特許異議申立
2025-700741
消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置
- 審判番号
- 2025-700741
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-176188
- 登録番号
- 7619416
- 請求日
- 2025年07月18日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】金山 愼一
- 審判長/審判官
- 審判長 八木 誠
- 審判官 北村 亮
- 審判官 遠藤 秀明
- 分類
- P1651.121-ZC (A62C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7619416号発明「消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7619416号の請求項1、4~10に係る特許を取り消す。
同請求項2、3、11~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7619416号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和5年10月11日(優先権主張 令和5年4月17日)に出願され、令和7年1月14日にその特許権の設定登録がなされ、令和7年1月22日に特許掲載公報が発行された。その特許についての異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和7年 7月18日 :特許異議申立人 金山 愼一(以下「申立人」
という。)による請求項1~14に係る特許に
対する特許異議の申立て
同年10月 2日付け:取消理由通知
なお、取消理由通知に対して、特許権者から意見書等の提出はなかった。
第2 各甲号証
申立人が、令和7年7月18日の特許異議申立書とともに提出した甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲6」という。)は、次のとおりである。
甲1:国際公開第2021/149766号
甲2:特表2023-512505号公報
甲3:国際公開第2023/008537号
甲4:特開2019-69541号公報
甲5:国際公開第2023/277040号
甲6:特開2022-145344号公報
第3 取消理由の概要
令和7年10月2日付け取消理由通知で通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
・請求項1、4、5、7、9について、甲1及び甲3
・請求項6について、甲1、甲3及び甲4
・請求項8について、甲1、甲3及び甲5
・請求項10について、甲1、甲3及び甲6
第4 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明14」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する消火シートであって、
前記第一及び第二の消火剤層は消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記第二の消火剤層が潮解抑制成分を更に含む、消火シート。
【請求項2】
前記潮解抑制成分が、酸無水物基を有する化合物を含む、請求項1に記載の消火シート。
【請求項3】
前記酸無水物基を有する化合物が、カルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤である、請求項2に記載の消火シート。
【請求項4】
前記第一の消火剤層が第一の消火剤を含み、
前記第二の消火剤層が第二の消火剤を含み、
前記第一の消火剤に含まれる前記塩が前記第二の消火剤に含まれる前記塩と同じ化合物である、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項5】
前記第一の消火剤層が第一の消火剤を含み、
前記第二の消火剤層が第二の消火剤を含み、
前記第一及び第二の消火剤の少なくとも一方が酸化剤を更に含む、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項6】
前記第二の消火剤層に対して2.0μLの水滴を滴下したとき、滴下後0.2秒経過時の接触角が75°以上である、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項7】
性状安定性評価試験の結果に基づいて下記式(1)で算出される全光線透過率の変化量Δが50以下である、請求項1又は2に記載の消火シート。
全光線透過率の変化量Δ=保存後の全光線透過率の値-初期の全光線透過率の値・・・(1)
【請求項8】
ガスバリア性を有する包装袋に収容されている、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項9】
発火の可能性がある消火対象物と、
前記消火対象物に対面するように配置された消火シートと、
を備える、自動消火機能を有する装置であって、
前記消火シートは、第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有し、
前記第一及び第二の消火剤層は火炎に反応して噴出する消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記第二の消火剤層は、潮解抑制成分を更に含む、自動消火機能を有する装置。
【請求項10】
前記消火対象物が配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池及びコンセントからなる群から選ばれる一種であり、前記消火対象物を収容する筐体の内面に前記消火シートが配置されている、請求項9に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項11】
前記第二の消火剤層は、前記第一の消火剤層よりも火炎に対する反応性が低く、且つ前記第一の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている、請求項9又は10に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項12】
前記消火シートが前記消火対象物の上方に配置されている、請求項11に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項13】
前記第一の消火剤層は、前記第二の消火剤層よりも火炎に対する反応性が高く、且つ前記第二の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている、請求項9又は10に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項14】
前記消火シートが前記消火対象物から水平方向に離れた位置に配置されている、請求項13に記載の自動消火機能を有する装置。」
第5 各甲号証の記載
1 甲1
本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲1には、以下の記載がある。
(1)甲1の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、火災の発生し得る場所、設備、装置、工具、建材、構造物等に用いることができ、初期消火機能を有する消火シートに関する。」
イ 「【0014】
本実施形態の消火シートは、所定温度に到達すると熱分解して消火成分を発生させる消火薬剤を含む。あるいは、消火シートは、シート状に成形された消火薬剤であると言ってもよい。そして、本実施形態の消火シートは、消火成分としてエアロゾルを発生させる。消火シートは、消火薬剤に少なくともカリウム化合物と結合剤を含む。」
ウ 「【0015】
より具体的には、消火薬剤は例えば、結合剤(A成分)0.5~30質量%及び塩素酸塩(B成分)10~70質量%を含有し、更に前記結合剤及び前記塩素酸塩100部質量に対して、30~900質量部のカリウム塩(C成分)を含有し、熱分解温度が90℃超~450℃の範囲である。」
エ 「【0017】
B成分の塩素酸塩は、強力な酸化剤であり、C成分のカリウム塩との燃焼により熱エネルギーを発生させ、エアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。このエアロゾルは、消火成分のカリウムラジカル(カリウム化合物)を放出し、負触媒効果によって燃焼の連鎖を断ち切り、素早い消火を実現するものである。」
オ 「【0019】
次に、C成分のカリウム塩は、B成分の燃焼により生じた熱エネルギーによりエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。」
カ 「【0020】
かかるC成分のカリウム塩としては、例えば酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム、炭酸水素カリウム及び重炭酸カリウムのうちの少なくとも1種から選ばれるものが好ましい。」
キ 「【0023】
なお、消火薬剤のシート等の成型体は、上記の消火薬剤組成物の各成分を混合して、塗工条件を管理しながらシート状に成型し、適宜乾燥することによって作製すればよい。当該シート状消火薬剤の厚さ及び面積等の寸法は、用いる設備、装置、機械、工具、構造物等の消火対象物及び用途等によって適宜調整すればよい。複数のシート状消火薬剤を積層して用いることも可能である。
【0024】
また、本発明のシート状消火薬剤は、設備、装置、機械、工具、構造物等の消火対象物の発火し易い箇所に設置すればよい。例えば装置や工具であれば、不慮の事故等の何らかの不具合によって発火のおそれのあるリチウムイオン電池等の二次電池を含む電池セルやそのケース、電極、接続端子、回路基板等の発火し得る部材に接触乃至は隣接させて、シート状消火薬剤を配置すればよい。もちろん複数個所に配置してもよい。
【0025】
本発明の消火薬剤は、上記のエアロゾルによって消火作用を発揮するために、設備、装置、機械、工具、構造物等の対象物において、内部に密封されていてもよい。また、上記のように発火し得る部材とともに密封されていてもよい。」
ク 「【0027】
更に、本発明は、上記の本発明の消火薬剤のシート(消火シート乃至は消火剤層)と、紙、樹脂又は金属等の基材と、をこの順に具備する消火用積層体にも関する(この場合、基材を剥離しても剥離しなくても使用可能)。また、一対の基材の間に上記消火剤層が積層された構造の消火用積層体であってもよい(この場合、一方の基材を剥離しても両方の基材を剥離しても使用可能)。
【0028】
樹脂基材としては、例えばポリエステル(PET等)、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)等が挙げられる。水蒸気透過度が低く、上記C成分の劣化を抑制し易いという観点からは、PET、LLDPE、PP、COP、CPP、PVC、PC、PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP又はPCTFEが好ましい。
【0029】
樹脂基材は、水蒸気バリア性の観点から水蒸気透過度(JISK7129準拠、40℃/90%RH条件下)が制御されていてもよく、従来公知の技術にしたがって、例えば厚さ、樹脂の分子量、表面処理、金属酸化物層(例えばアルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)の形成等により適宜調整することはできる(例えば200g/m2/day以下)。燃焼によってエアロゾルを発生する消火成分を用いる観点からは、例えば0.01g/m2/day~150g/m2/dayとすればよい。」
ケ 「【0033】
上記の基材と消火剤層との間には接着層(接着剤で形成された層)が設けられていてもよい。この場合、消火剤層の端面と接着層の端面とは面一であってもなくてもよい。接着剤を消火剤層の端面より外側にはみ出す場合は、はみ出した接着剤が最外層となる基材同士を接着しかつ封止することができる。」
コ 「【0038】
(1-2)粉末粉砕による消火薬剤スラリー作製
クエン酸三カリウム(C成分:エアロゾル発生剤としての含カリウム化合物)187.5g、塩素酸カリウム(B成分:酸化剤)112.5g、N-メチルピロリドン(A成分:結合剤)200g、および分散メディアとして粒径5mmのアルミナボール2kgを2リットル容器に入れ、60rpmに設定されたボールミルで、24時間程度撹拌粉砕して消火薬剤スラリーを得る。」
サ 「【0052】
例えば、本発明の消火シート、積層体、消火薬剤及びスラリーは、上記したように、設備、装置、機械、工具、構造物、電池等に適用可能であり、例えば電極、接続端子、回路基板等の発火し得る部材に接触乃至は隣接させて装備すればよい。」
シ 「【0053】
本発明の消火シート、積層体、消火薬剤及びスラリーは、その他にも、例えば各種電源、モーター、配電盤、制御盤、厨房用部材、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等の各種の産業資材に用いられる部材にも、好適に利用することができる。」
(2)甲1発明
上記(1)を踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数のシート状消火薬剤を積層した消火シートであって、
前記複数のシート状消火薬剤は消火薬剤をそれぞれ含み、
前記消火薬剤はクエン酸三カリウムを含む、消火シート。」
2 甲3
本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲3には、以下の記載がある。
(1)甲3の記載事項
ア 「【0001】
本開示は、消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法に関する。上記消火性部材は、例えば、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等の産業部材に用いられる。」
イ 「【0018】
<消火材形成用組成物>
消火材形成用組成物は、消火剤及びバインダを含む。消火材形成用組成物は、更に液状媒体を含んでいてもよい。」
ウ 「【0019】
(消火剤)
消火剤は、吸湿性を有する有機塩及び吸湿性を有する無機塩の少なくとも一方の塩を含む。」
エ 「【0021】
消火剤として機能する、吸湿性を有する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としてはカリウム塩を用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸一カリウム、酒石酸二カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸一カリウム、マレイン酸二カリウム、コハク酸一カリウム、コハク酸二カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、又はクエン酸三カリウムを用いることができる。」
オ 「【0022】
消火剤として機能する、吸湿性を有する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。無機塩としてはカリウム塩を用いることができる。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、炭酸水素カリウムを用いることができる。」
カ 「【0027】
消火剤は、上述した塩以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、着色剤、酸化剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤等が挙げられる。これらの他の成分は、塩の種類及びバインダの種類により適宜選択することができる。また、これらの他の成分は、上述した塩に対し事前に混合されていてもよいし、塩の表面にコーティングされていてもよい。消火剤に含まれる他の成分の含有率は、例えば40質量%以下である。」
キ 「【0028】
(バインダ)
バインダは、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含む。ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂はいずれも水酸基含有樹脂である。ポリビニルアセタール系樹脂は、アセタール化度が大きいほど樹脂の疎水性が向上するため、塩による吸湿を抑制し易い。ポリビニルアルコール系樹脂はアセタール化されていないため、ポリビニルアセタール系樹脂と比較すると水酸基数は多いが、上記樹脂以外の他の樹脂成分との反応点が多いとも考えられる。そのため、バインダ設計の観点ではポリビニルアルコール系樹脂の方が設計自由度が高く、扱い易い。」
ク 「【0031】
ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよい。変性の態様としては、アセトアセチル基変性、カルボン酸変性、カルボニル基変性、スルホン酸変性、ヒドラジド基変性、チオール基変性、アルキル基変性、シリル基変性、ポリエチレングリコール基変性、エチレンオキシド基変性、ウレタン結合を有する基による変性、リン酸エステル基変性等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂を変性することで、塩による吸湿を抑制し易い。」
ケ 「【0042】
バインダは、疎水性向上に伴う塩による吸湿抑制の観点から、上述した樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、シランカップリング剤等が挙げられる。バインダに含まれる他の成分の含有量は、例えば60質量%以下である。」
コ 「【0050】
消火材は、消火材形成用組成物を成形することで得ることもできる。消火材の形状はその用途に応じて選択すればよく、消火材は粒状消火材、板状消火材、柱状消火材等であってもよい。」
サ 「【0100】
<性状安定性評価>
得られた評価サンプルの全光線透過率を、ヘイズメーター(BYK社製 BYK-Gardner Haze-Guard Plus)を用いて、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定した。測定は高温恒湿槽(85℃/85%RH条件下)に投入する前(試験前)と、投入して136時間経過後(試験後)に行った。バリアフィルムの全光線透過率は85%であった。測定は測定箇所を変えて3回行い、下記式に従い試験前後での各箇所での全光線透過率の変化量を算出した。変化量の平均値を表1に示す。消火材による吸湿(潮解)が生じた場合には透明度が上がるため、この変化量を確認することで性状安定性を評価した。
変化量Δ=試験後測定値-試験前測定値」
シ 「【0101】
【表1】
[図:0001436200000001.jpg]
」
(2)甲3に記載された技術的事項
上記(1)を踏まえると、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「板状消火材において、消火剤は潮解性(吸湿性)を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、疎水性向上に伴う塩による吸湿抑制の観点から、潮解抑制成分(シランカップリング剤)を含むこと」
3 甲4
本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲4には、以下の記載がある。
(1)甲4の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、トップコート層付きフィルム、該フィルムを備えた表面保護フィルム、および該表面保護フィルムによって保護された光学部品に関する。」
イ 「【0021】
<トップコート層の表面特性>
ここに開示されるトップコート層付きフィルムは、トップコート層表面(図1の符号14Aで示す表面)の水に対する接触角(水接触角)が75°以上であることによって特徴づけられる(特性(A))。特性(A)を満足することによって、トップコート層表面の撥水性が高まり、印字後におけるトップコート層表面全体としての耐水性が向上する。上記水接触角は、好ましくは77°以上である。トップコート層表面の撥水性を重視する場合、上記水接触角は、好ましくは80°以上、より好ましくは82°以上、さらに好ましくは85°以上(例えば90°以上)である。水接触角の上限は特に限定されないが、印字性等の観点から、120°以下(典型的には110°以下、例えば100°以下)程度とすることが適当である。」
(2)甲4に記載された技術的事項
上記(1)を踏まえると、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「トップコート層表面の水接触角が75°以上であることで、撥水性が高まり耐水性が向上すること」
4 甲5
本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲5には、図面とともに、以下の記載がある。
(1)甲5の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、消火体に関する。」
イ 「【0019】
<消火体>
図1は、一実施形態に係る消火体の模式外観図である。図2は、一実施形態に係る消火体の模式断面図であり、図1におけるII-II線断面図である。消火体10は、樹脂層を含む基材から形成された包装袋11と、包装袋内に封入された消火剤12と、を備える。包装袋11は周縁に封止部11aを有し、封止部11aにおいて基材同士が接合されている。本態様では、封止部において、樹脂層同士が熱融着されていると言うことができる。」
ウ 「【0029】
基材は、ガスバリア層を含んでよい。ガスバリア層は、基材の最外層側に設けられていてよく、基材の中間層として設けられていてよい。基材がガスバリア層を備える場合、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤の性状が大きく変化しない程度のガスバリア性を維持し易くなる。ガスバリア層の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10g/m2/day以下とすることができ、1g/m2/day以下であってよい。水蒸気透過度の調整の観点から、ガスバリア層としては金属層、金属酸化物層等が挙げられ、具体的にはアルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等の金属酸化物蒸着層、アルミ箔等の金属箔が挙げられる。基材は、最内層に設ける樹脂層に加え、ガスバリア層を支持するための樹脂層を更に備えていてよい。ガスバリア層が金属酸化物蒸着層を備える場合、金属酸化物蒸着層は消火剤側を向いていてよい。」
エ 「【0031】
(消火剤)
消火剤としては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、対象物の態様に応じて適宜用いることができる。本実施形態の包装袋は、特に潮解性を有する消火剤に対し好適に用いることができる。潮解性を有する消火剤としては、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。対象物がリチウムイオン電池である場合は、BC消火剤や、その他リチウムイオン電池用の消火剤が用いられる。
【0032】
消火剤は、一般に消火性能を有する、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含んでいてもよい。
【0033】
消火剤として機能する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としてはカリウム塩を好適に用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸一カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、クエン酸カリウムを用いることができる。
【0034】
消火剤として機能する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。無機塩としてはカリウム塩を好適に用いることができる。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、炭酸水素カリウムを用いることができる。」
(2)甲5の図示事項
図1「
[図:0001436200000002.jpg]
」
図2「
[図:0001436200000003.jpg]
」
(3)甲5に記載された技術的事項
上記(1)、(2)を踏まえると、甲5には、次の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「消火体において、消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、潮解性を有する消火剤を包装袋に封入すること」
5 甲6
本件特許の優先日前に日本国内又は外国で頒布された甲6には、図面とともに、以下の記載がある。
(1)甲6の記載事項
ア 「【0016】
図1は、本開示の実施形態に係る電池モジュールの一例を模式的に示す斜視図である。本開示の電池モジュール10は筐体2の内部に8個の単電池1を配列している。配列された単電池1の上側には消火シート4が載置されている。消火シート4は薄いことが好ましく、発火した単電池1を消火するのに必要な量の消火剤が練り込まれていれば、薄いほどパッケージの小型化に資することとなる。上述した従来の電池モジュール20(図3)では、単電池1の上側に空間3を設けており、小型化の阻害要因となっていた。本開示の電池モジュール10ではそのような空間は設けず、より薄い消火シート4を採用することにより小型化を実現している(図1参照)。」
イ 「【0019】
電池パッケージ100の形態は図示したものに限らず、別の形態であってもよい。例えば、住宅に設置する際には図示した縦置きのパッケージが都合良い。車載バッテリーとして使用する場合には、横置きで電池モジュール10を連接し車体の床部分に適合する形態としてもよい。そのような横置きのパッケージ100でも本開示の電池モジュール10において、単電池の上面側だけでなく側面側(前面側、後面側、左面側、右面側)にも消火シートを適用することができ、所望の効果を奏し有用である。また、パッケージには角型以外に円筒やパウチ型のものがあり、それらにも本開示のモジュールおよびそのパッケージが適用可能である。なお、上面側又は側面側の消火シートは単電池と隙間(空間)があったり、他の機能性のシートなどを介在したりしていてもよい。」
(2)甲6の図示事項
図1「
[図:0001436200000004.jpg]
」
(3)甲6に記載された技術的事項
上記(1)、(2)を踏まえると、甲6には、次の技術的事項(以下「甲6記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「単電池1が配列される筐体2の内部に消火シート4を配置すること」
第6 取消理由通知に記載した取消理由について
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「複数のシート状消火薬剤を積層した消火シート」は、本件発明1の「第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する消火シート」に相当する。同様に、「消火薬剤」は「消火剤」に相当する。
イ 上記アを踏まえると、甲1発明の「前記複数のシート状消火薬剤は消火薬剤をそれぞれ含」むことは、本件発明1の「前記第一及び第二の消火剤層は消火剤をそれぞれ含」むことに相当する。
ウ 甲1発明の「クエン酸三カリウム」は、本件明細書の段落【0041】に潮解性を有する有機塩の例として記載されていることから、本件発明1の「潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する消火シートであって、
前記第一及び第二の消火剤層は消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む、消火シート。」
[相違点1]
本件発明1は、「前記第二の消火剤層が潮解抑制成分を更に含む」のに対して、甲1発明は、そのような特定がない点。
(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 甲1発明と甲3記載の技術的事項とは、消火材という同一の技術分野に属し、消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む点で共通するものである。さらに、甲1の段落[0028]には、水蒸気透過度が低くC成分(クエン酸三カリウム)の劣化を抑制しやすいという観点から樹脂基材として好ましい素材を選択することが記載されていることから、塩による吸湿を抑制する課題が示唆されているものと認められる。そして、潮解性を有する有機塩を含む甲1発明においても、同様の課題を内在していると認められるから、甲1発明において、当該課題を解決するために、甲3記載の技術的事項を適用して、消火剤層が潮解抑制成分を含む構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。
イ 本件発明1が奏する作用効果も、甲1発明及び甲3記載の技術的事項から当業者が予測できる範囲内のものであり、格別なものとはいえない。
ウ よって、本件発明1は、甲1発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 本件発明4、5、7、9
(1)本件発明4、5、7について
本件発明4について、甲1(段落[0038]を参照。)には、C成分としてクエン酸三カリウムを含む実施例が記載されており、複数のシート状消火薬剤が同じ化合物を含むことが示唆されているものと認められる。
本件発明5について、甲1(段落[0017]を参照。)には、複数のシート状消火薬剤が酸化剤を含むことが記載されているものと認められる。
本件発明7について、甲3(段落[0100]、[0101]を参照。)には、全光線透過率の変化量が20又は30であることが記載されているものと認められる。
よって、本件発明4、5、7は、本件発明1について前述したのと同様の理由により、甲1発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明9について
本件発明9について、甲1(特に、段落[0024]、[0052]、[0053]を参照。)には、甲1において、さらに以下の技術的事項を有する発明(以下「甲1A発明」という。)が記載されているものと認められる。
「消火対象物の発火し得る部材に接触又は隣接させてシート状消火薬剤を配置する。」
そうすると、本件発明9と甲1A発明との間に、本件発明1に係る上記相違点のほかに新たな相違点はない。
よって、本件発明9は、本件発明1について前述したのと同様の理由により、甲1A発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件発明6
(1)対比
本件発明6と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明6は「前記第二の消火剤層に対して2.0μLの水滴を滴下したとき、滴下後0.2秒経過時の接触角が75°以上である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。
(2)判断
相違点2について検討する。
甲1発明において、塩による吸湿を抑制する課題を解決するために、上記第5の3(2)で示した甲4記載の技術的事項に照らして、水滴を滴下したときの接触角を本件発明6と同様の数値範囲とすることに、格別の技術的困難性はないから、甲1発明において、甲3記載の技術的事項を付加する際に、甲4記載の技術的事項を採用し、上記相違点2に係る本件発明6の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本件発明6は、甲1発明、甲3記載の技術的事項及び甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件発明8
(1)対比
本件発明8と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明8は、「ガスバリア性を有する包装袋に収容されている、」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。
(2)判断
相違点3について検討する。
甲1(段落[0027]-[0029]、[0033]を参照。)には、水蒸気透過度が低い一対の樹脂基材の間に消火剤層を積層し、基材と消火剤層との間には接着層が設けられ、はみ出した接着剤が最外層となる基材同士を接着しかつ封止することが記載されているものと認められる。
そして、甲1発明と上記第5の4(3)で示した甲5記載の技術的事項とは、消火材という同一の技術分野に属し、消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む点で共通するものである。甲1発明において、甲5記載の技術的事項に照らして、ガスバリア性を有する包装袋に収容することに、格別の技術的困難性はないから、甲1発明において、甲3記載の技術的事項を付加する際に、甲5記載の技術的事項を採用し、上記相違点3に係る本件発明8の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本件発明8は、甲1発明、甲3記載の技術的事項及び甲5記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件発明10
(1)対比
本件発明10と甲1A発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の点で相違する。
[相違点4」
本件発明10は「前記消火対象物が配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池及びコンセントからなる群から選ばれる一種であり、前記消火対象物を収容する筐体の内面に前記消火シートが配置されている」のに対し、甲1A発明は、そのような構成を有しない点。
(2)判断
上記相違点4について検討する。
甲1(段落[0024]、[0052]、[0053]を参照。)には、消火対象物として配電盤、制御盤が記載されているものと認められる。
そうすると、甲1A発明において、上記第5の5(3)で示した甲6記載の技術的事項に照らして、消火対象物を収容する筐体の内面に消火シートを配置することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないから、甲1A発明において、甲3記載の技術的事項を付加する際に、甲6記載の技術的事項を採用し、上記相違点4に係る本件発明10の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件発明2及び3
(1)対比・判断
本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違する(「第6 1(1)」参照)ほか、次の点で相違する。
[相違点5]
本件発明2は、「前記潮解抑制成分が、酸無水物基を有する化合物を含む、」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。
相違点5について検討する。
相違点5に関連するものとして、甲3(段落[0042]を参照。)には、潮解抑制成分に関し、以下の記載がある。
「バインダは、疎水性向上に伴う塩による吸湿抑制の観点から、上述した樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、シランカップリング剤等が挙げられる。バインダに含まれる他の成分の含有量は、例えば60質量%以下である。」
しかしながら、甲3には「シランカップリング剤」と記載されているものの、この「シランカップリング剤」が酸無水物基を有する「シランカップリング剤」であるか不明であるから、酸無水物基を有する化合物は記載されていない。また、その他の甲号証を見ても、相違点5に係る本件発明2の発明特定事項を示す証拠は見いだせない。
そうすると、甲1発明において、相違点5に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。また、本件発明2のすべての発明特定事項を含む本件発明3についても同様である。
してみれば、本件発明2および本件発明3は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立人の主張について
申立人は、異議申立書第40ページ第15行~第41ページ第9行において、甲3には、バインダが、変性されたポリビニルアルコール系樹脂を含み、変性の態様としてはカルボン酸変性が挙げられることが記載されているから、板状消火材/消火シートに関し、消火材形成用組成物がカルボン酸変性された樹脂/酸無水物基を有する化合物を含むことが少なくとも示唆されていると主張する。
しかしながら、カルボン酸変性された樹脂が必ずしも酸無水物基を有する化合物であるとは言えず、甲3に記載の「カルボン酸変性」が酸無水物基を含んでいるとまでは言えないから、申立人の主張は採用できない。
2 本件発明11及び12
(1)対比・判断
本件発明11と甲1A発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違する(「第6 1(2)」参照)ほか、次の点で相違する。
[相違点6]
本件発明11は、「前記第二の消火剤層は、前記第一の消火剤層よりも火炎に対する反応性が低く、且つ前記第一の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている」のに対し、甲1A発明は、そのような構成を有しない点。
相違点6について、検討する。
相違点6の「前記第二の消火剤層は、前記第一の消火剤層よりも火炎に対する反応性が低く」に関連するものとして、甲1(段落[0027]を参照。)には、「更に、本発明は、上記の本発明の消火薬剤のシート(消火シート乃至は消火剤層)と、紙、樹脂又は金属等の基材と、をこの順に具備する消火用積層体にも関する(この場合、基材を剥離しても剥離しなくても使用可能)。また、一対の基材の間に上記消火剤層が積層された構造の消火用積層体であってもよい(この場合、一方の基材を剥離しても両方の基材を剥離しても使用可能)。」との記載はあるものの、一方の消火剤層の火炎に対する反応性が他方の消火剤層の火炎に対する反応性に対して、高いまたは低いとする記載はない。
また、その他の甲号証を見ても、相違点6に係る本件発明11の発明特定事項を示す証拠は見いだせない。
そうすると、甲1A発明において、相違点6に係る本件発明11の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。また、本件発明12は、本件発明11の全ての発明特定事項を含み、さらに別の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11が、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明12についても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
してみれば、本件発明11及び12は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立人の主張について
申立人は、異議申立書第48ぺージ第23~24行において、甲2発明Bにおける「高い温度範囲で消火効果を発現(する)」ことは本件発明11における「火炎に対する反応性が低(い)」ことに相当する旨を主張する。
しかしながら、本件特許の【0026】には「ここでいう「火炎に対する反応性が低い」とは火炎によって加熱されても消火剤が噴出しにくいことを意味する。」と記載されており、火炎の温度範囲についての記載はなく、例えば高い温度であっても短時間の加熱では消化剤が噴出しにくいことも想定されるから、甲2発明Bにおける「高い温度範囲で消火効果を発現(する)」ことは本件発明11における「火炎に対する反応性が低(い)」ことに相当するとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
3 本件発明13及び14
(1)本件発明13及び14についての対比・判断
本件発明13と甲1A発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致し、上記相違点1で相違する(「第6 1(2)」参照)ほか、次の点で相違する。
[相違点7]
本件発明13は、「前記第一の消火剤層は、前記第二の消火剤層よりも火炎に対する反応性が高く、且つ前記第二の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている」のに対し、甲1A発明は、そのような構成を有しない点。
相違点7について、検討する。
相違点7の「前記第一の消火剤層は、前記第二の消火剤層よりも火炎に対する反応性が高く」に関連するものとして、甲1(段落[0027]を参照。)には、「更に、本発明は、上記の本発明の消火薬剤のシート(消火シート乃至は消火剤層)と、紙、樹脂又は金属等の基材と、をこの順に具備する消火用積層体にも関する(この場合、基材を剥離しても剥離しなくても使用可能)。また、一対の基材の間に上記消火剤層が積層された構造の消火用積層体であってもよい(この場合、一方の基材を剥離しても両方の基材を剥離しても使用可能)。」との記載はあるものの、一方の消火剤層の火炎に対する反応性が他方の消火剤層の火炎に対する反応性に対して、高いまたは低いとする記載はない。
また、その他の甲号証を見ても、相違点7に係る本件発明13の発明特定事項を示す証拠は見いだせない。
そうすると、甲1A発明において、相違点7に係る本件発明13の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。また、本件発明14は、本件発明13の全ての構成を含み、さらに別の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明13が、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明14についても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
してみれば、本件発明13及び14は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立人の主張について
申立人は、異議申立書第50ぺージ第24~25行において、甲2発明Bにおける「低い温度範囲で消火効果を発現(する)」ことは本件発明13における「火炎に対する反応性が高(い)」ことに相当する旨を主張する。
しかしながら、本件特許の【0026】には「「火炎に対する反応性が高い」とは火炎によって加熱されても消火剤が噴出しやすいことを意味する。」と記載されており、火炎の温度範囲についての記載はなく、温度範囲によって火炎に対する反応性が高いまたは低いことを示すことを記載しているとは言えず、甲2発明Bにおける「低い温度範囲で消火効果を発現(する)」ことは本件発明13における「火炎に対する反応性が高い(い)」ことに相当するとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第8 まとめ
以上のとおり、本件発明1、4、5、7、9は、甲1発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲1発明、甲3記載の技術的事項及び甲4記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明8は、甲1発明、甲3記載の技術的事項及び甲5記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明10は、甲1発明、甲3記載の技術的事項及び甲6記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、4~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、4~10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明2、3、11~14に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明2、3、11~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700741