特許異議申立
2026-700198
透水性付与剤及びその利用
- 審判番号
- 2026-700198
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-539949
- 登録番号
- 7736970
- 請求日
- 2026年03月06日
- 審決日
- 2026年05月25日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】松本油脂製薬株式会社
- 【異議申立人】渡邉 規雄
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 中野 浩昌
- 審判官 綿引 隆
- 分類
- P1651.113-Y (D06M) / P1651.121-Y (D06M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7736970号発明「透水性付与剤及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7736970号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許7736970号の請求項1~10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和7年2月20日(優先権主張 令和6年2月29日)を国際出願日とする出願であって、令和7年9月1日にその特許権の設定登録がされ、令和7年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和8年3月6日に特許異議申立人 渡邉規雄(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
P元素を含むアニオン性界面活性剤(P)と、S元素を含むアニオン性界面活性剤(S)(前記界面活性剤(P)を除く)及びノニオン性界面活性剤(N)から選ばれる少なくとも1種と、を含む透水性付与剤であって、
前記透水性付与剤の不揮発分の酸価が0.5~150KOHmg/gであり、
前記活性剤(P)が、下記一般式(1)で示される化合物(A)及び下記一般式(2)で示される化合物(B)を必須に含み、下記一般式(3)で示される化合物(C)を任意で含み、
前記ノニオン性界面活性剤(N)のHLBが7~11であり、前記前記界面活性剤(S)が多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート塩(S-2)を含む、
透水性付与剤。
【化1】
[図:0001436232000001.jpg]
(式中、R1は炭素数16~22の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属又は有機アミン塩である。M2は、水素原子、アルカリ金属又は有機アミン塩である。)
【化2】
[図:0001436232000002.jpg]
(式中、R2及びR3は炭素数16~22の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】
[図:0001436232000003.jpg]
(式中、R4は炭素数16~22の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又は(OA)mR5である。R5は炭素数16~22の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の合計に占めるアニオン性界面活性剤の割合〔アニオン/(アニオン+ノニオン)〕が50~100重量%である、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項3】
前記透水性付与剤が前記界面活性剤(S)を含み、前記界面活性剤(S)がジアルキルスルホコハク酸及び/又はその塩(S-1)を含む、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項4】
前記透水性付与剤が前記ノニオン性界面活性剤(N)を含み、前記ノニオン性界面活性剤(N)のHLBが7~11である、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項5】
前記透水性付与剤が前記界面活性剤(S)を含み、前記界面活性剤(S)が多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート塩(S-2)を含む、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項6】
経血透過性用である、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項7】
前記透水性付与剤の不揮発分の濃度が50~100重量%である、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の透水性付与剤が原料繊維に付与されてなる、繊維。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の透水性付与剤が付与されてなる、不織布。
【請求項10】
請求項9に記載の不織布を用いた吸収性物品。」
第3 特許異議申立ての概要
申立人は、甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」といい、合わせて「甲号証」という。)を提出するとともに、特許異議申立書において、以下の申立理由を主張した。
1 申立理由1
本件発明1~10は、甲1に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~10に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2
本件発明1~10は、甲1~甲3に記載された発明に基づいて、本件特許についての出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 証拠方法
甲1:国際公開第2016/002476号
甲2:特開2016-69751号公報
甲3:特開2017-210693号公報
第4 甲号証の記載と甲号証に記載された発明等
1 甲1
(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。
「請求の範囲
[請求項1] アニオン界面活性剤を含む繊維処理剤であって、
イオン交換水を添加して繊維処理剤の不揮発分濃度を1重量%としたときの電気伝導度(25℃)が1300~3000μS/cmである、繊維処理剤。
・・・
[請求項3] 前記アニオン界面活性剤が、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含む、請求項1又は2に記載の繊維処理剤。
成分(A):炭素数6~10の炭化水素基を有するリン酸エステル塩及び/又は炭素数6~10の炭化水素基を有するポリオキシアルキレン基含有リン酸エステル塩
成分(B):炭素数11~22の炭化水素基を有するリン酸エステル塩及び/又は炭素数11~22の炭化水素基を有するポリオキシアルキレン基含有リン酸エステル塩
成分(C):スルホコハク酸ジエステル塩
・・・
[請求項6] 末端水酸基を2つ以上有し、かつ分子量が500以上であるノニオン界面活性剤(D1)、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸(またはジカルボン酸誘導体)との縮合物(D2)及び当該縮合物(D2)の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(D3)から選ばれる少なくとも1種の成分(D)をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の繊維処理剤。」
「発明の効果
[0015] 本発明の繊維処理剤は、繊維に対して、優れた瞬時透水性、耐久透水性を付与でき、経時後においてもそれら効果が持続し、優れたカード通過性をも付与できる。
本発明の繊維処理剤が付着した透水性繊維は、優れた瞬時透水性、耐久透水性、カード通過性を有し、経時後においても瞬時透水性や耐久透水性の効果が持続される。
本発明の不織布の製造方法によれば、優れた瞬時透水性、耐久透水性を有し、経時後においても瞬時透水性や耐久透水性の効果が持続される不織布を得ることができる。[0017][アニオン界面活性剤]
アニオン界面活性剤は、前述の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むことが好ましい。このように特定のアニオン界面活性剤を、特定の電気伝導度になる範囲で含むことにより、一層優れた瞬時透水性、耐久透水性を付与でき、経時後においてもそれら効果が持続し、優れたカード通過性をも付与できる。次に成分(A)、(B)、(C)について、説明する。
・・・
[0031]((成分(B))
成分(B)は、炭素数11~22の炭化水素基を有するリン酸エステル塩及び/又は炭素数11~22の炭化水素基を有するポリオキシアルキレン基含有リン酸エステル塩からなる成分である。成分(B)は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。成分(B)としては、、下記一般式(3)で示される化合物及び下記一般式(4)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、下記一般式(3)で示される化合物と下記一般式(4)で示される化合物をともに含むことがさらに好ましい。
[0032]
[化3]
[図:0001436232000004.jpg]
[0033][化4]
[図:0001436232000005.jpg]
(式中、R2は炭素数11~22の炭化水素基である。A2Oは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、pは0~15の整数である。qは1~2の整数である。M2は、水素原子、アルカリ金属又はNRaRbRcRdで示される基である。Ra、Rb、Rc及びRdは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はポリオキシアルキレン基である。Q2は、M2又はR2O(A2O)pである。Zは1又は2である。)
[0034] 一般式(3)及び一般式(4)中、R2は炭素数11~22の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。R2の炭素数は11~18が好ましく、12~14がさらに好ましい。R2の炭素数が11未満では、耐久透水性が不足することがある。一方、R2の炭素数が22超であると、瞬時の透水性と制電性が不足することがある。R2の炭素数は分布があってもよく、R2は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。
A2Oは炭素数2~4のオキシアルキレン基である。オキシアルキレン単位の繰り返し数であるpは0~15の整数であり、0~10が好ましく、0~3がさらに好ましく、pが0でポリオキシアルキレン基を含有しない場合が特に好ましい。(A2O)pは、オキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位を50モル%以上有するポリオキシアルキレン基が好ましい。
[0035] qは1~2の整数である。q=2の場合、成分(B)はジリン酸エステルとなる。ジリン酸エステルを構成する2つの有機基[R2O(A2O)p]-は、同一でもよく、異なっていてもよい。
[0036] M2は、水素原子、アルカリ金属又はNRaRbRcRdで示される基である。Ra、Rb、Rc及びRdは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はポリオキシアルキレン基である。M2の具体的な例示としては、M1で記載したものと同様なものが挙げられる。
[0037] これらの中でも、本発明の効果をより発揮できる点から、成分(B)は、ラウリルホスフェートカリウム塩、ミリスチルホスフェートカリウム塩、セチルホスフェートカリウム塩、ステアリルホスフェートカリウム塩、ベヘニルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレン2モル付加セチルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加ラウリルホスフェートジエタノールアンモニウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加ラウリルホスフェートトリエタノールアンモニウム塩が好ましく、ラウリルホスフェートカリウム塩がさらに好ましい。
[0038] 成分(B)は、一般式(3)においてq=1で示されるモノリン酸エステル化合物(単にモノエステル(B1)ということがある)、一般式(3)においてq=2で示されるジリン酸エステル化合物(単にジエステル(B2)ということがある)、一般式(4)においてZ=1で示されるピロリン酸エステル化合物、一般式(4)においてZ=2で示されるトリリン酸エステル化合物の混合物であることが好ましい。なお、ピロリン酸エステル化合物とトリリン酸エステル化合物を合わせて、単にポリエステル(B3)ということがある。
成分(B)に占めるモノエステル(B1)の重量割合は、20~95重量%が好ましく、40~93重量%がより好ましく、60~90重量%がさらに好ましい。該重量割合が20重量%未満の場合、電気伝導度が低くなり、カード工程における静電気抑制性が悪くなることがある。該重量割合が95重量%超の場合、電気伝導度が高くなり、カード通過性が悪くなることがある。
成分(B)に占めるジエステル(B2)の重量割合は、8~60重量%が好ましく、9~45重量%よりが好ましく、10~30重量%がさらに好ましい。該重量割合が8重量%未満の場合、耐久透水性が悪くなることがある。なお、通常の成分(B)の製造方法では、成分(B)に占めるジエステル(B2)の重量割合が60重量%超になることはない。
成分(B)に占めるポリエステル(B3)の重量割合は、0~45重量%が好ましく、0~30重量%がより好ましく、0~15重量%がさらに好ましい。該重量割合45重量%超の場合、瞬時の透水性が悪くなることがある。
[0039] 成分(B)の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。例えば、成分(B)の製造方法は、R2O(A2O)pHで示される有機ヒドロキシル化合物と無水燐酸P2O5とを反応させて反応物を得る工程(I)を含むものである。また、工程(I)において、無機燐酸や水を加えて反応してもよい。成分(B)の製造方法は、工程(I)の後、水を前記反応物に添加して加水分解する工程(II)を含んでもよい。工程(II)を含むことで、有機燐酸化合物である成分(B)に含まれるポリエステルの比率を調整することができる。前記反応物に添加する水の量は、前記有機ヒドロキシル化合物に対して、0.01~1モルが好ましく、0.03~0.8モルがより好ましく、0.05~0.5モルがさらに好ましく、0.07~0.3モルが特に好ましい。水の添加量が0.01モル未満及び1モル超では、ポリエステルの量の調節が困難となる場合がある。成分(B)の製造方法としては、工程(I)又は工程(II)の後、M2を有するアルカリ化合物で中和する工程(III)を含むことが好ましい。アルカリ化合物の量は、ヒドロキシ化合物に対して、0.3~2モルが好ましく、0.4~1.8がより好ましく、0.5~1.7がさらに好ましく、0.6~1.6が更に好ましい。中和度は酸価で測定することができる。成分(B)の酸価は、80KOHmg/g以下が好ましく、70KOHmg/g以下がより好ましく、60KOHmg/g以下がさらに好ましく、10~55KOHmg/gが特に好ましい。尚、酸価は、水などの他の成分を含まない成分(B)単独での測定値を表す。」
「[0041](成分(C))
成分(C)は、スルホコハク酸ジエステル塩である。・・・
[0043] 成分(C)としては、例えば、ジヘキシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ジ2-エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジデシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩、ジ椰子アルキルスルホサクシネートナトリウム塩、ジトリデシルスルホサクシネートナトリウム塩、ジミリスチルスルホサクシネートナトリウム塩、ジセチルスルホサクシネートナトリウム塩、ジステアリルスルホサクシネートナトリウム塩、ジエイコシルスルホサクシネートナトリウム塩等が挙げられる。」
「[0046] アニオン界面活性剤としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、前述した成分以外のその他アニオン界面活性剤を含有してもよい。その他アニオン界面活性剤としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ベヘン酸塩、オレイン酸塩等のカルボン酸塩、ヘキシルサルフェートナトリウム塩等の低級脂肪族アルコール硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、ひまし油硫酸化油等の硫酸化油等が挙げられる。
[0047][成分(D)]
本発明の繊維処理剤は、優れた耐久透水性を付与できる点から、末端水酸基を2つ以上有し、かつ分子量が500以上であるノニオン界面活性剤(D1)、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸(またはジカルボン酸誘導体)との縮合物(D2)及び当該縮合物(D2)の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(D3)から選ばれる少なくとも1種の成分(D)をさらに含むことが好ましい。
[0048](ノニオン界面活性剤(D1))
末端水酸基を2つ以上有し、かつ分子量が500以上であるノニオン界面活性剤(D1)としては、二価アルコールのアルキレンオキシド付加物、三価以上の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物、三価以上の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の末端水酸基の一部を脂肪酸でエステル化した化合物、ジカルボン酸のアルキレンオキシド付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物等が挙げられる。なお、ノニオン界面活性剤(D1)は、縮合物(D2)及びエステル(D3)を除くものとする。」
「[0053] ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリン縮合物と脂肪酸をエステル化した化合物である。グリセリンの縮合物としては、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ウンデカングリセリン、トリデカグリセリン、デトラデカグリセリン、ペンタデカグリセリン、ヘキサデカグリセリン、ヘプタデカグリセリン、オクタデカグリセリン等が挙げられる。
脂肪酸の炭素数には分布があってもよい。また、脂肪酸は、飽和であっても不飽和あってもよく、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。」
「実施例
[0081] 以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。なお、例中の「部」および「%」とあるのは、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
[0082](実施例1~11及び比較例1~9)
表1~2に示す各成分及び水を混合して、繊維処理剤全体に占める不揮発分の重量割合が25重量%の実施例1~11、比較例1~9の繊維処理剤をそれぞれ調製した。得られた繊維処理剤をそれぞれ約60℃の温水で不揮発分の重量割合が0.9重量%の濃度になるよう希釈して希釈液を得た。
次に、繊維本体300gに対しそれぞれの繊維処理剤の希釈液150gをディップ給油法で付着させ、透水性繊維に付着する繊維処理剤の不揮発分の付着量を0.45重量%にした。繊維本体は、繊維処理剤等の繊維処理剤が付着していない、ポリプロピレン(芯)-ポリエチレン(鞘)系複合繊維であり、単繊維繊度が2.2Dtex、繊維長が38mmのものであった。それぞれの繊維処理剤の希釈液を付着させた繊維を、80℃の温風乾燥機の中に2時間入れた後、室温で8時間以上放置して乾燥させて、透水性繊維を得た。
[0083] 得られた透水性繊維をそれぞれ開繊工程およびカード試験機を用いたカード工程に通し、目付25g/m2のウェブを作製した。その際、それぞれの透水性繊維について、下記に示す評価方法でカード工程における物性(制電性、シリンダー巻付き、スカム発生の有無、ウェブの地合)を評価した。得られたウェブをエアースルー型熱風循環乾燥機中135℃で熱処理してウェブを固定し、不織布を得た。得られた不織布について、下記に示す評価方法で物性(瞬時透水性、耐久透水性)をそれぞれ評価した。その結果を表3~4に示す。
・・・
[0092][表1]
[図:0001436232000006.jpg]
・・・
[0094] なお、表1における各成分は以下の通りである。
成分a1:ヘキシルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(A1):ジエステル(A2):ポリエステル(A3)=40:50:10)
成分a2:ポリオキシエチレン1モルデシルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(A1):ジエステル(A2):ポリエステル(A3)=40:50:10)
成分a3:オクチルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(A1):ジエステル(A2):ポリエステル(A3)=40:50:10)
成分b1:ラウリルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(B1):ジエステル(B2):ポリエステル(B3)=70:28:2)
成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(B1):ジエステル(B2):ポリエステル(B3)=35:45:20)
成分b3:ポリオキシエチレン3モルラウリルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(B1):ジエステル(B2):ポリエステル(B3)=35:45:20)
なお、成分a1~a3において、ポリエステル(A3)に占めるピロリン酸エステル化合物の割合は、全て95重量%以上であった。同様に、成分b1~b3において、ポリエステル(B3)に占めるピロリン酸エステル化合物の割合は、全て95重量%以上であった。
[0095]
成分c1:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
成分c2:ジトリデシルスルホサクシネートナトリウム塩
成分c3:ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩
成分d1:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりベヘン酸ステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル
成分d2:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりベヘン酸1モル当量で封鎖したエステル
成分d3:ヘキサグリセリンステアレエート(平均分子量900)
成分d4:ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレエート(平均分子量1300)
成分e1:ラウリル硫酸ナトリウム塩
成分e2:オレイル硫酸ナトリウム塩
成分f1:ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン変性シリコーン(Si元素含有率:20%、POE含有率:100%、分子量:10000)。なお、POE含有率は、ポリオキシアルキレン中のポリオキシエチレンの含有率(重量%)を示す。
成分f2:ポリオキシエチレン(5モル)sec-トリデシルエーテル(平均分子量400)
成分x:無機リン酸カリウム塩」
(2) 甲1に記載された発明
上記(1)の記載によれば、甲1には次の事項が記載されている。
ア [0015]によれば、甲1には、繊維に対して、優れた瞬時透水性、耐久透水性を付与できる繊維処理剤が記載されている。
イ 繊維処理剤の実施例は、[0082]によれば、表1に示す各成分及び水を混合したものであり、当該表1と、[0094]及び[0095]によれば、甲1には、実施例6及び実施例8に対応する、以下の発明(それぞれ、「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明1]
以下の成分を有し、繊維に対して、優れた瞬時透水性、耐久透水性を付与できる繊維処理剤。
成分a3:オクチルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(A1):ジエステル(A2):ポリエステル(A3)=40:50:10)
成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(B1):ジエステル(B2):ポリエステル(B3)=35:45:20)
成分c2:ジトリデシルスルホサクシネートナトリウム塩
成分d1:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりベヘン酸ステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル
[甲1発明2]
以下の成分を有し、繊維に対して、優れた瞬時透水性、耐久透水性を付与できる繊維処理剤。
成分a3:オクチルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(A1):ジエステル(A2):ポリエステル(A3)=40:50:10)
成分b1:ラウリルホスフェートカリウム塩
(モノエステル(B1):ジエステル(B2):ポリエステル(B3)=70:28:2)
成分c1:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
成分d3:ヘキサグリセリンステアレエート(平均分子量900)
2 甲2
(1) 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
親水性材料を含む繊維処理剤が付着している繊維を含む繊維ウエブ又は不織布原反の一面に、電磁波の照射を受けることで発熱する材料を部分的に施し、
前記材料が発熱する波長の電磁波を照射して該材料を発熱させ、それによって前記繊維処理剤が付着している前記繊維の親水度を低下させる工程を有する、不織布の製造方法。
【請求項2】
前記発熱する材料が活性炭である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記繊維処理剤が以下の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する請求項1又は2に記載の製造方法。
(A)ポリオルガノシロキサン。
(B)リン酸エステル型のアニオン界面活性剤。
(C)下記の一般式(1)で表されるアニオン界面活性剤。
【化1】
[図:0001436232000007.jpg]
(式中、Zはエステル基、アミド基、アミン基、ポリオキシアルキレン基、エーテル基若しくは二重結合を含んでいてもよい、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル鎖を表し、R1及びR2はそれぞれ独立に、エステル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基、エーテル基若しくは二重結合を含んでいてもよい、炭素数2以上16以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表し、Xは-SO3M、-OSO3M又は-COOMを表し、MはH、Na、K、Mg、Ca又はアンモニウムを表す。)」
「【0048】
〔(B)成分〕
(B)成分であるリン酸エステル型のアニオン界面活性剤は、原綿のカード機通過性やウエブの均一性等の特性を改良し、これによって本発明の親水性不織布の生産性の向上と品質低下の防止を目的として、繊維処理剤に配合されるもので、アニオン界面活性剤の一種である。
リン酸エステル型のアニオン界面活性剤の具体例としては、ステアリルリン酸エステル、ミリスチルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステル、パルミチルリン酸エステル、ステアリルエーテルリン酸エステル、ミリスチルエーテルリン酸エステル、ラウリルエーテルリン酸エステル、パルミチルエーテルリン酸エステル等の飽和の炭素鎖を持つものや、オレイルリン酸エステル、パルミトレイルリン酸エステル、オレイルエーテルリン酸エステル、パルミトレイルエーテルリン酸エステル等の不飽和の炭素鎖及び、これらの炭素鎖に側鎖を有するものが挙げられる。より好ましくは、炭素鎖が16~18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩である。尚、アルキルリン酸エステルの塩としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、アンモニア、各種アミン類等が挙げられる。リン酸エステル型のアニオン界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。」
(2) 甲2に記載された事項
上記(1)の記載によれば、甲2には、原綿のカード機通過性やウエブの均一性等の特性を改良し、これによって親水性不織布の生産性の向上と品質低下の防止を目的として、繊維処理剤に配合されるリン酸エステル型のアニオン界面活性剤の具体例として、炭素鎖が16~18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩が例示されている。
3 甲3
(1) 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
下記の有機酸を0.1~20質量%、下記のアルキルリン酸エステル塩Bを10~50質量%、下記のアルキルリン酸エステル塩Cを10~50質量%及び下記のポリオキシアルキレン誘導体を20~75質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とするポリオレフィン系合成繊維用処理剤。
有機酸:有機ヒドロキシ酸、有機スルホン酸及び有機リン酸から選ばれる少なくとも一つ
アルキルリン酸エステル塩B:炭素数4~11のアルキルリン酸エステル塩
アルキルリン酸エステル塩C:炭素数12~22のアルキルリン酸エステル塩
ポリオキシアルキレン誘導体:炭素数22~50の1価脂肪族アルコール1モルに対し、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが合計で5~100モルの割合で付加している化合物」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、良好な制電性やカード通過性を維持しつつ、得られる不織布に高度の親水性を付与することができ、また不織布を弱酸性化することができるポリオレフィン系合成繊維用処理剤、かかる処理剤の水性液、かかる水性液を用いるポリオレフィン系合成繊維の処理方法、かかる処理剤が付着しているポリオレフィン系合成繊維及びかかるポリオレフィン系合成繊維製のサーマルボンド不織布を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定の4成分を特定の割合で含有して成るポリオレフィン系合成繊維用処理剤を用いることが正しく好適であることを見出した。」
「【実施例】
【0026】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0027】
試験区分1(ポリオレフィン系合成繊維用処理剤の調製)
・実施例1
表1に記載した乳酸(A-1)の90%水性液2.8g、アルキルリン酸エステル塩(B-1)15.0g、アルキルリン酸エステル塩(C-1)15.0g及びポリオキシアルキレン誘導体(D-1)17.5gを混合し、949.7gの水を加え、撹拌して水性分散液とし、実施例1のポリオレフィン系合成繊維用処理剤の5%水性液を得た。
【0028】
・実施例2~13及び比較例1~7
実施例1の場合と同様にして、実施例2~13及び比較例1~7のポリオレフィン系合成繊維用処理剤の5%水性液を調製した。以上の各例で調製したポリオレフィン系合成繊維用処理剤の内容を表1にまとめて示した。
【0029】
【表1】
[図:0001436232000008.jpg]
【0030】
表1において、
A-1:乳酸
A-2:クエン酸
A-3:パラトルエンスルホン酸
A-4:オクチルリン酸
【0031】
B-1:ヘキシルリン酸エステルカリウム塩
B-2:オクチルリン酸エステルカリウム塩
B-3:オクチルリン酸エステルナトリウム塩
B-4:ブチルリン酸エステルカリウム塩
B-5:デシルリン酸エステルカリウム塩
Rb-1:プロピルリン酸エステルカリウム塩
【0032】
C-1:ドデシルリン酸エステルカリウム塩
C-2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩
C-3:ドコシルリン酸エステルカリウム塩
Rc-1:テトラコシルリン酸エステルカリウム塩
【0033】
D-1:ポリオキシエチレン(10モル)オクタコシルエーテル
D-2:ポリオキシエチレン(25モル)ポリオキシプロピレン(25モル)オクタコシルエーテル
D-3:ポリオキシエチレン(35モル)オクタトリアコンチルエーテル
D-4:ポリオキシエチレン(10モル)テトラコシルエーテル
D-5:ポリオキシエチレン(10モル)オクタテトラコンチルエーテル
D-6:ポリオキシエチレン(6モル)オクタコシルエーテル
D-7:ポリオキシエチレン(80モル)オクタコシルエーテル
Rd-1:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルエーテル
Rd-2:ポリオキシエチレン(10モル)ヘキサコンチルエーテル
Rd-3:ポリオキシエチレン(3モル)オクタコシルエーテル
Rd-4:ポリオキシエチレン(60モル)ポリオキシプロピレン(60モル)オクタコシルエーテル」
「【0050】
【表2】
[図:0001436232000009.jpg]
【0051】
表1に対応する表2の結果からも明らかなように、本発明によれば、良好な制電性やカード通過性を維持しつつ、得られる不織布に高度の親水性を付与することができ、また不織布を弱酸性化することができる。」
(2) 甲3に記載された事項
上記(1)の記載によれば、甲3には、その実施例7について、以下の成分を特定の割合で有するポリオレフィン系合成繊維用処理剤が記載され、特定の4成分を特定の割合で含有することにより良好な制電性やカード通過性を維持しつつ、得られる不織布に高度の親水性を付与することができ、また不織布を弱酸性化することができることが記載されている。
A-1:乳酸
B-1:ヘキシルリン酸エステルカリウム塩
C-2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩
D-1:ポリオキシエチレン(10モル)オクタコシルエーテル
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1) 甲1発明1を主たる発明とする場合
ア 対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
(ア) 甲1発明1の「成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩」、「成分c2:ジトリデシルスルホサクシネートナトリウム塩」及び「成分d1:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基1モル当量あたりベヘン酸ステアリン酸1モル当量で封鎖したエステル」は、それぞれP元素を含むアニオン性界面活性剤、S元素を含むアニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤である。また、上記成分c2がP元素を含むアニオン性界面活性剤でないことは明らかである。
そして、甲1発明1の「繊維に対して、優れた瞬時透水性、耐久透水性を付与できる繊維処理剤」は、繊維に対する透水性付与剤といえる。
そうすると、甲1発明1の上記成分b2、成分c2及び成分d1を有する「繊維処理剤」は、本件発明1の「P元素を含むアニオン性界面活性剤(P)と、S元素を含むアニオン性界面活性剤(S)(前記界面活性剤(P)を除く)及びノニオン性界面活性剤(N)から選ばれる少なくとも1種と、を含む透水性付与剤」に相当する。
(イ) したがって、本件発明1と甲1発明1は、以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
P元素を含むアニオン性界面活性剤(P)と、S元素を含むアニオン性界面活性剤(S)(前記界面活性剤(P)を除く)及びノニオン性界面活性剤(N)から選ばれる少なくとも1種と、を含む透水性付与剤。
[相違点]
<相違点1>
P元素を含むアニオン性界面活性剤(P)について、本件発明1は、下記一般式(1)で示される化合物(A)及び下記一般式(2)で示される化合物(B)を必須に含み、下記一般式(3)で示される化合物(C)を任意で含むのに対し、甲1発明1では、成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩である点。
[図:0001436232000010.jpg]
(式中、R1は炭素数16~22の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属又は有機アミン塩である。M2は、水素原子、アルカリ金属又は有機アミン塩である。)
[図:0001436232000011.jpg]
(式中、R2及びR3は炭素数16~22の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
[図:0001436232000012.jpg]
(式中、R4は炭素数16~22の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又は(OA)mR5である。R5は炭素数16~22の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
<相違点2>
本件発明1では、透水性付与剤の不揮発分の酸価が0.5~150KOHmg/gであるのに対し、甲1発明1では、繊維処理剤の酸価が特定されていない点。
<相違点3>
S元素を含むアニオン性界面活性剤(S)について、本件発明1では、多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート塩(S-2)を含むのに対し、甲1発明1では、多価アルコール脂肪酸エステルサルフェート塩を含まない点。
<相違点4>
ノニオン性界面活性剤(N)について、本件発明1では、HLBが7~11であるのに対して、甲1発明1では、HLBが特定されていない点。
イ 判断
相違点1について検討する。
(ア) 相違点1が実質的な相違点であるかについて
本件発明1のP元素を含むアニオン性界面活性剤が必須に含む化合物(A)及び化合物(B)並びに任意に含む化合物(C)は、いずれも炭素数16~22の炭化水素基を有するのに対し、甲1発明1の「成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩」は炭素数13の炭化水素基を有するから、両者は実質的に異なる化合物である。
(イ) 甲1の記載に基づく判断
本件発明1は、必須に含む化合物(A)及び化合物(B)について、本件特許に係る明細書の「一般式(1)中、R1は炭素数16~22の炭化水素基である。炭素数が16未満のものは、安定性が不足する、炭素数が22を超えるものは、透水性が不足する。」(【0018】)との記載、及び「一般式(2)中、R2及びR3は炭素数16~22の炭化水素基である。炭素数が16未満のものは、安定性が不足する、炭素数が22を超えるものは、透水性が不足する。」(【0020】)との記載によれば、化合物(A)及び化合物(B)の炭化水素基の炭素数は、透水性と安定性に基づいて設定されたものである。
一方、甲1発明1の「成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩」は、甲1の請求項3に記載された「成分(B):炭素数11~22の炭化水素基を有するリン酸エステル塩及び/又は炭素数11~22の炭化水素基を有するポリオキシアルキレン基含有リン酸エステル塩」に対応するものであり、甲1の[0037]には、成分(B)として、炭素数18の炭化水素基を有するステアリルホスフェートカリウム塩、炭素数22の炭化水素基を有するベヘニルホスフェートカリウム塩の例が記載されている。
そして、甲1の[0034]の「一般式(3)及び一般式(4)中、R2は炭素数11~22の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。R2の炭素数は11~18が好ましく、12~14がさらに好ましい。R2の炭素数が11未満では、耐久透水性が不足することがある。一方、R2の炭素数が22超であると、瞬時の透水性と制電性が不足することがある。」との記載によれば、炭化水素基の炭素数は、透水性及び制電性に基づいて設定されたものであって、炭化水素基の炭素数は12~14がさらに好ましいものといえるが、前記炭化水素基の炭素数は、処理剤が透水性及び安定性を同時に備えることを前提に設定されたものではない。
そうすると、当業者であっても、甲1発明1のさらに好ましい態様である「成分b:トリデシルホスフェートカリウム塩」に代えて、炭素数16~22の炭化水素基を有する化合物を採用する動機付けがない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明1と甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(ウ) 甲2の記載に基づく判断
上記第4の2(2)のとおり、甲2には、原綿のカード機通過性やウエブの均一性等の特性を改良し、これによって親水性不織布の生産性の向上と品質低下の防止を目的として、繊維処理剤に配合されるリン酸エステル型のアニオン界面活性剤の具体例として、炭素鎖が16~18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩が例示されている。
しかしながら、甲2には、処理剤が透水性及び安定性を同時に備えることは記載も示唆もされていないから、甲1発明1の「成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩」に代えて、甲2に例示されたリン酸エステル型のアニオン界面活性剤のうち、「リン酸エステル型のアニオン界面活性である炭素鎖が16~18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩」を採用する動機付けはない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明1と甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。
(エ) 甲3の記載に基づく判断
上記第4の3(2)のとおり、甲3には、以下の成分を特定の割合で有するポリオレフィン系合成繊維用処理剤が記載され、特定の4成分を特定の割合で含有することにより良好な制電性やカード通過性を維持しつつ、得られる不織布に高度の親水性を付与することができ、また不織布を弱酸性化することができることが記載されている。
A-1:乳酸
B-1:ヘキシルリン酸エステルカリウム塩
C-2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩
D-1:ポリオキシエチレン(10モル)オクタコシルエーテル
しかしながら、特定の4成分を特定の割合で含有することを必須とするポリオレフィン系合成繊維用処理剤の4成分のうちの1成分である「C-2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩」を、甲1発明1の「成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩」に代えて採用する動機付けはない。
また、甲3において、「C-2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩」は、【請求項1】(上記第4の3(1))の「アルキルリン酸エステル塩C:炭素数12~22のアルキルリン酸エステル塩」に含まれるところ、甲3には、処理剤の透水性及び安定性を同時に備えることは記載も示唆もないから、甲1発明1の「成分b2:トリデシルホスフェートカリウム塩」に代えて、甲3に記載された「アルキルリン酸エステル塩C:炭素数12~22のアルキルリン酸エステル塩」のうち、実施例7の「C-2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩」を採用する動機付けはない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明1と甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。
ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書20頁~22頁において、上記ア(イ)の相違点1に対応する相違点1-1、すなわち本件発明1のP元素を含むアニオン性界面活性剤(P)、及び、前記活性剤(P)が一般式(1)で示される化合物(A)及び一般式(2)で示される化合物(B)を必須に含み、一般式(3)で示される化合物(C)を任意に含む構成が、甲1に実質的に記載されていること、そのため、甲1に記載された好ましい成分として、セチルホスフェートカリウム塩、ステアリルホスフェートカリウム塩等のリン酸エステルを使用することは極めて容易であること、甲2を参照して、リン酸エステル塩として炭素鎖が16~18のモノ又はジアルキルリン酸エステルを適用することに困難性は認められないこと、甲3を参酌して、処理剤が塗布された不織布の初期親水性、耐久親水性、ウェットバック防止性を向上させる観点から、HLBが7~11にあるノニオン性界面活性剤と、リン酸エステル塩として、オクタデシルリン酸エステルカリウム塩等の炭素鎖が16以上のアルキルリン酸エステルを併用することは容易であると主張するが、いずれも、上記イの判断のとおりであるから、上記主張は採用できない。
さらに、申立人は、特許異議申立書22頁において、本件発明1が、一般式(1)で示される化合物(A)及び一般式(2)で示される化合物(B)におけるアルキル基の炭素数を16~22に規定したことに基づく有利な効果は認められない旨主張するが、上述のとおり、甲1~甲3に基づいて、当該相違点に係る構成を容易に想到することはできないから、上記主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、相違点2~4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1及び甲1に記載された事項に基づいて、甲1発明1及び甲2に記載された事項に基づいて、又は甲1発明1及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 甲1発明2を主たる発明とする場合
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、上記(1)ア(イ)の相違点1~4と同様の点で相違するから、上記(1)イと同様の理由により、本件発明1は、甲1発明2ではなく、また、甲1発明2及び甲1に記載された事項に基づいて、甲1発明2及び甲2に記載された事項に基づいて、又は甲1発明2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~10について
請求項2~10は直接又は間接的に請求項1を引用するから、本件発明2~10は、上記(1)ア(イ)の相違点1~4に係る構成を備えるものである。
したがって、本件発明2~10は、上記(1)イと同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2026-700198