特許異議申立
2024-700878
活性エネルギー線硬化型組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェット用インク組成物、組成物収容容器、2次元又は3次元の像形成装置、2次元又は3次元の像形成方法、硬化物、加飾体、積層体、フレキシブルデバイス用部材、及びフレキシブルデバイス
- 審判番号
- 2024-700878
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-126189
- 登録番号
- 7452587
- 請求日
- 2024年09月12日
- 審決日
- 2025年09月04日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】弁理士法人ITOH
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【異議申立人】齊藤 整
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 松本 直子
- 審判官 岡谷 祐哉
- 分類
- P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7452587号発明「活性エネルギー線硬化型組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェット用インク組成物、組成物収容容器、2次元又は3次元の像形成装置、2次元又は3次元の像形成方法、硬化物、加飾体、積層体、フレキシブルデバイス用部材、及びフレキシブルデバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7452587号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
特許第7452587号の請求項1ないし4、6ないし16に係る特許を維持する。
特許第7452587号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7452587号(以下「本件特許」という。)は、令和3年12月15日に出願した特願2021-203711号の一部を令和4年8月8日に新たな出願(特願2022-126189号)としたものであって、令和6年3月11日に特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同年同月19日に、特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年9月12日に、本件特許の請求項1~16に係る特許に対して、特許異議申立人である齊藤 整(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和7年 2月 6日付け 取消理由通知書
同年 4月14日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 同月25日付け 通知書(申立人宛)
本通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年4月14日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1において、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、
不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、
前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、
前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型組成物。」と記載されているのを、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、
不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、
前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、
前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であり、
ガラス基材用であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型組成物。」
に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4、6~13も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
請求項6において、「請求項1から5のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項1から4のいずれかに記載の」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項8において、「請求項1から5のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項1から4のいずれかに記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項10において、「請求項1から5のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項1から4のいずれかに記載の」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項11において、「請求項1から5のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項1から4のいずれかに記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項14において、
「ガラス板と、
請求項1から5いずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項6に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項7に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかの硬化物と、
樹脂フィルムと、をこの順に積層して有することを特徴とする積層体。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「ガラス板と、
活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物と、
樹脂フィルムと、をこの順に積層して有し、
前記活性エネルギー線硬化型組成物は、リン酸エステル基を有する重合性モノマー、不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、前記ポリエステル樹脂の合有量が、3質量%以上15質量%以下であり、前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であることを特徴とする積層体。」
に訂正する。
請求項14を引用する請求項15、16も同様に訂正する。
なお、訂正前の請求項2~16は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1~7による訂正は、一群の請求項〔1~16〕に対してなされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において、「活性エネルギー線硬化型組成物」について、「ガラス基材用である」として特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更
「活性エネルギー線硬化型組成物」について、「ガラス基材用である」ことは、訂正前の請求項5及び本件明細書の段落【0035】に基づくものであるから、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、単に請求項5を削除するものであるから、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3~6について
ア 訂正の目的
訂正事項3~6は、本件訂正前の請求項6、8、10、11が「請求項1から5のいずれかに記載の」と、いずれも請求項1~5を引用していたものを、訂正事項2によって訂正前の請求項5が削除されたため、それぞれが引用する請求項から請求項5を削除したものであり特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3~6は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、本件訂正前の請求項14が請求項1~7を引用するものであったところ、訂正前の請求項1を引用するものについて、独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項7による訂正は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項1~16について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~16に係る訂正事項1~7に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~16に係る発明(以下、項番に従い「本件発明1」~「本件発明16」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
「【請求項1】
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、
不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、
前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、
前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であり、
ガラス基材用であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項2】
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーの含有量が、3質量%以上10質量%以下である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項3】
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーである請求項1から2のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項4】
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に3個の重合性官能基を有する前記多官能モノマーである請求項3に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有することを特徴とするインクジェット用インク組成物。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項6に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項7に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかが収容されていることを特徴とする組成物収容容器。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物収容容器と、活性エネルギー線を照射する照射手段と、を有することを特徴とする2次元又は3次元の像形成装置。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項6に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項7に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかに、活性エネルギー線を照射する照射工程を含むことを特徴とする2次元又は3次元の像形成方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項6に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項7に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかを硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項12】
基材と、請求項11に記載の硬化物を有し、
前記基材上に前記硬化物からなる表面装飾を有することを特徴とする加飾体。
【請求項13】
前記基材の形状が円筒形である請求項12に記載の加飾体。
【請求項14】
ガラス板と、
活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物と、
樹脂フィルムと、をこの順に積層して有し、
前記活性エネルギー線硬化型組成物は、リン酸エステル基を有する重合性モノマー、不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、前記ポリエステル樹脂の合有量が、3質量%以上15質量%以下であり、前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であることを特徴とする積層体。
【請求項15】
請求項14に記載の積層体を有することを特徴とするフレキシブルデバイス用部材。
【請求項16】
請求項14に記載の積層体を有することを特徴とするフレキシブルデバイス。」
第4 特許異議申立理由の概要、取消理由の概要及び証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由
特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。証拠方法として、下記2の甲第1号証~甲第8号証を提出する。
(1)申立理由1-1(甲第1号証による新規性)
本件特許の請求項1~3、6~12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由1-2(甲第1号証による進歩性)
本件特許の請求項1~16に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由2-1(甲第4号証による新規性)
本件特許の請求項1~3、5~12に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由2-2(甲第4号証による進歩性)
本件特許の請求項1~16に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立人が申立書とともに提出した証拠方法
甲第1号証:特表2019-500467号公報
甲第2号証:特開2005-126540号公報
甲第3号証:カヤメルPM-2(J-GLOBAL) 令和6年8月8日(出力日)
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907027525772573
甲第4号証:中国公開特許111320895号公報及びその抄訳
甲第5号証:Eternal社製DIFUNCTIONAL MONOMERES製品カタログ及びその機械翻訳 令和6年9月2日(出力日)
https://spmorell.com/wp-content/uploads/Eternal-brochure.pdf
甲第6号証:PHOTOMER6010 Product Data Sheet(2010年4月10日(発行日))及びその機械翻訳
甲第7号証:特開2020-189949号公報
甲第8号証:特開2017-165104号公報
(以下、甲第1号証~甲第8号証を、それぞれ「甲1」~「甲8」という。)
3 当審において通知した令和7年2月6日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~16に係る発明についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件発明1の「多官能モノマー」はオリゴマーを含むものであるのか判然とせず、本件発明1~16は明確でない。
(2)取消理由2(甲1による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4、6~13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4、6~13についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)取消理由3(甲4による新規性欠如)
本件特許の請求項1~3、6、7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3、6、7についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)取消理由4(甲4による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4、6~13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4、6~13についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
1 本件発明5に係る特許に対する申立ての却下
上記第2で示したとおり、本件特許の請求項5は本件訂正により削除され、この特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
2 当審において通知した取消理由及び申立理由について
以下に述べるように、当審において通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した申立理由によっては、本件発明1~4、6~16に係る特許は取り消すことはできない。
(1)取消理由1(明確性要件違反)について
本件発明1の「多官能モノマー」に含まれるものの範囲について検討する。
本件明細書には、「多官能モノマー」について、「前記リン酸エステル基を有する重合性モノマー以外の重合性化合物としては、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーであることが好ましい。」(【0024】)と記載されている。
ここで、本件明細書には、「前記リン酸エステル基を有する重合性モノマー以外の重合性化合物としては、例えば、重合性モノマー、重合性オリゴマーなどが挙げられる。」(【0022】)と記載され、モノマーとオリゴマーとが区別されて記載されている。
また、令和7年4月14日提出の意見書(2頁目(3))において「本件発明1の「多官能モノマー」はその分子構造が繰り返し単位を含まない(オリゴマーやプレポリマーでない)「モノマー」を意味しています。」と主張されている。
そうすると、本件発明1の「多官能モノマー」はオリゴマーを含まないものであることが明確となり、上記の点を不明確とした理由は解消された。
そして、本件発明1、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4、6~13、及び、本件発明14~16について、その他の不明確な点は見いだせない。
したがって、本件発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、取消理由1は理由がない。
(2)取消理由2、申立理由1-1及び申立理由1-2(甲1による新規性・進歩性欠如)
取消理由2、申立理由1-1及び申立理由1-2は、いずれも甲1を主引例とする新規性・進歩性についてのものであるので、まとめて検討する。
ア 甲1に記載された事項及び発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には次の事項が記載されている(下線は当審にて付与。)。
「【請求項1】
ウレタンアクリレートオリゴマーと、前記ウレタンアクリレートオリゴマーと異なる異種のアクリレートオリゴマーとの混合物10重量部~30重量部と、
1官能基の光硬化性モノマーと、2官能基以上の光硬化性モノマーとの混合物である光硬化性モノマー65重量部~80重量部と、
光開始剤1重量部~10重量部と、
付着増進剤0.01重量部~10重量部と、
を含む鉄鋼素材用インク組成物であって、
前記ウレタンアクリレートオリゴマーと、前記ウレタンアクリレートオリゴマーと異なる異種のアクリレートオリゴマーは、2:1~10:1の重量比で混合され、
前記1官能基の光硬化性モノマーと、2官能基以上の光硬化性モノマーは、6:1~50:1の重量比で混合される、
鉄鋼素材用インク組成物。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鉄鋼素材に対する密着性に優れたインク組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、ヘッドからの噴射性、作業性、加工性、耐溶剤性に優れた鉄鋼素材用インク組成物を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、鋼板にインクジェット方式によりインク組成物を適用することで、鋼板に対する塗膜の密着性、加工性、及び耐溶剤性に優れたプリント鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、鉄鋼素材に対する密着性、加工性、及び耐溶剤性に優れたインク組成物で形成された塗膜を有するプリント鋼板を提供することを目的とする。」
「【0049】
本発明のインク組成物は、素材との密着性を増加させるための付着増進剤を含む。本発明のインク組成物に使用可能な付着増進剤の非制限的な例としては、酸性基を含有する付着増進剤、高分子型付着増進剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0050】
上記酸性基を含有する付着増進剤の非制限的な例としては、構造にホスホン酸構造を有するリン酸系付着増進剤、カルボン酸構造を有するカルボン酸系付着増進剤が挙げられる。
【0051】
本発明のインク組成物に使用可能な酸性基を含有する付着増進剤の非制限的な例としては、CYTEC社のEBECRYL 168、EBECRYL 170、EBECRYL 171、EBECRYL 9050、HS100、BYK社のBYK-4510、BYK-4512、SOLTECH社のSZ-9166、SZ-9167、SP220、SP224、SP236、SP236L、SP238、SP270、SP271、SP277、MIWON社のMIRAMER PS2500、MIRAMER PS4800、RAHN社のGENORAD40、NIPPON KAYAKU社のKAYAMER PM-2、KAYAMER PM-21、QUALICURE社のGU2168Z、GA2600Yなどが挙げられる。これらは、必要に応じて、単独で用いられてもよく、または2種以上がともに用いられてもよい。」
「【実施例】
【0075】
1.インク組成物の製造
(実施例1)
ウレタンアクリレートオリゴマー(EBECRYL 8465、Cytec社製、3官能基、Mw1,400)10重量部、ポリエステルアクリレートオリゴマー(Miramer PS420、Miwon社製、4官能基、Mw1,800)5重量部、フェノキシエチルアクリレート(2-PEA)30重量部、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)20重量部、イソボルニルアクリレート(IBOA)17.5重量部、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)10重量部、光開始剤Darocur 1173(BASF社製)6重量部、レベリング剤(BYK-UV3510、BYK社製)0.5重量部、付着増進剤(HS100、Cytec社製)1重量部を混合してインク組成物を製造した。用いられた成分の組成を下記表1に示した。
【0076】
(実施例2)
ウレタンアクリレートオリゴマー(EBECRYL 8465、Cytec社製、3官能基、Mw1,400)10重量部、エポキシアクリレートオリゴマー(EBECRYL 3200、Cytec社製、2官能基、Mw500)5重量部、フェノキシエチルアクリレート(2-PEA)30重量部、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)20重量部、イソボルニルアクリレート(IBOA)17.5重量部、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)10重量部、光開始剤Darocur 1173(BASF社製)6重量部、レベリング剤(BYK-UV3510、BYK社製)0.5重量部、付着増進剤(HS100、Cytec社製)1重量部を混合してインク組成物を製造した。用いられた成分の組成を下記表1に示した。
【0077】
(実施例3)
ウレタンアクリレートオリゴマー(EBECRYL 8465、Cytec社製、3官能基、Mw1,400)10重量部、ポリエステルアクリレートオリゴマー(MIRAMER PS420、Miwon社製、4官能基、Mw1,800)5重量部、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)20重量部、イソボルニルアクリレート(IBOA)17.5重量部、ヒドロキシプロピルアクリレート(2-HPA)30重量部、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)10重量部、光開始剤Darocur 1173(BASF社製)6重量部、レベリング剤(BYK-UV3510、BYK社製)0.5重量部、付着増進剤(HS100、Cytec社製)1重量部を混合してインク組成物を製造した。用いられた成分の組成を下記表1に示した。」
「【0087】
【表1】
[図:0001429994000001.jpg]
【0088】
2.試験片の製作
上記実施例1~4、及び比較例1~8のインク組成物を、SUS鋼板にInkTec社のUVプリンターJETRIX KX6SDを用いて噴射し、UV硬化して5~10μmの塗膜を形成することで、試験片を製造した。具体的な印刷条件は下記のとおりである。
【0089】
3.試験片の評価方法
上記のように製作された試験片及びインク組成物に対して、次のような方法により粘度、密着性(付着性)、加工性、耐溶剤性、硬度を評価し、その結果を表2に示した。
(1)粘度
インク組成物の粘度は、25℃でBrookField社の粘度計DV II+CPE-40スピンドルを用いて測定、評価した。
(2)密着性(付着性)
付着性は、試験片の上面に、縦横間隔が1mmとなるようにカッター(cutter)で10本ずつ線を引いて100個の片を用意し、その上にセロハン接着テープを付着させてから剥離して、塗膜の密着性を評価した。」
(イ)甲1に記載された発明
甲1の実施例1に着目すると、【0075】にインク組成物の具体的な組成について記載されており、また、【0088】の、インク組成物をUVプリンターを用いて噴射し、UV硬化するという記載から該組成物はUV硬化型のインク組成物であるといえるので、甲1には次の発明が記載されているといえる。
「ウレタンアクリレートオリゴマー(EBECRYL 8465、Cytec社製、3官能基、Mw1,400)10重量部、
ポリエステルアクリレートオリゴマー(Miramer PS420、Miwon社製、4官能基、Mw1,800)5重量部、
フェノキシエチルアクリレート(2-PEA)30重量部、
テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)20重量部、
イソボルニルアクリレート(IBOA)17.5重量部、
ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)10重量部、
光開始剤Darocur 1173(BASF社製)6重量部、
レベリング剤(BYK-UV3510、BYK社製)0.5重量部、
付着増進剤(HS100、Cytec社製)1重量部
を含有するUV硬化型インク組成物。」(以下「甲1発明1」という。)
また、同様に、甲1の【0088】に着目すると、甲1には次の発明が記載されているといえる。
「甲1発明1のUV硬化型インク組成物を、SUS鋼板にInkTec社のUVプリンターJETRIX KX6SDを用いて噴射し、UV硬化して5~10μmの塗膜を形成した試験片。」(以下「甲1発明2」という。)
イ 本件発明の技術的意義について
本件明細書には、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物が、リン酸エステル基を有する重合性モノマーを含有することにより、基材がガラスである場合に、リン酸エステル基部分が基材を溶解することにより、組成物の硬化物と基材とに、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、優れた密着性を発現させることができることが記載されている(【0010】、【0011】)。
そして、実施例3~9、13、14では、基材がガラスである印刷物は優れた密着性を示すことを具体的に確認できる。
そうすると、本件明細書の上記記載から、本件発明1に係る組成物はガラス基材に対して、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、優れた密着性を示すことが理解できる。
ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「ポリエステルアクリレートオリゴマー(Miramer PS420、Miwon社製、4官能基、Mw1,800)」は、本件発明1の「ポリエステル樹脂」に相当し、また、アクリロイル基を有するものであることから、本件発明1の「不飽和結合を有するポリエステル樹脂」に相当する。
また、その含有量は5重量%であり、本件発明1の「3質量%以上15質量%以下」に含まれる。
さらに、甲1発明1の「ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)」は、分子内にアクリロイル基を2つ有することから、本件発明1の「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」に相当する。
また、その含有量は10重量%であり、本件発明1の「15質量%以下」に含まれる。
加えて、「UV」は「活性エネルギー線」に含まれるから、甲1発明1の「UV硬化型インク組成物」は、本件発明1の「活性エネルギー線硬化型組成物」に相当する。
したがって、両者は
「不飽和結合を有するポリエステル樹脂 、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、
前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、
前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では「ガラス基材用」に特定されるのに対し、甲1発明1では用途が特定されていない点
<相違点2>
本件発明1では「リン酸エステル基を有する重合性モノマー」を含むのに対し、甲1発明1では「付着増進剤(HS100、Cytec社製)」を含む点
(イ)相違点1についての判断
a 新規性について
下記bでも述べるとおり、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1発明1ではない。
b 進歩性について
甲1には、【請求項1】等において「鉄鋼素材用」であることが記載されており、「本発明は、鉄鋼素材に対する密着性に優れたインク組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、ヘッドからの噴射性、作業性、加工性、耐溶剤性に優れた鉄鋼素材用インク組成物を提供することを目的とする。」(【0004】)等と記載され、甲1発明1の「UV硬化型インク組成物」が、「鉄鋼素材に対する密着性」改善を課題とするなど、「鉄鋼素材用」であることを前提とする発明である。
また、甲1において、「ガラス」にも使用できることは記載も示唆もされていない。
そして、甲1には、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることは記載も示唆もされていないし、「鉄鋼素材用」のインク組成物を「ガラス基材用」に直ちに転用できるという、本件特許出願時の技術常識が存在するとは認められないことから、甲1発明1において、鉄鋼素材用のインク組成物を「ガラス基材用」に転用することは動機付けられない。
ここで、本件発明1の効果について検討するに、上記イで述べたように、本件発明1は、「活性エネルギー線硬化型組成物」を「ガラス基材用」とすることにより、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることができるという効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1は、甲1発明1及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではなく、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(オ)申立人の主張について
a 申立人の主張
申立人は、申立書(35頁)において、以下のように主張する。
「ここで、ガラス基材は、鋼板と同じく吸収層が無い材質である。
そのため、当業者であれば、銅板をインク用の基材として同じような性質を持つ、ガラス基材に変更することは容易になし得ることである。」
b 検討
本件明細書【0010】、【0011】において、基材がガラスである場合に、リン酸エステル基部分が基材に溶解することにより、高い密着性を発現することが記載されている。
たとえ、鋼板が、吸収層が無い材質である点においてガラス基材と共通していたとしても、他の物質との親和性等の化学的性質としてはガラスとは大きく異なるから、鋼板をガラスに変更する動機付けがない。
したがって、上記aの主張は採用できない。
エ 本件発明2、3、6~12について
本件発明2、3、6~12は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ウのとおり、本件発明1が甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2、3、6~12のいずれも、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件発明4、13について
本件発明4、13は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ウのとおり、本件発明1が、甲1発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明4、13のいずれも、甲1発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ 本件発明14について
(ア)対比
本件発明14と甲1発明2とを対比する。
a 上記ウ(ア)で述べたのと同様、甲1発明2の「ポリエステルアクリレートオリゴマー(Miramer PS420、Miwon社製、4官能基、Mw1,800)」は、本件発明14の「ポリエステル樹脂」に相当し、また、アクリロイル基を有するものであることから、本件発明14の「不飽和結合を有するポリエステル樹脂」に相当する。
また、その含有量は5重量%であり、本件発明14の「3質量%以上15質量%以下」に含まれる。
さらに、甲1発明2の「ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)」は、分子内にアクリロイル基を2つ有することから、本件発明14の「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」に相当する。
また、その含有量は10重量%であり、本件発明14の「15質量%以下」に含まれる。
加えて、「UV」は「活性エネルギー線」に含まれるから、甲1発明2の「UV硬化型インク組成物」は、本件発明14の「活性エネルギー線硬化型組成物」に相当する。
そして、甲1発明2における「SUS鋼板にInkTec社のUVプリンターJETRIX KX6SDを用いて噴射し、UV硬化して」「形成」された「5~10μmの塗膜」は、「甲1発明1のUV硬化型インク組成物」を硬化させたものであることは明らかである。
そうすると、甲1発明2における「5~10μmの塗膜」は、本件発明14における「活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物」に相当する。
b 甲1発明2の「SUS鋼板」は、本件発明14の「ガラス板」と、「板」である限りにおいて一致する。
c 甲1発明2の「試験片」は、「SUS鋼板」上に塗膜が積層されたものであるから、「積層体」であるといえる。
そうすると、本件発明14と甲1発明2とは、
「板と、
活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物と、
をこの順に積層して有し、
前記活性エネルギー線硬化型組成物は、不飽和結合を有するポリエステル樹脂 、及び分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であることを特徴とする積層体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
本件発明14では、「板」が「ガラス板」であるのに対し、甲1発明2では「SUS鋼板」である点
<相違点2’>
本件発明1では「リン酸エステル基を有する重合性モノマー」を含むのに対し、甲1発明2では「付着増進剤(HS100、Cytec社製)」を含む点
<相違点3>
本件発明14では、「板」と、所定の硬化物と、「樹脂フィルムと、をこの順に積層」して有するのに対し、甲1発明2では、「樹脂フィルム」の層を有しない点
(イ)相違点1’についての判断
上記ウ(イ)で述べたとおり、甲1には、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることは記載も示唆もされていないし、鉄鋼素材用のインク組成物を「ガラス基材用」に転用できるという、本件出願時の技術常識が存在するとは認められず、甲1発明2において、「SUS鋼板」を「ガラス板」とすることは動機付けられない。
ここで、本件発明14の効果について検討するに、上記イで説示したように、本件発明14は、「活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物」を「ガラス板」と「積層」することにより、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることができるという効果を奏するものであり、当該効果は当業者が予測できるものとはいえない。
そうすると、本件発明14は、甲1発明2及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、相違点2’、3について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張
申立人は、申立書(38頁)において、以下のように主張する。
「甲1発明における鋼板をガラス板とすることについては、前記相違点3(当審注:訂正前の請求項5における「ガラス基材用」と特定する点のこと)で述べたとおり、当業者が容易に想到しうるものである。」
b 検討
上記ウ(オ)で説示したとおり、甲1発明2において、「SUS鋼板」を「ガラス板」とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、上記aの主張は採用できない。
キ 本件発明15、16について
本件発明15、16は、いずれも本件発明14を引用するものであるから、上記カのとおり、本件発明14が甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明15、16のいずれも、甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ク 取消理由2、申立理由1-1及び申立理由1-2についてのまとめ
よって、本件発明1~3、6~12は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1~4、6~16は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2、申立理由1-1及び申立理由1-2のいずれによっても、本件特許を取り消すことはできない。
(3)取消理由3、取消理由4、申立理由2-1及び申立理由2-2(甲4による新規性・進歩性欠如)
取消理由3、取消理由4、申立理由2-1及び申立理由2-2は、いずれも甲4を主引例とする新規性・進歩性についてのものであるので、まとめて検討する。
ア 甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明
(ア)甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている(申立人が提出した甲4の抄訳に基づいて、当審で作成した抄訳で示す。)。
a 「【請求項1】
UV-LED硬化インクジェットインクであって、その特徴は以下のとおりである:前記インクジェットインクは以下の重量百分率の成分を含む:
ポリエステルアクリレートプレポリマー3-15%;
ウレタンアクリレートプレポリマー3-15%;
活性モノマー60-80%
顔料1-5%
光開始剤3-15%
助開始剤1-10%
リン酸エステル1-5%
分散剤3-15%;
助剤は0.1-3%である。」
「【請求項4】請求項1に記載のUV-LED硬化インクジェットインクであって、その特徴は以下のとおりである:前記活性モノマーは単官能活性モノマー、2官能活性モノマー及び多官能活性モノマーを含み、単官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の50-70%であり、2官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の10-40%であり、3官能又は多官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の0-20%である。」
b 「【0006】
金属缶にインクジェットデジタル印刷を行う時に、インクの金属及び金属被膜材料への付着要件を満たす必要があり、表面処理を行う必要があり、コーティング、コロナ又は火炎等の処理を行い、プロセスの複雑さを増加させ、コロナ及び火炎処理も表面の均一性に影響を与え、それにより印刷品質に影響し、インクに対してより高い要求を与え、同時に製品品質を向上させることができる。金属缶に食品飲料を入れる時に高温消毒を行う必要があり、インクは高温の煮沸性能を満たさなければならず、水煮後のパターンが脱落せず、亀裂がなく、インク上に一層の光油を広げると、水煮後も光沢度に影響せず、市場のニーズは下層処理のUV-LED硬化ONEPASS印刷インクジェットインクに影響を与えない。
【発明の開示】
【0007】
金属製缶の可変データ印刷等の工業用途を満たすために、本発明はUV-LED硬化インクジェットインク及びその製造方法を提供し、具体的にはUV-LED硬化ONEPASS印刷インクシリーズであり、インク中に有機溶剤が含まれず、グリーン環境保護特徴を有する;インクはUV-LED光源の照射下で瞬間的に硬化することができる;即ち、耐水煮である。」
「【0019】
従来技術に対して、本発明が提供するUVインクジェットインクは、有機溶剤を含有せず、環境保護の特徴を有する;インクはLEDランプの照射で瞬間的に硬化することができ、見掛けがべとつかず、迅速に印刷する必要がある;インクの円滑性が高い;硬度が適度で、耐スクラッチ性に優れる;基材に付着する;耐水煮、金属製缶の可変データ印刷に用いられ、広い発展将来性を有する。」
c 「【0020】
本発明のUV-LED硬化ONEPASS印刷インクシリーズはポリエステルアクリレートプレポリマー、ウレタンアクリレートプレポリマー、光開始剤及び開始剤、リン酸エステル、顔料、活性モノマー、分散剤及び助剤から構成され、各成分の詳細な説明及び製造方法は以下のとおりである:
1.ポリエステルアクリレートプレポリマー・・・
【0022】
ポリエステルアクリレートの市販品としては、サンドドール製のCN2302、CN2301、CN2303;ロング興ケミカル工業株式会社の6361-100及び6362-100等が挙げられる。」
d 「【0024】
2.ウレタンアクリレートプレポリマー
ウレタンアクリレートプレポリマーの巨大分子構造に同時にウレタンエステルおよびアクリル酸エステル構造単位を有し・・・。
【0025】
一般的にオリゴマーの分子量が大きいほど、粘度が高く、UVインクジェットインクの低粘度の要件を満たすために、ポリウレタンアクリレートの粘度が高くなりすぎず、ポリウレタンアクリレートプレポリマーの分子量が高すぎないため、一般的に分子量が5000以下である。
【0026】
ポリウレタンアクリレートの市販品としては、・・・Cognis社のPHOTOMERシリーズ(6010、6210、6891等を含む)・・・等が挙げられる。」
e 「【0034】
5.活性モノマー
活性モノマーはUVインクジェットインクの主要成分であり、添加量は60-80%の範囲であり、同時に活性モノマーの種類が多く、異なる種類の活性モノマーは異なる性能を有し、単官能活性モノマー、2官能活性モノマー、及び多官能活性モノマーを含む。」
「【0038】
本発明は以下の活性モノマー組み合わせを採用する:単官能活性モノマー30-70%;2官能活性モノマー10-30%;多官能活性モノマー0-20%。」
f 「【0039】
6.リン酸エステル
リン酸エステルは、金属との親和性を増大させることができ、UV系では、好ましくは炭素-炭素二重結合を含有するアクリレートであり、異なる構造のアクリル酸修飾アクリレー卜は、系適合性および安定性を向上させることができる。
【0040】
挙げることができるアクリル酸変性リン酸エステルは以下のとおりである:PAI1251 常州鴻卓化学工業;PM-2 日本化薬;PM-2 上海宝化工;HD-2 江蘇厚鼎化工;B-02、B-05 広州博興化工;1520、1530、1590、3000、3030と3060 広州精徳など。」
g 「【0054】
実施例
・・・
【0056】
(5)鉛筆硬度の検出参照基準:GB/T9286-1998
ガラス基材を用いて、インク層を厚さが12μmの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させ、鉛筆硬度計で硬度検出を行う。
【0057】
(6)付着力
アルミニウム板又は被覆鉄基材に、インク層を厚さ12μの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機、8W/cm2照射し、5S硬化させ、完全に硬化することを保証し、碁盤目付け法により接着性能の検出基準を試験する
・・・
【0063】
(8)耐水煮沸実験:アルミニウム板又は被覆鉄基材に、インク層を厚さ12μmの薄層に削り、UV-LED硬化機で、8W/cm2照射し、5S硬化させ、完全に硬化することを保証し、以上のインク層を厚さ4μmのUV光油の部分に削り、UV-LED硬化機は、8W/cm2の厚さにし、5S硬化させ、油の部分が脱落せず、しわが脱落せず合格する。・・・」
h 「【0064】
2.具体的な実施例
・・・
【0069】
実施例5-8の色インク処方は表2に示すとおりである:
表2 色インク処方
[図:0001429994000002.jpg]
・・・」
(イ)甲4に記載された発明
a 甲4は、「UV-LED硬化インクジェットインク」を開示する(上記(ア)a)ところ、その具体例である実施例6(上記(ア)hの表2)に着目すると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「PHOTOMER6010を6重量部、CN2302を3重量部、EM214を20重量部、EM210を20.5重量部、EM212を15重量部、EM326を5重量部、EM2251を10重量部、光開始剤EMKを3重量部、開始剤819を2重量部、光開始剤TPOを3重量部、EDABを2重量部、リン酸塩PM-2を3重量部、顔料185を2重量部、EFKA additives4310を5重量部、TEGORAD2500を0.5重量部配合した、UV-LED硬化インクジェットインク。」(以下「甲4発明1」という。)
b また、甲4の【0056】(上記(ア)g)に、甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」を含む実施例のインクを用いて、鉛筆硬度の検出を行うため、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものが記載されていることを踏まえると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「鉛筆硬度の検出を行うためにガラス基材を用いて、甲4発明1のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層を厚さが12μmの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させたもの。」(以下「甲4発明2」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明1とを対比する。
a 甲4発明1の「リン酸塩PM-2」は、甲4の【0039】及び【0040】(上記ア(ア)f)の記載からみて、炭素-炭素二重結合を含有する、アクリル酸変性リン酸エステルであるから、本件発明1の「リン酸エステル基を有する重合性モノマー」に相当する。
b 甲4発明1の「CN2302」は、甲4の【0022】(上記ア(ア)c)の記載からみて、ポリエステルアクリレートであるから、本件発明1の「不飽和結合を有するポリエステル樹脂」に相当し、また、甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」100重量部に対する「CN2302」の含有量は3重量部であるから、3質量%となり、本件発明1の「3質量%以上15質量%以下」に含まれる。
c 甲4発明1の「EM326」はポリエチレングリコール部分の繰り返し数nが9であるポリエチレングリコール(400)ジメタクリレートであり、「EM2251」はプロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートであって、いずれも甲4に記載の「2官能活性モノマー」に分類される(甲5の10頁目の表)から、本件発明1の「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」に相当するところ、「UV-LED硬化インクジェットインク」100重量部に対するこれらの含有量は、15重量部(=5重量部+10重量部)であるから、15質量%となり、本件発明1の「15質量%以下」に含まれる。
なお、甲4発明1の「PHOTOMER6010」は脂肪族ウレタントリアクリレートであるオリゴマーであるところ(上記ア(ア)d、甲6)、ウレタンアクリレートオリゴマーはモノマーとは区別されるものであるし(甲5の21~25頁)、甲4発明1の「EM214」、「EM210」、「EM212」はいずれも単官能モノマーである(甲5の6頁)から、これらはいずれも本件発明1の「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」にあたらない。
d 甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、「活性エネルギー線硬化型組成物」である。
そうすると、本件発明1と甲4発明1とは、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、
不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、
前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、
前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下である、
活性エネルギー線硬化型組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’’>
本件発明1では「ガラス基材用」に特定されるのに対し、甲4発明1では用途が特定されていない点
(イ)相違点1’’についての判断
a 新規性について
下記bでも述べるとおり、相違点1’’は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲4発明1ではない。
b 進歩性について
甲4には「金属缶にインクジェットデジタル印刷を行う時に・・・製品品質を向上させることができる。」(【0006】)、「金属製缶の可変データ印刷等の工業用途を満たすために、本発明はUV-LED硬化インクジェットインク及びその製造方法を提供し、具体的にはUV-LED硬化ONEPASS印刷インクシリーズであり、インク中に有機溶剤が含まれず、グリーン環境保護特徴を有する;インクはUV-LED光源の照射下で瞬間的に硬化することができる;即ち、耐水煮である。」(【0007】)等と記載されている。
また、甲4には、甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」について、「硬度が適度で、耐スクラッヂ性に優れる;基材に付着する;耐水煮;金属製缶の可変データ印刷に用いられ、広い発展将来性を有する」ことを課題とするものであることが記載されている(【0019】)。
ここで、甲4には、上記課題解決に関する指標として、「付着力」について「基材」として「アルミニウム板又は被覆鉄基材」を用いること(【0057】)、「耐水煮」について「基材」として「アルミニウム板又は被覆鉄基材」を用いること(【0063】)が記載されており、甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、「金属缶」に用いられるものであることを前提とする発明である。
また、甲4において、「ガラス基材用」とすることは記載も示唆もされていない。
そして、甲4には、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることは記載も示唆もされていないし、「金属缶」に用いられるインクを「ガラス基材用」に転用できるという本件出願時の技術常識が存在するとは認められないため、甲4発明1において、「金属缶」に用いられるインクを「ガラス基材用」に転用することが動機付けられるとはいえない。
また、甲4の【0056】(上記(ア)g)に、甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」を含む実施例のインクを用いて、鉛筆硬度の検出を行うため、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものが記載されているものの、「金属缶」に用いられるインクについて、鉛筆硬度の検出を行うための試験に関する記載であり、ガラス基材用のインクが記載されているわけではない。
ここで、本件発明1の効果について検討するに、上記(2)イで述べたように、本件発明1は、「活性エネルギー線硬化型組成物」を「ガラス基材用」とすることにより、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることができるという効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1は、甲4発明1及び甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲4発明1ではなく、甲4発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、申立書において、「組成物」を「ガラス基材用」とすることについて、以下のように主張する。
「【請求項5】
I ガラス基材用である請求項1から4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。」(申立書11頁)
「I’’ 金属製缶用であるUV-LED硬化インクジェットインク。」(申立書29頁)
「(ii-5)本件発明5と甲4発明との対比
本件発明5と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「I’’」は、本件発明5における「I」に、相当し、相違点は存在しない。」(申立書41頁)
b 検討
上記イ(ア)のとおり、本件発明1では「ガラス基材用」に特定されるのに対し、甲4発明1では用途が特定されていない点で相違点が存在する。
また、上記aの主張のように甲4に記載される発明を「金属製缶用である」と認定した場合にも、本件発明1の「ガラス基材用である」との間に明らかに相違点が存在する。
したがって、上記aの主張は採用できない。
ウ 本件発明2、3、6~12について
本件発明2、3、6~12は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記イのとおり、本件発明1が甲4発明1ではなく、また、甲4発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2、3、6~12のいずれも、甲4発明1ではなく、また、甲4発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明4、13について
本件発明4、13は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記イのとおり、本件発明1が、甲4発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明4、13のいずれも、甲4発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件発明14について
(ア)対比
本件発明14と甲4発明2とを対比する。
a 本件発明14の組成物の組成は本件発明1と同一であるから、甲4発明2における「甲4発明1のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層」の各構成成分については、上記イ(ア)a~cで対比したとおりである。
そして、甲4発明2における「UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させたもの」は、「甲4発明1のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層」を硬化させたものであることが明らかである。
そうすると、甲4発明2における「甲4発明1のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層を厚さが12μmの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させたもの」は、本件発明14における「活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物」に相当する。
b 甲4発明2における「ガラス基材」は、本件発明14の「ガラス板」に相当し、甲4発明2は、当該「ガラス基材」に、甲4発明2のインク層の薄層を設け、硬化させたものであるから、「積層体」であるといえる。
そうすると、本件発明14と甲4発明2とは、
「ガラス板と、
活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物と、
をこの順に積層して有し、
前記活性エネルギー線硬化型組成物は、リン酸エステル基を有する重合性モノマー、不飽和結合を有するポリエステル樹脂 、及び分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下であり、前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であることを特徴とする積層体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3’>
本件発明14では、ガラス板と、所定の硬化物と、「樹脂フィルムと、をこの順に積層」して有するのに対し、甲4発明2では、「樹脂フィルム」の層を有しない点
(イ)相違点3’についての判断
a 新規性について
甲4の【0056】(上記ア(ア)g)には、甲4発明1の「UV-LED硬化インクジェットインク」を含む実施例のインクを用いて、鉛筆硬度の検出試験を行うために、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものが記載されているに過ぎず、さらに「樹脂フィルム」の層を設けることは記載されていないから、相違点3’は実質的な相違点である。
したがって、本件発明14は、甲4発明2ではない。
b 進歩性について
鉛筆硬度の検出試験を行うために、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものである甲4発明2に、さらに「樹脂フィルム」を積層することを、当業者が容易になし得たとはいえない。
また、甲4には、甲4発明2の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、金属製缶にインクジェットデジタル印刷を行う用途が想定されているものの、甲4発明2の「UV-LED硬化インクジェットインク」の硬化物の層を、「ガラス板」と「樹脂フィルム」との間に設けた積層体とすることについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4の記載を考慮したとしても、甲4発明2において、さらに「樹脂フィルム」の層を設けることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そして、効果について検討するに、甲4発明2の「UV-LED硬化インクジェットインク」の硬化物の層を、「ガラス板」と「樹脂フィルム」との間に設けた積層体とすることについては記載も示唆もされておらず、甲4発明2において、ガラス板と、所定の硬化物と、「樹脂フィルムと、をこの順に積層」して有することにより、組成物の硬化物と基材とに、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、ガラス基材に対する優れた密着性を発現させることができることについて、当業者が予測することができたとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明14は、甲4発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ) 申立人の主張について
a 申立人は、申立書(43、44頁)において、以下のように主張する。
「インク層の表面を保護するためにインク層上に樹脂フィルムを積層することは、周知技術であり、当業者が容易に想到しうるものである。」
b 検討
たとえ、インクジェットインクの硬化層と樹脂フィルムとを積層することが周知技術であったとしても、上記イ(イ)で説示したとおり、鉛筆硬度の検出試験に用いるガラス基材に、インク層の薄層を設け、硬化させたものに、さらに「樹脂フィルム」を積層することは当業者が容易になし得たとはいえないし、その他の甲4の記載を考慮しても、甲4発明2の「UV-LED硬化インクジェットインク」の硬化物の層を、「ガラス板」と「樹脂フィルム」との間に設けた積層体とすることについては記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、上記aの主張は採用できない。
カ 本件発明15、16について
本件発明15、16は、いずれも本件発明14を引用するものであるから、上記エのとおり、本件発明14が甲4発明2ではなく、また、甲4発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明15、16のいずれも、甲4発明2ではなく、また、甲4発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
キ 取消理由3、取消理由4、申立理由2-1及び申立理由2-2についてのまとめ
よって、本件発明1~3、6~12は、いずれも甲4に記載された発明ではなく、また、本件発明1~4、6~16は甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由3、取消理由4、申立理由2-1及び申立理由2-2のいずれによっても、本件特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~4、6~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4、6~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項5は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てにおける請求項5に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700878