特許異議申立
2023-700207
活性エネルギー線硬化型組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェット用インク組成物、組成物収容容器、2次元又は3次元の像形成装置、2次元又は3次元の像形成方法、硬化物、加飾体、積層体、フレキシブルデバイス用部材、及びフレキシブルデバイス
- 審判番号
- 2023-700207
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-203711
- 登録番号
- 7124948
- 請求日
- 2023年02月22日
- 審決日
- 2024年06月20日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【異議申立人】齊藤 整
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 松本 直子
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1652.113-YAA(C08F) / P1652.121-YAA(C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7124948号発明「活性エネルギー線硬化型組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェット用インク組成物、組成物収容容器、2次元又は3次元の像形成装置、2次元又は3次元の像形成方法、硬化物、加飾体、積層体、フレキシブルデバイス用部材、及びフレキシブルデバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7124948号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
特許第7124948号の請求項3ないし18に係る特許を維持する。
特許第7124948号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7124948号(以下、「本件特許」という。)は、令和3年12月15日の出願(特願2021-203711号)に係るものであって、令和4年8月16日に特許権の設定登録(請求項の数20)がされ、同年同月24日に、特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年2月22日に、本件特許の請求項1~18に係る特許に対して、特許異議申立人である齊藤 整(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 5月22日付け 取消理由通知書
同年 7月21日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 9月21日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年10月24日 意見書の提出(申立人)
令和6年 1月18日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月21日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 3月29日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 4月30日 意見書の提出(申立人)
なお、令和5年7月21日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年3月21日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~20について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
請求項3において、
「前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、25質量%以下である請求項2に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。」とあるうち、請求項1及び請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂、及び分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、10質量%以下である活性エネルギー線硬化型組成物。」に訂正する。
請求項1から3を引用する請求項4から7及び請求項9から17も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項4において、「請求項1から3のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3に記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項5において、「請求項1から4のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3又は4に記載の」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項6において、「請求項1から5のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から5のいずれかに記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項7において、「請求項1から6のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から6のいずれかに記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
請求項8において、
「前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に3個の重合性官能基を有する前記多官能モノマーである請求項7に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。」とあるうち、請求項1及び7を引用するものについて、独立形式に改め、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有し、前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に3個の重合性官能基を有する多官能モノマーである活性エネルギー線硬化型組成物。」に訂正する。
(9)訂正事項9
請求項9において、「請求項1から8のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から8のいずれかに記載の」に訂正する。
(10)訂正事項10
請求項10において、「請求項1から9のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から9のいずれかに記載の」に訂正する。
請求項10を引用する請求項11も同様に訂正する。
(11)訂正事項11
請求項12において、「請求項1から9のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から9のいずれかに記載の」に訂正する。
請求項12を引用する請求項13も同様に訂正する。
(12)訂正事項12
請求項14において、「請求項1から9のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から9のいずれかに記載の」に訂正する。
(13)訂正事項13
請求項15において、「請求項1から9のいずれかに記載の」と記載されているのを、「請求項3から9のいずれかに記載の」に訂正する。
請求項15を直接又は間接的に引用する請求項16及び17も同様に訂正する。
(14)訂正事項14
請求項18において、
「ガラス板と、
請求項1から9のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項10に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項11に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかの硬化物と、
樹脂フィルムと、をこの順に積層して有することを特徴とする積層体。」とあるうち、請求項1、請求項10、及び請求項11を引用するものについて、独立形式に改め、
「ガラス板と、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有するインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかの硬化物と、
樹脂フィルムと、をこの順に積層して有することを特徴とする積層体。」に訂正する。
請求項18を引用する請求項19及び20も同様に訂正する。
なお、訂正前の請求項2~20は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1~14による訂正は、一群の請求項〔1~20〕に対してなされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、2について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであり、訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1及び2は、いずれも単に請求項1及び2を削除するものであるから、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項2を引用する同請求項3において、同請求項2及びこれが引用する同請求項1を書き下して独立形式に改めた上で、「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量」について、「25質量%以下」とあったのを「10質量%以下」として特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件明細書には、「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量としては、組成物全量に対して、25質量%以下であることが好ましく、・・・10質量%以下であることが更に好ましい」(【0024】)と記載されていたから、訂正事項3は本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項4~7について
ア 訂正の目的
訂正事項4~7は、本件訂正前の請求項4が「請求項1から3のいずれかに記載の」と、同請求項5が「請求項1から4のいずれかに記載の」と、同請求項6が「請求項1から5のいずれかに記載の」と、同請求項7が「請求項1から6のいずれかに記載の」と、いずれも請求項1、2を引用していたものを、訂正事項1及び2によって訂正前の請求項1及び2が削除されたため、それぞれが引用する請求項から請求項1及び2を削除したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項4~7は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、本件訂正前の請求項8が請求項7を引用するものであったところ、訂正前の請求項7及びこれが引用する訂正前の請求項1から6のうち請求項1を書き下して独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項8による訂正は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項9~13について
ア 訂正の目的
訂正事項9は、本件訂正前の請求項9が「請求項1から8のいずれかに記載の」としていたのを「請求項3から8のいずれかに記載の」とするものであり、訂正事項10~13は、それぞれ、本件訂正前の請求項10、12、14、15が「請求項1から9のいずれかに記載の」としていたのを「請求項3から9のいずれかに記載の」としたものであって、いずれも請求項1、2を引用していたものを、訂正事項1及び2によって訂正前の請求項1及び2が削除されたため、それぞれが引用する請求項から請求項1及び2を削除したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項9~13は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項14について
ア 訂正の目的
訂正事項14は、本件訂正前の請求項18が請求項1から9、請求項10、及び請求項11のいずれかの記載を引用するものであるところ、訂正前の請求項1、訂正前の請求項1を引用する請求項10及び訂正前の請求項1を引用する請求項11を書き下して独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項14は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項14によって訂正される請求項18を引用する請求項19及び20に係る特許について特許異議の申立てはされていない。そして、上記2(6)のとおり訂正事項14は特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そこで、これらに関し特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を検討するに、下記第5の2(7)で述べるように、訂正後の請求項18に係る発明は、取消理由及び申立理由により特許を受けることができないものでないから、訂正後の請求項18の記載を引用する請求項19及び20に係る発明も、取消理由及び申立理由により特許を受けることができないとすべきものでない。また、他に請求項19及び20に係る発明は、特許を受けることができないとすべき理由は見当たらない。
したがって、訂正後の請求項19及び20に係る発明はいずれも、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるといえる。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~20に係る発明のうち、請求項1~18に係る発明(以下、項番に従い「本件発明1」、「本件発明2」等といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
なお、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項6に記載の「請求項3から5からのいずれかに記載の」については、上記訂正事項6からみて、「請求項3から5のいずれかに記載の」の明らかな誤記であると解して、以下の当審の判断を示す。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、
不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有し、
前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、10質量%以下である活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂の含有量が、3質量%以上15質量%以下である請求項3に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量が、2,000以下である請求項3又は4に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項6】
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーの含有量が、3質量%以上10質量%以下である請求項3から5からのいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項7】
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーである請求項3から6のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項8】
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び
不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有し、
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に3個の重合性官能基を有する多官能モノマーである活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項9】
ガラス基材用である請求項3から8のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項10】
請求項3から9のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有することを特徴とするインクジェット用インク組成物。
【請求項12】
請求項3から9のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項10に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項11に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかが収容されていることを特徴とする組成物収容容器。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物収容容器と、活性エネルギー線を照射する照射手段と、を有することを特徴とする2次元又は3次元の像形成装置。
【請求項14】
請求項3から9のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項10に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項11に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかに、活性エネルギー線を照射する照射工程を含むことを特徴とする2次元又は3次元の像形成方法。
【請求項15】
請求項3から9のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物、請求項10に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び請求項11に記載のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかを硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項16】
基材と、請求項15に記載の硬化物を有し、
前記基材上に前記硬化物からなる表面装飾を有することを特徴とする加飾体。
【請求項17】
前記基材の形状が円筒形である請求項16に記載の加飾体。
【請求項18】
ガラス板と、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有し、数平均分子量が3,000以下であるポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有するインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかの硬化物と、
樹脂フィルムと、をこの順に積層して有することを特徴とする積層体。」
第4 特許異議申立理由の概要、取消理由の概要及び証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由
特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。証拠方法として、下記2(1)の甲第1号証~甲第7号証を提出する。
(1)申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1~18に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~18に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立人が提出した証拠方法
(1)申立書とともに提出した証拠方法
甲第1号証 中国特許出願公開特許第111320895号明細書及びその抄訳
甲第2号証 特開2015-132640号公報
甲第3号証 加藤忠哉他1名、「分子量分布 高分子キャラクタリゼーションの一例」、高分子、24巻、1975、7月号、459-464頁
甲第4号証 「The Brief Introduction of Corporation」なるエターナル社の製品カタログ及びその機械翻訳
甲第5号証 精徳化学社のホームページ及びその機械翻訳
甲第6号証 「PRODUCT CATALOGUE」なるサートマー社のカタログ
甲第7号証 特開2019-19208号公報
(2)令和5年10月24日付けの意見書とともに提出した証拠方法
甲第8号証 「Photomer6010」メーカーホームページ及びその抄訳
甲第9号証 松下泰明、「インクジェットプリントによる表面加飾技術」、表面技術、69巻、7号、296~300頁、2018年
甲第10号証 特許第6976802号公報
甲第11号証 特開2008-087248号公報
(以下、甲第1号証~甲第11号証を、それぞれ「甲1」~「甲11」という。)
3 当審で通知した令和6年1月18日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性)
本件特許の請求項3~7、9~16に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項3~17に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)当審が職権により引用した証拠方法
文献1 特開2009-519827号公報
文献2 稲田和正、「(メタ)アクリレート系光硬化型樹脂の密着性」、東亞合成グループ研究年報 TREND2006、第9号、19~24頁(19頁左欄下から5行)
第5 当審の判断
1 本件発明1及び2に係る特許に対する申立ての却下
上記第2で示したとおり、本件特許の請求項1及び2は本件訂正により削除され、この特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
2 当審で通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由及び申立理由について
以下に述べるように、当審で通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由及び申立書に記載した申立理由によっては、本件発明3~18に係る特許は取り消すことはできない。
上記申立理由1、申立理由2、取消理由1及び取消理由2は、いずれも甲1を主引例とする新規性・進歩性についてのものであるので、まとめて検討する。
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている(申立人が提出した甲1の抄訳に基づいて、当審で作成した抄訳で示す。)。
(ア)「【請求項1】
UV-LED硬化インクジェットインクであって、その特徴は以下のとおりである:前記インクジェットインクは以下の重量百分率の成分を含む:
ポリエステルアクリレートプレポリマー3-15%;
ウレタンアクリレートプレポリマー3-15%;
活性モノマー60-80%
顔料1-5%
光開始剤3-15%
助開始剤1-10%
リン酸エステル1-5%
分散剤3-15%;
助剤は0.1-3%である。」
「【請求項4】請求項1に記載のUV-LED硬化インクジェットインクであって、その特徴は以下のとおりである:前記活性モノマーは単官能活性モノマー、2官能活性モノマー及び多官能活性モノマーを含み、単官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の50-70%であり、2官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の10-40%であり、3官能又は多官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の0-20%である。」
(イ)「【0006】
金属缶にインクジェットデジタル印刷を行う時に、インクの金属及び金属被膜材料への付着要件を満たす必要があり、表面処理を行う必要があり、コーティング、コロナ又は火炎等の処理を行い、プロセスの複雑さを増加させ、コロナ及び火炎処理も表面の均一性に影響を与え、それにより印刷品質に影響し、インクに対してより高い要求を与え、同時に製品品質を向上させることができる。金属缶に食品飲料を入れる時に高温消毒を行う必要があり、インクは高温の煮沸性能を満たさなければならず、水煮後のパターンが脱落せず、亀裂がなく、インク上に一層の光油を広げると、水煮後も光沢度に影響せず、市場のニーズは下層処理のUV-LED硬化ONEPASS印刷インクジェットインクに影響を与えない。
【発明の開示】
【0007】
金属製缶の可変データ印刷等の工業用途を満たすために、本発明はUV-LED硬化インクジェットインク及びその製造方法を提供し、具体的にはUV-LED硬化ONEPASS印刷インクシリーズであり、インク中に有機溶剤が含まれず、グリーン環境保護特徴を有する;インクはUV-LED光源の照射下で瞬間的に硬化することができる;即ち、耐水煮である。」
「【0019】
従来技術に対して、本発明が提供するUVインクジェットインクは、有機溶剤を含有せず、環境保護の特徴を有する;インクはLEDランプの照射で瞬間的に硬化することができ、見掛けがべとつかず、迅速に印刷する必要がある;インクの円滑性が高い;硬度が適度で、耐スクラッヂ性に優れる;基材に付着する;耐水煮、金属製缶の可変データ印刷に用いられ、広い発展将来性を有する。」
(ウ)「【0020】
本発明のUV-LED硬化ONEPASS印刷インクシリーズはポリエステルアクリレートプレポリマー、ウレタンアクリレートプレポリマー、光開始剤及び開始剤、リン酸エステル、顔料、活性モノマー、分散剤及び助剤から構成され、各成分の詳細な説明及び製造方法は以下のとおりである:
1.ポリエステルアクリレートプレポリマー・・・
【0022】
ポリエステルアクリレートの市販品としては、サンドドール製のCN2302、CN2301、CN2303;ロング興ケミカル工業株式会社の6361-100及び6362-100等が挙げられる。」
(エ)「【0024】
2.ウレタンアクリレートプレポリマー
ウレタンアクリレートプレポリマーの巨大分子構造に同時にウレタンエステルおよびアクリル酸エステル構造単位を有し・・・。
【0025】
一般的にオリゴマーの分子量が大きいほど、粘度が高く、UVインクジェットインクの低粘度の要件を満たすために、ポリウレタンアクリレートの粘度が高くなりすぎず、ポリウレタンアクリレートプレポリマーの分子量が高すぎないため、一般的に分子量が5000以下である。
【0026】
ポリウレタンアクリレートの市販品としては、・・・Cognis社のPHOTOMERシリーズ(6010、6210、6891等を含む)・・・等が挙げられる。」
(オ)「【0034】
5.活性モノマー
活性モノマーはUVインクジェットインクの主要成分であり、添加量は60-80%の範囲であり、同時に活性モノマーの種類が多く、異なる種類の活性モノマーは異なる性能を有し、単官能活性モノマー、2官能活性モノマー、及び多官能活性モノマーを含む。」
「【0038】
本発明は以下の活性モノマー組み合わせを採用する:単官能活性モノマー30-70%;2官能活性モノマー10-30%;多官能活性モノマー0-20%。」
(カ)「【0039】
6.リン酸エステル
リン酸エステルは、金属との親和性を増大させることができ、UV系では、好ましくは炭素-炭素二重結合を含有するアクリレートであり、異なる構造のアクリル酸修飾アクリレー卜は、系適合性および安定性を向上させることができる。
【0040】
挙げることができるアクリル酸変性リン酸エステルは以下のとおりである:PAI1251 常州鴻卓化学工業;PM-2 日本化薬;PM-2 上海宝化工;HD-2 江蘇厚鼎化工;B-02、B-05 広州博興化工;1520、1530、1590、3000、3030と3060 広州精徳など。」
(キ)「【0054】
実施例・・・
【0056】
(5)鉛筆硬度の検出参照基準:GB/T9286-1998
ガラス基材を用いて、インク層を厚さが12μmの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させ、鉛筆硬度計で硬度検出を行う。・・・
【0063】
(8)耐水煮沸実験:アルミニウム板又は被覆鉄基材に、インク層を厚さ12μmの薄層に削り、UV-LED硬化機で、8W/cm2照射し、5S硬化させ、完全に硬化することを保証し、以上のインク層を厚さ4μmのUV光油の部分に削り、UV-LED硬化機は、8W/cm2の厚さにし、5S硬化させ、油の部分が脱落せず、しわが脱落せず合格する。・・・」
(ク)「【0064】
2.具体的な実施例・・・
【0069】
実施例5-8の色インク処方は表2に示すとおりである:
表2 色インク処方
[図:0001414154000001.jpg]
・・・」
イ 甲1に記載された発明
(ア)甲1は、「UV-LED硬化インクジェットインク」を開示する(上記ア(ア))ところ、その具体例である実施例6(上記ア(ク)の表2)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「PHOTOMER6010を6重量部、CN2302を3重量部、EM214を20重量部、EM210を20.5重量部、EM212を15重量部、EM326を5重量部、EM2251を10重量部、光開始剤EMKを3重量部、開始剤819を2重量部、光開始剤TPOを3重量部、EDABを2重量部、リン酸塩PM-2を3重量部、顔料185を2重量部、EFKA additives4310を5重量部、TEGORAD2500を0.5重量部配合した、UV-LED硬化インクジェットインク。」(以下、「甲1発明」という。)
(イ)また、甲1の【0056】(上記ア(キ))に、甲1発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」を含む実施例のインクを用いて、鉛筆硬度の検出を行うため、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものが記載されていることを踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ガラス基材を用いて、甲1発明のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層を厚さが12μmの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させたもの。」(以下、「甲1A発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「リン酸塩PM-2」は、甲1の【0039】及び【0040】(上記(1)ア(カ))の記載からみて、炭素-炭素二重結合を含有する、アクリル酸変性リン酸エステルであるから、本件発明3の「リン酸エステル基を有する重合性モノマー」に相当する。
(イ)甲1発明の「CN2302」は、甲1の【0022】(上記(1)ア(ウ))の記載からみて、ポリエステルアクリレートであるから、「不飽和結合を有」する「ポリエステル樹脂」である。
(ウ)甲1発明の「EM326」はポリエチレングリコール部分の繰り返し数nが9であるポリエチレングリコール(400)ジメタクリレートであり、「EM2251」はプロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートであって、いずれも甲1に記載の「2官能活性モノマー」に分類される(甲4の10頁目の表、上記(1)ア(オ))から、本件発明3の「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」に相当するところ、これらの「UV-LED硬化インクジェットインク」100重量部に対する含有量は、15重量部(=5重量部+10重量部)である。
なお、甲1発明の「PHOTOMER6010」は脂肪族ウレタントリアクリレートであるオリゴマーであるところ(上記(1)ア(エ)、甲8)、ウレタンアクリレートオリゴマーはモノマーとは区別されるものであるし(甲4の21~25頁)、甲1発明の「EM214」、「EM210」、「EM212」はいずれも単官能モノマーである(甲4の6頁)から、これらはいずれも本件発明3の「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」にあたらない。
(エ)甲1発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、「活性エネルギー線硬化型組成物」である。
そうすると、本件発明3と甲1発明とは、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、
不飽和結合を有するポリエステル樹脂、及び
分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを含有する、
活性エネルギー線硬化型組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
本件発明3では、不飽和結合を有するポリエステル樹脂が、「数平均分子量が3,000以下である」のに対して、甲1発明では、「CN2302」の数平均分子量が不明である点
【相違点2】
本件発明3では、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、「10質量%以下」であるのに対し、甲1発明では、2官能活性モノマーに分類される「EM326」及び「EM2251」の含有量が、UV-LED硬化インクジェットインク100重量部に対し「15重量部」である点
イ 検討
(ア)相違点1について
甲2には、以下の記載がある。
「ポリエステルアクリレートオリゴマー(CN2302、分子量Mw:1270、SARTOMER社製)」(【0030】)
ここで、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwに関し、Mn<Mwであることは技術常識であるから(甲3の460頁左欄23~38行)、CN2302の重量平均分子量が1270であれば、数平均分子量は1270よりも小さい、すなわち、3000以下であると推認される。
そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ)相違点2について
a 本件発明3における「前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が、10質量%以下である」は、「組成物全量に対して」の含有量(本件明細書の【0024】)であるところ、上記のとおり、甲1発明では、UV-LED硬化インクジェットインク中の2官能活性モノマーの含有量は、UV-LED硬化インクジェットインク100重量部に対し「15重量部」、すなわち、15重量%であるから、相違点2は実質的な相違点である。
b 次に、相違点2の容易想到性について検討する。
(a)甲1には、「活性モノマーはUVインクジェットインクの主要成分であり、添加量は60-80%の範囲」であること、「単官能活性モノマー30-70%;2官能活性モノマー10-30%;多官能活性モノマー0-20%」の組み合わせを採用すること(上記(1)ア(オ))、「単官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の50-70%であり、2官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の10-40%であり、3官能及び多官能活性モノマー重量含有量は活性モノマーの総量の0-20%である」こと(上記(1)ア(ア))が記載されているが、甲1に記載された「2官能活性モノマー及び多官能活性モノマー」の含有量は、「活性モノマーの総量」に対するものであり、「組成物全量」に対する「2官能活性モノマー及び多官能活性モノマー」の含有量には着目しておらず、「組成物全量」に対する「2官能活性モノマー及び多官能活性モノマー」の含有量を「10質量%以下」とする技術的意義が示されているとはいえない。また、甲1の表2の処方(上記(1)ア(ク))を含む実施例1~13の処方をみると、「組成物全量」に対する2官能活性モノマー及び多官能活性モノマーの合計含有量は、実施例6の15重量部(15重量%)が最低値であり、他の実施例は20重量部(20重量%)である。
以上の甲1の記載を踏まえると、甲1発明において、「EM326」及び「EM2251」の「組成物全量」に対する含有量を「15重量部」(15重量%)から減らし、「10質量%以下」とする動機付けがあるとはいえない。
(b)また、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0004】によれば、本件発明3は、「熱水やアルカリ性の溶液といった非常に過酷な条件下にさらされた後においても、優れた密着性を有する硬化物を形成することができる活性エネルギー線硬化型組成物を提供すること」を目的として、各成分の組成を特定したものであるところ、本件明細書の【0024】に、
「前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量としては、組成物全量に対して、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。前記分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーの含有量が25質量%以下であると、熱水やアルカリ性の溶液に浸漬させた後においても、硬化物と基材との密着性を非常に優れたものとすることができる」
と記載されるように、多官能モノマーの含有量を10質量%以下とすることが、上記課題の解決に寄与することも示されている。
そして、それらの効果は、本件明細書の実施例3、6~9、13~15(調製例3、6~9、13~15)において具体的に確認されている。
(c)他方、甲1の記載によれば、甲1発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、食品飲料等の金属製缶にインクジェットデジタル印刷を行う際の高温での煮沸性能を満たすことを課題としているものの(上記(1)ア(イ))、上記(a)のとおり、2官能活性モノマー及び多官能活性モノマーの含有量と当該課題との関係については記載も示唆もされておらず、また、甲1には、アルカリ性の溶液に対する密着性の問題及び効果についても記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1に記載された高温での煮沸性能の課題を解決するために又は「アルカリ性の溶液に浸漬させた後においても、硬化物と基材との密着性」を優れたものにするために、甲1発明において、多官能モノマーの含有量を10質量%以下とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明3と甲1発明との間には相違点2が存在し、相違点2に係る特定事項は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものともいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和6年4月30日付けの意見書において、以下のように主張する。
本件発明3における多官能モノマーの含有量を10質量%以下に訂正したとしても、甲1に開示されている「多官能活性モノマー0-20%」(【0038】)の範囲内であることから、本件発明3の新規性は依然として否定される。
仮に、本件発明3に新規性が認められる場合があったとしても、甲1の【0038】の示唆に基づく単なる設計事項に過ぎない。
さらにいえば、本件明細書の「実施例3」と「実施例4」では、いずれの評価項目においても「◎」(表9)となっているように、多官能モノマーの含有量を15質量%から10質量%に減量したとしても、進歩性を肯定するような効果は認められず、特許権者自身においても相対的に有利な効果が生じることを何ら論証していない。(意見書1~2頁(1))
(イ)検討
上記イ(イ)のとおり、甲1の【0038】に記載された「2官能活性モノマー及び多官能活性モノマー」の含有量は、「活性モノマーの総量」に対するものであり、「組成物全量」に対する含有量ではない上、本件発明3における「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマー」に該当するものとして、「多官能活性モノマー0-20%」だけでなく、「2官能活性モノマー10-30%」も記載されており、両者の「活性モノマーの総量」に対する合計量は「10-50%」になるから、「多官能活性モノマー0-20%」(【0038】)の開示に基づいて、相違点2が実質的な相違点でないということにはならないし、甲1発明における「15重量部」からその含有量を減らして、「10質量%以下」とすることが単なる設計事項に過ぎないともいえない。
また、申立人が主張するような、「15質量%」と比較した「10質量%」における「相対的に有利な効果」を検討するまでもなく、甲1の記載からは相違点2に係る特定事項に至る動機付けを見出せないが、上記イ(イ)で説示したように、本件発明3の効果は、本件明細書の実施例3、6~9、13~15(調製例3、6~9、13~15)において具体的に確認されており、また、多官能ポリマーの含有量が28質量%である実施例5に比べて、10質量%である実施例3の方が優れた評価を有することも示されている。
したがって、上記(ア)の主張は採用できない。
エ 本件発明3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明4~7について
本件発明4~7は、いずれも本件発明3を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)のとおり、本件発明3が甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明4~7のいずれも、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件発明8について
ア 対比
本件発明8と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「リン酸塩PM-2」は、上記(2)ア(ア)のとおり、炭素-炭素二重結合を含有する、アクリル酸変性リン酸エステルであるから、「リン酸エステル基を有する重合性モノマー」である。
(イ)甲1発明の「CN2302」は、上記(2)ア(イ)のとおり、「不飽和結合を有」する「ポリエステル樹脂」である。
(ウ)甲1発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、「活性エネルギー線硬化型組成物」である。
そうすると、本件発明8と甲1発明とは、
「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び
不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する、活性エネルギー線硬化型組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】
本件発明8では、不飽和結合を有するポリエステル樹脂が、「数平均分子量が3,000以下である」のに対して、甲1発明では、「CN2302」の数平均分子量が不明である点
【相違点4】
本件発明8では、リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、「分子内に3個の重合性官能基を有する多官能モノマー」であるのに対して、甲1発明ではこの点の記載がない点
イ 検討
上記(2)イ(ア)で相違点1について検討したように、相違点3は実質的な相違点ではないので、相違点4について検討する。
(ア)合議体が職権により引用する文献2の「ジ-2-メタクリロキシエチルフォスフェート(PM-2)」という記載(19頁左欄下から5行)を踏まえると、甲1発明の「リン酸塩PM-2」は、「2個の重合性官能基」を有するアクリル酸変性リン酸エステルであるといえるから、相違点4は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点4の容易想到性について検討する。
a 甲1には、「挙げることができるアクリル酸変性リン酸エステルは以下のとおりである:PAI1251 常州鴻卓化学工業;PM-2 日本化薬;PM-2 上海宝化工;HD-2 江蘇厚鼎化工;B-02、B-05 広州博興化工;1520、1530、1590、3000、3030と3060 広州精徳など」(上記(1)ア(カ)の【0040】)と記載され、「PM-2」以外にも複数の製品が列挙されている。
ここで、甲5はその最下行に「広州精徳化学材料有限公司」との記載がみてとれることから広州精徳化学社のホームページであると認められるところ、「リン酸エステル機能性モノマー」として「PM3000、PM3030、PM3060」を挙げ、いずれも「多官能酸性アクリレート」と記載する。さらに、甲5の「PM3000」の箇所には「CD9051」と記載されているところ、リン酸エステルである多官能酸性アクリレートである「CD9051」としては、サートマー社製の「CD9051」が知られており(甲6、甲7【0025】)、当該「CD9051」は「3官能」である(甲6)。
そうすると、上記製品のうち、少なくとも、「3000」「広州精徳」と称される製品については、サートマー社製の「3官能」である「CD9051」と同一のものであると推認され、上記製品の中に、「3個の重合性官能基」を有する製品が含まれているといえる。
b しかし、甲1では、「アクリル酸変性リン酸エステル」の官能基数に着目しておらず、3個の重合性官能基を有することの技術的意義が記載されていないことに加え、「3個の重合性官能基」を有する「アクリル酸変性リン酸エステル」を配合した具体例の記載もないから、上記製品の中から、実施例でその効果が確認されていない「3個の重合性官能基」を有する「アクリル酸変性リン酸エステル」を選び出し、相違点4に係る特定事項に至る動機付けがあるとはいえない。
c また、本件明細書の【0004】によれば、本件発明3は、「熱水やアルカリ性の溶液といった非常に過酷な条件下にさらされた後においても、優れた密着性を有する硬化物を形成することができる活性エネルギー線硬化型組成物を提供すること」を目的として、各成分の組成を特定したものであるところ、本件明細書の【0013】に、
「また、前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーであることが好ましく、分子内に3個の重合性官能基を有する前記多官能モノマーであることが更に好ましい。
前記リン酸エステル基を有する重合性モノマーが、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーであると、熱水やアルカリ性の溶液に浸漬させた後における、前記組成物の硬化物と基材との密着性をより優れたものとすることができる。」
と記載されるように、リン酸エステル基を有する重合性モノマーを分子内に3個の重合性官能基を有する前記多官能モノマーとすることが、上記課題の解決に寄与することも記載されている。
そして、それらの効果は、本件明細書の実施例7~10、13~15(調製例7~10、13~15)において具体的に確認されており、特に、実施例8(調製例8)には、「SR9051NS(3官能モノマー)」を「3.0質量%」含有することによって、実施例6(調製例6)等のような、「SR9050NS(単官能モノマー)」を「5.0質量%」を含有する場合よりも少ない含有量で、熱水浸漬後の密着性、アルカリ性の溶液浸漬後の密着性及び吐出安定性について、優れた効果(◎の評価)が得られることが示されている。
d 他方、甲1の記載によれば、甲1発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、食品飲料等の金属製缶にインクジェットデジタル印刷を行う際の高温での煮沸性能を満たすことを課題としているものの(上記(1)ア(イ))、上記bのとおり、官能基数について何ら説明がなく、官能基数と上記課題との関係について記載も示唆もされておらず、また、甲1には、アルカリ性の溶液に対する密着性の問題及び効果についても記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1に記載された高温での煮沸性能の課題を解決するために又は「アルカリ性の溶液に浸漬させた後においても、硬化物と基材との密着性」を優れたものにするために、甲1発明において、「アクリル酸変性リン酸エステル」として、「3個の重合性官能基」を有するものを採用することを、当業者が容易に想到し得たともいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明8と甲1発明との間には相違点4が存在し、相違点4に係る特定事項は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものともいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和6年4月30日付けの意見書において、以下のように主張する。
甲1の【0039】及び【0040】には、金属基材との密着性に優れるアクリル酸変性リン酸エステルの具体的な製品として数例が記載されているのみであり、甲1発明において、「リン酸塩PM-2」に代えて「3000」「広州精徳」と称される製品、すなわち、分子内に3個の重合性官能基を有する多官能モノマーを使用するようにしたことは当業者にとって容易であるし、仮に、上記製品が3官能ではないとしても、UV-LED硬化インクジェットインクにおいて、硬化成分として配合する重合性モノマーの官能基数は当業者が所望により適宜選択しうるものである。
しかも、本件明細書には、「分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能モノマーであることが好ましい」(【0024】)と記載されているのみであり、「2個以上」と「3個」との相違点による効果の差は何ら記載されておらず、本件明細書の実施例・比較例においてもその効果の差は何ら実証されていない。(意見書2~4頁(2))
(イ)検討
上記イ(イ)で述べたとおり、甲1には、「アクリル酸変性リン酸エステル」の官能基数について何ら説明がなく、「3個の重合性官能基」を有する「アクリル酸変性リン酸エステル」を配合した具体例の記載もないから、甲1の【0040】に挙げられた製品の中に、「3個の重合性官能基」を有する製品が含まれるとしても、実施例でその効果が確認されていない「3個の重合性官能基」を有する「アクリル酸変性リン酸エステル」を選び出し、相違点4に係る特定事項に至る動機付けがあるとはいえない。
また、本件発明8の効果についても、上記イ(イ)cで述べたとおりである。
したがって、上記(ア)の主張は採用できない。
エ 本件発明8についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)本件発明9について
本件発明9は、本件発明3~8を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)~(4)のとおり、本件発明3~8が甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明9も、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(6)本件発明10~17について
ア 本件発明10は、本件発明3~9のいずれかの活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物に係るものであり、本件発明11は、本件発明10の活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有するインクジェット用インク組成物に係るものである。
本件発明12は、本件発明3~9のいずれかの活性エネルギー線硬化型組成物、本件発明10の活性エネルギー線硬化型インク組成物及び本件発明11のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかが収容されている組成物収容容器に係るものであり、本件発明13は、本件発明12の組成物収容容器と、活性エネルギー線を照射する照射手段とを有する2次元又は3次元の像形成装置に係るものである。
本件発明14は、本件発明3~9のいずれかの活性エネルギー線硬化型組成物、本件発明10の活性エネルギー線硬化型インク組成物及び本件発明11のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかに、活性エネルギー線を照射する照射工程を含む2次元又は3次元の像形成方法に係るものである。
本件発明15は、本件発明3~9のいずれかの活性エネルギー線硬化型組成物、本件発明10の活性エネルギー線硬化型インク組成物及び本件発明11のインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかを硬化させてなる硬化物に係るものであり、本件発明16は、本件発明15の硬化物を有し、前記基材上に前記硬化物からなる表面装飾を有する加飾体に係るものであり、本件発明17は、本件発明16において、前記基材の形状が円筒形であることを特定したものである。
イ そうすると、本件発明10~17は、いずれも本件発明3~9を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)~(5)のとおり、本件発明3~9が甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明10~17のいずれも、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(7)本件発明18について
ア 対比
本件発明18と甲1A発明とを対比する。
(ア)甲1A発明における「甲1発明のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層」の構成成分である「リン酸塩PM-2」、「CN2302」は、上記(2)ア(ア)及び(イ)のとおり、それぞれ、「リン酸エステル基を有する重合性モノマー」、「不飽和結合を有」する「ポリエステル樹脂」に相当し、「甲1発明のUV-LED硬化インクジェットインク」は、「活性エネルギー線硬化型組成物」、「活性エネルギー線硬化型インク組成物」又は「インクジェット用インク組成物」であるといえる。そして、甲1A発明における「UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させたもの」は、「甲1発明のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層」を硬化させたものであることが明らかである。
そうすると、甲1A発明における「甲1発明のUV-LED硬化インクジェットインクのインク層を厚さが12μmの薄層に掻き取り、UV-LED硬化機で、8W/cm2に照射し、5S硬化させ、完全に硬化させたもの」は、本件発明18における「リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有するインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかの硬化物」に相当する。
(イ)甲1A発明における「ガラス基材」は、本件発明18の「ガラス板」に相当し、甲1A発明は、当該「ガラス基材」に、甲1発明のインク層の薄層を設け、硬化させたものであるから、「積層体」であるといえる。
そうすると、本件発明18と甲1A発明とは、
「ガラス板と、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物、
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物、及び
リン酸エステル基を有する重合性モノマー、及び不飽和結合を有するポリエステル樹脂を含有する活性エネルギー線硬化型組成物を含有する活性エネルギー線硬化型インク組成物を含有するインクジェット用インク組成物の少なくともいずれかの硬化物と、
を積層して有することを特徴とする積層体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点5】
本件発明18では、不飽和結合を有するポリエステル樹脂が、「数平均分子量が3,000以下である」のに対して、甲1A発明では、「CN2302」の数平均分子量が不明である点
【相違点6】
本件発明18では、ガラス板と、所定の硬化物と、「樹脂フィルムと、をこの順に積層」して有するのに対し、甲1A発明では、「樹脂フィルム」の層を有しない点
イ 検討
上記(2)イ(ア)で相違点1について検討したように、相違点5は実質的な相違点ではないので、相違点6について検討する。
(ア)甲1の【0056】(上記ア(キ))には、甲1発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」を含む実施例のインクを用いて、鉛筆硬度の検出試験を行うために、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものが記載されているに過ぎず、さらに「樹脂フィルム」の層を設けることは記載されていないから、相違点6は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点6の容易想到性について検討する。
a 上記(ア)に示した、鉛筆硬度の検出試験を行うために、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものである甲1A発明に、さらに「樹脂フィルム」を積層することを、当業者が容易になし得たとはいえない。
b また、甲1の【0056】以外の記載によると、甲1A発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、食品飲料等の金属製缶にインクジェットデジタル印刷を行う際の高温での煮沸性能を満たすことを課題とすることが記載されているように(上記(1)ア(イ))、食品飲料等の金属製缶にインクジェットデジタル印刷を行う用途が想定されているものの、甲1A発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」の硬化物の層を、「ガラス板」と「樹脂フィルム」との間に設けた積層体とすることについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1の他の記載を考慮したとしても、甲1A発明において、さらに「樹脂フィルム」の層を設けることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
c(a)次に、申立人が周知技術を示す文献として挙げた甲9~甲11について検討する。
甲9には、「軟包装フィルム,テキスタイルなどのこれまではインクジェット印刷が難しかった基材への印刷が可能」となっていることが記載され、「合成皮革への加飾に適した新しいインクジェット技術「UVIQUE(R)」」(当審注:「(R)」は、○の中にR。以下同じ)について解説されており(296頁左欄13~21行)、図3には、「UVIQUE(R)各インクの特徴と使用可能方式」、図4には、「合成皮革への印刷時の各種インクジェットインクの比較」、図5には、「印刷合成皮革の製造プロセスと後印刷時の印刷方式による性能比較」が記載されている。
甲10には、「印刷体としてのラベルを構成するラミネートフィルムであって、紫外線硬化型のインクジェットインクを用いて形成された印刷部を有する被着体であるラベル本体の前記印刷部を被覆するもの・・・」(請求項1)が記載されており、【0071】~【0074】には、当該被着体を構成する印刷基材は、各種樹脂材料等であること、【0115】には、「紫外線硬化型のインクジェットインクを、ポリエチレンテレフタレート(PET製)のフィルムの全面にベタ印刷し、紫外線を照射することにより硬化させた」ことも記載されている。
甲11には、「(A)インク組成物を用いてインクジェット方式により支持体上に画像を形成する工程、
(B)得られた画像に活性放射線を照射して前記インク組成物を硬化する工程、
(C)得られた画像上にコーティング加工又はラミネート加工する工程、及び、
(D)コーティング加工又はラミネート加工した画像を支持体と共にインサートモルディング加工する工程を含むことを特徴とする成形印刷物の製造方法」(請求項1)が記載されており、【0156】には、当該支持体として、ポリエチレン等の各種樹脂が例示されている。
(b)しかし、上記(a)のとおり、甲9~甲11には、合成皮革やラミネートフィルムへの紫外線硬化型のインクジェットインクを用いた印刷について記載されているに過ぎず、上記bに示した甲1の課題及び用途とは異なるものであり、また、鉛筆硬度の検出試験を行うために、ガラス基材にインク層の薄層を設け、硬化させたものに、さらに「樹脂フィルム」の層を設けることが記載又は示唆されているともいえない。
そうすると、甲9~甲11の記載を踏まえても、甲1A発明において、さらに「樹脂フィルム」の層を設けることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
d(a)そして、本件明細書の【0010】には、以下の記載がある(下線は当審による。)。
「【0010】
本発明者らが鋭意検討したところ、リン酸エステル基を有する重合性モノマーと、ポリエステル樹脂とを組成物中に含ませることにより、熱水やアルカリ性の溶液による処理などの非常に過酷な条件で処理した後においても、優れた密着性を有する硬化物を形成できる活性エネルギー線硬化型組成物が得られることを見出した。
この理由については、定かではないが、以下のことが推測される。
例えば、ガラスのような非浸透性基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を付与した際、組成物は基材中に浸透せず、その硬化物と基材との密着性は低くなる傾向にある。
しかしながら、リン酸エステル基を有する重合性モノマーを用いることにより、リン酸エステル基部分が、基材を溶解して基材と組成物との相互作用を発現し、組成物の硬化物と基材との非常に高い密着性を発現することができると考えられる。
また、ポリエステル樹脂を用いることによっても高い密着性を発現し、ポリエステル構造と類似のエステル構造を持つリン酸エステル基を有する重合性モノマーとの親和性も高いと考えられ、基材上に形成される硬化物自体も強固になり、硬化物の凝集破壊も抑制することができると考えられる。
基材と硬化物との密着性の低下には、例えば、基材上に形成した硬化物を熱水やアルカリ性の溶液等に浸漬させた場合、基材と硬化物との界面や、硬化物の内部に熱水やアルカリ性の溶液が浸漬することで著しい密着性の低下に繋がると考えられる。
しかしながら、リン酸エステル基を有する重合性モノマーと、ポリエステル樹脂と、を組成物中に含有させることにより、基材との相互作用や硬化物の強度を非常に優れたものとすることができ、基材と硬化物との界面や、硬化物の内部に熱水やアルカリ性の溶液が入り込むことを抑制し、熱水やアルカリ性の溶液に浸漬させた後においても非常に優れた密着性を発現することができると考えられる。・・・」
すなわち、本件明細書の【0010】には、「ガラスのような非浸透性基材」上に活性エネルギー線硬化型組成物を付与した際には、硬化物と基材との密着性は低くなる傾向にあるが、「リン酸エステル基を有する重合性モノマーと、ポリエステル樹脂と、を組成物中に含有」させることにより、「基材との相互作用や硬化物の強度を非常に優れたものとすることができ、基材と硬化物との界面や、硬化物の内部に熱水やアルカリ性の溶液が入り込むことを抑制し、熱水やアルカリ性の溶液に浸漬させた後においても非常に優れた密着性を発現することができると考えられる」ことが記載されている。
(b)また、本件明細書の【0069】には、以下の記載がある。
「【0069】
(積層体の密着性)
ポリエステルフィルム(A4360、厚み:75μm、東洋紡株式会社製)上に、調製した活性エネルギー線硬化型組成物を、硬化後の平均厚みが10μmとなるように基材の幅方向(塗布方向に対して垂直な方向)全面の領域に塗布した。次に、塗布した活性エネルギー線硬化型組成物の上に、ガラス板(G-leaf、日本電気硝子株式会社製)を重ねた後、LED照射装置(365nm、3000mJ/cm2、Heraeus社製)にてLEDを照射し、積層体を作成した。
作成した積層体において、ポリエステルフィルムの端部に切れ目を入れ、そこからポリエステルフィルムを手で引っ張って剥がし、以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:容易に剥がすことができない
×:容易に剥がれる
【0070】
【表10】
[図:0001414154000002.jpg]
」
すなわち、本件明細書の実施例24~30には、「積層体の密着性」を確認するために、「樹脂フィルム」であるポリエステルフィルムに、調製した「活性エネルギー線硬化型組成物」を塗布し、その上に、「ガラス板」を重ねてLEDを照射し、「積層体」を作成したこと、当該「積層体」のポリエステルフィルムの端部に切れ目を入れ、そこからポリエステルフィルムを手で引っ張った際に、容易に剥がれるか否かを確認し、実施例24~30においては、「○:容易に剥がすことができない」という効果を確認したことが記載されている。
(c)上記(a)及び(b)に示したように、本件明細書には、本件発明18の「ガラス板」と、所定の硬化物と、「樹脂フィルム」と、をこの順に積層して有する積層体において、リン酸エステル基を有する重合性モノマーと所定のポリエステル樹脂とを組成物中に含有させることにより、当該積層体が優れた密着性を有するという技術的意義があることが記載され、その効果が具体的に確認されている。
e 他方、上記bのとおり、甲1A発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」は、食品飲料等の金属製缶にインクジェットデジタル印刷を行う際の高温での煮沸性能を満たすことを課題とすることが記載されているものの、甲1A発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」の硬化物の層を、「ガラス板」と「樹脂フィルム」との間に設けた積層体とすることについては記載も示唆もされておらず、上記cの甲9~甲11の記載を考慮しても、甲1A発明において、ガラス板と、所定の硬化物と、「樹脂フィルムと、をこの順に積層」して有することにより、優れた密着性を有するものが得られることについて、当業者が予測することができたとはいえない。
(オ)小括
したがって、本件発明18と甲1A発明との間には相違点6が存在し、相違点6に係る特定事項は、甲1A発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものともいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和5年10月24日付け意見書において、以下のように主張する。
インクジェットインクの硬化層と樹脂フィルムとを積層することについては、甲9~11に記載されているとおり技術常識であり、周知の技術であって、甲1発明のUV-LED硬化インクジェットインクを樹脂フィルム上に積層するという当該周知技術の適用の動機付けがあることから、本件発明18は、甲1発明に対して進歩性を有しない。
(イ)検討
甲9~11については、上記イ(イ)cで説示したとおりであり、たとえ、インクジェットインクの硬化層と樹脂フィルムとを積層することが周知技術であったとしても、鉛筆硬度の検出試験に用いるガラス基材に、インク層の薄層を設け、硬化させたものに、さらに「樹脂フィルム」を積層することは当業者が容易になし得たとはいえないし、その他の甲1の記載及び甲9~11の記載を考慮しても、甲1A発明の「UV-LED硬化インクジェットインク」の硬化物の層を、「ガラス板」と「樹脂フィルム」との間に設けた積層体とすることについては記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、上記(ア)の主張は採用できない。
(8)取消理由及び申立理由についてのまとめ
よって、本件発明3~18は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1、申立理由2、取消理由1及び取消理由2のいずれによっても、本件特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項3~18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項1、2は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てにおける請求項1、2に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700207