熱炉の下流で鋼スラブを処理するための少なくとも1つのスタンドと、ミルスケール粒子および廃水を搬送する少なくとも1つのスタンドに接続された樋と、樋の中の廃水からミルスケール粒子を分離するための分離器と、を備え、 熱間圧延機において、プラント再利用水は、スラブを洗浄およびスケール除去するために使用され、プラント再利用水およびスケールは、樋を介してそれぞれスケールピットまで運ばれ、 スケールピットにおいて、油は上に浮き上がって排出され、 スケールがスケールピットに到達する前に、水が流れている間に樋から直接スケールを採取し、 樋の乱流水の中ではミルスケール粒子が油の被覆に耐えている、方法。」 (以下、「甲4発明」という。) オ 甲5の記載事項 甲5には、以下の記載がある。 「【0005】 【課題を解決するための手段】この発明にかかる油分離剤は、油分を吸収し固めるための吸油性ポリマーと、水中の微粒子を凝集するための凝集剤とからなることを特徴とする、油分離剤である。この発明にかかる油分離方法は、油分を吸収し固めるための吸油性ポリマーと水中の微粒子を凝集するための凝集剤とを、被処理液に、別々に添加し、同時に添加し、または、ブレンドして添加することを特徴とする、油分離方法である。 【0006】この発明で重要な構成は、吸油性ポリマーと凝集剤との両方を使用することにある。油分が水中に微粒子のままで安定に分散しているのは、油分の周りに界面活性剤や蛋白質または糖脂質などが強い保護膜を形成しており、しかも、保護膜と水の界面は親水性になっている。したがって、吸油剤は、親油性であるため、保護膜を形成している水中の油分には効果的に接触できず、吸油することができない。一方、凝集剤は、イオン的または物理的吸着により主に固形の粒子の凝集に使用されるが、油分が分散した乳化状態では効果が落ち、特に分散粒子が非常に小さい場合や希薄な乳化液の場合では完全に凝集除去することができない。しかし、本発明者は、吸油剤の中の吸油性ポリマーと凝集剤とを組み合わせると想像もつかない相乗効果が現れることを見出した。すなわち、吸油剤の中の吸油性ポリマーと凝集剤とを組み合わせることによって、たとえば数mmの油滴だけでなく、たとえば数μmの油分が水中に安定分散している乳化状態からたとえば0.数μm以下で超微粒子分散している可溶化状態(光の波長より小さいため透明に見える状態)までの油分を、濃度に関係なくほぼ完全に捕獲し凝集分離することができることを見出した。 ・・・ 【0008】 【発明の実施の形態】この発明に使用する吸油性ポリマーは、高分子鎖の絡み合いまたは三次元的な架橋構造のネットワークの中に油分を分子レベルで抱き込む吸油剤で、たとえばスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー、アクリレートコポリマー、ポリノルボルネン系エラストマー、多孔性ビニル系ポリマーなどがある。これらのうち好ましいのは、スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーであり、さらに好ましいのは、ポリスチレンブロックおよびポリブタジエンブロックからなるブロック共重合体である。吸油性ポリマーは、吸油効果をあげるために、たとえば0.1mmから約5mmに無定形に粉砕した粉末が好ましい。吸油剤としては、吸油性ポリマーの他に油ゲル化剤および油吸着剤がある。油ゲル化剤は、成分が油中で分子配列して油分を固化するもので、ヒドロキシステアリン酸、金属石鹸、ワックスなどがある。油吸着剤は、油を吸着できるが可逆的であり、物理的に圧をかけると脱油するもので綿、パルプ、合成繊維などがある。しかし、油ゲル化剤および油吸着剤は、この発明には適さない。 【0009】また、この発明に使用する凝集剤は、一般にエマルジョンブレーカーと呼ばれているものであり、油分の分散粒子の保護膜にイオン的または物理的に影響を与えるものであれば組成を特に限定することはないが、粉末が好ましい。たとえば無機系の凝集剤としては、モンモリナイト粘土や活性白土などの天然系の他に、珪酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウム珪酸ナトリウムなどのアルミニウム塩、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、リン酸カルシウムなどのカルシウム塩、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウムなどのマグネシウム塩、二酸化ケイ素などの単離物質、さらに、これらに無機酸の金属塩を1種または2種以上配合されるものもある。また、有機系の凝集剤には、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤およびノニオン性高分子凝集剤がある。カチオン性高分子凝集剤としては、たとえばアミノアルキル(メタ)アクリレート4級塩(共)重合体、ポリアミノメチルアクリルアミドの塩または4級塩、ポリビニルイミダゾリン、キトサン、ポリアミドポリアミンなどがあり、アニオン性高分子凝集剤としては、たとえばポリアクリル酸ナトリウム、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリメチルアクリレートの部分加水分解物などがあり、ノニオン性高分子凝集剤としては、たとえばポリアクリルアミドなどがある。この発明に使用する凝集剤としては、これらの中の1種または2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。 ・・・ 【0030】 【発明の効果】この発明にかかる油分離剤および油分離方法では、油分が水中に安定に微粒子分散した乳化油乃至可溶化油などの被処理液から容易にしかも安価に油分を分離除去でき、また、油分の濃度に関係なく処理できるため、漏れた製品や不良ロット品の廃棄処理に有効であるだけでなく、洗浄廃水の処理にも適しており、従来より処理が困難とされていた切削油廃水や、圧延油廃水、食品工場廃水、医薬化粧品工場廃水、塗料工場廃水、コンプレッサードレイン、オイルタンクの洗浄水、機械洗浄水などの乳化油廃水の処理、オイルタンカーのバラスト水、ビルジ水、原油掘削廃水などの乳化油または分散油など非常に広範囲な分野に利用できる。」 カ 甲6の記載事項 甲6には、以下の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】一般に機械加工業、メッキ業、製鉄業、特に石油精製、石油化学、廃油再生等の工場からの排水中には油分が混入されていることは広く知られている。 ・・・ 【0016】 すなわち、本発明は、排水中に混入している油分を分離除去するための油分含有排水の化学的処理方法において、上記排水のpHを鉱酸により酸性側、好ましくはpH2~4に調整し、次いで鉄粉または鉄塩を添加して攪拌した後、アルカリ剤を添加して排水のpHをアルカリ側、好ましくはpH8~10に調整して酸化処理を行い、さらに高分子凝集剤を添加してフロックを形成させてから、得られる沈澱物を固液分離することを特徴とする油分含有排水の処理方法を提供するものである。 【0017】 【作用】本発明方法では、まず排水のpHを通常使用される塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸により酸性側、好ましくは2~4に調整した後、鉄粉または鉄塩を添加して攪拌する。鉄塩としては塩化第一鉄、硫酸第一鉄などの第一鉄塩あるいは第二鉄塩として塩化第二鉄または硫酸第二鉄が用いられる。これらの添加量は鉄分として0.1g/l 以上が好ましい。 【0018】次いで水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウムなど通常のアルカリ剤で排水のpHをアルカリ側、好ましくは8~10に調整し、調整された排水に空気吹き込みによる酸化処理を施した後、高分子凝集剤を添加してフロックを形成させ、固液分離するが、高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミドに代表されるノニオン系高分子凝集剤のみならずアニオン系やカチオン系の凝集剤も使用することができる。 ・・・ 【0021】 【実施例1】A化学工場産排水で、鉱物油を738mg/l含有している排水1Lに鉱産として塩酸を加えてpHを3.0に調整した。 【0022】次いで鉄粉を1g/l 添加して3分間攪拌した後、苛性ソーダを添加してpHを9.0になるように調整してエアレーションを行った。 【0023】さらに高分子凝集剤としてノニオン系のポリアクリルアミドを5mg/l添加して30秒間攪拌した後、3分間静置した。 【0024】次いで得られた沈澱物を固液分離した濾液を分析したところ、ノルマルヘキサン抽出分はトレースであった。」 キ 甲7の記載事項 甲7には、以下の記載がある。 「【0007】 工場では通常、その水処理設備の運転管理値を、その居所(市町村等)の水質規制値よりも厳しく設定する。例えば、某市の水質規制値(pH:5.8~8.6、SS:30ppm未満、油分:2ppm未満、COD:20ppm未満、窒素:20ppm未満、リン:2ppm未満)に対し、同市内の継目無鋼管圧延製造工場ではその圧延排水を対象とした水処理設備(環水設備ともいう)の運転管理値を、pH:6.0~8.4、SS:5ppm未満、油分:2ppm未満、COD:18ppm未満、窒素:15ppm、リン:1.5ppm未満としている。尚、1ppm=1mg/Lである。しかし、環水のSS濃度が時たま管理目標値を数ppm程度超えて、製品鋼管の品質が不安定となるという、未解決の課題があった。この課題は、特許文献1及び特許文献2では考慮されていない。又、特許文献1に記載の方法では、既存設備の改造を要する憂いもある。」 ク 甲8の記載事項 甲8には、以下の記載がある。 「【0002】 鉄鋼製造ラインにおける洗浄工程は、一般的に洗浄槽を2つ用いる2槽式洗浄法(例えば、1槽目(粗洗浄)→2槽目(仕上げ洗浄)→ブラシ洗浄→リンス→乾燥)が標準的であるが、ラインのスペースやエネルギーコストの制約から、洗浄槽を1つで行う1槽式洗浄法(例えば、1槽目(粗洗浄兼仕上げ洗浄)→ブラシ洗浄→リンス→乾燥)が採用される場合がある。 ・・・ 【0011】 本発明は、アルカリ剤(a)〔以下、成分(a)という〕、非イオン界面活性剤(b)〔以下、成分(b)という〕、キレート剤(c)〔以下、成分(c)という〕、分岐鎖アルコール(d)〔以下、成分(d)という〕及び水を含有する1槽式鋼帯洗浄用洗浄剤組成物であって、(a)、(b)、(c)及び(d)の重量比が(a)/(b)/(c)/(d)=25~45/0.1~10/0.1~12/0.1~10である1槽式鋼帯洗浄用洗浄剤組成物に関する。 【0012】 また、本発明は、上記本発明の1槽式鋼帯洗浄用洗浄剤組成物を用いて、1つの洗浄槽で鋼帯を洗浄する、鋼帯の1槽式洗浄方法に関する。 ・・・ 【0015】 [成分(b)] 本発明の洗浄剤組成物に用いられる界面活性剤は、鋼板表面の油成分、多量の汚れ又はその由来汚物を、剥離し再凝集を抑止する効果を強化する観点から、非イオン界面活性剤を使用する。 【0016】 成分(b)は、炭素数4~24のアルコール、好ましくは炭素数4~24の1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、及びアルキル(アルキル基の炭素数5~12)フェノールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤であり、炭素数4~24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。」 (2)本件発明1について 甲1発明、甲4発明、甲2発明のそれぞれを主引用発明とした場合に、本件発明1が容易に想到し得るものであるか否か、順に検討する。 ア 甲1発明を主引用発明とする場合 (ア)対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 a 甲1発明の「製鐵所の圧延工程への直接冷却水」は、本件発明1の「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水」に相当する。また、甲1発明の「その後に生じる含油廃水」は、「懸濁物質と水と油分とを含んでなる」ものであるから、本件発明1の「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」に相当する。 b 甲1発明では、「製鐵所の圧延工程への直接冷却水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤を添加するように構成し、」「圧延工程から出された含油廃水は、急速撹拌槽で無機凝集剤と混合され、その後、緩速撹拌槽で高分子凝集剤と混合され、沈殿槽においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽に排出し、沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプにより除去し、処理水は、処理水槽から冷却塔へと送られて冷却された後、再び圧延工程へと送水」されており、このような「製鐵所の圧延工程への直接冷却水」の系統は、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系」であるといえる。 c 甲1発明の「沈殿槽においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽に排出し、沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプにより除去し」た後の「処理水」は、「含油廃水」よりも油分濃度及び懸濁物質(スラッジ)濃度が低減されることは明らかである。 そうすると、上記a及びbも踏まえれば、甲1発明の「製鐵所の圧延工程への直接冷却水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤を添加するように構成し、」「圧延工程から出された含油廃水は、急速撹拌槽で無機凝集剤と混合され、その後、緩速撹拌槽で高分子凝集剤と混合され、沈殿槽においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽に排出し、沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプにより除去し、処理水は、処理水槽から冷却塔へと送られて冷却された後、再び圧延工程へと送水される、」「懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水の処理方法」は、本件発明1の「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法」に相当する。 d 甲1発明の「圧延工程」は、上記aの「含油廃水」が生じる工程であるから、本件発明1の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程」に相当する。そして、甲1発明の「油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水」は、当該「圧延工程」に供給されるものであるから、本件発明1の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水」に相当する。 e 甲1発明の「油分吸着阻害剤」は、「圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態として、懸濁物質への油の吸着を阻害」するとの機能を有するものである。この「阻害」機能は、「圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点」以降の水すなわち「含油廃水」中で発揮されるものといえ、また、「懸濁物質への油の吸着を阻害」することは、「油分と懸濁物質とを分離状態で維持」することと言い換えることができる。そうすると、甲1発明の「油分吸着阻害剤」は、「含油廃水中で油分と懸濁物質とを分離状態で維持」するとの機能を有するものであり、この機能は、本件発明1の「油分離剤」の「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するとの機能と共通しているから、甲1発明の「油分吸着阻害剤」は、本件発明1の「油分離剤」に相当するといえる。 f 甲1発明の「油分吸着阻害剤」は、「油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水」「に添加」される一方、本件発明1の「油分離剤」は、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に」「添加」されるものであり、上記dのとおり、上記「油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水」は、上記「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、・・・のうち、少なくとも1つの供給水」に相当するところ、甲1発明の「油分吸着阻害剤」及び本件発明1の「油分離剤」の添加位置は一致している。 また、甲1発明の「油分吸着阻害剤」は、前段落の位置で添加された結果、「圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態」となるものであり、上記dのとおり、当該「圧延工程」が本件発明1の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程」に相当することも踏まえれば、この甲1発明の状態は、本件発明1の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれる」状態に相当する。 そして、上記eのとおり、甲1発明の「油分吸着阻害剤」は本件発明1の「油分離剤」に相当し、両者の機能が共通することから、甲1発明における「油分吸着阻害剤の添加は、油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水に添加し、この時点で十分に混合し、圧延工程で、油分と鉄粉等の懸濁物質とが混合される時点において既に、最適量の油分吸着阻害剤が存在している状態として、懸濁物質への油の吸着を阻害」するとの事項は、本件発明1における「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれるように、油分離剤を添加する油分離剤添加工程を有し、」「前記油分離剤添加工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、油分離剤を添加するものであり、」「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するとの事項に相当する。 g 甲1発明の「沈殿槽」は、「スラッジを沈降分離」するものであり、上記(1)ア(ア)dの【図1】から廃水が横方向に流れるものであることが見てとれるから、本件発明1の「横流沈澱池又はスケールピット」に相当する。 そして、甲1発明の「圧延工程から出された含油廃水」は、上記eのとおり、「油分吸着阻害剤」の機能により「油分と懸濁物質と」が「分離状態で維持」されるから、甲1発明における「圧延工程から出された含油廃水は、急速撹拌槽で無機凝集剤と混合され、その後、緩速撹拌槽で高分子凝集剤と混合され、沈殿槽においてスラッジを沈降分離」するとの過程においては、本件発明1の「前記油分離剤を添加する工程から得られる廃水は、前記廃水中の前記油分と前記懸濁物質とが分離状態で横流沈殿池又はスケールピットに送られ」に相当する操作が行われている。 h 以上によれば、本件発明1と甲1発明は、 「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法であって、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれるように、油分離剤を添加する油分離剤添加工程を有し、 前記油分離剤添加工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、油分離剤を添加するものであり、 前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持し、 前記油分離剤を添加する工程から得られる廃水は、前記廃水中の前記油分と前記懸濁物質とが分離状態で横流沈殿池又はスケールピットに送られる、 廃水処理方法。」 の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1-1> 油分離剤として用いられる成分が、本件発明1では、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含」むのに対し、甲1発明では、「塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるカチオン性共重合体」である点。 <相違点1-2> 供給水が、本件発明1では、「油分濃度が5ppm以下」かつ「懸濁物質濃度が20ppm以下」であるのに対し、甲1発明では、このような濃度であるのか明らかでない点。 <相違点1-3> 油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程が、本件発明1では、「スケールスルース」であるのに対し、甲1発明では、このようなものであるのか明らかでない点。 <相違点1-4> 横流沈殿池又はスケールピットにおける沈降分離によって得られるスラッジの含油率が、本件発明1では、「1.5%以下」であるのに対し、甲1発明では、「油分吸着阻害剤を使わない場合と比べて」「約50%まで低減」されているものの、具体的な割合が明らかでない点。 (イ)相違点に対する判断 油分離剤の成分に係る相違点1-1と、油分離剤の添加効果に係る相違点1-4は、それぞれを独立して変更したり調整できるものでないため、両相違点についてまとめて検討する。 a 甲1発明の油分離剤として使用される「塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるカチオン性共重合体」は、ノニオン系高分子化合物でないから、相違点1-1は、明らかに実質的な相違点である。 また、甲1発明は、上述の「カチオン性共重合体」を添加することで、「油分吸着阻害剤を使わない場合と比べて、沈殿スラッジの油分を約50%まで低減する」ものであるものの、甲1には、含油率の具体的な上限値を規定することは何ら記載されていないから、相違点1-4も、実質的な相違点である。なお、上記(1)ア(ア)cの【0023】~【0031】及び同dの【図2】によれば、甲1には、試験装置を用いて、試験用に調整された「原水」に上述の「カチオン性共重合体」を添加することで「スラッジの油分が2%程度まで低減」した実施例も示されているものの、この実施例は「製鐵所の圧延工程」でなく試験装置で実施されたものであるから、甲1発明の「製鐵所の圧延工程」における「含油廃水の処理方法」での具体的な含油率を把握できるわけではない。さらに仮に、甲1発明においても実施例と同等の含油率が得られると想定したとしても、「2%程度」は本件発明1の上限値を超えているため、相違点1-4は、やはり実質的な相違点ということになる。 b ここで、上記(1)ア(ア)bの【0019】からすれば、甲1発明の油分離剤として使用される「カチオン性共重合体」は、「油分吸着阻害」との機能を有しつつも、「圧延工程前の水に油分吸着阻害剤を添加したとしても、圧延処理に対して何らの影響も生じない」という理由でも選択されたものである。この選択理由を踏まえれば、圧延中の鋼材に接触することになる甲1発明の油分離剤としては、圧延工程前の水に添加した際に、油分と懸濁物質とを分離状態で維持することに加え、圧延処理に対して悪影響を与えないことという2点を満足する成分を使用すべきであると理解される。 c 他方、他の証拠をみると、ノニオン系高分子化合物に関しては、上記(1)イ(ア)bの【0043】のとおり、甲2には、「石炭ヤードの雨水排水などからの石炭・コークス等の炭素系の粉塵を含有する廃水を処理する」ために「微アニオン性或いはノニオン性の有機凝集剤」を使用することが記載され、上記(1)オのとおり、甲5には、圧延油廃水の処理に使用される「ノニオン性高分子凝集剤」が記載され、上記(1)カのとおり、甲6には、製鉄業の排水の処理に用いられる「ノニオン系高分子凝集剤」が記載されている。しかし、これらの凝集剤は、いずれも廃水又は排水に添加されて廃水中の成分を「凝集」させるものであって、圧延工程前の水に添加されるものではなく、当該凝集剤を構成するノニオン系高分子化合物を圧延工程前の水に添加した際に、油分と懸濁物質とを分離状態で維持するという機能や、当該機能とスラッジの含油率との関係は、何ら着目されていない。 さらに、上記(1)クのとおり、甲8には、「非イオン界面活性剤」を含有する「1槽式鋼帯洗浄用洗浄剤組成物」が記載されている。しかし、当該「非イオン界面活性剤」は「ノニオン系高分子化合物」から構成されると考えられるものの、これは鋼帯の「洗浄」のために用いられるものであって、圧延工程前の水に添加されるものではなく、当該界面活性剤を構成するノニオン系高分子化合物を圧延工程前の水に添加した際に、油分と懸濁物質とを分離状態で維持するという機能や、当該機能とスラッジの含油率との関係は、何ら着目されていない。 d そうすると、甲1発明において、油分と懸濁物質とを分離状態で維持する機能が求められる油分離剤の成分として、当該機能について着目されていない、甲2、甲5、甲6に記載の凝集剤又は甲8に記載の界面活性剤を構成するノニオン系高分子化合物を採用する動機は生じないし、さらに、当該化合物について、スラッジの含油率との関係も着目されていないのであるから、ノニオン系高分子化合物を添加してスラッジの含油率を「1.5%以下」とする点も、容易に想到し得るものではない。 e 加えて、甲1発明の油分離剤は、上記bのとおり、圧延処理に対して悪影響を与えないことも求められる一方、甲2、甲5、甲6、甲8に記載のノニオン系高分子化合物は、上記cのとおり、圧延工程前の水に添加されるものではなく、圧延工程に対する影響については何ら着目されていない。 そのため、圧延処理に対する悪影響の有無が示されていないという点からも、甲1発明の油分離剤の成分として、敢えて、甲2、甲5、甲6、甲8に記載のノニオン系高分子化合物を採用しようとする動機は生じないといえる。 f そして、上記(1)ウ、エ、キに示す甲3、甲4、甲7には、ノニオン系高分子化合物の記載自体がないところ、甲2~8の記載事項を考慮しても、相違点1-1及び相違点1-4に係る構成は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 (なお、甲3に記載の「有機凝結剤として使用する重合体」は、その構成単位に「ノニオン性のモノマー単位」を含み得るが、重合体としては「カチオン性の水溶性ポリマー」であって、「ノニオン系高分子化合物」ではない。) (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点1-1及び相違点1-4に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 イ 甲4発明を主引用発明とする場合 (ア)対比 本件発明1と甲4発明を対比する。 a 甲4発明の「熱間圧延機」は、「鋼スラブを再加熱するための再熱炉と、再熱炉の下流で鋼スラブを処理するための少なくとも1つのスタンドと」を有するものであるから、本件発明1の「製鉄工業における」「圧延設備」に相当する。 b 甲4発明の「プラント再利用水」は、「熱間圧延機において」「スラブを洗浄およびスケール除去するために使用され」ており、このような水は、例えば、上記(1)ア(ア)bの甲1【0002】にも示されるように冷却の機能も有するため、「直接冷却水」と呼べるものである。そして、上記(1)エ(ア)cの甲4【図1】によれば、甲4発明の「熱間圧延機」には「プラント再利用水」の給水及び廃水系統が存在することが見てとれるところ、甲4発明の「熱間圧延機からミルスケールを採取する方法」は、本件発明1と同じく「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において」行われる方法であるといえる。 c 甲4発明の「樋の中の廃水」は、「プラント再利用水およびスケール」を含むとともに、後段の「スケールピットにおいて、油は上に浮き上がって排出され」ることから、「油」を含んでいる。そして、「スケール」は、水に溶けない「懸濁物質」であるところ、甲4発明の「廃水」は、本件発明1と同じく「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」であるといえる。 d 甲4発明の「熱間圧延機からミルスケールを採取する方法」では、「油は上に浮き上がって排出され」るとともに「樋から直接スケールを採取し」ており、この工程を経た水は、当初の「樋の中の廃水」よりも油分及びスケール(懸濁物質)の濃度が低減することは明らかであるところ、上記cも踏まえれば、甲4発明の方法は、本件発明1と同じく「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法」であるといえる。 e 甲4発明の「ミルスケール粒子および廃水を搬送する少なくとも1つのスタンドに接続された樋」は、上記(1)イ(ア)bの甲2【0033】にも示されるように「スケールスルース」とも呼ばれるものである。そして、上記cのとおり、甲4発明の「樋の中の廃水」は、「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」であるところ、甲4発明の「ミルスケール粒子および廃水を搬送する少なくとも1つのスタンドに接続された樋」「を備え」ることは、本件発明1の「前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであ」ることに相当する。 f 以上によれば、本件発明1と甲4発明は、 「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法であって、 前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースである、 廃水処理方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点4-1> 本件発明1では、 「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれるように、油分離剤を添加する油分離剤添加工程を有し、 前記油分離剤添加工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、油分離剤を添加するものであり、 有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み、 前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持し、 前記油分離剤を添加する工程から得られる廃水は、前記廃水中の前記油分と前記懸濁物質とが分離状態で横流沈殿池又はスケールピットに送られ、前記横流沈殿池又は前記スケールピットにおける沈降分離により得られるスラッジの含油率が1.5%以下である」 という「油分離剤」の添加に関わる一連の特定事項を有するのに対し、甲4発明では、このように「油分離剤」の添加が行われない点。 <相違点4-2> 直接冷却水系内の供給水について、本件発明1では、「油分濃度が5ppm以下」かつ「懸濁物質濃度が20ppm以下」であるのに対し、甲4発明では、このような濃度であるのか明らかでない点。 (イ)相違点に対する判断 実質的な相違点であることが明らかな相違点4-1について検討する。 a 甲4発明は、樋中でミルスケールが油に被覆される前にミルスケールを採取することで、油濃度の低いミルスケールを得るという技術であり、樋より後段にあるスケールピット等には、油濃度の低いミルスケールが既に採取された後の廃水が送られるのであるから、甲4発明においては、スケールピットに至るまで、油分とミルスケール(すなわち懸濁物質)とを分離状態で維持しようとする動機はそもそも生じず、ましてや、油分離剤の添加によってそのように分離状態を維持しようとする動機も生じ得ない。そのため、相違点4-1に係る構成は、甲4発明から出発して当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 b 上述のとおり、相違点4-1に係る構成は、甲4以外の証拠の記載事項に関わらず、容易に想到し得るとはいえないが、念のため、他の証拠の記載事項について検討する。 甲1には、上記ア(ア)h及び同(イ)aのとおり、「油分離剤」を直接冷却水系の供給水に添加し、廃水中で油分と懸濁物質とを分離状態で維持する方法が記載されているものの、ノニオン系高分子化合物を使用すること及び沈殿スラッジの含油率を1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 甲2には、下記ウ(ア)j及び同(イ)aのとおり、「油分離剤」を直接冷却水系の供給水に添加する方法が記載されているものの、圧延設備の直接冷却水系でノニオン系高分子化合物を使用すること、廃水中で油分と懸濁物質とを分離状態で維持すること及び沈殿スラッジの含油率を1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 甲5、甲6、甲8には、上記ア(イ)cのとおり、ノニオン系高分子化合物が記載されているものの、いずれも製鉄工業における直接冷却水系の供給水に添加されるものでなく、当該化合物を直接冷却水系の供給水に添加することで、油分と懸濁物質とを分離状態で維持すること及び沈降分離により得られるスラッジの含油率を1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 甲3、甲7には、相違点4-1に係る油分離剤の添加位置、成分及びその添加効果に関して何ら記載されていない。 以上によれば、甲1~3、5~8の記載事項は、相違点4-1に係る構成を充足するものとはならない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点4-1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1~3、5~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 ウ 甲2発明を主引用発明とする場合 (ア)対比 本件発明1と甲2発明を対比する。 a 甲2発明では、「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水」又は「製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」「は、冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却することで生じ、スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至るものであり、」「有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され、スケールピット内に排水され、その結果、スケールピット内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され、スケールピット内の上澄水は清澄なものとなり、冷却塔へ揚水され、冷却塔で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び給水され」ているところ、このような「製鐵所の連続鋳造工程」又は「製鐵所の圧延工程」における「直接冷却水」の系統は、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系」であるといえる。 b 甲2発明の「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水」又は「製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」は、「スケール、微粒鉄粉、油」が含まれるものであるから、本件発明1の「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」に相当する。 c 甲2発明では、「スケールピット内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され、スケールピット内の上澄水は清澄なものとな」っており、当該「上澄水」は、「廃水」よりも油分の濃度と、スケール、微粒鉄粉すなわち懸濁物質の濃度が低減されることは明らかである。 そうすると、上記a及びbも踏まえれば、甲2発明の「凝集剤を用い、廃水中から懸濁物質を凝集沈降させて取り除くための廃水中の懸濁物質の除去処理方法であって、」「当該除去処理方法は、製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水を処理対象とし、当該直接冷却廃水は、冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却することで生じ、スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至るものであり、」「有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され、スケールピット内に排水され、その結果、スケールピット内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され、スケールピット内の上澄水は清澄なものとなり、冷却塔へ揚水され、冷却塔で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び給水され」る「廃水中の懸濁物質の除去処理方法」は、本件発明1の「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法」に相当する。 d 甲2発明の「製鐵所の連続鋳造工程」又は「製鐵所の圧延工程」は、「スケール、微粒鉄粉、油」を含む「廃水」を生じさせる工程であるから、本件発明1の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程」に相当する。そして、甲2発明の「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水」は、甲2発明の「製鐵所の連続鋳造工程」又は「製鐵所の圧延工程」に供給されるものであるから、本件発明1の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水」に相当する。 e 甲2発明の「有機凝集剤」は、「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水に予め」「添加」される一方、本件発明1の「油分離剤」は、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に」「添加」されるものであり、上記dのとおり、上記「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水」は、上記「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、・・・のうち、少なくとも1つの供給水」に相当するところ、甲2発明の「有機凝集剤」及び本件発明1の「油分離剤」の添加位置は一致している。 f 甲2発明の「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」は、「スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ち」るものであり、また、上記bのとおり、本件発明1の「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」に相当することからすれば、甲2発明は、本件発明1の「前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであ」るに相当する構成を有しているといえる。 そして、甲2発明の「有機凝集剤」は、上記eの位置で添加された結果、「有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され」るところ、前段落の点も踏まえれば、本件発明1の「油分離剤」と同じく、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に」「含まれるように」添加されるものである。 g 上記e及びfからすると、「有機凝集剤」という添加剤を添加する甲2発明と、「油分離剤」という添加剤を添加する本件発明1とは、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に添加剤が含まれるように、添加剤を添加する工程を有し、」「前記添加剤を添加する工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、添加剤を添加するものであ」る点で共通しているといえる。 h 甲2発明の「直接冷却水として再び給水される処理水」は、「製鐵所の連続鋳造工程」又は「製鐵所の圧延工程」に供給される水であり、液体中の物質濃度を指す「mg/l」は通常「ppm」と一致するから、甲2発明の「直接冷却水として再び給水される処理水の懸濁物質濃度は10mg/l以下、油分濃度は4mg/l以下になる」との事項は、本件発明1の「前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であ」るとの規定を満足する。 i 甲2発明の「有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され、スケールピット内に排水され」ることから、甲2発明と本件発明1とは、両者とも「添加剤を添加する工程から得られる廃水は、」「横流沈殿池又はスケールピットに送られる」との構成を有している。 j 以上によれば、本件発明1と甲2発明は、 「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法であって、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に添加剤が含まれるように、添加剤を添加する工程を有し、 前記添加剤を添加する工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、添加剤を添加するものであり、 前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であり、 前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであり、 前記添加剤を添加する工程から得られる廃水は、横流沈殿池又はスケールピットに送られる、 廃水処理方法。」 の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2-1> 本件発明1では、廃水に添加する添加剤が、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」する「油分離剤」であって、添加後の廃水が、当該「分離状態」で次工程に送られるのに対し、甲2発明では、廃水に添加する添加剤が、「廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したもの」を「極めて速やかに沈降分離」する「有機凝集剤」であって、添加後の廃水が、上述のように「分離状態」で次工程に送られることが特定されていない点。 <相違点2-2> 廃水に添加する添加剤の成分が、本件発明1では、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含」むのに対し、甲2発明では、「下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる、 [図:0001421380000019.jpg] [図:0001421380000020.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。)」ものである点。 <相違点2-3> 横流沈澱池又はスケールピットにおける沈降分離により得られるスラッジの含油率が、本件発明1では、「1.5%以下」であるのに対し、甲2発明では、この割合が明らかでない点。 (イ)相違点に対する判断 添加剤の機能に係る相違点2-1、添加剤の成分に係る相違点2-2、添加剤の添加効果に係る相違点2-3は、それぞれを独立して変更したり調整できるものでないため、全相違点についてまとめて検討する。 a 甲2には、添加剤の添加によって廃水中の油分と懸濁物質とを「分離状態で維持」することは何ら記載されておらず、一方、甲2発明の添加剤である有機凝集剤は、「廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したもの」を「極めて速やかに沈降分離」させるとの作用を有するものであって、この作用は、スケール、微粒鉄粉、油、つまり、油分及び懸濁物質を「凝結・凝集」しようとする点で、むしろ、油分と懸濁物質とを「分離状態で維持」することに反する作用といえる。そのため、相違点2-1は、実質的な相違点である。 また、甲2発明の添加剤の成分として使用される「一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体」は、ノニオン系高分子化合物でないから、相違点2-2も、実質的な相違点である。 さらに、甲2には、上記(1)イ(ア)bの【0027】のとおり、「その沈殿物は、従来の処理で生じていた汚泥とは全く異なり、脱水性が良好で、油分の含有率も低い」との記載があり、同【0047】のとおり、「粗大なSSと微細なSSとを同一の処理で凝集沈降させたことによってスケールピットにおいて発生する、粒径の大きなスケール、微細な鉄粉、及び油からなるスラッジは、脱水性と濃縮性がよく、重量あたりの油含有率が小さい」との記載があるものの、含油率の具体的な上限値を規定することは何ら記載されていないため、相違点2-3も、実質的な相違点である。 b 上記aのとおり、甲2発明の有機凝集剤は、「廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したもの」を「極めて速やかに沈降分離」させるという作用を有するものである。このことからすると、甲2発明の有機凝集剤を、当該作用に反するような、油分と懸濁物質とを「分離状態で維持」するとの機能を有する「油分離剤」に置換しようとする動機はそもそも生じず、相違点2-1に係る構成は、甲2発明から出発して当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 そして、当該機能を置換する動機がそもそも生じないため、相違点2-2に係る、当該機能を発揮するための成分の構成や、相違点2-3に係る、当該機能によってもたらされる含油率の構成も、甲2発明から出発して当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 c 上述のとおり、相違点2-1~相違点2-3に係る構成は、甲2以外の証拠の記載事項に関わらず、容易に想到し得るとはいえないが、念のため、他の証拠の記載事項について検討する。 甲1には、上記ア(ア)h及び同(イ)aのとおり、「油分離剤」を直接冷却水系の供給水に添加し、廃水中で油分と懸濁物質とを分離状態で維持する方法が記載されているものの、ノニオン系高分子化合物を使用すること及び沈殿スラッジの含油率を1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 甲5、甲6、甲8には、上記ア(イ)cのとおり、ノニオン系高分子化合物が記載されているものの、いずれも製鉄工業における直接冷却水系の供給水に添加されるものでなく、当該化合物を直接冷却水系の供給水に添加することで、油分と懸濁物質とを分離状態で維持すること及び沈降分離により得られるスラッジの含油率を1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 甲3、甲4、甲7には、上記相違点に係る油分離剤の機能、成分及び添加効果に関して何ら記載されていない。 以上によれば、甲1、3~7の記載事項は、相違点2-1~相違点2-3に係る構成を充足するものとはならない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点2-1~相違点2-3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (3)本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明、甲4発明又は甲2発明と、他の証拠の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (4)本件発明5について 本件発明5は「油分離剤」という物の発明であることを踏まえ、甲1’発明、甲4発明、甲2’発明のそれぞれを主引用発明とした場合に、本件発明5が容易に想到し得るものであるか否か、順に検討する。 ア 甲1’発明を主引用発明とする場合 (ア)対比 本件発明5と甲1’発明を対比する。 a 本件発明1と甲1発明の対比を行った上記(2)ア(ア)aと同様に、甲1’発明の「製鐵所の圧延工程への直接冷却水」は、本件発明5の「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水」に相当する。また、甲1’発明の「その後に生じる含油廃水」は、「懸濁物質と水と油分とを含んでなる」ものであるから、本件発明5の「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」に相当する。 b 上記(2)ア(ア)bと同様に、甲1’発明の油分吸着阻害剤が用いられる処理方法では、「製鐵所の圧延工程への直接冷却水に、その後に生じる含油廃水に対しての最適量の油分吸着阻害剤を添加するように構成し、」「圧延工程から出された含油廃水は、急速撹拌槽で無機凝集剤と混合され、その後、緩速撹拌槽で高分子凝集剤と混合され、沈殿槽においてスラッジを沈降分離し、沈殿スラッジはスラッジ濃縮槽に排出し、沈殿槽で発生する油膜はフロートポンプにより除去し、処理水は、処理水槽から冷却塔へと送られて冷却された後、再び圧延工程へと送水」されており、このような「製鐵所の圧延工程への直接冷却水」の系統は、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系」であるといえる。 c 甲1’発明の「油分吸着阻害剤」は、「懸濁物質と水と油分とを含んでなる含油廃水の処理」に用いられるものであるところ、上記a及びbを踏まえれば、甲1’発明の「油分吸着阻害剤」と本件発明5の「油分離剤」は、両者とも「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる」ものであるといえる。 d 上記(2)ア(ア)dと同様に、甲1’発明の「圧延工程」は、本件発明5の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程」に相当する。そして、甲1’発明の「油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水」は、本件発明5の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水」に相当する。 そして、甲1’発明の「油分吸着阻害剤」は、「油分とその他の懸濁物質とが混合される前の水に添加」され、本件発明5の「油分離剤」は、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され」るものであるところ、前段落の相当関係からすれば、甲1’発明の「油分吸着阻害剤」と本件発明5の「油分離剤」の添加位置は一致している。 e 上記(2)ア(ア)eと同様に、甲1’発明の「油分吸着阻害剤」は、「含油廃水」中で「懸濁物質への油の吸着を阻害」すなわち「油分と懸濁物質とを分離状態で維持」するとの機能を有するものであり、この機能は、本件発明5の「油分離剤」の「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するとの機能と共通している。そのため、甲1’発明の「油分吸着阻害剤」は、この点では、本件発明5の「油分離剤」に相当するといえる。 f 以上によれば、本件発明5と甲1’発明は、 「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる油分離剤であって、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され、 前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持する 油分離剤。」 の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1’-1> 油分離剤が、本件発明1では、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含」むのに対し、甲1’発明では、「塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)と、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(炭素数2~6)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(炭素数2~6)メタクリレートからなる群から選ばれる少なくともいずれかをモノマー成分として合成されてなるカチオン性共重合体」である点。 <相違点1’-2> 供給水が、本件発明5では、「油分濃度が5ppm以下」かつ「懸濁物質濃度が20ppm以下」であるのに対し、甲1’発明では、このような濃度であるのか明らかでない点。 <相違点1’-3> 油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程が、本件発明5では、「スケールスルース」であるのに対し、甲1’発明では、このようなものであるのか明らかでない点。 (イ)相違点に対する判断 相違点1’-1について検討する。 a 上記(2)ア(イ)aでの相違点1-1についての検討と同様に、甲1’発明の「カチオン性共重合体」はノニオン系高分子化合物でないから、相違点1’-1は、明らかに実質的な相違点である。 b ここで、上記(2)ア(イ)bでの検討と同様に、甲1’発明の油分離剤としては、圧延工程前の水に添加した際に、油分と懸濁物質とを分離状態で維持することに加え、圧延処理に対して悪影響を与えないことという2点を満足する成分を使用すべきであると理解される。 c 他方、他の証拠をみると、上記(2)ア(イ)cのとおり、甲2、甲5、甲6、甲8には、ノニオン系高分子化合物から構成される凝集剤又は界面活性剤が記載されているものの、いずれも圧延工程前の水に添加されるものでなく、ノニオン系高分子化合物を圧延工程前の水に添加した際に、油分と懸濁物質とを分離状態で維持するという機能や、当該機能とスラッジの含油率との関係は、何ら着目されていない。 d そうすると、上記(2)ア(イ)dでの検討と同様に、甲1’発明において、油分と懸濁物質とを分離状態で維持する機能が求められる油分離剤の成分として、当該機能について着目されていない、甲2、甲5、甲6、甲8に記載のノニオン系高分子化合物を採用する動機は生じない。 e 加えて、上記(2)ア(イ)eでの検討と同様に、甲2、甲5、甲6、甲8に圧延処理に対する悪影響の有無が示されていないという点からも、甲1’発明の油分離剤の成分として、敢えて、甲2、甲5、甲6、甲8に記載のノニオン系高分子化合物を採用しようとする動機は生じないといえる。 f そして、上記(2)ア(イ)fでの検討と同様に、甲3、甲4、甲7には、ノニオン系高分子化合物の記載自体がないところ、甲2~8の記載事項を考慮しても、相違点1’-1に係る構成は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点1’-1に係る本件発明5の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1’発明及び甲2~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 イ 甲4発明を主引用発明とする場合 甲4には、油分離剤に関係するような物が記載されておらず、本件発明5と対比できる物の発明が存在しないため、ここでは、甲4発明を主引用発明として検討を行う。 (ア)対比 本件発明5と甲4発明を対比する。 甲4発明の方法では、油分離剤を添加する工程自体が存在しないため、「油分離剤」という物に係る本件発明5と甲4発明は、物の発明として一致する点が存在せず、以下の点で相違していることになる。 <相違点4’-1> 「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる油分離剤であって、 有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され、 前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であり、 前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであり、 前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持する、 油分離剤。」 (イ)相違点に対する判断 a 上記(2)イ(イ)aの相違点4-1に対する判断で述べたように、甲4発明は、樋中でミルスケールが油に被覆される前にミルスケールを採取することで、油濃度の低いミルスケールを得るという技術であるから、そもそも、甲4発明には、廃水中で油分と懸濁物質とを分離状態で維持するような剤を用いる動機がない。さらに、相違点4-1での検討と同様に、油濃度の低いミルスケールが採取された後の廃水がスケールピットに送られる甲4発明においては、スケールピットに至るまでの廃水を、油分とミルスケール(すなわち懸濁物質)とを分離状態で維持しようとする動機も生じ得ない。そのため、相違点4’-1に係る構成は、甲4発明から出発して当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 b 上述のとおり、相違点4’-1に係る構成は、甲4以外の証拠の記載事項に関わらず、容易に想到し得るとはいえないが、念のため、他の証拠の記載事項について検討しても、上記(2)イ(イ)bと同様に、甲1~3、5~8の記載事項は、相違点4’-1に係る構成を充足するものとはならない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点4’-1に係る本件発明5の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件発明5は、甲4発明及び甲1~3、5~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 ウ 甲2’発明を主引用発明とする場合 (ア)対比 本件発明5と甲2’発明を対比する。 a 本件発明1と甲2発明の対比を行った上記(2)ウ(ア)aと同様に、甲2’発明では、「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水」又は「製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」「は、冷却水がスプレーノズル等から鋼材表面へ噴射されて、鋼材を冷却することで生じ、スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ちて、この開放樋を流れて、水処理設備であるスケールピットに至るものであり、」「有機凝集剤と直接冷却廃水は、スケールスルース内の激しい流れの中で混合され、スケールピット内に排水され、その結果、スケールピット内では、廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したものが極めて速やかに沈降分離され、スケールピット内の上澄水は清澄なものとなり、冷却塔へ揚水され、冷却塔で冷却されて得られた処理水は、直接冷却水として再び給水され」ているところ、このような「製鐵所の連続鋳造工程」又は「製鐵所の圧延工程」における「直接冷却水」の系統は、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系」であるといえる。 b 上記(2)ウ(ア)bと同様に、甲2’発明の「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水」又は「製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」は、「スケール、微粒鉄粉、油」が含まれるものであるから、本件発明5の「油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水」に相当する。 c 甲2’発明の「有機凝集剤」は、「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水を処理」するものであるところ、上記a及びbを踏まえれば、甲2’発明の「有機凝集剤」と本件発明5の「油分離剤」は、両者とも「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる」ものであるといえる。 d 上記(2)ウ(ア)dと同様に、甲2’発明の「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水」は、本件発明5の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水」に相当する。 e 上記(2)ウ(ア)eと同様に、甲2’発明の「有機凝集剤」は、「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水に予め」「添加」される一方、本件発明5の「油分離剤」は、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され」るものであり、上記dのとおり、上記「粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが併存した廃水になる前の冷却水」は、上記「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、・・・のうち、少なくとも1つの供給水」に相当するところ、甲2’発明の「有機凝集剤」及び本件発明5の「油分離剤」は、両者とも、「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され」る添加剤であるという点で共通している。 f 上記(2)ウ(ア)fと同様に、甲2’発明の「製鐵所の連続鋳造工程における鋼材の直接冷却廃水、製鐵所の圧延工程における鋼材の直接冷却廃水」は、「スケールスルースと呼ばれる開放樋に流れ落ち」るものであることからすれば、甲2’発明は、本件発明5の「前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースであ」るに相当する構成を有しているといえる。 g 上記(2)ウ(ア)hと同様に、甲2’発明の「直接冷却水として再び給水される処理水の懸濁物質濃度は10mg/l以下、油分濃度は4mg/l以下になる」との事項は、本件発明5の「前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であ」るとの規定を満足する。 h 以上によれば、本件発明5と甲2’発明は、 「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる添加剤であって、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され、 前記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であり、 前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程は、スケールスルースである、 油分離剤。」 の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2’-1> 添加剤が、本件発明5では、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」する「油分離剤」であるのに対し、甲2’発明では、廃水に添加する添加剤が、「廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したもの」を「極めて速やかに沈降分離」する「有機凝集剤」である点。 <相違点2’-2> 添加剤の成分が、本件発明5では、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含」むのに対し、甲2’発明では、「下記一般式(1)及び(2)を必須成分としてそれぞれ5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる、 [図:0001421380000021.jpg] [図:0001421380000022.jpg] (上記式中の、R1、R2は、CH3又はC2H5を、R3は、H、CH3又はC2H5を表す。X-は、アニオン性対イオンを表す。)」ものである点。 (イ)相違点に対する判断 添加剤の機能に係る相違点2’-1と添加剤の成分に係る相違点2’-2は、それぞれを独立して変更したり調整できるものでないため、両相違点についてまとめて検討する。 a 上記(2)ウ(イ)aでの相違点2-1についての検討と同様に、甲2’発明の添加剤である有機凝集剤が有する、「廃水中のスケール、微粒鉄粉、油の凝結・凝集したもの」を「極めて速やかに沈降分離」させるとの作用は、油分と懸濁物質とを「分離状態で維持」することに反する作用といえるため、相違点2’-1は、実質的な相違点である。 また、甲2’発明の添加剤の成分として使用される「カチオン性又は両性の共重合体」は、ノニオン系高分子化合物でないから、相違点2’-2も、実質的な相違点である。 b 上記(2)ウ(イ)bでの検討と同様に、甲2’発明の有機凝集剤を、上記aの作用に反するような、油分と懸濁物質とを「分離状態で維持」するとの機能を有する「油分離剤」に置換しようとする動機はそもそも生じず、相違点2’-1に係る構成は、甲2’発明から出発して当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 そして、当該機能を置換する動機がそもそも生じないため、相違点2’-2に係る、当該機能を発揮するための成分の構成も、甲2’発明から出発して当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 c 上述のとおり、相違点2’-1及び相違点2’-2に係る構成は、甲2以外の証拠の記載事項に関わらず、容易に想到し得るとはいえないが、念のため、他の証拠の記載事項について検討しても、上記(2)ウ(イ)cと同様に、甲1、3~8の記載事項は、相違点2’-1及び相違点2’-2に係る構成を充足するものとはならない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点2’-1及び相違点2’-2係る本件発明5の構成は、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件発明1は、甲2’発明及び甲1、3~8の記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (5)本件発明6について 本件発明6は、本件発明5を引用し、本件発明5の構成をすべて具備するものであるから、本件発明5と同様に、甲1’発明、甲4発明又は甲2’発明と、他の証拠の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (6)申立理由1に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1~6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1には、理由がない。 2 申立理由2(明確性要件違反)について (1)申立理由2の内容 ア 本件発明1における「廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法」は、これらの濃度を低減するための具体的な構成が不明である。 イ 本件発明1における「沈降分離により得られるスラッジの含油率が1.5%以下である」との事項は、本件発明1における「廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する」との事項との関係が不明である。 ウ 本件発明1又は本件発明5における「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程」が指す「油分が生じる工程」、「懸濁物質が生じる工程」、「油分及び懸濁物質が生じる工程」は、それぞれ如何なる工程なのか不明である。 エ 本件発明1又は本件発明5における「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との事項について、「有効成分として」、「ノニオン系」、「含み」の意味が不明確である。 オ 本件発明1又は本件発明5における「油分離剤」についての「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するとの事項は、以下の(ア)~(ウ)により不明確である。 (ア)「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」は、上記(1)エ(ア)bの甲4【0028】に示される、「樋の乱流水の中ではミルスケール粒子が油の被覆に耐える」という状態や、上記(1)ア(ア)bの甲1【0018】等に示される、「油分吸着阻害剤」による「懸濁物質への油分の吸着を阻害」という機能と同義であり、「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との事項を規定する意味が不明である。 (イ)本件発明1には、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持し」という機能を超える、「廃水中の」「懸濁物質濃度を低減する」ことも規定されているため、「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との事項は不明確である。 (ウ)「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との事項は、本件明細書中で検証されていないため、不明確である。 (2)申立理由2についての検討 ア 上記(1)アについて 本件発明1の「廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法」は、「前記油分離剤を添加する工程から得られる廃水は、前記廃水中の前記油分と前記懸濁物質とが分離状態で横流沈殿池又はスケールピットに送られ」るものである。そして、「横流沈殿池又はスケールピット」では一般に油分や懸濁物質の分離が行われることと、分離された後の水は油分濃度及び懸濁物質濃度が低減されることは、本分野の技術常識から明らかであるから、本件発明1の「廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する」ための構成は、「油分離剤を添加する工程から得られる廃水」が送られた「横流沈殿池又はスケールピット」において、油分や懸濁物質の分離を行う構成を指すと理解することができる。 また、上述のとおり理解される構成は、本件明細書【0039】の「スケールピット3内では、廃水中の油分及び懸濁物質の凝結・凝集したものが極めて速やかに分離され、油分は浮上分離され、懸濁物質は沈降分離する。そのため、スケールピット3内の中間層は清澄な処理水となる。」との説明と整合するものでもある。 そうすると、本件発明1の「廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法」は、その記載から意味する構成を理解することができ、明細書中の説明と矛盾するものでもないから、不明確であるとはいえない。 イ 上記(1)イについて 本件発明1における「沈降分離により得られるスラッジ」は、上記アの理解も踏まえれば、横流沈殿池又はスケールピットにおいて分離された後の懸濁物質を指すことが明らかである。 そうすると、「廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する」との事項は、上記アの構成であることを意味するものであり、「沈降分離により得られるスラッジの含油率が1.5%以下である」との事項は、上記アの構成により得られたスラッジの性状を特定するものと理解することができるから、両事項の関係は、不明確であるとはいえない。 ウ 上記(1)ウについて 本件請求項1には、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水中の油分濃度及び懸濁物質濃度を低減する廃水処理方法であって」と記載され、また、本件請求項5には、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系において、油分及び懸濁物質、又は、油分及び懸濁物質並びに油分結合懸濁物質とを含む廃水に用いられる油分離剤であって」と記載されており、両請求項とも、上述の記載があった上で、「前記油分及び/又は前記懸濁物質」と記載されている。そして、「前記」との表記からすれば、「前記油分」と「前記懸濁物質」は、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備における直接冷却水系」の「廃水中の」「油分」と「懸濁物質」であると解するほかなく、この「油分」と「懸濁物質」は、「連続鋳造設備又は圧延設備」から生じるものであることは、技術常識から明らかである。 そうすると、本件発明1又は本件発明5の「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程」は、「製鉄工業における連続鋳造設備又は圧延設備」を指していると理解することができるから、当該工程の意味するところが不明確であるとはいえない。 エ 上記(1)エについて 本件発明1又は本件発明5の「油分離剤」は、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」という点に加えて、その添加対象となる「廃水」の種類と、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するという機能も特定されている。そして、「有効成分」は、効力をもつ成分といった意味の文言であるところ、上述の添加対象及び機能の特定を踏まえれば、本件発明1又は本件発明5の「有効成分」とは、上記「廃水」において上記機能を発揮する成分を指すものと理解することができる。 また、例えば、上記1(1)カの甲6【0018】に「ノニオン系高分子凝集剤」との表記があるように、「ノニオン系」との記載は、技術常識からすれば、ノニオン性又は非イオン性の成分を指すものと理解することができる。 そして、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との記載については、上述の「有効成分」の理解を踏まえれば、油分離剤が上述の機能を発揮する「ノニオン系高分子化合物」を含むという意味であると理解することができる。 そして、本件明細書中の説明が、上述のとおり理解される事項と矛盾するわけでもないため、「油分離剤」についての「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」という特定事項は、不明確であるとはいえない。 オ 上記(1)オについて 本件発明1又は本件発明5の「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との事項は、以下に示すとおり、上記(1)オ(ア)~(ウ)によって不明確であるとはいえない。 (ア)上記(1)オ(ア)について 「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との事項は、「油分離剤」の機能を特定しようとするものであるから、当該事項を規定する意味(意図)自体は明らかである。 また、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との内容は、文言どおりにその意味を理解することができ、例えば、本件明細書【0023】にある「油分の懸濁物質への付着又は結合を防止」等の説明も、上記文言どおりの意味で理解した機能と整合するものである。そして、このような「分離状態で維持」と同様又は類似の事項が上記甲4又は甲1に記載されているからといって、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との内容の意味を理解するにあたり矛盾等が生じるわけではない。 (イ)上記(1)オ(イ)について 本件明細書【0039】における「廃水中の油分及び懸濁物質が分離した状態でスケールピット3に送られる」ことで、「スケールピット3内では、廃水中の油分及び懸濁物質の凝結・凝集したものが極めて速やかに分離され、油分は浮上分離され、懸濁物質は沈降分離する」との説明も踏まえれば、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するとの事項によって、「廃水中の」「懸濁物質濃度を低減する」ことに至るという作用機序は明確であり、油分離剤の機能から飛躍するような事項が規定されているとはいえない。 (ウ)上記(1)オ(ウ)について 本件明細書には、上記「分離状態」の直接的な観察結果は記載されていないものの、上記(ア)のとおり、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との内容の意味は、その文言から明確に理解することができる。 また、本件明細書【0046】~【0049】の実施例3及び4には、油分離剤を適切に添加することで、沈殿スラッジの油分が低減されたことが示されている。そして、油分と懸濁物質とが分離状態で維持されれば、懸濁物質が沈殿したスラッジの含油率は当然小さくなるはずであるところ、上記実施例3及び4は、本件発明1又は本件発明5の上記事項の文言どおりに「分離状態で維持」されたことを間接的に確認できるものといえる。 そうすると、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」との事項は、実施例を含む本件明細書の記載によって確認できるものであるといえる。 カ 上記ア~オのとおり、申立理由2で指摘される特許請求の範囲の記載は、明確性要件を満たしていないとすることはできない。 (3)申立理由2に関するまとめ 以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由2には、理由がない。 3 申立理由3(サポート要件違反)について (1)申立理由3の内容 本件発明1又は本件発明5の「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との規定は、広範な薬品を包含しており、その全ての薬品が所定の効果を奏するものとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たしていない。 (2)申立理由3についての検討 ア サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、単に、特許請求の範囲の記載に包含される事項の広狭によって判断されるものでなく、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点により検討する。 イ 本件発明の課題と当該課題に対応する発明の詳細な説明の記載 本件発明の詳細な説明の特に【0011】及び【0012】からすれば、本件発明の課題は、「従来の処理方法では、無機化合物、金属又は金属酸化物粒子と油分とが結合すると、これらを分離することは困難であ」ったことに鑑みて、「油分と、懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質とを含む廃水を、水と、浮上分離される油分と、油含有率の低い懸濁物質とに分離する廃水処理方法」や「油分と、懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質とを含む廃水用いられる油分離剤」を提供することである。 そして、【課題を解決するための手段】として、【0013】には、「油分及び/又は懸濁物質が生じる工程、並びに、油分、懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれるように、特定の油分離剤(すなわち、ノニオン系高分子化合物)を添加すること」が記載され、また、【0014】には、「上記油分離剤添加工程は、上記油分及び/又は上記懸濁物質が生じる工程、並びに、上記油分、上記懸濁物質及び/又は上記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水の少なくとも1カ所に、油分離剤を添加するものであり、上記供給水の油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下であることが好ましい」と記載されている。 さらに、【0020】には、「従来から使用されているカチオン系高分子化合物、カチオンアニオンの両性の高分子化合物では、油分と懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質とを含む廃水を、水と、浮上分離される油分と、油含有率の低い懸濁物質とに分離することができなかった」ところ、前段落のとおり「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含む油分離剤が含まれるように、油分離剤を添加する油分離剤添加工程を有することにより、優れた油分の浮上分離効果及び懸濁物質の沈降分離効果が得られることを見出し」たことが記載されている。また、【0023】には、「油分濃度が5ppm以下であり、懸濁物質濃度が20ppm以下である清澄な供給水に添加することにより、油分の懸濁物質への付着又は結合を防止でき」、「廃水中で油分と懸濁物質とを分離状態で維持することにより、より高度に、油分と懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質とを含む廃水を、水と、浮上分離される油分と、油含有率の低い懸濁物質とに分離することができる」と記載されており、【0039】には、「廃水中の油分及び懸濁物質が分離した状態でスケールピット3に送られる」ことで、「スケールピット3内では、廃水中の油分及び懸濁物質の凝結・凝集したものが極めて速やかに分離され、油分は浮上分離され、懸濁物質は沈降分離する」と記載されている。 そして、【0040】~【0049】には、【実施例】として、油分及び懸濁物質を含む試験水又は直接冷却水にノニオン系高分子化合物を添加することで、カチオン系又はアニオン系高分子化合物を添加した場合よりも、良好に「水と、浮上分離される油分と、油含有率の低い懸濁物質とに分離」できた例が記載されており、その中には、「清澄な」水に添加することで特に良好に分離できた例が記載されている。 以上の記載からすれば、本件発明の課題を解決するためには、廃水処理方法としては、油分及び/又は懸濁物質が生じる工程、並びに、油分、懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に、カチオン系やアニオン系でなくノニオン系高分子化合物を含む油分離剤を添加し、油分と懸濁物質を分離状態で維持することが肝要であり、さらに、添加位置としては、これらの工程に供給される清澄な供給水に添加することが好適であると認識できる。また、油分離剤としては、上述のように添加した際に油分と懸濁物質を分離状態で維持できるように、ノニオン系高分子化合物を含むものとすることが肝要であると認識できる。 ウ 発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載の対比 上記イのとおり、発明の詳細な説明の記載からすれば、本件発明の課題を解決するためには、廃水処理方法としては、油分及び/又は懸濁物質が生じる工程、並びに、油分、懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に、ノニオン系高分子化合物を含む油分離剤を添加し、油分と懸濁物質を分離状態で維持するという、油分離剤の添加位置、成分及び機能を規定することが必要であり、さらに、添加位置としては、これらの工程に供給される清澄な供給水に添加することが好適であると認識できる。また、油分離剤としては、上述のように添加した際に油分と懸濁物質を分離状態で維持できるように、ノニオン系高分子化合物を含むものとすることが必要であると認識できる。 一方、本件請求項1には、「廃水処理方法」の構成として、 「前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に油分離剤が含まれるように、油分離剤を添加する油分離剤添加工程を有し、 前記油分離剤は、有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み、 前記油分離剤添加工程は、前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に、油分離剤を添加するものであり、」及び 「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持し、」 との記載があり、また、本件請求項5には、「油分離剤」の構成として、 「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み、 前記油分及び/又は前記懸濁物質が生じる工程に供給される供給水、前記油分及び前記懸濁物質、又は、前記油分及び前記懸濁物質並びに前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水のうち、少なくとも1つの供給水に添加され、」及び 「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持する」 との記載がある。そして、上記「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との記載は、上記2(2)エで述べたとおり、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持する」との機能を発揮するノニオン系高分子化合物を含むことを意味すると理解することができる。そのため、本件請求項1及び5においては、本件発明の課題を解決するために必要な、油分離剤の添加位置、成分及び機能が規定されているといえ、添加位置については、課題解決の上でより好適な位置が規定されているといえる。 そうすると、特許請求の範囲に記載される本件発明1~6は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たすものといえる。 エ 上記ウで述べたとおり、本件発明1~6はサポート要件を満たすものであるが、念のため、上記(1)の申立理由3の内容についても検討すると、本件発明の「油分離剤」は、上述のとおり、「前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持する」との機能を発揮するものであることが実質的に限定されているといえるノニオン系高分子化合物を含むものであるから、本件発明の「油分離剤」は、本件発明の課題を解決しない広範な薬品を包含するものとはいえない。 (3)申立理由3に関するまとめ 以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由3には、理由がない。 4 申立理由4(実施可能要件)について (1)申立理由4の内容 本件発明1又は本件発明5の「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との規定は、上記2(1)エのとおり明確でないために、当該規定を含む本件発明は、当業者が実施することができないから、本件発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。 (2)申立理由4についての検討 ア 実施可能要件の判断手法 発明の詳細な説明の記載に対する実施可能要件は、下記(ア)又は(イ)の観点で判断すべきものである。 (ア)方法の発明について 方法の発明における発明の実施とは、その方法を使用する行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が上記の実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。 (イ)物の発明について 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。 イ 本件発明の詳細な説明の記載事項 発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。 「【0024】 本発明における油分離剤は、有効成分としてノニオン系高分子化合物を含むものであればよく、ノニオン系高分子化合物としては、イオン性を示さない完全なノニオン性高分子化合物に加え、高分子化合物の構成成分のうち、イオン性(カチオン性又はアニオン性)を示すモノマーのモル割合が5%以下の弱イオン性(カチオン性又はアニオン性)高分子化合物も含まれる。 本発明で用いられるノニオン系高分子化合物としては、例えば、アクリルアミド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルビニルエーテル、ビニルアルコール、ビニルアセトアミド等のモノマーから合成されるホモポリマー、コポリマー及びターポリマー、アクリル酸等のアニオン性モノマーのモル割合が5%以下の弱アニオン性のコポリマー及びターポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレート等のカチオン性モノマーのモル割合が5%以下の弱カチオン性のコポリマー及びターポリマーが挙げられる。本発明で用いられるノニオン系高分子化合物は、アクリルアミド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルビニルエーテル、ビニルアルコール及びビニルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを構成成分として含むホモポリマー、コポリマー及び/又はターポリマー、アクリル酸等のアニオン性モノマーのモル割合が5%以下の弱アニオン性のコポリマー及び/又はターポリマー、並びに、ジメチルアミノエチルメタアクリレート等のカチオン性モノマーのモル割合が5%以下の弱カチオン性のコポリマー及び/又はターポリマーの1種又は2種以上であることが好ましい。また、本発明で用いられるノニオン系高分子化合物としては、アクリルアミドの重合物と、並びに、モノマーとしてアクリルアミドを構成成分として含み、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルビニルエーテル、ビニルアルコール及びビニルアセトアミドから選ばれた1種以上のモノマーを構成成分として含む構造のコポリマー及び/又はターポリマーと、アクリル酸等のアニオン性モノマーのモル割合が5%以下の弱アニオン性のコポリマー及び/又はターポリマーとからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。 また、本発明における油分離剤は、有効成分として、イオン性を示さない完全なノニオン性高分子化合物及び/又は高分子化合物の構成成分のうち、アニオン性を示すモノマーのモル割合が5%以下の弱アニオン性高分子化合物を含むことが好ましく、イオン性を示さない完全なノニオン性高分子化合物を含むことがより好ましい。 【0025】 また、本発明におけるノニオン系高分子化合物であるホモポリマー、コポリマーあるいはターポリマーの重量平均分子量が、300万~2000万であることが好ましい。重量平均分子量が上記範囲内よりも小さ過ぎると重合反応が制御しにくく合成が難しく、充分な懸濁物質の沈降分離効果が得られない。一方、大き過ぎるとその粘度が上昇し、使用し難くなる可能性があるためである。なお、上記モノマーから合成されるノニオン系高分子化合物であるホモポリマー、コポリマーあるいはターポリマーの重量平均分子量は、600万~1700万であることがより好ましい。 【0026】 本発明の廃水処理方法における油分離剤の添加量は、廃水中の油分と懸濁物質との量や濃度により決定されてもよいが、0.05~5ppmの範囲で添加されることが好ましく、0.5~3ppmの範囲で添加されることがより好ましい。 ・・・ 【0030】 本発明の廃水処理方法において、上記油分離剤が、油分及び/又は懸濁物質が生じる工程、並びに、前記油分、前記懸濁物質及び/又は前記油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程に供給される供給水の少なくとも1カ所に添加される場合、油分濃度が5ppm以下(好ましくは3ppm以下)であり、懸濁物質濃度が20ppm以下(好ましくは10ppm以下)の供給水(清澄な供給水)が、プラント内に供給される前の効率的に分散混合される位置で上記油分離剤が添加されることが好ましい。例えば、プラントに送水される清澄な供給水の送水ラインや、スケールスルース又はスプレーへ送水される清澄な供給水の送水ラインに、薬注クイル又は加圧水と共に薬品を混合するタイプの薬注ノズルを用いて、上記油分離剤を注入する方法や、ミキサーを含む薬品の希釈混合ラインを用い、上記油分離剤を注入する方法には、油分離剤が供給水中に充分混合され本発明の効果がより有効に発揮される点で好ましい。そのため、上記油分離剤は、薬注クイル又は加圧水と共に薬品を混合するタイプの薬注ノズルを用いて添加されることが好ましく、また、供給水の送水ラインのなかでもミキサーを含む混合ラインに添加されることが好ましい。 ・・・ 【0039】 図1は、本発明の廃水処理方法を、連続鋳造工程の直接冷却水系に適用した場合の好適な一例を示す模式図である。図1に示したように、連続鋳造装置1及び/又はスケールスルース2に供給される供給水は、スケールスルース2の内部を流動しながら、スケールピット3へと移動する。図1に示した例では、油分離剤(薬品)が、連続鋳造装置1及びスケールスルース2に添加される供給水及びスケールスルース2の少なくとも1カ所に添加されている。このように油分離剤が、連続鋳造装置1において油分及び/又は懸濁物質が生じる工程、並びに、油分、懸濁物質及び/又は油分結合懸濁物質を含む廃水を有する工程の少なくとも1カ所に含まれるように、添加されることで、スケールスルース2において廃水中の油分及び懸濁物質の付着又は結合が抑制され、廃水中の油分及び懸濁物質が分離した状態でスケールピット3に送られる。また、油分離剤がスケールスルース2に供給される供給水に添加される場合、油分離剤は、供給水がスケールスルース2に供給される際のポンプやその道中の配管等で攪拌混合され、供給水中に充分拡散した状態でスケールスルース2に供給される。これにより、スケールスルース2において廃水中の油分及び懸濁物質の付着又は結合が抑制され、廃水中の油分及び懸濁物質が分離した状態でスケールピット3に送られる。スケールピット3内では、廃水中の油分及び懸濁物質の凝結・凝集したものが極めて速やかに分離され、油分は浮上分離され、懸濁物質は沈降分離する。そのため、スケールピット3内の中間層は清澄な処理水となる。なお、処理水をさらに横流沈殿池4に送り、更に油分と懸濁物質とを分離する工程を経てもよい。処理水は、ろ過機5及び冷却塔6を経て、直接冷却水として再びプラントへ給水される。なお、油分離剤が、連続鋳造装置1における供給水に添加される場合、供給水が供給される際のノズルで油分離剤が攪拌混合され、供給水中に充分拡散した状態で連続鋳造装置1に供給されるため、スケールスルース2に直接添加する場合よりも好適である。 図2は、本発明の廃水処理方法を、圧延工程の直接冷却水系に適用した場合の好適な一例を示す模式図である。上述の図1における説明は、図1の連続鋳造装置1を図2の圧延設備7に読み替えることにより、図2の説明とすることができる。 【実施例】 ・・・ 【0046】 <実機による確認試験> (実施例3~4、並びに、比較例3) 某製鉄会社の連続鋳造工場の直接冷却水ラインにおいて実機による確認試験を実施した。評価試験前は、連続鋳造工場から排出される、直接冷却水の懸濁物質濃度(SS)や含有油分が上昇傾向にあり、スケールピットや横流沈殿池で沈降したスラッジ(スケール、懸濁物質)をコスト改善の目的で再利用する必要性が生じていた。 実機による確認試験では、表3に示す薬品(ノニオン性高分子油分離剤)を表3に示す添加濃度及び添加位置に加え、横流沈殿池出口における処理水の水質、及び、横流沈殿池における沈殿スラッジの含有油分を測定した。なお、確認試験を行った期間は1カ月であり、各試験開始から1週間ごとに処理水及び沈殿スラッジに対し測定を行った。下記表4に示す懸濁物質濃度(SS(ppm))、油分濃度(油分(ppm))及び沈殿スラッジ油分含有率(%)は、各試験開始から合計4回測定した測定結果の平均値である。また、実施例における薬品を添加した清浄な直接水の油分濃度(油分(ppm))は0.6~1.8であり、懸濁物質濃度(SS(ppm))は、4~9であった。 油分濃度(ppm)と沈殿スラッジ油分含有比率はJIS K 0102に基づきN-ヘキサン抽出物質測定法を用いて、懸濁物質濃度(SS)はGFPろ過重量法,MFろ過重量法を用いて、それぞれ測定した。 測定結果を表3に示す。 【0047】 薬品は下記のものを使用した。 アニオン性高分子化合物:ポリアクリル酸ナトリウムポリマー(重量平均分子量:700万) ノニオン性高分子化合物:アクリルアミドの重合物(重量平均分子量:900万) 【0048】 【表3】 [図:0001421380000023.jpg] 」 「【図1】 [図:0001421380000024.jpg] 【図2】 [図:0001421380000025.jpg] 」 ウ 本件発明1~4についての判断 本件発明1~4は方法の発明であるため、上記ア(ア)の観点に沿って検討する。 上記イに摘記した【0039】では、【図1】又は【図2】を参照しつつ、「連続鋳造工程の直接冷却水系」又は「圧延工程の直接冷却水系」のスケールスルースを含む構成と、これらの直接冷却水系における供給水に「油分離剤」を添加することが説明されるとともに、その添加により「廃水中の油分及び懸濁物質の付着又は結合が抑制され、廃水中の油分及び懸濁物質が分離した状態で」次工程に送られ、その次工程で「油分は浮上分離され、懸濁物質は沈降分離する」という作用機序も説明されている。また、【0024】~【0025】には、「油分離剤」に使用されるノニオン系高分子化合物が具体的に例示されるとともに、その重量平均分子量も例示されており、このノニオン系高分子化合物自体は、当業者であれば製造可能又は入手可能な物質である。さらに、【0026】には、「油分離剤」の添加量が例示されており、【0030】には、「油分離剤」を清澄な供給水に添加する際の具体的な手段が例示されている。そして、【0046】~【0048】には、「連続鋳造工場の直接冷却水ライン」における「実機による確認試験」として、「スケールスルースに入る前の清浄な直接水送水ライン」の「油分濃度(油分(ppm))は0.6~1.8であり、懸濁物質濃度(SS(ppm))は、4~9であ」る清澄な供給水に、上記【0024】に例示されたノニオン系高分子化合物である「アクリルアミドの重合物」を添加して、処理水の油分及び懸濁物質の量を低減し、沈殿スラッジの含油率を0.8%とした実施例4が記載されている。 そして、以上の記載に触れた当業者であれば、本件発明の「廃水処理方法」における「油分離剤添加工程」の具体的な態様を把握できるとともに、そのような添加により「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持し、前記油分離剤を添加する工程から得られる廃水は、前記廃水中の前記油分と前記懸濁物質とが分離状態で横流沈殿池又はスケールピットに送られ、前記横流沈殿池又は前記スケールピットにおける沈降分離により得られるスラッジの含油率が1.5%以下である」という構成を実現することが把握でき、本件発明1~4の「廃水処理方法」を実施するのに過度の試行錯誤を必要とするとはいえないから、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~4の「廃水処理方法」を実際に使用することができる程度に、明確かつ十分に記載されているといえる。 エ 本件発明5及び6について 本件発明5及び6は物の発明であるため、上記ア(イ)の観点に沿って検討する。 上記ウに示した発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば、「前記油分離剤は、前記廃水中で前記油分と前記懸濁物質とを分離状態で維持」するとの構成を実現する「油分離剤」の具体的な成分構成や添加手法を把握することができ、また、そのような「油分離剤」に含まれるノニオン系高分子化合物自体は、本件明細書の【0024】や実施例の【0047】に示されるように、当業者であれば製造可能又は入手可能な物質である。 そして、上記ウで述べたように、この「油分離剤」を使用する「廃水処理方法」についても、過度の試行錯誤なく実施できるものである。 そのため、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明5及び6の「油分離剤」を実際に製造し、使用することができる程度に、明確かつ十分に記載されているといえる。 オ 上記ウ及びエで述べたとおり、本件発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~6を実施できるように記載されているものであるが、念のため、上記(1)の申立理由4の内容についても検討すると、申立理由2についての上記2(2)エでの判断で述べたとおり、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との記載が意味する事項は明確であるから、「有効成分としてノニオン系高分子化合物を含み」との事項を特定できないために、本件発明を実施することができないとはいえない。 (3)申立理由4に関するまとめ 以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由4には、理由がない。 第5 むすび 上記第4で検討したとおり、本件特許1~6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項、同条第6項第1号及び同条同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1~4では、本件特許1~6を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~6を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-701016

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