特許異議申立
2025-700003
接合体及びパワーモジュール
- 審判番号
- 2025-700003
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-516525
- 登録番号
- 7510582
- 請求日
- 2024年12月20日
- 審決日
- 2025年11月05日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【権利者代理人】石坂 泰紀
- 【異議申立人】関 豊美子
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 松永 稔
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7510582号発明「接合体及びパワーモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7510582号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7510582号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7510582号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和5年11月15日(優先権主張 令和4年11月25日)に国際出願され、令和6年6月25日にその特許権の設定登録がされ、令和6年7月3日に特許掲載公報が発行され、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年12月20日 :特許異議申立人 関 豊美子(以下「申立
人」という。)による特許異議の申立て
令和7年 2月21日付け:取消理由通知書
令和7年 4月23日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和7年 5月12日付け:申立人に対する通知書
令和7年 6月10日 :申立人による意見書の提出
令和7年 6月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 8月20日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和7年 9月 3日付け:申立人に対する通知書
令和7年9月3日付けの通知書に対応する申立人による意見書の提出はなかった。
なお、令和7年4月23日にした訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定によって、令和7年8月20日に訂正請求をしたことにより取り下げられたものとみなす。
特許異議申立人が提出した甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲5」という。)は、次のとおりである。
甲1:特開2014-73937号公報
甲2:特開2003-192445号公報
甲3:特開2006-19494号公報
甲4:チャールズ キッテル著、宇野ら訳、「第5版 固体物理学入門
(上)」、丸善株式会社、昭和53年11月30日発行、196ペ
ージ
甲5:特許第6135487号公報
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求は、特許第7510582号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「1.9%以下であり、」と記載されているのを、「0.5~1.9%であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~8も同様に訂正する。下線は訂正請求書の記載のとおり。)
(2) 一群の請求項、及び独立特許要件について
ア 訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
イ 本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1~8が特許異議申立の請求の対象とされているので、訂正前の請求項1~8に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値の範囲を「1.9%以下」から「0.5~1.9%」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、上記アのとおり、窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値の範囲を減縮するものであり、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面等(以下「本件明細書等」という。)の段落0024の「本実施形態の接合体において、セラミック板の厚さ方向に沿うようにしてセラミック板を切断して得られる切断面のうち、金属板の側部における外縁の直下を含み、セラミック板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値は2.0%以下である。当該領域における面積比率の平均値は、1.9%以下、1.8%以下、1.7%以下、1.6%以下、1.5%以下、1.4%以下、又は1.3%以下であってよい。このように当該領域における面積比率の平均値が小さいセラミック板を備える接合体は、高温における絶縁信頼性に十分に優れる。当該領域における面積比率の平均値は、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、又は0.8%以上であってよい。当該領域における面積比率の平均値の範囲の一例は、0.1~1.9%である。」(下線は当審において付加した。)との記載に基づくから、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
3 まとめ
上記のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正請求による訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~8に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線は、訂正特許請求の範囲の記載のとおり。)
「【請求項1】
窒化ケイ素板と、金属板と、前記窒化ケイ素板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備え、
前記窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして前記窒化ケイ素板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%であり、
前記切断面の前記領域に含まれる前記気孔の円相当径の最大値が10μm以下である、
接合体。
【請求項2】
前記窒化ケイ素板の厚みが0.2mm以上である、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記金属板の厚みが0.5mm以下である、請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
バンドギャップが1.12eVを超える半導体材料で構成される半導体素子が搭載される回路基板である、請求項1に記載の接合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載に接合体と、当該接合体の前記金属板と電気的に接続される半導体素子と、を備えるパワーモジュール。
【請求項6】
前記半導体素子を構成する半導体材料のバンドギャップが1.12eVを超える、請求項5に記載のパワーモジュール。
【請求項7】
前記窒化ケイ素板の厚みが0.35mm以下である、請求項5に記載のパワーモジュール。
【請求項8】
前記接合体における前記金属板の厚みが0.3mm以上である、請求項5に記載のパワーモジュール。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和7年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(新規性欠如)
本件発明1、2、5、7についての、甲2を引用文献とした新規性欠如
2 取消理由2(進歩性欠如)
本件発明1~8についての、甲2を主たる引用文献とし、甲3を従たる引用文献とする進歩性欠如
第5 当審の判断
1 引用発明
(1) 甲2の記載
甲2には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のように、特に焼結体の高密度化を図るために雰囲気加圧焼結法などを採用した場合においても、焼結体中に発生する気孔(ポア)を完全に消滅させることは困難であった。
【0008】そのため、焼結体中に形成された気孔によって誘電損失が大きくなり、回路基板として用いた場合にリーク電流が発生し易くなり絶縁性が低下する一方、加工時に脱粒が生じ易く焼結体の表面粗さが大きくなり、焼結体表面に薄膜を形成した場合において薄膜の膨れや剥離が発生し電子機器の耐久性および動作の信頼性を大幅に低下させる問題点があった。
・・・(中略)・・・
【0013】上記要請に対応するため、本発明者らは、例えば特開平9-69594号公報や特開2000-34172号公報に示されるように、焼結体の組成、組織等を改善することにより、機械的強度および熱伝導率が共に優れた窒化けい素焼結体を開発した。しかしながら、従来の窒化けい素焼結体においては、結晶粒界相に存在する気孔のサイズが直径1μm程度に大きくなり易く、しかもその気孔を完全に消滅させることが困難であるという欠点があった。そして、電圧印加時に、この気孔部分を介して電流リークが発生し易いという問題点があった。したがって、このような焼結体においては、絶縁性が低下するため半導体用基板としては未だ充分とは言えないという課題があった。
【0014】本発明は上記のような課題要請に対処するためになされたものであり、窒化けい素焼結体が本来備える高強度特性に加えて、特に基板を構成する焼結体中に実質的に気孔(ポア)が形成されず、また表面粗さが小さいために、加工時に脱粒が生じにくく、さらにこの薄い窒化けい素基板を用いて各種パワーモジュールや回路基板を構成した場合でもリーク電流量を効果的に抑制することができ、さらに基板表面に薄膜を形成した場合においても薄膜の膨れや剥離を防止でき、電子機器に使用した場合においても、その絶縁性、耐久性および動作の信頼性を大幅に向上させることが可能な窒化けい素基板、その製造方法およびそれを用いた薄膜付き窒化けい素基板を提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【0034】また、本発明に係る窒化けい素基板の厚さは、特に限定されないが、0.4mm以下と薄くすることも可能である。本発明の窒化けい素基板は実質的に気孔が存在しないように緻密に形成されているため、機械的強度が高く、厚さが0.1~0.4mmと薄く形成した場合においても、リーク電流が少なく優れた絶縁性を示す。また、薄く形成できるために、熱抵抗も小さく、基板自身の高熱伝導性とも相まって、窒化けい素基板の放熱性を相乗的に改善できる。
・・・(中略)・・・
【0042】また、上記窒化けい素基板において、さらに、気孔率は検出限界以下であって容量比で0.01%未満(実質的には0.009%以下)であり、全酸素量が3.5質量%以下であることが好ましい。またTi,Zr,W,Mo,Ta,Nb,V,Crからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して2質量%以下含有することが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0048】上記製造方法によれば、特に焼結後に焼結体を所定条件下で熱間静水圧(HIP)処理しているため、気孔率が0.01%未満と検出限界以下であって基板を構成する焼結体中に実質的に気孔(ポア)が形成されない窒化けい素基板が得られる。また、好適には表面粗さRaが0.5μm以下と小さく表面性状に優れ、窒化けい素結晶組織中に希土類元素等を含む粒界相が形成され、その粒界相の最大径が1.5μm以下である窒化けい素基板が得られる。さらに好適には、温度25℃で湿度が70%の条件下で1.5kV-100Hzの交流電圧を印加した際のリーク電流値が100nA以下であり、好適には全酸素量が3.5質量%以下であり、熱伝導率が50W/m・K以上、三点曲げ強度が室温で500MPa以上であり、破壊靭性値が6.5MPa・m1/2以上であるように絶縁特性、機械的特性および熱伝導特性が共に優れた窒化けい素基板が得られる。
・・・(中略)・・・
【0096】上記窒化けい素基板をレーザーダイオード等のサブマウント材やパワーモジュールや回路基板として使用する場合は、窒化けい素基板上に薄膜や金属回路板を一体に接合して設け、薄膜付き窒化けい素基板や窒化けい素回路基板として用いることになる。上記薄膜としては、Tiなどの金属薄膜が用いられる。この金属薄膜の厚さは3μm以下の範囲が好適である。
【0097】特に、本発明の窒化けい素基板は気孔が実質的に存在していない(検出限度以下)ことから、厚さ3μm以下と薄い金属薄膜を設けた際に、耐熱サイクル(TCT)試験を施したとしても金属薄膜の膨れの原因となる気泡の発生や粒界相の熱膨張が起き難いので金属薄膜の信頼性が大幅に向上する。言い換えれば、金属薄膜を設けた窒化けい素基板として特に有効なものである。
【0098】また、金属回路板としては、銅、アルミニウムまたはその合金(銅合金、Al合金)などの、電気伝導性が高い金属または合金を用いることが好ましい。金属回路板を接合する方法についても、直接接合法や活性金属法など様々な方法が適用可能である。
・・・(中略)・・・
【0102】比較例1
比較例1として、焼結後の熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施しない点以外は実施例1と同一条件で処理することにより比較例1に係る窒化けい素基板を調製した。
【0103】こうして得られた実施例1~7および比較例1に係る各窒化けい素基板について、表面粗さ、粒界相の最大径、気孔率、気孔の有無およびリーク電流値を測定して表1に示す結果を得た。
・・・(中略)・・・
【0107】
【表1】
[図:0001432059000001.jpg]
」
(2) 甲2発明1
上記(1)によると、甲2には次の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されているといえる。(括弧内は引用元の段落番号等を示す。)
「窒化けい素基板上に金属回路板を一体に接合して設けた、パワーモジュールとして使用する窒化けい素回路基板(段落0096)であって、
活性金属法により金属回路板が接合され(段落0098)、
窒化けい素基板は実質的に気孔が存在しないように緻密に形成され(段落0014、0034)、
上記窒化けい素基板において、気孔率は検出限界以下であって容量比で0.01%未満(実質的には0.009%以下)(段落0042)であり、
焼結体中に形成された気孔によって絶縁性が低下し、信頼性を大幅に低下させるとの問題点(段落0008)を解決する、
窒化けい素回路基板。」
(3) 甲2発明2
上記(1)の段落0102~0103の記載、及び段落0107の表1によると、甲2には、比較例1として次の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されているといえる。
「窒化けい素基板上に金属回路板を一体に接合して設けた、パワーモジュールとして使用する窒化けい素回路基板(段落0096)であって、
活性金属法により金属回路板が接合され(段落0098)、
上記窒化けい素基板において、気孔率は容量比で0.3%(表1)である、
窒化けい素回路基板。」
2 対比・判断
(1) 本件発明1
ア 甲2発明2との対比・判断
(ア) 対比
本件発明1と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2の「窒化けい素基板」、「金属回路板」は、それぞれ本件発明1の「窒化ケイ素板」「金属板」に相当する。
また、活性金属法は、ろう付けによる接合方法であるから、甲2発明2においても、窒化けい素基板の主面と金属回路板の主面とを接合するろう材層が存在することは明らかである。
そうすると、甲2発明2は、「窒化ケイ素板と、金属板と、前記窒化ケイ素板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える接合体。」といえる点で、本件発明1と一致する。
したがって、本件発明1と甲2発明2とは、以下の点で一致し、相違する。
a 一致点
「窒化ケイ素板と、金属板と、前記窒化ケイ素板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える接合体。」
b 相違点A
本件発明1が、窒化ケイ素板の気孔について、「前記窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして前記窒化ケイ素板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%であり、
前記切断面の前記領域に含まれる前記気孔の円相当径の最大値が10μm以下である」ことを特定しているのに対し、甲2発明2は、窒化けい素基板の気孔について、「気孔率は容量比で0.3%」であることを特定している点(以下「相違点A」という。)。
(イ) 相違点Aの検討
a 面積率が体積率に等しいとする場合
令和7年4月23日付け意見書4ページ下から5~下から4行において特許権者が主張する「切断面観察で得られる面積率は、体積率に等しい」との、一般的に成り立つステレオロジカルな関係によると、「気孔率は容量比で0.3%」である甲2発明2の気孔の面積比率は0.3%であるから、本件発明1の「気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%」との範囲の下限より小さい。
そして、甲2には、段落0014に記載されているように基板を構成する焼結体中に実質的に気孔(ポア)が形成されないよう、より具体的には、段落0048に記載されているように気孔率を検出限界以下であって容量比で0.01%未満(実質的には0.009%以下)とすることにより課題を解決することが記載されているから、0.3%である甲2発明2の気孔の面積比率を、それよりも大きな0.5~1.9%とすることには、阻害要因が存在する。
b 面積比率を2/3乗換算で算出する場合
甲2発明2の容量比での気孔率0.3%を、面積と体積の次元の関係に基づき2/3乗することで換算した面積比率は、約2.08%であり、本件発明1の「気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%」との範囲の上限より大きい。
ここで、甲2には、段落0008に記載された、焼結体中に形成された気孔による、誘電損失、絶縁性、耐久性、及び動作の信頼性についての課題を、段落0048に記載された、「気孔率が0.01%未満と検出限界以下であって基板を構成する焼結体中に実質的に気孔(ポア)が形成されない窒化けい素基板」を得ることによって解決することが記載され、0.01%の気孔率を2/3乗することで換算した気孔の面積比率は約0.215%である。
そして、甲2発明2の気孔率を適宜決定し得たとしても、甲2に記載された事項に基づけば約0.215%未満とすることが妥当であり、これを超える「0.5~1.9%」とすることには阻害要因が存在する。
c したがって、相違点Aは実質的なものであるから、本件発明1は、甲2発明2ではなく、また、相違点Aは当業者が容易に想到できたものではないから、本件発明1は、甲2発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
イ 甲2発明1との対比・判断
(ア) 対比
上記ア(ア)と同様に、本件発明1と甲2発明1とを対比すると、本件発明1と甲2発明1とは次の点で一致し、相違する。
a 一致点
「窒化ケイ素板と、金属板と、前記窒化ケイ素板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える接合体。」
b 相違点B
本件発明1が、窒化ケイ素板の気孔について、「前記窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして前記窒化ケイ素板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%であり、
前記切断面の前記領域に含まれる前記気孔の円相当径の最大値が10μm以下である、」であることを特定しているのに対し、甲2発明1は、窒化けい素基板の気孔について、「気孔率は検出限界以下であって容量比で0.01%未満(実質的には0.009%以下)」であることを特定している点。(以下「相違点B」という。)
(イ) 相違点Bの検討
甲2発明1の気孔率は、上記ア(イ)aのように考えた場合は「0.01%未満」であり、上記ア(イ)bのように考えた場合は「0.215%未満」である。そうすると、そのいずれであっても本件発明1の「気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%」との範囲の下限より小さい値未満とされている。
そして、甲2には、段落0014に記載されているように基板を構成する焼結体中に実質的に気孔(ポア)が形成されないよう、より具体的には、段落0048に記載されているように気孔率を検出限界以下であって容量比で0.01%未満(実質的には0.009%以下)とすることにより課題を解決することが記載されているから、甲2発明1の気孔の面積比率を、それよりも大きな0.5~1.9%とすることには、阻害要因が存在する。
したがって、相違点Bは実質的なものであるから、本件発明1は、甲2発明1ではなく、また、相違点Bは当業者が容易に想到できたものではないから、本件発明1は、甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
(2) 本件発明2~8
本件発明2~8は、いずれも本件発明1の構成をすべて含むから、本件発明1と同様に、甲2発明2又は甲2発明1ではなく、また、甲2発明2又は甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 小括
以上のとおり、取消理由1、2は、理由がない。
第6 取消理由(決定の予告)として採用しなかった申立ての理由について1 申立理由の概要
取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載された申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 申立理由1(新規性欠如)
本件発明1、2、4~7についての、甲1を引用文献とした新規性欠如
(2) 申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~8についての、甲1を主たる引用文献とし、甲第3号証を従たる引用文献とする進歩性欠如
2 当審の判断
(1) 甲1の記載、甲1発明
ア 甲1の記載
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板またはそれを用いた大電力半導体モジュールに使用されるセラミックス基板に関し、セラミックス基板を形成するのに好適な窒化珪素焼結体およびそれを用いた窒化珪素基板並びにその製造方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0003】
前記セラミックス回路基板は、一般にセラミックス基板の一方の面に電気回路となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用の金属放熱板を接合した構造で使用される。また前記金属板には熱伝導性の良好な銅又はアルミニウムを主成分とした金属板が主に用いられ、ろう材による活性金属法や、拡散接合法、直接接合するいわゆるDBA法またはDBC法といった接合方法によりセラミックス基板と接合される。また金属回路板および/または金属放熱板には回路パターンがエッチング等により形成される。前記能動素子や外部との電気信号の授受を行うための端子やワイヤー等は金属回路板上に搭載または接続される。更に、金属放熱板は、ベース板や冷却フィン等の放熱部材に固着した状態や、金属放熱板が冷却フィンと兼用された形で一体接合された形でモジュール等に使用される。
・・・(中略)・・・
【0033】
成形方向に対して直角方向の切断面が現れるように窒化珪素基板を厚さ方向に切断した。切断面を研磨後、走査電子顕微鏡(1000-5000倍)により研磨面を観察し、その研磨面の任意の表3に記載の大きさの視野に現われている円相当径0.5μm以上の空孔の面積を画像解析により計測した。そして、計測した空孔の面積を視野の総面積で割ることにより視野面積に占める空孔率(%)として算出した。円相当径0.5μm未満の空孔は絶縁性に及ぼす影響が比較的小さいため計測から除外した。
【0034】
(実施例1~11)
前述の窒化珪素焼結体の製造方法および評価方法にしたがって表1、表2に示す出発原料、混合、成形および焼成条件により窒化珪素焼結体を作製し、空孔の面積を画像解析により計測した。各ロットの出発原料の原料粉の総量は、それぞれ10kgとした。スラリーの混練ロット数を2以上とし、成形速度600(mm/min.)以下とし、成形体の乾燥速度を0.8(wt%/min.)以下とすることでHIP処理を含まない製造プロセスにより、表3に示す焼結体を得ることができた。空孔割合0.1~4%であっても十分な絶縁破壊の強さを有する厚さ0.15~0.25mmの窒化珪素基板を得ることができた。
・・・(中略)・・・
【0040】
【表3】
[図:0001432059000002.jpg]
」
イ 甲1発明
(ア) 段落0001の記載によると、甲1に記載された窒化珪素焼結体は、セラミックス基板を形成するものであるといえる。
(イ) 甲1の段落0040の表3には、実施例5として、空孔割合が1%の窒化珪素焼結体、実施例6として空孔割合が0.1%の窒化珪素焼結体が示されている。
(ウ) 上記(ア)、(イ)を踏まえると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。(括弧内は引用元の段落番号等を示す。)
「セラミックス基板の一方の面に電気回路となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用の金属放熱板を接合した構造で使用されるセラミックス回路基板であって、前記金属板は、ろう材による活性金属法によりセラミックス基板と接合された、セラミックス回路基板(段落0003)であって、
窒化珪素焼結体が、セラミックス基板を形成し(上記(ア))、
窒化珪素焼結体の空孔割合は、1%(実施例5)又は、0.1%(実施例6)であり、
「空孔割合」(空孔率)は、成形方向に対して直角方向の切断面が現れるように窒化珪素基板を厚さ方向に切断し、切断面を研磨後、走査電子顕微鏡により研磨面を観察し、その研磨面の任意の表3に記載の大きさの視野に現われている円相当径0.5μm以上の空孔の面積を画像解析により計測し、計測した空孔の面積を視野の総面積で割ることにより算出したものである(段落0033)、
セラミックス回路基板。」
(2) 当審の判断
ア 申立理由1
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 「セラミックス基板の一方の面に電気回路となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用の金属放熱板を接合した構造で使用されるセラミックス回路基板」に係る甲1発明は、「接合体」に係る発明である点で本件発明1と共通する。
b 甲1発明の窒化珪素焼結体で形成されるセラミックス基板は、本件発明1の「窒化ケイ素板」に相当する。
c 甲1発明の「電気回路となる金属回路板」、「放熱用の金属放熱板」は、本件発明1の「金属板」に相当する。
d 「前記金属板は、ろう材による活性金属法といった接合方法によりセラミックス基板と接合された」甲1発明が、窒化珪素焼結体で形成されるセラミックス基板と、「電気回路となる金属回路板」、「放熱用の金属放熱板」とを接合する「ろう材層」を備えることは明らかである。
e 以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(a) 一致点
「窒化ケイ素板と、金属板と、前記窒化ケイ素板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える接合体。」
(b) 相違点C
本件発明1が、窒化ケイ素板について、「前記窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして前記窒化ケイ素板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値が0.5~1.9%であり、
前記切断面の前記領域に含まれる前記気孔の円相当径の最大値が10μm以下である」ことを特定しているのに対し、甲1発明が、セラミックス基板を形成する窒化珪素焼結体について、成形方向に対して直角方向の切断面が現れるように窒化珪素基板を厚さ方向に切断し、切断面を研磨後、走査電子顕微鏡により研磨面を観察し、その研磨面の任意の表3に記載の大きさの視野に現われている円相当径0.5μm以上の空孔の面積を画像解析により計測し、計測した空孔の面積を視野の総面積で割ることにより算出した空孔割合が、1%(実施例5)又は、0.1%(実施例6)と特定している点(以下「相違点C」という。)。
(イ) 相違点Cの検討
甲1発明の「成形方向に対して直角方向の切断面が現れるように窒化珪素基板を厚さ方向に切断し、切断面を研磨後、走査電子顕微鏡により研磨面を観察し、その研磨面の任意の表3に記載の大きさの視野に現われている円相当径0.5μm以上の空孔の面積を画像解析により計測し、計測した空孔の面積を視野の総面積で割ることにより算出した」「空孔割合」が、特定の大きさの気孔を除外せずに算出した本件発明1の「気孔の面積比率の平均値」と異なる値となることは明らかである。
そして、甲1発明の「空孔割合」の値と、本件発明1の「気孔の面積比率の平均値」の値の対応関係も不明である。
したがって、上記相違点Cは実質的な相違であるから、本件発明1、及び本件発明1の構成をすべて含む本件発明2、4~7は、甲1発明ではなく、申立理由1は理由がない。
イ 申立理由2
「前記窒化ケイ素板の厚さ方向に沿うようにして前記窒化ケイ素板を切断して得られる切断面のうち、前記金属板の側部における外縁の直下を含み、前記窒化ケイ素板の主面から深さ200μmまでの領域における気孔の面積比率の平均値」を0.5~1.9%とすることは、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、相違点Cは当業者が容易に想到できたものではなく本件発明1、及び本件発明1の構成をすべて含む本件発明2~8は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立理由2も理由がない。
(3) 申立人の主張
申立人は、気孔の面積比率の平均値について、申立書19ページ3~10行にて、「甲1発明における「空孔」は、本件特許発明1の「気孔」と同義である。また、断面における「空孔割合」は、「気孔の面積比率」と同義である。
「空孔割合」について、「円相当径0.5μm未満の空孔」が計測から除外されているものの、実施例6における空孔集合体の直径は10μmであり、円相当径0.5μm未満に比べて非常に大きい。このことから、円相当径0.5μm未満の空孔が空孔割合の値に及ぼす影響は、実質的に無視できる。」と主張する。
しかしながら、上記(2)ア(イ)のとおり、「空孔割合」は、「気孔の面積比率」と同義ではないから、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
上記第5、第6のとおりであるから、取消理由(決定の予告)、並びに、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700003