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特許異議申立

2024-700325

絶縁電線

審判番号
2024-700325
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-215055
登録番号
7358949
請求日
2024年04月09日
審決日
2024年10月31日
公報発行日
2025年01月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社オートネットワーク技術研究所
  • 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
  • 【権利者】住友電装株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
  • 【権利者】住友電気工業株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人上野特許事務所
  • 【異議申立人】加藤 純子
審判長/審判官
  • 審判長 吉田 美彦
  • 審判官 林 毅
  • 審判官 大塚 俊範
分類
P1651.113-YAA(H01B) / P1651.121-YAA(H01B) / P1651.536-YAA(H01B) / P1651.537-YAA(H01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第1項第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7358949号発明「絶縁電線」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7358949号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第7358949号の請求項1、2、4ないし6に係る特許を維持する。 特許第7358949号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7358949号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和元年11月28日に出願され、令和5年10月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許公報が発行された。 その後、本件特許に対し、令和6年4月9日に特許異議申立人 加藤 純子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯は、次のとおりである。 令和6年 5月23日付け:取消理由通知書 7月19日 :期間延長請求書の提出 7月30日付け:期間延長を認める旨の通知書 8月23日 :訂正請求書、意見書の提出 9月 2日 :手続補正書の提出(特許権者) (ただし、9月5日に職権訂正) 10月11日 :意見書の提出(申立人) なお、令和6年9月2日に提出された手続補正書は、訂正請求書における明らかな誤記を正しい記載に改めるものであり、訂正請求の要旨を変更するものではない。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和6年8月23日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「難燃剤と、を含有し、」と記載されているのを、「難燃剤と、を含有する樹脂組成物より構成され、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2および請求項4~6も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記ポリプロピレン樹脂の融解熱量」と記載されているのを、「前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2および請求項4~6も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「融解熱量が、35J/g以上であり」と記載されているのを、上記訂正事項2により、「融解熱量」の語の前に記載を追加したうえで、「融解熱量が、37J/g以上であり」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2および請求項4~6も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に「前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンの少なくとも一方を含む」と記載されているのを、「前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2および請求項4~6も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項3の削除に伴い、請求項3の記載を引用する請求項4において「請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線」と記載されているのを、「請求項1または請求項2に記載の絶縁電線」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5,6の記載も同様に訂正する)。 同様に、請求項3の記載を引用する請求項5において「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線」と記載されているのを、「請求項1、請求項2、請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6の記載も同様に訂正する)。 同様に、請求項3の記載を引用する請求項6において「請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線」と記載されているのを、「請求項1、請求項2、請求項4、請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線」に訂正する。 2 一群の請求項 訂正事項1~6に係る訂正前の請求項1~6について、請求項2~6はそれぞれ、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1~4によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 訂正の適否について (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において、「絶縁被覆」について、所定の「高分子成分」と「難燃剤」を含有することを特定していたところ、「絶縁被覆」が、それら所定の「高分子成分」と「難燃剤」とを含有する「樹脂組成物より構成され」るように限定したものである。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 同様に、訂正後の請求項1の記載を引用する訂正後の各請求項についても、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを総称して「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1において、「絶縁被覆」が、所定の「高分子成分」と「難燃剤」とを含有する「樹脂組成物より構成され」ることは、願書に添付した明細書の【0021】の「絶縁被覆14は、ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分よりなるベース樹脂と、金属水酸化物を含む難燃剤とを含有する樹脂組成物より構成されている。」との記載の範囲のものである。 よって、この訂正事項は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、上記ア及びイのとおり、明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、訂正事項1は、訂正後の請求項2、4~6に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1における「ポリプロピレン樹脂の融解熱量」を、「前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量」に減縮するものである。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 同様に、訂正後の請求項1の記載を引用する訂正後の各請求項についても、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2に関し、本件訂正後の請求項1の記載において、「融解熱力」が、「前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる」ものであることは、願書に添付した明細書の【0027】、【0054】、【0061】等に記載された事項の範囲内のものである。 よって、訂正事項2は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、上記ア及びイのとおり、明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、訂正事項2は、訂正後の請求項2、4~6に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項1において、「融解熱量」について、「35J/g以上」と特定していたところ、「37J/g以上」と、下限値を大きくし、融解熱量の範囲を狭めるものである。すなわち訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 同様に、訂正後の請求項1の記載を引用する訂正後の各請求項についても、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3について、本件訂正後の請求項1の記載において、「融解熱量」が「37J/g以上」であることは、願書に添付した明細書の【0026】、【0063】の表1に記載された事項の範囲内のものである。 よって、訂正事項2は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、上記ア及びイのとおり、明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、訂正事項3は、訂正後の請求項2、4~6に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4は、本件訂正前の請求項1において、「ポリプロピレン樹脂」について、「ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンの少なくとも一方を含む」と特定していたところ、「ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む」との記載により、2種のポリプロピレン樹脂をともに含む形態に限定するものである。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 同様に、訂正後の請求項1の記載を引用する訂正後の各請求項についても、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4について、本件訂正後の請求項1の記載において、「ポリプロピレン樹脂」を「ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む」ものとすることは、願書に添付した明細書の【0038】、【0063】の表1等に記載された事項の範囲内のものである。 よって、訂正事項4は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、上記ア及びイのとおり、明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、訂正事項4は、訂正後の請求項2、4~6に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、請求項3を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また、訂正事項5は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 また、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、上記訂正事項5による請求項3の削除に対応して、訂正前の請求項4~6において訂正前の請求項3を引用している記載を削除するというものである。よって、当該訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項6は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 また、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (7)特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、訂正前のすべての請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課されない。 (8)小括 以上のとおり、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1、2、4~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」…「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 1 本件発明1(請求項1) 電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、 前記絶縁被覆は、ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分と、金属水酸化物を含む難燃剤と、を含有する樹脂組成物より構成され、 前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量が、37J/g以上であり、 前記高分子成分の分子量分布において、最も面積が大きいピークから求めた数平均分子量が5.00×104以上であり、 前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む、絶縁電線。 2 本件発明2(請求項2) 前記高分子成分の分子量分布において、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比として求められる多分散度Mw/Mnが、最も面積が大きいピークで、5.90以上である、請求項1に記載の絶縁電線。 3 本件発明4(請求項4) 前記高分子成分は、熱可塑性エラストマーをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。 4 本件発明5(請求項5) 前記金属水酸化物は、水酸化マグネシウムである、請求項1、請求項2、請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。 5 本件発明6(請求項6) 前記絶縁被覆の表面の算術平均粗さRaが、3.00μm以下である、請求項1、請求項2、請求項4、請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。 第4 特許異議の申立ての理由の概要及び証拠方法 1 特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由(申立理由)の概要は次のとおりのものと認められる。 (1)申立理由1(新規性欠如、進歩性欠如) 本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条2項の規定により特許を受けることができるものではなく、本件特許は、特許法第113条1項2号に該当し、取消とすべきである。 (2)申立理由2(実施可能要件違反) 発明の詳細な説明は、以下の理由により、当業者が本件特許の請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第113条第1項第4号に該当し、取消とすべきである。 ([補足] 特許異議申立書の第15ページには、「(4-3)申立理由2(サポート要件違反)」と記載されているが、同第3ページの記載「(1-2)申立理由2(実施可能要件違反)」、同第17ページの記載「実施可能要件を充足しないことは明らか」、同18ページの記載「本件特許は法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず」と記載されていること、令和6年10月11日提出の意見書第4ページの記載「依然として実施可能要件を充足していない」からすれば、上記第15ページの上記記載のうち、「サポート要件違反」は「実施可能要件」の誤記と認められる。) 2 証拠方法 申立人は、証拠として、以下の文献を提出している。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証ないし甲第5号証をそれぞれ、「甲1」ないし「甲5」という場合がある。 甲1:特開2011-16885号公報 甲2:特開2002-348417号公報 甲3:特開2019-94481号公報 甲4:特開2008-239901号公報 甲5:JSR Technical Review No.110/2003 なお、特許異議申立書の全趣旨によれば、甲1~甲4は、申立理由1の証拠であり、甲5は、申立理由2の証拠である。 第5 取消理由の概要 当審が令和6年5月23日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [理由1] 請求項1ないし6に係る「融解熱量」を測定する対象として発明の詳細な説明に記載されている「絶縁被覆を構成する樹脂組成物」は、 (a)絶縁被覆そのもの(難燃剤等、高分子成分以外の成分をさらに含有した樹脂組成物全体) (b)絶縁被覆のうち、高分子成分の部分 (c)絶縁被覆のうち、ポリプロピレン樹脂の部分 のいずれであるのか不明であり、 (a)の場合、高分子成分の100質量部に対して、難燃剤(水酸化マグネシウム)70質量部等の高分子成分以外の成分を含む試料の「融解熱量」から、高分子成分の一部であるポリプロピレン樹脂の「融解熱量」を特定する手法は、本願出願時における技術常識とはいえず、当業者といえども過度の試行錯誤を要することなくポリプロピレン樹脂の「融解熱量」を特定することが困難であるため、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし6に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 [理由2] 発明の詳細な説明には、ポリプロピレン樹脂の「融解熱量」の下限値が「35J/g」であるとの根拠が記載されていないから、ポリプロピレン樹脂の「融解熱量」の下限値を「35J/g」とする請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし6に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 [理由3] 発明の詳細な説明には、「ホモポリプロピレン」又は「ブロックポリプロピレン」のいずれか一方のみからなる「ポリプロピレン樹脂」が課題を解決することができるものであることの根拠(実施例)は記載されていないから、「ポリプロピレン樹脂」が、「ホモポリプロピレン」又は「ブロックポリプロピレン」のいずれか一方のみからなる場合を含む請求項1、2、4ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、2、4ないし6に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 第6 当審の判断 1 請求項3に係る特許について 上記第2のとおり、本件訂正によって請求項3が削除されたことにより申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、本件特許の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 2 取消理由について (1)理由1について 本件発明1の「電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆は、ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分と、金属水酸化物を含む難燃剤と、を含有する樹脂組成物より構成され、前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量、37J/g以上であり、…絶縁電線」との記載によれば、「融解熱量」は、「絶縁電線」における「電線導体の外周を被覆する絶縁被覆」を前提とした「絶縁被覆を構成する樹脂組成物」に対する「示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる」ものであること、すなわち、「融解熱量」の測定対象が、「絶縁電線」において「電線導体の外周を被覆する絶縁被覆」を構成する「樹脂組成物」(難燃剤等、高分子成分以外の成分をさらに含有した樹脂組成物全体)であることが明確となり、また、「示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定」によって「電線導体の外周を被覆する絶縁被覆」を構成する「樹脂組成物」について「ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量」を求める手法については、明細書の【0027】~【0030】、【0054】、【0061】に明確かつ十分に記載されているといえる。 (2)理由2について 本件発明1の記載において、「融解熱量」が「37J/g以上」であることは、明細書の【0026】、【0063】の表1に記載されており、よって、発明の詳細な説明は、当業者が、そのような「融解熱量」を有する「前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物」を作成(実施)できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 (3)理由3について 本件発明1の「前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む」との記載によれば、本件発明1に係る「ポリプロピレン樹脂」は、「ホモポリプロピレン」と「ブロックポリプロピレン」のいずれか一方のみからなる構成は含まれないため、理由3は該当しない。 以上のとおりであるから、取消理由はいずれも解消した。 3 特許異議申立ての理由について (1)証拠について ア 甲第1号証について (ア)甲第1号証の記載事項 甲1には、次の事項が記載されている。 「【0008】 本発明が解決しようとする課題は、フィラーを添加した場合でも、耐寒性を維持しつつ、耐摩耗性を向上させることが可能な樹脂組成物を提供することにある。また、上記樹脂組成物を被覆材に用いた絶縁電線を提供することにある。」 「【0022】 以下、本発明の実施形態に係る樹脂組成物(以下、「本組成物」ということがある。)、本発明の実施形態に係る絶縁電線(以下、「本電線」ということがある。)について詳細に説明する。 【0023】 本組成物は、少なくとも1種以上のポリオレフィン系樹脂とフィラーとを含有している。ここで、本組成物において、少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂は、官能基が導入されており、かつ、メルトフローレート(MFR)が190℃で50g/10分以下である。なお、上記MFRは、温度190℃、荷重2.16kgにて測定した値である。上記MFRの値は、本組成物の耐摩耗性の向上に関係する物性として重要である。」 「【0026】 本組成物中に含まれるポリオレフィン系樹脂は、官能基が導入されているもの、官能基が導入されていないものいずれも、例えば、ポリプロピレン、プロピレン共重合体、ポリエチレン、エチレン共重合体等を例示することができる。上記ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等を例示することができる。プロピレン共重合体としては、エチレン、ビニルアセテート、アクリル酸等の単量体とプロピレンとの共重合体等を例示することができる。エチレン共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等を例示することができる。」 「【0041】 本組成物に対して難燃性を付与する場合、上記フィラーは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物を主成分とする難燃剤を好適に用いることができる。 【0042】 上記金属水酸化物のうち、難燃性、コスト、ハンドリング性などの観点から、水酸化マグネシウムが好ましい。水酸化マグネシウムは、天然鉱物から得られるものであっても良いし、海水中のマグネシウム成分から得られるものであっても良い。」 「【0057】 (実施例および比較例) 表1および表2に記載の配合割合(質量部)となるように、各種ポリプロピレン、水酸化マグネシウム、酸化防止剤を加え、二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを押出成形機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積:0.5mm2)の外周に0.2mm厚で押し出し、絶縁電線を得た。」 「【0059】 …(中略)… ・無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa: ホモポリプロピレン(サンアロマー社製「PL500A」、未変性)100質量部と、無水マレイン酸3質量部と、重合開始剤(日本油脂社製「パーブチルD」)0.3質量部とを配合し、210℃にてグラフト反応させ、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンaを作製した。」 「【0064】 【表1】 [図:0001418244000001.jpg] 【0065】 【表2】 [図:0001418244000002.jpg] 」 (イ)甲1発明 特許異議申立書の全趣旨からして、申立人は、甲1に記載された発明を、甲1の表2に記載された「比較例1」に基づいて認定している。 そして、甲1の【0056】の記載によれば、甲1の【0065】の「比較例1」は、「各種ポリプロピレン、水酸化マグネシウム、酸化防止剤を加え、」「混合し」「成形し」た「樹脂組成物のペレット」を「押出成形機により、軟銅撚線の導体」「の外周に0.2mm厚で押し出し」て「得た」「絶縁電線」に関する発明であると認められる。 よって、甲1の【表2】から看て取れる「比較例1」の構成と、上記(ア)で摘記した事項を参酌すれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が、記載されているといえる。 「 各種ポリプロピレン、水酸化マグネシウム、酸化防止剤を加え、混合し成形した樹脂組成物のペレットを押出成形機により、軟銅撚線の導体の外周に0.2mm厚で押し出して得た絶縁電線であって、 前記樹脂組成物のペレットは、 40質量部の、メルトフローレート(MFR)が0.5g/10分のブロックポリプロピレン(EC7)と、 ホモポリプロピレン(サンアロマー社製「PL500A」、未変性)100質量部と、無水マレイン酸3質量部と、重合開始剤(日本油脂社製「パーブチルD」)0.3質量部とを配合し、210℃にてグラフト反応させて作製した、10質量部の、MFRが70g/10分の無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンaと、 49質量部の、難燃剤としての水酸化マグネシウム(キスマ5A)と、 1質量部の、酸化防止剤(イルガノックス1010)と、 を含む、 絶縁電線。」 イ 甲第2号証について 甲2には、次の事項が記載されている。 「【0149】 【実施例】以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらによって限定されない。用いた成分は以下の通りである。 PP-1 荷重2.16kg下での230℃におけるMIが2.8g/10min、JISK7121に準拠して示差走査熱量計(DSC)で測定して得られる結晶の融解に基づくピーク位置(融点)が144.1℃、JISK7122に準拠して示差走査熱量計(DSC)で測定して得られる結晶の融解熱量が83.9J/gの、エチレン単位3重量%を含むプロピレン-エチレンランダム共重合体樹脂。 PP-2 荷重2.16kg下での230℃におけるMIが1.5g/10min、JISK7121に準拠して示差走査熱量計(DSC)で測定して得られる結晶の融解に基づくピーク位置(融点)が134.9℃、JISK7122に準拠して示差走査熱量計(DSC)で測定して得られる結晶の融解熱量が59.6J/gの、エチレン単位5重量%を含むプロピレン-エチレンランダム共重合体樹脂。」 ウ 甲第3号証について 甲3には、次の事項が記載されている。 【0019】 <樹脂改質剤(K)の製造法> 本発明の樹脂改質剤(K)の製造方法は、好ましくは、数平均分子量(Mn)が40,000~400,000のポリオレフィン(A0)を、300~450℃で熱減成した後、200~270℃で炭素数6~12の炭化水素(B)を留去する工程を有するものである。」 「【0036】 <実施例11~23、比較例11~17> 得られた樹脂改質剤(K)、市販のポリプロピレン(E-1)[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製、Mn300,000]、市販のポリエチレン(E-2)[商品名「UBEポリエチレンF222」、宇部丸善ポリエチレン(株)製、Mn250,000]および市販のエチレン/プロピレン共重合体(E-3)[商品名「サンアロマーPM472W」、サンアロマー(株)製、Mn300,000]を、表2の配合組成(部)に従って、それぞれヘンシエルミキサー[商品名「ヘンシエルミキサーFM150L/B」、三井鉱山(株)、社名変更後は日本コークス工業(株)製]で3分間ブレンドした後、ベント付き2軸押出機にて、180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して各熱可塑性樹脂組成物(Y)を得た。 得られた各熱可塑性樹脂組成物(Y)について、後述の評価方法に従って評価した。結果を表2に示す。」 エ 甲第4号証について 甲4には、次の事項が記載されている。 「【0025】 (c)変性スチレン系熱可塑性エラストマー: 本発明の難燃性樹脂組成物を構成する変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーを不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性したものである。かかる変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記の(b)特定構造のエチレン・酢酸ビニル共重合体と併用することにより、樹脂組成物の機械的特性や耐摩耗性を向上させる。 【0026】 使用可能なスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。」 オ 甲第5号証について 甲5には、次の事項が記載されている。 「表2にPP/SEBSブレンドの物性評価結果をまとめて示した。」 「 [図:0001418244000003.jpg] 」 (2)申立理由1(新規性欠如、進歩性欠如)について 0ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 a 甲1発明の「軟銅撚線の導体」は、本件発明1の「電線導体」に相当する。 甲1発明は、「樹脂組成物のペレットを押出成形機により、軟銅撚線の導体の外周に0.2mm厚で押し出して得た絶縁電線」であるから、当該「絶縁電線」においては、「押出成形機」により「樹脂組成物のペレット」が押し出され成形された状態のものが、「軟銅撚線の導体」の外周を“被覆”しているといえる。また、「樹脂組成物」は絶縁体であるところ、「押出成形機」により「樹脂組成物のペレット」が押し出され成形された状態のものは“絶縁被覆”といい得るものである。(この「押出成形機」により「樹脂組成物のペレット」が押し出され成形された状態のものを、以下、「甲1絶縁被覆」という。) そうすると、甲1発明において、甲1絶縁被覆は、本件発明1の「前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆」に相当する。 そうすると、甲1発明における「絶縁電線」は、本件発明1の「電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有」する「絶縁電線」に相当する。 b 甲1発明における「樹脂組成物のペレット」は、「ブロックポリプロピレン(EC7)」と「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa」とを含むところ、甲1絶縁被覆が、“ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分”を含有することは自明である。 甲1発明における「樹脂組成物のペレット」は、「難燃剤としての水酸化マグネシウム(キスマ5A)」を含むところ、甲1絶縁被覆が、“金属水酸化物を含む難燃剤”を含有することは自明である。 そして、甲1発明において、甲1絶縁被覆は、ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分”を含有するものである以上、樹脂組成物より構成されたものであるといえる。 よって、甲1発明に係る「絶縁電線」は、本件発明1の「前記絶縁被覆は、ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分と、金属水酸化物を含む難燃剤と、を含有する樹脂組成物より構成され」たものであるとの構成を有しているといえる。 c 甲1発明における「樹脂組成物のペレット」は、「ブロックポリプロピレン(EC7)」と「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa」とを含むところ、甲1絶縁被覆が、ポリプロピレン樹脂として「ホモポリプロピレン」と「ブロックポリプロピレン」を含むものと認められる。 よって、甲1発明に係る「絶縁電線」は、本件発明1の「前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む」との構成を有しているといえる。 d 甲1発明における「絶縁電線」は、後述する相違点を除いて、本件発明1の「絶縁電線」に相当する。 (イ)一致点、相違点 よって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点において一致ないし相違する。 [一致点] 電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、 前記絶縁被覆は、ポリプロピレン樹脂を含む高分子成分と、金属水酸化物を含む難燃剤と、を含有する樹脂組成物より構成され、 前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンを含む、絶縁電線。 [相違点] ・相違点1 本件発明1は、「前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量が、37J/g以上であり」との構成を備えるのに対し、甲1発明は、「融解熱量」について具体的に特定していない点。 ・相違点2 本件発明1は、「前記高分子成分の分子量分布において、最も面積が大きいピークから求めた数平均分子量が5.00×104以上であり」との構成を備えるのに対し、甲1発明は、「数平均分子量」について具体的に特定していない点。 (ウ)相違点についての判断 a 相違点1について 甲1発明は、「樹脂組成物のペレット」の組成については具体的に特定しているが、甲1絶縁被覆(「押出成形機」により「樹脂組成物のペレット」が押し出され成形された状態のもの)の組成及び性質を具体的に特定するものではない。 そして、ポリプロピレンの(融解熱量に対応している)結晶化度は、押出成形の条件(温度、冷却の速度等)に応じて異なることは本願出願時における技術常識であるところ、甲1絶縁被覆の「ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量」が自明なものとはいえない。 さらに、甲1発明は、「樹脂組成物のペレット」として、「ホモポリプロピレン(サンアロマー社製「PL500A」、未変性)100質量部と、無水マレイン酸3質量部と、重合開始剤(日本油脂社製「パーブチルD」)0.3質量部とを配合し、210℃にてグラフト反応させて作製した、10質量部の、MFRが70g/10分の無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa」を含むところ、甲2~甲4のいずれも、「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa」に関するものではない。よって、当業者といえども、組成の異なる甲2~甲4に記載された技術事項を参照し、甲1発明における「融解熱量」を推測することが自明ないし容易であるとはいえない。 以上より、相違点1は、実質的な相違点であり、また、当業者といえども甲2~甲4に記載された技術事項から相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たものとはいえない。 b 相違点2について 甲1発明は、「樹脂組成物のペレット」の組成については具体的に特定しているが、甲1絶縁被覆(「押出成形機」により「樹脂組成物のペレット」が押し出され成形された状態のもの)の組成及び性質を具体的に特定するものではない。 そして、ポリプロピレンの分子量は、押出成形の条件(温度、冷却の速度等)に応じて異なることは本願出願時における技術常識であるところ、甲1絶縁被覆の「高分子成分の分子量分布において、最も面積が大きいピークから求めた数平均分子量」が自明なものとはいえない。 さらに、甲1発明は、「樹脂組成物のペレット」として、「ホモポリプロピレン(サンアロマー社製「PL500A」、未変性)100質量部と、無水マレイン酸3質量部と、重合開始剤(日本油脂社製「パーブチルD」)0.3質量部とを配合し、210℃にてグラフト反応させて作製した、10質量部の、MFRが70g/10分の無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa」を含むところ、甲2~甲4のいずれも、「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンa」に関するものではない。よって、当業者といえども、組成の異なる甲2~甲4に記載された技術事項を参照し、甲1発明における「数平均分子量」を推測することが自明ないし容易であるとはいえない。 以上より、相違点2は、実質的な相違点であり、また、当業者といえども甲2~甲4に記載された技術事項から相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たものとはいえない。 c 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、甲1発明における「ポリプロピレン樹脂」を、「甲1には、ブロックポリプロピレンと無水マレイン酸変性ホモポリプロピレンaと水酸化マグネシウムと酸化防止剤とを含む樹脂組成物(比較例1)を用いて導線被覆した絶縁電線が記載されている。」と認定しているものの、甲1発明の構成としては、「前記ポリプロピレン樹脂は、前記ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンの少なくとも一方を含む」と上位概念化して認定している(特許異議申立書第10ページ)ため、その前提において妥当ではない。 そして、申立人の主張は、上位概念化して認定した甲1発明に基づくものであるので、いずれも採用することができない。 (エ)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、また、当業者が甲1発明に基いて甲2~甲4に記載された技術事項を参酌することにより容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立理由2(実施可能要件違反)について ア 申立人の主張 申立人は、申立理由2について、概略、次の主張をしている。 (ア)特許異議申立書における主張 甲第5号証に記載されているように、ポリプロピレンの融解熱量と、ポリプロピレンと他の高分子成分を含有する組成物の融解熱量とは異なることは本願出願時における周知技術であるところ、本件発明1における「ポリプロピレン樹脂の融解熱量が、35J/g以上」であることについて、明細書には、実施例における樹脂組成物と異なる組成の樹脂組成物であっても、所定の融解熱量を有するポリプロピレン樹脂を使用し、かつ、所定の数平均分子量を有する高分子成分を含んでいれば、同様に課題が解決し得ることについて十分な説明が成されていない。 (イ)意見書における主張 a 他の高分子成分が含まれていてもそのDSC曲線が既知である場合には、ポリプロピレンに由来する融解熱量を算出することが可能であるが、本件発明1において、樹脂組成物がポリプロピレン樹脂を含む高分子成分を含有することのみが特定されており、結晶を形成する樹脂を含まないこと、及び、結晶を形成しない熱可塑性エラストマーを含むことが特定されていない。 b ポリプロピレンのような結晶性の高分子は、成形条件が結晶化度に大きく影響を及ぼすが、甲1発明の「樹脂組成物」は、絶縁電線に成形する前のものであるのか後のものであるのか特定されておらず、前者の場合、成形条件を特定していない。 イ 上記主張についての判断 (ア)上記ア(ア)の主張について 本件訂正により、本件発明1は、「前記絶縁被覆を構成する前記樹脂組成物に対する示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量が、37J/g以上」であるように特定されており、絶縁電線を構成する樹脂組成物が他の高分子成分を含んでいても、「融解熱量」は「示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピーク」から求められるものであることが明確となった。 また、明細書には、表1及び表2に記載されているように、「示差走査熱量計を用いた加熱による転移熱の測定において、前記ポリプロピレン樹脂の結晶構造に由来する融解ピークから求められる融解熱量が37J/g以上」である場合に、課題を解決できることが記載されている。 (イ)上記ア(イ)aの主張について 明細書(特に、表1、表2)には、実施例として、結晶を形成する樹脂を含むもの、及び、結晶を形成する熱可塑性エラストマーを含むものは、記載されていない。 また、本件発明1には、「融解熱量」が「37g/J以上」と特定されているため、当該「融解熱量」を求めることができない樹脂組成物等はそもそも排除されていることは明らかである。 (ウ)上記ア(イ)bの主張について 本件発明1は、その記載から、「融解熱量」の測定対象が、「絶縁電線」において「電線導体の外周を被覆する絶縁被覆」を構成する「樹脂組成物」(難燃剤等、高分子成分以外の成分をさらに含有した樹脂組成物全体)であることが明確である。 また、このことは、本件発明が解決しようとする課題は、「高い耐摩耗性および耐低温性を有する絶縁電線を提供すること」(【0006】)であること、及び、明細書の実施例において、試料の作製の前提として「絶縁電線を作製した。」(【0052】)と記載されていることからしても明らかである。 よって、本件発明における「樹脂組成物」は、絶縁電線に成形する前のものは含まれていない。 以上のとおりであるから、申立人の上記各主張はいずれも採用しない。 第7 むすび 上記第6のとおり、本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1、2及び4ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項3が本件訂正により削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

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2024-700325

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