特許異議申立
2025-701083
感熱記録層形成液、感熱記録媒体及びその製造方法、並びに画像記録方法
- 審判番号
- 2025-701083
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-047167
- 登録番号
- 7679658
- 請求日
- 2025年11月19日
- 審決日
- 2026年03月27日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】弁理士法人ITOH
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【異議申立人】片岡 愛
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 外川 敬之
- 審判官 川村 大輔
- 分類
- P1651.121-Y (B41M) / P1651.536-Y (B41M) / P1651.537-Y (B41M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第2条、特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7679658号発明「感熱記録層形成液、感熱記録媒体及びその製造方法、並びに画像記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7679658号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7679658号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願(特願2021-47167)は、令和3年3月22日の出願であって、令和7年5月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年11月19日に特許異議申立人 片岡 愛(以下「申立人」という。)から請求項1~14に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらを総称して本件特許発明という。)は、特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
支持体と、前記支持体上に感熱記録層とを有する感熱記録媒体であって、
前記感熱記録層が、下記一般式(1)で表される化合物、及びスチレン-アクリル樹脂を含有することを特徴とする感熱記録媒体。
【化1】
[図:0001434195000001.jpg]
ただし、前記一般式(1)中、R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子で置換された炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。A1は、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。複数のA1は、同じであっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の感熱記録媒体。
【化2】
[図:0001434195000002.jpg]
ただし、前記一般式(2)中、R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子で置換された炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。
【請求項3】
前記一般式(2)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物である、請求項2に記載の感熱記録媒体。
【化3】
[図:0001434195000003.jpg]
ただし、前記一般式(3)中、Rはアルキル基を表し、nは0~3の整数を表す。
【請求項4】
前記感熱記録層が光熱変換材料を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項5】
前記支持体がプラスチックフィルムである、請求項1から4のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項6】
前記支持体が透明フィルムである、請求項1から5のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項7】
前記感熱記録層上に保護層を有する、請求項1から6のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項8】
前記支持体と前記感熱記録層の間、及び前記支持体の前記感熱記録層とは反対側の面、前記支持体と前記感熱記録層上のいずれかに印刷層を有する、請求項1から6のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項9】
下記一般式(1)で表される化合物、スチレン-アクリル樹脂、及び溶媒を含有することを特徴とする感熱記録層形成液。
【化4】
[図:0001434195000004.jpg]
ただし、前記一般式(1)中、R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子で置換された炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。A1は、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。複数のA1は、同じであっても異なっていてもよい。
【請求項10】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項9に記載の感熱記録層形成液。
【化5】
[図:0001434195000005.jpg]
ただし、前記一般式(2)中、R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子で置換された炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。
【請求項11】
前記一般式(2)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物である、請求項10に記載の感熱記録層形成液。
【化6】
[図:0001434195000006.jpg]
ただし、前記一般式(3)中、Rはアルキル基を表し、nは0~3の整数を表す。
【請求項12】
支持体上に請求項9から11のいずれかに記載の感熱記録層形成液を付与し、感熱記録層を形成する感熱記録層形成工程を含むことを特徴とする感熱記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれかに記載の感熱記録媒体にレーザー光を照射して画像を記録することを特徴とする画像記録方法。
【請求項14】
請求項1から8のいずれかに記載の感熱記録媒体にサーマルヘッドを用いて画像を記録することを特徴とする画像記録方法。」
第3 申立人が提出した証拠方法及び申立理由
1 申立人が提出した証拠方法
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として、以下に示す甲第1号証~甲第16号証(以下、甲第1号証~甲第16号証を、それぞれ「甲1」~「甲16」という。)を提出した。
甲1:国際公開第2019/044462号
甲2:特開平11-115317号公報
甲3:特開2000-52661号公報
甲4:特開2003-103929号公報
甲5:国際公開第2009/028118号
甲6:特開2007-307781号公報
甲7:特開平1-209188号公報
甲8:特開平7-266709号公報
甲9:特開2011-56804号公報
甲10:特開2017-124537号公報
甲11:BASFジャパン(株)、「JONCRYL(R)スチレン/アクリル系エマルジョン」、機能性材料総覧2011-モノ作りに役立つ機能性付与素材・材料百科-、加工技術研究会、2011年3月発行、54頁
甲12:日信化学工業(株)、「ビニブランアクリル系エマルジョン」、機能性材料総覧2011-モノ作りに役立つ機能性付与素材・材料百科-、加工技術研究会、2011年3月発行、43頁
甲13:ガンツ化成株式会社、「ガンツ化成[製品一覧表]」、2006年7月作成
甲14:ヘンケルジャパン株式会社、「Solution Provider 機能性高分子エマルジョン」、2011年5月24日入手
甲15:星光PMC株式会社樹脂事業部、「製品カタログ PRODUCT GUIDE」、2020年1月初版発行
甲16:サイデン化学株式会社、「防湿コート剤 一般紙コート剤 サイビノール EK-61」、2002年5月17日作成
(当合議体注:甲11のマルアールマークは、便宜上、「(R)」に置換した。)
2 申立理由の概要
申立人は、概略、下記(1)~(4)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1~14は、甲1に記載された発明と甲2~16の記載事項から当業者が容易に想到できたものである(申立書7~67頁)。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~14を実施できるように明確かつ十分に記載されたものではない(申立書67~68頁)。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許発明1~14は、発明の詳細な説明に記載したものではない(申立書69頁)。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許発明1~14は、明確ではない(申立書69~70頁)。
第4 当合議体の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)甲1の記載事項及び甲1記録材料発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が認定・判断において活用した箇所を示す。
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、N,N’-ジアリール尿素誘導体、その製造方法及びそれを顕色剤として用いた感熱記録材料に関するものである。
本願は、2017年8月31日に日本に出願された特願2017-167444号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
背景技術
[0002] 一般に、感熱記録材料は常温で無色ないし淡色の塩基性染料と有機顕色剤とをそれぞれ微細な粒子に粉砕分散した後、両者を混合し、これと増感剤、バインダー、滑剤、その他各種添加剤等を添加して得た塗工液を、紙、プラスティックフィルム、加工紙等の支持体上に塗工して感熱記録層を形成したものであり、感熱ヘッド、熱ペン等の熱エネルギーを加えることにより発色記録を得るようにした感熱記録材料がすでに広く実用化されている。更にレーザー光を吸収して熱に変換する光変換物質を含有した感熱記録材料についても普及している。
[0003] このような感熱記録材料は、比較的簡単な装置で記録画像が得られ、保守が容易なこと、騒音が発生しないこと等の利点があり、計測記録計、ファクシミリ、各種プリンター、ラベル印字機、乗車券、チケットの発券機等の広範囲な分野に利用されている。
[0004] その感熱記録材料に求められる性能として、未印字部の白色度と種々の環境条件における未印字部の白色度、印字部の発色濃度とその印字部の保存性などが挙げられる。特に印字部の保存性に関しては、種々の試験、例えば耐湿熱性、耐水性、耐光性、耐油性および耐可塑剤性等が求められる。
・・・略・・・
発明が解決しようとする課題
・・・略・・・
[0010] 更に近年は4,4’-イソプロピリデンジフェノールや4,4’-ビスフェノールスルホンなどは、環境ホルモンや変異原性などの環境衛生上の問題が指摘されているため、これらの問題のない非フェノール系顕色剤が求められているのが実情である。
[0011] 本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、発色濃度、白色度、および印字部の保存性などの感熱記録材料としての要求性能を満足し、かつ環境衛生上の懸念となるフェノール化合物を含まないN,N’-ジフェニル尿素誘導体およびその製造方法、及びそれを顕色剤として用いた感熱記録材料を提供する。
・・・略・・・
発明を実施するための形態
・・・略・・・
[0140] 本発明の感熱記録材料の感熱記録層は、例えば、前記塩基性染料と前記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるN,N’-ジアリール尿素誘導体を微細な粒子に粉砕分散し、バインダー、増感剤、充填剤、滑剤、その他各種添加剤等を添加して得た塗工液を調製し、これを紙、プラスティックフィルム、加工紙等の支持体上に塗工して形成される。
・・・略・・・
[0149] また、本発明の感熱記録材料の感熱記録層において、必要に応じ助剤を使用することができ、助剤としては、例えばジオクチオルコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、脂肪酸金属塩等の分散剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムおよび高級脂肪酸金属塩、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、パラフィン、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、カスターワックス、エステルワックス等のワックス類、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、グリオキザール、ホウ酸、ジアルデヒドスターチ、メチロール尿素、グリオキシル酸塩、エポキシ系化合物等の耐水化剤、消泡剤、着色染料、蛍光染料、および顔料等が挙げられる。
[0150] 本発明で感熱記録層に使用されるバインダーとしては、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類、カゼイン、ゼラチン、完全(または部分)鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール、アミド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレンーブタジエン共重合体樹脂ならびに、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルアミド樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ビニルブチラール・スチロールおよびそれらの共重合体樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、クロマン樹脂などが挙げられる。これらのバインダーは単独または2種以上を使用でき、溶剤に溶解して使用するほか、水または他の媒体中に乳化あるいはペースト状に分散した状態で使用することもできる。
・・・略・・・
[0152] 本発明において感熱記録層に使用される塩基性染料、顕色剤、増感剤、バインダー、顔料およびその他助剤等の添加剤の種類や使用量は、感熱記録層に要求される品質性能に応じて適宜決定される。
・・・略・・・
[0154] 更に、増感剤はロイコ染料1部に対し0.2~4質量部、バインダーは全固形分中5~50質量%が適当である。支持体としては、紙、再生紙、合成紙、プラスティックフィルム、不織布、金属箔等が使用可能である。また、これらを組み合せた複合シートも使用可能である。
・・・略・・・
[0156] 本発明において感熱記録層に使用される塩基性染料、顕色剤、増感剤および必要により保存安定剤等は、例えば水を分散媒体として、ボールミル、アトライター、サンドミル等の攪拌粉砕機によって平均粒子径が2μm以下になるように微分散され使用される。
このように微分散された分散液に、必要により顔料、バインダー、助剤等を混合撹拌することで感熱記録層塗料を調整される。
・・・略・・・
[0167] 感熱記録層上に、成膜性を有するバインダーを主成分とする保護層を設けてもよい。保護層用塗料は、例えば水を媒体とし、バインダー成分、顔料、及び、更に必要により助剤とを混合攪拌して調整される。」
(イ)「実施例
・・・(略)・・・
[0201] 顕色剤のなかには、水との反応により分解して本来の顕色能が損なわれるおそれがある場合がある。本発明の合成物の水に対する安定性(すなわち、耐水分解性)を確認するため、アセトニトリルと水との混合液(アセトニトリル/水=80/20)に合成物を0.5%溶解して50℃/5時間攪拌して、分解量を嶋津製作所製高速液体クロマトグラフィー(検出波長:205nm)で測定した。
分解量が10%以上あれば耐水分解性を×、1%以下であれば耐水分解性を〇とした。
[0202] 下記操作により感熱記録材料を作製した。
[0203] [アンダーコート用塗料の作成]
プラスチック中空粒子(商品名:ローペイクSN-1055:中空率:55% 固形分26.5%)100部、焼成カオリンの50%分散液100部、スチレン-ブタジエン系ラテックス(商品名:L-1571 固形分48%)25部、酸化澱粉の10%水溶液50部および水20部を混合して、アンダーコート用塗料を作成した。
[0204](実施例1)
[感熱記録用塗料の作成]
A液(染料分散液の調製)
3-(N,N-ジブチルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン 10部
10%ポリビニルアルコール水溶液 10部
水 16.7部
[0205] B液(顕色剤分散液の調製)
N,N’-ジ-[3-(p-トルエンスルホニルオキシ)フェニル]尿素(合成例1) 20部
10%ポリビニルアルコール水溶液 20部
水 33.3部
[0206] C液(増感剤分散液の調製)
1,2-ビス(m-トリルオキシ)エタン 15部
10%ポリビニルアルコール水溶液 15部
水 25部
[0207] 上記A液、B液およびC液の分散液をサンドグラインダーで平均粒子径が1μm以下になるまで粉砕し、下記割合で分散液を混合して塗布液とした。
A液(染料剤分散液) 36.7部
B液(顕色剤分散液) 73.3部
C液(増感剤分散液) 55.0部
[0208] 水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH-42)27部、無定形シリカ(商品名:ミズカシルP-527)10部、酸化澱粉の10%溶解物100部、ステアリン酸亜鉛分散液:(商品名:ハイドリンZ-8-36)19.4部および水50部からなる組成分を混合して感熱記録用塗料を作製した。
[0209][感熱記録材料の作成]
支持体として坪量が53gの上質紙(酸性紙)にアンダーコート用塗料を乾燥後の面積当たりの質量が6g/m2となるように塗布および乾燥し、その後、感熱塗料が乾燥後の面積当たりの質量が3.8g/m2になるように塗布乾燥した。
このシートをス-パーカレンダーで平滑度(JISP8155:2010)が900~1200sになるように処理して感熱記録材料を作成した。
[0210][各種試験]
1.感熱記録性試験(発色試験)
作成した感熱記録材料について、感熱記録紙印字試験機(大倉電気社製TH-PMD)を用い、印加エネルギー0.24mJ/dotおよび0.38mJ/dotで印加した。
記録部の印字濃度はマクベス反射濃度計RD-914で測定した。
感度試験に関しては印加エネルギー0.24mJ/dotの低エネルギー時の印字濃度で評価した。
[0211] 一方、下記の、耐熱性、耐湿熱性、耐光性、耐油性、耐水性および耐可塑剤性の保存性試験には印加エネルギー0.38mJ/dotで印加した印字部を使用した。
[0212]2.耐熱性試験
感熱記録性試験で印加エネルギー0.38mJ/dotで記録した感熱記録材料を試験温度60℃の恒温環境下に24時間放置した後、試験片の印字部画像濃度と未印字部の濃度をマクベス反射濃度計で測定した。
[0213]3.耐湿熱性試験
感熱記録性試験で印加エネルギー0.38mJ/dotで記録した感熱記録材料を試験温度40℃、90%RHの環境下に24時間放置した後、試験片の印字部画像濃度と未印字部の濃度をマクベス反射濃度計で測定した。
[0214]4.耐光性試験
感熱記録性試験で印加エネルギー0.38mJ/dotで記録した感熱記録材料を5000Luxに100時間暴露しその後、画像濃度をマクベス反射濃度計で測定した。
[0215]5.耐油性試験
感熱記録性試験で印加エネルギー0.38mJ/dotで記録した感熱記録材料にサラダオイル中に10分間浸漬しその後、試験片の油をふき取り、画像濃度をマクベス反射濃度計で測定した。
[0216]6.耐水性試験
感熱記録性試験で印加エネルギー0.38mJ/dotで記録した感熱記録材料を水中に15時間浸漬しその後、試験片を風乾させ、画像濃度と未印字部をマクベス反射濃度計で測定した。
[0217]7.耐可塑剤性試験
ポリカーボネートパイプ(48mmφ)上にラップフィルム(商品名:ハイラップKMA三井化学製)を3重に巻き付け、感熱記録性試験で印加エネルギー0.38mJ/dotで記録した感熱記録材料を乗せ、更にその上にラップフィルムを3重に巻き付け20℃65%RHの環境下で24時間放置し、その後、画像濃度と未印字部をマクベス反射濃度計で測定した。
結果を表1に示す。
・・・(略)・・・
[0240][表1]
[図:0001434195000007.jpg]
[0241][表2]
[図:0001434195000008.jpg]
」
(当合議体注:[表1]及び[表2]は、便宜上、時計回りに90°回転したものである。)
(ウ)「請求の範囲
[請求項1] 下記一般式(1)で表されるN,N’-ジアリール尿素誘導体。
[化1]
[図:0001434195000009.jpg]
(R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換または炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基又は炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。A1は、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基を表す。複数のA1は、同じであっても異なっていてもよい。)
[請求項2] 下記一般式(2)で表される、請求項1に記載のN,N’-ジアリール尿素誘導体。
[化2]
[図:0001434195000010.jpg]
(R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換または炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基又は炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。)
[請求項3] 下記一般式(3)で表される、請求項2に記載のN,N’-ジアリール尿素誘導体。
[化3]
[図:0001434195000011.jpg]
(式中、Rはアルキル基を表し、nは0~3の整数を表す。)
・・・略・・・
[請求項9] 常温で無色ないし淡色の塩基性染料と、加熱により該塩基性染料と接触して呈色し得る顕色剤とを含有する感熱記録層を支持体上に設けた感熱記録材料であって、前記顕色剤が、請求項1~3のいずれかに記載のN,N’-ジアリール尿素誘導体である感熱記録材料。」
イ 甲1に記載された発明
上記1(ウ)によれば、甲1には、請求項1を引用する請求項9に係る発明として次の「感熱記録材料」の発明(以下「甲1記録材料発明」という。)が記載されていると認められる。
「常温で無色ないし淡色の塩基性染料と、加熱により該塩基性染料と接触して呈色し得る顕色剤とを含有する感熱記録層を支持体上に設けた感熱記録材料であって、前記顕色剤が、下記一般式(1)で表されるN,N’-ジアリール尿素誘導体である感熱記録材料。
[化1]
[図:0001434195000012.jpg]
(R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換または炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基又は炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。A1は、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基を表す。複数のA1は、同じであっても異なっていてもよい。)」
また、甲1の[0156]の記載によれば、甲1記録材料発明の「感熱記録層」は、塩基性染料、顕色剤である「一般式(1)で表されるN,N’-ジアリール尿素誘導体」等を、例えば水を分散媒体として微分散し、微分散された分散液に、必要により顔料、バインダー、助剤等を混合撹拌することで調整した、感熱記録層塗料を用いて形成したものであり、当該感熱記録層塗料を、以下「甲1感熱記録層塗料発明」という。
(2)甲6、7の記載事項及び甲6、7に基づく周知技術の認定
ア 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、無色又は淡色の塩基性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層を設けた感熱記録体において、該感熱記録層が更にガラス転移点50℃以上かつ最低造膜温度20℃以下のスチレン-アクリル樹脂を含有することを特徴とする感熱記録体。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
この発明は、十分な発色感度と耐スティック性を有し、耐水性及び保管時の発色防止性に優れた感熱記録体に関する。
・・・略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、感熱記録体の耐水性などの膜性能を改善するために様々な方法が採られてきたが、十分ではなかった。
例えば、感熱記録層やその保護層にポリビニルアルコールやデンプンなどの水溶性高分子を用いると(特許文献1)、最低造膜温度が低く、かつガラス転移温度も高いが、水溶性高分子自体が水酸基を有しているため十分な耐水性を得ることができない。
さらに、感熱記録層にアクリル樹脂とコロイダルシリカを含有させ、見かけ上の最低造膜温度とガラス転移温度をコントロールした場合(特許文献2、3)、コロイダルシリカ自体が有している活性の影響で、保存時に感熱記録層に含有されている染料や顕色剤と反応するため、白紙部が着色する。
そこで、本発明は、十分な発色感度と耐スティック性を有し、耐水性及び保管時の発色防止に優れた感熱記録体、特に感熱記録層上に保護層を設ける必要のない感熱記録体を提供することを目的とする。
【0005】
本発明においては、まず感熱記録体の耐水性などの膜性能を改善するためにアクリル系樹脂を用いることを考えた。一般に、アクリル系樹脂を感熱記録層に用いると、耐水性は改善されるが、耐スティック性などの膜性能が不十分になる。この問題を解決するために、感熱記録層に最低造膜温度の高い樹脂を含有させると、十分に造膜せず十分な耐水性が得ることができない。
これらの相反する問題を解決するために、本発明においては、感熱記録層に特定性能を持つスチレン-アクリル樹脂を含有させ、感熱記録層の耐水性と耐スティック性などの膜性能をバランスよく改善することを試みた。
感熱記録体は、製造時の発色を防止するため、通常感熱記録体の最高温度が60℃になるように乾燥をコントロールして製造されている。そのため、60℃程度で十分に造膜するような最低造膜温度(MFT)が低い樹脂を使用することが好ましい。
また一般に最低造膜温度とガラス転移温度(Tg)とは相関するので、感熱記録層に最低造膜温度が低い樹脂、即ちガラス転移温度の低い樹脂を含有させると、感熱記録プリンターのサーマルヘッドからの熱で、樹脂が軟化するため、スティッキングやヘッドカスが発生する。
しかし、本発明者らは、ガラス転移点が一定値以上かつ最低造膜温度一定値以下の特性を持つことのできるスチレン-アクリル樹脂を選択し、このスチレン-アクリル樹脂を感熱記録層に含有させると、感熱記録層がバランスされた膜性能を有することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
・・・略・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の感熱記録層は、無色又は淡色の塩基性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有し、更にガラス転移点50℃以上かつ最低造膜温度20℃以下のスチレン-アクリル樹脂を含有する。この感熱記録層は、更に、必要に応じて増感剤、安定剤、バインダー、顔料、滑剤等を含んでもよい。
【0009】
本発明で使用するガラス転移温度50℃以上かつ最低造膜温度20℃以下のスチレン-アクリル樹脂の組成は特に限定されるものではないが、コア部にアクリル、スチレンアクリル又はスチレンメタアクリル樹脂を用いシェル部にスチレンアクリル又はスチレンメタアクリル樹脂を用いたコアシェル型エマルジョンが例示することができ、具体例としては、ジョンクリル538、PDX7667、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641(以上、ジョンソンポリマー社製)などが挙げられる。
本発明で使用されるガラス転移温度50℃以上かつ最低造膜温度20℃以下の樹脂の配合量は、感熱記録層の全固形分に対して1~30重量%(以下、重量部は固形分換算とする)が好ましく、2~10重量%がより好ましい。ガラス転移温度50℃以上かつ最低造膜温度20℃以下の樹脂の配合量が1重量%以下のときは耐水性が得られず、30重量%以上のときは高い発色感度が得られにくい。」
(ウ)「【実施例】
・・・略・・・
【0028】
[実施例1]
下記配合からなる配合物を攪拌分散して、下塗り層塗液を調整し、下塗り層塗液を支持体(坪量50g/m2の上質紙)の片面に塗布量が8.0g/m2となるように塗布した後、乾燥を行い、下塗り層塗工紙を得た。
<下塗り層塗液>
焼成カオリン(エンゲルハード社製商品名:アンシレックス90)
100部
スチレン・ブタジエンラテックス(固形分48%) 40部
10%ポリビニルアルコール水溶液 30部
水 160部
【0029】
次に染料、顕色剤、増感剤の各材料は、あらかじめ以下の配合の分散液をつくり、それぞれサンドグラインダーで平均粒径が0.5μmになるまで湿式磨砕を行った。
<顕色剤分散液>
4-ヒドロキシ-4'-イソプロポキシジフェニルスルホン 6.0部
10%ポリビニルアルコール水溶液 18.8部
水 11.2部
<染料分散液>
3-ジ-n-ブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン(ODB-2)
3.0部
10%ポリビニルアルコール水溶液 6.9部
水 3.9部
<増感剤分散液>
1,2-ジ-(3-メチルフェノキシ)エタン 6.0部
10%ポリビニルアルコール水溶液 18.8部
水 11.2部
【0030】
上記の各分散液を下記に示す割合で混合し、感熱記録層塗液を得た。この塗液を前記下塗り層塗工紙上に乾燥後の塗布量が6.0g/m2となるように塗布乾燥し、スーパーカレンダーでベック平滑度が200~600秒になるように処理し、感熱記録体を得た。
顕色剤分散液 36.0部
染料分散液 13.8部
増感剤分散液 36.0部
シリカ(商品名:カープレックス101、平均粒子径:7μm、吸油量:178ml/100g、BET比表面積、65m2/g、デグサジャパン社製)50%分散液 13.0部
炭酸カルシウム(商品名:ツネックスE、平均粒子径:4.4μm、白石カルシウム社製)50%分散液 13.0部
30%ステアリン酸亜鉛分散液 6.7部
10%部分ケン化ポリビニルアルコール水溶液(クラレ社製商品名:PVA217 重合度:1750 ケン化度:88モル%) 20.0部
スチレン-アクリル樹脂(ジョンソンポリマー社製商品名:ジョンクリル7641、固形分49%、ガラス転移点86℃、最低造膜温度14℃)
10.0部
・・・略・・・
【0032】
[比較例1]
スチレン-アクリル樹脂(ジョンクリル7641)を用いない以外は、実施例1と同様にして感熱記録体を得た。
・・・略・・・
【0033】
上記の実施例及び比較例で得られた感熱記録体について次のような評価を行った。その結果を表1に示す。
[発色感度]
大倉電機社製のTH-PMDを使用し、作成した感熱記録体に印加エネルギー0.34mJ/dotで印字を行った。印字後及び品質試験後の画像濃度はマクベス濃度計(RD-914、アンバーフィルター使用)で測定した。
[耐水性]
・画像残存率
大倉電機社製のTH-PMDを使用し、印加エネルギー0.34mJ/dotで印字を行った感熱記録体を水に浸し、23℃24時間放置した後、記録部の画像濃度をマクベス濃度計で測定し、下記の式にて画像残存率を算出した。
画像残存率(%)=試験後の濃度/試験前の濃度×100
・耐水ブロッキング性
感熱記録体の表面に水滴を50μl垂らし、記録面が内側になるように二つ折りにし、水滴を滴下した記録体の上に100g/cm2の荷重をかけ、23℃50%Rhの環境下で24時間放置し、その後記録面を剥がし、105℃で2分間発色させ、記録面の剥がれ度合いを目視判定し、次の基準で評価した。
○:記録面の剥がれがほとんどない
△:記録面の剥がれが若干見られる
×:記録面の剥がれが多い
【0034】
[保管時の白紙部保存性]
60℃に保持した送風乾燥機に感熱記録体を72時間放置し、試験前後の白色度の差をハンター白色度計(フィルター:Am)を用いて測定した。
○:白色度の低下が2ポイント未満
△:白色度が2ポイント以上10%未満低下する
×:白色度が10ポイント以上低下する
・・・略・・・
【0035】
【表1】
[図:0001434195000013.jpg]
【0036】
実施例1~5の感熱記録体は、感熱記録層が本発明のスチレン-アクリル樹脂を含むため、耐水性、白紙部保存性、耐スティック性、ヘッドカス性が共に良好である。特に、実施例1と比較例1の感熱記録体を比べると、実施例1の感熱記録層は本発明のスチレン-アクリル樹脂を含むため、耐水性と白紙部保存性、特に耐水性が改善されている。比較例2の感熱記録体は、感熱記録層に含まれるスチレン-アクリル樹脂の最低造膜温度(MFT)が低いため、耐スティック性とヘッドカス性が劣り、比較例3の感熱記録体は、感熱記録層に含まれるスチレン-アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が低いため、耐水性が劣ると考えられる。また、比較例4の感熱記録体は、感熱記録層が本発明のスチレン-アクリル樹脂を含まず、コロイダルシリカを含むため、白紙部保存性が劣り、耐水性も十分ではない。」
イ 甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。なお、甲7における以下の文字は、便宜上、「(株)」に置換した。
[図:0001434195000014.jpg]
(ア)「2 特許請求の範囲
1 (A)一般式:
[図:0001434195000015.jpg]
(式中、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示す)で表わされる単量体20~70重量%、
(B)一般式:
[図:0001434195000016.jpg]
(式中、R3は水素原子またはメチル基を示す)で表わされる単量体10~60重量%および
(C)一般式:
[図:0001434195000017.jpg]
(式中、R4は水素原子またはメチル基を示し、nは1~20の整数を示す)で表わされる単量体10~50重量%
からなる単量体を乳化重合してえられたエマルジョン状態で存在する重合体からなる感熱記録体用バインダー。」
(イ)2頁右上欄18行~左下欄17行
「従来、感熱記録体用バインダーとしてはポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性樹脂が知られているが、これらはいずれも耐水性、発色性および保存性(印字部の経時退色か少なく、しかも地肌部の経時発色か少ないこと、以下同様)が不充分である。さらに、該感熱記録体用バインダーの水溶液粘度が高いため、該バインダーを用いて感熱塗工液を調製すると固形分濃度も低くなり、支持体上に塗工した感熱塗工液を乾燥させるのに長時間を要し、感熱記録体の生産性が低下するという不利がある。なお、乾燥時の温度を高めたばあいには発色現象が生じ、商品となりえず、かかる方法は到底採用できない。
本発明は、従来の感熱記録体用バインダーでは充分には解決できなかった諸性能、すなわち耐水性、発色性および保存性を顕著に改良することができ、かつ低粘度のエマルジョンとして使用しつる感熱記録体用バインダーを提供することを目的とするものである。」
(ウ)3頁右上欄3行~4頁左下欄2行
「[実施例]
本発明において乳化重合に供する単量体は、必須成分たる前記単量体(A)、単量体(B)および単量体(C)ならびに該必須成分と共重合しうる任意成分たる単量体(D)からなる。
単量体(A)は、えられる感熱層中の重合体からなるバインダーの耐水性を高める効果があるため必須成分とされる。
単量体(A)は、一般式:
[図:0001434195000018.jpg]
(式中、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示す)で表わされ、これらは単独または組合わせて用いられる。
・・・略・・・
単量体(B)はバインダーの感熱層中のロイコ染料および顕色剤への接着性、発色性、保存性などを高める効果があるため必須成分とされる。
単量体(B)は、一般式:
[図:0001434195000019.jpg]
(式中、R3は水素原子またはメチル基を示す)で表わされ、これらは単独または組合わせて用いられる。
・・・略・・・
単量体(C)は、えられる感熱層中の重合体からなるバインダーの支持体に対する接着性、発色性および耐水性を高める効果があるため必須成分とされる。
単量体(C)は、一般式:
[図:0001434195000020.jpg]
(式中、R4は水素原子またはメチル基を示し、nは1~20の整数を示す)で表わされ、これらは単独または組合わせて用いられる。
・・・略・・・
単量体(D)は、本発明においては任意の成分とされ、単量体(A)、単量体(B)および単量体(C)と共重合しつる単量体である。単量体(D)を本発明に用いることによって塗工適性や耐水性を向上させるという効果がある。その具体例としてはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどがあげられ、これらを単独または組合わせて用いるのがよく、とくにアクリル酸、メタクリル酸などを用いたばあい、塗工適性が向上し、またアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、グリシジルメタクリレートなどを用いたばあいは、耐水性が向上するため好ましい。」
(エ)6頁16行~8頁最下行
「実施例1
(バインダーの製造)
攪拌機および還流冷却器を付した反応容器に、水640重量部(以下、部という)、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名「ネオゲンR」、第一工業製薬(株)製)12.5部、スチレン105部、アクリルアミド90部、アクリル酸n-ブチル105部およびラウリルメルカプタン 1.2部を仕込み攪拌下に40℃まで加温した。同温度で濃度10%の過硫酸アンモニウム水溶液30部および濃度10%の重亜硫酸ソーダ水溶液30部を添加し、60℃まで昇温した。直ちに重合反応が開始し内温が90℃に達した。その後80℃で3時間反応を行い反応を完結させ、さらに冷却し、pH調整して本発明のバインダーである重合体を含むエマルジョンをえた。
該エマルジョンは固形分濃度が30.6%、25℃における粘度が88cps 、pHが7.6であった。
えられたエマルジョンを用い、以下に示す方法にしたがって感熱塗工液を調製した。
(感熱塗工液の調製)
(I)液の調製
3-ジエチルアミノ -6-メチル-7-アニリノ
フルオラン 10部
ポリビニルアルコール(商品名「PVA205」、
(株)クラレ製)の10%水溶液 5部
水 18.3部
をボールミルで平均粒子径が3μm以下になるまで粉砕し、分散させて(I)液をえた。
(II)液の調製
ビスフェノールA 30部
「PVA205」の10%水溶液 7.5部
水 48.2部
をボールミルで平均粒子径が3μm以下になるまで粉砕し、分散させて(II)液をえた。
(III)液の調製
(I)液 33.3部
(II)液 85.7部
微粒子状シリカ(商品名「カープレックス
FPS-3」、塩野義製薬(株)製) 30部
(バインダーの製造)でえられたエマルジ
ョン 100部
ステアリン酸亜鉛 10部
水 291部
をモーターで撹拌混合して感熱塗工液((III)液)をえた。なお、各感熱塗工液の固形分濃度および25℃における粘度を第2表に示す。
また、えられた感熱塗工液を用いて、以下に示す方法にしたがって、本発明のバインダーを用いてなる感熱記録紙を作製した。
(塗工方法)
中性上質紙(坪量50g/m2)の表面に塗工量(固形分)が約7g/m2になるように前記塗工液をバーコーターを用いて塗工したのち、50℃で2分間乾燥し、さらに常温でキャレンダー処理することにより本発明のバインターを用いてなる感熱記録紙をえた。
(評価方法)
上記でえられた感熱記録紙を以下に示す方法にしたがって、発色性、接着力、耐水性および保存性について評価した。その結果を第2表に示す。
(1)発色性
サクラ濃度計PDA-65(小西六写真工業(株)製)を用いて、えられた感熱記録紙の印字部の発色濃度(動的印字)および地肌部の発色濃度を測定した。
えられた印字部の発色濃度が高く、かつ地肌部の発色濃度が低いほど発色性に優れている。
動的印字:感熱紙発色試験装置TH-PND(大倉電機(株)製)を用いて印字電圧15V、パルス巾0.8msecで印字した。
(2)接着力
えられた感熱記録紙の塗工面にセロハンテープ(ニチバン製、巾24mm)を貼り、引張試験機(東洋ボウルドウィン(株)製)を用いて180°剥離強度を測定し、塗工面と原紙面との接着力を求めた。
(3)耐水性
えられた感熱記録紙を20℃の水に1時間浸漬し、感熱記録紙の塗工面を指で擦すったときの塗工面の剥がれを目視評価した。
印字部を指で擦すっても剥がれないばあい耐水性が良好、印字部が剥がれるばあい耐水性が不良と評価した。
(4)保存性
えられた感熱記録紙を50℃、75%RHの恒温恒湿器中に60時間放置したのち、感熱記録紙の印字部の発色濃度(動的印字)および地肌部の発色濃度を測定した。
えられた印字部の発色濃度が高く、かつ地肌部の発色濃度が低いほど保存性に優れている。
・・・略・・・
比較例2
実施例1において、えられたエマルジョンにかえて第1表に示す固形分濃度、粘度およびpHのポリビニルアルコール(商品名「PVA 117 」、(株)クラレ製)水溶液を用いたほかは実施例1と同様にして感熱記録紙をえ、発色性、接着力、耐水性および保存性について評価した。その結果を用いた感熱塗工液の固形分濃度および粘度とともに第2表に示す。
[以下余白]
[図:0001434195000021.jpg]
[図:0001434195000022.jpg]
」
(当合議体注:第1表及び第2表は、便宜上、時計回りに90°回転したものである。)
ウ 甲6、7に基づく周知技術の認定
上記ア及びイの記載事項によれば、甲6及び7には、それぞれ、以下の技術事項が記載されているといえる。
(ア)甲6に記載の技術事項
感熱記録層がポリビニルアルコールとスチレン-アクリル樹脂を含む、実施例1の感熱記録体と、スチレン-アクリル樹脂を用いない以外は実施例1と同様である、比較例1の感熱記録体を比べると、実施例1の感熱記録体は、耐水性と白紙部保存性が改善されていること。
(イ)甲7に記載の技術事項
感熱記録層がポリビニルアルコール(商品名「PVA205」、(株)クラレ製)と、単量体であるスチレン、アクリルアミド及びアクリル酸n-ブチルの重合体を含むエマルジョンを含む、実施例1の感熱記録紙と、当該エマルジョンにかえてポリビニルアルコール(商品名「PVA117」、(株)クラレ製)を用い、比較例2の感熱記録紙を比べると、実施例1の感熱記録紙は、発色性及び保存性に優れ、実施例の感熱記録紙は耐水性が良好であるのに対し、比較例2の感熱記録紙は耐水性が不良であること。
上記(ア)及び(イ)によれば、本件出願時において、以下の技術事項が技術常識(周知技術)であったと認められる。
「感熱記録媒体のポリビニルアルコールを含む感熱記録層をスチレン-アクリル樹脂を含有するものとすることで、感熱記録媒体の耐水性、保存性及び感度(発色濃度)等が向上すること。」
(以下「周知技術1」という。)
(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1記録材料発明を対比する。
(ア)支持体、感熱記録層、感熱記録媒体
甲1記録材料発明の「感熱記録層」、「支持体」及び「感熱記録材料」は、技術的にみて、それぞれ、本件特許発明1の「感熱記録層」、「支持体」及び「感熱記録材料」に相当する。
また、甲1記録材料発明の「感熱記録材料」は、「感熱記録層を支持体上に設けた」ものであるから、本件特許発明1の「感熱記録材料」における「支持体と、前記支持体上に感熱記録層とを有する」という要件を満たす。
(イ) 一般式(1)で表される化合物
本件特許の請求項1には、「前記一般式(1)中、R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子で置換された炭素数6~12のアリール基であ」ることが記載されている一方、甲1記録材料発明の「R2」は、「炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換または炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基又は炭素数6~12のアリール基であ」る。
ここで、上記アラルキル基について、本件明細書の【0019】には「アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、・・・略・・・などの無置換又はアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アリール基若しくはハロゲン原子で置換されたアラルキル基が挙げられる。」と記載されているところ、甲1の[0039]には、当該記載と同様の記載がある。また、上記アリール基について、本件明細書の【0020】には「アリール基としては、例えば、フェニル基、・・・略・・・などの無置換又はアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アリール基若しくはハロゲン原子で置換されたアリール基が挙げられる。」と記載されているところ、甲1の[0040]には、当該記載と同様の記載がある。
そうすると、甲1記録材料発明の「R2」は、本件特許発明1の「R2」に相当し、甲1記録材料発明の「一般式(1)で表されるN,N’-ジアリール尿素誘導体」は、本件特許発明1の「一般式(1)で表される化合物」に相当する(当合議体注:甲1記録材料発明及び本件特許発明1の一般式(1)の記載は省略する。)。
イ 一致点及び相違点
上記アによれば、本件特許発明1と甲1記録材料発明は、下記(ア)の点で一致、下記(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「支持体と、前記支持体上に感熱記録層とを有する感熱記録媒体であって、
前記感熱記録層が、下記一般式(1)で表される化合物を含有する感熱記録媒体。
【化1】
[図:0001434195000023.jpg]
ただし、前記一般式(1)中、R2は、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状若しくは脂環状のアルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基若しくはハロゲン原子で置換された炭素数7~12のアラルキル基、無置換若しくは炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又はハロゲン原子で置換された炭素数6~12のアリール基であり、複数のR2は、同じであっても異なっていてもよい。A1は、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。複数のA1は、同じであっても異なっていてもよい。」
(イ)相違点1
本件特許発明1の「感熱記録層」は、「スチレン-アクリル樹脂を含有する」のに対して、甲1記録材料発明の「感熱記録層」は、当該樹脂を含有しない点。
ウ 判断
相違点1について検討する。
(ア)本件特許発明1の技術的意義及び作用効果について
相違点1の判断に先立ち、本件特許発明1の技術的意義及び作用効果について検討しておく。
本件特許明細書の【0007】には、本件特許発明の作用効果について、「本発明によると、耐温水性、耐水性、耐エタノール性、耐温湿性、耐水擦り性及び耐熱性のすべてを兼ね備えると共に、高濃度の画像が得られる感熱記録媒体を提供することができる。」と記載されている。上記作用効果は、本件特許明細書の実施例及び比較例における検証結果に示されるとおり、本件特許発明が奏する作用効果といえる。
そして、上記検証結果に基づけば、上記作用効果は、特定の構造を備えた「一般式(1)で表される化合物」(当合議体注:一般式(1)の記載は省略する。以下同様。)と「スチレン-アクリル樹脂(A)」の組み合わせ(以下「本件組み合わせ」という。)を採用したことによって奏されるものと認められる。
そうすると、本件特許発明1の技術的意義は、上記本件組み合わせにあると理解するのが相当である。
(イ)検討
上記(ア)を踏まえて、以下、検討する。
甲1の[0011]の記載によれば、甲1記録材料発明は、発色濃度及び保存性の向上を図るものであるといえる。
ここで、周知技術1は、感熱記録媒体の保存性及び感度(発色濃度)の向上に関するものであるから、甲1記録材料発明と周知技術1は、同一の技術分野に属し、発色濃度及び保存性の向上を図るものである点で共通する。
そうすると、甲1記録材料発明において、周知技術1を採用して感熱記録層にスチレン-アクリル樹脂を含有させた態様とすることによっての感熱記録材料の耐水性及び保存性が向上することは、当業者が予測し得るものであるといえる。
しかしながら、上記ウによれば、本件特許発明は、上記本件組み合わせを採用することによって、「耐温水性、耐水性、耐エタノール性、耐温湿性、耐水擦り性及び耐熱性のすべてを兼ね備えると共に、高濃度の画像」を得るという作用効果を奏するものであるところ、感熱記録層にスチレン-アクリル樹脂を含有させることによって、「耐温水性」及び「耐熱性」との作用効果を備える感熱記録媒体となることは、本件出願時における技術水準からみて明らかであるとは認められない。
まず、当該「耐温水性」についてみると、耐温水性は耐水性及び温水からの熱に対する耐熱性と関連し、耐水性及び耐熱性の両者に優れるものは耐温水性も優れると推察される。
しかるに、本件特許明細書に記載の比較例1において、耐水性及び耐熱性の評価においてともに「○」との標語が付されるが、その一方で、耐温水性の評価においては「×」との標語が付されていることからみて、「耐水性」と「耐熱性」とをともに備えていたとしても、必ずしも「耐温水性」が優れたものとはならないから、上記推察は成り立たない。
そうすると、耐熱性に優れる甲1記録材料発明に、感熱記録層にスチレン-アクリル樹脂を用いることによって感熱記録材料の耐水性を向上させ、その組成において「耐熱性」を備える成分と「耐水性」とを備える成分とを含有した場合であっても、上述のとおり、評価指標として耐温水性もまた優れると推認することができない。
次に、「耐熱性」についてみると、感熱記録層にスチレン-アクリル樹脂を用いることによって感熱記録材料の耐熱性が向上することは、甲1及びその他の証拠には記載されていない。
そうすると、上記本件組み合わせを採用することによってもたらされる上記作用効果のうち「耐温水性」及び「耐熱性」については、甲1及びその他の証拠には記載されておらず、技術常識に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものともいえない。
以上によれば、本件特許発明1の上記効果は、甲1記録材料発明の有する効果とは異質な効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではなく、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるといえる。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明及びその他の文献に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
エ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、概略、本件特許発明1は、甲1記録材料発明に甲2~16の記載事項を適用することにより当業者が容易に想到できたものである旨主張している。
しかしながら、上記ウで述べたとおり、本件特許発明1は、甲1記録材料発明の有する効果とは異質な効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではなく、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである。
したがって、上記主張は採用できない。
オ 小括
以上によれば、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない、あるいは、その他の証拠に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1感熱記録層塗料発明を対比すると、両者は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点2)
本件特許発明9の「感熱記録層形成液」は、「スチレン-アクリル樹脂を含有する」のに対して、甲1記録層塗料発明の「感熱記録層塗料」は、当該樹脂を含有しない点。
ここで、相違点2は、相違点1と同内容のものであるから、その判断も相違点1についての判断と同じである。
したがって、本件特許発明9は、甲1に記載された発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、その他の証拠に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件特許発明2~8、10~14について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~8、10~14は、いずれも、請求項1又は請求項9を引用するものであって、本件特許発明2~8、10~14は、本件特許発明1又は9の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(3)及び(4)のとおり、本件特許発明1及び9が、それぞれ、甲1記録材料発明及び甲1記録層塗料発明と、周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件特許発明2~8、10~14も、甲1記録材料発明又は甲1記録層塗料発明と、周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
同様に、本件特許発明1又は9がその他の証拠に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~8、10~14も、その他の証拠に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)申立理由1についてのまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~14は、特許法29条の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由1によって取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)について
(1)申立理由の概略
申立人は、申立書において、概略、本件特許明細書には、一般式(1)で表される5種の化合物を、約45質量%、約46質量%及び約47質量%の含有割合で使用した実施例が開示されているにすぎず、スチレン-アクリル樹脂は市販品の商品名の例示程度しか説明されておらず、2種のスチレン-アクリル樹脂を約22質量%、約36質量%及び約37質量%の含有割合で使用した実施例が開示されているにすぎず、本件特許発明1は、「あらゆる構造の一般式(1)で表される化合物およびスチレン-アクリル樹脂を、それぞれあらゆる割合で含有する感熱記録層を備える感熱記録媒体」でありながら、発明の詳細な説明では、特定の一般式(1)で化合物および特定のスチレン-アクリル樹脂をそれぞれ特定の割合で含有する感熱記録媒体を開示するのみで、それ以外の感熱記録媒体を開示していない旨を主張する。
(2)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1~11は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明12は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法2条3項3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、本件特許発明13及び14は、上記第2のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(3)実施可能要件についての判断
ア 上記判断基準に基づく判断
本件特許明細書の【0196】~【0235】には、実施例1~10として、少なくとも本件特許発明1及び9の要件を全て満たす態様の感熱記録媒体及び感熱記録層形成液、本件特許発明12の要件を全て満たす態様の感熱記録媒体の製造方法及び本件特許発明13又は14の要件を全て満たす態様の感熱記録方法が記載されている。
これらの記載からみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~11において特定される「感熱記録媒体」及び「感熱記録媒体層形成液」を生産することができる具体的な記載、本件特許発明12において特定される「感熱記録媒体の製造方法」についての具体的な記載及び本件特許発明13及び14において特定される「感熱記録方法」の具体的な記載があるといえるから、本件特許発明1~14に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。
イ 申立理由についての判断
(ア)一般式(1)で表される化合物について
本件特許明細書の【0024】~【0095】、【0096】~【0126】及び【0128】には、それぞれ、一般式(1)で表される化合物の具体例、製造方法及びロイコ染料に対する顕色剤の含有量が記載されている。
また、甲1にも上記と同様の記載がある。
そうすると、当業者であれば、上記記載事項に基づいて、一般式(1)で表される化合物を用い、そのロイコ染料に対する含有量を変更した、技術常識から理解される範囲内にある感熱記録層を備える本件特許発明を実施することができるといえる。
(イ)スチレン-アクリル樹脂について
本件特許明細書の【0132】には、スチレン-アクリル樹脂は合成したもの又は市販品を使用して良いことが記載されている。
また、本件特許明細書の【0135】には、スチレン-アクリル樹脂の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、感熱記録層全体に対して1.0質量%以上50.0質量%以下が好ましいことが記載されている。
そうすると、当業者であれば、上記記載事項に基づいて、技術常識から理解される範囲内にある構造のスチレン-アクリル樹脂を用い、その含有量を感熱記録層全体に対して1.0質量%以上50.0質量%以下という数値範囲内のものとした感熱記録層を備える本件特許発明を実施することができるといえる。
(ウ)小括
上記(ア)及び(イ)より、実施例として開示された特定の態様の感熱記録媒体以外の、本件特許発明を実施することができないというべき理由はない。
したがって、申立人の主張は、採用できない。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)申立理由の概略
申立人は、申立書において、概略、次のとおり主張している。
本件特許発明は、スチレン-アクリル樹脂の種類及び一般式(1)で表される化合物及びスチレン-アクリル樹脂の含有割合を何ら特定していないものであるところ、上記2(1)で述べたとおり、本件明細書には特定組成・配合割合の感熱記録媒体しか本件特許発明の課題が解決できることを具体的には示していない。
そして、例えば、甲8には、スチレン-アクリル酸共重合体のアルカリ塩の配合量は感熱記録層の全固形分に対して5~30重量%であることが好ましく、これより少ないと耐水性が不足するという点が開示されており、スチレン-アクリル樹脂の含有割合が少ない場合、耐水性の確保は困難であろうことは当業者には一般的な技術的制約として認識される。
また、単に「スチレン-アクリル樹脂」と称する場合、様々なモノマー組成、平均分子量、酸価、Tg、MFTといった特徴によって特定される非常に広範な技術的範囲を有する樹脂であると当業者には認識されるところ、本件特許明細書には、どのようなスチレン-アクリル樹脂が課題を解決するに好ましいか、あるいはどのような作用機序により課題解決に貢献するのかとった説明は見出されない。
そうすると、一般式(1)で表される化合物及びスチレン-アクリル樹脂の種類や含有割合のいずれについても何ら質的、量的な制約をうけることなく、耐温水性、耐水性、耐エタノール性、耐温湿性、耐水擦り性及び耐熱性の全てを兼ね備えるとともに、高濃度の画像が得られる感熱記録媒体が得られるとは、たとえ当業者であっても認識することができない。
(2)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(3)サポート要件についての判断
ア 上記判断基準に基づく判断
発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題は、「耐温水性、耐水性、耐エタノール性、耐温湿性、耐水擦り性及び耐熱性のすべてを兼ね備えると共に、高濃度の画像が得られる感熱記録媒体を提供すること」(以下「本件課題」という。)と認められる(【0005】)。
そして、本件特許明細書の【0196】~【0235】には、実施例1~10として、少なくとも本件特許発明1の要件を全て満たす態様の感熱記録媒体は、いずれも耐温水性(60℃)、耐温水性(40℃)、耐水性、耐エタノール性、耐温湿性、耐水擦り性、耐熱性(110℃)及び耐熱性(90℃)の評価が「○」又は「◎」であるのに対し、本件特許発明に該当しない比較例1~6は、いずれも上記評価の3つ以上が「×」であることが記載されていることからみて、当該実施例1~10は、本件課題を解決できることを当業者は認識できる。
また、上記実施例1~10において感熱記録層に用いられた材料である、ロイコ染料、一般式(1)で表される化合物及びスチレン-アクリル樹脂は、それぞれ、本件特許明細書に記載されたものであり、技術常識を勘案した上で、これらを発明の詳細な説明に記載された他の材料に変更した態様及び各材料の含有量を本件特許明細書に記載した範囲内において変更した態様において本件課題が解決できない特段の理由はみいだせない。
特に、スチレン-アクリル樹脂について、本件特許明細書の【0132】における「前記スチレン-アクリル樹脂としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記合成方法としては、例えば、乳化重合、分散重合、懸濁重合、粉砕又は溶液/バルク重合、その後の後乳化などにより製造することができる。」との記載によれば、本件特許発明における「スチレン-アクリル樹脂」は、本件特許の出願時において公知の合成方法によって得たもの又は市販されているものであれば特に制限なく用い、その含有量を本件特許明細書の【0135】に記載された数値範囲内のものとした態様とすることができ、当該態様において本件課題が解決できないとはいえない。
そうすると、当業者は、本件特許発明が、本件課題を解決できるものと認識できるというべきである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
イ 申立理由についての判断
上記2(3)で述べたとおり、本件特許明細書には、スチレン-アクリル樹脂の具体例・含有量が記載されており、本件特許明細書の記載内容(特に実施例・比較例)によれば、スチレン-アクリル樹脂として実際に用いる具体的な化合物の種類・含有量等によって作用効果の程度は異なるといえる。
しかしながら、上記アに示した本件特許発明の【0132】の記載によれば、本件特許発明において「スチレン-アクリル樹脂」は、本件特許の出願時において公知の合成方法によって得たもの又は市販されているものであれば特に制限なく用いることができるといえ、本件特許明細書に記載された実施例におけるスチレン-アクリル樹脂は、本件特許明細書の【0132】に例示された樹脂(HPD-196、BASF社製及びEK-61、サイデン化学株式会社製)であって、当該樹脂の化学構造・各種特性等が他のスチレン-アクリル樹脂の化学構造・各種特性等と、本件課題の解決の可否に影響するほどまで大きく異なるとはいえない。
また、スチレン-アクリル樹脂の含有量についてみると、本件特許明細書に記載された実施例におけるスチレン-アクリル樹脂の含有量(約22質量%、約36質量%、約37質量%)は、本件特許明細書の【0135】に好ましい範囲として記載された1.0質量%以上50.0質量%という数値範囲内のものであるところ、上記実施例の含有量を上記数値範囲内のいずれかの数値に変更した態様によって、本件課題が解決できなくなるとまではいえない(例えば、スチレン-アクリル樹脂の含有量を少なくすることによって耐水性はある程度低下するといえるが、評価が「×」になるまで低下するとの根拠は認められない)。
以上より、スチレン-アクリル樹脂の種類又は含有割合を本件特許明細書に記載された特定の感熱記録媒体以外の態様の感熱記録媒体において、当該特定の感熱記録媒体と同等の作用効果が得られないとはいえない。
したがって、申立理由3は妥当とはいえない。
(4)申立理由3についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
4 申立理由4(明確性要件違反)について
(1)申立理由の概略
申立人は、申立書において、概略、本件特許発明の「スチレン-アクリル樹脂」とは、スチレン及びアクリル酸のみを構成単位とする樹脂を指すのか、あるいはスチレン及びその誘導体と、アクリル酸及びその誘導体とを構成単位として含む樹脂を指すのか何ら特定されておらず、本件特許明細書の記載及び技術常識を参酌しても、当業者がその技術的範囲を理解することができない旨主張する。
(2)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(3)明確性要件についての判断
ア 上記判断基準に基づく判断
本件特許の技術的範囲は、上記第2において認定したとおりのものである。
そして、本件特許明細書の【0132】における「前記スチレン-アクリル樹脂としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記合成方法としては、例えば、乳化重合、分散重合、懸濁重合、粉砕又は溶液/バルク重合、その後の後乳化などにより製造することができる。」との記載によれば、本件特許発明の「スチレン-アクリル樹脂」は、本件特許の出願時において公知の合成方法によって得たもの又は市販されているものであって、これらの化学構造・各種特性等は何ら限定されず多岐にわたるものであることを前提としている。
そして、甲9(特に【0024】、【0029】、【0030】参照)及び甲10(特に【0014】参照)によれば、本件特許の出願時において、スチレン-アクリル樹脂における、スチレンは、スチレンそのもの又はスチレン誘導体を意味し、アクリルは、アクリル酸、アクリル酸エステル及びこれらの誘導体を意味することは明らかである。
そうすると、本件特許発明における「スチレン-アクリル樹脂」の技術的意味は明確であり、本件特許の特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明は明確である。
イ 申立理由についての判断
上記アのとおりである。
(4)申立理由4についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由4によって取り消すことはできない。
第5 むすび
請求項1~14に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701083