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特許異議申立

2024-700573

プロジェクション溶接継手の製造方法、プロジェクション溶接継手、及び自動車部品

審判番号
2024-700573
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-537327
登録番号
7399360
請求日
2024年06月14日
審決日
2025年05月08日
公報発行日
2025年08月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本製鉄株式会社
  • 【権利者代理人】松沼 泰史
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】勝俣 智夫
  • 【権利者代理人】山口 洋
  • 【権利者代理人】堀田 耕一郎
  • 【権利者代理人】山口 健吾
  • 【権利者代理人】飯田 恭宏
  • 【権利者代理人】井口 翔太
  • 【権利者】豊田鉄工株式会社
  • 【権利者代理人】松沼 泰史
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】勝俣 智夫
  • 【権利者代理人】山口 洋
  • 【権利者代理人】堀田 耕一郎
  • 【権利者代理人】山口 健吾
  • 【権利者代理人】飯田 恭宏
  • 【権利者代理人】井口 翔太
  • 【異議申立人】吉田 敦子
審判長/審判官
  • 審判長 刈間 宏信
  • 審判官 田々井 正吾
  • 審判官 本庄 亮太郎
分類
P1652.121-YAA(B23K) / P1652.161-YAA(B23K) / P1652.536-YAA(B23K) / P1652.537-YAA(B23K)
データ出所
審決公報(XML)

結論

結 論 特許第7399360号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 特許第7399360号の請求項1~7、10~11に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7399360号の請求項1~7、10~11に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)12月23日(優先権主張 令和4年3月25日(以下「優先日」という。))を国際出願日とする出願であって、令和5年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同月15日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。 令和6年 6月14日 :特許異議申立人吉田敦子(以下「申立人」という。)による請求項1~7、10~11に係る特許に対する特許異議の申立て 令和6年 9月26日付け:取消理由通知 令和6年11月29日 :特許権者による意見書(以下「権者意見書」という。)及び訂正請求書の提出 令和7年 1月14日 :申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出 第2 訂正の適否 1 訂正請求書による訂正の内容 訂正請求書により、特許権者は、特許請求の範囲の訂正を求めているところ、訂正事項は以下のとおりである(下線部は、訂正により変更又は追加された箇所を示す)。 特許請求の範囲の請求項1における、 「複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程と、を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法。」との記載を、 「複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程と、を備え、 前記複数の接合部のそれぞれにおいて、前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記端部領域の最大硬度Hedgeが式3の関係を満たし、 前記複数の接合部のそれぞれにおいて、前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記接合部の最大硬度Hmaxが式4の関係を満たす プロジェクション溶接継手の製造方法。」に訂正し、 「Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S] :式1 ここで、前記式1に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。」との記載を、 「Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S] :式1 Hedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4 ここで、前記式1に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量であり、前記式3及び式4に含まれる記号Hmは、式5によって算出される値であり、 Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294 :式5 前記式5に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。」 に訂正する(請求項1を引用する請求項2~7も同様に訂正する)。 2 訂正の目的、新規事項、特許請求の範囲の拡張・変更 (1) 訂正の目的 訂正事項は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、訂正前のプロジェクション溶接継手の「複数の接合部」の硬度に関し、「前記複数の接合部のそれぞれにおいて、前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記端部領域の最大硬度Hedgeが式3の関係を満たし、 前記複数の接合部のそれぞれにおいて、前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記接合部の最大硬度Hmaxが式4の関係を満たす」ものであることを特定し、その式3及び式4が「 Hedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4」であり、かつ、「前記式3及び式4に含まれる記号Hmは、式5によって算出される値であり、 Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294 :式5 前記式5に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である」ことを新たに特定するものである。 この訂正事項は特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項に係る訂正は、特許法(以下、単に「法」ということがある。)120条の5第2項ただし書1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2) 新規事項 訂正事項に関し、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0057】には、「・・・、複数の接合部13のそれぞれにおいて、第一面11aから0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、端部領域131の最大硬度Hedgeが式3の関係を満たし、複数の接合部13のそれぞれにおいて、第一面11aから0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、接合部13の最大硬度Hmaxが式4の関係を満たす。 Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S] :式2 Hedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4 ここで、前記式3及び式4に含まれる記号Hmは、式5によって算出される値である。 Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294 :式5 ここで、前記式2及び前記式5に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。」という、訂正事項と同様の記載がある。 したがって、訂正事項は本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであって新規事項に該当しないから、訂正事項に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条5項の規定に適合する。 (3) 特許請求の範囲の拡張・変更 前記(1)のとおり、訂正事項は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。 したがって、訂正事項に係る訂正は、法120条の5第9項において準用する法126条6項の規定に適合する。 (4) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、訂正前の請求項1~7、10~11について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る前記訂正事項に関して、法120条の5第9項で読み替えて準用する法126条7項の独立特許要件は課されない。 3 一群の請求項についての説明 訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、請求項1を引用しているものであって、前記訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 4 むすび 以上のとおりであるから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 前記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件の請求項1~7、10~11に係る発明(以下「本件発明」という。また、請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、他の請求項に係る発明についても同様にいう。)は、次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 非めっき鋼板または亜鉛系めっき鋼板である鋼板の第一面に、複数の突起を有するナット又はボルトである鋼部材をプロジェクション溶接して、複数の接合部を形成するように、前記鋼板及び前記鋼部材に通電をする第一通電工程を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法であって、 前記鋼板の引張強さが1.5GPa以上であり、 下記式1によって算出される前記鋼板の炭素当量Ceqが0.30質量%以上であり、 前記鋼部材の中心及び前記接合部の中心を通り、且つ前記鋼板の前記第一面に垂直な断面において、 前記接合部のうち、前記鋼部材の中心から最も離れた位置を、前記接合部の端部とし、 前記接合部のうち、前記鋼板の前記第一面に沿って前記端部から前記鋼部材の中心に向かって0.5mm離れた位置までの領域を、前記接合部の端部領域とするとき、 前記製造方法がさらに、 複数の前記接合部のそれぞれを焼入れするクール工程と、 複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程と、 を備え、 前記複数の接合部のそれぞれにおいて、前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記端部領域の最大硬度Hedgeが式3の関係を満たし、 前記複数の接合部のそれぞれにおいて、前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記接合部の最大硬度Hmaxが式4の関係を満たす プロジェクション溶接継手の製造方法。 Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S] :式1 Hedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4 ここで、前記式1に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量であり、前記式3及び式4に含まれる記号Hmは、式5によって算出される値であり、 Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294 :式5 前記式5に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。 【請求項2】 前記鋼板がホットスタンプ鋼板であることを特徴とする請求項1に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法。 【請求項3】 前記鋼板の化学成分が、単位質量%で、 C:0.07~0.45%、 Si:0.001~2.50%、 Mn:0.8~5.0%、 P:0.03%以下、 S:0.01%以下、 を含有することを特徴とする請求項1に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法。 【請求項4】 前記鋼板が亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板であることを特徴とする請求項1に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法。 【請求項5】 前記鋼板が亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板であり、 前記鋼板の板厚が1.2mm~3.6mmであり、 前記クール工程の長さが332msec以上であり、 前記第二通電工程における平均電流値I2及び通電時間t2の積I2×t2が、前記第一通電工程における平均電流値I1及び通電時間t1の積I1×t1の0.5倍以上である ことを特徴とする請求項1に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法。 【請求項6】 前記プロジェクション溶接継手の製造方法が、前記第一通電工程の前に、前記第一通電工程の開始時点の電流値未満の電流値で、前記鋼板及び前記鋼部材に通電する前通電工程をさらに有する ことを特徴とする請求項1に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法。 【請求項7】 前記鋼部材が前記ナットであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法。」 「【請求項10】 前記鋼板が亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板であることを特徴とする請求項8に記載のプロジェクション溶接継手。 【請求項11】 請求項8~10のいずれか一項に記載のプロジェクション溶接継手を備える自動車部品。」 第4 取消理由通知で通知した取消理由について 1 取消理由の概要 取消理由通知で通知した取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要は以下のとおりである。 (1) 進歩性 訂正前の本件特許の請求項1~4、6、7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、6、7に係る特許は、法29条2項の規定に違反してされたものである。 証拠 甲第1号証:特開2004- 50280号公報 甲第2号証:特開2013- 78784号公報 甲第3号証:特開2014-176856号公報 甲第4号証:国際公開第2020/138468号 (以下、各甲号証を「甲1」などという。) (2) 拡大先願 訂正前の本件特許の請求項1、3、7に係る発明は、その優先日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は国際公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1、3、7に係る特許は、法29条の2の規定に違反してされたものである。 ア 証拠 先願:特願2022-006256号(特許第7276640号) 先願に関し、特許異議申立書には、次の甲5と甲6が添付された。 甲5:特許第7276640号公報(先願の特許掲載公報) 甲6:先願(特願2022-006256号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面 イ 証拠の説明 先願の出願日(令和4年1月19日)は、本件特許の優先日(令和4年3月25日)より前であり、本件特許の優先日後に特許掲載公報が発行された。 そうすると、法41条3項の規定により、甲5と甲6の双方に記載された発明を法29条の2(拡大先願)で規定する「他の特許出願」「の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲」「又は図面に記載された発明」について、上記特許掲載公報の発行がされた時に出願公開公報の発行がされたものとみなして、法29条の2の規定が本件特許に係る発明に対して適用される。 (3) 実施可能要件 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由についての判断 前記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件発明について前記1の取消理由を検討する。 (1) 本件発明1の進歩性 ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は複数の突起をもつワークを相手のワークに溶接するプロジェクション溶接方法に関する。」 「【0006】 本発明は上記した実情に鑑みなされたものであり、溶接強度の更なる向上、溶接強度のバラツキ低減、溶接痕の低減を図ることができ、溶接の高品質化を図ることができるプロジェクション溶接方法を提供することを課題とする。」 「【0011】 【発明の実施の形態】 本発明方法によれば、準備工程では、板状をなす板状部をもつ鋼系の第1のワークと、複数の突起をもつ鋼系の第2のワークとを準備する。第1のワークは鋼系であり、板状をなす板状部をもつ。第1のワークとしては、引張強度が大きなハイテン鋼を例示することができ、なかでも超ハイテン鋼を例示することができる。ハイテン鋼は高張力鋼を意味し、その材料の引張強度は一般的に400MPa以上であり、400~1000MPaである。超ハイテン鋼はハイテン鋼よりも引張強度が大きい超高張力鋼を意味し、その材料の引張強度は一般的に1000MPa以上、または1300MPa以上である。ハイテン鋼では通常の炭素鋼に比較して炭素、シリコン、マンガン及びクロムから選ばれる1種または2種以上の合金元素が増加され、引張強度が高められている。超ハイテン鋼では通常の炭素鋼に比較して炭素、シリコン、マンガン及びクロムから選ばれる1種または2種以上の合金元素が増加されており、一般的には焼き入れ処理などの熱処理により引張強度が更に高められている。ハイテン鋼または超ハイテン鋼においては、例えば、重量比で、炭素を0.13~0.23%、シリコンを0.15~0.35%、マンガンを1.10~1.50%、クロムを0.15~0.25%含有することができる。第1のワークの板状部の厚みとしては特に限定されるものではないが、0.1~5.0mm程度、0.6~2.6mm程度を例示できる。第1のワークとしては車体の補強系部品、排気系部品、吸気系部品、駆動系部品などを例示できる。補強系部品としては、シートベルトリンフォースメンバーなどのリンフォース、ドアビーム、バンパ等を例示できる。 【0012】 第2のワークは鋼系であり、溶接部となる複数の突起をもつ。第2のワークとしては一般的な炭素鋼系を例示することができる。」 「【0014】 第2のワークの突起の数は適宜選択することができ、一般的には3個以上、あるいは4個以上とすることができ、第2のワークが大きい場合には5個以上、あるいは7個以上とすることもできる。第2のワークの突起としては、第2のワークの成形時に一体成形されていても良く、あるいは、後付けされていても良い。第2のワークとしてはナット、突起を有する板状部を例示できる。ナットとしてはM4~M16(JIS)を例示できるが、これに限定されるものではない。ナットは雌ねじ部を有する部材を意味する。」 「【0016】 本発明方法によれば、加圧操作を行いつつ、第1のワークと第2のワークとの間に溶接電流I1、通電時間T1の条件で通電する第1通電操作を実施し、その後、第1のワークと第2のワークとの間に溶接電流I2、通電時間T2の条件で通電する第2通電操作を実施する。第1通電操作の溶接電流I1は第2通電操作の溶接電流I2よりも小さく設定されており、且つ、第1通電操作の通電時間T1は第2通電操作の通電時間T2よりも短く設定されている。第2通電操作は、第2のワークの突起を第1のワークの板状部に強固に溶接する本溶接工程として機能することができる。第1通電操作は、本溶接工程の前において第2のワークの複数の突起を均等に圧潰し、本溶接工程における溶接むらを抑える圧潰均等化工程として機能することができる。 【0017】 各突起の突出量がばらついているときであっても、あるいは、第1のワークの板状部の平坦度が必ずしも充分でないときであっても、第1通電操作を実施することにより、本溶接工程の前において第2のワークの複数の突起の圧潰の均等化を図ることができる。このため本溶接工程において第2通電操作を実施するとき、第2のワークの複数の突起間における電流配分の均等化を図ることができ、ひいては各突起の溶融の均等化を図ることができ、各突起による溶接ナゲット部の均等化を図ることができる。」 「【0022】 【実施例】 以下、本発明の実施例について図1~図5を参照して具体的に説明する。本実施例によれば、準備工程では、図1に示すように、板状をなす板状部10をもつ鋼系の第1のワーク1と、複数の突起3をもつ鋼系の第2のワーク2とを準備する。第1のワーク1は鋼系であり、板状をなす平坦な板状部10(厚みt1:例えば0.3~2.5mm)をもつ。板状部10はボルト等の部材を挿通させる貫通孔12を有する。第1のワーク1は、具体的には、引張強度が大きな超ハイテン鋼で形成されている。超ハイテン鋼はハイテン鋼よりも引張強度が大きい超高張力鋼を意味し、その材料の引張強度は1500MPa級である。超ハイテン鋼は通常の炭素鋼に比較して炭素、シリコン、マンガン及びクロムから選ばれる1種または2種以上の合金元素を増加しており、焼き入れ処理としてのダイクエンチ処理により引張強度が高められると共に、焼き入れ処理によって表面に酸化層が形成されている。この超ハイテン鋼においては、高張力化すべく、重量比で、炭素を0.207%、シリコンを0.215%、マンガンを1.18%、クロムを0.193%、ニッケルを0.019%、チタン0.013%、リンを0.01%、イオウを0.005%以下分有している。超ハイテン鋼で形成されている第1のワーク1は、本溶接での溶接時間が長くなると、熱の影響を受けて軟化が過剰に進行し、超ハイテン鋼本来の引張強度が低下するおそれがあり、このため本溶接を迅速に行うことが好ましい。」 「【0036】 第2通電操作を行って本溶接を行う場合、第1のワーク1の軟化が過剰に進行したときには、第1のワーク1の厚みは薄いために加圧力Pの影響を受け易く、第1のワーク1のうち第2のワーク2に背面する裏面1xに、溶接痕となる凸状部が発生し易い。この点本実施例によれば、前述したように、本溶接工程に相当する第2通電操作に係る通電時間T2を短くできるため、本溶接時における第1のワーク1の軟化の進行を抑えることができ、第1のワーク1の裏面1xにおける溶接痕の発生も抑制することができる。」 「【0045】 (第2実施例)図6は第2実施例に係る溶接過程を示す。第2実施例は第1実施例と基本的には共通の構成であり、基本的には共通の作用効果を奏する。本実施例においても、第2のワーク2の複数の突起3を第1のワーク1の板状部10に押しつけるように、第1のワーク1及び第2のワーク2を加圧する加圧操作を行なう。このような加圧操作を行いつつ、第1のワーク1と第2のワーク2との間に溶接電流I1、通電時間T1の条件で通電する第1通電操作を実施する。第1通電操作を実施すれば、複数の各突起3は均等に圧潰される。その後、第1のワーク1と第2のワーク2との間に溶接電流I2、通電時間T2の条件で通電する第2通電操作を実施する。第2通電操作を実施すれば、前述したように複数の各突起3は第1のワーク1に強固に溶接される。 【0046】 第1のワーク1が超ハイテン鋼である場合には、溶接条件の如何によっては、溶接時の急熱急冷の影響を受けて低温割れが発生するおそれがある。そこで本実施例によれば、第2通電操作後に第3通電操作を行う。即ち、第1のワーク1と第2のワーク2との間に溶接電流I3、通電時間T3の条件で通電する第3通電操作を実施する。第3通電操作を実施すれば、突起3による溶接ナゲット部の急冷が抑えられ、低温割れ発生が抑えられ、溶接の信頼性を一層高めることができる。溶接電流I3は、第1通電操作の溶接電流I1よりも小さくできる。溶接時間T3は、第1通電操作の溶接時間T1よりも長くできる。なお、溶接電流I3は、第1通電操作の溶接電流I1と同じ程度とすることもできる。溶接時間T3は、第1通電操作の溶接時間T1と同じ程度とすることもできる。 【0047】 図6に示すように、第2通電操作は時刻A5で終了される。第3通電操作は時刻A6で開始され、時刻A7で終了される。第2通電操作を終了してから時刻A5~時刻A6の間は、通電はいったん停止される。時間経過によれば、時刻A1→時刻A2→時刻A3→時刻A4→時刻A5→時刻A6→時刻A7→時刻A8の順とされている。」 「 [図:0001425740000001.jpg] 」 「 [図:0001425740000002.jpg] 」 イ 甲1の記載から理解できる事項 (ア)【0022】によると、第1のワーク1は超ハイテン鋼で形成され、その引張強度が1500MPa級であって、かつ、引張強度は引張強さといえるから、単位を換算すると、第1のワーク1は引張強さが1.5GPa以上のものであると理解できる。 (イ)【0036】によると、第2のワーク2に向き合わない第1のワーク1の面を裏面1xとしていることから、図1の図示内容とあわせてみると、第2のワーク2と向き合う第1のワーク1の面を「表面」ということができる。 (ウ)【0045】~【0047】、図6には、第2実施例として、第1のワーク1が超ハイテン鋼である場合の溶接過程が記載されている。ここで、本溶接工程である第2通電操作後の、図6における時刻A5~時刻A6の間の工程は通電がいったん停止される工程であるところ、通電が停止されると溶接ナゲット部の温度が下がることは自明であるから、当該工程は、「クール工程」と称することができる。また、通電をいったん停止した後の第3通電操作は、複数の溶接ナゲット部のそれぞれにおいて、突起による溶接ナゲット部の急冷を抑え、低温割れ発生を抑制するために、第1のワーク1及び第2のワーク2にさらに通電を行う工程であることが理解できる。 (エ)【0012】によると、第2のワークは鋼系であり、【0014】によると、第2のワークは複数の突起を有するから、上記(ウ)の第2のワーク2は鋼系であり複数の突起を有するといえる。 ウ 甲1発明 前記ア及びイから、甲1に記載された事項を、本件発明1の発明特定事項に合わせて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「鋼系であり板状をなす第1のワーク1の表面に、鋼系であり複数の突起を有するナットである第2のワーク2をプロジェクション溶接して、複数の溶接ナゲット部を形成するように、前記第1のワーク1及び前記第2のワーク2に通電をする第2通電操作を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法であって、 前記第1のワーク1の引張強さが1.5GPa以上であり、 前記第1のワーク1が重量比で炭素を0.207%、シリコンを0.215%、マンガンを1.18%、リンを0.01%、イオウを0.005%以下分有しており、 前記製造方法がさらに、 前記第2通電操作の後に通電をいったん停止するクール工程と、 複数の前記溶接ナゲット部のそれぞれにおいて、突起による溶接ナゲット部の急冷を抑え、低温割れ発生を抑制するよう前記第1のワーク1及び前記第2のワーク2にさらに通電をする第3通電操作と、 を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法。」 エ 対比 (ア) 甲1発明における「鋼系であり板状をなす第1のワーク1」と本件発明1における「非めっき鋼板または亜鉛系めっき鋼板である鋼板」とは、「鋼板」という概念で一致する。 (イ) 甲1発明の「表面」は本件発明1の「第一面」に相当し、以下同様に、「鋼系であり複数の突起を有するナットである第2のワーク2」は「複数の突起を有するナット又はボルトである鋼部材」に、「溶接ナゲット部」は「接合部」に、「第2通電操作」は「第一通電工程」に、それぞれ相当する。 (ウ) 甲1発明の「前記第1のワーク1が重量比で炭素を0.207%、シリコンを0.215%、マンガンを1.18%、リンを0.01%、イオウを0.005%以下分有し」との事項を、本件発明1のCeq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S]という炭素当量Ceqを算出する式1に当てはめると、Ceq=0.207+0.215/30+1.18/20+2×0.01+4×0.005=0.313(小数点以下4桁目で四捨五入)となるから、当該事項は、本件発明1における「下記式1によって算出される前記鋼板の炭素当量Ceqが0.30質量%以上であり」との事項に相当する。 (エ) 甲1発明における「前記第2通電操作の後に通電をいったん停止するクール工程」と本件発明1における「複数の前記接合部のそれぞれを焼入れするクール工程」とは、「クール工程」という概念で一致する。 (オ) 甲1発明における「複数の前記溶接ナゲット部のそれぞれにおいて、突起による溶接ナゲット部の急冷を抑え、低温割れ発生を抑制するよう前記第1のワーク1及び前記第2のワーク2にさらに通電をする第3通電操作」と本件発明1における「複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程」とは、「複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程」という概念で一致する。 以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1~4で相違する。 <一致点> 鋼板の第一面に、複数の突起を有するナット又はボルトである鋼部材をプロジェクション溶接して、複数の接合部を形成するように、前記鋼板及び前記鋼部材に通電をする第一通電工程を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法であって、 前記鋼板の引張強さが1.5GPa以上であり、 下記式1によって算出される前記鋼板の炭素当量Ceqが0.30質量%以上であり、 前記製造方法がさらに、 クール工程と、 複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程と、 を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法。 Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S]:式1 ここで、前記式1に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。 <相違点1> 「鋼板」が、本件発明1では「非めっき鋼板または亜鉛系めっき鋼板」であるとの特定がされるのに対して、甲1発明ではかかる特定がされていない点。 <相違点2> 「クール工程」が、本件発明1では「複数の前記接合部のそれぞれを焼入れする」工程であるのに対し、甲1発明では、複数の溶接ナゲット部(接合部)のそれぞれを焼入れする工程であるとまでは特定されていない点。 <相違点3> 「第二通電工程」が、本件発明1では「前記鋼部材の中心及び前記接合部の中心を通り、且つ前記鋼板の前記第一面に垂直な断面において、前記接合部のうち、前記鋼部材の中心から最も離れた位置を、前記接合部の端部とし、前記接合部のうち、前記鋼板の前記第一面に沿って前記端部から前記鋼部材の中心に向かって0.5mm離れた位置までの領域を、前記接合部の端部領域とするとき」、「複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように」前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする工程であるとの特定がされているのに対し、甲1発明では、かかる特定がされていない点。 <相違点4> 複数の接合部のそれぞれにおいて、本件発明1では「前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記端部領域の最大硬度Hedgeが式3の関係を満たし」、「前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記接合部の最大硬度Hmaxが式4の関係を満たす」ものとされ、その式3及び式4が「Hedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4」であり、「前記式3及び式4に含まれる記号Hmは、式5によって算出される値であり、 Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294 :式5 前記式5に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。」との特定がされるのに対し、甲1発明ではかかる特定がされていない点。 オ 判断 事案に鑑み、相違点4について検討する。 (ア) 甲3技術 a 甲3には次の記載がある(下線は当審で付与)。 「【0016】 図1には、抵抗溶接装置10を用いて、高張力鋼板20とナット30とをプロジェクション溶接する際の様子が示されている。・・・」 「【0021】 具体的には、まず、時刻t0にて、第一電極11と第二電極12との間を通電させることで、パルス状の大電流である溶接電流I1を、接合部50に通流させる(通電時間tw1)。これにより、接合部50が溶着する。このとき、接合部温度が、オーステナイト変態温度Ac3を超える。その後、時間tcにわたって、第一電極11と第二電極12との間の通電を遮断する。すると、第一電極11や第二電極12の冷却作用により、接合部温度が急速に低下し、時刻t0から時間tc後の時刻t1にて、接合部温度がマルテンサイト変態終了温度Mfよりも低くなる(好ましくはMf-50℃付近あるいはこれ以下となる)。すなわち、時間tcにわたる通電の遮断により、例えば、接合部温度を250℃未満(より好ましくは200℃未満)まで降温させる。 【0022】 この時点では、接合部50は、いわゆる「焼き入れ」された状態であって、このままでは焼入れ硬化や遅れ破壊特性低下が生じている。そこで、時刻t1にて、第一電極11と第二電極12との間を再度通電させることで、溶接電流I1よりも小電流であるものの、比較的大きな(例えば溶接電流I1の65~75%程度の)焼き戻し初期電流I2を通流させる。すると、接合部温度が急速に上昇し、比較的短時間(例えば0.1~0.7秒程度)で所定の焼き戻し温度Ttp(オーステナイト変態温度Ac3未満:具体例としては350~800℃)に達する。 【0023】 但し、かかる焼き戻し初期電流I2を通流させ続けると、接合部温度がオーステナイト変態温度Ac3を超えてしまい、再度焼入れ硬化や遅れ破壊特性低下が生じてしまうおそれがある。そこで、本実施形態においては、焼き戻し初期電流I2の通流直後に通流する焼き戻し電流I3を、焼き戻し初期電流I2から電流値が徐減するように制御する。なお、第一電極11と第二電極12との間を通電させることで接合部50に通流する焼き戻し電流I3は、時刻t2まで通流させる。これにより、接合部温度が、焼き戻し温度Ttp近傍にて所定時間保持される。 【0024】 <効果> 図4~図6を用いて、上述の実施形態の製造方法による効果について説明する。図4及び図5は、厚さ2.0mmの高張力鋼板とM6ナットとをプロジェクション溶接して得られた接合体に対して、押込みはく離試験及びビッカース硬さ試験を行った結果を示すものである。図4及び図5における(a)は、上述の実施形態の製造方法を用いた場合の試験結果である。一方、(b)は、(a)と同じ材料を用いつつ、溶接電流I1の通流のみを行い焼き戻し初期電流I2及び焼き戻し電流I3の通流を行わなかった場合(比較例:従来技術相当)についての試験結果である。 【0025】 押込みはく離試験(図4参照)は、JIS B1196に規定されている「押込みはく離強さ及びその試験方法」に基づいて行った(かかる試験方法については周知であって例えば特開2005-233268号公報等も参照)。ビッカース硬さ試験(図5参照)は、接合部50(図1及びその要部拡大断面図である図6参照)の断面に対して、試験荷重200gf(約1.96N)にて行った。ここで、図5は、図6における基準点AからX軸正方向に測定位置を変えることによって得られた、硬さ分布を示す。なお、図6において、51は接合境界層、52はナット側熱影響部、53は鋼板側第一熱影響部、54は鋼板側第二熱影響部である。 【0026】 図4に示されているように、本実施形態の製造方法によれば、比較例よりも接合強度が向上した。また、図示はしていないが、様々な通電条件(後述)を用いて遅れ破壊特性について評価したところ、本実施形態の製造方法によれば、比較例よりも耐遅れ破壊特性が向上した。 【0027】 ここで、ビッカース硬さの評価結果を見ると、図5に示されているように、本実施形態の製造方法によれば、鋼板側第一熱影響部53(X=0~1.5付近)におけるビッカース硬さが、母材(X=2.2付近~)程度になったことが確認できた(なお、X=1.5付近~2.2付近は、鋼板側第二熱影響部54に対応する。)。以上の評価結果から、本実施形態の製造方法においては、以下のメカニズムにより、接合部の特性が向上したものと考えられる。」 「 [図:0001425740000003.jpg] [図:0001425740000004.jpg] 」 b 甲3の記載からは次の事項が理解できる。 (a) 本件発明1の「接合部」は、「ナット及び鋼板を接合する領域」(本件明細書の【0003】)を意味し、甲1発明の「溶接ナゲット部」も同様の意味と解される。そして、甲3の図6の接合部50のうち、本件発明1の「接合部」や甲1発明の「溶接ナゲット部」に相当するのは、ナット側熱影響部52と鋼板(第一部材)側第一熱影響部53とを合わせた部分(すなわち、ナット及び鋼板を接合する部分)であるということができ、鋼板側第二熱影響部54は、ナット及び鋼板を接合する部分とはいえないから、本件発明1の「接合部」や甲1発明の「溶接ナゲット部」に相当するものではない。 (b) 図5(a)のX=1.5付近に縦方向に引かれた点線が、【0027】によると鋼板側第一熱影響部53の端部を示すものと理解でき、図6からみて、その端部は、ナット側熱影響部52の端部ともいえる。 (c) その点線から、基準点側(図5(a)の左側)に向かって0.5mmの範囲であるX=1.0mm付近から1.5mm付近までが、本件発明1でいう「接合部の端部領域」に相当する部分である。 (d) X=1.0mm付近から1.5mm付近までの最大のビッカース硬さHvが、本件発明1でいう「端部領域の最大硬度Hedge」に相当するものといえるところ、それは図5(a)からみてX=1.5mm付近の点線上で最も硬度が高く表示される黒点であって、Hvが480~490の間の値であるものとわかる。 (e) X=0mmから1.5mm付近までの最大のビッカース硬さHvは、図6でいえば基準点AからX軸正方向側へのナット側熱影響部52及び鋼板側第一熱影響部53での測定結果しかわからないものの、本件発明1でいう「接合部の最大硬度Hmax」に少しでも近いと思われる値が甲3にはこれしかないので、この範囲でのHvの最大硬さをみると、前記(d)と同じ黒点が該当し、そのHvは480~490の間の値であるものとわかる。 (f) 図6からみて基準点Aは、高張力鋼板20のナット30側の面から所定深さの位置にあるといえる。 c 甲3技術 前記a及びbからみて、甲3には、「接合部50の断面において、高張力鋼板20のナット30側の面から所定深さの位置のビッカース硬さHvを連続的に測定することによって求められる、X=1.0mm付近から1.5mm付近までの最大のビッカース硬さHvを480~490の間の値とし、X=0mmから1.5mm付近までの最大のビッカース硬さHvも480~490の間の値とする」技術的事項(以下「甲3技術」という。他の甲号証についても同様にいう。)が示されている。 (イ) 甲7技術 申立人意見書に添付された甲7(「TMCP鋼の溶接」、百合岡信孝、溶接学会誌61巻4号(1992)288~304ページ)の291ページ右欄3.1.2には、マルテンサイト硬さ(HM)の式が「HM=884×C×(1-0.3C2)+294」であるという甲7技術が示されている。 (ウ) 相違点4の判断 甲1発明に甲3技術及び甲7技術を適用したとしても、次のとおり、相違点4に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到できたものである、とはいえない。 甲1発明に甲3技術を適用して接合部の所定深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定し、また、マルテンサイト硬さを意味すると解されるHmが甲7技術から「Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294」という式で算出できることはわかるところ、その所定深さを0.3mmに設定することに格別の困難性はないが、端部領域とそれ以外の接合部のそれぞれのビッカース硬さの最大値Hedge及びHmaxとを分けて考えることや、これらとHmとを関係づける証拠は見当たらない。 なにより、前記(ア)cのとおり、甲3技術では、X=1.0mm付近から1.5mm付近までの範囲及びX=0mmから1.5mm付近までの範囲のいずれの範囲のビッカース硬さHvも、その最大値は480~490の間の値になる、すなわち、本件発明1のHedge及びHmaxに相当する値がいずれも同じ値になるから、相違点4に係るHedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4という両式を同時に満たせない。 相違点4について、甲2及び甲4の技術をみても取り上げるべき記載は見当たらない。 カ 本件発明1の進歩性についての小括 前記オのとおりであるから、相違点1~3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲2~甲4及び甲7技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明1に係る特許が、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (2) 本件発明2~4、6、7の進歩性 本件発明2~4、6、7は、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものであって、本件発明1と甲1発明との相違点1~4を少なくとも有することになるから、前記(1)と同様に、甲1発明並びに甲2~甲4及び甲7技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明2~4、6、7に係る特許が、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (3) 進歩性についての小括 以上のとおりであるから、本件発明1~4、6、7に係る特許は、当審が取消理由通知で通知した取消理由である法29条2項(進歩性)の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (4) 本件発明1の拡大先願 ア 先願の記載事項 甲5には、以下の事項が記載されている。また、括弧内に甲6での該当箇所を示す(下線は当審で付与)。 「【0008】 上記のいずれの従来技術でも、剥離強度は増加する。しかしながら、特許文献1および特許文献2の技術では、ナットと高強度鋼板の界面が、水素脆化感受性が高い鋼板組織となるために、鋼板とナットを溶接した溶接継手の耐遅れ破壊特性が低下する問題がある。そのため、高強度めっき鋼板を用いたナットのプロジェクション溶接後の溶接継手には、剥離強度の向上と耐遅れ破壊特性の確保とを両立することが求められている。 【0009】 本発明は、上述の実情に鑑みてなされたものであり、高強度めっき鋼板とナットのプロジェクション溶接後における、剥離強度の向上と耐遅れ破壊特性の向上を両立した、プロジェクション溶接継手およびプロジェクション溶接方法の提供を目的とする。」(甲6【0008】~【0009】) 「【0021】 本発明は、高強度めっき鋼板2にナット1がプロジェクション溶接により接合されたプロジェクション溶接継手10(以下、「溶接継手」と称する)である。高強度めっき鋼板2には、後述する成分組成のめっき鋼板を用いる。なお、図1~図4に示す例では、高強度めっき鋼板2のめっき層の図示を省略している。各図に示すように、高強度めっき鋼板2とナット1のプロジェクション部(図5の符号3を参照)との接合面には、以下に説明するプロジェクション接合部(以下、「接合部」と称する)6が形成される。なお、上記のプロジェクション部とは、溶接時に鋼板に押し付ける突起部を指す。 【0022】 [プロジェクション接合部] 図2および図4を用いて、本発明の溶接継手における接合部の元素分布について詳細に説明する。図2には、図1に示すA部の拡大図を示しており、接合部6およびその周辺を説明する板厚方向断面図を示す。図4には、図3に示すB部の拡大図を示しており、接合部6およびその周辺を説明する板厚方向断面図を示す。」(甲6【0021】~【0022】) 「【0026】 上述のように、ナット1と高強度めっき鋼板2の接触面の全面に、ナゲット4や強固な接合界面5が形成されると、耐遅れ破壊特性が低下する。そこで、本発明者らは、接合部6の最外周部6a近傍および最内周部6b近傍を精査し、その結果、鋼板表層の固溶Mn量を制御することが耐遅れ破壊特性の低下の防止に有効であることが分かった。すなわち、接合部6の最外周部6aおよび最内周部6bの近傍の鋼板表層の領域において、固溶Mn量を適切な範囲に調整することによって軟化層を形成し、これにより溶接継手10が優れた剥離強度および耐遅れ破壊特性を兼ね備えることを見出した。 【0027】 ここで、「接合部6の最外周部6a」とは、図2および図4に示すように、ナット1のテーパ部1aの外縁側で、かつ接合部6と高強度めっき鋼板2の母材との境界を指す。「接合部6の最内周部6b」とは、ナット1のねじ穴1b側で、かつ接合部6と高強度めっき鋼板2の母材との境界を指す。」(甲6【0026】~【0027】) 「【0075】 [主通電工程] 本発明では、上記した一対の電極を用いて高強度めっき鋼板とナットを挟持し、加圧しながら通電する抵抗溶接によって、高強度めっき鋼板とナットの接触面を溶融して接合部(すなわち、ナゲットもしくは接合界面(塊状もしくは膜状の接合領域))を形成する主通電工程を有する。主通電工程では、抵抗溶接の平均溶接電流値Iw(kA)および通電時間Tw(s)が式(1)の関係を満たすように制御する。 5≦Iw≦2.2/Tw・・・(1)」(甲6【0074】) 「【0079】 なお、本発明では、上記の主通電工程を施した後に、以下の後通電(後通電工程)を施しても良い。後通電工程を施す場合には、以下に説明する条件で制御することが好ましい。 【0080】 [後通電工程] 後通電工程は、主通電工程後に0.02s以上の冷却時間を設ける冷却過程と、次いで、抵抗溶接の平均溶接電流値Iw2(kA)および通電時間Tw2(s)が式(2)および式(3)の関係を満たす通電過程と、を有する。 0<Iw2≦0.5/Tw2・・・(2) Iw2<Iw・・・(3) ここで、式(2)および式(3)に示す、Iwは主通電工程の平均溶接電流値(kA)とし、Iw2は後通電工程の平均溶接電流値(kA)とし、Tw2は後通電工程の通電時間(s)とする。 【0081】 [冷却過程] 主通電工程後の冷却時間が0.02s未満では、接合部のマルテンサイト変態量が不十分となる。その結果、ナットとめっき鋼板との接触面の全面に強固な接合界面もしくはナゲットを生成してしまうため、耐遅れ破壊特性が低下する。したがって、冷却過程の上記冷却時間は0.02s以上とする。好ましくは0.03s以上とする。 なお、冷却過程の上記冷却時間の上限は特に規定しない。生産コストの観点からは、上記冷却時間は2.0s以下とすることが好ましく、1.8s以下とすることがより好ましい。」(甲6【0077】~【0079】) 「【0082】 [通電過程] この通電過程では、抵抗溶接の平均溶接電流値Iw2(kA)および通電時間Tw2(s)が式(2)および式(3)の関係を満たすように抵抗溶接条件を制御する。 【0083】 式(2)に示すように、後通電工程の抵抗溶接の平均溶接電流値Iw2(kA)は、0kA超えとすることが好ましい。後通電工程を行う場合、この平均溶接電流値Iw2が0kAでは、接合部のマルテンサイト変態の焼き戻しが不十分となり、その結果、遅れ破壊特性が向上しない。平均溶接電流値Iw2は、より好ましくは(0.1/Tw2)kA以上とし、さらに好ましくは(0.15/Tw2)kA以上とする。 【0084】 一方、式(2)に示すように、後通電工程の抵抗溶接の平均溶接電流値Iw2(kA)が通電時間Tw2との関係を示す(0.5/Tw2)で算出される値を超えると、接合部が再溶融する。その結果、ナットと高強度めっき鋼板との接触面の全面に強固な接合界面もしくはナゲットを生成してしまうため、耐遅れ破壊特性が低下する。また、該接触面の全面に強固な接合界面もしくはナゲットが生成されるために、上述の軟化層が接合部6の最外周部および最内周部に適切に形成されないおそれがある。したがって、平均溶接電流値Iw2(kA)は(0.5/Tw2)で算出される値以下とする。平均溶接電流値Iw2(kA)は、好ましくは(0.45/Tw2)kA以下とする。 【0085】 また、式(3)に示すように、平均溶接電流値Iw2(kA)が主通電工程の平均溶接電流値Iw(kA)以上となる場合も、上述と同様の理由により、上記接触面の全面に強固な接合界面もしくはナゲットを生成してしまうため、耐遅れ破壊特性が低下する。また、上述の軟化層が接合部6の最外周部および最内周部に適切に形成されないおそれがある。」(甲6【0080】~【0083】) 「【0092】 その後、連続溶融めっきライン(CGL)を利用して、得られた冷延鋼板の一部については、溶融亜鉛めっき浴がAl、Znおよび不可避的不純物からなり、浴中Al濃度が0.14%、溶融亜鉛めっき浴温度が460℃の条件で溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を得た。 【0093】 それ以外のCGLを通過した冷延鋼板については、上記溶融亜鉛めっき処理を施した後、さらに550℃で合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た。亜鉛めっき層の片面あたりのめっき付着量は、25~80g/m2の範囲とした。」(甲6【0090】~【0091】) 「【0097】 以上のようにして製造した各めっき鋼板(GA、GI)から、50mm×150mmのサイズの鋼板用試験片を採取し、鋼板用試験片の中央に直径7mmの穴をあけた。また、3点のプロジェクション部を有するM6溶接用ナットを準備し、鋼板用試験片の穴の中心とナットの穴の中心とが一致するように交流溶接機にセットして、表2に示す溶接条件でプロジェクション溶接を施し、プロジェクション接合部を保有した試験片(溶接体)を作製した。M6溶接用ナットの鋼種は、SCM435(JIS G4053)とした。プロジェクション部は、円形の座面外周に沿って等間隔に3点存在し、その形状は長さの等しい二つの直交する直線と座面外周部に沿った曲率半径7mmの円弧とで囲まれた扇状の底面を有する錐台形状とした(図5を参照)。」(甲6【0095】) 「【0106】 【表1】 [図:0001425740000005.jpg] 【0107】 【表2】 [図:0001425740000006.jpg] 」 (甲6【0104】~【0105】) 「【図1】 [図:0001425740000007.jpg] 【図2】 [図:0001425740000008.jpg] 」(甲6の図1~図2) イ 先願の記載から理解できる事項 (ア) 甲5の【0106】~【0107】には、プロジェクション溶接における鋼板として、表1のEで示される鋼種を用いた場合、鋼種Eの成分組成が質量%で炭素0.33%、シリコン1.09%、マンガン2.15%、リン0.01%、イオウ0.002%であり、鋼種Eの引張強度が1501MPaであることが記載されている。また、鋼種Eは表2によるとめっき種がGAであり、甲5【0093】や表2脚注によるとGAは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を示すものである。 (イ) 甲5の【0079】~【0081】から、主通電工程の後の冷却過程は、接合部のマルテンサイト変態が十分に生じるように行われるものであることが理解できる。 (ウ) 甲5の【0082】~【0085】から、冷却過程の後の後通電工程は、接合部の最外周部6aにマルテンサイト変態の焼戻しが十分に生じ、接合部の最外周部6aに軟化層が形成されるように行われることが理解できる。 (エ) 甲5の【0022】、【0026】~【0027】、図2には、図2が接合部6の板厚方向の断面図であり、ナット1のテーパ部1aの外縁側で、かつ接合部6と高強度めっき鋼板2の母材との境界が最外周部6aである旨が記載されているから、当該最外周部6aは、当該断面図において、ナット1の中心及び接合部6の中心を通り、且つ鋼板2の溶接される接触面に垂直な断面において、接合部6のうち、ナット1の中心から最も離れた位置を接合部6の端部とした場合、当該端部付近の領域であることが理解できる ウ 先願発明 前記ア及びイから、甲5及び甲6に記載された事項を、本件発明1の発明特定事項に合わせて整理すると、先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。 「合金化溶融亜鉛めっき鋼板である高強度めっき鋼板2の接触面に、複数の突起部を有するナット1をプロジェクション溶接して、複数の接合部6を形成するように、前記鋼板2及び前記ナット1に通電をする主通電工程を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法であって、 前記鋼板2の引張強度が1501MPaであり、 前記鋼板2が炭素を0.33%、シリコンを1.09%、マンガンを2.15%、リンを0.01%、イオウを0.002%有しており、 前記ナット1の中心及び前記接合部6の中心を通り、且つ前記鋼板2の前記接触面に垂直な断面において、 前記接合部6のうち、前記ナット1の中心から最も離れた位置を、前記接合部6の最外周部6aとし、 前記接合部6のうち、前記鋼板2の前記接触面に沿って前記最外周部6aから前記ナット1の中心に向かった付近の領域を、前記接合部6の最外周部6a付近の領域とするとき、 前記製造方法がさらに、 複数の前記接合部6のマルテンサイト変態が十分に生じるように行われる冷却過程と、 複数の前記接合部6のそれぞれにおいて、前記最外周部6a付近の領域を焼戻すように、前記鋼板2及び前記ナット1にさらに通電をする後通電工程と、 を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法。」 エ 対比 (ア) 先願発明の「合金化溶融亜鉛めっき鋼板である高強度めっき鋼板2」は本件発明1の「非めっき鋼板または亜鉛系めっき鋼板である鋼板」に相当し、以下同様に、「接触面」は「第一面」に、「突起部」は「突起」に、「ナット1」は「ナット又はボルトである鋼部材」に、「接合部6」は「接合部」に、「主通電工程」は「第一通電工程」に、「引張強度が1501MPa」は「引張強さが1.5GPa以上」であることにそれぞれ相当する。 (イ) 先願発明の「前記鋼板2が炭素を0.33%、シリコンを1.09%、マンガンを2.15%、リンを0.01%、イオウを0.002%有しており」との事項を、本件発明1のCeq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S]という炭素当量Ceqを算出する式1に当てはめると、Ceq=0.33+1.09/30+2.15/20+2×0.01+4×0.002=0.502(小数点以下4桁目で四捨五入)となるから、当該事項は、本件発明1における「下記式1によって算出される前記鋼板の炭素当量Ceqが0.30質量%以上であり」との事項に相当する。 (ウ) 先願発明の「前記ナット1の中心及び前記接合部6の中心を通り、且つ前記鋼板2の前記接触面に垂直な断面において、前記接合部6のうち、前記ナット1の中心から最も離れた位置を、前記接合部6の最外周部6a」とすることは、本件発明1の「前記鋼部材の中心及び前記接合部の中心を通り、且つ前記鋼板の前記第一面に垂直な断面において、前記接合部のうち、前記鋼部材の中心から最も離れた位置を、前記接合部の端部」とすることに相当する。 (エ) 先願発明の「前記接合部6のうち、前記鋼板2の前記接触面に沿って前記最外周部6aから前記ナット1の中心に向かった付近の領域を、前記接合部6の最外周部6a付近の領域とする」ことと、本件発明1の「前記接合部のうち、前記鋼板の前記第一面に沿って前記端部から前記鋼部材の中心に向かって0.5mm離れた位置までの領域を、前記接合部の端部領域とする」こととは、「前記接合部のうち、前記鋼板の前記第一面に沿って前記端部から前記鋼部材の中心に向かった付近の領域を、前記接合部の端部領域とする」という概念で一致する。 (オ) 先願発明の「複数の前記接合部6のマルテンサイト変態が十分に生じるように行われる冷却過程」は、マルテンサイト変態を生じさせることが「焼入れ」といえるから、本件発明1における「複数の前記接合部のそれぞれを焼入れするクール工程」に相当する。 (カ) 先願発明の「複数の前記接合部6のそれぞれにおいて、前記最外周部6a付近の領域を焼戻すように、前記鋼板2及び前記ナット1にさらに通電をする後通電工程」は、本件発明1の「複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程」に相当する。 (キ) 以上を踏まえると、本件発明1と先願発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点A~Bで相違する。 <一致点> 非めっき鋼板または亜鉛系めっき鋼板である鋼板の第一面に、複数の突起を有するナット又はボルトである鋼部材をプロジェクション溶接して、複数の接合部を形成するように、前記鋼板及び前記鋼部材に通電をする第一通電工程を備えるプロジェクション溶接継手の製造方法であって、 前記鋼板の引張強さが1.5GPa以上であり、 下記式1によって算出される前記鋼板の炭素当量Ceqが0.30質量%以上であり、 前記鋼部材の中心及び前記接合部の中心を通り、且つ前記鋼板の前記第一面に垂直な断面において、 前記接合部のうち、前記鋼部材の中心から最も離れた位置を、前記接合部の端部とし、 前記接合部のうち、前記鋼板の前記第一面に沿って前記端部から前記鋼部材の中心に向かった付近の領域を、前記接合部の端部領域とするとき、 前記製造方法がさらに、 複数の前記接合部のそれぞれを焼入れするクール工程と、 複数の前記接合部のそれぞれにおいて、前記端部領域を焼戻すように、前記鋼板及び前記鋼部材にさらに通電をする第二通電工程と、 を備えた、 プロジェクション溶接継手の製造方法。 Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2×[P]+4×[S]:式1 ここで、前記式1に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。 <相違点A> 「前記接合部の端部領域」が、前記接合部のうち、前記鋼板の前記第一面に沿って前記端部から前記鋼部材の中心に向かって、本件発明1では「0.5mm離れた位置」までの領域であるのに対し、先願発明では具体的な数値の特定がされていない点。 <相違点B> 複数の接合部のそれぞれにおいて、本件発明1では「前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記端部領域の最大硬度Hedgeが式3の関係を満たし」、「前記第一面から0.3mm深さの位置のビッカース硬さを連続的に測定することによって求められる、前記接合部の最大硬度Hmaxが式4の関係を満たす」ものとされ、その式3及び式4が「Hedge<0.9×Hm :式3 Hmax>0.9×Hm :式4」であり、「前記式3及び式4に含まれる記号Hmは、式5によって算出される値であり、 Hm=884×[C]×(1-0.3×[C]2)+294 :式5 前記式5に含まれる元素記号は、前記鋼板に含まれる各元素の含有量である。」との特定がされるのに対し、先願発明ではかかる特定がされていない点。 オ 判断 事案に鑑み、相違点Bについて検討する。 相違点Bは、前記(1)エの相違点4と同じであって、前記(1)オに照らしても明らかなとおり、課題解決のための具体化手段における微差といえるものではない。 カ 本件発明1の拡大先願についての小括 前記オのとおりであるから、相違点Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明と同一であるとはいえない。 したがって、本件発明1に係る特許が、法29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (5) 本件発明3、7の拡大先願 本件発明3、7は、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものであって、本件発明1と先願発明との相違点A~Bを少なくとも有することになるから、前記(4)と同様に、先願発明と同一であるとはいえない。 したがって、本件発明3、7に係る特許が、法29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (6) 拡大先願についての小括 以上のとおりであるから、本件発明1、3、7に係る特許は、当審が取消理由通知で通知した取消理由である法29条の2(拡大先願)の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (7) 実施可能要件 ア 取消理由通知における実施可能要件の概要 取消理由通知の実施可能要件についての記載内容をまとめると、(表1~3の)項番6でなぜ端部領域の焼戻しが不十分となるのかが理解できず、ひいては端部領域の焼戻しが十分となる通電条件が把握できないので、第二通電工程の通電をどのように行えば端部領域の焼戻しができるのかが、発明の詳細な説明には十分に記載されていない。したがって、本件の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない、というものであった。 イ 発明の詳細な説明 発明の詳細な説明には以下の記載がある(下線は当審で付与)。 「【0040】 クール工程においては、全ての接合部13に対して冷却が行われる必要がある。一方、クール工程における冷却時間、及びその他の条件は特に限定されない。焼入れ硬化を生じさせることができる冷却条件を、鋼板11及び鋼部材12の構成に応じて適宜選択することができる。例えば、鋼板のHmに基づいて、焼入れ硬化の有無を判別することができる。また、接合しようとする鋼板11及び鋼部材12に対して、後述する第二通電工程を省略したテスト溶接を実施し、これにより得られた接合部の硬度を評価することにより、そのテスト溶接におけるクール工程の冷却条件が焼入れ硬化を生じさせるか否かを確認することができる。このようなテスト溶接を繰り返すことにより、好適な冷却条件を定めることができる。好適な冷却条件の例については後述する。 【0041】 (第二通電工程) 本実施形態に係るプロジェクション溶接継手の製造方法では、クール工程に次いで、複数の接合部13のそれぞれにおける複数の端部領域131を焼戻しするように、鋼板11及び鋼部材12に通電する。この通電をする工程を、第二通電と称する。第二通電工程によって端部領域131を焼戻すと、端部領域131が軟化する。これにより、クール工程において、端部領域131に導入された応力が緩和される。さらに、端部領域131を軟化させてから電極を開放することにより、電極開放時に端部領域131に導入される応力も緩和される。焼戻しは、全ての接合部13に対して行われる必要がある。 ・・・ 【0043】 第一通電工程の開始の時点では、鋼部材12の突起121と鋼板11との接触面積は極めて小さく、従って接触面における電流密度は高い。従って、第一通電工程においては当該接触面が極めて高い温度まで加熱され、接合部13の全体にわたって焼入れ硬化が生じる。一方、第二通電工程の開始の時点では、鋼部材12の突起121と鋼板11との間に接合部13が形成されているので、接合部13における電流密度は第一通電工程の開始時よりも低い。この状態で第二通電工程を実施すると、鋼部材12の中心に近い領域と、鋼部材12の中心に遠い領域との間で温度差が生じることを本発明者らは見出した。この現象を利用することにより、第二通電工程において、接合部13の端部領域131においてのみ焼戻し軟化を生じさせることができる。 【0044】 端部領域131を焼き戻すことができる限り、第二通電工程の条件は特に限定されない。鋼板11及び鋼部材12の構成、並びに第二通電工程の前に行われる第一通電工程及びクール工程の条件等に応じて、適正な電流値及び通電時間を設定すればよい。 」 「【0074】 表3に、接合部の硬さ測定結果及び耐遅れ破壊特性の評価結果を示す。「接合部の焼き入れ判定」列には、接合部の最大硬度Hmaxが表1の「0.9×Hm」列の値を上回る場合に「〇」を記載し、さもなくば「×」と記載した。「端部領域の焼戻し」列には、端部領域の最大硬度Hedgeが表1の「0.9×Hm」列の値を下回る場合に「〇」を記載し、表1の「0.8×Hm」列の値を下回る場合に「◎」と記載し、さもなくば「×」と記載した。」 「【0078】 【表1】 [図:0001425740000009.jpg] 【0079】 【表2A】 [図:0001425740000010.jpg] 【0080】 【表2B】 [図:0001425740000011.jpg] 【0081】 【表3】 [図:0001425740000012.jpg] 」 ウ 判断 (ア) 発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることが求められる(法36条4項1号)。 (イ) 取消理由通知で言及した項番6の比較例は、表2Bの第二通電工程に関係する第二入熱や入熱比が実施例のそれらと同等であるものの、端部領域の焼戻し判定が×になっている(【表3】)。 端部領域の焼戻し判定が×になった理由は、第二通電工程の前工程であるクール工程での焼入れが十分でないために、第二通電工程が焼戻しではなく焼入れの工程になってしまうためと認められる(権者意見書5ページ)。すなわち、項番6の比較例は、本件発明1における「複数の前記接合部のそれぞれを焼入れするクール工程」を行っていないものといえる。 そして、前記イに示した発明の詳細な説明をみても、クール工程で焼入れをし(【0040】)、第二通電工程で焼戻しをする(【0041】、【0043】~【0044】)ことが示されているので、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は記載されており、表1~3でも項番7以下に耐遅れ破壊特性に優れた(【表3】の「判定」列で△又は○)多数の実施例が焼入れと焼戻しに関する数値とともに示されていることからみて、発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものといえる。 (8) 実施可能要件についての小括 以上のとおりであるから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 第5 その他の特許異議申立理由について 1 概要 本件特許異議の申立てにおいて、申立人が主張した特許異議申立理由のうち、当審が取消理由通知で通知しなかった理由の要旨は、次のとおりである。 (1) サポート要件 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2) 実施可能要件 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 検討 (1) サポート要件 法36条6項1号は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要件としている。 申立人が挙げている以下ア~エの4点について順に検討する。 ア 前通電工程 (ア) 申立人は、【0073】に「・・・。なお、全ての例において、第一通電の前に、2cycのアップスロープ通電と6cycの一定通電とから構成される前通電を実施した。」と記載されるように、前通電工程をしたうえで【表3】の判定を行っているものであるから、「前通電工程」は必須工程であり、請求項1~5、7において特定すべき旨を述べている。 (イ) しかしながら、本件発明の課題は「引張強さ1.5GPa以上の高強度鋼板から構成され、且つ耐遅れ破壊特性に優れたプロジェクション溶接継手の製造方法」(【0014】)を提供することであり、その課題を解決するために、第一通電工程(【0036】)、クール工程(【0038】)及び第二通電工程(【0041】)を行うことで、接合部13の危険部位である端部領域131を軟化させて、高い耐遅れ破壊特性を持たせるものである。 (ウ) ここで、前通電工程については、【0054】に「第一通電工程の前に、第一通電工程の開始時点の電流値未満の電流値で、鋼板11及び鋼部材12に通電してもよい。この通電は、前通電と称される。前通電工程を行うことにより、鋼板11と鋼部材12との接合現象が生じる前に、鋼部材12の突起121を軟化させ、変形させることができる。これにより、複数の突起121と鋼板11との接触状態を均一化させて、プロジェクション溶接継手の接合強度を一層高めることができる。」(下線は当審で付与)と記載されるとおり、実施してもよい程度のものであって、前記課題の解決に際して必須のものであるとはいえない。 イ クール工程の長さ (ア) 申立人は、【表3】の項番8~31の実施例からみて、クール工程の長さは332ms以上であることが必須であり、請求項1~4、6、7において特定すべき旨を述べ、申立人意見書10~11ページでも同旨を述べている。 (イ) しかしながら、【0040】に「・・・、クール工程における冷却時間、及びその他の条件は特に限定されない。焼入れ硬化を生じさせることができる冷却条件を、鋼板11及び鋼部材12の構成に応じて適宜選択することができる。」と記載されるとおり、焼入れがされる限りにおいて冷却条件は適宜設定できるものと認められる。 請求項1においても、クール工程については「複数の前記接合部のそれぞれを焼入れするクール工程」と記載されており、焼入れすることが既に特定されている。 そうすると、クール工程の長さは、前記課題の解決に際して必須のものであるとはいえない。 ウ 鋼種 (ア) 申立人は、実施例である【表3】の項番8~31の鋼種が符号GA-HS(項番8~28,31)、CR-HS(項番29)、CR-HT(項番30)とあるものの、これらの符号がどのような鋼種を意味するのかわからないから、請求項2の「ホットスタンプ鋼板」、請求項3の鋼板の化学成分の数値限定、請求項4、5及び10の「亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板」、並びに、これらを引用する請求項7及び11が、課題を解決できる発明であるのか不明である旨を述べている。 (イ) ホットスタンプ鋼板及び亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板については、【0029】に「例えばプロジェクション溶接継手1を自動車部品として用いる場合、鋼板11をホットスタンプ鋼板とすることが好適である。ホットスタンプ鋼板とは、ホットスタンプ加工された鋼板のことである。また、ホットスタンプ鋼板の表面に亜鉛系めっきを設けてもよい。ホットスタンプ加工された亜鉛系めっき鋼板を、本実施形態においては亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板と称する。」(下線は当審で付与。以下同様)と記載されている。 鋼板の化学成分については、【0030】に「鋼板11の化学成分も特に限定されない。例えば、鋼板11の化学成分が、単位質量%で、C:0.07~0.45%、Si:0.001~2.50%、Mn:0.8~5.0%、P:0.03%以下、及びS:0.01%以下を含有するものとすればよい。この場合、化学成分の残部は、Fe及び不純物を含む。このような化学成分を有する鋼板は、ホットスタンプ鋼板として好適に用いることができる。」として、請求項3と同じものが記載されている。 (ウ) 上記(イ)の記載で既に足りるところではあるが、【表1】において符号のみで鋼種が特定できないにしても、【表1】には鋼種に関する炭素当量Ceqや鋼板引張強さGPaなどが記載されており、前記(イ)とあわせてみれば、鋼種の符号が分からなくても課題を解決できるものと認められる。 また、鋼板の技術分野において、符号GAは「合金化溶融亜鉛めっき鋼板」を示すものと解釈でき、以下同様に、符号CRは「冷延鋼板」を、符号HSは「ホットスタンプ」を、及び、符号HTは「ハイテン」をそれぞれ示すものと解釈できる。これらの符号を組み合わせた【表1】の鋼種であれば、亜鉛系めっきホットスタンプ鋼板又はホットスタンプ鋼板、若しくはそれらの素材になり得るものが示されているといえる。 (エ) そうしてみると、請求項2~5、7、10~11について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである、といえる。 エ 項番6 (ア) 申立人は、項番6によって、第二通電工程による端部領域の焼戻し条件をどのように設定すれば課題を解決できるのか明細書の記載から把握できないから、請求項1~7に係る発明はサポート要件を満たしていない旨を述べている。 (イ) しかしながら、前記(ア)については、実施可能要件違反として取消理由通知で通知したものと同旨であり、前記第4の2(7)で検討したとおりであって、明細書の記載から把握できるものといえるから、請求項1~7に係る発明はサポート要件についても満たしている。 オ サポート要件についての小括 前記ア~エのとおりであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 (2)実施可能要件 ア 申立人は、【0073】に「・・・。なお、全ての例において、第一通電の前に、2cycのアップスロープ通電と6cycの一定通電とから構成される前通電を実施した。」と記載されているが、一定通電の電流値が記載されていないうえ、アップスロープ通電については技術常識をもってしても当業者が設定できないから、前通電工程を特定する請求項6に係る発明を実施できない旨を述べている。 イ しかしながら、まず請求項6に係る発明をみると、前通電工程については「前記第一通電工程の前に、前記第一通電工程の開始時点の電流値未満の電流値で、前記鋼板及び前記鋼部材に通電する前通電工程」と特定している。 ウ この前通電工程について、【0054】に「第一通電工程の前に、第一通電工程の開始時点の電流値未満の電流値で、鋼板11及び鋼部材12に通電してもよい。この通電は、前通電と称される。前通電工程を行うことにより、鋼板11と鋼部材12との接合現象が生じる前に、鋼部材12の突起121を軟化させ、変形させることができる。これにより、複数の突起121と鋼板11との接触状態を均一化させて、プロジェクション溶接継手の接合強度を一層高めることができる。」(下線は当審で付与)と記載されている。 エ そして、鋼板及び鋼部材に通電する際に、第一通電工程の開始時点の電流値未満の電流値であれば、その電流値は突起と鋼板との接触状態を均一化するという目的を達するために適宜設定すればよいので、これは当業者にとって実施可能というべきであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 オ 実施可能要件についての小括 前記ア~エのとおりであるから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 3 小括 前記1~2のとおりであるから、本件発明1~7、10~11に係る特許は、当審が取消理由通知で通知しなかった前記1(1)及び(2)の理由によっては取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~7、10~11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。 さらに、他に本件発明1~7、10~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700573

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