特許異議申立
2024-701077
二相ステンレス継目無鋼管
- 審判番号
- 2024-701077
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-519940
- 登録番号
- 7477790
- 請求日
- 2024年11月05日
- 審決日
- 2025年02月25日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】アセンド弁理士法人
- 【異議申立人】吉田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.121-Y (C22C) / P1651.536-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7477790号発明「二相ステンレス継目無鋼管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7477790号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7477790号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(特願2022-519940号。以下、「本願」という。)は、2021年(令和 3年) 4月28日(優先権主張 令和 2年 5月 7日、令和 2年 5月 7日、令和 2年 5月 7日)を国際出願日とする出願であって、令和 6年 4月23日に特許権の設定登録がされ、同年 5月 2日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年11月 5日に、請求項1~2(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である吉田敦子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。また、これら発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~2(以下、「本件請求項1」等という。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
二相ステンレス継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.10~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.100%以下、
Ni:4.00~9.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Mo:0.50~5.00%、
Cu:0.01~4.00%、
N:0.050~0.500%、
V:0.01~1.50%、
W:0~4.000%、
Co:0~2.00%、
Sb:0~0.100%、
Sn:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
B:0~0.0200%、及び、
希土類元素:0~0.200%を含有し、
Ca:0.0001~0.0200%、及び、
Mg:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからなり、
降伏強度が、415MPa以上であり、
前記二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向をL方向、前記二相ステンレス継目無鋼管の管径方向をT方向、前記L方向及び前記T方向と垂直な方向をC方向と定義したとき、
前記二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部を含み、前記T方向に延びる辺の長さが250μmであり、前記C方向に延びる辺の長さが250μmである正方形の観察視野領域において、
前記T方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記C方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記C方向に5等分する4つの線分をT1~T4と定義し、
前記C方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記T方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記T方向に5等分する4つの線分をC1~C4と定義し、
前記観察視野領域における前記フェライトと前記オーステナイトとの界面をフェライト界面と定義したとき、
前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NTが65個以上であり、
前記線分C1~C4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NCが50個以上である、
二相ステンレス継目無鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載の二相ステンレス継目無鋼管であって、
W:0.001~4.000%、
Co:0.01~2.00%、
Sb:0.001~0.100%、
Sn:0.001~0.100%、
Nb:0.001~0.100%、
Ta:0.001~0.100%、
Ti:0.001~0.100%、
Zr:0.001~0.100%、
Hf:0.001~0.100%、
B:0.0005~0.0200%、及び、
希土類元素:0.001~0.200%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
二相ステンレス継目無鋼管。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に公知となった甲第1~5号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲5」という。下記4参照。)を提出し、以下の申立理由1~3により、本件特許の請求項1~2に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件特許発明1、2は、甲1に記載された発明と甲2~甲5に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件特許発明1、2は、甲2に記載された発明と甲1、甲3~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、本件特許発明の二相ステンレス継目無鋼管におけるミクロ組織の分布状態が示された図1~図4について、観察視野領域50において、フェライト10(図中ハッチングされた領域)とオーステナイト20(図中白色の領域)とが含まれていると記載されており(【0076】参照。)、次に摘記する図1~図2に示されるように、オーステナイト20の白色の領域の中に、フェライト10のハッチングされた島状の領域が含まれている様子を視認することができる。
「
[図:0001421388000001.jpg]
」
一方、技術常識によれば、二相ステンレス鋼は、溶解した鋼が凝固する過程において、フェライト相が最初に凝固し、その後温度が低下するにしたがって、オーステナイト相が晶出するものであり、このような過程によって、二相ステンレス鋼は、フェライト相をマトリックスとし、オーステナイト相が島状に分布するものとなる(例えば、甲1の図2、甲2の図2(b)参照。)。
そうすると、本件明細書に記載された二相ステンレス鋼は、フェライト相とオーステナイト相の分布について、マトリックスと島状領域の関係が技術常識と逆となっており、このような技術常識とは整合しない二相ステンレス鋼が、本件特許明細書に記載された製造条件によって製造できるか明らかではない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、本件特許の請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:Katharina S.Ragger、外6名、“Cold pilgering of duplex steel tubes:The response of austenite and ferrite to excessive cold deformation up to high strains”、Materials Characterization、128、2017年3月16日、p257~268
甲2:S.S.M.Tavares、外4名、“Investigation of the effect of low temperature aging on the mechanical properties and susceptibility to sulfide stress corrosion cracking of 22%Cr duplex stainless steel”、Engineering Failure Analysis、113、2020年4月13日、p1~8
甲3:DET NORSKE VERITAS、RECOMMENDED PRACTICE DNV-RP-F112、OCTOBER、2008、P1~20
甲4:特開2009-7638号公報
甲5:ASTM、Standard Guide for Preparation of Metallographic Specimens、 Designation:E3-11、2011年6月、p1~2
第4 当審の判断
上記申立理由1~3はいずれも採用できない。その理由は以下に記載のとおりである。
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「
[図:0001421388000002.jpg]
(当審訳:二相鋼管の冷間ピルガー圧延:高ひずみまでの過度の冷間変形に対するオーステナイトとフェライトの応答)」(論文の表題)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「
[図:0001421388000003.jpg]
」(257頁中央)(当審訳:
[図:0001421388000004.jpg]
)
(1イ)「
[図:0001421388000005.jpg]
」(257頁左下)(当審訳:
[図:0001421388000006.jpg]
)
(1ウ)「
[図:0001421388000007.jpg]
」(258頁左上)(当審訳:
[図:0001421388000008.jpg]
)
(1エ)「
[図:0001421388000009.jpg]
」(258頁右下)(当審訳:
[図:0001421388000010.jpg]
)
(1オ)「
[図:0001421388000011.jpg]
」(258頁右下)(当審訳:表1 調査した鋼の化学組成[wt%])
(1カ)「
[図:0001421388000012.jpg]
」(259頁左上)(当審訳:
[図:0001421388000013.jpg]
)
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(1エ)、(1オ)によれば、甲1の論文において調査した、冷間圧延プロセスに用いられた鋼は、表1に記載された化学組成(単位は「wt%(重量%)」)を備えた、グレードがUNS S32750であるスーパー二相鋼からなる材料を、溶体化焼鈍温度(約1100℃)付近で熱間押し出しを行い、水焼入れして製造したものであり、図1に示される冷間ピルガー圧延を行う前のものである。なお、上記二相鋼とは、上記ア(1ア)を参照すると、オーステナイトとフェライトの二相を含む二相ステンレス鋼を意味するものと認められる。
(イ)上記ア(1ウ)の図1には、冷間ピルガー圧延プロセスの断面図が記載されており、図面の左上方から挿入された中空(hollow)の管が、upper rollとlower rollによって絞られて径が小さく成形される様子を見て取ることができるところ、上記挿入された中空の管は、上記(ア)に記載した、冷間ピルガー圧延を行う前の、熱間押し出しを行い、水焼入れした鋼に該当する。
なお、当該冷間ピルガー圧延を行う前の、熱間押し出しを行い、水焼入れした鋼は、上述のとおり、その形状が中空(hollow)の管であり、また、上記ア(1ア)には冷間ピルガー圧延は継目無鋼管製造プロセスであると記載されていることに基づいて、以下、「熱間押し出し継目無中空鋼管」と言う。
(ウ)上記ア(1カ)の図2には、上記熱間押し出し継目無中空鋼管の断面の微細構造が示されている。図2の説明文に、「圧延方向は図形面に対して垂直。40%NaOHで電解エッチングした。」と記載されていることから、図2は、上記熱間押し出し継目無中空鋼管の圧延方向に垂直な断面における微細構造を示しているものである。また、上記ア(1エ)の記載も参照すると、図2の断面で観察されるミクロ組織は、青色部分がフェライト相であり、茶色部分がオーステナイト相であり、オーステナイト島(55%)がフェライトマトリックス(45%)に埋め込まれたものである。
(エ)以上の検討によれば、甲1の実験において冷間ピルガー圧延を行うために用意された熱間押し出し継目無中空管に注目すると、甲1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「熱間押し出し継目無中空管であって、
重量%で、
C:0.015%、
Si:0.48%、
Mn:0.62%
Cr:25.27%、
Mo:3.94%、
Ni:6.81%、
N:0.28%、
Cu:0.18%を含有し、
残部Feからなる、グレードUNS S32750のスーパー二相ステンレス鋼に対して、溶体化焼鈍温度(約1100℃)付近で熱間押し出しを行い、水焼入れして製造したものであって、冷間ピルガー圧延を行う前のものであり、
圧延方向に垂直な断面における微細構造が図2に示されるものであり、
上記断面で観察されるミクロ組織は、55%のオーステナイト島が45%のフェライトマトリックスに埋め込まれたものである、
熱間押し出し継目無中空管。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2の記載、及び甲2に記載された発明
ア 甲2には、「
[図:0001421388000014.jpg]
(当審訳:22%Cr二相ステンレス鋼の機械的性質と硫化物応力腐食割れ感受性に及ぼす低温時効の影響についての調査)」(論文の表題)に関して、次の記載がある。
(2ア)「
[図:0001421388000015.jpg]
…
[図:0001421388000016.jpg]
」(1頁中央)(当審訳:
[図:0001421388000017.jpg]
)
(2イ)「
[図:0001421388000018.jpg]
…
[図:0001421388000019.jpg]
」(1頁下部~2頁中央)(当審訳:
[図:0001421388000020.jpg]
)
(2ウ)「
[図:0001421388000021.jpg]
[図:0001421388000022.jpg]
」(2頁下部~3頁上部)(当審訳:
[図:0001421388000023.jpg]
[図:0001421388000024.jpg]
)
(2エ)「
[図:0001421388000025.jpg]
」(2頁下部)(当審訳:表1 二相ステンレス鋼UNS31803の化学組成の調査結果)
(2オ)「
[図:0001421388000026.jpg]
」(3頁上部)(当審訳:
[図:0001421388000027.jpg]
)
(2カ)「
[図:0001421388000028.jpg]
」(3頁下部)(当審訳:
3.結果と考察
[図:0001421388000029.jpg]
)
(2キ)「
[図:0001421388000030.jpg]
」(4頁上部)(当審訳:図2 標本(a)ARと(b)STのLOM画像)
(2ク)「
[図:0001421388000031.jpg]
」(4頁中央)(当審訳:
[図:0001421388000032.jpg]
)
(2ケ)「
[図:0001421388000033.jpg]
」(4頁下部)(当審訳:
[図:0001421388000034.jpg]
)
(2コ)「
[図:0001421388000035.jpg]
」(6頁上部)(当審訳:図6(a)SSRT試験後の試験片AR-475の断面に観察された二次亀裂;(b)(a)において丸で囲んだ箇所の亀裂の詳細画像)
イ 甲2に記載された発明
(ア)上記ア(2ア)、(2イ)によれば、甲2では、非平衡オーステナイト/フェライト比の二相ステンレス鋼(DSS)に対して、溶体化処理と、475℃で8時間の時効処理を施したときの、機械的性質と硫化物応力腐食割れ(SSCC)の挙動に及ぼす影響を調べている。
(イ)上記ア(2ウ)、(2エ)、(2オ)によれば、研究で使用された材料は、表1に記載された化学組成を有するUNS S31803二相ステンレス鋼の継目無鋼管(直径200mm、厚さ10mm)から採取されたものである。当該材料に対して何も処理しない試験片をAR、ARに対して475℃で8時間の時効処理した試験片をAR-475、ARに対して1050℃で溶体化処理したあとに水焼き入れした試験片をSR、SRに対して475℃で8時間の時効処理した試験片をSR-475といい、これらの関係が表2にまとめられている。なお、表1の化学組成の数値の単位は記載されていないが、合金分野の技術常識を踏まえると、単位は質量%であるものと推認される。
(ウ)上記ア(2カ)、(2キ)によれば、図2(b)には、試験片STの光学顕微鏡(LOM)画像が示されており、当該画像から測定されたフェライトとオーステナイトの含有率はそれぞれ44.1±2.5%、55.9±2.5%である。
(エ)上記ア(2カ)、(2ク)によれば、表3には、各試験片について降伏強度(YS)を測定した結果が記載されており、試験片STの降伏強度は554±4MPaである。なお、上記ア(2ウ)によれば、降伏強度を測定する引張試験には、直径6.25mm、ゲージ長さ25mmの試験片が用いられる。
(オ)上記ア(2ケ)、(2コ)によれば、図6は、SSRT試験後の試験片AR-475の断面の画像であり、二次亀裂が観察されている。また、他の試験片にも同様の二次亀裂が観察されている。なお、上記ア(2ウ)によれば、SSRT試験とは、直径3.80mm、ゲージ長さ25mmの円形試験片を用いた低歪速度引張試験を意味する。
(カ)以上の検討によれば、表1に記載された化学組成を有するUNSS31803二相ステンレス鋼の継目無鋼管(直径200mm、厚さ10mm)であって、受け入れ後の当該継目無鋼管に、試験片STに対する処理(1050℃で溶体化処理したあとに水焼き入れした)を施すことが記載されており、そのような処理を施された継目無鋼管は、試験片STと同じ特性を有しているといえるので、甲2には、次の発明が記載されているものと認められる。
「受け入れ後に、1050℃で溶体化処理したあとに水焼き入れを行った、直径200mm、厚さ10mmのUNS S31803二相ステンレス鋼の継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.03%、
Si:0.580%、
Mn:0.810%
P:0.009%、
S:0.003%、
Cr:22.11%、
Mo:3.06%、
Ni:5.01%、
N:0.12%を含有し、
残部がFeからなり、
上記継目無鋼管から採取した試験片の光学顕微鏡(LOM)画像が図2(b)であり、
上記画像から測定したフェライトとオーステナイトの含有率はそれぞれ44.1±2.5%、55.9±2.5%であり、
降伏強度(YS)は554±4MPaであり、
SSRT試験(低歪速度引張試験)後の試験片の断面には図6のような二次亀裂が観察される、
二相ステンレス鋼の継目無鋼管。」(以下「甲2発明」という。)
(3)甲3の記載
ア 甲3には、「RECOMMENDED PRACTICE DNV-RP-F112(当審訳:推奨された実施 DNV-RP-F112)」(文献の標題)に関して、次の記載がある。
(3ア)「
[図:0001421388000036.jpg]
」(2頁最上部)(当審訳:
[図:0001421388000037.jpg]
)
(3イ)「
[図:0001421388000038.jpg]
[図:0001421388000039.jpg]
」(7頁最上部~左欄13行)(当審訳:第1節
一般
A.一般
[図:0001421388000040.jpg]
)
(3ウ)「
[図:0001421388000041.jpg]
」(7頁左欄略中央)(当審訳:
[図:0001421388000042.jpg]
)
(3エ)「
[図:0001421388000043.jpg]
」(8頁右欄中央)(当審訳:
[図:0001421388000044.jpg]
)
(3オ)「
[図:0001421388000045.jpg]
[図:0001421388000046.jpg]
」(12頁最上部~左欄4行)(当審訳:
第四節
設計基準
[図:0001421388000047.jpg]
)
(3カ)「
[図:0001421388000048.jpg]
」(12頁右欄略中央)(当審訳:
[図:0001421388000049.jpg]
)
(3キ)「
[図:0001421388000050.jpg]
」(16頁最上部)(当審訳:第5節
材料要件)
(3ク)「
[図:0001421388000051.jpg]
」(16頁左欄略中央)(当審訳:
[図:0001421388000052.jpg]
)
(3ケ)「
[図:0001421388000053.jpg]
[図:0001421388000054.jpg]
」(16頁左欄下部~右欄上部)(当審訳:
[図:0001421388000055.jpg]
[図:0001421388000056.jpg]
)
(3コ)「
[図:0001421388000057.jpg]
」(16頁右欄略中央)(当審訳:
[図:0001421388000058.jpg]
)
(3サ)「
[図:0001421388000059.jpg]
」(19頁最上部)(当審訳:第七節
オーステナイト間隔の評価手順)
(3シ)「
[図:0001421388000060.jpg]
」(19頁左欄上部)(当審訳:
[図:0001421388000061.jpg]
)
(3ス)「
[図:0001421388000062.jpg]
」(19頁右欄上部)(当審訳:
[図:0001421388000063.jpg]
)
(4)甲4の記載
ア 甲4には、「二相ステンレス鋼およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(4ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.030mass%以下、
Si:0.01~1mass%、
Mn:0.01~2mass%、
P:0.040mass%以下、
S:0.0015mass%以下、
Ni:3~10mass%、
Cr:20~28mass%、
Mo:2~5mass%、
N:0.05~0.40mass%、
Al:0.001~0.05mass%、
Mg:0.0001~0.0050mass%、
Ca:0.0005mass%以下、
O:0.0001~0.0050mass%、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼であって、
鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO・Al2O3、Al2O3、MgO、MnO-Al2O3系酸化物、CaO濃度が40mass%以下のCaO-Al2O3系酸化物のうちの1種または2種以上からなり、全非金属介在物に対するCaO-Al2O3系酸化物の個数比率が40%以下、全非金属介在物におけるCaO濃度が10mass%以下であり、60℃、20%NaCl水溶液中における孔食電位Vc’10が600mV(vsSCE)以上であることを特徴とする二相ステンレス鋼。
【請求項2】
上記成分組成に加えてさらに、W:0.01~1mass%、Cu:0.01~1mass%、V:0.01~1mass%、Co:0.01~1mass%、Nb:0.01~1mass%、Ti:0.01~1mass%およびB:0.001~0.010mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼。」
(4イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、二相ステンレス鋼およびその製造方法に関し、特に、腐食環境下においても高い耐食性が要求される部位に用いられる鋼板、鋼管、棒線、鋳造品、鍛造品などの素材として好適な、耐食性と熱間加工性に優れる二相ステンレス鋼とその安価な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼は、フェライト相とオーステナイト相の2相組織からなる、フェライ
ト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼が有する優れた機械的特性と耐食性の双方を兼ね備えたステンレス鋼である。このステンレス鋼は、特に、耐食性に優れることから、石油化学プラントや海水取扱機器等の腐食性の高いガスが発生し、設備の腐食が問題となる分野に広く用いられている。
」
(4ウ)「【0027】
Al:0.001~0.05mass%
Alは、有効な脱酸元素であるとともに、鋼中に生成する非金属介在物をAl2O3やMgO・Al2O3に制御するのに必要な成分である。また、脱酸によって脱硫を促進し、Sを低減し、熱間加工性を向上する効果を有する。それらの効果を得るためには、0.001mass%以上添加する必要がある。しかし、Al添加量が0.05mass%を超えると、脱酸の効果が飽和するだけでなく、金属間化合物の析出を助長したり、スラグ中のCaOを還元して、溶鋼中のCa濃度の上昇を招き、CaO含有介在物の生成を促し、耐食性の低下を招いたりする。よって、本発明では、Alの上限を0.05mass%とする。好ましいAl含有量は、0.005~0.03mass%の範囲である。
【0028】
Mg:0.0001~0.0050mass%
Mgは、熱間加工性の向上に有効な元素であると共に、鋼中の介在物の組成をMgO・Al2O3やMgOとするのに必要な元素である。それらの効果を得るためには、0.0001mass%以上添加する必要がある。しかし、Mgを過剰に添加すると、かえって、熱間加工性を劣化させるので、Mg含有量の上限は0.0050mass%とする。
【0029】
Ca:0.0005mass%以下
Caは、CaO含有介在物を生成させる元素であり、耐食性を高めることを主眼とする本発明においては、少ないほど好ましい。しかし、Caは、精錬工程において、スラグや耐火物中のCaOが還元されることによっても混入し、CaOを含まない耐火物等を用いた製造プロセスを採用することは、現状では、実質的に困難であることから、Caの混入は不可避である。そこで、本発明では、所望の孔食電位を得るために許容できる混入限度である0.0005mass%を上限とする。」
(4エ)「【0031】
本発明の二相ステンレス鋼は、上記必須とする成分以外に、必要に応じて、下記の成分を添加することができる。
W:0.01~1mass%、Cu:0.01~1mass%、V:0.01~1mass%、Co:0.01~1mass%、Nb:0.01~1mass%およびTi:0.01~1mass%のうちから選ばれる1種または2種以上
これらの元素は、耐食性向上に有効な元素であり、その効果を得るためには、それぞれ0.01mass%以上添加するのが好ましい。しかし、1mass%を超えて添加すると、σ相やχ相などの金属間化合物の析出を助長し、耐食性を劣化させることに加えて、熱間加工性を劣化させる。そこで、それぞれの上限は1mass%とするのが好ましい。より好ましくは、それぞれ0.05~0.5mass%の範囲である。」
(5)甲5の記載
ア 甲5には、「
[図:0001421388000064.jpg]
(当審訳:金属組織標本の調製のための標準ガイド)」(標題)に関して、次の記載がある。
(5ア)「
[図:0001421388000065.jpg]
」(2頁左欄)
(当審訳:5.金属組織標本の選択
5.1 金属組織検査のための試験片の選択は極めて重要である。なぜなら、その解釈に価値があるならば、試験片は調査をしようとする材料を代表するものでなければならないからである。金属組織学的検査の意図または目的は、通常、検査すべき試料の位置を決定する。研究の目的に関して、金属組織学的検査は3つの分類に分けることができる。)
2 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「グレードUNS S32750のスーパー二相ステンレス鋼を、溶体化焼鈍温度(約1100℃)付近で熱間押し出しを行い、水焼入れして製造したもの」である「熱間押し出し継目無中空管」は、本件特許発明1の「二相ステンレス継目無鋼管」に相当する。
(イ)甲1発明の
「重量%で、
C:0.015%、
Si:0.48%、
Mn:0.62%
Cr:25.27%、
Mo:3.94%、
Ni:6.81%、
N:0.28%、
Cu:0.18%を含有し、
残部Feからなる」ことは、鋼に係る技術常識によれば、上記「残部Fe」の中に不純物が含まれ得ることは自明であり、質量%と重量%は同じ値で表示されるから、本件特許発明1の
「 質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.10~7.00%、」
「 Ni:4.00~9.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Mo:0.50~5.00%、
Cu:0.01~4.00%、
N:0.050~0.500%、」
「 W:0~4.000%、
Co:0~2.00%、
Sb:0~0.100%、
Sn:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
B:0~0.0200%、及び、
希土類元素:0~0.200%を含有し、」
「 残部がFe及び不純物からな」ることに相当する。
(ウ)通常、鋼には微量の不純物としてP、S、Alが含有されることは技術常識であるから、たとえ甲1発明において明示的に特定されていなくても、P、S、Alを含有する点については本件特許発明1と共通するが、甲1発明におけるP、S、Alの含有量が不明である点で本件特許発明1と相違する。
また、V、Ca、Mgについては、必ず鋼に含有されている元素であるとはいえないため、甲1発明においても、これらの元素が必ず含有されているはいえず、仮に、これらの元素が含有されているとしても、本件特許発明1におけるこれらの元素の含有量の範囲で含まれているか不明である。
(エ)本件明細書の段落【0109】に「具体的に、上述の化学組成からなり、ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及び残部がオーステナイトからなり、降伏強度が415MPa以上であり、T方向の交点数NTが65個以上であり、C方向の交点数NCが50個以上である二相ステンレス継目無鋼管が製造できれば、上述の製造方法に限定されず、他の方法であってもよい。」と記載されていることから、本件特許発明1の「上記断面で観察されるミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからな」ることにおいて、上記「体積率で30~55%」はフェライトの体積率を特定するものと解するのが相当である。
したがって、甲1発明の「上記断面で観察されるミクロ組織は、55%のオーステナイト島が45%のフェライトマトリックスに埋め込まれたものである」ことは、本件特許発明1の「ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからな」ることに相当する。
(オ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「 二相ステンレス継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.10~7.00%、
Ni:4.00~9.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Mo:0.50~5.00%、
Cu:0.01~4.00%、
N:0.050~0.500%、
W:0~4.000%、
Co:0~2.00%、
Sb:0~0.100%、
Sn:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
B:0~0.0200%、及び、
希土類元素:0~0.200%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからなる、
二相ステンレス継目無鋼管。」の点。
(相違点1)
「二相ステンレス継目無鋼管」の組成について、本件特許発明1は「V:0.01~1.50%」を含有し、「Ca:0.0001~0.0200%、及び、Mg:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有」するものであるのに対して、甲1発明はV、Ca、Mgがそれぞれ上記含有量の範囲で含有されているか不明である点。
(相違点2)
「二相ステンレス継目無鋼管」の組成について、本件特許発明1は「P:0.040%以下、 S:0.0100%以下、 Al:0.100%以下」を含有しているのに対して、甲1発明は、P、S、Alを不純物として含有しているものであるとしても、P、S、Alがそれぞれ上記含有量の範囲で含有されているか不明である点。
(相異点3)
「降伏強度」が、本件特許発明1では「415MPa以上」であるのに対して、甲1発明では測定されておらず不明である点。
(相違点4)
「前記二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向をL方向、前記二相ステンレス継目無鋼管の管径方向をT方向、前記L方向及び前記T方向と垂直な方向をC方向と定義したとき、
前記二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部を含み、前記T方向に延びる辺の長さが250μmであり、前記C方向に延びる辺の長さが250μmである正方形の観察視野領域において、
前記T方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記C方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記C方向に5等分する4つの線分をT1~T4と定義し、
前記C方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記T方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記T方向に5等分する4つの線分をC1~C4と定義し、
前記観察視野領域における前記フェライトと前記オーステナイトとの界面をフェライト界面と定義したとき」の「前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NT」と「前記線分C1~C4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NC」が、本件特許発明1では、それぞれ、「65個以上」及び「50個以上」であるのに対して、甲1発明ではいずれも測定されておらず不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点1について検討する。
(ア)甲1は、表1で表される特定の組成の二相ステンレス鋼について、冷間ピルガー圧延をした際の冷間加工挙動と集合組織の進化を調べた論文であり(上記1(1)ア(1ア)、(1オ)参照。)、上記特定の組成を別の組成に変更すること、具体的には、上記表1の組成にさらに他の元素である、「V:0.01~1.50%」を含有し、「Ca:0.0001~0.0200%、及び、Mg:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有」する動機については何ら記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、甲1の記載に基いて、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)なお、相違点1に関して、申立人は、特許異議申立書の第46頁下から3行~第47頁4行において、「甲第4号証には、鋼管などの素材として使用される、フェライト相とオーステナイト相の2相組織からなる二相ステンレス鋼において、耐食性に有効なVを0.01~1%、熱間加工性の向上に有効なMgを0.0001~0.0050%の範囲で含有させることが記載されているから、甲1発明の二相ステンレス継目無鋼管に、耐食性や熱間加工性を向上させるために、Vを0.01~1.5%及びMgを0.0001~0.0200%の範囲で含有させることは当業者が容易に想到し得るといえる。」と主張しているので、この主張について以下検討する。
(ウ)甲4の段落【0031】には、二相ステンレス鋼において、耐食性に有効な元素であるVを0.01~1%含有させることが記載されているが、本件特許発明においてVは「炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める」(【0048】)ために含有されるものであり、仮に、甲1発明において、甲4の記載に基づいてVの所定量を追加で含有させることが容易に想到し得たことであるとしても、炭窒化物を形成し、鋼材の強度が高められるとの効果について予測可能であるとはいえない。
(エ)甲4の段落【0028】には、二相ステンレス鋼において、熱間加工性の向上と鋼中の介在物の組成をMgO・Al2O3やMgOとするためにMgを0.0001~0.0050%の範囲で含有させることが記載されているが、本件特許発明においてMgは「鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める」(【0051】)ために含有されるものであり、仮に、甲1発明において、甲4の記載に基づいてMgの所定量を追加で含有させることが容易に想到し得たことであるとしても、Sを硫化物として固定することで無害化するとの効果について予測可能であるとはいえない。
(オ)また、仮に、申立人の上記主張のとおり、甲1発明においてV及びMgの所定量を追加で含有させることは、当業者が容易に想到し得たことであるとしても、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、また、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その特性が大きく変わるものであるから(知財高判平成25年2月20日(平成24年(行ケ)第10151号「高強度高延性容器用鋼板」事件)、第4の2(1)参照。)、V及びMgの所定量を追加で含有したときに、甲1発明において、「断面で観察されるミクロ組織は、55%のオーステナイト島が45%のフェライトマトリックスに埋め込まれたもの」であることが維持されるか不明であり、また、断面の微細構造も図2のものが維持されるか不明であるし、組成にV及びMgを追加で含有することによってこれらの特性が維持されず、新たな相違点が生じた場合に、当該新たな相違点に係る本件特許発明1の特定事項について当業者が容易に想到し得ることであるといえるか不明である。この点について、甲4以外の甲2、甲3、甲5を参照しても検討結果は変わらない。
(カ)したがって、相違点2~4について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明と、甲2~甲5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用することにより、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2についても、上記(1)と同様の理由によって、甲1に記載された発明と甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1~2は、甲1に記載された発明と甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(甲2を主引例とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明の「受け入れ後に、1050℃で溶体化処理したあとに水焼き入れを行った、直径200mm、厚さ10mmのUNS S31803二相ステンレス鋼の継目無鋼管」は、本件特許発明1の「二相ステンレス継目無鋼管」に相当する。
(イ)甲2発明の
「質量%で、
C:0.03%、
Si:0.580%、
Mn:0.810%
P:0.009%、
S:0.003%、
Cr:22.11%、
Mo:3.06%、
Ni:5.01%、
N:0.12%を含有し、
残部がFeからな」ることは、鋼に係る技術常識によれば、上記「残部Fe」の中に不純物が含まれ得ることは自明であるから、本件特許発明1の
「 質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.10~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、」
「 Ni:4.00~9.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Mo:0.50~5.00%、」
「 N:0.050~0.500%、」
「 W:0~4.000%、
Co:0~2.00%、
Sb:0~0.100%、
Sn:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
B:0~0.0200%、及び、
希土類元素:0~0.200%を含有し、」
「 残部がFe及び不純物からな」ることに相当する。
(ウ)通常、鋼には微量の不純物としてAlが含有されることは技術常識であるから、たとえ甲2発明において明示的に特定されていなくても、Alを含有する点については本件特許発明1と共通するが、甲2発明におけるAlの含有量が不明である点で本件特許発明1と相違する。
また、Cu、V、Ca、Mgについては、必ず鋼に含有されている元素であるとはいえないため、甲1発明においても、これらの元素が必ず含有されているはいえず、仮に、これらの元素が含有されているとしても、本件特許発明1におけるこれらの元素の含有量の範囲で含まれているか不明である。
(エ)甲2発明の「上記画像から測定したフェライトとオーステナイトの含有率はそれぞれ44.1±2.5%、55.9±2.5%であ」ることは、本件特許発明1の「ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからな」ることに相当する。
(オ)甲2発明の「降伏強度(YS)は554±4MPaであ」ることは、本件特許発明1の「降伏強度が、415MPa以上であ」ることに相当する。
(カ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲2発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「 二相ステンレス継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.10~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Ni:4.00~9.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Mo:0.50~5.00%、
N:0.050~0.500%、
W:0~4.000%、
Co:0~2.00%、
Sb:0~0.100%、
Sn:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
B:0~0.0200%、及び、
希土類元素:0~0.200%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからなり、
降伏強度が、415MPa以上である、
二相ステンレス継目無鋼管。」の点。
(相違点5)
「二相ステンレス継目無鋼管」の組成について、本件特許発明1は「Cu:0.01~4.00%」、「V:0.01~1.50%」を含有し、「Ca:0.0001~0.0200%、及び、Mg:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有」するものであるのに対して、甲2発明はCu、V、Ca、Mgがそれぞれ上記含有量の範囲で含有されているか不明である点。
(相違点6)
「二相ステンレス継目無鋼管」の組成について、本件特許発明1は「Al:0.100%以下」を含有しているのに対して、甲1発明はAlを不純物として含有しているものであるとしても、Alが上記含有量の範囲で含有されているか不明である点。
(相違点7) 「前記二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向をL方向、前記二相ステンレス継目無鋼管の管径方向をT方向、前記L方向及び前記T方向と垂直な方向をC方向と定義したとき、
前記二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部を含み、前記T方向に延びる辺の長さが250μmであり、前記C方向に延びる辺の長さが250μmである正方形の観察視野領域において、
前記T方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記C方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記C方向に5等分する4つの線分をT1~T4と定義し、
前記C方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記T方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記T方向に5等分する4つの線分をC1~C4と定義し、
前記観察視野領域における前記フェライトと前記オーステナイトとの界面をフェライト界面と定義したとき」の「前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NT」と「前記線分C1~C4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NC」が、本件特許発明1では、それぞれ、「65個以上」及び「50個以上」であるのに対して、甲2発明ではいずれも測定されておらず不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点5について検討する。
(ア)甲2は、表1で表される特定の組成の非平衡二相ステンレス鋼に対して、溶体化処理と、475℃で8時間の時効処理が、機械的性質と硫化物応力腐食割れ(SSCC)の挙動に及ぼす影響を調べた論文であり(上記1(2)ア(2ア)、(2イ)参照。)、上記特定の組成を別の組成に変更すること、具体的には、上記表1の組成にさらに他の元素である、「Cu:0.01~4.00%」、「V:0.01~1.50%」を含有し、「Ca:0.0001~0.0200%、及び、Mg:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有」する動機については何ら記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明において、甲2の記載に基いて、相違点4に係る本件特許発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)なお、相違点5に関して、申立人は、特許異議申立書の第50頁11行~19行において、「甲2発明と共通する二相ステンレス継目無鋼管である甲1発明に、Cuを含有させることが記載され、甲第4号証には、鋼管などの素材として使用される、フェライト相とオーステナイト相の2相組織からなる二相ステンレス鋼において、耐食性に有効なCuを0.01%、Vを0.01~1%、熱間加工性の向上に有効なMgを0.0001~0.0050%の範囲で含有させることが記載されているから、甲1発明(当審注:甲2発明の誤記と認められる。)の二相ステンレス継目無鋼管に、耐食性や熱間加工性を向上させるために、Cuを0.01~1%、Vを0.01~1.5%及びMgを0.0001~0.0200%の範囲で含有させることは当業者が容易に想到し得るといえる。」と主張しているので、この主張について以下検討する。
(ウ)甲1には、表1に、熱間押し出し継目無中空管に使用される二相ステンレス鋼にCuを0.18%含有させることが記載されているが、Cuを含有させることの技術的意義については何ら記載されていない。一方、本件特許発明においてCuは「高温環境での鋼材の耐食性を高める」(【0046】)ために含有されるものであり、仮に、甲1の記載に基づいて甲2発明の二相ステンレス鋼の継目無鋼管にCu0.18%を追加で含有させることが容易に想到し得たことであるとしても、高温環境での鋼材の耐食性を高めるとの効果について予測可能であるとはいえない。
(エ)甲4の段落【0031】には、二相ステンレス鋼において、耐食性に有効な元素であるCuとVをいずれも0.01~1%含有させることが記載されているが、本件特許発明において、Cuは「高温環境での鋼材の耐食性を高める」(【0046】)ために含有されるものであり、Vは「炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める」(【0048】)ために含有されるものであり、仮に、甲2発明において、甲4の記載に基づいてCuとVの所定量を追加で含有させることが容易に想到し得たことであるとしても、Cuを含有させることによって、高温環境での鋼材の耐食性を高められ、Vを含有させることによって、炭窒化物を形成し、鋼材の強度が高められるとの効果について予測可能であるとはいえない。
(オ)甲4の段落【0028】には、二相ステンレス鋼において、熱間加工性の向上と鋼中の介在物の組成をMgO・Al2O3やMgOとするためにMgを0.0001~0.0050%の範囲で含有させることが記載されているが、本件特許発明においてMgは「鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める」(【0051】)ために含有されるものであり、仮に、甲2発明において、甲4の記載に基づいてMgの所定量を追加で含有させることが容易に想到し得たことであるとしても、Sを硫化物として固定することで無害化するとの効果について予測可能であるとはいえない。
(カ)また、仮に、申立人の上記主張のとおり、甲2発明においてCu、V及びMgの所定量を追加で含有させることは、当業者が容易に想到し得たことであるとしても、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、また、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その特性が大きく変わるものであるから(知財高判平成25年2月20日(平成24年(行ケ)第10151号「高強度高延性容器用鋼板」事件)、第4の2(1)参照。)、Cu、V及びMgの所定量を追加で含有したときに、甲2発明において、「上記継目無鋼管から採取した試験片の光学顕微鏡(LOM)画像が図2(b)であ」ることが維持されるのか不明であり、「上記画像から測定したフェライトとオーステナイトの含有率はそれぞれ44.1±2.5%、55.9±2.5%」であることが維持されるのか不明であり、また、「降伏強度YSは554±4MPaであ」ることが維持されるのか不明であるし、組成にCu、V及びMgを追加で含有することによってこれらの特性が維持されず、新たな相違点が生じた場合に、当該新たな相違点に係る本件特許発明1の特定事項について当業者が容易に想到し得ることであるといえるか不明である。この点について、甲4以外の甲1、甲3、甲5を参照しても検討結果は変わらない。
(キ)したがって、相違点6~7について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明と、甲1、甲3~甲5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用することにより、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2についても、上記(1)と同様の理由によって、甲2に記載された発明と、甲1、甲3~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1~2は、甲2に記載された発明と甲1、甲3~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 本件特許発明は「二相ステンレス継目無鋼管」という物の発明である。物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるところ、以下、上記観点に立って検討する(平成26年(行ケ)第10254号の第65頁、4(1)参照。)。
(2)そこで、本件明細書の段落【0091】~【0109】の記載を参照すると、本件特許発明の製造方法が記載されており、
「質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.10~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.100%以下、
Ni:4.00~9.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Mo:0.50~5.00%、
Cu:0.01~4.00%、
N:0.050~0.500%、
V:0.01~1.50%、
W:0~4.000%、
Co:0~2.00%、
Sb:0~0.100%、
Sn:0~0.100%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
B:0~0.0200%、及び、
希土類元素:0~0.200%を含有し、
Ca:0.0001~0.0200%、及び、
Mg:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有し、
残部がFe及び不純物からな」るとの条件(以下、「組成条件」という。)を満たす素材を準備する工程、
素材を熱間加工して素管を製造する工程、
溶体化処理を実施して継目無鋼管を製造する工程、
を順次実施することにより、本件特許発明の二相ステンレス継目無鋼管を製造することができることが説明されている。
さらに、本件明細書の段落【0110】以降には、具体的な組成や製造条件の下に多数の実施例を製造したこと、また、得られた二相ステンレス継目無鋼管についてフェライト体積率、NT、NC、降伏強度YS及び耐HISC性試験の測定結果が表3、4に示されており、試験番号1~11、18~28、35~44、50~58という多数の実施例が、上記組成条件を満たしており、また、「ミクロ組織が、体積率で30~55%のフェライト及びオーステナイトからな」るとの条件、「降伏強度が、415MPa以上であ」るとの条件、及び、「前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NTが65個以上であり、前記線分C1~C4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NCが50個以上である」との条件を満たしていることが確認できる。
(3)したがって、本件明細書には、本件特許発明の二相ステンレス継目無鋼管を製造する具体的な方法が記載されているといえるので、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
(4)なお、申立人は、技術常識によれば、二相ステンレス鋼は、溶解した鋼が凝固する過程において、フェライト相が最初に凝固し、その後温度が低下するにしたがって、オーステナイト相が晶出するものであり、このような過程によって、二相ステンレス鋼は、フェライト相をマトリックスとし、オーステナイト相が島状に分布するものとなることを踏まえると、本件明細書に記載された二相ステンレス鋼は、フェライト相とオーステナイト相の分布について、マトリックスと島状領域の関係が技術常識と逆となっており、このような技術常識と整合しない二相ステンレス鋼が、本件特許明細書に記載された製造条件によって製造できるか明らかではない、と主張しているので、この主張について以下検討する。
(5)二相ステンレス鋼は、溶解した鋼が凝固する過程において、フェライト相が最初に凝固し、その後温度が低下するにしたがって、オーステナイト相が晶出するので、オーステナイト相の占める割合が小さい場合には、オーステナイト相が島状に形成され、フェライト相が島状のオーステナイト相を囲む海状に形成されることは、申立人の指摘のとおりである。
しかしながら、オーステナイト相の占める割合が増えてくると、島状のオーステナイト相が相互に連結し、フェライト相を取り囲むようになる、すなわち、海と島の関係が逆転することがあると推定される。
例えば、次の文献「山本涼太郎外3名、二相ステンレス鋳鋼の腐食挙動に及ぼすα/γ相比の影響、エバラ時報、No.262、URL:https://www.ebara.co.jp/jihou/no/list/detail/262-9.html」の図1には、以下に示すとおり、二相ステンレス鋼のフェライト(α)相とオーステナイト(γ)相の割合が変化したときの、組織写真が掲載されており、α相比が大きいときにはα相は海状に形成されているが、α相比が小さくなるとα相は島状になるとともにγ相が海状になることが示されている。
「
[図:0001421388000066.jpg]
」
(6)したがって、製造条件によっては、フェライト相が島状に形成され、オーステナイト相が海状に形成されることがあると理解できるから、フェライト相とオーステナイト相の関係が技術常識と逆であることを根拠として、本件特許発明の二相ステンレス継目無鋼管を製造することができないとする、申立人の上記主張を採用することはできない。
(7)小括
以上の検討によれば、本件特許発明1~2について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
したがって、申立理由3によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由1~3及び証拠によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701077