特許異議申立
2023-700979
飲料及び飲料における塩味の抑制方法
- 審判番号
- 2023-700979
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-232736
- 登録番号
- 7240867
- 請求日
- 2023年09月15日
- 審決日
- 2024年06月20日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アサヒ飲料株式会社
- 【権利者代理人】正林 真之
- 【異議申立人】山本 美映子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.121-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7240867号発明「飲料及び飲料における塩味の抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7240867号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~2]について訂正することを認める。
特許第7240867号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
特許7240867号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年12月12日の出願であって、令和5年3月8日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月15日に特許異議申立人 山本 美映子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~3)がされ、同年12月14日付けで取消理由が通知され、令和6年2月7日に特許権者 アサヒ飲料株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年2月22日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年2月7日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。また、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「飲料」を、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、・・・飲料」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2についても、同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ブリックス値が3.0以下である、飲料」と記載されているのを、「ブリックス値が2.0以下である、飲料」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2についても、同様に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を直接引用するものであるから、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1における「飲料」について、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることを特定するものであり、
訂正事項2に係る請求項1の訂正は、請求項1における「ブリックス値」を「3.0以下」から「2.0以下」に特定するものであるから、
訂正事項1及び2に係る請求項1の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書の【0018】、【0042】の【表1】の実施例1の記載からみて、訂正事項2に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書の【0026】の記載からみて、
いずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項1を引用する請求項2についても同様である。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、訂正前の請求項1~3について特許異議申立てがされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和6年2月7日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ナリンジン、及び食塩を含み、
ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、
前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、
ブリックス値が2.0以下である、飲料。
【請求項2】
スポーツ飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
ナリンジンを配合することを特徴とする、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、かつブリックス値が3.0以下である食塩含有飲料における塩味の抑制方法。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年9月15日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第6号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第8号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第8号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第10号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 申立理由6(甲第9号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
7 証拠方法
甲第1号証:特開2015-167523号公報
甲第2号証:特開2015-67590号公報
甲第3号証:特開2013-135687号公報
甲第4号証:特開2014-55号公報
甲第5号証:特開2014-168464号公報
甲第6号証:Mediterranean Lemon Alcohol-Free Soft Drink, Mintel GNPD,記録番号(ID#)1744197,2012年3月,URL:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1744197/from_search/KW2cHtQ5X6/?page=5
甲第7号証:Journal of Food Composition and Analysis 19,2006年,Pages S74-80
甲第8号証:British Lemon Tonic,Mintel GNPD,記録番号(ID#)1825072,2012年6月,URL:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1825072/from_search/ZRlKIek7fR/?page=1
甲第9号証:厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課 事務連絡 『「熱中症対策」表示ガイドラインの改定について』,2016年6月16日,URL:http://j-sda.or.jp/manufacturing/regulations_and_guidelines05.php
甲第10号証:Sugar Free Grapefruit Flavoured Soft Drink,Mintel GNPD,記録番号(ID#)3486991,2015年10月,URL:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/3486991/from_search/xUzlRah3Sz/?page=1
甲第11号証:Food Control 19,2008年, Pages 432-438
甲第12号証:日本食生活学会誌,第28巻,第1号,2017年,第41-46頁
甲第13号証:Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 69,2015年,Pages 105-110
以下、順に「甲1」のようにいう。
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第5 取消理由通知における取消理由の概要
当審が令和5年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(甲1に基づく進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
該取消理由1は、申立理由1のうちの請求項1及び2に対する理由と同旨である。
2 取消理由2(甲4に基づく進歩性)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
該取消理由2は、申立理由2のうちの請求項1に対する理由と同旨である。
3 取消理由3(甲6に基づく進歩性)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
該取消理由3は、申立理由3のうちの請求項1に対する理由と同旨である。
第6 当審の判断
当審は、以下に述べるように、取消理由1~3及び取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立理由にはいずれも理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ナトリウム含有飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項8】
ナトリウム塩を含有する飲料に、果糖及びリンゴ酸を配合することを特徴とする飲料の塩味のマスキング方法。
【請求項9】
飲料のナトリウム濃度が0.02~0.12質量%である請求項8記載の塩味のマスキング方法。
【請求項10】
リンゴ酸を飲料に対して0.01~0.16質量%の濃度で配合するものである請求項8または9記載の塩味のマスキング方法。
【請求項11】
さらにクエン酸を配合するものである請求項8ないし10のいずれかの項記載の塩味のマスキング方法。
【請求項12】
リンゴ酸とクエン酸を、2:8~5:5(リンゴ酸:クエン酸)の配合質量比で配合するものである請求項11記載の塩味のマスキング方法。
【請求項13】
さらにアスコルビン酸を配合するものである請求項8ないし請求項12記載の塩味のマスキング方法。
【請求項14】
さらにグレープフルーツフレーバー及び/又はスウィーティーフレーバーを配合するものである請求項8ないし13のいずれかの項記載の塩味のマスキング方法。」
・「【0001】
本発明は、一定濃度のナトリウムを含有しながら、塩味がマスキングされ、風味が良好であり、日常的に飲用して塩分を速やかに補給し得る飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運動時の発汗などにより失われた水分や塩分等を補給するために、スポーツドリンクが飲用されている。また主に乳幼児の急性下痢症の治療のために塩分等を含有する経口補水液が用いられている。近年、熱中症による健康被害が増加しており、その予防目的にもこのような飲料が利用されている。熱中症は、高温環境下で、体内の水分やナトリウムなど塩分のバランスが崩れることなどに起因して発症する障害であり、熱中症予防対策の一つとして、ナトリウムを40~80mg/100ml含むスポーツドリンクや経口補水液を適宜摂取することが推奨されている。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一定濃度のナトリウムを含有しながら、塩味がマスキングされ、かつ風味が良好な飲料を提供することを課題とするものである。」
・「【0012】
本発明の飲料には、さらに果糖を配合する。果糖を配合することにより、風味を損ねることなく、塩味をマスキングすることができる。本発明の飲料において、飲料中の果糖の濃度は2~10%が好ましく、3~5%がより好ましい。このような範囲であれば、塩味を効果的に緩和できるとともに、風味のバランスが良くなり、すっきりした後口になる。」
・「【0020】
本発明の飲料は、従来公知の飲料の製造方法に従って製造することができる。また本発明の飲料には、スポーツドリンク、経口補水液、炭酸飲料、乳性飲料、清涼飲料、乳飲料、発酵乳飲料、野菜飲料、果汁混合野菜飲料等が包含され、スポーツドリンク、経口補水液がより好ましい。」
・「【0022】
実 施 例 1
酸味料の検討:
下記表1の原料を混合し、飲料を調製した。酸味料として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸又はアスコルビン酸のいずれか1種を使用し、各飲料について、下記基準により塩味のマスキング効果を評価した。なお、酸味料は酸度を統一し、酸度がクエン酸換算で0.09%になるように調製した。また、コントロールとして、表1から酸味料および果糖を除いた飲料と、表1から酸味料のみを除いた飲料を調製し、それぞれ同様に評価した。結果を表2に示す。
【0023】
(塩味のマスキング効果評価基準)
7 塩味が非常に強く感じられ、飲みにくい。
6 塩味が強く感じられ、飲みづらい。
5 塩味が感じられるが、許容範囲である。
4 塩味がやや感じられる。
3 塩味が抑えられている。
2 塩味がしっかりと抑えられている。
1 塩味がほとんど感じられない。
【0024】
【表1】
[図:0001414185000001.jpg]
」
・「【0037】
実 施 例 5
香料添加による風味の検討:
表1の処方において、酸味料としてリンゴ酸を0.027%、クエン酸を0.063%用いた。また、香料を下記表6に示すものに変更して飲料を調製した。各飲料について、下記基準により風味を総合評価した。結果を表6に併せて示す。
【0038】
(総合評価基準)
◎:塩味が香りに隠れており、良好な風味である。
○:塩味が香りに隠れているが、やや酸味が強く感じられる。
△:後口にわずかに塩味が感じられる。
×:後口に塩味が感じられ、風味がよくない。
【0039】
【表6】
[図:0001414185000002.jpg]
【0040】
スウィーティー、レモン、グレープフルーツにマスキング効果が認められた。特にスウィーティーとグレープフルーツは、塩味が香りに隠れ、良好な風味のものとなった。その他の香料は、後口に塩味が出やすく、十分な効果が得られなかった。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「下記表1の原料を混合し、調整した飲料。
【表1】
[図:0001414185000003.jpg]
」
また、甲1に記載された事項を、特に請求項8~9に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1方法発明>
「ナトリウム塩を含み、飲料のナトリウム濃度が0.02~0.12質量%である、果糖及びリンゴ酸を配合することを特徴とする飲料の塩味のマスキング方法。」
(2)甲4の記載事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「低pH飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0081】
実施例8
リキュール類のノンアルコール飲料(のんある気分地中海レモン、サントリー酒類製、アルコール度数0.00%、pH3.3、炭酸ガス圧1.7kg/cm2程度、可溶性固形分濃度0.8度)に、各種苦味物質(カフェイン、ナリンジン、クワシン)を配合した(増粘剤添加無し)。具体的な添加量は、飲料中の濃度が、カフェインは10ppm、ナリンジンは10ppm、クワシンは1.5ppmとなるように添加した。
【0082】
これに、増粘剤としてアルギン酸プロピレングリコールエステル(キミカ社製)を飲料中の濃度として100ppmになるように配合してサンプルを調製した(増粘剤添加有り)。」
イ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、特に実施例8に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「リキュール類のノンアルコール飲料(のんある気分地中海レモン、サントリー酒類製、アルコール度数0.00%、pH3.3、炭酸ガス圧1.7kg/cm2程度、可溶性固形分濃度0.8度)に、カフェインは10ppm、ナリンジンは10ppm、クワシンは1.5ppmとなるように各種苦味物質を添加した飲料。」
(3)甲6の記載事項等
ア 甲6に記載された事項
甲第6号証には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001414185000004.jpg]
」
・「
[図:0001414185000005.jpg]
」
・「
[図:0001414185000006.jpg]
」
イ 甲6に記載された発明
甲6に記載された事項を整理すると、甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
<甲6発明>
「レモン果汁、Fibres(Dietary)、acidifier、フレーバー、ビタミンC(酸化防止剤)及びsweetener(アセスルファムK、スクラロース)を含み、100mlあたりナトリウム26~41mg及び炭水化物0.6~1.1gを含む、飲料。」
(4)甲8の記載事項等
ア 甲8に記載された事項
甲8には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001414185000007.jpg]
」
・「
[図:0001414185000008.jpg]
」
・「
[図:0001414185000009.jpg]
」
・「
[図:0001414185000010.jpg]
」
イ 甲8に記載された発明
甲8に記載された事項を整理すると、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
<甲8発明>
「レモン果汁と、食塩を含み、栄養成分表示(100ml当り)炭水化物3g、ナトリウム5.4mgである、飲料。」
(5)甲9の記載事項等
ア 甲9に記載された事項
甲9には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001414185000011.jpg]
」
・「
[図:0001414185000012.jpg]
」
イ 甲9に記載された発明
甲9に記載された事項を整理すると、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。
<甲9発明>
「ナトリウム濃度として、少なくとも、飲料100mlあたり40~80mg含有する清涼飲料水。」
(6)甲10の記載事項等
ア 甲10に記載された事項
甲10には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001414185000013.jpg]
」
・「
[図:0001414185000014.jpg]
」
・「
[図:0001414185000015.jpg]
」
イ 甲10に記載された発明
甲10に記載された事項を整理すると、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
<甲10発明>
「グレープフルーツ果汁と、食塩を含み、栄養表示:100mlあたり、炭水化物1.1g(この内、糖類1g)、タンパク質0g、食塩0.05gである、飲料。」
2 令和5年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断
(1)取消理由1(甲1に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明は、原料に「グレープフルーツフレーバー」を含むものであり、グレープフルーツフレーバーがナリンジンを含むことは技術常識(必要であれば、甲2及び3、甲11及び12を参照。)であるから、甲1発明は、本件特許発明1における「ナリンジン」「を含み」との特定事項を満たす。
甲1発明における原料の「食塩」は、ナトリウム濃度が0.045%(45mg/100mlに相当)であるから、甲1発明は、本件特許発明1における「食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナリンジン、及び食塩を含み、
ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下である、飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1には、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることが特定されているのに対して、甲1発明においては、そのような特定がされていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1には、「ブリックス値が2.0以下である」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、そのような特定がされていない点。
事案に鑑みて、上記相違点1-2について検討する。
甲1には、「飲料中の果糖の濃度は2~10%が好ましいこと」が記載されており(【0012】)、さらに、果糖に加えてリンゴ酸が配合されることが必須であることが記載されている(【0006】)。そうすると、甲1発明の「飲料」における「ブリックス値」は、必ず2%を超えるものと認められる。したがって、相違点1-2は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明において、「ブリックス値」を「2.0以下」に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1は、「ナリンジン及び食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、ブリックス値が2.0以下である、飲料」とすることで、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができるという、甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲1発明において、ブリックス値を調整して相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、取消理由1によって本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由2(甲4に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明は、ナリンジンを含むものであるから、甲4発明は、本件特許発明1における「ナリンジン」「を含み」との特定事項を満たす。
甲6によると、「リキュール類のノンアルコール飲料(のんある気分地中海レモン、サントリー酒類製)」は100mlあたりナトリウム26~41mgを含むことから、「リキュール類のノンアルコール飲料(のんある気分地中海レモン、サントリー酒類製)」を含む甲4発明は、「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下」との特定事項を満たす。
甲4発明は、可溶性固形分濃度0.8度(ブリックス値0.8に相当)であるから、甲4発明は、本件特許発明1における「ブリックス値が2.0以下」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナリンジンを含み、
ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、
ブリックス値が2.0以下である、飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、「食塩を含み」と特定されているのに対して、甲4発明においては、そのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1には、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることが特定されているのに対して、甲4発明においては、「ナリンジンは10ppm」配合されている点。
事案に鑑みて、上記相違点2-2について検討する。
甲4発明においては、「ナリンジンは10ppm」、すなわち、1.0mg/100ml含まれるものであるから、相違点2-2は実質的な相違点である。
また、甲4及び他の証拠をみても、甲4発明において、「ナリンジン濃度」を「1.5mg/100ml以上」に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1は、「ナリンジン及び食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、ブリックス値が2.0以下である、飲料」とすることで、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができるという、甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲4発明において、ナリンジン濃度を調整して相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、取消理由2によって本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(3)取消理由3(甲6に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
甲6発明は、「レモン果汁」を含むものであり、レモン果汁がナリンジンを含むことは技術常識(必要であれば、甲第7号証を参照。)であるから、甲6発明は、本件特許発明1における「ナリンジン」「を含み」との特定事項を満たす。
また、甲6発明は、100mlあたりナトリウム26~41mgを含むことから、甲6発明は、「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下」との特定事項を満たす。
そして、甲6発明における可溶性固形分濃度は、炭水化物0.6~1.1g/100ml+ナトリウム26~41mg/100ml=0.626~1.141g/100ml(ブリックス値0.626~1.141に相当)であるから、甲6発明は、本件特許発明1における「ブリックス値が2.0以下」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナリンジンを含み、
ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、
ブリックス値が2.0以下である、飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「食塩を含み」と特定されているのに対して、甲6発明においては、そのような特定がない点。
<相違点3-2>
本件特許発明1には、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることが特定されているのに対して、甲6発明においては、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、上記相違点3-2について検討する。
甲6には、ナリンジン濃度に関する記載はなく、甲6発明におけるナリンジン濃度は不明である。
したがって、相違点3-2は実質的な相違点である。
また、甲6及び他の証拠をみても、甲6発明において、「ナリンジン濃度」を「1.5mg/100ml以上」に調整する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1は、「ナリンジン及び食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、ブリックス値が2.0以下である、飲料」とすることで、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができるという、甲6及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲6発明において、ナリンジン濃度を調整して相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 取消理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、取消理由3によって本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
3 令和5年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由以外の特許異議申立理由についての判断
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、
・申立理由1(甲1に基づく進歩性)のうちの請求項3について
・申立理由2(甲4に基づく進歩性)のうちの請求項2及び3について
・申立理由3(甲6に基づく進歩性)のうちの請求項2及び3について
・申立理由4(甲8に基づく進歩性)
・申立理由5(甲10に基づく進歩性)
・申立理由6(甲9に基づく進歩性)
である。
以下、順に検討する。
(1)申立理由1(甲1に基づく進歩性)のうちの請求項3に対する理由について
ア 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1方法発明を対比する。
甲1方法発明は、「ナトリウム塩を含」む「飲料」であるから、「食塩含有飲料」に相当する。
また、甲1発明における「ナトリウム濃度が0.02~0.12質量%である」こと、「塩味のマスキング方法」は、「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下」であること、「塩味の抑制方法」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下である食塩含有飲料における塩味の抑制方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-3>
本件特許発明3は、「ナリンジンを配合することを特徴とする」ものであるが、甲1方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明3は、「ブリックス値が3.0以下である」ことが特定されているのに対して、甲1方法発明には、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、上記相違点1-3について検討する。
まず、相違点1-3は実質的な相違点である。
そして、本件特許発明3は、ナリンジンを配合し、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、かつブリックス値が3.0以下である食塩含有飲料における塩味の抑制方法によって、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた嗜好性の高い飲料を得ることができるという顕著な効果を有している。
これに対して、甲1方法発明は、果糖及びリンゴ酸を配合することで塩味をマスキングする方法であり、塩味を抑制するためにナリンジンを配合するという思想はなく、他の証拠をみても、甲1方法発明にナリンジンを配合させる動機付けとなる記載はない。
してみれば、甲1方法発明において、ナリンジンを配合して相違点1-3に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由1のうち請求項3に対する理由によって本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由2(甲4に基づく進歩性)のうち請求項2及び3に対する理由について
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記2(2)と同様に、甲4及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明3について
甲4には、「ナリンジンを配合することで塩味をマスキングする」という技術的思想は記載されていないから、甲4に記載された事項から、本件特許発明3の「ナリンジンを配合することを特徴とする食塩含有飲料における塩味の抑制方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明3は、甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明2及び3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由2のうち請求項2及び3に対する理由によって本件特許の請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由3(甲6に基づく進歩性)のうち請求項2及び3に対する理由について
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記2(3)と同様に、甲6及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明3について
甲6には、「ナリンジンを配合することで塩味をマスキングする」という技術的思想は記載されていないから、甲6に記載された事項から、本件特許発明3の「ナリンジンを配合することを特徴とする食塩含有飲料における塩味の抑制方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明3は、甲6に記載された発明であるとはいえないし、甲6に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明2及び3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由3のうち請求項2及び3に対する理由によって本件特許の請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由4(甲8に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲8発明を対比する。
甲8発明は、「レモン果汁」を含むものであり、レモン果汁がナリンジンを含むことは技術常識(必要であれば、甲第7号証を参照。)であるから、甲8発明は、本件特許発明1における「ナリンジン」「を含み」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナリンジン、及び食塩を含む、飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1には、「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下である」ことが特定されているのに対して、甲8発明においては、「ナトリウム濃度が5.4mg/100ml」である点。
<相違点4-2>
本件特許発明1には、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることが特定されているのに対して、甲8発明においては、そのような特定がない点。
<相違点4-3>
本件特許発明1には、「ブリックス値が2.0以下である」ことが特定されているのに対して、甲8発明においては、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、上記相違点4-3について検討する。
甲8発明には、「栄養成分表示(100ml当り)炭水化物3g、ナトリウム5.4mg」が含まれているから、甲8発明におけるブリックス値は、およそ(3.0g+5.5mg)/100mlである。
したがって、相違点4-3は実質的な相違点である。
また、甲8及び他の証拠をみても、甲8発明において、「ブリックス値」を「2.0以下」に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1は、「ナリンジン及び食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、ブリックス値が2.0以下である、飲料」とすることで、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができるという、甲8及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲8発明において、ブリックス値を調整して相違点4-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲8及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
甲8には、「ナリンジンを配合することで塩味をマスキングする」という技術的思想は記載されていないから、甲8に記載された事項から、本件特許発明3の「ナリンジンを配合することを特徴とする食塩含有飲料における塩味の抑制方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明3は、甲8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由4によって本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立理由5(甲10に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲10発明を対比する。
甲10発明は、「レモン果汁」を含むものであり、レモン果汁がナリンジンを含むことは技術常識(必要であれば、甲第7号証を参照。)であるから、甲10発明は、本件特許発明1における「ナリンジン」「を含み」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナリンジン、及び食塩を含む、飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明1には、「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下である」ことが特定されているのに対して、甲10発明においては、「ナトリウム濃度が19.7mg/100ml」である点。
<相違点5-2>
本件特許発明1には、「前記ナリンンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることが特定されているのに対して、甲10発明においては、そのような特定がない点。
<相違点5-3>
本件特許発明1には、「ブリックス値が2.0以下である」ことが特定されているのに対して、甲10発明においては、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、上記相違点5-1について検討する。
まず、相違点5-1は実質的な相違点である。
また、甲10及び他の証拠をみても、甲10発明において、「ナトリウム濃度」を「20mg/100ml以上80mg/100ml以下」に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1は、「ナリンジン及び食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、ブリックス値が2.0以下である、飲料」とすることで、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができるという、甲10及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲10発明において、ナトリウム濃度を調整して相違点5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲10及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
甲10には、「ナリンジンを配合することで塩味をマスキングする」という技術的思想は記載されていないから、甲10に記載された事項から、本件特許発明3の「ナリンジンを配合することを特徴とする食塩含有飲料における塩味の抑制方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明3は、甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立理由5についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由5によって本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
(6)申立理由6(甲9に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲9発明を対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下である、飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-1>
本件特許発明1においては、「ナリンジン」を含み、「前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であ」ることが特定されているのに対して、甲9発明においては、そのような特定がない点。
<相違点6-2>
本件特許発明1においては、「食塩を含」むことが特定されているのに対して、甲9発明においては、そのような特定がない点。
<相違点6-3>
本件特許発明1には、「ブリックス値が2.0以下である」ことが特定されているのに対して、甲9発明においては、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、上記相違点6-1について検討する。
まず、相違点6-1は実質的な相違点である。
また、甲9及び他の証拠をみても、甲9発明において、「ナリンジン」を配合することや、「ナリンジン濃度」を「1.5mg/100ml以上」に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1は、「ナリンジン及び食塩を含み、ナトリウム濃度が20mg/100ml以上80mg/100ml以下であり、前記ナリンジン濃度が1.5mg/100ml以上であり、ブリックス値が2.0以下である、飲料」とすることで、ナトリウムを高濃度で含んでいるにもかかわらず塩味の強さが抑えられ、かつ、甘味の強さが抑えられた、嗜好性の高い飲料を得ることができるという、甲9及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲9発明において、ナリンジンを配合し、かつナリンジン濃度を調整して相違点6-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲9発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲9及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
甲9には、「ナリンジンを配合することで塩味をマスキングする」という技術的思想は記載されていないから、甲9に記載された事項から、本件特許発明3の「ナリンジンを配合することを特徴とする食塩含有飲料における塩味の抑制方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明3は、甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立理由6についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由6によって本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1~3に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
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2023-700979