特許異議申立
2026-700137
情報処理方法、情報処理システム及びプログラム
- 審判番号
- 2026-700137
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-185041
- 登録番号
- 7724446
- 請求日
- 2026年02月16日
- 審決日
- 2026年05月12日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】新居 広守
- 【権利者代理人】寺谷 英作
- 【権利者代理人】道坂 伸一
- 【異議申立人】金田 綾香
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 伊藤 幸仙
- 分類
- P1651.113-Y (A61B) / P1651.121-Y (A61B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7724446号発明「情報処理方法、情報処理システム及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7724446号の請求項1-12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7724446号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本願」という。)は、令和3年11月12日の特許出願であって、令和7年8月7日にその請求項1-12に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年8月18日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1-12に係る特許に対して、令和8年2月16日に特許異議申立人 金田綾香(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
その後、令和8年4月7日提出の手続補正書により、令和8年2月16日提出の特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)の「第3 申立ての理由」は補正された。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1-12に係る発明(それぞれ以下「本件発明1」-「本件発明12」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
コンピュータが行う情報処理方法であって、
対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得し、
複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する、
情報処理方法。
【請求項2】
さらに、前記人の周囲の環境のセンシングデータを環境情報として取得し、
複数の環境と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記環境情報から前記対象に対して前記人が受ける印象である環境印象を推定する、
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
さらに、推定された前記感情印象と前記環境印象とに基づいて前記対象に対して前記人が受ける印象を示す印象情報を導出する、
請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記印象情報の導出では、
前記感情印象及び前記環境印象の平均値を前記印象情報として導出する、
請求項3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記印象情報の導出では、
前記感情印象及び前記環境印象のそれぞれに重みづけを行い、重み付け後の前記感情印象及び前記環境印象の和を前記印象情報として導出する、
請求項3に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記感情情報の取得では、
前記人の主観、生体情報、及び、行動情報のうち少なくとも前記生体情報に基づいて推定された前記感情情報を取得する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記感情印象の推定では、
感情情報と感情印象とが紐づけられて格納されたデータベースに基づいて前記人の前記感情情報から前記感情印象を推定する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記感情印象の推定では、
取得された前記感情情報を学習済みの機械学習モデルに入力することにより得られる出力結果に基づいて前記感情印象を推定する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記環境印象の推定では、
環境情報と環境印象とが紐づけられて格納されたデータベースに基づいて前記人の前記環境情報から前記環境印象を推定する、
請求項2~5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項10】
前記環境印象の推定では、
取得された前記環境情報を学習済みの機械学習モデルに入力することにより得られる出力結果に基づいて前記環境印象を推定する、
請求項2~5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項11】
対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得する取得部と、
複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する推定部と、
を備える、
情報処理システム。
【請求項12】
対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得し、
複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対する前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する、
ことをコンピュータに実行させるプログラム。」
第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1号証-甲第3-1号証を提出し、以下の異議申立理由1及び2によって、本件発明1-12に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1.異議申立理由
(1)異議申立理由1.特許法第29条第1項第3号(新規性違反)について
本件発明1-3,6,8及び10-12は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、本件発明1-3,6,8及び10-12は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
さらに、本件発明1-3,8及び10-12は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。
(2)異議申立理由2.特許法第29条第2項(進歩性違反)について
本件発明1-5及び7-12は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件発明1-5,7,9,11及び12は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
さらに、本件発明1-7及び9は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。
2.証拠方法
甲第1号証:特許第4967408号公報
甲第2号証:長田典子,「解説 感性の指標化とプロダクトデザインへの応用」,電子情報通信学会誌,2019年,Vol.102,No.9,p.873-p.880
甲第3号証:長田典子 他,「デジタル質感生成システム」,2017年度日本認知科学会第34回大会論文集,2017年9月13日公開,p.532-p.535
なお、甲第3-1号証は、甲第3号証(2017年度日本認知科学会第34回大会論文集)の公開日を示すための、日本認知科学会のホームページの記載(https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2017/)であり、該記載には、日本認知科学会第34回大会論文集全体が2017年9月13日に公開されたと記されている。よって、甲第3号証の公開日を2017年9月13日と認定した。
第4 異議申立理由についての判断
1.甲第1-3号証の記載事項及び甲第1-3号証から認定される発明及び技術事項
(1)甲第1号証
本願の出願前である平成24年(2012年)7月4日に発行された、特許第4967408号公報(以下「甲1」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。以下同様。)
ア「【0009】
本発明の車両運動設計装置においては、入力部から物理パラメータ又は心理パラメータのいずれか一方の値を入力すると、感性心理モデルにて表現された定量的な関係に従って、入力したパラメータの値に対応する他方のパラメータの値が評価値として演算され、その演算された評価値が出力部から出力される。この場合において、感性心理モデルにおける物理パラメータと心理パラメータとの定量的な関係を手掛かりとして、パラメータの入力値と、出力されたパラメータの評価値との対応関係を明確に把握することができる。従って、物理パラメータの値を入力部に与えた場合には、入力した物理パラメータの値と、その入力値が心理パラメータに与える影響、言い換えれば乗員の感性評価に与える影響との関係を明確に把握することができる。一方、心理パラメータの値を入力部に与えた場合には、乗員の感性評価と、その感性評価を実現するために必要な物理パラメータとの対応関係を明確に把握することができる。このように、車両の運動性能に関する物理パラメータと乗員の感性評価との関係を明確化できるため、車両の運動性能の設計作業においては、物理パラメータ又は心理パラメータのいずれか一方の値の変化が心理パラメータ又は物理パラメータに与える影響を予想しつつ評価値を最適化し、あるいは最適な評価値を得るための入力値を取得するといった手順で作業を進めることができる。これにより、試行錯誤的なパラメータの入力作業を不要とし、車両の運動性能を効率よく設計することが可能となる。」
イ「【0024】
[第1の形態]
図1は本発明に係る車両運動設計装置の一形態を示す。本形態の車両運動設計装置1は、車両の運動性能に関する物理パラメータ群と、その運動性能に対する乗員の感性評価を示す心理パラメータ群とを定量的に結び付け、一方のパラメータが他方のパラメータに与える影響を評価して装置のユーザに提示する装置である。このような機能を実現するため、本形態の車両運動設計装置1は、感性心理モデルデータベース2と、車両運動感性心理モデル演算部(以下、モデル演算部と略称する。)3と、車両運動値入出力部4と、感性評価値入出力部5と、車格・ユーザ層指定部6とを備えている。これらの構成は、単一のコンピュータ、又はネットワークで接続されたコンピュータ群を利用して実現される。
【0025】
感性心理モデルデータベース2は、車両の運動性能に関する複数の物理パラメータと、その車両の運動性能に関する乗員の感性評価を示す複数の心理パラメータとの関係を定量的に表現した感性心理モデルを蓄えたデータベースである。物理パラメータとしては、車両の前後、左右、上下方向の加速度、それらの加速度を時間により微分して得られる加々速度(ジャーク)、車両のロール、ピッチ、ヨーの角速度、あるいはそれらの角加速度、車両に搭載されたエンジンの音圧(又は音色)、走行時の音圧(又は音色)、座席のシートバックに加わる圧力(又は荷重)、その圧力の変化、乗員(一例として運転者)の頭部ピッチ角等がある。これらの例からも明らかなように、本発明における物理パラメータは、車両の運動そのものを決定付ける物理量に限らず、乗員が運動性能の一種として捉え得る各種の物理量を含む。一方、心理パラメータとしては、加速感、加速の伸び感、快適感、爽快感、軽快感、高級感、重量感、安定感、上質感、安心感等がある。これらの心理パラメータは、車両の運動性能を乗員がその感性で表現する際の指標として使用される各種の用語に対応する。
【0026】
図2は感性心理モデルの一例を示す。感性心理モデルは、複数の物理パラメータと複数の心理パラメータとがノードとしてネットワーク状に配置され、関連するノード同士がリンクで接続され、リンクに対して、ノード間の関連度の強さに応じた重み係数が付けられることにより、物理パラメータと心理パラメータとの関係が定量的に表現された形式を持つ。図2では、上述した物理パラメータに対応するノードが左端に配置され、心理量に最も近いパラメータノードが右端に配置されている。それらのパラメータノード間では、物理量に近いほどパラメータノードが左側に配置される。リンク間の重みは線の太さで示されており、太いほど重みが大きい。例えば、物理パラメータとしての前後ジャークはトルク特性、シート形状とリンクを持ち、前後ジャークとトルク特性とを結ぶリンクの重みは前後ジャークとシート形状とを結ぶリンクのそれよりも大きい。このような感性心理モデルを構築することにより、入力と出力との関係を可視化して車両運動設計装置1のユーザに入力値と出力値との関係を明確に提示することが可能となる。なお、本発明における心理パラメータは図2の右端に配置されたパラメータに限らず、心理的要素を含む限りにおいて、中間のパラメータノードとして配置されるパラメータも心理パラメータに含まれ得る。例えば、図2の「衰えない」、「どんどん加速する」といったパラメータノードは心理パラメータの一種である。
【0027】
図2に例示した感性心理モデルは、車両の車格及びユーザ層毎に個別に作成されて感性心理モデルデータベース2にそれぞれ蓄えられる。車格は、例えばコンパクトクラス、ミドルクラス、アッパークラス、スポーツクラスといったクラス別、排気量別、車両の開発コンセプト別等の適宜の指標に基づいて区分される。ユーザ層は、若年層男性、若年層女性、中年層男性、中年層女性、高齢層男性、高齢層女性といった年齢層別及び性別、職業別、国又は地域別、収入別等といった適宜の指標に基づいて区分される。
【0028】
次に、感性心理モデルの構築手順について述べる。なお、上記のように、感性心理モデルは車格、ユーザ層毎に構築されるめ、以下の手順は車格及びユーザ層別に実施される。まず、いわゆる評価グリッド法によるインタビュー調査を実施して感性心理モデルの原形となるネットワーク構造(評価構造図と呼ばれる。)を製作する。評価構造図は、評価に用いられた言葉である「評価語」をノードとし、各評価語ノードがリンクにて接続された構造をとる。ノードとして配置される評価語はインタビュー調査で得られた言葉から適宜に抽出される。なお、評価グリッド法を紹介する文献としては、例えば、「レパートリー・グリッド発展手法による住環境評価構造の抽出」(讃井純一郎著、日本建築学科計画系論文報告集、No.367、第15~21頁、1986年発行)がある。
【0029】
次に、評価構造図内に配置された評価語を用いて、評定尺度法によるアンケート調査を実施する。そのアンケート調査の結果と評価構造図とに基づいて、構造方程式モデリング(例えば「共分散構造分析 入門編」(豊田秀樹著、朝倉書店、1998年発行)に詳しい。)の手法を用いて評価構造図内に配置された各ノードを結ぶリンクの重み係数を求める。あるいは、ベイジアン・ネットワークの手法を用い、重み係数として、条件付き確率を求めてもよい。以上によって得られたノード、ノード間リンク及びリンクの重み係数(条件付き確率)を所定のフォーマットでデータ化することにより感性心理モデルが構築される。なお、上記の手順から明らかなように、感性心理モデルは、車格、ユーザ層毎にインタビュー調査、アンケート調査を通じて個別に作成されるため、ノードの配置、ノードの評価語、重み係数は車格、あるいはユーザ層毎に異なる。一方、車格及びユーザ層が共通であれば同一の感性心理モデルを使用することができる。つまり、評価対象の車両毎に感性心理モデルを別々に用意する必要はない。
【0030】
図1に戻って、モデル演算部3は、車両運動値入出力部4から入力される物理パラメータの値に基づいて、感性心理モデルを参照しつつ物理パラメータの入力値に対応する心理パラメータの値を演算し、演算された心理パラメータの値を運動性能に関する乗員の感性評価値として感性評価値入出力部5に出力する。また、モデル演算部3は、感性評価値入出力部5から入力される心理パラメータの値に基づいて、感性心理モデルを参照しつつ心理パラメータの入力値に対応する物理パラメータの値を演算し、演算された物理パラメータの値を運動性能に関する物理的な評価値として車両運動値入出力部4に出力する。演算手順は後述する。
【0031】
車両運動値入出力部4は、モデル演算部3に対して上述した物理パラメータの値を入力する入力インターフェース、及びモデル演算部3から評価値として出力される物理パラメータの値を受け取ってユーザに出力する出力インターフェースを備えている。感性評価値入出力部5は、モデル演算部3に対して心理パラメータの値を入力する入力インターフェース、及びモデル演算部3から感性評価値として出力される心理パラメータの値を受け取ってユーザに出力する出力インターフェースを備えている。各入出力部4、5において、パラメータの値の入力は、モニタ上への入力画面の表示と、キーボード、マウス等の適宜のハードウエア入力装置との組み合わせによって実現することができる。装置1のユーザへのパラメータの値の出力は、一例として不図示のモニタへの演算結果の表示によって実現される。
【0032】
車格・ユーザ層指定部6は、評価対象となる車両の車格及びユーザ層を指定する情報を入力する入力インターフェースを備えている。ユーザ層は、評価対象車両を開発するに際して、車両の購買層として意図されたユーザ層である。モデル演算部3はこの車格・ユーザ層指定部6にて指定された車格及びユーザ層に対応する感性心理モデルを感性心理モデルデータベース2から選択して所定の演算を実行する。」
ウ「【0040】
次に、車両運動設計装置1の動作を説明する。まず、物理パラメータの値を入力して、これに対応する心理パラメータの値を感性評価値として出力させる場合について説明する。車両運動設計装置1のユーザが、評価対象となる車両の車格とユーザ層とを車格選択部132及びユーザ層選択部133にて選択すると、それらの選択結果は車格・ユーザ層指定部6からモデル演算部3へと引き渡される。モデル演算部3は、与えられた車格及びユーザ層に対応する感性心理モデルを感性心理モデルデータベース2から読み込む。次に、ユーザが評価対象となる車両の運動性能に関する物理パラメータの値を車両運動値入出力エリア11に入力し、感性評価値変換ボタン130をクリック操作すると、車両運動値入出力部4からモデル演算部3に物理パラメータの入力値が引き渡される。なお、物理パラメータの入力値は、試作車両を用いて計測された値でもよいし、設計時に目標とする値でもよい。モデル演算部3は、物理パラメータの入力値を感性心理モデルの対応するノードに活性化量として当て嵌め、図2のモデルの左端から右端へ向かってリンクを辿りながら次式(1)を用いて各ノードの活性化量の演算を繰り返す。」
エ「【0044】
一方、心理パラメータの値を入力して、これに対応する物理パラメータの値を運動性能の物理的な評価値として出力させる場合の動作は次の通りである。まず、車両運動設計装置1のユーザが車格及びユーザ層を指定すると、これに応答して感性心理モデルデータベース2から感性心理モデルがモデル演算部3に読み込まれる。装置1のユーザが心理パラメータの値を感性評価値入出力エリア12に入力し、車両運動値変換ボタン131をクリック操作すると、感性評価値入出力部5からモデル演算部3に心理パラメータの入力値が引き渡される。心理パラメータの入力値は、評価対象となる車両に対して設計者が持たせたいと考える感性的要素に基づいて適宜に定めることができる。つまり、目標とする感性評価値を適宜に設定し、それらの値を心理パラメータの値として入力すればよい。心理パラメータの入力値を受け取ったモデル演算部3は、心理パラメータの入力値を感性心理モデルの対応するノードの活性化量として当て嵌め、図2のモデルの右端から左端へ向かってリンクを辿りながら上式(1)を用いて各ノードの活性化量の演算を繰り返す。」
オ「【0056】
次に、本形態の車両運動制御装置21の動作を説明する。車両の乗員、例えば運転者がその車両に関して自らが希望する運動性能に従って感性評価値入力部24に心理パラメータの値(感性評価値)を入力すると、その入力値が感性評価値入力部24からモデル演算部23に引き渡される。モデル演算部23は、心理パラメータの入力値を感性心理モデルに当て嵌めて、図2のモデルの右端から左端へ向かってリンクを辿りながら上式(1)を用いて各ノードの活性化量の演算を繰り返す。」
カ「【0068】
次に、本形態の車両運動制御装置31の動作を説明する。本形態の車両運動制御装置31では、車両の走行中において、感性心理モデルに含まれている物理パラメータに対応する物理量が車両運動値計測部36にて計測され、それらの計測値が物理パラメータの入力値として車両運動値入出力部34を介してモデル演算部33に適宜入力される。モデル演算部33は、物理パラメータの入力値を感性心理モデルの対応するノードに活性化量として当て嵌めて、図2のモデルの左端から右端へ向かってリンクを辿りながら上式(1)を用いて各ノードの活性化量の演算を繰り返す。」
キ「【0070】
感性評価値の出力に対して、乗員が自ら実感した感性評価値に応じて第2スライダ312の位置を調整すると、感性評価値差分入力部37は、その第2スライダ312の位置に対応する感性評価値を感性評価値入出力部35及びモデル修正演算部38に出力する。感性評価値差分入力部37から乗員の実感に基づく感性評価値が出力されると、モデル修正演算部38は、車両運動値入出力部34から受け取った物理パラメータの入力値と、感性評価値差分入力部37から受け取った感性評価値とのセットを用いて、感性心理モデルデータベース22に蓄えられた感性心理モデルを修正する。その修正は、車両運動値入出力部34から与えられた物理パラメータの入力値に対応してモデル演算部33が演算した感性評価値と、感性評価値差分入力部37にて入力された乗員の実感に基づく感性評価値との差分が減少(解消も含む。)するように行われる。すなわち、感性心理モデルの物理パラメータに対応するノードに対して、車両運動値入出力部34から与えられた物理パラメータの入力値を活性化量として当て嵌め、感性心理モデルの心理パラメータに対応するノードに対して感性評価値差分入力部37から与えられた感性評価値を活性化量として当て嵌め、これらの活性化量の関係に矛盾が生じないようにリンクの重み係数を再計算する。但し、差分を減少させるために、ノードに与えられた誤差を修正してもよい。
【0071】
一方、感性評価値入出力部35は、モデル演算部33から受け取った感性評価値と、感性評価値差分入力部37から受け取った感性評価値との差分を検出し、その差分に応じて、モデル演算部33から受け取った感性評価値を修正し、修正後の感性評価値を心理パラメータの入力値(目標とする感性評価値)としてモデル演算部33に出力する。例えば、モデル演算部33にて演算された感性評価値よりも実感に基づく感性評価値の方が小さい(低い)場合には、演算された感性評価値をそれらの差分に応じた程度に大きく(高く)設定してモデル演算部33に出力する。モデル演算部33にて演算された感性評価値よりも実感に基づく感性評価値の方が大きい場合には、演算された感性評価値を僅かに小さく設定し、あるいはそのまま修正せずにモデル演算部33に出力する。
【0072】
感性評価値入出力部35から修正後の感性評価値を受け取ったモデル演算部33は、その感性評価値に対応するパラメータノードの活性化量を修正後の感性評価値に変更し、感性心理モデルの右端から左端へとリンクを辿りながら上式(1)の演算を繰り返して各ノードの活性化量を演算する。感性心理モデルの左端まで演算が終了すると、モデル演算部33は感性心理モデルの左端のノードの活性化量を物理パラメータの演算値として車両運動値入出力部34に出力する。車両運動値入出力部34は、モデル演算部33から与えられた物理パラメータの値を車両運動値制御部26に出力する。そして、車両運動値制御部26が、与えられた物理パラメータに応じた制御指令を制御コンピュータ27~29の全部又は一部に出力することにより、乗員の実感に基づく感性評価値を反映した車両の運動性能の制御が実現される。」
ク「【図2】
[図:0001436226000001.jpg]
」
ケ「【図9】
[図:0001436226000002.jpg]
」
コ 上記「ア-ケ」より、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、以下の甲1発明において、各文節の末尾の括弧書きは、甲1の参照箇所を示す。
「車両運動設計装置において、
感性心理モデルにおける物理パラメータと心理パラメータとの定量的な関係を手掛かりとして、入力部から心理パラメータの値を入力すると、感性心理モデルにて表現された定量的な関係に従って、入力した心理パラメータの値に対応する物理パラメータの値が評価値として演算され、その演算された評価値が出力部から出力され、乗員の感性評価と、その感性評価を実現するために必要な物理パラメータとの対応関係を明確に把握することができ、(【0009】参照。)
このような機能を実現するため、車両運動設計装置1は、感性心理モデルデータベース2と、車両運動感性心理モデル演算部(以下、モデル演算部と略称する。)3と、車両運動値入出力部4と、感性評価値入出力部5と、車格・ユーザ層指定部6とを備え、これらの構成は、単一のコンピュータ、又はネットワークで接続されたコンピュータ群を利用して実現され、(【0024】参照。)
感性心理モデルデータベース2は、車両の運動性能に関する複数の物理パラメータと、その車両の運動性能に関する乗員の感性評価を示す複数の心理パラメータとの関係を定量的に表現した感性心理モデルを蓄えたデータベースであり、(【0025】参照。)
物理パラメータとしては、車両の前後、左右、上下方向の加速度、それらの加速度を時間により微分して得られる加々速度(ジャーク)、車両のロール、ピッチ、ヨーの角速度、あるいはそれらの角加速度、車両に搭載されたエンジンの音圧(又は音色)、走行時の音圧(又は音色)、座席のシートバックに加わる圧力(又は荷重)、その圧力の変化、乗員(一例として運転者)の頭部ピッチ角等があり、(【0025】参照。)
心理パラメータとしては、加速感、加速の伸び感、快適感、爽快感、軽快感、高級感、重量感、安定感、上質感、安心感等があり、(【0025】参照。)
モデル演算部3は、感性評価値入出力部5から入力される心理パラメータの値に基づいて、感性心理モデルを参照しつつ心理パラメータの入力値に対応する物理パラメータの値を演算し、演算された物理パラメータの値を運動性能に関する物理的な評価値として車両運動値入出力部4に出力し、(【0030】参照。)
例えば運転者がその車両に関して自らが希望する運動性能に従って感性評価値入力部24に心理パラメータの値(感性評価値)を入力すると、その入力値が感性評価値入力部24からモデル演算部23に引き渡され、モデル演算部23は、心理パラメータの入力値を感性心理モデルに当て嵌め、各ノードの活性化量の演算を繰り返し、(【0056】参照。)
また例えば、感性評価値の出力に対して、乗員が自ら実感した感性評価値に応じて第2スライダ312の位置を調整すると、感性評価値差分入力部37は、その第2スライダ312の位置に対応する感性評価値を感性評価値入出力部35及びモデル修正演算部38に出力し、感性評価値差分入力部37から乗員の実感に基づく感性評価値が出力されると、モデル修正演算部38は、車両運動値入出力部34から受け取った物理パラメータの入力値と、感性評価値差分入力部37から受け取った感性評価値とのセットを用いて、感性心理モデルデータベース22に蓄えられた感性心理モデルを修正し、感性評価値入出力部35から修正後の感性評価値を受け取ったモデル演算部33は、その感性評価値に対応するパラメータノードの活性化量を修正後の感性評価値に変更し、感性心理モデルの右端から左端へとリンクを辿りながら演算を繰り返して各ノードの活性化量を演算し、(【0071】参照。)
感性心理モデルの左端まで演算が終了すると、モデル演算部33は感性心理モデルの左端のノードの活性化量を物理パラメータの演算値として車両運動値入出力部34に出力する、(【0072】参照。)
車両運動設計装置。」
(2)甲第2号証
本願の出願前である2019年(令和元年)に公開された、長田典子,「解説 感性の指標化とプロダクトデザインへの応用」,電子情報通信学会誌,2019年,Vol.102,No.9,p.873-p.880(以下「甲2」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア「(ア) 2.1 感性の階層構造と印象の定量化
感性研究において中心的なトピックの一つが印象(イメージ)の定量化である.プロダクトデザイン分野においても,人がプロダクトに対して「好き」や「欲しい」などの感性価値(感情を含む)を抱くのは,「かわいい」や「美しい」などの印象によるものであり,またそうした印象は色や表面性状などの物理要因によって形成されると捉えられている.そこで感性研究ではしばしば, 感性のモデルを図1のように「感情-印象-物理量」の3層から成る階層構造として表現する.印象層を介することで‘ ひと' (価値)と‘ もの'(物理要因)の対応関係における感性的な価値形成の根拠(因果関係)が明らかになり,プロダクトデザインヘのフィードバックが容易になる.また印象層で個人差の補正を行えるので,モデル全体の精度が上がるというメリットもある.
感性の構造化・定量化には,主観評価実験で得られたデータに対して多変量解析などの統計的 手法やニューラルネットなどの機械学習手法が用いられる.・・・」(873頁右欄第7-24行)
イ「図1
[図:0001436226000003.jpg]
」(874頁)
ウ「図2
[図:0001436226000004.jpg]
」(874頁)
エ「(エ)2.2 機械学習による感性指標の自動構築と得点化
そこで主観評価実験を行わなくても,感性の階層構造にのっとった指標を構築する手法が望まれる・・・ 筆者らは感性の階層モデルをWeb上のテキストデータから機械学習により自動構築する手法を提案し,プロダクトのレビューデータを用いて検証した.本手法は評価表現の階層構造化,印象トピックの抽出,感情の得点化の3ステップからなる.まず評価表現の階層構造化では,アプレイザル理論に基づく評価表現辞書を用いる.アプレイザル理論では評価表現を外評価/内評価の2種類のカテゴリーに分類している.外評価は「きれい」,「柔らかい」など対象の印象を表し,内評価は「うれしい」,「楽しい」など評価者の感情を表す.Web上から収集する評価語には印象語と感情語が混在しており,これらを区別できないという問題があった.そこでアプレイザル評価表現辞書における内評価/外評価のカテゴリーに基づき印象層/感情層に分類することにより,階層化を実現した.次に印象層において,印象語のみを用いたHDP-LDA(階層ディリクレ過程潜在ディリクレ配分法)による印象トピック(従来手法における主要因子に相当する)の抽出を行い,プロダクトごとに印象トピックの得点を算出する.更に感情層において,感情表現辞典を用いて10種類の感情カテゴリー(喜怒哀怖恥好厭昂安驚)と係り受け解析から,印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出する.最終的に,各プロダクトが印象を介して喚起される感情の得点を算出したり,逆にある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを,印象を介して求めたりすることができる.」(875頁左欄第1行-876頁左欄第5行)
オ「図3
[図:0001436226000005.jpg]
」
(875頁)
カ「3.1 シミュレーションを利用したデザイン支援
感性指標化技術とシミュレーション技術を組み合わせると,‘もの’から感性,感性から‘もの’への双方向の変換が可能となる.これによりユーザが所望するデザインを生成・推薦したり,感性語でデザインを検索できたりというデザイン支援が行える.・・・」(876頁右欄第2-7行)
キ「図4
[図:0001436226000006.jpg]
」
(877頁)
ク「3.3 触覚的質感のシミュレーション
最近,視覚的質感とともに触覚的質感に関する産業界からのニーズが急増している.筆者らは所望の触覚的質感を実現する枠組みとして,触感計測,シミュレーション,ディスプレイ技術に関する基盤技術と応用研究を進めている(図6).触感を構成する低次の要因としては指先が触れる表面性状(ハイトマップ)と接触時に生じる相互作用力の周波数空間における特徴量の違い(指がどのように変形するか)が挙げられ,高次の要因としては,それら特徴量から脳内でどのような触覚的質感が構成されるかの個人差や時間的・空間的変化を含む触覚的質感予測モデルの違いが挙げられる.本技術を視覚的質感と同じく自動車内装の樹脂板に応用し,触覚的質感を操作した樹脂板を実際に作成して効果検証実験を行った.作成した樹脂板が設計意図(e.g.「スマートさ」が+2)どおりの印象変化を持つことが主観(触感)評価実験により確かめられた.また本技術は化粧品開発にも採用され,化粧水の「ふき取り感触」の定量化と処方開発にも寄与している.」(877頁右欄第15行-879頁左欄第2行)
ケ「図5
[図:0001436226000007.jpg]
」
(878頁)
コ「図6
[図:0001436226000008.jpg]
」
(879頁)
サ「4. 感性センシング
・・・
指標の構成において,一般的な感情についてはコアアフェクトモデルが有用である.快-不快,覚醒-眠気の二次元で構成されており,多くの研究でその妥当性が検証されている.ものづくり場面における感情の指標化に本モデルを適用し,喚起される感情が熟達の過程で変化していくことなどを明らかにした.
・・・
非接触センシング方法では,個別の生理心理指標(表情,視線,心電,筋電,行動,発汗ほか)の一部については非接触非侵襲でリアルタイム計測可能になっている.しかし最終的な感情推定には統合的処理が必要であり,・・・」(879頁右欄第3-28行)
シ 上記「ア-サ」より、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「プロダクト(腕時計)のレビューデータ(レビューテキスト)を用いて、Web上のテキストデータから、感情語及び印象語を抽出し、印象語のみから印象トピックを抽出し、プロダクト毎に印象トピックの得点を算出し、印象トピックと10種類の感情カテゴリーとの係り受け解析から、印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出してデータセットを作成して、そのデータセットを用いた機械学習により自動構築して、感性の階層モデルを作成し、その感性の階層モデルを用いて、各プロダクトが印象を介して喚起される感情の得点を算出したり、逆にある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを、印象を介して求めたりすることができる、システム及び方法。」
(3)甲第3号証
本願の出願前である2017年9月13日に公開された、長田典子 他,「デジタル質感生成システム」,2017年度日本認知科学会第34回大会論文集,2017年9月13日公開,p.532-p.535(以下「甲3」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア「2. 目的
そこで,我々はデジタルモノづくりにおいて所望の質感を実現する枠組みとして,デジタル質感生成システムを提案する.本システムの要素研究として,人がモノに対して感じ取る質感と,そのモノの物理的な性質との関係性を明らかにするための研究と,質感と印象,さらにはそれらとモノの良し悪しや好みといった感性価値との関係を明らかにするための研究を,様々な素材を対象に行っている.」(532頁右欄下から2行目-533頁左欄第7行)
イ「そして,心理実験に使用した評価対象の物理特徴量を抽出し,それらから因子得点を推定する予測モデル(モノ→感性の順方向プロセス)を構築する.これを利用して,ヒトがある質感や印象を抱くように既存のモノに変更を加える質感生成アルゴリズム(感性→モノの逆方向プロセス)を構築するための研究も併せて行っている(図1)。)(533頁左欄第12-18行)
ウ「図1
[図:0001436226000009.jpg]
」
(533頁左欄)
エ「したがって,テクスチャの物理特性と質感の関係を明らかにし,さらには所望の質感からそれを実現するテクスチャの物理特性を導き出すことができれば,企業や個人の別なくモノづくりにおいて非常に有用であると考えられる.」(533頁右欄第14-18行)
オ「各テクスチャに対する評価の平均を算出し,評価における潜在因子を推定するために因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った.因子分析の結果,3因子が抽出され,評価語の因子負荷量からそれぞれ「瑞々しさ」,「ざらざら感」,「好ましさ」と命名した.」(534頁左欄第20-24行)
カ「デジタル質感生成システムを実現するために,質感評価実験と物理計測を行っている.質感の強度と物理統計量の関係を,次元縮約と重回帰分析により定式化した.構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定した.推定された物理統計量群を用いて物体を合成する手法を開発した。」(535頁左欄第20-25行)
キ 前記「ア-カ」より、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「デジタルモノづくりにおいて所望の質感を実現する枠組みとしてのデジタル質感生成システムであって、
質感評価実験と物理計測を行い、
質感の強度と物理統計量の関係を、次元縮約と重回帰分析により定式化し、
構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定し、
推定された物理統計量群を用いて物体を合成し、
質感評価実験における、評価の3因子は「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」とした、
システム及びその方法。」
2.本件発明1の項目分けについて
本件発明1は、前記「第2」に示したとおりであるが、以下の異議申立理由1及び2の検討のために以下のように、構成A-Dに構成分けを行う。
「【請求項1】
A コンピュータが行う情報処理方法であって、
B 対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得し、
C 複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する、
D 情報処理方法。」
3.<異議申立理由1>特許法第29条第1項第3号(新規性違反)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比・判断について
ア 対比
甲1発明を本件発明1と対比する。
(ア)構成A及び構成Dについて
a 甲1発明の「車両運動設計装置」は、当該装置の中で車両運動設計を行うものと認められ、当該車両運動設計はコンピュータにより行われると認められる。よって、甲1発明が行う車両運動設計は、本件発明1の「コンピュータが行う情報処理方法」に相当する。
b 以上のことから、甲1発明は、本件発明1の構成A及び構成Dに相当する構成を備えている。
(イ)構成Bについて
a 甲1発明の「加速感、加速の伸び感、快適感、爽快感、軽快感、高級感、重量感、安定感、上質感、安心感等」の「心理パラメータ」は、車両の運動に対する乗員(一例として運転者)が感じる印象である。したがって、甲1発明の「車両」、「乗員(一例として運転者)」及び「心理パラメータ」は、それぞれ本件発明1の「対象」、「人」及び「対象に対して」の「印象」に相当する。
(ウ)構成Cについて
a 甲1発明の「加速感、加速の伸び感、快適感、爽快感、軽快感、高級感、重量感、安定感、上質感、安心感等」の「心理パラメータ」は、車両の運動に対する乗員(一例として運転者)が感じる印象である。したがって、甲1発明の「心理パラメータ」は、本件発明1の「対象に対して」「人が受ける」「印象」である「感情印象」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
A、D コンピュータが行う情報処理方法。
(相違点1)構成B-Cについて
本件発明1は、「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得し、複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する」のに対し、甲1発明は、車両の運動に対する乗員が感じる印象である心理パラメータを感性評価値入出力部5で取得し、その心理パラメータの値に基づいてモデル演算部3にて、車両の運動性能に関する複数の物理パラメータと、その車両の運動性能に関する乗員の感性評価を示す複数の心理パラメータとの関係を定量的に表現した感性心理モデルを蓄えたデータベースである感性心理モデルデータベース2を参照して、心理パラメータの入力値に対応する物理パラメータの値を演算し、演算された物理パラメータの値を運動性能に関する物理的な評価値として車両運動値入出力部4に出力する点。
イ 相違点1についての判断
相違点1について検討する。
(ア)本件発明1の「感情情報」は、構成Bにも示されているように「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す」ものであり、本件特許明細書の段落【0018】にも例示されるように、対象(部屋)に対する印象(明るい)を受けた後に生じる人の感情(<A>自分の気持ちまでも明るくなると感じる。<B>明るい部屋にいるので落ち着かない。<C>明るい部屋は不快である。)である。
(イ)一方、甲1発明の心理パラメータは、加速感、加速の伸び感、快適感、爽快感、軽快感、高級感、重量感、安定感、上質感、安心感等であり、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して受ける印象である。よって、甲1発明の心理パラメータは、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して印象(心理パラメータ)を受けた後に生じる感情とは異なるものといえる。
(ウ)また、甲1発明は、心理パラメータの値に基づいて、感性心理モデルを参照しつつ心理パラメータの入力値に対応する物理パラメータの値を演算することから、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して受ける印象である感情印象を推定するものではない。
(エ)以上のことから、前記相違点1は、甲1発明と本件発明1との間の実質的な相違点ではないとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、異議申立書において、前記相違点1に関する構成B-Cについて以下の旨の主張をしている。<申立人の主張の要旨>「甲1号証には、乗員の感性評価を示す心理パラメータとして、「快適感」「安心感」「高級感」等が明示されており(【0025】)、これらは対象(車両の運動性能)に対して印象を受けた後に生じる感情を表す情報である。また、乗員が自ら実感した感性評価値を入力し、その入力値が感性評価値として取得される構成が記載されている(【0070】-【0072】)。」「甲1号証には、複数の物理パラメータ、印象に相当する中間的心理パラメータ、および感情に相当する心理パラメータが、ノードおよびリンクによりネットワーク状に関連付けられた感性心理モデルが記載されている(【0026】、【0027】、図2)。この感性心理モデルは、アンケート調査に基づいて得られた評価語を用い、構造方程式モデリングやベイジアン・ネットワークにより、各ノード間の重み係数を定量化することにより構築される(【0029】)。 さらに、モデル演算部は、取得された心理パラメータの値を入力として、感性心理モデルを参照し、対応する他の心理パラメータ、すなわち印象側または物理側の値を演算により求める(【0030】、【0044】)。この演算は、複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて行われるものであり、取得された感情情報から、対象に対して人が受ける印象に相当する心理的評価を推定する処理に他ならない。」 (令和8年4月7日提出の手続補正書の第20頁第3行-第21頁第2行参照。)
(イ)しかしながら、前記「イ(イ)」で説示したとおり、甲1発明の心理パラメータは、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して印象(心理パラメータ)を受けた後に生じる感情とは異なるものといえる。
(ウ)さらに、甲1発明の感性心理モデルを用いたモデル演算部は、前記「イ(ウ)」で説示したとおり、心理パラメータの値に基づいて、感性心理モデルを参照しつつ心理パラメータの入力値に対応する物理パラメータの値を演算することから、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して受ける印象である感情印象を推定するものではない。
(エ)そして、甲1発明において、人(乗員(一例として運転者))が入力するものは、甲1の段落【0070】-【0072】及び【図9】に示されるように乗員が自ら実感した印象(スーッと出る感じ、衰えない感じ、どんどん加速する、期待通り、押しつけられる、高音の良さ)の程度であり、その印象を受けた後に生じる人の感情(印象に対する主観的感情)ではない。したがって、甲1発明で人(乗員(一例として運転者))から取得する情報は、対象(車両の運動)に対して印象(心理パラメータ)を受けた後に生じる感情を示す感情情報であるとはいえないし、当該甲1発明で人から取得する情報が、対象(車両の運動)に対して人(乗員(一例として運転者))が受ける印象、すなわち本件発明1の感情印象であるといえる。
(オ)ゆえに、甲1発明では、本件発明1の「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得」すること(構成B)も、「複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する」こと(構成C)も備えていない。
(カ)したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは前記相違点1で相違し、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(2)甲1発明に対する本件発明2,3,6,8及び10について
本件発明2,3,6,8及び10は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲1発明とは、前記相違点1で少なくとも相違する。
相違点1については、前記「(1)イ-ウ」で検討したとおりであるから、前記「(1)」で説示したのと同じ理由により、本件発明2,3,6,8及び10は、甲1発明であるとはいえない。
(3)甲1発明に対する本件発明11について
本件発明11は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「システム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲1発明とは、前記相違点1と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(1)」で説示したのと同じ理由により、本件発明11は、甲1発明であるとはいえない。
(4)甲1発明に対する本件発明12について
本件発明12は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「プログラム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲1発明とは、前記相違点1と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(1)」で説示したのと同じ理由により、本件発明12は、甲1発明であるとはいえない。
(5)本件発明1と甲2発明との対比・判断について
ア 対比
甲2発明を本件発明1と対比する。
(ア)構成A及び構成Dについて
a 甲2発明の「方法」は、当該方法の中で「機械学習により」「感性の階層モデルを作成」することを含んでおり、機械学習はコンピュータを用いて行われることは自明であることから、コンピュータにより行われる工程を含む方法であると認められる。よって、甲2発明の「方法」は、本件発明1の「コンピュータが行う情報処理方法」に相当する。
b 以上のことから、甲2発明は、本件発明1の構成A及び構成Dに相当する構成を備えている。
(イ)構成Bについて
a 甲2発明の「プロダクト(腕時計)のレビューデータ(レビューテキスト)」は、レビューを書いた者の、対象(腕時計)に対する印象(レビュー)を記載したテキストデータである。したがって、甲2発明の「プロダクト(腕時計)」、「レビューを書いた者」及び「レビューデータ(レビューテキスト)」は、それぞれ本件発明1の「対象」、「人」及び「対象に対して」の「印象」に相当する。
(ウ)構成Cについて
a 甲2発明の「レビューテキスト」内の「印象語」は、プロダクト(腕時計)に対してレビューを書いた者が感じる印象をテキストにしたものである。したがって、甲2発明の「レビューテキスト」内の「印象語」は、本件発明1の「対象に対して」「人が受ける」「印象」である「感情印象」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
A、D コンピュータが行う情報処理方法。
(相違点2)構成B-Cについて
本件発明1は、「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得し、複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する」のに対し、甲2発明は、プロダクト(腕時計)に対するレビューを書いた者が感じる印象であるレビューデータ(レビューテキスト)を用い、テキストデータから、感情語及び印象語を抽出し、印象語のみから印象トピックを抽出し、プロダクト毎に印象トピックの得点を算出し、印象トピックと10種類の感情カテゴリーとの係り受け解析から、印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出してデータセットを作成して、そのデータセットを用いた機械学習により自動構築して、感性の階層モデルを作成し、その感性の階層モデルを用いて、各プロダクトが印象を介して喚起される感情の得点を算出したり、逆にある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを、印象を介して求めたりする点。
イ 相違点2についての判断
相違点2について検討する。
(ア)本件発明1の「感情情報」は構成Bにも示されているように「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す」ものであり、本件特許明細書の段落【0018】にも例示されるように、対象(部屋)に対する印象(明るい)を受けた後に生じる人の感情(<A>自分の気持ちまでも明るくなると感じる。<B>明るい部屋にいるので落ち着かない。<C>明るい部屋は不快である。)である。
(イ)一方、甲2発明のレビューデータ(レビューテキスト)の印象語は、甲2の図3にも例示されているように、「上品だ、重い、面白い、小さい、高級だ、珍しい、きゃしゃだ、重厚だ、しゃれた」等であり、レビューを書いた者が腕時計に対して受ける印象を語で表したものである。よって、甲2発明のレビューデータ(レビューテキスト)の印象語は、人(レビューを書いた者)が対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情とは異なると認められる。また、甲2発明の印象語を因子としてまとめた印象トピックについても同様に、人(レビューを書いた者)が対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情とは異なるものといえる。
(ウ)また、甲2発明の「感性の階層モデル」は、「プロダクト毎に印象トピックの得点を算出し、印象トピックと10種類の感情カテゴリーとの係り受け解析から、印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出してデータセットを作成して、そのデータセットを用いた機械学習により自動構築して」作成されたものであるから、プロダクトと、印象トピックの得点及び印象トピックそれぞれの10種類の感情得点と、の対応関係を求めたものである。よって、甲2発明の感性の階層モデルは、複数の感情と複数の印象との対応関係を示すものではない。
(エ)さらに、甲2発明は、ある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを、印象を介して求めたりすることができる方法であるものの、感性の階層モデルに入力されるものはあくまで印象であり、出力されるものはプロダクトであるから、「対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情」である感情情報を入力して、「対象(腕時計)対して人が受ける印象である感情印象」を推定するものではない。
(オ)以上のことから、前記相違点2は、甲2発明と本件発明1との間の実質的な相違点ではないとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、異議申立書において、前記相違点2に関する構成B-Cについて以下の旨の主張をしている。<申立人の主張の要旨>「甲2号証では、Web上のレビュー文を含むデータから人の感情を表す語を抽出し、「感情層」として整理していることが明示されている(2. 2節 第2段落「感情層において,感情表現辞典を用いて10種類の感情カテゴリー(喜怒哀怖恥好厭昂安驚)と係り受け解析から,印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出する。」)。ここで記載される「感情得点」は、人が対象(プロダクト)の印象を受けた後に抱く感情を数量化したものであり、感情情報を取得する行為に相当する。」「甲2号証では、感性のモデルを「感情-印象-物理量」の3層構造として表現し(2.1節 第1段落「感性のモデルを図1のように『感情-印象-物理量』の3層から成る階層構造として表現する。」)、感情と印象との間に因果的対応関係があることを示している。 さらに、2.2節 第2段落において、「感情層」および「印象層」がそれぞれ対応付けられ、印象トピックの得点と感情得点とが関連付けられて算出されることが記載されている(「プロダクトごとに印象トピックの得点を算出する。更に感情層において...印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出する。最終的に,各プロダクトが印象を介して喚起される感情の得点を算出したり,逆にある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを,印象を介して求めたりすることができる。」)。 このように、甲2号証には、複数の感情と複数の印象の対応関係をモデルにより定義し、取得した感情情報から印象を推定する処理が記載されている。」 (令和8年4月7日提出の手続補正書の第39頁第12行-第40頁第14行参照。)
(イ)しかしながら、前記「イ(イ)」で説示したとおり、甲2発明のレビューデータ(レビューテキスト)の印象語は、人(レビューを書いた者)が対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情とは異なると認められる。そして、前記「イ(ウ)」で説示したとおり、印象語から求めた印象トピックの感情得点は、印象トピックと10種類の感情カテゴリーとの係り受け解析という決まり事により生み出された得点であることから、同じ印象でも各個人で異なる感情となる、「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報」とは異なるものといえる。
(ウ)さらに、甲2発明の感性の階層モデルを用いた処理は、前記「イ(エ)」で説示したとおり、感性の階層モデルに入力されるものはあくまで印象であり、出力されるものはプロダクトであるから、「対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情」である感情情報を入力して、「対象(腕時計)対して人が受ける印象である感情印象」を推定するものではない。
(エ)そして、甲2発明は、「プロダクト(腕時計)のレビューデータ(レビューテキスト)を用いて、Web上のテキストデータから、感情語及び印象語を抽出し、印象語のみから印象トピックを抽出し、プロダクト毎に印象トピックの得点を算出し、印象トピックと10種類の感情カテゴリーとの係り受け解析から、印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出してデータセットを作成して、そのデータセットを用いた機械学習により自動構築して、感性の階層モデルを作成」することから、レビューデータ(レビューテキスト)の「印象語」のみを用い、印象語から感情得点を算出している。すなわち、甲2発明において、レビューデータ(レビューテキスト)から得ているものは、対象(腕時計)に対して人(レビューを書いた者)が受ける印象(印象語)である感情印象である。
(オ)ゆえに、甲2発明では、本件発明1の「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得」すること(構成B)も、「複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する」こと(構成C)も備えていない。
(カ)したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
以上のことから、本件発明1と甲2発明とは前記相違点2で相違し、したがって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
(6)甲2発明に対する本件発明2,3,6,8及び10について
本件発明2,3,6,8及び10は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲2発明とは、前記相違点2で少なくとも相違する。
相違点2については、前記「(5)イ-ウ」で検討したとおりであるから、前記「(5)」で説示したのと同じ理由により、本件発明2,3,6,8及び10は、甲2発明であるとはいえない。
(7)甲2発明に対する本件発明11について
本件発明11は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「システム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲2発明とは、前記相違点2と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(5)」で説示したのと同じ理由により、本件発明11は、甲2発明であるとはいえない。
(8)甲2発明に対する本件発明12について
本件発明12は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「プログラム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲2発明とは、前記相違点2と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(5)」で説示したのと同じ理由により、本件発明12は、甲2発明であるとはいえない。
(9)本件発明1と甲3発明との対比・判断について
ア 対比
甲3発明を本件発明1と対比する。
(ア)構成A及び構成Dについて
a 甲3発明の「デジタル質感生成システム及びその方法」は、当該システムの中で「質感評価実験と物理計測を行い、質感の強度と物理統計量の関係を、次元縮約と重回帰分析により定式化し、構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定し、推定された物理統計量群を用いて物体を合成」することを含んでおり、重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定することはコンピュータを用いて行われる、ということは、当業者において自明であることから、コンピュータにより行われる工程を含む方法であると認められる。よって、甲3発明の「デジタル質感生成システム」は、本件発明1の「コンピュータが行う情報処理方法」を行うシステム及びその方法であると認められる。
b 以上のことから、甲3発明は、本件発明1の構成A及び構成Dに相当する構成を備えている。
(イ)構成Cについて
a 甲3発明の「質感評価実験」は、評価の3因子は「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」としたものであることから、対象の印象(質感)を「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」という評価軸で評価していると認められる。したがって、甲3発明の「質感評価実験」の『「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」』は、本件発明1の「対象に対して」「人が受ける」「印象」である「感情印象」に相当する。
(ウ)以上によれば、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
A、D コンピュータが行う情報処理方法。
(相違点3)構成B-Cについて
本件発明1は、「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得し、複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する」のに対し、甲3発明は、質感評価実験における、評価の3因子を「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」とし、質感評価実験と物理計測を行い、質感の強度と物理統計量の関係を、次元縮約と重回帰分析により定式化し、構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定する点。
イ 相違点3についての判断
相違点3について検討する。
(ア)本件発明1の「感情情報」は構成Bにも示されているように「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す」ものであり、本件特許明細書の段落【0018】にも例示されるように、対象(部屋)に対する印象(明るい)を受けた後に生じる人の感情(<A>自分の気持ちまでも明るくなると感じる。<B>明るい部屋にいるので落ち着かない。<C>明るい部屋は不快である。)である。
(イ)一方、前記「ア(イ)」で説示したとおり、甲3発明の「質感評価実験」の『「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」』は、「対象に対して」「人が受ける」「印象」である「感情印象」に相当するものであり、甲3発明では、人が対象に対して印象を受けた後に生じる感情を取得しているとはいえない。
(ウ)そして、甲3発明は、「質感の強度と物理統計量の関係」を「構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定」するものであるから、質感に相当する『「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」』、すなわち感情印象を入力して物理統計量を推定している。よって、甲3発明の「質感の強度と物理統計量の関係」を「構築した重回帰式」は、複数の感情と複数の印象との対応関係を示すものではないし、したがって、甲3発明は「対象に対して印象を受けた後に生じる感情」である感情情報を入力して、「対象に対して人が受ける印象である感情印象」を推定するものではない。
(エ)以上のことから、前記相違点3は、甲3発明と本件発明1との間の実質的な相違点ではないとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、異議申立書において、前記相違点3に関する構成B-Cについて以下の旨の主張をしている。<申立人の主張の要旨>「甲3号証には、「デジタル質感生成システムを実現するために,質感評価実験と物理計測を行っている.質感の強度と物理統計量の関係を,次元縮約と重回帰分析により定式化した.構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定した」(「5.まとめ」第2段落)と記載されており、ここで言う「質感の強度」は、人がモノに対して受けた印象・感情を表す情報である。また、「ヒトがある質感や印象を抱くように既存のモノに変更を加える質感生成アルゴリズム(感性→モノの逆方向プロセス)を構築するための研究も併せて行っている(図1)」(「2.目的」第2段落)との記載からも、人によって感じ取られた質感や印象(感情情報)が取得されていることが明示されている。」「甲3号証には、「心理実験に使用した評価対象の物理特徴量を抽出し,それらから因子得点を推定する予測モデル(モノ→感性の順方向プロセス)を構築する.これを利用して,ヒトがある質感や印象を抱くように既存のモノに変更を加える質感生成アルゴリズム(感性→モノの逆方向プロセス)を構築するための研究も併せて行っている(図1)」(「2.目的」第2段落)と記載されている。 この順方向プロセス及び逆方向プロセスの記載から、印象や感情に関するデータを基に印象・感情を推定する演算が行われることが明らかであり、感情情報に基づいて印象(感情印象)を推定する構成が甲3号証に開示されている。」 (令和8年4月7日提出の手続補正書の第56頁第2行-同頁最終行参照。)
(イ)しかしながら、前記「イ(イ)」で説示したとおり、甲3発明の「質感評価実験」の『「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」』は、「対象に対して」「人が受ける」「印象」である「感情印象」に相当するものであり、「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報」とは異なると認められる。したがって、甲3発明では、人が対象に対して印象を受けた後に生じる感情を取得しているとはいえない。
(ウ)さらに、甲3発明の「質感の強度と物理統計量の関係」を「構築した重回帰式に基づい」た処理は、前記「イ(ウ)」で説示したとおり、複数の感情と複数の印象との対応関係を示すものではないし、したがって、甲3発明は「対象に対して印象を受けた後に生じる感情」である感情情報を入力して、「対象に対して人が受ける印象である感情印象」を推定するものではない。
(エ)ゆえに、甲3発明では、本件発明1の「対象に対して印象を受けた後に生じる人の感情を示す感情情報を取得」すること(構成B)も、「複数の感情と複数の印象との対応関係に基づいて、取得された前記感情情報から前記対象に対して前記人が受ける前記印象である感情印象を推定する」こと(構成C)も備えていない。
(オ)したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
以上のことから、本件発明1と甲3発明とは前記相違点3で相違し、したがって、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。
(10)甲3発明に対する本件発明2,3,8及び10について
本件発明2,3,8及び10は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲3発明とは、前記相違点3で少なくとも相違する。
相違点3については、前記「(9)イ-ウ」で検討したとおりであるから、前記「(9)」で説示したのと同じ理由により、本件発明2,3,8及び10は、甲3発明であるとはいえない。
(11)甲3発明に対する本件発明11について
本件発明11は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「システム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲3発明とは、前記相違点3と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(9)」で説示したのと同じ理由により、本件発明11は、甲3発明であるとはいえない。
(12)甲3発明に対する本件発明12について
本件発明12は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「プログラム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲3発明とは、前記相違点3と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(9)」で説示したのと同じ理由により、本件発明12は、甲3発明であるとはいえない。
(13)異議申立理由1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1-3,6,8及び10-12は、甲1発明であるとはいえないし、本件発明1-3,6,8及び10-12は、甲2発明であるとはいえないし、本件発明1-3,8及び10-12は、甲3発明であるとはいえないから、申立人の特許法第29条第1項第3号についての異議申立理由は、理由がない。
4.<異議申立理由2>特許法第29条第2項(進歩性違反)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比・判断について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断については、前記「3.(1)」に説示したとおりであり、本件発明1と甲1発明との相違点である前記相違点1に係る技術事項は、本件発明1の構成B-Cに関するものであり、前記「3.(5)及び(9)」で説示したとおり、甲2発明及び甲3発明も備えていない。
イ また、前記本件発明1の構成B-Cについては、本件特許の出願時において周知の技術であるとも認められない。
ウ そして、本件発明1の効果は、甲1発明から当業者が予測しうる程度のものであるともいえない。
エ 申立人は、異議申立書において、前記相違点1に関する構成B-Cについて、前記「3.(1)ウ」での主張以外に、以下の旨の主張をしている。
「甲1号証には、対象に対する人の感性評価を、複数の心理パラメータとして取得し、それらを感性心理モデルに基づいて相互に変換・推定する情報処理技術が記載されている(【0024】【0025】、【0026】、【0029】、図2)。この感性心理モデルは、複数の感情および印象に対応する評価語をノードとし、それらの因果関係や相関関係を定量化したものであり、取得された感情側の情報から印象側の評価、あるいはその逆を推定することを本質的な機能としている(【0030】、【0040】、【0044】)。
本件発明1が仮に、感情情報から推定される対象に対する評価を「感情印象」と表現している点や、処理の対象や用語の整理の点において甲1発明と形式的な差異を有するとしても、これは評価語の定義や概念整理の相違にすぎず、感情と印象との対応関係に基づいて心理的評価を推定するという技術的思想自体は、甲1号証に明示的に開示されている。
また、甲1号証においては、アンケート調査等に基づき、複数の感情評価および印象評価を統計的・モデル的に関連付け、取得された心理パラメータから他の心理パラメータを推定することが明確に示されている(【0029】、【0056】、【0070】)。このような技術内容に接した当業者であれば、取得した感情情報を入力として、人が対象に対して受ける印象を推定する情報処理方法を構成することは、特段の創作的困難性を伴うものではなく、設計事項の範囲内で容易に想到し得る。
さらに、本件発明1により奏される効果、すなわち人の主観的評価を定量的に推定可能とする効果は、甲1号証に記載された感性心理モデルおよびモデル演算処理によって既に達成されている効果と実質的に同一であり、甲1発明から予測できない格別な作用効果を奏するものではない。
したがって、仮に本件発明1と甲1発明との間に相違点があるとしても、その相違点は当業者が甲1号証に基づいて容易に想到し得るものであり、本件発明1は特許法第29条第2項に規定する進歩性を有しない。」(令和8年4月7日提出の手続補正書の第21頁第19行-第22頁第18行参照。)
オ しかしながら、前記「3.(1)ア-イ」で説示したとおり、甲1発明の心理パラメータは、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して印象(心理パラメータ)を受けた後に生じる感情とは異なるものであるし、また、甲1発明は、心理パラメータの値に基づいて、感性心理モデルを参照しつつ心理パラメータの入力値に対応する物理パラメータの値を演算することから、人(乗員(一例として運転者))が対象(車両の運動)に対して受ける印象である感情印象を推定するものではない。そして、前記「ア-イ」で検討したとおり、前記相違点1に係る技術事項は、本件特許出願時に周知の技術でもないことから、当業者が容易に想到しうる事項とも認められない。よって、申立人の主張は採用することはできない。
カ 以上のことから、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。
(2)甲1発明を引用発明とした本件発明2-5及び7-10の進歩性について
本件発明2-5及び7-10は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲1発明とは、前記相違点1で少なくとも相違する。
相違点1については、前記「(1)」で検討したとおりであるから、前記「(1)」で説示したのと同じ理由により、本件発明2-5及び7-10は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(3)甲1発明を引用発明とした本件発明11の進歩性について
本件発明11は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「システム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲1発明とは、前記相違点1と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(1)」で説示したのと同じ理由により、本件発明11は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(4)甲1発明に対する本件発明12について
本件発明12は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「プログラム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲1発明とは、前記相違点1と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(1)」で説示したのと同じ理由により、本件発明12は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(5)本件発明1と甲2発明との対比・判断について
ア 本件発明1と甲2発明との対比・判断については、前記「3.(5)」に説示したとおりであり、本件発明1と甲2発明との相違点である前記相違点2に係る技術事項は、本件発明1の構成B-Cに関するものであり、前記「3.(1)及び(9)」で説示したとおり、甲1発明及び甲3発明も備えていない。
イ また、前記本件発明1の構成B-Cについては、本件特許の出願時において周知の技術であるとも認められない。
ウ そして、本件発明1の効果は、甲2発明から当業者が予測しうる程度のものであるともいえない。
エ 申立人は、異議申立書において、前記相違点2に関する構成B-Cについて、前記「3.(5)ウ」での主張以外に、以下の旨の主張をしている。
「甲2号証では、 感性の階層構造(感情-印象-物理量)を前提に、感情語と印象語を分類し、両層の関係を機械学習によりモデル化している。この構成は、感情情報から印象を導出するという技術思想と同一である。また、感情層と印象層との対応関係を係り受け解析および感情辞典を用いて自動化する手法が説明されており、当業者にとって感情情報を入力し印象情報を推定する構成を採用することは設計上の選択に過ぎない。
さらに、甲2号証では「ある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを,印象を介して求めたりすることができる」と明示しており(2.2節 第2段落)、感情から印象へ、印象から感情への双方向推定の可能性が既に示されている。
こうした内容に基づけば、本件発明1の構成は、甲2号証の技術思想に基づき当業者が容易に想到でき、特許法第29条第2項に規定する進歩性を欠く。」(令和8年4月7日提出の手続補正書の第41頁第8-19行参照。)
オ しかしながら、前記「3.(5)ア-イ」で説示したとおり、甲2発明のレビューデータ(レビューテキスト)の印象語は、甲2の図3にも例示されているように、「上品だ、重い、面白い、小さい、高級だ、珍しい、きゃしゃだ、重厚だ、しゃれた」等であり、レビューを書いた者が腕時計に対して受ける印象を語で表したものである。よって、甲2発明のレビューデータ(レビューテキスト)の印象語は、人(レビューを書いた者)が対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情とは異なるものである。また、甲2発明の印象語を因子としてまとめた印象トピックについても同様に、人(レビューを書いた者)が対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情とは異なるものである。また、甲2発明の「感性の階層モデル」は、「プロダクト毎に印象トピックの得点を算出し、印象トピックと10種類の感情カテゴリーとの係り受け解析から、印象トピックそれぞれの10種類の感情得点を算出してデータセットを作成して、そのデータセットを用いた機械学習により自動構築して」作成されたものであるから、プロダクトと、印象トピックの得点及び印象トピックそれぞれの10種類の感情得点と、の対応関係を求めたものである。よって、甲2発明の感性の階層モデルは、複数の感情と複数の印象との対応関係を示すものではない。さらに、甲2発明は、ある感情を喚起するデザイン要素がどのようなものかを、印象を介して求めたりすることができる方法であるものの、感性の階層モデルに入力されるものはあくまで印象であり、出力されるものはプロダクトであるから、「対象(腕時計)に対して印象(印象語)を受けた後に生じる感情」である感情情報を入力して、「対象(腕時計)対して人が受ける印象である感情印象」を推定するものではない。そして、前記「ア-イ」で検討したとおり、前記相違点2に係る技術事項は、本件特許出願時に周知の技術でもないことから、当業者が容易に想到しうる事項とも認められない。よって、申立人の主張は採用することはできない。
カ 以上のことから、本件発明1は、甲2発明から当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。
(6)甲2発明を引用発明とした本件発明2-5,7及び9の進歩性について
本件発明2-5,7及び9は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲2発明とは、前記相違点2で少なくとも相違する。
相違点2については、前記「(5)」で検討したとおりであるから、前記「(5)」で説示したのと同じ理由により、本件発明2-5,7及び9は、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(7)甲2発明を引用発明とした本件発明11の進歩性について
本件発明11は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「システム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲2発明とは、前記相違点2と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(5)」で説示したのと同じ理由により、本件発明11は、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(8)甲2発明に対する本件発明12について
本件発明12は、本件発明1の「方法」のカテゴリーを「プログラム」のカテゴリーに変更した発明であり、甲2発明とは、前記相違点2と同様の技術事項の点において相違する。
したがって、前記「(5)」で説示したのと同じ理由により、本件発明12は、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(9)本件発明1と甲3発明との対比・判断について
ア 本件発明1と甲3発明との対比・判断については、前記「3.(9)」に説示したとおりであり、本件発明1と甲3発明との相違点である前記相違点3に係る技術事項は、本件発明1の構成B-Cに関するものであり、前記「3.(1)及び(5)」で説示したとおり、甲1発明及び甲2発明も備えていない。
イ また、前記本件発明1の構成B-Cについては、本件特許の出願時において周知の技術であるとも認められない。
ウ そして、本件発明1の効果は、甲3発明から当業者が予測しうる程度のものであるともいえない。
エ 申立人は、異議申立書において、前記相違点3に関する構成B-Cについて、前記「3.(9)ウ」での主張以外に、以下の旨の主張をしている。
「甲3号証では、人が受ける印象や質感の強度を評価するため、心理実験による主観評価データを取得し、その結果を基に物理統計量との関係を重回帰分析によって定式化している。この構成は、感情情報と印象情報の対応関係に基づいて印象を推定する技術思想に他ならない。当業者にとって、これをコンピュータによる情報処理方法として体系化することは容易であり、特段の創作的困難性を伴わない。
したがって、本件発明1は、甲3号証に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、特許法第29条第2項に規定する進歩性を欠く。」(令和8年4月7日提出の手続補正書の第57頁下から第4行-第58頁第5行参照。)
オ しかしながら、前記「3.(9)ア-イ」で説示したとおり、甲3発明の「質感評価実験」の『「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」』は、「対象に対して」「人が受ける」「印象」である「感情印象」に相当するものであり、甲3発明では、人が対象に対して印象を受けた後に生じる感情を取得しているとはいえない。また、甲3発明は、「質感の強度と物理統計量の関係」を「構築した重回帰式に基づいて所望の質感の強度を実現する物理統計量を推定」するものであるから、質感に相当する『「瑞々しさ」、「ざらざら感」、「好ましさ」』、すなわち感情印象を入力して物理統計量を推定している。よって、甲3発明の「質感の強度と物理統計量の関係」を「構築した重回帰式」は、複数の感情と複数の印象との対応関係を示すものではないし、したがって、甲3発明は「対象に対して印象を受けた後に生じる感情」である感情情報を入力して、「対象に対して人が受ける印象である感情印象」を推定するものではない。そして、前記「ア-イ」で検討したとおり、前記相違点3に係る技術事項は、本件特許出願時に周知の技術でもないことから、当業者が容易に想到しうる事項とも認められない。よって、申立人の主張は採用することはできない。
カ 以上のことから、本件発明1は、甲3発明から当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。
(10)甲3発明を引用発明とした本件発明2-7及び9の進歩性について
本件発明2-7及び9は、本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、甲3発明とは、前記相違点3で少なくとも相違する。
相違点3については、前記「(9)」で検討したとおりであるから、前記「(9)」で説示したのと同じ理由により、本件発明2-7及び9は、甲3発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(11)異議申立理由2についてのまとめ
以上のことから、本件発明1-5及び7-12が、甲1発明から当業者が容易になし得た発明であるとはいえないし、本件発明1-5,7,9,11及び12が、甲2発明から当業者が容易になし得た発明であるとはいえないし、本件発明1-7及び9が、甲3発明から当業者が容易になし得た発明であるとはいえないから、申立人の特許法第29条第2項についての異議申立理由は、理由がない。
5.まとめ
以上のとおりであるので、上記「第3」に示した異議申立理由1及び2は、いずれも理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人が特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1-12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700137