特許異議申立
2023-701286
セラミックスボール
- 審判番号
- 2023-701286
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-066796
- 登録番号
- 7287060
- 請求日
- 2023年12月06日
- 審決日
- 2024年08月19日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】福▲崎▼ さおり
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7287060号発明「セラミックスボール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7287060号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7287060号の請求項1~3に係る特許を維持する。
特許第7287060号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7287060号の請求項1~4に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月29日(優先権主張 平成30年3月29日)の出願であって、令和5年5月29日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~4に対して、令和5年12月6日に特許異議申立人 福崎 さおり(以下、「申立人」という。なお、「崎」は「たつさき」である。)により特許異議の申立てがされ、令和6年3月6日付けで取消理由が通知され、同年4月10日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年6月14日に申立人により意見書(以下、「申立人意見書」という。)の提出がされた。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年4月10日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~4〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であるセラミックスボール。」とあるのを、「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であり、イットリアおよびアルミナを含有し、イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下であるセラミックスボール。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)。
(1) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」といい、明細書、又は特許請求の範囲をまとめて「本件特許明細書等」という。)の【0016】の「安定化剤としてイットリアを添加する場合の添加量は、酸化物成分の全重量に対して好ましくは4.5wt.%以上5.5wt.%以下・・・である。」との記載、及び【0017】の「結晶粒の成長を抑制するためにアルミナを微量添加しても構わない。」との記載に基づき、訂正前の請求項1のセラミックスボールの組成をさらに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件について
本件特許の請求項1~4の全ての請求項に係る特許について特許異議の申立てがされたので、訂正後の請求項1~4に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下であり、ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であり、イットリアおよびアルミナを含有し、イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下であるセラミックスボール。
【請求項2】
前記低発色領域の長さがボール直径の1/10以下である、請求項1に記載のセラミックスボール。
【請求項3】
表面粗さRaが0.30μm以下である、請求項1または2に記載のセラミックスボール。
【請求項4】
(削除)」
第4 特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特開2004-269348号公報
甲第2号証 特開平3-140208号公報
甲第3号証 特開平11-291215号公報
甲第4号証 特開平7-109166号公報
甲第5号証 特開2013-193412号公報
甲第6号証 特開平10-7451号公報
甲第7号証 大阪府立産業技術総合研究所,「デジタルマイクロスコープ」,Technical Sheet,No.10003,2010年8月
甲第8号証 特開2017-56429号公報
甲第9号証 木原 正浩ら,「Y-TZPの機械的性質及び微細組織に及ぼすAl2O3添加の影響」,日本セラミックス協会学術論文誌,96巻,[6],1114号,p.646~653,1988年6月1日
甲第10号証 椿野 晴繁ら,「部分安定化ジルコニアの機械的性質に及ぼすアルミナ添加の影響」,粉体および粉末冶金,48巻,10号,p.897~901,2001年10月15日
甲第11号証 椿野 晴繁ら,「Y-PSZの曲げ破壊挙動に及ぼすアルミナ添加の影響」,材料,41巻,464号、p.631~636,1992年5月15日
なお、甲第1~8号証は、特許異議申立書に添付して提出された証拠である。また、甲第9~11号証は、申立人意見書に添付して、記載不備についての技術常識を示すものとして提出された証拠である。
(1)申立理由1(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如)、及び申立理由4(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当する、又は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第2~7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
設定登録時の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第2~8号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和6年3月6日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、下記4(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1~4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記4(2)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「セラミックス球体およびその製造方法」(発明の名称)に関し、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付した。以下、同様。)。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボールミル等における粉砕媒体または分散媒体(以下、両者を含めて粉砕媒体という)や、ショットピーニング加工、ショットブラスト加工、研磨加工等の各種噴射加工における投射材や、濾過対象流体を濾過するためのフィルターとして用いるのに好適なセラミックス球体とその製造方法に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来の技術の上記問題点を解決し、たとえばボールミル等における粉砕媒体や各種噴射加工における投射材、濾過用のフィルターとして用いたとき、使用中に、いわゆる角が著しく減耗することによる不純物が製品中に混入したり付着したりすることが極めて少なく、製品の品質や性能に影響を与える虞の極めて少ないセラミックス球体と、そのようなセラミックス球体を低コストで製造する方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、平均球径が0.2~5mmの範囲内にあり、真球度の平均値が1.05以下であり、かつ、真球度の標準偏差が0.04以下であるセラミックス球体を提供する。セラミックス球体の密度は、理論密度の少なくとも95%であるのが好ましく、内部欠陥の保有率は5%以下であるのが好ましい。また、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素およびジルコンから選ばれる少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においては、まず、セラミックス粉末と造粒剤とを混合し、核となる成形球体を製造するためのスラリーを調製する。混合には、ボールミルやアトライターミル等を用いることができる。
【0013】
セラミックス粉末としては、強度や靱性に優れるジルコニア粉末、アルミナ粉末、窒化ケイ素粉末、炭化ケイ素粉末、ジルコン粉末等を用いることができる。これらのセラミックス粉末の少なくとも1種を主成分とする混合セラミックス粉末を用いてもよい。なかでも、強度や靱性により優れるジルコニア粉末、それも、マグネシア、カルシア、イットリア、セリア等の安定化剤を含む正方晶系の部分安定化ジルコニア粉末を用いるのが好ましい。これらの安定化剤は2~25モル%含むものが好ましく用いられ、マグネシアであれば8~10モル%、カルシアであれば6~12モル%、イットリアであれば2~4モル%、セリアであれば12~20モル%含まれることがより好ましい。特に好ましくは安定化剤としてイットリアを2~4モル%の範囲内で含む部分安定化ジルコニア粉末である。
・・・
【0016】
ここで、例えば、成形球体を得る方法として、スラリーを加熱空間に噴霧する場合、スラリー中におけるセラミックス粉末の含有率、すなわち、スラリー濃度は、10~90重量%の範囲内とするのが好ましい。スラリー濃度があまり低いと、スラリーを加熱空間に噴霧し、乾燥させて成形球体を得るときに、造粒剤の蒸発に伴うセラミックス粉末の凝集が不十分になり、得られるセラミックス球体の密度が低下したり、内部欠陥の保有率が高くなることがある。また、スラリー濃度があまり高いと、スラリーの流動性の変動が大きくなり、噴霧時におけるスラリー供給量の管理が難しくなる。より好ましいスラリー濃度の範囲は、20~80重量%である。さらに好ましくは、35~55重量%である。」
イ「【0026】
成長成形球体は、次いで焼結され、セラミックス球体とされる。焼結には、たとえば甲鉢を用いる。焼結条件、すなわち、焼結温度や焼結時間は、得られるセラミックス球体の強度が低下して使用時に破損等の不都合が起こらないよう、密度が理論密度の少なくとも95%になるように選定する。好ましくは、少なくとも97%である。焼結条件は、用いているセラミックス粉末の種類によって異なる。たとえば、ジルコニア粉末を用いている場合には、1,300~1,500℃、1~5時間とするのが好ましい。また、アルミナ粉末を用いている場合には、1,500~1,700℃、1~5時間とするのが好ましい。焼結雰囲気は、ジルコニア球体やアルミナ球体等の酸化物系セラミックス球体を得る場合には空気等の酸化性雰囲気とし、窒化ケイ素球体や炭化ケイ素球体等の非酸化物系セラミックス球体を得る場合には、減圧(真空)雰囲気か、窒素、アルゴン等の不活性(還元性)雰囲気とする。なお、得られるセラミックス球体の密度は、約20gのセラミックス球体を容器に入れ、アルキメデス法によって求める。また、理論密度は、よく知られているように、完全結晶格子から計算されるものであり、正方晶系ジルコニアであれば6.1g/cm3、アルミナ:4.0g/cm3、窒化珪素:3.2g/cm3、炭化珪素:3.2g/cm3、ジルコン:4.7g/cm3である。少なくとも2種のセラミックスを含むものにあっては、各セラミックスの重量割合に応じて計算すればよい。たとえば、理論密度D1、D2のセラミックスがそれぞれ60重量%、40重量%である場合には、D1×(60/100)+D2×(40/100)として求めることができる。
・・・
【0029】
さらに、得られるセラミックス球体は、内部欠陥の保有率が5%以下という、極めて均質なものとなる。内部欠陥は空孔として現れるが、内部欠陥の多いものは使用中に破壊しやすい。したがって、内部欠陥の保有率は低ければ低いほどよいが、5%以下であれば実用上の問題は少ない。より好ましくは、3%以下になるようにする。なお、内部欠陥の保有率は、次のようにして求める。
【0030】
すなわち、200℃に加熱した、真鍮板等の剛性のある板の上に適当な樹脂を溶かし、その上にセラミックス球体を散布し、板を冷却して樹脂でセラミックス球体を板上に固定する。しかる後、研磨紙や研磨材を用い、表面を、セラミックス球体の球径の約半分の深さまで研削する。そして、研削面を50倍の光学顕微鏡で観察して欠陥(空孔)の有無を判定する。保有率は、観察した100個のセラミックス球体のうち、内部欠陥を有するものの割合である。」
ウ「【実施例】
【0032】
実施例1:
イットリアを2.7モル%含む部分安定化ジルコニア粉末と、水(造粒剤)との混合物を、ジルコニアボールを用いたアトライターミルで2時間混合し、20kgの、部分安定化ジルコニア粉末の含有率が45重量%のスラリーを調製した。部分安定化ジルコニア粉末の平均粒子径は0.4μmであった。
【0033】
次に、上記スラリーをディスク式の噴霧乾燥機を用いて噴霧、乾燥し、成形球体を得た。このとき、ディスクの回転速度は4,000rpmとし、熱風温度は240℃、排風温度は105℃とした。得られた成形球体の平均球径は、0.15mmであり、水分率(造粒剤の含有率)は1重量%であった。
【0034】
次に、得られた成形球体を開口度0.125mmと0.18mmの篩を用いて分級した。
【0035】
次に、分級によって得られた成形球体を直径600mmのパンを有する回転皿型造粒機に投入し、成形球体の成長の状況を見ながら上記部分安定化ジルコニア粉末と水とを添加しながら造粒し、成長成形球体を得た。パンの回転速度は20rpmとした。得られた成長成形球体の平均球径は0.5mmであった。
【0036】
次に、上記成長成形球体を105℃で3時間乾燥し、水分率が1重量%の成長成形球体を得た。
【0037】
次に、得られた成長成形球体を開口度0.4mmと0.6mmの篩を用いて分級し、平均球径が0.5mmの成長成形球体を得た。
【0038】
次に、分級により得られた成長成形球体を、空気中にて1400℃で2時間焼結し、ジルコニア球体を得た。このジルコニア球体の諸元は、以下のとおりであった。
【0039】
平均球径 :0.4mm
密度 :6.02g/cm3
真球度の平均値 :1.04
真球度の標準偏差:0.027
内部欠陥の保有率:3%
ここで、該ジルコニア球体を粉砕媒体、投射材、濾材として使用した場合、極めて減耗及び破損は少なかった。」
(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「 成形体の密度は、スラリー密度と鋳込み成形時の室温に関連するので、スラリー密度を一定とし恒温室内で成形することにより、各ロット毎の成形体密度が一定となり、焼成時における焼成品の寸法のバラツキを低減する。一方、成形体の減水速度が室温と関係するので、恒温室内温度を成形体の形状に応じた減水速度となるような温度に制御することで、段部のある成形体の割れ発生が防止できる。
〔実施例〕
・・・
段部のある成形体の場合、成形体の減水速度が早すぎると、減水による成形体の収縮が不均一となり、成形体に割れが発生する。したがって、鋳込み成形時に、第1図の#3の石膏型へのスラリー注入工程から#5の脱型までの工程を、成形体の形状に応じた減水速度となるように制御した恒温室内で実施することで、成形体の割れ発生が防止できる。
第4図に示す段部Aを有する形状、寸法の成形体を、次の条件で鋳込み成形し、成形体の段部Aに割れ発生なく成形できた。
[成形条件]
原料粉平均粒径 0.9~1.1 μm
スラリー濃度 74~76%
石膏型材質 日東石膏C2000 相当品
石膏分割方法 円周方向に3分割
鋳込み成形特温度 20℃
平均減水速度 1.60~1.65g/hr
なお、この形状の成形体は、20℃以上50℃以下で成形すれば、割れの発生を防止できる。」(第2頁左上欄第17行~第3頁左上欄第2行)
(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この自然乾燥では、温度が低くても湿度の管理がなされていないため、通常の室内では、急激に乾燥され、成形体中の水分が高水分の場合や成形体の大きさが大きい場合などには、乾燥した成形体にクラックや変形が生じるという問題があった。
【0005】本発明は、上述したセラミックス粉末の成形方法が有する課題に鑑みなされたものであって、その目的は、自然乾燥しても乾燥した成形体にクラックや変形が生じることのないセラミックス粉末の成形方法を提供することにある。
・・・
【0008】上記で述べたように、セラミックス粉末の成形方法としては、成形体の乾燥方法を上下面に通気穴を有する箱内に脱型した成形体を入れ、その箱を室内に放置することにより乾燥する方法とするセラミックス粉末の成形方法とした(請求項1)。成形体の乾燥を、図1及び2に示す如く上下面に通気穴を有する箱内に入れ、それを箱ごと自然乾燥することにより、乾燥によるクラックや変形が起こらない。
【0009】その理由は、箱内に置かれた成形体から蒸発する水蒸気で箱内空気の湿度が高まり、成形体の乾燥速度が抑えられることによる。そして、成形体から蒸発した水蒸気で箱内の空気の湿度が高まるが、その水蒸気が空気より軽いため、湿度の高い空気が箱上面の通気穴から上昇飛散し、代わりに箱外部の低い湿度の空気が箱下面の通気穴から進入することで空気が交換されて乾燥され、乾燥が進行する。」
(4)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】周知の通り、乾燥は、先ず成形体の外表面の含水率が小さくなり、この含水率より高い内部の水分が外表面へ移動することで進行し、この結果、中心(コア)ほど含水率の低下が遅くなる。また、セラミックス成形体は水分が減少するにつれて収縮し、この収縮量に差があると引張り力が発生する。
【0005】上記「自然乾燥」では成形体が大型になると、外表面の含水率と内部の含水率との差が顕著となり、ある程度の差は成形体が変形して対応するが、それ以上の差になると割れ、亀裂が入る。「温風乾燥」では含水率の差がより著しくなり割れ、亀裂がさらに入り易い。そこで本発明の目的は乾燥方法を改良して亀裂の無い良質な成形体を製造し得る技術を提供することにある。
・・・
【0024】
【発明の効果】以上に述べた通り本発明は、多湿雰囲気で第1次乾燥を実施して成形体内部の含水率を徐々に低下させ、次に成形体の外表面と内部との含水率の差が縮まった状態で、従来並みに第2次乾燥を実施するようにしたので、成形体に割れを発生させること無く、良質の成形体を製造することができる。
【0025】第1次乾燥工程で、湿度を徐々に下げることにより、乾燥速度を時間とともに上げることができ、第1次乾燥に要するトータル時間を短縮することができる。」
(5)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥工程を短時間で完了させることができ、しかも乾燥後の成形体にひび割れや亀裂の発生することのない乾燥セラミックス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種セラミックス製品は、セラミックス原料を用いて成形する成形工程と、成形体を乾燥する乾燥工程と、乾燥した成形体を焼成する焼成工程と、焼成体を冷却する冷却工程とを経て製造される。これらの工程のうち、乾燥工程又は冷却工程は、自然乾燥や自然冷却によることもあるが、時間短縮を図る目的で別途加熱手段や冷却手段を用いることがある。
【0003】
しかし、セラミックス肉厚成形体の乾燥の場合には、乾燥工程における急速な乾燥操作によってその表面と内部の間に含有する水分量の大きな変化や急激な温度差が生じると、表面に亀裂やクラックが発生するという問題があった。そのため、従来の単純な加熱手段による乾燥方法のみでは、十分な製造時間の短縮を達成することができなかった。」
【0004】
このような問題を解決するために、さまざまな技術を用いた手法が種々提案されている。例えば、外部の湿度を一定に調節しながらセラミックス成形体を乾燥させる調湿乾燥という方法が実施されている。しかし、この調湿乾燥法でも、外部の湿度を低下させて乾燥速度を早くすると成形体の内部と外部の間に水分含有量の大きな差が発生し、成形体に亀裂やクラックが発生するという問題があった。そのため、粘土を成分として含むセラミックス肉厚成形体の乾燥の場合には、この調湿乾燥法では成形体の内部温度が約40℃という条件で実施されており、乾燥が終了するまでに1~3週間という長期間が必要である。」
(6)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】複雑な形状で大型のセラミックス成形体の製造には鋳込み成形が利用されているが、従来の石膏型を用いた鋳込み成形方法では、成形時間が長くかかること、乾燥時間が著しく長くかかる等その生産性は著しく低く、そのことがセラミックス製品のコストアップ要因となっていた。特に原料粉がサブミクロンとなると水分移動係数が小さくなるので成形時の生産性が悪く、また乾燥時に内部と表層の含水率の差が大きくなり乾燥割れや乾燥変形が起こりやすいのでこれを防ぐためには乾燥期間を著しく長くする必要があった。乾燥時の水分移動係数を上げるため恒温恒湿器を用いた調湿度乾燥やマイクロ波乾燥が開発され実用化されているがまだ十分ではない。
【0003】また、大気圧での加熱蒸気乾燥法も提案されており100℃以上での乾燥速度は著しく速い利点があるが、成形体の温度を約100℃まで昇温させる過程での乾燥収縮による変形や割れを起こし安い欠点があった。この問題は、乾燥器内に多数の成形体が入れられた場合など成形体の温度むらが大きい場合には特に欠点が強調される。これは成形体の低温部でも結露しない水蒸気圧で乾燥する必要があるため、加熱源に近い高温の成形体では乾燥が進むからである。実務上は温度むらが起こらないようなゆっくりとした速度で100℃まで時間をかけて昇温する必要がある等の問題点があり、更に優れた乾燥方法が要望されていた。」
(7)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
ア「はじめに
デジタルマイクロスコープは、材料や製品等の表面を拡大観察するための装置です。ズームレンズにより拡大した像をCCDカメラで取り込み、液晶画面で観察してデジタル画像として記録保存できます。デジタル画像の特徴を活かすことにより、光学顕微鏡にはない多くの機能を有しています。本稿では、平成21年度に当所に導入したデジタルマイクロスコープの機能と観察例を紹介します。
・・・
表1に装置の主な仕様を示します。また、装置の基本的な特長は次のとおりです。
1.高被写界深度
光学顕微鏡と比較して、被写界深度が深いため、通常、ピントの合わない凹凸の大きな対象物も鮮明に観察することができます。また、Z軸自動ステージと連動させて観察深度位置の異なる複数の画像を1枚に合成する自動深度合成機能により、より大きな凹凸を有する対象物も鮮明に観察することが可能です。
2.高階調画像
シャッタースピードを変更しながら異なる明るさの画像を複数枚取得し<高階調のデータを持った1枚の画像に合成するハイダイナミックレンジ(HDR)機能を有しています。取得できる明るさの幅が広がるため、ハレーションを起こしている対象物や、階調が乏しい対象物も緻密に表現することが可能です。」(第1頁左欄第1行~右欄第10行)
イ「
[図:0001416474000001.jpg]
」(第1頁)
(8)甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
「【0015】
<要件(e)について>
本発明のジルコニア質微小メディアの表面粗さ(Ry)は0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下とする。
メディアの表面粗さは機械的特性だけでなく耐摩耗性にも大きく影響する。例えば、メディア材質としての特性が良好であっても表面粗さが悪ければ摩耗特性等のメディアとしての特性は低下する。表面粗さが0.3μmを超えると、メディア表面の凹凸が大きくなり、メディア同士の摩擦が大きくなって摩耗が促進される。また、摩耗特性だけでなく、粉体の分散の繰り返しによりメディア表面状態が悪くなり、分散処理毎の摩耗率の変動が起こり、耐久性の低下をきたす。更に、被処理粉体の分散が進みにくく、本発明のビーズに比べて、同条件で分散しても分散した粉体の平均粒子径分布が広くなったり、平均粒子径が大きくなったりする。
なお、メディアの表面粗さは、JIS B 0601(2001)に準拠して、レーザー顕微鏡を用いて非接触で5個のビーズについて測定し、その平均値とする。」
(9)甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
ア「 そこで,本研究では微量のAl2O3の添加がY-TZPの緻密化,機械的性質及び微細組織に与える影響について検討した.」(第646頁右欄第4~6行)
イ「 表1に,実験に供した原料粉末の組成分析結果を示す.
アルキメデス法により測定した各焼結体の相対密度とAl2O3添加量との関係を図1に示す.相対密度は焼結温度が高いほど全体的に上昇する.また,いずれの焼結温度においてもAl2O3添加量の増加に伴って相対密度が上昇するが,Al2O3添加量が1.5mol%になると若干低下した.・・・いずれの場合でもAl2O3無添加の焼結体と比較すると,ごく少量(0.375mol%)のAl2O3の添加で1%近く焼結体の緻密化を促進する効果が認められた.」(第647頁左欄下から第2行~第648頁左欄第1行)
ウ「 図11及び図12から,Al2O3添加量の増加に従って立方晶の体積分率と粒径が共に増加しているのがわかる.」(第651頁左欄第8~9行)
エ「
[図:0001416474000002.jpg]
」(第647頁)
オ「
[図:0001416474000003.jpg]
」(第647頁)
カ「
[図:0001416474000004.jpg]
」(第651頁)
キ「
[図:0001416474000005.jpg]
」(第652頁)
(10)甲第10号証の記載事項
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
ア「Fig.4に示されるように,破断強度もアルミナ添加で著しく向上した.これらの結果は過去の報告5,6)に類似している.」(第898頁左欄下から第9~7行)
イ「6)木原正浩,緒方知彦,中村耕治,小林啓佑:“Y-TZPの機械的性質及び微細組織に及ぼすAl2O3の添加の影響”,日本セラミックス協会学術論文誌,96(1988)646-653.」(第901頁右欄下から第14~12行)
(11)甲第11号証の記載事項
甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
ア「木原ら7)もZrO2-2.5mol%Y2O3に0.3~1.2wt%Al2O3の添加で密度が増し、機械的性質が改善されることを報告している.」(第631頁左欄下から第4~2行)
イ「7)木原正浩,尾形知彦,中村耕治,小林啓佑,日本セラミックス協会学術論文誌,96,646(1988).」(第636頁右欄第1~2行)
4 当審の判断
事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由をまとめて検討する。
(1)申立理由2及び取消理由1(サポート要件違反)について
ア 取消理由1における具体的な指摘事項
申立理由2のうち、取消理由1として通知した指摘事項は次のとおりである。
(ア)安定化剤について
本件発明の課題は、強度が高く、ベアリング等の使用中に割れや欠けを生じにくいセラミックスボールを提供することである(【0001】、【0002】、【0009】~【0011】)といえる。
そして、発明の詳細な説明の記載によれば、設定登録時の請求項1~4に係る発明のセラミックスボールは、緻密化が不十分な領域を極力少なくすること、すなわち、「略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下」という特定事項を満たすことで、圧壊強度を高めたものであるといえるところ、発明の詳細な説明の実施例欄に記載された実施例1~4、6の安定化剤としてY2O3を含有するジルコニア粉末を用いて製造したセラミックスボールは、上記特定事項を満たし、比較例1に対して高い圧壊強度を有していることからして、ベアリング等の使用中に割れや欠けを生じにくい程度に強度が向上しているといえるから、上記課題を解決できると認識できる。
しかし、発明の詳細な説明の記載によれば、ジルコニアに安定化剤を添加することによって、ジルコニアの正方晶の比率を高めると共に、セラミックスボールの強度を高め、割れ・欠けを抑制しているといえるところ、安定化剤を含有しないジルコニアは、安定化剤を含有する上記実施例のジルコニアに比べて正方晶の比率が低く、セラミックスボールの強度も低いと考えられるから、そのようなセラミックスボールが、ベアリング等に使用可能な程度の強度を有するとまでは、出願時の技術常識に照らしても理解できず、当業者が上記課題を解決できると認識できない。
これに対して、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、安定化剤を含有しないジルコニアからなるセラミックスボールを包含するものであるから、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえず、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。
(イ)アルミナについて
上記(ア)のとおり、発明の詳細な説明の実施例1~4、6のセラミックスボールは、上記課題を解決できると認識できるものであるところ、当該実施例のセラミックスボールは、Al2O3を含有するジルコニア粉末を用いて製造したものである。
しかし、発明の詳細な説明の記載(【0017】、【0022】)によれば、上記実施例のセラミックスボールは、アルミナの添加により、結晶粒の成長をある程度抑制することによって、セラミックスボールの「低発色領域」の面積率を特定範囲に制御していると解されるところ、アルミナを添加せず、結晶粒の成長を抑制せずに製造されたセラミックスボールにおいても、「低発色領域」の面積率を特定範囲に制御されるとはいえないから、そのようなセラミックスボールが、上記(ア)の特定事項を満たし、ベアリング等に使用可能な程度の強度を有するとまでは、出願時の技術常識に照らしても理解できず、当業者が上記課題を解決できると認識できない。
これに対して、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、アルミナを含有しないジルコニアからなるセラミックスボールを包含するものであるから、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえず、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。
イ サポート要件適合性の判断
(ア)本件特許請求の範囲の記載について
取消理由1において指摘した「安定化剤」及び「アルミナ」に関しては、本件訂正により訂正され、本件発明1~3は、上記第3のとおりの発明であって、本件発明1は、「略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下」、「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上」、「イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下」であり、さらに「アルミニウム」を含有することが特定された「セラミックスボール」の発明となった。
(イ)本件発明の課題について
発明の詳細な説明の【0001】、【0002】、【0009】~【0011】の記載によれば、本件発明の課題は、セラミックスボール内部に空隙があったり、また内部に緻密化が不十分な領域があったりすると強度の低下を招く、という問題や、強度が低下するとベアリングの動作中に割れや欠けが生じ機械部品や電子部品が正常に機能しなくなる、という問題に鑑みて、強度が高く、ベアリング等の使用中に割れや欠けを生じにくいセラミックスボールを提供すること(以下、「本件課題」という。)であると認められる。
(ウ)発明の詳細な説明の記載について
a まず、実施例に係る具体例に目を向けると、発明の詳細な説明の実施例(【0042】~【0054】、【0064】)には、デジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像における断面積全体に対する低発色領域の面積の割合が0~1.8であり、ジルコニア含有量が94.78~94.85wt.%、Y2O3含有量が4.77~4.83wt.%、Al2O3含有量が0.37~0.39wt.%の各範囲内である、実施例1~4のセラミックスボールが記載され、当該実施例のセラミックスボールの圧壊強度が、比較例1のセラミックスボールよりも高くなっていることから、実施例1~4のセラミックスボールは、本件課題を解決できると認識できる。
b 次に、発明の詳細な説明の発明を実施するための形態を見てみると、発明の詳細な説明の【0010】の「本発明者らは、緻密化が不十分な領域を極力少なくなるように成形加工することで強度が高いセラミックスボールを得るに至った。すなわち、本発明は、略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下であり、ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であるセラミックスボールである。」との記載、及び、【0024】の「本発明のセラミックスビーズは、低発色領域の面積が、断面積に対して1/50以下である。低発色領域の面積が1/50をこえると圧壊強度が低下するが、1/50以下であれば低発色領域が存在していても圧壊強度の低下はほぼない。」との記載によれば、本件発明のセラミックスボールは、緻密化が不十分な領域を極力少なくすること、すなわち、「略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下」という特定事項を満たすことで、圧壊強度を高めたものであるといえる。
c また、発明の詳細な説明の【0014】には、「セラミックスボールの原料はアルミナ、ジルコニア、窒化珪素などが好ましく用いられ、・・・。中でもジルコニアは強度に優れているため、主成分がジルコニアであることが好ましい。特に、ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であれば、強度をより向上させることができる。」、【0015】には、「ジルコニアについては安定化剤の添加量により結晶構造が異なる。安定化剤の添加量が低いと単斜晶の結晶構造をとり、安定化剤の添加量が増えるに従い正方晶、立方晶の結晶構造比率が高くなる。ジルコニアは正方晶の比率が多い方が、強度がより高くなる。安定化剤の添加量を少なくすることにより、立方晶の比率が低く、正方晶の比率が高くなると、強度がより高くなるためにセラミックスボールの使用中に割れや欠けをより抑制することができる。また、安定化剤の添加量を多くすることにより、単斜晶の比率が低く、正方晶の比率が高くなると同様に強度がより高くなり、割れ・欠けを抑制することができる。」、及び【0016】には、「このため正方晶の比率が高くなる安定化剤の添加量が好まれ、このような安定化剤としてはイットリアを用いることが好ましい。安定化剤としてイットリアを添加する場合の添加量は、酸化物成分の全重量に対して好ましくは4.5wt.%以上5.5wt.%以下、より好ましくは4.7wt.%以上5.4wt.%以下である。」と記載されている。
これらの記載によれば、ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上含有し、安定化剤としてのイットリアを4.5wt.%以上5.5wt.%以下という好ましい添加量で含有するジルコニアは、正方晶の比率が高くなると共に、セラミックスボールの強度がより高くなり、ベアリング等の使用中の割れ・欠けを抑制されることを理解できる。
d 加えて、発明の詳細な説明の【0017】には、「結晶粒の成長を抑制するためにアルミナを微量添加しても構わない。」と記載されているところ、甲第9号証の上記3(9)カ、キのFig.12及び14によれば、ジルコニア焼結体のアルミニウム含有量によって、立方晶の粒径が変化するが、正方晶の粒径が変化しないことが技術常識であるといえるから、上記cのとおり、イットリアを4.5~5.5wt.%添加して正方晶の割合を高くしたジルコニア焼結体では、アルミナの添加量によって、その物性が、実施例1~4と大きく変化しないことも理解できる。
e 上記b~dの事項を併せ考えれば、セラミックスボールが、略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下であって、ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であり、イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下であり、さらに、アルミニウムを含有することで、実施例1~4のセラミックスボールと同様に、本件課題を解決できると認識できる。
(エ)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1は、上記(ア)に示したとおり、「略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下」、「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上」、「イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下」であり、さらに「アルミニウム」を含有することが特定された「セラミックスボール」の発明であって、前記(ウ)eで検討したセラミックスボールであるから、本件発明1は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、前記(イ)に示した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても同様である。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立理由2のうち、取消理由1で採用しなかった主張、及び、申立人意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
すなわち、発明の詳細な説明の実施例において実際に本件課題を解決できることが示されているのは、安定化剤等の添加剤として、イットリア、アルミナ、酸化鉄、チタニア、及び酸化ナトリウムを所定の割合で含有している場合のみであるから、これらの成分を所定の割合で含有しない本件発明については、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものでない(特許異議申立書第52頁下から1行~第58頁第1行、申立人意見書第4頁第2行~第8頁第27行)。
特に、アルミナの含有量について、甲第9号証の上記3(9)イ、エ、オ(第647頁左欄下から第2行~第648頁左欄第1行、Fig.1、表1)の記載によれば、焼結体の緻密化を促進するためにアルミナの含有量が0.31wt.%(0.375mol%)程度は少なくとも必要であることを技術常識として当業者が知っているから、本件特許明細書の実施例に示されているアルミナの含有量の下限である0.37wt.%以上はアルミナを含有する必要があると認識できる。また、甲第9号証の同記載から、アルミナの含有量が1.18wt.%(1.5mol%)になると焼結体の緻密性が低下することを技術常識として当業者が知っていること、及び、アルミナの含有量が0.41wt.%である場合に低発色領域の面積率を本件発明1に特定の範囲内に制御できなかったという本件特許明細書の実施例7の結果に鑑みて、実施例1~4、6に示されているアルミナ含有量の上限である0.40wt.%以下に制限する必要があると認識できる。よって、アルミナの含有量が0.37~0.40wt.%である実施例の記載から、アルミナの含有量が0wt.%超~2.5wt.%である本件発明1の範囲まで拡張又は一般化できない(申立人意見書第4頁第2行~第8頁第19行)。
(イ)申立人の主張の検討
a まず、アルミナの含有量について検討する。甲第9号証の上記3(9)エのFig.1から、0%超のごく少量のAl2O3の添加で、Al2O3無添加(0%)の焼結体と比較して相対密度が向上する傾向が見て取れるし、アルミナの含有量が1.18wt.%(1.5mol%)の焼結体の相対密度の値は、アルミナの含有量が0.31wt.%(0.375mol%)の焼結体の相対密度の値と比較して、同程度であるか、それ以上であることも見て取れる。そうすると、アルミナの含有量が0.31wt.%未満あるいは1.18wt%であっても、焼結体をある程度緻密化する効果を有しているといえる。
また、本件特許明細書には、「ここで成形体内に空隙を生じると焼結後に空隙や緻密化が不十分な領域を生じることとなる。このため粉末は液体バインダー添加後に十分に流動される必要があり、そのためにはセラミックス粉末の粒径が小さく、かさ密度が低いことが望ましい。」(【0032】)、「具体的には粉末の50%粒径が70μm以下であることが好ましく・・・」(【0033】)、「セラミックス粉末のかさ密度は1.2g/cm3以下であることが好ましい。」(【0034】)と記載されており、焼結体の緻密性が、セラミックス粉末の粒径及びかさ密度にも影響を受けることが記載されているところ、実施例7のセラミックス粉末の粒径及びかさ密度は、いずれも前記好ましい範囲から外れている。そうすると、実施例7のアルミナの含有率が0.41wt%であることのみが、焼結体の緻密性が低下した原因とはいえない。
以上を踏まえると、甲第9号証及び実施例7の記載から、アルミナの含有量を0.37~0.40wt.%の範囲に制限する必要があるとは認識できない。
そして、上記イ(ウ)c~eで検討したように、低発色領域の面積率、ジルコニアの比率、及びイットリアの比率が規定された本件発明1のセラミックスボールは、正方晶の割合が高められるとともに、強度がより高められたものであり、アルミナの添加量によって、その物性が、実施例1~4と大きく変化しないと解されるから、アルミナの含有量として上記実施例の0.37~0.39wt.%を起点として、本件発明1の範囲である0wt.%超~2.5wt.%に変更しても、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
b 安定化剤であるイットリアの含有量についても、上記イ(エ)で検討したとおり、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
c 酸化鉄、チタニア、及び酸化ナトリウムの含有量について、発明の詳細な説明の実施例1~4には、酸化鉄(Fe2O3)を0.0001~0.0003wt.%、チタニア(TiO2)を0.0009~0.001wt.%、酸化ナトリウム(Na2O)を0.001~0.11wt.%含有するジルコニア粉末を用いて製造したセラミックスボールが記載されており(【0045】~【0054】、表1)、当該セラミックスボールは、上記イ(ウ)aで検討したように、本件課題を解決できると認識できる。
一方、本件発明1に係る請求項1には、上記第3のとおり、「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であり、イットリアおよびアルミナを含有し、イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下である」と記載されているから、本件発明1のセラミックスボールの酸化鉄、チタニア、及び酸化ナトリウムの含有量の合計は、ジルコニア及びイットリアを除いた残部の比率、すなわち、0wt.%~2.5wt.%の数値範囲であると理解できる。
そして、上記イ(ウ)c、eで検討したように、低発色領域の面積率、ジルコニアの比率、及びイットリアの比率が規定された本件発明1のセラミックスボールは、正方晶の割合が高められるとともに、強度がより高められたものであるし、本件特許明細書には、酸化鉄、チタニア、及び酸化ナトリウムの含有量が、焼結体の緻密性に影響するとの記載はなく、そのような技術常識もないから、酸化鉄、チタニア、及び酸化ナトリウムの含有量を、上記実施例を起点として、0wt.%~2.5wt.%に変更しても、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(ウ)小括
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 申立理由2及び取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2及び取消理由1に理由はない。
(2)申立理由1及び取消理由2(実施可能要件違反)について
ア 取消理由2における具体的な指摘事項
申立理由1のうち、取消理由2として通知した指摘事項は次のとおりである。
設定登録時の請求項1~4の「セラミックスボール」の製造に関し、発明の詳細な説明の実施例欄の実施例1~4、6の記載によれば、当業者であれば、アルミナを含有するジルコニア粉末を用いることにより、設定登録時の請求項1~4に該当するセラミックスボールを製造できることが理解できる。
しかし、上記(2)ア(イ)に記載したように、アルミナを添加せず、結晶粒の成長を抑制せずに製造されたセラミックスボールにおいても、「低発色領域」の面積率が特定範囲に制御されるとはいえないから、アルミナを含有しないジルコニア粉末を用いて、上記実施例と同様に、設定登録時の請求項1~4に該当するセラミックスボールが製造できるとはいえないし、そのような技術常識があるともいえない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、設定登録時の請求項1~4に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえない。
イ 実施可能要件適合性の判断
(ア)本件発明1は、上記(1)イ(ア)で検討したとおり、本件訂正により訂正され、「アルミニウム」を含有することが特定された「セラミックスボール」の発明となったため、上記指摘事項は理由がないものとなった。
(イ)そこで、訂正後の本件発明1について実施可能要件を充足するかについてさらに検討する。
まず、発明の詳細な説明の実施例(【0042】~【0054】)をみてみると、実施例1には、オキシ塩化ジルコニウムに塩化イットリウムを加えて共沈法で、Y2O3の含有量が4.78wt.%、Al2O3の含有量が0.38wt.%、Fe2O3の含有量が0.0002wt.%、TiO2の含有量が0.001wt.%、Na2Oの含有量が0.0011wt.%であり、比表面積が9.8m2/g、50%粒径が42μm、かさ密度が1.01g/cm3である、ジルコニア粉末を作製し(【0045】)、上記粉末を用いて、転動造粒法で造粒を行い、得られた成形球体を、「水分の減少速度0.8重量%/h」で乾燥させ、その後、大気中にて1380℃で2時間焼結し(【0045】、【0046】)、得られた焼結体をバレル研磨し、セラミックスボールを得たこと(【0047】)、このセラミックスボールを観察した結果、赤・青・緑の各要素全てが断面全体の平均値より10以上低くなる低発色領域は観察されなかったこと(【0048】)が記載されている。また、実施例2~4には、実施例1の製造方法から、Y2O3の含有量、Al2O3の含有量、Fe2O3の含有量、TiO2の含有量、Na2Oの含有量、ジルコニア粉末の比表面積、セラミックス粉末の50%粒径及びかさ密度を変更した製造方法により、セラミックスボールを得たこと、及びこのセラミックスボールの低発色領域の面積率が、本件発明1の特定を満足していたことが記載されている(【0049】~【0054】)。
(ウ)加えて、発明の詳細な説明には、本件発明1の「セラミックスボール」を製造することに関して、「本発明のセラミックスボールは、例えば転動造粒法によりセラミックス成形体を作製し、かかるセラミックス成形体から水分を除去した後に脱脂・焼結し、表面を研磨することにより製造することができる」こと(【0030】)、「ここで成形体内に空隙を生じると焼結後に空隙や緻密化が不十分な領域を生じることとなる。このため粉末は液体バインダー添加後に十分に流動される必要があり、そのためにはセラミックス粉末の粒径が小さく、かさ密度が低いことが望ましい」こと(【0032】)、「具体的には粉末の50%粒径が70μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である」こと(【0033】)、「また、セラミックス粉末のかさ密度は1.2g/cm3以下であることが好ましい。かさ密度は径の小さい粉末の分布量が増えるほど値が小さくなる。径の小さい粒子が増えるほど液体バインダー添加後に流動されやすい」こと(【0034】)、「このように得られたセラミックス成形体は水分を含んでいるが、後述する焼結を施す前にセラミックス成形体を乾燥させることにより、セラミックス成形体内部の水分が徐々に蒸発し、欠陥や緻密さにムラがある領域(密度差)が生じにくく、上述した低発色領域の面積をより低下させることができる。そのため、セラミックス成形体は、焼結を施す前に、乾燥機等を用いてセラミックス成形体内部の水分を徐々に減少させる乾燥工程に供されることが好ましい」こと(【0036】)、「乾燥工程におけるセラミックス成形体内の水分の減少速度が小さいと、セラミックス成形体内部の水分が徐々に蒸発し、欠陥や緻密さにムラがある領域(密度差)が生じにくく、上述した低発色領域の面積をより低下させることができる。そのため、本発明においては、当該セラミックス成形体の乾燥前の重量を100重量%として1.5重量%/h以下の水分減少率で乾燥させることが好ましい」こと(【0037】)が記載されている。
また、発明の詳細な説明には、「結晶粒の成長を抑制するためにアルミナを微量添加しても構わない」こと(【0017】)も記載されているところ、上記(1)イ(ウ)dで検討したとおり、イットリアを4.5~5.5wt.%添加して正方晶の割合を高くしたジルコニア焼結体では、アルミナの添加量によって、その物性が、実施例1~4と大きく変化しないことも理解できる。
これらの記載によれば、セラミックスボールの低発色領域の面積率は、アルミナを微量添加して結晶粒の成長を抑制すると共に、セラミックス粉末の粒径、かさ密度、及び乾燥工程における水分減少速度により制御可能であると理解できる。
(エ)前記(イ)、(ウ)の事項を踏まえれば、実施例1~4に記載された具体的な製造工程、及び条件を基準にして、セラミックス粉末の組成を調整しつつ、セラミックス粉末の50%粒径やかさ密度、乾燥工程における水分減少速度を発明の詳細な説明に記載された範囲(【0033】、【0034】、【0037】)で調整することで、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の「セラミックスボール」を得ることができることを当業者であれば理解できる。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3についても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立理由2のうち、取消理由1で採用しなかった主張、及び、申立人意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
a 主張1
上記3(9)ウ、カ、キ記載のとおり、甲第9号証には、アルミナの含有量が増えると焼結体に含有している正方晶粒子はほとんど変化しない一方で、立方晶粒子は大きくなることが示され(第651頁左欄第8~9行、Fig.12及び14)、焼結体全体でみれば結晶粒子が大きくなることを示していると判断できる一方で、本件特許明細書には、「結晶粒の成長を抑制するためにアルミナを微量添加しても構わない。」と記載され(【0017】)、甲第9号証とは逆に結晶粒の成長が抑制されて結晶粒が小さくなることが示唆されている。さらに本件特許明細書には、アルミナの含有量と低発色領域との関係が何ら記載されていないし、出願時の技術常識によってもその関係性は明らかではないから、当業者がアルミナの含有量を適宜調整するための実験の方針を認識することは、到底できないというべきである。そして、本件発明1で特定されているアルミナの含有量は0wt.%超~2.5wt.%という広範な範囲であるのに対して、発明の詳細な説明の実施例において、「低発色領域」の面積率が特定範囲に制御されているアルミナ含有量は0.37~0.40wt.%という極めて狭い範囲にすぎず、当業者は何らの実験方針を認識できないままに、このような広範な数値範囲を試行錯誤することになり、これは過度の試行錯誤に他ならない(申立人意見書第8頁第28行~第10頁下から第6行、第11頁10~23行)。
b 主張2
上記3(9)イ、エ、オ記載のとおり、甲第9号証には、焼結体の緻密化を促進するためにアルミナの含有量は0.31wt.%は少なくとも必要であり、アルミナの含有量が1.18wt.%になると焼結体の緻密性が低下すると記載されている(第647頁左欄下から第2行~第648頁左欄第1行、Fig.1、表1)。そして、発明の詳細な説明の実施例1~4、6に示されたアルミナの含有量の範囲は0.37~0.40wt.%であり、アルミナの含有量が0.41wt.%の場合に低発色領域の面積率が4.8%となって低発色領域率の面積を本件発明の範囲内に制御できなかったという実施例7の結果に鑑みれば、実施例1~4、6において示されているアルミナの含有量である0.37~0.40wt.%の範囲外については、低発色領域の面積率を本件発明の範囲内に制御できない蓋然性が高く、前記範囲外においては、当業者は過度の試行錯誤をしてもなお本件発明1のセラミックスボールを作ることができないといえる(申立人意見書第10頁下から第5行~第11頁第9行)。
c 主張3
発明の詳細な説明の実施例1~4、6、7において、造粒した成形球体を0.8重量%/hという同じ水分減少率で乾燥しているものの、得られたセラミックスボールの低発色領域の面積率は、0~4.8%と互いに異なっている。特に実施例7では、低発色領域の面積率が4.8%であり、本件発明1に特定の低発色領域の面積率を得ることができていない。
また、積層状態等、乾燥工程における成形体の配置等の乾燥方式が水分減少率に影響を及ぼすことが示唆されているにもかかわらず、実施例1~4、6、7をはじめとし、本件特許明細書には、乾燥方式について何らの開示もないから、当業者が、本件特許明細書の開示に基づいて、一般的な乾燥方式で、セラミックス成形体乾燥時における水分減少率を規定の範囲に設定することにより、低発色領域率の面積が本件発明1の特定を満たすセラミックスボールを製造することは不可能である(特許異議申立書第46頁第12行~第52頁第15行)。
(イ)申立人の主張の検討
a 主張1についての検討
本件発明1のセラミックスボールは、「イットリアを4.5wt.%以上5.5wt.%以下」含有するものであるから、上記(1)イ(ウ)cで検討したとおり、正方晶の比率が高められたものといえる。
そして、甲第9号証の上記3(9)キのFig.14から、ジルコニア焼結体の正方晶の粒子径は、アルミナの含有量に依らず一定であることが見て取れる。
そうすると、本件発明1のセラミックスボールにおいて、多くの比率を占める正方晶の粒子径が、アルミナの含有量に依らず一定であるから、アルミナの含有量の変化によって立方晶の粒子径が変化するとしても、セラミックスボール全体の物性に大きな影響を及ぼすものとはいえない。
よって、発明の詳細な説明の実施例に記載されたアルミナの含有量を起点として、本件発明1で実質的に特定されているアルミナの含有量の範囲である0超~2.5wt.%に変更しても、上記イ(ウ)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載をもとに、本件発明1に特定の低発色領域の面積率を満たすことが可能であることを理解できるから、当該主張は採用できない。
b 主張2についての検討
上記(1)ウ(イ)aで検討したとおり、アルミナの含有量が0.31wt.%未満または1.18wt.%であっても、焼結体を緻密化する効果をある程度有しているといえるし、また実施例7のアルミナの含有率が0.41wt%であることのみが、焼結体の緻密性が低下した原因とはいえない。
よって、甲第9号証及び実施例7の記載に鑑みて、アルミナの含有量が0.37~0.40wt.%の範囲外については、低発色領域の面積率を本件発明の範囲内に制御できない蓋然性が高いとはいえないから、当該主張は採用できない。
c 主張3についての検討
本件特許明細書の「なお、乾燥工程は成形体を複数層積層した状態で乾燥するため、最下層の成形体の水分を効率的に除去する観点から、乾燥工程における水分の減少速度は0.01重量%/h以上であることが好ましい。」(【0037】)との記載から、積層状態等の乾燥工程における成形体の配置等の乾燥方式は、乾燥の効率性に影響すると解されるものの、セラミックスボールの低発色領域の面積率に直接影響するとまではいえない。
そして、上記イ(ウ)で検討したとおり、セラミックスボールの低発色領域の面積率は、セラミックス粉末の粒径、かさ密度及び乾燥工程における水分減少速度に影響を受けると解されるところ、実施例1~4、6、7は、同じ水分減少率であっても、セラミックス粉末の粒径及びかさ密度がそれぞれ異なるために、低発色領域の面積率が互いに異なるセラミックスボールが得られたものといえるから、乾燥方式が低発色領域の面積率に影響することの根拠にはならない。
以上を踏まえると、乾燥方式に依らず、上記イ(エ)に記載したとおり、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の「セラミックスボール」を得ることができることを当業者であれば理解できるから、当該主張は採用できない。
(ウ)小括
よって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
エ 申立理由1及び取消理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1及び取消理由2に理由はない。
(3)申立理由3(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如)、及び申立理由4(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
上記3(1)ウによれば、「イットリアを2.7モル%含む部分安定化ジルコニア粉末と、水(造粒剤)との混合物を」「混合し」、「部分安定化ジルコニア粉末の含有率が45重量%のスラリーを調製し」、「上記スラリーを」「噴霧、乾燥し、成形球体を得」、「得られた成形球体を」「分級し」、「分級によって得られた成形球体を」「回転皿型造粒機に投入し、成形球体の成長の状況を見ながら上記部分安定化ジルコニア粉末と水とを添加しながら造粒し、成長成形球体を得」、「成長成形球体を105℃で3時間乾燥し」、「得られた成長成形球体を」「分級し」、「分級により得られた成長成形球体を、空気中にて1400℃で2時間焼結し、ジルコニア球体を得た」ことが記載されている(【0032】~【0038】)。
上記3(1)ウによれば、上記「ジルコニア球体」の「内部欠陥の保有率」が「3%」であることが記載されている(【0039】)。
上記3(1)イによれば、上記「内部欠陥の保有率は、次のようにして求める」こと、「すなわち、200℃に加熱した、真鍮板等の剛性のある板の上に適当な樹脂を溶かし、その上にセラミックス球体を散布し、板を冷却して樹脂でセラミックス球体を板上に固定」した「後、研磨紙や研磨材を用い、表面を、セラミックス球体の球径の約半分の深さまで研削」し、「研削面を50倍の光学顕微鏡で観察して欠陥(空孔)の有無を判定する」こと、及び「保有率は、観察した100個のセラミックス球体のうち、内部欠陥を有するものの割合である」ことが記載されている(【0029】、【0030】)。
これらの記載を、「実施例1」の「ジルコニア球体」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「イットリアを2.7モル%含む部分安定化ジルコニア粉末と、水との混合物を混合し、部分安定化ジルコニア粉末の含有率が45重量%のスラリーを調製し、前記スラリーを噴霧、乾燥し、成形球体を得、得られた成形球体を分級し、分級によって得られた成形球体を回転皿型造粒機に投入し、成形球体の成長の状況を見ながら上記部分安定化ジルコニア粉末と水とを添加しながら造粒し、成長成形球体を得、成長成形球体を105℃で3時間乾燥し、得られた成長成形球体を分級し、分級により得られた成長成形球体を、空気中にて1400℃で2時間焼結し、得られたジルコニア球体であり、
200℃に加熱した、真鍮板等の剛性のある板の上に適当な樹脂を溶かし、その上にセラミックス球体を散布し、板を冷却して樹脂でセラミックス球体を板上に固定した後、研磨紙や研磨材を用い、表面を、セラミックス球体の球径の約半分の深さまで研削し、研削面を50倍の光学顕微鏡で観察して欠陥(空孔)の有無を判定することで求められ、観察した100個のセラミックス球体のうち、内部欠陥を有するものの割合である、内部欠陥の保有率が3%である、
ジルコニア球体。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
甲1発明の「イットリアを2.7モル%含む部分安定化ジルコニア粉末」は、モル%を質量%(wt.%)に換算すると、イットリアを4.84wt.%、及びジルコニアを95.16wt.%含む部分安定化ジルコニア粉末となるから、本件発明1の「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であり」、「イットリア」「を含有し」、「イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下であるセラミックスボール」に相当する。
b 上記aの対応関係に照らすと、本件発明1と甲1発明とは、
「ジルコニアの比率が全成分の93wt.%以上であり、イットリアを含有し、イットリアの比率が4.5wt.%以上5.5wt.%以下であるセラミックスボール。」
の点で一致し、次の点で相違している。
<相違点1>
セラミックスボールについて、本件発明1では、「アルミナを含有」するのに対して、甲1発明では、アルミナを含有することが明らかでない点。
<相違点2>
セラミックスボールについて、本件発明1では、「略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下であ」るのに対して、甲1発明では、「200℃に加熱した、真鍮板等の剛性のある板の上に適当な樹脂を溶かし、その上にセラミックス球体を散布し、板を冷却して樹脂でセラミックス球体を板上に固定した後、研磨紙や研磨材を用い、表面を、セラミックス球体の球径の約半分の深さまで研削し、研削面を50倍の光学顕微鏡で観察して欠陥(空孔)の有無を判定することで求められ、観察した100個のセラミックス球体のうち、内部欠陥を有するものの割合である、内部欠陥の保有率が3%である」点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
甲1発明の「内部欠陥」は、「研削面を50倍の光学顕微鏡で観察して欠陥(空孔)の有無を判定」して求められるものであるから、「50倍の光学顕微鏡で観察」された「欠陥(空孔)」を意味しているといえ、甲1発明の「内部欠陥の保有率が3%」であることは、「50倍の光学顕微鏡」で観察された「欠陥(空孔)」の割合が「3%」であることといえる。
他方、本件発明1の「低発色領域の面積」は、「デジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い」領域であり、これは、本件特許明細書の「ハイダイナミックレンジモードで撮影することにより、通常の撮影画像と比較して輝度の差が小さくてもコントラストが明確となり、鮮明な画像を得ることができる。結果として、セラミックスボール内部の欠陥や緻密さにムラがある領域(密度差)を容易に認識することができる。」(【0021】)、及び「画像をRGBカラーモデルで表すことにより、セラミックスボール内部の欠陥や緻密さにムラがある領域(密度差)を容易に認識することができる。」(【0022】)の記載によれば、「セラミックスボール内部の欠陥や緻密さにムラがある領域」を意味しているといえる。
ここで、本件特許明細書には、「観察に用いるデジタルマイクロスコープとしては、VHXシリーズ(Keyence製)が好適に用いられ」る(【0023】)ことが記載されているため、VHXシリーズ(Keyence製)のデジタルマイクロスコープに関する証拠である甲第7号証をみると、上記3(7)アのように、「デジタルマイクロスコープ」は、「光学顕微鏡と比較して、被写界深度が深いため、通常、ピントの合わない凹凸の大きな対象物も鮮明に観察することができ」、さらに「ハイダイナミックレンジ(HDR)機能」は、「取得できる明るさの幅が広がるため、ハレーションを起こしている対象物や、階調が乏しい対象物も緻密に表現することが可能で」ある(第1頁左欄下から第5~3行、右欄第4~10行)と記載されていることから、本件発明1の「デジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモード」は、光学顕微鏡で観察できる欠陥(空孔)に加えて、光学顕微鏡では観察できない「欠陥や緻密さにムラがある領域」をも識別できる手段であるといえる。
そうすると、甲1発明のセラミックスボールを「デジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモード」で観察した場合、「50倍の光学顕微鏡」で観察された「欠陥(空孔)」の割合である「3%」に加えて、「50倍の光学顕微鏡」では観察されなかった「欠陥や緻密さにムラがある領域」をも識別されると考えられるから、甲1発明のセラミックスボールの「低発色領域の面積」は、「3%」を超えるといえる。
してみると、甲1発明の「内部欠陥の保有率が3%」は、本件発明1の「低発色領域の面積」が「断面の断面積の1/50以下」(2%以下)を充足しないことは明らかであるから、当該相違点は、実質的な相違点である。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるということはできない。
次に、前記相違点2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。
本件特許明細書には、上記(2)イ(ウ)のように、セラミックス粉末の粒径、かさ密度、及び乾燥工程における水分減少速度の調整により、セラミックスボールの低発色領域の面積率を制御することが記載されており、上記(2)イ(イ)のように、セラミックス粉末の粒径、かさ密度、及び乾燥工程における水分減少速度を本件特許明細書に記載された範囲とした実施例1~4において、セラミックスボールの低発色領域の面積率が、本件発明1に特定の範囲を満たすことが記載されている。
他方、甲第1号証には、上記3(1)イのとおり、「内部欠陥の保有率は低ければ低いほどよいが、5%以下であれば実用上の問題は少な」く、「より好ましくは、3%以下になるようにする」ことが記載され(【0029】)、「成形球体を得る方法」において、「スラリーを加熱空間に噴霧する場合」、「スラリー濃度があまり低いと、スラリーを加熱空間に噴霧し、乾燥させて成形球体を得るときに、造粒剤の蒸発に伴うセラミックス粉末の凝集が不十分になり、得られるセラミックス球体の密度が低下したり、内部欠陥の保有率が高くなることがある」こと(【0016】)、さらに「焼結条件、すなわち、焼結温度や焼結時間は、得られるセラミックス球体の強度が低下して使用時に破損等の不都合が起こらないよう、密度が理論密度の少なくとも95%になるように選定する」こと(【0026】)が記載されている。
しかしながら、甲第1号証には、欠陥や緻密さにムラがある領域を低減するために、セラミックス粉末の粒径、かさ密度、及び乾燥工程における水分減少速度を制御することは記載されておらず、甲第2~8号証の記載を見ても、このような事項が周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明のセラミックスボールにおいて、「略中心を通る断面をデジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモードで撮影した画像において、RGBカラーモデル各要素全ての値が断面全体の平均値に対して10以上低い低発色領域の面積が、前記断面の断面積の1/50以下」に到達することは、当業者にとって容易想到の事項といえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書及び申立人意見書において、概略、以下のとおり主張している。
本件発明1は「低発色領域」が少ないこと、すなわち「緻密化が不十分な領域」が所定値以下であることを特定しているのに対して、甲第1号証では、理論密度が大きく、かつ内部欠陥の保有率が少ないセラミックス球体を得ることが好ましいことについて開示しており(上記3(1)アの【0008】、同イの【0026】、【0029】)、これらはいずれも、欠陥が少ないことを意味しているから、実質的な相違点ではない。
また仮に、実質的な相違点であるとしても、ジルコニア球体のようなセラミックス成形体の分野において、欠陥をなくして強度を改善すること、特に焼成前の乾燥の条件を調節することによって強度を改善しようとすることは、甲第2~6号証に記載のとおり周知技術であるので、上記相違点は、当業者が容易に想到したものである。
b 申立人の主張の検討
上記(イ)で検討したように、甲第1号証の「内部欠陥の保有率」は、「50倍の光学顕微鏡」で観察された「空孔」のみの割合であるのに対して、本件発明1の「低発色領域の面積」は、光学顕微鏡で観察された「空孔」のみならず、「デジタルマイクロスコープのハイダイナミックレンジモード」で識別し得る「欠陥や緻密さにムラがある領域」をも含む割合であるといえるから、これらは実質的な相違点である。
そして、上記(2)イ(ウ)で検討したように、本件特許明細書には、乾燥工程における水分減少速度のみならず、セラミックス粉末の粒径及びかさ密度を調整することにより、セラミックスボールの低発色領域の面積率を制御可能であることが記載されているから、焼成前の乾燥の条件の調節のみで、セラミックスボールの低発色領域の面積率を本件発明1に特定の範囲に到達し得るとはいえない。
したがって、焼成前の乾燥の条件を調節することによって強度を改善しようとすることが、甲第2~6号証に記載のとおり周知技術であるとしても、本件発明1は、甲第1~8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明2と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記イ(ア)と同じ相違点で相違するから、当該相違点についての判断も上記イ(イ)と同様である。
したがって、本件発明2は、甲1発明であるといえず、また、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明3と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記イ(ア)と同じ相違点で相違するから、当該相違点についての判断も上記イ(イ)と同様である。
したがって、本件発明3は、甲1発明及び甲第2~8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 申立理由3、4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3、4に理由はない。
第5 むすび
以上の検討のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、この請求項に係る本件特許4に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701286