特許異議申立
2024-700834
ポリマー粒子及びその用途
- 審判番号
- 2024-700834
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-112742
- 登録番号
- 7443605
- 請求日
- 2024年09月04日
- 審決日
- 2025年08月27日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】松本油脂製薬株式会社
- 【異議申立人】野崎 彩
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 柴田 昌弘
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.111-YAA(C08L) / P1651.112-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7443605号発明「ポリマー粒子及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7443605号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。
特許第7443605号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7443605号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、令和5年7月10日(優先権主張 令和4年7月14日)を出願日とする出願であって、令和6年2月26日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年3月5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年9月4日に特許異議申立人 野崎 彩(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、令和7年1月10日付けで取消理由が通知され、同年3月4日に特許権者 松本油脂製薬株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月13日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、これに対し同年4月14日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年3月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 生分解性高分子(A)を含有し、三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6であり、前記生分解性高分子(A)がポリエステル系樹脂である、ポリマー粒 子。」
と記載されているのを、
「生分解性高分子(A)を含有し、三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6であり、前記生分解性高分子(A)がポリエステル系樹脂である、ポリマー粒子であって、水溶性高分子を含有する、ポリマー粒子。」に訂正する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に
「前記ポリマー粒子が界面活性剤及び水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種を含有し、」
と記載されているのを、
「前記ポリマー粒子が界面活性剤を含有し、」に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし8に対応する訂正後の請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「ポリマー粒子」が「水溶性高分子を含有する」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の明細書の【0025】~【0026】には、ポリマー粒子が生分解性高分子(A)以外に有機物を含んでいてもよいこと並びに上記有機物として水溶性高分子が挙げられることが記載されているので、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
訂正事項1による、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8の訂正についても同様である。
(イ)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項6に記載されたポリマー粒子が含有する成分の選択肢を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2に係る請求項2の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
訂正事項2による、請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3ないし8の訂正についても同様である。
(2)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正後の請求項1ないし8に対応する、訂正前の請求項1ないし8に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
生分解性高分子(A)を含有し、三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6であり、前記生分解性高分子(A)がポリエステル系樹脂である、ポリマー粒子であって、水溶性高分子を含有する、ポリマー粒子。
【請求項2】
三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における最小反射光強度測定角度(Rmin)が-35°~0°であり、かつ、-40°~60°の範囲における最大反射光強度測定角度(Rmax)が30°~60°である、請求項1に記載のポリマー粒子。
【請求項3】
平均粒子径が1~100μmである、請求項1又は2に記載のポリマー粒子。
【請求項4】
オレイン酸吸油量が30~150ml/100gである、請求項1又は2に記載のポリマー粒子。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂が、脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のポリマー粒子。
【請求項6】
前記ポリマー粒子が界面活性剤を含有し、前記ポリマー粒子に占める前記界面活性剤及び前記水溶性高分子の合計の重量割合が0.001~10重量%である、請求項1又は2に記載のポリマー粒子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリマー粒子を含む、化粧料。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のポリマー粒子を含む、コーティング組成物。
第4 特許異議申立書等に記載した申立ての理由の概要
令和6年9月4日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
なお、申立理由の番号は、当審において付したものである。
(1)申立理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし5及び7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、公然知られた発明であり、特許法第29条第1項第1号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許発明1ないし5及び7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、申立理由1は特許法第29条第1項第1号の理由であり、申立理由2は特許法第29条第1項第2号の理由である。
(2)申立理由3及び4(甲第11号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第11号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、申立理由3は新規性の理由であり、申立理由4は進歩性の理由である。
(3)申立理由5及び6(甲第12号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第12号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、申立理由5は新規性の理由であり、申立理由6は進歩性の理由である。
(4)申立理由7(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0034】、【0054】~【0064】の記載から、課題を解決するポリマー粒子として開示されているのは、特定の生分解性高分子(A)と、特定の界面活性剤と、特定の水溶性高分子と、水とを、それぞれ特定量用い、【0034】に記載される方法で得られたポリマー 粒子だけであるのに対し、本件特許の請求項1ないし6ではこれらの点が特定されていない。
さらに、本件特許の請求項1には、「三次元変角光度計を用いて入射角-45 °で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6であ」るとの要件を満たすための構成が特定されておらず、本件特許の明細 書において、上記要件を特定の範囲に調整し得るのかも不明である。
ポリマー粒子の「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の -40°~60°の範囲における反射光強度比」や「三次元変角光度計を用いて 入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における最小反射光強 度測定角度(Rmin)及び-40°~60°の範囲における最大反射光強度測 定角度(Rmax)」の調整に際しては、ポリマー粒子が単にポリエステル系樹 脂である生分解性高分子を含有すれば達成されるものではなく、製造方法を含む 種々の要因を検討し調整する必要がある。また、これらの値を特定の範囲に調整 する手段が当業者に自明であるともいえない。
したがって、本件特許の請求項1について、明細書に限定的な例示があったと しても技術的裏付けとして不十分であり、発明の詳細な説明に記載されていると いうことはできない。本件特許の請求項2ないし8についても同様である。
(5)申立理由8(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の請求項1では、粒子を構成する生分解性高分子(A)、界面活性剤及び水溶性高分子の種類と量比が特定されていない。そして、ポリマー粒子について、「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6」との要件や「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における最小反射光強度測定角度(Rmin)が-35°~0°であり、かつ、-40°~60°の範囲における最大反射光強度測定角度(Rmax)が30°~60°である」との要件を満たすための構成が特定されていないし、どのようなメカニズムで反射光強度比、最小反射光強度測定角度(Rmin)及び最大反射光強度測定角度(Rmax)を特定の範囲に調整し得るのか不明であり、技術常識から当業者に明らかであるともいえない。
したがって、明細書に限定的な例示があったとしても、技術的裏付けが不十分であり、実施例で具体的に開示された粒子以外の本件特許の請求項1に記載された発明を実施するためには、当業者であっても過度の試行錯誤を要することは明らかである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8に係る発明についても同様である。
(6)申立理由9(明確性)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1のポリマー粒子は、(a)「生分解性高分子(A)を含有」すること、(b)「生分解性高分子(A)がポリエステル系樹脂である」こと、(c)「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6」であること、を要件とするものであるが、要件(a)及び要件(b)に加えて、どのような要件・構成等を備えれば、要件(c)を満たすことが可能となるのか、課題を解決するための手段が規定されておらず、発明が明確ではない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8に係る発明についても同様である。
イ 本件特許発明2のポリマー粒子は、要件(a)~(c)に加えて、さらに要件(d)「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における最小反射光強度測定角度(Rmin)が-35°~0°であり、かつ、-40°~60°の範囲における最大反射光強度測定角度(Rmax)が30°~60°である」を満たすものとされるが、要件(a)及び要件(b)に加えて、どのような要件・構成等を備えれば、要件(d)を満たすことが可能となるのか、課題を解決するための手段が規定されておらず、発明が明確ではない。
請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3ないし8に係る発明についても同様である。
(7)証拠方法
甲第1号証:Safety Data Sheet Product name RESOBEADS BG-1030、2018年8月15日、Kobo Products, Inc.(発行者)
甲第2号証:写真 撮影対象 Kobo Products, Inc.社製「RESOBEADS BG-1030」の「batch# : PT180831」(Lot: PT180831)であるポリマー粒子及び当該ポリマー粒子が収容されていたボトル、撮影日 令和6年4月24日、撮影者 異議申立人 野崎彩、撮影場所 東京都
甲第3号証:CERTIFICATE OF ANALYSIS Product: RESOBEADS BG-1030 Lot: PT180831、2018年12月、Kobo Products, Inc.(発行者)
甲第4号証:「株式会社KOBOディスパティック About Us」https://www.kobodispatek.co.jp/about-us/、令和6年4月17日(出力日)、異議申立人 野崎彩(出力者)
甲第5号証:長野県工業技術総合センター所長様宛 依頼申請書、令和6年4月4日、作成者 異議申立人 野崎彩
甲第6号証:異議申立人 野崎彩宛 証紙貼付証明書、2024年4月10日、作成者 長野県工業技術総合センター所長
甲第7号証:長野県工業技術総合センター 保有設備詳細表示 設備名:三次元変角光度計 メーカ (株)村上色彩技術研究所 型式 GP-200、(URL:https://www.gitc.pref.nagano.lg.jp/cms/legcontents/hoyu_details.php?no=44050500)、[検索日2024年04月17日]
甲第8号証:長野県工業技術総合センターから電子情報で送付されてきた、甲5の依頼申請書に基づき、Kobo Products, Inc.社製「RESOBEADS BG-1030」の「batch# : PT180831」(Lot: PT180831)であるポリマー粒子について、(株)村上色彩技術研究所製のGP-200を使用し、入射角-45゜における-90°~90°の反射率を測定した際に得られた、反射率(相対反射光強度)の測定データを印刷した書面、異議申立人 野崎彩(印刷者)、令和6年8月22日(印刷日)
甲第9号証:長野県工業技術総合センターから電子情報で送付されてきた、甲5の依頼申請書に基づき、Kobo Products, Inc.社製「RESOBEADS BG-1030」の「batch# : PT180831」(Lot: PT180831)であるポリマー粒子について、(株)村上色彩技術研究所製のGP-200を使用し、入射角-45゜における-90°~90°の反射率を測定した際に得られた、反射率(相対反射光強度)の測定データの直交座標及び極座標プロットを印刷した書面、異議申立人 野崎彩(印刷者)、令和6年8月22日(印刷日)
甲第10号証:異議申立人 野崎 彩(作成者)、甲8及び甲9に基づき、Kobo Products, Inc.社製「RESOBEADS BG-1030」の「batch# : PT180831」(Lot : PT180831)であるポリマー粒子について、(株)村上色彩技術研究所製のGP-200を使用し、入射角-45°における-90°~90゜の反射率を測定した際に得られた、反射率(相対反射光強度)数値に係る測定データを整理して作成した電子データを印刷した書面、異議申立人 野崎彩(印刷者)、令和6年8月22日(印刷日)
甲第11号証:国際公開第2017/195642号
甲第12号証:特開2016-222897号公報
甲第13号証:特開2021-66704号公報
なお、証拠の表記については、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和7年1月10日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲1ないし甲10を証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5、7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、公然知られた発明又は公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第1号ないし第2号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし5、7に係る発明は、上記公然知られた発明又は公然実施された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲第12号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5、7ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲12に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲12に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、取消理由1及び2並びに申立理由1ないし9には、以下のとおり理由がないと判断する。
なお、取消理由1は、申立理由1及び2を包含するものであり、取消理由2は、申立理由5及び6のうち、請求項1ないし5、7及び8を対象とするものとおおむね同旨である。
1 取消理由1(甲1ないし甲10を証拠とする新規性・進歩性)並びに申立理由1及び申立理由2について
取消理由1は、申立理由1及び申立理由2を包含するものであるから併せて検討する。
(1)甲1ないし甲3に記載された事項等
甲1ないし甲3には、Kobo Products, Inc.社の製品名「RESOBEADS BG-1030」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1ないし甲3は、外国語で記載された書面であるので訳文にて示す。
ア 甲1に記載された事項
・「
[図:0001429001000001.jpg]
安全データシート
発行日 2018年8月15日 改定日 2018年8月15日 第1版
1.物質/調剤及び会社/事業体の特定
製品識別子
製品名称 RESOBEADS BG-1030
化学物質の推奨用途及び使用制限
推奨用途 化粧品添加剤
使用を避けるべき用途 情報なし
安全データシートの提供者の詳細
提供者住所
Kobo Products, Inc.
3474サウスクリントン通り
サウス プレーンフィールド ニュージャージー州 07080 米国
電話番号:1-908-757-0033
」(9/10ページ)
・「
3.組成/成分情報
化学物質名 CAS番号 重量%
ポリプチレンサクシネート 25777-14-4 98.0-99.998
」(10/10ページ)
・「
9.物理的及び化学的性質
基本的な物理的及び化学的性質に関する情報
物理的状態 固体 臭い 独特の臭い
外観 粉末 臭い閾値 データなし
色 白色
」(10/10ページ)
イ 甲2に記載された事項
・「
[図:0001429001000002.jpg]
」(1/3ページ)
・「
kobo
ビュイソニエール通りBP67660 電話:33/(0)5.62.88.77.40
31676ラベージュ・セデックス-フランス ファックス:33/(0)5.62.88.77.49
コードネーム:RESOBEADS BG-1030
製品名:ポリブチレンサクシネート
5 0 grs
バッチ#:PT180831
」(3/3ページ)
ウ 甲3に記載された事項
・「
分析証明書
製品:RESOBEADS BG-1030
INCI名:ポリブチレンサクシネート
LOT: PT180831
仕様
試験ID 試験名 最小 / 最大 /テキスト 試験結果
001A 外観 白色微粉末 試験合格
010A 乾燥減量,% 0 0.5 0.3
024Y1 メジアン粒子径(μm) 5 9 7.5
040J1 融点,℃ 110 120 115
*保管上の注意 乾燥した状態で保管し、容器を密閉するこ 試験合格
と。
製造日(月/日/年) 9/4/2018
有効期限(月/日/年) 9/3/2019
」(1ページ上部)
・「この書面に含まれる情報についてご不明の点があれば、エルシー ルイーズ、内線7106までお問い合わせください。 2018年12月
Kobo Products, Inc. 3474サウスクリントン通り サウス プレーンフィールド ニュージャージー州 07080 米国」(1ページ下部)
エ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に「LOT:PT180831」の「RESOBEADS BG-1030」について整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「製品名がRESOBEADS BG-1030で、LOT番号がPT180831の、メジアン粒子径が7.5μmのポリブチレンサクシネートの白色微粉末。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲3発明の公知・公然実施性について
甲2から、甲3発明と製品名及びLOT番号が同一であるラベルに「kobo」という記載があることが看取される。甲3には、甲3発明のポリマー粒子が2018年9月4日に製造されたこと並びに甲3の分析証明書が2018年12月に作成されたことが記載されており、問い合わせ先としてKobo Products, Inc.の担当者名と内線番号が記載されている。そして、甲1には、甲3発明と同じ製品名の「RESOBEADS BG-1030」について、推奨用途が化粧品添加剤であることが記載されており、甲1の安全データシートの発行日が2018年8月15日であることが記載されている。
甲2には、甲3発明と製品名及びLOT番号が同一であるラベルに「kobo」と記載されており、甲3の分析証明書には、その製造日が記載されていることからみて、甲3発明のポリマー粒子は、甲3の分析証明書を作成したKobo Products, Inc.が製造したものと解される。そうすると、「RESOBEADS BG-1030」という製品は、Kobo Products, Inc.が製造したものであるといえるから、甲1の安全データシートは、「RESOBEADS BG-1030」という製品について製造者であるKobo Products, Inc.が第三者に対してその安全性等に関する情報を示すものであると解され、甲1の記載から「RESOBEADS BG-1030」という製品名のポリマー粒子が、化粧品添加剤を推奨用途としてKobo Products, Inc.から、甲1の安全データシートが発行された2018年8月15日ないしその近辺で販売されていたことが推認される。さらに、甲3の分析証明書は、「RESOBEADS BG-1030」という製品名のポリマー粒子のうち、PT180831という特定のLOT番号のポリマー粒子について作成されたものであり、その内容に関する問い合わせ先としてKobo Products, Inc.の担当者名が記載されているので、当該LOT番号のポリマー粒子が、遅くとも甲3の分析証明書が作成された2018年12月頃までにKobo Products, Inc.以外の第3者に譲渡されていたといえる。
以上のことから、甲3発明のポリマー粒子は、本件特許の優先日である2022年7月14日以前に、Kobo Products, Inc.から第三者に譲渡されていたといえるから、本件特許の優先日前に公然知られ、公然実施されていたものである。
イ 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ポリブチレンスクシネート」は、本件特許発明1の「生分解性高分子(A)」及び「ポリエステル系樹脂」に相当し、甲3発明の「微粉末」は、本件特許発明1の「粒子」に相当する。そして、甲3発明の「微粉末」は、ポリブチレンスクシネートの「微粉末」であるから、「ポリマー粒子」であるといえる。
そうすると、両者は、下記の一致点で一致し、下記の相違点1-1及び相違点1-2で相違する。
<一致点>
「生分解性高分子(A)を含有し、前記生分解性高分子(A)がポリエステル系樹脂である、ポリマー粒子。」
<相違点1-1>
本件特許発明1のポリマー粒子が「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比(以下、単に「反射光強度比」という。)が0.1~0.6」であるのに対し、甲3発明のポリマー粒子は、反射光強度比が不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1のポリマー粒子が「水溶性高分子を含有する」のに対し、甲3発明のポリマー粒子は、水溶性高分子を含有するか否かが不明である点。
ウ 判断
事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。
甲3には、甲3発明のポリマー粒子が水溶性高分子を含むことは記載されていないし、甲3及び他の証拠をみても、甲3発明のポリマー粒子が水溶性高分子を含む蓋然性が高いと判断する理由もない。したがって、上記相違点1-2は実質的な相違点である。
そして、甲3及び他の証拠をみても、甲3発明において、ポリマー粒子に水溶性高分子を含有させる動機付けがない。さらに、本件特許の【0064】に記載された【表1】において、水溶性高分子を含有しない実施例7のポリマー粒子は、同じ出発物質を用いて製造された、水溶性高分子を含有する実施例4のポリマー粒子と比べて粒子の透明性及び塗膜の透明性が劣っており、ポリマー粒子を含有することによる効果は当業者が予期することができた範囲を超えるものであるといえる。
よって、甲3発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和7年4月14日付け意見書(4頁)において、生分解性高分子を含有するポリマー粒子において、水溶性高分子を含有させることは、甲11及び甲12に記載されているとおり、周知慣用の技術事項であり、水溶性高分子の含有の有無にかかわらず反射光強度比が同じであり、課題の解決及び効果を得るに際して、水溶性高分子の貢献はわずかであるから、甲3発明において上記相違点1-2の構成を採用することは当業者が容易になしえることであると主張している。
しかし、甲12には、略球状樹脂粒子を製造する際に、分散安定剤を用いること(【0021】)及び界面活性剤を併用してもよいこと(【0026】)が記載されているものの、分散安定剤として例示されているのは無機化合物のみであり(【0025】)、水溶性高分子は例示されていないし、製造時に水溶性高分子を用いたとしても、得られたポリマー粒子が水溶性高分子を必ず含有するものともいえないから(例えば、本件特許の明細書の【0060】に記載された実施例7では、得られたポリマー粒子は水溶性高分子を含有していない。)、ポリマー粒子に水溶性高分子を含有させることが甲12に記載されているとはいえない。
また、甲11には、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を製造する際に、分散剤または乳化剤として水溶性高分子を使用することが記載されているが([0013])、製造時に水溶性高分子を使用しても、得られたポリマー粒子が水溶性高分子を必ず含有するとはいえないので、甲11にポリマー粒子に水溶性高分子を含有させることが記載されているとはいえない。
よって、生分解性高分子を含有するポリマー粒子において、水溶性高分子を含有させることが周知慣用の技術事項であるとはいえず、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし8もまた、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)取消理由1並びに申立理由1及び申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第1項第1又は2号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許発明1ないし8は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由1並びに申立理由1及び申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲12を主たる証拠とする新規性・進歩性)並びに申立理由5及び申立理由6(甲12を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
取消理由2と申立理由5及び申立理由6とは、同一の文献を主たる証拠とする理由であるから、併せて検討する。
(1)甲12に記載された事項等
ア 甲12に記載された事項
甲12には、「熱可塑性樹脂からなる略球状樹脂粒子、その製造方法及びその用途」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
真球度が0.90~1.00、かつ光散乱指数が0.5~1.0、かつアマニ油吸油量が30~150mL/100gである熱可塑性樹脂からなる略球状樹脂粒子。
・・・
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、生分解性を有し、かつポリエステル系樹脂及びポリエーテル系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂である請求項1~3のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂からなる略球状樹脂粒子。
・・・
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂からなる略球状樹脂粒子を配合した化粧料。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂からなる略球状樹脂粒子を配合したコーティング材料。」
・「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い光散乱性を有する略球状の熱可塑性樹脂粒子を提供できる。また、本発明によれば、この樹脂粒子を簡便に作製可能な製造方法を提供できる。
以下のいずれかの場合、より高い光散乱性を有する略球状の熱可塑性樹脂粒子を提供できる。
(1)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂である。
(2)熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ナイロン12、ナイロン6及びポリカプロラクタムからなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂である。
(3)熱可塑性樹脂が、生分解性を有し、かつポリエステル系樹脂及びポリエーテル系樹脂、からなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂である。」
・「【0015】
更に、略球状粒子は、1~500μmの体積平均粒子径を有することが好ましい。略球状粒子は用途に応じて様々な粒子径を使用することができる。例えば、ファンデーション用途の場合は3~20μm、スクラブ剤の場合は、200~500μm、塗料用途の場合は3~100μm等、用途に応じて適宜選択することができる。平均粒子径の測定法は、実施例の欄に記載する。」
・「【0021】
(熱可塑性樹脂からなる略球状樹脂粒子の製造方法)
略球状粒子は、
(1)熱可塑性樹脂を、3-アルコキシ-3-メチル-1-ブタノール及び/又は3-アルコキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート(アルコキシ基の炭素数は1~5個)を含む溶媒、水、分散安定剤の存在下、前記熱可塑性樹脂を100℃以上の温度で乳化・分散する工程(乳化・分散工程)、
(2)その後冷却することで熱可塑性樹脂を粒子として得る工程(冷却工程)
を経ることで得ることができる。」
・「【0026】
また、本発明の方法では、上記の分散安定剤に加えて、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の界面活性剤を併用することも可能である。
アニオン性界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等がある。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー等がある。カチオン性界面活性剤としては、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等がある。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド等がある。
界面活性剤の添加量は、水に対して0.01~0.5重量%が好ましい。
これら分散安定剤や界面活性剤は、得られる樹脂粒子の粒子径及び分散安定性を考慮して、それらの選択や組合せ、使用量等を適宜調整して使用される。」
・「【0039】
(光散乱指数の測定)
(i)反射光度分布の測定
以下に示す方法により、樹脂粒子の表面で反射した光の拡散性を評価する。
樹脂粒子の反射光度分布を、三次元光度計(村上色彩研究所社製のゴニオフォトメーターGP-200)を用い、室温20℃、相対湿度65%の環境下で測定する。
【0040】
具体的には、
(1)図1に示すように、厚み2mmの黒色ABS樹脂板(タキロン社製)4の中心に、2cm角の正方形にカットした両面テープ(日東電工製 ORT-1)3を貼る。
(2)次いで、前記黒色ABS樹脂板4の黒色部分上の両面テープ3の粘着面に、樹脂粒子2を見かけ密度測定器の漏斗及び漏斗台(JIS K5101-12-1-2004)を用いて落としてから、その粘着面上の余分な樹脂粒子2を0.05~0.1MPaの圧縮空気で吹き飛ばす。
(3)前記黒色ABS樹脂板4を平坦なガラス板の上に載せ、別の平坦な5cm角の正方形の250gのガラス板を樹脂粒子2の点着面に載せ、樹脂粒子2に荷重を加えて1分間静置する。その後、再び、前記粘着面上の余分な樹脂粒子を圧縮空気で吹き飛ばす。
(4)(2)及び(3)の操作を3回繰り返した試験片を反射光度分布測定用の試験片1とする。そして、得られた試験片1の反射光を次のようにして測定する。図1に示すように、試験片1(樹脂粒子2)の法線(0°)に対して-45°の角度で、ハロゲンランプを光源とした光5を試験片1(樹脂粒子2)に入射させ、反射した反射光6の反射角-90°~+90°における光度分布を三次元光度計により測定する。測定に際しては全ての入射光が試験片1の黒色部分に入射するように試験片1の位置を調整する。なお、反射光検出は分光感度185~850nm、最高感度波長530nmの光電子増倍管により検出する。
【0041】
(ii)+45°の反射光強度100に対する0°の反射光強度の算出
前記反射光度分布の測定により得られた反射角0°、+45°における反射光強度データ(ピーク光度データ)から、反射角+45°の反射光強度(ピーク光度)を100としたときの、反射角0°における反射光強度(ピーク光度)を求める。反射角+45°(正反射方向)の反射光強度を100としたとき、反射角0°の反射光強度が100に近づくほど、化粧料に配合したときのソフトフォーカス効果が大きくなる。光散乱指数は下記式により算出する。
光散乱指数=(0°の散乱光強度)/(45°の散乱光強度)
より1に近い値を示すほど、角度依存性のない高い光散乱特性を示すといえる。」
・「【0047】
(実施例6)
1500mLオートクレーブに熱可塑性樹脂としてポリブチレンサクシネート(三菱化学社製GS-Pla(R) 品番:FZ71PD)を240g、溶剤として3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(クラレ社製 ソルフィットファイングレード)420g、イオン交換水540g、分散剤として疎水性シリカ(日本アエロジル社製AEROSIL(R)R972)を18g分散させた混合溶液を投入した。投入後、反応温度120℃、撹拌回転数600rpmで90分撹拌した。
その後、撹拌回転数を維持したまま急冷(25℃まで30分間)した後、内容物を取り出した。内容物を脱水・ろ過・乾燥に付すことで略球状粒子を得た。」
・「【0055】
【表1】
[図:0001429001000003.jpg]
」
・「【図1】
[図:0001429001000004.jpg]
」
イ 甲12に記載された発明
甲12に記載された事項を、特に実施例6について整理すると、甲12には次の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されていると認める。
<甲12発明>
「平均粒子径が12μm、かつ光散乱指数が0.522、かつアマニ油吸油量が114ml/100gであり、ポリブチレンスクシネートを含む、実施例6の略球状粒子。」(当審注:実施例6については、上記アを参照されたい。)
(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲12発明の「ポリブチレンスクシネート」は、本件特許発明1の「生分解性高分子(A)」及び「ポリエステル系樹脂」に相当し、甲12発明の「略球状粒子」は、本件特許発明1の「粒子」に相当する。そして、甲12発明の「粒子」は、ポリブチレンスクシネートを含むものであるから、「ポリマー粒子」であるといえる。
そうすると、両者は、下記の一致点で一致し、下記の相違点2-1及び相違点2-2で相違する。
<一致点>
「生分解性高分子(A)を含有し、前記生分解性高分子(A)がポリエステル系樹脂である、ポリマー粒子。」
<相違点2-1>
本件特許発明1のポリマー粒子が「反射光強度比が0.1~0.6」であるのに対し、甲12発明のポリマー粒子は「光散乱指数が0.522」である点。
<相違点2-2>
本件特許発明1のポリマー粒子が「水溶性高分子を含有する」のに対し、甲12発明のポリマー粒子は、水溶性高分子を含有するか否かが不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2-2について検討する。
甲12には、甲12発明のポリマー粒子が水溶性高分子を含むことは記載されていないし、甲12及び他の証拠をみても、甲12発明のポリマー粒子が水溶性高分子を含む蓋然性が高いと判断する理由もない。したがって、上記相違点2-2は実質的な相違点である。
そして、甲12及び他の証拠をみても、甲12発明において、ポリマー粒子に水溶性高分子を含有させる動機付けがない。さらに、上記1(2)ウで検討したとおり、ポリマー粒子が水溶性高分子を含有することによる効果は当業者が予期することができた範囲を超えるものであるといえる。
よって、甲12発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和7年4月14日付け意見書(5頁)において、甲12には、界面活性剤として、例えば、「ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩」、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」、「ポリオキシエチレンアルキルアミン」、「オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー」が使用されるとされており、これらは、水溶性の高分子であるということができる(例えば、甲11の[0013]等 )、と主張している。
しかし、甲11の[0013]には、甲12に記載された上記化合物は記載されていないので、甲12に界面活性剤として例示された上記化合物が、水溶性高分子であるという特許異議申立人の主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、上記意見書(6頁)において、ポリエステル樹脂粒子を製造する際において、分散剤又は乳化剤として、水溶性高分子を使用することは、甲11に記載されており、甲12発明において、水溶性高分子を含有させる構成とすることは、当業者が容易になしえることであると主張している。
しかし、製造時に水溶性高分子を使用しても、得られたポリマー粒子が水溶性高分子を必ず含有するとはいえないので、甲11にポリマー粒子に水溶性高分子を含有させることが記載されているとはいえない。
よって、甲12発明及び甲11の記載から、甲12発明において、水溶性高分子をポリマー粒子に含有させることは当業者が容易になしえることであるとはいえず、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は甲12発明ではなく、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし8もまた、甲12発明ではなく、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)取消理由2並びに申立理由5及び申立理由6についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許発明1ないし8は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由2並びに申立理由5及び申立理由6によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3及び申立理由4(甲11を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲11に記載された発明等
ア 甲11に記載された事項
甲11には、「化粧料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「請求の範囲
[請求項1] 脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を含む化粧料であって、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子は、体積平均粒子径が2~30μmであり、かつ粒子径1μm未満の粒子の割合が15体積%以下、粒子径30μmを超える粒子の割合が6体積%以下の粒子である、化粧料。
[請求項2] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子の10%変位圧縮強度が1MPa以上である請求項1に記載の化粧料。
[請求項3] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子が、グリコール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とを有する樹脂の粒子である請求項1又は2に記載の化粧料。
[請求項4] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子が、ポリ乳酸系樹脂粒子である請求項1又は2に記載の化粧料。
[請求項5] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を構成する脂肪族ポリエステル系樹脂が、生分解性を有する樹脂である請求項1~4のいずれか一項に記載の化粧料。」
・「[0012] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法が用いられる。例えば、まず脂肪族ポリエステル系樹脂を、該樹脂が溶解しない溶媒中、例えば水中で分散剤や乳化剤とともに融点以上の温度で溶融、撹拌した後、融点未満まで冷却して球状の微粒子が分散した分散液を得る。次いで、得られた分散液を濾過、乾燥し、必要に応じ分級することにより、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を得る方法等が挙げられる。
[0013] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を製造する際には、分散剤または乳化剤として水溶性高分子を使用することもできる。当該水溶性高分子としては、天然高分子又は合成高分子が挙げられる。天然高分子としては、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、プルラン、デキストラン、ザンタンガム等の糖類、多糖類及びその化学変性物、ゼラチン等のタンパク質が挙げられ、合成高分子としては、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。中でもエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体やポリビニルアルコールを用いることが好ましい。これらの水溶性高分子は、通常、水に溶解させて水溶液の状態で使用されるが、この場合、水100質量部に対し、1~30質量部の水溶性高分子を溶解させることが好ましく、特に、1~10質量部の水溶性高分子を溶解させることが好ましい。」
・「[0014] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子における脂肪族ポリエステル系樹脂の割合は、90質量%以上(例えば、90~100質量%)が好ましく、より好ましくは95質量%以上である。
[0015] 前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子の体積平均粒子径は2~30μmであり、下限は4μm(すなわち4μm以上)が好ましく、上限は20μm(すなわち20μm以下)が好ましい。体積平均粒子径を2μm以上とすることにより、得られる化粧料の塗布時の伸びがいっそう良好となる傾向がある。また、体積平均粒子径を30μm以下とすることにより、得られる化粧料の塗布時の感触性(異物感のなさ、ソフト感、きしみ感が無い、すべり性、滑らかさ)がいっそう良好となる傾向がある。なお、前記脂肪族ポリエステル系樹脂粒子の体積平均粒子径は、0.1gを水10gに分散させたうえで、電気検知式粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製の商品名コールターマルチサイザー)を用いて測定される。」
・「[0028] 製造例1
300mL容の撹拌機付き耐圧容器に脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、デュロメーター固さ(ショアD)60)100g、重量平均分子量15500のエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(株式会社ADEKAの商品名:プルロニックF108)15gおよび水135gを仕込み密閉した。引き続き、毎分500回転で撹拌しながら、180℃まで昇温し、容器内を180℃に保って撹拌した後、50℃まで冷却して脂肪族ポリエステル系樹脂の水分散体を取り出した。以上の一連の操作においては、脂肪族ポリエステル系樹脂に100℃以上の熱履歴が加わる時間を30分程度以下に制御した。上記で得られた水分散体を濾過、乾燥および分級処理を実施し、脂肪族ポリエステル系樹脂の球状粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)粒子は、体積平均粒子径が11.9μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が2.0体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.4体積%であり、10%変位圧縮強度が6MPa(デュロメーター固さ(ショアD)60)、円形度96であった。
[0029] 製造例2
製造例1において、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)に代えて、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸、デュロメーター固さ(ショアD)75)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸)粒子は、体積平均粒子径が8.6μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が1.8体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.5体積%であり、10%変位圧縮強度が20MPa(デュロメーター固さ(ショアD)73)、円形度94であった。」
・「[0039] 製造例4
300mL容の撹拌機付き耐圧容器に脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、デュロメーター固さ(ショアD)60)100g、重量平均分子量15500のエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(株式会社ADEKAの商品名:プルロニックF108)25gおよび水125gを仕込み密閉した。引き続き、毎分750回転で撹拌しながら、180℃まで昇温し、容器内を180℃に保って撹拌した後、50℃まで冷却して脂肪族ポリエステル系樹脂の水分散体を取り出した。以上の一連の操作においては、脂肪族ポリエステル系樹脂に100℃以上の熱履歴が加わる時間を30分程度以下に制御した。上記で得られた水分散体について濾過、乾燥および分級処理を実施し、脂肪族ポリエステル系樹脂の球状粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)粒子は、体積平均粒子径が8.8μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が12.0体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.2体積%であり、10%変位圧縮強度が6MPa(デュロメーター固さ(ショアD)60)、円形度97であった。
[0040] 製造例5
製造例4において、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)に代えて、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸、デュロメーター固さ(ショアD)75)を用いたこと、および容器内温度を190℃にした以外は製造例4と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸)粒子は、体積平均粒子径が5.6μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が11.0体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.5体積%であり、10%変位圧縮強度が20MPa(デュロメーター固さ(ショアD)73)、円形度95であった。
[0041] 製造例6
300mL容の撹拌機付き耐圧容器に脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、デュロメーター固さ(ショアD)60)100g、重量平均分子量15500のエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(株式会社ADEKAの商品名:プルロニックF108)10gおよび水140gを仕込み密閉した。引き続き、毎分500回転で撹拌しながら、140℃まで昇温し、容器内を140℃に保って撹拌した後、50℃まで冷却して脂肪族ポリエステル系樹脂の水分散体を取り出した。以上の一連の操作においては、脂肪族ポリエステル系樹脂に100℃以上の熱履歴が加わる時間を30分程度以下に制御した。上記で得られた水分散体について濾過、乾燥および分級処理を実施し、脂肪族ポリエステル系樹脂の球状粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)粒子は、体積平均粒子径が24.6μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が1.1体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が4.5体積%であり、10%変位圧縮強度が6MPa(デュロメーター固さ(ショアD)60)、円形度95であった。
[0042] 製造例7
製造例6において、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)に代えて、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸、デュロメーター固さ(ショアD)75)を用いたこと、および容器内温度を175℃にした以外は製造例6と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸)粒子は、体積平均粒子径が22.4μm、粒子径1m未満の粒子の割合が1.7体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が5.1体積%であり、10%変位圧縮強度が20MPa(デュロメーター固さ(ショアD)73)、円形度93であった。
[0043] 製造例8
300mL容の撹拌機付き耐圧容器に脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、デュロメーター固さ(ショアD)60)100g、重量平均分子量15500のエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(株式会社ADEKAの商品名:プルロニックF108)35gおよび水115gを仕込み密閉した。引き続き、毎分1,000回転で撹拌しながら、180℃まで昇温し、容器内を180℃に保って撹拌した後、50℃まで冷却して脂肪族ポリエステル系樹脂の水分散体を取り出した。以上の一連の操作においては、脂肪族ポリエステル系樹脂に100℃以上の熱履歴が加わる時間を30分程度以下に制御した。上記で得られた水分散体について濾過、乾燥および分級処理を実施し、脂肪族ポリエステル系樹脂の球状粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)粒子は、体積平均粒子径が1.6μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が19.3体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.0体積%であり、10%変位圧縮強度が6MPa(デュロメーター固さ(ショアD)60)、円形度97であった。
[0044] 製造例9
製造例8において、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)に代えて、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸、デュロメーター固さ(ショアD)75)を用いたこと、攪拌の際の回転数を毎分500回転に変更したこと、および容器内温度を190℃にした以外は製造例8と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸)粒子は、体積平均粒子径が1.9μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が20.0体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.0体積%であり、10%変位圧縮強度が20MPa(デュロメーター固さ(ショアD)73)、円形度96であった。
[0045] 製造例10
300mL容の撹拌機付き耐圧容器に脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、デュロメーター固さ(ショアD)60)100g、重量平均分子量15500のエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(株式会社ADEKAの商品名:プルロニックF108)5gおよび水115gを仕込み密閉した。引き続き、毎分250回転で撹拌しながら、140℃まで昇温し、容器内を140℃に保って撹拌した後、50℃まで冷却して脂肪族ポリエステル系樹脂の水分散体を取り出した。以上の一連の操作においては、脂肪族ポリエステル系樹脂に100℃以上の熱履歴が加わる時間を30分程度以下に制御した。上記で得られた水分散体について濾過、乾燥および分級処理を実施し、脂肪族ポリエステル系樹脂の球状粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)粒子は、体積平均粒子径が28.9μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が1.1体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が49.1体積%であり、10%変位圧縮強度が6MPa(デュロメーター固さ(ショアD)60)、円形度95であった。
[0046] 製造例11
製造例10において、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)に代えて、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸、デュロメーター固さ(ショアD)75)を用いたこと、および容器内温度を175℃にした以外は製造例10と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸)粒子は、体積平均粒子径が25.6μm、粒子径1m未満の粒子の割合が0.1体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が32.0体積%であり、10%変位圧縮強度が20MPa(デュロメーター固さ(ショアD)73)、円形度93であった。」
・「[0055] 製造例12
300mL容の撹拌機付き耐圧容器に脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、デュロメーター固さ(ショアD)60)100g、けん化度78-81、重合度2000のポリビニルアルコール(クラレの商品名:PVA420)35gおよび水115gを仕込み密閉した。引き続き、毎分500回転で撹拌しながら、180℃まで昇温し、容器内を180℃に保って撹拌した後、50℃まで冷却して脂肪族ポリエステル系樹脂の水分散体を取り出した。以上の一連の操作においては、脂肪族ポリエステル系樹脂に100℃以上の熱履歴が加わる時間を30分程度以下に制御した。上記で得られた水分散体について濾過、乾燥および分級処理を実施し、脂肪族ポリエステル系樹脂の球状粒子を得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート)粒子は、体積平均粒子径が15.5μm、粒子径1μm未満の粒子の割合が1.0体積%、粒子径30μmを超える粒子の割合が0.2体積%であり、10%変位圧縮強度が6MPa(デュロメーター固さ(ショアD)60)、円形度96であった。」
イ 甲11に記載された発明
甲11に記載された事項を、特に製造例1、2及び4ないし12について整理すると、甲11には、次の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認める。
<甲11発明>
「脂肪族ポリエステル系樹脂粒子であって、前記脂肪族ポリエステル系樹脂が、ポリブチレンサクシネート又はポリ乳酸である、製造例1、2及び4ないし12で得られた脂肪族ポリエステル系樹脂粒子。」(当審注:製造例1、2及び4ないし12については、上記アを参照。)
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲11発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1のポリマー粒子が「反射光強度比が0.1~0.6」であるのに対し、甲11発明のポリマー粒子は反射光強度比が不明である点。
イ 判断
上記相違点3について検討する。
甲11には、甲11発明の粒子の反射光強度比が記載されていない。そして、甲11及び他の証拠をみても、甲11発明の粒子の反射光強度比が0.1~0.6であると解する具体的な根拠があるわけではないから、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲11及び他の証拠をみても、甲11発明において、本件特許発明1の反射光強度比が0.1~0.6であるという発明特定事項を満たすようにする動機付けがない。さらに、本件特許発明1のポリマー粒子は、反射光強度比が0.1~0.6であることにより、透明性に優れるという当業者が予期することができた範囲を超える効果を奏するものであるといえる。
よって、甲11発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、本件特許発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲11発明ではなく、甲11発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(39-42頁)及び令和7年4月14日付け意見書(4-5頁)において、甲11発明の粒子は、1)ポリマー粒子の組成、形状及び用途において、本件特許発明1の粒子と差異がないこと、並びに、2)本件特許の明細書の【0034】記載の工程1~3に相当する工程を有する製造方法で製造されているので、実質的に同じ製造方法で得られたポリマー粒子であることから、甲11発明の粒子は反射光強度比が本件特許発明1のポリマー粒子と同様の範囲にあるといえ、相違点3は実質的な相違点ではないと主張している。
しかし、甲11には、脂肪族ポリエステル系樹脂粒子を製造する際に、分散剤または乳化剤として水溶性高分子を使用することが記載されているものの([0013])、製造時に水溶性高分子を使用しても、得られたポリマー粒子が水溶性高分子を必ず含有するとはいえないので(例えば、本件特許の明細書の【0060】に記載された実施例7では、得られたポリマー粒子は水溶性高分子を含有していない。)、甲11発明のポリマー粒子は、本件特許発明1のポリマー粒子と組成において差異がないとはいえないし、仮に、ポリマー粒子の組成、形状及び用途において差異がないとしても、これらに差異がなければ、反射光強度比が同様の範囲にあると解する理由もない。
また、本件特許の明細書の【0034】には、「本発明のポリマー粒子の製造方法は、生分解性高分子(A)と、界面活性剤と、水溶性高分子と、水とを混合し、予備混合液を得る工程1と、工程1で得られた予備混合液を加熱攪拌し、加熱分散液を得る工程2と、工程2で得られた加熱分散液を冷却する工程3とを含む、粒子の製造方法であると特定の反射光強度比を有する本発明のポリマー粒子を効率よく製造できるため好ましい。」と、本件特許発明の粒子が工程1~3を含む方法で製造できることが記載されているのみであるから、甲11発明の粒子が本件特許の明細書の【0034】に記載された製造方法で製造されていることをもって、甲11発明の粒子の反射光強度比が、本件特許発明1のポリマー粒子と同様の範囲にあるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、上記イの判断に影響するものではない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は甲11発明ではなく、甲11発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし8もまた、甲11発明ではなく、甲11発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由3及び申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許発明1ないし8は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由3及び申立理由4によっては取り消すことはできない。
4 申立理由7(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許の明細書の【0004】の記載からみて、本件特許発明1ないし6が解決しようとする課題は、「生分解性を有し、透明性に優れたポリマー粒子を提供する」ことであり、本件特許発明7が解決しようとする課題は、「生分解性を有し、透明性に優れたポリマー粒子を含む化粧料を提供する」ことであり、本件特許発明8が解決しようとする課題は、「生分解性を有し、透明性に優れたポリマー粒子を含むコーティング組成物を提供する」ことであると認められる(以下、これらの課題をまとめて「発明の課題」という。)。
(4)サポート要件の判断
本件特許の明細書の【0006】、【0010】、【0012】~【0014】、【0020】、【0021】、【0025】~【0027】、【0030】、【0032】、【0046】、【0048】~【0050】には、本件特許発明1ないし8に対応する記載がある。そして、同【0010】には、反射光強度比について具体的な調整すべき範囲が、その理由とともに記載されており、同【0038】~【0044】には、粒子の製造時に、所定のHLB値のノニオン界面活性剤を用いること、工程1における界面活性剤及び水溶性高分子の混合割合を所定の範囲にすること、並びに、工程2における加熱温度及び加熱時間を所定の範囲にすることにより、特定の反射光強度比を有する粒子が得られやすくなることが記載されており、同【0047】~【0065】には、これらの条件を満たす実施例1~8の粒子が透明性に優れるとともに生分解性を有することが記載され、これらの条件を満たさない比較例1及び比較例2の粒子では透明性が劣ることが記載されている。
そうすると、生分解性高分子を含有し、反射光強度比が0.1~0.6である粒子であれば、生分解性を有し、透明性に優れると当業者は認識する。
そうすると、本件特許発明1は、上記事項を全て満たし、さらに限定するものであるから、発明の詳細な説明の記載から当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである本件特許発明2ないし8についても同様である。
よって、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合し、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足する。
(5)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書(49~55頁)及び令和7年4月14日付け意見書(6~8頁)において、上記第4 1(4)の主張をしているので、検討する。
本件特許の明細書の【0010】には、反射光強度比が所定の範囲であることにより、透明性に優れることがその理由とともに記載されており、同【0012】~【0017】には、生分解性高分子(A)として使用できる化合物が具体的に記載されており、同【0047】~【0065】には、これらの条件を満たす実施例1~8の粒子が透明性に優れるとともに、生分解性を有することが具体的に記載されているのであるから、明細書に限定的な例示があったとしても技術的裏付けとして不十分であるという特許異議申立人の主張は、採用することができない。また、反射光強度比、最小反射光強度測定角度(Rmin)及び最大反射光強度測定角度(Rmax)を特定の範囲とするための構成が特許請求の範囲に記載されていないことのみをもって、サポート要件を満たしていないとすることはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
(6)申立理由7についてのむすび
上記(4)及び(5)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由7によって取り消すことはできない。
5 申立理由8(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし8は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載を要する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、生分解性高分子(A)、界面活性剤及び水溶性高分子として使用できる化合物が具体的に記載されており(【0012】~【0017】、【0025】、【0027】)、本件特許発明の粒子を製造する方法が記載されており、粒子の製造時に、所定のHLB値のノニオン界面活性剤を用いること、工程1における界面活性剤及び水溶性高分子の混合割合を所定の範囲にすること、並びに、工程2における加熱温度及び加熱時間を所定の範囲にすることにより、特定の反射光強度比を有する粒子が得られやすくなることが記載されており(【0034】~【0044】)、本件特許発明1ないし6の発明特定事項を満たす具体的な実施例が示されており、【表1】の実施例1ないし8の粒子の評価結果から、生分解性高分子を含有し、反射光強度比が所定の範囲である粒子であれば、透明性に優れるとともに生分解性を有することが示されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8を生産及び使用することができる程度の記載があるといえ、本件特許発明1ないし8に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書(55~56頁)及び令和7年4月14日付け意見書(8~9頁)において、上記第4 1(5)の主張をしているので、検討する。
本件特許の明細書には、上記(2)で記載した事項が記載されているので、本件特許の請求項1では、粒子を構成する生分解性高分子(A)、界面活性剤及び水溶性高分子の種類と量比が特定されていないとしても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8を生産及び使用することができるといえるから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、上記(2)の判断に影響するものではない。
(4)申立理由8についてのむすび
上記(2)及び(3)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由8によって取り消すことはできない。
6 申立理由9(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の明細書の【0019】には、「反射光強度比は、-40°~60°の範囲における反射光強度の最小値と最大値の比であり、実施例に記載の方法によるものである。」と記載されており、同【0049】には、反射光強度比の定義とその具体的な測定方法が記載されている。そして、これらの記載から、本件特許の請求項1に記載された「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における反射光強度比が0.1~0.6」であるポリマー粒子が、具体的にどのようなポリマー粒子を包含するものであるのかは、当業者の出願時の技術常識を参酌すれば明確であるといえ、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許の請求項2に記載された「三次元変角光度計を用いて入射角-45°で光照射した際の-40°~60°の範囲における最小反射光強度測定角度(Rmin)が-35°~0°であり、かつ、-40°~60°の範囲における最大反射光強度測定角度(Rmax)が30°~60°である」という発明特定事項についても、本件特許の明細書の上記記載を考慮し、当業者の出願時の技術常識を参酌すれば明確であるといえ、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書(57~58頁)及び令和7年4月14日付け意見書(9~11頁)において、上記第4 1(6)の主張をしているので、検討する。
特許異議申立人は、どのような要件・構成等を備えれば、本件特許発明1の構成を満たすことが可能となるのか、課題を解決するための手段が請求項1には規定されておらず、発明が明確でないと主張するが、本件特許の明細書の【0049】には、反射光強度比の定義とその具体的な測定方法が記載されており、請求項1の記載自体は明確である。また、本件特許発明2の構成についても、同様に請求項2の記載自体は明確である。
そうすると、本件特許の請求項1及び請求項2に、どのような要件・構成等を備えれば、本件特許発明1及び本件特許発明2の構成を満たすことが可能となるのかが規定されていないとしても、本件特許の請求項1及び請求項2の記載自体が明確であるのだから、第三者に不測の不利益を与えるほど不明確でなるとはいえない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8に係る発明並びに請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3ないし8に係る発明についても同様である。
(4)申立理由9についてのむすび
上記(2)及び(3)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由9によって取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由1及び取消理由2並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700834