特許異議申立
2024-700596
無機酸化物微粒子分散液
- 審判番号
- 2024-700596
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-525603
- 登録番号
- 7406485
- 請求日
- 2024年06月21日
- 審決日
- 2025年07月18日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ナガセケムテックス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】山口 真知子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 粟野 正明
- 分類
- P1652.113-YAA(C01G) / P1652.121-YAA(C01G) / P1652.537-YAA(C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7406485号発明「無機酸化物微粒子分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7406485号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3~8〕について訂正することを認める。
特許第7406485号の請求項3~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7406485号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願(特願2020-525603号。以下「本願」という。)は、2019年(令和 1年) 6月12日(優先権主張:平成30年 6月15日)を国際出願日とする出願であって、令和 5年12月19日にその特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 6年 6月21日に、その請求項3~8に係る特許について、特許異議申立人である山口 真知子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月25日付けで取消理由が通知され、同年12月27日に特許権者により訂正請求書及び意見書が提出され、令和 7年 2月14日に特許権者により手続補正書(方式)が提出されたものである。
なお、申立人に対し、令和 7年 4月11日付けで期間を指定して訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人からの意見書の提出はなかった。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 6年12月27日に提出され、令和 7年 2月14日提出の手続補正書(方式)によって補正された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正請求を以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を以下「本件訂正」という。)による訂正請求に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3~8について訂正することを求める、というものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部である
無機酸化物微粒子分散液」
と記載されているのを、
「(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部であり、
(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である、
無機酸化物微粒子分散液」
に訂正する(請求項3を引用する請求項4~8も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「無機酸化物微粒子分散液。」と記載されているのを、「無機酸化物微粒子分散液(ただし、有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液を除く)。」に訂正する(請求項3を引用する請求項4~8も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である」
と記載されているのを、
「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が18:82~7:93である」
に訂正する(請求項4を引用する請求項5~8も同様に訂正する。)。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項4~8は訂正前の請求項3を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1~3に係る請求項3、4の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項3~8は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、当該一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであって、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔3~8〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項3において、「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比」について特定されていなかったのを「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である」と訂正して、重量比の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 新規事項の追加について
本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0033】には、「また、分散液中の(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比は、20:80~5:95が好ましく、18:82~7:93がより好ましく、18:82~9:91がさらに好ましい。」との記載があるから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項3において、「無機酸化物微粒子分散液。」と記載されているのを、「無機酸化物微粒子分散液(ただし、有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液を除く)。」と訂正して、請求項3に係る「無機酸化物微粒子分散液」について、有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液以外のものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項2に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 新規事項の追加について
訂正事項2に係る訂正は、令和 6年10月25日付け取消理由通知において引用された下記第4の4の甲第2号証に記載された先行技術との重複部分を除外するために、訂正前の請求項3に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項3に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項とするものであって、本件明細書及び特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項4において、「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である」と記載されているのを、「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が18:82~7:93である」と訂正して、重量比の範囲をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項3に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 新規事項の追加について
本件明細書の【0033】には、「また、分散液中の(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比は、20:80~5:95が好ましく、18:82~7:93がより好ましく、18:82~9:91がさらに好ましい。」との記載があるから、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)独立特許要件について
本件は、訂正事項1~3に係る訂正前の請求項3~8について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~8に係る発明を「本件発明1」~「本件発明8」といい、総称して、「本件発明」という。
「【請求項1】
下記(A)~(D)成分:
(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子
(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤
(C)アルコキシシラン化合物、及び
(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒
を混合する工程、及び、
該混合物を湿式粉砕する工程
を含み、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子、(B)分散剤、及び(C)アルコキシシラン化合物を(D)溶媒に一括添加する
無機酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である、
請求項1に記載の無機酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
下記(A)~(D)成分:
(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子、
(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤、
(C)アルコキシシラン化合物、及び
(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒
を含有し、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部であり、
(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である、
無機酸化物微粒子分散液(ただし、有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液を除く)。
【請求項4】
(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が18:82~7:93である、請求項3に記載の無機酸化物微粒子分散液。
【請求項5】
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部である、
請求項3又は4に記載の無機酸化物微粒子分散液。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載の無機酸化物微粒子分散液、及びバインダー樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項7】
固形分中の無機酸化物微粒子の含有量が30重量%以上である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化物。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記4の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項3~8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
(1)申立理由1-1(取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項3~6、8に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項3~6、8に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
(1)申立理由2-1(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)申立理由3-1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項3~8に係る発明は、無機酸化物微粒子としてチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた、本件明細書に実施例として記載されていない態様を含む点で、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段を反映するものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3~8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由3-2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項3、5~8に係る発明は、本件明細書に実施例として記載されていない、例えば、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が「20:80~5:95」以外の態様を含む点で、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段を反映するものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3、5~8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:特開2015-117157号公報
甲2:国際公開第2015/111664号
甲3:国際公開第2015/087946号
甲4:”HSP_Calculations.xlsx(Sheet “HSP Sphere”)”、[online]、[2024年6月5日検索]、インターネット
<URL:https://www.hansen-solubility.com/contents/HSP_Calculations.xlsx>
第5 令和 6年10月25日付け取消理由通知において通知した取消理由の概要
当合議体は、上記第4の申立理由1の一部と、申立理由2とを採用し、また、職権による理由を追加して、令和 6年10月25日付けで以下の取消理由を通知した。
1 取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)(甲1を主たる引用文献とするもの)
本件訂正前の請求項3、5に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項3、5~8に係る発明は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由3(新規性)、取消理由4(進歩性)(甲2を主たる引用文献とするもの)
本件訂正前の請求項3~5に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項3~8に係る発明は、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当合議体の判断
当合議体は、以下に述べるとおり、令和6年10月25日付けで通知した取消理由、及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項3~8に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(新規性)、申立理由1-1(新規性)、取消理由2(進歩性)及び申立理由2-1(進歩性)(甲1を主たる引用文献とするもの)について
(1)甲1に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲1(発明の名称:酸化ジルコニウム粒子の非アルコール有機溶媒分散液とその製造方法)の【請求項1】、【0001】~【0011】、【0025】、【0030】、【0031】、【0039】、【0063】~【0069】及び【表1】の記載を総合勘案し、特に、実施例1に係る酸化ジルコニウム粒子の分散液に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「酸化ジルコニウム30.0部、p-スチリルトリメトキシシラン2.4部、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤1.2部及びPMA66.4部からなる酸化ジルコニウム粒子の分散液。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「分散液」に含まれる「酸化ジルコニウム粒子」は、本件発明3の「(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子」に相当する。
(イ)本件明細書の【0026】に「リン酸系分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。市販品としてフォスファノールRA-600、ML-220(東邦化学工業株式会社製)、ディスパロンPW-36(楠本化成株式会社製)が挙げられる。」と記載されており、また、甲1の【0025】に「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤」が「分散剤」を構成するものとして含まれることが記載され、同じく【0065】に「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤」として「東邦化学工業(株)製フォスファノールRA-600」を用いることが記載されている。
したがって、甲1発明の「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤」は、本件発明3の「(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤」に相当する。
(ウ)本件明細書の【0031】にアルコキシシラン化合物の具体例として「p-スチリルトリメトキシシラン」が記載されていることを考慮すると、甲1発明の「p-スチリルトリメトキシシラン」は、本件発明3の「(C)アルコキシシラン化合物」に相当する。
(エ)甲1発明の「PMA」について、甲1の【0065】には、「三協化学(株)製」の「プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PMA)」であることが記載され、同じく【0039】には、「分散媒である親油性の非アルコール有機溶媒」の一例であることが記載されているところ、甲4によれば、「Propylene Glycol Monoethyl Ether Acetate」の「dH」すなわちハンセン溶解度パラメータの水素結合項は、「7.7」であり、同じく「dP」すなわちハンセン溶解度パラメータの極性項は、「6.3」であると認められる。
したがって、甲1発明の「PMA」は、本件発明3の「(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒」に相当する。
(オ)甲1発明の「分散液」において、「酸化ジルコニウム30.0部」に対して、「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤1.2部」及び「p-スチリルトリメトキシシラン2.4部」が含まれていることは、「無機酸化物微粒子」に相当する「酸化ジルコニウム」100重量部に対して、「分散剤」に相当する「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤」と、「アルコキシシラン化合物」に相当する「p-スチリルトリメトキシシラン」との総量が(1.2+2.4)×100/30=12重量部であることに対応しているから、本件発明3の「(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であ」ることに相当する。
(カ)甲1発明の「分散液」において、「酸化ジルコニウム30.0部」に対して、「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤1.2部」が含まれていることは、「無機酸化物微粒子」に相当する「酸化ジルコニウム」100重量部に対して、「分散剤」に相当する「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤」が1.2×100/30=4重量部であることに対応しているから、本件発明3の「(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部である」ことに相当する。
(キ)甲1発明の「酸化ジルコニウム粒子の分散液」は、有機酸を含むものではないから、本件発明3の「(A)~(D)成分」を含有する「無機酸化物微粒子分散液(ただし、有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液を除く)」に相当する。
(ク)甲1発明において、「ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤1.2部」と「p-スチリルトリメトキシシラン2.4部」とが含まれていることは、両者の重量比が1.2:2.4≒33.3:66.7であることに対応しているから、上記(イ)、(ウ)を踏まえると、本件発明3と甲1発明とは、「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比」が所定の範囲である点で共通している。
(ケ)そうすると、本件発明3と甲1発明とは、
「下記(A)~(D)成分:
(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子、
(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤、
(C)アルコキシシラン化合物、及び
(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒
を含有し、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部であり、
(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が所定の範囲である、
無機酸化物微粒子分散液(ただし、有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液を除く)。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比」について、本件発明3は、「20:80~5:95」であるのに対して、甲3発明は、略33.3:66.7である点。
イ 相違点についての検討
上記相違点1について、以下検討する。
(ア)上記相違点1が実質的な相違点であることは、明らかである。
(イ)そこで、次に上記相違点1の容易想到性について検討する。
a 甲1の【0025】には、「本発明による酸化ジルコニウム粒子の非アルコール有機溶媒分散液においては、酸化ジルコニウム粒子と共に、分散剤として、シランカップリング剤とポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤の組み合わせを含み、この分散剤において、上記シランカップリング剤の上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤に対する重量比、即ち、シランカップリング剤/ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤重量比は75/25~10/90の範囲、好ましくは、70/30~15/85の範囲にあり、しかも、このような組み合わせからなる分散剤を上記酸化ジルコニウム粒子100重量部に対する割合が5~40重量部、好ましくは、8~35重量部の範囲であるように含むことによって、上記酸化ジルコニウム粒子が分散媒である非アルコール有機溶媒において白濁、凝集、ゲル化等を起こすことなく、微細且つ安定に分散していると共に、高い透明性と低い粘度を保持している。」との記載がある(下線は強調のために当合議体が付したものである。)。
b ここで、甲1発明においては、「酸化ジルコニウム粒子が分散媒である非アルコール有機溶媒において白濁、凝集、ゲル化等を起こすことなく、微細且つ安定に分散していると共に、高い透明性と低い粘度を保持」するために、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン界面活性剤とシランカップリング剤の重量比、すなわち、本件発明3の「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比」に対応する重量比を25:75~90:10の範囲内に設定する必要があるものと認められる。
c そうすると、甲1発明において、本件発明3の「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比」に対応する重量比が「略33.3:66.7である」のを、「25:75~90:10」の範囲を超えて、さらに本件発明3のように「20:80~5:95」の範囲まで変更する動機付けがあるとはいえない。この点は、甲3の記載を考慮しても同様である。
d したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明3は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明3は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明4~8について
本件発明4~8は、本件発明3の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明3が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由1、申立理由1-1、取消理由2及び申立理由2-1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明3~6、8は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえないから、取消理由1及び申立理由1-1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明3、5~8は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由2及び申立理由2-1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由3(新規性)、申立理由1-2(新規性)、取消理由4(進歩性)及び申立理由2-2(進歩性)(甲2を主たる引用文献とするもの)について
(1)甲2に記載された発明
本願の優先日前に公知となった甲2(発明の名称:金属酸化物粒子を含む分散体)の[0001]~[0006]、[0020]、[0022]~[0024]、[0097]、[0152]~[0153]、[0163]、[0166]~[0168]、[0186]~[0204]及び[請求項1]~[請求項7]の記載を総合勘案し、特に、実施例2に係る無機酸化物微粒子含有溶液に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「被覆型ZrO2粒子100質量部、有機リン化合物であるBYK-111(DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン社製))2質量部、シランカップリング剤であるメタクリル(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-503))20質量部、有機酸であるHOA-MS(2-アクリロイルオキシエチルサクシネート)10質量部、及び分散媒であるPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)30質量部を含有する、分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液。」(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」に含まれる「被覆型ZrO2粒子」は、本件発明3の「(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子」に相当する。
(イ)甲2の[0024]に「本発明では、有機リン化合物及び/又は有機硫黄化合物を分散体に添加することにより、有機リン化合物及び/又は有機硫黄化合物が金属酸化物粒子の表面を覆い、有機リン化合物及び/又は有機硫黄化合物が有する水酸基が粒子の分散性や該粒子を含む分散体の貯蔵安定性を改善することにより、金属酸化物微粒子を含む分散体の分散性が向上しているものと考えられる。」と記載されていることを考慮すると、甲2発明の「有機リン化合物であるBYK-111(DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン社製))」は、本件発明3の「(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤」に相当する。
(ウ)本件明細書の【0031】にアルコキシシラン化合物の具体例として「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」が記載されていることを考慮すると、甲2発明の「シランカップリング剤であるメタクリル(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-503))」は、本件発明3の「(C)アルコキシシラン化合物」に相当する。
(エ)本件明細書の【0040】に「ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート・・・等が挙げられる。」(「・・・」は記載の省略を意味する。以下同様。)と記載されていることを考慮すると、甲2発明の「分散媒であるPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)」は、本件発明3の「(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒」に相当する。
(オ)甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」において、「被覆型ZrO2粒子100質量部」に対して、「有機リン化合物であるBYK-111(DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン社製))2質量部」及び「シランカップリング剤であるメタクリル(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-503))20質量部」が含まれていることは、「無機酸化物微粒子」に相当する「被覆型ZrO2粒子」100重量部に対して、「分散剤」に相当する「有機リン化合物であるBYK-111(DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン社製))」と、「アルコキシシラン化合物」に相当する「シランカップリング剤であるメタクリル(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-503))」との総量が2+20=22重量部であることに対応しているから、本件発明3の「(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であ」ることに相当する。
(カ)甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」において、「無機酸化物微粒子」に相当する「被覆型ZrO2粒子100質量部」に対して、「分散剤」に相当する「有機リン化合物であるBYK-111(DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン社製))2質量部」が含まれていることは、本件発明3の「(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部である」ことに相当する。
(キ)甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」において、「有機リン化合物であるBYK-111(DISPERBYK-111(ビックケミー・ジャパン社製))2質量部」及び「シランカップリング剤であるメタクリル(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-503))20質量部」が含まれていることは、前者と後者の重量比が略9:91であるから、本件発明3の「(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である」ことに相当する。
(ク)上記(ア)~(エ)を踏まえると、本件発明3の「無機酸化物微粒子分散液」と甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」とは、「(A)~(D)成分」を含有する「無機酸化物微粒子分散液」である点で共通する。
(ケ)そうすると、本件発明3と甲2発明とは、
「下記(A)~(D)成分:
(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子、
(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤、
(C)アルコキシシラン化合物、及び
(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒
を含有し、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の総量が5~40重量部であり、
(A)無機酸化物微粒子100重量部に対し、(B)分散剤の配合量が0.25~8重量部であり、
(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が20:80~5:95である、
無機酸化物微粒子分散液。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2>
本件発明3の「無機酸化物微粒子分散液」は、「有機酸を含む無機酸化物微粒子分散液を除く」ものであるのに対して、甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」は、「有機酸であるHOA-MS(2-アクリロイルオキシエチルサクシネート)10質量部」を含有する点。
イ 相違点についての検討
上記相違点2について、以下検討する。
(ア)甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」は、明らかに有機酸を含むものであるから、上記相違点2は、実質的な相違点である。
(イ)そこで、次に上記相違点2の容易想到性について検討する。
a 甲2の[0005]には、「・・・本発明は、各種分散媒との相溶性が良好であり、且つ分散安定性に優れた材料、好ましくは分散体調製後1週間以上経過した後であっても、分散状態の良好な材料を提供することを課題として掲げた。」との記載があり、また、同じく[0006]には、「本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分散媒に金属酸化物粒子を分散させる際に、有機酸及び特定の構造を有する有機リン化合物及び/又は有機硫黄化合物を加えることにより、各種分散媒との相溶性が良くなり、且つ分散安定性も向上することを見出し、本発明を完成した。」との記載もある。
b ここで、甲2発明の認定の基礎となった実施例2は、上記aの記載から把握される技術思想を具体化するものであるから、課題解決に資する必須の成分として、「有機酸であるHOA-MS(2-アクリロイルオキシエチルサクシネート)」を含有しているものといえる。
c そうすると、甲2発明の「分散体として使用可能な無機酸化物微粒子含有溶液」において、必須の成分として含有される「有機酸であるHOA-MS(2-アクリロイルオキシエチルサクシネート)」を含有しないものとすることには、阻害事由が存在すると言わざるを得ない。この点は、甲3の記載を考慮しても同様である。
d したがって、甲2発明において、上記相違点2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明3は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明3は、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明4~8について
本件発明4~8は、本件発明3の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明3が甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由3、申立理由1-2、取消理由4及び申立理由2-2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明3~6、8は、甲2に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえないから、取消理由3及び申立理由1-2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明3~8は、甲2に記載された発明、又は甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由4及び申立理由2-2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3-1(サポート要件)及び申立理由3-2(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0007】の記載等によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「無機酸化物微粒子を簡便に分散でき、かつ、分散剤の使用量を低減できる、無機酸化物微粒子分散液の製造方法」及びその製造方法によって製造される無機酸化物微粒子分散液「を提供すること」にあると認められる。
(2)そして、同じく本件明細書の【0008】、【0012】、【0018】~【0094】の記載(特に、【0006】、【0035】~【0042】)によれば、上記(1)の課題は、「(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子」、「(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤」、「(C)アルコキシシラン化合物」に加えて、「(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒」という特定の溶媒を用いて「無機酸化物微粒子分散液」を構成することにより解決できることを当業者であれば理解することができる。
(3)一方、本件発明3~8は、上記第2のとおり、「(A)酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸化物微粒子、(B)ポリアクリル酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、及びシリコーン系分散剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の分散剤、(C)アルコキシシラン化合物、及び(D)ハンセン溶解度パラメータの水素結合項(dH)が11以下、極性項(dP)が4以上である溶媒を含有」する「無機酸化物微粒子分散液」を特定事項として包含するものであるから、上記(1)、(2)を踏まえると、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載した範囲を超えるものとはいえない。
(4)この点、申立人は、特許異議申立書の第29頁下から13行~第30頁第1行において、本件特許の請求項3~8に係る発明は、無機酸化物微粒子としてチタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた、本件明細書に実施例として記載されていない態様を含む点で、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段を反映するものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張している。
しかしながら、本件明細書の【0003】の「無機酸化物微粒子は表面にヒドロキシ基を有しており、親水性を示すため、非水溶性の硬化性樹脂に混合しようとした場合に、凝集を起こして白濁したり、時には増粘して流動性を失ったりすることもある。」との記載や、【0019】の「本発明では(A)無機酸化物微粒子として、入手の容易さ、屈折率等の光学特性の調整が容易であることから、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。これらの中でも酸化ジルコニウムが好ましい。これらの無機酸化物微粒子は、異種の元素がドープされた化合物であってもよい。無機酸化物微粒子に異種の元素がドープされた化合物としては、例えば、タンタルドープ酸化チタンや、ニオブドープ酸化チタン等が挙げられる。これらの無機酸化物微粒子は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、無機酸化物微粒子の製法も特に限定されない。」の記載によれば、無機酸化物微粒子として、チタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた場合であっても、酸化ジルコニウム(ZrO2)又は酸化チタン(TiO2)を用いた場合と同様であることは十分推認できるといえる。加えて、無機酸化物微粒子として、チタン酸バリウム(BaTiO3)を用いた場合に、上記(1)の課題が解決されないのではないかとの疑義が生じる程度の具体的根拠もない。
したがって、上記主張は採用しない。
(5)また、申立人は、特許異議申立書の第30頁第2~15行において、本件特許の請求項3、5~8に係る発明は、本件明細書に実施例として記載されていない、例えば、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比が「20:80~5:95」以外の態様を含む点で、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段を反映するものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張している。
しかしながら、本件発明3~8が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載した範囲を超えるものとはいえないことは、上記(3)において検討したとおりであるし、また、本件明細書の【0033】の「また、分散液中の(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比は、20:80~5:95が好ましく、18:82~7:93がより好ましく、18:82~9:91がさらに好ましい。分散剤20に対しアルコキシシラン化合物の重量比が80を下回ると分散剤が過剰となり、薄膜、成形体等に加工した際に特性低下の原因となることがあり、分散剤5に対しアルコキシシラン化合物の重量比が95を超えると均一な分散液を作製するのが難しいことがある。」との記載を考慮しても、(B)分散剤と(C)アルコキシシラン化合物の重量比を20:80~5:95のような所定の範囲とすることが、上記(1)の課題を解決するために必須であるとまではいえないから、いずれにしても、上記主張は採用しない。
(6)申立理由3-1及び申立理由3-2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項3~8の記載は、本件特許3~8について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3-1又は申立理由3-2によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和 6年10月25日付け取消理由通知によって通知した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項3~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700596