特許異議申立
2024-700587
飲料缶用アルミニウム合金板およびその製造方法
- 審判番号
- 2024-700587
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-175016
- 登録番号
- 7410255
- 請求日
- 2024年06月20日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】MAアルミニウム株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者】アルテミラ製缶株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】黒野 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1652.121-Y (C22C) / P1652.536-Y (C22C) / P1652.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7410255号発明「飲料缶用アルミニウム合金板およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7410255号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7410255号の請求項1~12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和4年10月31日(優先権主張 令和4年5月27日)の出願であって、令和5年12月25日にその特許権の設定登録がなされ、令和6年1月9日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年6月20日に特許異議申立人黒野美穂(以下、「申立人」という。)より請求項1~9(一部の請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、同年11月8日付けで取消理由が通知され、これに対して、令和7年1月9日に特許権者から意見書が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、Mn:0.90~1.10%、Mg:1.20~1.50%、Si:0.25~0.40%、Fe:0.35~0.55%、Cu:0.20~0.45%を含有し、残部不可避不純物とAlの組成を具備し、質量比で80%以上のアルミニウムリサイクル材を含むアルミニウム合金溶湯からの鋳造材であるアルミニウム合金の素板からなり、素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であり、さらに圧延方向における耐力が220~320MPa、伸びが2.0%以上、平均結晶粒径が200μm以下であることを特徴とする飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の飲料缶用アルミニウム合金板で、素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度とGoss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が5以上であり、さらに圧延方向における伸びが5.0%以上であることを特徴とする飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項3】
前記素板において、圧延方向に対し、0°、45°、90°方向のそれぞれの方向について引張試験により求められる耐力の最大値から最小値を引いた値が15MPa以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項4】
前記素板の質量比でMg固溶度が1.0~1.2%、Si固溶度が0.10~0.30%であり、前記素板の導電率が38~41%IACSであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項5】
前記素板の質量比でMg固溶度が1.0~1.2%、Si固溶度が0.10~0.30%であり、前記素板の導電率が38~41%IACSであることを特徴とする請求項3に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項6】
前記素板を板厚減少率が40%となる冷間圧延を行った場合の耐力の増加割合が15~25%、且つ、冷間圧延後に210℃で10minの熱処理を負荷した後の耐力が250~310MPa、伸びが3.0%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項7】
前記素板を板厚減少率が40%となる冷間圧延を行った場合の耐力の増加割合が15~25%、且つ、冷間圧延後に210℃で10minの熱処理を負荷した後の耐力が250~310MPa、伸びが3.0%以上であることを特徴とする請求項3に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項8】
前記素板を板厚減少率が40%となる冷間圧延を行った場合の耐力の増加割合が15~25%、且つ、冷間圧延後に210℃で10minの熱処理を負荷した後の耐力が250~310MPa、伸びが3.0%以上であることを特徴とする請求項4に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。
【請求項9】
前記素板を板厚減少率が40%となる冷間圧延を行った場合の耐力の増加割合が15~25%、且つ、冷間圧延後に210℃で10minの熱処理を負荷した後の耐力が250~310MPa、伸びが3.0%以上であることを特徴とする請求項5に記載の飲料缶用アルミニウム合金板。」
第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として次の甲第1~9号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲9」という。)を提出し、以下の申立理由1~3により、請求項1~9に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:米国特許出願公開第2018/0274072号明細書
甲第2号証:特開平9-249932号公報
甲第3号証:稲葉隆,「飲料用アルミニウム缶材の技術革新」,神戸製鋼技報,2000年12月,Vol.50,No.3,p54-57
甲第4号証:軽金属圧延工業会軽金属圧延技術委員会,「アルミニウムおよびアルミニウム合金板の結晶粒度の測定に関する研究」,軽金属,1965年11月,Vol.15,No.6,p377-389
甲第5号証:特開2004-263253号公報
甲第6号証:HelperTex Office,「特許明細書における結晶方位の扱い」,2016年12月20日(URL:https://helpertex.sakura.ne.jp/Soft/DOC2/Patent.pdf)
甲第7号証:HelperTex Office,「ODFソフトウエアによるODF解析結果の方位密度の違い」,2008年12月2日(URL:https://helpertex.sakura.ne.jp/Soft/DOC/MakePoleFile/VolumeFraction-3ODF.pdf)
甲第8号証:HelperTexのWebページ(URL:https://helpertex.sakura.ne.jp/Soft/DOC2/index.html)
甲第9号証:HelperTexのWebページ(URL:https://helpertex.sakura.ne.jp/Soft/DOC/Doc.html)
(1)申立理由1(甲1を主たる引用例とする進歩性)
本件発明1~3は、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された技術常識に基いて、また、本件発明4~9は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された技術常識に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
(2)申立理由2(実施可能要件)
請求項1の「素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であ」るとの発明特定事項について、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、請求項1及びそれを引用する請求項2~9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に採用)。
(3)申立理由3(明確性要件)
請求項1の「素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であり、」との記載は、明確であるとはいえないため、請求項1及びそれを引用する請求項2~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に採用)。
2 令和6年11月8日付けで通知した取消理由
当合議体において、上記1の申立理由のうち、申立理由2、3を採用し、令和6年11月8日付けで次の取消理由1、2を通知した。
(1)取消理由1(申立理由2:実施可能要件)
上記1の(2)と同じ。
(2)取消理由2(申立理由3:明確性要件)
上記1の(3)と同じ。
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の特許異議申立理由及び取消理由によっては、本件請求項1~9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1、申立理由2(実施可能要件)
(1)本件発明1は、「素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であ」るとの発明特定事項を含むものである。
(2)そして、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、上記(1)の発明特定事項の測定・算出方法について次の記載がある。
「【0061】
「アルミニウム合金板1の方位密度」
上述の工程により製造されたアルミニウム合金板1は、素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上である特徴を有する。Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和は5以上であることがより好ましい。
Cube方位を持つ結晶粒は、{001}<100>方位を持つ結晶粒であり、Goss方位を持つ結晶粒は、{110}<001>方位を持つ結晶粒である。
Cube方位{001}<100>方位を持つ結晶粒の方位密度(Cube方位密度)と、Goss方位{110}<001>を持つ結晶粒の方位密度(Goss方位密度)はXRD(X-ray Diffractometer)により測定することができ、両者の合計値を求めることができる。」
「【0075】
「方位密度」
Cube方位{001}<100>方位を持つ結晶粒の方位密度(Cube方位密度)と、Goss方位{110}<001>を持つ結晶粒の方位密度(Goss方位密度)をXRD(X-ray Diffractometer)にて測定し、両者の合計値を求めた。」
(3)上記(2)の記載によれば、上記(1)の発明特定事項は、Cube方位を持つ結晶粒の方位密度とGoss方位を持つ結晶粒の方位密度をそれぞれXRD(X-ray Diffractometer)にて測定し、両者の合計値を求めることにより算出できる。
(4)一方、XRDにて直接得られる情報は、X線を照射して現われる回折線を計測したX線回折チャートであることは技術常識であり、また、X線回折チャートから結晶粒の方位密度を算出するためには、結晶方位分布関数を用いた結晶方位解析を行う必要があることも技術常識である。
(5)そうすると、上記(1)の「素板表面にお」ける、「Cube方位を持つ結晶粒の方位密度」と「Goss方位を持つ結晶粒の方位密度」とをそれぞれ求めるためには、結晶方位分布関数を用いた結晶方位解析を行う必要があることとなる。
(6)一方、特許権者は、令和7年1月9日提出の意見書(第3頁第14~18行)において、次の釈明をしている。
「本件特許においては、結晶方位分布関数を用いた結晶方位解析において、解析ソフトとして「Standard ODF」が用いられる。これは、本件特許の特許権者(MAアルミニウム株式会社)の特許および特許出願にも記載されている解析ソフトであり(例えば、特許第7265092号、特開2024-073050号)、本件特許の特許権者が実際に使用している解析ソフトである。」
(7)上記(6)より、結晶方位分布関数を用いた結晶方位解析において、解析ソフトとして「Standard ODF」が用いることが理解でき、また、特許権者(三菱アルミニウム株式会社からMAアルミニウム株式会社へ事業承継)の特許および特許出願にも記載されている解析ソフトであり、特許権者が実際に使用している解析ソフトであることも理解できる。
(8)そうすると、XRDにより得られたX線回折チャートから、上記(6)の解析ソフトを用いて、結晶方位分布関数を用いた結晶方位解析を行えば、各方位の方位密度を得ることができるから、本件明細書に接した当業者は、自ら実施した発明が上記(1)の発明特定事項を含むものであるか否かを容易に確認することができる。
(9)よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1及びそれを引用する請求項2~9に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(10)なお、甲7では、方位密度が不明な仮想のサンプルを想定し、その仮想サンプルにおける体積分率と方位密度とを様々な設定(Euler角度)でシミュレートしているにすぎず、本件発明を実施するにあたり、結晶方位解析におけるEuler角度および体積分率を特定する必要はない。
2 取消理由2、申立理由3(明確性要件)
(1)請求項1には、「素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であり、」と記載されている。
(2)そして、上記1の(1)~(9)で検討したとおり、XRDにより得られたX線回折チャートから、上記1の(6)の解析ソフトを用いて、結晶方位分布関数を用いた結晶方位解析を行えば、各方位の方位密度を得ることができる。
(3)そうすると、上記1の「素板表面」における「Cube方位を持つ結晶粒の方位密度」及び「Goss方位を持つ結晶粒の方位密度」が特定できるから、これらの和も特定できる。
(4)よって、請求項1及びそれを引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
3 申立理由1(甲1を主たる引用例とする進歩性)
3-1 甲1に記載された発明
(1)甲1に記載された発明(甲1の訳文は申立人が作成したものを用いた(ただし、[0248]は当審において作成した。))
ア 甲1の[0206]には、UBC1合金は、約0.25重量%のCuと約0.15重量%のSiをUBCスクラップに添加することにより生成されたものであることが記載されている。また、甲1の[0206]には、表4の値は重量%であることが記載されているから、甲1の[0205]及び表4より、第1の代替合金(UBC1)の合金元素及び微量元素は、Cu:0.37重量%、Fe:0.3重量%、Mg:1.5重量%、Mn:0.8重量%、Si:0.29重量%、Ti:0.02重量%、Zn:0.1重量%、Cr:0.05重量%、Zr:0.001重量%であることが読み取れる。
イ 甲1の図30、33、48、49の「ライン2」との記載は、[0246]及び図21に記載されたプロセスライン2で処理されたものである。
ウ 甲1の[0248]の記載より、図30、33、48、49において、「バッチ焼鈍」はバッチ焼鈍を行ったもの、「連続焼鈍」は連続焼鈍を行ったもの、「PB」は連続焼鈍後に塗料焼付け処理に供したものを意味する。また、甲1の[0249]の記載より、図30、33において、「0°」は合金の圧延方向に対して長手方向を意味し、「90°」は合金の圧延方向に対して直角方向を意味する。
エ 上記ウを踏まえると、甲1の図30より、耐力については、UBC1をプロセスライン2で処理しバッチ焼鈍を行った場合、0°方向(圧延方向に対して長手方向)は85MPa、90°方向(圧延方向に対して直角方向)は85MPa、同じく連続焼鈍を行った場合、0°方向(圧延方向に対して長手方向)は93MPa、90°方向(圧延方向に対して直角方向)は95MPaであることが読み取れる。
オ 上記ウを踏まえると、甲1の図33より、全伸びについては、UBC1をプロセスライン2で処理しバッチ焼鈍を行った場合、0°方向(圧延方向に対して長手方向)が22%、同じく連続焼鈍を行った場合、0°方向(圧延方向に対して長手方向)が24%であることが読み取れる。
カ 甲1の図44の4404の顕微鏡写真は、バッチ焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理された後のUBC1の結晶粒形態を示し([0255]参照。)、当該図の右下のスケールバーの長さと比較することによって、平均結晶粒径が100μm以下であることが読み取れる。
キ 甲1の図45の4504の顕微鏡写真は、連続焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理された後のUBC1の結晶粒形態を示し([0256]参照。)、当該図の右下のスケールバーの長さと比較することによって、平均結晶粒径が100μm以下であることが読み取れる。
ク 上記ウを踏まえると、甲1の図48より、バッチ焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理された後のUBC1の集合組織の含有量([0260]参照。)について、Cube方位の含有量は約1.5%であり、Goss方位の含有量は約1%であることが読み取れる。
ケ 上記ウを踏まえると、甲1の図49より、連続焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理された後のUBC1の集合組織の含有量([0260]参照。)について、Cube方位の含有量は約1.4%であり、Goss方位の含有量は約1.1%であることが読み取れる。
コ 上記ア~ケを踏まえ、甲1のバッチ焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理された後のUBC1に注目すると、甲1(特に、[0206]、[0246]、[0255]、[0256]、[0260]、図30、33、48、49、表4参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されている。
「約0.25重量%のCuと約0.15重量%のSiをUBCスクラップに添加することにより生成されたアルミニウム合金であって、
合金元素及び微量元素が、Cu:0.37重量%、Fe:0.3重量%、Mg:1.5重量%、Mn:0.8重量%、Si:0.29重量%、Ti:0.02重量%、Zn:0.1重量%、Cr:0.05重量%、Zr:0.001重量%であり、
圧延方向に対して長手方向の耐力が85MPa、圧延方向に対して直角方向の耐力は85MPaであり、
圧延方向に対して長手方向の全伸びが22%であり、
平均結晶粒径が100μm以下であり、
Cube方位の含有量は約1.5%であり、Goss方位の含有量は約1%である、
アルミニウム合金。」
サ また、上記ア~ケを踏まえ、甲1の連続焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理された後のUBC1に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されている。
「約0.25重量%のCuと約0.15重量%のSiをUBCスクラップに添加することにより生成されたアルミニウム合金であって、
合金元素及び微量元素が、Cu:0.37重量%、Fe:0.3重量%、Mg:1.5重量%、Mn:0.8重量%、Si:0.29重量%、Ti:0.02重量%、Zn:0.1重量%、Cr:0.05重量%、Zr:0.001重量%であり、
圧延方向に対して長手方向の耐力が93MPa、圧延方向に対して直角方向の耐力は95MPaであり、
圧延方向に対して長手方向の全伸びが24%であり、
平均結晶粒径が100μm以下であり、
Cube方位の含有量は約1.4%であり、Goss方位の含有量は約1.1%である、
アルミニウム合金。」
3-2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明1、2とを対比する。
ア 甲1の[0246]及び図21の記載によれば、甲1発明1、2の「アルミニウム合金」は、プロセスライン2で処理したものであって、連続鋳造、初期圧延(熱間圧延)、急冷、均質化、追加の熱間圧延、急冷、ゲージまでの冷間圧延及び焼鈍(バッチ焼鈍又は連続焼鈍)を行ったものであり、中間コイル(当審注:長尺の板を巻き取ったもの)を経たものであるから、技術常識に照らして、板状のものであることは明らかである。
そうすると、甲1発明1、2の「アルミニウム合金」と本件発明1の「飲料缶用アルミニウム合金板」とは、「アルミニウム合金板」で共通する。
イ 甲1発明1、2の「アルミニウム合金」は、「約0.25重量%のCuと約0.15重量%のSiをUBCスクラップに添加することにより生成された」ものであって、Ti、Zn、Cr、Zrを加えているわけでもなく、その含有量もわずかであるから、「Ti:0.02重量%、Zn:0.1重量%、Cr:0.05重量%、Zr:0.001重量%」は、本件発明1の「不可避不純物」に相当する。
そうすると、甲1発明1、2の「合金元素及び微量元素が、Cu:0.37重量%、Fe:0.3重量%、Mg:1.5重量%、Mn:0.8重量%、Si:0.29重量%、Ti:0.02重量%、Zn:0.1重量%、Cr:0.05重量%、Zr:0.001重量%である」事項と、本件発明1の「質量%で、Mn:0.90~1.10%、Mg:1.20~1.50%、Si:0.25~0.40%、Fe:0.35~0.55%、Cu:0.20~0.45%を含有し、残部不可避不純物とAlの組成を具備」する事項とは、「質量%で」、「Mg:1.20~1.50%、Si:0.25~0.40%」、「Cu:0.20~0.45%を含有し、残部不可避不純物とAlの組成を具備」する事項で共通する。
ウ 甲1発明1、2の「アルミニウム合金」は、「約0.25重量%のCuと約0.15重量%のSiをUBCスクラップに添加することにより生成された」ものであって、Cu及びSiの各添加量はわずかであることから、そのほとんどがUBCスクラップからなるものであり、また、上記アのとおり、連続鋳造、初期圧延(熱間圧延)、急冷、均質化、追加の熱間圧延、急冷、ゲージまでの冷間圧延及び焼鈍(バッチ焼鈍又は連続焼鈍)を行ったものであるから、本件発明1の「質量比で80%以上のアルミニウムリサイクル材を含むアルミニウム合金溶湯からの鋳造材であるアルミニウム合金の素板からな」る事項を有するものである。
エ 甲1発明1の「圧延方向に対して長手方向の全伸びが22%であ」る事項及び甲1発明2の「圧延方向に対して長手方向の全伸びが24%であ」る事項は、いずれも本件発明1の「伸びが2.0%以上」に相当する。
オ 甲1発明1、2の「平均結晶粒径が100μm以下であ」る事項は、本件発明1の「平均結晶粒径が200μm以下である」事項に相当する。
カ 上記ア~オより、本件発明1と甲1発明1、2とは、
「質量%で、Mg:1.20~1.50%、Si:0.25~0.40%、Cu:0.20~0.45%を含有し、残部不可避不純物とAlの組成を具備し、質量比で80%以上のアルミニウムリサイクル材を含むアルミニウム合金溶湯からの鋳造材であるアルミニウム合金の素板からなり、さらに伸びが2.0%以上、平均結晶粒径が200μm以下であるアルミニウム合金板。」の点で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、「質量%で、Mn:0.90~1.10%」、「Fe:0.35~0.55%」を含有するのに対し、甲1発明1、2は、「合金元素及び微量元素が」、「Fe:0.3重量%」、「Mn:0.8重量%」である点。
(相違点2)
本件発明1は、「素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であ」るのに対し、甲1発明1は、「Cube方位の含有量は約1.5%であり、Goss方位の含有量は約1%であ」り、甲1発明2は、「Cube方位の含有量は約1.4%であり、Goss方位の含有量は約1.1%であ」り、素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和が2以上であるか否かが不明である点。
(相違点3)
本件発明1は、「圧延方向における耐力が220~320MPa」であるのに対し、甲1発明1は、「圧延方向に対して長手方向の耐力が85MPa」であり、甲1発明2は、「圧延方向に対して長手方向の耐力が93MPa」である点。
(相違点4)
「アルミニウム合金板」について、本件発明1は、「飲料缶用」であるのに対し、甲1発明1、2はその用途が不明である点。
(2)検討
ア まず相違点1について検討する。
イ 甲1(請求項20)には、アルミニウム合金を含む金属製品について、0.15重量%~0.8重量%のFe、0.01重量%~1.2重量%のMnを含有することが記載されている。
ウ そうすると、甲1発明1、2において、Fe、Mnの含有量を上記イの範囲内において選択し、「質量%で」それぞれ「0.35~0.55%」、「0.90~1.10%」として、本件発明1の含有量とする一応の動機があるとはいえる。
エ ここで、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、また、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その特性が大きく変わるものであって、合金の成分及び組成範囲が異なれば、同じ製造方法により製造したとしても、その特性は異なることが通常であると解される(平成24(行ケ)第10151号)。
オ そうすると、上記ウのとおり、仮に、甲1発明1、2において、Fe、Mnの含有量を、本件発明1の範囲内とする一応の動機があったとしても、上記エに照らせば、バッチ焼鈍又は連続焼鈍を伴うプロセスライン2に従って処理されることを前提とする甲1発明1、2において、実際にFe、Mnの含有量を本件発明1の範囲内に変更した場合に、本件発明1の他のパラメータである、「素板表面においてCube方位を持つ結晶粒の方位密度と、Goss方位を持つ結晶粒の方位密度の和」、「圧延方向における耐力」、「伸び」及び「平均結晶粒径」がどのように変化するかまでは予測できないため、これらの全てのパラメータが同時に本件発明1の条件を満たすものとなるかどうかは不明である(なお、そのようにする動機があるともいえない。)。
カ また、甲1には、甲1発明1、2の認定の基礎とされたUBC1については、耐力、極限引張強度、均一伸び、全伸び及び3点曲げ試験結果が記載されている([0249]、図30~図34)のみであるから、当業者であっても、甲1の記載事項から、「例えばアルミボトル缶に適用した場合、DI成形性とボトム成形性、ネック成形性のいずれにも優れ、座屈強度も高い」という本件発明1の効果(本件明細書【0013】、【0069】~【0090】)まで予測することはできない。
キ したがって、甲1発明1、2において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
ク 上記キの結論は、甲2~甲4の記載を参酌しても変わらない。
ケ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、2及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3-3 本件発明2~9について
(1)対比・検討
本件発明2~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~9と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記1-2の(1)のカの相違点1で相違する。
(2)そうすると、上記1-2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2~9も、甲1発明1、2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)上記(2)の結論は、甲2~甲5の記載を参酌しても変わらない。
(4)よって、本件発明2、3は、甲1発明1、2及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、本件発明4~9は、甲1発明1、2及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3-4 申立人の主張について
(1)申立人は、申立書(第44頁第2~10行)において、甲1の請求項20に記載されたFe及びMnの含有量は、本件発明1の含有量を包含しているから、Fe及びMnの含有量を本件発明1の含有量とすることは、当業者が容易になし得たことである旨主張している。
(2)しかしながら、上記(1)の主張については、上記1-2の(2)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~9に係る特許は、令和6年11月8日付けで通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700587