特許異議申立
2025-700633
保持装置および静電チャック
- 審判番号
- 2025-700633
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-102267
- 登録番号
- 7603108
- 請求日
- 2025年06月16日
- 審決日
- 2025年09月24日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本特殊陶業株式会社
- 【権利者代理人】田邊 淳也
- 【権利者代理人】木村 祐介
- 【異議申立人】田中 康司
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 松永 稔
- 審判官 綿引 隆
- 分類
- P1651.113-Y (H01L) / P1651.121-Y (H01L) / P1651.537-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7603108号発明「保持装置および静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7603108号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7603108号の請求項1~13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和5年6月22日に出願され、令和6年12月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年6月16日に特許異議申立人 田中 康司(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。(令和7年6月16日に申立人により提出された特許異議申立書を以下「申立書」という。)
第2 本件発明
特許第7603108号の請求項1~13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明13」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)および前記条件(C)を満たしており、
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。
条件(B):前記接合層のうち前記保持部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第1割合とし、前記接合層のうち前記ベース部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第2割合とし、前記接合層のうち前記接合層の厚み方向における中央から前記保持部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲および前記中央から前記ベース部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第3割合としたとき、前記第1割合を前記第3割合で除した値と、前記第2割合を前記第3割合で除した値と、のうち少なくとも一方は、0.5以上であること。
条件(C):前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーが含まれていることを特徴とする、保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーが含まれていることを特徴とする、保持装置。
【請求項3】
請求項2に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、前記平均粒径よりも粒径が小さい小径フィラーが含まれていることを特徴とする、保持装置。
【請求項4】
請求項3に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、前記大径フィラーの断面積の総和は、前記小径フィラーの断面積の総和よりも大きいことを特徴とする、保持装置。
【請求項5】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーが含まれていることを特徴とする、保持装置。
【請求項6】
請求項5に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーの断面積の総和は、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーの断面積の総和よりも大きいことを特徴とする、保持装置。
【請求項7】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分と前記ベース部材のうち前記接合層に接合された部分とのうち少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも深く窪んだ窪み部が形成され、
前記窪み部の深さは前記平均粒径よりも大きく、かつ、前記窪み部は前記接合層で埋められており、
前記窪み部を画定している面には、前記フィラーの平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーが接触していることを特徴とする、保持装置。
【請求項8】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記保持装置は、少なくとも前記条件(A)を満たしており、
前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分と前記ベース部材のうち前記接合層に接合された部分とのうち少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも深く窪んだ窪み部が形成され、
前記窪み部の深さは前記平均粒径よりも大きく、かつ、前記窪み部は前記接合層で埋められており、
前記窪み部を画定している面には、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーが接触していることを特徴とする、保持装置。
【請求項9】
保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)を満たしており、
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。
条件(B):前記接合層のうち前記保持部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第1割合とし、前記接合層のうち前記ベース部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第2割合とし、前記接合層のうち前記接合層の厚み方向における中央から前記保持部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲および前記中央から前記ベース部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第3割合としたとき、前記第1割合を前記第3割合で除した値と、前記第2割合を前記第3割合で除した値と、のうち少なくとも一方は、0.5以上であること。
条件(C):前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、前記平均粒径よりも粒径が小さい小径フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、前記大径フィラーの断面積の総和は、前記小径フィラーの断面積の総和よりも大きいことを特徴とする、保持装置。
【請求項10】
保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)を満たしており、
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。
条件(B):前記接合層のうち前記保持部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第1割合とし、前記接合層のうち前記ベース部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第2割合とし、前記接合層のうち前記接合層の厚み方向における中央から前記保持部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲および前記中央から前記ベース部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第3割合としたとき、前記第1割合を前記第3割合で除した値と、前記第2割合を前記第3割合で除した値と、のうち少なくとも一方は、0.5以上であること。
条件(C):前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーの断面積の総和は、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーの断面積の総和よりも大きいことを特徴とする、保持装置。
【請求項11】
保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)を満たしており、
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。
条件(B):前記接合層のうち前記保持部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第1割合とし、前記接合層のうち前記ベース部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第2割合とし、前記接合層のうち前記接合層の厚み方向における中央から前記保持部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲および前記中央から前記ベース部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第3割合としたとき、前記第1割合を前記第3割合で除した値と、前記第2割合を前記第3割合で除した値と、のうち少なくとも一方は、0.5以上であること。
条件(C):前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。
前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分と前記ベース部材のうち前記接合層に接合された部分とのうち少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも深く窪んだ窪み部が形成され、
前記窪み部の深さは前記平均粒径よりも大きく、かつ、前記窪み部は前記接合層で埋められており、
前記窪み部を画定している面には、前記フィラーの平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーが接触していることを特徴とする、保持装置。
【請求項12】
保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)を満たしており、
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。
条件(B):前記接合層のうち前記保持部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第1割合とし、前記接合層のうち前記ベース部材との界面から1μm以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第2割合とし、前記接合層のうち前記接合層の厚み方向における中央から前記保持部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲および前記中央から前記ベース部材の側へ前記接合層の厚みの30%以下の範囲に占める前記フィラーの断面積の総和の割合を第3割合としたとき、前記第1割合を前記第3割合で除した値と、前記第2割合を前記第3割合で除した値と、のうち少なくとも一方は、0.5以上であること。
条件(C):前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。
前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分と前記ベース部材のうち前記接合層に接合された部分とのうち少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも深く窪んだ窪み部が形成され、
前記窪み部の深さは前記平均粒径よりも大きく、かつ、前記窪み部は前記接合層で埋められており、
前記窪み部を画定している面には、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーが接触していることを特徴とする、保持装置。
【請求項13】
静電チャックであって、
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の保持装置と、
前記保持面に静電引力を発生させる静電電極と、を備えることを特徴とする、静電チャック。」
第3 申立理由の概要
申立人は、下記甲第1号証、甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)を証拠方法とし、以下の申立理由1~2により、本件特許を取り消すべきものである旨申し立てた。
甲1: 特開2011-222978号公報
甲2: 特開平2-27748号公報
1 申立理由1(新規性・進歩性欠如)
本件発明1~13は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、または、甲1に記載された発明等に基づいて 、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~13に係る特許は、同法第113条第2号により取消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件違反)
本件発明1~13は、特許法第36条第6項第1号を満たしていないから、本件の請求項1~13に係る特許は、同法第113条第4号により取消されるべきものである。
第4 申立理由1、2の検討
1 申立理由1(新規性・進歩性欠如)
(1) 引用発明について
ア 甲1の記載
甲1には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために、当審において付加した。)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
被処理基板を真空チャンバ内で処理するプロセスにおいて、被処理基板を保持固定する手段として静電チャックが用いられる。近年、タクトタイムの短縮目的のために、高密度プラズマを用いるプロセスが一般化している。このため、高密度プラズマから被処理基板へ流入する熱流束を効率よく静電チャック外に除去する方法が要求されている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ヒータを厚いセラミック板で挟みこむと、被処理基板から金属ベース基板(以下、温調プレート)までの距離が長くなり、かつ、接合剤の層数が多くなるため、冷却性能が低下してしまう。また、ヒータの上下に厚いセラミック板が配置されるため、静電チャックの熱容量が大きくなり、加熱時のレスポンスも悪くなってしまう。
【0008】
このような問題を解決するためには、セラミック板の厚み、接合剤の層数を減らす必要がある。しかし、ヒータを薄いセラミック板と温調プレートで挟み込み、これらを熱伝導フィラーを混合分散させた単層の接合剤によって接着すると、ヒータを介してセラミック板に接着圧力が集中し、セラミック板にクラックが発生する場合がある。
【0009】
本発明の課題は、セラミック板のクラック発生を抑制しつつ、被処理基板の急速な加熱冷却が可能な静電チャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、静電チャックに関し、主面に凹部が設けられ、内部に電極が設けられたセラミック板と、前記セラミック板に接合された温調プレートと、前記セラミック板と前記温調プレートとの間に設けられた第1の接合剤と、前記セラミック板の前記凹部内に設けられたヒータと、を備え、前記第1の接合剤は、有機材料を含む第1の主剤と、無機材料を含む第1の無定形フィラーと、無機材料を含む第1の球形フィラーと、を有し、前記第1の主剤中には、前記第1の無定形フィラーと、前記第1の球形フィラーとが分散配合され、前記第1の主剤、前記第1の無定形フィラー、および前記第1の球形フィラーは、電気絶縁性材料からなり、前記第1の球形フィラーの平均直径は、全ての前記第1の無定形フィラーの短径の最大値よりも大きく、前記第1の接合剤の厚さは、前記第1の球形フィラーの平均直径と同じか、もしくは大きく、前記凹部の幅は、前記ヒータの幅より広く、前記凹部の深さは、前記ヒータの厚さより深く、前記凹部内に前記ヒータが第2の接合剤により接着され、前記ヒータの前記温調プレート側の主面と、前記温調プレートの主面との間の第1の距離が、前記セラミック板の前記主面と、前記温調プレートの主面と、の間の第2の距離よりも長いことを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0013】
さらに、第1の球形フィラーの平均直径は、全ての第1の無定形フィラーの短径の最大値よりも大きい。このため、第1の球形フィラーによって第1の接合剤の厚さを第1の球形フィラーの平均直径と同じか、もしくは平均直径よりも大きく制御することができる。これにより、第1の接合剤のホットプレス硬化時には、無定形フィラーによってセラミック板に局部的な応力が印加されず、セラミック板のクラック発生を防止することができる。
【0014】
また、ヒータの温調プレート側の主面と、温調プレートの主面との間の第1の距離が、セラミック板の凹部間のセラミック板の主面と、温調プレートの主面との間の第2の距離よりも長いので、球形フィラーによってヒータにホットプレス硬化時の圧力が伝導し難くなる。このため、ホットプレス硬化時の圧力がヒータを介し、凹部内の薄厚のセラミック板に伝導することもなく、セラミック板のクラック発生が防止される。また、ヒータの上下には、第1の接合剤と第2の接合剤が存在するので、ヒータが急速に伸縮しても、セラミック板には、ヒータによる応力が伝わり難い。その結果、セラミック板の割れ発生が抑制される。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0065】
本発明によれば、セラミック板のクラック発生を抑制しつつ、被処理基板の急速な加熱冷却が可能な静電チャックが実現する。
・・・(中略)・・・
【0067】
以下に、具体的な実施の形態を図面を参照しつつ説明する。以下に説明する実施の形態には、上述した課題を解決するための手段の内容も含まれる。
【0068】
最初に、本発明の実施の形態で使用される語句について説明する。
(セラミック板)
セラミック板とは、被処理基板が載置される静電チャックのステージである。セラミック板においては、その材質がセラミック焼結体であり、厚さが均一に設計されている。セラミック板の主面の平面度においては、所定の範囲内に設計されている。それぞれの厚さが均一、またはそれぞれの主面の平面度が確保されていれば、接合剤のホットプレス硬化時にセラミック板に局所的な応力が印加され難い。また、セラミック板と温調プレートに挟まれた接合剤の厚さを球形フィラーの平均直径によって制御できる。
・・・(中略)・・・
【0072】
(無定形フィラー)
無定形フィラーは、接合剤の熱伝導率の増加を図るための添加材である。このため、その形状は、無定形であることが好ましい。接合剤の主剤と無定形フィラーを混合分散させた接合剤では、主剤のみの接合剤に比べ、熱伝導率が高くなる。例えば、接合剤の主剤単体では、熱伝導率が0.2(W/mK)程度であったのに対して、シリコーン主剤とアルミナ無定形フィラーを混合した場合、熱伝導率が0.8~1.7(W/mK)まで増加する。また、接合剤の主剤への充填率を向上するため、2種類以上の平均径の無定形フィラーを混合分散させてもよい。無定形フィラーの材質は、無機材料である。具体的な材質としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、シリカ等が該当する。無定形フィラーと接合剤の主剤との親和性を高めるために、無定形フィラー表面を処理する場合もある。無定形フィラーの重量濃度は、接合剤の主剤に対し、70~80(wt%)である。
・・・(中略)・・・
【0074】
球形フィラーの「球形」とは、真球状のみならず、真球状に近似した形状、すなわち、全体の90%以上の粒子が形状因子1.0~1.4の範囲にあるものをいう。ここで、形状因子とは、顕微鏡で拡大し観察した数百個(例えば、200個)の粒子の長径と、長径に直交する短径の比の平均値より算出される。したがって、完全な球形粒子のみであれば形状因子は1.0であり、この形状因子が1.0から外れるほど非球形となる。また、ここでいう無定形とは、この形状因子1.4を超えるものをいう。
・・・(中略)・・・
【0094】
次に、本実施の形態に係る静電チャックの構成について説明する。上述した語句の説明と重複する内容については、適宜省略する。
図1(a)は、静電チャックの要部断面模式図であり、(b)は、(a)の矢印Aで示す部分の拡大図であり、(c)は、(b)の矢印Bで示す部分の拡大図である。
【0095】
最初に、静電チャック1の概要について説明する。
静電チャック1は、セラミック板10と、セラミック板10に接合された温調プレート30と、セラミック板10と温調プレート30との間に設けられた第1の接合剤40と、セラミック板10の凹部11内に設けられたヒータ12と、を備える。セラミック板10の凹部11は、セラミック板10の主面(下面側)に設けられている。セラミック板10の内部には、電極13が設けられている。
【0096】
接合剤40は、有機材料を含む第1の主剤41と、無機材料を含む第1の無定形フィラー43と、無機材料を含む第1の球形フィラー42と、を有する。主剤41中には、無定形フィラー43と、球形フィラー42とが分散配合され、主剤41、無定形フィラー43、および球形フィラー42は、電気絶縁性材料である。球形フィラー42の平均直径は、全ての無定形フィラー43の短径の最大値(例えば、60μm)よりも大きい。接合剤40の厚さは、球形フィラー42の平均直径と同じか、もしくは大きい。凹部11の幅は、ヒータ12の幅より広く、凹部11の深さは、ヒータ12の厚さより深い。
・・・(中略)・・・
【0106】
凹部11内には、ヒータ12が第2の接合剤50により接着されている。接合剤50は、凹部11の底面11bと、ヒータ12との間に設けられている。接合剤50の詳細については後述する。
【0107】
ヒータ12の温調プレート30側の主面12aと、温調プレート30の主面30aとの間の第1の距離は、セラミック板10の凹部11間の凸部15の頂面15aと、温調プレート30の主面30aとの間の第2の距離よりも長い。凸部15の頂面15aは、セラミック板10の温調プレート30側の主面である。以下、この実施の形態では、セラミック基板10の主面を、凸部15の頂面15aという用語を用いて説明する。
【0108】
静電チャック1の構成について詳細に説明する。
セラミック板10は、体積抵抗率(20℃)が1014Ω・cm以上のクーロン型素材である。セラミック板10がクーロン型素材であるので、被処理基板の処理中に温度を変化させても、被処理基板の吸着力や、被処理基板の離脱応答性が安定する。また、その直径は、300mmであり、厚みは、1~4mmである。セラミック板10の内部には、セラミック板10の主面に沿うように電極13が設けられている。セラミック板10は、電極13とともに一体焼結して形成される。電極13に電圧を印加すると、セラミック板10が静電気を帯びる。これにより、被処理基板をセラミック板10上に静電吸着することができる。電極13の総面積は、セラミック板10の主面の面積の70%~80%である。電極13の厚みは、例えば、0.8μmである。
・・・(中略)・・・
【0110】
凹部11の深さは、例えば、130μmである。凹部11の幅は、例えば、2.4mmである。従って、ヒータ12の温調プレート側の主面12aは、凸部15の頂面15aよりもセラミック板10側に、30μm程度、引き込まれている。なお、凹部11の角には、R加工が施されている。凹部11内の角のR加工寸法は、半径0.27mmである。
・・・(中略)・・・
【0112】
接合剤40は、主剤41と、球形フィラー42と、無定形フィラー43と、を有する。接合剤40は、真空接着、ホットプレス硬化等により、セラミック板10と、温調プレート30との間に形成される。主剤41には、例えば、球形フィラー42と、無定形フィラー43とが混合分散されている。無定形フィラー43の濃度は、接合剤40の80wt%程度である。球形フィラー42の平均直径は、およそ100μmであり、より詳細には、90%径が97.5μm、50%径が100.2μm、10%径が104.3μmである。球形フィラー42の平均直径を100μmにすることにより、全ての無定形フィラー43の短径の最大値(60μm)よりも球形フィラー42の平均直径が大きくなる。静電チャック1では、ヒータ12が設けられたセラミック板10と、温調プレート30とを対向させて、それぞれを接合剤40で接着して一体化することで、ヒータ12周囲の電気絶縁性を確保することができる。
・・・(中略)・・・
【0133】
このように、球形フィラー42の平均直径を、全ての無定形フィラー43の短径の最大値よりも大きくすると、球形フィラー42によって接合剤40の厚さを球形フィラー42の平均直径と同じか、もしくは平均直径よりも大きくすることができる。その結果、接合剤40のホットプレス硬化時には、無定形フィラー43によってセラミック板10に局部的な応力が印加され難くなり、セラミック板10のクラック発生を防止することができる。
【0134】
また、本実施の形態では、球形フィラー42の平均直径が無定形フィラー43の短径の最大値よりも10μm以上大きく構成されている。球形フィラー42の平均直径を無定形フィラー43の短径の最大値よりも10μm以上大きくすると、接合剤40のホットプレス硬化時には、接合剤40の厚さが無定形フィラー43の大きさではなく、球形フィラー42の平均直径で制御される。これは、ホットプレス硬化時に、球形フィラー42がセラミック板10の凸部15の頂面15aに接触するからである。さらに、ヒータ12の温調プレート側の主面12aが凸部15の頂面15aよりもセラミック板10側に引き込まれているからである。
【0135】
すなわち、ホットプレス硬化時において、無定形フィラー43および球形フィラー42によって、セラミック板10にヒータ12を介して局所的な応力が印加され難くなる。これにより、セラミック板10のクラック発生を防止することができる。
・・・(中略)・・・
【0166】
【表7】(省略)
図4は、接合剤の断面SEM像であり、(a)は、球形フィラーおよび無定形フィラーが混合分散された接合剤の断面SEM像であり、(b)は、無定形フィラーが混合分散された接合剤の断面SEM像であり、(c)は凹部の断面SEM像である。断面SEM像の視野は、800倍である。
【0167】
図4(a)に示す接合剤40においては、球形フィラー42および無定形フィラー43が主剤41内に混合分散されている。接合剤40の上下には、セラミック板10、温調プレート30が観察される。このSEM像では、球形フィラー42は、セラミック板10の下面と、温調プレート30の上面に到達していないが、これは、球形フィラー42が最大径より手前側(あるいは奥側)で切断されたためである。球形フィラー42の径は、およそ70μmである。
【0168】
図4(b)に示す接合剤40には、球形フィラー42が分散されていない。すなわち、セラミック板10と温調プレート30との間に、主剤41と、無定形フィラー43のみが観察される。断面SEM像から、無定形フィラー43の短径の最大値を測定した結果を表8に示す。
【0169】
【表8】
[図:0001428023000001.jpg]
表8から、無定形フィラー43の短径の最大値は、9.73μm~26.73μmの範囲でばらついている。球形フィラー42の平均直径は、70μmなので、球形フィラーの平均直径は、全ての無定形フィラー43の短径の最大値よりも大きいことが分かる。
【0170】
また、図4(c)に示す凹部11の断面から、凹部11の深さは、100μmで、角17のR加工の半径がおよそ0.27mmであることが分かる。
【0171】
なお、図5は、無定形フィラーの短径を説明する図である。
無定形フィラー43の短径とは、無定形フィラー43の長手方向(矢印C)に直交する短手方向の長さである。例えば、図中のd1、d2、d3等が該当する。短径の最大値とは、複数ある全ての無定形フィラー43の短径のうちの最大の短径値をいう。」
「【図1】
[図:0001428023000002.jpg]
」
「【図4】
[図:0001428023000003.jpg]
【図5】
[図:0001428023000004.jpg]
」
イ 引用発明
上記アによると、甲1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。(括弧内は引用元の段落番号等を示す。)
「被処理基板を保持固定する手段として用いられる(段落0002)、セラミック板10と、セラミック板10に接合された温調プレート30と、セラミック板10と温調プレート30との間に設けられた第1の接合剤40と、セラミック板10の凹部11内に設けられたヒータ12と、を備える静電チャック1(段落0095)であって、
セラミック板は、被処理基板が載置される静電チャックのステージであり(段落0068)、被処理基板をセラミック板10上に静電吸着することができ(段落0108)、
温調プレートは、金属ベース基板であり(段落0007)、
接合剤40は、有機材料を含む第1の主剤41と、無機材料を含む第1の無定形フィラー43と、無機材料を含む第1の球形フィラー42と、を有し、主剤41中には、無定形フィラー43と、球形フィラー42とが分散配合され(段落0096)、
凹部11内には、ヒータ12が第2の接合剤50により接着され(段落0106)、
凹部11の深さは、例えば、130μmであり(段落0110)、
無定形フィラー43の濃度は、接合剤40の80wt%程度であり、全ての無定形フィラー43の短径の最大値は60μmであり(段落0112)、
球形フィラー42の平均直径を無定形フィラー43の短径の最大値よりも10μm以上大きくし、球形フィラー42がセラミック板10の凸部15の頂面15aに接触することにより、接合剤40の厚さが無定形フィラー43の大きさではなく、球形フィラー42の平均直径で制御され(段落0134)
形状因子とは、顕微鏡で拡大し観察した数百個(例えば、200個)の粒子の長径と、長径に直交する短径の比の平均値より算出され、無定形とは、この形状因子1.4を超えるものをいう(段落0074)、
静電チャック1。」
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明を対比する。
(ア) 保持装置について
a 引用発明の「静電チャック1」は、「被処理基板を保持固定する手段として用いられる」から、引用発明は「保持装置」に係る発明といえる点で本件発明1と共通する。
b 引用発明の「セラミック板10」は、被処理基板を固定保持するために、その上に被処理基板を静電吸着することができる面を有するといえるから、本件発明1の「対象物を保持する保持面を有する保持部材」に相当する。
c 引用発明の「セラミック板10と温調プレート30との間に設けられた第1の接合剤40」は、「有機材料を含む第1の主剤41と、無機材料を含む第1の無定形フィラー43と、無機材料を含む第1の球形フィラー42と」を有するものであるから、本件発明1の「前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層」に相当する。
d 引用発明の「温調プレート」は、「金属ベース基板」であり、図1(a)からセラミック板10の被処理基板が載置される面とは反対側に配置されることが見て取れるから、本件発明1の「前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材」に相当する。
e 小括
以上を踏まえると、引用発明は、「保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え」る「保持装置」である点で、本件発明1と共通する。
(イ) 条件(A)について
a 球形フィラー42について
引用発明は、「球形フィラー42がセラミック板10の凸部15の頂面15aに接触することにより、接合剤40の厚さが無定形フィラー43の大きさではなく、球形フィラー42の平均直径で制御され」るから、引用発明の「球形フィラー42」は、セラミック板10と温調プレート30の両方に接触するものが存在すると推認できるが、セラミック板10と温調プレート30とのいずれか一方のみと接触するものが存在するかは明らかでない。
b 無定形フィラー43について
引用発明において、「主剤41中には、無定形フィラー43と、球形フィラー42とが分散配合され」、及び「無定形フィラー43の濃度は、接合剤40の80wt%程度」であることを踏まえれば、引用発明の「無定形フィラー43」は、温調プレート30と接触するものが存在すると推認できる。
また、引用発明は、「凹部11内には、ヒータ12が第2の接合剤50により接着され」ているから、セラミック板10の凹部11内に、接合剤40が有する無定形フィラー43が接触することはないが、セラミック板10の凸部15の頂面15a付近に接触するものが存在するとも推認できる。
そうすると、引用発明の「無定形フィラー43」のうち、セラミック板10の凸部15の頂面15a付近に接触しているものは、本件発明1の「前記保持部材に接触している第1フィラー」に相当し、また、温調プレート30に接触しているものは、本件発明1の「前記ベース部材に接触している第2フィラー」に相当するから、引用発明は、「前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。」との条件(A)を満たす点で、本件発明1と一致する。
(ウ) アスペクト比が1.4未満のフィラーについて
引用発明の「形状因子」は、「顕微鏡で拡大し観察した数百個(例えば、200個)の粒子の長径と、長径に直交する短径の比の平均値より算出され、無定形とは、この形状因子1.4を超えるもの」であるから、アスペクト比の平均値といえる。
そうすると、引用発明の無定形フィラー43は、そのアスペクト比の平均値が1.4を超えるといえるが、アスペクト比が1.4未満のものを含むか明らかでない。
また、甲1の段落0072の「無定形フィラーは、接合剤の熱伝導率の増加を図るための添加材である。このため、その形状は、無定形であることが好ましい。」との記載によると、あえて、アスペクト比が1.4未満のものを含むものとする理由もない。
加えて、引用発明の「無定形フィラー43」のうち、「セラミック板10の凸部15の頂面15a付近に接触するもの」、又は、「温調プレート30と接触するもの」が、アスペクト比が1.4未満のものを含むかについても明らかでない。
(エ) 一致点・相違点
以上を踏まえると、本件発明1と引用発明とは次の点で一致し、相違する。
a 一致点
「保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)を満たしている保持装置。
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。」
b 相違点1
本件発明1が、「条件(C):前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。」を満たし、「前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーが含まれている」ことを特定しているのに対し、引用発明の「無定形フィラー43」のうち、「セラミック板10の凸部15の頂面15a付近に接触するもの」、又は、「温調プレート30と接触するもの」が、アスペクト比が1.4未満のものを含むか明らかでない点。(以下「相違点1」という。)
(オ) 相違点1についての申立人の主張
a 申立人は、相違点1について、申立書27ページ11行~28ページ6行、28ページ16~23行において次の主張をする。
(a) 「また、甲第1号証の段落0168に、「図4(b)に示す接合剤40には、球形フィラー42が分散されていない。すなわち、セラミック板10と温調プレート30との間に、主剤41と、無定形フィラー43のみが観察される。」と記載されているように、図4(b)に示される接合剤40の断面においては、ほぼ全てのフィラーが、上記のような形状の無定形フィラー43となっている。ただし、当該断面には、アスペクト比が明らかに1.4よりも小さくなっているフィラーも、僅かではあるが一定の割合で含まれていることが見て取れる。下記の図(A)は、甲第1号証の図4(b)において、アスペクト比が1.4よりも小さくなっている複数のフィラーのうちの一部に対し申立人が矢印を付したものである。
[図:0001428023000005.jpg]
上記の図Aからも明らかなように、甲第1号証に記載の静電チャック1の接合剤40においては、アスペクト比が1.4以上のフィラーと、アスペクト比が1.4未満のフィラーと、の両方が含まれている。また、アスペクト比が1.4以上のフィラーは、アスペクト比が1.4未満のフィラーよりも明らかに多くなっている。このため、甲第1号証に記載の静電チャック1(保持装置)は条件(C)をも満たしている。」
(b) 「上記の(イ)でも述べたように、甲第1号証に記載の静電チャック1の接合剤40においては、アスペクト比が1.4以上のフィラーと、アスペクト比が1.4未満のフィラーと、の両方が含まれている。また、甲第1号証の図4(b)を見れば明らかなように、アスペクト比が1.4未満のフィラーが、接合剤40とセラミック板10との界面から0.5μm以下の範囲内や、接合剤40と温調プレート30との界面から0.5μm以下の範囲内を含む、接合剤40の各部において分散配合されていることは明らかである。」
b しかしながら、甲1の段落0008~0014の記載によると、引用発明は、「ヒータを薄いセラミック板と温調プレートで挟み込み、これらを熱伝導フィラーを混合分散させた単層の接合剤によって接着」した静電チャックについて、「ヒータを介してセラミック板に接着圧力が集中」することによる「セラミック板のクラック発生を抑制しつつ、被処理基板の急速な加熱冷却が可能な静電チャックを提供すること」との課題を、セラミック板10が、凹部11及び凸部15を有し、凹部11内にヒータ12を第2の接合剤50により接着し、接合剤40が無定形フィラー43に加え、その平均直径が無定形フィラーの短径の最大値よりも大きな第1の球形フィラー42を有することにより解決するものであるところ、甲1の図4(b)には、これらの構成が示されていない。
そうすると、甲1の図4(b)は、その段落0168に記載されたとおり、単に、無定形フィラー43の短径の最大値を計測するための断面SEM像であって、引用発明を直接表すものとはいえないから、申立人の、甲1の図4(b)に基づく主張は採用できない。
なお、申立人は、上記a(a)にて、「ただし、当該断面には、アスペクト比が明らかに1.4よりも小さくなっているフィラーも、僅かではあるが一定の割合で含まれていることが見て取れる。下記の図(A)は、甲第1号証の図4(b)において、アスペクト比が1.4よりも小さくなっている複数のフィラーのうちの一部に対し申立人が矢印を付したものである。」とも主張するが、図(A)において、矢印が付されたフィラーのアスペクト比は、明らかでないから、この点についての申立人の主張も採用できない。
また、仮に、アスペクト比が1.4未満のフィラーが存在したとしても、接合剤40とセラミック板10との界面から0.5μm以下の範囲内や、接合剤40と温調プレート30との界面から0.5μm以下の範囲内を含む、接合剤40の各部において分散配合されていることも明らかでない。
したがって、相違点1は実質的なものであるから、本件発明1は引用発明ではない。
イ 相違点1の判断
(ア) 申立人の主張
申立人は、申立書48ページ下から7行~49ページ8行にて、さらに次の主張をする。
「仮に、本件特許発明と、甲第1号証に記載された発明と、の間に相違点が存在したとしても、当該相違点は、技術常識や周知技術等に基づいて当業者が容易に想到し得た程度のものに過ぎない。
更に言えば、例えば甲第2号証(特開平2-27748号公報)に、「これ等第1及び第2の接着層には、アルミナ、ほう化ジルコニウム、窒化硼素、シリカ等の熱伝導性を高めることができる粒径5μm以下のフィラーを、固形分比で5~80%分散させて用いると、より効果的である。」(4頁右上欄1行乃至5行)などと記載されているように、静電チャックの接合層に、その熱伝導性を高めることを目的としてフィラーを含ませておくことは、本件特許の出願時における周知技術である。このため、接合層の熱伝導性を考慮して、フィラーの粒径や含有量等を調整することは、当業者によって適宜なされる設計事項に過ぎない。本件特許の特許請求の範囲には、これまでに述べた通り多数の要件が記載されてはいるが、これらはいずれも、上記のような設計事項の範囲を超えるものではない。」
(イ) しかしながら、甲1の段落0072の「無定形フィラーは、接合剤の熱伝導率の増加を図るための添加材である。このため、その形状は、無定形であることが好ましい。」との記載によると、あえて、引用発明の無定形フィラー43を、アスペクト比が1.4未満のものを含むものとする理由はなく、加えて、相違点1に係る本件発明1の構成については、甲1、甲2のいずれにも記載も示唆もされていないから、本件発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
上記アのとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明に記載されたものではなく、また、上記イのとおり、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 本件発明9について
ア 対比
上記(2)アと同様に、本件発明9と引用発明とを対比すると、両者は上記(2)ア(エ)aの点で一致し、以下の点で相違する。
本件発明9が、「前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、前記フィラーの平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、前記平均粒径よりも粒径が小さい小径フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、前記大径フィラーの断面積の総和は、前記小径フィラーの断面積の総和よりも大きい」ことを特定しているのに対し、引用発明がこのような点を特定していない点(以下、「相違点9」という。)。
(ア) 相違点9についての申立人の主張
申立人は、相違点9の「前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、前記大径フィラーの断面積の総和は、前記小径フィラーの断面積の総和よりも大きい」との構成について、申立書41ページ4~12行で、申立書31ページ3行~34ページ14行(図B)を引用して、甲1の図4(b)に基づき、「平均粒径」、「平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーの断面積の総和」、「平均粒径よりも粒径が小さいフィラーの断面積の総和」を算出し、「前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、前記大径フィラーの断面積の総和は、前記小径フィラーの断面積の総和よりも大きい」ことは甲1に記載されていると主張する。
[図:0001428023000006.jpg]
しかしながら、申立人が算出した「平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーの断面積の総和」、「平均粒径よりも粒径が小さいフィラーの断面積の総和」は、図Bの全体について求めたものであって、セラミック板10又は温調プレート30のいずれにも接触していない無定形フィラー43を含むから、申立人の主張は採用できない。
イ 相違点9の判断
相違点9に係る本件発明9の構成については、甲1、甲2のいずれにも記載も示唆もされていないから、本件発明9は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明9についてのまとめ
上記アのとおり、本件発明9は、甲1に記載された発明に記載されたものではなく、また、上記イのとおり、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4) 本件発明10について
ア 対比
上記(2)アと同様に、本件発明10と引用発明とを対比すると、両者は上記(2)ア(エ)aの点で一致し、以下の点で相違する。
本件発明10が、「前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーが含まれており、
前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方において、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーの断面積の総和は、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーの断面積の総和よりも大きい」を特定しているのに対し、引用発明がこのような特定をしていない点(以下「相違点10」という。)。
(ア) 相違点10についての申立人の主張
申立人は、相違点10の「前記第1フィラーと前記第2フィラーとのうち前記接合層に含まれている少なくとも一方には、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーが含まれており」との構成について、申立書42ページ下から5行~43ページ3行において、申立書28ページ11~24行を引用し、上記(2)ア(オ)aと同様の主張をするが、上記(2)ア(オ)bのとおり申立人の主張は採用できない。
イ 相違点10の判断
相違点10に係る本件発明10の構成については、甲1、甲2のいずれにも記載も示唆もされていないから、本件発明10は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明10についてのまとめ
上記アのとおり、本件発明10は、甲1に記載された発明に記載されたものではなく、また、上記イのとおり、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5) 本件発明11について
ア 対比
(ア) 上記(2)アと同様に、本件発明11と引用発明とを対比すると、両者は上記(2)ア(エ)aの点で一致する。
(イ) 引用発明の「凹部11」は、「前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分」に形成された「窪み部」といえる。
しかし、引用発明において、「凹部11の深さは、例えば、130μmであり」、「全ての無定形フィラー43の短径の最大値は60μm」であるが、その長径は特定されていないから、無定形フィラー43の平均粒径と「セラミック板10の凹部11」の深さとの関係は明らかでない。
そうすると、引用発明は、「前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分には、窪み部が形成され」る点で本件発明11と共通する。
(ウ) 以上を踏まえると、本件発明11と引用発明とは以下の点で一致し、相違する。
a 一致点
「保持装置であって、
対象物を保持する保持面を有する保持部材と、
前記保持部材のうち前記保持面の側とは反対側に配置されたベース部材と、
前記保持部材と前記ベース部材とを接合し、複数のフィラーを含む接合層と、を備え、
以下の条件(A)~(C)のうち少なくとも前記条件(A)を満たしており、
条件(A):前記フィラーには、前記保持部材に接触している第1フィラーと前記ベース部材に接触している第2フィラーとのうち少なくとも一方が含まれていること。
前記保持部材のうち前記接合層に接合された部分には、窪み部が形成されている、保持装置。」
b 相違点
本件発明11が、窪み部について、「前記フィラーの平均粒径よりも深く窪んだ」ものであり、「前記窪み部の深さは前記平均粒径よりも大きく、かつ、前記窪み部は前記接合層で埋められており、
前記窪み部を画定している面には、前記フィラーの平均粒径よりも粒径が大きい大径フィラーが接触している」ことを特定しているのに対し、引用発明がこのような特定をしていない点(以下「相違点11」という。)。
(エ) 相違点についての申立人の主張
申立人は、相違点11の「前記窪み部は前記接合層で埋められており」との構成について、申立書44ページ下から4行~45ページ3行で、申立書37ページ4~12行を引用して、「甲第1号証の図4(c)によれば、凹部11の内部の全体が、接合剤40によって埋められていることが理解される。」と主張する。
しかしながら、引用発明は、「前記ヒータは、第2の接合剤により前記凹部内に接着され」るものであって、凹部の内部には、第2の接合剤により接着されたヒータが存在するから、申立人の主張は採用できない。
イ 相違点の判断
相違点11に係る本件発明11の構成については、甲1、甲2のいずれにも記載も示唆もされていないから、本件発明11は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明11についてのまとめ
上記アのとおり、本件発明11は、甲1に記載された発明に記載されたものではなく、また、上記イのとおり、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(6) 本件発明12について
ア 対比
上記(5)アと同様に、本件発明12と引用発明とを対比すると、両者は上記(5)ア(ウ)aの点で一致し、以下の点で相違する。
本件発明12が、窪み部について、「前記フィラーの平均粒径よりも深く窪んだ」ものであり、「前記窪み部の深さは前記平均粒径よりも大きく、かつ、前記窪み部は前記接合層で埋められており、
前記窪み部を画定している面には、アスペクト比が1.4以上の前記フィラーが接触している」ことを特定しているのに対し、引用発明がこのような特定をしていない点(以下「相違点12」という。)。
(ア) 相違点についての申立人の主張
上記(5)ア(ウ)と同様に、申立人は、相違点12の「前記窪み部は前記接合層で埋められており」について、申立書46ページ下から6行~47ページ1行で、申立書37ページ4~12行を引用して、「甲第1号証の図4(c)によれば、凹部11の内部の全体が、接合剤40によって埋められていることが理解される。」と主張するが、引用発明は、「前記ヒータは、第2の接合剤により前記凹部内に接着され」るものであって、凹部の内部には、第2の接合剤により接着されたヒータが存在するから、申立人の主張は採用できない。
イ 相違点の判断
相違点12に係る本件発明12の構成については、甲1、甲2のいずれにも記載も示唆もされていないから、本件発明12は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明12についてのまとめ
上記アのとおり、本件発明12は、甲1に記載された発明に記載されたものではなく、また、上記イのとおり、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(7) 本件発明2~8、13について
本件発明2~8は、本件発明1の構成をすべて含み、また、本件発明13は、本件発明1、9~12のいずれかを構成をすべて含むから、本件発明1、9~12と同様に、甲1に記載された発明に記載されたものではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(8) 申立理由1(新規性・進歩性欠如)についてのまとめ
以上のとおり、申立理由1(新規性・進歩性欠如)は理由がない。
2 申立理由2(サポート要件違反)
(1) 申立人の主張
申立人は、申立書49ページ15行~50ページ2行で次の主張をする。
「本件特許の段落0036には、「条件(C)を満たす場合、接合層30に含まれているフィラーFのうちアスペクト比が1.4以上のフィラーFはアスペクト比が1.4未満のフィラーFよりも多いため、少ないフィフーFで熱を接合層30の厚み方向に伝えやすくすることができることから、柔軟性を保ちつつ接合層30の熱抵抗を低減することができる。」との記載がある。
当該記載は、静電チャックが、「前記フィラーのうちアスペクト比が1.4以上の前記フィラーは、アスペクト比が1.4未満の前記フィラーよりも多いこと。」という条件(C)を満たした場合に、「接合層の熱抵抗を低減する」という課題を解決し得ることの理由を説明する記載である。
しかしながら、例えば、接合層に含まれるフィラーの平均粒径が非常に小さい場合や、接合層に含まれるフィラーの量が非常に少ない場合には、静電チャックが条件(C)を満たしていたとしても、「少ないフィラーFで熱を接合層30の厚み方向に伝えやすくすることができる」という効果は奏し得ないので、「接合層の熱抵抗を低減する」という課題を解決することができない。上記のような場合、接合層30の熱抵抗は、フィラーのアスペクト比の影響を殆ど受けないことが、当業者によって強く推認される。
以上のようであるから、本件特許発明はいずれも、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとなっている。
すなわち、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された所謂サポート要件を満たしていないので、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきである。」
(2) 当審の判断
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ア 発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、接合層の熱抵抗を低減することができる技術を提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【0007】
この構成によれば、保持装置は、条件(A)~(C)の少なくとも1つを満たしている。条件(A)を満たす場合、熱伝導率が比較的高いフィラーが保持部材とベース部材とのうち少なくとも一方に接触していることから、接合層と保持部材との界面と、接合層とベース部材との界面と、のうち少なくとも一方の界面における熱抵抗を低減することができる。」
イ 当審の判断
本件発明1~13は、いずれも、少なくとも条件(A)を満たすものである。
そして、上記アの段落0007の記載によると、条件(A)を満たすことによって、「熱伝導率が比較的高いフィラーが保持部材とベース部材とのうち少なくとも一方に接触していることから、接合層と保持部材との界面と、接合層とベース部材との界面と、のうち少なくとも一方の界面における熱抵抗を低減すること」ができ、段落0005に記載された「接合層の熱抵抗を低減すること」との発明の課題を解決できると当業者が認識し得るから、本件発明1~13は、サポート要件を満たす。
したがって、申立理由2(サポート要件違反)は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700633