特許異議申立
2024-700583
液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法
- 審判番号
- 2024-700583
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-082419
- 登録番号
- 7401838
- 請求日
- 2024年06月19日
- 審決日
- 2024年09月04日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【権利者代理人】堀田 耕一郎
- 【権利者代理人】山口 健吾
- 【権利者代理人】飯田 恭宏
- 【権利者代理人】井口 翔太
- 【異議申立人】吉田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 榎本 吉孝
- 審判官 瓦井 秀憲
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P1651.121-Y (G01N) / P1651.537-Y (G01N) / P1651.536-Y (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7401838号発明「液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7401838号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7401838号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和5年5月18日に出願され、令和5年12月12日にその特許権の設定登録がされ、同月20日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和6年6月19日に特許異議申立人 吉田 敦子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
曲げ試験治具によって表面ひずみが付与された、参照用試験片及び評価用試験片と、前記参照用試験片及び前記評価用試験片のそれぞれの試験面に対向する対極と、又は、前記参照用試験片及び前記評価用試験片と、前記対極と、前記参照用試験片及び前記評価用試験片のそれぞれの試験面に対向する参照電極と、を同一の圧力容器内に設置する設置工程と、
カルバミン酸アンモニウムを3質量%以上含むアンモニア溶液を前記圧力容器内に充填する充填工程と、
酸素ガスを前記圧力容器内に導入して加圧し、1時間以上保持する保持工程と、
予め実施された試験において前記参照用試験片に応力腐食割れが発生した試験時間の間、加圧状態を維持し、前記参照用試験片及び前記評価用試験片を、前記対極に対して1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する、又は、電流密度が3.0A/m2以上の定電流でアノード分極させながら保持する試験工程と、
前記試験時間の経過後に応力腐食割れの発生の有無を確認する確認工程と、を含み、
前記参照用試験片及び前記評価用試験片は、前記曲げ試験治具及び前記圧力容器とは電気的に絶縁されており、
前記参照用試験片の素材はビッカース硬さが230HV以上の鋼材、又は、ビッカース硬さが230HV以上の溶接熱影響部を含む溶接継手であり、
前記参照用試験片の試験面と前記対極との距離及び前記評価用試験片の試験面と前記対極との距離は、それぞれ100mm以下であり、
前記定電位での保持では、前記参照用試験片の前記試験面と前記参照電極との距離及び前記評価用試験片の前記試験面と前記参照電極との距離は、それぞれ50mm以下であり、
前記アンモニア溶液を構成する液体アンモニアの純度は99.9%以上であり、
前記カルバミン酸アンモニウムの純度は97.0%以上であり、
前記酸素ガスの純度は99.9%以上であり、
前記確認工程で前記参照用試験片に応力腐食割れの発生が認められた場合に、前記評価用試験片の応力腐食割れの評価を有効とする、
液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法。
【請求項2】
前記保持工程及び前記試験工程では、前記圧力容器内のO2分圧を0.5kgf/cm2以上5.0kgf/cm2以下とする、
請求項1に記載の液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法。
【請求項3】
前記表面ひずみは降伏ひずみの0.6倍以上である、
請求項1又は2に記載の液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法。
【請求項4】
前記曲げ試験治具は、4点曲げ試験治具であり、セラミック製又はガラス製のピンを介して、前記参照用試験片及び前記評価用試験片を定変位支持する、
請求項1又は2に記載の液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法。
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として下記5に示す甲第1号証ないし甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲10」という。)を提出し、以下の申立理由1ないし4により、請求項1ないし4に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
請求項1ないし4に係る発明は、甲1ないし甲8に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(明確性要件)
請求項1ないし4に係る発明は、甲9及び甲10の記載からみて明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし4に係る発明について実施することが出来る程度に明確かつ十分に記載されておらず、請求項1ないし4に係る発明は、甲9及び甲10の記載からみても実施可能でないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:中井揚一,外2名,「液体アンモニア中における応力腐食割れ促進試験法の開発」,鉄と鋼,1981年,第67巻,第14号,p.2226-2233
甲2:今川博之,「液体アンモニア中における高張力鋼の腐食割れ防止法」,日本金属学会誌,1977年,第41巻,第3号,p.211-218
甲3:中井揚一,外2名,「液体アンモニア中における鋼の応力腐食割れ機構」,鉄と鋼,1981年,第67巻,第14号,p.2234-2241
甲4:今川博之,「液体アンモニア中における高張力鋼の陽分極と腐食割れ挙動」,日本金属学会誌,1976年,第40巻,第12号,p.1256-1263
甲5:ASTM International,“Standard Practice for Preparation and Use of Bent-Beam Stress-Corrosion Test Specimens”,G39-99,2016年,p1-8
甲6:浪岡製作所,「FVLシリーズ FVML/UNタイプ反応装置/個別紹介 PRODUCT」,[online],2022年,[検索日 2024年7月29日],インターネット<URL:http://www.namioka-skill.net/fvml_un.html>
甲7:電気化学会編,「電気化学測定マニュアル基礎編」,丸善株式会社,2002年,p.46-52
甲8:キシダ化学株式会社,「カルバミン酸アンモニウム 規格書」,2015年,p.1
甲9:有吉欽吾,「電気化学関係で主に用いられる測定機器:ポテンショスタットの動作原理」,Electrochemistry,2012年,第80巻,第8号,p.602-607
甲10:北村房男,「第3回 測定の前に理解しておきたい電気化学の基礎(3)」,Electrochemistry,2013年,第81巻,第7号,p.584-588
第4 各甲号証の記載事項
1 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1には、以下の記載がある(下線は当審で付加した。以下同じ。)。
(甲1-ア)「液体アンモニア中における応力腐食割れ促進試験法の開発」(タイトル)
(甲1-イ)「近年,化学工業用の原料となる液体アンモニア(液安)を貯蔵するタンクのうち,主として60kgf/mm2級調質高張力鋼(HT60)製タンクに微細な割れが多発しており,応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking, SCC)現象の一つとして注目されるとともに,保安上大きな問題となっている。」(2226頁左下欄2-7行)
(甲1-ウ)「本研究では液安中に含まれるO2やN2などの不純物と電気的加速を組み合わせることにより,短期間でSCCを再現できる促進試験法について検討し,液安貯蔵タンクの割れやタンク内浸漬試験で発生した割れと比較した。」(2226頁右下欄6-10行)
(甲1-エ)「商用鋼の耐液安SCC性を調べるため,母材の試験には4点曲げ試験片を,溶接部の試験には2円孔拘束試験片を用い,それぞれ5lガラス製オートクレーブおよび20lステンレス製オートクレーブ内で促進試験を行った。
いずれの試験も電流(電位)規制は,対極および照合電極としてそれぞれ白金板および白金線を用い,定電流(定電位)電解装置にて行った。」(2227頁左欄10-17行)
(甲1-オ)「本実験では純度99.96%以上の市販液安を蒸留精製して使用した。」(2227頁左欄19-20行)
(甲1-カ)「液安へのCO2の添加は,あらかじめ飽和量以上のカルバミン酸アンモニウムを試験槽内に前置きし,液安を充てんする方法で行った。」(2227頁右欄6-8行)
(甲1-キ)「つぎに02,N2,空気,メタン(CH4)の液安への添加は,液安を試験槽に充てんしたのち,これらのガスを所定分圧だけ加圧する方法で行った。なお試薬は特級を,ガス類は高純度(99.99%以上)のものを,水は蒸留水を使用した。」(2227頁右欄12-16行)
(甲1-ク)「3.1 分極の効果
実験はA鋼を用いて行った。CO2飽和液安中(NH3+CO2系)で降伏点(σy)に等しい引張応力を負荷したSCC試験における破断時間と付加電流の関係をFig. 3に示す。CO2のみを含む液安中でもアノードに分極するとSCCが発生し,破断時間はアノード電流の増加とともに短くなる。一方,カソード分極下では試料表面で水素発生がみられるが,500hでもSCCは発生しなかった。」(2227頁右欄33行-2228頁右欄2行)
(甲1-ケ)2228頁のTable 2
「
[図:0001415335000001.jpg]
」
(甲1-コ)「3.2 液安中の不純物および温度の効果
NH3+CO2系に02,N2,空気をそれぞれ単独に添加した溶液および02とCH4を添加した溶液中で,降伏応力に等しい引張応力を負荷し,アノード分極したときの破断時間をA鋼で求めた。」(2228頁右欄18-22行)
(甲1-サ)「Fig. 5に一定のアード電流(3A/m2)下での破断時間におよぼす02,N2および空気分圧の影響を示す。02は0.5atmの分圧で破断時間を著しく短縮するが,さらに分圧を増しても破断時間に変化はみられない。」(2229頁左下欄7-11行)
(甲1-シ)2229頁のFig. 5
「
[図:0001415335000002.jpg]
」
(甲1-ス)「以上の結果から,実験条件の多少の変動による影響が少なく,短期間で液安SCCを発生させる促進条件としては,NH3+CO2系に02を添加し,試験片をアノードに分極する方法がもっとも望ましいことがわかった。
つぎにNH3+CO2+02系にCH4を添加し,定アノード電位(2V vs Pt)条件下で破断時間を求めた結果をFig.6に示す。CH4の添加によって破断時間はわずかに長くなり,CH4の弱い液安SCC抑制効果を示すが,分圧を増してもその効果は変わらないことを確かめた。」(2229頁右下欄1-9行)
(甲1-セ)「3.3 商用鋼の液安SCC感受性
Table 1に示した5鋼種の液安SCC感受性を調べるため,5lのガラス製オートクレーブ中で4点曲げ促進試験を行った。これまでの実験結果に基づき,溶液として25℃のNH3+CO2+02系を選び,電気的加速には一度に多数の試験片が処理できるアノード定電位法(2V vs Pt)を適用し,試験期間は予備試験の結果から7日とした。結果をTable 3に示す。試験片表面は短時間で黄褐色の錆で覆われるため外部からの目視では割れ発生時点を確認できなかった。A鋼(HT80)の負荷応力レベル0.4~1.0σy,B鋼(HT80)の0.8~1.0σyの試験片が破断したが,C,D鋼(HT60)およびE鋼(SLA33A)はすべての応力レベルで破断しなかった。また磁粉探傷の結果,A鋼の負荷応力レベル0.2~1.Oσy,B鋼の0.4~1.0σy,C鋼の0.6~1.0σy,D鋼の1.0σyの試験片には破断の有無にかかわらず微細な割れが検出されたが,E鋼にはこの微細割れも発見されなかった。これらの事実は,強度または硬度が液安SCCを支配する重要な因子であり,それが高いほど液安SCC感受性が高くなることを示している。」(2230頁右欄3-22行)
(甲1-ソ)2230頁のTable 3
「
[図:0001415335000003.jpg]
」
(2)甲1の記載から看取できる事項
ア 上記(甲1-ク)の
「3.1 分極の効果
実験はA鋼を用いて行った。・・・CO2のみを含む液安中でもアノードに分極するとSCCが発生し,破断時間はアノード電流の増加とともに短くなる。一方,カソード分極下では試料表面で水素発生がみられるが,500hでもSCCは発生しなかった。」、
上記(甲1-ケ)のTable 2におけるA鋼のビッカース硬さの値(278Hv)、
上記(甲1-コ)の
「3.2 液安中の不純物および温度の効果
NH3+CO2系に02,N2,空気をそれぞれ単独に添加した溶液および02とCH4を添加した溶液中で,降伏応力に等しい引張応力を負荷し,アノード分極したときの破断時間をA鋼で求めた。」、
上記(甲1-ス)の
「以上の結果から,実験条件の多少の変動による影響が少なく,短期間で液安SCCを発生させる促進条件としては,NH3+CO2系に02を添加し,試験片をアノードに分極する方法がもっとも望ましいことがわかった。」、
との記載から、短期間で液安SCCを発生させる促進条件を求めるために、「3.1 分極の効果」の試験及び「3.2 液安中の不純物および温度の効果」の試験を、引張応力を付加したビッカース硬さが278HVのA鋼を対象に行っていること、及び、この実験結果により、NH3+CO2+02系の溶液を用い、試験片をアノードに分極する方法が最も望ましいとされたことが読み取れる。
イ 上記(甲1-セ)の
「3.3 商用鋼の液安SCC感受性
Table 1に示した5鋼種の液安SCC感受性を調べるため,5lのガラス製オートクレーブ中で4点曲げ促進試験を行った。これまでの実験結果に基づき,溶液として25℃のNH3+CO2+02系を選び,電気的加速には一度に多数の試験片が処理できるアノード定電位法(2V vs Pt)を適用し,試験期間は予備試験の結果から7日とした。」
との記載、及び「4点曲げ促進試験」は、4点曲げ試験治具により曲げ応力が付与された「4点曲げ試験片」(甲1-エ)を対象に行うことは当業者に明らかな事項であることから、甲1からは、NH3+CO2+02系の溶液を選択し、2Vでアノード定電位法を適用して、4点曲げ試験治具により曲げ応力が付与された、A鋼、B鋼、C鋼、D鋼、E鋼の5鋼種を対象に「商用鋼の液安SCC感受性」の試験を行っていることが読み取れる。
また、事前に「予備試験」を実施することで、その「試験期間」を求めていることも読み取れる。
ウ 上記(甲1-セ)の
「結果をTable 3に示す。試験片表面は短時間で黄褐色の錆で覆われるため外部からの目視では割れ発生時点を確認できなかった。A鋼(HT80)の負荷応力レベル0.4~1.0σy,B鋼(HT80)の0.8~1.0σyの試験片が破断したが,C,D鋼(HT60)およびE鋼(SLA33A)はすべての応力レベルで破断しなかった。また磁粉探傷の結果,A鋼の負荷応力レベル0.2~1.Oσy,B鋼の0.4~1.0σy,C鋼の0.6~1.0σy,D鋼の1.0σyの試験片には破断の有無にかかわらず微細な割れが検出されたが,E鋼にはこの微細割れも発見されなかった。これらの事実は,強度または硬度が液安SCCを支配する重要な因子であり,それが高いほど液安SCC感受性が高くなることを示している。」、及び
上記(甲1-ソ)のTable 3の記載から、A鋼、B鋼、C鋼、D鋼、E鋼の5鋼種を対象とした「商用鋼の液安SCC感受性」の試験において、試験期間経過後に破断の有無及び微細な割れの有無を確認することで、上記5鋼種それぞれの液安SCC感受性を評価していることが読み取れる。
(3)上記(2)のアないしウを踏まえると、上記(甲1-ア)ないし(甲1-ソ)の記載から、甲1には、
「4点曲げ試験治具により曲げ応力が付与された、5鋼種と((2)イ)、対極と、照合電極と、を同一のガラス製オートクレーブに設置する設置工程と(甲1-エ)、カルバミン酸アンモニウムを飽和量以上含むアンモニア溶液を前記ガラス製オートクレーブ内に充填する充填工程と(甲1-カ、(2)イ)、酸素ガスを前記ガラス製オートクレーブ内に導入して加圧し(甲1-キ、(2)イ)、予め実施された予備試験において求められた試験期間の間、前記5鋼種を、2.0Vでアノードとなる定電位で保持する試験工程と((2)イ)、前記試験期間の経過後に破断の有無及び微細な割れの有無を確認する確認工程と((2)ウ)、を含み、前記アンモニア溶液を構成する液体アンモニアの純度は99.96%以上であり(甲1-オ)、前記カルバミン酸アンモニウムは特級であり(甲1-キ)、前記酸素ガスの純度は99.99%以上である(甲1-キ)、液体アンモニア中応力腐食割れ促進の試験法(甲1-ア)。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
2 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
(甲2-ア)「液体アンモニア中における高張力鋼の腐食割れ防止法」(タイトル)
(甲2-イ)「前報(5)による腐食割れ促進試験環境[液体NH3+5wt%NH4CO2NH2(約1wt%で飽和)で,液体NH3封入前に高純度N2で9kg/cm2加圧置換を3回行ったもの]を用いた。」(211頁左下欄17行-右下欄3行)
(甲2-ウ)「前報(5)に同じく電気的絶縁を施した圧力容器を用い,白金を基準電極にして測定し,陽分極は20mV/minの走査電位法を採用して自動記録した。」(211頁右下欄12-14行)
3 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
(甲3-ア)「液体アンモニア中における鋼の応力腐食割れ機構」(タイトル)
(甲3-イ)「この皮膜形成に対する02の効果を確認するため,NH3+C02系およびNH3+CO2+02系に自然浸漬し,10mm,24hおよび48h後にアノード分極曲線を測定した。分極曲線は時間因子の影響を除くため掃引法(掃引速度100mV/min)で測定した。結果をFig.7に示す。NH3+CO2系では24h浸漬後でも分極曲線に変化はみられない。一方,02が含まれると,10min後ですでにEcorr~0.5Vにおけるアノード反応が抑えられ,24h以上浸漬するとアノード分極側全域にわたって反応が著しく抑制され,その程度は浸漬時間が長くなるほど大きくなる。したがって,02を添加することによって皮膜生成が著しく促進されることが明らかである。」(2238頁左欄2行-右欄2行)
(甲3-ウ)2238頁のFig. 7
「
[図:0001415335000004.jpg]
」
(甲3-エ)「NH3+CO2+02系の定電位試験における電流密度の経時変化におよぼす負荷応力の影響をFig.10に示す。定電位試験下の電流変化は定電流試験下の電位変化と同様の傾向を示している。すなわち,初期には全面溶解が起こるため電流密度は高いが,1h前後できわめて小さくなり,皮膜の形成を示している。負荷応力が1.0σy(σy:降伏応力)の場合にはこの過程で破断した。一方,負荷応力が0.8σy以下では,電流密度がきわめて小さい状態が続いたのち,徐々に増加し試験片は破断する。この変化は皮膜の形成とその局部破壊および地鉄の局部溶解に対応すると考えられる。」(2239頁左欄17行-右欄7行)
(甲3-オ)2239頁のFig. 10
「
[図:0001415335000005.jpg]
」
4 甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
(甲4-ア)「液体アンモニア中における高張力鋼の陽分極と腐食割れ挙動」(タイトル)
(甲4-イ)「試験材としてはTable1に示す80kg/mm2級の高張力鋼(HT80)を用いた。分極測定用の試験電極は受入れのまま(焼入れ,焼もどし)の状態で用い,Fig.1の形状に加工した。」(1257頁左欄6-9行)
(甲4-ウ)「測定容器の構造をFig.3に示す。電位測定用の照合電極には,液体NH3と水とが強く反応するため,飽和甘汞電極の代わりに白金線を用いた。試験片と試験容器とを絶縁するため,ポリプロピレン製の容器を内蔵したステンレス鋼製の圧力容器を用い,各シール部はテフロンで絶縁を行なった。」(1257頁左欄18-23行)
(甲4-エ)1257頁のFig. 1
「
[図:0001415335000006.jpg]
」
(甲4-オ)1257頁のFig. 3
「
[図:0001415335000007.jpg]
」
5 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。なお、翻訳文は申立人によるものである。
(甲5-ア)「6.1.2 電解液に浸漬して応力腐食試験を行う場合は、供試体とホルダー(又はスペーサー)との間の電流作用を防止するものとする(注5参照)。これは、(1)ホルダーを個々の試料と同じ材料で作ること、(2)試料とホルダーのすべての接触点に電気絶縁材料を挿入すること(注4参照)、(3)ホルダー全体を非金属材料で作ること(注4参照)、又は(4)ホルダーと電解質の接触を効果的に防ぐ非導電性コーティングでホルダーをコーティングすることによって達成される。」(2頁右欄1-10行の翻訳文)
(甲5-イ)「注8-テストが電解液中で実施される場合、スペーサーは供試体と同じ材料(又はガラス、セラミックなどの電気的に非導電性の材料) で作られ、供試体とスペーサーの間の電流作用を防ぐものとする。6.1.2、注4、注5も参照。」(5頁右欄36-40行の翻訳文)
6 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
(甲6-ア)「1.5リットルから20リットルまでの容量に対応可能な小型撹拌付オートクレーブ」の項目
「
[図:0001415335000008.jpg]
」
7 甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。
(甲7-ア)「電気化学測定の基礎」(「第1章」のタイトル)
(甲7-イ)「測定時には,IRドロップを減らすため,基準電極はなるべく作用電極に近づける。」(46頁13-14行)
(甲7-ウ)「また測定系の都合上,使う電解液のイオン伝導率が低くなってしまうこともある。そのとき溶液抵抗に起因するIRドロップが生じる(図1.22)。この場合,1.6節に述べたルギン細管を使って,基準電極をできるだけ作用電極に近づける。」(50頁7-9行)
(甲7-エ)50頁の図1.22
「
[図:0001415335000009.jpg]
」
8 甲8の記載事項
甲8には、以下の記載がある。
(甲8-ア)規格書の表
「
[図:0001415335000010.jpg]
」
9 甲9の記載事項
甲9には、以下の記載がある。
(甲9-ア)「さきほどの例では,電流を流したときの作用電極の電位変化を調べる場合について説明したが,反対に作用電極の電極電位を制御して流れる電流を計測するための装置がポテンショスタットである。つまりポテンショスタットとは,参照電極に対する作用電極の電位を一定に保つように電流を流すことで,電極反応を任意の電位で制御しながら,その時の電極反応速度(電流)の変化を追跡することができる装置である。」(603頁左欄1-8行)
10 甲10の記載事項
甲10には、以下の記載がある。
(甲10-ア)「2.3 三電極方式
先に見た二電極方式では,対極にかかる過電圧の変動が測定上の問題であった。しかし電流が流れる限り,反応は起こり続ける。作用極に電流を流しても,電位がずれない何かよい方策はないものだろうか。
対極が担う「電位の基準」と「電流の処理」,この2つの役割を二本の電極に分担させてみてはどうだろう?つまり,作用極の電位を規制する役割の基準電極(standard electrode,参照電極(reference electrode)ともいう)と,作用極に流れる電流の逃げ道となる補助電極(auxiliary electrode)を別々に設けよう。そして基準電極には極力電流を流さないように工夫すれば,その電極電位は常に安定であろう。他方,補助電極に電流が流れて,それに伴う電位変動が起こっても,全く気にしなくてよい(Fig. 5)。このような制御システムを実現するには,外部回路の設計に工夫が必要であるが,ポテンショスタットとして市販されている装置がこの機能を有している。現在の電気化学測定は,ポテンショスタットを用いた三電極方式で行われるのが普通である。」(585頁右欄46行-586頁左欄14行)
(甲10-イ)586頁のFigure 5.
「
[図:0001415335000011.jpg]
」
第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「5鋼種」は、4点曲げ試験治具により曲げ応力が付与されることにより、表面に変形(ひずみ)が付与されることは明らかである。
したがって、甲1発明の「4点曲げ試験治具により曲げ応力が付与された、5鋼種」は、本件発明1の「曲げ試験治具によって表面ひずみが付与された、」「試験片」に相当する。
イ 甲1発明の「対極」と「照合電極」は、それぞれ、本件発明1の「対極」と「参照電極」に相当する。
ウ 甲1発明の「ガラス製オートクレーブ」は、本件発明1の「圧力容器」に相当する。したがって、甲1発明の「5鋼種と、対極と、照合電極と、を同一のガラス製オートクレーブに設置する設置工程」は、本件発明1の「試験片と、」「対極と、」「参照電極と、」「を同一の圧力容器に設置する設置工程」に相当する。
エ 甲1発明の「カルバミン酸アンモニウムを」「含む」「アンモニア溶液を前記ガラス製オートクレーブ内に充填する充填工程」は、本件発明1の「カルバミン酸アンモニウムを」「含む」「アンモニア溶液を前記圧力容器内に充填する充填工程」に相当する。
オ 甲1発明の「酸素ガスを前記ガラス製オートクレーブ内に導入して加圧し、」は、本件発明1の「酸素ガスを前記圧力容器内に導入して加圧し、」に相当する。
カ 甲1発明の「試験期間」は、本件発明1の「試験時間」に相当する。
キ 甲1発明の「前記5鋼種を、2.0Vでアノードとなる定電位で保持する試験工程」は、本件発明1の「前記」「試験片を、」「1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する、」「試験工程」に相当する。
ク 甲1発明の「前記試験期間の経過後に破断の有無及び微細な割れの有無を確認する確認工程」は、本件発明1の「前記試験時間の経過後に応力腐食割れの発生の有無を確認する確認工程」に相当する。
ケ 甲1発明の「前記アンモニア溶液を構成する液体アンモニアの純度は99.96%以上」は、本件発明1の「前記アンモニア溶液を構成する液体アンモニアの純度は99.9%以上」に相当する。
コ 甲1発明の「前記酸素ガスの純度は99.99%以上」は、本件発明1の「前記酸素ガスの純度は99.9%以上」に相当する。
(2)一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果から、本件発明1と甲1発明とは、
ア (一致点)
「曲げ試験治具によって表面ひずみが付与された、試験片と、対極と、参照電極と、を同一の圧力容器内に設置する設置工程と、
カルバミン酸アンモニウムを含むアンモニア溶液を前記圧力容器内に充填する充填工程と、
酸素ガスを前記圧力容器内に導入して加圧し、
試験時間の間、前記試験片を、1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する試験工程と、
前記試験時間の経過後に応力腐食割れの発生の有無を確認する確認工程と、
を含み、
前記アンモニア溶液を構成する液体アンモニアの純度は99.9%以上であり、
前記酸素ガスの純度は99.9%以上である、
方法。」
の発明である点で一致し、次の14点において相違する。
イ (相違点1)
同一の圧力容器内に設置する「曲げ試験治具によって表面ひずみが付与された」(複数の)「試験片」が、本件発明1では「参照用」と「評価用」に区別されているのに対して、甲1発明の「5鋼種」の試験片が「参照用」と「評価用」に区別されることは、甲1に明示されていない点。
ウ (相違点2)
「対極」及び「参照電極」が、本件発明1においては、それぞれ「参照用試験片及び評価用試験片のそれぞれの試験面に対向する」のに対して、甲1発明においては、それぞれの電極が「試験片」に対してどのように設置されるのかは特定されていない点。
エ (相違点3)
アンモニア溶液が含む「カルバミン酸アンモニウム」について、本件発明1では「3質量%以上」と特定しているのに対して、甲1には「飽和量以上」とのみ記載されており、甲1発明が「3質量%以上」であるか否かが不明である点。
オ (相違点4)
本件発明1は、酸素ガスを「1時間以上保持する保持工程」を備えるのに対して、甲1には上記保持工程について明記されていない点。
カ (相違点5)
試験時間について、本件発明1では「予め実施された試験において前記参照用試験片に応力腐食割れが発生した試験時間」と特定しているのに対し、甲1には「試験期間」を具体的にどのように求めたのかが明記されていない点。
キ (相違点6)
各試験片を1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する試験工程において、本件発明1では「加圧状態を維持」するのに対して、甲1発明で加圧状態が維持されるか否かについて、甲1には明示されていない点。
ク (相違点7)
上記試験工程において、その基準となる電極が、本件発明1では「対極」であるのに対して、甲1発明では、どの電極を基準としているのか、甲1に明記されていない点。
ケ (相違点8)
各試験片が、本件発明1では、曲げ試験治具及び圧力容器と電気的に絶縁されているのに対し、甲1発明では、そのように構成されているか否かについて甲1に明記されていない点。
コ (相違点9)
本件発明1では、「参照用試験片」の素材が、「ビッカース硬さが230HV以上の鋼材、又は、ビッカース硬さが230HV以上の溶接熱影響部を含む溶接継手」であることを特定しているのに対し、甲1には、「5鋼種」のビッカース硬さについて記載はあるものの(上記第4.1(1)(甲1-ケ))、そもそも、甲1発明の「5鋼種」の試験片が「参照用」と「評価用」に区別されることは明示されていない点。
サ (相違点10)
各試験片の試験面と「対極」との距離について、本件発明1では「参照用」及び「評価用」それぞれの試験片について100mm以下と特定しているのに対し、甲1には当該距離について明記されていない点。
シ (相違点11)
各試験片の試験面と「参照電極」との距離について、本件発明1では「参照用」及び「評価用」それぞれの試験片について50mm以下と特定しているのに対し、甲1には当該距離について明記されていない点。
ス (相違点12)
「カルバミン酸アンモニウムの純度」について、本件発明1では「97.0%以上」と特定しているのに対し、甲1には「特級」とのみ記載されており、甲1発明が「97.0%以上」であるか否かが不明である点。
セ (相違点13)
確認工程において、本件発明1では「参照用試験片に応力腐食割れの発生が認められた場合」に「評価用試験片の応力腐食割れの評価を有効とする」のに対して、甲1発明では「評価用試験片の応力腐食割れの評価を有効とする」条件は特定されておらず、そもそも甲1発明の「5鋼種」の試験片が「参照用」と「評価用」に区別されることは明示されていないことから、「参照用」とされる試験片が上記の条件に用いられることも明示されていない点。
ソ (相違点14)
本件発明1が「液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価方法」の発明であるのに対し、甲1発明は「液体アンモニア中応力腐食割れ促進の試験法」であって、「液体アンモニア中応力腐食割れ特性」を「評価」する「方法」については甲1に明記されていない点。
(3)本件発明1についての判断
ア (相違点1、5、13)の判断
事案に鑑み、相違点1、5、13について併せて検討する。
先に(2)「イ (相違点1)」で指摘したとおり、甲1には、その複数の試験片が「参照用」と「評価用」に区別されることの明示はない。
これに対し、申立人は、甲1に記載された「A鋼の試験片」が本件発明1の「参照用試験片」に相当し、同様に「B鋼、・・・、E鋼の試験片」が「評価用試験片」に相当するとして、甲1に記載された発明も「参照用試験片及び評価用試験片」を「同一の圧力容器内に設置する」ものである旨を主張している。
そこでまず、甲1に記載されたA鋼の試験片が「参照用試験片」に相当するか否かについて、上記相違点5、及び相違点13も踏まえて検討する。
確かに甲1では(上記第4.1(2)アで指摘したように)、ビッカース硬さが278HVのA鋼を用いて、短期間で液安SCCを発生させる促進条件を求めるための試験を行い、その結果からNH3+CO2+02系の溶液を用いることや、試験片をアノードに分極する方法を導出している。
しかしながら、本件発明1において「参照用試験片」は、「試験時間」を求めるために予め実施される試験で用いられ(相違点5)、且つ試験工程の後に「応力腐食割れの発生が認められた場合」に、「評価用試験片の応力腐食割れの評価を有効とする」確認工程でも用いられる(相違点13)ことが特定されているものである。これに対し、甲1では、A鋼の試験片がこのような目的でも用いられることは記載も示唆もされていない。よって、A鋼の試験片を、本件発明1の「参照用試験片」に相当するものと認めることはできない。また、甲1に記載された「B鋼、・・・、E鋼の試験片」のいずれかが本件発明1の「参照用試験片」に相当するか否かについて検討してみても、結果は同じである。
以上のことからも、同一の圧力容器内に設置する試験片であって、曲げ試験治具によって表面ひずみが付与された甲1発明の複数の「試験片」のいずれかを、本件発明1の「参照用試験片」に相当するものと認めることはできない。
そして、甲2ないし甲8の上記記載事項(第4.2ないし8)をみても、前記相違点1、5、13に係る本件発明1の構成、すなわち、前記相違点5、13に係る本件発明1の構成を前提として、「試験時間」を求めるために予め実施される試験で用いられ、且つ「応力腐食割れの発生が認められた場合」に、「評価用試験片の応力腐食割れの評価を有効とする」確認工程でも用いられる「参照用試験片」と、液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価対象である「評価用試験片」とを、「同一の圧力容器内に設置する」構成について、何ら記載または示唆するものではなく、前記相違点1、5、13に係る本件発明1の構成が、本件特許出願時における周知技術といえる証拠もない。
よって、前記相違点1、5、13に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
イ 小括
したがって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2ないし4についての判断
本件発明2ないし4は、前記相違点1、5、13に係る本件発明1の構成を備えるものである。
よって、本件発明2ないし4は、本件発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)本件発明1の「酸素ガスを前記圧力容器内に導入して加圧し、1時間以上保持する保持工程」に関して、発明の詳細な説明には、
ア 【0038】
「・・・保持時間は、圧力容器1内を加圧後、試験開始までの時間である。・・・」
イ 【0042】
「保持時間は1時間以上とする。1時間以上保持することで、参照用試験片21及び評価用試験片22の表面に皮膜が安定して形成され、SCC感受性を適切に評価することができる。・・・」
と記載されているように、保持工程は、試験開始までに皮膜を形成することを目的になされるものとされている。すると、皮膜の形成は、定電位または定電流を印加する試験開始前になされるものであるから、皮膜形成後の試験工程において、定電位方式と定電流方式のどちらを用いるかは、皮膜の形成に何ら影響を与えるものではない。
そして、「SCC試験条件と結果の一覧」として【表1】に示されるように、評価用試験片のSCC感受性の有無を評価できた「本発明例3」として、保持時間を1時間とした実施例が開示されている。
当該「本発明例3」は、5.0A/m2の定電流の浸漬条件下の実施例ではあるが、先に述べたとおり、保持工程での皮膜形成は、試験工程が定電位方式か定電流方式かに依存するものではない。したがって、保持時間を1時間とした実施例が開示されていることから、本件発明1、及び、請求項1を引用して記載した本件発明2ないし4は、「酸素ガスを前記圧力容器内に導入して加圧し、1時間以上保持する保持工程」に関しても発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。
(2)申立人の主張について
本件発明1の「酸素ガスを前記圧力容器内に導入して加圧し、1時間以上保持する保持工程」に関し、申立人は、実施例において定電位方式で安定な皮膜が形成されていることがわかる実施例の保持時間は24時間のみであり、定電位方式により保持時間1時間で安定な皮膜が形成されるかどうかが不明であると主張する。
しかしながら、上記(1)で指摘したとおり、皮膜の形成は、定電位または定電流を印加する試験開始前になされるものであり、皮膜形成後の試験工程において定電位方式と定電流方式のどちらを用いるかは、皮膜の形成に何ら影響を与えるものではない。したがって、申立人の上記主張は採用し得ない。
3 申立理由3(明確性要件)について
(1)本件発明1の「・・・前記参照用試験片及び前記評価用試験片を、前記対極に対して1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する・・・」に関して、その請求項の記載自体は、当業者がその技術的意味についても理解できるものであって明確であるといえ、また、この記載によって本件発明1の範囲が不明確となっているとは認められない。したがって、本件発明1、及び、請求項1を引用して記載した本件発明2ないし4は明確である。
(2)申立人の主張について
申立人は、明細書の段落【0050】において、「各試験片は、浸漬後にポテンショスタットで1.0Vもしくは2.0V(対Pt電極)の定電位状態とした条件」と記載されていることを指摘した上で、「甲第9号証に、「ポテンショスタットとは,参照電極に対する作用電極の電位を一定に保つように電流を流すことで,電極反応を任意の電位で制御しながら,その時の電極反応速度(電流)の変化を追跡することができる装置である。」と記載されているように、通常、参照電極に対して作用電極(本件発明1における「前記参照用試験片及び前記評価用試験片」に相当)の電位を一定に保持するものであるものであるが、本件発明1は、対極に対して作用電極を定電位で保持する方法であり、通常と異なる方法で行われているから、上記の方法で、前記参照用試験片及び前記評価用試験片を定電位で保持することができるかどうか明確でない。」と主張する。
しかしながら、上記(1)で指摘したとおり請求項の上記記載自体は明確であり、明細書の上記記載によって請求項の上記記載の意味が影響を受けるものではなく、本件発明1の範囲が不明確となるものでもない。したがって、申立人の上記主張は採用し得ない。
4 申立理由4(実施可能要件)について
(1)本件発明1の「・・・前記参照用試験片及び前記評価用試験片を、前記対極に対して1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する・・・」に関して、発明の詳細な説明においては、
ア 【0005】
「・・・例えば、特許文献1には(中略)液体アンモニア中の4点曲げ試験片に定電位(白金電極に対して2V、アノード側への分極)を印加することで、168時間でSCCを再現する技術が開示されている。」
イ 【0030】
「・・・対極4及び参照電極3は白金製であることが好ましい。」
ウ 【0050】
「各試験片は、浸漬後にポテンショスタットで1.0Vもしくは2.0V(対Pt電極)の定電位状態とした条件(とした。)」
と記載されている。
上記アの記載のとおり、液体アンモニア中応力腐食割れ特性の評価において定電位を印加することは慣用的に行われており、すると、当該技術分野において2つの電極間の電位を定電位に保持することは当業者が適宜に実施できたことと認められ、当業者が本件発明1の「前記参照用試験片及び前記評価用試験片を、前記対極に対して1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する」点を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できないものとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、及び、請求項1を引用して記載した本件発明2ないし4について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものである。
(2)申立人の主張について
これに対し、申立人は、「甲第10号証には、電気化学測定を、ポテンショスタットを用いた三電極方式で行う場合、作用電極の電位を規制する役割の基準電極(参照電極)に極力電流を流さないように工夫して、その電極電位を安定に保持しているが、他方、補助電極に電流が流れて、それに伴う電位変動が起こることが記載されているから、本件発明1においては、対極(甲第10号証における「補助電極」に相当)に電流が流れることに伴う電位変動が生じるため、作用電極(参照用試験片及び評価用試験片)を対極に対して定電位で保持することが難しいという問題が生じる」ことを指摘し、本願発明1において、参照用試験片及び評価用試験片を対極に対して1.0V以上で陽極となる定電位で保持するために、どのような手段を採用すればよいのか、当業者は試行錯誤を繰り返さなければならないから、本件発明1、及び、請求項1を引用して記載した本件発明2ないし4は、実施可能要件を満たさないと主張する。
しかしながら、ポテンショスタットを用いて2つの電極間に定電位を発生させることが慣用技術であるように、2つの電極間の電位を一定となるように制御することは当業者が適宜に実施できたことである。すると、上記(1)でも指摘したとおり、本件発明1の「前記参照用試験片及び前記評価用試験片を、前記対極に対して1.0V以上で陽分極となる定電位で保持する」点を当業者は実施できたと認められる。したがって、申立人の上記主張は採用し得ない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700583