特許異議申立
2020-700828
ジルコニア焼結体、並びにジルコニアの組成物及び仮焼体
- 審判番号
- 2020-700828
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-114380
- 登録番号
- 6688838
- 請求日
- 2020年10月23日
- 審決日
- 2022年01月04日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】クラレノリタケデンタル株式会社
- 【権利者代理人】加藤 朝道
- 【異議申立人】中岡 勇士
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 日比野 隆治
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B) / P1651.853-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条1項特許法36条4項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第6688838号発明「ジルコニア焼結体、並びにジルコニアの組成物及び仮焼体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6688838号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~6〕について訂正することを認める。
特許第6688838号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6688838号の請求項1~6の特許についての出願は、2014年(平成26年)3月10日(優先権主張 2013年(平成25年)3月11日、日本国)を国際出願日とする特願2015-505468号の一部を平成30年6月15日に新たな特許出願としたものであって、特願2018-114380号として審査され、令和2年4月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年10月23日に、全請求項に対して、特許異議申立人である中岡勇士より本件特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和 3年 1月19日付け:取消理由通知
同年 3月 5日 :意見書の提出(特許権者)
同年 4月27日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 7日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 8月 3日 :意見書の提出(特許異議申立人)
同年10月19日付け:審尋
同年11月18日 :回答書(特許権者)
第2 本件訂正の適否についての当審の判断
1 本件訂正の内容(訂正事項)
令和3年7月7日にされた訂正の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔4~6〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであるところ、本件訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項4に、
「Lab色空間におけるL*値が55~75であり、a*値が-5~10であり、b*値が-5~30であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。」
と記載されているのを、
「Lab色空間におけるL*値が55~75であり、a*値が-5~10であり、b*値が-5~30であり、
前記Lab色空間は、前記ジルコニア焼結体を直径14mm、厚さ1.2mmの円板に加工し、その両面を研磨した後、オリンパス社製の測定装置CE100-DC/USを用いて測定し、
前記透過率は、JISK7361に準拠して測定し、
前記透過率を測定した試料は、厚さ0.5mmであり、その両面を鏡面加工したものである、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。」
に訂正する。
請求項4を引用する請求項5、6も同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項は、本件明細書の【0061】に記載された「Lab色空間は、ジルコニア焼結体を直径14mm、厚さ1.2mmの円板に加工し、その両面を研磨した後、オリンパス社製の測定装置CE100-DC/USを用いて測定した。」及び「ジルコニア焼結体の光の透過率はJISK7361に準拠して測定した。透過率を測定した試料は、厚さ0.5mmであり、その両面を鏡面加工したものである。」との記載に基づいて、請求項4において、Lab色空間及び光の透過率に関する測定手法を明確化ないし限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」又は同第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないといえる。
3 小括
以上のとおり、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~6〕について訂正することを認める。
第3 特許請求の範囲の記載(本件特許発明)
上記第2のとおり、本件訂正の請求は適法にされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件特許発明1」などといい、併せて「本件特許発明」という。また、各請求項に係る特許を個別に呼称するときは「本件特許1」などという。)。
【請求項1】
JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が654MPa以上であり、
JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.1MPa・m1/2以上であり、
180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11-1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であり、
JISK7361に準拠して測定した光の透過率が27%以上であり、
ジルコニア焼結体の断面写真において、各ジルコニア粒子の断面積を算出し、
前記断面積を基に、前記断面写真において各ジルコニア粒子の断面形状が円形であると仮定した場合の換算粒径を算出し、
前記換算粒径を基に、各ジルコニア粒子を0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けし、
各クラスにおいてジルコニア粒子の断面積の総計を算出し、
断面積を算出した全ジルコニア粒子の総断面積に対する各クラスの断面積割合を算出した場合、
前記換算粒径が0.4μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が4%以上35%以下であり、
前記換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が24%以上57%以下であり、
前記換算粒径が0.76μm以上のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が16%以上62%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項2】
前記曲げ強度が1000MPa以上である、請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
前記破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
Lab色空間におけるL*値が55~75であり、a*値が-5~10であり、b*値が-5~30であり、
前記Lab色空間は、前記ジルコニア焼結体を直径14mm、厚さ1.2mmの円板に加工し、その両面を研磨した後、オリンパス社製の測定装置CE100-DC/USを用いて測定し、
前記透過率は、JISK7361に準拠して測定し、
前記透過率を測定した試料は、厚さ0.5mmであり、その両面を鏡面加工したものである、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
ジルコニアと、イットリアと、を含み、
前記イットリアの含有率は、前記ジルコニア及び前記イットリアの合計mol%に対して、3.5mol%~5mol%であり、
前記ジルコニア及び前記イットリアの合計質量に対して0質量%~0.3質量%の含有率で酸化アルミニウムを含み、
前記ジルコニア及び前記イットリアの合計質量に対して0質量%~0.6質量%の含有率で酸化チタンを含み、
前記ジルコニア及び前記イットリアの合計質量に対して0.1質量%以下の含有率で酸化ケイ素を含み、
1400℃~1600℃で焼結することにより請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物。
【請求項6】
ジルコニアと、イットリアと、を含み、
前記イットリアの含有率は、前記ジルコニア及び前記イットリアの合計mol%に対して、3.5mol%~5mol%であり、
前記ジルコニア及び前記イットリアの合計質量に対して0質量%~0.3質量%の含有率で酸化アルミニウムを含み、
前記ジルコニア及び前記イットリアの合計質量に対して0質量%~0.6質量%の含有率で酸化チタンを含み、
前記ジルコニア及び前記イットリアの合計質量に対して0.1質量%以下の含有率で酸化ケイ素を含み、
1400℃~1600℃で焼結することにより請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための仮焼体。
第4 取消理由(決定の予告)について
1 取消理由(決定の予告)の概要
令和3年4月27日付けで当審が通知した取消理由(決定の予告)は、明確性要件違反及びサポート要件違反に関するものであり、具体的には、本件訂正がされる前の特許請求の範囲の記載につき、以下の点を指摘したものである。
(1) 本件訂正前の請求項1~6に係る発明における断面積割合の規定に関する事項
ア 本件訂正前の請求項1に係る発明は、ジルコニア粒子の断面積割合に関する、次の規定を発明特定事項とするものである。
「ジルコニア焼結体の断面写真において、各ジルコニア粒子の断面積を算出し、
前記断面積を基に、前記断面写真において各ジルコニア粒子の断面形状が円形であると仮定した場合の換算粒径を算出し、
前記換算粒径を基に、各ジルコニア粒子を0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けし、
各クラスにおいてジルコニア粒子の断面積の総計を算出し、
断面積を算出した全ジルコニア粒子の総断面積に対する各クラスの断面積割合を算出した場合、
前記換算粒径が0.4μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が4%以上35%以下であり、
前記換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が24%以上57%以下であり、
前記換算粒径が0.76μm以上のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が16%以上62%以下であること」
イ そして、当該ジルコニア粒子の断面積割合の算出方法について、本件明細書の【0040】、並びに、【0070】、【図1】及び【図2】には、次のように記載されている。
・「【0040】
ジルコニア焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察し、その写真上において、輪郭がすべて現れている(輪郭が途切れていない)ジルコニア粒子をすべてピックアップする。ピックアップした各粒子についてSEM写真上における断面積を算出する。」
・「【0070】
実施例1、実施例22~27、及び比較例1~3において製造したジルコニア焼結体の断面のSEM写真を撮影し、SEM写真に映った粒子をクラス分けして、各クラスの断面積の合計を算出すると共に、その面積割合を算出した。電子顕微鏡は、(株)日立ハイテクフィールディング社製電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope;FE-SEM)(S-4700)を使用した。図1に実施例1におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図3に比較例1におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図5に比較例2におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図7に比較例3におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。倍率はいずれも20,000倍である。各SEM写真について、画像解析ソフト(MOUNTECH社製mac-view)を用いて、写真画面内に輪郭全体が映っている(輪郭が途切れていない)粒子をピックアップして、各ジルコニア結晶粒子の断面積を算出した。図2に、実施例1においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図4に、比較例1においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図6に、比較例2においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図8に、比較例3においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。なお、画像解析ソフトが粒子の輪郭を自動認識しない場合には、粒子の輪郭を認識するような処置を施した。算出した断面積を基に、各ジルコニア結晶粒子の断面が円形と仮定した場合の直径(換算粒径)を算出した。ピックアップした各粒子を、換算粒径を基にして0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けした。これは、換算粒径が可視光の波長範囲内に存在するか否かによって分類したものである。そして、各クラスにおいてジルコニア結晶粒子の断面積の総計を算出し、ピックアップした全ジルコニア結晶粒子の総断面積に対する割合を算出した。表5に、算出結果を示す。」
・「【図1】
「
[図:0001383253000001.jpg]
」
・「【図2】
「
[図:0001383253000002.jpg]
」
ウ 上記【0040】の記載及び【0070】(図1、2)の記載はそれぞれ、本件訂正前の請求項1~6に係る発明におけるジルコニア粒子の断面積割合の算出方法について、前者はその概要を、後者はその実施例(具体例)を示したものと解されるところ、両者は、当該ジルコニア粒子のピックアップの仕方において整合していない。
すなわち、上記【0040】の記載に従えば、輪郭がすべて現れている(輪郭が途切れていない)ジルコニア粒子はすべてピックアップすることになるところ、実施例(具体例)においては、本件特許の図1(実施例1におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真)において輪郭がすべて現れているジルコニア粒子が、同図2(実施例1においてピックアップしたジルコニア粒子)においてピックアップされていない(特許異議申立人が提出した甲第2号証(上記図1と図2を上下に並べて分析したもの)において赤丸で囲まれたジルコニア粒子をみると、同図1においては輪郭がすべて現れているジルコニア粒子が同図2においてピックアップされていないことを参酌した。)。
エ そうすると、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1に係る発明は、ジルコニア粒子の断面積割合に関する規定を発明特定事項として有しており、その算出方法(すなわちジルコニア粒子の断面積割合の定義)が重要となるところ、上記ウのとおり、当該算出方法(定義)の概要を記した箇所と実施例(具体例)を記した箇所とは整合していないため、当該算出方法(定義)を正確に把握することができないといわざるを得ない。
そうである以上、本件訂正前の請求項1に係る発明が規定するジルコニア粒子の断面積割合は、一義的に定まるということはできないから、その規定を充足するか否かを判別するにあたって、第三者に不測の不利益をもたらすものとなりかねないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確であるとはいえない。
オ したがって、本件訂正前の請求項1、さらにはこれを引用する請求項2~6の記載は、明確性要件に適合しない。
(2) 本件訂正前の請求項4~6に係る発明におけるLab色空間の諸数値に関する事項
ア 本件訂正前の請求項4に係る発明は、「Lab色空間におけるL*値が55~75であり、a*値が-5~10であり、b*値が-5~30であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。」であり、色の規定を発明特定事項として有するところ、当該規定に係る数値は、被測定物の厚みや背景色などの測定条件に影響されることが知られているから(この点は、特許権者も意見書において自認するところであるが、要すれば、特許異議申立人が提出した甲第4号証(顎咬合誌、第30巻、第3号、2010年、p.196-201)参照)、当該測定条件を定めていない当該規定によって、その数値を一義的に定めることは困難であるといわざるを得ない。
そのため、当該規定を充足するか否かを判別するにあたって、第三者に不測の不利益をもたらすものとなりかねないから、本件訂正前の請求項4に係る発明は明確であるとはいえない。
イ したがって、本件訂正前の請求項4、さらにはこれを引用する請求項5、6の記載は、明確性要件に適合しない。
2 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
上記第3に記載した本件訂正後の特許請求の範囲の記載及び特許権者が令和3年11月18日に提出した回答書の内容に照らし、改めて上記取消理由(決定の予告)の当否について検討をする。
(1) 本件訂正後の請求項1~6に係る発明における断面積割合の規定に関する事項について
当該断面積割合の規定に関し、上記取消理由(決定の予告)において指摘した点は、要するに、ジルコニア粒子の断面積割合の算出方法の概要について記載した本件明細書の【0040】の記載と、その実施例(具体例)を記載した同【0070】(図1、2)の記載とが、当該ジルコニア粒子のピックアップの仕方において整合していないこと、具体的にいうと、同【0040】の記載に従えば、輪郭がすべて現れている(輪郭が途切れていない)ジルコニア粒子はすべてピックアップすることになるところ、実施例(具体例)においては、本件特許の図1(実施例1におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真)において輪郭がすべて現れているジルコニア粒子が、同図2(実施例1においてピックアップしたジルコニア粒子)においてピックアップされていないことに基づくものである。
しかしながら、画像解析するにあたって、解析精度を上げるためにコントラスト調整などを行うことは普通に行われていることに照らすと、本件特許の図1のようなSEM写真そのものと、同図2のような画像解析時のものとが相違することには合理的な理由があるというべきであり、そのことは、特許権者が令和3年11月18日に提出した回答書に記載された、コントラスト調整により異なって見える種々の画像からも伺える。そして、本件特許の図1と図2は、このような慣用のコントラスト調整などにより異なった画像となっているものと解することができるから、両図が異なること、ひいては、本件特許発明におけるジルコニア粒子の断面積割合の算出方法(定義)の概要を記した箇所と実施例(具体例)を記した箇所とが整合していないことは、明確性要件違反の根拠とはならないというべきである。
そうである以上、上記の不整合を根拠に、本件特許発明が不明確であるということはできないから、結局、上記取消理由(決定の予告)において指摘した点をもって、本件特許の特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合しないということはできない。
(2) 本件訂正後の請求項4~6に係る発明におけるLab色空間の諸数値に関する事項について
当該Lab色空間の諸数値に関し、上記取消理由(決定の予告)において指摘した点は、要するに、当該諸数値は、被測定物の厚みや背景色などの測定条件に影響されるのに、本件訂正前の請求項4~6に係る発明は、当該測定条件を定めていないから明確ではないことに依拠するものである。
しかしながら、本件訂正後の請求項4~6に係る発明は、被測定物の厚みを明示し、さらに具体的な測定装置を特定することによって、背景色を含めた測定条件が相当程度定められたことから、本件訂正後の請求項4~6の記載に、上記取消理由(決定の予告)において指摘した点は当たらないと解される。
そうである以上、当該指摘の点を理由に、本件訂正後の請求項4~6の記載が明確性要件に適合しないということはできない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、取消理由(決定の予告)には理由がない。
第5 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記特許異議申立理由の概要
取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、次のとおりである。
(1) 本件特許発明1~6に関する実施可能要件違反、サポート要件違反及び明確性要件違反(それぞれ特許異議申立書17~32頁に記載されたア-1、イ-1~イ-4、及び、ウ-2、ウ-4~ウ-6に対応。なお、ウ-1とウ-3は上記取消理由(決定の予告)と同旨)
ア 実施可能要件違反
当業者が本件特許発明を実施するためには、「ジルコニア粒子の断面積割合」に影響を及ぼす何らかの製造条件を特定し、さらに、「ジルコニア粒子の断面積割合」の条件を満たすような製造条件を見出し、その上で特定することが必要となるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、これらの点について記載するものではないため、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするものである。
イ サポート要件違反
(ア) ジルコニア焼結体の「曲げ強度」、「破壊靱性」、「透明度」は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及びイットリアの含有の有無や、それらの物質の含有量によって低下してしまうので、本件明細書の発明の詳細な説明において本件特許発明の課題が解決できたことが実証されている特定の組成だけではなく、それとは異なる組成をも含む本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を、拡張ないし一般化できるとはいえない。
(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例のジルコニア焼結体は、光の透過率が27.0%~30.0%の範囲にしかなく、その厚みも0.5mmにした上で測定されているので、光の透過率が30.0%を超えるジルコニア焼結体、さらには、光の透過率を測定する被測定物として厚みが0.5mmを超えるジルコニア焼結体を含む本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を、拡張ないし一般化できるとはいえない。
(ウ) 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例のジルコニア焼結体は、「曲げ強度」、「破壊靱性」及び「ピーク高さ比」がそれぞれ1130~1231MPa、4.1~4.3MPa・m1/2及び0.54~0.60の範囲にしかなく、それ以外の範囲を含む本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を、拡張ないし一般化をできるとはいえない。
(エ) 本件特許発明4~6は、Lab色空間におけるL*値、a*値及びb*値、並びに、光の透過率を特定するものであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例等をみても、当該Lab色空間におけるL*値、a*値及びb*値を満足することに加え、光の透過率が27%以上であるジルコニア焼結体を製造できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されているとはいえないため、このようなジルコニア焼結体を含む本件特許発明4~6の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を、拡張ないし一般化をできるとはいえない。
ウ 明確性要件違反
(ア) 本件特許発明は「ジルコニア粒子の断面積割合」について規定するものであるが、上記アのとおり、当該規定を満足するものを当業者が実施することは困難であるし、その求め方を理解することもできないから、結局、本件特許発明がどのような発明であるのかを理解することができず、本件特許発明の課題が当該規定のみによって達成できるかも極めて疑わしいことから、本件特許発明は不明確である。
(イ) 本件特許発明5、6は、「0質量%」、「0.1重量%以下」という特定事項と、「含む」という特定事項との間に矛盾が生じているため不明確である。
(ウ) 本件特許発明5の「組成物」に仮焼体が含まれるのか否かを理解することができず、本件特許発明6の「仮焼体」が組成物に含まれるのかを理解することができないため、本件特許発明5、6は不明確である。
(エ) 本件特許発明5の「組成物」に係る発明は、「1400℃~1600℃で焼結することにより請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする」ことを特定し、本件特許発明6の「仮焼体」に係る発明は、「1400℃~1600℃で焼結することにより請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする」ことを特定しているが、これらの特定によってどのような構成を特定しているのかを理解することができないから、本件特許発明5、6は不明確である。
(2) 甲第5号証を主たる証拠とする本件特許発明1~5の新規性欠如及び本件特許発明1~6の進歩性欠如(特許異議申立書32~43頁)
2 記載不備についての当審の判断
(1) 実施可能要件違反について
上記1(1)アの指摘について検討をする。
本件特許発明が規定する「ジルコニア粒子の断面積割合」は、ジルコニア焼結体の原料となるジルコニア粉末の形態に影響されることは容易に予想されるところであり、実際、本件明細書の【0053】、【0054】には、当該ジルコニア粉末として、平均粒子径の大きい大粒径粉末と、平均粒子径の小さい小粒径粉末を作製し、これらを適宜の混合比で混合することが記載され、同【0066】【表1】には、各実施例について、上記混合比についての記載はないものの、実際に使用した大粒径粉末と小粒径粉末の具体的な平均粒子径が記載されている。
そして、当該【表1】と同【0072】【表5】とを合わせみると、実施例1、22~27は、【表1】に掲載された製造条件に異なるところは見受けられないものの、【表5】に記載された「ジルコニア粒子の断面積割合」の結果は異なることが分かるから、このことから、上記の混合比が、当該結果に大きく関与しているものと考えるのが合理的である。
そうすると、本件特許発明が規定する「ジルコニア粒子の断面積割合」を調整するには、原料となるジルコニア粉末として大粒径粉末と小粒径粉末を使用し、それらの平均粒子径と混合比が重要であって、これらを最適化することにより、当該「ジルコニア粒子の断面積割合」を所望の形態・分布に導くことが可能であることを、当業者は理解するということができ、また、この最適化に、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を必要とするとも認められないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許異議申立人の指摘の点を理由として、実施可能要件に適合しないということはできない。
(2) サポート要件違反について
ア 上記1(1)イ(ア)の指摘について
特許異議申立人が指摘するとおり、ジルコニア焼結体の「曲げ強度」、「破壊靱性」、「透明度」は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及びイットリアの含有の有無やそれらの物質の含有量に少なからず影響されるものであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明において本件特許発明の課題が解決できたことが実証されているのは、実施例に係る特定の組成のものだけである。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の【0027】~【0030】には、イットリア、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素の各成分と本件特許発明の課題に係る諸特性との関係性や、当該各成分の最適含有率が記載され、また、ジルコニア焼結体の製造に当たって、基本となる既知のジルコニア焼結体の成分の一部を、特性の変化を調整しながら、他の成分に置き換えるなどの作業を試行錯誤的に行うことは、当業者が通常行うことであるということができるから、ジルコニウム焼結体の分野の当業者であれば、本件明細書において実証済みの実施例の組成を基本として、上記の通常の試行錯誤的な作業を行うことによって、当該実証済みの実施例の特性と同様の特性を有するジルコニア焼結体を得ることも可能であることを理解することができるものといえる。
そうである以上、特許異議申立人が指摘するように、本件特許発明の課題が解決できると認識できる範囲を、上記の実証済みの実施例に限って理解するのは相当でないから、この指摘を採用することはできない。
イ 上記1(1)イ(イ)、(ウ)の指摘について
上記アにて説示したとおり、当業者が通常行う試行錯誤的な作業を勘案すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者において、本件特許発明の課題が解決できると認識できる範囲を、実施例の諸特性の上下限値内に限定して解釈するのは妥当でない。
また、本件特許発明の課題に係る諸特性は、本件明細書の【0010】、【0011】に記載されているように、トレードオフの関係にあるような特性であるから、本件特許発明が、各特性の下限値や上限値のみを規定しているとしても、当該特性の範囲は、おおよそ特定の範囲に収束するものと解され、上記実施例の諸特性の上下限値から大きく外れるところまでが想定されているとは言い難い。
したがって、上記実施例の諸特性の数値範囲が特定の範囲にしかないことのみを理由に、サポート要件に適合しないとすることはできない。
さらに、本件特許発明が規定する光の透過率は、本件明細書の【0032】の記載を斟酌すると、「両面を鏡面加工した厚さ0.5mm」の測定試料が前提であると解するのが妥当であるから、上記1(1)イ(イ)における測定手法に関する指摘についても採用できない。
ウ 上記1(1)イ(エ)の指摘について
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1をみると、そのLab色空間におけるL*値、a*値及びb*値は、本件明細書の【0068】【表3】のとおり、本件特許発明4が規定する値を満足するものであり、かつ、その光の透過率は、同【表3】のとおり、30.0%であって、27%以上という規定を満足するものであるから、標記の指摘は当たらないため採用できない。
(3) 明確性要件違反について
ア 上記1(1)ウ(ア)の指摘について
上記(1)における検討結果などを踏まえると、本件特許発明の「ジルコニア粒子の断面積割合」についての規定に、特許異議申立人が指摘するような不備は認められないから、当該不備を前提とする標記指摘は採用できない。
イ 上記1(1)ウ(イ)の指摘について
本件特許発明5、6における「0質量%」、「0.1重量%以下」という特定事項は、本件明細書の【0028】~【0030】の記載を参酌すると、「0質量%」すなわち「無含有」を包含するものであり、このような場合をも内包する意味合いとして、本件特許発明5、6における「含む」という特定事項を理解するのが相当であるから、両者の間に矛盾が生じているということはできないため、標記指摘は採用できない。
ウ 上記1(1)ウ(ウ)、(エ)の指摘について
本件特許発明5の「組成物」は、ジルコニア焼結体を製造するための素材全般を指すものであると解するのが相当であるから、その中には、「仮焼体」状態の素材も含まれると解するのが合理的である。
また、本件特許発明5、6は、「1400℃~1600℃で焼結することにより請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする」ことを特定するものであるが、将来的な特徴点によって特許を受けようとする発明を特定すること自体が必ずしも、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、このような特定の仕方であることをもって明確性要件に適合しないということはできない。
したがって、標記の指摘を採用することはできない。
(4) 小括
以上のとおりであるから、記載不備に関する上述の特許異議申立理由には理由がない。
3 新規性・進歩性欠如についての当審の判断
(1) 証拠一覧
特許異議申立人が新規性欠如及び進歩性欠如の証拠方法として提出した甲第5~8号証は以下のとおりである(以下では、甲各号証を「甲5」などと略して表記した。)。
・主たる証拠
甲5:特開2004-284896号公報
・従たる証拠
甲6:特開昭62-91467号公報
甲7:特開2011-73907号公報
甲8:特開2012-41240号公報
(2) 甲5の記載事項
甲5には、発明の名称を「ジルコニア焼結体の製造方法および光通信用コネクタ部品」とする発明に関し、次のとおりの記載がある。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
ジルコニア原料粉末を成形した後、焼成してジルコニア焼結体を得るジルコニア焼結体の製造方法において、前記ジルコニア原料粉末は、互いに異なった平均粒径を有する少なくとも2種類のジルコニア粉末が混合されたものであることを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項2】
ジルコニア原料粉末を成形した後、焼成してジルコニア焼結体を得るジルコニア焼結体の製造方法において、前記ジルコニア原料粉末は、互いに異なったBET比表面積値を有する少なくとも2種類のジルコニア粉末が混合されたものであることを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記ジルコニア原料粉末として、2種類のジルコニア粉末を用い、それぞれのBET比表面積値をそれぞれS1[m2/g]、S2[m2/g]としたとき、
D1=0.9885/S1
D2=0.9855/S2
で求められるD1、D2の値は、D1が0.07以上0.2以下、かつD2が0.04以上0.15以下であるとともに、D1/D2が1.17以上5以下であることを特徴とする請求項2に記載のジルコニア焼結体の製造方法。」
イ 発明の実施の形態
「【0039】
まず、ジルコニア粉末1とジルコニア粉末2、および成形用バインダを混合する(Step1)。次に、成形前原料を押出成形機または射出成形機またはプレス成形機などに供給して成形を行い、ジルコニア成形体を得る。(Step2)。そして、乾燥工程(Step3)によって、水分を除去してジルコニア乾燥体を得る。その後、脱脂、焼成してジルコニア焼結体を得る(Step4)。最後に、必要部分を研削もしくは研磨などの機械仕上げ加工を行い製品化する(Step5)。
【0040】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法においては、Step1の混合工程において、ジルコニア粉末1とジルコニア粉末2は、互いに平均粒径が異なっているものとすることが必要である。以下、便宜上、ジルコニア粉末1がジルコニア粉末2よりも平均粒径が大きいものとして記述する。なお、ここで平均粒径は、遠心沈降式光透過法、レーザ回折法、BET法などによって求めることができる。
・・・
【0046】
なお、平均粒径が大きいジルコニア粉末1、平均粒径が小さいジルコニア粉末2は、それぞれD1=0.9885/S1、(S1はジルコニア粉末1のBET比表面積値[m2/g])、D2=0.9885/S2、(S2はジルコニア粉末2のBET比表面積値[m2/g])で求められるD1が0.07~0.2、かつD2が0.04~0.15であり、D1/D2が1.17以上5以下であることが好ましい。
・・・
【0050】
また、ジルコニア粉末1とジルコニア粉末2を混合する重量比は、5:95~95:5とすることが望ましい。1種類のジルコニア粉末が95重量%以上を占めると、有効な差が見られなくなるからである。
【0051】
本発明に用いられるジルコニア粉末の出発原料のZrO2には不純物としてAl2O3やSiO2、TiO2、あるいはCaO、Na2O、Fe2O3などが含まれている。この原料を酸やアルカリなどの薬品での処理、あるいは比重差を利用した重力選鉱などの手法にて精製し純度を高め、それぞれの含有量は0.3モル%以下に抑えられる。
【0052】
そして、ZrO2に安定化剤としてY2O3を3~5モル%添加混合し、中和共沈または加水分解などの方法により反応・固溶させ、得られた固溶体を仮焼後粉砕して所望の平均粒径のジルコニア粉末とする。
・・・
【0057】
また、ジルコニアの成形体を焼成して、ジルコニア焼結体を得る焼成温度は、1300℃~1400℃が好ましい。1300℃未満では、焼結体の密度が充分に上がらず、強度などの特性が劣る。また、1400℃を超えると、ジルコニア焼結体が水分の存在する高温雰囲気中に曝された時に、正方晶相が単斜晶相に相変態しやすくなる。そのため、変形および強度、靱性などの特性劣化が顕著になるという問題がある。
【0058】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法により得られたジルコニア焼結体は、正方晶の結晶相を主体とし、平均結晶粒径を0.3~0.5μm、ビッカース硬度を12.2~12.7GPaと高い硬度を有する。さらに、焼結体の密度も6.04g/cm3以上でほぼ理論密度に近い値となり、焼結体内部に気孔はほとんど存在せず、曲げ強度1200MPa、破壊靭性値5.0MPa・m1/2と高い機械的特性を有する。また、成形体が高密度で安定しているので、焼成収縮値も安定しており、高い寸法精度を得ることができる。
【0059】さらに、1400℃未満の温度で焼成を行っていることから、熱水中に長時間放置しても、正方晶相から単斜晶相への相変態は低く抑えられ、長期にわたって高強度・高靭性が保たれる。」
(3) 甲5に記載された発明(甲5発明)
上記(2)の記載事項によれば、甲5には、その【請求項1】~【請求項3】、具体的には、【0039】~【0057】に記載された製造方法によって得られたジルコニア焼結体であって、【0058】、【0059】に記載された特性を有する次の発明(以下、「甲5発明」という。)について記載されているといえる。
「正方晶の結晶相を主体とし、平均結晶粒径を0.3~0.5μm、ビッカース硬度を12.2~12.7GPaと高い硬度を有し、さらに、焼結体の密度も6.04g/cm3以上でほぼ理論密度に近い値となり、焼結体内部に気孔はほとんど存在せず、曲げ強度1200MPa、破壊靭性値5.0MPa・m1/2と高い機械的特性を有し、また、成形体が高密度で安定しているので、焼成収縮値も安定しており、高い寸法精度を得ることができ、さらに、1400℃未満の温度で焼成を行っていることから、熱水中に長時間放置しても、正方晶相から単斜晶相への相変態は低く抑えられ、長期にわたって高強度・高靭性が保たれる、ジルコニア焼結体。」
(4) 本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、両者は、特定の曲げ強度や破壊靱性値を有し、正方晶相から単斜晶相への相変態が低く抑えられている点などにおいて共通するところは認められるものの、少なくとも、以下の点で相違するものと認められる。
相違点:本件特許発明1は、
「ジルコニア焼結体の断面写真において、各ジルコニア粒子の断面積を算出し、
前記断面積を基に、前記断面写真において各ジルコニア粒子の断面形状が円形であると仮定した場合の換算粒径を算出し、
前記換算粒径を基に、各ジルコニア粒子を0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けし、
各クラスにおいてジルコニア粒子の断面積の総計を算出し、
断面積を算出した全ジルコニア粒子の総断面積に対する各クラスの断面積割合を算出した場合、
前記換算粒径が0.4μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が4%以上35%以下であり、
前記換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が24%以上57%以下であり、
前記換算粒径が0.76μm以上のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が16%以上62%以下であること」
という発明特定事項を具備するのに対して、「甲5発明」はそのような事項を具備していない点
イ 上記相違点について検討をする。
(ア) 特許異議申立人は、甲5発明のジルコニア焼結体は本件特許発明1のものと同じ製造方法で製造されているため当該相違点に係る構成を有している蓋然性が高い旨主張する(特許異議申立書32~36頁)。
そこでまず、この点について検討するに、本件特許発明1に係るジルコニア焼結体の製造方法は、本件明細書の【0052】~【0058】に記載されるとおりであり、具体的には、平均粒子径の大きい大粒径粉末と、平均粒子径の小さい小粒径粉末とを、例えば1:2~2:1で混合し(【0053】、【0054】)、最終的に、その組成物ないし仮焼体を、1400℃~1600℃、好ましくは、1450℃~1550℃において焼成するもの(【0056】、【0057】)であるのに対して、甲5発明に係るジルコニア焼結体の製造方法は、甲5の【0038】~【0057】に記載されるとおりであり、具体的には、平均粒径が大きいジルコニア粉末と平均粒径が小さいジルコニア粉末とを、5:95~95:5で混合し(【0046】、【0050】)、最終的に、その成形体を1300℃~1400℃で焼成するものである(【0057】)。そうすると、両者の製造方法は、確かに、平均粒子径の異なる粉末を混合し、最終的に、これを焼成するものであって、混合比及び焼成温度において重複するところを認めることができる。しかしながら、甲5発明の製造方法は、当該混合比について広範に規定しているにすぎない上、焼結温度も、本件特許発明1とは1400℃において重複しているにすぎず、さらにいうと、甲5の【0059】や甲5の実施例(摘記省略。【0068】には「1330℃」という焼成温度が記載されている。)からすると、当該1400℃も実質的には想定外の温度ということもできるから、両者の製造方法が同一であるとまではいえない。そうである以上、特許異議申立人が主張する理由を採用して、甲5発明も上記相違点に係る構成を有するものと認めることはできない。
(イ) また、特許異議申立人は、上記相違点に係る構成の想到容易性につき、甲5発明の製造に使用される成形前原料(又はジルコニア成形体)の組成や焼成温度を調整して、曲げ強度、破壊靱性及び相転移抑制を高めたジルコニウム焼結体を製造し、その結果として、本件特許発明1における「断面積割合」の条件を満足させることは当業者にとって容易なことである旨主張する(特許異議申立書37、38頁)。
しかしながら、上記(ア)のとおり、甲5に記載された製造方法は、その原料粉末の粒径や焼成温度などの条件において本件特許発明1の製造方法と重複するところが認められるにすぎず、具体的に、これらの条件をどのように最適化すれば、本件特許発明1における「断面積割合」の条件を満足させることができるのかについてまで教示するものではないから、特許異議申立人が主張するように、甲5に記載された事項をさらに斟酌しても、上記相違点に係る本件特許発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。
(ウ) その他の証拠方法をみても、甲6には「透光性ジルコニア焼結体」、甲7には「ジルコニア焼結体及びその製造方法」、甲8には「ジルコニア焼結体、並びにその焼結用組成物及び仮焼体」を、それぞれ発明の名称とする発明について記載されているものの、本件特許発明1が規定する「断面積割合」を想起する手掛かりとなるような記載ないし示唆は見当たらない。
ウ 以上の検討によれば、甲5発明に基づいて、本件特許発明1は新規性が欠如するものとも、進歩性が欠如するものともいうことはできない。
(5) 本件特許発明2~6について
本件特許発明2~6は、実質的に、本件特許発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(4)と同様の理由により、甲5に記載された発明に対して新規性及び進歩性が欠如するということはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許1~6は、特許法第36条第4項第1項、同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであるともいえないないから、同法第113条第2号及び第4号には該当しないため、上記取消理由(決定の予告)及び特許異議申立理由のいずれの理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、本件特許1~6が同法第113条各号のいずれかに該当すると認めるに足りる理由も見当たらない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700828