特許異議申立
2021-701086
セメントクリンカ及びセメント組成物
- 審判番号
- 2021-701086
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-058520
- 登録番号
- 6874883
- 請求日
- 2021年11月18日
- 審決日
- 2022年09月27日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友大阪セメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】三▲崎▼ 岳郎
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 関根 崇
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6874883号発明「セメントクリンカ及びセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6874883号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6874883号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6874883号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年3月27日に出願され、令和3年4月26日にその特許権の設定登録がされ、同年5月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~4に係る特許に対して、令和3年11月18日に特許異議申立人三▲崎▼岳郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和4年3月29日付けで取消理由が通知され、同年5月26日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされ、同年7月5日に申立人により意見書の提出がされた。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年5月26日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~4を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「【数1】
[図:0001392027000001.jpg]
」とあるのを
「【数1】
[図:0001392027000002.jpg]
」に訂正する(請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0024】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「式(1)」の満たすべき範囲を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、纏めて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
Al2O3、Fe2O3、MgO、MnO及びZnOを含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下であり、前記ZnOの含有量が0.01質量%以上0.0685質量%以下であり、
下記式(1)を満たすセメントクリンカ。
【数1】
[図:0001392027000003.jpg]
式中、WAl2O3はセメントクリンカ全量に対するAl2O3の含有量(質量%)を表し、WFe2O3はセメントクリンカ全量に対するFe2O3の含有量(質量%)を表し、WMgOはセメントクリンカ全量に対するMgOの含有量(質量%)を表し、WMnOはセメントクリンカ全量に対するMnOの含有量(質量%)を表し、WZnOはセメントクリンカ全量に対するZnOの含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
ボーグ式で算出された3CaO・SiO2の割合が50.0質量%以上、75.0質量%以下であり、
ボーグ式で算出された2CaO・SiO2の割合が5.0質量%以上、25.0質量%以下であり、
ボーグ式で算出された3CaO・Al2O3及び4CaO・Al2O3・Fe2O3の合計の割合が15.0質量%以上、22.0質量%以下である請求項1に記載のセメントクリンカ。
【請求項3】
前記3CaO・SiO2におけるAl2O3の含有量(Al2O3_C3S)が1.000質量%以上である請求項2に記載のセメントクリンカ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカと、石膏とを含むセメント組成物。」
第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 下坂建一、「クリンカーへの添加成分とセメントの諸物性に
関する研究」、埼玉大学大学院理工学研究科博士論文、20
05年9月
甲第2号証 特開2012-91992号公報
甲第3号証 特開2012-197197号公報
甲第4号証 特開2012-166973号公報
甲第5号証 曽我亮太他、「少量成分がクリンカー鉱物やセメント水和に
与える影響」、セメント・コンクリート論文集、2018年
、第71巻、第1号、第32-39頁
甲第6号証 荒井康夫、「改訂2版 セメントの材料化学」、大日本図書 株式会社、1993年4月10日、第86~91、110~
113頁
甲第7号証 「C&Cエンサイクロペディア[セメント・コンクリート化
学の基礎解説]」、第1版、社団法人セメント協会、199
6年、第15~16頁
甲第8号証 「太平洋セメントレポート2020」、表紙、表紙裏、第7
6~78頁、第102~103頁、裏表紙、[online]、2
020年、太平洋セメント株式会社、インターネット<http
s://www.taiheiyo-cement.co.jp/csr/pdf/data/2020/rep202
0.pdf>
なお、甲第1号証~甲第6号証は、特許異議申立書に添付して、甲第7号証及び甲第8号証は、令和4年7月5日提出の意見書(以下、「申立人意見書」という。)に添付して、それぞれ提出されたものである。
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2、4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2、4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1~4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(実施可能要件違反、サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載及び特許請求の範囲の記載が後記4(4)アの点で不備のため、特許法第36条第4号第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
設定登録時の請求項1~4に係る特許に対して、当審において令和4年3月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1) 取消理由(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如)
設定登録時の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3 各甲号証の記載内容について
(1) 甲第1号証の記載事項
ア 「5.2 実験
5.2.1 クリンカーの作製
クリンカーの原料には,ベースとして三菱マテリアル株式会社横瀬工場の調合原料を,クリンカーモジュラスの調整用として市販の純薬(炭酸カルシウム(CaCO3),二酸化ケイ素(SiO2),酸化アルミニウム(Al2O3),酸化第二鉄(Fe2O3))を使用した.クリンカー中の三酸化硫黄(SO3)量の調整には市販の硫酸(H2SO4)を,ZnO量の調整には酸化亜鉛(ZnO)を用いた.純薬の使用量はクリンカーベースで15%の一定とした.
クリンカーのモジュラスおよびSO3量は,ZnO量によらず普通セメントクリンカー相当(HM=2.15,SM=2.68,IM=1.78,SO3=0.55%)の一定となるようにした.クリンカーのZnO含有量は0.1%(ZnO無添加)から0.9%までの4水準とした.
以上の条件に基づき調合したクリンカー原料粉末を十分に混合し,水および硫酸を用いて練り混ぜ・成形した.十分に乾燥した原料調合物を1000℃,90minの条件で仮焼成し,次いで1450℃,90minの条件で本焼成後,直ちに空冷してクリンカーを得た.
クリンカーの化学分析は,JIS R 5202:1995「ポルトランドセメントの化学分析方法」およびセメント協会標準試験方法(JCAS) I-01「遊離酸化カルシウムの定量方法」にしたがった.ZnO量は誘導高周波プラズマ発光分光法により定量した.表5.1に作製したクリンカーの化学組成の一例(ZnO量0.1%の水準)を示す.
[図:0001392027000004.jpg]
」
(第101~102頁)
イ 「5.2.2 セメントの作製
焼成後のクリンカーは,ジョークラッシャーを用いて呼び寸法3.4mmのふるいを全通するまで予備粉砕した.その2.5kgを60mmφボール30kgとともにボールミル(外径500mm,幅460mm)へ投入し,1000回転粗粉砕した.次に,60mmφボールを取り除き,セメント中のSO3量が2.0%となる量の市販の純薬二水セッコウおよび25mmφボール30kgを投入した.以後,ブレーン空気透過法による比表面積値が3200±50cm2/gとなるまでボールミルで微粉砕した.」(第102頁)
ウ 「*:本論文で用いる特定物の分率を表す単位「%」は,ことわりのない限り,質量百分率(mass%)のことである.」(第5頁欄外)
(2) 甲第2号証の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、軟弱地盤の改良や汚染土壌の改良等に用いる早強型セメント系固化材、コンクリートブロック、サイディングボード、コンクリート杭、生コンクリート等の建築・土木関連のセメント製品に用いる早強型セメントの母体となる高活性セメントクリンカ及び該高活性セメントクリンカによる高活性セメント及び高活性セメントを用いた早強セメント組成物に関する。」
イ 「【0086】
〔本発明の高活性セメントクリンカ(高活性セメント)の初期水和活性確認試験〕
電気炉で本発明に係る高活性セメントクリンカを試焼成し、得られた高活性セメントクリンカに石膏を添加して本発明の高活性セメントを得、この高活性セメントの初期水和活性をコンダクションカロリーメータにより確認した。
・・・
【0092】
(3)クリンカ焼成
上記配合で原料調合した各試料は、粒径30mm程度の大きさにペレット化し、このペレットを電気炉に入れて10℃/minで1450℃まで温度上昇させ、1450℃で3時間保持して焼成した。得られた試製クリンカは、電気炉から取り出した後室内に放置し急冷し、その後、250rpmボールミルで75μm篩が全通となるように粉砕した。
【0093】
各粉砕品につき、化学成分分析、ブレーン測定を行い、比率係数、ボーグ式による鉱物組成、遊離石灰量を求めた。各試製クリンカの化学分析結果を表3に、比率係数、ボーグ式による鉱物組成、遊離石灰量を表4に示す。なお、表中の%は重量%である。
【0094】
【表3】
[図:0001392027000005.jpg]
」
(3) 甲第3号証の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、脱硫スラグを原料の一部として用いたセメントクリンカの製造方法に関する。」
イ 「【0031】
(4)セメントクリンカの試製
本発明の効果を確認するために、電気炉によりクリンカ焼成を行い、各種セメントクリンカを試製した。
【0032】
1)使用原料
石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料は従来からセメント製造に用いられている工業原料を使用した。脱硫スラグは、カルシウム分、硫黄分、フッ素分の異なる3種類のものを用いた。表1に化学成分とその割合(wt%)を示す。
・・・
【0036】
3)クリンカ焼成
各調合原料を粒径30mm程度の大きさにペレット化し、このペレットを電気炉に入れ昇温速度10℃/minで昇温して1200~1450℃の範囲の最大温度で5時間保持して焼成した。得られた試製セメントクリンカは、電気炉から取出した後室内に放置して急冷し、その後、250rpmボールミルで75μm篩が全通となるように粉砕した。粉砕した各試製セメントクリンカの遊離石灰量を測定して、遊離石灰量が1%となる温度を求め、それを最適焼成温度とした。最適焼成温度を表2に、得られた試製セメントクリンカの主要化学成分の割合を表3に、これに基づく主要鉱物組成の割合を表4に示す。
・・・
【0039】
【表3】
[図:0001392027000006.jpg]
」
4 当審の判断
事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由を纏めて検討する。
(1) 取消理由1及び申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記3(1)ア~ウの記載事項を、「ZnO量0.1%の水準」の「クリンカー」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が22.32質量%、Al2O3が5.33質量%、Fe2O3が3.00質量%、CaOが65.89質量%、MgOが1.20質量%、SO3が0.39質量%、Na2Oが0.32質量%、K2Oが0.37質量%、TiO2が0.61質量%、P2O5が0.06質量%、MnOが0.13質量%、ZnOが0.05質量%で含有する化学組成のクリンカー。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「クリンカー」は、本件発明1の「セメントクリンカ」に相当する。また、甲1発明の「化学組成」は、Al2O3を5.33質量%、Fe2O3を3.00質量%、MgOを1.20質量%、MnOを0.13質量%、ZnOを0.05質量%含有していることから、本件発明1の「Al2O3、Fe2O3、MgO、MnO及びZnOを含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下であり、前記ZnOの含有量が0.01質量%以上0.0685質量%以下であ」るとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、
「Al2O3、Fe2O3、MgO、MnO及びZnOを含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下であり、前記ZnOの含有量が0.01質量%以上0.0685質量%以下である、セメントクリンカ。」
の点で一致し、本件発明1では、「セメントクリンカ」の化学組成が、「【数1】
[図:0001392027000007.jpg]
式中、WAl2O3はセメントクリンカ全量に対するAl2O3の含有量(質量%)を表し、WFe2O3はセメントクリンカ全量に対するFe2O3の含有量(質量%)を表し、WMgOはセメントクリンカ全量に対するMgOの含有量(質量%)を表し、WMnOはセメントクリンカ全量に対するMnOの含有量(質量%)を表し、WZnOはセメントクリンカ全量に対するZnOの含有量(質量%)を表す。」を満たすのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点で相違する(以下、この相違点を「相違点1」という)。
(イ) 相違点の検討
甲1発明の「化学組成」は、Al2O3を5.33質量%、Fe2O3を3.00質量%、MgOを1.20質量%、MnOを0.13質量%、ZnOを0.05質量%含有しており、これら含有量を本件発明1の上記「式(1)」の左辺に代入すると「-2.6325」になり、右辺の数値(-2.7000)より大きくなるため、相違点1は実質的なものであるといえる。
次に、相違点1に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討すると、セメントクリンカの化学組成を、本件発明1の式(1)を満足するように調整することは、甲第1号証~甲第8号証のいずれにも記載されていないし、また、このことが周知技術であることを示す証拠もないから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成をなすことは、当業者にとって、容易想到の事項といえない。
(ウ) 申立人の主張についての検討
a 申立人は、甲第1号証の「表2.1」(第43頁)、「表3.1」(第61頁)、又は、「表4.1」(第88頁)に記載されたクリンカーの化学組成に注目して、甲第1号証に記載された発明を認定した場合(以下、各発明を「甲1発明2」、「甲1発明3」、「甲1発明4」という。)にも、設定登録時の請求項1に係る発明は、甲1発明2~甲1発明4に対して、新規性又は進歩性が欠如している旨を主張している(特許異議申立書第13頁第3行~第18頁第15行、第32頁17行~第43頁第13行)。
しかしながら、本件発明1と、甲1発明2~甲1発明4とを対比しても、少なくとも上記相違点1で相違するため、前記(イ)で検討したのと同じ理由で、本件発明1は、甲1発明2~甲1発明4に対して、新規性及び進歩性が欠如しているということはできない。
b 申立人は、甲1発明において、黄味を減じることが知られているFe2O3の含有割合を0.08%増加させることで、式(1)を満たすことになり、このような含有量は意図せずに自然に行われることであるから、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものである旨を主張している(申立人意見書第3頁第20行~第4頁第22行)。
しかしながら、甲第1号証には、甲1発明のFe2O3の含有割合を増加する動機付けとなる記載は無いし、また、前記(イ)で検討したとおり、セメントクリンカの化学組成を本件発明1の式(1)を満足するように調整するとの思想は、いずれの甲号証にも記載されておらず、技術常識であるともいえないため、申立人の当該主張は採用できない。
(エ) 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の特定事項を全て含むものであり、少なくとも上記相違点1で相違するから、前記イで検討した理由により、本件発明2~4は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 取消理由及び申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の前記3(2)ア及びイの記載事項を、「試製1」の「高活性セメントクリンカ」に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が20.97重量%、Al2O3が5.50重量%、Fe2O3が3.06重量%、CaOが66.26重量%、MgOが1.65重量%、SO3が0.48重量%、Na2Oが0.48重量%、K2Oが0.24重量%、TiO2が0.31重量%、P2O5が0.58重量%、MnOが0.08重量%で含有する化学成分割合の高活性セメントクリンカ。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明の対比
甲2発明の「高活性セメントクリンカ」は、本件発明1の「セメントクリンカ」に相当する。また、甲2発明の「化学成分割合」は、Al2O3を5.50重量%、Fe2O3を3.06重量%、MgOを1.65重量%、MnOを0.08重量%含有していることから、本件発明1の「Al2O3、Fe2O3、MgO」及び「MnO」を「含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下であ」るとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲2発明は、
「Al2O3、Fe2O3、MgO及びMnOを含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下である、セメントクリンカ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
a 本件発明1は、「ZnO」を含み、「前記ZnOの含有量が0.01質量%以上0.0685質量%以下」であるのに対して、甲2発明は、ZnOを含有することが明らかでない点(以下、この相違点を「相違点2a」という)。
b 本件発明1では、「セメントクリンカ」の化学組成が、「【数1】
[図:0001392027000008.jpg]
式中、WAl2O3はセメントクリンカ全量に対するAl2O3の含有量(質量%)を表し、WFe2O3はセメントクリンカ全量に対するFe2O3の含有量(質量%)を表し、WMgOはセメントクリンカ全量に対するMgOの含有量(質量%)を表し、WMnOはセメントクリンカ全量に対するMnOの含有量(質量%)を表し、WZnOはセメントクリンカ全量に対するZnOの含有量(質量%)を表す。」を満たすのに対して、甲2発明では、その点が明らかでない点(以下、この相違点を「相違点2b」という)。
(イ) 相違点の検討
まず、相違点2aについて検討すると、甲第2号証には、「高活性セメントクリンカ」のZnO成分に関して記載も示唆もされておらず、甲2発明の「ZnOの含有量」が「0.01質量%以上0.0685質量%以下」となっているといえないから、相違点2aは実質的なものである。
また、甲第2号証には、「0.01質量%以上0.0685質量%以下」との含有量でZnOを含有させる動機付けとなる記載もないから、甲2発明において、相違点2aに係る本件発明1の構成をなすことは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 申立人の主張についての検討
申立人は、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第8号証の記載からして、ZnOの含有量を0.01質量%以上0.0685質量%以下程度含むことは、意図しなくとも自然と起こりうることであるから、相違点2aは実質的な相違点といえないし、仮に相違点と解するにしても、ZnOの含有量を0.01質量%以上0.0685質量%以下の範囲とすることは、当業者が通常行う範囲のことである旨を主張している(特許異議申立書第44頁第14行~第45頁第2行、申立人意見書第5頁第12行~第8頁第1行)。
しかしながら、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第8号証に記載されたZnOの含有量は、甲2発明の「高活性セメントクリンカ」自体、あるいは、当該「高活性セメントクリンカ」を製造するための使用原料のZnOの含有量を特定するものでないから、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第8号証の記載を根拠にして、甲2発明のZnOの含有量が0.01質量%以上0.0685質量%以下の範囲となっているといえない。
また、前記(イ)で検討したとおり、甲第2号証には、「0.01質量%以上0.0685質量%以下」との含有量でZnOを含有させる動機付けとなる記載がないから、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第8号証の記載に関わらず、ZnOを「0.01質量%以上0.0685質量%以下」で含有させることが容易想到の事項といえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(エ) 小括
したがって、相違点2bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
なお、甲第2号証の「試製2」~「試製8」のいずれの「高活性セメントクリンカ」に注目して、甲第2号証に記載された発明を認定しても同様の判断となる。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の特定事項を全て含むものであり、少なくとも上記相違点2aで相違するから、前記イで検討した理由により、本件発明2~4は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の前記3(3)ア及びイの記載事項を、「試験例1」の「セメントクリンカ」に注目して整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が27.14wt%、Al2O3が2.74wt%、Fe2O3が2.86wt%、CaOが64.15wt%、MgOが1.42wt%、Na2Oが0.32wt%、K2Oが0.18wt%、TiO2が0.18wt%、P2O5が0.08wt%、MnOが0.03wt%、T-Sが0.25wt%、Fが0.042wt%で含有する化学成分割合のセメントクリンカ。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲3発明の対比
甲3発明の「セメントクリンカ」は、本件発明1の「セメントクリンカ」に相当する。また、甲3発明の「化学成分割合」は、Al2O3を2.74wt%、Fe2O3を2.86wt%、MgOを1.42wt%、MnOを0.03wt%含有していることから、本件発明1の「Al2O3、Fe2O3、MgO」及び「MnO」を「含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下であ」るとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲3発明は、
「Al2O3、Fe2O3、MgO及びMnOを含み、前記Al2O3の含有量が2.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記Fe2O3の含有量が1.00質量%以上10.00質量%以下であり、前記MgOの含有量が0.05質量%以上5.0質量%以下であり、前記MnOの含有量が0.01質量%以上0.80質量%以下である、セメントクリンカ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
a 本件発明1は、「ZnO」を含み、「前記ZnOの含有量が0.01質量%以上0.0685質量%以下」であるのに対して、甲3発明は、ZnOを含有することが明らかでない点(以下、この相違点を「相違点3a」という)。
b 本件発明1では、「セメントクリンカ」の化学組成が、「【数1】
[図:0001392027000009.jpg]
式中、WAl2O3はセメントクリンカ全量に対するAl2O3の含有量(質量%)を表し、WFe2O3はセメントクリンカ全量に対するFe2O3の含有量(質量%)を表し、WMgOはセメントクリンカ全量に対するMgOの含有量(質量%)を表し、WMnOはセメントクリンカ全量に対するMnOの含有量(質量%)を表し、WZnOはセメントクリンカ全量に対するZnOの含有量(質量%)を表す。」を満たすのに対して、甲3発明では、その点が明らかでない点(以下、この相違点を「相違点3b」という)。
(イ) 相違点の検討
まず、相違点3aについて検討すると、甲第3号証には、「セメントクリンカ」のZnO成分に関して記載も示唆もされておらず、甲3発明の「ZnOの含有量」が「0.01質量%以上0.0685質量%以下」となっているといえないから、相違点3aは実質的なものである。
また、甲第3号証には、「0.01質量%以上0.0685質量%以下」との含有量でZnOを含有させる動機付けとなる記載もないから、甲3発明において、相違点3aに係る本件発明1の構成をなすことは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 申立人の主張についての検討
申立人は、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第8号証の記載からして、ZnOの含有量を0.01質量%以上0.0685質量%以下程度含むことは、意図しなくとも自然と起こりうることであるから、相違点3aは実質的な相違点といえないし、仮に相違点と解するにしても、ZnOの含有量を0.01質量%以上0.0685質量%以下の範囲とすることは、当業者が通常行う範囲のことである旨を主張している(特許異議申立書第47頁第17行~第48頁第5行、申立人意見書第5頁第12行~第8頁第1行)
しかしながら、この主張は、前記(2)イ(ウ)で検討した主張と同様であるから、前記(2)イ(ウ)で検討したのと同様に採用できない。
(エ) 小括
したがって、相違点3bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
なお、甲第3号証の「試験例2」~「試験例20」のいずれの「セメントクリンカ」に注目して、甲第3号証に記載された発明を認定しても同様の判断となる。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の特定事項を全て含むものであり、少なくとも上記相違点3aで相違するから、前記イで検討した理由により、本件発明2~4は、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4) 申立理由4(実施可能要件違反、サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由4は、要するに、(i)発明の詳細な説明の記載からは、設定登録時の請求項1に記載された式(1)の技術的意義や、式(1)の左辺の値を「-2.4500」未満とすることの技術的意義を理解できないこと、及び、(ii)設定登録時の請求項1に係る発明の「Al2O3の含有量」、「Fe2O3の含有量」、「MgOの含有量」、「MnOの含有量」及び「ZnOの含有量」の各数値範囲に対して、実施例では極めて狭い範囲の例しか存在しないことを論拠にして、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は、実施可能要件及びサポート要件を満たさない、というものである。
イ 申立理由4についての検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【実施例】欄(【0038】~【0049】には、セメントクリンカの具体例が記載されており、【表2】には、実施例1~6及び比較例1のセメントクリンカの「式(1)の左辺の値」及び「b値」が記載されているところ、当該記載から、「式(1)の左辺の値」と「b値」とがおおよそ相関関係を有しており、「式(1)の左辺の値」が「-2.7000」以下とすることで、「b値」が比較例1よりも小さくなるとの傾向があることは見て取れるし、このような傾向に反する技術常識が存在することを示す証拠もないから、当業者であれば、本件発明1の「【数1】
[図:0001392027000010.jpg]
」の技術的意義は理解できる。
また、当該発明の詳細な説明の【0013】~【0020】には、セメントクリンカの色調に影響するAl2O3、Fe2O3、MgO、MnO及びZnOの各含有量の好ましい範囲が記載されていることからして、これら範囲であれば、実施例と同様に「b値」が小さくなることも当業者であれば理解できる。
したがって、上記(i)及び(ii)の論拠には理由がないから、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は、実施可能要件及びサポート要件を満たさないということはできない。
ウ 申立人の主張についての検討
申立人は、【表2】の実施例1~6において、実施例1の「式(1)の左辺の値」は4番目に低い値であるのに、「b値」は2番目に低い値であるし、また、実施例2及び3の「式(1)の左辺の値」と「b値」も反対の結果となっているため、「式(1)の左辺の値」は、「b値」との関係において正確性を有していないから、発明自体が不明確である旨を主張している(申立人意見書第8頁下から3行~第9頁第6行)。
しかしながら、前記イで検討したとおり、実施例1~6及び比較例1の全体の測定結果を見れば、「式(1)の左辺の値」と「b値」とがおおよそ相関関係を有しているといえるし、実施例1の結果が、当該相関関係に反しているということはできない。
また、実施例2の「式(1)の左辺の値」は「-2.8481」、「b値」は「7.2」、実施例3の「式(1)の左辺の値」は「-2.8453」、「b値」は「7.3」であるから、実施例2及び3が反対の結果であるといえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701086