特許異議申立
2024-700713
数値制御装置、数値制御方法、及び記憶媒体
- 審判番号
- 2024-700713
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-222136
- 登録番号
- 7487468
- 請求日
- 2024年07月26日
- 審決日
- 2025年03月19日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ブラザー工業株式会社
- 【権利者代理人】山本 尚
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 堀内 亮吾
- 分類
- P1652.113-Y (G05B) / P1652.121-Y (G05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7487468号発明「数値制御装置、数値制御方法、及び記録媒体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7487468号の請求項1、5、8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7487468号の請求項1、5、8に係る特許についての出願は、令和元年12月9日に出願され、令和6年5月13日にその特許権の設定登録がされ、同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年7月26日に、その特許に対して、特許異議申立人 藤江 桂子(以下「申立人」という。)は、請求項1、5、8に係る特許について、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7487468号の請求項1、5、8の特許に係る発明(以下請求項○の特許に係る発明を「本件特許発明○」といい、まとめて「本件特許発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、5、8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
工具と被削材を移動機構により、少なくとも一つの軸方向に相対移動して切削加工を行う工作機械を制御する数値制御装置であって、
前記被削材に対する前記工具の相対位置と、前記被削材に対して前記工具が相対移動する時の速度である指令速度を少なくとも有する前記切削加工の指令を複数含むプログラムを記憶する記憶部と、
前記プログラムに基づき、前記移動機構を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
第n(nは整数)番目の第n指令の前記指令速度である第n指令速度の前記軸方向の各々の成分と、第n-1番目の第n-1指令の前記指令速度である第n-1指令速度の前記軸方向の各々の成分との差分が、所定の差分閾値以下となるように、前記第n-1指令と前記第n指令との切替時機における前記工具の速度である差分減速速度を算出する第一算出手段と、
前記第n-1指令と前記第n指令に基づき近似円弧を生成し、該近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように前記工具が移動する時の速度である円弧減速速度を算出する第二算出手段と、
前記第一算出手段により算出した前記差分減速速度と、前記第二算出手段により算出した前記円弧減速速度とに基づき、前記第n指令速度を変更する変更手段と
を備え、
前記変更手段は、
前記差分減速速度が前記円弧減速速度以上の時、前記第n指令速度を、前記円弧減速速度に変更することを特徴とする数値制御装置。」
「【請求項5】
工具と被削材を移動機構により、少なくとも一つの軸方向に相対移動して切削加工を行う工作機械を制御する為の数値制御方法であって、
前記被削材に対する前記工具の相対位置と、前記被削材に対して前記工具が相対移動する時の速度である指令速度を少なくとも有する前記切削加工の指令のうち第n(nは整数)番目の第n指令の前記指令速度である第n指令速度の前記軸方向の各々の成分と、第n-1番目の第n-1指令の前記指令速度である第n-1指令速度の前記軸方向の各々の成分との差分が、所定の差分閾値以下となるように、前記第n-1指令と前記第n指令との切替時機における前記工具の速度である差分減速速度を算出する第一算出工程と、
前記第n-1指令と前記第n指令に基づき近似円弧を生成し、該近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように、前記工具が移動する時の速度である円弧減速速度を算出する第二算出工程と、
前記第一算出工程により算出した前記差分減速速度と、前記第二算出工程により算出した前記円弧減速速度とに基づき、前記第n指令の前記指令速度を変更する変更工程と
を備え、
前記変更工程は、
前記差分減速速度が前記円弧減速速度以上の時、前記第n指令速度を、前記円弧減速速度に変更することを特徴とする数値制御方法。」
「【請求項8】
請求項1~4の何れかに記載の数値制御装置の各処理手段としてコンピュータを駆動させるための制御プログラムを記憶した記憶媒体。」
第3 申立ての理由
1 申立人が特許異議申立書で主張する申立ての理由の概要
(1)理由1(新規性)[甲第1号証による新規性欠如]
請求項1、5、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、5、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)理由2(進歩性)
甲第1号証~甲第2号証を引用例とする進歩性欠如
請求項1、5、8に係る発明は、甲第1号証~甲第2号証の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、5、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 引用文献等一覧
(1)甲第1号証:特開平3-84604号公報
(2)甲第2号証:特開平2-72414号公報
(以下、甲第○号証を「甲○」という。)
第4 文献の記載
1 甲1
(1)甲1の記載事項
ア 発明の詳細な説明
(ア)第2ページ左上欄第8行~右下欄最終行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は数値制御装置の送り速度制御方法に関し、適切な送り速度を自動的に求める数値制御装置の送り速度制御方法に関する。
〔従来の技術〕
数値制御装置(CNC)では、加工プログラムによって指令された加工通路上を指令された速度で工具を移動させることによってワークを所望の形状に加工している。
ところで、このような加工を効率よく、かつ高精度に行うためには、加工形状やモータの最大トルク、機械へのショックの度合い等を考慮して各ブロックにおける加工速度を決定する必要がある。
特にワークの指令通路コーナ部分等のように切削方向が大きく変化する加工通路上では加工プログラム作成時にその加工通路上にイグザクトストップ命令を挿入するなどして、加工プログラムの作成を行っていた。
しかし、このようなプログラムを作成するには相当の熟練度が要求されると共に、多大な労力が要求される。即ち、プログラマは工作機械及び工作物の形状等を考慮して最適の加工速度(送り速度)を決定しなければならない。
また、プログラム作成時に加工速度が工作機械の性能に比べて必要以上に遅い加工速度に設定された場合、工作機械の性能を充分に発揮できないという問題が生じる。
そこで、本願発明者等は特願昭63-224932号において、各軸毎のコーナ部における速度変化が予め設定されている許容最大トルクから求めた許容最大速度差より小さくなるような送り速度を求め、速度を制御する方法を提案している。
また、関連する発明として、微小な分配距離のブロックが連続する場合のサーボモータの加減速の繰り返しによる負担を軽減する方法として、特願平1-15595号において、加減速を制限する方法を提案している。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、この特願昭63-224932号で提案した方法は角度の変化が大きいコーナでは有効であるが、自由曲線等を直線で近似した場合等のように、一つ一つの速度変化は小さいけれどもそれが短い間隔で連続しているために実際の軸毎の加速度は大きくなっているという場合には、適切な送り速度は求めることができず、機械のショックが大きくなったり、サーボモータに過大な負荷がかかることとなる。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、機械へのショックを軽減した数値制御装置の送り速度制御方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は微小な分配距離が連続する加工プログラムでの機械へのショックあるいはサーボモータへの過負荷を防止する数値制御装置の送り速度制御方法を提供することである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明では上記課題を解決するために、
指令された加工通路に沿って移動する工具の送り速度を加工プログラムに沿って制御する数値制御装置の送り速度制御方法において、各軸の前後のブロックの速度変化と、前後のブロックの分配距離と速度から、前記各軸の加速度を求め、前記各軸の加速度が許容加減速より大のときは、各軸毎に前記許容加速度と前記加速度との第1の比を求め、前記各軸の第1の比のなかの最小の第1の比を選択し、前記指令速度に前記最小の第1の比の平方根を乗じて実際の送り速度を求めることを特徴とする数値制御装置の送り速度制御方法が、提供される。」
(イ)第3ページ左上欄第12行~左下欄下から第3行
「以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
第3図は実際の加工通路の例を示す図である。
図のN1~N7は各ブロック毎の加工通路である。
ここでは、加工通路はXY平面上にあり、指令速度は一定でも、各軸の速度は大きく変化する。例えば、X軸の速度はブロックN1では小さいが、ブロックN2では加工通路のX軸に対する角度が小さくなるので、X軸の速度は大きくなる。
第4図は一定の指令送り速度で加工を行った場合のX軸の速度を表したグラフである。ここでは、横軸は時間(t)、縦軸はX軸の速度Vxである。
ブロックN1とN2のコーナでは大きな速度差があるために、従来の方法、すなわちブロック間の許容速度差と速度差を比較して、速度を低減する方法を用いた場合、速度差が許容速度差よりも大きいので減速する必要があると判断される。
一方、ブロックN2とN3、ブロックN3とN4等のコーナ部では、速度変化が許容速度差よりも小さいために、従来の方法では減速する必要はないと判断される。しかし、実際にはブロックN2からN7までの間には、大きな速度変化がある。
例えば、ブロックN1とN2との速度差、すなわち加速度は破線L1で表すことができる。これに対して、ブロックN2とN3、ブロックN3とN4の間での速度変化、すなわち加速度は破線L2で表すことができ、破線L1で表す加速度より大である。このため、モータが過負荷になったり、機械へのショックが大きくなりすぎる場合がある。
そこで、速度変化の大きさ以外にも速度の変化率、即ち加速度が許容値以下になるようにする必要がある。この加速度は以下の式によって求める。
α=(Vm-Vn)/min{(lm/Fm),(ln/Fn)}(当審注:原文では「l」は筆記体の小文字エル)
X軸、Y軸、Z軸の加速度をA(X)、A(Y),A(Z)として、許容最大加速度をAp(X)、Ap(Y)、Ap(Z)とすると、コーナにおける実際の送り速度Fは以下の式で求める。
F=Fc{min(Ap(X)/A(X),Ap(Y)/A(Y),Ap(Z)/A(Z))}1/2
この送り速度Fと従来の方法で求めた送りの小さい方をコーナでの送り速度となるように制御することにより、機械のショックやモータへの負担が大きすぎること等がない、なめらかで高精度な加工を行うことができる。」
(ウ)第4ページ右上欄下から第2行~左下欄第11行
「第2図は本発明を実施するための数値制御装置(CNC)のハードウェアのブロック図である。
プロセッサ11はROM12に格納されたシステムプログラムに従って、数値制御装置全体を制御する。ROM12にはEPROMあるいはEEPROMが使用される。RAM13はDRAMが使用され、各種のデータが格納される。不揮発性メモリ14は加工プログラム14a、パラメータ等が記憶され、バッテリバックアップされたCMOS等が使用されるので、数値制御装置の電源切断後もその内容が保持される。また、不揮発性メモリ14には、許容加速度αmax、許容速度差ΔVmax等のパラメータも格納される。」
(エ)第4ページ右下欄第9行~最終行
「軸制御回路18はプロセッサ11から位置指令を受けて、サーボモータ20を制御するための速度指令信号をサーボアンプ19に出力する。サーボアンプ19はこの速度指令信号を増幅し、サーボモータ20を駆動する。サーボモータ20には位置帰還信号を出力するパルスコーダ21が結合されている。パルスコーダ21は位置帰還パルスを軸制御回路18にフィードバックする。パルスコーダ21の他にリニアスケール等の位置検出器を使用する場合もある。これらの要素は軸数分だけ必要であるが、各要素の構成は同じであるので、ここでは1軸分のみ表しである。」
イ 図面
(ア)図2
[図:0001421364000001.jpg]
(イ)図3
[図:0001421364000002.jpg]
(ウ)図4
[図:0001421364000003.jpg]
(2)甲1の記載事項の整理
ア 前記(1)ア(ア)には、工作機械で切削を行うこと、及び、加工通路に沿って移動する工具の送り速度を加工プログラムによって制御する数値制御装置が記載されている。また、前記(1)ア(イ)より、X軸、Y軸方向に送り速度を指令しているので、X軸、Y軸方向に相対移動して切削加工を行う工作機械であると認められる。
したがって、甲1には、工具とワークをモータによりX軸、Y軸方向に相対移動して切削加工を行う工作機械を制御する数値制御装置CNCが記載されている。
イ 前記(1)ア(イ)には、加工経路に沿って工具を移動させる際の速度指令について記載され、前記(1)ア(ウ)、図2には、加工プログラム14aを記憶する不揮発性メモリ14を有することが記載されている。
また、工具を用いて加工する前提として、ワークに対する工具の相対位置を用いて制御していることや、不揮発性メモリ14が、切削加工の指令を複数含む加工プログラム14aを記憶していることは明らかである。
したがって、上記数値制御装置CNCは、ワークに対する工具の相対位置と、ワークに対して工具が相対移動する時の速度である指令速度を少なくとも有する切削加工の指令を複数含む加工プログラム14aを記憶する不揮発性メモリ14を有していると認められる。
ウ 前記(1)ア(ウ)~(エ)より、上記数値制御装置CNCは、加工プログラム14aに基づき、モータを制御する軸制御回路18を備えていると認められる。
(3)甲1発明
前記(2)より、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「工具とワークをモータによりX軸、Y軸方向に相対移動して切削加工を行う工作機械を制御する数値制御装置CNCであって、
前記ワークに対する前記工具の相対位置と、前記ワークに対して前記工具が相対移動する時の速度である指令速度を少なくとも有する前記切削加工の指令を複数含む加工プログラム14aを記憶する不揮発性メモリ14と、
前記加工プログラム14aに基づき、前記モータを制御する軸制御回路18とを備えた数値制御装置CNC。」
2 甲2
(1)甲2の記載事項
ア 発明の詳細な説明
(ア)第2ページ左下欄最終行~右下欄第7行
「本発明では、NC加工プログラム100から加工速度を指定せず、加工速度は予め設定されている最大切削速度FMAXとして加工を行い、コーナにおいてのみ各軸速度変化△VX、ΔVYがそれぞれ予め設定されている各軸の許容最大速度変化VMX,VMY以下となるように加工速度をFMAXから所定速度まで減速し、減速後再び最大切削速度迄加速して加工を行うようにしている。」
(イ)第3ページ左上欄第1行~右下欄第8行
「さて、最大切削送り速度FMAXでブロックbi(第5図参照)の加工が行われているものとし、このブロックbiの通路制御と並行して数値制御部101はNCテープ100から次のブロックbi+1の通路データを読み取る。そして、ブロックbi+1の傾斜角度θと最大切削速度FMAXを用いて各軸方向の速度成分F2X、F2Yを次式
F2X=FMAX・cosθ
F2Y=FMAX・sinθ
により演算し、ついでこれらと現ブロックにおける各軸速度成分F1X,F1Yとから次式
ΔVX=F2X-F1X
ΔVY=F2Y-F1Y
によりコーナにおける各軸毎の速度変化ΔVX,ΔVYを演算する(ステップ201)。
各軸の速度変化ΔVX、ΔVYが求まれば、数値制御部はΔVMX/ΔVX,ΔVMY/ΔVY,・・のうち最小のものをKとする(ステップ202)。
Kが求まれば、K<1かチェックし、換言すればいずれかの軸の速度変化が該軸の許容最大速度変化より大きいか判断する(ステップ103)。
K≧1であればブロックbiの終点における指令送り速度FDをFMAXとし、換言すればコーナで減速する必要なしと判定し(ステップ204)、
K<1であればブロックbiの終点における指令送り速度FDを次式
FD=K・FMAX
より演算し、コーナにおいて(ブロックbiの終点近傍において)減速する必要があると判定する(ステップ205)。
FDが求まれば、指令送り速度をFMAXからFDに減速するタイミングを求める(ステップ206)。
さて、指令送り速度の加減速度αはパラメータ等で予め設定されているから次式
tD=(FMAX-FD)/α
により減速時間tD(第6図参照)を求める。これにより、現ブロックbiの残移動量が
Rо=(FMAX-FD)・tD/2
(第6図斜線参照)になった時にFMAXから直線的に減速を開始すればブロック終点において送り速度FDとなる。従って、ブロックbiにおける残移動量が上式で与えられる値Rоになったかチェックし(ステップ207)、なっていなければ送り速度を最大切削速度FMAXとし、所定のサンプリング時間毎の各軸移動量ΔX、ΔYを演算して各軸パルス補間器102X、102Yに入力し、工具を最大切削速度で移動させる(ステップ208)。
工具が最大切削速度FMAXでブロック終点に向かって移動し、残移動量がR0に等しくなれば指令送り速度をFMAXからFDに向けてサンプリング時間ΔT毎に階段状に減速する(第6図参照)。従って以後ブロック終点に到達する迄、数値制御部101はサンプリング時間ΔT毎に減速された速度を指令送り速度とみなして該サンプリング時間ΔT毎の各軸移動量を演算してパルス補間器102X、102Yに入力する(以上ステップ208′)。
このステップ208′の処理はブロック終点に到達するまで繰り返され、ブロック終点に到達すればステップ209において「YES」となり、以後減速の場合と同様に指令速度はFDからFMAXまでTDの間加速制御が行われる(ステップ210、211)。
すなわち、数値制御部101はサンプリング時間ΔT毎に加速された速度を指令送り速度とみなしてΔT毎の各軸移動量を演算してパルス補間器102X、102Yに入力する。尚、加速制御が終了すればNCテープ100より次のブロックの通路データを読み取って上記処理が繰り返えされる。」
(ウ)第3ページ右下欄第9~14行
「第7図は従来方法と本発明方法による速度変化の様子を示すもので、VPは従来方法、Viは本発明方法による速度である。精度を重視した場合、従来方法であるとコーナ毎に(ブロック終点毎に)、イグザクトストップをする必要があり、本発明方法に比べて全体の加工時間がTL延びている。」
イ 図面
(ア)図5
[図:0001421364000004.jpg]
(イ)図7
[図:0001421364000005.jpg]
(2)甲2記載の技術的事項
前記(1)より、甲2には次の技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「現ブロックにおける指令速度のX軸、Y軸方向の各々の成分F1X、F1Yと、次ブロックにおける指令速度のX軸、Y軸方向の各々の成分F2X、F2Yとの差分ΔVX,ΔVYが、許容最大速度変化VMX,VMY以下となるように、指令送り速度FDを算出すること。」
第5 当審の判断
1 本件特許発明1
(1)本件特許発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「ワーク」は本件特許発明1の「被削材」に相当し、以下同様に「モータ」は「移動機構」に、「X軸、Y軸方向」は「少なくとも一つの軸方向」に、「数値制御装置CNC」は「数値制御装置」に、「加工プログラム14a」は「プログラム」に、「不揮発性メモリ14」は「記憶部」に、「軸制御回路18」は「制御部」にそれぞれ相当する。
(2)本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1発明は次のアの点で一致し、イの点で相違する。
ア 一致点
「工具と被削材を移動機構により、少なくとも一つの軸方向に相対移動して切削加工を行う工作機械を制御する数値制御装置であって、
前記被削材に対する前記工具の相対位置と、前記被削材に対して前記工具が相対移動する時の速度である指令速度を少なくとも有する前記切削加工の指令を複数含むプログラムを記憶する記憶部と、
前記プログラムに基づき、前記移動機構を制御する制御部とを備え」た「数値制御装置」
イ 相違点
本件特許発明1の制御部は、「第n(nは整数)番目の第n指令の前記指令速度である第n指令速度の前記軸方向の各々の成分と、第n-1番目の第n-1指令の前記指令速度である第n-1指令速度の前記軸方向の各々の成分との差分が、所定の差分閾値以下となるように、前記第n-1指令と前記第n指令との切替時機における前記工具の速度である差分減速速度を算出する第一算出手段と、前記第n-1指令と前記第n指令に基づき近似円弧を生成し、該近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように前記工具が移動する時の速度である円弧減速速度を算出する第二算出手段と、前記第一算出手段により算出した前記差分減速速度と、前記第二算出手段により算出した前記円弧減速速度とに基づき、前記第n指令速度を変更する変更手段とを備え、前記変更手段は、前記差分減速速度が前記円弧減速速度以上の時、前記第n指令速度を、前記円弧減速速度に変更する」のに対して、甲1発明の数値制御装置CNCは、第一算出手段、第二算出手段及び変更手段に対応する構成を備えているか不明な点。
(3)理由1(新規性)(第3の1(1))について
前記(2)より、本件特許発明1は、甲1発明との間に相違点が存在するから、甲1発明と同一ではなく、甲1に記載された発明とはいえない。
(4)理由2(進歩性)(第3の1(2))について
事案に鑑み、前記相違点に係る第二算出手段から検討する。
本件特許発明1の第二算出手段は、「前記第n-1指令と前記第n指令に基づき近似円弧を生成し、該近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように前記工具が移動する時の速度である円弧減速速度」を算出しているのに対して、甲1発明では、近似円弧を生成しているとはいえず、したがって、近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように工具が移動する時の速度である円弧減速速度を算出しているとはいえない。
この相違点について、異議申立人は、異議申立書の第25~28ページにおいて、甲1には、「コーナーにおける実際の送り速度F」(上記第4の1(1)ア(イ))を求めることが記載されているところ、甲1の従来技術として記載された甲2では、速度(指令)変化の前後とも加工を最大切削送り速度FMAXで行うことを前提としており、これを甲1に当てはめた場合には、甲1の「コーナーにおける実際の送り速度F」が、本件特許発明1の「前記第n-1指令と前記第n指令に基づき近似円弧を生成し、該近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように」「算出する」「前記工具が移動する時の速度である円弧減速速度」に相当する旨を主張している。
そして、この主張に関し、lm=ln、Fm=Fn(同27ページ第10~11行)との仮定ができることを前提として、甲1記載の許容最大速度Fcは、本件明細書の【0037】、【0038】における向心加速度αの許容加速度を適用したときの円弧減速速度Vrに関する式(3-1)及び(3-2)と一致すると説明している(同28ページ第15~24行)。
しかしながら、甲1において、N1~N7の各ブロックの加工経路が同一の長さであるとは記載されておらず、図3からは、各ブロックの加工経路の長さが異なる場合があると認められる。さらに、甲2には、コーナーにおいて所定速度まで減速する(上記第4の2(1)ア(ア))ことが示されているから、甲2の「速度(指令)変化の前後とも加工を最大切削送り速度FMAXで行うこと」という前提を、甲1の「コーナーにおける実際の送り速度F」に当てはめることが適切であるとはいえない。したがって、甲1の前記許容最大速度Fcが本件特許発明1の円弧減速速度Vrと同一であると主張する前提である、lm=ln、Fm=Fnとの仮定は誤りである。
また、甲1において、lm=ln、Fm=Fnとの仮定ができたとしても、申立人が説明する甲1の許容最大速度FcにおけるA(X)は、ブロックのX軸のみを考察した許容最大加速度であり(同第28ページ第7、19行参照)、本件特許発明における向心加速度αの許容加速度であるαCURVEとは異なるものであるから、X軸のみを考察して、A(X)以下となるように算出される甲1の許容最大速度Fcと、αCURVE以下となるように算出される本件特許発明1の円弧減速速度Vrが常に一致するとはいえない。したがって、甲1の許容最大速度Fcが本件特許発明1の円弧減速速度Vrと同一であるとは認められないから、申立人の上記主張を採用することはできない。
さらに、甲2を検討しても円弧減速速度について記載されていない。
以上より、相違点に係る第一算出手段や変更手段について検討するまでもなく、理由2(進歩性)に関し、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)小括
よって、請求項1に係る特許を、理由1(新規性)及び理由2(進歩性)により取り消すことはできない。
2 本件特許発明5
(1)本件特許発明5と甲1発明の対比
本件特許発明5における第二算出工程は、「前記第n-1指令と前記第n指令に基づき近似円弧を生成し、該近似円弧の中心に向けた向心加速度が、所定の加速度閾値以下となるように、前記工具が移動する時の速度である円弧減速速度を算出する」ものであり、本件特許発明1の第二算出手段と実質的に同様のものであるから、少なくとも、前記相違点に係る第二算出手段と同様の点で相違する。
(2)理由1(新規性)(第3の1(1))について
前記(1)より、本件特許発明5は、甲1発明との間に相違点が存在するから、本件特許発明5は甲1発明と同一ではなく、甲1に記載された発明とはいえない。
(3)理由2(進歩性)(第3の1(2))について
上記(1)のとおり、本件特許発明5と甲1発明は、前記相違点に係る第二算出手段と同様の点で異なるから、前記1(4)で検討したのと同じく、理由2(進歩性)に関し、本件特許発明5は、甲1発明及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
よって、請求項5に係る特許を、理由1(新規性)及び理由2(進歩性)により取り消すことはできない。
3 本件特許発明8
本件特許発明8は、本件特許発明1及び本件特許発明5に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
したがって、本件特許発明8は、甲1発明と同一ではなく、甲1に記載された発明とはいえない。
そして、本件特許発明8は、甲1発明及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項8に係る特許を、理由1(新規性)及び理由2(進歩性)により取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、5、8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、5,8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700713