特許異議申立
2025-700089
通信用電線、ワイヤーハーネス、および通信用電線の製造方法
- 審判番号
- 2025-700089
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-036056
- 登録番号
- 7521460
- 請求日
- 2025年01月21日
- 審決日
- 2025年04月01日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オートネットワーク技術研究所
- 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
- 【権利者】住友電装株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
- 【異議申立人】加藤 純子
- 審判長/審判官
- 審判長 吉田 美彦
- 審判官 松崎 孝大
- 審判官 林 毅
- 分類
- P1651.121-Y (H01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7521460号発明「通信用電線、ワイヤーハーネス、および通信用電線の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7521460号の請求項1~21に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7521460号の請求項1~21に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年3月8日に出願され、令和6年7月16日にその特許権の設定登録がされ、令和6年7月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年1月21日に特許異議申立人 加藤純子(以下、単に「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7521460号の請求項1~21の特許に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明21」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
1 本件発明1
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線より構成された信号線と、
前記信号線の外周を被覆する絶縁外層と、を有し、
特性インピーダンスが、100±10Ωの範囲にあり、
前記絶縁被覆および前記絶縁外層の少なくとも一方が、
ポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体より選択される少なくとも1種と、
臭素系難燃剤を含む難燃剤と、
三酸化アンチモンを含む難燃助剤と、を含有する難燃性樹脂組成物より構成されており、
前記難燃助剤を含んだ凝集物の凝集径は、50μm以下である、通信用電線。
2 本件発明2
少なくとも前記絶縁外層が、前記難燃性樹脂組成物より構成されている、請求項1に記載の通信用電線。
3 本件発明3
前記信号線は、1対の前記絶縁電線が相互に撚り合わせられた対撚線として構成されている、請求項1または請求項2に記載の通信用電線。
4 本件発明4
前記絶縁外層と前記信号線の間には、金属より構成されたノイズ遮蔽材が設けられない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の通信用電線。
5 本件発明5
前記難燃性樹脂組成物に含有される前記難燃剤は、
前記臭素系難燃剤のみより構成されるか、
前記臭素系難燃剤に加え、金属水酸化物難燃剤を含有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の通信用電線。
6 本件発明6
少なくとも前記絶縁外層が、前記難燃性樹脂組成物より構成されており、
前記絶縁外層を構成する前記難燃性樹脂組成物において、高分子成分の含有量を100質量部として、前記難燃剤および前記難燃助剤の合計の含有量が、30質量部以上である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の通信用電線。
7 本件発明7
前記難燃性樹脂組成物は、高分子成分の含有量を100質量部として、
前記臭素系難燃剤を20質量部以上50質量部以下の量で含有するとともに、
前記難燃助剤を5質量部以上25質量部以下の量で含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の通信用電線。
8 本件発明8
前記難燃性樹脂組成物は、前記難燃剤として、前記臭素系難燃剤に加え、高分子成分の含有量を100質量部として、20質量部以上100質量部以下の金属水酸化物難燃剤をさらに含む、請求項7に記載の通信用電線。
9 本件発明9
前記絶縁被覆は、ポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体より選択される少なくとも1種を含み、前記難燃剤および前記難燃助剤を含有しない樹脂組成物より構成され、
前記絶縁外層は、前記難燃性樹脂組成物より構成される、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の通信用電線。
10 本件発明10
前記絶縁外層は、充実構造をとっている、請求項9に記載の通信用電線。
11 本件発明11
前記絶縁被覆と前記絶縁外層は、ともに前記難燃性樹脂組成物より構成されている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の通信用電線。
12 本件発明12
前記絶縁外層は、中空構造をとっている、請求項11に記載の通信用電線。
13 本件発明13
高分子成分の質量を基準とした前記難燃剤および前記難燃助剤のそれぞれの含有量が、前記絶縁被覆を構成する前記難燃性樹脂組成物と、前記絶縁外層を構成する前記難燃性樹脂組成物とで、相互に揃っている、請求項11または請求項12に記載の通信用電線。
14 本件発明14
前記絶縁被覆の構成材料は、前記絶縁外層の構成材料よりも高い曲げ弾性率と、前記絶縁外層の構成材料よりも低い比誘電率を有している、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の通信用電線。
15 本件発明15
前記絶縁被覆の構成材料は、800MPa以上2000MPa以下の曲げ弾性率と、1.9以上2.9未満の比誘電率を有し、
前記絶縁外層の構成材料は、300MPa以上700MPa以下の曲げ弾性率と、2.3以上3.2未満の比誘電率を有する、請求項14に記載の通信用電線。
16 本件発明16
前記絶縁被覆は、金属不活性剤および酸化防止剤を含有し、
前記絶縁外層は、酸化防止剤を含有する、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の通信用電線。
17 本件発明17
前記絶縁外層は、前記難燃性樹脂組成物より構成され、
前記絶縁外層を構成する高分子成分は、100質量部中に、
ポリオレフィン、オレフィン系共重合体、スチレン系ゴムのいずれかを主鎖とし、前記主鎖中に取り込まれていない極性官能基を有する少なくとも1種の高分子を、5質量部以上20質量部以下含有する、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の通信用電線。
18 本件発明18
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の通信用電線を含む、ワイヤーハーネス。
19 本件発明19
前記難燃性樹脂組成物を調製するに際し、
前記難燃助剤を、最終的に調製される前記難燃性樹脂組成物よりも高濃度で、高分子成分中に含み、かつ前記難燃剤を含まない難燃助剤マスターバッチを準備し、
前記難燃助剤マスターバッチを他の成分と混合する工程を含んで、
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の通信用電線を製造する、通信用電線の製造方法。
20 本件発明20
前記難燃助剤マスターバッチにおける前記難燃助剤の濃度が、70質量%以上95質量%以下である、請求項19に記載の通信用電線の製造方法。
21 本件発明21
前記難燃助剤マスターバッチは、230℃において荷重2.16kgで計測されるメルトフローレートが、1g/10分以上、10g/10分以下である、請求項19または請求項20に記載の通信用電線の製造方法
第3 特許異議の申立ての理由及び証拠
特許異議申立書の全趣旨からして、申立人が主張する特許異議の申立ての理由(以下、「申立理由」という。)及び証拠は、以下のとおりのものと認められる。
1 申立理由
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~21に係る発明は、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~21に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
2 証拠
甲第1号証:国際公開第2018/143350号
甲第2号証:国際公開第2011/125924号
甲第3号証:小峯泰紀、アンチモン系難燃剤の使用について、合成樹脂、1984年8月、Vol.30、No.8、p.31-34
甲第4号証:特開2019-73735号公報
甲第5号証:株式会社鈴裕化学のウェブページ(http://www.chemical-suzuhiro.co.jp/product/AT3_pellet.html)、2019年7月27日
第4 引用文献の記載事項、引用発明
1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
「[0001] 本発明は、通信用電線に関し、さらに詳しくは、自動車等において、高速通信に用いることができる通信用電線に関するものである。
[背景技術]
[0002] 自動車等の分野において高速通信の需要が増している。高速通信に用いられる電線においては、特性インピーダンス等の伝送特性を厳しく管理する必要がある。例えば、イーサーネット通信に用いられる電線においては、特性インピーダンスが100±10Ω等、所定の範囲となるように管理する必要がある。
[0003] 通信用電線の特性インピーダンスは、導体および絶縁被覆の種類や寸法、形状等、通信用電線の具体的な構成に依存して定まる。例えば、特許文献1においては、導体と該導体を被覆する絶縁体とを備えた一対の絶縁線心を撚り合わせてなる対撚り線と、該対撚り線を被覆するシールド用の金属箔シールドと、該金属箔シールドに対して導通する接地用電線と、これら全体を被覆するシースとを備え、且つ特性インピーダンス値が100±10Ωとなるように構成した通信用シールド電線が開示されている。ここでは、絶縁線心として、導体径が0.55mmのものが用いられ、導体を被覆する絶縁体の厚さは、0.35~0.45mmとなっている。」
「[0005] 自動車等に用いる通信用電線においては、細径化に対する需要が大きい。この需要を満足するために、特性インピーダンス等の伝送特性を満たしながら、通信用電線の細径化を図ることが必要となる。対撚線を有する通信用電線を細径化する方法として、対撚線を構成する絶縁電線の絶縁被覆を薄くすることが考えられる。しかし、本発明者の試験によると、特許文献1に記載される通信用電線において、絶縁体の厚さを0.35mmよりも小さくすると、特性インピーダンスが90Ωよりも小さくなり、イーサーネット通信で求められる100±10Ωの範囲を外れてしまう。
[0006] 本発明の課題は、必要な大きさの特性インピーダンス値を確保しながら、細径化された通信用電線を提供することにある。」
「[0035] 通信用電線1は、通信線として、1対の絶縁電線11,11を撚り合わせた対撚線10を有している。各絶縁電線11は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13を有している。そして、通信用電線1は、対撚線10全体の外周を被覆して、絶縁材料よりなるシース30を有している。シース30は、1本の対撚線10の外周を、長手方向軸を中心とした全周にわたって連続的に囲んでいる。なお、以下では、撚り合わせ構造によるノイズ低減の効果を利用する観点から、通信線10が対撚線である場合を扱うが、通信線10は、1対の絶縁電線11,11よりなり、差動モードの信号を伝達できるものであれば、対撚線に限られず、例えば、2本の絶縁電線11,11を撚り合わせることなく並走させたものであってもよい。
[0036] 通信用電線1は、100±10Ωの範囲の特性インピーダンスを有していることが好ましい。100±10Ωとの特性インピーダンスは、イーサーネット通信用の電線において代表的に要求される値である。通信用電線1は、このような特性インピーダンスを有することで、自動車等において、高速通信用に好適に用いることができる。」
「[0055](1-2)絶縁被覆について
絶縁電線11の絶縁被覆13は、どのような絶縁性のポリマー材料よりなってもよい。特性インピーダンスとして所定の高い値を確保する観点から、絶縁被覆13は、4.0以下の比誘電率を有することが好ましい。そのようなポリマー材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができる。また、絶縁被覆13は、ポリマー材料に加え、適宜、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
[0056] 絶縁被覆13の誘電率を小さくする観点、特に、車載環境等で高温に晒された際でも誘電率の過度な上昇を避ける観点から、絶縁被覆13を構成するポリマー材料としては、分子極性の低いものを用いることが好ましい。例えば、上記で列挙したうち、非極性のポリマー材料であるポリオレフィンを用いることが好ましい。」
「[0058] 絶縁被覆13を構成するポリマー材料は、発泡されていても、されていなくてもよい。絶縁被覆13の誘電率を小さくし、絶縁電線11を細径化する観点、また絶縁被覆13を軽量化する観点からは、発泡されている方が好ましく、通信用電線1の伝送特性を安定させる観点および絶縁被覆13の製造工程を簡素化する観点からは、発泡されていない方が好ましい。絶縁被覆13を発泡させる場合に、その発泡度は、15~85%とすることが好ましい。さらに、絶縁被覆13を構成するポリマー材料は、架橋されていても、されていなくてもよい。架橋により、絶縁被覆13の耐熱性を特に高めることができる。」
「[0095] ところで、この種の通信用電線1においては、絶縁電線11の細径化やシース30の薄肉化によって通信用電線1全体の細径化を図ろうとすると、100±10Ωのように、要求される大きさの特性インピーダンスを確保するのが難しくなる場合がある。そこで、下記の式(1)で定義される通信用電線1の実効誘電率を小さくすることで、特性インピーダンスを高くすることが考えられる。その観点からは、シース30を構成するポリマー材料として、分子極性が低く、低誘電率を与えるものを用いることが好ましいことになる。
[0096]
[図:0001422488000001.jpg]
[数1]
ここで、εeffは実効誘電率、dは導体径、Dは電線外径、η0は定数である。」
「[0099] さらに、シース30を構成する材料は、絶縁電線11の絶縁被覆13を構成する材料の誘電正接以上、さらには絶縁被覆13の誘電正接よりも大きな誘電正接を有することが好ましい。上記のように、シース30は、モード変換特性の向上の観点から、大きな誘電正接を有する方がよいのに対し、対撚線10を伝送される差動モード信号の減衰を小さく抑える等の観点から、絶縁被覆13においては誘電正接が小さい方が好ましいからである。例えば、シース30の誘電正接を、絶縁被覆13の誘電正接の1.5倍以上、さらには2倍以上、5倍以上とする形態を、好ましいものとして例示することができる。シース30の比誘電率は、6.0以下であることが好ましい。
[0100] シース30を構成するポリマー材料は、発泡されていても、されていなくてもよい。発泡部に空気が保持されることの効果として、シース30の誘電率を小さくし、通信用電線1の特性インピーダンスを大きくする、シース30を軽量化する等の観点からは、発泡されている方が好ましい。例えば、発泡度を20%以上とすることが好ましい。一方、発泡度のばらつきによって、通信用電線1の伝送特性にばらつきが生じるのを抑え、伝送特性を安定させる観点からは、発泡されていない方が好ましい。また、発泡されたものとする場合にも、発泡度を85%以下とすることが好ましい。また、シース30の製造性について、発泡の工程を省略できるという観点からは、シース30を発泡されないものとする方が簡便であるが、空隙Gを設けなくても(つまり後述する充実型ジャケットに相当する構成としても)、あるいは小さくしても、シース30の誘電率を小さくできるという観点からは、シース30を発泡されたものとする方が簡便である。さらに、シース30を構成するポリマー材料は、架橋されていても、されていなくてもよい。架橋により、シース30の耐熱性を特に高めることができる。
[0101] シース30は、絶縁被覆13と同種のポリマー材料よりなっても、異種のポリマー材料よりなってもよい。通信用電線1全体の構成および製造工程を簡素化する観点からは、同種の材料よりなる方が好ましく、シース30および絶縁被覆13それぞれに対して、誘電率、誘電正接等の物性を高自由度で選択する観点からは、異種の材料よりなる方が好ましい。」
「[0188][試料の作製]
(1)絶縁材の調製
通信用電線のシースおよび絶縁電線の絶縁被覆を構成する材料として、下の表10に示す成分を混練し、絶縁材A~Dを調製した。ここで、用いた難燃剤は、水酸化マグネシウムであり、酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤である。
[0189](2)通信用電線の作製
上記[1]の試験と同様に作製した銅合金導体(導体断面積0.13mm2)の外周に、押出しにより、絶縁被覆を形成し、試料I1~I10のそれぞれに用いる絶縁電線を作製した。絶縁被覆を構成する絶縁材としては、試料I1~I4においては、絶縁材Bを用いた。一方、試料I5~I10においては、表12に示す各絶縁材を用いた。絶縁被覆の厚さは、0.20mmとした。絶縁電線の偏芯率は80%であった。」
「[0191] シースを構成する絶縁材としては、試料I1~I4について表11に、試料I5~I10について表12に示すように、絶縁材A~Dから所定のものを選択した。得られた通信用電線において、試料I1~I4は、絶縁電線の絶縁被覆が全て絶縁材Bよりなり、シースが絶縁材A~Dのそれぞれよりなっている。一方、試料I5~I10は、絶縁電線の絶縁被覆およびシースが、絶縁材B~Dの各種組み合わせよりなっている。
[0192] ここで、シースはルーズジャケット型とし、シースの厚さは、0.4mmとした。シースと絶縁電線の間の空隙の大きさは、外周面積率で23%であり、絶縁電線に対するシースの密着力は、15Nであった。このようにして、試料I1~I4および試料I5~I10にかかる通信用電線を得た。
[0193] 試料I1~I10にかかる通信用電線について、LCRメータを用いたオープン/ショート法によって特性インピーダンスを確認したところ、試料I1~I10の全てにおいて、特性インピーダンスが100±10Ωの範囲にあることが確認された。」
「[0197][結果]
表10に、絶縁材A~Dに対する誘電正接の測定結果を、材料の配合とともに示す。
[0198]
[表10]
[図:0001422488000002.jpg]
[0199] 表10によると、フィラーの添加量を多くするほど、誘電正接が大きくなっているのが分かる。
[0200] 次に、上記絶縁材A~Dをそれぞれ用いてシースを形成した試料I1~I4の通信用電線について、透過モード変換特性 の測定結果を表11にまとめる。
[0201]
[表11]
[図:0001422488000003.jpg]
[0202] 表11によると、シースの誘電正接を0.0001以上とすることで、46dB以上との水準を満たす透過モード変換が達成されている。さらに、シースの誘電正接が大きくなるほど、透過モード変換の値が大きくなっている。
[0203] 最後に、シースと絶縁被覆の材料の組み合わせが異なることによりシースと絶縁被覆の誘電正接の組み合わせが異なる試料I5~I10について、表12に、透過モード変換特性の測定結果をまとめる。
[0204]
[表12]
[図:0001422488000004.jpg]
[0205] 表12の結果によると、シースの誘電正接が絶縁被覆の誘電正接よりも小さい試料I7および試料I9においては、透過モード変換の値が46dBとの基準を下回っている。これに対し、シースの誘電正接が絶縁被覆の誘電正接と同じである試料I5および試料I10においては、透過モード変換の値が46dB以上となっている。そして、シースの誘電正接が絶縁被覆の誘電正接よりも大きくなっている試料I6および試料I8においては、透過モード変換の値が50dBを超えてさらに大きくなっている。試料I6と試料I8を比較すると、シースと絶縁被覆の誘電正接の差が大きい試料I6の方で、透過モード変換の値が大きくなっている。」
(2)甲1発明
上記(1)の特に下線部に着目すれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 通信線として、1対の絶縁電線11,11を撚り合わせた対撚線10を有し、
各絶縁電線11は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13を有し、
対撚線10全体の外周を被覆して、絶縁材料よりなるシース30を有し、
絶縁被覆13は、4.0以下の比誘電率を有することが好ましく、そのようなポリマー材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができ、ポリマー材料に加え、適宜、難燃剤等の添加剤を含有してもよく、難燃剤は、水酸化マグネシウムであり、
シース30を構成する材料は、絶縁電線11の絶縁被覆13を構成する材料の誘電正接以上、さらには絶縁被覆13の誘電正接よりも大きな誘電正接を有することが好ましく、
特性インピーダンスが100±10Ωの範囲にある、
通信用電線1。」
2 甲第2号証について
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネスに関し、更に詳しくは、高い耐熱性が要求される自動車用絶縁電線等の被覆材料として好適な難燃性を有する電線被覆材用組成物、これを用いた絶縁電線及びワイヤーハーネスに関するものである。
[0002] 自動車のワイヤーハーネス等のように、高温を発する箇所に使用される電線として、従来、塩化ビニル樹脂の架橋電線や、ポリオレフィン架橋電線が用いられていた。これらの架橋電線の架橋方法は、電子線の照射や、被覆材料にシラン官能基を用いて水蒸気雰囲気等で行うのが一般的である。
[0003] 例えば、特許文献1には、電線被覆材に用いる組成物として、熱可塑性樹脂、ゴム、および、熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1つの重合体100質量部、有機過酸化物0.01~0.6質量部、シラノール縮合触媒0.05~0.5質量部、および、水酸化マグネシウム100~300質量部を含む、シラン架橋性ポリオレフィンとの混合用樹脂組成物が開示されている。」
「[0005] 上記従来の架橋樹脂組成物を用いた絶縁電線の場合、樹脂を架橋させるための設備が必要であるという問題があった。電子線照射の場合、大がかりな設備が必要であった。またシラン官能基を被覆材料に用いる場合、被覆材料が限定されるので、コストが上昇するという問題があった。更に架橋樹脂を用いた絶縁電線は、架橋設備等を必要とすることから、グローバルに製品を提供することの妨げになっている。
[0006] 一方で、電線に難燃性を付与するために、特許文献1のように水酸化マグネシウム等の無機水酸化物が難燃剤として用いられる。自動車用電線の難燃性を満足させるためには、樹脂に対し難燃剤を多量に添加する必要がある。しかし、無機水酸化物のような難燃剤を多量に添加すると、樹脂被膜の機械的強度を低下させてしまう。
[0007] 架橋樹脂の代わりに非架橋樹脂からなる組成物を用いて絶縁被膜を形成した電線は、架橋樹脂を用いたものと比較して柔軟性に優れ、低コストに提供することができる。しかしながら、非架橋材料からなる難燃性樹脂組成物を絶縁被膜として用いた絶縁電線は、耐熱性、耐磨耗性等の特性が不十分であるという問題があった。
[0008] 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、非架橋材料を用いて、柔軟性、耐熱性、及び耐磨耗性に優れた難燃性を有する電線被覆材用組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスを安価に提供することにある。
[0009] 上記課題を解決するために本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリプロピレン、
(B)ポリオレフィンエラストマー、
(C)臭素系難燃剤、
(D)三酸化アンチモン、
(E)水酸化マグネシウム、
(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール、
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有することを要旨とするものである。」
「[0014] 本発明に係る絶縁電線は、上記の電線被覆材用組成物を有する絶縁電線であって、絶縁厚0.5mm以下、外径4mm以下であるから、難燃性、耐熱性、耐磨耗性、柔軟性等に優れ、安価に提供することができる。」
「[0025] 本発明に係る電線被覆材用組成物は、樹脂成分として、上記成分(A)、(B)に加えて、(H)官能基変性樹脂、(I)未変性のスチレン系エラストマー等の上記以外のその他の樹脂を添加してもよい。(H)官能基変性樹脂は、(H1)官能基変性スチレン系エラストマー、(H2)官能基変性ポリオレフィン、又は上記(H1)+(H2)のいずれかを用いることができる。(H1)官能基変性スチレン系エラストマー又は(H2)官能基変性ポリオレフィンは、スチレン系エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマーやスチレンブロックコポリマー等と呼ばれることもある)又はポリオレフィンに対し、官能基を有する化合物を用いて、官能基を導入した樹脂である。樹脂組成物中に(H)官能基変性樹脂を添加すると、難燃剤であるフィラーの分散性が良くなり、被膜の物性が向上する。また官能基変性樹脂の添加により被覆材料の混合性が良好になることから、電線表面の凹凸、ブツ等がなく外観が良くなり、電線押出も良好となる場合がある。」
「[0041] 本発明に係る電線被覆材用組成物は、難燃剤として(C)臭素系難燃剤と(D)三酸化アンチモンと(E)水酸化マグネシウムを併用するものである。(D)三酸化アンチモンを(C)臭素系難燃剤と併用することで、難燃性の相乗効果が得られる。(E)水酸化マグネシウムの添加は、難燃効果を付与すると共に、被膜の硬度を調節することができる。また、本発明では難燃剤として、水酸化マグネシウムのみを用いるものではないので、水酸化マグネシウムを単独で難燃剤として用いた場合と比較して、水酸化マグネシウムの添加量を減らすことができる。そのため、水酸化マグネシウムを多量に添加したことに起因する被膜の機械的強度の低下等の虞がない。また、水酸化マグネシウムを添加することで、臭素系難燃剤の添加量を減らすことができるので、組成物中における有機ハロゲン化合物の含有量を下げて、低ハロゲン化に寄与することが出来る。」
「[0044] (D)三酸化アンチモンは純度99%以上のものを用いるのが好ましい。(D)三酸化アンチモンは、鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕処理して微粒化したものは、低コストで純度が高いことから好ましい。(D)三酸化アンチモンの平均粒子径は、3μm以下であるのが好ましく、更に好ましくは1μm以下である。三酸化アンチモンの平均粒子径が大きくなると、樹脂との界面強度が低下する虞がある。また三酸化アンチモンは、粒子径を制御することや、樹脂との界面強度を向上させる目的で、表面処理を施しても良い。この表面処理剤として好ましいものは、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックス等である。
[0045] (E)水酸化マグネシウムは、水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物を粉砕処理することにより得られる天然鉱物由来の天然水酸化マグネシウム、又は海水に含まれるMg源(にがり等)を原料として合成される合成水酸化マグネシウムを用いることができる。水酸化マグネシウムの粒子径は、通常、0.5~20μm程度であり、好ましくは0.5~10μm、更に好ましくは0.5~5μmである。水酸化マグネシウムの粒子径が20μmを超えると電線外観が悪くなる虞があり、0.5μm未満では二次的な凝集が発生し、電線特性が低下する虞がある。」
「[0065] 本発明に係る絶縁電線は、その外径が4mm以下の細線である。また絶縁電線の絶縁被膜の厚さ(絶縁厚)が、0.5mm以下である。絶縁電線において、絶縁被膜は単層又は複数層のいずれでも良い。」
3 甲第3号証について
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
「
[図:0001422488000005.jpg]
」
4 甲第4号証について
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関するものであり、詳しくは、アンチモン化合物を含有し、難燃性、耐衝撃性のばらつきが少なく、難燃性及び耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物を健康被害の問題なく安全に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂は、燃焼しやすいため、難燃性を付与するために主として、各種の難燃剤を配合することが行われてきた。
【0003】
特に、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品や機械部品等に使用される際には、より高度な難燃性が求められ、また、近年の各種機器の小型化と軽量化の趨勢から、薄肉小型化されてきており、その最も薄い部分に対応する難燃性が要求される場合が多く、難燃性としてはUL-94に規定されるランクV-0の難燃性が指標とされる。
そのため、高い難燃性を達成するため、ハロゲン系難燃剤(特に臭素系難燃剤)又は燐系難燃剤とアンチモン化合物を配合した各種の樹脂組成物が提案されている(特許文献1~4参照)。
【0004】
アンチモン化合物は、上記の例のように、種々の樹脂材料の難燃化に高い効果を発揮することから、広く用いられているが、一方で、アンチモン化合物には、発がん性の疑いがあり、規制される傾向にある。国際癌研究機関は、三酸化アンチモンをクラス2Bの発癌性物質に分類しており、主として動物実験に基づき、発癌性を有することが疑われている。
【0005】
この問題から、アンチモン化合物について低減や削減の要求が高まっている。そこで、アンチモン化合物を含まないで難燃性UL94V-0を満足する熱可塑性樹脂材料が求められているが、ハロゲン系難燃剤およびアンチモン化合物を含まないで、UL94V-0を満足する高度の難燃性樹脂組成物をは成功していないのというのが実状である。このため、アンチモン化合物を使用しながらも、健康被害の問題なく製造する方法が強く要求されている。
【0006】
また、アンチモン化合物は比重が大きく、また凝集しやすいので、難燃性や耐衝撃性のばらつきが起きやすい。」
「【0014】
[アンチモン化合物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に用いるアンチモン化合物としては、三酸化アチモン(Sb2O3)、五酸化アンチモン(Sb2O5)、アンチモン酸ナトリウム等が好ましく挙げられるが、特に、三酸化アンチモンが好ましい。
【0015】
[アンチモン化合物のマスターバッチ]
本発明において、アンチモン化合物は、熱可塑性樹脂組成物の構成成分である熱可塑性樹脂(I)と同種又は異なる種類の熱可塑性樹脂(II)と混合されてマスターバッチ化されたものとして使用される。この際、マスターバッチにおけるアンチモン化合物の含有量は、熱可塑性樹脂(II)とアンチモン化合物の合計100質量%基準で、20~90質量%とする。
熱可塑性樹脂組成物の主成分として使用する熱可塑性樹脂(I)及びアンチモン化合物をマスターバッチ化するために使用する熱可塑性樹脂(II)としては、熱可塑性の樹脂であれば制限はないが、その種類等については後述する。」
5 甲第5号証について
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
[図:0001422488000006.jpg]
[図:0001422488000007.jpg]
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「導体12」、「導体12の外周を被覆する絶縁被覆13」、「1対の絶縁電線11,11」はそれぞれ、本件発明1の「導体」、「前記導体の外周を被覆する絶縁被覆」、「1対の絶縁電線」に相当する。
また、甲1発明の「通信線」は、通信の対象となる信号を伝達する線であるところ、“信号線”といい得るものである。
そうすると、甲1発明において、「1対の絶縁電線11,11を撚り合わせた対撚線10を有し」「各絶縁電線11は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13を有し」ている「通信線」は、本件発明1の「導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線より構成された信号線」に相当する。
イ 上記アを参酌すれば、甲1発明の「対撚線10全体の外周を被覆して、絶縁材料よりなるシース30」は、本件発明1の「前記信号線の外周を被覆する絶縁外層」に相当する。
ウ 甲1発明において、「特性インピーダンスが100±10Ωの範囲にある」ことは、本件発明1の「特性インピーダンスが、100±10Ωの範囲にあり」との構成に相当する。
エ 甲1発明における「絶縁被覆13は、4.0以下の比誘電率を有することが好ましく、そのようなポリマー材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができ、ポリマー材料に加え、適宜、難燃剤等の添加剤を含有してもよく、難燃剤は、水酸化マグネシウムであり、」との構成(以下、「構成1」という。)において、「絶縁被覆13」は、本件発明1の「前記絶縁被覆および前記絶縁外層の少なくとも一方」に包含される。
また、構成1において、「絶縁被覆13」を構成するポリマー材料の選択肢のうち、「ポリオレフィン」は、本件発明1の「ポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体より選択される少なくとも1種」に包含される。
また、構成1において、「水酸化マグネシウム」である「難燃剤」と、本件発明1の「臭素系難燃剤を含む難燃剤」とは、「難燃剤」である点において共通する。
また、構成1において、「ポリマー材料に加え、適宜、難燃剤等の添加剤を含有」するものは、“難燃性樹脂組成物”といい得るものである。
以上より、甲1発明における構成1と、本件発明1の「前記絶縁被覆および前記絶縁外層の少なくとも一方が、ポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体より選択される少なくとも1種と、臭素系難燃剤を含む難燃剤と、三酸化アンチモンを含む難燃助剤と、を含有する難燃性樹脂組成物より構成されており、」との構成とは、「前記絶縁被覆および前記絶縁外層の少なくとも一方が、ポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体より選択される少なくとも1種と、難燃剤と、を含有する難燃性樹脂組成物より構成されており、」との構成である点において共通する。
(2)一致点、相違点
よって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点において一致ないし相違する。
[一致点]
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線より構成された信号線と、
前記信号線の外周を被覆する絶縁外層と、を有し、
特性インピーダンスが、100±10Ωの範囲にあり、
前記絶縁被覆および前記絶縁外層の少なくとも一方が、
ポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体より選択される少なくとも1種と、
難燃剤と、
を含有する難燃性樹脂組成物より構成されている、
通信用電線。
[相違点]
(相違点1)
「難燃剤」に関し、本件発明1における「難燃剤」は、「臭素系難燃剤を含む」ものであるのに対し、引用発明における「難燃剤」は、「水酸化マグネシウム」であり、「臭素系難燃剤を含む」ものであることについて具体的に特定していない点。
(相違点2)
甲1発明は、「難燃性樹脂組成物」として、「三酸化アンチモンを含む難燃助剤」を含有し、かつ、「前記難燃助剤を含んだ凝集物の凝集径は、50μm以下である」のに対し、甲1発明は、「難燃助剤」について具体的に特定していない点。
(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
甲第2号証には、「電線被覆材用組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネス」において、「非架橋材料を用いて、柔軟性、耐熱性、及び耐磨耗性に優れた難燃性を有する電線被覆材用組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスを安価に提供すること」を解決するために、
「電線被覆材用組成物は、
(A)ポリプロピレン、
(B)ポリオレフィンエラストマー、
(C)臭素系難燃剤、
(D)三酸化アンチモン、
(E)水酸化マグネシウム、
(F)(F1)硫化亜鉛、或いは(F2)酸化亜鉛及び(F3)メルカプトベンズイミダゾール、
(G)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する」との構成を採用し、
「電線被覆材用組成物は、難燃剤として…(D)三酸化アンチモンを(C)臭素系難燃剤と併用することで、難燃性の相乗効果が得られる」との作用効果が得られる、といった技術事項が記載されているものの、絶縁電線が必ずしも通信に使用されることを前提としたものではない。
しかしながら、甲1発明は、「必要な大きさの特性インピーダンス値を確保しながら、細径化された通信用電線を提供すること」([0006])を解決しようとする課題とする「通信用電線」に関するものであるところ、絶縁電線が必ずしも通信に使用されることを前提としたものではない甲第2号証に記載された技術事項とは、解決しようとする課題、電線の用途が異なる。
よって、当業者といえども、甲1発明に甲第2号証に記載された技術事項を採用する動機付けが存在しない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
イ 相違点2について
甲第2号証には、「難燃剤」として「(D)三酸化アンチモン」を含めることが記載されているが、当該「(D)三酸化アンチモン」を含む「難燃助剤」の「凝集径」については記載されていない。具体的には、甲第2号証の[0044]には、「(D)三酸化アンチモン」の「平均粒子径」について言及があるのみである。一方、甲第2号証の[0045]には、「難燃剤」に含まれる「(E)水酸化マグネシウム」については、「粒子径が、…0.5μm未満では二次的な凝集が発生し、電線特性が低下する虞がある」ことが記載されていることを参酌すれば、甲第2号証において、「(D)三酸化アンチモン」を含む難燃(助)剤の「凝集」についてはまったく想定していないと解するのが合理的である。
また、甲第3号証、甲第4号証及び甲第5号証には、「三酸化アンチモン」に関する技術事項が開示されているが、いずれも「通信用電線」についての言及はない。
したがって、甲1発明に、解決しようとする課題、電線の用途が異なる、甲第2号証に記載された技術事項(「(D)三酸化アンチモン)」)を採用し、さらに、甲第2号証においては想定していない「(D)三酸化アンチモン」を含む難燃(助)剤の「凝集径」に係る構成を、「通信用電線」についての言及がない甲第3号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項を参酌して適用することは、当業者といえども容易であるとはいえない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(4)申立人の主張について
申立人は、特許異議の申立ての際に提出した特許異議申立書の第16~17ページにおいて、「本件明細書の【0004】には「特許文献1では、絶縁外層や絶縁被覆に添加する難燃剤として、水酸化マグネシウムがもっぱら用いられている。しかし、他に、自動車用の通信用電線において、ポリオレフィン等の非難燃性樹脂に添加される難燃剤として、ハロゲン系有機化合物や、リン含有化合物、窒素含有化合物等を挙げることができる。通信用電線においては、難燃剤の添加による通信特性への影響を小さく抑える観点、また、高温環境での通信特性や材料特性の変化を小さく抑え、通信用電線の耐熱性を高める観点からは、難燃剤の含有量をできるかぎり少量とすることが好ましい。上で挙げた中で、ハロゲン系有機化合物よりなる難燃剤(ハロゲン系難燃剤)は、少量でも高い難燃効果を発揮するものであり、通信用電線の絶縁外層や絶縁被覆を構成するのに、好適であると言える。」と記載があるところ、甲2にも、上記のとおり、電線被覆材用組成物において、難燃剤として臭素系難燃剤を使用することで、水酸化マグネシウムの相対含有量を低減できることが記載されており、本件特許の出願時には、自動車用通信電線の被覆材料において、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用することは公知であったと認められる。してみれば、自動車用電線に関する甲1発明においても、難燃性添加による電線の強度低下を抑制するために、難燃剤として水酸化マグネシウムに併用して、又は水酸化マグネシウムに代えて臭素系難燃剤を使用することに何ら困難性はなく、また臭素系難燃剤を使用することの効果も当業者が予想できる範囲であると言える。」と主張するが、本件特許明細書に記載されているのはあくまでも「ハロゲン系難燃剤」であって「臭素系難燃剤」ではなく、また、上記(3)アで述べたように、甲第2号証に記載された技術事項は、甲1発明とは、解決しようとする課題、電線の用途が異なるため、当業者といえども、本件特許明細書に記載した事項を参酌することにより、甲1発明に甲第2号証に記載された技術事項を適用することが容易であったとはいえない。
また、申立人は、特許異議申立書の第17~19ページにおいて、「甲2には、三酸化アンチモンを(C)臭素系難燃剤と併用することで、難燃性の相乗効果が得られることが記載されているのであるから、甲1発明においても、難燃剤として臭素系難燃剤を使用した場合には、当業者であれば難燃性の相乗効果を期待して、三酸化アンチモンを併用することは自明であり、その効果も当業者が予想できる範囲であると言える。」並びに、甲第3号証~第5号証を挙げて「難燃剤として臭素系難燃剤を使用する際に難燃性向上のためにアンチモン系難燃助剤を併用することや、アンチモン系難燃助剤を使用すると凝集物が生じてしまうといった課題は周知の事項であったと言える。」、「「C390」なる難燃助剤マスターバッチ品(鈴裕化学製)が掲載されており、少なくとも2019年7月27日には当該製品が市販されていたものと認められる。」及び「そうすると、甲1発明において、甲2のアンチモン系難燃助剤を併用するに際して、当業者であれば、周知の事項を踏まえて、凝集物の抑制のためにアンチモン系難燃助剤のマスターバッチ品を使用することに何ら困難性はないと言える。また、本件特許の出願時において、アンチモン系難燃助剤のマスターバッチ品である「C390」を使用することについても、何ら阻害事由はなく、当業者が適宜選択して使用できる事項と言え、凝集物の凝集径も40μm程度にできると推認できる。」と主張するが、上記(3)イで述べたように、甲1発明に、解決しようとする課題、電線の用途が異なる、甲第2号証に記載された技術事項(「(D)三酸化アンチモン)」)を採用し、さらに、甲第2号証においては想定していない「(D)三酸化アンチモン」を含む難燃(助)剤の「凝集径」に係る構成を、「通信用電線」についての言及がない甲第3号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項を参酌して適用することは、当業者といえども容易であるとはいえない。
なお、付言するに、甲第5号証には、「C-380」「A-390」といった製品については記載されているが、「C390」又はこれに対応する製品が記載されているとは認められないため、甲第5号証に基づく申立人の主張は、甲第5号証の記載に基づくものではない。(また、そもそも、本件特許明細書には、製品として「C390」を使用することが記載されている以上、当該製品が本件特許出願時において周知のものであったことは甲第5号証を示すまでもなく明白であるが、このことから直ちに、甲1発明に、当該製品を適用することが容易であるということもできない。)
(5)小結
以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者が、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本件発明2~19について
本件発明2~19は、直接又は間接的に本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様に、当業者が、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700089