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特許異議申立

2025-700855

容器詰めコーヒー飲料

審判番号
2025-700855
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-115463
登録番号
7689028
請求日
2025年09月01日
審決日
2026年03月18日
公報発行日
2026年04月24日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】アサヒ飲料株式会社
  • 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
  • 【権利者代理人】須田 洋之
  • 【権利者代理人】山崎 一夫
  • 【権利者代理人】服部 博信
  • 【権利者代理人】松田 七重
  • 【異議申立人】星 晃子
審判長/審判官
  • 審判長 松田 成正
  • 審判官 宮久保 博幸
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.113-Y (A23F) / P1651.121-Y (A23F) / P1651.536-Y (A23F) / P1651.537-Y (A23F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7689028号発明「容器詰めコーヒー飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7689028号の請求項1~2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7689028号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和3年7月13日の出願であって、令和7年5月28日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年6月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年9月1日に特許異議申立人星晃子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされたものである。 その他の手続の経緯は以下のとおりである。 令和7年10月 1日付け:手続補正指令書(方式) 同年 同月21日 :特許異議申立書の手続補正書(方式) 以下において、令和7年10月21日に提出された手続補正書(方式)により補正された申立人が提出した特許異議申立書を「申立書」という。 第2 本件発明について 本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。 「[請求項1] 酢酸フルフリルの含有量が10~100ppbであり、リナロールの含有量が1~10ppbであり、グアイアコールの含有量が100~250ppbであり、クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上であり、且つ、pHが6.2以下である、容器詰めコーヒー飲料。 [請求項2] クロロゲン酸の含有量が50mg/100ml以下である、請求項1に記載の容器詰めコーヒー飲料。」 第3 特許異議申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第15号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲15」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。 1.特許異議申立理由 (1)理由1-1(甲1に基づく新規性欠如) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)理由1-2(甲2に基づく新規性欠如) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如) 本件発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)理由3(実施可能要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1及び2についての特許は同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (6)理由4(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1及び2についての特許は同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・理由3(実施可能要件違反)及び理由4(サポート要件違反)の具体的な申立理由 申立人は、以下のア~ウを理由3及び理由4に共通する申立理由として主張し、以下のエを理由3の申立理由として主張している。 ア 各成分の含有量及びpHについて 本件明細書の実施例において、実験1([0027]表3)ではクロロゲン酸の含有量及びpHを特定の値としてあるが、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコールの各成分の含有量が変動しており、どの成分により酸味質やコーヒー感に影響を与えたのか理解することができない。 実験2([0030]表4)では酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコールの各成分の含有量及びpHを特定の値とし、クロロゲン酸の含有量を変化させているが、各成分の含有量及びpHがどのような値の場合でもクロロゲン酸の含有量の変化により同じような影響を与えるとはいえない。 実験3([0032]表5)では酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール、クロロゲン酸の各成分の含有量を特定の値とし、pHを変化させているが、各成分の含有量がどのような値の場合でもpHの変化により同じような影響を与えるとはいえない。 このように、本件明細書の実施例の記載からでは、本件発明1、2に示された各成分の含有量及びpHがあらゆる値の場合にまで、酸味質やコーヒー感が良質になるかは理解できない。 イ 酸味質について 「酸味質」という語は一般的に用いられる語ではなく、本件発明の技術分野においても通常に用いられる語ではない。本件明細書の[0013]には、「本発明における目標とする良質な酸味質とは、酸味の刺激(かど)がまろやか(弱め)で、あと残りのない、さわやかな酸味でありうる」と定義され、実施例の官能評価方法において[0024]表1の基準において評価されている。この表1によれば、評点5~7では、酸味の刺激が弱ければ、後残りのない酸味であり、評点1~3では、酸味の刺激が強ければ、後に引く酸味であり、酸味の刺激が弱いが後に引く酸味である場合及び酸味の刺激が強いが後残りのない酸味である場合の評価はない。つまり、酸味の刺激の強弱しか評価しておらず、当業者にとって「良好な酸味質」といってもどのような評価であるのか理解することができない。 ウ コーヒー感について 「コーヒー感」という語は一般的に用いられる語ではなく、本件発明の技術分野においても通常に用いれる語ではない。本件明細書の[0013]には、「本発明における目標とする良質なコーヒー感とは、雑味が少なくすっきりした、苦味と酸味のバランスが良いコーヒー風味でありうる」と定義され、実施例の官能評価方法において[0025]表2の基準において評価されている。この表2によれば、評点5~7では、雑味が少なければ、苦味と酸味のバランスが良いものであり、評点1~3では、雑味が多ければ、苦味と酸味のバランスが悪いものであり、雑味が少ないが苦味と酸味のバランスが悪い場合及び雑味が多いが苦味と酸味のバランスが良い場合の評価はない。つまり、雑味の多少しか評価しておらず、当業者にとって「良好なコーヒー感」といってもどのような評価であるのか理解することができない。 さらに、甲13において、コーヒー感とは、飲んだときにコーヒーを連想させる香味と定義されており([0008])、また、甲8においてコーヒー感は、おいしさ、口当たり、後味、飲みやすさなどとは別の評価であることが記載されており、具体的にどのような評価であるかは記載されていない([0006])。このようにコーヒー感は多義的であり、この点からもどのような評価であるのか理解することができない。 エ 容器詰めについて 本件発明1、2は容器詰めコーヒー飲料である。しかし、本件明細書の実施例([0026]の実験1)において、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールは、レトルト殺菌した缶を開封したコーヒー飲料に添加して含有量を調整することが記載されているから、缶の開封直後のコーヒー飲料におけるそれらの含有量を測定したものではない。よって、実験1で測定した飲料は容器詰めコーヒー飲料であるとはいえない。 また、上記した実験1の記載では、缶を開封した後、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールを添加し、再度、缶などの容器に充填して殺菌処理などをしなければならないが、そうであるなら酢酸フルフリルは常温でも時間とともに減少してしまい(甲14の15頁表1)、クロロゲン酸は殺菌処理などの加熱によって分解してしまい(甲15の[0002])、容器に充填する前後ではコーヒー飲料中の各成分の含有量は相違してしまうものである。よって、実験1の記載は容器詰めコーヒー飲料の各成分の含有量を測定したものではない。 よって、容器詰めした後でも、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸を本件発明1、2に示した所定の含有量とするにはどのようにすればよいのか、本件明細書の記載からでは理解することができない。 2.証拠方法 甲1:東京都生活文化局,"缶コーヒー -糖やカフェインの量はどのくらい?-",[online],東京くらしweb 消費生活に関わる東京都の情報サイト,平成13(2001)年度調査・商品テスト,平成13年11月19日,<URL:https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/documents/coffee.pdf> 甲1の1:東京都生活文化局,"調査・商品テスト一覧"(甲1へのリンクが掲載されたwebページ),[online],東京くらしweb 消費生活に関わる東京都の情報サイト,2013年3月21日更新,<URL:https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/syousai.htm> 甲2:植木隆,本田浩,桜井史郎,"高速液体クロマトグラフィーによるコーヒー入り飲料中のクロロゲン酸類およびカフェインの定量",農林規格検査所調査研究報告,東京農林規格検査所,昭和61年3月,第10号,p.22-32 甲3:特表2005-506070号公報 甲4:特開2022-115178号公報 甲5:特開2020-31629号公報 甲6:特許第4711958号公報 甲7:特開2021-80号公報 甲8:特開2019-180298号公報 甲9:特開2019-146526号公報 甲10:特許第6585857号公報 甲11:特開2008-161103号公報 甲12:特開平3-175932号公報 甲13:特開2020-115770号公報 甲14:曽根英行ほか,"雪室貯蔵によるコーヒー豆の香気成分の変化について(雪室を再現したモデル実験による検討)",Trace Nutrients Research,日本微量栄養素学会,2014年,第31集,p.12-16 甲14の1:日本微量栄養素学会事務局,"学会誌"(甲14の発行元を示すwebページ)及び"微量栄養素研究第31集目次一覧"(甲14へのリンクが掲載されたwebページ),[online],日本微量栄養素学会HP,2025年10月20日(出力日),<URL:http://www.jtnrs.com/kaishi.html,http://www.jtnrs.com/sym31/sym31.html> 甲15:特開平7-50993号公報 第4 当審の判断 当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。 1.理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)について (1)甲1に記載された事項 甲1には以下の事項が記載されている。 (1-1)「■テストの趣旨 ・・・ そこで、缶コーヒーに含まれる熱量(エネルギー)や糖類、カフェニンなどの分析を行い消費者に情報提供することにしました。(他に、「コーヒーに含まれるポリフェノール」とよばれるクロロゲン酸類についても調べました。この結果については、次ページをご覧下さい) ■主なテスト結果 ・・・以下、平均の量及び範囲(最小値~最大値)を示します。」(p.1「■テストの趣旨」及び「■主なテスト結果」) (1-2)「■缶コーヒーに含まれるクロロゲン酸類 ・・・ ○クロロゲン酸類とは:キナ酸に、カフェ酸などが結合した構造の化学物質がクロロゲン酸類です。代表的なものに、5-O-カフェオイルキナ酸があります(図2)。・・・ [図:0001434181000001.jpg] 」(p.2「■缶コーヒーに含まれるクロロゲン酸類」) (1-3)「■主なテスト結果 ◇缶コーヒー100g当たりのクロロゲン酸類の量は、「コーヒー」で多め 購入した缶コーヒーを、表示されている品名ごとに、「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「乳飲料」の3つに分類し、クロロゲン酸類の量(※)を調べました。コーヒー生豆に含まれるクロロゲン酸類は、焙煎中に多くが分解するため、焙煎方法の違いなどによりコーヒー抽出液に含まれる量にバラツキがあることが結果からうかがえます。 [図:0001434181000002.jpg] ※今回のテストでは、5-O-カフェオイルキナ酸、4-O-カフェオイルキナ酸、3-O-カフェオイルキナ酸の合計量をクロロゲン酸類の量としました。(ただし、4-O-カフェオイルキナ酸、3-O-カフェオイルキナ酸は推定値)」(p.2「■主なテスト結果」) (2)甲1に記載された発明 甲1のp.1(摘記1-1)には、「缶コーヒーに含まれる熱量(エネルギー)や糖類、カフェニンなどの分析を行」ったこと、及び「「コーヒーに含まれるポリフェノール」とよばれるクロロゲン酸類についても調べ」たことが記載されており、表に記載されたテスト結果は「平均の量及び範囲(最小値~最大値)」を示したものであることが記載されている。また、甲1のp.2(摘記1-3)には、「購入した缶コーヒーを、表示されている品名ごとに、「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「乳飲料」の3つに分類し、クロロゲン酸類の量」を調べたことが記載されており、表からは「「コーヒー」(67銘柄)」及び「「コーヒー飲料」(12銘柄)」の「100g当たりのクロロゲン酸類の量」が、それぞれ「64mg(11~122mg)」及び「25mg(10~47mg)」であったことが読み取れる。 そうすると、甲1には、表の記載等に基づいて以下の発明が記載されている。 「100g当たりのクロロゲン酸類の量(67銘柄の平均の量及び範囲(最小値~最大値)が64mg(11~122mg)であり、品名が「コーヒー」である缶コーヒー。」(以下、「甲1-1発明」という。) 「100g当たりのクロロゲン酸類の量(12銘柄の平均の量及び範囲(最小値~最大値)が25mg(10~47mg)であり、品名が「コーヒー飲料」である缶コーヒー。」(以下、「甲1-2発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1-1発明との対比 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明における「品名が「コーヒー」である缶コーヒー。」は、本件発明1における「容器詰めコーヒー飲料。」に相当する。また、甲1-1発明における「クロロゲン酸類」は、甲1のp.2の「■主なテスト結果」(摘記1-3)における「5-O-カフェオイルキナ酸、4-O-カフェオイルキナ酸、3-O-カフェオイルキナ酸の合計量をクロロゲン酸類の量としました」という記載を参酌すると、5-O-、4-O-及び3-O-の3種類の異性体の総称と解され、p.2の「■缶コーヒーに含まれるクロロゲン酸類」(摘記1-2)に記載された図2の化合物(5-O-カフェオイルキナ酸)は、その化学構造式からみてCAS番号327-97-9の化合物に相当するのに対し、本件発明1における「クロロゲン酸」という用語は、本件明細書の[0021]の「(2)カフェイン含有量とクロロゲン酸含有量の分析方法」に、「標準物質(・・・クロロゲン酸:CAS 327-97-9、SIGMA-ALDRICH)の面積値を基準とし、カフェイン含有量、クロロゲン酸含有量を求めた。」と記載されていることを参酌すると、甲1に記載された「5-O-カフェオイルキナ酸」を意味すると解されることから、甲1-1発明における「クロロゲン酸類」は、本件発明1における「クロロゲン酸」を含有するものである限りにおいて一致する。 そうすると、両者は、 「クロロゲン酸を含有する、容器詰めコーヒー飲料。」 の点で一致し、 相違点甲1-1:本件発明1は「酢酸フルフリルの含有量が10~100ppbであり、」と特定するのに対し、甲1-1発明は酢酸フルフリルの含有量が明らかでない点 相違点甲1-2:本件発明1は「リナロールの含有量が1~10ppbであり、」と特定するのに対し、甲1-1発明はリナロールの含有量が明らかでない点 相違点甲1-3:本件発明1は「グアイアコールの含有量が100~250ppbであり、」と特定するのに対し、甲1-1発明はグアイアコールの含有量が明らかでない点 相違点甲1-4:本件発明1は「クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上であり、」と特定するのに対し、甲1-1発明は「100g当たりのクロロゲン酸類の量(67銘柄の平均の量及び範囲(最小値~最大値)が64mg(11~122mg)」である点 相違点甲1-5:本件発明1は「pHが6.2以下である、」と特定するのに対し、甲1-1発明はpHが明らかでない点 で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 イ 相違点甲1-1について 甲1には、缶コーヒーに含まれる酢酸フルフリルの量を測定したことは記載されておらず、酢酸フルフリルの含有量を導き出す根拠となる記載も見いだせない。よって、相違点甲1-1は実質的な相違点である。 また、甲1及び他の全ての証拠の記載を参照しても、甲1に記載された市販の缶コーヒーにおいて、酢酸フルフリルの含有量を10~100ppbに調整する動機となる記載は見いだせない。そして、本件発明1が発揮する「良質な酸味質とコーヒー感とを有する容器詰めコーヒー飲料を提供することができる」という効果は、当業者が予測することのできない顕著なものである。よって、相違点甲1-1に係る本件発明1の特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 申立人の主張について (ア)新規性について 申立人は申立書の23~24頁において、甲3及び甲4を引用し、甲3に記載された入れたてのコーヒー抽出物中のフルフリルアセテート(酢酸フルフリル)と4-エチルグアイアコールとの比率(実施例1:0.62、実施例2:0.83、実施例3:0.47)と、甲4に記載されたコーヒー飲料中の4-エチルグアイアコールの含有量(コントロール1:267ppb、コントロール2,3:169ppb、コントロール4,5:120ppb)とから、入れたてのコーヒー抽出物には、通常、酢酸フルフリルが56.4~221.6ppb程度含まれるといえること、及び、そうすると、甲1-1発明は、酢酸フルフリルが、通常、1~100ppb程度含まれているから、相違点1に係る酢酸フルフリルの含有量を満たすといえると主張している。 しかし、甲3の[0037]~[0045]に記載された実施例1~3で採用されたコーヒー豆の品種、焙煎方法及び抽出条件は、甲4の[0034]~[0035]に記載されたコントロール1~5で採用されたコーヒー豆の品種、焙煎方法及び抽出条件は一致しておらず、また、コーヒー飲料における酢酸フルフリル及び4-エチルグアイアコールの含有量が、コーヒー豆の品種、焙煎方法及び抽出条件の違いに関わらず常に一致することを示す証拠は見いだせないから、甲4の記載に基づいて甲3における酢酸フルフリルの含有量を計算で求めることは技術的な妥当性を欠いており、さらに、計算結果が甲1-1発明を含むあらゆるコーヒー飲料に妥当するともいえない。よって、申立人の主張を採用することはできない。 (イ)進歩性について 申立人は申立書の24~25頁において、容器詰めコーヒー飲料には酢酸フルフリルが本来的に含まれているところ(甲3)、甲5には、容器詰めコーヒー含有飲料中の酢酸フルフリルの含有量を「(B)熟したフルーツ様香気成分のピークエリア合計に対する(B1)酢酸フルフリルのピークエリアの比(B1)/(B)が、0.50~0.63に調整する」ことを含む「容器詰コーヒー含有飲料の苦味抑制及び香味増強方法」が記載されており(請求項1)、酢酸フルフリルの含有量を調整することによって、苦味、雑味や酸味を調整できることが記載されている([0007])から、容器詰コーヒー飲料において良質な酸味質とコーヒー感とを有するものとするために、苦味、雑味や酸味に関連する成分である酢酸フルフリルの含有量を好適な範囲に調整することは当業者であれば容易に想到できることであると主張している。 しかし、甲5の[0007]に記載された「苦味成分を保持しながら、イガイガしたエグ味、苦渋味等の雑味が抑制され、更にコーヒー独特のフルーツ様の酸味を有し、コーヒーの焙煎香が飲用後も持続できる、即ちトップノートからラストノートまで発現された容器詰コーヒー含有飲料の苦渋味抑制方法及び香味増強方法、その製造方法及び容器詰コーヒー含有飲料を提供すること」という発明の課題が、市販の缶コーヒーである甲1-1発明においても共通の課題として認識されているとはいえない。また、甲5の[0008]には、上記の課題を解決する手段に関し、「コーヒー豆の抽出工程において、密閉式の抽出器を用いて低温の抽出水で抽出することにより、飲用における苦味成分を保持しながら、雑味やイガイガしたエグ味等の苦渋味が抑制されて、コーヒー独特のフルーツ様の酸味を有し、香りにおいてはコーヒーの焙煎香がトップノートからラストノートまで発現できることを見出し本発明を完成するに至った」と記載されているが、定まった方法で一定の品質を保って製造することが求められる市販の缶コーヒーである甲1-1発明において、当業者が抽出工程を甲5に記載された方法に変更する動機があるとはいえない。さらに、甲5には、酢酸フルフリルの含有量を具体的に特定する記載はないから、甲5の記載を参酌しても、甲1-1発明における酢酸フルフリルの含有量を「10~100ppb」という特定の含有量に調整することに当業者が容易に想到し得たとは言えない。よって、申立人の主張を採用することはできない。 エ 小括 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1-1発明ではなく、かつ、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件発明1と甲1-2発明との対比 本件発明1と甲1-1発明との対比を踏まえ、本件発明1と甲1-2発明とを対比すると、両者は、 「クロロゲン酸を含有する、容器詰めコーヒー飲料。」 の点で一致し、 相違点甲1-1’:本件発明1は「酢酸フルフリルの含有量が10~100ppbであり、」と特定するのに対し、甲1-2発明は酢酸フルフリルの含有量が明らかでない点 相違点甲1-2’:本件発明1は「リナロールの含有量が1~10ppbであり、」と特定するのに対し、甲1-2発明はリナロールの含有量が明らかでない点 相違点甲1-3’:本件発明1は「グアイアコールの含有量が100~250ppbであり、」と特定するのに対し、甲1-2発明はグアイアコールの含有量が明らかでない点 相違点甲1-4’:本件発明1は「クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上であり、」と特定するのに対し、甲1-2発明は「100g当たりのクロロゲン酸類の量(12銘柄の平均の量及び範囲(最小値~最大値)が25mg(10~47mg)」である点 相違点甲1-5’:本件発明1は「pHが6.2以下である、」と特定するのに対し、甲1-2発明はpHが明らかでない点 で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 カ 相違点甲1-1’について 相違点甲1-1’は実質的に相違点甲1-1と同じ内容の相違点であり、申立書における申立人の主張も相違点甲1-1と共通であるから、相違点甲1-1と同様の理由により、相違点甲1-1’は実質的な相違点であり、かつ、甲1及び他の全ての証拠の記載を参照しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 キ 小括 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1-2発明ではなく、かつ、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ク 本件発明1についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明2について 本件発明2は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備える発明である。そうすると、上記(3)で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2は甲1に記載された発明ではなく、かつ、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1及び2は、いずれも甲1に記載された発明ではないから特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1及び2は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。 2.理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)について (1)甲2に記載された事項 甲2には以下の事項が記載されている。 (2-1)「1.まえがき ・・・ クロロゲン酸(5-カフェオイルキナ酸)は、高等植物に広く分布するフェノール系化合物であり、組織の褐変にも重要な役割を果している2)3)。また、クロロゲン酸にはいくつかの異性体があることが知られており、Trugo4)Morishita5)らは、コーヒー生豆、インスタントコーヒー中のこれらの化合物を高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと省略する)グラジェント装置によって分析している。そこでTrugoらの方法によって、コーヒー豆、コーヒー入り飲料についてクロロゲン酸類を分析した。」(p.22「1.まえがき」) (2-2)「2.実験方法 ・・・ 2.2 試 料 東京近郊のスーパーマーケットおよびデパートで購入した。 インスタントコーヒー5点・レギュラーコーヒー12点・(モカブレンド、ブルマンブレンドを除く10点はいった豆のまま購入し粉砕器で粉砕した)・コーヒー生豆2点・缶コーヒー(紙パックを含む)24点 2.3 試 薬 (1) 5-カフェオイルキナ酸(5-CQA,Aldrich Chemical Company. Inc) ・・・ 2.5 標準液の調整 (1) クロロゲン酸 5-CQA1mgを水1mlに溶解する。これを100μlマイクロピペットでとり、900μlの水を加えて1mlとし、これを10倍希釈して標準液とする。 ・・・ 2.6 試料液の調整 ・・・ (2) コーヒー飲料 試料2mlを量りとり、つづいて50%(v/v)過塩素酸0.5mlを加えて除蛋白を行った。これを,濾紙No.1で濾過し、濾液を試料液としてHPLCに供した。 2.7 クロロゲン酸類、カフェイン定量 両者ともに、標準液および試料液の各5μlをHPLCに注入し、各ピーク面積を求め、あらかじめ作成した検量線によって計算した。また表1.2において、クロロゲン酸濃度、3-CQA濃度のの算出には、5-CQAのピーク面積から濃度への換算係数と同じ数値を用いた。」(p.22-24「2.実験方法」) (2-3)「3.4 各種試料のHPLCによる分析 インスタントコーヒー、コーヒー入り飲料、レギュラーコーヒーおよびコーヒー生豆について、それぞれの代表的なクロマトグラムを図4に示した。インスタントコーヒー、コーヒー入り飲料およびレギュラーコーヒーは互いにきわめて似たパターンを示したのに対し、コーヒー生豆は前三者とはやや異なるパターンを示した。すなわち、5-CQAに比べて3-CQAがかなり少なかった。また前三者では、13分~14分にかけて2つのピークが見られるがコーヒー生豆では14分に1つだけである。これは、コーヒー生豆中で1つのピークとして存在していた物質が、加熱などの工程によって2つに分かれたものと思われる。 ・・・ 次に、今回の分析条件で検出されたピークを全てクロロゲン酸関連化合物とみなしこれらを合計したクロロゲン酸類、その中でも量的にも多い5-CQAと3-CQA、およびこの比5-CQA/3-CQAについて検討した。・・・ ・・・ 次に、コーヒー入り飲料について同様の検討を行った。コーヒー入り飲料は、コーヒー成分を抽出した生豆の量によって品名が定まっており、「コーヒー」は内容量100g中に生豆5g以上、「コーヒー飲料」は2.5g以上5g未満、「コーヒー入り清涼飲料」は1g以上2.5g未満とされている(ただし、牛乳、加工乳、および乳飲料の表示に関する公正競争規約の適用を受けるものを除く)、表2に示したように、クロロゲン酸類、3-CQA、5-CQAともに試料によりかなりの差があり、最も多いものと少ないものでは、約100倍の開きがあった。また、全体の傾向として「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「コーヒー入り清涼飲料」の順で量は減少しているが(図6)、オーバーラップしている部分がかなりあり、その境界はあいまいである。これは、コーヒー入り飲料の製造工程の違いによるものと思われる。」(p.25-26「3.4 各種試料のHPLCによる分析」) (2-4)「表2. 各種コーヒー入り飲料のクロロゲン酸類の分析 [図:0001434181000003.jpg] 」(p.27表2) (2-5)「 [図:0001434181000004.jpg] 図1. クロロゲン酸(5-CQA)の構造と吸収曲線」(p.30図1) (2-6)「 [図:0001434181000005.jpg] 図4. クロロゲン酸のクロマトグラム」(p.31図4) (2)甲2に記載された発明 甲2のp.1「1.まえがき」(摘記1-1)には、「高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと省略する)」により「コーヒー豆、コーヒー入り飲料についてクロロゲン酸類を分析した。」と記載されており、p.22-24の「2.実験方法」(摘記2-2)には、「東京近郊のスーパーマーケットおよびデパートで購入した」「缶コーヒー(紙パックを含む)24点」を試料としたこと、試薬「5-カフェオイルキナ酸(5-CQA,Aldrich Chemical Company. Inc)」から調整したクロロゲン酸の「標準液」とコーヒー飲料から調整した「試料液」を「HPLCに注入し、各ピーク面積を求め、あらかじめ作成した検量線によって計算した」ことが記載されている。また、分析結果に関し、p.25-26の「3.4各種飲料のHPLCによる分析(摘記2-3)には、「代表的なクロマトグラムを図4に示した」こと、「今回の分析条件で検出されたピークを全てクロロゲン酸関連化合物とみなしこれらを合計したクロロゲン酸類、その中でも量的にも多い5-CQAと3-CQA、およびこの比5-CQA/3-CQAについて検討した」こと、「コーヒー入り飲料は、コーヒー成分を抽出した生豆の量によって品名が定まっており」、「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「コーヒー入り清涼飲料」について分析結果を「表2に示した」ことが記載されている。そして、p.27の表2(摘記2-4)を参照すると、番号1~3の品名「コーヒー」は、クロロゲン酸類の含有量がそれぞれ25.4、66.5及び103.0mg/100mlであり、5-CQAの含有量がそれぞれ10.0、31.3及び51.5mg/100mlであったこと、番号4~7及び10の品名「コーヒー飲料」は、クロロゲン酸類の含有量がそれぞれ27.3、26.9、48.9、38.4及び21.7mg/100mlであり、5-CQAの含有量がそれぞれ12.6、12.0、22.4、16.4及び11.3mg/100mlであったことが読み取れる。 そうすると、甲2には、表2の記載等に基づいて以下の発明が記載されている。 「クロロゲン酸類の含有量がそれぞれ25.4、66.5及び103.0mg/100mlであり、5-CQAの含有量がそれぞれ10.0、31.3及び51.5mg/100mlであり、品名が「コーヒー」である缶コーヒー(紙パックを含む)。」(以下、「甲2-1発明」という。) 「クロロゲン酸類の含有量がそれぞれ27.3、26.9、48.9、38.4及び21.7mg/100mlであり、5-CQAの含有量がそれぞれ12.6、12.0、22.4、16.4及び11.3mg/100mlであり、品名が「コーヒー飲料」である缶コーヒー(紙パックを含む)。」(以下、「甲2-2発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲2-1発明との対比 本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、甲2-1発明における「品名が「コーヒー」である缶コーヒー(紙パックを含む)。」は、本件発明1における「容器詰めコーヒー飲料。」に相当する。また、甲2-1発明における「5-CQA」は、p.30の図1(摘記2-5)に記載された化学構造式からみてCAS番号327-97-9の化合物に相当するところ、本件発明1における「クロロゲン酸」という用語について、本件明細書の[0021]の「(2)カフェイン含有量とクロロゲン酸含有量の分析方法」に、「標準物質(・・・クロロゲン酸:CAS 327-97-9、SIGMA-ALDRICH)の面積値を基準とし、カフェイン含有量、クロロゲン酸含有量を求めた。」と記載されていることを参酌すると、甲2-1発明における「5-CQA」は、本件発明1における「クロロゲン酸」に相当し、甲2-1発明における「5-CQAの含有量がそれぞれ10.0、31.3及び51.5mg/100mlであり、」は、いずれも本件発明1における「クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上であり」を満たしている。なお、甲2-1発明における「クロロゲン酸類」は、甲2のp.25(摘記2-3)における「今回の分析条件で検出されたピークを全てクロロゲン酸関連化合物とみなしこれらを合計したクロロゲン酸類」という記載、及びp.31の図4(摘記2-6)の「コーヒー入り飲料」のクロマトグラムに4分、8分、13分、14分のピークがあること等から、5-CQAを含む異性体の総称と解されるものである。 そうすると、両者は、 「クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上である、容器詰めコーヒー飲料。」 の点で一致し、 相違点甲2-1:本件発明1は「酢酸フルフリルの含有量が10~100ppbであり、」と特定するのに対し、甲2-1発明は酢酸フルフリルの含有量が明らかでない点 相違点甲2-2:本件発明1は「リナロールの含有量が1~10ppbであり、」と特定するのに対し、甲2-1発明はリナロールの含有量が明らかでない点 相違点甲2-3:本件発明1は「グアイアコールの含有量が100~250ppbであり、」と特定するのに対し、甲2-1発明はグアイアコールの含有量が明らかでない点 相違点甲2-4:本件発明1は「pHが6.2以下である、」と特定するのに対し、甲2-1発明はpHが明らかでない点 で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 イ 相違点甲2-1について 甲2には、「缶コーヒー(紙パックを含む)」に含まれる酢酸フルフリルの量を測定したことは記載されておらず、酢酸フルフリルの含有量を導き出す根拠となる記載も見いだせない。よって、相違点甲2-1は実質的な相違点である。 また、甲2及び他の全ての証拠の記載を参照しても、甲2に記載された市販の缶コーヒー(紙パックを含む)において、酢酸フルフリルの含有量を10~100ppbに調整する動機となる記載は見いだせない。そして、本件発明1が発揮する「良質な酸味質とコーヒー感とを有する容器詰めコーヒー飲料を提供することができる」という効果は、当業者が予測することのできない顕著なものである。よって、相違点甲2-1に係る本件発明1の特定事項は、甲2及び他の全ての証拠の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 申立人の主張について 相違点甲2-1に関し、申立人は申立書の23~25頁において上記1.(3)ウに記載した相違点甲1-1に関する主張と同旨の主張をしているが、主引例が甲2-1発明の場合も、上記1.(3)ウに記載したことと同じ理由により、甲3~甲5に基づく申立人の主張はいずれも採用することができない。 エ 小括 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2-1発明ではなく、かつ、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ 本件発明1と甲2-2発明との対比 本件発明1と甲2-1発明との対比を踏まえ、本件発明1と甲2-2発明とを対比すると、両者は、 「クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上である、容器詰めコーヒー飲料。」 の点で一致し、 相違点甲2-1’:本件発明1は「酢酸フルフリルの含有量が10~100ppbであり、」と特定するのに対し、甲2-2発明は酢酸フルフリルの含有量が明らかでない点 相違点甲2-2’:本件発明1は「リナロールの含有量が1~10ppbであり、」と特定するのに対し、甲2-2発明はリナロールの含有量が明らかでない点 相違点甲2-3’:本件発明1は「グアイアコールの含有量が100~250ppbであり、」と特定するのに対し、甲2-2発明はグアイアコールの含有量が明らかでない点 相違点甲2-4’:本件発明1は「pHが6.2以下である、」と特定するのに対し、甲2-2発明はpHが明らかでない点 で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 カ 相違点甲2-1’について 相違点甲2-1’は実質的に相違点甲2-1と同じ内容の相違点であり、申立書における申立人の主張も相違点甲2-1と共通であるから、相違点甲2-1と同様の理由により、相違点甲2-1’は実質的な相違点であり、かつ、甲2及び他の全ての証拠の記載を参照しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 キ 小括 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2-2発明ではなく、かつ、甲2-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ク 本件発明1についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明2について 本件発明2は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備える発明である。そうすると、上記(3)で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2は甲2に記載された発明ではなく、かつ、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)理由2-1(甲2に基づく新規性欠如)及び理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)についてのまとめ 以上まとめると、本件発明1及び2は、いずれも甲2に記載された発明ではないから特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1及び2は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、理由2-1(甲2に基づく新規性欠如)及び理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)により本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。 3.理由3(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件の判断手法 物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)本件明細書の記載について 本件明細書の[0005]には、発明が解決しようとする課題が「良質な酸味質とコーヒー感とを有する容器詰めコーヒー飲料を提供すること」にあることが記載されており、[0013]には、「本発明における目標とする良質な酸味質とは、酸味の刺激(かど)がまろやか(弱め)で、あと残りのない、さわやかな好ましい酸味でありうる。本発明の容器詰めコーヒー飲料は、例えば、いわゆるスペシャルティコーヒーとして、コーヒーの良質な酸味を提供するものであってもよい」こと、及び「本発明における目標とする良質なコーヒー感とは、雑味が少なくすっきりした、苦味と酸味のバランスが良いコーヒー風味でありうる」ことが記載されている。 また、その解決手段に関し、[0007]には、「容器詰めコーヒー飲料において、渋味に関係するクロロゲン酸を所定量含有させ、かつ、特定の香気成分の含有量を所定の数値範囲に調整し、かつ、pHを所定の範囲に設定することで、安定して良質な酸味質とコーヒー感とを両立できることを見出した」ことが記載され、[0009]~[0010]には、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール(グアヤコール)及びクロロゲン酸の含有量並びにpHの好ましい範囲が記載されるとともに、「酢酸フルフリル、リナロール、及びグアイアコール(以下、これらをまとめて香気成分とも呼ぶ)、並びにクロロゲン酸の分析方法には、後述する本実施例で示された方法を採用することができる」ことが記載され、[0011]には、容器詰めコーヒー飲料における香気成分の含有量及びクロロゲン酸の含有量を調整する方法について、「特に限定されないが、例えば、コーヒー抽出液に酢酸フルフリル、リナロール、及びグアイアコール、並びにクロロゲン酸を適宜添加してこれらの含有量を調整することが挙げられる。または、本発明の容器詰めコーヒー飲料においては、様々な条件下で得られた、様々な比率で香気成分及びクロロゲン酸を有する、複数のコーヒー抽出液やコーヒー抽出物を混合することで香気成分及びクロロゲン酸の含有量を調整してもよい。また、当該クロロゲン酸の含有量については、コーヒー抽出液を得るためのコーヒー豆の焙煎度を後述するような態様で適宜変更することで調整してもよい。」ことが記載され、[0012]及び[0014]~[0017]には、コーヒー飲料を充填する容器、コーヒー抽出液の原料であるコーヒー豆の焙煎度合い、コーヒー豆の品種、挽き具合、コーヒー抽出液の抽出率、水温、抽出時間、コーヒー飲料のBrix値、添加剤、均質化処理及び殺菌処理について、具体的な例示を伴って記載されている。 さらに、[0019]~[0032]には、実施例及び比較例が記載されており、実験1([0026]~[0028])においては、「所定の焙煎度(L値18)のコーヒー豆(ブラジル産)40.0gを使用し、70℃の温水1Lで抽出した液に、インスタントコーヒーAを添加し、さらに重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを所定量加えて、缶に充填した(配合量は表3参照)。この缶をレトルト殺菌にかけて得られた缶入り飲料を、比較例1(対照)とした。」こと、「実施例1~3及び比較例2の飲料は、比較例1と同様に得られた飲料に、表3に示される酢酸フルフリル、リナロール、及び、グアイアコールの含有量になるようにそれぞれの香気成分を配合調整することで得られた。」こと、及び[表3]の結果が得られ、「本発明に規定の範囲で酢酸フルフリル、リナロール、及びグアイアコールの含有量を調整することで、良質な酸味と良好なコーヒー感を兼ね備えたコーヒー飲料が得られることを確認した。」ことが記載され、実験2([0029]~[0030])においては、「クロロゲン酸の含有量による官能評価への影響を調べるために、表4に示す実施例4~6、並びに比較例3、及び比較例4の飲料を新たに準備した。」こと、「所定の焙煎度(L値18又はL値16)のコーヒー豆(ブラジル産)を表4に示す量を使用し、70℃の温水1Lで抽出した液に、Brix値が1.33になるように表4に示す量で必要に応じてインスタントコーヒーA又はインスタントコーヒーBを添加し、さらに重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを所定量加えて、缶に充填した。なお、インスタントコーヒーAとインスタントBとは、焙煎度が異なり、Aが浅煎りタイプ、Bが深煎りタイプである。この缶をレトルト殺菌にかけて得られた缶入り飲料の各成分を分析したのち、表4に示される酢酸フルフリル、リナロール、及び、グアイアコールの各含有量になるようにそれぞれの香気成分を配合調整することで実施例4~6、並びに比較例3、及び比較例4の飲料を得た。」こと、及び[表4]の結果が得られ、「容器詰めコーヒー飲料において、香気成分調整による酸味質の改善効果は、クロロゲン酸を本発明の範囲にて含む際に得られることが確認された。」ことが記載され、実験3([0031]~[0032])においては、「pHによる官能評価への影響を調べるために、表5に示す実施例7、及び実施例8、並びに比較例5、及び比較例6の飲料を新たに準備した。」こと、「所定の焙煎度(L値18)のコーヒー豆(ブラジル産)40.0gを使用し、70℃の温水1Lで抽出した液に、さらに表5に示す量でインスタントコーヒーAを添加し、重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを加えて、缶に充填した。この缶をレトルト殺菌にかけて得られた缶入り飲料の各成分を分析した後、表5に示される酢酸フルフリル、リナロール、及び、グアイアコールの各含有量になるようにそれぞれの香気成分を配合調整することで、実施例7、及び実施例8、並びに比較例5、及び比較例6の飲料を得た。」こと、及び[表5]の結果が得られ、「香気成分調整による酸味質改善効果には、pHが大きく寄与することが確認された。」ことが記載されている。 (3)実施可能要件についての判断 本件明細書の[0009]~[0010]には、請求項1に記載された酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸の含有量並びにpH値が、良質な酸味質とコーヒー感とを有する容器詰めコーヒー飲料を提供する観点から好ましい範囲であることが記載され、[0011]には、それらを調整する方法として、コーヒー抽出液に酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸を添加して含有量を調整する方法、複数のコーヒー抽出液やコーヒー抽出物を混合することで香気成分及びクロロゲン酸の含有量を調整する方法、及びコーヒー豆の焙煎度を適宜変更することでクロロゲン酸の含有量を調整する方法が記載され、[0014]~[0017]には、コーヒー抽出液を製造する一般的な方法、並びにpH調整剤等の添加剤、均質化処理及び殺菌処理を含むコーヒー飲料を製造するための一般的な製造方法が記載されている。そして、[0019]~[0032]の実施例及び比較例の記載を参酌すると、当業者は、[0014]~[0017]に記載された一般的な製造方法と、[0011]に記載された成分の調整方法を組み合わせることにより、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸の含有量並びにpH値を[0009]~[0010]に記載された好ましい範囲に調整した容器詰めコーヒー飲料を製造することができることを理解することができ、かつ、製造された容器詰めコーヒー飲料は、良質な酸味質(酸味の刺激(かど)がまろやか(弱め)で、あと残りのないさわやかな酸味)とコーヒー感(雑味が少なくすっきりした、苦味と酸味のバランスが良いコーヒー風味)とを有する飲料として使用することができることを理解することができる。 そうすると、本件明細書には本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1を生産することができ、かつ、本件発明1を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。請求項1の記載を引用して特定する本件発明2についても同様の記載があるといえる。 (4)申立人の主張について 申立人は申立書の28~32頁において上記第3 1.(5)のア~エのように主張しているが、以下のとおり、いずれの主張も採用することはできない。 ア 各成分の含有量及びpHについて 申立人が主張する、本件発明1、2に示された各成分の含有量及びpHがあらゆる値の場合において酸味質やコーヒー感が良質になるか否かという点は、上記(1)に記載した実施可能要件の判断基準に照らすと、上記(3)の判断に影響を及ぼさない。 なお、念のため、各成分の含有量及びpHについて検討すると、本件明細書の[0011]には、「容器詰めコーヒー飲料における香気成分の含有量、及びクロロゲン酸の含有量を調整する方法」として、「コーヒー抽出液に酢酸フルフリル、リナロール、及びグアイアコール、並びにクロロゲン酸を適宜添加してこれらの含有量を調整する」方法、「様々な条件下で得られた、様々な比率で香気成分及びクロロゲン酸を有する、複数のコーヒー抽出液やコーヒー抽出物を混合することで香気成分及びクロロゲン酸の含有量を調整」する方法、「クロロゲン酸の含有量については、コーヒー抽出液を得るためのコーヒー豆の焙煎度を後述するような態様で適宜変更することで調整」する方法が例示されており、[0016]には、「pH調整剤」を添加してもよいことが記載されている。 そして、その具体例として、[0026]~[0028]の実験1においては、焙煎したコーヒー豆の温水抽出液に、インスタントコーヒーAを添加し、さらに重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを所定量加える方法で所定の成分組成及びpHを有する比較例1を得たこと、並びに、比較例1と同様に得られた飲料に香気成分(酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコール)を配合調整することにより、クロロゲン酸の含有量及びpHが比較例1と同じであり、香気成分の含有量が異なる実施例1~3及び比較例2を得たことが記載され、各香気成分の含有量はいずれも本件発明1に特定される全範囲に調整できたことが読み取れる。 また、[0029]~[0030]の実験2においては、焙煎したコーヒー豆の温水抽出液に、インスタントコーヒーA(浅煎り)及びインスタントコーヒーB(深煎り)を添加し、重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを所定量加え、香気成分を配合調整することにより、香気成分の含有量及びpHが実施例2と同じであり(実施例5のグアイアコール含有量を除く)、クロロゲン酸の含有量が異なる実施例4~6並びに比較例3及び4を得たことが記載され、クロロゲン酸の含有量は本件発明1に特定される10mg/100ml以上の範囲及び本件発明2に特定される50mg/100ml以下の範囲に調整できたことが読み取れる。 さらに、[0031]~[0032]の実験3においては、焙煎したコーヒー豆の温水抽出液に、インスタントコーヒーAを添加し、重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを添加量を調整して加え、香気成分を配合調整することにより、香気成分及びクロロゲン酸の含有量が実施例2と同じであり、pHが異なる実施例7及び8並びに比較例5及び6を得たことが記載され、pHは本件発明1に特定される6.2以下の範囲に調整できたことが読み取れる。 これらの記載に接した当業者は、本件明細書に記載された香気成分及びクロロゲン酸の含有量の調整方法及びpHの調整方法を用いることにより、本件発明1及び2に特定される全ての範囲の容器詰めコーヒー飲料を製造することができ、かつ、飲料として使用できることを理解することができる。以上のことから、申立人の主張は理由がない。 イ 酸味質について 申立人が主張する、「酸味質」がどのような評価であるのかという点は、上記(1)に記載した実施可能要件の判断基準に照らすと、上記(3)の判断に影響を及ぼさない。 なお、念のため、「酸味質の良さ」の評価基準(表1)について検討すると、表1の評点は、後残りのない酸味(評点7~5)と後に引く酸味(評点3~1)に大きく二分した上で、酸味の刺激の強弱に応じてそれぞれをさらに三分して評価するものと理解できる。よって、酸味の刺激の強弱しか評価していないとの申立人の主張は妥当ではない。 ウ コーヒー感について 申立人が主張する、「コーヒー感」がどのような評価であるのかという点は、上記(1)に記載した実施可能要件の判断基準に照らすと、上記(3)の判断に影響を及ぼさない。 なお、念のため、「コーヒー感の良さ」の評価基準(表2)について検討すると、表2の評点は、苦味と酸味のバランスが良い(評点7~5)とバランスが悪い(評点3~1)に大きく二分した上で、雑味の多少に応じてそれぞれをさらに三分して評価するものと理解できる。よって、雑味の多少しか評価していないとの申立人の主張は妥当ではない。 また、本件発明の課題に関する「コーヒー感の良さ」は、他の証拠を参照するまでもなく、本件明細書の表2に基づいて判断されるものと一義的に解することができるから、コーヒー感は多義的であるとの申立人の主張も採用できない。 エ 容器詰めについて 本件明細書の[0026]~[0028]に記載された実験1は、クロロゲン酸の含有量及びpHを比較例1と正確に同じ値とし、香気成分の含有量を段階的に異なる値に調整した実施例1~3及び比較例2を製造することによって、香気成分の作用効果を確認することを目的とした実験であると解されるから、缶を開封した後、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールを添加して含有量を調整している点は、各成分の含有量を正確に調整することが優先される実験1の目的に鑑みれば、許容される調整方法といえる。 また、上記アで検討したとおり、本件明細書の[0011]及び[0016]には、「容器詰めコーヒー飲料における香気成分の含有量、及びクロロゲン酸の含有量を調整する方法」及び「pH調整剤」の添加について記載されており、さらに、[0016]には、「本発明の容器詰めコーヒー飲料においては、その製造工程において、適宜必要に応じて、均質化処理や殺菌処理を加えて行うことができる」ことが記載され、[0017]には、均質化処理、殺菌処理及び容器への充填方法についてより詳細に記載されている。 加えて、[0026]、[0029]及び[0031]には、実験1~3において、焙煎したコーヒー豆の温水抽出液に、インスタントコーヒーを添加し、さらに重曹(pH調整剤)、炭酸カリウムを所定量加えて缶に充填し、この缶をレトルト殺菌にかけて缶入り飲料を製造したことが記載されている。 これらの記載に接した当業者は、缶に充填する前の飲料の成分組成を本件明細書に記載された適宜の方法により調整することができ、缶への充填及びレトルト殺菌を公知の適宜の方法で実施することにより、本件発明1及び2に相当する成分組成を備えた缶入り飲料を製造することができると理解することができる。そして、上記の段落の記載からみて、各製造工程に実施困難な工程はなく、製造条件の調整のために過度の試行錯誤を要するとは認められない。 よって、容器詰めした後の香気成分の濃度を本件発明1、2に特定される含有量とする方法を理解することができないとの申立人の主張は理由がなく、採用することができない。 (5)理由3(実施可能要件違反)についてのまとめ 以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、理由3(実施可能要件違反)により本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。 4.理由4(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件明細書の[0005]等の記載から見て、本件発明1及び2の課題は「良質な酸味質とコーヒー感とを有する容器詰めコーヒー飲料を提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載について 本件明細書には、上記3.(2)に記載した事項が記載されている。 (4)サポート要件についての判断 本件明細書の[0007]には、「容器詰めコーヒー飲料において、渋味に関係するクロロゲン酸を所定量含有させ、かつ、特定の香気成分の含有量を所定の数値範囲に調整し、かつ、pHを所定の範囲に設定することで、安定して良質な酸味質とコーヒー感とを両立できることを見出した」ことが記載されており、[0009]~[0010]には、酢酸フルフリルの好ましい含有量が「10~100ppb」であり、「10ppb未満であると、酸味のキレが悪くなる場合があり、100ppb超過であると異味として感じられコーヒー風味の質が悪くなる場合がある」こと、リナロールの好ましい含有量が「1~10ppb」であり、「1ppb未満であると、酸味質が悪くなる場合があり、10ppb超過であると異味として感じられコーヒー風味の質が悪くなる場合がある」こと、グアイアコール(グアヤコール)の好ましい含有量が「100~250ppb」であり、「100ppb未満であると、コーヒー感が弱く、質も悪くなる場合があり、250ppb超過であると雑味が強くなり後味が悪くなる場合がある」こと、クロロゲン酸の好ましい含有量が「10mg/100ml以上」であり、「10mg/100ml未満であると、酸味を感じにくくなる場合がある」こと、及びpHの好ましい範囲が「6.2以下」であり、「pHが6.2を超える場合、酸味を感じにくくなる場合がある」ことが記載されている。 また、[0013]には、発明の課題である良質な酸味質及び良質なコーヒー感について、「本発明における目標とする良質な酸味質とは、酸味の刺激(かど)がまろやか(弱め)で、あと残りのない、さわやかな好ましい酸味でありうる」こと、及び「本発明における目標とする良質なコーヒー感とは、雑味が少なくすっきりした、苦味と酸味のバランスが良いコーヒー風味でありうる」ことが記載されているところ、実施例及び比較例においては当該記載を踏まえた評価基準で「酸味質の良さ」及び「コーヒー感の良さ」についての官能評価が行われており、[0026]~[0028]の実験1においては、クロロゲン酸の含有量が18.4mg/100ml、pHが5.6に統一され、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールの含有量がいずれも[0009]に記載された好ましい範囲に満たない比較例1(対照)、いずれも好ましい範囲である実施例1~3、いずれも好ましい範囲を超過した比較例2において実施例2の官能評価が最も高かったことが記載され、[0029]~[0030]の実験2においては、上記比較例1(対照)と、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールの含有量並びにpHがそれぞれ22.6ppb、3.0ppb及び129.3ppb(実施例5のみ152.0ppb)並びに5.6に統一され、クロロゲン酸の含有量が[0010]に記載された好ましい範囲である実施例4、2及び5~6、好ましい範囲に満たない比較例3及び4において実施例2の官能評価が最も高かったことが記載され、[0031]~[0032]の実験3においては、上記比較例1(対照)と、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸の含有量がそれぞれ22.6ppb、3.0ppb、129.3ppb及び18.4mg/100mlに統一され、pHが[0010]に記載された好ましい範囲である実施例7、2及び8、好ましい範囲を超える比較例5及び6において実施例2の官能評価が最も高かったことが記載されている。 これらの記載に接した当業者は、実施例2に代表される、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸の含有量並びにpHがいずれも[0010]~[0011]に記載された好ましい範囲にある容器詰めコーヒー飲料、すなわち、 「酢酸フルフリルの含有量が10~100ppbであり、リナロールの含有量が1~10ppbであり、グアイアコールの含有量が100~250ppbであり、クロロゲン酸の含有量が10mg/100ml以上であり、且つ、pHが6.2以下である、容器詰めコーヒー飲料。」(本件発明1) は、「酸味質の良さ」及び「コーヒー感の良さ」の官能評価において対照を上回り、「良質な酸味質とコーヒー感とを有する容器詰めコーヒー飲料を提供する」という課題を解決することができると認識することができる。 また、本件発明2は、当業者が発明の課題を解決できると認識することができる上記発明(本件発明1)をさらに限定した発明であるから、当業者が発明の課題を解決することができると認識することができるものといえる。 (5)申立人の主張について 申立人は申立書の28~31頁において上記第3 1.(6)のア~ウのように主張しているが、以下のとおり、いずれの主張も採用することはできない。 ア 各成分の含有量及びpHについて 本件明細書の[0009]~[0010]には、酢酸フルフリル、リナロール、グアイアコール及びクロロゲン酸の好ましい含有量の範囲及びpHのp好ましい範囲についての説明が記載されており、[0010]には、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールをまとめて「香気成分」とも呼ぶことが記載されている。 そして、その具体例として、[0026]~[0028]の実験1においては、比較例1(対照)と、クロロゲン酸の含有量及びpHは比較例1と同じであり、香気成分の含有量が異なる実施例1~3及び比較例2を得たことが記載され、表3に記載された官能評価結果(「酸味質の良さ」、「コーヒー感の良さ」)を参照すると、実施例2の成分組成がいずれの項目も最も高い評価であったこと、及び、各香気成分の含有量が実施例2より減少する場合(実施例1及び比較例1)も、増加する場合(実施例3及び比較例2)も、減少量又は増加量に応じて評価が徐々に下がっていることが読み取れる。当該評価結果の傾向は、[0009]に記載された酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールそれぞれの好ましい含有量の範囲の説明と整合しており、また、それらの含有量が過少の場合は「酸味のキレが悪くなる」、「酸味質が悪くなる」、「コーヒー感が弱く、質も悪くなる」と記載され、それらの含有量が過多の場合は「異味として感じられ」る、「雑味が強く」なると記載されていることとも整合しており、[0010]に記載されているように、酢酸フルフリル、リナロール及びグアイアコールはまとめて「香気成分」と呼ぶことができるものであること、及び、仮にクロロゲン酸の含有量及びpHが実施例2と異なっていても、香気成分の含有量に応じて同様の傾向が得られると当業者は理解することができる。 また、[0029]~[0030]の実験2においては、香気成分の含有量及びpHが実施例2と同じであり(実施例5のグアイアコール含有量を除く)、クロロゲン酸の含有量が異なる実施例4~6並びに比較例3及び4を得たことが記載され、表4に記載された官能評価結果を参照すると、実施例2の成分組成がいずれの項目も最も高い評価であったこと、及び、クロロゲン酸の含有量が実施例2より減少する場合(実施例5、6及び比較例3、4)も、増加する場合(実施例4)も、減少量又は増加量に応じて評価が徐々に下がっていることが読み取れる。当該評価結果の傾向は、[0010]に記載されたクロロゲン酸の好ましい含有量の範囲の説明と整合しており、また、その含有量が過少の場合は「酸味を感じにくくなる」と記載されていることとも整合しており、仮に香気成分の含有量及びpHが実施例2と異なっていても、クロロゲン酸の含有量に応じて同様の傾向が得られると当業者は理解することができる。 さらに、[0031]~[0032]の実験3においては、香気成分及びクロロゲン酸の含有量が実施例2と同じであり、pHが異なる実施例7及び8並びに比較例5及び6を得たことが記載され、表5に記載された官能評価結果を参照すると、実施例2の成分組成がいずれの項目も最も高い評価であったこと、及び、pHが実施例2より低い場合(実施例7)も、高い場合(実施例8及び比較例5、6)も、低下量又は上昇量に応じて評価が徐々に下がっていることが読み取れる。当該評価結果の傾向は、[0010]に記載されたpHの好ましい範囲の説明と整合しており、また、pHが過大の場合は「酸味を感じにくくなる」と記載されていることとも整合しており、仮に香気成分及びクロロゲン酸の含有量が実施例2と異なっていても、pH値に応じて同様の傾向が得られると当業者は理解することができる。 これらの記載に接した当業者は、本件発明1及び2に特定された香気成分及びクロロゲン酸の含有量並びにpHの数値範囲内であれば、本件明細書の[0009]~[0010]等に記載された作用効果が得られ、発明の課題を解決できると認識することができる。よって、申立人の主張を採用することはできない。 イ 酸味質について 「酸味質の良さ」の評価基準(表1)について検討すると、表1の評点は、後残りのない酸味(評点7~5)と後に引く酸味(評点3~1)に大きく二分した上で、酸味の刺激の強弱に応じてそれぞれをさらに三分して評価するものと理解できる。よって、酸味の刺激の強弱しか評価していないとの申立人の主張は妥当ではなく、「酸味質の良さ」の官能評価結果に基づいて、当業者は実施例が本件発明の課題を解決できるものと認識することができ、ひいては、本件発明1及び2が発明の課題を解決できることを認識することができる。よって、申立人の主張を採用することはできない。 ウ コーヒー感について 「コーヒー感の良さ」の評価基準(表2)について検討すると、表2の評点は、苦味と酸味のバランスが良い(評点7~5)とバランスが悪い(評点3~1)に大きく二分した上で、雑味の多少に応じてそれぞれをさらに三分して評価するものと理解できる。よって、雑味の多少しか評価していないとの申立人の主張は妥当ではなく、「コーヒー感の良さ」の官能評価結果に基づいて、当業者は実施例が本件発明の課題を解決できるものと認識することができ、ひいては、本件発明1及び2が発明の課題を解決できることを認識することができる。よって、申立人の主張を採用することはできない。 また、本件発明の課題に関する「コーヒー感の良さ」は、他の証拠を参照するまでもなく、本件明細書の表2に基づいて判断されるものと一義的に解することができるから、コーヒー感は多義的であるとの申立人の主張も採用することはできない。 (6)申立理由4(サポート要件違反)についてのまとめ 以上のことから、特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合するものといえるので、本件発明1及び2はいずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、申立理由4(サポート要件違反)により本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本件発明1及び2についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。 また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700855

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