特許異議申立
2025-700612
スクリュー圧縮機
- 審判番号
- 2025-700612
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-092296
- 登録番号
- 7604325
- 請求日
- 2025年06月10日
- 審決日
- 2026年03月27日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日立産機システム
- 【権利者代理人】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
- 【異議申立人】松本 文彦
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 芝井 隆
- 審判官 関口 哲生
- 分類
- P1652.113-YAA(F04C) / P1652.121-YAA(F04C) / P1652.537-YAA(F04C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7604325号発明「スクリュー圧縮機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7604325号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7604325号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7604325号の請求項1に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年6月1日の出願であって、令和6年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和6年12月23日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、概ね、次のとおりである。
令和7年 6月10日 :特許異議申立人松本文彦(以下、「申立人」という。)による請求項1に係る特許に対する特許異議の申立て
令和7年 9月26日付け:取消理由通知書
令和7年12月 1日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和8年 1月15日 :特許権者による手続補正書(令和7年12月1日付け訂正請求書の補正)の提出
令和8年 1月21日付け:訂正請求があった旨の通知書(特許法第120条の5第5項)
令和8年 2月 5日 :申立人による意見書の提出
以下、令和7年12月1日付け訂正請求書(令和8年1月15日付け手続補正書により補正)を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その訂正内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と
を備えることを特徴とするスクリュー圧縮機。」を、
「作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータ(ただし、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く)の当該一端側を回転自在に支持する第1のころ軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1のころ軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1のころ軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1のころ軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1のころ軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と
を備えることを特徴とするスクリュー圧縮機。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の
「前記軸封部材は、前記ケーシングに設けられた第1の空間内に配設され、
前記第1の軸受は、前記ケーシングに設けられた第2の空間内に配設され、
前記動力源の前記回転軸に一端側が連結された前記スクリューロータにおける歯が形成された歯形部は、前記ケーシングに設けられた第3の空間内に収納され、
前記第1及び第2の空間は、前記隔壁により隔離され、
前記第1の空間がバイパス連通路を介して前記第3の空間と連通され、
前記第1の空間に供給された前記潤滑液が前記バイパス連通路を介して前記第3の空間に排出される
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュー圧縮機。」を、
「作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と、を備え、
前記軸封部材は、前記ケーシングに設けられた第1の空間内に配設され、
前記第1の軸受は、前記ケーシングに設けられた第2の空間内に配設され、
前記動力源の前記回転軸に一端側が連結された前記スクリューロータにおける歯が形成された歯形部は、前記ケーシングに設けられた第3の空間内に収納され、
前記第1及び第2の空間は、前記隔壁により隔離され、
前記第1の空間がバイパス連通路を介して前記第3の空間と連通され、
前記第1の空間に供給された前記潤滑液が前記バイパス連通路を介して前記第3の空間に排出される
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。」
に訂正する。(請求項2の記載を直接または間接的に引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の
「前記第1の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュー圧縮機。」を、
「作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と、を備え、
前記第1の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の
「前記第1のスクリューロータにおける前記動力源の前記回転軸が連結された前記一端側と同じ前記第2のスクリューロータの一端側を回転自在に支持する第2の軸受と、
前記ケーシングに設けられ、前記第2の軸受に前記潤滑液を給液するための第3の給液口とを備え、
前記第3の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュー圧縮機。」を、
「作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と、を備え、
前記第1のスクリューロータにおける前記動力源の前記回転軸が連結された前記一端側と同じ前記第2のスクリューロータの一端側を回転自在に支持する第2の軸受と、
前記ケーシングに設けられ、前記第2の軸受に前記潤滑液を給液するための第3の給液口とを備え、
前記第3の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。」
に訂正する。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1~6について、請求項2、3及び6は、本件訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、請求項4は、本件訂正の請求の対象である請求項2の記載を引用する関係にあり、請求項5は、訂正前の請求項4の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、訂正前の請求項1~6という一群の請求項ごとに請求されたものである。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された、「第1のスクリューロータ」について、「(ただし、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く)」との記載により、第1のスクリューロータから、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除外するものであり、係る第1のスクリューロータを除外することにより、限定を付加するものであり、また、「第1の軸受」について、「第1のころ軸受」として、「ころ軸受」という限定を付加するものである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
(ア)「(ただし、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く)」について
訂正事項1の「(ただし、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く)」は、令和7年9月26日付けの取消理由通知書における、
「1 本件特許の請求項1に係る発明
本件特許の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)。」、
「2 刊行物等
・甲第1号証:特開昭57-159993号公報
(以下、「甲1」などという。)」、
「3 対比、判断
本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、相違するところはない。
・・・
そうすると、本件発明1は甲1発明である。」、
との説示を受けて、甲1に記載されたスクリュー圧縮機がバランスピストンを備えることを前提としたものであることに鑑み、「(ただし、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く)」との特定により限定を付加したものである。
そして、本件訂正後の発明についても、本件訂正前の発明と同様の効果を奏するものであり、第1のスクリューロータについて、「バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く」ことによって、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された本件訂正前の発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものではないから、訂正事項1の係る事項が本件明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項1の係る事項は、当業者によって、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
(イ)「第1のころ軸受」について
本件明細書等の段落0033の「ここで、第1の吸込側軸受5における潤滑液の攪拌損失について考える。本実施の形態においては、第1の吸込側軸受5としてころ軸受を想定しているが、これに限定されるものではなく、第1の吸込側軸受5が玉軸受などの他の転がり軸受であってもよい。」(下線は当審にて付与した。)との記載からみて、訂正事項1の「第1のころ軸受」が記載されていることは明らかである。
したがって、訂正事項1の係る事項は、当業者によって、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
(ウ)以上によれば、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項に限定を付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
訂正事項1により訂正された請求項1は特許異議の申立てがなされているので、訂正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件は課されない。
(2)訂正事項2~4について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が、請求項1を引用するものであったのを、独立請求項としたものであり、同様に、訂正事項3は、訂正前の請求項3が、請求項1を引用するものであったのを、独立請求項としたものであり、また、訂正事項4は、訂正前の請求項6が、請求項1を引用するものであったのを、独立請求項としたものであるから、訂正事項2、3又は4は、それぞれ、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2、3又は4は、それぞれ、訂正前の請求項2、3又は6を独立請求項としたものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2、3又は4は、それぞれ、訂正前の請求項2、3又は6を独立請求項としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
加えて、訂正事項2~4により訂正された請求項2~6は、特許異議の申立てがされていない請求項であるが、訂正事項2~4は、上記のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される要件は課されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり、本件訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータ(ただし、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く)の当該一端側を回転自在に支持する第1のころ軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1のころ軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1のころ軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1のころ軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1のころ軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と
を備えることを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項2】
作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と、を備え、
前記軸封部材は、前記ケーシングに設けられた第1の空間内に配設され、
前記第1の軸受は、前記ケーシングに設けられた第2の空間内に配設され、
前記動力源の前記回転軸に一端側が連結された前記スクリューロータにおける歯が形成された歯形部は、前記ケーシングに設けられた第3の空間内に収納され、
前記第1及び第2の空間は、前記隔壁により隔離され、
前記第1の空間がバイパス連通路を介して前記第3の空間と連通され、
前記第1の空間に供給された前記潤滑液が前記バイパス連通路を介して前記第3の空間に排出される
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項3】
作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と、を備え、
前記第1の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項4】
前記第2の空間及び前記第3の空間を連通する連通空間を備え、
前記第1の軸受に給液された前記潤滑液が前記連通空間を介して前記第3の空間に排出される
ことを特徴とする請求項2に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項5】
前記第1及び第2のスクリューロータが水平となるように設置したときに、前記連通空間の最下端部が前記第1の軸受の外輪内径の下端位置よりも低くなるように前記連通空間が形成された
ことを特徴とする請求項4に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項6】
作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と、を備え、
前記第1のスクリューロータにおける前記動力源の前記回転軸が連結された前記一端側と同じ前記第2のスクリューロータの一端側を回転自在に支持する第2の軸受と、
前記ケーシングに設けられ、前記第2の軸受に前記潤滑液を給液するための第3の給液口とを備え、
前記第3の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。」
第4 取消理由の概要
本件の請求項1に係る特許に対して、当審が令和7年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由(新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
・甲第1号証:特開昭57-159993号公報
(以下、「甲1」という。)
第5 当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲1について
ア 甲1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。以下同様。)。
(ア)「2特許請求の範囲
1 ケーシング内に平行に、かつ軸間距離がその直径よりも小なる如く互に重なり合って設けられた二個の円筒状ボアの中に、それぞれ前記ボア軸を中心に両端にて軸受により回転可能に支えられて互に噛み合う雄ロータと雌ロータとを備え、ケーシングには前記ボアの両端に前記ボア軸に直角な吸入側端壁及び吐出側端壁を備え、該吸入側端壁及び吐出側端壁にはそれぞれ端壁吸込口及び端壁吐出口を備え、雄ロータ、雌ロータの推力と対抗するバランスピストン、吐出しガスの油分離機、分離された油を循環圧送する油ポンプを備えたスクリュー圧縮機において、ロータ軸とケーシングによって仕切られた室にロータ軸に係止され直接又は該室に嵌入するシリンダを介し該室を軸封二分してバランスピストンを備え、バランスピストン室とロータ軸受側の室を構成されたバランスピストン室側に圧縮機の吐出圧力に従って油圧の変動する油を供給する装置器具を設けたスクリュー圧縮機。」(1頁左欄4行~同頁右欄4行)
(イ)「本発明は、互に噛み合う一対のスクリューロータをロータ室で回転せしめて気体を圧縮する噴射式スクリュー圧縮機の運転中に生じる軸方向推力を打消すバランスピストンに関するものである。」(1頁右欄11~15行)
(ウ)「本発明はスクリュー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し、従って起動時、運転中に限らずロータが移動せず、油ポンプの容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目的とするものである。
本発明はスクリュー圧縮機において、吐出流体と共に潤滑、冷却、密封用の油が油分離機により回収され、油ポンプにより圧縮機各部に給油され、吸込ケーシングに設けたロータ軸端の突出する空間にロータ軸に固定したピストンと吸込ケーシングに固定したシリンダをすきま少く嵌入してピストンの反吐出側に圧縮機の吐出圧力を受けた油を供給したことを特徴とするものである。」(2頁左下欄16行~同頁右下欄11行)
(エ)「以下、本発明の実施例について図面に従って説明する。図面は何れもスクリュー圧縮機を示し、第2図は縦断面図、第3図は第2図のA-A断面図、第4図は第2図のB-B断面図である。
ロータケーシング1の両側は吸込ケーシング2、吐出ケーシング3により密閉され、第4図に示すような形状の雄ロータ4、雌ロータ5がかみ合っており、両ロータはケーシング1の吐出し側の双円弧形外周と接している。両ロータは図示矢印の方向に回転するとき夫々同一リードでもってかみ合う位置が漸次移動するようになっており、外周にリードの大きいねじ溝とねじ山を設けてかみ合う雄ロータ4、雌ロータ5は一体となった軸部4a,4b,5a,5bが夫々吸込ケーシング2に嵌入したジャーナル軸受6,7及び夫々吐出ケーシング3に嵌入したジャーナル軸受8,9によりラジアル方向荷重を支承され、吐出ケーシング3に嵌入したスラスト玉軸受12,13の内輪に雄ロータ4の軸部4a、雌ロータ5の軸部5aの軸部が嵌入して段部との間において夫々の軸部にねじ込まれたナット14,15により軸方向移動を制止されている。
雄ロータ4の一体となった軸部4aは機外に突出して軸端部4cとなっており、軸端部4cにより雄ロータ4が駆動されるようになっている。」(2頁右下欄12行~3頁左上欄18行)
(オ)「軸部4aは吐出ケーシング3に固定されたカバー16に固定されたシールカバー17中のメカニカルシールのような軸封装置18により軸封されている。カバー16には又軸部4aのとおる部分にライナリング19が打込まれている。
吸込ケーシング2端はカバー21により蔽われている。
吸込ケーシング2は上方に吸込通路22が設けてあり、雄ロータ4、雌ロータ5の間の上側端面となる位置に吸込口23が開口している。吸込口23の下方の雄ロータ4と雌ロータ5が相会する位置の反対側の吐出ケーシング3の端面には吐出口24が設けてあり、吐出ケーシング3中の吐出通路25が機外に通じている。
吸込ケーシング2及びカバー21にはシリンダ26が嵌入されカバー27により覆われ押えられている。」(3頁左上欄19行~同頁右上欄15行)
(カ)「雄ロータ4、雌ロータ5が回転すると図示されない配管より吸込通路22をとおり吸込口23よりロータケーシング1、雄ロータ4、雌ロータ5により構成せられた吸込空間に気体は吸込まれ、符号30で示される部分よりは雄ロータ4、雌ロータ5の夫々の外周はケーシング1の内周と密接しており、それよりこれらのロータの1ピッチ吐出側より、作用空間となり、第2図、第3図において気体は次第に雄ロータ4、雌ロータ5とケーシング1間の容積の減少により圧縮され、吐出口24にて吐出され吐出通路25より吐出側配管に送られる。」(3頁左下欄16行~同頁右下欄7行)
(キ)「次に冷却並びに潤滑油供給路についてのべる。
後に配管図により説明される油ポンプよりの圧油は吐出ケーシング3に設けた入口35に配管される。入口35よりは吐出側のジャーナル軸受8への油路36、ジャーナル軸受6への油路37、軸封装置18への油路38に分れる。
油路36はジャーナル軸受8の外周の溝より吐出ケーシング中の油路をとおり、ジャーナル軸受9の外周の溝につながる。ジャーナル軸受8,9においては外周の溝より半径方向に貫通した孔により、夫々軸側の油溝39,41につながる。
油溝39,41端はオリフィスとなり、ジャーナル軸受8,9とスラスト玉軸受12,13間の空間につながり、該スラスト玉軸受12,13の間を通じてカバー16内空間に連通しており、該空間よりは第2図に示されるように吐出しケーシング3にあけた通路42より吐出通路25に続いている。」(3頁右下欄8行~4頁左上欄6行)
(ク)「油路38は吐出ケーシング3よりカバー16中に通じており、更にシールカバー17中に通じ、軸封装置18を潤滑してライナリング19と軸部4aの隙間よりカバー16内に通じている。吸込ケーシング2にはバランスピストン室34へ入口48より油の通路が通じている。
第4図に示すようにロータケーシング1には入口35と同じ潤滑油源より配管が連結される油の入口49が設けてあり、スライドバルブ31の接するロータケーシング1の内壁の軸方向に刻設した長溝にスライドバルブ31中の油路が開口し、該油路よりロータ圧縮空間に油が噴射されるようになっている。
入口35より供給された圧油は油路36より軸受8,9へ流れて潤滑冷却し、夫々の軸受端よりスラスト玉軸受12,13をとおり、カバー16内より通路42をとおり、吐出通路25に出る。
入口35より油路37に分れた圧油は軸受6,7を潤滑し、夫々の軸受端より室45,46に流れ、室46に合流して油路47をとおり、ロータの吸込口とじ込み位置近傍の圧縮始めの中間圧部分へ噴射され、圧縮ガスと共に吐出口24より吐出通路25へ出る。室45には油が充満しており、その圧力はロータの圧縮始めの低圧に油路47端の噴出口の絞り抵抗と室45より該噴出口までの流路抵抗を加えたものであるからロータ吸込圧よりわずかに高い圧力である。
入口35より油路38に分れた圧油は軸封装置18を潤滑してライナリング19と軸部4aの隙間をとおりカバー16に入り、油路42より吐出通路25に入る。」(4頁右上欄2行~同頁左下欄13行)
(ケ)「第2図
[図:0001437380000001.jpg]
第3図
[図:0001437380000002.jpg]
第4図
[図:0001437380000003.jpg]
」
(コ)前記(ア)及び(イ)の記載から、雄ロータ4及び雌ロータ5は、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものであることは明らかである。
(サ)前記(エ)の「軸端部4cにより雄ロータ4が駆動される」との記載から、雄ロータ4の軸部4aの軸端部4cが、動力源の回転軸に連結されていることは明らかである。
(シ)前記(エ)及び(オ)並びに第2~3図の記載から、スクリュー圧縮機のケーシングは、ロータケーシング1、吸込ケーシング2、吐出ケーシング3、カバー16、シールカバー17、カバー21から構成されることが示されているといえる。
(ス)前記(オ)及び第2~3図の記載から、シールカバー17に、雄ロータ4の軸部4aが挿通する貫通孔が設けられていること、また、その貫通孔をシールする軸封装置18が設けられていること、更に、軸封装置18は、ジャーナル軸受8やスラスト玉軸受12に対して、雄ロータ4のねじ溝とねじ山の反対側に配置されていることが示されているといえる。
(セ)前記(オ)及び第2~3図の記載から、カバー16及びライナリング19が、ジャーナル軸受8やスラスト玉軸受12と、軸封装置18との間を隔離していることが示されているといえる。
(ソ)前記(キ)及び(ク)並びに第3図の記載から、油路36の端部にジャーナル軸受8及びスラスト玉軸受12に潤滑油を給油する給油口、油路38の端部に軸封装置18に潤滑油を給油する給油口を有することは、明らかである。
イ 甲1に記載された発明
上記(ア)~(ソ)の記載を総合して、本件発明の表現に倣って整理すると甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「気体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記気体を吸い込み、圧縮して吐出する雄ロータ4及び雌ロータ5を備え、
ここで、雄ロータ4及び雌ロータ5は、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものであり、
また、動力源の回転軸に軸端部4cが連結された前記雄ロータ4の当該軸端部4cを回転自在に支承するジャーナル軸受8及びスラスト玉軸受12と、
前記雄ロータ4並びに前記ジャーナル軸受8及び前記スラスト玉軸受12が収納されたロータケーシング1及び吐出ケーシング3と、
ロータケーシング1、吐出ケーシング3、カバー16及びシールカバー17内部における前記ジャーナル軸受8及び前記スラスト玉軸受12に対して前記雄ロータ4のねじ溝とねじ山の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記雄ロータ4の軸部4aが挿通するシールカバー17の貫通孔をシールする軸封装置18と、
吐出ケーシング3、カバー16及びシールカバー17内部において前記ジャーナル軸受8及び前記スラスト玉軸受12と前記軸封装置18間を隔離するカバー16及びライナリング19と、
吐出ケーシング3、カバー16及びシールカバー17に設けられ、前記ジャーナル軸受8及び前記スラスト玉軸受12に潤滑油を給油するための油路36の給油口、及び、前記軸封装置18に前記潤滑油を供給するための油路38の給油口を有する油路36、38と
を備えるスクリュー圧縮機。」
2 対比及び判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを、その有する機能に照らして対比する。
ア 甲1発明の「気体」は本件発明1の「作動媒体」に相当し、同様に、「雄ロータ4及び雌ロータ5」は「第1及び第2のスクリューロータ」に、「雄ロータ4」は「第1のスクリューロータ」に、「軸端部4c」は「一端側」に、「支承」は「支持」に、「ねじ山」は「歯形部」に、「軸部4a」は「軸部」に、「軸封装置18」は「軸封部材」に、「カバー16及びライナリング19」は「隔壁」に、「潤滑油」は「潤滑液」に、「給油」は「給液」に、「油路36の給油口」は「第1の給液口」に、「油路38の給油口」は「第2の給液口」に、「油路36、38」は「給液経路」に、それぞれ相当する。
また、本件特許の発明の詳細な説明の段落0015の「雄ロータ2の吸込側軸部2Bは吸込側軸受(以下、これを第1の吸込側軸受と呼ぶ)5により回転自在に支持され、雄ロータ2の吐出側軸部2Cは吐出側軸受(以下、これを第1の吐出側軸受と呼ぶ)6により回転自在に支持されている。」との記載によれば、「第1の軸受」とは雄ロータを回転自在に支持する軸受であるといえるところ、甲1発明の「ジャーナル軸受8」は、雄ロータ4のラジアル方向荷重を支承する軸受であるから、本件発明1の「第1のころ軸受」と、「第1の軸受」の点で共通する。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の段落0018の「ケーシング4は、メインケーシング4Aと、メインケーシング4Aのロータ軸方向の他端側に連結された吐出側ケーシング4Bと、メインケーシング4Aのロータ軸方向の一端側に吸込側隔壁4Cを介して連結された吸込側ケーシング4Dとから構成される。」との記載によれば、本件発明1における「ケーシング」とは、メインケーシング4A、吐出側ケーシング4B、吸込側隔壁4C、吸込側ケーシング4Dの構成要素からなるスクリュー圧縮機の外殻を形成するものであるといえる。そうすると、甲1発明において、スクリュー圧縮機の外殻の構成要素である、甲1発明の「ロータケーシング1及び吐出ケーシング3」や「ロータケーシング1、吐出ケーシング3、カバー16及びシールカバー17」や「シールカバー17」や「吐出ケーシング3、カバー16及びシールカバー17」は、それぞれ、本件発明1の「ケーシング」に相当する。
イ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の「一致点」で一致し、「相違点1」~「相違点2」で相違する。
(一致点)
「作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と
を備えるスクリュー圧縮機。」
(相違点1)
第1のスクリューロータに関して、本件発明1は、「バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものを除く」のに対し、
甲1発明は、バランスピストンにより運転中に生じる軸方向推力が打消されるものである点。
(相違点2)
第1の軸受に関して、本件発明1は、「ころ軸受」であるのに対し、
甲1発明は、ジャーナル軸受8である点。
(2)判断
ア 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
(ア)「ころ軸受」も「ジャーナル軸受」も、共に、当業者にとって従来周知の技術であるといえるところ、「転がり軸受」の一種である「ころ軸受」と、「滑り軸受」の一種である「ジャーナル軸受」との両者が異なる構造を有する軸受であることは明らかである。
そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点であるといえる。
よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(イ)また、特開平3-61714号公報(甲第2号証、以下、「甲2」という。)や特開昭63-289282号公報(甲第3号証、以下、「甲3」という。)の開示内容によれば、ラジアル軸受として、「転がり軸受」や「滑り軸受」が使用されることは、当業者にとって従来周知の技術であるといえる。
しかし、甲2の2頁左下欄2~5行に「ラジアル軸受にはころがり軸受と滑り軸受とがあり、一般的に比較的低負荷の場合にはころがり軸受が使用され、ころがり軸受が使用できない高負荷の場合には滑り軸受が使用され、エネルギーロスはころがり軸受より滑り軸受の方が大きい。」と、また、甲3の1頁右欄17行~2頁左上欄4行に「従来、スクリュー圧縮機には半径方向の力を受けるラジアル軸受と、軸方向の力を受けるスラスト軸受とが取り付けられており、これらの軸受はころがり軸受あるいはすべり軸受により形成されている。すべり軸受はコンパクトであり、長寿命化が可能で、コストが安いなどの長所を有し、ころがり軸受は劣悪な潤滑条件下でも焼付き難い長所を持っている。」と記載され、ラジアル軸受に採用する軸受について、スクリュー圧縮機が使用する状態や製造コストなど、スクリュー圧縮機の構造全体を鑑みて、なされているといえる。
そうすると、「ジャーナル軸受」を含む「滑り軸受」の長所や、「ころ軸受」を含む「転がり軸受」の短所について、また、スクリュー圧縮機の構造全体について勘案すると、甲1発明において、「ジャーナル軸受」に代えて「ころ軸受」とする動機は特段ない。また、甲1発明において、「ジャーナル軸受」に代えて「ころ軸受」とすることが、単なる設計的事項であるともいえない。
そして、これらのことは、その他の証拠方法(甲第4号証(以下、「甲4」という。)として提示された特公平1-28233号公報及び甲第5号証(以下、「甲5」という。)として提示された特開昭57-143184号公報。)をみても同様である。なお、「ころ軸受」という字句について、甲2~5には、何ら記載されていない。
(ウ)ところで、申立人は、令和8年2月5日意見書で、甲第2号証、甲第3号証に挙げるように、スクリュー圧縮機に使用されるラジアル軸受において、滑り軸受と転がり軸受けを使い分けることは周知技術に過ぎず、甲1発明において、雄ロータ4を支持する軸受としてころ軸受を適用することは、容易に想到し得たことである旨主張する(2頁「(2)特許権者の主張1について」を参照)。
しかし、上記(イ)で示したように、甲1発明において、ジャーナル軸受をころ軸受に代える動機は特段なく、甲1発明において、本件発明1の相違点2に係る構成とすることはできず、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)以上によれば、甲1発明において、本件発明1の相違点2に係る構成とすることはできない。
そして、本件発明1は、本件明細書の段落0033に「第1の吸込側軸受5における潤滑液の攪拌損失について考える。本実施の形態においては、第1の吸込側軸受5としてころ軸受を想定しているが、これに限定されるものではなく、第1の吸込側軸受5が玉軸受などの他の転がり軸受であってもよい。」と説明されるように、前記相違点2に係る構成を備えることを前提として、「第1の軸受に過多の潤滑液が給液されることに起因する第1の軸受での潤滑液の攪拌損失を抑制することができる」(本件明細書の段落0009を参照)という格別の効果を奏するものである。
イ 以上によれば、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、当業者であっても、甲1発明及び甲2~5に記載された技術事項に基いて容易に発明することができたものではない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、概ね、次のとおりである。
申立理由(サポート要件違反)
本件の請求項1に係る特許は、以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
・発明の詳細な説明の記載からすると、「第1の軸受」における攪拌損失を抑制するには、「給液経路」において「第1の給液口」までの圧力損失を「第2の給液口」までの圧力損失よりも大きく設定する必要があるが、請求項1にはこの点について何ら限定されていないので、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。(特許異議申立書の5頁の「(1)申立て理由の要約」の「理由の要点」を参照)
2 申立理由(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題
本件発明1が解決しようとする課題は、本件特許の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ということもある。)の段落0007の記載から、「圧縮機としての性能低下を有効に防止し得る、信頼性が高く高効率なスクリュー圧縮機を提案しようとするもの」である。
(3)本件発明について
ア 請求項1の記載
本件発明1は「前記ケーシング内部において前記第1のころ軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、前記ケーシングに設けられ、前記第1のころ軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路とを備える」との事項(以下、「事項A」という。)を備えたものである。
イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の段落0009に「この結果、軸封部材及び第1の軸受に対してそれぞれの適量の潤滑液を独立して供給することができる。これにより、第1の軸受に過多の潤滑液が給液されることに起因する第1の軸受での潤滑液の攪拌損失を抑制することができる。」と、また、段落0038に「この点について、本実施の形態のスクリュー圧縮機1では、第1の吸込側軸受5が収容されている第1の吸込側軸受収容空間15と、軸封部材21が配設されている軸封空間20とが吸込側隔壁4Cによって隔離されており、軸封部材21に潤滑液を給液する第1の給液口25と、第1の吸込側軸受5に潤滑液を給液する第2の給液口26とが独立して設けられているため、軸封部材21及び第1の吸込側軸受5にそれぞれ適した量の潤滑液の供給を行うことができる。」との記載がある。
さらに、発明の詳細な説明の段落0048に「以上の構成のように本実施の形態のスクリュー圧縮機1では、第1の吸込側軸受5が収容されている第1の吸込側軸受収容空間15と、軸封部材21が配設されている軸封空間20とが吸込側隔壁4Cによって隔離され、軸封部材21に潤滑液を給液する第1の給液口25と、第1の吸込側軸受5に潤滑液を給液する第2の給液口26とが独立して設けられているため、軸封部材21及び第1の吸込側軸受5にそれぞれ適した量の潤滑液の供給を独立して行うことができる。従って、本スクリュー圧縮機1によれば、第1の吸込側軸受5に過多の潤滑液が給液されることに起因する第1の吸込側軸受5での潤滑液の攪拌損失を抑制することができるため、信頼性が高く、高効率なスクリュー圧縮機を実現できる。」と記載されている。
これらの記載によれば、当業者は、第1の吸込側軸受5が収容されている第1の吸込側軸受収容空間15と、軸封部材21が配設されている軸封空間20とが吸込側隔壁4Cによって隔離されており、軸封部材21に潤滑液を給液する第1の給液口25と、第1の吸込側軸受5に潤滑液を給液する第2の給液口26とが独立して設けられていることで、第1の吸込側軸受5に過多の潤滑液が給液されることに起因する第1の吸込側軸受5での潤滑液の攪拌損失を抑制することができるため、信頼性高く、高効率なスクリュー圧縮機を実現できることを理解することができる。
ウ 以上によれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づき、請求項1に記載のとおり、事項Aを備えることによって、本件発明1の課題を解決できると認識することができる。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ、本件発明1についてサポート要件の違反はない。
エ したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700612