特許異議申立
2023-701383
集塵水の処理方法
- 審判番号
- 2023-701383
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-084684
- 登録番号
- 7299380
- 請求日
- 2023年12月27日
- 審決日
- 2024年10月15日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日鉄環境株式会社
- 【権利者代理人】近藤 利英子
- 【権利者代理人】菅野 重慶
- 【権利者代理人】竹山 圭太
- 【権利者代理人】岡田 薫
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 原 賢一
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-YAA(C02F) / P1651.121-YAA(C02F) / P1651.536-YAA(C02F) / P1651.537-YAA(C02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7299380号発明「集塵水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7299380号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第7299380号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7299380号の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和4年5月24日(優先権主張:令和3年7月8日)を出願日とする出願であり、令和5年6月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月27日に、その請求項1~9に係る特許を対象として特許異議申立人松山徳子(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、令和6年4月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月13日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、それに対し、同年7月25日に異議申立人より意見書の提出があったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み」とあるのを、「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み」とあるのを、「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み」に訂正する。
(請求項2を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み」とあるのを、「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み」に訂正する。
(請求項3を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み」とあるのを、「その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み」に訂正する。
(請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
・訂正事項1~4について
訂正事項1~4は、【0049】の「本実施形態の集塵水の処理方法では、固液分離処理(固液分離設備40)により得られた分離液の一部を、湿式集塵処理に供される洗浄水とは別にブロー水として循環設備外に排出することができる。」との記載によれば、「集塵水の処理方法」が、固液分離設備での固液分離処理により得られた分離液の一部を、湿式集塵処理に供される洗浄水とは別にブロー水として循環設備外に排出するものであること、さらに、【0050】の「本方法では、固液分離処理により、集塵水中の懸濁物質とともに、ペンタシアノカルボニル鉄も不溶化物として分離除去することが可能であることから、上記ブロー水を、全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水とすることが可能である(図1~図3参照)。」との記載によれば、上記【0049】での「ブロー水」の「全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である」であることに基づき、本件訂正前の請求項1~4の「集塵水の処理方法」を限定するさらなる追加の特定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~9〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~9に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み、
前記カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、集塵水の処理方法。
【請求項2】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み、
前記カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含む、集塵水の処理方法。
【請求項3】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み、
前記カチオン性化合物は、オレイルアミンを含む、集塵水の処理方法。
【請求項4】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去すること、並びに
前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含み、
前記カチオン性化合物は、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を含む、集塵水の処理方法。
【請求項5】
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、
少なくとも前記条件1を満たす条件下、前記集塵水に前記カチオン性化合物を添加することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項6】
前記条件2として、前記集塵水に、前記亜鉛塩及び前記銅塩の一方又は両方を添加することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項7】
前記集塵水は、さらにシアン化物イオンを含有し、
前記集塵水;前記循環設備に供給される前の前記分離液;及び前記循環設備に供給された前記分離液;のうちの少なくともいずれかに、酸化剤を添加することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項8】
前記酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含む請求項7に記載の集塵水の処理方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを含む請求項7に記載の集塵水の処理方法。」
第4 令和6年4月15日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和6年4月15日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~9に係る特許は、その請求項1~9の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由」とする。)。
記
(1)サポート要件判断の判断手法と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、【0004】には、「水中のシアン成分を除去する技術としては、次亜塩素酸ナトリウムを用いるアルカリ塩素法、鉄塩を用いる紺青法、並びに銅塩及び還元剤を用いる還元銅塩法等が知られている」ことが記載され、【発明が解決しようとする課題】の項目に続いて、【0006】には、アルカリ塩素法では、鉄シアノ錯体を除去することはできないこと、【0007】には、紺青法や還元銅塩法では、廃水からペンタシアノカルボニル鉄錯体を有効に除去することができないこと、【0008】には、さらに、還元銅塩法では、銅塩及び還元剤を添加して反応させるための反応槽と、その後に、反応により生成した難溶性塩を除去するための第2の沈殿槽が必要であり、処理水を得るまでに必要な設備の設置費用が高くなることが記載され、これらの問題を受け、【0009】には、「本発明は・・・集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分をも除去可能な集塵水の処理方法を提供しようとするものである。」ことが記載されている。
以上によれば、本件発明の課題は、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を含むシアン成分をも除去可能な集塵水の処理方法を提供」することにあるといえる。
(2)本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載
上記(1)の発明の課題に対応して、【課題を解決するための手段】として、【0010】に、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する集塵水に、前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、固液分離設備で固液分離処理することが記載されている。
そして、本件発明の具体例では、まず、シアノ錯体を含み、シアノ錯体の過半(50質量%超)が、ペンタシアノカルボニル鉄錯体である原水(【0070】)に対し、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛等を含む懸濁物質(SSNo.1)と、亜鉛及び銅を含まない懸濁物質(SSNo.2)(【0071】)と亜鉛塩、銅塩等から調製された金属水酸化物懸濁液(【0072】、【0073】)を混合し、模擬集塵水を調製すること(【0075】)が記載されている。
次に、この模擬集塵水に、【0080】の下記表4にA~Lとして記載される化合物をカチオン性化合物として用い、【0083】の下記表5には、亜鉛及び銅を含まない懸濁物質を含む模擬集塵水に1~10mg/Lの範囲の亜鉛又は銅の金属塩(本件発明における条件2)、カチオン性化合物として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を添加する(試験例No.1-3~1-12)ことにより、金属塩、カチオン性化合物を共に添加しない場合(試験例No.1-1)、カチオン性化合物のみを添加する場合(試験例No.1-2)に比べ、処理水のT-CN濃度が低下することが示されている。
また、【0085】の下記表6には、2~60mg/Lの範囲の亜鉛又は銅を含む懸濁物質を含む模擬集塵水(本件発明における条件1)に、カチオン性化合物として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を2.5~15mg/Lの範囲で添加する(試験例No.2-13~2-24)ことにより、懸濁物質に亜鉛又は銅が含まれていない場合(試験例No.2-6~2-12)、カチオン性化合物を添加しない場合(試験例No.2-1~2-8)に比べ、処理水のT-CN濃度が低下することが記載されている。
さらに、【0089】の下記表8には、所定の量の亜鉛を含む懸濁物質を含む模擬集塵水(本件発明における条件1)に、カチオン化合物のみか、又は所定の濃度の亜鉛又は銅の金属塩(本件発明における条件2)とカチオン性化合物を添加し、カチオン化合物として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、オレイルアミン、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を添加する(試験例No.4-4~4-29)ことにより、本件発明のカチオン性化合物を添加しない場合(試験例No.4-1~4-3)に比べ、処理水のT-CN濃度が低下することが記載されている。
「【0080】
[図:0001418231000001.jpg]
【0083】
[図:0001418231000002.jpg]
【0085】
[図:0001418231000003.jpg]
【0089】
[図:0001418231000004.jpg]
」
ここで、表5の試験例No.1-3~1-5、試験例No.1-6~1-9を参照すると、添加する金属塩の量が少なくなるに従い、T-CN濃度が高くなる傾向があることから、添加する金属塩の量を例えば、試験例No.1-3の2mg/Lより少なくすれば、T-CN濃度は、試験例No.1-3の1.0mg/Lより高くなることが想定されるものの、金属塩を添加しない試験例No.1-2の1.5mg/Lよりは低くなくなることが想定される。
そして、懸濁物質が亜鉛又は銅を含む場合についても、表6の試験例No.2-21~2-24を参照すると、懸濁物質に含まれる金属(銅)の量が少なくなるに従い、T-CN濃度が高くなる傾向があることから、添加する金属塩の量を例えば、試験例No.2-21の2mg/Lより少なくすれば、T-CN濃度は、試験例No.2-21の0.7mg/Lより高くなることが想定されるものの、懸濁物質に金属が含まれていない試験例No.2-9の1.5mg/Lよりは低くなることが想定される。また、金属が亜鉛の場合については、試験例No.2-13で懸濁物質に含まれる亜鉛の量が2mg/Lの場合でもT-CN濃度は0.9mg/Lであるから、懸濁物質に含まれる亜鉛の量が2mg/Lより少なくなったとしても、T-CN濃度は、懸濁物質に金属が含まれていない試験例No.2-9の1.5mg/Lよりは低くなることも想定される。
さらに、表6の試験例No.2-14と試験例No.2-15、試験例No.2-16と試験例No.2-17をそれぞれ比較すると、添加するカチオン性化合物の量が少なくなると、T-CN濃度が高くなる傾向があることから、添加するカチオン性化合物の量を例えば、試験例No.2-14の5mg/L又は、試験例No.2-16の2.5mg/Lより少なくすれば、T-CN濃度は、試験例No.2-14又は試験例No.2-16の0.9mg/Lより高くなることが想定されるものの、カチオン性化合物を添加しない試験例No.1-2の1.5mg/Lよりは低くなることが想定される。
以上によれば、模擬集塵水に添加する亜鉛塩、銅塩の量、模擬集塵水に含まれる亜鉛、銅の量、特定のカチオン性化合物の量は、実施例で実施されている範囲だけでなく、それに満たない量であってもT-CN濃度を低くすることができることが理解できる。
そうすると、懸濁物質に亜鉛、銅が含まれているか、又は、集塵水に亜鉛塩、銅塩を添加し、さらに、集塵水に、【0080】の表4のA~Lに記載されるようなカチオン性化合物を添加すれば、懸濁物質中の亜鉛、銅の含有量、集塵水に添加する亜鉛塩、銅塩の添加量、集塵水に添加するカチオン性化合物の添加量によって程度の差はあるものの、少なくとも、上記(1)の発明の課題にある「懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を含むシアン成分をも除去可能」であることは理解できる。
他方で、【0050】には、「本方法では、固液分離処理により、集塵水中の懸濁物質とともに、ペンタシアノカルボニル鉄も不溶化物として分離除去することが可能であることから、上記ブロー水を、全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水とすることが可能である(図1~図3参照)。しかも、循環設備50の貯槽52の後には、前述した還元銅塩法で必要となるようなさらなる沈殿槽7(図6参照)は不要であるため、設備の設置費用を還元銅塩法の場合と比べて低く抑えることができる。」との記載があり、ブロー水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/Lを超える場合には、そのままブロー水として排出することはできず、さらなる沈殿槽7等が必要となり、設備の設置費用を還元銅塩法の場合と比べて低く抑えることができなくなるという点で上記(1)の発明の課題の「固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても」との点を解決することができないことも理解できる。
そうすると、本件明細書の記載によれば、上記(1)の発明の課題を解決するには、懸濁物質に亜鉛、銅が含まれているか、又は、集塵水に亜鉛塩、銅塩を添加し、さらに、集塵水に、【0080】の表4のA~Lに記載されるようなカチオン性化合物を添加することに加え、ブロー水の全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であることが肝要であるといえる。
(3)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記(2)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(1)の発明の課題を解決するには、懸濁物質に亜鉛、銅が含まれているか、又は、集塵水に亜鉛塩、銅塩を添加し、さらに、集塵水に、【0080】の表4のA~Lに記載されるようなカチオン性化合物を添加することに加え、ブロー水の全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であることが肝要であるといえるところ、設定登録時の請求項1~9に係る発明には、ブロー水の全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であることは特定されていない。
そうすると、設定登録時の請求項1~9に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
(4)まとめ
上記(3)について、上記(1)のサポート要件判断の判断手法への当てはめを行うと、本件発明(請求項1~9に係る発明)は、サポート要件を満たしていない。
2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「申立理由1」という。)
設定登録時の請求項1、2、5、7、8に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(甲第2~8号証を参考とする。)。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由2」という。)
設定登録時の請求項1~9に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第2~10号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由3」という。)
本件特許は、設定登録時の請求項1~9に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が下記(5)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(甲第11号証を引用している。)。
(4)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由4」という。)
設定登録時の請求項1~9に係る特許は、請求項1~9の記載が下記(6)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
なお、上記(3)の特許法第36条第4項第1号、及び(4)の特許法第36条第6項第1号の申立理由は、特許異議申立書の16頁1~6行で、それぞれ理由B及び理由Cとされるものであるところ、同17頁7~10行では、理由Bが、特許法第36条6項第1号に関するものとされ、理由Cが、特許法第36条6項第2号に関するものとされ、記載が一致していない。
しかしながら、理由Bに関する具体的理由(67頁11行~71頁11行)では、本件発明が実施可能要件を満たしていないことを理由とし、理由Cに関する具体的理由(71頁12行~74頁22行)では、本件発明がサポート要件を満たしていないことを理由とし、特に、特許法第36条6項第2号に関する具体的な理由は見当たらないこと、「(5)むすび」で、記載要件に関しては、「特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の規定に違反している」とのみ記載されていることから、特許異議申立書における理由Bは、特許法第36条第4項第1号に関する申立て、及び理由Cは、特許法第36条第6項第1号に関する申立てとして、判断を行った。
記
(5)申立理由3の内容
ア 本件発明の課題は、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分をも除去可能な集塵水の処理方法を提供すること」と認められるが、この課題を解決するには、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下となるように、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分を除去する」ことが必要であるといえる。
しかしながら、設定登録時の請求項1~9に係る発明では、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度」、及び「カチオン性化合物の添加濃度」及び「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度」が何ら規定されていない。そのため、当業者であっても、これらの要件が何ら特定されていない設定登録時の請求項1~9に係る発明を実施しても、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下となるように、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分を除去する」ことができるかどうかは全く不明であり、本件発明の課題を解決することができない。
よって、設定登録時の請求項1~9に係る発明は、本件明細書の全体を照らしても当業者が実施できる程度に充分に記載されていないため、実施可能要件を具備していない(67頁12行~69頁13行)。
イ 甲11(特許第7299381号公報)は、本件特許と同一出願人による同日出願の特許であるが、実施例を確認すると、設定登録時の請求項1に係る発明の構成を全て満たす場合であっても、本件発明の課題を解決し得ないことが開示されている。甲11には、以下の記載がある。
「【0073】
<試験方法>
(ステップ1)
ビーカー内の調製した模擬集塵水に、試験例1~4を除く試験例では、下記表4に示すカチオン性化合物A~K及び高分子化合物L(アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物)のいずれかを添加した。また、試験例8、11、18、20及び23~37では、さらに硫酸亜鉛7水和物の10質量%濃度水溶液を添加した。その後、模擬集塵水を50℃で5分間撹拌した。次いで、模擬集塵水を含む液をろ紙(5種C)でろ過し、ろ液を得た。以下、カチオン性化合物A~K及び高分子化合物Lを単に「化合物A~L」と記載する。なお、表4に示す通り、化合物J及びKは、2種のカチオン性化合物の混合物であるが、便宜上、化合物と記載する。各試験例における硫酸亜鉛水溶液のZnSO4としての添加濃度(mg(ZnSO4)/L)、並びに化合物A~Lの種類(表4参照)及び添加濃度(mg/L)を、後記表5のステップ1欄に示す。
【0077】
[図:0001418231000005.jpg]
」
上記表5に示される試験例6~9について、原水No.1は、T-CN濃度5.0mg-CN/L(FCN濃度1.5mg-CN/L、シアノ錯体濃度3.5mg-CN/L)であり、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する(【0064】、【0066】)。また、上記化合物Aは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(Mw50,000)である(【0074】)。模擬集塵水中のSS濃度は記載されていないものの、予備試験1及び2の結果から攪拌時間を決定したことを考えると、予備試験1、2と同様にSS濃度が2000ppm程度と考えられる(【0070】~【0072】)。
そうすると、上記試験例6~9の結果から、本件発明1の構成をすべて満たす試験例から得られた処理水のT-CN濃度がシアンの排水基準値1.0mg-CN/Lを大きく超えていることが確認できる。
すなわち、設定登録時の請求項1に係る発明の構成をすべて満たした場合であっても、得られる処理水中のシアン成分が充分除去されていない場合があることが確認できる。
よって、設定登録時の請求項1に係る発明は、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg/L以下となるように、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分を除去する」ことができず、本件発明の課題を解決し得るものではない。
以上によれば、設定登録時の請求項1に係る発明、設定登録時の請求項1に係る発明と同様の構成を有する設定登録時の請求項2~4に係る発明、及びこれらを引用する設定登録時の請求項5~9に係る発明はいずれも、当業者が本件発明の課題を解決し得ると認識できるものではなく、実施可能要件を満たしていない(69頁14行~71頁11行)。
(6)申立理由4の内容
上記(5)アに記載したように、当業者が本件発明の課題を解決するためには、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下となるように、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分を除去する」ことが必要であるといえる。
設定登録時の請求項1~9に係る発明には、「前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下」との構成があるが、本構成を満たすのみでは本件発明の課題を解決し得ない場合がある。以下、具体的に説明する。
本件明細書の試験例1である【0083】の表5を確認すると、カチオン性化合物Aを用いた試験例が記載されているが、懸濁物質に含まれるとされている金属塩(Zn、Cu)濃度により、処理水中のT-CN濃度は大きく変化している。
具体的に、金属塩の種類がCu+である試験例No.1-6~1-9を確認すると、Cu+の添加量が少なくなるほど、処理水中の全シアン濃度は増加しており、Cu+の添加量が1mg/Lである試験例No.1-6の処理水における全シアン濃度は0.9mg/Lである。すなわち、Cu+の添加量が1mg/L未満である場合は、当然処理水における全シアン濃度が0.9mg/Lを超え、処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下とならない場合が生じることは明らかであり、本件発明の課題を解決し得ない場合があることがわかる。
そうすると、本件発明の課題を解決するためには、「前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、」という構成のみでは不十分であり、集塵水中のシアン成分濃度及びこれに応じて必要となる集塵水中の亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度が特定されなければ、本件発明の課題は解決し得ない。
同様に、設定登録時の請求項1~9に係る発明には、「前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加し」との構成があるが、本構成を満たすのみでは本件発明の課題を解決し得ない場合がある。
試験例2の表6の結果から、集塵水中のシアン成分濃度に対し、カチオン性化合物の添加量が低いと、処理水の全シアン濃度が高くなることは明らかである。すなわち、本件発明の課題を解決するためには、集塵水中のシアン成分濃度に応じたカチオン性化合物の添加量が特定される必要があり、このような集塵水中のシアン成分濃度に応じたカチオン性化合物の添加量が特定されて、初めて、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下となるように、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分を除去する」ことができ、本件発明の課題を解決できることは明らかである。
そうすると、設定登録時の請求項1~9に係る発明には、集塵水中のシアン成分濃度、及び、集塵水中のシアン成分濃度に応じたカチオン性化合物の添加濃度に関する記載は一切なく、本件明細書全体を確認しても、訂正前の請求項1~9に係る発明は、本件発明の課題を解決できると認識できるものではない。
同様に、本件発明の課題を解決するためには、「集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後の処理水の全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下となるように、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分を除去する」ことが必要であるが、本件発明には、固液分離設備にて固液分離した後の処理水中の全シアン濃度に関する記載は一切ない。
以上によれば、設定登録時の請求項1~9に係る発明は、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められないため、サポート要件を具備していない(71頁13行~74頁22行)。
3 提出された証拠
甲第1号証:特開2001-62467号公報
甲第2号証:特開2020-32412号公報
甲第3号証:特開2018-39004号公報
甲第4号証:特開2018-69227号公報
甲第5号証:千谷利三 著、新版 無機化学 下巻、産業図書株式会社、昭和52年3月4日第19刷、1204~1213頁
甲第6号証:公害防止の技術と法規編集委員会 編、公害防止管理者等資格認定講習用 新・公害防止の技術と法規 2017 水質編 技術編、一般社団法人 産業環境管理協会、2017年1月31日、412、413頁
甲第7号証:勝見俊三 他、鉄鋼業における排水処理、燃料協会誌、第57巻第612号、1978年、227~234頁
甲第8号証:Joseph E. Schiller, RI 8836 Bureau of Mines Report of Investigations/1983 Removal of Cyanide and Metals From Mineral Processing Waste Waters, UNITED STATES DEPARTMENT OF THE INTERIOR (1983),表紙、目次、1~8頁
甲第9号証:特開平4-334508号公報
甲第10号証:国際公開第2016/013586号
甲第11号証:特許第7299381号公報
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由及び申立理由1~4のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 記載要件に関する理由
(1)サポート要件違反に関する取消理由、申立理由4について
ア 取消理由について
本件発明のサポート要件の判断は、上記第4の1(1)に記載の「サポート要件の判断手法」に従って判断すべきところ、この「サポート要件の判断手法」に従って判断すると、同(3)で述べたように、設定登録時の請求項1~4で、「ブロー水の全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であること」が、サポート要件を充足するには必要である。
そして、第2の1で述べた本件訂正によって、本件発明1~4は、第3に記載されるとおりのものとなり、「前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出すること」(以下、単に「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」ということがある。)が特定された。
そうすると、本件訂正によって、本件発明(本件発明1~4、本件発明1~4を直接又は間接的に引用する本件発明5~9)において、サポート要件を充足するために必要な事項が全て特定されたことになるから、本件発明は、サポート要件を充足するものであり、取消理由には、理由がない。
イ 申立理由4について
上記アで述べたように、本件訂正によって、本件発明において、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」が特定され、上記第4の2(4)((6))で、本件発明の課題を解決するのに必要とされている事項が特定されていることになるから、同(4)((6))の理由には、理由がない。さらにいえば、本件発明で、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度」、及び「カチオン性化合物の添加濃度」が特定されていないとしても、本件発明において特定された「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」によって、本件発明における「前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下」との特定、及び「前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加し」との特定を満たしていたとしても、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下の条件」を満たしていない場合は、本件発明の態様からは排除されることになる。
そうすると、本件発明には、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)」、及び「カチオン性化合物」に関する特定を満たしたとしても、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下」にはならない場合が含まれることを前提とする申立理由4は、その前提が誤りであるから、理由がない。
なお、同(4)((6))の理由における「集塵水中のシアン成分濃度」とは、本件発明の集塵水の処理方法を経る「前」の濃度であるのか、「後」の濃度であるのか必ずしも明らかでないが、「前」の濃度であるとしても、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度」、及び「カチオン性化合物の添加濃度」の場合と同様に、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下の条件」を満たしていない場合は、本件発明の態様からは排除されるのであるから、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度」、及び「カチオン性化合物の添加濃度」の場合と事情は、同じである。
(2)実施可能要件違反に関する申立理由3について
ア 上記第4の2(5)アの理由について
上記(1)アで述べたように、本件訂正によって、本件発明は、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」を満たすものとされている。
そして、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度」、及び「カチオン性化合物の添加濃度」について、本件明細書の【0018】には、「懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、集塵水中の亜鉛及び銅の合計含有量は、1~1000mg(Zn+Cu)/Lであることが好ましく、2~200mg(Zn+Cu)/Lであることがより好ましく、10~100mg(Zn+Cu)/Lであることがさらに好ましい。」と記載され、同【0044】には、「集塵水に対するカチオン性化合物の添加量(集塵水中のカチオン性化合物の濃度)は、カチオン性化合物(有効成分量)として、1~500mg/Lであることが好ましく、2~100mg/Lであることがより好ましく、3~25mg/Lであることがさらに好ましい。また、集塵水に亜鉛塩を添加する場合、集塵水に対する亜鉛塩の添加量(集塵水中の亜鉛塩の濃度)は、亜鉛塩として、0.1~100mg/Lであることが好ましく、0.5~40mg/Lであることがより好ましく、1~20mg/Lであることがさらに好ましい。さらに、集塵水に銅塩を添加する場合、集塵水に対する銅塩の添加量(集塵水中の銅塩の濃度)は、銅塩として、0.1~100mg/Lであることが好ましく、0.5~40mg/Lであることがより好ましく、1~15mg/Lであることがさらに好ましい。上記のカチオン性化合物、亜鉛塩、及び銅塩の各添加量は、それらの2種以上が用いられる場合には当該2種以上の合計の添加量を表す。」と記載されている。
また、同【0083】の表5、同【0085】の表6、同【0087】の表7には、懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の特定の濃度、及びカチオン性化合物の特定の添加濃度の条件で、T-CN濃度が1mg/L以下である本件発明の態様といえる試験例が記載されている。
さらに、上記第4の1(2)で記載しているように、同【0083】の表5に記載される試験例No.1-3~1-5、試験例No.1-6~1-9を参照すると、添加する亜鉛又は銅の量が少なくなるに従い、T-CN濃度が高くなる傾向があること、懸濁物質が亜鉛又は銅を含む場合についても、同【0085】の表6の試験例No.2-21~2-24を参照すると、懸濁物質に含まれる金属(銅)の量が少なくなるに従い、T-CN濃度が高くなる傾向があること、さらに、同表6の試験例No.2-14と試験例No.2-15、試験例No.2-16と試験例No.2-17をそれぞれ比較すると、添加するカチオン性化合物の量が少なくなると、T-CN濃度が高くなる傾向があることが理解できる。
以上によれば、本件発明に、「懸濁物質に含まれる、又は、添加される亜鉛(塩)及び/又は銅(塩)の濃度」、及び「カチオン性化合物の添加濃度」が特定されていないとしても、上記の【0018】、【0044】の記載や、本件発明の具体的な態様、さらには、本件発明の具体的な態様から読み取れる技術的な事項を指針とすれば、本件発明において、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」を満たすようにすることに、当業者であれば、過度の試行錯誤を必要とするとはいえない。
そうすると、上記第4の2(5)アの理由では、本件発明を、実施可能要件を満たしていないものとすることはできない。
イ 上記第4の2(5)イの理由
引用されている甲11は、本件出願と同日に出願されたもので、本件出願時に公知となっていたものではないから、甲11に記載されている事項をもとに、本件発明における実施可能要件の判断を行うことはできない。
そうすると、甲11に記載された事項に基づいて、上記申立理由を理由があるものとすることはできないが、念のため、甲11に記載された事項も踏まえて、以下検討する。
まず、上記アで述べたように、本件訂正によって、本件発明は、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」を満たすものとされているので、上記申立理由で、「本件発明1の構成をすべて満たす試験例」であり、「本件発明1の構成をすべて満たした場合であっても、得られる処理水中のシアン成分が充分除去されていない場合があることが確認できる。」としている、甲11に記載される試験例6~9は、本件発明1の構成をすべて満たした試験例とはならないから、試験例6~9が、本件発明1の構成をすべて満たした試験例であることを前提とした上記申立理由を理由があるものとすることはできない。
さらに、上記アで述べたように、本件明細書に記載される試験例から、添加する亜鉛又は銅の量が少なくなるに従い、T-CN濃度が高くなる傾向があること、懸濁物質に含まれる亜鉛又は銅の量が少なくなるに従い、T-CN濃度が高くなる傾向があること、添加するカチオン性化合物の量が少なくなると、T-CN濃度が高くなる傾向があることが理解できるから、甲11に記載される試験例6~9についても、添加する亜鉛又は銅の量、懸濁物質に含まれる亜鉛又は銅の量、添加するカチオン性化合物の量を多くすれば、T-CN濃度は低くなり、1mg(CN)/L以下にすることが可能であることが理解できるし、これを妨げるような事情は、甲11からは読み取れない。
そうすると、上記第4の2(5)イの理由では、本件発明を、実施可能要件を満たしていないものとすることはできない。
ウ 上記ア及びイによれば、申立理由3には、理由がない。
(3)令和6年7月25日に提出の意見書における異議申立人の主張について
ア サポート要件違反について
(ア)異議申立人の主張
異議申立人は、以下の点で、本件発明1~4は、本件発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないことを主張している。
a 本件発明1~4において、「集塵水の処理方法」が、「前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出する」ことが特定されたが、本件発明1~4は、集塵水の全シアン濃度、及び、全シアンの一成分であるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度については何ら規定せず、集塵水に関し、全シアン濃度及びペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度がいかなる範囲も含むことになる。
ここで、本件明細書の【0068】表1を確認すると、実施例では、溶解性のシアノ錯体濃度が1.2~3.0mg(CN)/L、全シアン濃度が3.0~4.0mg(CN)/Lの原水を用いて模擬集塵水を作成して各種試験を実施したことが開示されている(【0066】)。また、模擬集塵水に用いられた原水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度は、1.8~0.7mg/Lであったことが開示されている(【0070】)。
そのため、本件明細書の記載によれば、シアノ錯体濃度、全シアン濃度及びペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度が、これらの範囲である模擬集塵水ついては、処理水の全シアン濃度が1mg(CN)/L以下となるように処理する効果を確認できる。
しかし、その他の濃度範囲についても、本件発明1~4にて、循環設備外に排出されるブロー水における全シアン濃度を1mg(CN)/L以下とすることができるかどうかは当業者であっても一切不明である(2頁15行~3頁22行)。
b 本件発明1~4は、いずれも、処理対象である集塵水の懸濁物質濃度が500~10000mg/Lと広範囲に記載されており、このような広範囲において、「ブロー水の全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である」との構成を満たし、本件発明の課題を解決し得るか否か不明である。
なぜなら、本件発明1~4は、処理対象である集塵水の懸濁物質濃度が10000mg/Lという高濃度を含むにもかかわらず、本件明細書に記載される実施例において、模擬集塵水の懸濁物質濃度の上限は5000mg/Lであり、当業者であっても、集塵水の懸濁物質濃度が5000mg/Lを超え10000mg/L以下の集塵水についても、本件発明の課題を解決し得るかどうかは全く予測し得ない(3頁23行~5頁4行)。
c 本件発明1~4の技術上の意義から検討しても、本件発明の課題を解決するためには、「集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を有効に除去」することが肝要であることが理解できる。
しかしながら、本件明細書の全体を確認しても、本件発明により、「集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を有効に除去」可能であるか否かについては、不明であり、当業者であっても、本件明細書の記載及び示唆に基づき、ペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度がいかなる濃度の集塵水についても、本件発明の課題を解決し、本件発明1~4に導入された「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出すること」という構成を達成できるとは認識できない。
本件明細書の記載によれば、実施例で用いられた模擬集塵水におけるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度は、原水No.1を用いた場合は、1.8mg/Lであり、原水No.2を用いた場合は、1.7mg/Lであり、原水No.3を用いた場合は、0.7mg/Lである。
そして、本件明細書の表5~10に記載される試験例1~6シリーズの各試験例では処理水のT-CN濃度が低下することは示されているものの、処理水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の含有量は何ら示されていない。
以上より、本件明細書に記載される実施例では、試験例1~6シリーズの各試験例において、No.1~3の原水を用いて、ペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度が0.7~1.8mg/Lの模擬集塵水を処理して得られた処理水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の含有量が不明であり、当業者であっても、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体をどの程度有効に除去することができたのか全く不明である。
そのため、当業者であっても、集塵水に含まれるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度が何ら規定されていない本件発明1~4について、本件明細書の発明の詳細な説明又はその示唆により、本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
(イ)上記(ア)の主張に対する判断
a 上記(ア)aの主張について
上記の主張は、集塵水におけるシアノ錯体濃度、全シアン濃度及びペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度によっては、循環設備外に排出されるブロー水における全シアン濃度を1mg(CN)/L以下とすることができないため、本件発明1~4は、サポート要件を満たしていないとするものである。
しかしながら、本件発明1~4は、循環設備外に排出されるブロー水における全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるものであるため、これを実現することができないシアノ錯体濃度、全シアン濃度及びペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度は、本件発明1~4から排除されていることになる。そして、このような本件発明1~4の範囲外の場合が存在するとしても、このことは、本件発明1~4のサポート要件の判断に、何ら影響するものではないから、上記(ア)aの主張は採用することができない。
さらに、上記(2)アで述べたように、添加する亜鉛又は銅の量、懸濁物質に含まれる亜鉛又は銅の量、添加するカチオン性化合物の量を多くすれば、T-CN濃度は低くなることが本件明細書に示されているといえるのであるから、集塵水におけるシアノ錯体濃度、全シアン濃度及びペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度が、本件明細書の実施例に記載されている範囲を超える場合であっても、添加する亜鉛又は銅の量、懸濁物質に含まれる亜鉛又は銅の量、添加するカチオン性化合物の量を多くすれば、T-CN濃度を1mg(CN)/L以下にすることが可能であるといえるし、これを妨げるような事情があることは、提出された証拠からは読み取れない。
b 上記(ア)bの主張について
上記aで述べたのと同様に、本件発明1~4は、循環設備外に排出されるブロー水における全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるものであるため、仮に、これを実現することができない懸濁物質濃度の場合があったとしても、この場合は、本件発明1~4から排除されていることになる。そして、このような本件発明1~4の範囲外の場合が存在するとしても、このことが、本件発明1~4のサポート要件の判断に、何ら影響するものではないから、上記(ア)bの主張は採用することができない。
さらに、懸濁物質濃度と全シアン濃度が完全に相関するものであるかは明らかにされていないから、懸濁物質濃度が、5000mg/Lを超え10000mg/L以下の範囲であることが、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」を満たすか否かということに直接関連するともいえない。
しかも、本件明細書の【0087】表7の試験例3-7~3-9を参照すると、懸濁物質濃度が高くなったとしても、それに応じて、集塵水中のZn等の濃度を高めれば、全シアン濃度を1mg(CN)/L以下とすることができることが示されているのであるから、懸濁物質濃度が、5000mg/Lを超え10000mg/L以下の範囲であったとしても、集塵水中のZn等の濃度をさらに高めれば、全シアン濃度を1mg(CN)/L以下とすることができるといえるし、これを妨げるような事情があることは、提出された証拠からは読み取れない。
c 上記(ア)cの主張について
本件発明1~4では、循環設備外に排出されるブロー水における全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であることが特定されているため、ペンタシアノカルボニル鉄錯体は、少なくとも1mg/L以下となっている。そして、これを実現することができないペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度の場合があったとしても、この場合は、本件発明1~4から排除されていることになるのであるから、このことは、本件発明1~4のサポート要件の判断に何ら影響するものではない。
また、処理水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の含有量が示されていないとしても、ペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度が、1.8mg/Lである原水No.1、1.7mg/Lである原水No.2を用いた場合、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下となっているのであるから、全シアンの一成分であるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度は、1.8mg/L又は1.7mg/Lから、少なくとも1.0mg/L以下に低減していることが分かるし、実際、例えば、本件明細書の【0085】表6の試験例2-24によれば、全シアン濃度(T-CN濃度)が0.1mg/Lまで低減しており、集塵水中に亜鉛及び銅の一方又は両方が存在する条件のもと、特定のアミン構造を有するカチオン性化合物を添加すれば、ペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度が、実際の濃度の記載はなくとも、少なくとも0.1mg/L以下にまで低減することが理解できる。
d 上記a~cで述べたとおり、上記(ア)の異議申立人の主張は採用できない。
イ 実施可能要件違反について
(ア)異議申立人の主張
本件発明1~4では、集塵水に関し、「前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し」と規定されるのみであり、集塵水の全シアン濃度、及び、全シアンの一成分であるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度については何ら規定されておらず、集塵水の全シアン濃度及びペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度がいかなるものであっても、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出すること」を実施できる程度に発明の詳細な説明は記載されていない。
また、本件発明1~4では、集塵水に関し、「前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、」と規定されるが、本件明細書において、集塵水の懸濁物質の濃度が5000mgを超える場合においても本件発明の課題を解決しうるか否かは何ら示されていない。
そのため、当業者であっても、本件発明1~4の懸濁物質の濃度の全範囲において、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出すること」を実施できる程度に発明の詳細な説明は記載されていない。
以上より、本件発明1~4は、実施可能要件を具備していない。
(イ)上記(ア)の主張に対する判断
上記ア(イ)a~cでも述べたように、集塵水の全シアン濃度、全シアンの一成分であるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度、及び懸濁物質の濃度によって、仮に、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出すること」を満たさない場合があるとしても、その場合は、本件発明1~4の範囲外であるのであるから、集塵水の全シアン濃度、全シアンの一成分であるペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度の全ての範囲、及び懸濁物質が5000超~10000mg/Lの全ての範囲で、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」を満たさなければならない、ということはない。
同じく、上記ア(イ)a~cでも述べたように、本件明細書に記載される試験例によれば、添加する亜鉛又は銅の量、懸濁物質に含まれる亜鉛又は銅の量、添加するカチオン性化合物の量を多くすれば、懸濁物質の濃度が高くても、T-CN濃度、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度が低くなることが示されているのであるから、集塵水における全シアン濃度、ペンタシアノカルボニル鉄錯体濃度、及び懸濁物質濃度が高い場合であっても、添加する亜鉛又は銅の量、懸濁物質に含まれる亜鉛又は銅の量、添加するカチオン性化合物の量を多くすれば、「全シアン濃度が1mg(CN)/L以下である条件」を満たすことができるといえるし、これを妨げるような事情があることは、提出された証拠からは読み取れない。
そうすると、上記(ア)の異議申立人の主張は、採用することができない。
ウ 明確性要件違反について
(ア)異議申立人の主張
本件発明1~4は、それぞれ、「前記固液分離設備での前記固液分離処理により得られた前記分離液の一部を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出することを含」むものであるが、処理対象の集塵水における全シアン濃度については何ら規定されておらず、例えば、全シアン濃度が1.0mg(CN)/L未満の集塵水も処理対象水に含まれる。
そうすると、例えば、全シアン濃度が0.1mg(CN)/Lの集塵水の処理を行い、ブロー水における全シアン濃度を1.0mg(CN)/L以下とするとの構成も含まれ、特許請求の範囲の記載が不明確である。
(イ)上記(ア)の主張に対する判断
全シアン濃度が1.0mg(CN)/L未満の集塵水、例えば、全シアン濃度が0.1mg(CN)/Lの集塵水に対して、本件発明1~4での処理方法を行えば、本件明細書の記載によれば、少なくとも、全シアン濃度は、0.1mg未満になるといえる。
そして、全シアン濃度が、0.1mg未満ということは、「全シアン濃度を1.0mg(CN)/L以下」との条件を満たすものであるから、処理対象の集塵水における全シアン濃度の規定がないことが、特に、不明確となるものではない。
そうすると、異議申立人の上記(ア)の主張は、採用することができない。
2 新規性及び進歩性欠如に関する申立理由1及び2について
(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「【請求項1】 高炉集塵水または転炉集塵水の循環再利用経路において、集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させ、処理された集塵水を循環利用することを特徴とする集塵水の処理方法。
・・・
【請求項4】 高分子凝集剤がカチオン系凝集剤である請求項1~3のいずれか1つに記載の処理方法。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、集塵水の処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、高炉集塵水または転炉集塵水の循環再利用経路における集塵水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】銑鉄製造に用いられる高炉から排出されるガス(高炉ガス)や鉄鋼製造に用いられる転炉から排出されるガス(転炉ガス)は、多量の粉塵と炉内での反応により生じた各種反応ガスを含むので、乾式および/または湿式集塵器を通して除塵した後、有用なガスをガスホルダーに回収して再利用する方式が一般に採用されている。
【0003】湿式集塵器で除塵に用いられた水、すなわち集塵水には鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁している。これらの溶解・懸濁物は沈殿池で沈殿除去するだけでは清浄化できず、このような集塵水を放流することは環境保全上好ましくないため、集塵水は通常、完全循環方式で用いられている。」
(ウ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高炉集塵水または転炉集塵水の循環再利用経路における集塵水の効果的な処理方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、高炉集塵水または転炉集塵水では塩類が還元状態で溶解していることに着目し、これらの集塵水に酸化剤として過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を析出させた後、高分子凝集剤を添加して析出した集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させて、それら塩類の溶解濃度を低下させることにより、集塵水の循環再利用経路におけるスケール生成などの障害を抑制できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】かくして、本発明によれば、高炉集塵水または転炉集塵水の循環再利用経路において、集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させ、処理された集塵水を循環利用することを特徴とする集塵水の処理方法が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明における「集塵水」は、製鉄所の高炉集塵水や転炉集塵水であり、これらの集塵水には塩類が還元状態で溶解している。中でも本発明の処理方法は、高炉集塵水に対してより好適に用いられる。
【0012】本発明の処理方法では、まず集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させる。過酸化水素の添加処理は、集塵水に過酸化水素水を添加する方法および過酸化水素を集塵水に吹き込む方法などが挙げられるが、取扱いの点およびコスト面で前者が好ましい。
・・・
【0017】この過酸化水素の添加処理により、集塵水に溶解している塩類のうち、例えばカルシウムは次式のように反応して炭酸カルシウムとなり析出する。Ca(HCO3)2+H2O2→CaCO3+2H2O+CO32-また、集塵水中に溶解している2価の鉄は、過酸化水素により3価の鉄となりFe2O3の形で析出する。」
(エ)「【0019】本発明の方法において用いられる高分子凝集剤としては、カチオン系、アニオン系およびノニオン系のいずれであってもよいが、凝集効果の点ではカチオン系凝集剤が好ましく、工業的に最も汎用されているポリアクリル酸エステル系の高分子凝集剤がより好ましい。
【0020】その他のカチオン系高分子凝集剤としては、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサンおよびヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物などの中重合度(分子量数千~数万)のもの、ならびにポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル系およびポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などの高重合度(分子量数十万~数千万)のものが挙げられる。」
(オ)「【0024】次に、本発明の集塵水の処理方法を、図1を用いて具体的に説明する。図1は高炉から排出されたガスの流れ、およびそのガスを処理する集塵水の循環経路を示す概略図である。高炉(1)から排出されたガス(高炉ガス)は、まず乾式集塵器(2)(DC:ダストキャッチャー)で集塵され、次いで湿式集塵器(3)に送られる。湿式集塵器(3)は一般に二段VS(ベンチュリースクラバー)が多く、1VS(4)および2VS(5)から構成される。高炉ガスは1VS(4)、2VS(5)およびTRT(6)(炉頂圧回収発電設備)の順に送られ、1VS(4)および2VS(5)で湿式集塵されてTRT(6)に導入されてから高炉ガスホルダー(図示しない)に回収される。湿式集塵に用いられた水(高炉集塵水)は、シックナー(7)で固形分が回収され、貯水槽(8)を経て、1VS(4)および2VS(5)に送られ、循環系でくり返し利用される。なお、必要に応じてA点(水補充口)では新しい水が補充され、B点(凝集沈殿物排出口)では凝集沈殿物が排出除去される。
【0025】本発明の過酸化水素の添加処理および凝集剤の添加処理は、図1における1VS(4)・2VS(5)とシックナー(7)の間で行われるが、過酸化水素の添加をVS(4)および2VS(5)の出口で行い、凝集剤の添加をシックナー(7)の入口で行うのが好ましい。」
(カ)「【図1】
[図:0001418231000006.jpg]
」
イ 甲2に記載された事項
(ア)「【請求項1】
シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、過酸化水素を添加して反応させる工程(A)と、
前記工程(A)で得られた反応液中に残留する前記過酸化水素の濃度を測定する工程(B1)と、
前記工程(A)で得られた前記反応液に、銅(I)化合物を添加して反応させる工程(C)と、
前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理する工程(D)と、を含み、
前記工程(A)における前記被処理水への前記過酸化水素の添加量を、前記工程(B1)で測定される過酸化水素濃度の値が10mg-H2O2/L以下となる量に制御する、シアン含有水の処理方法。」
(イ)「【0040】
本実施形態の処理方法を行うのに好適な被処理水としては、前述の通り、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水を挙げることができる。また、好適な被処理水としては、被処理水に含有される鉄シアノ錯体が、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオンのいずれか一方又は両方を含むとともに、[Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のいずれか一方又は両方を含むものを挙げることができる。鉄カルボニルシアノ錯体を含有する廃水は、例えば、特開2018-39004号公報や特開2018-69227号公報に開示されている。
【0041】
上記鉄カルボニルシアノ錯体は、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)等の鉄カルボニル錯体と、シアン化水素(HCN)又はCN-とが共存する環境;鉄(II)イオン(Fe2+)、一酸化炭素(CO)、及びHCN又はCN-が共存する環境;[Fe(CN)6]4-及びCOが共存する環境;等のような環境下でそれらが反応して生成すると考えられる。例えば、メッキを行う工場から排出される廃水では、CN-と鉄塩が共存する可能性はあるものの、COやペンタカルボニル鉄が存在する可能性は低いと考えられ、上述のような環境はまれであると考えられる。それゆえ、従来のシアン含有水の処理技術においては、上述のような環境から生じ得る鉄カルボニルシアノ錯体が処理対象となることもまれであったと考えられる。本発明者らの検討により、コークスを燃料とする炉から発生する排出ガス中にペンタカルボニル鉄が含有されていたことが確認され、それは、炉の操業状態に応じて大きく変動し得ることがわかった。ペンタカルボニル鉄は100℃以下の低温領域で分解を開始する性質があるとされているため、炉内の温度分布によってペンタカルボニル鉄の排出ガス中の含有量が変動するものと考えられる。この温度分布はコークスの性状(及びコークス原料である石炭の性状)が支配因子の一つとなっている可能性がある。上述のようなことから、好適な被処理水の一例としては、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。より好適な被処理水の一例としては、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から、懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。」
(ウ)「【0047】
本実施形態の処理方法では、工程(C)における銅(I)化合物を添加する対象となる反応液に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加することが好ましい。第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウムカチオンを有する化合物であり、モノマーでもよいし、ポリマーでもよい。第4級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム化合物、及びカチオン性ポリマー等を好適に用いることができる。第4級アンモニウム化合物を添加する際の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
【0048】
テトラアルキルアンモニウム化合物としては、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩が好ましい。さらに、これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンが、ハロゲン化物イオンであるものが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンであるものがより好ましい。
【0049】
カチオン性ポリマーとしては、第4級アンモニウムカチオンを有するポリマーであればよく、例えば、ポリアクリル酸エステル系化合物、ポリメタクリル酸エステル系化合物、ポリアミン系化合物、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩系化合物、ジアリルジアルキルアンモニウム塩-アクリルアミド共重合体系化合物、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物、並びにジメチルアミン、エピクロロヒドリン及びアンモニアの重縮合物等を挙げることできる。」
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「【請求項1】
シアン化物イオン、並びにフェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及びそれら以外の他の鉄-シアン化合物を含有する廃水に、銅塩、還元剤、及び第4級アンモニウム化合物を添加し、前記廃水中のシアン成分を難溶化する工程と、
難溶化された前記シアン成分を固液分離する工程と、を含む廃水の処理方法。」
(イ)「【0002】
メッキを行う工場、石炭工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水には、シアン成分が含有されている場合がある。そのシアン成分は、シアン化ナトリウム等のシアン化物、シアン化物イオン(CN-)、並びにフェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-)等の鉄シアノ錯体(錯イオン)等を含む。」
(ウ)「【0017】
(シアン含有廃水)
本発明の一実施形態の処理方法は、シアン成分を含有する廃水を処理対象とする。その廃水は、シアン化物イオン(CN-)を含有するとともに、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-)、並びにそれら以外の他の鉄-シアン化合物を含有する。シアン化物イオンは遊離シアンとも称される。フェロシアン化物イオンはヘキサシアノ鉄(II)酸イオンとも称される。フェリシアン化物イオンはヘキサシアノ鉄(III)酸イオンとも称される。本処理方法では、銅塩、還元剤、及び第4級アンモニウム化合物を使用することで、廃水中のシアン化物イオン、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及び他の鉄-シアン化合物(例えば後述する鉄-シアン化合物A及びB)を難溶化することができる。
・・・
【0024】
なお、本発明者らの分析の結果、鉄-シアン化合物Aは、[Fe(CN)5(CO)]3-と考えられ、鉄-シアン化合物Bは、[Fe(CN)4(CO)2]2-と考えられる。」
エ 甲4に記載された事項
(ア)「【請求項1】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体を含有する廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。」
(イ)「【0002】
メッキを行う工場、石炭工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水には、シアン成分が含有されている場合がある。そのシアン成分は、シアン化ナトリウム等のシアン化物、シアン化物イオン(遊離シアン;CN-)、並びにフェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-)等の鉄シアノ錯体(錯イオン)等を含む。」
(ウ)「【0030】
本発明の一実施形態の方法では、廃水にさらに第4級アンモニウム化合物を添加することが好ましい。廃水にさらに第4級アンモニウム化合物を添加することで、前述の銅塩の添加量を少なくしても、廃水中のシアン成分を良好に処理することができる。
【0031】
第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウムカチオンを有する化合物であり、モノマーでもよいし、ポリマーでもよい。本方法では、第4級アンモニウム化合物の1種又は2種以上を用いることができる。廃水に添加する際の第4級アンモニウム化合物の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。モノマーの第4級アンモニウム化合物は、N+R4(Rは置換されていてもよいアルキル基又はアリール基を表す。)で表される。第4級アンモニウム化合物の種類は特に限定されず、例えば、テトラアルキルアンモニウム化合物、及びカチオン性ポリマー等を好適に用いることができる。
【0032】
テトラアルキルアンモニウム化合物としては、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩が好ましい。さらに、これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンが、ハロゲン化物イオンであるものが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンであるものがより好ましい。」
(エ)「【0046】
さらに、本発明者らの検討の結果、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン、並びにそれら以外の他の鉄シアノ錯体を含有する廃水に対しては、従来の方法では、シアン成分の十分な除去がより困難であることが分かった。そのような他の鉄シアノ錯体を含有する廃水に対しても、本実施形態の処理方法によって、シアン成分を十分高度に除去することができる。よって、本実施形態の処理方法は、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン、並びにそれら以外の他の鉄シアノ錯体を含有する廃水の処理により好適である。
【0047】
廃水中のフェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及びそれら以外の他の鉄シアノ錯体の存在は、廃水について、液体クロマトグラフィー-誘導結合プラズマ質量分析(LC-ICP-MS)装置を用いた分析により、確認することができる。このLC-ICP-MS装置は、液体クロマトグラフィー(LC)の検出器として、金属を種類別に定量可能な分析装置である誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置を備えるため、金属の種類ごとにクロマトグラムを得ることができるものである。
・・・
【0050】
より具体的には、上記クロマトグラムにおいて、フェロシアン化物イオンは、保持時間390~410秒の間に検出され、フェリシアン化物イオンは保持時間600~620秒の間に検出される。また、上記クロマトグラムにおいて、他の鉄シアノ錯体は、1種のみ検出されてもよく、2種以上検出されてもよい。他の鉄シアノ錯体は、少なくとも2種検出されることが好ましい。すなわち、本実施形態の処理方法では、他の鉄シアノ錯体の除去処理にも有効であることから、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン以外の他の鉄シアノ錯体を少なくとも2種含有する廃水がより好適である。この場合、上記クロマトグラムにおいて、他の鉄シアノ錯体は、保持時間460~520秒の間に検出される鉄シアノ錯体Aと、保持時間540~600秒の間に検出される鉄シアノ錯体Bとを含むことが好ましい。
【0051】
なお、本発明者らの分析の結果、鉄シアノ錯体Aは、[Fe(CN)5(CO)]3-と考えられ、鉄シアノ錯体Bは、[Fe(CN)4(CO)2]2-と考えられる。」
オ 甲5に記載された事項
「
[図:0001418231000007.jpg]
」(1213頁)
カ 甲6に記載された事項
「
[図:0001418231000008.jpg]
[図:0001418231000009.jpg]
」(412・413頁)
キ 甲7に記載された事項
「
[図:0001418231000010.jpg]
」(229頁)
ク 甲8に記載された事項(翻訳は、異議申立人が提出したものである。)
[図:0001418231000011.jpg]
(5頁左欄2~18行)
[図:0001418231000012.jpg]
ケ 甲9に記載された事項
(ア)「【請求項1】 発泡性を有する第4級アンモニウム化合物を水中で用いるに際し、下記一般式(I):【化1】
[図:0001418231000013.jpg]
[式中R4は炭素数12~18の飽和または不飽和の直鎖状脂肪族炭化水素基、R5及びR6はそれぞれ、水素原子又はアミノ基で置換されていてもよい炭素原子数1~4の低級アルキル基であり、Yは酸残基を示す。]で表される高級脂肪族アミンを併用することからなる第4級アンモニウム化合物の発泡抑制方法。」
(イ)「【0013】この発明において、一般式(I)で表される高級脂肪族アミン化合物の具体例としては、・・・オレイルアミン・・・等の第1級アミン・・・が挙げられる。これらのうち、第3級アミンを用いるのが好ましい。」
コ 甲10に記載された事項
「[0083]<カチオン系ポリマー>
本発明においては、フェノール系樹脂のアルカリ溶液と酸性アルミニウム塩とに加えて、更にカチオン系ポリマーを用いてもよい。カチオン系ポリマーを併用することにより、より一層良好な凝集、不粘着化、発泡抑制効果を得ることができる。
[0084] カチオン系ポリマーとしては、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、ポリエチレンイミン、アルキレンジクロライド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、ジシアンジクロライド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、DMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、DADMAC(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)等の、重量平均分子量が1000~100万、好ましくは5000~30万の、一般に有機凝結剤と言われるものが挙げられる。カチオン系ポリマーは何らこれらに限定されるものではない。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(ア)には、請求項1を引用する請求項4において、高炉集塵水を対象とする場合として、「高炉集塵水の循環再利用経路において、集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させ、処理された集塵水を循環利用する集塵水の処理方法であって、
上記高分子凝集剤がカチオン系凝集剤である、集塵水の処理方法。」が記載されているといえる。
そして、同(イ)の【0003】の「湿式集塵器で除塵に用いられた水、すなわち集塵水には鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁している。」との記載によれば、上記「高炉集塵水」は、「湿式集塵器で除塵に用いられた水であって、鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁しているもの」であるといえる。
また、同(エ)の【0020】の「その他のカチオン系高分子凝集剤としては、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサンおよびヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物などの中重合度(分子量数千~数万)のもの、ならびにポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル系およびポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などの高重合度(分子量数十万~数千万)のものが挙げられる。」との記載によれば、上記「カチオン系凝集剤」は、「水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサンおよびヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物などの中重合度(分子量数千~数万)のもの、ならびにポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル系およびポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などの高重合度(分子量数十万~数千万)のもの」であるといえる。
さらに、同(オ)の【0024】の「次に、本発明の集塵水の処理方法を、図1を用いて具体的に説明する。図1は高炉から排出されたガスの流れ、およびそのガスを処理する集塵水の循環経路を示す概略図である。高炉(1)から排出されたガス(高炉ガス)は、まず乾式集塵器(2)(DC:ダストキャッチャー)で集塵され、次いで湿式集塵器(3)に送られる。湿式集塵器(3)は一般に二段VS(ベンチュリースクラバー)が多く、1VS(4)および2VS(5)から構成される。高炉ガスは1VS(4)、2VS(5)およびTRT(6)(炉頂圧回収発電設備)の順に送られ、1VS(4)および2VS(5)で湿式集塵されてTRT(6)に導入されてから高炉ガスホルダー(図示しない)に回収される。湿式集塵に用いられた水(高炉集塵水)は、シックナー(7)で固形分が回収され、貯水槽(8)を経て、1VS(4)および2VS(5)に送られ、循環系でくり返し利用される。なお、必要に応じてA点(水補充口)では新しい水が補充され、B点(凝集沈殿物排出口)では凝集沈殿物が排出除去される。」との記載、同【0025】の「本発明の過酸化水素の添加処理および凝集剤の添加処理は、図1における1VS(4)・2VS(5)とシックナー(7)の間で行われるが、過酸化水素の添加をVS(4)および2VS(5)の出口で行い、凝集剤の添加をシックナー(7)の入口で行うのが好ましい。」との記載によれば、上記「集塵水の処理方法」は、「高炉から排出されたガス(高炉ガス)は、まず乾式集塵器で集塵され、次いで湿式集塵器に送られ、湿式集塵されてから高炉ガスホルダーに回収され、湿式集塵に用いられた水(高炉集塵水)は、シックナーで固形分が回収され、貯水槽を経て、湿式集塵器(1VS(4)および2VS(5))に送られ、循環系でくり返し利用され、湿式集塵器の凝集沈殿物排出口(B点)では凝集沈殿物が排出除去され、過酸化水素の添加を湿式集塵器(VS(4)および2VS(5))の出口で行い、凝集剤の添加をシックナーの入口で行う」「循環経路」で行われるものである。
以上を踏まえると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「高炉集塵水の循環再利用経路において、集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させ、処理された集塵水を循環利用する集塵水の処理方法であって、
上記高分子凝集剤がカチオン系凝集剤であり、
上記高炉集塵水は、湿式集塵器で除塵に用いられた水であって、鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁しているものであり、
上記カチオン系凝集剤は、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサンおよびヘキサメチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物などの中重合度(分子量数千~数万)のもの、ならびにポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアルキルアミノメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル系およびポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などの高重合度(分子量数十万~数千万)のものであり、
集塵水の処理方法は、高炉から排出されたガス(高炉ガス)は、まず乾式集塵器で集塵され、次いで湿式集塵器に送られ、湿式集塵されてから高炉ガスホルダーに回収され、湿式集塵に用いられた水(高炉集塵水)は、シックナーで固形分が回収され、貯水槽を経て、湿式集塵器に送られ、循環系でくり返し利用され、湿式集塵器の凝集沈殿物排出口では凝集沈殿物が排出除去され、過酸化水素の添加を湿式集塵器の出口で行い、凝集剤の添加をシックナーの入口で行う循環経路で行われるものである、集塵水の処理方法。」
(3)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「高炉から排出されたガス(高炉ガス)」、「シックナー」、「循環経路」及び「懸濁物」は、本件発明1の「排ガス」、「固液分離設備」、「循環設備」及び「懸濁物質」に相当する。
(イ)甲1発明の、「高炉から排出されたガス(高炉ガス)は、まず乾式集塵器で集塵され、次いで湿式集塵器に送られ、湿式集塵され」「湿式集塵に用いられた水(高炉集塵水)は、シックナーで固形分が回収され、貯水槽を経て、湿式集塵器に送られ、循環系でくり返し利用され」る「循環経路で行われる」、「集塵水の処理方法」は、ここでの「固形分」が、「鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)」を含むこと、シックナーで固形分が回収された後の「高炉集塵水」は、本件発明1の「分離液」に相当するものであるが、そのどの程度が湿式集塵器に再度送られるのか明らかでないことを考慮すると、本件発明1の「排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法」と、「排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法」の点で共通する。
(ウ)甲1発明の「高炉集塵水」は、「湿式集塵器で除塵に用いられた水であって、鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁しているものであ」るところ、ここでの「鉄などの塩類」は、本件発明1の「ペンタシアノカルボニル鉄錯体」と、「鉄塩類」の点で共通すること、「亜鉛などの塩類が懸濁している」場合は、「懸濁物質が亜鉛を含む」ことになることを考慮すると、上記の「高炉集塵水」は、本件発明1の「前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下」にあることと、「前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらに鉄塩類を含有し、前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下」にあることで共通する。
(エ)本件発明1において、集塵水に添加される「アミン構造を有するカチオン性化合物」は、「前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」るものであるところ、錯体を「難溶化及び/又は不溶化し、難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」るという点では、甲1発明において、「集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ」るとされている、甲1発明の「過酸化水素」に対応しているといえる。
そして、上記(ウ)で述べたように、甲1発明の「鉄などの塩類」は、本件発明1の「ペンタシアノカルボニル鉄錯体」と、「鉄塩類」の点で共通することから、甲1発明の「カルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの」「塩類を不溶性の塩類として析出させ」る「過酸化水素」は、本件発明1の「前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」る「アミン構造を有するカチオン性化合物」と、「鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせる化合物」の点で共通している。
また、甲1発明では、「過酸化水素の添加を湿式集塵器の出口で行」い、高炉集塵水は、その後、シックナーに供給されているといえることから、過酸化水素は、本件発明1でいえば、「固液分離設備での固液分離処理前の集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水」に添加されている。
さらに、甲1発明は、「集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を」「シックナー」で「凝集沈殿除去させ」るものであるところ、高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去しているとしても、本件発明1とは、「難溶化物及び/又は不溶化物を懸濁物質とともに固体成分として固液分離設備で固液分離処理し、除去」しているという点では共通している。
そうすると、甲1発明の「集塵水に過酸化水素を添加して集塵水中に溶解している塩類を不溶性の塩類として析出させ、次いで高分子凝集剤を添加して集塵水中の懸濁物を凝集沈殿除去させ」る「集塵水の処理方法であって」「上記高炉集塵水は、湿式集塵器で除塵に用いられた水であって、鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛およびマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁しているものであり」、「湿式集塵に用いられた水(高炉集塵水)は、シックナーで固形分が回収され、貯水槽を経て、湿式集塵器に送られ」「湿式集塵器の凝集沈殿物排出口では凝集沈殿物が排出除去され、過酸化水素の添加を湿式集塵器の出口で行い、凝集剤の添加をシックナーの入口で行う循環経路で行われるものである、集塵水の処理方法。」は、本件発明1の「前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去する」「集塵水の処理方法」と、「前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせる化合物を添加して、前記集塵水中の前記鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去する集塵水の処理方法」の点で共通している。
(オ)なお、特許異議申立書(29頁15~21行)では、甲1発明における「カチオン系凝集剤」を、本件発明1の「アミン構造を有するカチオン性化合物」に対応付けているが、集塵水に対して、化合物が果たしている作用機序を考慮した場合、甲1発明における「過酸化水素」を、本件発明1の「アミン構造を有するカチオン性化合物」に対応付けるべきであることは、上記(エ)で述べたとおりである。
(カ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらに鉄塩類を含有し、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせる化合物を添加して、前記集塵水中の前記鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去する、集塵水の処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
集塵水を処理する方法において、本件発明1では、固液分離設備で得られた分離液の「一部」を洗浄水として湿式集塵処理に供すると共に、「固液分離設備での固液分離処理により得られた前記分離液の一部(他部)を、前記洗浄水とは別に、全シアン濃度が1mg(CN)/L以下であるブロー水として前記循環設備外に排出する」のに対し、甲1発明では、シックナーからの高炉集塵水の一部を湿式集塵器に送り、他部をブロー水とするかは明らかでない点。
<相違点2>
集塵水について、本件発明1では、集塵水が「ペンタシアノカルボニル鉄錯体」を含有し、かつ、集塵水中の「懸濁物質濃度が500~10000mg/Lである」のに対し、甲1発明では、高炉集塵水が鉄などの塩類を含み、懸濁物の濃度は明らかでない点。
<相違点3>
「鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせる化合物」について、本件発明1では、鉄塩類が、「ペンタシアノカルボニル鉄錯体」であると共に、化合物が「アミン構造を有するカチオン性化合物であって、このカチオン性化合物が、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む」ものであるのに対し、甲1発明では、上記化合物によって難溶化及び/又は不溶化される鉄塩類が、ペンタシアノカルボニル鉄錯体であるのか明らかでなく、上記化合物が「過酸化水素」である点。
イ 相違点に対する判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
(ア)「鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせる化合物」について、本件発明1の「ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである」「アミン構造を有するカチオン性化合物」は、甲1発明の「過酸化水素」とは、別異な化合物であるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
(イ)次に、上記相違点3を当業者が容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。
甲1における鉄塩類に関する記載は、甲1の上記(1)ア(ウ)の【0017】に「この過酸化水素の添加処理により、集塵水に溶解している塩類のうち、例えばカルシウムは次式のように反応して炭酸カルシウムとなり析出する。Ca(HCO3)2+H2O2→CaCO3+2H2O+CO32-また、集塵水中に溶解している2価の鉄は、過酸化水素により3価の鉄となりFe2O3の形で析出する。)」と記載されるにとどまり、何ら、ペンタシアノカルボニル鉄錯体は、認識されてない。
そうすると、甲1発明においては、「難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」る対象として、ペンタシアノカルボニル鉄錯体が認識されていないのであるから、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を「難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」るために、過酸化水素に代えて、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を「難溶化及び/又は不溶化」させる化合物を採用しようとする動機付けが、甲1発明にあるとはいえない。
ましてや、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を「難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」る化合物として、特定の「アミン構造を有するカチオン性化合物」を、甲1発明の過酸化水素に代えて、採用することはできない。
(ウ)また、本件発明1の「アミン構造を有するカチオン性化合物」と、甲1発明の「過酸化水素」は、「鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中に鉄塩類の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせる化合物」の点で共通しているとしても、甲1発明の「過酸化水素」は、上記(イ)で記載した「集塵水中に溶解している2価の鉄は、過酸化水素により3価の鉄となりFe2O3の形で析出する。」との記載によれば、酸化反応によって鉄塩類を難溶化及び/又は不溶化しているのに対し、本件発明1の「アミン構造を有するカチオン性化合物」は、酸化剤であるということはできず、本件発明1におけるペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化及び/又は不溶化の作用機序は、甲1発明の「過酸化水素」とは相違しているといえる。
そうすると、甲1発明において、「過酸化水素」に代えて、同じく酸化作用のある酸化剤を採用することまでは、仮に動機付けられたとしても、「難溶化及び/又は不溶化」における作用機序の異なる本件発明1の特定の「アミン構造を有するカチオン性化合物」を用いる動機付けがあるとはいえない。
(エ)甲2には、甲2の上記(1)イによれば、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体を含有する被処理水に、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)等の鉄カルボニル錯体が含まれ((イ))、この被処理水に対して、過酸化水素を添加して反応させ、次に、銅(I)化合物を添加して反応させること((ア))、さらに、第4級アンモニウム化合物を添加することが好ましい((ウ))ことが記載されている。
甲3には、甲3の上記(1)ウによれば、シアン化物イオン、並びにフェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及びそれら以外の他の鉄-シアン化合物を含有する廃水((ア))に、鉄-シアン化合物として、[Fe(CN)5(CO)]3-(ペンタシアノカルボニル鉄錯体)が含まれ((ウ))、この廃水に、銅塩、還元剤、及び第4級アンモニウム化合物を添加し、前記廃水中のシアン成分を難溶化する((ア))ことが記載されている。
甲4には、甲4の上記(1)エによれば、遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体を含有する廃水((ア))に、鉄シアノ錯体として、[Fe(CN)5(CO)]3-(ペンタシアノカルボニル鉄錯体)が含まれ((エ))、この廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させること((ア))、廃水にさらに第4級アンモニウム化合物を添加することが好ましいこと((ウ))が記載されている。
しかしながら、甲2~甲4では、難溶化及び/又は不溶化させる対象は、ペンタシアノカルボニル鉄錯体以外にもあり、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化させる化合物として、第4級アンモニウム化合物を認識するまで至るとはいえない。また、甲2~甲4には、難溶化及び/又は不溶化させる化合物として「過酸化水素」に代えて「第4級アンモニウム化合物」(アミン構造を有するカチオン性化合物)を用いることができることも示されていない。仮に、甲2~甲4の記載から、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化させる化合物として、第4級アンモニウム化合物を認識することができたとしても、上記(イ)で述べたように、甲1発明は、集塵水に、ペンタシアノカルボニル鉄錯体が含まれることを認識し、これを難溶化及び/又は不溶化させ固液分離しようと動機付けられているものではなく、さらに、甲1発明において、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化させるために、「過酸化水素」に代えて特定の「アミン構造を有するカチオン性化合物」を用いることを当業者が容易に想到し得るとはいえない。
他の甲5~甲10にも、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化させる化合物として、特定の「アミン構造を有するカチオン性化合物」を明示するものはないし、また、難溶化及び/又は不溶化させる化合物として「過酸化水素」に代えて「アミン構造を有するカチオン性化合物」を用いることができることも示されていない。
そうすると、甲2~甲10を考慮したとしても、上記相違点3を、当業者が、容易に想到し得るとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明2~4について
本件発明1は、「前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ」る「アミン構造を有するカチオン性化合物」が、「ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む」とされているところ、本件発明2は、「アミン構造を有するカチオン性化合物」を、この中の「ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含むもの」に限定するものであるから、本件発明2は、本件発明1をさらに限定するものである。
また、本件発明3は、「アミン構造を有するカチオン性化合物」が、「オレイルアミンを含む」ものであること以外、本件発明1と同じであり、本件発明4は、「アミン構造を有するカチオン性化合物」が、「オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を含む」ものであること以外、本件発明1と同じである。
まず、本件発明1をさらに限定した本件発明2は、本件発明1が、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明1と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1について、上記(3)ア(カ)で述べたように、「アミン構造を有するカチオン性化合物」が、特定の化合物であることは、本件発明1と甲1発明との間の相違点に含まれるものであるから、本件発明3及び本件発明4と甲1発明を、上記(3)アで述べた本件発明1と同様の対比を行うと、上記(3)ア(カ)で述べた<相違点3>が、それぞれ、本件発明3及び本件発明4における、特定の化合物であるアミン構造を有するカチオン性化合物」含まれる相違点となる以外は、本件発明1との対比と同様である。
そして、上記(3)イで述べたように、「アミン構造を有するカチオン性化合物」が、どのような化合物であるかまでを論ずるまでもなく、「アミン構造を有するカチオン性化合物」の特定を含む相違点は、当業者が容易に想到し得るものではないから、本件発明3及び本件発明4と、甲1発明との間の相違点についても、同様の判断となる。
そうすると、本件発明1が、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明1と同様に、本件発明3及び本件発明4も、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明5~9について
本件発明5~9は、本件発明1~4を直接又は間接的に引用し、これらを、さらに限定するものであるところ、本件発明1、2が、甲1発明ではなく、本件発明1~4が、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明5~9も同様に、本件発明5、7、8は、甲1発明ではなく、本件発明5~9は、甲1発明及び甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~9は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、本件特許1、2、5、7、8は、同法第29条第1項の規定に、本件特許1~9は、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1~4では、本件特許1~9を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~9を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701383