審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700723

栄養組成物

審判番号
2024-700723
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-186198
登録番号
7426213
請求日
2024年07月31日
審決日
2025年06月30日
公報発行日
2025年10月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】森永乳業株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人秀和特許事務所
  • 【異議申立人】金山 愼一
審判長/審判官
  • 審判長 淺野 美奈
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 柴田 昌弘
分類
P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

結論

結 論 特許第7426213号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第7426213号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7426213号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和1年10月9日を出願日とする出願であって、令和6年1月24日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年2月1日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対し、令和6年7月31日に特許異議申立人 金山 愼一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年11月25日付けで取消理由が通知され、令和7年1月27日に特許権者 森永乳業株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年2月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、これに対し特許異議申立人からは応答がなかったものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和7年1月27日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「 ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、 摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり、 摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、 ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物(ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合を除く)。」と記載されているのを、「 ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、 摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり、 摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、 ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物(ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合、並びに1000mLあたりにルテイン40.2~268μg、DHA13.4~80.4mg、及びARA13.4mg以上を含有する場合を除く)。」に訂正する。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に係る発明のうち、その一部を除外する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 訂正事項1による請求項2及び3についての訂正も同様である。 以上のとおり、訂正事項1による請求項1ないし3についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1ないし3についての訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項2及び3はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1ないし3は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1による請求項1ないし3についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし7に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、 摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり、 摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、 ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物(ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合、並びに1000mLあたりにルテイン40.2~268μg、DHA13.4~80.4mg、及びARA13.4mg以上を含有する場合を除く)。 【請求項2】 DHA及びARAを重量比67:33~100:0で含有する、請求項1に記載の栄養組成物。 【請求項3】 調製乳である、請求項1又は2に記載の栄養組成物。 【請求項4】 栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法であって、 前記栄養組成物中にルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを共存させることを特徴とし、 前記栄養組成物は、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有し、 前記栄養組成物は、DHAを摂取時における濃度として20mg/L以上300mg/L以下含有し、 前記栄養組成物は、DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有する、方法。 【請求項5】 前記栄養組成物が調製乳である、請求項4に記載の方法。 【請求項6】 長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤であって、 摂取時におけるDHAの含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、 DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有し、 前記剤は、ルテインを摂取時における濃度として5μg/L以上50μg/L未満含有する栄養組成物に含有させるためのものである、剤。 【請求項7】 前記栄養組成物が調製乳である、請求項6に記載の剤。」 第4 特許異議申立書等に記載した申立ての理由の概要 令和6年7月31日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立の理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであって、また、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであって、また、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであって、また、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由4(実施可能要件)及び申立理由5(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)本件特許明細書の【0007】には、課題を解決する手段が、DHA及びARAを特定の重量比で共存させることであると記載されているが、本件特許発明1、4及び6はARAを含まない態様(0%)を含有しており、課題解決手段が反映されていないので、本件特許発明の課題を解決できないものを包含しており、実施可能要件欠如及びサポート要件欠如の取消理由を有する。 (2)本件特許発明2は、DHA及びARAの重量比を67:33~100:0の範囲に限定した構成要件を有しているが、67:33という限界値が臨界的意義を有することは、本件特許明細書の実施例では検証されておらず、当業者の予測可能性を上回るような劇的な効果の発現は認められない。 (3)本件特許発明1、4、6は、DHAの含有量を20mg/L以上300mg/L以下という範囲に限定しているが、本件特許明細書の実施例データを見ても、20mg/L以上300mg/L以下という数値範囲の全範囲において課題が解決できているか検証されていないので、実施可能要件欠如及びサポート要件欠如の取消理由を有する。 (4)特許権者は、令和5年11月6日付けの意見書において、本願請求項1~3に係る発明は、引用文献1に記載されているようなルテイン配合量の高い栄養組成物と比べてルテインの濃度が低い栄養組成物を設計し、それによって生じるルテイン減衰という課題を解決することに本質があり、その課題を解決するためにDHA及びARAの重量比を調節することに想到してなし得たものであると主張しているが、ルテインの含有量を振った実験データやそれぞれのルテインの濃度に対して、DHAの含有量及びDHA:ARAの重量比を振った実験データが開示されておらず、クレームされているルテインの含有量、 DHAの含有量、及びDHA:ARAの重量比というパラメータの組み合わせをサポートできていない。 5 申立理由6(明確性) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明1は、「摂取時におけるルテインの含有量」及び「摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量」が所定の数値範囲であることを規定している。しかし、本件特許明細書【0023】には、栄養組成物中のルテイン等の含有成分が経時的に分解や変質することが記載されているので、如何なる状態の、如何なるときの含有量をクレームが規定しているのか不明確である。本件特許発明6についても同様である。 また、本件特許発明4にも同様の規定があるが、これは摂取時、すなわち、酸化分解された後の含有量を規定しているにすぎず、酸化分解を抑制する方法を実施する際の条件ではないので、ルテインの酸化分解を抑制する方法としての構成を明確に規定していない。 6 証拠方法 甲第1号証:Mintel GNPD、Mintel Group Ltd.、ID#: 1010229、「Golden Infant Formula Milk Powder」、2008年12月掲載、[online]、[検索日:2024年6月13日]、インターネット<URL: https://portal.mintel.com> 甲第2号証:Mintel GNPD、Mintel Group Ltd.、ID#: 2849093、「Goat Milk Powder Stage 1」、2014年12月掲載、[online]、[検索日:2024年6月13日]、インターネット<URL: https://portal.mintel.com> 甲第3号証:特表2009-513641号公報 甲第4号証:Xin Li, et al., “Enhancing physicochemical properties of emulsions by heteroaggregation of oppositely charged lactoferrin coated lutein droplets and whey protein isolate coated DHA droplets”, Food Chemistry, 2017, 239 (2018), 75-85 甲第5号証:中国特許出願公開第104981169号明細書 甲第6号証:Camilia R. Martin, et al., “Review of Infant Feeding : Key Features of Breast Milk and Infant Formula”, Nutrients, 2016年, 2016(8), 279, <URL:https:// onlinelibrary.wiley.com/doi/10.3390/nu8050279> 甲第7号証:和泉裕久著、「育児用調製乳の過去・現在・未来」、Milk Science、日本酪農科学会、2009年12月、Vol.58, No. 3 (2009), 169-175 甲第8号証:Rebecca Yuhas, et al., “Human Milk Fatty Acid Composition from Nine Countries Varies Most in DHA”, Lipids, 2006年10月, Vol.41, no. 9 (2006), 851-858 甲第9号証:Beibei Duan, et al., “A Study on the Relationship of Fat Content in Human Milk on Carotenoids Content and Fatty Acid Compositions in Korea”, Nutrients, 2019年9月3日, 2019, 11, 2072, <URL:https:// onlinelibrary.wiley.com/doi/10.3390/nu11092072> 甲第10号証:台湾特許出願公開第2 0 1 6 2 5 1 4 3号公報 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 取消理由の概要 令和6年11月25日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 当審は、取消理由1並びに申立理由1ないし6には、以下のとおり理由がないと判断する。なお、取消理由1は、請求項1ないし3について申立理由1と概ね同旨である。 1 取消理由1(甲1を主たる証拠とする新規性及び進歩性)及び申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性及び進歩性)について 取消理由1と申立理由1は、同一の証拠に基づくものであるから、以下にまとめて検討する。 (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「南山黄金粉ミルク」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語で記載された書面であるため、図表や写真を転記する場合などを除き、訳文で示す。また、下線は当審で付したものである。 ・「南山黄金粉ミルクは、6ヶ月未満の赤ちゃんのために特別に設計されています。ビタミン、ミネラル、プレバイオティクス、DHA、ARA、塩素を含むバランスの取れた栄養を提供します。適量を 40~45℃の熱湯で希釈し、清潔な哺乳瓶で与えてください。この製品は 400g 入りで、中国南昌の HuaLian スーパーマーケットで購入しました。」(商品説明欄) ・「生乳、・・・ARA(アラキドン酸)、藻類由来DHA(ドコサヘキサエン酸)、・・・ルテイン、・・・」(成分欄) ・「100gあたり:・・・ルテイン30-200μg、DHA10-60mg、ARA10mgと同じかそれ以上、・・・」(栄養表示欄) ・「 [図:0001427951000001.jpg] 」(製品に掲載されている成分表示) イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に、商品説明及び製品に掲載された成分表示について整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「6ヶ月未満の赤ちゃんのために特別に設計された粉ミルクであって、1000ミリリットルあたりの各成分の含有量が、ルテイン:40.2~268μg、DHA:13.4~80.4mg、ARA:13.4mg以上である粉ミルク。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 甲1発明の「粉ミルク」は、本件特許発明1の「栄養組成物」に、甲1発明の「ルテイン」、「DHA」及び「ARA」は、それぞれ、本件特許発明1の「ルテイン」、「ドコサヘキサエン酸(DHA)」及び「アラキドン酸(ARA)」に相当し、甲1発明の「DHA」及び「ARA」は、本件特許発明1の「長鎖多価不飽和脂肪酸」に相当する。そして、甲1発明の各成分の含有量は、粉ミルクを使用する際に溶かした時の1000ミリリットルあたりの含有量であると解されるので、本件特許明細書の【0022】の記載からみて、「摂取時における」含有量であるといえる。 また、甲1発明は、ルテインを40.2~268μg/L含むので、40.2~50μg/L未満の範囲の限りにおいて、本件特許発明1の「ルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり」という発明特定事項を満たしており、甲1発明は、DHAを13.4~80.4mg/L含むので、20~80.4mg/Lの範囲の限りにおいて、本件特許発明1の「ドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり」という発明特定事項を満たしている。 そうすると、両者は、以下の点で一致する。 <一致点> 「ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、 摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満であり、 摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下である栄養組成物。」 そして、両者は、以下の点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1の栄養組成物は、「ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する」ものであるのに対し、甲1発明の栄養組成物は、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)の重量比が特定されていない点。 <相違点1-2> 本件特許発明1の栄養組成物は「ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合並びに1000mLあたりにルテイン40.2~268μg、DHA13.4~80.4mg、及びARA13.4mg以上を含有する場合を除く」と特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。 イ 判断 事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。 甲1発明は「1000ミリリットルあたりの各成分の含有量が、ルテイン:40.2~268μg、DHA:13.4~80.4mg、ARA:13.4mg以上である」から、相違点1-2は実質的な相違点である。 よって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。 そして、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明において「1000ミリリットルあたりの各成分の含有量が、ルテイン:40.2~268μg、DHA:13.4~80.4mg、ARA:13.4mg以上である」場合を除く、すなわち、ルテイン、DHA、ARAのいずれかの含有量を変更する動機付けがない。 よって、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2及び3もまた、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件特許発明4及び5について 甲1にはルテインの酸化分解やその抑制方法について何ら記載されておらず、上記(1)アの甲1の記載事項から、「栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法」に対応する発明を認定することができない。 よって、本件特許発明4は甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明5は、本件特許発明4の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものであり、本件特許発明4は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5もまた、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)本件特許発明6及び7について 甲1にはルテインの酸化分解やその抑制方法について何ら記載されておらず、上記(1)アの甲1の記載事項から、「長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤」に対応する発明を認定することができない。 よって、本件特許発明6は甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明7は、本件特許発明6の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものであり、本件特許発明6は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明7もまた、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)取消理由1及び申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。 よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由2(甲2を主たる証拠とする新規性及び進歩性)について (1)甲2に記載された事項等 ア 甲2に記載された事項 甲2には、「乳児用栄養食」に関して、次の記載がある。 ・「Herds Baby Ai Zhi Lang Ying Er Pei Fang Yang Nai Fen Yi Duan (Goat Milk Powder Stage 1)は、新鮮なヤギ乳を使用し、リノール酸、リノレン酸、DHA、ARA、プレバイオティクス、タウリン、コリン、L-カルニチン、各種ビタミンが配合されています。ヤギ乳の不快な臭いを除去する専門技術による加工処理が施されており、赤ちゃんにとって吸収されやすいです。作り方は、70mL のぬるま湯に2スクープの粉ミルクを加えます。新生児から生後6ヶ月までの赤ちゃんに適しており、800パック入りです。」(商品説明の欄) ・「 [図:0001427951000002.jpg] [図:0001427951000003.jpg] 」(製品情報の欄) ・「 [図:0001427951000004.jpg] 」(成分の欄) イ 甲2に記載された発明 甲2に記載された事項を、特に、商品説明及び栄養表示について整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 <甲2発明> 「100gあたりの各成分の含有量が、ルテイン:30.00μg以上、DHA:20.00mg~100.00mg、アラキドン酸:30.00mg~120.00mg、である幼児用栄養食。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 甲2発明の「幼児用栄養食」は、本件特許発明1の「栄養組成物」に、甲2発明の「ルテイン」、「DHA」及び「アラキドン酸」は、それぞれ、本件特許発明1の「ルテイン」、「ドコサヘキサエン酸(DHA)」及び「アラキドン酸(ARA)」に相当し、甲2発明の「DHA」及び「アラキドン酸」は、本件特許発明1の「長鎖多価不飽和脂肪酸」に相当する。 そうすると、両者は、以下の点で一致する。 <一致点> 「ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、ルテイン、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸を含有する栄養組成物。」 そして、両者は、以下の点で相違する。 <相違点2-1> 本件特許発明1の栄養組成物は、「摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満」であるのに対し、甲2発明の栄養組成物は、栄養組成物100gあたりのルテインの含有量が30.00μg以上である点。 <相違点2-2> 本件特許発明1の栄養組成物は、「摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L未満」であるのに対し、甲2発明の栄養組成物は、栄養組成物100gあたりのDHAの含有量が20.00mg~100.00mgである点。 <相違点2-3> 本件特許発明1の栄養組成物は、「ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する」ものであるのに対し、甲2発明の栄養組成物は、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)の重量比が特定されていない点。 <相違点2-4> 本件特許発明1の栄養組成物は「ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合並びに1000mLあたりにルテイン40.2~268μg、DHA13.4~80.4mg、及びARA13.4mg以上を含有する場合を除く」と特定するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。 イ 判断 事案に鑑み、上記相違点2-3について検討する。 甲2発明は、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)の重量比が不明であるから、相違点2-3は実質的な相違点である。 よって、本件特許発明1は、甲2発明ではない。 そして、甲2及び他の証拠をみても、甲2発明において「ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する」ものとする動機付けがない。また、本件特許発明1は、これにより、ルテインの酸化分解を抑制することができるという顕著な効果を奏するものである。 よって、甲2発明において、相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書(69頁)において、甲2発明は20~100mgのDHAと、30~120mgのARAと、を含有しており、DHAの含有量がARAの含有量よりも多い態様が包含されているので、DHA:ARAの含有比率において、50:50よりもDHAの割合が多い数値範囲が包含されており、相違点2-3は一致点である、と主張している。 しかし、甲2発明は、DHA:ARAの重量比を何ら特定するものではなく、DHA及びARAの含有量は、50:50よりもDHAの割合が少ない数値範囲を包含するものであるから、甲2発明が「DHA及びARAを重量比50:50~100:0で含有する」ものであるということはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は、上記イの判断を左右するものではない。 (3)本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2及び3もまた、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件特許発明4及び5について 甲2にはルテインの酸化分解やその抑制方法について何ら記載されておらず、上記(1)アの甲2の記載事項から、「栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法」に対応する発明を認定することができない。 よって、本件特許発明4は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明5は、本件特許発明4の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものであり、本件特許発明4は甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5もまた、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)本件特許発明6及び7について 甲2にはルテインの酸化分解やその抑制方法について何ら記載されておらず、上記(1)アの甲2の記載事項から、「長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤」に対応する発明を認定することができない。 よって、本件特許発明6は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明7は、本件特許発明6の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものであり、本件特許発明6は甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明7もまた、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。 よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由3(甲3を主たる証拠とする新規性及び進歩性)について (1)甲3に記載された事項等 ア 甲3に記載された事項 甲3には、「乳児用製剤」に関して、次の記載がある。 ・「【請求項1】 ドコサヘキサエン酸、およびそのまま摂取される形態に基づき少なくとも約50mcg/リットルのルテインを含む、脂肪、タンパク質、炭水化物、ビタミンおよびミネラルを含んでなる乳児用製剤であって、ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約1:2から約10:1であり、該製剤が卵リン脂質を含有しない、乳児用製剤。 【請求項2】 組成物が約50から約1150mcg/リットルの添加ルテインを含む、請求項1の乳児用製剤。 【請求項3】 製剤が約100から約200mcg/リットルのルテインを含む、請求項1の乳児用製剤。 【請求項4】 製剤が約100から約200mcg/リットルのルテインを含む、請求項1の乳児用製剤。 【請求項5】 ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約1.5:1から約10:1である、請求項1の乳児用製剤。 【請求項6】 ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約2:1から約5:1である、請求項1の乳児用製剤。 【請求項7】 製剤が約20から30kcal/流体オンスのカロリー密度を有する、請求項1の乳児用製剤。 【請求項8】 製剤が単一源からの遊離ルテインとゼアキサンチンとの組合せを含み、該源がタゲテス・エレクタ(Tagetes erecta)の結晶抽出物であり、該遊離ルテインが該組合せの85重量%から95重量%に相当し、該遊離ゼアキサンチンが該組合せの約5重量%から約15重量%に相当する、請求項1の乳児用製剤。 【請求項9】 製剤が粉末である、請求項1の乳児用製剤。 【請求項10】 製剤が液体である、請求項1の乳児用製剤。 【請求項11】 ルテインが少なくとも25重量%の添加ルテインを含む、請求項1の乳児用製剤。 【請求項12】 そのまま摂取される形態に基づき、 (a)約54から約108gm/リットルの炭水化物、 (b)約20から約54gm/リットルの脂肪、 (c)約7から約24gm/リットルのタンパク質、 (d)約100から約200mcg/リットルのルテイン、および (e)ドコサヘキサエン酸 を含んでなる乳児用製剤であって、ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約2:1から約5:1であり、該製剤が卵リン脂質を含有しない、乳児用製剤。 【請求項13】 製剤が単一源からの遊離ルテインとゼアキサンチンとの組合せを含み、該源がタゲテス・エレクタ(Tagetes erecta)の結晶抽出物であり、該遊離ルテインが該組合せの85重量%から95重量%に相当し、該遊離ゼアキサンチンが該組合せの約5重量%から約15重量%に相当する、請求項12の乳児用製剤。 【請求項14】 早期産児における未熟児網膜症のリスクを軽減するための方法であって、未熟児網膜症のリスクの軽減を要する早期産児に請求項1記載の製剤を投与して約7から約300mcg/kg/日のルテインを該乳児に供給することを含んでなる方法。 【請求項15】 早期産児における未熟児網膜症のリスクを軽減するための方法であって、未熟児網膜症のリスクの軽減を要する早期産児に請求項1記載の製剤を投与して約14から約220mcg/kg/日のルテインを該乳児に供給することを含んでなる方法。 【請求項16】 乳児における網膜の健康および視覚の発達を促進するための方法であって、網膜の健康および視覚の発達の促進を要する乳児に請求項1記載の製剤を投与して約7から約300mcg/kg/日のルテインを該乳児に供給することを含んでなる方法。 【請求項17】 乳児における網膜の健康および視覚の発達を促進するための方法であって、網膜の健康および視覚の発達の促進を要する乳児に請求項1記載の製剤を投与して約7から約300mcg/kg/日のルテインを該乳児に供給することを含んでなる方法。」 ・「【0001】 本発明は、乳児における網膜の健康および視覚の発達を促進するための、ドコサヘキサエン酸およびルテインの選択された組合せを含有する乳児用製剤(infant formula)に関する。」 ・「【0003】 多数の乳児用製剤は、人乳の代用となる特性をもたらすが、それらは尚も、人乳において見出されるのと同じ高レベルの栄養を供給するものではない。したがって、過去数年にわたる乳児用製剤に関する研究努力の多くは、人乳の天然構成成分を更に深く理解すること、そしてそれに応じて又は少なくとも現在の利用可能な技術で可能な程度で乳児製剤を改良することに向けられている。 【0004】 例えばアラキドン酸およびドコサヘキサエン酸が人乳において同定されており、ついで合成乳児用製剤に添加されている。これらの脂肪酸は乳児における脳および視覚の発達を支え、現在、Similac(登録商標)Advance(登録商標)乳児用製剤、Isomil(登録商標)Advance(登録商標)乳児用製剤およびSimilac(登録商標)Special Care(登録商標)Advance(登録商標)乳児用製剤(これらはすべて、Ross Products Division,Abbott Laboratories,Columbus,Ohio,USAから入手可能である)のような商業的に入手可能な製剤中に見出される。 【0005】 ルテインも人乳において同定されている。それは現在、単離された成分としては乳児用製剤に添加されないが、ルテインは、そのような製剤を製造するために一般に使用される天然油のいくつかにおける固有成分として乳児用製剤中に低濃度で見出されうる。ルテインは、たまたま眼の網膜内にも濃縮される抗酸化剤である。食用ルテインは眼の健康上の利益を個体にもらたすことが一般に公知であり、そのような利益は、人乳または補助乳児用製剤のいずれかからルテインを摂取する乳児にも拡張されうると考えられる。 【0006】 現在、ルテインとドコサヘキサエン酸との組合せが乳児における網膜の健康および視覚の発達において特に重要でありうると考えられている。どちらの物質も人乳中に存在し、共に、その他の点では健常な対象の網膜内に濃縮されることが公知である。多不飽和脂肪酸としてのドコサヘキサエン酸(DHA)は、眼内の酸化および分解による損傷を非常に受けやすく、一方、ルテインは公知の抗酸化物質である。ルテインを乳児製剤に加えることにより、それは網膜内に濃縮されるばかりでなく、網膜DHAの酸化分解をも軽減して、更には乳児における網膜の健康および視覚の発達を促進しうる。 【0007】 しかし、乳児用製剤からのルテインの相対バイオアベイラビリティはより低いため、母乳栄養児において見られるのと同じ血漿中ルテイン濃度を得るためには、乳児用製剤中のルテイン濃度は、人乳中で見られるルテイン濃度より遥かに高くなければならないことが、本発明において見出された。今日の乳児用製剤は典型的には約20mcg/リットル未満のルテインを含有し、そのほとんどは添加油脂に固有に由来するものであるが、専ら母乳栄養の乳児で見られる血漿中ルテイン濃度の2倍の濃度を得るためには、そのようなルテイン濃度は約50mcg/リットル超、好ましくは約100mcg/リットルから約200mcg/リットルでなければならないことが、本発明において見出された。」 ・「【0021】 ルテイン 本発明の乳児用製剤はルテインを含み、その濃度は少なくともルテイン約50mcg/リットルでなければならない。乳児用製剤において使用されることが公知であるか又は乳児用製剤における使用に適しており、該製剤中のその他の選択された成分に適合性である限り、任意のルテイン源が本発明における使用に適しており、ここで、該製剤におけるルテイン(mcg/リットル)対ドコサヘキサエン酸(mg/リットル)の重量比は約1:2から約10:1の範囲である。 【0022】 本発明の乳児用製剤中のルテイン濃度は、そのまま摂取される製剤に基づいて計算した場合、約50から約1150mcg/リットル、例えば、約75から約230mcg/リットル、また、例えば、約100から約200mcg/リットルの範囲である。本明細書に記載の全てのルテイン濃度および比は、特に示さない限り、遊離ルテインに基づいて計算されている。 【0023】 また、該乳児用製剤中のルテインの量は、ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約1:2から約10:1、例えば、約1.5:1から約9:1、また、例えば、約1.7:1から約5:1の範囲となるよう選択されなければならない。」 ・「【0030】 ドコヘキサエン酸(DHA) 本発明の乳児用製剤は、メチル末端から3番目の炭素から始まる6個の二重結合を伴う炭素数22の鎖長を有する有機カルボン酸(22:6 n-3)であるドコサヘキサエン酸を含む。乳児用製剤において使用されることが公知であり、該製剤中のその他の選択された成分に適合性である限り、任意のドコサヘキサエン酸源が本発明における使用に適している。 【0031】 本発明の乳児用製剤中のドコサヘキサエン酸濃度は、ルテイン対ドコサヘキサエン酸の得られる重量比が本明細書に記載の範囲内となるよう選択されなければならない。そのような濃度は、最も典型的には、そのまま摂取される製剤に基づいて計算した場合、約36から360mg/リットル、例えば、約50から約144mg/リットル、また、約72から約130mg/リットルの範囲である。」 ・「【0033】 本発明の乳児用製剤は更に、本明細書に記載のドコサヘキサエン酸に加えて、他の長鎖多不飽和脂肪酸、例えばアラキドン酸(20:4 n-6)、エイコサペンタエン酸、すなわちEPA(20:5 n-3)、リノール酸(18:2 n-6)、γ-リノレン酸、すなわちGLA(18:3 n-6)、α-リノレン酸(18:3 n-3)、ジホモ-γ-リノレン酸、すなわちDHGLA(20:3 n-6)、α-リノレン酸(18:3 n-3)、ステアリドン酸(18:4 n-3)およびそれらの組合せを含みうる。そのような随意的な長鎖多不飽和脂肪酸は同様に、遊離脂肪酸として、またはそうでなければ乳児への投与に際して若しくは該投与後にそのような遊離脂肪酸の源を与えうる化合物もしくは物質(例えば、ドコサヘキサエン酸の非卵リン脂質およびグリセリドエステル(モノ-、ジ-、トリ-))として、乳児用製剤中に製剤化されうる。」 ・「【0053】 網膜の健康および視覚の発達 本発明はまた、乳児における網膜の健康および視覚の発達を促進するために該製剤を投 与する方法に関する。この特定の方法においては、該乳児製剤は、唯一の栄養源、主要な 栄養源または補助的な栄養源として正期産児または早期産児に投与され、この場合、該製 剤は、ドコサヘキサエン酸および少なくとも約50mcg/リットルのルテインを含む、 脂肪、タンパク質、炭水化物、ビタミンおよびミネラルを含み、ルテイン(mcg)対ド コサヘキサエン酸(mg)の重量比は約1:2から約10:1である。そのような方法は 、本明細書中に記載または示唆されている任意の製剤実施形態に適用されうる。」 イ 甲3に記載された発明 甲3に記載された事項を、特に、請求項1について整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。 <甲3発明> 「ドコサヘキサエン酸、およびそのまま摂取される形態に基づき少なくとも約50mcg/リットルのルテインを含む、脂肪、タンパク質、炭水化物、ビタミンおよびミネラルを含んでなる乳児用製剤であって、ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約1:2から約10:1であり、該製剤が卵リン脂質を含有しない、乳児用製剤。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 甲3発明の「乳児用製剤」は、本件特許発明1の「栄養組成物」に、甲3発明1の「ルテイン」及び「ドコサヘキサエン酸」は、それぞれ、本件特許発明1の「ルテイン」及び「ドコサヘキサエン酸(DHA)」に相当し、甲3発明の「ドコサヘキサエン酸」は、本件特許発明1の「長鎖多価不飽和脂肪酸」に相当する。そして、甲3発明のルテインの含有量は、そのまま摂取される形態に基づくものであるから、本件特許明細書の【0022】の記載からみて、「摂取時における」含有量であるといえる。 そうすると、両者は、以下の点で一致する。 <一致点> 「ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、ルテイン及びドコサヘキサエン酸(DHA)を含有する栄養組成物。」 そして、両者は、以下の点で相違する。 <相違点3-1> 本件特許発明1の栄養組成物は、「摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満」であるのに対し、甲3発明の栄養組成物は、摂取時におけるルテインの含有量が少なくとも約50μg/Lである点。 <相違点3-2> 本件特許発明1の栄養組成物は、「摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L未満」であるのに対し、甲3発明の栄養組成物は、ルテイン(mcg)対ドコサヘキサエン酸(mg)の重量比が約1:2から約10:1となる量でDHAを含有する点。 <相違点3-3> 本件特許発明1の栄養組成物は、「ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する」ものであるのに対し、甲3発明の栄養組成物は、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)の重量比が特定されていない点。 <相違点3-4> 本件特許発明1の栄養組成物は「ただし、DHA及びARAの重量比が50:50である場合並びに1000mLあたりにルテイン40.2~268μg、DHA13.4~80.4mg、及びARA13.4mg以上を含有する場合を除く」と特定するのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。 イ 判断 上記相違点3-1について検討する。 本件特許発明1と甲3発明とでは摂取時におけるルテインの含有量が異なるので、相違点3-1は実質的な相違点である。 よって、本件特許発明1は、甲3発明ではない。 そして、甲3の【0007】及び【0022】の記載をみれば、甲3発明がルテインの含有量を50μg/Lよりも多くすることを志向していることは明らかである。そうすると、甲3発明においてルテインの含有量を50μg/L未満とすることには阻害要因があるといえる。仮に、阻害要因があるとまでいえないとしても、甲3及び他の証拠をみても、甲3発明において「摂取時におけるルテインの含有量が5μg/L以上50μg/L未満」とする動機付けがあるとはいえない。 よって、甲3発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書(77~78頁)において「甲3発明は、約50mcg/リットルのルテインを含有するので、甲3発明のルテイン含有量は、5μg/L以上50μg/L未満と一致している蓋然性が高い。仮にそうでなかったとしても、日本人向けの育粉製品とする際に、日本人の母乳のルテインの含有量に近づけるべく、ルテインの含有量をわずかに低減して50μg/L未満とすることは、育粉製品の販売対象(民族種、地域等)に基づく最適化として当業者であれば容易になし得る程度にすぎない。」と主張している。 しかし、本件特許発明1と甲3発明とでは摂取時におけるルテインの含有量が異なるので、この点は実質的な相違点である。そして、甲3には、「乳児用製剤からのルテインの相対バイオアベイラビリティはより低いため、母乳栄養児において見られるのと同じ血漿中ルテイン濃度を得るためには、乳児用製剤中のルテイン濃度は、人乳中で見られるルテイン濃度より遥かに高くなければならないことが、本発明において見出された。今日の乳児用製剤は典型的には約20mcg/リットル未満のルテインを含有し、そのほとんどは添加油脂に固有に由来するものであるが、専ら母乳栄養の乳児で見られる血漿中ルテイン濃度の2倍の濃度を得るためには、そのようなルテイン濃度は約50mcg/リットル超、好ましくは約100mcg/リットルから約200mcg/リットルでなければならないことが、本発明において見出された。」(甲3の【0007】)と記載されていることから、甲3発明において日本人の母乳のルテインの含有量に近づけるべく、ルテインの含有量をわずかに低減して50μg/L未満とすることは、阻害要因があり、当業者が容易になしえることとはいえない。 よって、上記イに記載した判断は、特許異議申立人の上記主張により影響されるものではない。 (3)本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものである。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2及び3もまた、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件特許発明4及び5について 甲3の【0006】には、ルテインが公知の抗酸化物質であること並びにルテインを乳児用製剤に加えると、網膜内に濃縮され、網膜DHAの酸化分解を軽減することが記載されているものの、製剤中のルテインの酸化分解が抑制されることは記載されておらず、上記(1)アの甲3の記載事項から、「栄養組成物に含有されるルテインの酸化分解を抑制する方法」に対応する発明を認定することができない。 よって、本件特許発明4は甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明5は、本件特許発明4の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものであり、本件特許発明4は甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明5もまた、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)本件特許発明6及び7について 甲3の【0006】には、ルテインが公知の抗酸化物質であること並びにルテインを乳児用製剤に加えると、網膜内に濃縮され、網膜DHAの酸化分解を軽減することが記載されているものの、製剤中のルテインの酸化分解が抑制されることは記載されておらず、上記(1)アの甲3の記載事項から、「長鎖多価不飽和脂肪酸を含有するルテイン酸化分解抑制剤」に対応する発明を認定することができない。 よって、本件特許発明6は甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明7は、本件特許発明6の発明特定事項の全てを有し、さらに特定するものであり、本件特許発明6は甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明7もまた、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。 よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 4 申立理由4(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3)本件特許発明が解決しようとする課題 本件特許の明細書の【0006】並びに請求項1ないし7の記載からみて、本件特許発明1ないし3が解決しようとする課題は、栄養組成物にルテインを所定の低濃度で含有させるにあたり、その酸化分解が抑制された栄養組成物を提供することであり、本件特許発明4及び5が解決しようとする課題は、栄養組成物にルテインを所定の低濃度で含有させるにあたり、その酸化分解を抑制する方法を提供することであり、本件特許発明6及び7が解決しようとする課題は、栄養組成物にルテインを所定の低濃度で含有させるにあたり、その酸化分解抑制剤を提供することであると認められる(以下、これらをまとめて「本発明の課題」という。)。 (4)サポート要件の判断 本件特許の明細書の【0017】~【0018】、【0020】~【0022】、【0025】~【0027】、【0038】には、本件特許発明1ないし7に対応する記載がある。そして、同【0020】には、本発明の栄養組成物がDHAを20mg/L以上かつ300mg/L以下含有することが記載されており、同【0021】には、DHAとARAとの含有量が、重量比でDHA:ARA=50:50~100:0であることが記載されており、同【0023】には、本発明の栄養組成物は、DHA又はDHA及びARAを上記の特定量・特定比で含有しないときに比べて、時間経過前後でのルテインの減少が抑制されることが記載されており、同【0037】~【0050】及び【図1】には、具体的な実施例において、DHAとARAとの含有量が、重量比でDHA:ARA=50:50~100:0である場合に反応開始18時間後のルテインの残存率が相対的に高いことが示されている。 そうすると、ルテインと長鎖多価不飽和脂肪酸とを含有する栄養組成物であって、摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物であれば本発明の課題を解決できると当業者は認識する。 そして、本件特許発明1、4及び6は、上記事項をすべて満たすものであるから、発明の詳細な説明の記載から当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、本件特許の明細書の上記記載並びに出願時の技術常識を踏まえれば、当業者であれば本件特許発明1、4及び6の構成を満たせば本発明の課題が解決できるものと理解する。本件特許発明1の発明特定事項のすべてを有し、さらに限定するものである本件特許発明2及び3、本件特許発明4の発明特定事項のすべてを有し、さらに限定するものである本件特許発明5並びに本件特許発明6の発明特定事項のすべてを有し、さらに限定するものである本件特許発明7についても同様である。 よって、本件特許発明1ないし7に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足する。 (5)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は特許異議申立書(87~90頁)において、上記第4 4(1)~(4)の主張をしているので、順に検討する。 ア DHA及びARAの重量比が50:50~100:0である点について(上記第4 4(1)) 本件特許明細書の【0007】に記載された「DHA及びARAを特定の重量比で共存させる」という記載は、例えば、同【0018】、【0021】、【0043】の【表1】等の記載をみれば、DHA:ARA=100:0の重量比を含むことは明らかであるから、特許請求の範囲に課題解決手段が反映されていないとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。 イ DHA及びARAの重量比が67:33~100:0である点について(上記第4 4(2)) 上記(4)で検討したとおり、摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物であれば本発明の課題を解決できると当業者は認識するのであるから、DHA及びARAの重量比が上記範囲より狭い67:33~100:0の範囲であるならば、本発明の課題を解決できることは明らかである。 よって、特許異議申立人の上記主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。 なお、67:33という限界値が、仮に特許異議申立人が主張するように臨界的異議を有するものではないとしても、67:33~100:0の範囲であれば本発明の課題を解決できるという上記(4)の判断には何ら影響しない。 ウ DHAの含有量が20mg/L以上300mg/Lである点について(上記第4 4(3)) 摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が20mg/L以上300mg/L以下であり、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸(ARA)を重量比50:50~100:0で含有する、栄養組成物であれば本発明の課題を解決できると当業者は認識することは上記(4)に記載したとおりである。そして、特許異議申立人の主張は、DHAの含有量が20mg/L以上300mg/L以下であっても本発明の課題を解決することができないことを示す具体的な証拠を何ら提示するものではない。 よって、特許異議申立人の上記主張によって、上記(4)の判断が左右されるものではない。 エ 審査段階で特許権者が意見書で主張した事項について(上記第4 4(4)) 特許異議申立人の主張は、ルテインの濃度が摂取において「5μg/L以上50μg/L未満」であっても本発明の課題を解決することができないことを示す具体的な証拠を何ら提示するものではない。 よって、特許異議申立人の上記主張によって、上記(4)の判断が左右されるものではない。 (6)申立理由4についてのむすび 上記(4)及び(5)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によって取り消すことはできない。 5 申立理由5(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第3のとおり、本件特許発明1ないし3、6及び7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載を要する。 本件特許発明4及び5は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。 (2)実施可能要件の判断 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明が栄養組成物に関する(【0001】)ものであって、本件特許発明1ないし7の発明特定事項を満たすことによってルテインの酸化分解を抑制できること(【0007】~【0010】)が記載されている。 そして、【0016】にはルテインの入手方法について、【0019】にはDHA及びARAを含む長鎖多価不飽和脂肪酸の入手方法について、それぞれ記載があり、【0034】~【0036】には、栄養組成物の製造方法について調整乳を例とした記載があり、さらに、【0037】~【0050】には具体的な実施例が示されており、表1の重量比でDHA:ARA=100:0~0:100のサンプル並びに表3の調製粉乳Aから調製粉乳Cのサンプルの評価結果から、栄養組成物について、DHA又はDHA及びARAを特定量・特定比で含有すれば、ルテインの酸化分解を抑制できることが示されており、そのものを生産し、使用することができることが示されており、また、その方法を使用することができることが示されている。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3、6及び7を生産及び使用し、本件特許発明4及び5の方法を使用することができる程度の記載があるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書(87~90頁)において、上記第4 4(1)~(4)の主張をしているので、順に検討する。 ア DHA及びARAの重量比が50:50~100:0である点について(上記第4 4(1)) 本件特許明細書の【0007】に記載された「DHA及びARAを特定の重量比で共存させる」という記載は、例えば、同【0018】、【0021】、【0043】の【表1】等の記載をみれば、DHA:ARA=100:0の重量比を含むことは明らかである。 よって、特許異議申立人の上記主張は、上記(2)の判断に影響するものではない。 イ DHA及びARAの重量比が67:33~100:0である点について(上記第4 4(2)) 上記(2)で検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1を生産及び使用することができる程度の記載があるといえるのであるから、DHA及びARAの重量比が本件特許発明1より狭い67:33~100:0の範囲であるならば、発明に係る物を生産及び使用することができる程度の記載があることは明らかである。 よって、特許異議申立人の上記主張は、上記(2)の判断に影響するものではない。 なお、67:33という限界値が、仮に特許異議申立人が主張するように臨界的異議を有するものではないとしても、67:33~100:0の範囲において、発明に係る物を生産及び使用することができるという上記(2)の判断には何ら影響しない。 ウ DHAの含有量が20mg/L以上300mg/Lである点について(上記第4 4(3)) 本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3、6及び7を生産及び使用し、本件特許発明4及び5の方法を使用することができる程度の記載があるといえることは上記(2)に記載したとおりである。そして、特許異議申立人の主張は、DHAの含有量が20mg/L以上300mg/Lであっても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3、6及び7を生産及び使用し、本件特許発明4及び5の方法を使用することができないことを示す具体的な証拠を何ら提示するものではない。 よって、特許異議申立人の上記主張によって、上記(2)の判断が左右されるものではない。 エ 審査段階で特許権者が意見書で主張した事項について(上記第4 4(4)) 特許異議申立人の主張は、ルテインの濃度が摂取において「5μg/L以上50μg/L未満」であっても、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3、6及び7を生産及び使用し、本件特許発明4及び5の方法を使用することができないことを示す具体的な証拠を何ら提示するものではない。 よって、特許異議申立人の上記主張によって、上記(2)の判断が左右されるものではない。 (4)申立理由5についてのむすび 上記(2)及び(3)に記載したとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によって取り消すことはできない。 6 申立理由6(明確性)について (1)明確性の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)明確性の判断 請求項1に記載された「摂取時におけるルテインの含有量」という用語は、文字通り摂取者が摂取する(被投与者が投与される)際のルテインの含有量を指すことは明らかであり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。請求項1に記載された「摂取時におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量」という用語並びに請求項6に記載されたこれらの用語についても同様である。 また、本件特許発明4におけるルテイン及びDHAの「摂取時における濃度」は、ルテインの酸化分解を抑制する対象となる栄養組成物を特定するものであり、摂取時においてルテイン及びDHAの濃度が特定の範囲にある栄養組成物を対象とすることを特定するものであるから、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書(90~92頁)において、上記第4 5の主張をしているので、検討する。 本件特許発明1および6については、請求項の記載から摂取者が摂取する際の含有量であることは明らかであるから、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 また、本件特許発明4について、「摂取時における濃度」はルテインの酸化分解を抑制する対象となる栄養組成物を特定するものであるから、酸化分解を実施する際の条件を特定するものではないとしても、そのことをもって第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は上記(2)の判断に影響するものではない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700723

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決104件(森永乳業株式会社、金山 愼一)
  • 2025-701150異議申立 / 2026-05-19 / 維持消火体
    同じ当事者: 金山 愼一
  • 2025-700552異議申立 / 2026-05-13 / 訂正認容冷菓
    同じ当事者: 森永乳業株式会社
  • 2025-700741異議申立 / 2026-03-25 / 請求成立(取消)消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置
    同じ当事者: 金山 愼一
  • 2025-900012異議申立 / 2025-09-03 / 維持エイチエムエスツー、エッチエムエスツー、エイチエムエスニ、エッチエムエスニ、エイ…
    同じ当事者: 森永乳業株式会社
  • 2024-701002異議申立 / 2025-08-04 / 訂正認容非栄養甘味料の味を改善する組成物及び方法
    同じ当事者: 金山 愼一
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,160件(113・A23L、121・A23L、536・A23L ほか)
  • 2026-700149異議申立 / 2026-06-29 / 維持野菜含有調味料、及び野菜含有調味料の製造方法
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、536・A23L、537・A23L
  • 2024-700938異議申立 / 2026-05-08 / 訂正認容果汁含有飲料
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、536・A23L、537・A23L
  • 2025-700697異議申立 / 2026-04-06 / 訂正認容調味組成物
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、536・A23L、537・A23L
  • 2025-700276異議申立 / 2026-01-30 / 維持造粒物及び造粒物の製造方法
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、536・A23L、537・A23L
  • 2024-700956異議申立 / 2025-12-24 / 訂正認容フライ食品、フライ食品の製造方法、およびフライ食品のパンク抑制方法
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、536・A23L、537・A23L

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存