特許異議申立
2026-700238
銅合金配管の防食方法
- 審判番号
- 2026-700238
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-003075
- 登録番号
- 7743128
- 請求日
- 2026年03月19日
- 審決日
- 2026年07月17日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社片山化学工業研究所
- 【権利者代理人】弁理士法人池内アンドパートナーズ
- 【異議申立人】合同会社 SAS
- 【異議申立人】アクアス 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 陽一
- 審判官 井上 猛
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.113-Y (C23F) / P1651.121-Y (C23F) / P1651.537-Y (C23F) / P1651.536-Y (C23F) / P1651.14 -Y (C23F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第113条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7743128号発明「銅合金配管の防食方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7743128号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7743128号(請求項の数9。以下、「本件特許」という。)は、令和7年1月8日を出願日とする特許出願(特願2025-3075号)に係るものであって、令和7年9月12日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和7年9月24日である。)。
その後、令和8年3月19日に、本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、特許異議申立人である合同会社SAS(以下、「申立人A」という。)により、特許異議の申立て(以下、「申立てA」という。)がされた。
また、令和8年3月23日に、本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、特許異議申立人であるアクアス株式会社(以下、「申立人B」という。)により、特許異議の申立て(以下、「申立てB」という。)がされ、同年4月14日に手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
海水と接触する銅合金配管の防食方法であって、
前記海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加すること、及び
前記海水にモノクロラミンを添加することを含む、方法。
【請求項2】
前記海水に、さらに、過酸化水素を添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記モノクロラミンを、前記海水に対する全残留塩素濃度が0.001mg/L~1mg/Lとなるように添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記モノクロラミンの添加は、1日当たり14時間~24時間行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を、前記海水に対する鉄イオンとしての濃度が0.005mg/L~0.05mg/Lとなるように1日当たり14時間~24時間添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を、前記海水に対する鉄イオンとしての濃度が0.5mg/L~1mg/Lとなるように1日当たり30分~3時間添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を、前記海水に対する鉄イオンとしての1日当たりの平均濃度が0.1mg/L~1.5mg/Lとなるように添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記鉄イオン又は鉄イオン供給化合物の添加と前記モノクロラミンの添加とを交互に行うことを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
1日当たり、
モノクロラミンを14時間~21時間添加すること、及び
鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を1時間~3時間添加することを、
この順で又は逆順で行うこと含む、請求項1記載の方法。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
1 申立てAについて
本件特許の請求項1~9に係る特許は、下記(1)~(5)のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する(証拠方法は下記(6)を参照。以下、申立人Aが提出した甲第1号証等を単に「甲A1」等という。また、申立人Aが提出した特許異議申立書を「申立書A」という。)。
(1)申立理由A1(新規性)
本件発明1は、甲A1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(2)申立理由A2-1(進歩性)
本件発明1~9は、甲A1に記載された発明及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(3)申立理由A2-2(進歩性)
本件発明1~9は、甲A3に記載された発明並びに甲A1及び甲A4~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(4)申立理由A3(明確性要件)
本件発明7については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項7に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(5)申立理由A4(サポート要件)
本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(6)証拠方法
・甲A1 特開2014-91843号公報(甲B3と同じ)
・甲A2 「実用化学辞典」、株式会社朝倉書店、1986年11月25日、p.206~207
・甲A3 特開2017-119245号公報(甲B4と同じ)
・甲A4 池村恭一、「汚染海水による腐食とその対策(銅合金について)」、防蝕技術、昭和37年、Vol.11、No.6、p.250~255
・甲A5 川辺允志、「銅合金管の腐食に及ぼす海生生物の影響」、Electrochemistry、2003、Vol.71、No.8、p.681~685
・甲A6 川辺允志、外1名、「水酸化鉄で補強した生物皮膜による銅合金の防食管理」、材料と環境、2013、Vol.62、No.10、p.383~388
・甲A7 特開平11-28479号公報(甲B1と同じ)
・甲A8 特開2003-329389号公報
・甲A9 特願2002-138897の審査段階における平成19年5月29日付けの拒絶理由通知書
・甲A10 特願2002-138897の審査段階における平成19年10月19日付けの拒絶査定
・甲A11 特開昭54-161592号公報
・甲A12 特公昭48-10204号公報
・甲A13 特公昭43-11293号公報
・甲A14 特開昭60-100688号公報
・甲A15 特開昭48-72047号公報
・甲A16 電気化学協会 海生生物汚損対策懇談会編、「海生生物汚損対策マニュアル」、技報堂出版、1991年3月8日、p.185
・甲A17 特開2006-142254号公報
2 申立てBについて
本件特許の請求項1~9に係る特許は、下記(1)~(5)のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する(証拠方法は下記(6)を参照。以下、申立人Bが提出した甲第1号証等を単に「甲B1」等という。また、申立人Bが提出した特許異議申立書を「申立書B」という。)。
(1)申立理由B1(実施可能要件)
本件発明1~9については、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(2)申立理由B2(サポート要件)
本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(3)申立理由B3(明確性要件)
本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(4)申立理由B4(産業上利用することができる発明)
請求項1~9に記載されたものは、特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないため、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(5)申立理由B5(進歩性)
本件発明1~9は、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~9に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(6)証拠方法
・甲B1 特開平11-28479号公報(甲A7と同じ)
・甲B2 特開2020-116482号公報
・甲B3 特開2014-91843号公報(甲A1と同じ)
・甲B4 特開2017-119245号公報(甲A3と同じ)
・甲B5 いであ株式会社、「海水を用いたアルミニウム黄銅管の腐食試験 試験報告書」、令和8年2月27日
・甲B6 JIS K0102-3:2022、「工業用水・工場排水試験方法-第3部:金属」、日本規格協会、p.82~86
第4 当審における判断
以下に述べるように、申立書A及び申立書Bに記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由B4(産業上利用することができる発明)
(1)請求項1~9について
ア 請求項1の記載は、再掲すると、以下のとおりである。
「【請求項1】
海水と接触する銅合金配管の防食方法であって、
前記海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加すること、及び
前記海水にモノクロラミンを添加することを含む、方法。」
イ 請求項1に記載された事項について、本件明細書の記載(【0001】、【0002】、【0007】、【0009】、【0042】~【0048】)を参酌すると、以下のとおり認めることができる。
請求項1に記載された事項は、海水と接触する銅合金配管の防食方法に関するものである。
原子力及び火力発電所、並びに石油精製プラント等の熱交換器及び復水器には、冷却水(海水)が流通する細管(冷却管)が取り付けられており、その材質としては、銅合金(例えば、アルミニウム黄銅管)が使用されているところ、アルミニウム黄銅管の防食法としては、鉄イオンを海水に注入することにより管の表面に水酸化鉄皮膜を形成する、鉄イオン注入が一般に適用されている。
しかしながら、鉄イオン注入による防食法では、水質によっては十分にその効果を発揮できない場合や、皮膜が形成される以前に汚染海水に触れると比較的短期間に腐食を生ずる場合があった。
請求項1に記載された事項は、研究を重ねた過程で、鉄イオンをモノクロラミンと併用することで、鉄イオンによる銅合金配管の防食効果を向上できることが見出されたことに基づくものであり、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」とともに、「海水にモノクロラミンを添加する」ことによって、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果を奏するものである。
ウ 上記イの認定によれば、請求項1に記載された事項は、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」という技術的手段によって、銅合金配管の表面に水酸化鉄皮膜を形成させるという、自然法則を利用した銅合金配管の防食方法を前提として、さらに、「海水にモノクロラミンを添加する」という技術的手段を付加することによって、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果を奏するものと認められる。
そうすると、請求項1に記載された事項から把握されるものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり、特許法2条1項で定義される「発明」に該当するものであることは明らかである。
そして、請求項1に記載された事項から把握される「発明」は、人間を手術、治療又は診断する方法の発明、業として利用できない発明、実際上、明らかに実施できない発明のいずれにも該当するものではないから、「産業上利用することができる発明」であることも明らかである。
また、請求項1を引用する請求項2~9についても同様であり、請求項1を引用する請求項2~9に記載された事項から把握される「発明」は、「産業上利用することができる発明」である。
(2)申立人の主張について
ア 申立人Bは、本件発明1~9の効果は、鉄イオン及びモノクロラミンの添加により海水と接触する銅合金配管の腐食を防止可能とされ(【0007】)、本件明細書の実施例には、鉄イオン又はモノクロラミンの単独使用に比べ、両者併用による相乗効果で銅合金配管の腐食が防止されることが記載されている(【0045】、【0048】、表1、2等)ところ、本件明細書の「モデル水路を用いた評価試験1」(【0043】)における実施例1、比較例1、2(表1)を追試した再現試験(甲B5)の結果によれば、鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果は全く認められなかったから、本件発明1~9は、課題を解決することが明らかに不可能なものであり、「発明」に該当せず、「産業上利用することができる」ものではないと主張する(申立書B15頁(8~9頁))。
イ しかしながら、本件明細書の「モデル水路を用いた評価試験1」では、チューブの減肉重量W2(g)(=W0-W1)を算出するにあたり、「試験前にアルミニウム黄銅製チューブの乾燥重量W0(g)を測定した。試験後には水路から取り外したチューブを10%硫酸に5分間浸漬し、酸洗した後の乾燥重量W1(g)を測定した。」(【0044】)とされているのに対して、再現試験(甲B5)では、アルミニウム黄銅管の減肉量(mg)(=M1-M2)を算出するにあたり、「アルミニウム黄銅管は、試験実施前に重量(M1)を測定し、試験終了後、腐食生成物を除去して乾燥させた後に再度重量(M2)を測定し」たとされており(6頁)、両者は、少なくとも、試験後のチューブ(管)に対する処理の点で異なるものである。
すなわち、再現試験(甲B5)においては、試験終了後、具体的にどのような方法で「腐食生成物を除去」したのか不明であり、本件明細書の「モデル水路を用いた評価試験1」と同様に、「10%硫酸に5分間浸漬」する処理が行われたのかどうかは不明であるから、再現試験(甲B5)は、本件明細書の「モデル水路を用いた評価試験1」における実施例1、比較例1、2(表1)を再現したものとはいえない。そして、再現試験(甲B5)における「腐食生成物を除去」するための具体的な方法は、アルミニウム黄銅管の減肉量に大きな影響を及ぼす(ことにより、防食効果の評価に大きな影響を及ぼす)ものと解される。
そうすると、本件発明1~9の防食効果が、「10%硫酸に5分間浸漬」する処理を含む、本件明細書の「モデル水路を用いた評価試験1」により求められる減肉重量(から算出される減量割合)によって評価されるものであることを踏まえると、それと同様に評価したものといえるかどうか不明である再現試験(甲B5)の結果は、本件発明1~9の防食効果(申立人Bが主張する「鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果」)を否定するものとはいえない。
ウ よって、申立人Bの主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由B4(産業上利用することができる発明)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由B3(明確性要件)、申立理由A3(明確性要件)
(1)請求項1~9について
請求項1~9の記載は、前記第2のとおりのものであるところ、請求項1~9の記載に不明確なところはなく、いずれもその意味は明確であるから、本件発明1~9は、いずれも明確である。
したがって、本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
ア(ア)申立人Bは、請求項5及び本件明細書の【0014】等には、鉄イオンを、海水に対する鉄イオンとしての濃度が0.005mg/L~0.05mg/Lとなるように添加することが記載され、実施例1では、Fe2+の添加濃度を一日あたり24時間にわたって0.03mg/Lに維持されるように添加するとされている(表1)ところ、本件明細書に記載の「Fe2+イオン濃度の測定方法」である、「JIS K0102「工場排水試験方法」に記載されているフェナントロリン吸光光度法」(【0042】)は、測定できる定量範囲の下限が0.2μg/ml(0.2mg/L)であることが一般に知られている(甲B6)から、実施例1における0.03mg/Lのような、0.2μg/ml(0.2mg/L)を下回る鉄イオン濃度を測定することは不可能であり、そのような濃度に維持するように鉄イオン濃度を制御することは困難であるため、鉄イオンの添加の仕方を理解できず、本件発明1~9は明確であるとはいえないと主張する(申立書B14~15頁(10~12頁))。
(イ)しかしながら、鉄イオンを海水に添加する方法としては、「鉄イオン供給化合物を水溶液の形態で海水に添加することができる」(【0020】)ものである。そうすると、海水中の鉄イオン濃度を直接測定せずとも、鉄イオン供給化合物を含む水溶液(実施例では、市販品の硫酸第一鉄を硫酸水溶液で適宜希釈した溶液(【0043】))における鉄イオン濃度をあらかじめ「フェナントロリン吸光光度法」によって測定しておけば(この場合、当該水溶液中の鉄イオン濃度は、定量範囲の下限を超えるものと考えられる。)、当該水溶液の海水への添加量と銅合金管に通水する海水の流量(実施例では、1m3/h)に基づいて、海水中の鉄イオン濃度を算出することは可能であるから、申立人Bが主張するように、鉄イオンの添加の仕方が理解できないとはいえない。
(ウ)よって、申立人Bの主張は採用できない。
イ(ア)申立人Aは、本件発明7は、「前記鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を、前記海水に対する鉄イオンとしての1日当たりの平均濃度が0.1mg/L~1.5mg/Lとなるように添加する」ものであり、鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加するときの、「海水に対する鉄イオンとしての1日当たりの平均濃度」を特定するものであるところ、以下のa~cの点、すなわち、
a 本件明細書には、「平均濃度」に関する説明がなく、その内容が不明である、
b 仮に、「平均濃度」が「平均添加量」(【0019】)の誤記であるとしても、本件明細書の「本開示における「1日当たりの平均添加量」とは、1日(24時間)で海水に添加(供給)された鉄イオンを合計した濃度をいう。1日当たりの平均添加量は、添加濃度に添加時間を掛け合わせることで算出することができる。」(【0019】)との記載によれば、「1日当たりの平均添加量(mg/L・h)=添加濃度(mg/L)×添加時間(h)」(式1)を意味するものと考えられるが、積算濃度のような意味合いになり、通常使用される「平均添加量」という用語にそぐわないものであり、その単位「mg/L・h」も、本件発明7における「mg/L」と整合しない、
c 仮に、「平均濃度」が「平均添加量」(【0019】)の誤記であるとしても、「平均添加量」という用語からは、「1日当たりの平均添加量(mg/L)=添加濃度(mg/L)×1日当たりの添加時間の割合(h/24h)」(式2)が観念され、その単位「mg/L」は、本件発明7における「mg/L」と矛盾がない、
との点を指摘した上で、本件発明7の「1日当たりの平均濃度」の意味が不明であり、仮に、「平均濃度」が「平均添加量」の誤記であるとしても、上記bの式1と上記cの式2のいずれを意味するのか不明であるから、本件発明7は明確であるとはいえないと主張する(申立書A77~78頁)。
(イ)申立人Aの上記(ア)の主張について、以下、検討する。
a 確かに、本件明細書には「1日当たりの平均濃度」との記載に関する説明がないことから、本件明細書の【0019】の記載を考慮すると、本件発明7における「1日当たりの平均濃度」との記載は誤記であり、正しくは、「1日当たりの平均添加量」であると認められるから、このような前提で、本件発明7における「1日当たりの平均添加量」について、さらに検討する。
b 本件発明7における「1日当たりの平均添加量」について、本件明細書の【0019】には、「本開示における「1日当たりの平均添加量」とは、1日(24時間)で海水に添加(供給)された鉄イオンを合計した濃度をいう。1日当たりの平均添加量は、添加濃度に添加時間を掛け合わせることで算出することができる。」との記載がある。
本件明細書の上記記載によれば、「1日当たりの平均添加量」は、「添加濃度に添加時間を掛け合わせることで算出」される、「1日(24時間)で海水に添加(供給)された鉄イオンを合計した濃度」とされている。
ここで、本件明細書の実施例においては、Fe2+イオンを、銅合金製細管中に通水される海水中の濃度(添加濃度(mg/L))が0.03mg/Lになるように、また、1日当たりの添加時間(h/day)が24h/dayになるように、添加したことが記載されている(【0043】、表1)。すなわち、当該実施例においては、銅合金製細管中に通水される海水中の鉄イオン濃度である添加濃度(mg/L)が0.03mg/LになるようなFe2+イオンの添加の状態が、単位時間(h)の間にわたり継続されるとともに、1日当たりの添加時間(h/day)として24h/dayの間にわたり継続されたものと解される。
そうすると、本件発明7における「1日当たりの平均添加量」は、単位時間(h)の間にわたり継続されたその単位時間(h)における(海水中の鉄イオン濃度である)添加濃度(mg/L)に、1日当たりの添加時間(h/day)を掛け合わせることで算出される、(海水中の鉄イオン濃度である)添加濃度(mg/L)の1日(24時間)当たりの合計濃度(mg/L)を意味するものと認められる。
(なお、実施例1について計算してみると、単位時間(h)における添加濃度である0.03mg/Lに、1日当たりの添加時間24h/dayを掛け合わせると、1日当たりの平均濃度は0.72mg/Lとなり、本件発明7の「0.1mg/L~1.5mg/L」を満たすものである。また、実施例2、3について計算してみると、単位時間(h)における添加濃度である0.5mg/Lに、1日当たりの添加時間2h/dayを掛け合わせると、1日当たりの平均濃度は1.0mg/Lとなり、本件発明7の「0.1mg/L~1.5mg/L」を満たすものである。)
c この点、申立人Aは、上記(ア)bのとおり、本件発明7における「1日当たりの平均添加量」は、積算濃度のような意味合いになり、通常使用される「平均添加量」という用語にそぐわないものであり、その単位「mg/L・h」も、本件発明7における「mg/L」と整合しない点を指摘するが、単位については、上記bのとおり、「mg/L」で整合するものであり、また、用語の意味についても、本件発明7における「1日当たりの平均添加量」は、本件明細書の記載を参酌すれば、上記bのとおりの意味であると理解できるから、不明確であるとはいえない。
(ウ)よって、申立人Aの主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由B3(明確性要件)、申立理由A3(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由B2(サポート要件)、申立理由A4(サポート要件)
(1)請求項1~9について
ア 本件明細書の記載(【0002】、【0005】、【0009】)によれば、本件発明1~9が解決しようとする課題は、「鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られる、海水と接触する銅合金配管の防食方法を提供すること」であると認められる。
イ 本件明細書の【0006】、【0007】、【0009】、【0042】~【0048】の各記載を含む、本件明細書及び図面の記載によれば、上記アの課題は、海水と接触する銅合金配管の防食方法において、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」とともに、「海水にモノクロラミンを添加する」との要件を備えることによって、解決できることが理解できる。
また、本件明細書には、本件発明1~9が備える発明特定事項について、具体的な説明がなされている。
ウ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記イの要件を備えた本件発明1~9は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
ア 申立人Bは、上記1(2)アと同様の理由により、再現試験(甲B5)の結果によれば、鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果は全く認められなかったから、本件発明1~9は、発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書B12~13頁(8~9頁))。
しかしながら、上記1(2)イで述べたのと同様の理由により、再現試験(甲B5)の結果は、本件発明1~9の防食効果(申立人Bが主張する「鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果」)を否定するものとはいえない。そして、本件発明1~9について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
イ 申立人Bは、本件発明1においては、鉄イオンとモノクロラミンを添加することが規定されるのみで、鉄イオンとモノクロラミンの添加量や添加比率、添加に用いる溶液濃度、添加時間、添加タイミング等の添加条件については任意となっているにもかかわらず、本件明細書には、モノクロラミンとFe2+イオンの添加態様として、実施例1、2、4の態様しか記載されておらず、それ以外の態様については、本件発明1の効果についての評価検証はされていないから、本件発明1~9は、発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書B13頁)。
しかしながら、鉄イオンとモノクロラミンの添加条件にかかわらず、上記(1)イの要件を備えた本件発明1~9について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。そして、鉄イオンとモノクロラミンの添加条件によって程度に差はあるとしても、上記(1)イの要件を備えたものは、同要件を備えないものと比較して、一定程度は鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られることが理解できる。
また、実施例1、2、4以外の態様の場合に、実際に、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られないことを示す具体的な根拠は見当たらない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
ウ 申立人Bは、本件発明1においては、鉄イオンとモノクロラミンを添加することが規定されるのみで、水路内に通水する際の海水温度が明らかにされていないにもかかわらず、本件明細書には、海水温度に関し、「2024年4月~同年5月」、「2024年7月~同年10月」と記載されているにすぎず、海水温度によっては、本件発明1~9の効果に影響を及ぼすことも容易に想定できるから、本件発明1~9は、発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する(申立書B13~14頁)。
しかしながら、海水温度にかかわらず、上記(1)イの要件を備えた本件発明1~9について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。そして、海水温度によって程度に差はあるとしても、上記(1)イの要件を備えたものは、同要件を備えないものと比較して、一定程度は鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られることが理解できる。
また、「2024年4月~同年5月」の和歌山県某所の海水温度、「2024年7月~同年10月」の和歌山県某所の海水温度以外の日本近海の海水温度の場合に、実際に、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られないことを示す具体的な根拠は見当たらない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
エ 申立人Aは、本件発明1~9は、海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加するとともに、海水にモノクロラミンを添加することにより、「海水に接触する銅合金配管の腐食を防止する」との効果を達成しようとするものであるのに対して、本件明細書には、その具体例として、実施例1、2、4が記載されているにすぎないところ、以下の(ア)~(ウ)の場合、すなわち、
(ア)表2の実施例2、4の比較例3に対する減量割合については、モノクロラミンの添加濃度が0.05mg/Lを大きく下回るか、モノクロラミンの添加時間が20時間を大きく下回る場合、
(イ)表1の実施例1の比較例1に対する減量割合については、鉄イオンの添加濃度が0.03mg/Lを大きく下回るか、鉄イオンの添加時間を短くした場合、
(ウ)参考例2において、鉄イオンを0.03mg/Lを大きく下回る濃度で24時間/日添加した場合、
のそれぞれの場合に、減量割合は100.0%に近づくかこれを超えることが十分に予測され、本件発明1~9の効果を奏しないことは明らかであり、本件発明1~9は、モノクロラミンや鉄イオンの添加濃度及び添加時間のすべての範囲において、本件発明1~9の効果が達成されることが実証されていないから、本件発明1~9は発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する(申立書A78~79頁)。
しかしながら、モノクロラミンや鉄イオンの添加濃度及び添加時間にかかわらず、上記(1)イの要件を備えた本件発明1~9について、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。そして、モノクロラミンや鉄イオンの添加濃度及び添加時間によって程度に差はあるとしても、上記(1)イの要件を備えたものは、同要件を備えないものと比較して、一定程度は鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られることが理解できる。
また、上記(ウ)の場合についての申立人Aの主張は、参考例2の減量割合が比較例3の減肉重量を100%とした場合の減量割合であることを無視したものであり、妥当なものとはいえない。参考例2において、鉄イオンを0.03mg/Lを大きく下回る濃度で24時間/日添加したものを、鉄イオンの濃度が大きく異なる比較例3と単純に比較しても、技術的に意味があるとはいえない。
さらに、モノクロラミンの添加濃度が0.05mg/Lを大きく下回るか、モノクロラミンの添加時間が20時間を大きく下回る場合、鉄イオンの添加濃度が0.03mg/Lを大きく下回るか、鉄イオンの添加時間を短くした場合、参考例2において、鉄イオンを0.03mg/Lを大きく下回る濃度で24時間/日添加した場合に、実際に、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られないことを示す具体的な根拠は見当たらない。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
オ 申立人Aは、本件発明7は、「前記鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を、前記海水に対する鉄イオンとしての1日当たりの平均濃度が0.1mg/L~1.5mg/Lとなるように添加する」ものであり、鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加するときの、「海水に対する鉄イオンとしての1日当たりの平均濃度」を特定するものであるところ、上記2(2)イ(ア)のとおり、本件発明7は不明確であるが、仮に、上記2(2)イ(ア)cの意味であるとして、本件明細書の実施例における「海水に対する鉄イオンとしての1日当たりの平均濃度」を算出すると、本件発明7の「0.1mg/L~1.5mg/L」を満たしていないから、本件発明7は発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する(申立書A80頁)。
しかしながら、本件発明7における「1日当たりの平均添加量」は、上記2(2)イ(イ)bのとおりの意味であり、申立人Aが主張する上記2(2)イ(ア)cの意味ではないから、申立人Aの上記主張は、前提を欠くものであり、採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由B2(サポート要件)、申立理由A4(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由B1(実施可能要件)
(1)請求項1~9について
ア 本件発明1~9は、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」に関するものであって、方法の発明であるところ、方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号)、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1~9に係る海水と接触する銅合金配管の防食方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 本件明細書には、海水と接触する銅合金配管の防食方法について、具体的な説明がなされている(【0006】、【0007】、【0009】~【0040】)。そして、本件明細書の実施例(【0042】~【0048】、図1、2)においては、実際に、海水と接触する銅合金配管を防食することができたことが示されている。
ウ 以上によれば、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1~9に係る海水と接触する銅合金配管の防食方法を使用することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~9について、実施可能要件に適合するものである。
(2)申立人の主張について
ア 申立人Bは、上記1(2)アと同様の理由により、再現試験(甲B5)の結果によれば、鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果は全く認められなかったから、本件発明1~9について、どのように実施すれば効果を奏するのかが明らかではなく、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~9について、実施可能要件を満たすものではないと主張する(申立書B8~10頁)。
しかしながら、上記1(2)イで述べたのと同様の理由により、再現試験(甲B5)の結果は、本件発明1~9の防食効果(申立人Bが主張する「鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果」)を否定するものとはいえない(なお、実施可能要件における効果の取り扱いについては、下記イも参照。)。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明1~9について、実施可能要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
イ 申立人Bは、本件発明1においては、鉄イオンとモノクロラミンを添加することが規定されるのみで、鉄イオンとモノクロラミンの添加量や添加比率、添加に用いる溶液濃度、添加時間、添加タイミング等の添加条件については任意となっているにもかかわらず、本件明細書には、モノクロラミンとFe2+イオンの添加態様として、実施例1、2、4の態様しか記載されておらず、これら3つの実施例のみをもって、あらゆる添加条件であっても同様に効果を奏することまでは理解できないから、本件発明1~9を実施するには、当業者であっても過度の試行錯誤を要すると主張する(申立書B10頁)。
しかしながら、そもそも、実施可能要件で問題とされるのは、本件発明1~9の課題を解決できるかどうかではなく、方法の発明については、その方法を使用することができるかどうかであるから、申立人の主張は、その前提において失当である。
そして、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1~9を実施することができるといえることは、上記(1)のとおりである。また、本件発明1~9を実施するにあたり、過度の試行錯誤を要するともいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
なお、本件発明1~9が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは、上記3(1)で述べたとおりである。
ウ 申立人Bは、上記2(2)ア(ア)と同様の理由により、実施例1における0.03mg/Lのような、0.2μg/ml(0.2mg/L)を下回る鉄イオン濃度を測定することは不可能であり、そのような濃度に維持するように鉄イオン濃度を制御することは困難であるため、鉄イオンをどのようにして制御すれば防食効果を奏し得るように鉄イオンを添加できるのか、具体的な添加の仕方が把握できないから、本件発明1~9を実施するには、当業者であっても過度の試行錯誤を要すると主張する(申立書B10~12頁)。
しかしながら、上記2(2)ア(イ)で述べたのと同様の理由により、海水中の鉄イオン濃度を直接測定せずとも、海水中の鉄イオン濃度を算出することは可能であるから、鉄イオンの添加の仕方が把握できないとはいえない(なお、実施可能要件における効果の取り扱いについては、上記イを参照。)。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明1~9について、実施可能要件に適合するものであることは、上記(1)のとおりである。また、本件発明1~9を実施するにあたり、過度の試行錯誤を要するともいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
なお、本件発明1~9が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは、上記3(1)で述べたとおりである。
(3)まとめ
したがって、申立理由B1(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由B5(進歩性)
(1)甲B1に記載された発明
甲B1の記載(請求項1~4、【0001】~【0009】、【0013】、【0014】、【0016】、【0018】~【0025】)によれば、特に請求項1の記載に着目すると、甲B1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「海水流路となるアルミニウム黄銅管の腐食と該配管への海生物の付着を防止するにあたり、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物を海水に対して鉄イオンとして0.005~0.05mg/リットルの濃度になるように連続的に供給するとともに、過酸化水素または過酸化水素供給化合物を海水に対して過酸化水素として0.1~1.5mg/リットルの濃度になるように1日14~20時間供給する、海水流路となるアルミニウム黄銅管の障害防止方法。」(以下、「甲B1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明における「海水流路となるアルミニウム黄銅管の腐食」「を防止する」、「海水流路となるアルミニウム黄銅管の障害防止方法」は、アルミニウム黄銅が銅合金の一種であることが明らかであるから、本件発明1における「海水と接触する銅合金配管の防食方法」に相当する。
甲B1発明において、「鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物を海水に対して鉄イオンとして0.005~0.05mg/リットルの濃度になるように連続的に供給する」ことは、本件発明1において、「前記海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加すること」に相当する。
以上によれば、本件発明1と甲B1発明とは、
「海水と接触する銅合金配管の防食方法であって、
前記海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加すること、
を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点B1-1
本件発明1では、鉄イオン又は鉄イオン供給化合物のほかに、さらに「海水にモノクロラミンを添加する」のに対して、甲B1発明では、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物のほかに、さらに「過酸化水素または過酸化水素供給化合物を海水に対して過酸化水素として0.1~1.5mg/リットルの濃度になるように1日14~20時間供給する」ものの、さらに「海水にモノクロラミンを添加する」ものではない点。
イ 相違点B1-1の検討
(ア)まず、相違点B1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲B1には、海水にモノクロラミンを添加することについては、何ら記載されていない。また、甲B1発明において、「海水にモノクロラミンを添加する」ことが技術常識であるともいえない。
以上によれば、相違点B1-1は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点B1-1の容易想到性について検討する。
a 甲B1には、海水にモノクロラミンを添加することについては何ら記載されておらず、また、甲B1発明において、海水にモノクロラミンを添加することが技術常識であるともいえない。
そうすると、甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に代えて、あるいは、同過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、モノクロラミンを海水に添加することが動機付けられるとはいえない。
b また、甲B1には、
(a)従来、腐食対策として、硫酸第一鉄を用いて鉄イオンを低濃度で海水に連続的に添加する方法が提案され実施され、また、海生物の付着防止対策として、より安全な過酸化水素または過酸化水素発生剤を使用する海水動物の付着抑制方法が提案されたこと(【0003】、【0004】)、
(b)甲B1に係る出願の発明者らは、上記過酸化水素の添加濃度の低減を目的とし、過酸化水素と鉄イオンとを併用する海息付着生物の付着抑制法を提案したところ、過酸化水素と鉄イオンとを1日24時間連続的に添加した場合に、特に顕著な海生物の付着抑制効果および成長抑制効果が発揮されたが、その反面、鉄イオンによるアルミニウム黄銅管内面の防食皮膜形成を過酸化水素が阻害したため、アルミニウム黄銅管の内面に水酸化鉄の防食皮膜が形成されず、アルミニウム黄銅管の腐食、特に孔食が発生したこと(【0005】)、
(c)甲B1に係る出願の発明者らは、意外にも、鉄イオンを連続的に添加するとともに特定量の過酸化水素を特定時間添加することにより、良好な水酸化鉄の防食皮膜が形成され、孔食が抑制され、しかも、海生物の付着抑制効果および成長抑制効果が阻害されないことを確認し、甲B1に係る出願の発明に到ったこと(【0008】)、
が記載されている。
c 甲B1の上記bの記載によれば、甲B1に係る出願の発明(請求項1~4に記載された発明)は、過酸化水素と鉄イオンを併用することを前提として、過酸化水素が鉄イオンの作用(防食皮膜の形成)を阻害しないようにするために、鉄イオンを連続的に添加するとともに、特定量の過酸化水素を特定時間添加するようにして、鉄イオンの添加条件と過酸化水素の添加条件との調整を図ったものと解される。
そうすると、甲B1の請求項1の記載に着目して認定した甲B1発明についても、過酸化水素または過酸化水素供給化合物と鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物を併用することを前提としたものと解されるから、そのような甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に代えて、あるいは、同過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、別の添加剤(例えば、モノクロラミン)を用いることが動機付けられるとはいえない。
このことは、甲B2~甲B5の記載を考慮しても、変わるものではない。
d 仮に、なんらかの理由により、甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に代えて、あるいは、同過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、モノクロラミンを用いることができたとしても、本件発明1は、「鉄イオン又は鉄イオン供給化合物」と「モノクロラミン」を併用することによって、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られるだけでなく、鉄イオンと塩素の併用による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0007】、【0009】、【0045】、【0048】)。
e 以上によれば、甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に代えて、あるいは、同過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、モノクロラミンを海水に添加することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ウ)申立人Bは、甲B1発明において、鉄イオンとともに過酸化水素を特定量かつ特定時間添加する理由は、鉄イオンによるアルミニウム黄銅管内面の防食皮膜形成を過酸化水素が阻害するのを抑えるためであり、言い換えると、過酸化水素は酸化力の強い酸化剤であることから、鉄イオンによる防食皮膜の形成を阻害しない程度に過酸化水素の作用を抑えるためであることから、鉄イオンとともに酸化剤を併用する場合に、過酸化水素より酸化力の弱い酸化剤であれば、使用の可能性があることを予測させるものと捉えることができるところ、モノクロラミンは、過酸化水素と並列される酸化剤であって、酸化力が過酸化水素よりも弱い酸化剤として知られている(甲B2、甲B3)から、甲B1発明において、上記のようなモノクロラミンを鉄イオンと併用することを試みることは、当業者であれば容易になし得ることであると主張する(申立書B22~23頁)。
しかしながら、甲B1のほか、甲B2~甲B5のいずれにも、甲B1発明において、鉄イオンとともに併用する酸化剤として、過酸化水素よりも酸化力の弱い酸化剤を使用することについては記載も示唆もないから、甲B1発明において、そのようなことが動機付けられるとはいえない。申立人Bの上記主張は、本件発明1の内容を知った上での事後分析によるものであり、妥当なものとはいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(エ)申立人Bは、上記1(2)アと同様の理由により、再現試験(甲B5)の結果によれば、鉄イオン及びモノクロラミンの併用による腐食防止の相乗効果は全く認められなかったから、本件発明1は、鉄イオン及びモノクロラミンを添加することによって腐食を防止するとの効果も認められないため、甲B1発明において、過酸化水素に代えて、モノクロラミンを適用することの技術的意義も認められないと主張する(申立書B23頁)。
しかしながら、上記1(2)イで述べたのと同様の理由により、再現試験(甲B5)の結果は、本件発明1~9の防食効果を否定するものとはいえない。
よって、申立人Bの主張は、前提を欠くものであり、採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲B1発明とを対比すると、甲B1発明において、「過酸化水素または過酸化水素供給化合物を海水に対して過酸化水素として0.1~1.5mg/リットルの濃度になるように1日14~20時間供給する」ことは、本件発明2において、「前記海水に、さらに、過酸化水素を添加すること」に相当し、その余の点については、上記(2)アと同様であるから、両者は、
「海水と接触する銅合金配管の防食方法であって、
前記海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加すること、及び
前記海水に、さらに、過酸化水素を添加することを含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点B1-2
本件発明2では、鉄イオン又は鉄イオン供給化合物と過酸化水素のほかに、さらに「海水にモノクロラミンを添加する」のに対して、甲B1発明では、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と過酸化水素または過酸化水素供給化合物のほかに、さらに「海水にモノクロラミンを添加する」ものではない点。
イ 相違点B1-2の検討
(ア)まず、相違点B1-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
上記(2)イ(ア)と同様の理由により、相違点B1-2は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点B1-2の容易想到性について検討する。
上記(2)イ(イ)と同様の理由により、甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、モノクロラミンを海水に添加することが動機付けられるとはいえない。
このことは、甲B2~甲B5の記載を考慮しても、変わるものではない。
仮に、なんらかの理由により、甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、モノクロラミンを用いることができたとしても、本件発明2は、「鉄イオン又は鉄イオン供給化合物」と「モノクロラミン」と「過酸化水素」を併用することによって、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られるだけでなく、鉄イオンと塩素の併用による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0007】、【0009】、【0045】、【0048】)。
以上によれば、甲B1発明において、鉄イオンまたは鉄イオン供給化合物と併用する過酸化水素または過酸化水素供給化合物に加えて、モノクロラミンを海水に添加することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明3~9について
本件発明3~9は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3~9についても同様に、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1~9は、甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由B5(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由A2-2(進歩性)
(1)甲A3に記載された発明
甲A3の記載(請求項1~3、【0001】~【0009】、【0013】、【0036】~【0047】、図1~7)によれば、特に請求項1の記載に着目すると、甲A3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加する、海生生物の付着抑制方法。」(以下、「甲A3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A3発明とを対比する。
甲A3発明において、「海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加する」ことは、本件発明1において、「前記海水にモノクロラミンを添加すること」に相当する。
本件発明1における「海水と接触する銅合金配管の防食方法」と、甲A3発明における「海生生物の付着抑制方法」は、いずれも、「方法」である限りで共通する。
以上によれば、本件発明1と甲A3発明とは、
「方法であって、
前記海水にモノクロラミンを添加することを含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点A3-1
方法が、本件発明1では、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」であるのに対して、甲A3発明では、「海生生物の付着抑制方法」である点。
・相違点A3-2
本件発明1では、モノクロラミンのほかに、さらに「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」のに対して、甲A3発明では、モノクロラミンのほかに、さらに「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」ものではない点。
イ 相違点A3-1の検討
(ア)まず、相違点A3-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲A3発明は、「海生生物の付着抑制方法」であって、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」ではない。
甲A3には、海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を所定の濃度で添加するという海水と接触する銅合金配管の防食方法については、何ら記載されていない。また、技術常識を考慮しても、甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が当然に「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあるとはいえない。
以上によれば、相違点A3-1は実質的な相違点である。
b(a)この点、申立人Aは、本件発明1は、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」であるのに対して、甲A3発明は、「海生生物の付着抑制方法」であり、両者は一見すると相違するところ、銅合金配管の腐食と海生生物の付着という2つの課題は密接に関連し、実質的に共通していることは、周知の事項であり(甲A3~甲A7)、このことは、「水を使用する配管系統に薬剤を注入して生物付着を防止する方法において、配管系統の腐食発生を防止すべきことは、本願の出願前における周知の課題」であると判断している特許庁の従来の審査における判断(甲A8~甲A15)に合致するものであるから、相違点A3-1は実質的な相違点ではないと主張する(申立書A67~68頁(55~59頁))。
(b)しかしながら、仮に、申立人Aが主張するように、銅合金配管の腐食と海生生物の付着という2つの課題が密接に関連し、実質的に共通しているとしても、そうであるからといって、甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあると認識し理解することはできない。
(c)また、申立人Aが挙げる各甲号証は、以下の(c-1)~(c-3)で述べるように、いずれも、甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあることを示すものとはいえない。
(c-1)申立人Aが指摘する甲A3の【0005】、【0009】の記載については、要するに、海生生物の付着を防止するために添加する過酸化水素が、却って海水冷却水系内の金属部材を腐食させてしまうところ、このような腐食を条件の調整によって防ぎながら、海水冷却水系への海生生物の付着を防止するというものである。
また、申立人Aが指摘する甲A7(甲B1)の請求項1の記載については、【0003】~【0005】、【0008】の記載も考慮すると、上記5(2)イ(イ)bで述べたとおり、要するに、過酸化水素の添加濃度の低減を目的とした、過酸化水素と鉄イオンとを併用する海息付着生物の付着抑制法において、鉄イオンを連続的に添加するとともに、特定量の過酸化水素を特定時間添加することによって、海生物の付着抑制とアルミニウム黄銅管の腐食の防止を両立することができたというものである。
しかしながら、甲A3や甲A7(甲B1)に上記のような記載があるからといって、モノクロラミン溶液を用いる甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあると認識し理解することはできない。
(c-2)甲A4~甲A6については、いずれも、海生生物の付着により金属の腐食が発生することについて記載されており、海生生物の付着を防止すれば、海生生物の付着による金属の腐食も防止できると解する余地がある。
しかしながら、モノクロラミン溶液を用いる甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」においては、酸化剤であるモノクロラミンが金属を腐食させると考えられる(現に、モノクロラミンを用いる本件明細書の参考例2(表2)は、比較例3に対する減量割合が1023.6%と非常に高くなっている。)から、モノクロラミン溶液を用いる甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあると認識し理解することはできない。
(c-3)甲A8~甲A15については、審査官による進歩性の判断において、主引例である甲A11に記載された発明に対して周知技術(甲A14、甲A15)を適用するにあたり、「水を使用する配管系統に薬剤を注入して生物付着を防止する方法において、配管系統の腐食発生を防止すべきことは、本願の出願前における周知の課題」であるから、適用可能というものである。
しかしながら、そうであるからといって、甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が、「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあると認識し理解することはできない。
(d)いずれにしろ、申立人Aの主張は採用できない。
(イ)次に、相違点A3-1の容易想到性について検討する。
上記(ア)bで述べたとおり、甲A3発明の「海生生物の付着抑制方法」が「海水と接触する銅合金配管の防食方法」でもあると認識し理解することはできないから、甲A3発明において、「海生生物の付着抑制方法」を「海水と接触する銅合金配管の防食方法」とすることが動機付けられるとはいえない。
このことは、甲A1、甲A16、甲A17の記載を考慮しても、変わるものではない。
そうすると、甲A3発明において、「海生生物の付着抑制方法」を「海水と接触する銅合金配管の防食方法」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点A3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A3に記載された発明並びに甲A1及び甲A4~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲A3に記載された発明並びに甲A1及び甲A4~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~9についても同様に、甲A3に記載された発明並びに甲A1及び甲A4~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~9は、甲A3に記載された発明並びに甲A1及び甲A4~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由A2-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由A1(新規性)、申立理由A2-1(進歩性)
(1)甲A1に記載された発明
ア 甲A1の記載(請求項1~4、【0001】~【0007】、【0012】~【0014】、【0016】~【0038】、図1~3)によれば、特に、【0017】、【0024】等における「海水」との記載を考慮し、請求項1、2の記載に着目すると、甲A1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「海水と接触する銅合金製熱交換器細管の防食方法において、
該海水に、酸素よりも酸化力が強い酸化剤及び/又は鉄塩を添加し、
前記酸化剤は、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、クロラミン、ブロマミン、臭化物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、及びオゾンの少なくとも1種である、
銅合金製熱交換器細管の防食方法。」(以下、「甲A1発明1」という。)
イ また、甲A1の上記アの記載によれば、特に、【0017】、【0024】等における「海水」との記載を考慮し、請求項1、3の記載を前提として、鉄塩として硫酸第一鉄を用いる実験5、6(【0032】、図1~3)に着目すると、甲A1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「海水と接触する銅合金製熱交換器細管の防食方法において、
該海水に、鉄塩として硫酸第一鉄を添加する、
銅合金製熱交換器細管の防食方法。」(以下、「甲A1発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 甲A1発明1との対比
(ア)対比
本件発明1と甲A1発明1とを対比する。
甲A1発明1における「海水と接触する銅合金製熱交換器細管の防食方法」は、本件発明1における「海水と接触する銅合金配管の防食方法」に相当する。
本件発明1において、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」とともに、「海水にモノクロラミンを添加する」ことと、甲A1発明1において、「海水に、酸素よりも酸化力が強い酸化剤及び/又は鉄塩を添加」することとは、いずれも、「海水に添加剤を添加する」限りで共通する。
以上によれば、本件発明1と甲A1発明1とは、
「海水と接触する銅合金配管の防食方法であって、
前記海水に添加剤を添加することを含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点A1-1
海水に添加剤を添加することが、本件発明1では、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」とともに、「海水にモノクロラミンを添加する」ことであるのに対して、甲A1発明1では、「海水に、酸素よりも酸化力が強い酸化剤及び/又は鉄塩を添加し、前記酸化剤は、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、クロラミン、ブロマミン、臭化物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、及びオゾンの少なくとも1種である」点。
(イ)相違点A1-1の検討
a まず、相違点A1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲A1発明1は、「海水に、酸素よりも酸化力が強い酸化剤及び/又は鉄塩を添加」するものである。
甲A1発明1は、「及び/又は」との記載から明らかなように、「酸化剤と鉄塩とは、一方のみを添加してもよく、双方を添加してもよい」(【0020】)ものである。
また、甲A1発明1は、酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミンを意味する(甲A2)か、少なくともモノクロラミンを含むことが自明である。)を添加し得るものの、「クロラミン」(モノクロラミン)のみならず、酸化剤の選択肢として列挙された、「塩素、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、クロラミン、ブロマミン、臭化物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、及びオゾンの少なくとも1種」を添加し得るものである。
そうすると、甲A1発明1は、海水に「鉄塩」(本件発明1における「鉄イオン又は鉄イオン供給化合物」に相当する。)と「クロラミン」(モノクロラミン)の双方を添加するものには限られない、選択的な事項を含む上位概念の発明と解されるから、この点で、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」とともに、「海水にモノクロラミンを添加する」本件発明1と一致するとはいえない。
以上によれば、相違点A1-1は実質的な相違点である。
b 次に、相違点A1-1の容易想到性について検討する。
(a)甲A1発明1は、上記aのとおり、選択的な事項を含む上位概念の発明と解されるところ、甲A1には、海水に「鉄塩」と「酸化剤」の双方を添加した場合の具体例が記載されておらず、また、酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を添加した具体例も記載されていないから、甲A1発明1において、敢えて、海水に「鉄塩」と「酸化剤」の双方を添加することを選択した上で、酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を選択して用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に、なんらかの理由により、甲A1発明1において、海水に「鉄塩」と「酸化剤」の双方を添加することを選択した上で、酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を選択して用いることができたとしても、本件発明1は、「鉄イオン又は鉄イオン供給化合物」と「モノクロラミン」を併用することによって、鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られるだけでなく、鉄イオンと塩素の併用による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られるという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0007】、【0009】、【0045】、【0048】)。
以上によれば、甲A1発明1において、相違点A1-1に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(b)また、甲A3には、海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加する、海生生物の付着抑制方法(請求項1)について記載されており、海生生物の付着を抑制するために、海水に対してモノクロラミン溶液を添加することが記載されている。
しかしながら、甲A1には、海生生物の付着を抑制することについては何ら記載されておらず、甲A1発明1においては、海生生物の付着を抑制するとの課題が存在するとはいえないから、甲A1発明1において、甲A3に記載された事項を適用して、海水に対してさらにモノクロラミン溶液を添加する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲A3の記載を考慮しても、甲A1発明1において、相違点A1-1に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(c)この点、申立人Aは、銅合金配管の腐食と海生生物の付着という2つの課題は密接に関連し、実質的に共通していることは、周知の事項であり(甲A3~甲A7)、このことは、「水を使用する配管系統に薬剤を注入して生物付着を防止する方法において、配管系統の腐食発生を防止すべきことは、本願の出願前における周知の課題」であると判断している特許庁の従来の審査における判断(甲A8~甲A15)に合致するものであるから、甲A1発明1において、甲A3に記載された事項を適用する動機付けがあると主張する(申立書A54頁(55~59頁))。
しかしながら、仮に申立人Aの主張を前提とするとしても、上記(a)のとおり、本件発明1は、「鉄イオン又は鉄イオン供給化合物」と「モノクロラミン」を併用することによって、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものであるから、やはり、甲A1発明1において、相違点A1-1に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
このことは、甲A2、甲A16、甲A17の記載を考慮しても、変わるものではない。
(d)また、申立人Aは、上記3(2)エと同様の理由により、本件発明1は「海水に接触する銅合金配管の腐食を防止する」との効果を奏さないものまでその範囲に含まれているから、本件発明1の全範囲の効果が当業者の予測を超えた顕著なものであるとはいえないと主張する(申立書A54頁(78~79頁))。
しかしながら、上記3(2)エで述べたとおり、本件発明1は、モノクロラミンや鉄イオンの添加濃度及び添加時間によって程度に差はあるとしても、一定程度は鉄イオン単独による銅合金配管の防食効果よりも優れた防食効果が得られることが理解できるから、本件発明1が所定の効果を奏さないものを含むとはいえない。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲A1発明1であるとはいえず、また、甲A1発明1及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 甲A1発明2との対比
(ア)対比
本件発明1と甲A1発明2とを対比する。
甲A1発明2における「海水と接触する銅合金製熱交換器細管の防食方法」は、本件発明1における「海水と接触する銅合金配管の防食方法」に相当する。
甲A1発明2において、「海水に、鉄塩として硫酸第一鉄を添加する」ことは、本件発明1において、「海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加する」ことに相当する。
以上によれば、本件発明1と甲A1発明2とは、
「海水と接触する銅合金配管の防食方法であって、
前記海水に鉄イオン又は鉄イオン供給化合物を添加すること、
を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点A1-2
本件発明1では、鉄イオン又は鉄イオン供給化合物のほかに、さらに「海水にモノクロラミンを添加する」のに対して、甲A1発明2では、鉄塩としての硫酸第一鉄のほかに、さらに「海水にモノクロラミンを添加する」ものではない点。
(イ)相違点A1-2の検討
a まず、相違点A1-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲A1発明2は、「海水に、鉄塩として硫酸第一鉄を添加する」ものであって、「海水にモノクロラミンを添加する」ものではない。
以上によれば、相違点A1-2は実質的な相違点である。
b 次に、相違点A1-2の容易想到性について検討する。
(a)甲A1には、海水と接触する銅合金製熱交換器細管の防食方法として、海水に酸素よりも酸化力が強い酸化剤及び/又は鉄塩を添加する方法が記載され(請求項1)、また、上記酸化剤として、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、クロラミン、ブロマミン、臭化物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、及びオゾンの少なくとも1種を用いることが記載されている(請求項2)。
しかしながら、甲A1の上記記載においては、「及び/又は」との記載から明らかなように、「酸化剤と鉄塩とは、一方のみを添加してもよく、双方を添加してもよい」(【0020】)とされており、また、酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を添加し得るものの、「クロラミン」(モノクロラミン)のみならず、酸化剤の選択肢として列挙された、「塩素、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、クロラミン、ブロマミン、臭化物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、及びオゾンの少なくとも1種」を添加し得るとされている。
ここで、甲A1には、海水に「鉄塩」と「酸化剤」の双方を添加した場合の具体例が記載されておらず、また、酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を添加した具体例も記載されていないことを踏まえると、甲A1発明2において、海水に鉄塩として硫酸第一鉄を添加することに加えて、さらに「酸化剤」を添加することとし、その酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を選択して用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に、なんらかの理由により、甲A1発明2において、海水に鉄塩として硫酸第一鉄を添加することに加えて、さらに「酸化剤」を添加することとし、その酸化剤として「クロラミン」(モノクロラミン)を選択して用いることができたとしても、上記ア(イ)b(a)のとおり、本件発明1は、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
以上によれば、甲A1発明2において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(b)また、上記ア(イ)b(b)で述べたのと同様の理由により、甲A3の記載を考慮しても、甲A1発明2において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(c)この点、申立人Aは、上記ア(イ)b(c)と同様の理由により、甲A1発明2において、甲A3に記載された事項を適用する動機付けがあると主張する(申立書A54頁(55~59頁))が、上記ア(イ)b(c)で述べたのと同様の理由により、甲A1発明2において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
このことは、甲A2、甲A16、甲A17の記載を考慮しても、変わるものではない。
(d)また、申立人Aは、本件発明1の効果について、上記ア(イ)b(d)と同様に主張するが、上記ア(イ)b(d)で述べたのと同様の理由により、申立人Aの主張は採用できない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲A1発明2であるとはいえず、また、甲A1発明2及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲A1に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~9についても同様に、甲A1に記載された発明であるとはいえず、また、甲A1に記載された発明及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲A1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1~9は、甲A1に記載された発明及び甲A2~甲A17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由A1(新規性)、申立理由A2-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立書A及び申立書Bに記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2026-700238