特許異議申立
2024-700765
窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに、窒化ケイ素焼結体の製造方法
- 審判番号
- 2024-700765
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-550660
- 登録番号
- 7437570
- 請求日
- 2024年08月14日
- 審決日
- 2024年11月20日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【異議申立人】福▲崎▼ さおり
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 分類
- P1652.113-Y (C04B) / P1652.121-Y (C04B) / P1652.536-Y (C04B) / P1652.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7437570号発明「窒化ケイ素粉末及びその製造方法、並びに、窒化ケイ素焼結体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7437570号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7437570号の請求項1~9に係る特許(以下、「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、2023年(令和5年)3月14日(優先権主張 令和4年3月31日)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~7に対して、令和6年8月14日に特許異議申立人福崎さおり(当審注:「崎」は「たつさき」である。以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許異議の申立てがされた本件特許1~7に係る本件発明1~7は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末であって、
粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上であり、
粉末全体に対する酸素の質量比率Opが0.3~1.6%であり、
前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下であり、
前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが、下記式(I)を満たす、窒化ケイ素粉末。
Os/Cs≧10 (I)
(但し、前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる。前記質量比率Osは、前記窒化ケイ素粉末をヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を酸素・窒素分析装置で測定して求められる。)
【請求項2】
前記粉末全体に対する前記粉末の内部に含まれる、下記式(II)で求められる炭素の質量比率Ciに対する前記質量比率Csの比が0.6以下である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
Ci[%]=Cp[%]-Cs[%] (II)
【請求項3】
粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.16%以下である、請求項1記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項4】
前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の前記質量比率Osが0.9%以下である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項5】
BET比表面積が10~14m2/gである、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項6】
α率が94%以上である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項7】
ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程と、
前記成形体を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程と、
前記焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件発明1~4、6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
さらに、本件発明5、6は、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許1~6は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証又は甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~6は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明5、6は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、あるいは、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許1~6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(甲第4号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~6は、甲第4号証に記載された発明、及び甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第4号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明、及び甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明5、6は、甲第4号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、あるいは、甲第4号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許1~6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(甲第14号証又は甲第15号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明7は、甲第14号証に記載された発明、及び甲第15号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5) 申立理由5(実施可能要件・サポート要件違反)
本件特許1~6は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が後記3(5)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(6) 証拠方法
甲第1号証 G. KAISER el al., "The Determination of Oxygen in
Si3N4 Powder", Journal of the European Ceramic
Society, 1993年, Vol.11, p.253-262
甲第2号証 柳井知宏他, "炭素蒸着粉末から作製した窒化ケイ素セラミ
ックスの機械的特性", Journal of the Ceramic Society of
Japan, 1993年、Vol.101, No.7, p.764-768
甲第3号証 Shigetaka WADA et al., "Behavior of Oxygen and Carbon
in Ball-Milled Si3N4 Powders during Heat Treatment
and Sintering", Journal of the Ceramic Society of
Japan, 1999年, Vol.107, No.7, p.611-614
甲第4号証 特開平5-193914号公報
甲第5号証 Marcell PEUCKERT et al., "Oxygen distribution in
silicon nitride powders", Journal of Materials
Science, 1987年, Vol.22, p.3717-3720
甲第6号証 特開平8-12306号公報
甲第7号証 特開平11-292522号公報
甲第8号証 特開2000-46474号公報
甲第9号証 特開平5-32405号公報
甲第10号証 Philippe BURGER et al., "Superplastic behavior of
low-doped silicon nitride", Materials Science and
Engineering, 1997年, Vol.A222, p.175-181
甲第11号証 セラミックデータブック '96、平成8年9月16日、工
業製品技術協会(株式会社テクノプラザ)、第84~87
頁
甲第12号証 特開2015-218097号公報
甲第13号証 特開2018-109081号公報
甲第14号証 国際公開第2021/200830号
甲第15号証 特開平7-109110号公報
甲第16号証 JIS R 1603:2007、平成19年6月20日、
日本規格協会
甲第17号証 Rosemount社のCWA5003型ガス分析装置の説明資料、[onli
ne]、[令和6年7月23日検索],インターネット <U
RL:https://shop.labexchange.com/en/rosemount-cwa-50
03.html>
甲第18号証 申立人作成、甲第4号証補足資料、2024年7月23日
2 甲各号証の記載事項について
(1) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「Si3N4粉末中の酸素の定量について」(タイトルの当審訳)に関して、次の事項が記載されている。なお、甲第1号証の記載事項は英語であるが、ここでは当審の訳文で示す。また、下線は当審が付した(以下、同様である。)。
ア 「2.1.1 粉末
水、アルコール、及び水/解膠剤の混合物が酸素の定量に与える影響の研究は、LC12S型Lot No.102/90のSi3N4(H.C.スタルク、ゴスラー、ドイツ)で実施した。個々の酸素含有量を比較するために、異なるメーカーの様々な粉末を使用した(表1)。溶媒として再蒸留水と2-プロパノール、解膠剤としてアミノアルカノールKV5088型(チムメル&シュワルツ、ラーンシュタイン、ドイツ)、焼結用添加物として微粒アルミナAKP30型(住友化学工業、日本)とY2O3微粒グレード(H.C.スタルク、ゴスラー、ドイツ)を使用した。
・・・
[図:0001417666000001.jpg]
」
(第254頁右欄第37行~第255頁)
イ 「2.3 水分の定量
水分の定量には、石英管状炉を備えたガス分析器(CWA5003型、Rosemount Analytical、ハーナウ、ドイツ)を使用した。試料の導入は、Al2O3-SiO2(Pythagoras<R>(当審注:「<R>」はRを丸で囲んだ記号である。); Steinzeugwerke Friedrichsfeld、マンハイム、ドイツ)と石英ボートを用いて行った。粉末試料を石英管状炉で、石英に障害を与えない温度である1000℃以下に加熱することにより、セラミック材料から水分を放出させ、赤外吸収セルで検出した。この方法の感度は、セルの大きさに依存する。利用した分析装置であれば、わずか30μgでも検出可能である。ルーチン分析では、定量限界はボートからのブランク値によって決まる。1000℃のベークアウト処理後でも、平均して約70μgの水分が再取得される。石英ボートを使用した場合、約900℃の加熱を3回繰り返すとブランク値を10μgにすることができる。定量精度が必要な場合は、各分析の前にブランク値を測定する必要がある。分析装置は、CaSO4・2H2O又はLi2SO4・H2Oで校正される。1%以下の相対標準偏差は、1mg以上のレベルで達成することができる。
分析は固定温度で行うことも、温度勾配を使用して、水の蒸発を個別の温度に割り当てることも可能である。これにより、測定された水分の起源について結論を導き出すことができる。2-プロパノール中で摩耗粉砕したSi3N4試料で実証されているように、ほとんどの場合、物理吸着水と化学吸着水は区別できる(図3)。複雑な系(水、アルコール、有機残基)では、個々のピークが重なり合うため、状況はより複雑になる。比較のため、水の定量にカールフィッシャー滴定装置(Metrohm社製、フィルダーシュタット、ドイツ)を使用した場合もある。
Si3N4の分析では、試料重量は0.1~0.2gで、測定する水分量が0.3mg以上になると相対標準偏差は3%以下になることが分かった。
2.4 酸素の定量
酸素の定量には、ガス分析装置(TC436型、Lecoインストルメント社製)を使用した。
今日、キャリアガス高温抽出法は、様々な種類のマトリックス中の酸素を測定するために、最も広く用いられている方法である。この分析方法については、主に金属材料の分析を取り扱った一連の出版物が発行されている9-10。一般に、2つの方法がある。
バス法 - ブランク値を除去するために、黒鉛るつぼと金属添加物を予熱し、融液(バス)を形成させる。試料はこの溶融物に投入される。
フラックス法 - 添加物と試料を一緒にるつぼに投入する。
セラミックスは熱伝導率が低く、高温に耐えることが多いため、分析には困難が伴う。そのため、ほとんどの場合、試料はNi、Sn、Cu、Ptなどの金属添加物を入れた黒鉛るつぼの中で加熱され、試料が溶解し、酸素と黒鉛がよりよく反応してCOになる。フラックス法とバス法の両方が適用できる。試料を添加物と共にるつぼに投入するフラックス法はより好ましい手法である。なぜなら、バス法はブランクの実質的な除去を保証するものの、添加物によっては酸素含有量がかなり低くなることがあるためである11。現在市販されている多くのるつぼの中から、カップ形状タイプ(EK50、Rosemount Analytical、ハーナウ、ドイツ)は、約2900℃という高温を達成できるだめ、セラミックスの分析に特に有利であることが判明している。
本研究で使用した分析装置では、生成したCOは600℃で希土類担体上のCuOによってCO2に酸化され、IR吸収セルで0.5μgまで検出される。相対標準偏差は20~500μgの範囲で1%以下であることが確認された。この分析システムは乾燥固体標準、すなわちZrO2、SiO2、Bi2O3及びCuOを用いて酸素量の校正が行われている。測定結果は標準参照鋼501-553(試薬を参照)とよく比較される。しかし、時々、まだ説明できない異常値が発生することに言及しておく必要がある。」(第255頁右欄12行~第256頁右欄第22行)
ウ 「3.1 市販のSi3N4粉末の特性評価
様々な粉末の酸素含有量に関する情報を得るために、異なる製造方法、異なる調製方法の試料(表1)について、酸素と水分を分析した。調製方法によって濃度が異なっていた。例えば、気相反応させた粉末(GP1)は、酸素含有量が比較的高く(表2)、炭素含有量は比較的低かった(表3)。一方、特に表面酸素濃度を低下させたバッチであるGP2試料では、状況が逆転していた。
・・・
[図:0001417666000002.jpg]
」
(第256頁右欄第24行~第257頁)
エ 「3.2 異なる結合様式に由来する酸素の測定
ほぼ総ての粉末セラミック試料は水分を含んでおり(表2)、少量の水の添加(マイクロシリンジで0.5μlをNiカプセルに分注)により示すことができるように、水分が高温の黒鉛と反応してCOとH2を生成する。高温のるつぼに試料を投入した場合(炉内設定:脱ガス時4.0kW、分析時3.8kW)、添加した水の回収率は90%~94%であることが分かった。脱ガス後、るつぼの温度を50℃程度まで下げた低温るつぼに試料を投入した場合には、添加した水の8~12%しか回収できない(炉内設定:脱ガス時4.0kW、分析時0.5kW[分析低*]~3.8kW[分析高])。後者の場合、高温のグラファイトと反応する前に水分が逃げてしまう。適切な温度設定を行えば、吸着水の大部分を検出して、あるいは検出することなく、試料の酸素分析を行うことが可能である。試料を急速昇温(最大225ユニット/秒、約800℃/秒に相当)しても、又は緩速昇温(最小1ユニット/秒、約4℃/秒に相当)しても、全酸素量に有意な差異は認められなかった。
るつぼの脱ガスの際に、電極炉の上に直接置かれた試料はロック状態にあることに気付いた。この段階で、すでに揮発した成分が熱放射によって一部放出された可能性がある。これは、有機添加物を加えて調製された粉末の分析結果が散らばる理由であると思われる。これは、有機成分が触媒炉に到達し、CO2に酸化されるためと考えられる。
金属添加物を用いずに試料に加熱温度勾配をかけると、その耐熱性に応じて異なる酸化物9や結合の異なる酸素を識別することができる。この技術は、既に、AlN12,13やSi3N413の格子酸素の測定に応用されている。この方法では、試料(5~10mg)を黒鉛粉(約100mg)と混合し、試料と黒鉛の接触を良くする。もちろん、この手順ではブランク値も考慮しなければならない。しかし、個々の酸素成分の定量は、直線的な温度勾配の場合、ピークの分解能が非常に悪いという問題がある。これに対して、階段状の勾配を使用すると、ピークの分解能を向上させることができる(図5)。しかしながら、このモードでは、炉の出力設定が重要なポイントになる。格子酸素を発生させるための出力設定は、窒素の発生と相関があるが(図6)、同じロットのるつぼでも熱伝導率が同じではないため、温度が変化し、再現性のない結果になるので、定量化には問題がある。以下のような出力設定を適用して、温度維持モードでの測定に緩やかな直線的勾配を使用した場合に、最良の結果が得られた;脱ガス電流値810A(約4.0kW);分析時低電流値250A(約0.5kW);緩やかな出力増加3ユニット/秒、ここで信号曲線の傾斜が所定の変化率に達すると緩やかな直線的勾配加熱を停止し、ピークの変曲点に達した後に再び昇温を開始した(Leco TC436の温度維持モード;電気炉設定:脱ガス電流値810A(約4.0kW);分析時:約0.5kWに続いて緩やかな出力増加3ユニット/秒*を適用した)。
表4は、いくつかのSi3N4粉末について、異なる結合を持つ酸素の分布をまとめたものである。この実験結果は、ただ考察の方向付けのための補助として考慮される。場合によっては、相対的な標準偏差が20%に達することもある。この実験結果は、ばらつきが大きいにもかかわらず、試料の起源と処理方法に関する示唆を与えている。異なる温度処理を施した試料6と7(試料6:0.1MPaの窒素圧力下1800℃で10時間;試料7:空気中1000℃で1時間アニールした後、0.1MPaの窒素圧力下1800℃で10時間)14は、出発物質と比較して格子酸素の割合が高く、酸化物の割合(全酸素量)が低くなっている。両者から同様のエボログラムが得られている(図7)。GP1とGP2の格子酸素量はほぼ同じであり、GP2は還元処理を施しているため、表面酸素量が異なることが予想された。しかしながら、このように、格子酸素量も影響を受けていた。
・・・
[図:0001417666000003.jpg]
」(第257頁左欄第9行~第259頁左欄)
(2) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「炭素蒸着粉末から作製した窒化ケイ素セラミックスの機械的特性」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「2.1 炭素蒸着粉末の作製
出発原料として,イミド熱分解法で製造された宇部興産製のα-Si3N4粉末(SN-E10グレード,平均粒径:0.3μm)を使用した.粉末は焼結助剤との混合に先立ち,表面にメタン(CH4)ガスの熱分解を利用して炭素蒸着を行った.粉末の処理方法は出発原料粉末を耐熱濾紙(当審注:「濾」は異体字である。)に充填して雰囲気炉に入れ,真空ポンプで数千Paまで真空引きした後,アルゴンガス(Ar)で置換し,ArとCH4の混合ガス中で炭素膜を蒸着させた.処理条件は,Arを7.0×10-4m3/min,CH4を3.0×10-4m3/minの流量で800℃の温度で行い,炭素蒸着量は保持時間を0~8時間の間で調節して行った.炭素量は燃焼式の炭素量測定装置で測定した.保持時間と蒸着量の関係は図1に示すようにほぼ比例し,1時間当たり約0.09wt%/hの割合で蒸着でき,本実験では最大0.8wt%の炭素を蒸着させた.なお,出発原料中には0.06wt%の炭素が含まれていた.」(第765頁左欄第4~19行)
イ 「3.1 炭素蒸着粉末の特性
Si3N4粉末は,炭素蒸着量の増加に伴い白色から黒色に変化し,炭素蒸着されたことが確認された.X線回折から原料粉末はα-Si3N4相から成り,他の不純物相は確認出来なかった.一方,炭素蒸着粉末では蒸着した炭素のグラファイトの(0002)ピークとSi3N4の(2020)ピークは26.4°で重なるため,このピークの強度変化から微量の蒸着炭素の同定は困難であり,実際,炭素蒸着前後で26.4°のピークの強度変化はほとんど認められなかった.したがって,蒸着炭素膜はアモルファス状か非常に薄い膜状で存在することは示唆されるが,詳しい状態は不明であった.そこで蒸着した炭素の状態を確認するため,TEMによりSi3N4粒子表面の炭素膜の観察を行った.図2に炭素蒸着α-Si3N4粉末のTEM写真を示す.粒内にはα-Si3N4の(10-10)面に相当する0.67nmの格子縞が観察されるが,粒子表面に3~5nmの厚さで図中に"A","B"と示すように二つの異なるコントラストの領域が認められる.A領域では格縞は観察されず,また,未蒸着粉末でも認められたことから,Si3N4粒子表面の酸化膜層,例えばSiO2であると考えられ,約1~2nmの厚さのアモルファス状である.B領域は炭素状着した粉末において観察され,薄いコントラストであるがグラファイトの(0002)面に相当する0.34nmの格子縞が認められることから,B領域は蒸着炭素膜であると考えられる.したがって,蒸着した炭素はSi3N4粒子表面に極めて薄い,約1~3nmの厚さで存在していることが分かった.」(第765頁右欄第15行~第766頁左欄第4行)
(3) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「ボールミル粉砕したSi3N4粉末の熱処理及び焼結時における酸素とカーボンの挙動」(和文タイトル)に関して、次の事項が記載されている。なお、甲第3号証の記載事項は英語であるが、ここでは当審の訳文で示す。
ア 「2.1 粉末及び粉末調製
市販の窒化ケイ素粉末として、DW、TX及びE10の3種類を使用した。DWとTX(信越化学工業製)は金属シリコンの窒化によって製造されたものである。E10(宇部興産製)はシリコンジイミドの熱分解により製造されたものである。DWは窒化、粉砕の後に、酸で洗浄して、精製されたものである。各粉末のα相の含有率は、DW、TX及びE10で、それぞれ91、92及び95(%)であった。
原料粉末3種と同じ焼結助剤を添加した粉末3種の計6種類の粉末を、エタノールを媒体としてボールミルで100時間混合した。ミルとボールは共に窒化ケイ素製のものを使用した。焼結助剤としては、6質量%のY2O3(RUグレード、信越化学工業株式会社製)と3質量%のAl2O3(AL-160-SGグレード、昭和電工株式会社製)を使用した。」(第611頁左欄第25~40行)
イ 「2.3 測定と解析
ボールミル粉砕前後の粉末の平均粒子径と比表面積は、堀場製作所製レーザー散乱式分析装置LA-910で測定した。粉砕粉末中の吸着ガスは、熱重量分析(TG)の機能を有するフーリエ変換赤外(FT-IR)分光光度計(JEOL製JIR-100)を用いて、室温から1200℃まで測定した。酸素含有量と炭素含有量は、堀場製作所製EMGA-650を使用して、ガス分析装置(不活性ガス溶融法)で測定した。
2.4 酸素分析のための加熱工程制御法
窒化ケイ素粉末の表面状態や酸素分布は、通常、X線光電子分光法(XPS)によって分析された7)-10)。
また、Si3N4粉末の表面状態を分析するために昇温脱離(TPD)分光法が適用された11),12)。ガス分析器を用いて、表面又はバルクに結合した酸素も測定された13)。酸素含有量の増加が窒化ケイ素粉末の表面に関連していることを確認するために、参考文献13)で報告されている方法と同様の酸素分析のための加熱工程制御法を行った。
加熱工程制御法による測定手順は以下のとおりである。以下の手順で行った実験チャートを図2に示す。
(1) 試料の温度を約1000℃まで急速に上昇させる。脱離した酸素量は約10秒で最大に達し、30秒後には非常に低いレベルまで減少する。この最初のステップで脱離した酸素は「表面1」と名付けられ、吸着水に由来すると考えられる。
(2) 約3℃/sの昇温速度で昇温する。再び、酸素が脱離する。この第2工程で脱離した酸素には、「表面2」の酸素と「バルク」の酸素が含まれる。「表面2」の酸素は、酸化されたSi3N4に由来すると考えられる。約1200~1300℃において、Si3N4粒子の表面に由来する窒素が検出され始める。窒素が検出され始めると、温度を一定に保持する。窒素濃度と酸素濃度は、保持開始から100秒以内に最大値を示し、その後減少する。予備実験の結果に基づき、保持温度は、温度保持における窒素ピークの面積が第3工程で検出された窒素ピークの面積とほぼ等しくなるように決定される。
(3) 第2工程での窒素量が最大値の半分以下になったら、再び約4℃/sの昇温速度で2000℃以上まで昇温する(第3工程)。酸素と窒素の脱離が終了すると、測定を停止する。
工程(3)における窒素ピークに対する酸素のピーク面積比は、窒素に対する「バルク」酸素の含有量比であると考えられ、表面の影響はない。したがって、第2工程における「バルク」酸素の量は、第3工程における「バルク」酸素対窒素の比と、第2及び第3工程における窒素のピーク面積とから計算される。このようにして、「表面2」の酸素の量は、第2工程での全酸素量から第2工程での「バルク」酸素の計算値を差し引いた量に等しくなる。」(第611頁右欄13行~第612頁右欄第19行)
ウ 「3.1 ボールミル粉砕中の酸素と炭素の増加
ボールミル粉砕前後における平均粒子径、比表面積、酸素含有量、炭素含有量を表1に示す。DW-100は、無添加のDW粉末を100時間ボールミル粉砕したことを意味する。DWYA100は添加物を含むことを意味する。
100時間のミル粉砕により、平均粒子径は 0.6~0.9μmから0.2~0.3μmに減少した。DW-100、DWYA100及びE10-100の比表面積は30m2/g以上に増加した。TX粉末は、他の2つの粉末に比べてほとんど破潰されなかった。E10-100の粒子径が小さく(0.17μm)、比表面積が大きい(36.4m2/g)のに比べて、E10YA100の粒子径が大きく(0.2μm)、比表面積が小さい(22.0m2/g)ことの理由は、窒化ケイ素ミルのアクシデントにより、ミル容器としてポリエチレン瓶(窒化ケイ素ミルではない)を使用して、E10YA100が混合されたことによるものである。
6質量%Y2O3と3質量%Al2O3から計算される酸素含有量は2.7質量%である。したがって、6つの粉末の酸素含有量の増加は、DW-100、DWYA100、TX-100、TX-YA100、E10-100、及びE10YA100について、それぞれ1.3、1.4、1.4、1.8、1.3、及び1.6(質量%)である。これらの値から、酸素の増加分は使用する粉末の種類に影響されないことが分かる。添加物入り粉末の増加分は無添加のものより少し大きいが、その理由は明らかではない。
[図:0001417666000004.jpg]
・・・
2.4項で詳しく説明した加熱工程制御法の実験結果を図3に示す。3つの原料粉末における全酸素量(「表面1」+「表面2」+「バルク」)対する「表面1」+「表面2」の割合は、DW、TX、及びE10について、それぞれ35.9、56.6、及び61.6(%)である。粉砕後に酸洗浄したDWの表面酸素比率は明らかに小さい。E10の表面酸素比率はKaiserとSchubertにより報告された値とほぼ同じである13)。図3に見られるように、ボールミル粉砕中のE10-100の酸素量増加は、主に「表面2」の酸素の増加として考えられる。」(第612頁右欄第21行~第613頁左欄第24行)
(4) 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、「窒化ケイ素粉末およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 X線光電子分光(XPS)より求められる表面ケイ素[Si]のうち、SiO2に帰属されるケイ素[ Si*]の割合が原子比[ Si*/Si]で0.07~0.50の範囲にあり、かつ、同じくXPSより求められる表面炭素[C ]がケイ素に対して原子比[ C/Si]で0.20以下であることを特徴とする窒化ケイ素粉末。」
イ 「【0019】
【実施例】以下、この発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0020】表1に示すα結晶化率96.0%、平均粒径 0.5μmのイミド分解法により作られた窒化ケイ素粉末を、大気中 700~ 950℃の温度で10分~5時間処理して表2の特性を有する窒化ケイ素粉末を得た。
【0021】なお、表1及び表2における表面酸素(atomic%)は、XPSにより測定を行なった。
【0022】
【表1】
[図:0001417666000005.jpg]
【0023】
【表2】
[図:0001417666000006.jpg]
【0024】次にこの窒化ケイ素粉末92重量部に焼結助剤として平均粒径 0.7μmのY2O3を5重量部と、平均粒径 0.4μmのAl2O3 を3重量部を添加し、エタノール中で超音波を照射しながら5時間攪拌混合した後、乾燥し得られた混合粉末を 130×65×6mm 形状に金型成形し、次いで3000kg/cm2でCIP成形した。この成形体をN2ガス中1720℃にて5時間焼成し、一次焼結体を得た。この一次焼結体より試験片を20本切り出しアルキメデス法により相対密度を求め、次いで、1720℃,1000気圧のN2中にて3時間HIP処理し二次焼結を行ない、相対密度及びJIS R1601に準拠した4点曲げ試験を行なった。測定結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
[図:0001417666000007.jpg]
【0026】表3に示すように、本発明の実施例に係る窒化ケイ素粉末を使用して得られた窒化ケイ素焼結体は、比較例のものに比べ高強度かつ強度のバラツキが小さいのがわかる。」
(5) 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、「窒化ケイ素粉末」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
「【0020】
【実施例】以下に本発明の実施例を比較例と共に挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0021】実施例1~16及び比較例1~7
下記の製造方法(イミド分解法)及び下記〔表1〕に示す製造条件により、窒化ケイ素粉末をそれぞれ製造した。得られた窒化ケイ素粉末の粉末特性を下記〔表2〕及び〔表3〕に示す。
・・・
【0025】
【表2】
[図:0001417666000008.jpg]
【0026】
【表3】
[図:0001417666000009.jpg]
」
(6) 甲第14号証の記載事項
甲第14号証には、「窒化ケイ素粉末、及び窒化ケイ素焼結体の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「[請求項1] 比表面積に対する表面酸素量の比が0.02~0.09%/m2g-1である、窒化ケイ素粉末。」
イ 「[0021] 上述の窒化ケイ素粉末は、例えば、以下のような方法で製造することができる。窒化ケイ素粉末の製造方法の一実施形態は、ケイ素粉末を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種とを含む雰囲気下で焼成して焼成物を得る工程(以下、焼成工程ともいう)と、上記焼成物を粉砕して粉砕物を得る工程(以下、粉砕工程ともいう)と、上記粉砕物を酸で処理する工程(以下、酸処理工程ともいう)と、を有する。
・・・
[0024] ケイ素粉末は、市販の物を用いることもでき、別途調製したものを用いてもよい。ケイ素粉末の酸素量が高い場合には、例えば、フッ化水素酸を含む前処理液を用いて、ケイ素粉末に結合する酸素量を低減することができる。つまり、上記窒化ケイ素粉末の製造方法は、フッ化水素酸を含む前処理液を用いてケイ素粉末を前処理し、酸素量が0.40質量%以下であるケイ素粉末を得る前処理工程を更に有していてもよい。」
ウ 「[0047] (実施例1)
<窒化ケイ素粉末の調製>
市販のケイ素粉末(比表面積:3.0m2/g)を、60℃に温度調整した、塩化水素及びフッ化水素を含む混酸中に浸漬して、60℃で2時間、前処理を施した。上記混酸は、市販の塩酸(濃度:35質量%)とフッ化水素酸(濃度:55質量%)とを、10:1の質量比で混合したものを用いた。その後、混酸からケイ素粉末を取り出して水で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥した。
[0048] 乾燥後のケイ素粉末を用いて成形体(嵩密度:1.4g/cm3)を作製した。得られた成形体を電気炉内に静置し、1400℃で60時間かけて焼成し窒化ケイ素を含む焼成体を作製した。焼成時の雰囲気として、窒素と水素との混合ガス(N2とH2とを標準状態における体積比で80:20となるように混合した混合ガス)を供給した。得られた焼成体を粗粉砕した後、ボールミルで湿式粉砕した。湿式粉砕は、容器に対するボールの充填率を70体積%とし、溶媒として水を用い、粉砕時間を9時間とした。得られた粉砕物の酸素量は5.0質量%であった。
[0049] 湿式粉砕して得られた粉砕物を、温度70℃のフッ化水素酸(フッ化水素酸濃度:30質量%)中に4時間浸漬して酸処理した。その後、フッ化水素酸から粉砕物を取り出して水で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥した。こうして窒化ケイ素粉末を得た。」
(7) 甲第15号証の記載事項
甲第15号証には、「窒化ケイ素の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、易粉砕性の窒化ケイ素の安価な製造方法に関する。」
イ 「【0027】
【実施例】以下、本発明を実施例と比較例を挙げて具体的に示す。
【0028】実施例1~4 比較例1~6
市販の高純度金属シリコン粉末に各種の処理を行って表1に示す酸素含有量にした。この金属シリコン粉末100重量部に骨材として窒化ケイ素粉末(電気化学工業社製商品名「SN-9FW」)25重量部を配合し、ボールミルで混合して窒化原料とした。
【0029】この窒化原料粉末を表1に示す嵩密度を持つように以下の方法で成形した。すなわち、実施例1と比較例1~2では、窒化原料粉末の50重量%スラリー水溶液を窒素ガス中でスプレードライヤーを用いて造粒し乾燥・脱脂後、粒径100μm以下のものを1kg捕集し16×16cmの窒化ケイ素製容器に厚さ6cmに充填した。実施例2~3及び比較例4では、窒化原料粉末1kgをそのまま16×16cmの窒化ケイ素製容器に入れた。この場合、厚さは5cmとなった。実施例4及び比較例5では、窒化原料粉末を16×16cmの木枠に入れ、厚さ4cmに手押し成形後窒化ケイ素製板の上に置いた。比較例3では、窒化原料粉末100重量部と0.5重量%ポバール水溶液10重量部との混合物を16×16×2.5cmに金型プレスして窒化ケイ素製板の上に置いた。
【0030】これらの窒化原料を窒化炉に入れ、真空排気後窒素ガスで置換してから昇温を開始した。温度1000℃からは昇温速度10℃/hrとして反応速度及びその増加分を調節しながら窒化を終えた。
【0031】反応速度は、窒化炉の入口と出口において積算ガス流量計により窒素ガス量を5分間毎に測定し、その差を消費ガス量として算出された金属シリコンの消費重量から求めた。反応速度及び窒化率50%未満における反応速度の増加分の制御は、反応速度を小さく又は反応速度の増加分を小さくしたいときには、昇温を止めアルゴンガスを供給し、逆に反応速度を大きく又は反応速度の増加分を大きくしたいときには、昇温をしながら窒素ガスを供給した。最大反応速度、窒化率10~90%における最小反応速度、窒化率50%未満における反応速度の増加分の最大値、及び反応時間を表1に示す。
【0032】
【表1】
[図:0001417666000010.jpg]
(注)反応速度の最大値は窒化率0~100%における最大値である。反応速度の最小値は窒化率10~90%における最小値である。反応速度の最大増加分は窒化率50%未満における最大値である。
【0033】窒化率が100%に達してから窒素ガスを流しながら室温まで放冷し合成したインゴットを取り出した。それを窒化ケイ素製乳鉢で0.15mm以下に粗・中砕した後、窒化ケイ素製ボールを用いたボールミルで、粉砕助剤としてn-ブチルアミンを2重量%添加し、窒素雰囲気下、8時間粉砕して窒化ケイ素粉末を製造した。得られた窒化ケイ素粉末について、酸素含有量、比表面積、α化率及び残留粗大粒子を以下に従って測定した。それらの結果を表2に示す。」
3 当審の判断
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、前記2(1)ア、ウ及びエによれば、H.C.スタルク社製LC12S型Si3N4粉末や異なるメーカーの様々なSi3N4粉末について、純粉末や処理後粉末の炭素含有量(表3)及び酸素含有量(表4)が記載され、酸素含有量は、ガス分析装置で定量したことも記載されている。
これらの記載を「試料番号1」の「LC12S型Si3N4粉末」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「高周波炉での炭素含有量が0.16重量%、管状炉での炭素含有量が0.033重量%であり、ガス分析装置で定量した、表面酸素含有量が1.10重量%、格子間酸素含有量が0.28重量%、全酸素含有量が1.50重量%である、LC12S型Si3N4粉末。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「LC12S型Si3N4粉末」は、「高周波炉での炭素含有量が0.16重量%、管状炉での炭素含有量が0.033重量%」であり、炭素を含有しているから、本件発明1の「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」に相当する。
また、甲1発明の「高周波炉での炭素含有量」、「管状炉での炭素含有量」、「表面酸素含有量」、「格子間酸素含有量」、及び「全酸素含有量」は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0072】~【0074】に記載された炭素の質量比率又は酸素の質量比率の測定方法で測定された数値を示していることが明らかでないため、本件発明1の「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cp」、「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」、「前記粉末全体に対する酸素の質量比率Op」、及び「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Os」との対応関係は不明である。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1-1)
本件発明1は、「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上」であるのに対して、甲1発明は、「高周波炉での炭素含有量が0.16重量%、管状炉での炭素含有量が0.033重量%」であるが、前記質量比率Cpに対応する数値は明らかでない点。
(相違点1-2)
本件発明1は、「粉末全体に対する酸素の質量比率Opが0.3~1.6%」であるのに対して、甲1発明は、「ガス分析装置で定量した」、「全酸素含有量が1.50重量%」であるが、前記質量比率Opに対応する数値は明らかでない点。
(相違点1-3)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下」であり、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであるのに対して、甲1発明は、「高周波炉での炭素含有量が0.16重量%、管状炉での炭素含有量が0.033重量%」であるが、前記質量比率Csに対応する数値は明らかでない点。
(相違点1-4)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが」、「Os/Cs≧10(I)」を満たし、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであり、「前記質量比率Osは、前記窒化ケイ素粉末をヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を酸素・窒素分析装置で測定して求められる」ものであるのに対して、甲1発明は、「高周波炉での炭素含有量が0.16重量%、管状炉での炭素含有量が0.033重量%」であり、「ガス分析装置で定量した、表面酸素含有量が1.10重量%」であるが、前記質量比率Csや前記質量比率Osに対応する数値は明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、まず相違点1-3から検討する。
最初に、相違点1-3が実質的なものであるかを検討する。
甲第1号証には、「高周波での炭素含有量」及び「管状炉での炭素含有量」の具体的な測定方法は記載されておらず、当該炭素含有量のいずれかが、本件発明1の「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」であることも記載されていないし、また、このようなことが技術常識であることを示す証拠もない。
よって、相違点1-3は実質的な相違点である。
次に、甲1発明において、相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることの容易想到性について検討する。
窒化ケイ素粉末において、「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」を0.05%以下とすることは、甲第2号証~甲第17号証のいずれにも記載されておらず、このようなことが周知慣用技術であるといえない。
したがって、甲1発明において、相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第27頁第35行~第29頁第9行において、甲第1号証に記載されたCWA5003型ガス分析器は、種々の形態の炭素を分析できること、及び、JIS R 1603:2007(甲第16号証)の記載を根拠にして、甲1発明の「管状炉での炭素含有量」は、「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」に相当する旨を主張している。
しかしながら、本件発明1の「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」は、「前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであるところ、甲第1号証に記載されたCWA5003型ガス分析器が種々の形態の炭素を分析できることは、甲1発明の「管状炉での炭素含有量」が前記質量比率Csであることを裏付けるものでないし、また、JIS R 1603:2007(甲第16号証)には、甲1発明の「管状炉での炭素含有量」が前記質量比率Csに相当することは記載されていない。
したがって、甲1発明の「管状炉での炭素含有量」は、本件発明1の「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」であるといえないから、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、あるいは、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 申立理由1についての結論
以上の検討のとおり、申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(甲第2号証又は甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第2号証、甲第3号証に記載された発明
(ア) 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、前記2(2)アによれば、イミド熱分解法で製造された宇部興産製SN-E10グレードのα-Si3N4粉末中に0.06wt%の炭素が含まれていたことが記載されている。
そうすると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「0.06wt%の炭素が含まれている、SN-E10グレードのα-Si3N4粉末。」
(イ) 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、前記2(3)ア~ウによれば、信越化学工業製のDW及びTX窒化ケイ素粉末、宇部興産製のE10窒化ケイ素粉末について、それぞれ、ガス分析装置で測定された炭素含有量が、0.11重量%、0.20重量%、0.09重量%であり、酸素含有量が1.1質量%、1.5質量%、1.0質量%であること(表1の「DW」、「TX」、「E10」参照)、並びに、加熱工程制御法で測定された全酸素量に対する表面酸素の割合が35.9%、56.6%、61.6%であることが記載されている。
これらの記載を「E10窒化ケイ素粉末」に注目して整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「ガス分析装置で測定された炭素含有量が0.09重量%、ガス分析装置で測定された酸素含有量が1.0重量%、及び加熱工程制御法で測定された全酸素量に対する表面酸素の割合が61.6%である、E10窒化ケイ素粉末。」
イ 本件発明1について
(ア) 甲第2号証を主たる証拠とした場合
a 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「SN-E10グレードのα-Si3N4粉末」は、「0.06wt%の炭素が含まれている」から、本件発明1の「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」に相当する。
また、甲2発明の炭素含有量は、本件特許明細書の【0072】~【0073】に記載された炭素の質量比率の測定方法で測定された数値を示していることが明らかでないため、本件発明1の「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cp」、及び「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」との対応関係は不明である。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点2-1)
本件発明1は、「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上」であるのに対して、甲2発明は、「0.06wt%の炭素が含まれている」が、前記質量比率Cpに対応する数値は明らかでない点。
(相違点2-2)
本件発明1は、「粉末全体に対する酸素の質量比率Opが0.3~1.6%」であるのに対して、甲2発明は、その点が明らかでない点。
(相違点2-3)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下」であり、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであるのに対して、甲2発明は、「0.06wt%の炭素が含まれている」が、前記質量比率Csに対応する数値は明らかでない点。
(相違点2-4)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが」、「Os/Cs≧10(I)」を満たし、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであり、「前記質量比率Osは、前記窒化ケイ素粉末をヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を酸素・窒素分析装置で測定して求められる」ものであるのに対して、甲2発明は、「0.06wt%の炭素が含まれている」が、前記質量比率Cs及び前記質量比率Osに対応する数値は明らかでない点。
b 相違点の検討
事案に鑑み、まず相違点2-3から検討する。
甲第3号証には、前記ア(イ)のとおり、「E10窒化ケイ素粉末」の発明が記載され、また、甲第1号証には、前記(1)アのとおり、「LC12S型Si3N4粉末」の発明が記載されているが、甲第3号証及び甲第1号証のいずれにも、窒化ケイ素粉末において、「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」を0.05%以下とすることは、記載も示唆もされていない。
また、このようなことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。
したがって、甲2発明において、相違点2-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。
c 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第34頁第5行~第36頁第6行において、甲第2号証には、SN-E10グレードのα-Si3N4粉末に炭素蒸着した炭素蒸着α-Si3N4粉末について、「A領域では格縞は観察されず,また,未蒸着粉末でも認められたことから,Si3N4粒子表面の酸化膜層,例えばSiO2であると考えられ,約1~2nmの厚さのアモルファス状である」こと、「B領域は炭素状着した粉末において観察され,薄いコントラストであるがグラファイトの(0002)面に相当する0.34nmの格子縞が認められることから,B領域は蒸着炭素膜であると考えられる」こと、「したがって,蒸着した炭素はSi3N4粒子表面に極めて薄い,約1~3nmの厚さで存在していることが分かった」ことが記載されていること(前記2(2)イ参照)を根拠にして、炭素蒸着α-Si3N4粉末に含まれる炭素の大部分は、粉末内部に含まれており、表面部に含まれる炭素は極めて微量であるから、粉末内部に含まれる炭素の質量比率が0.04wt%と仮定すれば、粉末表面に含まれる炭素の質量比率は0.044wt%となり、本件発明1の「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下」であることを満足する旨を主張している。
しかしながら、当該主張における、粉末表面に含まれる炭素の質量比率は、仮定に基づく数値であるし、そもそも、この粉末表面に含まれる炭素の質量比率が、本件発明1の「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」であることを示す証拠はないから、申立人の上記主張は採用できない。
d 小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 甲第3号証を主たる証拠とした場合
a 本件発明1と甲3発明との対比
甲3発明の「E10窒化ケイ素粉末」は、「炭素含有量が0.09重量%」であり、炭素が含まれていることから、本件発明1の「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」に相当する。
また、甲3発明の「ガス分析装置で測定された炭素含有量」、「ガス分析装置で測定された酸素含有量」は、本件特許明細書の【0072】~【0074】に記載された炭素の質量比率又は酸素の質量比率の測定方法で測定された数値を示していることが明らかでないため、本件発明1の「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cp」、「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」、「前記粉末全体に対する酸素の質量比率Op」、及び「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Os」との対応関係は不明である。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点3-1)
本件発明1は、「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上」であるのに対して、甲3発明は、「ガス分析装置で測定された炭素含有量が0.09重量%」であるが、前記質量比率Cpに対応する数値は明らかでない点。
(相違点3-2)
本件発明1は、「粉末全体に対する酸素の質量比率Opが0.3~1.6%」であるのに対して、甲3発明は、「ガス分析装置で測定された酸素含有量が1.0重量%」であるが、前記質量比率Opに対応する数値は明らかでない点。
(相違点3-3)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下」であり、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであるのに対して、甲3発明は、「ガス分析装置で測定された炭素含有量が0.09重量%」であるが、前記質量比率Csに対応する数値は明らかでない点。
(相違点3-4)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが」、「Os/Cs≧10(I)」を満たし、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであり、「前記質量比率Osは、前記窒化ケイ素粉末をヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を酸素・窒素分析装置で測定して求められる」ものであるのに対して、甲3発明は、「ガス分析装置で測定された炭素含有量が0.09重量%、ガス分析装置で測定された酸素含有量が1.0重量%、及び加熱工程制御法で測定された全酸素量に対する表面酸素の割合が61.6%である」が、前記質量比率Cs及び前記質量比率Osに対応する数値は明らかでない点。
b 相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点3-3を検討すると、前記(ア)bで検討したのと同様な理由により、甲3発明において、相違点3-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。
c 小括
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立理由2についての結論
以上の検討のとおり、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(甲第4号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、前記2(4)アによれば、X線光電子分光(XPS)より求められる表面ケイ素[Si]のうち、SiO2に帰属されるケイ素[Si*]の割合が原子比[Si*/Si]で0.07~0.50の範囲にあり、かつ、同じくXPSより求められる表面炭素[C]がケイ素に対して原子比[C/Si]で0.20以下である窒化ケイ素粉末について記載されており、実施例には、前記2(4)イによれば、前記窒化ケイ素粉末の具体例が、酸素含有量と、XPSにより測定した表面酸素と共に記載されている。
これらの記載を、実施例における「本発明2」の「窒化ケイ素粉末」に注目して整理すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲4発明)
「X線光電子分光(XPS)より求められる表面ケイ素[Si]のうち、SiO2に帰属されるケイ素[Si*]の割合が原子比[Si*/Si]で0.11であり、かつ、同じくXPSより求められる表面炭素[C]がケイ素に対して原子比[C/Si]で0.07であり、酸素含有量が1.4重量%であり、XPSにより測定した表面酸素が25.0atomic%である窒化ケイ素粉末。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の「窒化ケイ素粉末」は、「XPSより求められる表面炭素[C]がケイ素に対して原子比[C/Si]で0.07」であり、炭素を含有していることから、本件発明1の「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」に相当する。
また、甲4発明の「酸素含有量」及び「表面酸素」は、本件特許明細書の【0074】に記載された酸素の質量比率の測定方法で測定された数値を示していることが明らかでないため、本件発明1の「前記粉末全体に対する酸素の質量比率Op」、及び「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Os」との対応関係は不明である。
したがって、本件発明1と甲4発明とは、「窒化ケイ素及び炭素を含む窒化ケイ素粉末」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点4-1)
本件発明1は、「粉末全体に対する前記炭素の質量比率Cpが0.05%以上」であるのに対して、甲4発明は、「XPSより求められる表面炭素[C]がケイ素に対して原子比[C/Si]で0.07」であるが、前記質量比率Cpは明らかでない点。
(相違点4-2)
本件発明1は、「粉末全体に対する酸素の質量比率Opが0.3~1.6%」であるのに対して、甲4発明は、「酸素含有量が1.4重量%」であるが、前記質量比率Opに対応する数値は明らかでない点。
(相違点4-3)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下」であり、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであるのに対して、甲4発明は、「XPSより求められる表面炭素[C]がケイ素に対して原子比[C/Si]で0.07」であるが、前記質量比率Csは明らかでない点。
(相違点4-4)
本件発明1は、「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の質量比率Osと、前記質量比率Csとが」、「Os/Cs≧10(I)」を満たし、「前記質量比率Csは、前記窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」ものであり、「前記質量比率Osは、前記窒化ケイ素粉末をヘリウムガスの雰囲気中、8℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで加熱し、窒素が検出される前までの酸素量を酸素・窒素分析装置で測定して求められる」ものであるのに対して、甲4発明は、「XPSより求められる表面炭素[C]がケイ素に対して原子比[C/Si]で0.07」であり、「XPSにより測定した表面酸素が25.0atomic%」であるが、前記質量比率Os及び前記質量比率Csに対応する数値は明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、まず相違点4-3について検討する。
甲第1号証、甲第3号証及び甲第6号証には、前記2(1)、(3)及び(5)によれば、窒化ケイ素粉末に関する事項が記載されているが、窒化ケイ素粉末において、「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」を0.05%以下とすることは、記載も示唆もされていない。
また、このようなことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。
したがって、甲4発明において、相違点4-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第38頁第18行~第40頁上段、第50頁第1行~第54頁第6行において、甲4発明の[Si*/Si]、「C/Si」、酸素含有量、及び表面酸素濃度から、窒化ケイ素粉末の表面部における炭素/酸素/窒素/ケイ素の原子比率を算出した上で、甲第3号証及び甲第6号証に記載された窒化ケイ素粉末の比表面積、炭素含有量、酸素含有量、及び表面酸素含有量の各数値を使用して、表面炭素量を算出した上で、当該表面炭素量が、本件発明1の「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csが0.05%以下」であることを満足する旨を主張している。
しかしながら、甲4発明と、甲第3号証及び甲第6号証の記載から算出された窒化ケイ素粉末の表面炭素量が、本件発明1の「窒化ケイ素粉末を大気雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持し、その間に生成する一酸化炭素及び二酸化炭素を赤外線検出器で検出して求められる」「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」であることを示す証拠はないから、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立理由3についての結論
以上の検討のとおり、申立理由3に理由はない。
(4) 申立理由4(甲第14号証又は甲15号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第14号証、甲第15号証に記載された発明
(ア) 甲第14号証に記載された発明
甲第14号証には、前記2(6)ア及びイによれば、比表面積に対する表面酸素量の比が0.02~0.09%/m2g-1である窒化ケイ素粉末の製造方法について、フッ化水素酸を含む前処理液を用いてケイ素粉末を前処理する前処理工程と、当該ケイ素粉末を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種とを含む雰囲気下で焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、上記粉砕物を酸で処理する酸処理工程を有することが記載されている。そして、前記2(6)ウによれば、実施例1には、前記窒化ケイ素粉末の製造方法の具体例が記載されている。
これらの記載を、実施例1の「窒化ケイ素粉末の製造方法」に注目して整理すると、甲第14号証には、次の発明(以下、「甲14発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲14発明)
「市販のケイ素粉末を、60℃に温度調整した、塩化水素及びフッ化水素を含む混酸中に浸漬して、60℃で2時間、前処理を施し、その後、混酸からケイ素粉末を取り出して水で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥して、ケイ素粉末を得る前処理工程と、前処理したケイ素粉末を用いて、嵩密度が1.4g/cm3の成形体を作製し、得られた成形体を電気炉内に静置し、窒素と酸素が体積比で80:20となるように混合した混合ガス雰囲気中で、1400℃で60時間かけて焼成し、窒化ケイ素を含む焼成体を得る焼成工程と、得られた焼成体を粗粉砕した後、ボールミルで9時間の湿式粉砕をして、粉砕物を得る粉砕工程と、得られた粉砕物を、温度70℃のフッ化水素酸中に4時間浸漬して酸処理し、その後、フッ化水素酸から粉砕物を取り出して水で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥する酸処理工程とを有する、窒化ケイ素粉末の製造方法。」
(イ) 甲第15号証に記載された発明
甲第15号証には、前記2(7)アによれば、易粉砕性の窒化ケイ素の安価な製造方法が記載されている。そして、実施例には、前記2(7)イによれば、当該製造方法に関する実施例1~4及び比較例1~4としての具体例が記載されている。
これらの記載を、比較例3の「窒化ケイ素粉末を製造する方法」に注目して整理すると、甲第15号証には、次の発明(以下、「甲15発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲15発明)
「酸素含有量が0.3%の金属シリコン粉末100重量部に、骨材として窒化ケイ素粉末25重量部を配合し、ボールミルで混合して窒化原料とし、窒化原料粉末100重量部と0.5重量%ポバール水溶液10重量部との混合物を金型プレスにて、嵩密度が1.56g/cm3に成形し、成形した窒化原料を窒化炉に入れ、真空排気後窒素ガスで置換してから昇温を開始し、温度1000℃からは昇温速度10℃/hrとして反応速度及びその増加分を調節しながら窒化し、窒化率が100%に達してから窒素ガスを流しながら室温まで放冷して、合成したインゴットを取り出し、インゴットを窒化ケイ素製乳鉢で0.15mm以下に粗・中砕した後、窒化ケイ素製ボールを用いたボールミルで、粉砕助剤としてn-ブチルアミンを2重量%添加し、窒素雰囲気下、8時間粉砕して窒化ケイ素粉末を製造する方法。」
イ 本件発明7について
(ア) 甲第14号証を主たる証拠とした場合
a 本件発明7と甲14発明との対比
甲14発明の「前処理したケイ素粉末を用いて、嵩密度が1.4g/cm3の成形体を作製」すること、「得られた成形体を電気炉内に静置し、窒素と酸素が体積比で80:20となるように混合した混合ガス雰囲気中で、1400℃で60時間かけて焼成し、窒化ケイ素を含む焼成体を得る」こと、及び「得られた焼成体を粗粉砕した後、ボールミルで9時間の湿式粉砕をして、粉砕物を得る粉砕工程」は、それぞれ、本件発明7の「ケイ素粉末」を「成形して成形体を得る工程」、「前記成形体を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素」「を含む焼成物を得る工程」、及び「前記焼成物を粉砕する工程」に相当する。
したがって、本件発明7と甲14発明とは、
「ケイ素粉末を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を、窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素を含む焼成物を得る工程と、
前記焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点5-1)
本件発明7では、ケイ素粉末に有機バインダを混ぜた混練物を成形しているのに対して、甲14発明では、ケイ素粉末をそのまま成形している点。
(相違点5-2)
本件発明7では、「前記成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程」を有しているのに対して、甲14発明では、当該工程を有していない点。
(相違点5-3)
本件発明7では、焼成物を得る工程における焼成物に炭素を含んでいるのに対して、甲14発明では、その点が明らかでない点。
b 相違点の検討
事案に鑑み、まず相違点5-2について検討する。
甲第15号証には、前記ア(イ)のとおり、「窒化ケイ素粉末を製造する方法」の発明が記載されているが、窒化ケイ素粉末を製造するに際して、成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂することは記載も示唆もされていない。
また、このようなことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。
したがって、甲14発明において、相違点5-2に係る本件発明7の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。
c 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第64頁第29行~第65頁第29行において、「有機バインダを含む成形体を加熱して脱脂する」ことは当業者の技術常識であって、窒化ケイ素粉末における設計事項である旨を主張している。
しかしながら、申立人は、当該技術常識を裏付ける証拠を示していないため、当該主張は採用できない。
d 小括
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲第14号証に記載された発明、及び甲第15号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 甲第15号証を主たる証拠とした場合
a 本件発明7と甲15発明との対比
甲15発明の「酸素含有量が0.3%の金属シリコン粉末100重量部に、骨材として窒化ケイ素粉末25重量部を配合し、ボールミルで混合して窒化原料とし、窒化原料粉末100重量部と0.5重量%ポバール水溶液10重量部との混合物を金型プレスにて、嵩密度が1.56g/cm3に成形」すること、「成形した窒化原料を窒化炉に入れ、真空排気後窒素ガスで置換してから昇温を開始し、温度1000℃からは昇温速度10℃/hrとして反応速度及びその増加分を調節しながら窒化し、窒化率が100%に達してから窒素ガスを流しながら室温まで放冷」すること、「合成したインゴットを取り出し、インゴットを窒化ケイ素製乳鉢で0.15mm以下に粗・中砕した後、窒化ケイ素製ボールを用いたボールミルで、粉砕助剤としてn-ブチルアミンを2重量%添加し、窒素雰囲気下、8時間粉砕」すること、及び「窒化ケイ素粉末を製造する方法」は、それぞれ、本件発明7の「ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程」、「前記成形体を」、「焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程」、「前記焼成物を粉砕する工程」、及び「窒化ケイ素粉末の製造方法」に相当する。
したがって、本件発明7と甲15発明とは、
「ケイ素粉末と有機バインダとを含む混錬物を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を、焼成して窒化ケイ素と炭素とを含む焼成物を得る工程と、
前記焼成物を粉砕する工程と、を有する、窒化ケイ素粉末の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点6-1)
本件発明7では、「前記成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂する工程」を有しているのに対して、甲15発明では、当該工程を有していない点。
(相違点6-2)
本件発明7では、焼成物を得る工程の雰囲気が「窒素と水素及びアンモニアからなる群より選ばれる少なくとも一つとを含む混合雰囲気」であるのに対して、甲15発明では、窒素ガスである点。
b 相違点の検討
まず相違点6-1について検討すると、甲第14号証には、窒化ケイ素粉末を製造するに際して、成形体を900℃以上1100℃未満で1時間以上加熱して脱脂することは記載も示唆もされていないし、このようなことが周知慣用技術であることを示す証拠もないから、甲15発明において、相違点6-1に係る本件発明7の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。
c 小括
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲第15号証に記載された発明、及び甲第14号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立理由4についての結論
以上の検討のとおり、申立理由4に理由はない。
(5) 申立理由5(実施可能要件・サポート要件違反)について
ア 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の第66頁第21行~第67頁第20行において、実施可能要件違反及びサポート要件違反に関して、次の点を主張している。
(ア) 本件特許明細書には、炭素・硫黄分析装置(LECO社製、装置名:IR412型)を用いて、窒化ケイ素粉末の炭素の質量比率Cpの測定には、試料を、酸素雰囲気中、10℃/秒の昇温速度で20℃から2000℃まで昇温すること(【0072】)、また、窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Csの測定には、試料を、10℃/秒の昇温速度で20℃から1000℃まで昇温し、1000℃で15分間保持したこと(【0073】)が記載されているところ、LECO社製炭素・硫黄分析装置IR412型は、高周波燃焼-赤外線吸収法による測定装置であり、高周波燃焼では、昇温速度を正確に制御することは難しく、装置固有の仕様に従った昇温になることは、当業者の技術常識である。そのため、LECO社製炭素・硫黄分析装置IR412型を用いて、昇温速度及び保持時間を制御するためには、高度の創意工夫を要するにもかかわらず、本件特許明細書には、どのように昇温速度及び保持時間を制御したのかについて説明されていないため、本件発明1における「粉末全体に対する前記粉末の表面部に含まれる炭素の質量比率Cs」の分析は、当業者が本件特許明細書の記載に基づいて容易に実施できない。
したがって、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号の規定を満たしていない。
(イ) 本件特許明細書の実施例及び比較例を示す表1(【0083】)には、粉末全体に対する粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osが0.40~0.44%であることが記載されているにすぎず、本件発明4の「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の前記質量比率Osが0.9%以下である」との構成要件を規定する下限値及び上限値の臨界的意義は記載されていない。
したがって、前記構成要件に規定された範囲が広すぎるという点で、本件発明4は、本件特許明細書に記載された発明ではなく、また当業者が本件特許明細書の記載に基づいて容易に実施できた発明でもない。
(ウ) 本件特許明細書の実施例及び比較例を示す表2(【0084】)には、BET比表面積が11.5~12.0m2/gであり、α率が93.4~94.2%であるという、極めて狭い範囲のBET比表面積及びα率が記載されているにすぎず、本件発明5の「BET比表面積が10~14m2/gである」との構成要件を規定する下限値及び上限値の臨界的意義、並びに、本件発明6の「α率が94%以上である」との構成要件を規定する下限値及び上限値の臨界的意義も記載されていない。
したがって、本件発明5の前記構成要件、及び本件発明6の前記構成要件に規定された範囲が広すぎるという点で、本件発明5、及び本件発明6は、本件特許明細書に記載された発明ではなく、また当業者が本件特許明細書の記載に基づいて容易に実施できた発明でもない。
イ 検討
(ア) まず、前記ア(ア)の主張について検討すると、申立人は上記技術常識を裏付ける証拠を示しておらず、証拠に基づく主張であるといえないから、前記ア(ア)の主張は採用できない。
(イ) 次に、前記ア(イ)及び(ウ)の主張について検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明4の「前記粉末全体に対する前記粉末の前記表面部に含まれる酸素の前記質量比率Osが0.9%以下である」ことに関して、「窒化ケイ素粉末全体に対する、粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osは、0.9%以下であってよく、0.7%以下であってよく、0.5%以下であってもよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに過剰な緻密化を抑制し、窒化ケイ素焼結体の密度が高くなり過ぎることを抑制できる」こと(【0032】)、及び、「窒化ケイ素粉末の表面部に含まれる酸素の質量比率Osは、弗化水素を用いた表面処理の条件及び時間を変えることによって調節することができる」こと(【0035】)が記載されており、前記質量比率Osを所定の範囲とすることの技術的意義やその調整方法が記載されている。
また、本件発明5の「BET比表面積が10~14m2/gである」ことに関して、「窒化ケイ素粉末のBET比表面積は10~14m2/gであってよい。このような窒化ケイ素粉末は、焼結原料として用いたときに焼結が円滑に進行する。また、窒化ケイ素焼結体の微細組織の均一性を向上することができる。したがって、窒化ケイ素焼結体の強度等の特性のばらつきを低減することができる」こと(【0043】)、及び、「BET比表面積は、直接窒化法のプロセスであれば、窒化後の焼成物を粉砕する際の粉砕条件を変えることによって調整することができる」こと(【0044】)が記載されており、BET比表面積を所定の範囲とすることの技術的意義やその調整方法も記載されている。
さらに、本件発明6の「α率が94%以上である」ことに関して、「窒化ケイ素粉末のα率は、94%以上であってよい。このような窒化ケイ素粉末を焼結原料として用いたときにβ相が一層生じやすくなる。したがって、窒化ケイ素焼結体の密度を十分に低く維持しつつ、強度を十分に高くすることができる」こと(【0045】)、及び、「窒化ケイ素粉末のα率は、直接窒化法のプロセスであれば、窒化する際の加熱条件を変えることによって調整することができる」こと(【0045】)が記載されており、α率を所定の範囲とすることの技術的意義やその調整方法も記載されている。
したがって、本件発明4~6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるし、また、当業者が本件特許明細書の記載に基づいて容易に実施できた発明であるといえるから、前記ア(イ)及び(ウ)の主張も採用できない。
ウ 申立理由5についての結論
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載に不備はないから、申立理由5に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1~7を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700765