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特許異議申立

2024-700835

下部尿路症状改善用組成物

審判番号
2024-700835
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-239967
登録番号
7444375
請求日
2024年09月04日
審決日
2024年12月11日
公報発行日
2025年03月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社 沖縄リサーチセンター
  • 【権利者代理人】森本 敏明
  • 【権利者】あすか製薬株式会社
  • 【権利者代理人】森本 敏明
  • 【権利者】静岡県公立大学法人
  • 【権利者代理人】森本 敏明
  • 【異議申立人】野崎 彩
  • 【異議申立人】太田 隆
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 田中 耕一郎
  • 審判官 池上 京子
分類
P1651.121-Y (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7444375号発明「下部尿路症状改善用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7444375号の請求項に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7444375号(以下「本件特許」という。)に係る発明についての出願は、令和1年12月28日の出願であって、令和6年2月27日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年3月6日に特許掲載公報が発行されたものである。 これに対して、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、令和6年9月4日付けで特許異議申立人である野崎 彩(以下「申立人A」という。)により、また、令和6年9月6日付けで特許異議申立人である太田 隆(以下「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、順に、「本件発明1」~「本件発明3」といい、合わせて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 下記式(F) 【化1】 [図:0001420341000001.jpg] (F)で示される化合物を有効成分として含有する、下部尿路症状改善用組成物。 【請求項2】 前記組成物は、畜尿症状、排尿症状、排尿後症状及び過活動膀胱からなる群より選ばれる少なくとも1種の下部尿路症状を改善するための組成物である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記組成物は、飲食品又は医薬品の形態にある下部尿路症状改善用組成物である、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。」 以下、本件発明1を「化合物Fを有効成分として含有する、下部尿路症状改善用組成物。」という。 第3 申立理由の概要 1 申立人Aの申立理由の概要 申立人Aは、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第5号証を提出するとともに、概略、以下の申立理由A1~A3(合議体注:合議体が申立人Aの申立理由に符号を付した。)により、本件発明に係る特許は、取り消されるべきものであると主張している。 (1)申立理由A1(公然実施(甲第1号証参照)) 本件発明1~3は、甲第1号証に記載されているように、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(申立書7頁B.a.)。 (2)申立理由A2(甲第1号証を主引例とする新規性、進歩性) 本件発明1~3は、本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(申立書7頁B.a.)。 (3)申立理由A3(甲第3号証~甲第5号証を主引例とする新規性、進歩性) 本件発明1~3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証~甲第5号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は、甲第3号証~甲第5号証のいずれかに記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(申立書7、8頁B.b.~d.)。 (4)証拠方法 甲第1号証:「natoha (ナトハ)黒人参茶の公式オンラインストア」のアーカイブ、2017年12月25日掲載、<https://web.archive.org/web/20171225210030/http://www.lifet-select.com/?pid=118539541> 甲第2号証:“亜熱帯のストレスフルな環境で生き抜く植物の生存機構に迫る”、「琉球大学熱帯生物圏研究センター 応用生命情報学部門 | 国立大学附置研究所・センター会議」、2017年8月23日、<http://shochou-kaigi.org/interview/interview_39/> 甲第3号証:伊藤由彦ら、“屋久島産ボタンボウフウの排尿機能に対する作用”、日本薬学会 第133年会(横浜)、ポスター発表要旨、2013年3月5日、<http://nenkai.pharm.or.jp/133/pc/ipdfview.asp?i=2669http://nenkai.pharm.or.jp/133/pc/ipdfview.asp?i=2669> 甲第4号証:引山恵梨子ら、“屋久島産ボタンボウフウエキスのラット頻尿改善作用”、第20回日本排尿機能学会 プログラム・抄録集 249頁、左欄 甲第5号証:富永彩香ら、“女性過活動膀胱患者に対する屋久島産ボタンボウフウエキスの臨床効果”、第20回日本排尿機能学会 プログラム・抄録集 249頁、右欄 なお、申立人Aが提出した特許異議申立書を「申立書A」、甲第1号証~甲第5号証を「甲1A」~「甲5A」のように略記することがある。 2 申立人Bの申立理由の概要 申立人Bは、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第4号証を提出するとともに、概略、以下の申立理由B1、B2(合議体注:合議体が申立人Bの申立理由に符号を付した。)により、本件発明に係る特許は、取り消されるべきものであると主張している。 (1)申立理由B1(甲第1号証を主引例とする進歩性) 本件発明1~3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(申立書10~13頁ウ(ア)~(ウ))。 (2)申立理由B2(甲第2号証を主引例とする進歩性) 本件発明1~3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(申立書13~15頁ウ(エ)~(カ))。 (3)証拠方法 甲第1号証:“ Relaxant effects of pyranocoumarin compounds isolated from a Chinese medical plant, Bai-Hua Qian-Hu, on isolated rabbit tracheas and pulmonary arteries”, Nai-Cai ZHAO, et al., Biol Pharm Bull., 1999, Vol.22, No.9, pp.984-987, <https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb1993/22/9/22_9_984/_pdf/-char/en> 甲第2号証:特開2011-37829号公報 甲第3号証:“Pharmacological activities of khellactones, compounds isolated from Peucedanum japonicum THUNB. and Peucedanum praeruptorum DUNN.”, Yoko Aida, et al., Methods Find Exp Clin Pharmacol., 1998, Vol.20, No.4, pp.343-351, <https://access.portico.org/Portico/auView?auId=ark:%2F27927%2Fpjbf78wfdpx> 甲第4号証:“Urinary Bladder Contraction and Relaxation:Physiology and Pathophysiology”, KARL-ERIK ANDERSSON, et al., Physiol Rev., 2004, Vol.84, No.3, pp.935-986, <https://journals.physiology.org/doi/epdf/10.1152/physrev.00038.2003> なお、申立人Bが提出した特許異議申立書を「申立書B」、甲第1号証~甲第4号証を「甲1B」~「甲4B」のように略記することがある。 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、申立人A及びBが申し立てる申立理由は、いずれも理由がないものと判断する。 1 申立人Aが申し立てる申立理由について 1-1 申立理由A1(公然実施(甲第1号証参照))、及び、申立理由A2(甲第1号証を主引例とする新規性、進歩性)について (1)本件発明1について ア 甲1Aに記載された事項、及び、甲1Aに基づく公然実施をされた発明並びに甲1Aに記載された発明 (ア)甲1Aに記載された事項 甲1A(「natoha (ナトハ)黒人参茶の公式オンラインストア」のアーカイブ、2017年12月25日掲載、<https://web.archive.org/web/20171225210030/http://www.lifet-select.com/?pid=118539541>)には、以下の事項が記載されている。 1A1 「 [図:0001420341000002.jpg] 」(2/7頁) 1A2 「 [図:0001420341000003.jpg] 」(3/7頁) (イ)甲1Aに基づく公然実施をされた発明並びに甲1Aに記載された発明 甲1Aには、沖縄産のボタンボウフウを全成分とするnatoha(ナトハ)長命草パウダー(上記1A2の「natoha(ナトハ)長命草パウダー 20g」の項)は、毎日の食事に混ぜて用いられること(上記1A1)、ビタミンA等の様々な栄養を含み、頻尿でお悩みの方にぴったりであること(上記1A2の「長命草とは?」の項)が記載されている。 そうすると、本件特許の優先日前に日本国内において、以下の発明が公然実施をされていたと認められ、また、甲1Aには、以下の発明が記載されていると認められる。 「食事に混ぜて用いられる、ビタミンA等の様々な栄養を含み、排尿でお悩みの方にぴったりの、沖縄産のボタンボウフウを全成分とするボタンボウフウ(長命草)のパウダー。」(以下「甲1A発明」という。) イ 本件発明1と甲1A発明の対比 甲1A発明の「ビタミンA等の様々な栄養」と、本件発明1の「化合物F」とは、ボタンボウフウから得られる化合物である点に限り、一致する。 甲1A発明の「排尿でお悩みの方」は、「排尿症状」を有する患者を包含するものであり、本件発明1の「下部尿路症状」は、請求項2に記載された「排尿症状」を包含するものであるし、甲1A発明の「ぴったりの」は「(症状に)合う(薬、食品)」程度の意味であるから、甲1A発明の「排尿でお悩みの方にぴったりの」「パウダー」は、本件発明1の「下部尿路症状改善用組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1A発明の一致点及び相違点(以下「相違点1A」という。)は、次のとおりである。 <一致点> 「ボタンボウフウから得られる化合物を含有する、下部尿路症状改善用組成物。」 <相違点> 相違点1A ボタンボウフウから得られる化合物が、本件発明1は、「有効成分」の「化合物F」であるのに対し、甲1A発明は、「ビタミンA等の様々な栄養」である点。 ウ 相違点1Aについて (ア)甲2Aに記載された事項 甲2A(“亜熱帯のストレスフルな環境で生き抜く植物の生存機構に迫る”、「琉球大学熱帯生物圏研究センター 応用生命情報学部門 | 国立大学附置研究所・センター会議」、2017年8月23日、<http://shochou-kaigi.org/interview/interview_39/>)には、以下の事項が記載されている。 2A1 「 [図:0001420341000004.jpg] 」(2/5頁) そうすると、甲2Aには、長命草(ボタンボウフウ)には、排尿改善作用のある「イソサミジン」と抗肥満作用のある「プテリキシン」(当審合議体注:本件発明の化合物Fに相当する。)が含まれており、南に生息するものほどプテリキシンの濃度が高くなること、屋久島産や種子島産のボタンボウフウも沖縄県産と比較して低濃度ではあるがプテリキシンを含むことが記載されている(2/5頁の「長命草、その薬効成分の核心に迫る」の項)。 (イ)当審の判断 a 新規性について 甲1Aには、沖縄産のボタンボウフウを全成分とするnatoha(ナトハ)長命草パウダーにはビタミンA等の様々な栄養が含まれていることが記載されている(上記1A2)が、本件発明1の「化合物F」を含むことは記載されていない。 甲2Aには、長命草(ボタンボウフウ)には排尿改善作用のある「イソサミジン」と抗肥満作用のある「プテリキシン」(化合物F)が含まれることが記載されている(上記(ア))が、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用があることは記載されていない。 また、本件特許の出願時において、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用があることが技術常識であったともいえない。 そうすると、化合物Fを下部尿路症状改善用組成物の有効成分とすること(本件発明1)と、ボタンボウフウから得られる化合物を下部尿路症状改善用組成物の有効成分とすること(甲1A発明)とは、本件特許の出願時において技術思想として異なるものであったといえるから、相違点1Aは、実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、本件特許の優先日前に日本国内において公然実施をされた発明に該当しないし、甲1Aに記載された発明にも該当しない。 b 進歩性について 相違点1Aについて検討する。 甲2Aには、長命草(ボタンボウフウ)には排尿改善作用のある「イソサミジン」と抗肥満作用のある「プテリキシン」(化合物F)が含まれることが記載されている(上記(ア))が、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用があることは記載されていない。 そうすると、甲2Aに記載された事項を踏まえても、甲1A発明に含まれる「ビタミンA等の様々な栄養」を、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」である「プテリキシン」(化合物F)とする動機付けは見いだせない。 したがって、甲1A発明のパウダーを、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」として「化合物F」を含有する組成物とすることは、当業者が容易になし得ることではない。 エ 本件発明1の効果について 本件明細書には、実施例4において、長命草抽出物から得られた化合物のうち、長命草F(化合物F)が、他の被験物質(長命草A~E、イソサミジン)に比べて、顕著かつ有意に膀胱収縮を抑制し、排尿障害を改善する作用を有することが記載されている(【0120】~【0124】、図4)。 一方、甲1A~甲5Aを検討しても、本件発明1が、化合物Fを有効成分として用いたことによって、排尿改善を含む下部尿路症状を改善できるという効果を奏することについて、当業者が予測し得たといえる理由はない。 したがって、本件発明1は、甲1A~甲5Aの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものである。 オ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1Aに記載されているように、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に該当せず、また、甲1Aに記載された発明にも該当しないし、甲1Aに記載された発明及び甲2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも、上記(1)イに挙げた「相違点1A」を甲1A発明との間に有するものである。 したがって、上記(1)ウ~オで説示したのと同様に、本件発明2、3は、甲1Aに記載されているように、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に該当せず、また、甲1Aに記載された発明にも該当しないし、甲1Aに記載された発明及び甲2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 1-2 申立理由A3(甲第3号証~甲第5号証を主引例とする新規性、進歩性)について (1)本件発明1について ア 甲3Aを主引例とする申立理由A3 (ア)甲3Aに記載された事項及び発明 a 甲3Aに記載された事項 甲3A(伊藤由彦ら、“屋久島産ボタンボウフウの排尿機能に対する作用”、日本薬学会 第133年会(横浜)、ポスター発表要旨、2013年3月5日、<http://nenkai.pharm.or.jp/133/pc/ipdfview.asp?i=2669http://nenkai.pharm.or.jp/133/pc/ipdfview.asp?i=2669>)には、以下の事項が記載されている。 3A1 「 [図:0001420341000005.jpg] 」(全文) b 甲3Aに記載された発明 甲3Aには、屋久島産のボタンボウフウエキスをラットに対して経口投与し、排尿機能へ与える作用を検討した結果、ボタンボウフウエキスは、膀胱内圧には影響を与えずに膀胱容量を増大させ、排尿機能を改善することが示唆されたことが記載されている(上記3A1)。 そうすると、甲3Aには、以下の発明が記載されていると認められる。 「排尿機能を改善する屋久島産のボタンボウフウエキス。」(以下「甲3A発明」という。) (イ)本件発明1と甲3A発明の対比 甲3A発明の「屋久島産のボタンボウフウエキス」と、本件発明1の「化合物F」を含有する「組成物」とは、ボタンボウフウから得られる化合物を含有する組成物である点に限り、一致する。 本件発明1の「下部尿路症状」は、請求項2に記載された「排尿症状」を包含するものであるから、甲3A発明の「排尿機能を改善する」「エキス」は、本件発明1の「下部尿路症状改善用組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲3A発明の一致点及び相違点(以下「相違点3A」という。)は、次のとおりである。 <一致点> 「ボタンボウフウから得られる化合物を含有する、下部尿路症状改善用組成物。」 <相違点> 相違点3A ボタンボウフウから得られる化合物を含む組成物が、本件発明1は、「有効成分」の「化合物F」を含有する「組成物」であるのに対し、甲3A発明は、「屋久島産のボタンボウフウエキス」である点。 (ウ)相違点3Aについて a 新規性について 甲3Aには、屋久島産のボタンボウフウエキスが記載されている(上記3A1)が、当該エキスが「化合物F」を含むことは記載されていない。 甲2Aには、長命草(ボタンボウフウ)には排尿改善作用のある「イソサミジン」と抗肥満作用のある「プテリキシン」(化合物F)が含まれることが記載されている(上記1-1(1)ウ(ア)(ア))が、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用があることは記載されていない。 また、本件特許の出願時において、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用があることが技術常識であったともいえない。 そうすると、化合物Fを下部尿路症状改善用組成物の有効成分とすること(本件発明1)と、ボタンボウフウエキスを下部尿路症状改善用組成物の有効成分とすること(甲3A発明)とは、本件特許の出願時において技術思想として異なるものであったといえるから、相違点3Aは、実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は、甲3Aに記載された発明に該当しない。 b 進歩性について 相違点3Aについて検討する。 甲2Aには、長命草(ボタンボウフウ)には排尿改善作用のある「イソサミジン」と抗肥満作用のある「プテリキシン」(化合物F)が含まれることが記載されている(上記1-1(1)ウ(ア))が、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用があることは記載されていない。 そうすると、甲2Aに記載された事項を踏まえても、甲3A発明の「屋久島産のボタンボウフウエキス」を、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」である「プテリキシン」(化合物F)とする動機付けは見いだせない。 したがって、甲3A発明の「屋久島産のボタンボウフウエキス」を、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」として「化合物F」を含有する組成物とすることは、当業者が容易になし得ることではない。 (エ)本件発明1の効果について 上記1-1(1)エに説示したように、本件発明1は、甲1A~甲5Aの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものである。 (オ)まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3Aに記載された発明に該当しないし、甲3Aに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 イ 甲4Aを主引例とする申立理由A3 (ア)甲4Aに記載された事項及び発明 a 甲4Aに記載された事項 甲4A(引山恵梨子ら、“屋久島産ボタンボウフウエキスのラット頻尿改善作用”、第20回日本排尿機能学会 プログラム・抄録集 249頁、左欄)には、以下の事項が記載されている。 4A1 「 [図:0001420341000006.jpg] 」(全文) b 甲4Aに記載された発明 甲4Aには、イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキスをラットに対して経口投与し、排尿機能へ与える作用を検討した結果、ボタンボウフウエキスは、膀胱内圧には影響せず、膀胱容量を増大させ、頻尿を改善することが示唆されたことが記載されている(上記4A1)。 そうすると、甲4Aには、以下の発明が記載されていると認められる。 「頻尿を改善するイソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキス。」(以下「甲4A発明」という。) (イ)本件発明1と甲4A発明の対比 甲4A発明の「イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキス」と、本件発明1の「化合物F」を含有する「組成物」とは、ボタンボウフウから得られる化合物を含有する組成物である点に限り、一致する。 甲4A発明の「頻尿」の「改善」は、排尿機能の改善に包含されるものであり、本件発明1の「下部尿路症状」は、請求項2に記載された「排尿症状」を包含するものである。 そうすると、甲4A発明の「頻尿を改善する」「エキス」は、本件発明1の「下部尿路症状改善用組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4A発明の一致点及び相違点(以下「相違点4A」という。)は、次のとおりである。 <一致点> 「ボタンボウフウから得られる化合物を含有する、下部尿路症状改善用組成物。」 <相違点> 相違点4A ボタンボウフウから得られる化合物を含む組成物が、本件発明1は、「有効成分」の「化合物F」を含有する「組成物」であるのに対し、甲4A発明は、「イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキス」である点。 (ウ)相違点4Aについて 相違点4Aは、相違点3Aと実質的に同じである。 そうすると、上記ア(ウ)aで説示したのと同様に、相違点4Aは、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲4Aに記載された発明に該当しない。 また、上記ア(ウ)bで説示したのと同様に、甲4A発明の「イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキス」を、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」として「化合物F」を含有する組成物とすることは、当業者が容易になし得ることではない。 (エ)本件発明1の効果について 上記1-1(1)エに説示したように、本件発明1は、甲1A~甲5Aの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものである。 (オ)まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4Aに記載された発明に該当しないし、甲4Aに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 甲5Aを主引例とする申立理由A3 (ア)甲5Aに記載された事項及び発明 a 甲5Aに記載された事項 甲5A(富永彩香ら、“女性過活動膀胱患者に対する屋久島産ボタンボウフウエキスの臨床効果”、第20回日本排尿機能学会 プログラム・抄録集 249頁、右欄)には、以下の事項が記載されている。 5A1 「 [図:0001420341000007.jpg] 」(全文) b 甲5Aに記載された発明 甲5Aには、イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキスを含有するカプセルを患者に内服させた結果、ボタンボウフウエキスは、過活動膀胱のストレスを改善したことが記載されている(上記5A1)。 そうすると、甲5Aには、以下の発明が記載されていると認められる。 「過活動膀胱のストレスを改善するイソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキスを含有するカプセル。」(以下「甲5A発明」という。) (イ)本件発明1と甲5A発明の対比 甲5A発明の「イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキス」と、本件発明1の「化合物F」を含有する「組成物」とは、ボタンボウフウから得られる化合物を含有する組成物である点に限り、一致する。 本件発明1の「下部尿路症状」は、請求項2に記載された「過活動膀胱」を包含するものであるから、甲5A発明の「過活動膀胱のストレスを改善する」「エキスを含有するカプセル」は、本件発明1の「下部尿路症状改善用組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲5A発明の一致点及び相違点(以下「相違点5A」という。)は、次のとおりである。 <一致点> 「ボタンボウフウから得られる化合物を含有する、下部尿路症状改善用組成物。」 <相違点> 相違点5A ボタンボウフウから得られる化合物を含有する組成物が、本件発明1は、「有効成分」の「化合物F」を含有する「組成物」であるのに対し、甲5A発明は、「イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキスを含有するカプセル」である点。 (ウ)相違点5Aについて 相違点5Aは、相違点3Aと実質的に同じである。 そうすると、上記ア(ウ)aで説示したのと同様に、相違点5Aは、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲5Aに記載された発明に該当しない。 また、上記ア(ウ)bで説示したのと同様に、甲5A発明の「イソサミジンを含む屋久島産のボタンボウフウエキスを含有するカプセル」を、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」として「化合物F」を含有する組成物とすることは、当業者が容易になし得ることではない。 (エ)本件発明1の効果について 上記1-1(1)エに説示したように、本件発明1は、甲1A~甲5Aの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものである。 (オ)まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲5Aに記載された発明に該当しないし、甲5Aに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも、上記(1)ア(イ)に挙げた「相違点3A」を甲3A発明との間に有するものであり、上記(1)イ(イ)に挙げた「相違点4A」を甲4A発明との間に有するものであり、上記(1)ウ(イ)に挙げた「相違点5A」を甲5A発明との間に有するものである。 したがって、上記(1)ア(ウ)~(オ)、(1)イ(ウ)~(オ)、(1)ウ(ウ)~(オ)で説示したのと同様に、本件発明2、3は、甲3A~甲5Aのいずれかに記載された発明にも該当しないし、甲3A~甲5Aのいずれかに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 1-3 申立人Aの主張について 申立人Aは、申立書Aにおいて、概略、以下の(主張1)及び(主張2)を挙げて、本件発明1~3は、新規性又は進歩性が欠如している旨、主張している。 (主張1) 甲1Aのnatoha長命草パウダーは、沖縄県産のボタンボウフウのパウダーであって、甲2Aに記載されているように、プテリキシンを含むから、本件発明1~3は、新規性又は進歩性が欠如している(申立書A7頁2~15行)。 (主張2) 甲3A~甲5Aの屋久島産のボタンボウフウエキスは、甲2Aに記載されているように、プテリキシンを含むから、本件発明1は、甲3A~甲5Aのいずれかに記載された発明であるか、甲3A~甲5Aのいずれかに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(申立書A7頁16~8頁下から6行)。 上記(主張1)及び(主張2)について検討する。 申立人Aが主張するように、甲1Aに記載されたnatoha長命草パウダー、甲3A~甲5Aに記載された屋久島産のボタンボウフウエキスは、「プテリキシン」(化合物F)を含むことが知られている(甲2A)が、上記1-1及び1-2で説示したとおり、「プテリキシン」(化合物F)に排尿改善作用がある本件発明とは技術思想として異なるものであるから、甲1A、甲3A~甲5Aにおいて、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」として「プテリキシン」(化合物F)を含む組成物が開示されているとはいえないし、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」として、「プテリキシン」(化合物F)を採用する動機付けは見いだせない。 したがって、申立人Aの主張は、いずれも採用できない。 1-4 申立人Aが申し立てる申立理由についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1~3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも、甲1A、甲3A~甲5Aのいずれかに記載された発明にも該当せず、また、本件発明1~3は、甲1A、甲3A~甲5Aのいずれかに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由A1~A3は、理由がない。 2 申立人Bが申し立てる申立理由について 2-1 甲1B~甲4Bに記載された事項及び発明 (1)甲1Bに記載された事項及び発明 ア 甲1Bに記載された事項 甲1B(“ Relaxant effects of pyranocoumarin compounds isolated from a Chinese medical plant, Bai-Hua Qian-Hu, on isolated rabbit tracheas and pulmonary arteries”, Nai-Cai ZHAO, et al., Biol Pharm Bull., 1999, Vol.22, No.9, pp.984-987, <https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb1993/22/9/22_9_984/_pdf/-char/en>)には、以下の事項が記載されている。甲1Bは外国語であるため、当審合議体による訳文にて示す。 1B1 「本研究の主な知見は、ウサギの単離気管及び肺動脈におけるPra-C及びプテリキシンの弛緩作用はPd-laの弛緩作用と同じであり、KCIで収縮させた製剤におけるそれらの作用は、アセチルコリンやフェニレフリンなどの作動薬で収縮させた製剤におけるそれらの作用よりも強力であったことである。さらに、これら3つのクマリンは30μMでKCIで収縮させた気管および肺動脈を完全に弛緩させたが、P-IIは部分的な弛緩しか示さなかった。この結果は、Pd-la、プテリキシン及びPra-Cが、気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させるBai-Hua Qian-Hu(白花前胡)の重要な有効成分であることを示す。」(986頁左欄8~19行) 1B2 「材料 Pd-la、プテリキシン、P-IIは、以前に同定が報告されており、Pucedanum praeruptorum(白花前胡)から精製された。Pra-cは、Tai-wan Qian-Huから精製された。Pd-la、プテリキシン、Pra-C、P-IIの構造を図1に示す。8-MOPは、Sigma Chemical Company(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。」(895頁左欄9~14行) 「 [図:0001420341000008.jpg] 」(895頁 図1) 1B3 「プテリキシンもKCIとアセチルコリンで収縮した気管を有意に弛緩させ、プテリキシンとPd-laに対する反応に有意差は見られませんでした。一方、KCIとアセチルコリンの両方で誘発された収縮に対するP-IIの活性はプテリキシンやPd-laよりもはるかに低く、30 μMの濃度での弛緩率はそれぞれ50.1±7.5(n=4)と21.2±3.6(n=4)でした(図3)。 」(895頁左欄下から6行~右欄2行) 「 [図:0001420341000009.jpg] 図3 40mMのKCl(A、n=4)及び10μMのアセチルコリン(B、n=4)で狭窄した気管におけるプテリキシン、P-II及びPd-laの弛緩作用。全ての値は、平均±標準偏差で表される。・・・」(896頁 図3) イ 甲1Bに記載された発明 甲1Bには、白花前胡から精製されたプテリキシン(895頁左欄9~14行)が、30μMで気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させる有効成分であること(986頁左欄8~19行)が記載されている。 ここで、「白花前胡から精製されたプテリキシン」は、「有効成分」として「30μM」含まれるものであるから、甲1Bには「白花前胡から精製されたプテリキシン」を含有する「組成物」も実質的に開示されているといえる。 そうすると、甲1Bには、以下の発明が記載されていると認められる。 「気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させる有効成分として白花前胡から精製されたプテリキシンを30μMで含有する組成物。」(以下「甲1B発明」という。) (2)甲2Bに記載された事項及び発明 ア 甲2Bに記載された事項 甲2B(特開2011-37829号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付したものである。 2B1 「【請求項1】 イソサミジンを有効成分として含有する、平滑筋弛緩剤。 ・・・ 【請求項5】 請求項1~3いずれか一項に記載の平滑筋弛緩剤を含有する、食品又は飲料。」 2B2 「【0004】 高血圧症の治療方法として、平滑筋弛緩剤による血管拡張が挙げられる。平滑筋は、血管、前立腺、膀胱、尿道、消化器官、子宮、気管支等の壁を構成する不随意筋で、各組織の機能に深く関与している。平滑筋弛緩作用を有する弛緩剤としては、クロルゾキサゾンや塩酸パパべリン等が知られている。平滑筋弛緩剤は、高血圧症以外にも、平滑筋の収縮によって引き起こされる疾患、例えば排尿障害、頻尿、切迫早産等の予防や治療に利用されている。 ・・・ 【0007】 本発明の目的は、血流の滞りによる循環障害、血圧の上昇、前立腺肥大による排尿障害、膀胱の収縮による頻尿等に対して有用な平滑筋弛緩剤、及び当該平滑筋弛緩剤の効率的な製造方法を提供することにある。 ・・・ 【0012】 本発明により、イソサミジンを有効成分として含有する平滑筋弛緩剤、当該平滑筋弛緩剤の効率的な製造方法、及び当該平滑筋弛緩剤の有効成分であるイソサミジンの効率的な製造方法が提供される。本発明の平滑筋弛緩剤は、血管機能の改善、及び平滑筋の収縮によって引き起こされる疾患の予防や治療に有用である。 ・・・ 【0019】 また、本発明の平滑筋弛緩剤は、前立腺平滑筋弛緩剤として前立腺肥大による排尿障害の予防又は治療に有用である。更には、本発明の平滑筋弛緩剤は、膀胱平滑筋弛緩剤として頻尿や尿失禁の治療や残尿感の改善に有用である。本発明の平滑筋弛緩剤は、平滑筋の収縮によって惹起されるその他の疾患、例えば、切迫早産、月経困難症、及び/又は気管支喘息の予防剤又は治療剤としても有用である。 【0020】 本発明の平滑筋弛緩剤に有効成分として含まれるイソサミジンは、本発明を特に限定するものではないが、例えばボタンボウフウ由来のものが例示され、好適には後述の「[3]本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法」に記載の方法により得られたものが例示される。本発明の平滑筋弛緩剤に用いられるイソサミジンは、必ずしも単離されたものである必要はなく、例えば含水エタノール等の水性溶媒又は無水エタノール等の無水アルコールを抽出溶媒としてボタンボウフウから抽出された抽出液や、その濃縮乾固物をそのまま本発明の平滑筋弛緩剤としてもよい。」 2B3 「【0048】 実施例2 イソサミジンを高純度で含む抽出物の製造方法 ボタンボウフウ乾燥粉末2gに対して、蒸留水40mLを添加し、攪拌しながら25℃で1時間洗浄を行った。遠心分離で抽出液と残渣を分離した後、残渣に対して同様の洗浄操作を計2回繰り返した。得られた水洗浄残渣に抽出溶媒として20%エタノール水溶液を40mL添加し、攪拌しながら25℃で1時間抽出を行った。遠心分離で抽出液と残渣を分離した後、残渣については抽出溶媒として20%エタノール水溶液を用いた上記と同様の抽出操作を2回繰り返した。計3回の抽出操作により得られた抽出液を混合し、これを濃縮乾固したものを、水洗浄残渣→20%エタノール抽出物とした。また、抽出溶媒として30%エタノール水溶液、40%エタノール水溶液、60%エタノール水溶液、80%エタノール水溶液、又は100%エタノールを20%エタノール水溶液の代わりに用いる以外は上記と同様の方法により、水洗浄残渣→30%エタノール抽出物、水洗浄残渣→40%エタノール抽出物、水洗浄残渣→60%エタノール抽出物、水洗浄残渣→80%エタノール抽出物、及び水洗浄残渣→100%エタノール抽出物をそれぞれ調製した。 【0049】 比較として、ボタンボウフウ乾燥粉末2gに対して、60%エタノール40mLを添加し、攪拌しながら25℃で1時間抽出を行った。遠心分離で抽出液と残渣を分離した後、残渣については抽出溶媒として20%エタノール水溶液を用いた同様の抽出操作を2回繰り返した。計3回の抽出操作により得られた抽出液を混合し、濃縮乾固した。 【0050】 得られた各種抽出物中のイソサミジン量をHPLCを用いて測定し、イソサミジン含有量を求めた。HPLCによる分析条件を表3に示す。また、比較として行った水洗浄を行っていないボタンボウフウ乾燥粉末からの60%エタノール抽出により得られたイソサミジン回収量を100とした時の各抽出物の回収率を算出した。 【0051】 【表3】 [図:0001420341000010.jpg] 【0052】 結果を表4に示す。 【0053】 【表4】 [図:0001420341000011.jpg] 【0054】 その結果、水洗浄を行ったボタンボウフウを20~100%のエタノール溶液で抽出することで、60%エタノール抽出物と比較してイソサミジンの純度が5.4~8.5倍高い抽出物を得られることが明らかとなった。また、水洗浄を行ったボタンボウフウを40~80%のエタノール水溶液で抽出することにより、イソサミジンを高い回収率で得られ、かつイソサミジンの純度が高い抽出物を得られることが明らかとなった。」 2B4 「【0055】 実施例3 水洗浄ボタンボウフウの60%エタノール水溶液抽出物による平滑筋弛緩作用 実施例2で得た「水洗浄残渣→60%エタノール抽出物」と同様の方法で抽出物を調製し、これを1.6mLのDMSOに溶解した。この抽出液について、実施例1と同様の方法で平滑筋弛緩作用を試験した。なお、抽出液は、終濃度0.005%、0.015%、0.05%、0.15%、0.5%となるように、緩衝液中に添加し、その平滑筋弛緩作用を確認した。結果を表5に示す。 【0056】 【表5】 [図:0001420341000012.jpg] 【0057】 表5に示す通り、水洗浄ボタンボウフウの60%エタノール水溶液抽出物に強い平滑筋弛緩作用が認められた。」 イ 甲2Bに記載された発明 甲2Bには、ボタンボウフウからイソサミジンを含む抽出物を得たこと(上記2B3)、前記抽出物は平滑筋弛緩作用を有すること(上記2B4)が記載されている。 そうすると、甲2Bには、以下の発明が記載されていると認められる。 「平滑筋弛緩作用を有するイソサミジンを含む、ボタンボウフウから得られた抽出物。」(以下「甲2B発明」という。) (3)甲3Bに記載された事項 甲3B(“Pharmacological activities of khellactones, compounds isolated from Peucedanum japonicum THUNB. and Peucedanum praeruptorum DUNN.”, Yoko Aida, et al., Methods Find Exp Clin Pharmacol., 1998, Vol.20, No.4, pp.343-351, <https://access.portico.org/Portico/auView?auId=ark:%2F27927%2Fpjbf78wfdpx>)には、以下の事項が記載されている。甲3Bは外国語であるため、当審合議体による訳文にて示す。 3B1 「まとめ ボタンボウフウ(P. japonicum THUNB.)と白花前胡(P. praeruptorum DUNN.)から単離された化合物AAとBBの鎮痙作用と抗アレルギー作用を、単離平滑筋とラットPCAで調査した。AAとBBは、単離モルモット回腸のAch及びヒスタミン誘発収縮に対して非競合的拮抗作用を示した。・・・回腸におけるBa2+(3x10-4g/ml)誘発収縮及び気管におけるヒスタミン(10-5g/ml)誘発収縮は、AA及びBBによって濃度依存的に弛緩した。・・・このように、AA及びBB の試験結果に基づいてボタンボウフウ(P. japonicum THUNB.)と白花前胡(P. praeruptorum DUNN.)から単離された化合物は、異なる種類の平滑筋に対する鎮痙効果と軽度の抗アレルギー効果を有することが確認された。これらの知見は、気管支喘息、鎮痙効果などの生薬としてのボタンボウフウ(P. japonicum THUNB.)及び白花前胡(P. praeruptorum DUNN.)の医療用途に関して興味深いものである。」(343頁の「SUMMARY」) 3B2 「化合物 ボタンボウフウの根のメタノール抽出物 (AA) と白花前胡の根のn-ヘプタン抽出物 (BB) はジメチルホスファミドに溶解された。その化学構造を図1に示す。」(344頁左欄18~24行) 「 [図:0001420341000013.jpg] 」 3B3 「AA と BB で得られた上記の結果から、ボタンボウフウと白花前胡の抽出成分であるケラクトンが、様々な種類の平滑筋に対する鎮痙効果と軽度の抗アレルギー効果を有することが確認され、これらの効果と、ボタンボウフウと白花前胡の抗アレルギー剤、鎮痛剤、風邪に伴う発熱の治療薬、又は気管支炎に対する効果や鎮痙効果としての医療用途との整合性を実証することができた。」(351頁左欄8~19行) (4)甲4Bに記載された事項 甲4B(“Urinary Bladder Contraction and Relaxation:Physiology and Pathophysiology”, KARL-ERIK ANDERSSON, et al., Physiol Rev., 2004, Vol.84, No.3, pp.935-986, <https://journals.physiology.org/doi/epdf/10.1152/physrev.00038.2003>)には、以下の事項が記載されている。甲4Bは外国語であるため、当審合議体による訳文にて示す。 4B1 「排尿を制御する方法を見つけるには、正常及び病的な状態における排尿筋平滑筋の収縮と弛緩のメカニズムに関する知識が必要である。平滑筋は、超微細構造の詳細だけでなく、収縮、調節、電気生理学的特性、及び薬物や神経伝達物質に対する感受性においても、極端な多様性を示すことはよく知られている。しかし、ほとんどの平滑筋には共通する特性がある。この事実は、他のタイプの平滑筋の知見に基づく治療法が下部尿路の平滑筋にも適用できる可能性があるため、興味深いものである。」(936頁左欄10~21行) 2-2 申立理由B1(甲第1号証を主引例とする進歩性)について (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1B発明の対比 甲1B発明の「プテリキシン」は、本件発明1の「化合物F」に相当する(895頁の図1)。 そうすると、本件発明1と甲1B発明の一致点及び相違点(以下「相違点1B」という。)は、次のとおりである。 <一致点> 「化合物Fを有効成分として含有する、組成物。」 <相違点> 相違点1B 組成物の用途が、本件発明1は、「下部尿路症状改善用」であるのに対し、甲1B発明は、「気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させる」である点。 イ 相違点1Bについて (ア)本件明細書における「下部尿路症状改善用」という用途 本件発明1の「下部尿路症状改善用」という用途について、本件明細書【0080】には、「本発明の一態様の組成物が有する下部尿路症状改善作用の程度は特に限定されないが、例えば、イソサミジンが有する下部尿路症状改善作用と同程度又はそれよりも大きい程度である。」と記載されており、これを裏付ける実施例である「例4」には、イソサミジンを含む他の化合物と比較して有意な膀胱収縮抑制効果を奏することが記載されている(本件明細書【0120】~【0124】、図4)。 (イ)当審の判断 甲2Bには、ボタンボウフウから高濃度でイソサミジンを含む抽出物が得られたこと(上記2B3)、前記抽出物は平滑筋弛緩作用を有すること(上記2B4)が記載されているが、ボタンボウフウからプテリキシンを抽出したことについては記載されていない。 甲3Bには、ボタンボウフウの根のメタノール抽出物であるAAには、プテリキシンとプテリキシンの構造異性体が含まれており(上記3B2)、前記AAは様々な異なる種類の平滑筋に対する鎮痙効果を奏すること(上記3B1、3B3)が記載されているが、プテリキシンが単独で平滑筋に対する鎮痙効果を奏する有効成分であることは記載されていない。 甲4Bには、ほとんどの平滑筋には共通する特性があり、他のタイプの平滑筋についての知見が下部尿路の平滑筋にも適用できる可能性があることが記載されている(上記4B1)から、他のタイプの平滑筋についての知見が下部尿路の平滑筋にも適用できる可能性があることが示唆されているといえる。 一方、甲4Bには、排尿を制御するためには排尿筋平滑筋の収縮のメカニズムに関する知識が必要であること、及び、平滑筋は、超微細構造の詳細だけでなく、収縮、調節、電気生理学的特性等の点において極端な多様性を示すことがよく知られていることも記載されている(上記4B1)から、排尿制御に関する排尿筋平滑筋の収縮等の特性と、他の平滑筋の収縮等の特性とは、極端な多様性を示すことも示唆されているといえる。 そうすると、甲4Bには、他のタイプの平滑筋についての知見が下部尿路の平滑筋にも適用できる可能性があることは示唆されているものの、排尿制御に関する排尿筋平滑筋の収縮等の特性と他の平滑筋の収縮の特性とは極端な多様性を示すことも示唆されているから、甲4Bには、如何なるタイプの平滑筋のどのような知見が下部尿路の平滑筋の制御等にどの程度適用できるのかといった具体的な指針が開示されているとはいえない。 上記のとおりであるから、甲1B~甲4Bの記載を踏まえても、甲1B発明の「気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させる」という用途に代えて、「気管及び肺動脈の平滑筋」とは役割も作用機能も全く異なる「排尿筋平滑筋」に係る本件発明1の「下部尿路」の「症状改善用」という用途を採用する動機づけは見いだせない。 したがって、甲1B発明において、気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させるプテリキシンを、本件発明1の「下部尿路症状改善用」という用途に用いることによって、甲1B発明を相違点1Bに係る本件発明1の構成を備えたものにすることは、当業者が容易になし得ることではない。 ウ 本件発明1の効果について 本件明細書には、実施例4において、長命草抽出物から得られた化合物のうち、長命草F(化合物F)が、他の被験物質(長命草A~E、イソサミジン)に比べて、顕著かつ有意に膀胱収縮を抑制し、排尿障害を改善する作用を有することが記載されている(【0120】~【0124】、図4)。 一方、甲1B~甲4Bを検討しても、本件発明1が、化合物Fを有効成分として用いたことによって、排尿改善を含む下部尿路症状を改善できるという効果を奏することについて、当業者が予測し得たといえる理由はない。 したがって、本件発明1は、甲1B~甲4Bの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものである。 エ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1Bに記載された発明及び甲1B~甲4Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも、上記(1)アに挙げた「相違点1B」を甲1B発明との間に有するものである。 したがって、上記(1)イ~エで説示したのと同様に、本件発明2、3は、甲1Bに記載された発明及び甲1B~甲4Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2-3 申立理由B2(甲第2号証を主引例とする進歩性)について (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲2B発明の対比 甲2B発明の「イソサミジン」を含む「ボタンボウフウから得られた抽出物」と、本件発明1の「化合物F」を含有する「組成物」とは、ボタンボウフウから得られる化合物を含有する組成物である点に限り、一致する。 本件発明1の「下部尿路症状」は、請求項2に記載された「過活動膀胱」を包含するものであって、本件明細書には、イソサミジンを含む平滑筋弛緩剤が過活動膀胱(OAB)に有効であることが記載されている(本件明細書【0009】~【0012】)から、甲2B発明の「平滑筋弛緩作用を有する」「抽出物」と、本件発明1の「下部尿路症状改善用組成物」とは、平滑筋弛緩作用を有する組成物である点に限り、一致する。 そうすると、本件発明1と甲2B発明の一致点及び相違点(以下、それぞれ「相違点2B-1」、「相違点2B-2」という。)は、次のとおりである。 <一致点> 「ボタンボウフウから得られる化合物を含む、平滑筋弛緩作用を有する組成物。」 <相違点> 相違点2B-1 組成物の用途が、本件発明1は、「下部尿路症状改善用」であるのに対し、甲2B発明は、「平滑筋弛緩作用を有する」である点。 相違点2B-2 ボタンボウフウから得られる化合物を含む組成物が、本件発明1は、「有効成分」の「化合物F」を含有する「組成物」であるのに対し、甲2B発明は、「イソサミジン」を含む「ボタンボウフウから得られた抽出物」である点。 イ 相違点2B-1及び相違点2B-2についての当審の判断 甲1Bには、白花前胡から精製されたプテリキシンが気管及び肺動脈の平滑筋を弛緩させる有効成分であることが記載されている(上記1B1~1B4)が、プテリキシンが、下部尿路症状改善作用を奏することを開示又は示唆していない。 そうすると、上記2-2(1)イ(イ)の説示も踏まえると、甲1B~甲4Bの記載を踏まえても、甲2B発明において、平滑筋弛緩作用を有するイソサミジンを含む抽出物を、「有効成分」の「化合物F」を含有するものとする動機づけは見いだせないし、甲2B発明の「平滑筋弛緩作用を有する」という用途に代えて、「排尿筋平滑筋」に係る本件発明1の「下部尿路」の「症状改善用」という用途を採用する動機づけも見いだせない。 したがって、甲2B発明において、平滑筋弛緩作用を有するイソサミジンを含む抽出物を、「有効成分」の「化合物F」を含有するものとし、それを本件発明1の「下部尿路症状改善用」という用途に用いることによって、甲2B発明を相違点2B-1及び相違点2B-2に係る本件発明1の構成を備えたものにすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 そして、上記2-2(1)ウに説示したのと同様に、本件発明1は、甲1B~甲4Bの記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものである。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2Bに記載された発明及び甲1B~甲4Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも、上記(1)アに挙げた「相違点2B-1」及び「相違点2B-2」を甲2B発明との間に有するものである。 したがって、上記(1)イ、ウで説示したのと同様に、本件発明2、3は、甲2Bに記載された発明及び甲1B~甲4Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2-4 申立人Bの主張について 申立人Bは、申立書Bにおいて、概略、以下の(主張1)及び(主張2)を挙げて、本件発明1~3は、進歩性が欠如している旨、主張している。 (主張1) 甲1Bと、甲2B~甲4Bとは、共通する技術分野に属するものであるから、甲1B発明に、甲2B~甲4Bに開示ないし示唆された技術事項を適用し、甲1B発明における「気管及び肺動脈の平滑筋弛緩剤」を「下部尿路症状改善用組成物とすることは、当業者が容易に想到し得ることである(申立書B10頁最終行~13頁17行)。 (主張2) 甲2B発明における「イソサミジン」は、ボタンボウフウの抽出成分であるケラクトンに含まれる化合物であるから、甲2B発明における「イソサミジン」に代えて「プテリキシン」が下部尿路症状を改善する作用を有するか否かを試してみようとする動機付けが存在する。そして、甲2Bと、甲1B、甲3B及び甲4Bとは、共通する技術分野に属するものであるから、甲2B発明に、甲1B、甲3B及び甲4Bに開示ないし示唆された技術事項を適用し、甲2B発明に係る平滑筋弛緩剤の有効成分である「イソサミジン」を「プテリキシン」に代えて、下部尿路症状改善用組成物の有効成分とすることは、当業者が容易に想到し得ることである(申立書B13頁18行~15頁下から4行)。 上記(主張1)及び(主張2)について検討する。 申立人Bが主張するように、甲1B~甲4Bが共通する技術分野に属するものであるとしても、上記2-1及び2-2で説示したとおり、甲1B~甲4Bのいずれも、プテリキシンが「下部尿路症状改善用」という用途を示唆しているとはいえないし、甲1B、甲3B及び甲4Bの記載を踏まえても、甲2B発明の「イソサミジン」を含む「ボタンボウフウから得られた抽出物」を、排尿改善を含む下部尿路症状を改善するための「有効成分」である「プテリキシン」(化合物F)を含む組成物とする動機付けは見いだせない。 したがって、申立人Bの主張は、いずれも採用できない。 2-5 申立人Bが申し立てる申立理由についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1~3は、甲1B又は甲2Bに記載された発明並びに甲1B~甲4Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由B1、B2は、理由がない。 第5 むすび 本件特許の請求項1~3に係る特許は、申立書A及び申立書Bに記載した特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700835

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