特許異議申立
2025-700123
活動量改善用の医薬組成物
- 審判番号
- 2025-700123
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-057757
- 登録番号
- 7523889
- 請求日
- 2025年01月28日
- 審決日
- 2025年04月01日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】小林製薬株式会社
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【権利者代理人】迫田 恭子
- 【異議申立人】水野 圭助
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 山村 祥子
- 審判官 関 景輔
- 分類
- P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7523889号発明「活動量改善用の医薬組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7523889号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7523889号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月26日に出願され、令和6年7月19日にその特許権の設定登録がされ、令和6年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和7年1月28日に異議申立人 水野 圭助(以下「申立人」という。)によって、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7523889号の請求項1~6の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。
「【請求項1】
茯苓及び/又はその水エキスを含有し、ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用の医薬組成物(但し、[i] 茯苓のエタノール抽出物を含むもの、[ii] ニンジン、オウギ、オウセイ、カンゾウ、タイソウ、サンヤク、ジオウ、トウキ、クコシ、ニクジュヨウ、ジャショウシ、トシシ、トチュウ、ショウキョウ、サイコ、ブクリョウ、サンシュユ、およびゴミシからなる群より選ばれた8種以上の生薬であってブクリョウを含むもの、[iii] グルクロノラクトン、甘草、クコシの群から選択される一種又は複数種と、セイヨウサンザシ、ゴオウチンキ、ジオウの群から選択される一種又は複数種とを含むもの、[iv] 十全大補湯を含むもの、[v] [v-1]ツリガネタケ、霊芝、宿り木、ビャクジュツ、ブクリョウ、ハリギリ、ボルナム、五加皮、センキュウ、トウキ、ジオウ及び甘草の混合物、[v-2] 前記[v-1]の混合物からツリガネタケ及び霊芝を不含とする混合物、[v-3] 前記[v-1]の混合物から宿り木を不含とする混合物、[v-4] 前記[v-1]の混合物からビャクジュツを不含とする混合物、並びに[v-5] 前記[v-1]の混合物から、ハリギリ、ボルナム及び五加皮を不含とする混合物から選択される混合物の抽出物を含むもの、[vi] 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンを含むもの、並びに[vii] 帰脾湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、十補丸、及び腎気丸から選択される漢方又はそのエキスを含むものを除く)。
【請求項2】
茯苓を含む漢方又はその水エキスを含む、請求項1に記載の活動量改善用医薬組成物。
【請求項3】
前記漢方が、加味帰脾湯、当帰芍薬散、及び酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の活動量改善用の医薬組成物。
【請求項4】
茯苓及び/又はその水エキスを含有し、ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用の医薬組成物(但し、[i] 茯苓のエタノール抽出物を含むもの、[ii] ニンジン、オウギ、オウセイ、カンゾウ、タイソウ、サンヤク、ジオウ、トウキ、クコシ、ニクジュヨウ、ジャショウシ、トシシ、トチュウ、ショウキョウ、サイコ、ブクリョウ、サンシュユ、およびゴミシからなる群より選ばれた8種以上の生薬であってブクリョウを含むもの、[iii] グルクロノラクトン、甘草、クコシの群から選択される一種又は複数種と、セイヨウサンザシ、ゴオウチンキ、ジオウの群から選択される一種又は複数種とを含むもの、[iv] 十全大補湯を含むもの、[v] [v-1]ツリガネタケ、霊芝、宿り木、ビャクジュツ、ブクリョウ、ハリギリ、ボルナム、五加皮、センキュウ、トウキ、ジオウ及び甘草の混合物、[v-2] 前記[v-1]の混合物からツリガネタケ及び霊芝を不含とする混合物、[v-3] 前記[v-1]の混合物から宿り木を不含とする混合物、[v-4] 前記[v-1]の混合物からビャクジュツを不含とする混合物、並びに[v-5] 前記[v-1]の混合物から、ハリギリ、ボルナム及び五加皮を不含とする混合物から選択される混合物の抽出物を含むもの、[vi] 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンを含むもの、並びに[vii] 帰脾湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、十補丸、及び腎気丸から選択される漢方又はそのエキスを含むものを除く)。
【請求項5】
茯苓を含む漢方又はその水エキスを含む、請求項4に記載の疲労改善用の医薬組成物。
【請求項6】
前記漢方が、加味帰脾湯、当帰芍薬散、及び酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の疲労改善用の医薬組成物。」
第3 申立理由の概要
1 申立人が主張する申立理由及び提出した証拠
申立人は、異議申立書において、証拠として次の甲第1号証~甲第6号証を提出し、次の申立ての理由を主張している。
甲第1号証:漢方用薬の伝承と科学(47), 漢方調剤研究, 株式会社臨床情報センター, 2001年, Vol. 9, No. 3 (59), p.16-19
甲第2号証:初期対応に自信がつく!治療薬レジデントマニュアル,株式会社羊土社, 2014年, p.846
甲第3号証:漢薬の臨床応用,医歯薬出版株式会社,昭和55年, p.137-139
甲第4号証:Planta Med, 2011, Issue 77 (7), p.681-691
甲第5号証:J. Korean Pharm. Sci., 1984, Vol. 14, No. 4, p.195-199
甲第6号証:第十六改正日本薬局方,2011年, p.1575
なお、以下、「甲第1号証」~「甲第6号証」を、それぞれ「甲1」~「甲6」という。
(1)申立理由1(新規性)
(申立理由1a)
本件発明1~6は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由1b)
本件発明1~6は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由1c)
本件発明1~6は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由1d)
本件発明1~6は、甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性)
(申立理由2a)
本件発明1~6は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由2b)
本件発明1~6は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由2c)
本件発明1~6は、甲4に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由2d)
本件発明1、4は、甲6の記載を参酌すれば、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1、2、4、5は、甲6の記載を参酌した甲5に記載された発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明1~6に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第113条第4号に該当する。
(4)申立理由4(明確性要件)
本件発明1~6は、特許請求の範囲に記載した発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第113条第4号に該当する。
2 甲号証の記載
(1)甲1
甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審による。以下、同様。)。
・摘記事項1a(表題)
「茯苓(Fuling:Polia)」
・摘記事項1b(56頁右欄1行~10行)
「2.茯苓の主治と薬能
茯苓は水滞・痰飲・水毒3)症状(頭痛4),めまい感5),動悸6),船酔い,鼻水,関節水腫,下痢7),腹水8)や浮腫9)),腎疾患10)などを改善する利水薬とされている。・・・。
これらの日本漢方の用法は『神農本草経』における茯苓の主治(利小便,●(合議体注:「亥」と「欠」からなる漢字)逆,恐悸など)や『名医別録』の主治(膈中痰水,水腫)の一部に対応する(表1)。」
・摘記事項1c(56頁表1)
[図:0001422494000001.jpg]
・摘記事項1d(57頁表2)
[図:0001422494000002.jpg]
・摘記事項1e(57頁右欄8行~10行)
「寧心は心身ともに疲れて(目がさめて)眠れず動悸,めまい感を調整する酸棗仁湯、帰脾湯における茯苓の薬能である。これに対応する薬理は明らかでない22)。」
(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
・摘記事項2a(表紙)
「初期対応に自信がつく!治療薬レジテントマニュアル」
・摘記事項2b(846頁の表2)
[図:0001422494000003.jpg]
(3)甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
・摘記事項3a(表紙)
「漢薬の臨床応用」
・摘記事項3b(137頁下から11行~138頁30行)
「1 茯苓(ぶくりょう)
・・・
薬理作用 利水滲湿・健脾和中・寧心安神.
・・・
(2)滋養:中医は,茯苓には補益性があり健脾補中するとしているが,含有する栄養物質の作用と関係があると思われる.
(3)鎮静:鎮静作用は茯神よりも弱いが,鎖静・精神安定の効果がある.
臨床応用 水腫・痰飲の治療および健脾に使用する.
・・・
(4)精神安定(鎮静安神)に用いる.驚きやすい・動悸・不眠・ロ乾・盗汗・舌質が紅などの心陰虚の症状があるときに、酸棗仁・遠志・柏子仁・五味子などを配合し、たとえば天王補心丹(補心丹)を用いる(第十二章 柏子仁の項参照).」
(4)甲4
甲4には、次の事項が記載されている。甲4は英文であるため、摘記は申立人が提出した翻訳文を参考にした合議体による翻訳文で示す。
・摘記事項4a(表題)
「Poria cocosの化学成分と薬理作用」
・摘記事項4b(681頁左欄1~5行)
「Poria cocos (Polyporaceae)は、Pinusの多様な種において増殖する腐生性真菌である。茯苓(fu-ling)またはブクリョウ(hoelen)と呼ばれるその菌核は、利尿作用、鎮静作用および強壮作用のために伝統的な中国医薬および日本医薬において使用されている。」
・摘記事項4c(682頁左欄21~24行)
「しかし、アジアでは名称Poria cocosが好まれており[1]、そこでは、中国語で茯苓(fu-ling)または日本語でブクリョウ(hoelen)と呼ばれる菌核が採集され、伝統的な中国医薬および日本医薬において利尿薬、鎮静薬および強壮薬として使用されている[4]。」
・摘記事項4d(688頁右欄下から3行~689頁左欄1行)
「Poria cocosは、利尿作用、鎮静作用および強壮作用のために使用される周知の伝統的な中学医薬であり[32]、実際、脾臓活性化、胃強壮、鎮静、精神安定、利尿および湿気除去の作用を有することが実証されている。」
(5)甲5
甲5には、次の事項が記載されている。甲5は英文及び韓国語文であるため、摘記は申立人が提出した翻訳文で示す。
・摘記事項5a(表題)
「数種抽出製剤の抗疲労効果に関する研究(第2報)
・・・
生薬エキスの抗疲労効果に関する研究(II)」
・摘記事項5b(195頁7~12行)
「市販の薬物の抽出物をマウスに3日間投与し、その疲労効果をP. ginseng抽出物及びA. sessiliflorum抽出物と比較した。
マウスをこれらの実験に分けて使用し、P. cocos、S. japonica、P. multiflorum、L chinense、A. cochinchinensis、S. indicum、N. nuciferaのエタノールおよび水抽出物を常用量で経口投与した。
抗疲労試験では、抽出物の投与後、遊泳能力を測定した。
P. cocos群は、エタノール抽出群で遊泳能力の高い改善を示した。
また、S. japonica群では水抽出群で改善が観察された。」
・摘記事項5c(196頁5~10行)
「著者は、したがってこのような実験の一環として、漢方文献5)を通じて、すでに軽身、耐老、延年、益寿などの薬効作用が広く知られているPoria cocos、Sophora japonica、Polygonum multiflorum、Lycium Chinense、Asparagus cochinchinensis、Sesamum indicum、Nelumbo nuciferaなどにおいても抗疲労効果が表れる可能性を仮定し、本研究に着手してPoria cocosのエタノール抽出物とSophora japonicaの水抽出物において抗疲労効果を確認したため、これを報告するところである。」
・摘記事項5d(196頁11行~197頁4行)
「実験方法
実験材料-実験材料としては、Poria cocos、Sophora japonica、Polygonum multiflorum、Lycium Chinense、Asparagus cochinchinensis、Sesamum indicum、Nelumbo nuciferaを購入して用いた。
抗疲労効果を比較するためには、すでに作用が確認されているPanax ginsengとAcanthopanax sessiliflorumを購入して用いた。
抽出は生薬100gに対して400mlのエタノールとH2Oで繰り返して3回抽出し、全抽出液を合わせて減圧下で濃縮させた。
濃縮液は冷蔵庫で保管し、実験する際に濃縮液を希釈して常用量を経口投与した。
抗疲労効果の測定-Jacob6) の遊泳疲労試験法を若干変形して測定した。
測定方法は体重18~22gの雄性マウス20匹ずつを1群として割り当てて次のように実験した。
生理食塩液投与群
P. cocos 225mg/kg
S. japonica 175mg/kg
P. multiflorum 200mg/kg
L. Chinens 200mg/kg
A. cochinchinensis 175mg/kg
S. indicum 325mg/kg
N. nucifera 150mg/kg
A. sessiliflorum 175rng/kg
P. ginseng 90mg/kg
各生薬は上記の量に該当するエタノール抽出物や水抽出物で計算して1日1回毎日午前10時に経口投与した。
遊泳試験は経口投与3日後と7日後に実施した。
試験に用いたマウスは、体重の1/10に該当するポアズ(poise)を右側後足に付着させて20±5℃で恒温調節した54×34×23 cmの水槽に入れて遊泳させた。
遊泳時間は開始時間を始点としてマウスの頭部が水面下に7秒以上沈んだ時までの時間を測定した。」
・摘記事項5e(197頁5行~198頁下から12行)
「結果及び考察
市販のP. cocos、S. japonica、P. multiflorum、L. Chinense、A. cochinchinensis、S. indicum、N. nuciferaのエタノール抽出物を投与した後、Jacobの遊泳疲労試験法を変更して測定した結果は表Iのとおりである。
[図:0001422494000004.jpg]
エタノール抽出物のうち遊泳時間の延長が示されるものは、P. cocosとP. multiflorum、そしてS. indicumとA. cochinchinensisを挙げることができ、これらのうちP. cocosは抗疲労効果を認めることができた。
また水抽出物を実験した際の実験成績は表IIのとおりである。
[図:0001422494000005.jpg]
表IIを検討すると、S. japonicaとA. cochinchinensis投与群において遊泳時間が延長されることを見ることができ、S. japonica投与群は抗疲労効果を認めることができた。」
・摘記事項5f(198頁下から4行~199頁2行)
「結論
市販されるP. cocos、S. japonica、P. multiflorum、L. Chinense、A. cochinchinensis、S. indicum、N. nuciferaの抗疲労効果は次のとおりである。
l. 7日間投与した後、遊泳時間の延長が示された。
2. エタノール抽出物を投与した場合は、P. cocos投与群において抗疲労効果が認められた。
3. 水抽出物を投与した場合は、S. japonica投与群において抗疲労効果が認められた。」
(6)甲6
甲6には、次の事項が記載されている。
・摘記事項6a(1575頁左欄「ブクリョウ」の項目の1~7行)
「ブクリョウ
Poria Sclerotium
PORIA
茯苓
本品はマツホドWolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (Poria cocos Wolf) (Po]yporaceae)の菌核で、通例、外層をほとんど除いたものである.」
第5 当審の判断
1 申立理由1a(新規性)
(1)甲1に記載された発明
「茯苓(Fuling:Polia)」と題する学術文献(摘記事項1a)である甲1の表2は表題を「茯苓の「薬能と薬理」と対応する処方」とするものであり、酸棗仁湯が「寧心」の薬能を発揮する薬理として「心身の疲労感」が記載されている(摘記事項1d)。また、甲1には、「寧心は心身共に疲れて(目がさめて)眠れず動悸、めまい感を調整する酸棗仁湯、帰脾湯における茯苓の薬能である。」と記載されている(摘記事項1e)。
そうすると、甲1の表2に記載された「茯苓の「薬能と薬理」に対応する処方」として記載された心身共に疲れて(目がさめて)眠れず動悸、めまい感を調整する作用は、茯苓を含む酸棗仁湯という特定の処方としたときに発揮される作用であると理解できる。このことは、甲1の表1において、「主治と薬能」と題して茯苓単独の薬能として、「寧心」が記載されていることにも符合する(摘記事項1b、摘記事項1c)。
したがって、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「心身の疲労感を調整する作用を有する、茯苓を含む酸棗仁湯。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、薬理作用を有する酸棗仁湯が医薬組成物であることは本件出願日当時の技術常識から明らかであるから、甲1発明の「茯苓を含む酸棗仁湯」は、本件発明1の「茯苓」「を含有」する、「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
医薬組成物について、本件発明1は、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」という用途が特定されているのに対し、甲1発明ではそのような用途の特定がない点
(相違点2)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明1では、「[i] 茯苓のエタノール抽出物を含むもの、[ii] ニンジン、オウギ、オウセイ、カンゾウ、タイソウ、サンヤク、ジオウ、トウキ、クコシ、ニクジュヨウ、ジャショウシ、トシシ、トチュウ、ショウキョウ、サイコ、ブクリョウ、サンシュユ、およびゴミシからなる群より選ばれた8種以上の生薬であってブクリョウを含むもの、[iii] グルクロノラクトン、甘草、クコシの群から選択される一種又は複数種と、セイヨウサンザシ、ゴオウチンキ、ジオウの群から選択される一種又は複数種とを含むもの、[iv] 十全大補湯を含むもの、[v] [v-1]ツリガネタケ、霊芝、宿り木、ビャクジュツ、ブクリョウ、ハリギリ、ボルナム、五加皮、センキュウ、トウキ、ジオウ及び甘草の混合物、[v-2] 前記[v-1]の混合物からツリガネタケ及び霊芝を不含とする混合物、[v-3] 前記[v-1]の混合物から宿り木を不含とする混合物、[v-4] 前記[v-1]の混合物からビャクジュツを不含とする混合物、並びに[v-5] 前記[v-1]の混合物から、ハリギリ、ボルナム及び五加皮を不含とする混合物から選択される混合物の抽出物を含むもの、[vi] 桂枝茯苓丸料加ヨクイニンを含むもの、並びに[vii] 帰脾湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、十補丸、及び腎気丸から選択される漢方又はそのエキスを含むもの」(以下、[i]~[vii]という。)を除くことが特定されているのに対し、甲1発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点1について
本件発明1には、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制/回復」と記載されているところ、本件明細書の段落【0040】には、「「身体活動量」とは、身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標である。」と記載されているから、本件発明1の「身体活動量の低下」とは、「身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標」「の低下」を意味するものであり、これは甲1発明の「心身の疲労感」、すなわち、心身において疲労が存在することを自覚する感覚とは異なるものである。
さらに、本件明細書には、「身体活動の低下は、肉体的疲労、加齢等の肉体的要因のみならず、ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因や、気候変動や気温の低下等の外的要因によっても引き起こされる」(段落【0040】)と記載されるように、「身体活動量の低下」は、様々な要因があるところ、本件発明1では、「身体活動量の低下」は「ストレス」を要因とするものであることを特定しているが、甲1には、「心身の疲労感」のうち、特にストレスを要因としたものを抑制又は回復できることについても何ら記載も示唆もなされていない。
また、「心身の疲労感を調整する作用」を有する組成物であれば、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制/回復」のために用いることができるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
したがって、本件発明1と甲1発明は、上記相違点1で相違するものである。
(イ)相違点2について
甲1発明は、「茯苓を含む酸棗仁湯」が、「心身の疲労感を調整する作用」を有することを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓を含む酸棗仁湯」の有する作用効果との関係において、相違点2に係る構成として本件発明1から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓を含む酸棗仁湯」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明1と甲1発明とは異なるところはない。
よって、相違点2は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点1に係る事項は、甲1に記載されているに等しい事項であるとはいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。
(3)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲1発明とを対比すると、
薬理作用を有する酸棗仁湯が医薬組成物であることは本件出願日当時の技術常識から明らかであるから、甲1発明の「茯苓を含む酸棗仁湯」は、本件発明4の「茯苓」「を含有」する、「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明4と甲1発明は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3)
医薬組成物について、本件発明4は、「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」という用途が特定されているのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点
(相違点4)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明4では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲1発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点3について
本件発明4の「疲労」について、本件明細書には、「疲労」には、「運動等によってもたらされる肉体的な疲労」と、「ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因によってもたらされる精神的な疲労」の双方が含まれることが記載されており(段落【0053】)、本件発明4は、疲労の種別を「ストレスが要因となって生じる」ものに特定していることが理解できる。
上記本件明細書の段落【0053】に記載されるように、疲労には種々の要因があるところ、甲1発明の「心身の疲労感を調整する作用」について、甲1には、種々ある疲労の要因のうち、特にストレスによってもたらされる疲労感を調整することについては記載がない。また、「心身の疲労感」を調整できれば、ストレスによってもたらされる疲労を改善できるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
(イ)相違点4について
甲1発明は、「茯苓を含む酸棗仁湯」が、「心身の疲労感を調整する作用」を有することを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓を含む酸棗仁湯」の有する作用効果との関係において、相違点4に係る構成として本件発明4から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓を含む酸棗仁湯」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明4と甲1発明とは異なるところはない。
よって、相違点4は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点3に係る事項は、甲1に記載されているに等しい事項であるともいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明4は、甲1に記載された発明ということはできない。
(4)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、いずれも甲1に記載された発明ということはできない。
(5)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の段落【0053】~【0054】には、活動量の改善用途として、ストレスによってもたらされる心身体活動量の低下の抑制又は回復が挙げられ、活動量の改善は、疲労の抑制又は回復促進等の効果をもたらすことを指す旨、及び、疲労が、肉体的な疲労と精神的な疲労の双方を含み、疲労改善は、疲労が生じることの抑制及び疲労からの回復促進を含み、さらに、改善対象となる疲労として、精神的要因、好ましくはストレスによってもたらされる疲労が挙げられる旨記載されていることからみて、甲1に記載される「心身の疲労感の処置」は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に該当する旨主張する。
しかしながら、上記(2)イ(ア)で述べたとおり、本件発明1の「身体活動量の低下」は、甲1発明の「心身の疲労感」とは異なるものであるから、甲1に記載の「心身の疲労感を調整する作用」が「身体活動量の低下」を改善するものとはいえない。
そして、申立人が引用する段落【0053】には、「疲労」は、「運動等によってもたらされる肉体的な疲労」と、「ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因によってもたらされる精神的な疲労」の双方が含まれることが記載されており、段落【0054】には、「本発明の医薬組成物において改善対象となる疲労として、好ましくは精神的要因によってもたらされる疲労、更に好ましくはストレスによってもたらされる疲労が挙げられる」ことが記載されている。そうすると、両段落の記載からはむしろ、疲労は一様の要因によるものではないことが理解できるうえ、上記(2)イ(ア)及び(3)イ(ア)で述べたとおり、甲1発明の「心身の疲労感を調整する作用」が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」や「疲労」を抑制等することが甲1の記載から読み取れないのであるから、甲1発明の「心身の疲労感」の処置は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当するものとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由1a(新規性)は理由がない。
2 申立理由1b(新規性)
(1)甲2に記載された発明
「初期対応に自信がつく!治療薬レジデントマニュアル」と題する書籍(摘記事項2a)である甲2には、「気血水の病態と対応する主な生薬・漢方薬」を表題とする表2において、茯苓の主な症候として「気力がなく疲れやすい」と記載されている(摘記事項2b)。
そうすると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「気力がなく疲れやすい症候に用いるための、茯苓である生薬。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「茯苓である生薬」は、本件発明1の「茯苓」「を含有」する、「医薬組成物」に相当するから、両者は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点5)
医薬組成物について、本件発明1は、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」という用途が特定されているのに対し、甲2発明ではそのような用途の特定がない点
(相違点6)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明1では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲2発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点5について
本件明細書の段落【0040】によれば、本件発明1の「身体活動量の低下」とは、「身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標」「の低下」を意味するものであり、これは甲2発明の「気力がなく疲れやすい症候」とは異なるものである。
そして、本件明細書の段落【0040】によれば、「身体活動量の低下」は、「肉体的疲労、加齢等の肉体的要因」、「ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因」、「気候変動や気温の低下等の外的要因」といった様々な要因があるところ、本件発明1では、「身体活動量の低下」は「ストレス」を要因とするものであることを特定しているが、甲2には、「気力がなく疲れやすい症候」のうち、特にストレスを要因としたものを抑制又は回復できることについても何ら記載も示唆もなされていない。
また、「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」組成物であれば、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制/回復」のために用いることができるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
したがって、本件発明1と甲2発明は、上記相違点5で相違するものである。
(イ)相違点6について
甲2発明は、「茯苓」が、「気力がなく疲れやすい症候」に用いることができることを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓」の有する作用効果との関係において、相違点6に係る構成として本件発明1から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明1と甲2発明とは異なるところはない。
よって、相違点6は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点5に係る事項は、甲2に記載されているに等しい事項であるともいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ということはできない。
(3)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「茯苓である生薬」は、本件発明4の「茯苓」「を含有」する、「医薬組成物」に相当するから、両者は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点7)
医薬組成物について、本件発明4は、「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」という用途が特定されているのに対し、甲2発明では、そのような特定がない点
(相違点8)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明4では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲2発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点7について
本件発明4の「疲労」について、本件明細書の段落【0053】によれば、本件発明4は、疲労の種別を「ストレスが要因となって生じる」ものに特定していることが理解できる。
上記本件明細書の段落【0053】に記載されるように、疲労には種々の要因があるところ、甲2発明の「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」について、甲2には、種々ある疲労の要因のうち、特にストレスを要因とした「気力がなく疲れやすい症候」については記載がない。また、「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」組成物であれば、ストレスによってもたらされる疲労を改善できるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
(イ)相違点8について
甲2発明は、「茯苓」が、「気力がなく疲れやすい症候」に用いることができることを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓」の有する作用効果との関係において、相違点8に係る構成として本件発明4から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明4と甲2発明とは異なるところはない。
よって、相違点8は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点7に係る事項は、甲2に記載されているに等しい事項であるともいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明4は、甲2に記載された発明ということはできない。
(4)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、いずれも甲2に記載された発明ということはできない。
(5)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の段落【0053】~【0054】の記載に基づけば、甲2に記載される「気力がなく疲れやすい症候の処置」は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」及び本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当する旨を主張している。
しかしながら、上記(2)イ(ア)で述べたとおり、本件発明1の「身体活動量の低下」は、甲2発明の「気力がなく疲れやすい症候」とは異なるものであるから、甲2に記載の「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」生薬が「身体活動量の低下」を改善するものとはいえない。
そして、上記1(5)で述べたように、両段落の記載からはむしろ、疲労は一様の要因によるものではないことが理解できるうえ、上記(2)イ(ア)及び(3)イ(ア)で述べたとおり、甲2発明の用途である「気力がなく疲れやすい症候」が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」や「疲労」を抑制等することが甲2の記載から読み取れないのであるから、甲2発明の「気力がなく疲れやすい症候」の処置は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当するものとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由1b(新規性)は理由がない。
3 申立理由1c(新規性)
(1)甲3に記載された発明
「漢薬の臨床応用」と題する書籍(摘記事項3a)である甲3には、茯苓の薬理作用として「(2)滋養」及び「(3)鎮静」、臨床応用として「(4)精神安定(鎮静安神)に用いる」と記載されている(摘記事項3b)。
そうすると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための、茯苓である漢薬。」(以下、「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、薬理作用を有する茯苓が医薬組成物の状態で用いられることは本件出願日当時の技術常識から明らかであるから、甲3発明の「茯苓である漢薬」は、本件発明1の「茯苓」「を含有」する、「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点9)
医薬組成物について、本件発明1は、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」という用途が特定されているのに対し、甲3発明ではそのような用途の特定がない点
(相違点10)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明1では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲3発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点9について
本件明細書の段落【0040】によれば、本件発明1の「身体活動量の低下」とは、「身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標」「の低下」を意味するものであり、これは甲3発明の「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」とは異なるものである。
そして、本件明細書の段落【0040】によれば、「身体活動量の低下」は、「肉体的疲労、加齢等の肉体的要因」、「ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因」、「気候変動や気温の低下等の外的要因」といった様々な要因があるところ、本件発明1では、「身体活動量の低下」は「ストレス」を要因とするものであることを特定しているが、甲3には、「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」のうち、特にストレスを要因としたものを抑制又は回復できることについても何ら記載も示唆もなされていない。
また、「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」組成物であれば、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制/回復」のために用いることができるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
したがって、本件発明1と甲3発明は、上記相違点9で相違するものである。
(イ)相違点10について
甲3発明は、「茯苓」が、「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」に用いることができることを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓」の有する作用効果との関係において、相違点10に係る構成として本件発明1から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明1と甲3発明とは異なるところはない。
よって、相違点10は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点9に係る事項は、甲3に記載されているに等しい事項であるとはいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲3に記載された発明ということはできない。
(3)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲3発明とを対比すると、薬理作用を有する茯苓が医薬組成物の状態で用いられることは本件出願日当時の技術常識から明らかであるから、甲3発明の「茯苓である漢薬」は、本件発明4の「茯苓」「を含有」する、「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明4と甲3発明は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点11)
医薬組成物について、本件発明4は、「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」という用途が特定されているのに対し、甲3発明では、そのような特定がない点
(相違点12)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明4では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲3発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点11について
本件発明4の「疲労」について、本件明細書の段落【0053】によれば、本件発明4は、疲労の種別を「ストレスが要因となって生じる」ものに特定していることが理解できる。
一方で、甲3発明の「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」について、甲3には、種々ある疲労の要因のうち、上記本件明細書の段落【0053】に記載されるような、特にストレスを要因とした「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」については記載がない。また、「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」組成物であれば、ストレスによってもたらされる疲労を改善できるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
(イ)相違点12について
甲3発明は、「茯苓」が、「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」に用いることができることを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓」の有する作用効果との関係において、相違点12に係る構成として本件発明4から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明4と甲3発明とは異なるところはない。
よって、相違点12は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点11に係る事項は、甲3に記載されているに等しい事項であるとはいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明4は、甲3に記載された発明ということはできない。
(4)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、いずれも甲3に記載された発明ということはできない。
(5)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の段落【0053】~【0054】の記載に基づけば、甲3に記載される「精神安定(鎮静安神)に用いる滋養作用及び/又は鎮静作用のためのもの」は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」及び本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当する旨を主張している。
しかしながら、上記(2)イ(ア)で述べたとおり、本件発明1の「身体活動量の低下」の抑制又は回復は、甲3発明の「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」とは異なるものであるから、甲3に記載の「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」漢薬が「身体活動量の低下」を改善するものとはいえない。
ましてや、上記(2)イ(ア)及び(3)イ(ア)で述べたとおり、甲3発明の「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)」が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」又は「疲労」の抑制等することが甲3の記載から読み取れないのであるから、「心精神安定(鎮静安神)に用いる滋養作用及び/又は鎮静作用ための」は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当するものとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由1c(新規性)は理由がない。
4 申立理由1d(新規性)
(1)甲4に記載された発明
「Poria cocosの化学成分と薬理作用」と題する学術文献(摘記事項4a)である甲4には、Poria cocosが強壮剤として使用されており(摘記事項4b)、精神安定の効果もあること記載されている(摘記事項4c)。また、「Poria cocos」が「茯苓」を意味することは本件出願日当時の技術常識から明らかである(要すれば、甲6の摘記事項6aを参照。)。
そうすると、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。
「茯苓を含有する、鎮静剤、強壮剤又は精神安定剤。」(以下、「甲4発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「剤」は、本件発明1の「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点13)
医薬組成物について、本件発明1は、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」という用途が特定されているのに対し、甲4発明ではそのような用途の特定がない点
(相違点14)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明1では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲4発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点13について
本件明細書の段落【0040】によれば、本件発明1の「身体活動量の低下」とは、「身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標」「の低下」を意味するものであり、これは甲4発明の「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」とは異なるものである。
そして、本件明細書の段落【0040】によれば、「身体活動量の低下」は、「肉体的疲労、加齢等の肉体的要因」、「ストレス、不安定な精神状態、意欲低下等の精神的要因」、「気候変動や気温の低下等の外的要因」といった様々な要因があるところ、本件発明1では、「身体活動量の低下」は「ストレス」を要因とするものであることを特定しているが、甲4には、「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」のうち、特にストレスを要因としたものを抑制又は回復できることについても何ら記載も示唆もなされていない。
また、「鎮静剤、強壮剤又は精神安定剤」であれば、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制/回復」のために用いることができるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
したがって、本件発明1と甲4発明は、上記相違点13で相違するものである。
(イ)相違点14について
甲4発明は、「茯苓」が、「鎮静剤、強壮剤又は精神安定」として用いることができることを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓」の有する作用効果との関係において、相違点14に係る構成として本件発明1から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明1と甲4発明とは異なるところはない。
よって、相違点14は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点13に係る事項は、甲4に記載されているに等しい事項であるとはいえないから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲4に記載された発明ということはできない。
(3)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「剤」は、本件発明4の「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明4と甲4発明は、「茯苓を含有する医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点15)
医薬組成物について、本件発明4は、「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」という用途が特定されているのに対し、甲4発明では、そのような特定がない点
(相違点16)
医薬組成物が含有するものについて、本件発明4では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲4発明においてはそのような特定がない点
イ 判断
(ア)相違点15について
本件発明4の「疲労」について、本件明細書の段落【0053】によれば、本件発明4は、疲労の種別を「ストレスが要因となって生じる」ものに特定していることが理解できる。
上記本件明細書の段落【0053】に記載されるように、疲労には種々の要因があるところ、甲4発明の「鎮静剤、強壮剤又は精神安定剤」について、甲4には、種々ある疲労の要因のうち、特にストレスを要因とした「鎮静」、「強壮剤」又は「精神安定」については記載がない。また、「鎮静剤、強壮剤又は精神安定剤」であれば、ストレスによってもたらされる疲労を改善できるという本件出願日当時の技術常識も見当たらない。
(イ)相違点16について
甲4発明は、「茯苓」が、「鎮静剤、強壮剤又は精神安定」として用いることができることを見出しなされた発明であって、かかる「茯苓」の有する作用効果との関係において、相違点16に係る構成として本件発明4から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明4と甲4発明とは異なるところはない。
よって、相違点16は、実質的な相違点ではない。
(ウ)小括
以上のとおり、相違点15に係る事項は、甲4に記載されているに等しい事項であるとはいえないから、実質的な相違点である。
そうすると、本件発明4は、甲4に記載された発明ということはできない。
(4)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、いずれも甲4に記載された発明ということはできない。
(5)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の段落【0053】~【0054】の記載に基づけば、甲4に記載される「強壮作用のためのもの」は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」及び本件発明4の「「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当する旨を主張している。
しかしながら、上記(2)イ(ア)で述べたとおり、本件発明1の「身体活動量の低下」の抑制又は回復は、甲4発明の「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」とは異なるものであるから、甲4に記載の「鎮静剤、強壮剤又は精神安定剤」が「身体活動量の低下」を改善するものとはいえない。
ましてや、上記(2)イ(ア)及び(3)イ(ア)で述べたとおり、甲4発明の「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」又は「疲労」の抑制等することが甲4の記載から読み取れないのであるから、「強壮作用のためのもの」は、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に相当するものとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由1d(新規性)は理由がない。
5 申立理由2a(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 判断
本件発明1は、上記2(2)アのとおり、甲2発明と上記相違点5及び6で相違する。
上記相違点5について検討する。
甲2には、茯苓である生薬を「気力がなく疲れやすい症候に用いる」ことが記載されているが、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下」を抑制等することについては何ら記載がないから、甲2発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
また、甲1には、茯苓を含む加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯が記載されているが、いずれも、「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」を抑制等することについては記載されていないため、甲1を参酌しても、甲2発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
したがって、甲2発明の「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」という用途を本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは、甲1を参照しても当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
イ 効果
本件明細書には、本件発明1の実施態様である、茯苓又はそれを含む加味帰牌湯、当帰芍薬散若しくは酸棗仁湯は、コントロール群やビタミン投与群に比較して、各種ストレス下においてマウスの活動量の減少を抑制したことから、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があることが示されており(試験例1:茯苓、試験例2:加味帰牌湯、試験例3:当帰芍薬散、試験例4:酸棗仁湯)、このような効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点6を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明4について
ア 判断
本件発明4は、上記2(3)アのとおり、甲2発明と上記相違点7及び8で相違する。
上記相違点7について検討する。
甲2には、茯苓である生薬を「気力がなく疲れやすい症候に用いる」ことが記載されているが、「ストレスが要因となって生じる疲労」を抑制等することについては何ら記載がないから、甲2発明の用途を「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」とすることは動機付けられない。
一方で、甲1には、茯苓を含む加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯が記載されているが、いずれも、「ストレス」という特定の要因によって生じる「疲労」を抑制等することについては記載されていないため、甲1を参酌しても、甲2発明の用途を「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」とすることは動機付けられない。
したがって、甲2発明の「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」という用途を本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に用いられる、疲労改善用」とすることは、当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
イ 効果
上記(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点8を検討するまでもなく、本件発明4は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、上記5(1)及び5(2)で説示した本件発明1又は4についての判断と同様の理由により、本件発明2、3、5、6は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件発明3、6について、甲1には、「加味帰牌湯、当帰芍薬散、酸棗仁湯等の漢方に茯苓が配合されることが記載されている」から、当業者であれば、甲1の記載に基づいて、甲2に記載された発明において、「茯苓を含む漢方を、加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯とすることに格別の困難性はない」、と主張している。
しかしながら、上記(1)及び(2)で述べたとおり、本件発明3、6が間接的に引用する本件発明1、4が甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5、6に係る主張は、その前提を欠いている。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由2a(進歩性)は理由がない。
6 申立理由2b(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 判断
本件発明1は、上記3(2)アのとおり、甲3発明と上記相違点9及び10で相違する。
上記相違点9について検討する。
甲3には、茯苓である漢薬を「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いる」ことが記載されているが、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下」を抑制等することについては何ら記載がないから、甲3発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
また、甲1には、茯苓を含む加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯が記載されているが、いずれも、「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」を抑制等することについては記載されていないため、甲1を参酌しても、甲3発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
したがって、甲3発明の「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」という用途を本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは、甲1を参照しても当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
イ 効果
上記(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点10を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明4について
ア 判断
本件発明4は、上記3(3)のとおり、甲3発明と上記相違点11及び12で相違する。
上記相違点11について検討する。
甲3には、茯苓である漢薬を「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いる」ことが記載されているが、「ストレスが要因となって生じる疲労」を抑制等することについては何ら記載がないから、甲3発明の用途を「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」とすることは動機付けられない。
イ 効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点12を検討するまでもなく、本件発明4は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、上記(1)及び(2)で説示した本件発明1又は4についての判断と同様の理由により、本件発明2、3、5、6は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件発明3、6について、甲1には、「加味帰牌湯、当帰芍薬散、酸棗仁湯等の漢方に茯苓が配合されることが記載されている」から、当業者であれば、甲1の記載に基づいて、甲3発明において、「茯苓を含む漢方を、加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯とすることに格別の困難性はない」、と主張している。
しかしながら、上記(1)及び(2)で述べたとおり、本件発明3、6が間接的に引用する本件発明1、4が甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5、6に係る主張は、その前提を欠いている。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由2b(進歩性)は理由がない。
7 申立理由2c(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 判断
本件発明1は、上記4(2)アのとおり、甲4発明と上記相違点13及び14で相違する。
上記相違点13について検討する。
甲4には、茯苓を「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」に用いることが記載されているが、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下」を抑制等することについては何ら記載がないから、甲4発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
また、甲1には、茯苓を含む加味帰牌湯、当帰芍薬散、酸棗仁湯が記載されているが、いずれも、「ストレス」という特定の要因によってもたらされる「身体活動量の低下」を抑制等することについては記載されていないため、甲1を参酌しても、甲4発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
したがって、甲4発明の「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」という用途を本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは、甲1を参照しても当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
イ 効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点14を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明4について
ア 判断
本件発明4は、上記4(3)アのとおり、甲4発明と上記相違点15及び16で相違する。
上記相違点15について検討する。
甲4には、茯苓を「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」に用いることが記載されているが、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下」を抑制等することについては何ら記載がないから、甲4発明の用途を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは動機付けられない。
また、甲1には、茯苓を含む加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯が記載されているが、「ストレス」という特定の要因によって生じる「疲労」に対する有効性については記載がない。したがって、甲4発明の「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」という用途を本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に用いられる、疲労改善用」とすることは、当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
イ 効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
ウ 小括
よって、相違点16を検討するまでもなく、本件発明4は、甲4に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5、6は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、上記(1)及び(2)で説示した本件発明1又は4についての判断と同様の理由により、本件発明2、3、5、6は、甲4に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件発明3、6について、甲1には、「加味帰牌湯、当帰芍薬散、酸棗仁湯等の漢方に茯苓が配合されることが記載されている」から、当業者であれば、甲1の記載に基づいて、甲4発明において、「茯苓を含む漢方を、加味帰牌湯、当帰芍薬散又は酸棗仁湯とすることに格別の困難性はない」、と主張している。
しかしながら、上記(1)及び(2)で述べたとおり、本件発明3、6が間接的に引用する本件発明1、4が甲4に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5、6に係る主張は、その前提を欠いている。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由2c(進歩性)は理由がない。
8 申立理由2d(進歩性)
(1)甲5に記載された発明
「数種抽出製剤の抗疲労効果に関する研究(第2報) 生薬エキスの抗疲労効果に関する研究(II)」と題する学術文献(摘記事項5a)である甲5には、Poria cocosのエタノール抽出物とH2O(水)抽出物をマウスに経口投与し、遊泳疲労試験法を用いて抗疲労効果を確認したことが記載されている(摘記事項5d)。この「Poria cocos」が「茯苓」を意味することは、本件出願日当時の技術常識から明らかである(要すれば、甲6の摘記事項6aを参照。)。また、上記游泳疲労試験法において、マウスに対して何らかのストレス負荷を行ったことは記載されていない。
エタノール抽出物の抗疲労効果を確認した試験では、遊泳時間(分)が生理食塩水を投与したコントロール群では「3.76±0.17」であったのに対して、茯苓のエタノール抽出物の投与群では「13.20±0.22」と増加率が「251%」であったことが示されている(摘記事項5eの表1)。
一方で、水抽出物の抗疲労効果を確認した試験では、遊泳時間(分)が生理食塩水を投与したコントロール群では「3.85±0.29」であったのに対して、茯苓の水抽出物の投与群では「3.92±0.22」と増加率が「2%」であったことが示されている(摘記事項5eの表2)。
この試験データについて、表1(エタノール抽出物)と表2(水抽出物)のいずれにおいても、「すべてのデータはコントロールに対し統計的に有意である(p 0.01)」と記載されているが(摘記事項5e)、この結果を踏まえて、甲5における結論としては、エタノール抽出物を投与した場合に抗疲労効果が認められたのは「P. cocos投与群」であり、水抽出物を投与した場合に抗疲労効果が認められたのは「S. japonica投与群」である、と評価されている(摘記事項5b、5f)。
ここで、水抽出物の試験結果が記載された表2の「すべてのデータはコントロールに対し統計的に有意である(p 0.01)」という記載は、茯苓の水抽出物の投与群とコントロール群の「2%」分の差が統計的に有意であること、すなわち、偶然による結果が生じる可能性が低いことを意味しているものであって、必ずしも、茯苓の水抽出物が抗疲労効果を有することを示すものではない。このことは、甲5の結論の項において抗疲労効果があると結論づけられているのは、あくまで茯苓のエタノール抽出物であることとも整合する(摘記事項5f)。
そうすると、甲5には、次の2つの発明が記載されていると認められる。
「茯苓の水抽出物」(以下「甲5-1発明」という。)
「抗疲労効果を有する、茯苓のエタノール抽出物」(以下「甲5-2発明」という。)
(2)甲5-1発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5-1発明とを対比すると、甲5-1発明の「抽出物」は混合物であることは明らかであるから、甲5-1発明は、本件発明1と「組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲5-1発明は、「茯苓の水抽出物を含む組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点17)
組成物について、本件発明1は、用途が「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」と特定されているのに対し、甲5-1発明はそのような特定がない点
(相違点18)
組成物が、本件発明1は、「医薬組成物」であるのに対して、甲5-1発明はそのような特定がない点
(相違点19)
組成物が含有するものについて、本件発明1では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲5-1発明においてはそのような特定がない点
(イ)判断
a 相違点17及び相違点18について
(a)甲5-1発明に基づく進歩性の判断
本件明細書の段落【0040】によれば、本件発明1は、「身体活動量の低下」、すなわち、「身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標」「の低下」を抑制又は回復するものであり、さらにその要因を「ストレスによってもたらされる」ものに特定している。
一方で、甲5では、茯苓の水抽出物に抗疲労作用があるものと評価されていない以上、甲5-1発明の「茯苓の水抽出物」を「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復のために用いられる、活動量改善用の医薬組成物」とすることが当業者にとって動機付けられるものとはいえない。
(b)甲5-1発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づく進歩性の判断
茯苓について、甲1には「心身の疲労感を調整する」、甲2には「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」、甲3には「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」、甲4には「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」という記載がそれぞれあるものの、いずれの証拠において、茯苓の水抽出物についての記載はないし、茯苓が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる身体活動量の低下を抑制等することも記載されていないから、甲1~甲4の記載を参照しても、甲5-1発明の用途を本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは、当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
念のため、他の証拠(甲6)を見ても、当該事項を動機付けるような記載はない。
b 相違点19について
甲5-1発明は、「茯苓の水抽出物」であって、かかる「茯苓の水抽出物」の有する作用効果との関係において、相違点19に係る構成として本件発明1から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓の水抽出物」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明1と甲5-1発明とは異なるところはない。
よって、相違点19は、実質的な相違点ではない。
(ウ)効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
(エ)小括
よって、本件発明1は、甲5-1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲5-1に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲5-1発明とを対比すると、甲5-1発明の「抽出物」は混合物であることは明らかであるから、甲5-1発明は、本件発明4と「組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明4と甲5-1発明は、「茯苓の水抽出物を含む組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点20)
組成物について、本件発明4は、用途が「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」と特定されているのに対し、甲5-1発明はそのような特定がない点
(相違点21)
組成物が、本件発明4は、「医薬組成物」であるのに対して、甲5-1発明はそのような特定がない点
(相違点22)
組成物が含有するものについて、本件発明4では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲5-1発明においてはそのような特定がない点
(イ)判断
a 相違点20及び相違点21について
(a)甲5-1発明に基づく進歩性の判断
本件発明4は、疲労を抑制又は回復するものであり、さらにその要因を「ストレスが要因となって生じる」ものに特定している。
一方で、甲5では、茯苓の水抽出物に抗疲労作用があるものと評価されていない以上、甲5-1発明の「茯苓の水抽出物」を「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用の医薬組成物」とすることが当業者にとって動機付けられるものとはいえない。
(b)甲5-1発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づく進歩性の判断
茯苓について、甲1には「心身の疲労感を調整する」、甲2には「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」、甲3には「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」、甲4には「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」という記載がそれぞれあるものの、いずれの証拠において、茯苓の水抽出物についての記載はないし、茯苓が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる疲労を抑制等することも記載されていないから、甲1~甲4の記載を参照しても、甲5-1発明の用途を本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」とすることは、当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
念のため、他の証拠(甲6)を見ても、当該事項を動機付けるような記載はない。
b 相違点22について
甲5-1発明は、「茯苓の水抽出物」であって、かかる「茯苓の水抽出物」の有する作用効果との関係において、相違点22に係る構成として本件発明4から除かれる[i]~[vii]が、それぞれ「茯苓の水抽出物」において必須の成分として含有することを何ら前提とするものではない。
したがって、前記[i]~[vii]を、その態様として含むものではない点において、本件発明4と甲5-1発明とは異なるところはない。
よって、相違点22は、実質的な相違点ではない。
(ウ)効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
(エ)小括
よって、本件発明4は、甲5-1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲5-1に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2、5について
本件発明2は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、上記(2)ア及び(2)イで説示した本件発明1又は4についての判断と同様の理由により、本件発明2、5は、甲5-1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲5-1に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲5-2発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5-2発明とを対比すると、甲5-2発明の「抽出物」は混合物であることは明らかであるから、甲5-2発明は、本件発明1と「組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲5-2発明は、「組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点23)
組成物について、本件発明1は、用途が「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」と特定されているのに対し、甲5-2発明はそのような特定がない点
(相違点24)
組成物が、本件発明1は、「医薬組成物」であるのに対して、甲5-2発明はそのような特定がない点
(相違点25)
組成物が含有するものについて、本件発明1では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲5-2発明は[i]に対応する「茯苓のエタノール抽出物」を含んでいる点
(イ)判断
a 相違点23及び相違点24について
(a)甲5-2発明に基づく進歩性の判断
本件明細書の段落【0040】によれば、本件発明1は、「身体活動量の低下」、すなわち、「身体活動によって消費されるエネルギー量の程度を表す指標」「の低下」を抑制又は回復するものであり、さらにその要因を「ストレスによってもたらされる」ものに特定している。
一方で、甲5には、茯苓のエタノール抽出物の「抗疲労効果」が記載されているが、「身体活動量の低下」を抑制等することについては何ら記載がない。また、「疲労」の要因に関する記載もなく、甲5の游泳疲労試験ではマウスに対してストレス負荷は行われていないため、「ストレス」という特定の要因によってもたらされる身体活動量の低下を抑制等することについても記載されているとはいえない。したがって、甲5-2発明の用途を本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」とすることが当業者にとって動機付けられるものとはいえない。
(b)甲5-2発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づく進歩性の判断
また、茯苓について、甲1には「心身の疲労感を調整する」、甲2には「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」、甲3には「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」、甲4には「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」という記載がそれぞれあるものの、茯苓が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる身体活動量の低下を抑制等することは記載されていないから、甲1~甲4の記載を参照しても、甲5の記載から本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用」とすることは、当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
念のため、他の証拠(甲6)を見ても、当該事項を動機付けるような記載はない。
(ウ)効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
(エ)小括
よって、相違点25を検討するまでもなく、本件発明1は、甲5-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲5-2に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲5-2発明とを対比すると、甲5-2発明の「抽出物」は混合物であることは明らかであるから、甲5-2発明は、本件発明4と「組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明4と甲5-2発明は、「組成物」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点26)
組成物について、本件発明4は、用途が「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」と特定されているのに対し、甲5-2発明はそのような特定がない点
(相違点27)
組成物が、本件発明4は、「医薬組成物」であるのに対して、甲5-2発明はそのような特定がない点
(相違点28)
組成物が含有するものについて、本件発明4では、[i]~[vii]を除くことが特定されているのに対し、甲5-2発明は[i]に対応する「茯苓のエタノール抽出物」を含んでいる点
(イ)判断
a 相違点26及び相違点27について
(a)甲5-2発明に基づく進歩性の判断
本件発明4は、疲労を抑制又は回復するものであり、さらにその要因を「ストレスが要因となって生じる」ものに特定している。
一方で、甲5には、「疲労」の要因や「ストレス」という特定の要因によってもたらされる疲労を抑制等することは記載されていないから、甲5-2発明の用途を本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」に適用することが当業者にとって動機付けられるものとはいえない。
(b)甲5-2発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づく進歩性の判断
茯苓について、甲1~甲4には、茯苓が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる疲労を抑制等することは記載されていないから、甲1~甲4の記載を参照しても、甲5の記載から本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用」とすることは、当業者にとって動機付けられるものではなく、当業者が容易に想到し得ることではない。
念のため、他の証拠(甲6)を見ても、当該事項を動機付けるような記載はない。
(ウ)効果
上記5(1)イで述べたとおり、本件明細書の試験例1~試験例4において示された、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があるという効果は、各甲号証に記載された事項から予測し得るものとはいえない。
(エ)小括
よって、相違点28を検討するまでもなく、本件発明4は、甲5-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲5-2に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2、5について
本件発明2は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明5は、本件発明4をさらに限定した発明であるから、上記(3)ア及び(3)イで説示した本件発明1又は4についての判断と同様の理由により、本件発明2、5は、甲5-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲5-2に記載された発明、及び、甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、次の3点を述べ、本件発明1、4は、甲5発明から当業者が容易に発明できたものであるか、又は、甲5発明及び甲1~甲4の記載から当業者が容易に発明できたものであり、本件発明2、5は、甲5発明及び甲1~甲3から当業者が容易に発明できたものであると主張する。
ア 本件発明1、4に係る主張
(ア)甲5の表IIに示されるとおり、茯苓(P.C.)群ではコントロールである生理食塩液(P.S.)群と比較して遊泳時間は増加しており、「すべてのデータはコントロールに対し統計的に有意である(p 0.01)」と記載されているから、甲5には、「茯苓の水抽出物がコントロールに対して統計的に有意な抗疲労効果を有することが示されて」おり、「茯苓の水抽出物が抗疲労効果を有することが記載されている。」
(イ)茯苓のエタノール抽出物及び水抽出物が抗疲労作用を有することを甲5は示しているため、エタノール抽出物及び水抽出物の由来である茯苓自体が抗疲労作用を有すると当業者であれば容易に予期し得るものであり、甲5の「抗疲労作用」は、本件明細書を参酌しても、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」と区別し得る作用とはいえず、当業者であれば、甲5の記載に基づいて、茯苓水抽出物を、本件発明1又は本件発明4の当該用途に用いることに格別の困難性はないから、本件発明1、4は、甲5の記載から当業者が容易に発明できたものである。
(ウ)甲1~甲4には、「茯苓単体でストレスに由来する活動量低下及び疲労を改善できること(心身の疲労感の処置(甲1発明)、気力がなく疲れやすい症候の処置(甲2発明)、滋養作用及び/又は鎮静作用及び/又は精神安定(鎮静安神)作用(甲3発明)、強壮作用(甲4発明))」が記載されており、これらのストレスに由来する活動量低下及び疲労の改善は、本件発明1で特定される「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4で特定される「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に該当するから、本件発明1、4は、甲5の記載及び甲1発明~甲4発明から当業者が容易に発明できたものである。
上記主張について以下、検討する。
主張(ア)について
(1)で述べたとおり、水抽出物の試験結果が記載された表2の「すべてのデータはコントロールに対し統計的に有意である(p 0.01)」という記載は、茯苓の水抽出物の投与群とコントロール群の「2%」分の差が統計的に有意であること、すなわち、偶然による結果が生じる可能性が低いことを意味しているものであって、甲5の結論の項において抗疲労効果があると結論づけられているのは、あくまで茯苓のエタノール抽出物である。したがって、茯苓の水抽出物の抗疲労効果は甲5に記載されているとはいえない。
主張(イ)について
茯苓の水抽出物の抗疲労効果が甲5に記載されていないのであるから、当業者であれば、甲5の記載に基づいて、茯苓水抽出物を、本件発明1又は本件発明4の当該用途に用いることに格別の困難性はないという申立人の主張は、その前提を欠いている。
また、甲5にエタノール抽出物については抗疲労効果が記載されているとしても、(2)ア(イ)及びイ(イ)並びに(3)ア(イ)及びイ(イ)で述べたとおり、甲5には、茯苓が「ストレス」という特定の要因によって生じる身体活動量の低下又は疲労を抑制等することが記載されているとはいえないから、本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」は、甲5の「抗疲労効果」とは区別し得るものである。そうすると、その観点からも茯苓水抽出物を本件発明1の「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4の「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」に用いることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1、4は、甲5発明(すなわち、甲5-1発明又は甲5-2発明)から当業者が容易に発明できたものとはいえない。
主張(ウ)について
上記(2)ア(イ)a(b)及び(2)イ(イ)a(b)で述べたとおり、甲1には「心身の疲労感を調整する」、甲2には「気力がなく疲れやすい症候に用いるための」、甲3には「滋養、鎮静又は精神安定(鎮静安神)に用いるための」、甲4には「鎮静」、「強壮」又は「精神安定」という記載がそれぞれあるものの、これらは茯苓が「ストレス」という特定の要因によってもたらされる身体活動量の低下又は疲労を抑制等することも記載されていないから、本件発明1で特定される「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善」又は本件発明4で特定される「ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善」には該当しない。
したがって、本件発明1、4は、甲5発明(すなわち、甲5-1発明又は甲5-2発明)及び甲1~甲4に記載された事項から当業者が容易に発明できたものとはいえない。
イ 本件発明2、5に係る主張
また、本件発明1及び4に係る主張が成り立たないのであるから、そのいずれかを引用する本件発明2、5に係る主張、すなわち、本件発明2、5は甲5発明及び甲1~甲3から当業者が容易に発明できたものである、という主張は、その前提を欠いている。
よって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由2d(進歩性)は理由がない。
9 申立理由3(サポート要件)
(1)前提
特許請求の範囲が、特許法36条6項1号に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件明細書の記載
・段落【0002】
「QOLが向上した健康的な日常生活をおくる上で、活動量の低下を抑制したり、疲労を蓄積させないようにしたりすることが重要になる。活動量の低下や疲労は、不眠、体力低下、代謝能低下、過緊張等のストレス、血流量の低下等の多岐にわたる要因によって引き起こされることが分かっており、近年の高齢化社会やストレス社会を背景として、活動量が低下したり疲労が蓄積したりする人が増大傾向にある。」
・段落【0006】
「本発明の目的は、活動量を改善できる医薬組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、疲労を改善できる医薬組成物を提供することである。」
・段落【0042】
「本発明の医薬組成物における活動量の改善用途として、好ましくは精神的要因によってもたらされる活動量の低下の抑制又は回復、更に好ましくは精神的要因によってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復、特に好ましくはストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復が挙げられる。」
・段落【0049】
「2.疲労改善用医薬組成物
本発明の医薬組成物は、疲労の改善用途に使用されるものであって、茯苓及び/又はそのエキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の疲労改善用医薬組成物について詳述する。」
・段落【0054】
「本発明の医薬組成物において改善対象となる疲労として、好ましくは精神的要因によってもたらされる疲労、更に好ましくはストレスによってもたらされる疲労が挙げられる。」
(3)本件発明の課題及びその解決手段
本件発明は、「活動量の低下や疲労は、不眠、体力低下、代謝能低下、過緊張等のストレス、血流量の低下等の多岐にわたる要因によって引き起こされることが分かっており、近年の高齢化社会やストレス社会を背景として、活動量が低下したり疲労が蓄積したりする人が増大傾向にある」ことを技術的背景としたものである(本件明細書段落【0002】)。この技術的背景の下、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復」(本件明細書段落【0042】)に用いられる「活動量を改善できる医薬組成物」(本件明細書段落【0006】)及び「ストレスによってもたらされる疲労」の改善(本件明細書段落【0052】)に使用される「疲労を改善できる医薬組成物」(本件明細書段落【0006】)又は「疲労改善用医薬組成物」(本件明細書段落【0049】)を提供することを解決しようとする課題としている。
(4)本件明細書の記載
本件明細書には、試験例として、茯苓又はそれを含む加味帰牌湯、当帰芍薬散若しくは酸棗仁湯は、コントロール群やビタミン投与群に比較して、各種ストレス下においてマウスの活動量の減少を抑制したことから、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があることが試験データを伴って示されている(試験例1:茯苓、試験例2:加味帰牌湯、試験例3:当帰芍薬散、試験例4:酸棗仁湯)。
その一方で、試験例1~4には、「茯苓末」、「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」、「酸棗仁湯エキス」の抽出方法について具体的な記載はない。しかしながら、本件明細書の段落【0013】には、「茯苓のエキス」は、「一般的な生薬エキスの製造方法と同様の方法で行えばよく、例えば、茯苓に・・・水を加え、・・・抽出する方法が挙げられる」と記載されるように、抽出方法として水による抽出のみが例示されていることからみて、試験例1の「茯苓エキス」は水により抽出されているものと解するのが自然である。
同様に、本件明細書の段落【0023】には、「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」、「酸棗仁湯エキス」について、「一般的な生薬エキスの製造方法と同様の方法で行えばよく、例えば、例えば、前記漢方に対して、・・・水を加え、・・・抽出する方法が挙げられる」と記載されるように、抽出方法として水による抽出のみが例示されていることからみて、試験例2~4の「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」、「酸棗仁湯エキス」も水により抽出されているものと解するのが自然である。
したがって、本件明細書には、「茯苓末」、「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」、「酸棗仁湯エキス」の水エキスを含む医薬組成物の試験結果が具体的に記載されているといえる。
そうすると、本件発明1、4の「茯苓」「の水エキスを含有する」「医薬組成物」は、ストレス負荷による活動量の低下を抑制し、ストレス負荷に起因する疲労を抑制する作用があることが本件明細書に示されているといえるから、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復」に用いられる「活動量を改善できる医薬組成物」及び「ストレスによってもたらされる疲労」の改善に使用される「疲労を改善できる医薬組成物」又は「疲労改善用医薬組成物」を提供するという課題を解決できることが理解できる。同様に、水エキスの由来である「茯苓」自体についても当該課題を解決できることが理解できる。
また、試験例1には茯苓末単独の薬理作用が示されており、試験例2~4は茯苓を含む「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」、「酸棗仁湯エキス」自体も同様の薬理作用が示されているから、茯苓が含まれるその他の漢方についても同様の薬理作用が推認されるところ、本件発明2、5の「茯苓を含む漢方又はその水エキス」、本件発明3、6の「漢方が、加味帰牌湯、当帰芍薬散、酸棗仁湯よりなる群から選択される少なくとも1種」に特定されたものについても、同様に当該課題を解決できることが理解できる。
したがって、本件発明1~6は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明は本件明細書に記載されたものであるといえる。
(5)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、次の3点を主張し、本件発明1~6はサポート要件を満たさない旨を主張する。
ア 本件明細書では、医薬組成物が「茯苓の水エキス」さえ含めば効果を有することは示されておらず、「茯苓の水エキス」を用いて本件発明の課題を解決できることを裏付ける実施例等は存在しないから、「茯苓の水エキス」を含む医薬組成物を包含する本件発明1及び4は、本件発明の課題を解決できると認識できるものではない。
イ 「茯苓を含む漢方」は多数存在し、各生薬が効果を持つため、その組合せや配合量によって効果は異なる一方で、本件明細書の試験例で具体的に示される漢方エキスは、「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」及び「酸棗仁湯エキス」の3つのみであって、これらの結果から、茯苓を含む他の漢方でも同様の結果が得られるとは認識できないため、茯苓以外の生薬が特定されない漢方やその水エキスを用いる場合も包含する本件発明2及び5は、本件発明の課題を解決できると認識できるものではない。
ウ 本件明細書で例示される用量(30~550mg)は、試験例1~4で効果が確認された用量(マウス換算で最大1740倍)に比べて著しく少ないため、あらゆる用量を含む本件発明は、試験例で検証された用量以外の用量、特に本件明細書で例示されるような用量で用いた場合には、本件発明の課題を解決できると当業者が認識し得ないことは明らかであるから、本件発明1~6は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
上記主張について検討する。
主張アについて
上記(4)で述べたとおり、本件明細書には、茯苓末やそれを含む加味帰牌湯エキス、当帰芍薬散エキス、酸棗仁湯エキスがストレス下でマウスの活動量減少を抑制し、疲労を抑制する効果が試験データを伴って示されており、具体的な抽出方法の記載はないが、一般的な生薬エキスの製造方法として水による抽出が例示されていることから、試験例1~4で用いられた各種漢方も水で抽出されたものと解されるため、これらの水エキスを含む医薬組成物の試験結果が具体的に記載されているといえる。
したがって、茯苓の水エキスを含む医薬組成物を包含する本件発明1及び4は、発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できるものである。
主張イについて
上記(4)で述べたとおり、試験例1には茯苓単独の作用が示されており、試験例2~4は茯苓を含む「加味帰牌湯エキス」、「当帰芍薬散エキス」、「酸棗仁湯エキス」自体についても同様の作用が示されているから、茯苓が含まれる漢方であれば、同様の作用を有することが推認される。
したがって、本件発明2及び5は、発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できるものである。
主張ウについて
本件発明1~6は、茯苓又はその水エキスの用量を特定するものではなく、茯苓又はその水エキスが、「ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復」又は「ストレスが要因となって生じる疲労の改善」のために使用できることを見いだしたことに基づく発明であって、茯苓又はその水エキスの用量は、本件発明の課題を解決できる範囲で適宜設定し得る事項にすぎない。
したがって、本件発明1~6は、発明の詳細な説明の記載から本件発明の課題を解決できると認識できるものである。
以上のとおり、申立人の主張はいずれも採用できない。
(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由3(サポート要件)は理由がない。
10 申立理由4(明確性要件)
(1)前提
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)判断
本件発明1は、「茯苓及び/又はその水エキスを含有し、ストレスによってもたらされる身体活動量の低下の抑制又は回復に用いられる、活動量改善用の医薬組成物」、本件発明4は「茯苓及び/又はその水エキスを含有し、ストレスが要因となって生じる疲労の改善に使用される、疲労改善用の医薬組成物」であって、いずれも以下、[i]~[vii]を除くものである。
[i]茯苓のエタノール抽出物を含むもの、
[ii]ニンジン、オウギ、オウセイ、カンゾウ、タイソウ、サンヤク、ジオウ、トウキ、クコシ、ニクジュヨウ、ジャショウシ、トシシ、トチュウ、ショウキョウ、サイコ、ブクリョウ、サンシュユ、およびゴミシからなる群より選ばれた8種以上の生薬であってブクリョウを含むもの、
[iii]グルクロノラクトン、甘草、クコシの群から選択される一種又は複数種と、セイヨウサンザシ、ゴオウチンキ、ジオウの群から選択される一種又は複数種とを含むもの、
[iv]十全大補湯を含むもの、
[v]
[v-1]ツリガネタケ、霊芝、宿り木、ビャクジュツ、ブクリョウ、ハリギリ、ボルナム、五加皮、センキュウ、トウキ、ジオウ及び甘草の混合物、
[v-2]前記[v-1]の混合物からツリガネタケ及び霊芝を不含とする混合物、
[v-3]前記[v-1]の混合物から宿り木を不含とする混合物、
[v-4]前記[v-1]の混合物からビャクジュツを不含とする混合物、並びに
[v-5]前記[v-1]の混合物から、ハリギリ、ボルナム及び五加皮を不含とする混合物から選択される混合物の抽出物を含むもの、
[vi]桂枝茯苓丸料加ヨクイニンを含むもの、並びに
[vii]帰脾湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、十補丸、及び腎気丸から選択される漢方又はそのエキス
本件発明1及び4は、[i]として、「茯苓のエタノール抽出物を含むもの」を除くものであるところ、本件明細書には、「茯苓のエタノール抽出物」について定義は記載されていない。しかしながら、「茯苓のエタノール抽出物」が茯苓をエタノールによって抽出した物を表すことはその字義から明らかである。
また、[ii]~[vii]で除かれた事項についても、それぞれは明確である。
してみれば、本件発明1、4は、特許請求の範囲の記載の記載を考慮して、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明1又は4を直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、5、6についても同様である。
(3)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、以下の点を主張する。
ア 天然物である生薬の茯苓から抽出される成分は多種多様にわたり、抽出する手法、条件等によって抽出される成分、含量等が変化することから、「茯苓のエタノール抽出物を含むものを除く」という記載によって除かれた部分は、多数にわたり、その部分を特定することができない。
イ 「茯苓及び/又はその水エキス」には、「茯苓のエタノール抽出物」に含まれる成分と同一及び異なる成分が含まれ得るところ、除くクレームにより、多数にわたり、特定されない「茯苓のエタノール抽出物」が「茯苓及び/又はその水エキス」から除かれた結果、「茯苓及び/又はその水エキス」にはいかなる成分が含まれる構成であるかが不明確である。
ウ [ii]~[vii]で除くクレームにより除かれた部分は多数にわたることから、一の請求項から一の発明が明確に把握できず、本件特許の請求項1及び4は明確性を欠く。
しかしながら、上記(2)で検討したとおり、上記申立人の主張はいずれも採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、申立理由4(明確性要件)は理由がない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700123