特許異議申立
2021-700847
高多孔性消石灰の製造方法及びそれにより得られる生成物
- 審判番号
- 2021-700847
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-562976
- 登録番号
- 6837012
- 請求日
- 2021年09月02日
- 審決日
- 2022年08月30日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エス.ア.ロイスト ルシェルシュ エ デヴロップマン
- 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】杉岡 真紀
- 【異議申立人】出川 栄一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 山田 倍司
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B) / P1651.853-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条、特許法第126条第7項、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
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特許第6837012号発明「高多孔性消石灰の製造方法及びそれにより得られる生成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6837012号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第6837012号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6837012号に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)8月12日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2015年8月14日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、令和3年2月10日にその請求項1~15に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年3月3日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年9月2日に特許異議申立人杉岡 真紀(以下、「申立人杉岡」という。)により甲第1~7号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年同月3日に特許異議申立人出川 栄一郎(以下、「申立人出川」という。)により甲第1~4号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年10月26日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である令和4年1月28日に特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出及び訂正の請求がされ、同年2月8日付で当審より訂正請求書について手続補正指令がされ、その指定期間内である同年2月17日に特許権者より手続補正書(方式)が提出され、同年3月22日付で当審より訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年5月13日に特許権者より意見書及び手続補正書が提出され、これに対して、同年7月1日に申立人杉岡より意見書(以下、「杉岡意見書」という。)が提出され、同年同月11日に申立人出川より意見書(以下、「出川意見書」という。)が提出されたものである。
第2 訂正の請求について
1 訂正請求書の補正の適否の判断
令和4年5月13日に提出された手続補正書による訂正請求書の補正の内容は、訂正事項1、4及び6~9を削除するものであり、係る手続補正書による補正が訂正請求書の要旨を変更するものでないことは明らかであるので、前記手続補正書による補正は特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するから、これを認める。
2 訂正の内容
前記1のとおり、令和4年5月13日に提出された手続補正書による訂正請求書の補正は認められるから、特許権者が求める補正後の訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)
(1)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の
「前記水和機の熟成領域における熟成工程を含んで、消石灰を生成し、」の直後に、
「前記方法は、
ー 生石灰の供給から消石灰の回収まで、前記水和機内の消和方向に沿って石灰を輸送する輸送手段による石灰の輸送を含み、前記消石灰の回収は、消和方向の下流で行われ、」との記載を追加する。
(2)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、前記訂正事項2で追加した記載の直後に、
「以下の特徴:
ー 前記水和機は、抽出フードを備えること、」との記載を追加する。
(3)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1の
「上記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含み、 前記蒸気を除去する工程は、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われ、」との記載を、
「ー 前記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含み、前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われること、」に訂正する。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~15は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項1~15は一群の請求項である。 そして、訂正事項2、3及び5に係る特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1~15に対して請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0012】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る「高多孔性消石灰の製造方法」を、「生石灰の供給から消石灰の回収まで、前記水和機内の消和方向に沿って石灰を輸送する輸送手段による石灰の輸送を含み、前記消石灰の回収は、消和方向の下流で行われ」るものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0101】、【0102】、【図3】及び【図4】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る「高多孔性消石灰の製造方法」における「水和機」を、「抽出フードを備える」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る「高多孔性消石灰の製造方法」における「蒸気を除去する工程」が、どのようにして「前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われ」るのかが明らかでなかったのを、願書に添付した明細書の段落【0101】、【0102】、【図3】及び【図4】の記載に基づいて、「消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」ものであることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
なお、本件においては、本件訂正前の全ての請求項について特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
4 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~15に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明15」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
高多孔性消石灰の製造方法であって、
当該高多孔性消石灰は、30m2/g~50m2/gである高比表面積と、1000オングストローム未満の直径を有する細孔によって構成され0.15cm3/g以上の高細孔容積を有し、
当該方法は、生石灰の供給工程、
水和機の供給領域における水の供給工程、
前記水和機の消和領域における前記生石灰の消和工程、及び
前記水和機の熟成領域における熟成工程を含んで、消石灰を生成し、
前記方法は、
ー 生石灰の供給から消石灰の回収まで、前記水和機内の消和方向に沿って石灰を輸送する輸送手段による石灰の輸送を含み、前記消石灰の回収は、消和方向の下流で行われ、
以下の特徴:
ー 前記水和機は、抽出フードを備えること、
前記生石灰の供給工程及び前記水の供給工程は、重量で、0.8~1.3を含む水/生石灰比が得られるように行われ、
ー 前記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含み、前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われること、高比表面積及び高細孔容積の消石灰である未処理の高多孔性消石灰を生成する、上記方法。
【請求項2】
前記未処理の消石灰の乾燥工程をさらに含み、乾燥粉末状の高比表面積及び高細孔容積の消石灰を生成する、請求項1に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項3】
前記生石灰の前記消和工程が、単段水和機において行われる、請求項1又は2に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項4】
前記蒸気を除去する工程が、布フィルターを介して行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項5】
前記蒸気を除去する工程が、水和機の全長に沿って行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項6】
生石灰の供給工程が、コンベヤーベルトを含む計量装置によって行われ、生石灰が水和機に落下することを可能にする、請求項1から5のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項7】
水の供給が、水和機の入口の一点で行われ、落下する生石灰の上に行われる、請求項6に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項8】
前記生石灰は、欧州規格EN459-2に従って測定された、水に対する反応性t60であって、15秒以上10分以下の上記反応性を示す、請求項1から7のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項9】
前記生石灰は、90μm~10mmの粒子サイズd98を示す、請求項1から8のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項10】
前記水は、60℃以下の温度を示す、請求項1から9のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項11】
前記消和工程中に、混合パドルを備えたシャフトによって、石灰を混合して持ち上げる、請求項1から10のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項12】
水和機内の温度が、100℃未満に保たれる、請求項1から11のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項13】
高多孔性消石灰の製造方法が、未処理の消石灰の水分、又は混合パドルを備えたシャフトのモーター強度を測定することによって制御される、請求項11又は12に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項14】
未処理の消石灰の含水率が、前記未処理の消石灰の重量に対して、15重量%~30重量%を占めている、請求項1から13のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。
【請求項15】
水の供給工程が、添加剤を含む水の供給工程であり、添加剤が、ジエチレングリコール、又はアルカリ金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ金属化合物である、請求項1から14のいずれか一項に記載の高多孔性消石灰の製造方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 申立人杉岡による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証~甲第7号証は、申立人杉岡が提出した、後記(4)に記載された甲第1号証~甲第7号証である。
(1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について(当審注:特許異議申立書のIII.1)には「特許法第36条第6項第1号(請求項1~15)」と記載されているが、これは「特許法第36条第6項第2号(請求項1~15)」の誤記と認める。)
本件特許明細書及び図面には、「水和機」における「消和領域」について具体的な範囲が示されていない。
また、このため、「消和領域」の長さの90%以上にわたって行われるとされる「蒸気を除去する工程」が、「水和機」のどの範囲を「消和領域」の長さとして算出するのかが不明確であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
(2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
甲第1号証の記載からみれば、消化された消石灰の物性は、生石灰の焼成度、成分、粒度等により異なるものであるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び本件特許明細書の発明の詳細な説明には、生石灰の物性について記載がないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(3)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)証拠方法
甲第1号証:日本石灰協会技術委員会ハンドブック分科会編,「石灰ハンドブック(石灰製造技術ハンドブックCD-ROM改訂版)」,1992年8月31日,日本石灰協会,p.217-241
甲第2号証:特開2003-300725号公報
甲第3号証:山下一夫,「ごみ焼却排ガス用消石灰について」,Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan,2003年,Vol.10,p.412-419
甲第4号証:菱光石灰工業株式会社のホームページ「ヒシカール(高反応性消石灰)」,[Onine],[検索日:2021年8月30日],URL<http://www.ryokolime.co.jp/ja/index.html> ,<http://www.ryokolime.co.jp/ja/products/slakedlime/hishical.html>
甲第5号証:宇部マテリアルズ株式会社,「カルブリードSII 高反応性排ガス処理用消石灰」のカタログ
甲第6号証:特願2017-562976号(本件出願)の審査過程において提出された意見書
甲第7号証:特開平9-227121号公報
2 申立人出川による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証~甲第4号証は、特段の注釈がない限り、申立人出川が提出した、後記(5)に記載された甲第1号証~甲第4号証である。
(1)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~7、11及び13~15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4~7、11及び13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、9、10及び12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「供給領域」、「消和領域」及び「熟成領域」がどのような形状であるのか記載がないから、「蒸気を除去する工程」の「消和領域の長さの90%以上」がどのような範囲であるのかが理解できず、発明の実施の際に当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
イ 本件特許明細書の図面の【図1】の場合も、「蒸気を除去する工程」は「消和領域の長さの90%以上」で行われていると思われるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0120】には、この場合、実験を停止せざるを得ないと記載されており、発明を実施できないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
ウ 特許権者が令和2年10月27日に提出した意見書(当審注:当該意見書は、申立人杉岡が提出した前記1(4)に記載された甲第6号証である。)によれば、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、高い比表面積と高い細孔容積を意味する、高い多孔性の特徴を備えた特定の再現可能な品質の消石灰を高い生産収率で生成する改良された消和プロセスを、プロセス中の目詰まりを避けながら提供する、という課題を解決するものであり、そのような課題を解決するためには、消和プロセスにおいてフィルターを使用することを前提としていると考えられるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、どのようなフィルターを用いれば前記課題を解決できるのかが記載されていないし、そもそも、どのようなフィルターを用いたときに目詰まりするのか、課題自体が明確でないので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について(当審注:特許異議申立書27ページ下から9行目、28ページ5行及び下から3行目の「請求項2~14」は「請求項2~15」の誤記と認める。)
ア 本件特許明細書には、「蒸気を除去する工程」が「消和領域の長さの90%以上にわたって行われ」ることで前記(2)ウの課題を解決できること、すなわち、「90%」という値が閾値的効果を有することが記載されていないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、当業者が前記課題を解決できることを認識できる範囲のものではないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15の記載はサポート要件を満たさない。
イ 本件特許明細書には、「消和領域の長さの90%以上」をどの方向で捉えても前記(2)ウの課題を解決することができることや、ほかの方向がどのような割合であっても前記課題を解決することができることが記載されていないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、当業者が前記課題を解決できることを認識できる範囲のものではないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15の記載はサポート要件を満たさない。
ウ 前記(2)ウの課題を解決する際の「プロセス中の目詰まりを避けながら」、という効果が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1のどの発明特定事項による効果であるのかが不明であり、そもそも、プロセス中の目詰まりが何の目詰まりであるのかが不明であるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、当業者が前記課題を解決できることを認識できる範囲のものではないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15の記載はサポート要件を満たさない。
(4)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
ア 「水和機」の中で「供給領域」、「消和領域」及び「熟成領域」がどの部分に相当するのかが特定できないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
イ 「消和領域の長さ」が、「消和領域」のどの方向におけるどの長さをいうのかが不明確であるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
ウ 「消和領域の長さ」とは線分を意味し、「消和領域の長さの90%以上」とはその線分の長さの90%以上を意味すると考えられるが、線分状で蒸気を除去するのはどのようにするのかが明らかでないし、面状で蒸気を除去するのであれば、例えば奥行き方向にはどの程度の深さで蒸気を除去するのかが明らかでないから、「前記蒸気を除去する工程は、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われ」る、との発明特定事項が不明確であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
エ 「未処理の消石灰」の「未処理」がどのような処理をされていないものをいうのかが明らかでないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
オ 「水和機の全長」における「全長」とは線分を意味し、「水和機の全長」とはその線分の長さの100%を意味すると考えられるが、線分状で蒸気を除去するのはどのようにするのかが明らかでないし、面状で蒸気を除去するのであれば、例えば奥行き方向にはどの程度の深さで蒸気を除去するのかが明らかでないから、「前記蒸気を除去する工程が、水和機の全長に沿って行われ」る、との発明特定事項が不明確であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明は明確でない。
カ 「前記蒸気を除去する」とは、蒸気をどこからどこに除去するのかが明らかでないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
キ 「生石灰が水和機に落下する」とは、生石灰が水和機のどこにどのように落下するのかが明らかでないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に係る発明は明確でない。
(5)証拠方法
甲第1号証:特開2005-350343号公報
甲第2号証:日本石灰協会技術委員会ハンドブック分科会編,「石灰ハンドブック(石灰製造技術ハンドブック再改訂版)」,1992年8月31日,日本石灰協会,p.229-241,385-387
甲第3号証:特開2010-180086号公報
甲第4号証:特開平10-158042号公報
第5 取消理由の概要
1 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)「消和領域の長さ」について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項からは、「消和領域」が、「供給領域」及び「熟成領域」に対してどのようにして区別されるものであるのかが明らかでなく、このため、「消和領域の長さ」を特定できず、「消和領域の長さの90%」の長さも特定できないから、「蒸気を除去する工程は、消和領域の長さの90%以上にわたって行われ」る、との発明特定事項における「蒸気を除去する工程」が行われる長さも特定できないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
(2)「未処理の高多孔性消石灰」について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における「未処理」がどのような状態を意味するのかが明らかでなく、「未処理の高多孔性消石灰」がどのような「高多孔性消石灰」をいうのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は明確でない。
第6 取消理由についての当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)明確性要件違反の判断手法
請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2)「消和領域の長さ」について
ア 本件特許明細書には以下(ア)~(ク)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア)「【0011】
消石灰を製造するための最も一般的な工業プロセスの1つは、「乾式消和モード(dry slaking mode)」と呼ばれ、BET比表面積が通常12~20m2/gである標準的な消石灰を生成する。このプロセスでは、消和反応の発熱性のために、水の一部が消和反応中に蒸発することを考慮に入れて、生石灰を完全に水和させるのに必要な量の水を、水和機内に加える。・・・
【0012】
このように、水和機内で消和反応が行われ、水和機内では生石灰が消和方向の上流に供給される(消和方向は、石灰が水和機に沿って輸送される方向を意味する)。消石灰は、消和方向の下流で回収される。輸送手段(例えば、混合パドルを備えた水平シャフトなど)は、生石灰の供給から消石灰の回収まで、水和機内の消和方向に沿って石灰を輸送することを可能にする。・・・
【0013】
水和機は、3つの主要な連続領域に分けることができる。最初の領域は、供給領域又は混合領域と呼ばれ、消和方向の上流に位置する水和機の一部を構成する。ここでは、生石灰と水が一緒に供給されて混合される。消和領域と呼ばれる第2の領域は、消和反応が主に起こる水和機の一部を表す。ここでは、生石灰CaOの大部分が化学的に消石灰Ca(OH)2に転換され、特にこの発熱反応に起因して蒸気の大部分が発生する。熟成領域又は仕上げ領域と呼ばれる第3の領域は、消和方向の下流に位置し、水和機の一部を構成する。ここでは、粒子が完全に消和されることを確実にし、消石灰の残留水分量を均質化することを可能にする。
・・・
【0016】
生石灰の水反応性は、一般的に、欧州規格EN459-2で与えられた手順で特徴づけられ、測定され、600cm3の水量の20℃の水に150gの生石灰を加えて、60℃の温度に達するのに必要な時間である値t60によって、しばしば定量化される。」
(イ)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
したがって、改善された収着(sorbing)能力を有し、工業的に実現可能な、高多孔性消石灰を製造する手法に到達する必要性がある。これは、プロセスを制御するために多くの人間の介入を必要とせず、且つ消石灰生成物の特性を経時的に維持できるように再現可能であることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明は、この必要性に対する解決策を、高多孔性の特徴を有する消石灰の製造条件を特定し且つ改善することによって提供することを目的としており、後者は経時的に再現可能で持続可能である。
【0040】
この目的のため、本発明によれば、冒頭で述べたような方法であって、前記生石灰の供給工程及び前記水の供給工程は、重量で、0.8~1.3(極値が含まれる)を含む水/生石灰比が得られるように行われ、上記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含み、前記蒸気を除去する工程は、実質的に前記消和領域に沿って行われ、高比表面積及び高細孔容積の消石灰である未処理の(raw)高多孔性消石灰を生成することを特徴とする、上記方法が提供される。
・・・
【0043】
発生したスチームを実質的に前記消和領域に沿って除去することによって、この段階でのスチームと石灰との接触(この接触は消石灰の多孔性特性に有害である)が回避される。これはまた、水和機の冷たい部分におけるスチームの凝縮を回避することにより、含水量を管理下に保つことを可能にする。さもなければ、石灰パテの形成により、水和機の目詰まりを引き起こした可能性がある。
【0044】
「発生したスチームを実質的に前記消和領域に沿って除去する」とは、蒸気除去が、消和領域の長さの80%~300%にわたって、優先的には消和領域の長さの90%以上にわたって、より好ましくは消和領域の長さの100%以上にわたって、行われるものと理解される。
【0045】
本発明によれば、消和領域に沿ってスチームを除去することは、水和機(多段水和機又は単段水和機である)の消和領域の実質的に全長にわたってスチームを除去することを意味し、このことが、制御された均質な多孔性の特徴を有する消石灰に到達する成功の重要な要因であることが見出されている。」
(ウ)「【0074】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、前記生石灰は、欧州規格EN459-2に従って測定された、水に対する反応性t60であって、15秒以上10分以下、好ましくは5分以下、より好ましくは3分以下、最も好ましくは2分以下の上記反応性を示す。
【0075】
有利には、前記生石灰は、90μm~10mm、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下の粒子サイズd98を示す。表記d98は直径(mm単位)を表し、測定された粒子の98重量%がより小さいという直径を表す。
・・・
【0087】 本発明の方法の有利な実施形態において、高多孔性消石灰の製造方法は、未処理の(raw)消石灰(乾燥工程の前であって、水和機の出口における消石灰)の水分、又は混合パドルを備えたシャフトのモーター強度を測定することによって制御される。」
(エ)「【発明を実施するための形態】
【0100】
図面では、同一の参照番号は、同一又は類似の要素に割り当てられている。
【0101】
このように、本発明は、蒸気と石灰との接触を避けるために、生石灰の消和反応によって発生した蒸気をできるだけ早く除去することを目的とする。前記接触は消石灰の多孔性に有害である。蒸気は、水和機の消和領域で主に発生する。したがって、本発明の方法に従って蒸気を除去する工程を最適化するためには、水和機(単段又は多段)が抽出フードを備える必要があり、好ましくは水和機の長さの100%に延在する抽出フードを備える必要がある。
【0102】
あるいは、前記抽出フードは、前記水和機の長さの一部に延在している必要があり、それは、消和方向の上流で、前記水和機の長さの35%から、優先的には少なくとも30%から、好ましくは20%から、より好ましくは10%から、特には0%から始まり、水和機の長さの少なくとも65%まで、好ましくは70%まで、特には80%まで、より好ましくは90%まで、とりわけ100%まで延在している必要がある(図4参照)。
【実施例】
【0103】
(例1)
生石灰の消和反応中に発生した水蒸気の流路を示すために、水/石灰の比を0.8~1.3とし、単段水和機(消和ユニット)上へのバッグフィルターのサイズ/セクション及び位置に応じて、CFDシミュレーションを行った。
【0104】
これらのシミュレーションでは、図1~図3に示すように、半円筒は水和機の上半分、すなわち石灰床の上方に位置する水和機の部分を表す。
【0105】
このような水和機の上半分は、水蒸気をバッグフィルター(図示せず)に向けて排出する抽出フードに接続されている。
・・・
【0107】
3つの状況が考慮されている。
1:水和機の終端に配置された小さな抽出フードセクション(図1)。
2:水和機の中央に配置された小さな抽出フードセクション(図2)。
3:水和機の消和領域の長さをカバーする抽出フード(図3)。
【0108】
その結果、状況1(図1)においては、水蒸気が非常に長い流路を示し、それによって、水蒸気がバッグフィルターを通して排気される前に無視できないほどの期間にわたって、石灰床と密接に接触した状態で水和機内に水蒸気を残留させることが示されている。この期間中、水蒸気は生石灰の消和を妨害し、それによって水和プロセスを正確に制御することを妨げる
【0109】
状況2(図2)では、水蒸気の流路を減少させるため、状況1より良い結果を示す。しかしながら、発生した水蒸気は、消和反応を受ける石灰との接触が少なくても、依然としてこの後者と接触している。
【0110】
状況3(図3)は、発生したスチームが消和領域内で石灰と接触する前に直接抽出されるので、最良の状況である。
【0111】
結論として、できるだけ短く且つ垂直な流路を通って水蒸気を排出するように、水和機の主要なセクションに沿ってバッグフィルターを配置することがより望ましく、それによって、望ましくない水和をもたらす横断流の存在を回避する。
【0112】
(例2)
高多孔性消石灰が、本発明に従って、単段水和機で工業的に製造される。単段水和機は、長さ約5.5m、直径2.1m(水和タンクのみ)であり、約6t/hの消石灰を生産し、バッグフィルターを備えている。このプロセスのために、1分未満のt60反応性を有する生石灰(3mmのd98)を、水を用いて消和する。ここで、水/生石灰の比は、重量で、1.05に等しく、水は、周囲温度で供給される。未処理の水和物の平均含水率(乾燥工程の前であって水和機の出口における未処理の消石灰の含水率を意味する)は、21.3重量%に等しい。フィルターの抽出フード(水和機とフィルターの間の接触領域)は、消和領域に沿って、すなわち水和機の長さに対して中央の位置に配置されている。次いで、未処理の水和物は、熱風が注入されるケージミル乾燥機へと輸送され、数分間フラッシュ乾燥される。一旦乾燥されると、消石灰生成物は、バッグフィルターによって空気から分離される。
【0113】
その結果、年間平均BET比表面積42.6m2/g、及び年間総BJH細孔容積(1000Åまでの細孔)0.255cm3/gを示す乾燥した水和石灰が得られ、生産される。
【0114】
(例3)
高多孔性消石灰が、本発明に従って、別の単段水和機で工業的に製造される。別の単段水和機は、9~10t/hの消石灰を生産するので、例2のものよりも著しく大きい。この水和機はバッグフィルターも備えており、その抽出フードも消和領域に沿って(すなわち、水和機の長さに対して中央の位置に)配置されている。このプロセスのために、1.3分のt60反応性を有する生石灰(3mmのd98)を、水を用いて消和する。ここで、水/生石灰の比は、重量で、1.0に等しい。未処理の水和物の平均含水率(乾燥工程の前であって水和機の出口における未処理の消石灰の含水率を意味する)は、24.2重量%に等しい。次いで、未処理の水和物は、熱風が注入されるケージミル乾燥機へと輸送され、数分間フラッシュ乾燥される。一旦乾燥されると、消石灰生成物は、バッグフィルターによって空気から分離される。
【0115】
その結果、年間平均BET比表面積41.4m2/g、及び年間総BJH細孔容積(1000Åまでの細孔)0.203cm3/gを示す乾燥した水和石灰が得られ、生産される。
・・・
【0118】
(比較例1)
小規模な実験室スケールのパイロット単段水和機で、実験室スケールでの生石灰水和トライアル試験が行われる。単段水和機は、長さ約80cm、直径約25cmを示し、約20kg/hの消石灰を生成する。この水和機では、生石灰及び消和水は水和機の上流に供給され、混合パドルを備えたシャフトにより消和方向に沿って水和機の終端まで運ばれる。
【0119】
最初のトライアルは、本発明の多孔性消石灰を生成することにある。水/生石灰の比が、重量で、1.1で生石灰を水で消和し、消和反応中に発生したスチームを抽出ダクトの助けを借りて消和領域に沿って抽出することにより行う。実験は非常に良好に進行し、BET比表面積40.6m2/g、及び総BJH細孔容積(1000Åまでの細孔)0.179cm3/gを有する乾燥した水和石灰が生成される。
【0120】
次に、スチームの抽出を、水和機の終端へとシフトし、他のすべての条件を一定に保つ。この実験では、抽出ダクト及び石灰供給管がほぼ連続的に閉塞するため、実験を停止しなければならない。実際に、これらの条件では、主に水和機の中央部で生成されるスチームは、長い経路を経て、抽出ダクトに到達する。したがって、スチームの一部は、この経路に沿ってではなく、むしろ他の方向に進み、生石灰の供給点を介して反応炉から出るため、これにより、石灰の供給点の定期的な目詰まりにつながる。さらに、抽出ダクトを介してスチームをより良く吸い込むためには、さらに下に押し下げなければならず、これは、より多くのダストを抽出することにもつながり(実際には、水和機内にはスチームだけでなく、無視できないほどの量の消石灰のダストが浮遊している)、ひいては抽出ダクトの定期的な目詰まり(約2分おき)につながる。これらの困難な条件のために、消和プロセスを追求することは可能ではなかった。」
(オ)「【図1】
[図:0001390557000001.jpg]
」
(カ)「【図2】
[図:0001390557000002.jpg]
」
(キ)「【図3】
[図:0001390557000003.jpg]
」
(ク)「【図4】
[図:0001390557000004.jpg]
」
イ 前記ア(ア)、(イ)、(エ)(段落【0101】~【0102】)及び(ク)によれば、本件発明において消石灰を製造する際には、「水和機」内で消和反応が行われ、前記「水和機」内では、生石灰が、石灰が「水和機」に沿って輸送される方向を意味する消和方向の上流に供給され、消石灰は、消和方向の下流で回収されるのであるが、前記「水和機」は、3つの主要な連続領域に分けることができるものである。
すなわち、前記「水和機」の最初の領域は「供給領域」と呼ばれ、消和方向の上流に位置する「水和機」の一部を構成し、ここでは、生石灰と水が一緒に供給されて混合されるものであり、「消和領域」と呼ばれる第2の領域は、消和反応が主に起こる「水和機」の一部を表し、ここでは、生石灰CaOの大部分が化学的に消石灰Ca(OH)2に転換され、特にこの発熱反応に起因して蒸気の大部分が発生するものであり、「熟成領域」と呼ばれる第3の領域は、消和方向の下流に位置し、「水和機」の一部を構成し、ここでは、粒子が完全に消和されることを確実にし、消石灰の残留水分量を均質化することを可能にするものである。
そして、本件発明は、消和工程中に発生した「蒸気を除去する工程」を含み、前記「蒸気を除去する工程」は、実質的に前記「消和領域」に沿って行われ、高比表面積及び高細孔容積の消石灰である「未処理の高多孔性消石灰」を生成するものであり、発生したスチームを実質的に前記「消和領域」に沿って除去することによって、消石灰の多孔性特性に有害なスチームと石灰との接触が回避されるのであるが、発生したスチームを実質的に前記「消和領域」に沿って除去するとは、蒸気除去が、「消和領域の長さの90%以上」にわたって行われることをいうものである。
すなわち、本件発明は、蒸気と石灰との接触は消石灰の多孔性に有害であることから、蒸気と石灰との接触を避けるために、生石灰の消和反応によって発生した蒸気をできるだけ早く除去するものであり、本件発明の方法に従って「蒸気を除去する工程」を最適化するためには、「水和機」が「抽出フード」を備える必要があり、前記「抽出フード」は、前記「水和機」の長さの少なくとも一部、すなわち、「消和方向」の上流で、前記「水和機」の長さの少なくとも30%から始まり、「水和機」の長さの少なくとも65%まで延在している必要があるものである。
ウ 前記イによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明においては、「水和機」に、消和方向の上流で、前記「水和機」の長さの少なくとも30%から始まり、少なくとも65%まで延在する「抽出フード」を備えることにより、「蒸気を除去する工程」が最適化されて、発生したスチームが実質的に前記「消和領域」に沿って除去されること、すなわち、蒸気除去が「消和領域の長さの90%以上」にわたって行われることとなって、消石灰の多孔性特性に有害なスチームと石灰との接触が回避されることを理解することができる。
してみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「消和領域の長さの90%以上」の長さは、前記「抽出フード」が延在する、消和方向の上流で、前記「水和機」の長さの少なくとも30%から始まり、少なくとも65%までの範囲により特定されるものであることを理解することができるから、本件発明1において、「消和領域」が、「供給領域」及び「熟成領域」に対してどのようにして区別されるものであるのかが明らかでなく、このため、「消和領域の長さ」を特定できないとしても、「消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」、との特許請求の範囲の請求項1の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確であるというべきであり、本件発明2~15について検討しても事情は同じである。
(3)「未処理の高多孔性消石灰」について
前記(2)ア(ウ)(段落【0087】)、(エ)(段落【0112】)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「未処理の高多孔性消石灰」とは、乾燥工程の前であって、水和機の出口における消石灰のことを意味することを理解できるから、特許請求の範囲の請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確であるというべきであり、本件発明2~15について検討しても事情は同じである。
(4)杉岡意見書及び出川意見書について
ア 申立人杉岡の杉岡意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
本件発明1における「前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって」行われる、との発明特定事項は、「抽出フード」が「水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している」ことを示しているに過ぎず、「消和領域の長さ」及び「消和領域の長さの90%以上の長さ」を依然として特定できないから、本件発明1は明確でない(1ページ目下から15行目~3ページ目下から7行目)。
イ ところが、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「消和領域の長さの90%以上」の長さは、前記「抽出フード」が延在する範囲により特定されるものであることを理解でき、「消和領域の長さ」を特定できないとしても、本件発明1は明確であることは、前記(2)ウに記載のとおりであるので、申立人杉岡の前記アの主張は採用できない。
ウ 申立人出川の出川意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
(ア)本件発明1の「前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フード」との発明特定事項は、「抽出フード」が、始点として水和機の30%以上の地点から、終点として65%以上の地点まで延在していると考えられ、例えば始点が99.999%でもよいことになるが、終点は65%でもよく、この場合、「抽出フード」の位置が定まらないし、始点が99.999%であり、終点が99.9991%である場合、「抽出フード」の長さは水和機の0.0001%に過ぎず、このとき、「消和領域の長さの90%以上」の長さが特定できないので、本件発明1は明確でなく、サポート用要件を満たさず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない、という新たな取消理由を有する(1ページ目下から18行目~2ページ目16行目)。
(イ)特許権者意見書における特許権者の主張は、「供給領域」、「消和領域」及び「熟成領域」について、本件特許明細書の該当箇所を引用して当業者にとって曖昧でないと述べたに過ぎず、なぜ曖昧でないかの記載は一切なく、「消和領域」の境界が、「供給領域」及び「熟成領域」に対してどのようにして画定されるのかが明らかでないから、本件発明1は明確でない(2ページ目下から10行目~4ページ目最終行)。
エ ところが、前記(2)ア(エ)(段落【0102】)の記載からみれば、「抽出フード」の始点は、消和方向の上流から、「水和機」の長さの0%~35%の範囲から始まるものと解されるから、始点が99.999%でもよい、とする前記ウ(ア)の主張は前提において誤っており、採用の余地がない。
また、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「消和領域の長さの90%以上」の長さは、前記「抽出フード」が延在する範囲により特定されるものであることを理解でき、「消和領域の長さ」を特定できないとしても、本件発明1は明確であることは、前記(2)ウに記載したとおりであって、このことは、特許権者意見書における特許権者の主張の適否に左右されるものでもないから、前記ウ(イ)の主張も採用できないので、申立人出川の前記ウの主張はいずれも採用できない。
2 まとめ
よって、特許請求の範囲の請求項1~15の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、前記第5の1の取消理由はいずれも理由がない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 申立人杉岡による特許異議申立理由について
申立人杉岡による前記第4の1(1)の特許異議申立理由は前記第6の1(2)で検討したので、以下、そのほかの特許異議申立理由について検討する。
(1)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件違反の判断手法
方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件に適合するということができるので、以下、この観点に立って検討する。
イ 実施可能要件違反について
前記第6の1(2)ア(ウ)(段落【0074】~【0076】)、(エ)(段落【0112】、【0114】)によれば、本件発明においては、欧州規格EN459-2に従って測定された、水に対する反応性t60が、15秒以上10分以下、好ましくは5分以下、より好ましくは3分以下、最も好ましくは2分以下の反応性を示し、測定された粒子の98重量%がより小さいという直径(mm単位)を表す粒子サイズd98が90μm~10mm、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下の生石灰を用いることで、すなわち、1分未満のt60反応性を有する生石灰(3mmのd98)(段落【0112】)や、1.3分のt60反応性を有する生石灰(3mmのd98)(段落【0114】)を用いることで、本件発明に係る「高多孔性消石灰」を製造できることが記載されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る「高多孔性消石灰」を製造できる「生石灰」の物性が記載されているので、当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるというべきである。
そして、このことを前記アの判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
ウ 杉岡意見書について
(ア)申立人杉岡の杉岡意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
本件発明1には生石灰の物性についての技術的限定に関する記載がないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない(3ページ目下から6行目~4ページ目下から10行目)。
(イ)ところが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る「高多孔性消石灰」を製造できる「生石灰」の物性が記載されているので、当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるというべきであることは、前記イに記載のとおりであって、このことは、本件発明1において生石灰の物性についての技術的限定に関する記載がないことに左右されるものではないから、申立人杉岡の前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4甲第1号所定の規定に適合するので、前記第4の1(2)の申立人杉岡の特許異議申立理由は理由がない。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
ここでいう甲第2号証~甲第7号証は、申立人杉岡が提出した、前記第4の1(4)に記載された甲第2号証~甲第7号証である。
ア 甲各号証の記載事項等
(ア)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
a 甲第2号証には、以下の(2a)の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 粉末状もしくは粒状の生石灰を、その消化後に生成する消石灰の量に対して0.8~3質量%に相当する量のジエチレングリコールを含む、消化に必要な理論量の1.5質量倍以上の水に接触させることにより、消化を行ない、含水率が5~30質量%の含水消石灰を得た後、該含水消石灰を乾燥することを特徴とする、BET比表面積が50m2/g以上の高活性消石灰の製造方法。」
b 前記a(2a)によれば、甲第2号証には、
「粉末状もしくは粒状の生石灰を、その消化後に生成する消石灰の量に対して0.8~3質量%に相当する量のジエチレングリコールを含む、消化に必要な理論量の1.5質量倍以上の水に接触させることにより、消化を行ない、含水率が5~30質量%の含水消石灰を得た後、該含水消石灰を乾燥する、BET比表面積が50m2/g以上の高活性消石灰の製造方法。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(イ)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の(3a)の記載がある。
(3a)「6.1.2 実験条件および方法
実験に用いる酸性ガスSO2およびHClの濃度を1500ppmとした.・・・また,消石灰サンプルとしては,BET比表面積:15~51m2・g-1,細孔容積:0.07~0.23cm3・g-1を有する消石灰13点を実験に供した.」(415ページ右欄下から16行目~下から10行目)
(ウ)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の(4a)の記載がある。
(4a)「
[図:0001390557000005.jpg]
一般的な消石灰と比較して、ヒシカールは全体的に微小粒子で形成されることで比表面積が大きく、粒子間の隙間の容量も大きいことから酸性ガスとの反応効率が高く、
少量で優れた酸性ガス除去効果が得られます。」(2/4ページ)
(エ)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の(5a)の記載がある。
(5a)「
[図:0001390557000006.jpg]
・・・
[図:0001390557000007.jpg]
」(1ページ目)
(オ)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の(6a)の記載がある。
(6a)「しかし、引用文献2には、特に比表面積と細孔容積の点で、得られる消石灰の特性について、一切の記載も示唆もされていません。
さらに、引用文献2は、蒸気分解の最小化を教示していますが、引用文献2は、消和機の消和領域の長さの90%以上で実行される、消和工程中に生成された蒸気を除去する工程を含む消石灰の製造方法について、記載も示唆もしていません。」(8/12ページ7行~11行)(当審注:前記「引用文献2」は甲第7号証と同じものである。)
(カ)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の(7a)~(7c)の記載がある。
(7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 消化機中で酸化カルシウムに水を加えて水和反応を行なうことにより水酸化カルシウムを製造する方法において、原料酸化カルシウムを消化機の一方の端に送給し、これを混合・撹拌・解砕しつつ他方の端に向けて移動させ、その移動経路上に設けた複数のノズルから水を供給するとともに反応物の温度を測定し、測定された温度にもとづいて各ノズルから供給する水量を調節することにより、反応物の温度を100~110℃の範囲内に維持しつつ水和反応を進め、かつ水和反応の発熱により発生した水蒸気を系外に排出することにより消化機内が加圧されることを防ぎ、水蒸気による水和を最小限に抑えるとともに反応物の温度の維持を容易にしつつ操業することを特徴とする微粉水酸化カルシウムの製造方法。」
(7b)「【0010】上記の方法を実施するに適した、本発明の、微細であって反応性の極めて高い水酸化カルシウム粉末を製造する装置は、図1および図2に示すように、一方の端に、原料酸化カルシウムの送給口(11)を有し他方の端に製品水酸化カルシウムの排出口(12)を有するとともに消化水が蒸発して生じる水蒸気の出口を設けた筒状の反応槽の形をした消化機(1)の内部に、粉体を混合・撹拌・解砕しつつ移送し、移送方向の一部において逆送機能を有し、それによって反応物のバックミキシングを可能にした移送手段(13)をそなえ、かつ移送経路上に複数の水供給ノズル(3:3A,3B,3C,…)を設けるとともに反応物の温度を測定する複数の温度センサー(4:4A,4B,4C,…)を設けてなる消化機(1)に、温度センサーが測定した温度のデータにもとづいて水供給ノズルからの水量を調節するコントロール手段(5)を付加したことを特徴とする。
【0011】図1において、符号(6A)は酸化カルシウムを容れてある原料ホッパー、(6B)は消化水タンク、(6C)はその定量送給装置、(7)は水酸化カルシウムを受けとる製品ホッパーである。
【0012】この装置は、図示したように、消化機(1)の上方に直結してバッグフィルター(8)を設け、水和反応熱により発生した水蒸気を直ちに系外へ逸出させるとともに、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムの粉末は系へ戻るように構成するとよい。
・・・
【0026】本発明の好ましい態様について説明すれば、まず、水和熱により発生した水蒸気を消化機の上方でこれに直結したバッグフィルターに導いて系外に排出すると、消化機内に水蒸気が滞留したり内部で移動したりすることが少なくなり温度コントロールが容易になるとともに、水蒸気消化が最小限に抑えられる。 水蒸気に伴われて上昇した水酸化カルシウムまたは微量の酸化カルシウムの微粉末は、バッグフィルターで捕集されて系に戻ることはいうまでもない。」
(7c)「
[図:0001390557000008.jpg]
」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「高活性消石灰」及び「高活性消石灰の製造方法」は、それぞれ、本件発明1における「高多孔性消石灰」及び「高多孔性消石灰の製造方法」に相当し、甲2発明において、「高活性消石灰」の「BET比表面積が50m2/g以上」であることは、本件発明1において、「高多孔性消石灰」が「30m2/g~50m2/gである高比表面積」「を有」することを満たす。
また、甲2発明において、「粉末状もしくは粒状の生石灰を、その消化後に生成する消石灰の量に対して0.8~3質量%に相当する量のジエチレングリコールを含む、消化に必要な理論量の1.5質量倍以上の水に接触させることにより、消化を行ない、含水率が5~30質量%の含水消石灰を得」ることは、これを工程に分けて考えれば、生石灰の供給工程、水の供給工程及び生石灰の消化(消和)工程があることは明らかであり、実際にはこれらの工程を、消化を行う装置で行い、この装置に供給領域や消化領域があることも明らかであるから、本件発明1において、「当該方法は、生石灰の供給工程、水和機の供給領域における水の供給工程、前記水和機の消和領域における前記生石灰の消和工程」「を含んで、消石灰を生成」することに相当する。
すると、本件発明1と甲2発明とは、
「高多孔性消石灰の製造方法であって、
当該高多孔性消石灰は、30m2/g~50m2/gである高比表面積を有し、
当該方法は、生石灰の供給工程、
水和機の供給領域における水の供給工程、
前記水和機の消和領域における前記生石灰の消和工程を含んで、消石灰を生成する、上記方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「高多孔性消石灰」が、「1000オングストローム未満の直径を有する細孔によって構成され0.15cm3/g以上の高細孔容積を有」する、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は前記発明特定事項を有しない点。
・相違点2:本件発明1は、「前記水和機の熟成領域における熟成工程を含」む、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は「熟成工程」を含まない点。
・相違点3:本件発明1は、「前記方法は、
ー 生石灰の供給から消石灰の回収まで、前記水和機内の消和方向に沿って石灰を輸送する輸送手段による石灰の輸送を含み、前記消石灰の回収は、消和方向の下流で行われ、
以下の特徴:
ー 前記水和機は、抽出フードを備えること、
前記生石灰の供給工程及び前記水の供給工程は、重量で、0.8~1.3を含む水/生石灰比が得られるように行われ、
ー 前記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含み、前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われること、高比表面積及び高細孔容積の消石灰である未処理の高多孔性消石灰を生成する」、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は前記発明特定事項を有しない点。
(イ)事案に鑑み、前記相違点3から検討すると、前記ア(カ)(7a)~(7c)によれば、甲第7号証には、微細であって反応性の極めて高い水酸化カルシウム粉末を製造する装置において、消化機の上方に直結してバッグフィルターを設け、水和反応熱により発生した水蒸気を直ちに系外へ逸出させるとともに、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムの粉末は系へ戻るように構成することで、消化機内に水蒸気が滞留したり内部で移動したりすることが少なくなり温度コントロールが容易になるとともに、水蒸気消化が最小限に抑えられることが記載されており、前記消化機及びバッグフィルターは、それぞれ、本件発明1における「水和機」及び「抽出フード」に相当し、甲第7号証に記載された装置において、水和反応熱により発生した水蒸気を直ちに系外へ逸出させることは、本件発明1における「蒸気を除去する工程」に相当するものである。
すると、甲第7号証には、微細であって反応性の極めて高い水酸化カルシウム粉末を製造する装置における「水和機」において、「抽出フード」を用いて「蒸気を除去する工程」を行うことが開示されているといえるが、前記「蒸気を除去する工程」が、「消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」ものであることは記載も示唆もされるものではない。
また、甲第3~6号証にも、このことが記載も示唆もされるものではないから、当業者は、甲2発明において前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~15について検討しても事情は同じである。
ウ 杉岡意見書について
(ア)申立人杉岡の杉岡意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
本件発明1において「前記生石灰の供給工程及び前記水の供給工程は、重量で、0.8~1.3を含む水/生石灰比が得られるように行われ」ることは、「水/生石灰比」が、甲第2号証に記載された範囲に含まれ、本件発明1において、「蒸気を除去する工程」が「消和領域の長さの90%以上にわたって行われることで顕著な効果を奏するものでもないから、本件発明1は、甲2発明及び甲第3号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(4ページ目下から9行目~5ページ目下から9行目)。
(イ)ところが、前記イ(イ)によれば、甲2発明における「水/生石灰比」が本件発明1と合致するか否かに関わらず、また、本件発明1において、「蒸気を除去する工程」が「消和領域の長さの90%以上にわたって行われること」で顕著な効果を奏するか否かに関わらず、当業者は、甲2発明において、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないことに変わりはないから、本件発明1は、甲2発明及び甲第3号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、申立人杉岡の前記主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~15は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第4の1(3)の申立人杉岡の特許異議申立理由も理由がない。
2 申立人出川による特許異議申立理由について
前記第4の2(4)ア及びエの特許異議申立理由については、前記第6の1(2)及び(3)で検討したので、以下、そのほかの特許異議申立理由について検討する。
(1)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
ここでいう甲第1号証~甲第4号証は、申立人出川が提出した、前記第4の2(5)に記載された甲第1号証~甲第4号証である。
ア 甲各号証の記載事項等
(ア)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
a 甲第1号証には以下の(1A)~(1C)の記載がある。
(1A)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状もしくは粒状の生石灰に、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、糖類、糖アルコール、一価アルコール、多価アルコール、一級アミン、二級アミン、アルコールアミン、コハク酸、金属コハク酸及びリグニンスルホン酸塩よりなる群から選ばれる水溶性化合物を含む消化水を、該生石灰の消化に必要な理論量の1.5~5質量倍の量にて、攪拌下に接触させることにより消化を行い、含水率が5~33質量%の低含水消石灰を得る工程、該低含水消石灰に水を加えて攪拌し、含水率が35~55質量%の高含水消石灰を得る工程、そして該高含水消石灰を乾燥する工程からなる、比表面積が30m2/g以上であって、直径が20~1000オングストロームの範囲にある全細孔の容積が0.30mL/g以上の多孔質消石灰の製造方法。」
(1B)「【実施例】
【0028】
[実施例1]
ジャケット付き一軸混合機(容量:130L)のジャケットに0.19MPaのスチームを供給して、混合機内温度を約130℃に調整した後、その内部に生石灰(200メッシュ篩80質量%以上パス、活性度:400mL)15000質量部を投入した。次いで、上記一軸混合機に、水道水15910質量部(生石灰の消化に必要な理論量の約3.3倍)に、消化後に生成する消石灰の量に対し1.5質量%に相当するジエチレングリコールを溶解させた消化水を投入した。そして、消化により生成する水蒸気を外部に排気しながら、攪拌回転数80rpmの条件にて5分間攪拌して含水消石灰を得た。得られた含水消石灰の一部を取り出して、真空乾燥機を用いて減圧下、180℃の温度で90分間乾燥したときの乾燥減量から含水率を求めたところ、その値は20質量%であった。
【0029】
次に、上記の一軸混合機に水道水8260質量部を投入して、さらに上記の条件で5分間攪拌混合した。攪拌混合後の含水消石灰の含水率を測定したところ、その値は40.0質量%であった。攪拌混合後の含水消石灰を取り出して、真空乾燥機を用いて減圧下、180℃の温度で乾燥し、その含水率を1質量%以下にした後、サンプルミル(共立理工(株)製、SK-M10型)にて、30秒間解砕処理を行って乾燥消石灰粉末を得た。
得られた乾燥消石灰の比表面積及び細孔容積(細孔径範囲:20~1000オングストローム)を下記の条件で測定した。その結果を表1に示す。
【0030】
比表面積の測定条件:BET法
細孔容積の測定条件:BJH法(窒素脱着側)」
(1C)「【0037】
[図:0001390557000009.jpg]
」
b 前記a(1A)~(1C)によれば、甲第1号証には、粉末状もしくは粒状の生石灰に、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、糖類、糖アルコール、一価アルコール、多価アルコール、一級アミン、二級アミン、アルコールアミン、コハク酸、金属コハク酸及びリグニンスルホン酸塩よりなる群から選ばれる水溶性化合物を含む消化水を、該生石灰の消化に必要な理論量の1.5~5質量倍の量にて、攪拌下に接触させることにより消化を行い、含水率が5~33質量%の低含水消石灰を得る工程、該低含水消石灰に水を加えて攪拌し、含水率が35~55質量%の高含水消石灰を得る工程、そして該高含水消石灰を乾燥する工程からなる、比表面積が30m2/g以上であって、直径が20~1000オングストロームの範囲にある全細孔の容積が0.30mL/g以上の「多孔質消石灰の製造方法」が記載されている。
すなわち、前記「多孔質消石灰の製造方法」は、実施例1に注目すると、ジャケット付き一軸混合機(容量:130L)のジャケットに0.19MPaのスチームを供給して、混合機内温度を約130℃に調整した後、その内部に生石灰(200メッシュ篩80質量%以上パス、活性度:400mL)15000質量部を投入し、次いで、前記一軸混合機に、水道水15910質量部(生石灰の消化に必要な理論量の約3.3倍)に、消化後に生成する消石灰の量に対し1.5質量%に相当するジエチレングリコールを溶解させた消化水を投入し、そして、消化により生成する水蒸気を外部に排気しながら、攪拌回転数80rpmの条件にて5分間攪拌して含水消石灰を得た後、得られた含水消石灰の一部を取り出して、真空乾燥機を用いて減圧下、180℃の温度で90分間乾燥したときの乾燥減量から含水率を求めたところ、その値は20質量%であったものである。
次に、前記の一軸混合機に水道水8260質量部を投入して、さらに前記の条件で5分間攪拌混合し、攪拌混合後の含水消石灰の含水率を測定したところ、その値は40.0質量%であり、攪拌混合後の含水消石灰を取り出して、真空乾燥機を用いて減圧下、180℃の温度で乾燥し、その含水率を1質量%以下にした後、サンプルミル(共立理工(株)製、SK-M10型)にて、30秒間解砕処理を行って乾燥消石灰粉末を得たものであり、得られた乾燥消石灰のBET法による比表面積は47.9m2/gであり、及び細孔容積(細孔径範囲:20~1000オングストローム)は0.406mL/gであるものである。
c 前記bによれば、甲第1号証には、
「粉末状もしくは粒状の生石灰に、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、糖類、糖アルコール、一価アルコール、多価アルコール、一級アミン、二級アミン、アルコールアミン、コハク酸、金属コハク酸及びリグニンスルホン酸塩よりなる群から選ばれる水溶性化合物を含む消化水を、該生石灰の消化に必要な理論量の1.5~5質量倍の量にて、攪拌下に接触させることにより消化を行い、含水率が5~33質量%の低含水消石灰を得る工程、該低含水消石灰に水を加えて攪拌し、含水率が35~55質量%の高含水消石灰を得る工程、そして該高含水消石灰を乾燥する工程からなる、比表面積が30m2/g以上であって、直径が20~1000オングストロームの範囲にある全細孔の容積が0.30mL/g以上の多孔質消石灰の製造方法であって、
前記多孔質消石灰の製造方法は、ジャケット付き一軸混合機(容量:130L)のジャケットに0.19MPaのスチームを供給して、混合機内温度を約130℃に調整した後、その内部に生石灰(200メッシュ篩80質量%以上パス、活性度:400mL)15000質量部を投入し、次いで、前記一軸混合機に、水道水15910質量部(生石灰の消化に必要な理論量の約3.3倍)に、消化後に生成する消石灰の量に対し1.5質量%に相当するジエチレングリコールを溶解させた消化水を投入し、そして、消化により生成する水蒸気を外部に排気しながら、攪拌回転数80rpmの条件にて5分間攪拌して含水消石灰を得た後、得られた含水消石灰の一部を取り出して、真空乾燥機を用いて減圧下、180℃の温度で90分間乾燥したときの乾燥減量から含水率を求めたところ、その値は20質量%であったものであり、
次に、前記の一軸混合機に水道水8260質量部を投入して、さらに前記の条件で5分間攪拌混合し、攪拌混合後の含水消石灰の含水率を測定したところ、その値は40.0質量%であり、攪拌混合後の含水消石灰を取り出して、真空乾燥機を用いて減圧下、180℃の温度で乾燥し、その含水率を1質量%以下にした後、サンプルミル(共立理工(株)製、SKーM10型)にて、30秒間解砕処理を行って乾燥消石灰粉末を得たものであり、
得られた乾燥消石灰のBET法による比表面積は47.9m2/gであり、及び細孔容積(細孔径範囲:20~1000オングストローム)は0.406mL/gである、多孔質消石灰の製造方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(イ)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の(2A)、(2B)の記載がある。
(2A)「イ)入交式消化装置(乾式集じん機をもちいた場合)
原料生石灰は中間タンクよりスクリューフィーダで定量供給され,消化水は中間貯水タンクよりポンプ,調節弁,流量計等をへて消化機に供給される。消化水量は理論値の約1.8~2.2倍に設定される。
生石灰と消化水は消化機の攪拌羽根で強制的に混合され,消化反応を起こし消石灰になり機内を移動し,オーバーフロー板を超えて熟成機にはいる。熟成機では,攪拌羽根で攪拌され,消化機での消化ムラ,付着水分の過不足等を完全に調整し均一な消石灰にする。均質になった消石灰は機内を移動し,オーバーフロー板をこえて排出され,搬送機で分級工程に送られる。・・・消化反応のさいに発生する粉じん(生石灰の物性によりバラツキはあるが,温度約90℃,水分量約50%,ダスト濃度約40~80g/Nm3)は熟成機上に設置した乾式集じん機で処理される。排出されるガスは温度約90℃,水分量約50%,ダスト濃度約0.04g/Nm3でダスト回収率はかなりよい。バッグフィルタに付着したダストは逆圧洗浄で熟成機に落下し,製品として回収される。・・・入交式消化装置(乾式集じん機を用いた場合)の概要を図3.3.3にしめす。」(232ページ1行~最終行)
(2B)「
[図:0001390557000010.jpg]
」(233ページ)
(ウ)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、以下の(3A)、(3B)の記載がある。
(3A)「【0001】
本発明は、比表面積および細孔の容積が大きく、そのために酸性ガスとくにイオウ酸化物を吸収する能力が高い、高活性な消石灰の製造方法に関する。」
(3B)「【0020】
以下の実施例において採用した試験方法は、それぞれ下記のとおりである。
[活性度「t60」の測定]
EN459-02に準拠し、容量1Lのデュワー瓶に20℃の水を600g入れ、300rpmで撹拌しているところに、生石灰のサンプル150gを入れて水和反応を起こさせる。水温を測定して、60℃に達するまでに経過した時間を測定する。
[比表面積の測定]
BET法
[細孔容積の測定]
BJH法
・・・
【0021】
[原料酸化カルシウム]
石灰石を焼成し破砕して粒度を-10mmとすることにより、活性度t60が異なる酸化カルシウムを2種用意した。あわせて、消石灰を焼成した酸化カルシウムを2種用意した。それぞれの活性度t60の値は、下記のとおりである。
[図:0001390557000011.jpg]
これらの原料酸化カルシウムを対象に、表1に示す条件で消化を行なって、消石灰を製造した。
【0022】
表1
[図:0001390557000012.jpg]
*1 ジエチレングリコール
*2 トリエタノールアミン
*3 酸化カルシウム100重量部に対する重量部
*4 酸化カルシウム1重量部に対する重量部
比較例1は消化水が添加剤を含まない場合、比較例2は水和温度が低い場合であって、前掲特許文献1の技術の一実施例に相当する。比較例3は添加剤の種類が適切でない場合、比較例4は原料生石灰の活性度が低い場合であり、比較例5は従来技術による場合である。」
(エ)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、以下の(4A)~(4C)の記載がある。
(4A)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は水酸化カルシウム(消石灰)の製造法に係り、特に、比表面積が大きく、反応性が高い水酸化カルシウムの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】水酸化カルシウムを製造する場合、酸化カルシウム(生石灰)及び消化水を消化機に定量供給し、消化機内で混合攪拌して生石灰の消化(水和)を行う。消化機から排出された水酸化カルシウムは熟成機に供給され、消化ムラをなくし、付着水分を均一にして排出される。この間に、余分な水分は蒸発し、熟成機出口で水分が殆ど0になるよう消化水量を調節する。」
(4B)「【0039】実施例1
図1に示す装置を用い、次の条件で消石灰を製造した。
・・・
このようにして得られた水酸化カルシウムを150μm以下に粉砕して水酸化カルシウムを製造した。この水酸化カルシウムの比表面積とCAAの測定結果を表1に示す。」
(4C)「【0051】
【表1】
[図:0001390557000013.jpg]
【0052】表1から明らかな通り、実施例1~6によると比表面積が大きく、しかも活性度の高い(CAA値の低い)消石灰が得られる。一方、比較例1~6にあっては、いずれも比表面積が小さく、活性度も低い(CAA値が高い)ことが認められる。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「多孔質消石灰」及び「多孔質消石灰の製造方法」は、それぞれ、本件発明1における「高多孔性消石灰」及び「高多孔性消石灰の製造方法」に相当し、甲1発明において「得られた乾燥消石灰のBET法による比表面積は47.9m2/gであ」ることは、本件発明1において「当該高多孔性消石灰は、30m2/g~50m2/gである高比表面積」「を有」することを満たす。
また、甲1発明において、「ジャケット付き一軸混合機(容量:130L)のジャケットに0.19MPaのスチームを供給して、混合機内温度を約130℃に調整した後、その内部に生石灰(200メッシュ篩80質量%以上パス、活性度:400mL)15000質量部を投入し、次いで、前記一軸混合機に、水道水15910質量部(生石灰の消化に必要な理論量の約3.3倍)に、消化後に生成する消石灰の量に対し1.5質量%に相当するジエチレングリコールを溶解させた消化水を投入し、そして、消化により生成する水蒸気を外部に排気しながら、攪拌回転数80rpmの条件にて5分間攪拌して含水消石灰を得」ることは、甲1発明の「ジャケット付き一軸混合機(容量:130L)」は、本件発明の「水和機」に相当するから、本件発明1において、「当該方法は、生石灰の供給工程、水和機の供給領域における水の供給工程、前記水和機の消和領域における前記生石灰の消和工程」「を含んで、消石灰を生成し」、「ー 前記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含」むことに相当する。
(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「高多孔性消石灰の製造方法であって、
当該高多孔性消石灰は、30m2/g~50m2/gである高比表面積を有し、
当該方法は、生石灰の供給工程、
水和機の供給領域における水の供給工程、
前記水和機の消和領域における前記生石灰の消和工程を含んで、消石灰を生成し、
ー 前記方法は、さらに、前記消和工程中に発生した蒸気を除去する工程を含む、上記方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明1は、「高多孔性消石灰」が、「1000オングストローム未満の直径を有する細孔によって構成され0.15cm3/g以上の高細孔容積を有」する、との発明特定事項を有するのに対して、本件発明1は、「直径が20~1000オングストロームの範囲にある全細孔の容積が0.30mL/g以上」である点。
・相違点2’:本件発明1は、「前記水和機の熟成領域における熟成工程を含」むのに対して、甲1発明は「熟成工程」について記載されていない点。
・相違点3’:本件発明1は、「前記方法は、
ー 生石灰の供給から消石灰の回収まで、前記水和機内の消和方向に沿って石灰を輸送する輸送手段による石灰の輸送を含み、前記消石灰の回収は、消和方向の下流で行われ、
以下の特徴:
ー 前記水和機は、抽出フードを備えること、
前記生石灰の供給工程及び前記水の供給工程は、重量で、0.8~1.3を含む水/生石灰比が得られるように行われ」、
「前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われること、高比表面積及び高細孔容積の消石灰である未処理の高多孔性消石灰を生成する」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。
(ウ)事案に鑑み、前記(イ)の相違点3’から検討すると、甲1発明は前記相違点3’に係る発明特定事項を有しないのであるから、前記相違点3’は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえないのであり、本件発明2~7、11及び13~15について検討しても事情は同じである。
(エ)次に、前記相違点3’の容易想到性について検討すると、甲第1号証~甲第4号証には、「高多孔性消石灰の製造方法」において、「前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」ことが記載も示唆もされていないから、当業者は、甲1発明において、前記相違点3’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、甲第2~4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないのであり、本件発明2~15について検討しても事情は同じである。
ウ 出川意見書について
(ア)申立人出川の出川意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
甲第2号証(233ページ図3.3.3)には、「水和機」の長さの少なくとも30%から65%までの長さの「抽出フード」を備えた「水和機」が示されているから、本件発明1は進歩性を有しない(2ページ目17行~21行)。
(イ)ところが、前記ア(イ)(2A)、(2B)をみても、甲第2号証には、入交式消化装置(乾式集じん機をもちいた場合)において、消化反応のさいに発生する粉じんが熟成機上に設置した乾式集じん機で処理されること、排出されるガスは温度約90℃、水分量約50%、ダスト濃度約0.04g/Nm3でダスト回収率はかなりよく、バッグフィルタに付着したダストは逆圧洗浄で熟成機に落下し、製品として回収されること等が記載されているに過ぎず、水和機の長さの少なくとも30%から65%までの長さの「抽出フード」を備えた「水和機」が示されているとはいえないから、申立人出川の前記主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~7、11及び13~15は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないし、本件発明1~15は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないので、前記第4の2(1)の申立人出川の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
(2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
ア 本件特許明細書の記載に接した当業者は、「消和領域の長さの90%以上」の長さは、前記「抽出フード」が延在する範囲により特定されるものであることを理解できることは、前記第6の1(2)ウに記載のとおりである。
してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「供給領域」、「消和領域」及び「熟成領域」がどのような形状であるのか記載がないとしても、当業者は、「蒸気を除去する工程」の「消和領域の長さの90%以上」がどのような範囲であるかを理解でき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるから、発明の詳細な説明には、当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるというべきである。
そして、このことを前記1(1)アの判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するというべきであり、本件発明2~15について検討しても事情は同じであるので、前記第4の2(2)アの特許異議申立理由は理由がない。
イ 前記第6の1(2)ア(エ)(段落【0103】~【0108】、【0118】~【0120】)、(オ)によれば、【図1】のCFDシミュレーションは、「水和機」の終端に配置された小さな抽出フードセクションを有するものであって、水蒸気が非常に長い流路を示し、それによって、水蒸気がバッグフィルターを通して排気される前に無視できないほどの期間にわたって、石灰床と密接に接触した状態で「水和機」内に水蒸気を残留させるものであり、この期間中、水蒸気は生石灰の消和を妨害し、それによって水和プロセスを正確に制御することを妨げるものである。
そして、「水和機」の終端に配置された小さな抽出フードセクションを有するものである【図1】のCFDシミュレーションが、「水和機」に、消和方向の上流で、前記「水和機」の長さの少なくとも30%から始まり、少なくとも65%まで延在する「抽出フード」を備えることで、「消和領域の長さの90%以上にわたって」「蒸気を除去する工程」を行うものとはいえない。
更に、本件特許明細書の段落【0120】に記載された実験も、前記【図1】のシミュレーションと同様に、スチームの抽出を「水和機」の終端へとシフトしたものであるから、当該実験もまた、「消和領域の長さの90%以上にわたって」「蒸気を除去する工程」を行うものとはいえない。
すると、前記【図1】のシミュレーションや段落【0120】に記載された実験は、いずれも、「蒸気を除去する工程」が「消和領域の90%以上にわたって」行われているものとはいえないから、これらにおける「蒸気を除去する工程」が「消和領域の90%以上にわたって」行われていることを前提とした前記第4の2(2)イの特許異議申立理由は前提において誤っており、係る理由により本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するということはできないので、理由がない。
ウ 前記第6の1(2)ア(イ)(段落【0038】)によれば、本件発明は、改善された収着(sorbing)能力を有し、工業的に実現可能な、高多孔性消石灰を製造する手法に到達する必要性がある、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決しようとするものであるから、本件課題の解決にあたって、消和プロセスにおいてフィルターを使用することを前提としたものではなく、また、本件課題は明確である。
すると、本件課題の解決にあたって、消和プロセスにおいてフィルターを使用することや、本件課題自体が明確でないことを前提とした前記第4の2(2)ウの特許異議申立理由もまた、前提において誤っており、係る理由により本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するということはできないので、理由がない。
エ 小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4甲第1号所定の規定に適合するので、前記第4の2(2)の申立人出川の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
イ 本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明においては、「水和機」に、消和方向の上流で、前記「水和機」の長さの少なくとも30%から始まり、少なくとも65%まで延在する「抽出フード」を備えることにより、「蒸気を除去する工程」が最適化されて、発生したスチームが実質的に前記「消和領域」に沿って除去されること、すなわち、蒸気除去が「消和領域の長さの90%以上」にわたって行われることとなって、消石灰の多孔性特性に有害なスチームと石灰との接触が回避されることを理解することができることは、前記第6の1(2)ウに記載のとおりである。
更に、前記第6の1(2)ア(イ)(段落【0043】~【0045】)によれば、本件発明においては、発生したスチームを実質的に「消和領域」に沿って除去することによって、この段階での、消石灰の多孔性特性に有害であるスチームと石灰との接触が回避されて、石灰パテの形成による「水和機」の目詰まりを回避でき、制御された均質な多孔性の特徴を有する消石灰に到達する成功の重要な要因であることが見出されているものである。
ウ 前記イによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の「前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」、との発明特定事項により、スチームと石灰との接触が回避されることで、「水和機」の目詰まりを回避でき、本件課題を解決できることを理解することができる。
すると、当業者は、「蒸気を除去する工程」における「90%」という値が閾値的効果を有することが本件特許明細書に記載されているか否かに関わらず、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するというべきである。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2~15について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(3)アの特許異議申立理由は理由がない。
エ 前記ウによれば、当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるのであるから、そもそも、本件特許明細書に、「消和領域の長さの90%以上」をどの方向で捉えても本件課題を解決することができることや、ほかの方向がどのような割合であっても本件課題を解決することができることを記載する必要はない。
そうすると、本件特許明細書に、「消和領域の長さの90%以上」をどの方向で捉えても本件課題を解決することができることや、ほかの方向がどのような割合であっても本件課題を解決することができることが記載されていないことを前提とした前記第4の2(3)イの特許異議申立理由は前提において誤っており、係る理由により本件特許請求の範囲の請求項1~15の記載がサポート要件に適合しないということはできないので、理由がない。
オ 前記ウによれば、当業者は、本件課題を解決する際のプロセス中の目詰まりを避けながら、という効果は、本件発明1の「前記蒸気を除去する工程は、消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり前記水和機の長さの少なくとも65%まで前記水和機の長さの一部に延在している前記抽出フードを用いることによって、前記消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」、との発明特定事項による効果であり、プロセス中の目詰まりが「水和機」の目詰まりをいうことを理解することができるから、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するというべきである。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2~15について検討しても事情は同じであるので、前記第4の2(3)ウの特許異議申立理由は理由がない。
カ 小括
したがって、特許請求の範囲の請求項1~15の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するので、前記第4の2(3)の申立人出川の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
(4)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
ア 本件発明1における「蒸気を除去する工程」は、「消和方向の上流で前記水和機の長さの少なくとも30%から始まり、少なくとも65%まで延在する抽出フードを備えることによって、消和領域の長さの90%以上にわたって行われる」ものであるから、当業者は、「消和領域の長さ」が、「消和方向」、すなわち、「抽出フード」が延在し、石灰が水和機に沿って輸送される方向の長さを意味していること理解できるので、特許請求の範囲の請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記第6の1(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確であるというべきであり、本件発明2~15について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(4)イの特許異議申立理由は理由がない。
イ 前記アに記載したのと同様の理由により、当業者は、本件発明における「蒸気を除去する工程」が「抽出フード」により行われるものであることを理解できるのであって、「蒸気を除去する工程」が線分状で行われるものとも面状で行われるものともいえない。
すると、「蒸気を除去する工程」が線分状または面状で行われることを前提とした前記第4の2(4)ウ及びオの特許異議申立理由は前提において誤っており、係る理由により本件発明1~15が明確でないということはできないので、前記第4の2(4)ウ、オの特許異議申立理由はいずれも理由がない。
ウ 前記第6の1(2)ア(エ)(段落【0100】~【0111】)、(キ)及び(ク)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明においては、「水和機」の「消和領域」で発生する水蒸気を、「抽出フード」により「水和機」の外に向けて排出するものであることを理解できるから、本件発明1の「前記蒸気を除去する」との発明特定事項の意味が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記第6の1(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確であるというべきであり、本件発明2~15について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(4)カの特許異議申立理由は理由がない。
エ 前記第6の1(2)ア(ア)(段落【0013】)によれば、「水和機」は、3つの主要な連続領域に分けることができ、最初の領域は、「供給領域」又は「混合領域」と呼ばれ、消和方向の上流に位置する「水和機」の一部を構成し、ここでは、生石灰と水が一緒に供給されて混合されるものである。
すると、生石灰は、「生石灰の供給工程」において、水和機の「供給領域」に供給されるものと解されるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6における「生石灰が水和機に落下する」との発明特定事項は、生石灰が「水和機」の「供給領域」に落下することを意味していることを理解できるので、前記「生石灰が水和機に落下する」発明特定事項の意味が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記第6の1(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明6は明確であるというべきであるから、前記第4の2(4)キの特許異議申立理由は理由がない。
オ 小括
したがって、特許請求の範囲の請求項1~15の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、前記第4の2(4)イ、ウ及びオ~キの申立人出川の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
3 まとめ
よって、前記第4の1の申立人杉岡の特許異議申立理由及び同2の申立人出川の特許異議申立理由は、いずれも理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるので、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700847