特許異議申立
2025-700830
特定の低次酸化チタンの結晶組成を有する粒子、並びにその製造方法
- 審判番号
- 2025-700830
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-543926
- 登録番号
- 7634015
- 請求日
- 2025年08月19日
- 審決日
- 2025年12月26日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【異議申立人】奥村 一正
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 阿川 寛樹
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-Y (C01G) / P1651.121-Y (C01G) / P1651.536-Y (C01G) / P1651.537-Y (C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7634015号発明「特定の低次酸化チタンの結晶組成を有する粒子、並びにその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7634015号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7634015号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2021年(令和 3年) 8月13日(優先権主張 令和 2年 8月21日)を国際出願日とする出願(特願2022-543926号。以下「本願」という。)であって、令和 7年 2月12日にその特許権の設定登録がなされ、同年 2月20日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 7年 8月19日に、請求項1~6(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である奥村 一正(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である低次酸化チタン粒子の製造方法であって、
TiH2及びTiO2を含む混合物を700~900℃で加熱する工程を備え、
前記混合物に含まれる前記TiH2に対する前記TiO2のモル比が3.1~4.6である、低次酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程において、Arガス雰囲気下で前記混合物を加熱する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、
前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である、低次酸化チタン粒子。
【請求項4】
L*a*b*色空間において、a*値が0以上であり、b*値が0以下である、請求項3に記載の低次酸化チタン粒子。
【請求項5】
前記粒子中のNa、K及びPの含有量の合計が2000質量ppm以下である、請求項3又は4に記載の低次酸化チタン粒子。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか一項の記載の低次酸化チタン粒子と、分散媒と、を含有する分散体。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第13号証を提出し、以下の申立理由1~5により、本件特許の請求項1~6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(明確性)
本件特許の請求項1、3に記載の「前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比」はどのようにして決定される数値であるのか不明である。
よって、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1、3に記載の「前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比」について、本件明細書には、リートベルト法ソフトウェア(リガク社製、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2)を用いてTi2O3及びγ-Ti3O5の質量分率を算出する際に用いた結晶構造データベースの特定がなされておらず、同じ物質から質量分率を算出したとしても、結晶構造データベースの如何により、質量分率に差異が生じる可能性があるため、本件発明の技術的範囲に属するのか又は属さないのかを検証する際には、全ての結晶構造データベースを用いて検証する必要があり、このことは、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)に過度の追試を強いることである。
よって、本件発明1~6について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1、3に記載の「前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比」はどのようにして決定される数値であるのか不明であり、請求項1、3において、新規な組成を有する低次酸化チタンの粒子を得るという本件発明の課題を解決する手段が明確ではない。
また、本件発明3は新規性を有しないから、新規な組成を有する低次酸化チタンの粒子を得るという課題が解決されることは、発明の詳細な説明において示されていない。
よって、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(新規性)
(1)本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明3~5は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(進歩性)
(1)本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明3~5は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件発明3~6は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 証拠方法
・甲第1号証:特開2020-143195号公報
・甲第2号証:B BRACH, et al., “Phase equilibria in the system V2O3-Ti2O3-TiO2 at 1473°K”, JOURNAL OF SOLID STATE CHEMISTRY, 1977, 20, p.29-41
・甲第3号証:特開平1-290529号公報
・甲第4号証:Pearson’s Crystal Data. Powder pattern of:1900755
・甲第5号証:Pearson’s Crystal Data. Powder pattern of:1243140
・甲第6号証:Pearson’s Crystal Data. Powder pattern of:1612487
・甲第7号証:Pearson’s Crystal Data. Powder pattern of:1944823
・甲第8号証:Pearson’s Crystal Data. Powder pattern of:1127327
・甲第9号証:鈴木福二,外1名,「新しい黒色顔料の開発と化粧品への利用」,粉体および粉末冶金,1981年10月,第28巻,第7号,p.239~244
・甲第10号証:特開2011-246294号公報
・甲第11号証:徳光直樹(合議体注:「徳」は心の上に一が入る),外1名,「四塩化チタンの気相酸化法による二酸化チタン粉末の製造法」,まてりあ,2000年,第39巻,第5号,p.443~449
・甲第12号証:「高純度酸化チタン(二酸化チタン)」,[online],東邦チタニウム株式会社,[令和 7年 6月 4日検索],インターネット
<URL: https://www.toho-titanium.co.jp/products/tio2/>
・甲第13号証:「統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL2」,リガクジャーナル,2012年,第43巻,第1号,p.26~28
第4 当合議体における判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(明確性)について
(1)本件発明1~6について
本件特許の請求項1~6の記載は、上記第2のとおりのものであるところ、請求項1~6の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であるから、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の第24ページ第10行~第25ページ第23行において、本件明細書の実施例において、Ti2O3及びγ-Ti3O5の質量分率の算出に用いられるリートベルト法ソフトウェア(リガク社製、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2)では、本件明細書において使用したとされる結晶構造データベース「Pearson’s Crystal Data」は用いることができず(甲第13号証)、仮に、上記リートベルト法ソフトウェアに用いることができる他の結晶構造データベースを用いてTi2O3及びγ-Ti3O5の質量分率を算出した場合であっても、結晶構造データベースの如何により、質量分率が同一となるとはいえないところ、本件明細書の記載からは、いずれの結晶構造データベースを用いたかは不明であるから、本件発明において、「前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比」がどのようにして決定される数値であるのかが不明である旨を主張する。
イ しかしながら、申立人が根拠とする甲第13号証の記載は、「PDXL2の定性分析においては,従来から使用可能な有料データベース(ICDDのPDF2)及び無料のデータベース(日本結晶学会)に加えて,この無料データベースであるCODが使用可能です.」(第27ページ左欄「2.2.CODを使用した定性分析」)というものであり、甲第13号証には、「Pearson’s Crystal Data」を用いることができないことは記載されていない。
よって、申立人の上記アの主張は、その前提において誤りがあり採用できない。
ウ 仮に、「PDXL2の定性分析」に用いることができるデータベースが、上記イのデータベースに限られるとしても、PDXL2において、「定性分析」と「リートベルト解析」とは、異なる解析機能であると解されるから(甲第13号証の第26ページ左欄「1.はじめに」)、いずれにしても、甲第13号証には、「リートベルト解析」に用いることができるデータベースが、上記イのデータベースに限られることは記載されていない。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
(3)申立理由1(明確性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
したがって、申立理由1(明確性)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)本件発明1~6について
本件明細書の段落【0012】~【0021】には、本件発明1、2の低次酸化チタン粒子の製造方法について記載されている。また、段落【0022】~【0030】には、本件発明1、2の低次酸化チタン粒子の製造方法により得られた低次酸化チタン粒子が、本件発明3~5の特定事項を備えることも記載されている。さらに、低次酸化チタン粒子と低次酸化チタン粒子を分散させる分散媒とを混合することで分散体が得られることは技術常識である。加えて、段落【0031】、【0032】には、本件発明3~5の低次酸化チタン粒子(本件発明1、2の低次酸化チタン粒子の製造方法により得られた低次酸化チタン粒子)を含有する分散体(本件発明6)を黒色顔料等の顔料に使用することも記載されている。
そして、本件発明1、2の低次酸化チタンの製造方法により得られた低次酸化チタンが、本件発明3~5の特定事項を備えることは、段落【0035】~【0052】に記載された実施例により実証されている。
そうすると、当業者は、これら本件明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~6の実施をすることができるといえる。
(2)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の第25ページ下から第6行~第26ページ第3行において、本件明細書には、リートベルト法ソフトウェア(リガク社製、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2)を用いてTi2O3及びγ-Ti3O5の質量分率を算出する際に用いた結晶構造データベースの特定がなされておらず、本件発明の技術的範囲に属するか否かを検証する際に、全ての結晶構造データベースを用いて検証する必要があり、当業者に過度の追試を強いる旨を主張する。
イ しかしながら、本件明細書の段落【0043】には、質量分率を算出する際に用いたデータベースが、「Pearson’s Crystal Data」であることが記載され、具体的なデータ番号も記載されているから、当業者であれば、過度の追試を要することなく、質量分率を算出することができるといえる。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
ウ 仮に、申立人の上記アの主張が、上記1(2)アの主張と同様、本件明細書の実施例において、Ti2O3及びγ-Ti3O5の質量分率の算出に用いられるリートベルト法ソフトウェア(リガク社製、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2)では、本件明細書において使用したとされる結晶構造データベース「Pearson’s Crystal Data」は用いることができないことを前提とするものとしても、上記1(2)イ、ウと同様、申立人が根拠とする甲第13号証には、PDXL2のリートベルト解析に「Pearson’s Crystal Data」を用いることができないことは記載されていないから、申立人の上記アの主張は採用できない。
(3)申立理由2(実施可能要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
したがって、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件発明1~6について
ア 本件明細書の段落【0005】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「新規な組成を有する低次酸化チタンの粒子を得ること」であると認められる。
そして、段落【0006】、【0012】~【0052】の記載によれば、Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である、低次酸化チタン粒子を得ることによって、上記アの課題が解決できることを当業者であれば認識できるといえる。
イ 一方、本件発明1は、Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である低次酸化チタン粒子の製造方法の発明であり、本件発明3は、Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である、低次酸化チタン粒子の発明であるから、これらの発明は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
ウ よって、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の第26ページ第4~13行において、「前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比」がどのようにして決定される数値であるのか不明であるから、本件発明の課題を解決する手段が明確ではない旨を主張する。
イ しかしながら、本件明細書の段落【0043】には、上記アのモル比の算出方法が記載されている。
よって、申立人の上記アの主張は、その前提において誤りがあり採用できない。
ウ 仮に、申立人の上記アの主張が、上記1(2)アの主張と同様、本件明細書の実施例において、Ti2O3及びγ-Ti3O5の質量分率の算出に用いられるリートベルト法ソフトウェア(リガク社製、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2)では、本件明細書において使用したとされる結晶構造データベース「Pearson’s Crystal Data」は用いることができないことを前提とするものとしても、上記1(2)イ、ウと同様、申立人が根拠とする甲第13号証には、PDXL2のリートベルト解析に「Pearson’s Crystal Data」を用いることができないことは記載されていないから、申立人の上記アの主張は採用できない。
エ また、申立人は、本件発明3は新規性を有しないから、新規な組成を有する低次酸化チタンの粒子を得るという課題が解決されることは、本件明細書において示されていない旨を主張する。
オ しかしながら、上記(1)で述べたとおり、本件発明3~6は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が新規な組成を有する低次酸化チタンの粒子を得るという課題を解決できると認識できる範囲のものである。
なお、本件発明3が新規性を有するものであることは、下記4のとおりである。
よって、申立人の上記ウの主張は採用できない。
(3)申立理由3(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(1)(新規性)、申立理由5(1)(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲第1号証には、「黒色アルミニウム顔料およびその製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その請求項1の記載を前提に、特に段落【0093】~【0097】、表1の実施例1の記載に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
フレーク状のアルミニウム粒子と、
前記アルミニウム粒子を被覆する被膜とを備え、
前記被膜は、酸化チタン層および非晶質ケイ素酸化物層を含み、
前記酸化チタン層は、その組成がTiO1.53を満たす、黒色アルミニウム顔料。
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」は、フレーク状のアルミニウム粒子と、前記アルミニウム粒子を被覆する被膜とを備えるものであり、その形状は「粒子」であると認められるから、甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」と本件発明3の「低次酸化チタン粒子」とは、「粒子」である限りにおいて共通する。
(イ)そうすると、本件発明3と甲1発明とは、「粒子。」である点で一致するとともに、以下の点において相違する。
<相違点1>
本件発明3は、「粒子」が、「低次酸化チタン粒子」であって、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」であるのに対し、甲1発明は、「粒子」が、「黒色アルミニウム顔料」であって、「フレーク状のアルミニウム粒子と、前記アルミニウム粒子を被覆する被膜とを備え、前記被膜は、酸化チタン層および非晶質ケイ素酸化物層を含み、前記酸化チタン層は、その組成がTiO1.53を満たす」点。
イ 判断
(ア)相違点1について
a 相違点1が実質的な相違点であるかについて
(a)本件発明3の「低次酸化チタン粒子」は、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有している」粒子であると解される。そして、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有している」ことは、「低次酸化チタン粒子の結晶組成をX線回折法(XRD)により測定し、実質的に、Ti2O3及びγ-Ti3O5のそれぞれに起因する回折ピークのみが観測されることで確認される」ものである(本件明細書の段落【0022】)。
(b)一方、甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」について、甲第1号証の図5には、実施例1の黒色アルミニウム顔料における粉末X線回折の分析結果が示されており、図5から、実施例1の黒色アルミニウム顔料が、Al、Ti2O3及びTi3O5のピークを有することが看取できる。
そうすると、甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」は、粉末X線回折の分析結果において、少なくとも、Al、Ti2O3及びTi3O5のピークを有するものであるといえる。
(c)ここで、上記(a)で述べたとおり、本件発明3の「低次酸化チタン粒子」は、実質的に、Ti2O3及びγ-Ti3O5のそれぞれに起因する回折ピークのみが観測される粒子であるから、粉末X線回折の分析結果において、Alのピークを有する甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」とは、少なくとも「結晶組成」が「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる」ものであるか否かの点で、異なる粒子であるといえる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点である(以下に、甲第1号証の図5を示す。)。
[図:0001432091000001.jpg]
b 相違点1の容易想到性について
甲1発明は、基材が「アルミニウム」であることを前提とする「黒色アルミニウム顔料」の発明であるから、甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」において、被膜の基材である「アルミニウム」を除去すること(粉末X線回折の分析結果において、Alのピークを無くすこと)には、阻害要因があるといえる。
そうすると、甲1発明の「黒色アルミニウム顔料」において、被膜の基材である「アルミニウム」を除去した上で、相違点1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
c 申立人は、特許異議申立書の第10ページ第2~4行において、「甲第1号証には、Ti2O3及びTi3O5からなる結晶組成を有し、TiOxのX値が1.53である酸化チタン層を有する粒子」が開示されていると主張するが、当該粒子が、本件発明3の「低次酸化チタン粒子」に相当しないことは、上記aで述べたとおりである。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4~6について
本件発明4~6は、本件特許の請求項3の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明3の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明3が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~6についても同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由4(1)(新規性)、申立理由5(1)(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由4(1)(新規性)、申立理由5(1)(進歩性)によっては、本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4(2)(新規性)、申立理由5(2)(進歩性)について
(1)甲第2号証に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲第2号証には、「Phase equilibria in the system V2O3-Ti2O3-TiO2 at 1473°K」(表題)(仮訳:「1473KにおけるV2O3-Ti2O3-TiO2系の相平衡」)に関する記載があり、その第33ページ表1の下から8つ目に記載される試料に着目すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
初期組成が「TiO1.667」であり、熱処理が「900℃処理:中間粉砕を伴う2回の7日間加熱」であり、存在する相が「V3O5」型である試料。
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲2発明とを対比する。
(ア)甲第2号証は、甲第4号証の「Pearson’s Crystal Data. Powder pattern of:1900755: O5Ti3-V3O5,mP32,13」が参照する文献(Bibliographic dataの項を参照。)であり、甲第2号証の表1において、結晶構造が「V3O5」型の低次酸化チタンは、初期組成が「TiO1.667」である甲2発明の試料のみである。
一方、本件発明3のTi2O3及びγ-Ti3O5の質量分率は、甲第4号証(γ-Ti3O5)、甲第5号証(Ti2O3)の結晶構造データを用いて算出されるものである(本件明細書の段落【0024】、【0043】参照。)。
よって、本件明細書の記載によれば、甲第4号証に記載される「Ti3O5」の結晶構造は「γ-Ti3O5」であり、その参照元である甲2発明の試料の結晶構造も「γ-Ti3O5」であると認められる。また、甲2発明の試料は中間粉砕されており、その形状は「粒子」であると認められる。
(イ)上記(ア)を踏まえると、甲2発明の「試料」と、本件発明3の「低次酸化チタン粒子」とは、「γ-Ti3O5を含む結晶組成を有する、低次酸化チタン粒子。」である点で共通する。
(ウ)以上から、本件発明3の「低次酸化チタン粒子」と甲2発明の「試料」とは、「γ-Ti3O5を含む結晶組成を有する、低次酸化チタン粒子。」である点で一致するとともに、以下の点において相違する。
<相違点2>
低次酸化チタンの結晶組成について、本件発明3は、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」であるのに対し、甲2発明は、結晶組成が「V3O5」型の「γ-Ti3O5」である点。
イ 判断
(ア)相違点2について
a 相違点2が実質的な相違点であるかについて
甲第2号証には、甲2発明の「試料」が「Ti2O3」を含むか否かが何ら記載されていないから、甲2発明の「試料」が、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」であるかは不明である。また、技術常識を考慮しても、甲2発明の「試料」が、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である」であるかは不明である。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
b 相違点2の容易想到性について
甲第2号証には、1473KにおけるV2O3-Ti2O3-TiO2系の平衡状態図を作成するに当たり、甲2発明の「試料」に加え、初期組成が「TiO1.510」であり、熱処理が「90時間の加熱」であり、存在する相が「α酸化物+M3O5(微量)」である試料(表1の上から9つ目の試料)を得ることも記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、甲2発明の「試料」と当該α酸化物(Ti2O3)とを、特定のモル比で混合させ所定の低次酸化チタン粒子とすることは記載されていないから、甲2発明の「試料」において、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると、甲2発明の「試料」において、相違点2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
c 申立人は、特許異議申立書の第20ページ第1~6行において、
「[甲第2号証のFig.5]
[図:0001432091000002.jpg]
Fig.5において、TiO1.5およびTi3O5の間の組成は、TiO1.5及びTi3O5からなる組成であり、TiO1.5とTi3O5のモル比は、0:1~1:0である。
したがって、甲第2号証には、TiO1.5及びTi3O5からなる結晶組成を有し、TiO1.5とTi3O5のモル比が0:1~1:0である粒子(以下、甲2発明という)が開示されている。」と主張する。
しかしながら、上記bで述べたとおり、甲第2号証には、甲2発明の粒子(Ti3O5)と「TiO1.5」に相当する粒子のそれぞれが単独で記載されているに過ぎない。また、甲第2号証に、Fig.5として、V2O3-Ti2O3-TiO2系の平衡状態図が記載されているとしても、そうであるからといって、当該平衡状態図に含まれるあらゆる結晶組成を有する粒子が記載されているとはいえず、「TiO1.5及びTi3O5からなる結晶組成を有し、TiO1.5とTi3O5のモル比が0:1~1:0である粒子」についても記載されているとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4~6について
本件発明4~6は、本件特許の請求項3の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明3の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明3が、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~6についても同様に、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。そして、このことは、甲第1号証に、黒色アルミニウム顔料を塗料および化粧料として溶剤と共に用いることが記載されていても変わるものではない。
(4)申立理由4(2)(新規性)、申立理由5(2)(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明3~5は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明3~5は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、本件発明6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由4(2)(新規性)、申立理由5(2)(進歩性)によっては、本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由5(3)(進歩性)について
(1)甲第3号証に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲第3号証には、「高純度亜酸化チタンの製造方法」(発明の名称)に関する記載があり、その請求項1の記載を前提に、特に、第3ページ左下欄第10行~右下欄第5行、同右下欄第13~19行の実施例3の記載に着目すると、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
粒度44μm以下(光透過法による平均粒径7.6μm)、水素含有量3.85%の水素化チタン粉末222gと二酸化チタン粉末(光透過法による平均粒径0.60μm)1788gを配合し、乾式混合機で30分間混合し、この混合粉末を油圧成型プレスを用いて300kg/cm2の圧力で成形し、直径10mm、厚さ4mmの錠剤形ペレットとし、次いで、ペレット2kgを真空雰囲気炉に充填し、炉内を6.0×10-4Torrの真空度に保持しながら1300℃の温度で3時間に亘り加熱焼成して得られた、黒色を呈しており、X線回折の結果Ti3O5であることが確認された高純度亜酸化チタンペレット。
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明における「亜酸化チタン」は、本件発明3における「低次酸化チタン」に相当する。
(イ)甲3発明における、「粒度44μm以下(光透過法による平均粒径7.6μm)、水素含有量3.85%の水素化チタン粉末222gと二酸化チタン粉末(光透過法による平均粒径0.60μm)1788gを配合し、乾式混合機で30分間混合し、この混合粉末を油圧成型プレスを用いて300kg/cm2の圧力で成形し、直径10mm、厚さ4mmの錠剤形ペレットとし、次いで、ペレット2kgを真空雰囲気炉に充填し、炉内を6.0×10-4Torrの真空度に保持しながら1300℃の温度で3時間に亘り加熱焼成して得られた、黒色を呈しており、X線回折の結果Ti3O5であることが確認された」「Ti3O5」と、本件発明3における、「γ-Ti3O5」とは、「Ti3O5」である限りにおいて共通する。
(ウ)そうすると、本件発明3と甲3発明とは、「Ti3O5を含む結晶組成を有する、低次酸化チタン。」である点で一致するとともに、以下の点において相違する。
<相違点3-1>
低次酸化チタンの結晶組成について、本件発明3は、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」であるのに対し、甲3発明は、結晶組成が「Ti3O5」からなる点。
<相違点3-2>
低次酸化チタンの形状について、本件発明3は、「粒子」であるのに対し、甲3発明は、「ペレット」である点。
イ 判断
(ア)相違点3-1について
a 相違点3-1が実質的な相違点であるかについて
甲第3号証には、甲3発明の「亜酸化チタンペレット」における「Ti3O5」の結晶構造や、甲3発明の「亜酸化チタンペレット」が「Ti2O3」を含むか否かについては何ら記載されていないから、甲3発明の「亜酸化チタンペレット」が、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」であるかは不明である。また、技術常識を考慮しても、甲3発明の「亜酸化チタンペレット」が、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上である」であるかは不明である。
よって、上記相違点3-1は、実質的な相違点である。
b 相違点3-1の容易想到性について
(a)甲第3号証には、蒸着材に用いられる亜酸化チタンにおいて、TiH2とTiO2の配合比を変えて還元の度合を制御することにより、Ti2O3、Ti3O5など各種の低次酸化チタンを得ることが可能となることが記載されており、実施例1~3において、TiO、Ti2O3及びTi3O5が得られたことが記載されている(第2ページ左下欄第5~8行、第3ページ左上欄第1~8行、第3ページ左下欄第7行~第4ページ右下欄第3行)。
しかしながら、甲第3号証には、「Ti3O5」の結晶構造や、結晶組成を複数の亜酸化チタンからなるものとすることについては記載されていないから、甲3発明の「亜酸化チタンペレット」において、「Ti2O3及びγ-Ti3O5からなる結晶組成を有し、前記Ti2O3に対する前記γ-Ti3O5のモル比が0.1以上」とすることが動機付けられるとはいえない。
(b)したがって、甲3発明の「亜酸化チタンペレット」において、相違点3-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。そして、このことは、甲第1号証に、粉末X線回折の分析結果において、Al、Ti2O3及びTi3O5のピークを有する黒色アルミニウム顔料が記載されていても変わるものではない(甲3発明の「亜酸化チタンペレット」において、甲第1号証に記載の、基材がアルミニウムである黒色アルミニウム顔料に関する事項を適用する動機付けがあるとはいえない。)。
ウ 小括
以上のとおり、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4~6について
本件発明4~6は、本件特許の請求項3の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明3の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明3が、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~6についても同様に、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。そして、このことは、甲第1号証に、黒色アルミニウム顔料を塗料および化粧料として溶剤と共に用いることが記載されていても変わるものではない。
(4)申立理由5(3)(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明3~6は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由5(3)(進歩性)によっては、本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700830