特許異議申立
2024-701083
フッ素樹脂
- 審判番号
- 2024-701083
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-037005
- 登録番号
- 7478370
- 請求日
- 2024年11月07日
- 審決日
- 2025年02月13日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東ソー株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 【異議申立人】武田 朋美
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 岸 智之
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1651.121-Y (C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7478370号発明「フッ素樹脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7478370号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7478370号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成31年2月28日に出願された特願2019-037005号に係る特許であって、令和6年4月24日に特許権の設定登録(請求項数9)がされ、同年5月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和6年11月7日に、本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、特許異議申立人である武田朋美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1~9に係る発明を、請求項の番号に従い「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
下記一般式(3)で表される残基単位を含み、重量平均分子量Mwが5×104~2×105の範囲であり、かつ280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度が3以下である、フッ素樹脂(但し、フッ素樹脂が-(SO2X(SO2Rf)a)-M+で表されるイオン性基(式中、M+はH+、一価の金属カチオン、又は1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、Rfは、エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。)を有するポリマーである場合を除き、かつフッ素樹脂がパーハロ-2,2-ジ低級アルキル-1,3-ジオキソール(各アルキル基は独立して炭素原子を1から3個有し、そのハロゲン置換基は塩素またはフッ素であるが、但し各アルキル基がフッ素原子を少なくとも1個有する)を1モル%以上含むコポリマーである場合を除く)。
[図:0001420364000001.jpg]
【請求項2】
ガラス転移温度が125℃以上145℃以下である、請求項1に記載のフッ素樹脂。
【請求項3】
せん断速度10-2s、250℃における溶融粘度が1×102~3×105Pa・sである、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂。
【請求項4】
分子量分布Mw/Mnが1.2~8である、請求項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂。
【請求項5】
280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚、直径26.4mm)のクラックの個数が10本以下である、請求項1~4のいずれかに記載のフッ素樹脂。
【請求項6】
TG-DTAにてエアー中で10℃/minで300℃まで昇温した直後の重量減少量Aと、300℃まで昇温後300℃で30分間保持した後の重量減少量Bの差B-Aが1.0%以下である、請求項1~5のいずれかに記載のフッ素樹脂。
【請求項7】
280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚、直径26.4mm)における泡の占める面積が成形品の面積に対して10%以下である、請求項1~6のいずれかに記載のフッ素樹脂。
【請求項8】
280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚、直径26.4mm)中の泡の個数が10個以下である、請求項1~7のいずれかに記載のフッ素樹脂。
【請求項9】
せん断速度10-2s、250℃における溶融粘度が1×102~5×104Pa・sである、請求項1~8のいずれかに記載のフッ素樹脂。」
第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要及び証拠方法
申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
1 申立理由1(甲1による新規性)
本件発明1~9は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1~9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲1を主引例とする進歩性)
本件発明1~9は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
甲1 Frantisek Mikes他5名、「Synthesis and Characterization of an Amorphous Perfluoropolymer:Poly(perfluoro-2-methylene-4-methyl-1,3-dioxolane)」, Macromolecules 2005, 38, 4237-4245及び抄訳
甲2 特開2015-133505号公報
甲3 特開昭64-014219号公報
甲4 特開2003-268039号公報
甲5 国際公開第2014/156996号
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件発明1~9に係る特許は取り消すことはできない。
1 申立理由1(甲1による新規性)、申立理由2(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された事項及び発明
(ア)甲1には、以下の事項が記載されており、当審における訳文と共に示す。
a 第4237頁要約部分
[図:0001420364000002.jpg]
「要約 パーフルオロモノマーであるパーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン(PFMMD)を様々な方法で合成した。このモノマーは、パーフルオロジベンゾイルパーオキサイドおよび/またはパーフルオロジ-tert-ブチルパーオキサイドを開始剤として、フリーラジカル機構によりバルクおよび/または溶液中で重合した。得られたポリマー(ポリ(PFMMD))は無色透明であった。しかし、大気に曝したポリマーロッドは霞んでしまった。このポリマー溶液をクロロホルムに沈殿させて精製したところ、長時間空気に曝されても霞むことはなく、高い紫外可視光透過率で透明なままであった。精製ポリマーのガラス転移温度は130-134℃であった。NMR測定から、精製ポリマーはほとんどがビニル付加ポリマー構造であることが示された。とはいえ、原始的なポリマーには開環重合によって形成された構造単位が含まれていると考えられる。ポリ(PFMMD)試料の分子量は、四塩化炭素、四臭化炭素、塩化スルフリルを連鎖移動剤として用いて調節することができる。これらの調節剤の存在下での重合は、非分解性の連鎖移動によって特徴づけられる。」
b 第4241頁左欄Figure 2.
[図:0001420364000003.jpg]
c 第4241頁右欄第15行~第19行
[図:0001420364000004.jpg]
「ポリ(PFMMD)の分子量は、四塩化炭素、四臭化炭素、塩化スルフリルのほか、2-トリフルオロメチル-2,4,4,5,5-ペンタクロロ-1,3-ジオキソラン(TFED)を反応混合物に意図的に添加することで制御した。」
d 第4242頁右欄表3
[図:0001420364000005.jpg]
「
[図:0001420364000006.jpg]
」(サンプルno.64~66、76~79)
(イ)甲1の表3のサンプルno.66に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「0.50wt%の開始剤、1.02wt%の連鎖移動剤である四塩化炭素を添加して、パーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソランを重合したものであるポリ(PFMMD)。ここで、ポリ(PFMMD)の化学構造は以下のとおりである。
[図:0001420364000007.jpg]
」(以下、「甲1発明」という。)
イ 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリ(PFMMD)」は、パーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン(PFMMD)をモノマーとして重合させてなるものであり、上記ア(イ)に示した化学構造を有するから、本件発明1における一般式(3)で表される残基単位を有するフッ素樹脂に相当する。
そして、甲1発明の「ポリ(PFMMD)」は、その構造から、「-(SO2X(SO2Rf)a)-M+で表されるイオン性基(式中、M+はH+、一価の金属カチオン、又は1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、Rfは、エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。)を有するポリマー」ではなく、かつ「パーハロ-2,2-ジ低級アルキル-1,3-ジオキソール(各アルキル基は独立して炭素原子を1から3個有し、そのハロゲン置換基は塩素またはフッ素であるが、但し各アルキル基がフッ素原子を少なくとも1個有する)を1モル%以上含むコポリマー」でもない。
以上のことから、甲1発明の「ポリ(PFMMD)」は、本件発明1の「下記一般式(3)で表される残基単位を含」む「フッ素樹脂(但し、フッ素樹脂が-(SO2X(SO2Rf)a)-M+で表されるイオン性基(式中、M+はH+、一価の金属カチオン、又は1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、Rfは、エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。)を有するポリマーである場合を除き、かつフッ素樹脂がパーハロ-2,2-ジ低級アルキル-1,3-ジオキソール(各アルキル基は独立して炭素原子を1から3個有し、そのハロゲン置換基は塩素またはフッ素であるが、但し各アルキル基がフッ素原子を少なくとも1個有する)を1モル%以上含むコポリマーである場合を除く)。
[図:0001420364000008.jpg]
」に相当する。
そうすると、両者は
「下記一般式(3)で表される残基単位を含む、フッ素樹脂(但し、フッ素樹脂が-(SO2X(SO2Rf)a)-M+で表されるイオン性基(式中、M+はH+、一価の金属カチオン、又は1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、Rfは、エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい直鎖又は分岐のペルフルオロアルキル基であり、Xは酸素原子、窒素原子又は炭素原子であって、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。)を有するポリマーである場合を除き、かつフッ素樹脂がパーハロ-2,2-ジ低級アルキル-1,3-ジオキソール(各アルキル基は独立して炭素原子を1から3個有し、そのハロゲン置換基は塩素またはフッ素であるが、但し各アルキル基がフッ素原子を少なくとも1個有する)を1モル%以上含むコポリマーである場合を除く)。
[図:0001420364000009.jpg]
」である点において一致し、以下の点において相違する。
<相違点>
フッ素樹脂について、本件発明1は、重量平均分子量Mwが5×104~2×105の範囲であり、かつ280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度が3以下であるのに対し、甲1発明は重量平均分子量及び黄色度の値が不明である点
ウ 相違点についての判断
(ア)新規性について
上記ア(ア)dの表3を参照すると、連鎖移動剤を用いていない(0wt%)サンプルno.64のポリ(PFMMD)の分子量Mは15×105g/molであり、連鎖移動剤を用いるとポリマーの分子量が低くなることが高分子分野における技術常識であることからみて、サンプルno.66のポリ(PFMMD)の分子量Mは15×105g/molより低いと理解できる。しかしながら、表3には、連鎖移動剤として四塩化炭素を用いるサンプルno.66の分子量Mに関する明示的な記載はない。さらに、上記ア(ア)a及びcに記載されるように、連鎖移動剤によって分子量を制御できることは記載されているが、どの程度の四塩化炭素の添加量でどの程度の分子量になるかは示されていないし、表3に記載される他のサンプルから、サンプルno.66の分子量Mを推測することはできない。
したがって、甲1発明においては、得られるポリ(PFMMD)の分子量Mが不明であり、重量平均分子量が特定されていないから、上記相違点は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
(イ)進歩性について
甲1には、ポリ(PFMMD)に関して、上記(ア)で検討したとおり、連鎖移動剤として四塩化炭素を用いた場合の分子量Mが記載されておらず、また、280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度については記載も示唆もされていない。
そして、ポリ(PFMMD)などのフッ素樹脂において、その重量平均分子量を制御しつつ同時に黄色度を低く調整することが、当業者の本件出願時における技術常識であるともいえないから、甲1発明において、重量平均分子量及び黄色度を同時に調整して本件発明1に記載の数値範囲とすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
ここで、甲2の【0047】、【0059】には、ポリ(PFMMD)等の非晶質のフッ素樹脂の平均分子量を10万~25万とすることが好ましいことが記載され、甲3の第121頁右下欄第4行~第122頁右上欄第4行には、メタクリル系樹脂などの光学材料においては樹脂が黄色味を帯びる課題を有することが記載され、甲4の【0002】~【0005】には、PFMMD等から得られる耐着色性に優れる含フッ素樹脂の製造方法が記載され、甲5の請求の範囲、[0028]、[0076][表1]には、PFMMD等から得られる透明性の高い含フッ素重合体の製造方法が記載されている。
しかしながら、甲2には、非晶質のフッ素樹脂の好ましい分子量は記載されているものの、その分子量の調整方法は記載されておらず、樹脂の黄色度について記載も示唆もされていない。
また、甲3には、本件発明1の樹脂とは異なる種類の樹脂であるメタクリル系樹脂などの光学材料における樹脂の成形加工時時における黄変という課題、及び黄変が少なくなるような製造方法は記載されているものの、フッ素樹脂についての好ましい分子量やその制御方法、黄色度の具体的な数値範囲については記載も示唆もされていない。
さらに、甲4、5のいずれにも、ポリ(PFMMD)の重量平均分子量を所望の範囲に調整しながら、同時に、280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度を3以下とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2~5のいずれの文献を参照しても、甲1発明において、ポリ(PFMMD)の重量平均分子量Mwの値を5×104~2×105の範囲に調整しつつ、同時に280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度を3以下とする動機付けがあったとはいえないから、甲1発明においてポリ(PFMMD)の重量平均分子量Mwが5×104~2×105の範囲であり、かつ黄色度を3以下であるものとすることは、当業者といえども容易に想到し得るとはいえない。
これに対し、本件発明1は、フッ素樹脂の重量平均分子量を5×104~2×105の範囲に調整し、かつ、280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度を3以下とすることにより、得られるフッ素樹脂が、溶融加工性に優れ、加熱溶融後の黄変が抑制され、溶融粘度が低く、耐熱性、溶融時の脱泡性にも優れ、加熱成形後の冷却時のクラック発生も小さいという、甲1~5からは予想し得ない格別な効果(本件特許明細書【0012】)を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。
エ 申立人の主張について
申立人は、申立理由1、2に関して、主に以下の点を主張する。
(ア)本件特許明細書【0036】、【0042】の記載から、連鎖移動剤としてテトラクロロメタン(四塩化炭素)等を用いることで、得られるフッ素樹脂はその重量平均分子量が5×104~3×105の範囲となり、かつ280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度が6以下となると認定できるから、同じ連鎖移動剤を用いて重合させる甲1発明も、重量平均分子量が5×104~3×105の範囲であり、かつ280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度が6以下のフッ素樹脂である蓋然性が極めて高い。仮にそうでないとしても、重量平均分子量や黄色度の調整は、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内で適宜行い得る事項に過ぎない。(特許異議申立書第20頁~第21頁)
(イ)フッ素樹脂の重量平均分子量について、甲1の表3のサンプルno.64と78の結果から、連鎖移動剤を用いることで分子量を小さくできることは技術常識であるところ、連鎖移動剤として併記されている四臭化炭素を用いた場合の分子量が1.7×105であることを踏まえると、四塩化炭素を用いた場合の分子量は、四塩化炭素を用いない場合の分子量である15×105よりも小さく、1.7×105に近い値となる推定が強く働く。また、甲2に記載されるPFMMDを構成単位とするフッ素樹脂の好ましい平均分子量の記載(10万~25万)からも、連鎖移動剤として四塩化炭素を用いた場合の分子量を5×104~2×105の範囲に調整することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内で適宜行い得る事項に過ぎない。(特許異議申立書第21頁)
(ウ)一般に光学用の樹脂においては、甲3にも記載されるように黄色度をより低減させるという課題は広く知られ、甲1に記載の光学用途に用いられる樹脂においても当該課題は当然に存在すること、また、甲4、5に記載されるようにその黄変を抑制する技術は知られていることから、樹脂の重合時等において重合条件等を調整して樹脂の黄色度をより低減させて黄色度を3以下に調整することは、当業者が適宜なし得る設計的事項の範囲内のものである。(特許異議申立書第22頁)
上記主張(ア)~(ウ)について検討すると、まず、甲1発明では、得られるフッ素樹脂の重量平均分子量の値は実質的な相違点であるし、単に甲1発明と本件発明で用いる連鎖移動剤が同じであることを理由に、甲1発明のフッ素樹脂の重量平均分子量及び黄色度が本件発明1と同程度となる根拠があるとはいえない。
また、一般的な光学用の樹脂における黄色度低減の課題が広く知られていたとしても、甲1発明においてもその黄色度を3以下とすることが課題であるとはいえず、3以下とする動機付けもあるとはいえない。
そして、上記ウ(イ)で述べたように、甲2~5のいずれにもフッ素樹脂の重量平均分子量及び黄色度の両方を同時に調整することが記載も示唆もされていないところ、甲1発明において、フッ素樹脂の重量平均分子量を所望の値の範囲に調整しながら、280℃24時間加熱溶融成型品(3mm厚)の黄色度を3以下に調整する動機付けがなく、一方、本件発明1は、両者を同時に調整することで、溶融加工性に優れ、加熱溶融後の黄変が抑制され、溶融粘度が低く、耐熱性、溶融時の脱泡性にも優れ、加熱成形後の冷却時のクラック発生も小さくできるフッ素樹脂を得られるという有利な効果を発揮するものであるから、これらの効果は甲1発明から予測できるものではない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
オ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明でなく、また甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~9についても、甲1に記載された発明であるとも、また甲1発明及び甲2~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した理由によっては、本件発明1~9を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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