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特許異議申立

2024-700745

酸化ガリウム半導体膜及び原料溶液

審判番号
2024-700745
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-179004
登録番号
7432904
請求日
2024年08月07日
審決日
2025年09月29日
公報発行日
2026年01月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】信越化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】好宮 幹夫
  • 【権利者代理人】小林 俊弘
  • 【権利者代理人】大塚 徹
  • 【権利者】国立大学法人 和歌山大学
  • 【権利者代理人】好宮 幹夫
  • 【権利者代理人】小林 俊弘
  • 【権利者代理人】大塚 徹
  • 【異議申立人】西郷 新
審判長/審判官
  • 審判長 小宮 慎司
  • 審判官 小川 将之
  • 審判官 中野 浩昌
分類
P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第113条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

結論

結 論 特許第7432904号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。 特許第7432904号の請求項1-8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7432904号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年4月12日にされた特許出願(特願2019-76229号)の一部を、令和4年11月8日に新たな特許出願としたものであって、令和6年2月8日にその特許権の設定登録がされ、令和6年2月19日に特許掲載公報が発行された。 本件特許についての特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。 令和6年 8月 7日 :特許異議申立人西郷新(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て 令和6年11月29日付け:取消理由通知書 令和7年 2月 3日 :特許権者による意見書の提出 令和7年 2月 7日付け:申立人への審尋 令和7年 3月13日 :申立人による回答書の提出 令和7年 5月 7日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和7年 7月11日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和7年 8月25日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 令和7年7月11日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、特許第7432904号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、次のとおりである。 [訂正事項1] 訂正前の特許請求の範囲の請求項3に 「膜の表面の面積が100mm2以上のものである」 とあるのを 「直径が4インチ以上のものである」 に訂正する。 2 訂正の適否の判断 上記訂正事項1について、訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内か否か(新規事項の追加の有無)、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否を検討する。 なお、本件特許異議の申立ては、本件特許の請求項1~8の全てに対しされたものであり、特許異議の申立てがされていない請求項は存在しないから、独立特許要件(特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項)の検討は要しない。 (1)訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の「酸化ガリウム半導体膜」の「表面の面積が100mm2以上」であったものを、訂正後の「直径が4インチ以上のもの」、すなわち、直径が100mm以上のもの(表面の面積が約7850mm2以上のもの)に限定する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加の有無 本件明細書等の【0051】には、「次に、基体110として4インチ(直径100mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内でホットプレート108に隣接するように設置した。」との記載があり、同【0039】には「基体が板状の場合、その面積は100mm2以上が好ましく、より好ましくは口径が2インチ(50mm)以上である。」との記載がある。 これらの記載によれば、直径が4インチ以上の基体に酸化ガリウム半導体膜を成膜することは、本件明細書等から自明の事項であるといえる。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 申立人は、上記【0051】の記載は単に4インチサファイア基板に関する例示がされているだけであり、上記【0039】の記載は「4インチ以上のもの」とは数値範囲が異なるから、訂正事項1は訂正要件に適合しない旨を主張するが、上述のとおり、訂正事項1は【0051】及び【0039】の記載から当業者に自明の事項であり、また、「4インチ」との下限について新たに臨界的意義を主張するものでもないから、上記申立人の主張により訂正要件に適合しないとすることはできない。 (3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したとおり、訂正事項1により特許請求の範囲は減縮されるといえるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 (4)小括 以上のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正後の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 酸化ガリウム半導体膜であって、 X線回折測定による(0006)面回折ピークのロッキングカーブの半値全幅が79秒以下であり、 エネルギー分散型X線分析(EDS)において、GaとO以外の元素が検出されないものであることを特徴とする酸化ガリウム半導体膜。 【請求項2】 膜厚が1.1μm以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の酸化ガリウム半導体膜。 【請求項3】 直径が4インチ以上のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸化ガリウム半導体膜。 【請求項4】 原料溶液を霧化又は液滴化して生成されたミストを、キャリアガスを用いて搬送し、前記ミストを加熱して、基体上で前記ミストを熱反応させて酸化ガリウム半導体膜の成膜を行うための原料溶液であって、 金属元素としてガリウムを含み、 原料溶液中の水素イオン濃度が、1×10-12~1×10-2mol/Lであり、 酸及び/又は塩基を含み、該塩基はアンモニアを含むものであることを特徴とする原料溶液。 【請求項5】 前記原料溶液中の水素イオン濃度が、3×10-11~3×10-3mol/Lのものであることを特徴とする請求項4に記載の原料溶液。 【請求項6】 前記原料溶液中の水素イオン濃度が、1×10-6~1×10-3mol/Lのものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の原料溶液。 【請求項7】 前記酸が臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、蟻酸、硝酸のいずれかを含むものであることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の原料溶液。 【請求項8】 前記塩基がさらに水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化銅、水酸化鉄のいずれかを含むものであることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の原料溶液。 第4 取消理由通知(決定の予告)の概要 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明に対して、当審が令和7年5月7日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由(以下「取消理由」という。また、理由のそれぞれを「取消理由1」「取消理由2」という。)の概要は、以下のとおりである。(刊行物の一覧は、後記第5、1(1)を参照。) 1(新規性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。 2(進歩性)本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願の原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 第5 文献の記載事項 1 文献の一覧 本決定で引用する文献は以下のとおり。 (1)令和7年5月7日付けの取消理由通知書(決定の予告)で引用した文献 ・甲1号証:Masaya Oda et al.”Schottky barrier diodes of corundum-structured gallium oxide showing on-resistance of 0.1mΩ-cm2 grown by MIST EPITAXYR”, Applied Physics Express,(米), 2016年, No.9, 021101-1~021101-3(当審注:上付き○囲み「R」を「R」(上付き文字)と記載した。以下同様。) ・甲2号証:特開2019-57715号公報 ・甲3号証:特開2014-234337号公報 ・甲7号証:Daisuke Shinohara and Shizuo Fujita, “Heteroepitaxy of Corundum-Structured α-Ga2O3 Thin Films on α-Ga2O3 Substrates by Ultrasonic Mist Chemical Vapor Deposition” Japanese Journal of Applied Physics, 2008年, vol.47, no.9, pp.7311-7313 ・文献1:特開2016-27635号公報 ・周知例1:「表面分析の種類と特徴 【EDS・AES・XPS・TOF-SIMS】」、[online]、msec、[令和6年11月21日検索]、<URL:https://www.msec-melco.co.jp/common/pdf/b-01.pdf> ・周知例2:谷口一雄、「エネルギー分散型蛍光X線分析入門」、[online]、クロスレイテクノロジー株式会社、[令和6年11月21日検索]、表紙、1~3、7、8ページ、<URL:http://xrtec.co.jp/wp-content/uploads/2020/07/nyuumon.pdf>(周知例2についての補足説明、<URL:http://xrtec.co.jp/technical-support>) ・周知例3:「設備機器技術講習会【エネルギー分散型X線分析装置】」、大阪府立産業技術総合研究所、[online]、[令和6年11月21日検索]、<URL:http://tri-osaka.jp/c/content/files/archives/EDX200503.pdf> なお、甲7号証は、甲1号証において文献11)として参照されている文献であり、令和7年3月13日提出の回答書における甲第7号証と同じ文献である。また、文献1は、同回答書において申立人が引用する甲第9号証に対応する公開公報である。 (2)令和7年7月11日提出の乙号証 ・乙5号証:K.Akaiwa and S.Fujita “Electrical Conductive Corundum-Structured α-Ga2O3 Thin Films on Sapphire with Tin-Doping Grown by Spray-Assisted Mist Chemical Vapor Deposition” Japanese Journal of Applied Physics,- 2012年, vol.51, 070203-1~070203-3 2 文献の記載事項 (1)甲1号証の記載 甲1号証には以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。) ア“It should be noted that Ga2O3 takes five different phases (α, β, γ, ε, and δ) and the orthorhombic β-gallia structure(β-phase) is the most stable crystal structure among them.9,10) Ga2O3 substrates take the β-phase. On the other hand, it was reported that high-quality trigonal corundum-structured α-Ga2O3 can be grown on sapphire (α-Al2O3) substrates with the use of mist chemical vapor deposition (CVD).11,12) With the use of inexpensive sapphire substrates and mist CVD growth technology, it may be possible to fabricate Ga2O3 devices at a low cost.”(021101-1左欄14行~23行) (当審訳)Ga2O3は5つの異なる相(α、β、γ、ε、δ)をとり、斜方晶系β-ガリア構造(β相)がその中で最も安定した結晶構造であることに留意すべきである。9、10) Ga2O3基板はβ相をとる。一方、ミスト化学気相成長法(CVD)を用いることで、サファイア(α-Al2O3)基板上に高品質の三方晶系コランダム構造のα-Ga2O3を成長できることが報告されている。11、12) 安価なサファイア基板とミストCVD成長技術を用いれば、低コストでGa2O3デバイスを作成できる可能性がある。 イ“In the original technology, a water solution of gallium(III) acetylacetonate [Ga(acac)3] has been used as a gallium source, but the incorporation of carbon,19) probably from the source, is a severe problem. We have modified the system and the growth procedures, and refined the technology to MIST EPITAXYR, which allows the use of carbon-free gallium halide sources such as gallium chloride, gallium bromide, and gallium iodide. We have also taken the greater care against impurity incorporation, resulting in significantly low residual impurity concentrations, as revealed by secondary ion mass spectroscopy (SIMS). Table I summarizes the results of SIMS analysis together with the detection limit. Most plausible impurities except for hydrogen were below the detectable limit, showing that MIST EPITAXYR is suitable for doping and high-performance devices.”(021101-1左欄34行~右欄2行) (当審訳)従来の技術では、ガリウム源としてガリウム(III)アセチルアセトネート水溶液[Ga(acac)3]が使用されてきたが、原料由来と思われる炭素19)の混入が深刻な問題であった。我々はシステムと成長手順を改良し、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウムといった炭素を含まないハロゲン化ガリウム源を使用できるMIST EPITAXYR技術へと改善した。また、不純物混入に対してもより細心の注意を払った結果、二次イオン質量分析法(SIMS)で明らかにされたように、残留不純物濃度は著しく低くなった。表1はSIMS分析結果を検出限界とともにまとめたものである。水素を除き考えられるほとんどの不純物は検出限界以下であり、MIST EPITAXYRがドーピングおよび高性能デバイスに適していることを示している。 ウ“X-ray rocking curve full widths at half maximum for (0006) diffraction were typically below 50 arcsec over a 4-in. sapphire substrate.”(021101-1右欄2行~4行) (当審訳)X線ロッキングカーブの(0006)回折における半値全幅は、4インチサファイア基板上で典型的には50秒未満であった。 エ“Two types of SBDs, that is, SBD1 and 2, were fabricated as test samples. SBD1 was designed to show low on-resistance, and therefore the thickness of the n layer was set at 430 nm. SBD2 was designed to show higher breakdown voltage and had a thicker n-layer of 2580 nm (SBD2). For both devices, the n+ layer thickness was 3-4 μm.”(021101-2 左欄20行~26行) (当審訳)試験サンプルとして、SBD1とSBD2の2種類のSBDを作製した。SBD1は低オン抵抗化を目指し、n-層の厚さを430nmとした。SBD2は高耐圧化を目指し、n-層の厚さを2580nmとした(SBD2)。両デバイスともn+層の厚さは3~4μmとした。 オ“Table I. SIMS analysis results for concentrations of plausible impurities in an α-Ga2O3 film together with the detection limit (DL).”(021101-1右欄表1説明) (当審訳)表1.α―Ga2O3薄膜中の考えられる不純物濃度に関するSIMS分析結果と検出限界(DL) 甲1号証には、上記オに対応する表として以下の表が掲載されている。 [図:0001431113000001.jpg] (2)甲2号証の記載 甲2号証には次の記載がある。(下線は当審により付加。以下同じ。) 「【0082】 <実施例1> 1.成膜装置 図18を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22と、キャリアガス供給手段22から送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23と、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28を備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。 ・・・ 【0083】 2.原料溶液の調整 臭化ガリウムと酸化ゲルマニウムをガリウムに対するゲルマニウムの原子比が1:0.05となるように水溶液を調整した。この際、48%臭化水素酸溶液を体積比で10%を含有させた。条件1では、酸化ゲルマニウムの濃度は、5.0×10-3mol/Lとした。 この原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。 【0084】 3.成膜準備 次に、基板20として、1辺が10mmの正方形で厚さ600μmのc面サファイア基板をサセプタ21上に設置させ、ヒーター28を作動させて供給管27内の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23を開いてキャリアガス供給手段22からキャリアガスを供給管27内に供給し、供給管27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/minに調節した。キャリアガスとしては、酸素ガスを用いた。 【0085】 4.膜形成 次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを微粒子化させて、原料微粒子を生成した。 この原料微粒子が、キャリアガスによって供給管27内に導入され、供給管27内で反応して、基板20の成膜面でのCVD反応によって基板20上に膜を形成した。 【0086】 5.評価 得られた膜の相の同定をした。同定は、XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた膜は、α-Ga2O3であった。また、得られた結晶性半導体膜の膜厚は3.5μmであった。」 (3)甲3号証の記載 甲3号証には次の記載がある。 「【0034】 1.実験1 1-1.ミストCVD装置 まず、図2を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、下地基板等の被成膜試料20を載置する試料台21と、キャリアガスを供給するキャリアガス源22と、キャリアガス源22から送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23と、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる成膜室27と、成膜室27の周辺部に設置されたヒータ28を備えている。試料台21は、石英からなり、被成膜試料20を載置する面が水平面から45度に傾斜している。成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより、被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。 【0035】 1-2.原料溶液の作製 表1に示す原料溶質を超純水中に溶解させることによって表1に示す濃度の原料溶液24aを作製した。この原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。なお、表1中アセチルアセトナートは「acac」と省略表記した 【0036】 1-3.成膜準備 次に、被成膜試料20として、1辺が10mmの正方形で厚さ600μmのc面サファイア基板を試料台21上に設置させ、ヒータ28を作動させて成膜室27内の温度を表1に示す温度にまで昇温させた。次に、流量調節弁23を開いてキャリアガス源22からキャリアガスを成膜室27内に供給し、成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を表1に示す値に調節した。キャリアガスとしては、窒素ガスを用いた。 【0037】 1-4.薄膜形成 次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって原料溶液24aを微粒子化させて原料微粒子を生成した。 この原料微粒子が、キャリアガスによって成膜室27内に導入され、成膜室27内で反応して、被成膜試料20の成膜面でのCVD反応によって被成膜試料20上に薄膜を形成した。 【0038】 1-5.評価 表1の実験No.1~17についての成膜速度と、形成された薄膜の半値幅を測定した結果を表1に示す。成膜速度は、膜厚を成膜時間で割って算出した。酸化ガリウムの半値幅は、α型酸化ガリウムの(0006)回折に対するロッキングカーブ半値幅である。また、二次イオン質量分析法(SIMS)によって炭素不純物濃度を測定し、表1の「不純物」の列に結果を示した。評価結果が○のものの炭素不純物濃度は、×のものに比べて1/100程度であった。」 (4)甲7号証の記載 甲7号証には次の記載がある。 ア“In contrast, in this paper, we report the growth of α-Ga2O3 on α-Al2O3 substrates.”(7311頁左欄30行~31行) (当審訳)これに対し、本論文では、α―Al2O3基板上のα―Ga2O3の成長について報告する。 イ“The key technology for the growth of α-Ga2O3 is ultrasonic mist chemical vapor deposition(USCVD), which is a simple, safe, cost-effective, and environmentally friendly growth method.20)-22) The outline of the system configuration is shown in Fig.1.”(7311頁左欄39行~右欄3行) (当審訳)α-Ga2O3の成長において鍵となる技術は、超音波ミスト化学気相成長法(USCVD)であり、簡単、安全、コスト効率がよく、環境に優しい成長方法である。20)-22)システム構成の概要は図1に示されている。 ウ“The substrate was set on a quartz holder and placed in a tubular furnace.”(7311頁右欄16行~17行) (当審訳)基板は石英ホルダ上にセットされ、管状炉内に載置された。 甲7号証には以下の図1が掲載されている。 [図:0001431113000002.jpg] (5)文献1の記載 文献1には次の記載がある。 「【0041】 (実施例1) 図11を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22と、キャリアガス供給手段22から送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23と、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28を備えている。サセプタ21は、石英からなり、被成膜試料20を載置する面が水平面から傾斜している。供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。 なお、サセプタ21として、図3に示されるサセプタを用いて、α-Ga2O3膜を成膜した。成膜条件は以下の通りである。なお、サセプタの傾斜角は45°とし、供給管内の基板・サセプタの総面積は、図4の通り、サセプタ領域を大きく、排出領域を狭くした。」 (6)周知例1~3の記載 ア 周知例1には「表面分析の違い2【装置の特徴・性能】」と題された表が記載されている。当該表のEDS(エネルギー分散型X線分光法)の欄には、検出元素が「B~U」、検出感度が「%オーダー」であることが記載され、同表のTOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)の欄には、検出元素が「H~U」、検出感度が「ppmオーダー」であることが記載されている。 イ 周知例2には、蛍光X線分析では「原子番号5のホウ素から原子番号92のウランまで全元素の分析が可能である。」(7頁16行)こと、及び、エネルギー分散型蛍光X線分析装置の検出下限が「~10ppm」であること(8頁図1.12)が記載されている。また、蛍光X線分析装置の1つとして、エネルギー分散型のものがあること(8頁2~3行)が記載されている。 ウ 周知例3の3頁の「分析方法による得られる情報・分析感度」と題された表には、SIMS(2次イオン質量分析法)の分析感度が「ppb、ppm」であり、XFS(蛍光X線分析法)の分析感度が「数10ppm」であることが記載されている。 (7)乙5号証の記載 乙5号証には次の記載がある。 ア“Schematic illustration of the mist CVD system is shown in Fig.1. Gallium(III) acetylacetonate and tin(II) chloride dihydrate were adopted as gallium and tin precursors, respectively.”(070203-1頁右欄13行~16行) (当審訳)ミストCVDシステムの概略図を図1に示す。ガリウム(III)アセチルアセトナート及び塩化スズ(II)二水和物を、それぞれガリウム前駆体及びスズ前駆体として用いた。 イ“Substrates were c-plane sapphire. The substrate temperature was set at 500 ℃. The growth time was kept at 30 min. As given above, in the present experiments we only changed the tin precursor concentrations in the source solutions, unchanging other growth parameters. The thicknesses of α-Ga2O3 layers were 450-550 nm, without significant influence by tin doping.”(070203-1頁右欄28行~070203-2頁左欄4行) (当審訳)基板にはc面サファイアを用いた。基板温度は500℃に設定した。成長時間は30分を保った。上述のとおり、本実験では、他の成長パラメータは変化させず、原料溶液中のスズ前駆体の濃度だけを変化させた。α-Ga2O3層の厚さは450-550nmであり、スズのドーピングによる顕著な変化はなかった。 ウ“Figure 4(b) shows the atomic densities of typical impurities (nitrogen, carbon, hydrogen, silicon, and aluminum) along the depth direction in α-Ga2O3 films for the sample grown without the intentional doping of tin. Figure 4(b) indicated that aluminum atoms were diffused from sapphire substrates and other impurities were incorporated during film fabrications. The concentrations of typical impurities existed in α-Ga2O3 films were found to be as high as 1018-1020 cm-3. To clarify the origin of these impurities is an indispensable work in order for property control of α-Ga2O3 films. At present we assume that nitrogen is form carrier gas, carbon and hydrogen from source solution, and silicon from quartz tube or silicon rubber tube used as components of the mist CVD system.”(070203-2頁右欄7行~20行) (当審訳)図4は、スズを意図的にドープせずに成長させた試料のα-Ga2O3膜における典型的な不純物(窒素、炭素、水素、シリコン、アルミニウム)の深さ方向の原子密度を示す。図4(b)から、アルミニウム原子はサファイア基板からの拡散されたものであり、その他の不純物は成膜中に取り込まれたことが示された。α-Ga2O3膜に存在する典型的な不純物の濃度が1018~1020cm-3程度であることが明らかとなった。これらの不純物の発生源を明らかにすることは、α-Ga2O3膜の特性制御のために不可欠な課題である。現時点では、窒素はキャリアガス、炭素及び水素は原料溶液、シリコンはミストCVDシステムの構成部品として用いられている石英管またはシリコンゴムチューブに由来するものと推定している。 エ“Fig.4. (Color online) Atomic densities revealed by SIMS. (a) Depth profiles of tin as a function of tin concentration in source solutions, and (b) atomic densities of typical impurities in α-Ga2O3 films for the sample grown without the intentional doping of tin.”(070203-2頁右欄、図4説明) (当審訳)図4(カラーオンライン)SIMSによって明らかにされた原子密度。(a)原料溶液中のスズ濃度に対応した深さ方向のスズのプロファイル、(b)意図的なスズドープのないα-Ga2O3膜中の典型的な不純物の原子密度。 乙5号証には、以下の図1、4が掲載されている。 [図:0001431113000003.jpg] [図:0001431113000004.jpg] 第6 当審の判断 1 引用発明の認定 上記第5、2(1)ア~オの記載から、甲1号証には次の事項が記載されていると理解できる。 ・上記第5、2(1)ア、イ、オから、甲1号証には、サファイア基板上に成膜されたα-Ga2O3薄膜が記載されている。 ・上記第5、2(1)ウから、当該α-Ga2O3薄膜は、X線回折測定による(0006)面回折ピークのロッキングカーブの半値全幅が50秒未満であることが記載されている。 ・上記第5、2(1)イ、及び表1から、当該α-Ga2O3薄膜は、水素を除き、考えられるほとんどの不純物、すなわち、C、F、Cl、Br、I、Na、Mg、K、Caの濃度が、二次イオン質量分析法(SIMS)の検出限界以下であることが記載されている。 以上によれば、甲1号証には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「α-Ga2O3薄膜であって、 X線回折測定による(0006)面回折のロッキングカーブの半値全幅が50秒(arcsec)未満であり、 二次イオン質量分析法(SIMS)において、不純物元素であるC、F、Cl、Br、I、Na、Mg、K、Caの濃度が検出限界以下である、 α-Ga2O3薄膜。」 2.技術常識の認定(EDSとSIMSの特性について) ア 上記第5、2(6)ア、イから、EDSについて以下のことが技術常識であったと理解できる。 [技術常識1]EDSでは原子番号5のボロンから原子番号92のウランまでの元素が検出可能であること。 イ また、上記第5、2(6)ア~ウから、EDSとSIMSの検出限界について以下のことが技術常識であったと理解できる。 [技術常識2]蛍光X線分析法(XFS)の一種であるEDSの検出感度が高くても10ppmオーダーであるのに対し、SIMSの検出感度がppmオーダーであること。 3 石英管の使用と不純物について (1)文献の記載 ア 甲2号証(第5、2(2))の【0082】には、実施例で用いたミストCVD装置について「供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。」との記載がある。 イ 甲3号証(第5、2(3))の【0034】には、実施例で用いたミストCVD装置について「成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより、被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。」との記載がある。 ウ 文献1(第5、2(5))の【0041】には、実施例で用いたミストCVD装置について「供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。」との記載がある。 エ 乙5号証(第5、2(7))には、石英管と石英製サセプタを用いたミストCVD装置を用いてα-Ga2O3膜を成膜したこと(第5、2(7)ア、イ、図1)、その際、原子密度が1018~1020cm-3程度のSiがα-Ga2O3膜中から検出されたこと(第5、2(7)ウ、図4(b))、当該SiはミストCVD装置を構成する石英管またはシリコンゴムチューブに由来すると推定されること(第5、2(7)ウ)が記載されている。 (2)申立人及び特許権者の主張の概要 ア 申立人は、上記(1)ア~ウから、成膜室、供給管やサセプタの部材に石英を採用することにより、装置由来の不純物が混入することを抑制することができるから、それらの部材に石英を採用した装置で成膜した酸化ガリウム半導体膜は、EDSで分析した場合に装置由来の不純物が検出されない蓋然性が極めて高い旨を主張している。 イ 特許権者は、上記(1)エから、石英製の反応炉を用いてミストCVDによりα-Ga2O3膜を成膜した場合、当該膜をEDSで測定すれば、成膜装置の石英由来のSiが検出される可能性が高い旨を主張している。 4 本件発明1について (1)本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点 本件発明1と引用発明1を対比する。 ア 引用発明1における「α-Ga2O3薄膜」は本件発明1における「酸化ガリウム薄膜」に相当する。 イ 引用発明1において「X線回折測定による(0006)面回折のロッキングカーブの半値全幅が50秒(arcsec)未満」であることは、本件発明1において「X線回折測定による(0006)面回折ピークのロッキングカーブの半値全幅が79秒以下」であることに相当する。 ウ 引用発明1において「二次イオン質量分析法(SIMS)において、不純物元素であるC、F、Cl、Br、I、Na、Mg、K、Caの濃度が検出限界以下である」ことは、本件発明1において「エネルギー分散型X線分析(EDS)において、GaとO以外の元素が検出されないものであること」に対応する。 ここで、上記[技術常識2](2.イ)によれば、SIMSはEDSよりも検出感度が高い(濃度の検出限界が低い)ことは技術常識であるから、SIMSで検出限界以下である不純物元素はEDSにおいても検出されないことが理解できる。そうすると、本件発明1と引用発明1は、「エネルギー分散型X線分析(EDS)において、C、F、Cl、Br、I、Na、Mg、K、Caが検出されないものである」点で共通するといえる。 (なお、甲1号証の表1では水素が検出されているが、そもそもEDSでは水素は検出できないから(上記2.ア[技術常識1]参照。)、この点は上記対比に影響を与えない。) そうすると、本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、以下のようになる。 [一致点] 「酸化ガリウム半導体膜であって、 X線回折測定による(0006)面回折ピークのロッキングカーブの半値全幅が79秒以下である、 酸化ガリウム半導体膜。」 [相違点1] 本件発明1では、「エネルギー分散型X線分析(EDS)において、GaとO以外の元素が検出されないものである」のに対して、引用発明1では、EDSにおいて「C、F、Cl、Br、I、Na、Mg、K、Caが検出されないものである」ことは特定されているものの、「GaとO以外の元素が検出されないものである」ことは特定されていない点。 (2)取消理由1(新規性欠如)について 上記相違点1について検討すると、申立人は、甲1号証においてサファイア基板とミストCVD成長技術を用いてα―Ga2O3を成長できることを報告した文献として11)、12)という文献が参照されていることから(第5、2(1)ア)、甲1号証では、文献11)すなわち甲7号証に記載された石英製の管状炉を用いた装置を採用していると考えるのが合理的であり、また、石英製の管状炉を採用している甲1号証の酸化ガリウム半導体膜がEDSで分析された場合、装置由来の不純物元素が検出されない蓋然性が極めて高い旨を主張している(3(2)ア)。 しかしながら、甲1号証では、4インチ(直径100mm)のサファイア基板上に成膜している(第5、2(1)ウ)のに対し、甲7号証の図1には、石英製の管状炉の高さが40mmであることが示されているから、甲1号証の成膜工程を甲7号証の装置を用いて実施したことが甲1号証に記載されていたとはいえない。したがって、上記申立人の主張は採用できない。 したがって、本件発明1と引用発明1は相違点1において相違するから、本件発明1は甲1号証に記載された発明ではない。 (3)取消理由2(進歩性欠如)について ア 上記3(1)ア~ウで示したとおり、ミストCVD装置において供給管とサセプタを石英で作製することにより、基板上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制する技術は、本件特許に係る出願の遡及出願日前に周知の技術であったといえる。また、甲7号証には、管状炉及び基板ホルダが石英製の成膜装置を用いることが記載されており、甲1号証におけるα―Ga2O3の成膜において甲7号証と同様に、管状炉及び基板ホルダが石英製の成膜装置を用いることが示唆されているといえる。 以上によれば、引用発明1のα―Ga2O3膜の成膜に当たり、使用するCVD装置として、管状炉、供給管及び基板ホルダが石英で作製された装置を採用することで、膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制することは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。 イ しかしながら、「管状炉、供給管及び基板ホルダが石英で作製された装置を採用することで、膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制する」との技術的事項の根拠となる、甲2号証、甲3号証、甲7号証及び文献1において、実験により「装置由来の不純物が混入すること」がどの程度「抑制」されるのかを定量的に示した箇所は見当たらないから、当該技術的事項と、「EDSにおいて膜中から装置由来の不純物が検出されないものであること」を、直ちに結びつけることはできない。 実際、乙5号証によれば、石英管及び石英製サセプタを用いたミストCVDにより成膜したα―Ga2O3膜の表面近傍(深さ0~50nm)とサファイア基板との界面近傍(450~500nm)において、原子密度1019~1020cm-3程度のSiがSIMSにより検出されたことが示されている。ここで、乙5号証の図4(b)において原子密度の下限として1017cm-3程度までの不純物が検出されていること、[技術常識2]からEDSの検出感度はSIMSより少なくとも1桁低いことに照らすと、原子密度1019~1020cm-3程度の不純物であれば、EDS測定によっても検出されることがあり得るといえる。すなわち、乙5号証に示された実験結果をふまえると、管状炉や基板ホルダが石英で作製されたミストCVD装置を用いてα―Ga2O3膜を成膜した場合であっても、EDS測定により膜中からSiが検出される可能性は否定できない。 したがって、引用発明1において甲2号証、甲3号証、甲7号証及び文献1に記載された技術を適用し、管状炉等が石英で作製されたミストCVD装置で酸化ガリウム半導体膜を成膜したとしても、相違点1に係る構成、すなわち「エネルギー分散型X線分析(EDS)において、GaとO以外の元素が検出されない」酸化ガリウム半導体膜が得られるとは必ずしも認められない。そうすると、上記相違点1に係る本件発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ 申立人は、以下の(ア)~(ウ)をもとに、本件特許発明1に係る「酸化ガリウム半導体」は、ミストCVD装置で得られた膜から、EDSにおいてGa及びO以外の元素が検出される部分を取り除くか、同部分をEDSによる検出対象外としている蓋然性が高く、その場合、α―Ga2O3膜からは装置由来のSiは検出されない蓋然性が高い旨主張している。 (ア)乙5号証の図4(b)は、サファイア基板との界面近傍である深さ500nmから深さ400nmの範囲で、EDSの検出限界を大きく上回るAl原子密度を示していること。 (イ)本件明細書の実施例1~12の、ミストCVD装置を用いて成膜温度500℃でサファイア基板上に成膜するとの条件は、乙5号証のものと同じであるから、本件明細書の実施例1~12においても、膜中にAl原子が拡散している蓋然性が高いこと。 (ウ)それにも関わらず、本件特許明細書【0070】には「実施例1~12においては、GaとO以外の元素は検出されず、不純物汚染は認められなかった。」と記載されていること。 しかしながら、申立人の上記主張は、本件発明1の「酸化ガリウム半導体膜」を「EDSにおいてGa及びOが検出される部分を含まない部分の膜」と限定解釈するものであるところ、そのような限定解釈は、本件の特許請求の範囲の記載や本件特許明細書の記載に基づいたものではなく、また、当該分野の技術常識であるとも認められないから、採用することはできない。 5 本件発明2~3について 上記4(3)のとおりであるから、本件発明1の構成を全て含む発明である本件発明2及び本件発明3もまた、引用発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 6 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1号証に記載された発明ではないから、取消理由1により本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、本件発明1~3は、甲1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2により本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由について (1)特許異議申立理由の概要 令和6年8月7日提出の特許異議申立書の概要は、本件特許の請求項1~8に係る特許は、以下の特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)のとおり、特許法113条2号に該当するというものである。 [申立理由1] 本件特許の請求項1、3に係る発明は、甲1号証に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであるから、特許法113条2号に該当する。 [申立理由2-1] 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法113条2号に該当する。 [申立理由2-2] 本件特許の請求項4~8に係る発明は、甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法113条2号に該当する。 (2)証拠方法 ア 特許異議申立書とともに、甲1~甲5号証が提出された。このうち、甲1~甲3号証は、上記第5、1(1)に示した文献であり、記載内容は上記第5、2(1)~(3)のとおりである。甲4号証及び甲5号証は以下のとおりである。 ・甲4号証:特開2018-70422号公報 ・甲5号証:特開2014-154734号公報 イ 甲4号証には次の記載がある。 「【請求項1】 ハロゲン化ガリウム水溶液のミストをキャリアガスとともに結晶成長部に供給し、結晶成長部で酸化ガリウムを作製する工程を含み、前記結晶成長部は周辺部と成長部を含み、成長部の温度が周辺部よりも高温であるコールドウォール構造を有する、酸化ガリウムの製造方法。」 「【0011】 ハロゲン化ガリウム水溶液中のハロゲン化ガリウムの濃度は、0.1~5mol/L程度が好ましく、1~3 mol/L程度がより好ましい。また、金属ガリウムを溶解するハロゲン化水素酸が塩酸の場合、希塩酸、濃塩酸のいずれも使用することができ、例えば1~12N(36%)の塩酸が使用できる。塩酸以外のハロゲン化水素酸も同様に希ハロゲン化水素酸と濃ハロゲン化水素酸のいずれを使用してもよい。」 「【0019】 以下に参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。 実施例1 塩酸に金属ガリウムを入れると、金属ガリウムが溶け、1-2週間程度室温で放置することで1-3 mol/Lのガリウムを含む水溶液を作ることができた。これを水で希釈して0.1-0.01 mol/Lの水溶液とし、ガリウムに対して1-3 atom%程度の塩化スズ(無水)をn型不純物として添加した。図1に示す装置にて、この水溶液をドライミスト化して、周辺部300℃、結晶成長部500℃とした横型炉内で,基体に酸化アルミナ単結晶基板を用いて結晶成長を行ったところ、面内で均一なキャリア密度をもつn型酸化ガリウムを作製できた。 実施例2 塩化スズを添加しない以外は実施例1と同様にして、不純物を実質的に含まず、測定限界を超えた高抵抗な酸化ガリウム結晶の膜を酸化アルミナ単結晶基板上に作製できた。」 ウ 甲5号証には次の記載がある。 「【0074】 次いで、下記表6の作製条件でミストCVD法により、上記方法にて形成したゲート絶縁膜上にチャネル層(活性層)(IGZO)を作製した。その後フォトレジストによりチャネル層(活性層)をパターン形成した。尚、これまでのプロセスによるパターン形成は全てウェットエッチングを用いた。その後、スパッタリングでソース・ドレイン(酸化インジウム錫(ITO))電極を配線した。この時ソース・ドレイン電極はリフトオフプロセスによりパターン形成した。 最後にチャネル層(活性層)を還元処理するために、H2とN2の混合ガス雰囲気(H2(5%)+N2)下350℃にて1時間熱処理をした。 【0075】 【表6】 [図:0001431113000005.jpg] 」 (3)申立理由についての判断 上記申立理由のうち、申立理由1についての判断は、上記4(2)に示したとおりである。なお、本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の請求項1を引用する発明であり、当該発明は甲1号証に対し新規性を有することは上記4(2)で述べたとおりであるから、本件特許の請求項3に係る発明が新規性を有することは明らかである。したがって、申立理由1によって本件特許の請求項1、3に係る特許を取り消すことはできない。 また、上記申立理由のうち、申立理由2-1についての判断は、上記4(3)及び5に示したとおりであり、申立理由2-1によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 そして、以下に示すとおり、申立理由2-2によっては、本件特許の請求項4~8に係る特許を取り消すことはできない。 ア 甲1号証(第5、2(1)ア、イ)には、α―Ga2O3膜をミストCVDで成膜する際に、ハロゲン化ガリウム源を用いることが記載されている。そうすると、甲1号証には、α―Ga2O3膜をミストCVDで成膜する際の原料溶液の発明として次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「α―Ga2O3膜をミストCVDで成膜する際の原料溶液であって、 ハロゲン化ガリウム源を含む原料溶液。」 イ 本件発明4と引用発明2を比較すると、両者は 「原料溶液を霧化又は液滴化して生成されたミストを、キャリアガスを用いて搬送し、前記ミストを加熱して、基体上で前記ミストを熱反応させて酸化ガリウム半導体膜の成膜を行うための原料溶液であって、 金属元素としてガリウムを含む、原料溶液。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点2]本件発明4は「原料溶液中の水素イオン濃度が、1×10-12~1×10-2mol/L」であるのに対し、引用発明2ではそのことが特定されていない点。 [相違点3]本件発明4は、「原料溶液」が「酸及び/又は塩基を含み、該塩基はアンモニアを含むものである」のに対し、引用発明2ではそのことが特定されていない点。 ウ 上記相違点2について検討すると、甲4号証及び甲5号証には、原料溶液中の水素イオン濃度の範囲として「1×10-12~1×10-2mol/L」との範囲は記載されておらず、また、そのような範囲とする示唆も無い。加えて、甲5号証(表6)には、ガリウムアセチルアセトナートを含む溶質を蒸留水とメタノールを10:90で混合した溶媒に希釈した原料溶液が記載されているところ、甲1号証は、ガリウムアセチルアセトナートに代えて炭素フリーであるガリウムハライドを用いる点が改善点として記載されているから(第5、2(1)イ)、ガリウムアセチルアセトナートを用いる甲5号証を甲1号証に適用することには阻害要因がある。 エ そうすると、相違点3について検討するまでもなく、本件発明4は甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。また、本件発明5~8は、本件発明4の構成を全て含む発明であるから、同様にして甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に相当し得たものではない。 したがって、本件発明4~8は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明ではないから、本件の請求項4~8に係る特許は、特許法113条2号に該当するものではない。 第7 結言 以上のとおり、本件特許の請求項1~8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700745

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