特許異議申立
2024-700699
即席油揚げ麺及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700699
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-066465
- 登録番号
- 7421677
- 請求日
- 2024年07月24日
- 審決日
- 2025年08月15日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エースコック株式会社
- 【権利者代理人】福島 芳隆
- 【権利者代理人】幸 芳
- 【異議申立人】木村 康紀
- 【異議申立人】木村 嘉弘
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7421677号発明「即席油揚げ麺及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7421677号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4-5〕について訂正することを認める。
特許第7421677号の請求項1-5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7421677号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、
令和5年4月14日の出願であって、
令和6年1月16日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、
令和6年1月24日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和6年7月24日に特許異議申立人 木村 康紀(以下、「特許異議申立人A」という。)、特許異議申立人 木村 嘉弘(以下、「特許異議申立人B」という。)からそれぞれ特許異議の申立てがされ、
令和6年12月12日付けで取消理由が通知され、
令和7年1月31日に特許権者 エースコック株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされると共に意見書が提出され、
令和7年2月13日付けで手続補正指令(方式)がされ、
令和7年2月25日に特許権者から訂正請求書の手続補正書(方式)が提出され、
令和7年3月6日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、
令和7年4月11日に特許異議申立人A及びBから、それぞれ意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年2月25日に提出された手続補正書により補正された、令和7年1月31日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間の経過後のL*値が68~74である、即席油揚げ麺。」と記載されているのを、
「前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である、即席油揚げ麺。」に訂正する。
併せて、請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間の経過後のL*値が68~74である、即席油揚げ麺の製造方法。」と記載されているのを、
「前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である、即席油揚げ麺の製造方法。」に訂正する。
併せて、請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項4及び5について、請求項5は、請求項4を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項4及び5に対応する訂正後の請求項4及び5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正事項1により湯戻し時間及び冷却時間に関して、「前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、本件特許の明細書の【0038】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2及び3についての訂正について
訂正事項1による請求項2及び3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2及び3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項4についての訂正について
訂正事項2に係る請求項4についての訂正は、訂正事項2により湯戻し時間及び冷却時間に関して、「前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項5についての訂正について
訂正事項2による請求項5についての訂正は、請求項4についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1~5についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項1~5についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4-5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明について
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法によって得られた即席油揚げ麺であって、
前記混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有し、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程であり、
前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程であり、
前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であり、かつ、
前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である、即席油揚げ麺。
【請求項2】
前記混合工程で用いる原材料は、小麦粉、でん粉、及び、植物性たんぱくからなる群より選ばれる少なくとも1種の原料粉を含有する、請求項1に記載の即席油揚げ麺。
【請求項3】
前記即席油揚げ麺の油脂含量が、14.3質量%以下である、請求項1に記載の即席油揚げ麺。
【請求項4】
混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法であって、
前記混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有し、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程であり、
前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程であり、
前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であり、かつ、
前記フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である、即席油揚げ麺の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程で用いる原材料は、小麦粉、でん粉、及び、植物性たんぱくからなる群より選ばれる少なくとも1種の原料粉を含有する、請求項4に記載の即席油揚げ麺の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
1 令和6年7月24日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1A(甲第1A号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1A号証に記載された発明に基づいて、本件特許のその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2A(甲第2A号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2A号証に記載された発明に基づいて、本件特許のその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3A(明確性要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 「粉末油脂」について
本件特許発明1及び4には、原材料中に「粉末油脂」を必須成分として含有することが規定されている。しかしながら、本件明細書の記載を見ても「粉末油脂」の範囲が明確ではない。
イ 「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間」について
本件特許発明1及び4には、L*値が「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間の経過後」の測定値であることが規定されている。しかしながら、「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間」は一義的に定まる値ではなく、また、本件明細書にも明確に定義されていない。
(4)申立理由4A(実施可能要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間」について
第三者は、即席油揚げ麺のL*値を測定する際に、湯戻し時間をどの程度に設定すれば良いのかを一義的に判断できない。そのため、第三者が本件特許発明1の追試等を試みる場合、即席油揚げ麺のL*値を測定して当該値が本件特許発明1に規定する範囲内であるか否かを確認するに当たって、あらゆる湯戻し時間を考慮しなければならなくなる。このため、本件特許発明1及び4は、実施可能要件を満たさない。本件特許発明2、3及び5についても同様である。
イ 比較例1について
本件明細書の比較例1は、本件特許発明1又は4に規定される構成要件のうち、L*値以外の構成要件をすべて満たしている。本件明細書には、L*値を本件特許発明1又は4に規定する範囲内とするための方法が何ら開示されていない。そうすると、本件明細書の比較例1は、如何なる要因で、L*値が本件特許発明1又は4の範囲外となっているのかを当業者は理解できない。このため、本件特許発明1及び4は、実施可能要件を満たさない。本件特許発明2、3及び5についても同様である。
(5)申立理由5A(サポート要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間」について
本願明細書の実施例1には、湯戻し時間を5分間に設定した場合に、本件特許発明1に規定されるL*値を具備したことが開示されている。しかしながら、即席油揚げ麺の湯戻し時間は一義的に定まらない。そうすると、本願実施例1は、 湯戻し時間次第では、本件特許発明1又は4に規定するL*値を具備する場合があったことを示しているに過ぎず、あらゆる湯戻し時間についてまで本件特許発明1又は4に規定するL*値を具備することは示されていないため、本件特許発明1及び4は、サポート要件を満たさない。
(6)証拠方法
・甲第1A号証:特許第7104864号公報
・甲第2A号証:特開2019-000040号公報
・甲第3A号証:特開2022-161089号公報
・甲第4A号証:特開昭59-63152号公報
・甲第5A号証:新・即席めん入門、第60~61頁、株式会社日本食糧新聞社、平成10年3月30日発行
・甲第6A号証:日本食品標準成分表2015年版(七訂)のWebサイトに掲載された第2章 日本食品標準成分表PDF(日本語版)1 穀類の印刷物、2024年7月3日閲覧及び出力、URL:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/20/1365343_1-0201r11.pdf
・甲第7A号証:国際公開第2018/150479号
・甲第8A号証:特開2017-148036号公報
・参考資料1:https://macaro-ni.jp/23393に掲載された記事の印刷物、出力日2025年4月11日
・参考資料2:https://cdn.kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M101177/201301289566/_prw_PR1fl_538r0RF3.pdfに掲載された記事の印刷物、公開日2013年1月28日、出力日2025年4月11日
証拠の表記は特許異議申立書、証拠説明書及び令和7年4月11日に提出された意見書の記載におおむね従った。
以下、甲第1A号証~甲第8A号証については、順に「甲1A」のようにいう。
2 令和6年7月24日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1B(甲第1B号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1B号証に記載された発明に基づいて、本件特許のその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2B(甲第2B号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2B号証に記載された発明に基づいて、本件特許のその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3B(明確性要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件特許権者は「本発明のうち、製造工程で規定された即席油揚げ麺は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又はその構造がどのようなものであるか、全てを特定することが不可能又は実際的ではない程度に困難であるた、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。」と主張している(本件明細書の段落0009参照)。
しかしながら、本件特許権者は、本件特許発明と同様の方法及び条件により製造した即席麺について構造や特性を特定した発明を多数出願していることから、「出願時において物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能」とは言えず、また、「物の発明をその物の製造方法で特定する物の構造又は特性を特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出又は時間を要する」とも考えられない。
したがって、本件特許発明には、たんぱく質含有量及びL*値という物性パラメータで表現されている以上に、その物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情が存在するとは言えない。
(4)申立理由4B(実施可能要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・下記(5)を考慮すると、発明の詳細な説明は、発明の課題と請求項1乃至5の構成との関係を実質的に理解できるように記載されていないから、本件特許発明1乃至5の技術上の異議が不明である。
また、甲第6B号証に記載されているように、原料に油脂を添加すると麺線に空隙(細孔)が形成され、麺の油脂含蓋が変化することは、本件出願時において公知の技術である。しかしながら、本件特許発明1乃至5では、粉末油脂の添加量について何ら特定されておらず、本件特許の明細書にも好適な範囲の記載はあるが、粉末油脂の添加による作用効果や、麺線の密度や空隙率への影響等について、何ら記載されていない。
更に、即席油揚げ麺の調理後のL*値についても、如何にすれば請求項1又は4で規定している範囲に調整することができるか、当業者でも理解できない。
このため、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茄でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺」を得ることは、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や雑高度な実験等を必要とするものである。
(5)申立理由5B(サポート要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題として、「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茄でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供すること」が記載されている。
一方、本件明細書の実施例の欄には、原材料が粉末油脂を含有せず本件特許発明の要件を満たさない実施例1、4、9、11と、本件特許発明の要件を満たす実施例2、3、5~8、10、12~16が記載されているが、いずれの即席油揚げ麺も油脂含有量や調理後のL*値に差違は認められない。
また、発明の詳細な説明の記載を参照しても、油脂含有量やL*値がどの程度であれば、 「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茄でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺」となり、前述した課題を解決したと言えるのか不明である。
(6)証拠方法
・甲第1B号証:特開平9-294553号公報
・甲第2B号証:特開昭59-63152号公報
・甲第3B号証:特許第7104864号公報
・甲第4B号証:特開2019-40号公報
・甲第5B号証:特開2010-207107号公報
・甲第6B号証:特開2017-158440号公報
・甲第7B号証:社団法人日本セルフ・サービス協会、食品知識ミニブックスシリーズ「新・即席めん入門」、新版、株式会社日本食糧新聞社、平成10年3月30日、p.53~55,60~61,66~67
・甲第8B号証:食品成分データベース、文部科学省、https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=19276&MODE=O
・甲第9B号証:特開2017-51157号公報
・甲第10B号証:特開2017-148036号公報
・甲第11B号証:国際公開第2018/150479号
・甲第12B号証:特開2022-161089号公報
・参考資料1:特開2020-202771号公報
・参考資料2:手打ちうどんの物性と食味に及ぼす澱粉・活性グルテン添加の影響、岡田久美子他、日本調理科学会誌、Vol.41、No.5、2008年、p.327~336
証拠の表記は特許異議申立書、証拠説明書及び令和7年4月11日に提出された意見書の記載におおむね従った。
以下、甲第1B号証~甲第12B号証については、順に「甲1B」のようにいう。
第5 取消理由の概要
本件特許発明に対して、当審が令和6年12月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、取消理由は申立理由3A イと同旨である。
・取消理由(明確性要件)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1及び4には、L*値が「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間の経過後」の測定値であることが規定されているが、「即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間」は一義的に定まる値ではなく、また、本件明細書にも明確に定義されていない。また、本件明細書【0038】には、冷却時間について、「冷却時間は、湯気の影響を受けずに色差の測定が可能となるまでの時間であり、例えば、3~5分間の間で適宜調整することができる。冷却時間が短すぎる場合(湯戻し後すぐ、又は冷却時間が1~2分間)は、湯気の影響が色差に反映するため、好ましくない。」ことが記載されており、測定するタイミングによりL*値が異なる場合について記載されている。
そうすると、本件特許発明1又は4におけるL*値は、湯戻し時間及び冷却時間をどの程度に設定して測定した値なのか不明確であるから、発明の範囲を明確に把握することができない。また、請求項1及び4を引用する本件特許発明2、3及び5についても同様である。
第6 取消理由についての当審の判断
1 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
2 明確性要件の判断
取消理由は、本件特許発明1又は4におけるL*値が、湯戻し時間及び冷却時間をどの程度に設定して測定した値なのか不明確であるために発明の範囲を明確に把握することができないことに起因するものであるところ、本件訂正により、本件特許の請求項1において、湯戻し時間及び冷却時間についてそれぞれ、「3~6分間」及び「3~5分間」と特定の数値範囲を有する時間に訂正された。また、本件特許の請求項4についても同様の訂正がなされた。
そして、本件特許の請求項1~5の記載は、上記第3のとおりであり、本件特許の請求項1~5の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1~5に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
3 特許異議申立人の主張
(1)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、令和7年4月11日に提出された意見書(第1~3ページ)において、以下の主張をしている(下線部は当審が付与。以下、同様。)。
ア「先ず、本件明細書では、「L*値が68~74」が、湯戻し時間3~6分間、冷却時間3~5分間という複数の操作条件のもとでどのように成立するのかが不明確であるといえます。すなわち、湯戻し時間および冷却時間それぞれの任意の組み合わせにおいてL*値が常に68~74の範囲内に収まることを要求しているのか、又はある一つの条件(例えば3分間湯戻し+3分間冷却)でのみ該当すれば足りるのか、という点が明細書から明確に読み取れず、明確であるとは言い難いものと思料致します。
・・・
そして、ある一つの条件(湯戻し時間及び冷却時間の組み合わせ)において、L*値が68~74の範囲内となることで足りるとするのであれば、当業者は自己の製品が本件訂正発明1に該当するか否かを判断する際に、湯戻し時間と冷却時間とのあらゆる組み合わせを秒単位で検証してL*値を確認しなければならなくなります。」
イ「また、湯戻し時間は一義的に決まる性質のものではなく、実際には即席油揚げ麺の原材料や太さ等によって左右されるものであるため、上記のような測定条件は発明の技術的範囲を構成する基準として不明確であると思料致します。」
ウ「さらに、商品に記載された湯戻し時間は、あくまで商品の設計に基づいた推奨値にすぎず、実際には消費者の好みに応じて前後するのが一般的です。例えば、参考資料1には、商品に記載された湯戻し時間(5分間)の2倍の湯戻し時間である10分間の湯戻し時間で喫食する消費者がいることが示されています。
また、例えば推奨湯戻し時間が「1分間」と記載された商品(例えば、参考資料2)であっても、当該商品を3~5分間湯戻しし、その後3~5分間冷却した際にL*値が68~74の範囲に入った場合には、本件訂正発明1の技術的範囲に属することになります。このように幅広い湯戻し条件及び冷却条件を考應してL*値が68~74の範囲に入るか否かを判断するためには、実質的にあらゆる即席油揚げ麺に対して、湯戻し3~6分間、冷却3~5分間の組み合わせにおける全ての条件を網羅的に試験しなければならないこととなり、技術的範囲に属するか否かの判断に過度の検証作業が課されることとなります。」
(2)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、令和7年4月11日に提出された意見書(第1~4ページ)において、以下の主張をしている。
ア「先ず、訂正発明1,4で特定されているL*値は、湯戻し時間が3~6分間の全範囲及び湯戻し後の冷却時間3~5分間の全範囲において68~74であるのか、この範囲の1点(例えば湯戻し時間が5分で冷却時間が3分)で68~74であればよいのか、本件明細書の記載を参酌しても不明である。例えば、湯戻し時間を5分、冷却時間を3分にした場合はL*値が68~74になるが、湯戻し時間を3分、冷却時間を5分にした場合はL*値が68~74から外れるものについては、どちらの条件で測定した値を採用すればよいか当業者でも理解できない。」
イ「『湯戻し時間』について、本件明細書の段落0038の記載から理解できるのは、「18番角、22番丸等の番手の切刃を用い、厚みを0.8~1.6mm程度に設定して得た即席油揚げ麺は、湯戻し時間が3分である」点と、「12番角、16番丸等の番手の切刃を用い、厚みを0.8~1.6mm程度に設定して得た即席油揚げ麺は、湯戻し時間が5分である」点のみであり、その他の番手の切刃を用いて製造された即席油揚げ麺や厚さが0.8mm未満又は1.6mmを超える即席油揚げ麺については、「L*値」を測定する際に湯戻し時間をどの程度に設定すればよいのか不明である。」
ウ「一般に、即席油揚げ麺における『湯戻し時間』は、「食するのに適した硬さになるまでの時間」と解されるが、本件明細書の段落0038に「麺の厚みが厚くなれば、湯戻し時間も長くなる。」と記載されているように、麺の厚さによって湯戻し時間が変わることは本件出願以前から技術常識である。
また、即席油揚げ麺の湯戻り性は、同じ番手の切刃、厚みであっても原材料、形状及び密度等様々な要因で変化するため、これらが特定されていない訂正発明1の即席油揚げ麺及び訂正発明4で製造される即席油揚げ麺は、湯戻し時間が3~6分間の範囲では「十分に湯戻しされていない(硬い部分がある)」場合や「湯伸びしている」場合があり得るが、訂正発明1,4における「L*値」は、このような『食するには適さない』状態で測定した値も含んでいるのか不明である。
このように、『湯戻し時間』は一義的に決定するわけでなく、「L*値」を測定する際に湯戻し時間をどの程度に設定すればよいのか不明である。」
エ「一方、『冷却時間』は、本件明細書の段落0038の記載から「麺から湯気が出なくなるまでの時間」と解されるが、麺の冷えやすさは、麺の厚さ、形状、表面積、冷却方法及び冷却条件等によって変化するため、これらが何ら特定されていない訂正発明1及び訂正発明4では、冷却時間を3~5分にしただけでは「麺が十分に冷えていない(湯気が上がっている)」ことがある。特に、本件明細書の実施例(段落0054)に記載されているように、冷却方法が「湯戻し後の麺を皿にできるだけ平らになるように置き放冷」である場合は、麺によっては3~5分間では十分に冷却されず、「L*値」測定時に湯気が上がっている可能性がある。そして、訂正発明1,4における「L*値」は、このような『十分に冷却されていない(湯気が上がっている)』状態で測定した値も含んでいるのか不明である。
このように、『冷却時間』も一義的に決定するわけでなく、「L*値」を測定する際に冷却時間をどの程度に設定すればよいのか不明である。」
(3)特許異議申立人A及びBの主張についての検討
まず、「湯戻し時間」とは、異議申立人Aが認めるように、麺の設計に基づいて規定された喫食するのに適した推奨湯戻し時間であり、一般的な即席麺においては各商品に明示されるものであることは本願出願時における技術常識であり、この点については、異議申立人Bも、「湯戻し時間」とは一般的な即席麺を湯戻しする際に、喫食するのに適した硬さになるまでの推奨湯戻し時間であると解されることを認めている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0038】にも「前記湯戻し時間は、使用する原料、麺の幅又は厚みによって変化し、例えば、3~6分間の間で適宜調整することができる。 例えば、麺の幅は、麺を切断する際に使用する切刃の番手によって変わる。また、切刃の種類によって、麺の形状(断面)が変わる。切刃として角刃を用いる場合は、断面がうどん等のように角張った麺線を得ることができる。また、丸刃を用いる場合には、ラーメン等の断面が丸い麺線を得ることができる。例えば、麺の厚みは0.8~1.6mm程度に適宜設定することができる。麺の厚みが厚くなれば、湯戻し時間も長くなる。」と記載されており、すなわち、使用する原料、麺の幅又は厚さなどの条件に基づいて湯戻し時間を設定し得ることが記載されているし、そのようにすることも当業者が通常行う技術事項に過ぎない。また、同【0039】には「本発明者らが、市販の生麺又はチルド麺3品を所定の時間茹でて、色差計でL*値(明度)を測定したところ、68~72程度であった。」とも記載されており、すなわち、比較対象である市販の生麺又はチルド麺について、各麺における推奨湯戻し時間で湯戻しして比較対象としてのL*値を計測したものと認められる(下線部は当審が記入。)。
そうすると、本件特許発明における「湯戻し時間」が、麺の原材料や太さ、厚みなどの各種条件に基づいて規定された、当該麺を喫食に最適な状態に湯戻しするのに要する推奨時間であることは、本件出願時の技術常識及び本件明細書の記載に触れた当業者であれば当然に理解することである。
このため、本件特許発明は、対象の麺における喫食に適した推奨される「湯戻し時間」及び「湯気の影響を受けずに色差の測定が可能となるまでの時間」である「冷却時間」の組み合わせにおいて、L*値が68~74の範囲内に収まることを要求するものであることは当業者が理解できるものと認められ、また、その際に、ある一つの組み合わせ条件(湯戻し時間及び冷却時間の組み合わせ)において、L*値が68~74の範囲内となることで足りることも当業者は当然に理解できる。
したがって、本件特許発明に関する特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、特許異議申立人A及びBの上記主張は採用できない。
4 取消理由についての当審の判断のむすび
よって、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、取消理由によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由は以下のとおりである。なお、進歩性の理由以外は、条文毎にまとめて記載した。
・申立理由1A(甲1Aに基づく進歩性)
・申立理由2A(甲2Aに基づく進歩性)
・申立理由1B(甲1Bに基づく進歩性)
・申立理由2B(甲2Bに基づく進歩性)
・申立理由3A ア及び3B(明確性要件)
・申立理由4A及び4B(実施可能要件)
・申立理由5A及び5B(サポート要件)
以下、順に検討する。
1 申立理由1A(甲1Aに基づく進歩性)
(1)甲1Aに記載された事項等
ア 甲1Aに記載された事項
甲1Aには、「即席油揚げ麺の製造方法」に関し、次の記載がある。
・「【0013】
本発明の即席油揚げ麺の製造方法は、混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を含む。
【0014】
以下、製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0015】
混合工程
即席麺を製造する常法に従って、前記即席麺の原料と水とを混合する(混練する)ことによって麺生地を製造する。
【0016】
原料
本発明において、即席油揚げ麺の原料は、特に限定されない。すなわち、従来、即席油揚げ麺の製造に使用されている原料を、特に限定なく使用することができる。
【0017】
原料粉は、主原料として小麦粉を含む。原料粉には、小麦粉に加えて、さらに小麦粉以外の穀粉、デンプン、タンパク質等を含んでもよい。小麦粉以外の穀粉として、例えば、そば粉、米粉等が挙げられる。デンプンとして、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、コーンスターチ等のデンプン等が挙げられる。前記デンプンとして、生デンプン、α化デンプン、エーテル化デンプン等の加工デンプン等を使用することもできる。タンパク質として、例えば、グルテン等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0018】
原料粉に、必要に応じて、即席麺の製造において一般に使用されている添加剤、例えば、アルカリ剤(かんすい)、食塩、増粘剤、麺質改良剤、カロチノイド色素等の色素、保存料等を添加することができる。これらの添加剤は、水と混合して使用するが、添加方法としては、原料粉と一緒に固体の状態で添加してもよく、練り水に溶解又は懸濁させて水溶液又は懸濁液として添加してもよい。
【0019】
前記混合工程において、前記原料粉に練り水を加え、次いでミキサーを用いて各種材料が均一に混ざるように混練して麺生地を製造する。なお、混合工程において使用される水(練り水)の量は、麺生地の形成に必要な水分量であればよい。例えば、原料粉の総重量に対する水の比率(加水率)が、25質量%~50質量%程度であればよい。加水率は、33~41質量%程度が好ましく、34~38質量%程度がより好ましく、35~37質量%がさらに好ましい。
なお、α化工程前の麺(生麺)に含まれる水分量として、前記混合工程で原料粉に添加される水の比率(加水率)で表すことができるが、加水率以外にも、製麺工程後(α化工程前)の麺線の水分値で表すことができる。
【0020】
製麺工程
得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する。麺生地を減圧下で押し出すことで、麺生地に含まれる空気を抜くことができる。
具体的には、エクストルーダー又は押出成型機を用いて、麺生地を減圧下においてダイスより押し出すことにより、小塊又は板状とする。使用する装置として、例えば、特開昭61-132132号公報に記載されている麺生地製造装置等が挙げられる。
具体的な使用条件として、エクストルーダー(押出スクリュー)又は押出成型機の装置内を脱気して真空度(ゲージ圧)を-0.090MPa~-0.098MPaにする。得られた麺生地を前記真空度に調整した減圧下の装置内を通し、直径5mm~50mm程度、好ましくは直径6~24mm程度のダイスから円筒状の生地(ドウ)として押し出す。その生地を圧出時に間欠的に切断することで、長さ10mm~100mm程度の小塊とする。その後、得られた小塊を常法に従って麺線化する。具体的には、得られた小塊を整形及び複合して麺帯を調製し、この麺帯を複数の圧延ロールを用いて圧延し、切刃を用いて切り出すことによって麺線を製造する。
前記製麺工程により得られた麺線の水分値は、33~37質量%が好ましく、34~36質量%がより好ましく、34.5~35.5質量%がさらに好ましい。製麺工程後の麺線の水分値は、OHAUS社製ハロゲン水分計MB45により求めることができる。
【0021】
α化工程
α化工程において、麺線に含まれるデンプンがα化(糊化)する。麺線をα化させる方法として、蒸気を使った蒸し処理を行う。蒸し処理は、蒸気を使用した蒸機を使用して行うことが好ましい。蒸し処理で使用する蒸気の質として、乾いた蒸気、湿り気のある蒸気等を使用することができ、得られる麺線の食感をよりよくするためには、湿り気のある蒸気を使用することが好ましい。あるいは、ボイラーで発生させた蒸気を減圧して蒸機内に噴射し、その蒸機の中を、麺線を通過させることによってα化させてもよい。
【0022】
水分付与工程
水分付与工程において、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する。該水分付与工程は、前記α化工程の後、かつ、後述するフライ乾燥工程の前に行われる。
水分の付与(補給)方法は、特に制限はなく、水、食塩又は乳化剤を含む水溶液を、前記製麺工程で得られた麺線に、雨だれ式、スプレー式に散布(噴霧)する方法、前記製麺工程で得られた麺線を前記水等に浸漬する方法等が挙げられ、浸漬する方法が好ましい。
【0023】
水又は水溶液の温度は、40℃以上70℃以下であり、40℃以上60℃以下が好ましく、45℃以上55℃以下がより好ましい。前記水分付与工程で麺線に付与される水分量(麺線への水分付与量、水の添加量)は、フライ乾燥工程前の麺線の水分量が48質量%~51質量%になるように調節すればよい。具体的には、前記水分付与工程後の麺線の水分値(麺線への水分付与量、水の添加量)は、前記製麺工程で得られた麺線100g当たり26ml~33ml程度であり、26ml~30ml程度がより好ましく、27ml~29mlがさらに好ましい。例えば、前記製麺工程で得られた麺線約71gを1食分とした場合、18ml~24ml程度であり、18ml~21ml程度がより好ましく、19ml~21ml程度がさらに好ましい。水分付与工程後の麺線の水分値は、OHAUS社製ハロゲン水分計MB45により求めることができる。なお、α化工程を蒸し処理で行う場合、製麺工程で得られた麺線の質量とα化工程で得られた麺線の質量とは略同じである。
【0024】
水分付与工程の後、麺線に、スプレー、浸漬等により調味液(着味液)を付着させ、味付けを行ってもよい。また、麺線同士の結着防止のため、乳化剤、増粘多糖類等を麺線に付着させることもできる。これらの作業は必ずしも行う必要はなく、省略してもかまわない。
【0025】
フライ乾燥(油揚げ)工程
次いで、麺線を1食分(20~50cm)にカットする。カットした麺線を、フライ乾燥用器具に投入し、フライ乾燥を行う。
麺を投入したフライ乾燥用器具をフライヤーと呼ばれる150℃前後に加温した食用油を入れた金属製の槽内を移動させ、麺を油中に浸漬させることにより、麺中の水分を蒸発させ、麺を乾燥する。
なお、フライヤーによる麺の乾燥は、食用油の温度を、最初は130~140℃程度の比較的低めの温度に設定し、途中で155~165℃程度の温度に上げて行ってもよい。
使用する食用油としては、パーム油、ラード、ごま油等が挙げられる。フライ乾燥後の麺塊の水分としては、1~5質量%となるように乾燥する。」
・「【0036】
実施例1
小麦粉700g及び加工デンプン(酢酸デンプン)(松谷化学工業株式会社製、松谷さくら(商品名))300gに、食塩(ダイヤソルト株式会社製、並塩)10g、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製、粉末かんすい 赤(商品名))4.5g、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製、リケカラーYGL-81)1.5g、及び増粘剤(三菱商事ライフサイエンス株式会社製、オルノー・G2(商品名))2gを水360gに溶解した練り水を加え(加水率36質量%)、横型のピンミキサーで10分間混合又は混練した。
真空押出機(株式会社武蔵商会製、MV-8型)を用い、得られた麺生地を、減圧した装置内(真空圧(ゲージ圧)-0.090MPa~-0.098MPa)を通して直径9mmのダイスから押し出し、小塊状に成形した。得られた小塊状の生地を、ロールに通して麺帯にし、それを2枚合わせた状態で再度ロールを通して一体化させ、さらに4対のロールに通して圧延した後、#22番角の切刃を通して、厚み1.20mmの麺線を得た。なお、この時点における麺線の水分量をOHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定したところ、34.6質量%であった。
得られた麺線を、ボイラーで発生させた蒸気を減圧させた後に噴射している蒸機の中を2分間通過させてα化させた。得られたα化工程後の麺線を、50℃の水に2秒間浸漬させた。この浸漬による麺線への水分付与量は1食分の麺線(約71g)につき19.0ml(製麺工程で得られた麺線100g当たり26.8ml)であり、水分付与後の麺線の水分量をOHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定したところ、48.4質量%であった。
その後、麺線を20cm程度の長さにカットし、1食当たり20mlのほぐし液を付与し、1食ずつ円錐台形状のフライ枠(天面内径87mm×底面内径72mm×高さ62mm、底面に直径3.2mmの丸孔を複数形成)に充填した。直径3.2mmの丸孔が複数形成された上蓋で蓋をして、約135℃のパーム油に30秒間、その後約160℃のパーム油に90秒間浸漬して、麺塊を乾燥させた。フライ乾燥の後、上蓋を外し、フライ枠から麺塊を取り出し、冷却することにより、即席油揚げ麺(1食分は約58g)が得られた。なお、約58gは、58±1g(57~59g)である(以下、同様)。」
イ 甲1Aに記載された発明
甲1Aに記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1Aには次の発明(以下、順に「甲1A麺発明」及び「甲1A製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1A麺発明>
「小麦粉700g及び加工デンプン(酢酸デンプン)(松谷化学工業株式会社製、松谷さくら(商品名))300gに、食塩(ダイヤソルト株式会社製、並塩)10g、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製、粉末かんすい 赤(商品名))4.5g、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製、リケカラーYGL-81)1.5g、及び増粘剤(三菱商事ライフサイエンス株式会社製、オルノー・G2(商品名))2gを水360gに溶解した練り水を加え(加水率36質量%)、横型のピンミキサーで10分間混合又は混練し、真空押出機(株式会社武蔵商会製、MV-8型)を用い、得られた麺生地を、減圧した装置内(真空圧(ゲージ圧)-0.090MPa~-0.098MPa)を通して直径9mmのダイスから押し出し、小塊状に成形し、得られた小塊状の生地を、ロールに通して麺帯にし、それを2枚合わせた状態で再度ロールを通して一体化させ、さらに4対のロールに通して圧延した後、#22番角の切刃を通して、厚み1.20mmの麺線を得て、得られた麺線を、ボイラーで発生させた蒸気を減圧させた後に噴射している蒸機の中を2分間通過させてα化させ、得られたα化工程後の麺線を、50℃の水に2秒間浸漬させ、その後、麺線を20cm程度の長さにカットし、1食当たり20mlのほぐし液を付与し、1食ずつ円錐台形状のフライ枠(天面内径87mm×底面内径72mm×高さ62mm、底面に直径3.2mmの丸孔を複数形成)に充填し、直径3.2mmの丸孔が複数形成された上蓋で蓋をして、約135℃のパーム油に30秒間、その後約160℃のパーム油に90秒間浸漬して、麺塊をフライ乾燥させた後、上蓋を外し、フライ枠から麺塊を取り出し、冷却することにより得られた、即席油揚げ麺。」
<甲1A製法発明>
「小麦粉700g及び加工デンプン(酢酸デンプン)(松谷化学工業株式会社製、松谷さくら(商品名))300gに、食塩(ダイヤソルト株式会社製、並塩)10g、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製、粉末かんすい 赤(商品名))4.5g、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製、リケカラーYGL-81)1.5g、及び増粘剤(三菱商事ライフサイエンス株式会社製、オルノー・G2(商品名))2gを水360gに溶解した練り水を加え(加水率36質量%)、横型のピンミキサーで10分間混合又は混練し、真空押出機(株式会社武蔵商会製、MV-8型)を用い、得られた麺生地を、減圧した装置内(真空圧(ゲージ圧)-0.090MPa~-0.098MPa)を通して直径9mmのダイスから押し出し、小塊状に成形し、得られた小塊状の生地を、ロールに通して麺帯にし、それを2枚合わせた状態で再度ロールを通して一体化させ、さらに4対のロールに通して圧延した後、#22番角の切刃を通して、厚み1.20mmの麺線を得て、得られた麺線を、ボイラーで発生させた蒸気を減圧させた後に噴射している蒸機の中を2分間通過させてα化させ、得られたα化工程後の麺線を、50℃の水に2秒間浸漬させ、その後、麺線を20cm程度の長さにカットし、1食当たり20mlのほぐし液を付与し、1食ずつ円錐台形状のフライ枠(天面内径87mm×底面内径72mm×高さ62mm、底面に直径3.2mmの丸孔を複数形成)に充填し、直径3.2mmの丸孔が複数形成された上蓋で蓋をして、約135℃のパーム油に30秒間、その後約160℃のパーム油に90秒間浸漬して、麺塊をフライ乾燥させた後、上蓋を外し、フライ枠から麺塊を取り出し、冷却することにより得られた、即席油揚げ麺の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比・判断
本件特許発明1と甲1A麺発明を対比する。
甲1A麺発明における「小麦粉700g及び加工デンプン(酢酸デンプン)(松谷化学工業株式会社製、松谷さくら(商品名))300gに、食塩(ダイヤソルト株式会社製、並塩)10g、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製、粉末かんすい 赤(商品名))4.5g、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製、リケカラーYGL-81)1.5g、及び増粘剤(三菱商事ライフサイエンス株式会社製、オルノー・G2(商品名))2gを水360gに溶解した練り水を加え(加水率36質量%)、横型のピンミキサーで10分間混合又は混練」する工程は、本件特許発明1の「混合工程」に相当する。
甲1A麺発明における「真空押出機(株式会社武蔵商会製、MV-8型)を用い、得られた麺生地を、減圧した装置内(真空圧(ゲージ圧)-0.090MPa~-0.098MPa)を通して直径9mmのダイスから押し出し、小塊状に成形し、得られた小塊状の生地を、ロールに通して麺帯にし、それを2枚合わせた状態で再度ロールを通して一体化させ、さらに4対のロールに通して圧延した後、#22番角の切刃を通して、厚み1.20mmの麺線を得」る工程は、本件特許発明1の「製麺工程」に相当し、本件特許発明1の「製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程」を満たす。
甲1A麺発明における「得られた麺線を、ボイラーで発生させた蒸気を減圧させた後に噴射している蒸機の中を2分間通過させてα化させ」る工程は本件特許発明1の「α化工程」に相当し、甲1A麺発明における「得られたα化工程後の麺線を、50℃の水に2秒間浸漬させ」る工程は本件特許発明1における「水分付与工程」に相当し、また、甲1A麺発明における「麺線を20cm程度の長さにカットし、1食当たり20mlのほぐし液を付与し、1食ずつ円錐台形状のフライ枠(天面内径87mm×底面内径72mm×高さ62mm、底面に直径3.2mmの丸孔を複数形成)に充填し、直径3.2mmの丸孔が複数形成された上蓋で蓋をして、約135℃のパーム油に30秒間、その後約160℃のパーム油に90秒間浸漬して、麺塊をフライ乾燥させ」る工程は本件特許発明1の「フライ乾燥工程」に相当するから、これらの工程は本件特許発明1の「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法によって得られた即席油揚げ麺であって、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程であり、
前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程である、即席油揚げ麺。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1A-1>
本件特許発明1においては、「混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有」することが特定されているのに対し、甲1A麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1A-2>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲1A麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1A-3>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲1A麺発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点1A-3について検討する。
甲1Aには、甲1A麺発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1A麺発明において、相違点1A-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0010】)という甲1A麺発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲1A麺発明並びに甲1A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、相違点1A-3について、「本件訂正発明1は、即席油揚げ麺における「茹でた生麺に近い外観」を実現する手段として、L*値という物理的パラメータを導入した点に特徴があるとされます。しかしながら、L*値はあくまでも既存製品においても達成され得た外観的特徴を数値化したに過ぎず、実質的に新たな構成や効果をもたらす技術的意義を有するとはいえません。特に、甲第1A号証(特許第7104864号公報)および甲第1B号証(特開平9-294553号公報)に示される先行技術の即席油揚げ麺においても、同様のL*値が得られていた蓋然性は極めて高いと考えられます。また、本件明細書の実施例(特に実施例1、4、9、11)において、粉末油脂の有無により得られるL*値や油脂含量に有意な差異がないことからすれば、粉末油脂の添加による新規な効果は認められず、当該構成が進歩性を基礎づけるとは到底いえません。さらに、粉末油脂を押出しペレット状のフライ麺に添加する技術は、業界において周知であることは自明であり、このような周知技術を組み合わせただけの構成が、先行技術に対する非自明な進展とは評価できません。」(意見書第12ページ)と主張するが、甲1Aに記載された即席麺が「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」を満たす証拠は示されていないし、また、粉末油脂を添加することが周知技術であったとしても、甲1麺発明に粉末油脂を添加する動機付けはない。そして、本件特許発明1と甲1麺発明とは材料や配合比も異なるため、同程度のL*値を有する蓋然性が高いともいえないから、上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1A麺発明並びに甲1A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1A製法発明を対比すると、上記(2)アと同様の対応関係を有するから、両者は次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法であって、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程であり、
前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程である、即席油揚げ麺の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1A-4>
本件特許発明4においては、「混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有」することが特定されているのに対し、甲1A製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1A-5>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲1A製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1A-6>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲1A製法発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点1A-6について検討する。
甲1Aには、甲1A製法発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1A製法発明において、相違点1A-6に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明4は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲1A製法発明並びに甲1A及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明4は甲1A製法発明並びに甲1A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5は、請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1A製法発明並びに甲1A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由1Aについてのむすび
したがって、本件特許発明1~5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1Aによっては取り消すことはできない。
2 申立理由2A(甲2Aに基づく進歩性)
(1)甲2Aに記載された事項等
ア 甲2Aに記載された事項
甲2Aには、「即席油揚げ麺の製造方法」に関し、次の記載がある。
・「【0018】
〈製造方法の説明〉
本実施形態に係る即席油揚げ麺の製造方法は、生地捏ね工程S120と、生地押出工程S122と、製麺工程S124と、蒸煮工程S126と、フライ工程S128とを備える。
【0019】
生地捏ね工程S120は、麺原料と水とが捏ねられる工程である。これにより生地が生成する。本発明の麺原料においては、小麦粉の質量に対する加工デンプンの質量%は、44.0質量%以上68.0質量%以下である。この要件を満たすことが、本発明の効果を得るための必要条件である。また、この工程において麺原料と水とが捏ねられる際、小麦粉の質量と加工デンプンの質量とα化デンプンの質量との和に対する水の質量%は、43.4質量%以上51.3質量%以下である。この要件を満たすことも、本発明の効果を得るための必要条件である。なお、その水の質量%は、47.4質量%以上51.0質量%以下であることが望ましい。また、この工程においては、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋が施された馬鈴薯デンプンがα化デンプンとして用いられることが望ましい。
【0020】
生地押出工程S122において、生地は例えばまず周知の押出し成型機に収容される。本実施形態の場合、その押出し成型機は、生地が収容される空間を形成する構造体と、その構造体に取り付けられその空間と押出し成型機とを連通させる周知のダイスと、その空間に収容された生地をダイスを経てその押し出し成型機の外へ押し出す機構と、その空間の気圧を大気圧より低くする機構とを備える。生地が収容される空間の気圧が大気圧より低くなった状態でその生地はダイスを経て押し出される。生地が収容される空間の気圧は大気圧よりも低い任意の気圧に設定され得る。生地収容空間の気圧は大気圧より0.090Mpa~0.098Mpa低いことが望ましい。
【0021】
製麺工程S124において、押し出し成型機の外へ押し出された生地から麺が生成される。生地から麺が生成されるための具体的な手順は周知のものと同様である。したがってここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0022】
蒸煮工程S126において、麺が蒸される。この麺は製麺工程S124において生成された麺である。麺を蒸すための具体的な手順は周知のものと同様である。したがってここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0023】
フライ工程S128において、麺が油で揚げられる。これにより即席油揚げ麺が生成する。麺を揚げるための具体的な手順もまた周知のものと同様である。したがってここではその詳細な説明は繰り返されない。
【0024】
なお、本実施形態にかかる即席油揚げ麺の製造方法は、上述された各工程に加え、麺に対する加工を施すための任意の工程をさらに備えていてもよい。そのような工程の例には、麺に対して調味料を吹きかける工程がある。」
・「【0027】
[実施例1]
まず、作業者は、小麦粉25000gと、加工デンプン(松谷化学工業株式会社製松谷さくら)14000gと、α化デンプン(松谷化学工業株式会社製パインソフトS)425gと、タンパク質(グリコ栄養食品株式会社製A-グルCC)1500gと、粉末油脂(理研ビタミン株式会社製スプレーファットPM)2100gと、食塩800gと、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製粉末かんすい赤)120gと、タンパク加水分解物(味の素株式会社製A-1000)360gと、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製リケカラーYGL-81)15gと、酸化防止剤(理研ビタミン株式会社製理研E乳剤-20AR )15gと、水18800gとを14分間混ぜた。これらが混ざることにより生地が製造された。この生地における小麦粉の質量に対する加工デンプンの質量%が56.0質量%であった。この生地における小麦粉の質量と加工デンプンの質量とα化デンプンの質量との和に対する水の質量%は47.7質量%であった。生地が製造されると、作業者は、押し出し成型機を用いて、その生地にその押し出し成型機の周りの大気圧よりも気圧が0.097MPa低い環境下で直径8mmの孔があいたダイスを通させた。これにより生地は断面円形の生地となった。作業者はその生地を間欠的に切断した。これにより生地の小さな塊が形成された。生地の小さな塊が形成されると、作業者は、その生地を厚さ1.04mmとなるよう延ばした。延ばされた生地が麺帯である。作業者は、その麺帯を#18番丸の切刃で切ることにより麺を製造した。麺の厚さは1.30mmであった。麺の幅は1.67mmであった。麺が製造されると、作業者は、その麺をいったん摂氏100度の蒸気で2分30秒間蒸した。作業者は、蒸した麺150gをまず摂氏135度の油で30秒間揚げた。次いで作業者はその麺を摂氏155度の油で2分20秒間揚げた。これにより、本実施例にかかる即席油揚げ麺が得られた。作業者は、この即席油揚げ麺を摂氏100度の湯に5分間漬けた。作業者はその湯戻しされた即席油揚げ麺を試食した。この即席油揚げ麺は生麺と同様の食感を有していた。」
イ 甲2Aに記載された発明
甲2Aに記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲2Aには次の発明(以下、順に「甲2A麺発明」及び「甲2A製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2A麺発明>
「小麦粉25000gと、加工デンプン(松谷化学工業株式会社製松谷さくら)14000gと、α化デンプン(松谷化学工業株式会社製パインソフトS)425gと、タンパク質(グリコ栄養食品株式会社製A-グルCC)1500gと、粉末油脂(理研ビタミン株式会社製スプレーファットPM)2100gと、食塩800gと、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製粉末かんすい赤)120gと、タンパク加水分解物(味の素株式会社製A-1000)360gと、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製リケカラーYGL-81)15gと、酸化防止剤(理研ビタミン株式会社製理研E乳剤-20AR )15gと、水18800gとを14分間混ぜ、これらが混ざることにより生地が製造され、この生地における小麦粉の質量に対する加工デンプンの質量%が56.0質量%であり、この生地における小麦粉の質量と加工デンプンの質量とα化デンプンの質量との和に対する水の質量%は47.7質量%であり、生地が製造されると、作業者は、押し出し成型機を用いて、その生地にその押し出し成型機の周りの大気圧よりも気圧が0.097MPa低い環境下で直径8mmの孔があいたダイスを通させ、これにより生地を断面円形の生地とし、その生地を間欠的に切断し、これにより生地の小さな塊が形成され、生地の小さな塊が形成されると、作業者は、その生地を厚さ1.04mmとなるよう延ばし、延ばされた生地が麺帯であり、作業者がその麺帯を#18番丸の切刃で切ることにより、麺の厚さ1.30mm、麺の幅1.67mmである麺が製造されると、作業者は、その麺をいったん摂氏100度の蒸気で2分30秒間蒸して、蒸した麺150gをまず摂氏135度の油で30秒間揚げ、次いでその麺を摂氏155度の油で2分20秒間揚げて得られた、即席油揚げ麺。」
<甲2A製法発明>
「小麦粉25000gと、加工デンプン(松谷化学工業株式会社製松谷さくら)14000gと、α化デンプン(松谷化学工業株式会社製パインソフトS)425gと、タンパク質(グリコ栄養食品株式会社製A-グルCC)1500gと、粉末油脂(理研ビタミン株式会社製スプレーファットPM)2100gと、食塩800gと、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製粉末かんすい赤)120gと、タンパク加水分解物(味の素株式会社製A-1000)360gと、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製リケカラーYGL-81)15gと、酸化防止剤(理研ビタミン株式会社製理研E乳剤-20AR )15gと、水18800gとを14分間混ぜ、これらが混ざることにより生地が製造され、この生地における小麦粉の質量に対する加工デンプンの質量%が56.0質量%であり、この生地における小麦粉の質量と加工デンプンの質量とα化デンプンの質量との和に対する水の質量%は47.7質量%であり、生地が製造されると、作業者は、押し出し成型機を用いて、その生地にその押し出し成型機の周りの大気圧よりも気圧が0.097MPa低い環境下で直径8mmの孔があいたダイスを通させ、これにより生地を断面円形の生地とし、その生地を間欠的に切断し、これにより生地の小さな塊が形成され、生地の小さな塊が形成されると、作業者は、その生地を厚さ1.04mmとなるよう延ばし、延ばされた生地が麺帯であり、作業者がその麺帯を#18番丸の切刃で切ることにより、麺の厚さ1.30mm、麺の幅1.67mmである麺が製造されると、作業者は、その麺をいったん摂氏100度の蒸気で2分30秒間蒸して、蒸した麺150gをまず摂氏135度の油で30秒間揚げ、次いでその麺を摂氏155度の油で2分20秒間揚げて得られる、即席油揚げ麺の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比・判断
本件特許発明1と甲2A麺発明を対比する。
甲2A麺発明における「小麦粉25000gと、加工デンプン(松谷化学工業株式会社製松谷さくら)14000gと、α化デンプン(松谷化学工業株式会社製パインソフトS)425gと、タンパク質(グリコ栄養食品株式会社製A-グルCC)1500gと、粉末油脂(理研ビタミン株式会社製スプレーファットPM)2100gと、食塩800gと、かんすい(オリエンタル酵母工業株式会社製粉末かんすい赤)120gと、タンパク加水分解物(味の素株式会社製A-1000)360gと、クチナシ色素(理研ビタミン株式会社製リケカラーYGL-81)15gと、酸化防止剤(理研ビタミン株式会社製理研E乳剤-20AR )15gと、水18800gとを14分間混ぜ」る工程は、本件特許発明1の「混合工程」に相当する。
甲2A麺発明における「生地が製造されると、作業者は、押し出し成型機を用いて、その生地にその押し出し成型機の周りの大気圧よりも気圧が0.097MPa低い環境下で直径8mmの孔があいたダイスを通させ、これにより生地を断面円形の生地とし、その生地を間欠的に切断し、これにより生地の小さな塊が形成され、生地の小さな塊が形成されると、作業者は、その生地を厚さ1.04mmとなるよう延ばし、延ばされた生地が麺帯であり、作業者がその麺帯を#18番丸の切刃で切ることにより、麺の厚さ1.30mm、麺の幅1.67mmである麺が製造される」工程は、本件特許発明1の「製麺工程」であって、「製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程」に相当する。
甲2A麺発明における「作業者は、その麺をいったん摂氏100度の蒸気で2分30秒間蒸」す工程は、本件特許発明1の「α化工程」に相当する。
甲2A麺発明における「蒸した麺150gをまず摂氏135度の油で30秒間揚げ、次いでその麺を摂氏155度の油で2分20秒間揚げ」る工程は、本件特許発明1の「フライ乾燥工程」に相当する。
甲2A麺発明は「粉末油脂(理研ビタミン株式会社製スプレーファットPM)2100g」を含む材料を「混ぜ」たものであるから、本件特許発明1の「混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有し」を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法によって得られた即席油揚げ麺であって、
前記混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有し、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程である、即席油揚げ麺。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2A-1>
本件特許発明1は「水分付与工程」を有し、「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」であることが特定されているのに対し、甲2A麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2A-2>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲2A麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2A-3>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲2A麺発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点2A-3について検討する。
甲2Aには、甲2A麺発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2A麺発明において、相違点2A-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲2A麺発明並びに甲2A及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲2A麺発明並びに甲2A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、相違点2A-3について、上記1(2)イの主張をするも、同1(2)イで検討したとおり採用できるものでないため、上記アに記載した相違点2A-3の判断に影響を及ぼすものではない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2A製法発明並びに他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲2A製法発明を対比すると、上記(2)アと同様の対応関係を有するから、両者は次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法であって、
前記混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有し、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程である、即席油揚げ麺の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2A-4>
本件特許発明4は「水分付与工程」を有し、「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」であることが特定されているのに対し、甲2A製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2A-5>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲2A製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2A-6>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲2A製法発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点2A-6について検討する。
甲2Aには、甲2A製法発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2A製法発明において、相違点2A-6に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明4は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲2A製法発明並びに甲2A及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明4は甲2A製法発明並びに甲2A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5は、請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲2A製法発明並びに甲2A及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由2Aについてのむすび
したがって、本件特許発明1~5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2Aによっては取り消すことはできない。
3 申立理由1B(甲1Bに基づく進歩性)
(1)甲1Bに記載された事項等
ア 甲1Bに記載された事項
甲1Bには、「即席油揚げ麺の製造方法」に関し、次の記載がある。
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明においては、従来の技術について、工程上での工夫を加え、油揚げ処理を実施する即席麺において生麺同様の食感を有しながら、油揚げ後の麺の膨化が少なく、しかも油分含有量が従来の約20~23%であるのに比較し約15~17%にまで減少させた即席油揚げ麺であって、湯戻し後の粘弾性にすぐれるとともに、生麺にみられるような特有の透明感を有する麺を作成する目的のため鋭意研究を重ねた。
【0006】本発明は、前記目的を達成することによって、既知の即席油揚げ麺とは外観および食感の点で一線を画する優れた利点を有するものであって、生麺に近付きそれと共通する特徴を備えた即席油揚げ麺の製造方法を確立することにある。ここでいう即席油揚げ麺とは、即席中華麺、即席和風麺、スナック麺をさす。」
・「【0010】このようにして作成した小塊を複合機(整形ロールおよび複合ロール)に投入し、麺帯とした後に切出し、蒸し工程後に油揚げ処理を行ない即席油揚げ麺が製造されるものである。後述する本発明の実施例1で作成した油揚げ麺の垂直断面の状態を示す図1(電子顕微鏡写真。日立SW-510型。倍率33倍)から理解される形状は、従来法に従って作成した比較例1の油揚げ麺の垂直断面の状態を示す図2(電子顕微鏡写真。日立SW-510型。倍率33倍)の形状が、油揚げ処理前には、全く同じ断面積で生麺(圧延-切出し工程後の麺)を調整したにもかかわらず、その膨化の状態および大きさが大きく異なる。すなわち、本発明の製造方法に従って得た麺の特徴は、従来の麺と同じく多孔質ではあるが、それぞれの孔が小さく、その分布も層状になっており、明らかに異なっている。その結果、麺全体としては(1)油揚げ後の麺の膨化が少なくなる。(2)前記膨化度の低下によって、油分含有量が従来の約20~23%に比較し約15~17%にまで少なくすることができた。油分含有量の減少は、喫食時における油の摂取量が減ることにもなり、また味の点でもスープの特徴を一層発揮しやすいばかりでなく、熱風乾燥麺やマイクロ波乾燥麺では得られない油の旨味も併せそなえている。また本製法の麺は、スープが麺内部に浸透しやすく、しかも麺に透明感を与えるために、既存の即席油揚げ麺と食感および味の点だけでなく外観も異なり、生麺(生中華麺等)に近似した麺となった。
【0011】脱気下でドウを小塊としたことで、混捏時に内部に包括された空気が脱気され、結合力のより強い緻密で強固な小塊を形成することになる。この小塊が、前記緻密で強固な性質と粘りを持ち合わせている程度が大であるに従い、前述の食感および外観に関する特徴は強調される。従って、原料の種類、混捏する際の加水量等は重要な要因である。また、この小塊の作成には、エクストルーダーまたは押出し成型機等を使用するため、製麺工程上で麺帯とするために原材料に求められる条件のうち結合力、例えば小麦グルテンや増粘多糖類による結合力が弱くても小塊を作成することが可能である。」
・「【0016】
【実施例】次に本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
実施例1
小麦粉800g、タピオカ加工澱粉200g、かんすい4.5g、食塩10g、クチナシ色素1.5g、増粘多糖類2g、レシチン15gを水350mlに溶かし、横型ミキサーで10分間混捏し、ドウとした。このドウを押出し成型機を用いて真空度760mmHgの脱気下で直径20mmのダイスを通し円筒状のドウ(生地)として圧送されたものを圧出時に間欠的に切断し、直径20mm、長さ20mmのチップ状の小塊とした。作成した小塊を、複合機(整形ロールおよび複合ロール)により厚さ10mmの麺帯とし、圧延ロールを通し、切刃#18(角)にて、厚さ1.4mmの麺線とした。この麺線を蒸し機(蒸気圧1,500mmAq)で2分間蒸煮しα化した。次いで、250mmの長さにカットし、必要により既知の調味液等を溶かした水を20~30ml前後塗布した110~120g相当量を1食とし、油揚げ用のバスケットに投入し油槽温度120~160℃で水分を2~5%前後まで蒸発させ、本発明の即席中華麺(袋麺)を得た。」
イ 甲1Bに記載された発明
甲1Bに記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1Bには次の発明(以下、順に「甲1B麺発明」及び「甲1B製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1B麺発明>
「小麦粉800g、タピオカ加工澱粉200g、かんすい4.5g、食塩10g、クチナシ色素1.5g、増粘多糖類2g、レシチン15gを水350mlに溶かし、横型ミキサーで10分間混捏し、ドウとし、このドウを押出し成型機を用いて真空度760mmHgの脱気下で直径20mmのダイスを通し円筒状のドウ(生地)として圧送されたものを圧出時に間欠的に切断し、直径20mm、長さ20mmのチップ状の小塊とし、作成した小塊を、複合機(整形ロールおよび複合ロール)により厚さ10mmの麺帯とし、圧延ロールを通し、切刃#18(角)にて、厚さ1.4mmの麺線とし、この麺線を蒸し機(蒸気圧1,500mmAq)で2分間蒸煮しα化し、次いで、250mmの長さにカットし、必要により既知の調味液等を溶かした水を20~30ml前後塗布した110~120g相当量を1食とし、油揚げ用のバスケットに投入し油槽温度120~160℃で水分を2~5%前後まで蒸発させた、即席中華麺。」
<甲1B製法発明>
「小麦粉800g、タピオカ加工澱粉200g、かんすい4.5g、食塩10g、クチナシ色素1.5g、増粘多糖類2g、レシチン15gを水350mlに溶かし、横型ミキサーで10分間混捏し、ドウとし、このドウを押出し成型機を用いて真空度760mmHgの脱気下で直径20mmのダイスを通し円筒状のドウ(生地)として圧送されたものを圧出時に間欠的に切断し、直径20mm、長さ20mmのチップ状の小塊とし、作成した小塊を、複合機(整形ロールおよび複合ロール)により厚さ10mmの麺帯とし、圧延ロールを通し、切刃#18(角)にて、厚さ1.4mmの麺線とし、この麺線を蒸し機(蒸気圧1,500mmAq)で2分間蒸煮しα化し、次いで、250mmの長さにカットし、必要により既知の調味液等を溶かした水を20~30ml前後塗布した110~120g相当量を1食とし、油揚げ用のバスケットに投入し油槽温度120~160℃で水分を2~5%前後まで蒸発させた、即席中華麺の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比・判断
本件特許発明1と甲1B麺発明を対比する。
甲1B麺発明における「小麦粉800g、タピオカ加工澱粉200g、かんすい4.5g、食塩10g、クチナシ色素1.5g、増粘多糖類2g、レシチン15gを水350mlに溶かし、横型ミキサーで10分間混捏」する工程は本件特許発明1の「混合工程」に相当する。
甲1B麺発明における「ドウを押出し成型機を用いて真空度760mmHgの脱気下で直径20mmのダイスを通し円筒状のドウ(生地)として圧送されたものを圧出時に間欠的に切断し、直径20mm、長さ20mmのチップ状の小塊とし、作成した小塊を、複合機(整形ロールおよび複合ロール)により厚さ10mmの麺帯とし、圧延ロールを通し、切刃#18(角)にて、厚さ1.4mmの麺線と」する工程は、本件特許発明1の「製麺工程」に相当し、本件特許発明1の「製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程」を満たす。
甲1B麺発明における「線を蒸し機(蒸気圧1,500mmAq)で2分間蒸煮しα化」する工程は本件特許発明1の「α化工程」に相当する。
甲1B麺発明における「必要により既知の調味液等を溶かした水を20~30ml前後塗布」する工程は本件特許発明1の「水分付与工程」に相当する。
甲1B麺発明における「油揚げ用のバスケットに投入し油槽温度120~160℃で水分を2~5%前後まで蒸発させ」る工程は本件特許発明1の「フライ乾燥工程」に相当する。
甲1B麺発明の「即席中華麺」は、本件特許発明1の「即席油揚げ麺」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法によって得られた即席油揚げ麺であって、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程である、即席油揚げ麺。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1B-1>
本件特許発明1の「水分付与工程」について、「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」であることが特定されているのに対し、甲1B麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1B-2>
本件特許発明1においては、「混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有」することが特定されているのに対し、甲1B麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1B-3>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲1B麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1B-4>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲1B麺発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点1B-4について検討する。
甲1Bには、甲1B麺発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1B麺発明において、相違点1B-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲1B麺発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲1B麺発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、相違点1B-4について、「令和6年7月24日付特許異議申立書に記載したように、甲第3B号証(特許第7104864号公報)の実施例1の即席油揚げ麺は、「湯戻し時間5分間及び湯戻し後の冷却時間3分間の経過後のL*値が68~74」である。このように、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことは、甲第1B号証(特開平9-294553号公報)に記された生麺のような特の透明感をする従来公知の艮席油揚げの透明感をL*値によって特定した(言い換えた)に過ぎず、「即席油揚げ麺」自体で比較した場合、訂正発明1の即席油揚げ麺と、甲第1B号証記載の発明(甲1発明1)の麺や甲第3B号証の実施例の麺に差違はない。また、即席油揚げ麺について、「湯戻し時間が3~6分間及び冷却時間が3~5分間の経過後のL*値を68~74にする」ことに格別の困難性は認められない。」と主張しているが(意見書 第6~7ページ)、甲1B麺発明と甲3Bの実施例の麺とは材料や配合比も異なるため、甲3Bの実施例における麺が本件特許発明1のL*値を満たすからといって、甲1B麺発明も本件特許発明1のL*値を満たす蓋然性が高いともいえないから、上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1B麺発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1B製法発明を対比すると、上記(2)アと同様の対応関係を有するから、両者は次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法であって、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程である、即席油揚げ麺の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1B-5>
本件特許発明4の水分付与工程について、「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」であることが特定されているのに対し、甲1B製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1B-6>
本件特許発明4においては、「混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有」することが特定されているのに対し、甲1B製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1B-7>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲1B製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1B-8>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲1B製法発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点1B-8について検討する。
甲1Bには、甲1B製法発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1B製法発明において、相違点1B-8に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明4は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲1B製法発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明4は甲1B製法発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5は、請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1B製法発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由1Bについてのむすび
したがって、本件特許発明1~5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1Bによっては取り消すことはできない。
4 申立理由2B(甲2Bに基づく進歩性)
(1)甲2Bに記載された事項等
ア 甲2Bに記載された事項
甲2Bには、「早もどりめん類の製造方法」に関して、次の記載がある。
・「本発明はこのような欠点を解消し消費者のニーズに適したものを研究、開発中に製めん原料に常温で固型状をなしている乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂を添加、混合して常法により製めんし、蒸煮後、熱風乾燥又は油揚乾燥して得られた即席めんのめん線に無数の微小孔が生じ、同時にめん線同志の付着が極めて少なく、喫食時にお湯を注ぐとほぐれが早く、復元時間が従来の1/2~1/3に短縮され、その食味も従来のものに比べ弾力性、滑らかさに富み、スープとの調和した商品価値の高いものが得られることを発見した。即ち、本発明は上記知見にもとづくものであり、製めん原料に常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂類を添加、混合して製めんし、その後の工程で無数の微小孔を治し、かつ、はぐれのよいめんの製造方法であり、従来の食味を改善すると共に復元性の極めて早いめんを消費者に提供しようとするものである。
本発明を詳述ずると小麦粉又は小麦粉を主体としこれに穀粉、又はでん粉を混合した原料粉に公知のめん質改良剤、食品添加物、調味料、水等と同時に、常温で固型状をなす食品用乳化剤0.2~3%、または、常温で固型状をなす食品用油脂0.2~15%もしくはその混合物0.2~15%を添加、混合し、充分練りあげて常法により製めんする。」(第2ページ右上欄10行~左下欄16行)
・「本発明で使用する食品用乳化剤および油脂は熱溶融性であり、粉末または粒状であることが好ましい。」(第2ページ右下欄5~7行)
・「味付めんの場合は蒸煮後のめん線を調味液に数秒浸漬した後上記乾燥を行なうが、本発明を併用すると調味液(調味料、油脂、乳化剤、水等)の浸透性がよく、しかも均一に着味し、乾燥工程の作業性も向上し食味、復元性も更に改善される。」(第3ページ左上欄8~12行)
・「実施例 1
小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加均一混合した後、水350ml、食塩20g、かんすい2gの混合液を加え、充分練り上げたのち、
常法で製めんし、ロールで0.8m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした後、0.8kg/cm2の蒸気で2分間蒸煮し、次いで150℃のラードで2分間油揚乾燥しめん製品を得た。」(第3ページ左下欄下から2行~右下欄7行)
イ 甲2Bに記載された発明
甲2Bに記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲2Bには次の発明(以下、順に「甲2B麺発明」及び「甲2B製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2B麺発明>
「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加均一混合した後、水350ml、食塩20g、かんすい2gの混合液を加え、充分練り上げたのち、常法で製めんし、ロールで0.8m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした後、0.8kg/cm2の蒸気で2分間蒸煮し、次いで150℃のラードで2分間油揚乾燥した、めん製品。」
<甲2B製法発明>
「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加均一混合した後、水350ml、食塩20g、かんすい2gの混合液を加え、充分練り上げたのち、常法で製めんし、ロールで0.8m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした後、0.8kg/cm2の蒸気で2分間蒸煮し、次いで150℃のラードで2分間油揚乾燥した、めん製品の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比・判断
本件特許発明1と甲2B麺発明を対比する。
甲2B麺発明における「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加均一混合した後、水350ml、食塩20g、かんすい2gの混合液を加え、充分練り上げた」工程は本件特許発明1の「混合工程」に相当し、また、甲2には「油脂は熱溶融性であり、粉末または粒状であることが好ましい」ことが記載されているから、甲2B麺発明における「固型状脂肪酸モノグリセライド」は「粉末油脂」である蓋然性が高く、そうすると、甲2B発明は本件特許発明1の「混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有」ことを満たすものと認められる。
甲2B麺発明における「常法で製めんし、ロールで0.8m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした」工程は、本件特許発明1の「製麺工程」に相当する。
甲2B麺発明における「0.8kg/cm2の蒸気で2分間蒸煮」する工程は本件特許発明1の「α化工程」に相当する。
甲2B麺発明における「次いで150℃のラードで2分間油揚乾燥した」工程は本件特許発明1の「フライ乾燥工程」に相当する。
甲2B麺発明は、喫食時にお湯を注いで食べる、油で揚げためんであるから、本件特許発明1の「即席油揚げ麺」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法によって得られた即席油揚げ麺であって、
前記混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有する、即席油揚げ麺。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2B-1>
本件特許発明1の製麺工程について、「製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程」であることが特定されているのに対し、甲2B麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2B-2>
本件特許発明1の水分付与工程について、「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」であることが特定されているのに対し、甲2B麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2B-3>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲2B麺発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2B-4>
本件特許発明1においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲2B麺発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点2B-4について検討する。
甲2Bには、甲2B麺発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2B麺発明において、相違点2B-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲2B麺発明並びに甲2B及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲2B麺発明並びに甲2B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、相違点2B-4について、上記3(1)イのとおり主張しているが、上記3(1)イで述べたとおり、当該主張は採用できない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2B麺発明並びに甲2B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲2B製法発明を対比すると、上記(2)アと同様の対応関係を有するから、両者は次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法によって得られた即席油揚げ麺であって、
前記製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程である、即席油揚げ麺の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<一致点>
「混合工程、製麺工程、α化工程、及びフライ乾燥工程を備える即席油揚げ麺の製造方法であって、
前記混合工程で用いる原材料は、粉末油脂を含有する、即席油揚げ麺の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2B-5>
本件特許発明4の製麺工程について、「製麺工程が、前記混合工程で得られた麺生地を、減圧下において押し出して小塊又は板状とした後に麺線化する工程」であることが特定されているのに対し、甲2B製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2B-6>
本件特許発明4の水分付与工程について、「前記水分付与工程が、前記α化工程の後、かつ、前記フライ乾燥工程で麺線をカットするまでの間に、前記α化工程によって得られたα化させた麺線に水分を付与する工程」であることが特定されているのに対し、甲2B製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2B-7>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺のたんぱく質含量が6~10質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲2B製法発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点2B-8>
本件特許発明4においては、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74である」ことが特定されているのに対し、甲2B製法発明ではそのようには特定されていない点。
事案に鑑みて、相違点2B-8について検討する。
甲2Bには、甲2B製法発明において、「フライ乾燥工程で得られた即席油揚げ麺の湯戻し時間である3~6分間及び前記湯戻し後の冷却時間である3~5分間の経過後のL*値が68~74」となるように調整する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2B製法発明において、相違点2B-8に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明4は「油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することができる」という甲2B製法発明並びに甲2B及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明4は甲2B製法発明並びに甲2B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5は、請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1B製法発明並びに甲2B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由2Bについてのむすび
したがって、本件特許発明1~5は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2Bによっては取り消すことはできない。
5 申立理由3A ア及び3B(明確性要件)
(1)明確性要件の判断基準
上記第6 1のとおりである。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1~5の記載は、上記第6 2及び3で判断したとおり、不明確な記載はなく、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
また、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
そして、本件特許発明1は物の発明であるところ、本件特許の請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえ、この場合に明確性要件に適合するには、本件特許発明1に不可能・非実際的事情が存在することが必要となるが、発明の詳細な説明の【0009】には、不可能・非実際的事情が存在することを説明する記載があるから、本件特許発明1に不可能・非実際的事情が存在するといえる。本件特許発明2及び3についても同様である。
したがって、本件特許発明1~3に関して、不可能・非実際的事情が存在するといえ、また、本件特許の請求項1~5の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張
ア 申立理由3A アに対する主張について
特許異議申立人Aは、申立理由3A アについて、上記第4 1(3)アのとおり主張するものの、「粉末油脂」という記載自体は明確であるし、発明の詳細な説明の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識(必要であれば、粉末油脂が添加された即席揚げ麺が記載されている甲2Aや甲4Aを参照。)を基礎として請求項1~5それぞれの記載を見れば、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるという点はない。
したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない
イ 申立理由3Bに対する主張について
特許異議申立人Bは、申立理由3Bについて、上記第4 2(3)のとおり主張するものの、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明に不可能・非実際的事情が存在することを説明する記載がある。
また、本件特許権者が即席麺について構造や特性を特定した発明を多数出願していることは、それらの出願に係る発明に不可能・非実際的事情が存在しないことを示すものではあるが、本件特許発明1に不可能・非実際的事情が存在しないことの理由にはならない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
(4)申立理由3A ア及び3Bのむすび
よって、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由3A ア及び3Bによっては取り消すことはできない。
6 申立理由4A及び4B(実施可能要件)
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1~3は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、上記第3のとおり、本件特許発明4~5は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】には「本発明は、即席油揚げ麺及びその製造方法に関する」ものであって、同【0006】には「本発明の目的は、油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供することである」との記載がある。
そして、同【0013】には「本発明の即席油揚げ麺の製造方法は、混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える」ことが記載され、同【0015】及び【0027】には混合工程について、同【0016】~【0026】には即席揚げ麺の原材料について、同【0028】には製麺工程について、同【0029】にはα化工程について、同【0030】~【0032】には水分付与工程について、同【0033】~【0035】にはフライ乾燥工程について記載され、また、同【0036】には即席揚げ麺のたんぱく質含量について、同【0037】には即席揚げ麺の油脂含量について、同【0038】~【0040】には即席揚げ麺の調理後のL*値、湯戻し時間、冷却時間についての記載があり、そして、具体的な実施例及び比較例の記載もある。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~3に関し、その物を生産し、かつ、その物を使用することができる程度に具体的に記載されており、また、本件特許発明4及び5に関し、その物を生産する方法を使用することができること、及び、その方法により生産した物の使用等をすることができる程度に具体的に記載されているものといえる。
よって、本件特許発明1~5に関して、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、上記第4 1(4)ア及びイの主張をするものの、「湯戻し時間」及び「冷却時間」については、本件特許の発明の詳細な説明の【0038】~【0039】に記載されており、また、同【0054】には実施例においてL*値を測定する際の具体的な湯戻し時間及び冷却時間について記載されている。そして、上記第6 3でも述べたとおり、当該技術分野の通常の知識を有する者が出願時の技術常識を踏まえれば、各商品の設計に基づいて喫食するのに適したおおよその推奨湯戻し時間は推認できるものであるし、冷却時間についても同様に理解できるものであるから、そうすると、当業者が、本件特許発明1~5を実施する際に、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を必要とするものとはいえない。また、特許異議申立人Aは、L*値を本件特許発明1及び4の範囲内とする作用機序が不明であるから実施可能要件を満たしていない旨主張するが、実施可能要件については、上記(1)の判断基準にしたがって判断されるものであるから、特許異議申立人Aの上記主張は何れも上記(2)の判断に影響しない。
イ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、上記第4 2(4)の主張をするものの、本件特許の請求項1~5において、粉末油脂の添加量について何ら特定されておらず、発明の詳細な説明に粉末油脂の添加による作用効果や、麺線の密度や空隙率への影響について何ら記載されていないとしても、本件特許発明1~5を実施する際に、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を必要とするものとはいえず、また、L*値を本件特許発明1及び4の範囲内とする作用機序等が不明であったとしても、実施可能要件については、上記(1)の判断基準にしたがって判断されるものであるから、特許異議申立人Bの上記主張は何れも上記(2)の判断に影響しない。
(4)申立理由4A及び4Bについてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4A及び4Bによっては取り消すことはできない。
7 申立理由5A及び5B(サポート要件)
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】によると、本件特許発明の解決しようとする課題は「本発明の目的は、油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺、及びその製造方法を提供すること」であり(以下、「発明の課題」という。)、そして、同【0007】には「本発明者らが、油脂含量が少なく、かつ、調理後の麺が茹でた生麺に近い外観を有する即席油揚げ麺を開発すべく鋭意検討した結果、即席油揚げ麺のたんぱく質含量を6~10質量%とし、調理後のL*値を68~74とすることにより、即席油揚げ麺の油脂含量が少なくなり、かつ、調理後の麺の外観が茹でた生麺の外観に近くなることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである」と記載されている。
そして、同【0013】には「本発明の即席油揚げ麺の製造方法は、混合工程、製麺工程、α化工程、水分付与工程、及びフライ乾燥工程を備える」ことが記載され、同【0015】及び【0027】には混合工程について、同【0016】~【0026】には即席揚げ麺の原材料について、同【0028】には製麺工程について、同【0029】にはα化工程について、同【0030】~【0032】には水分付与工程について、同【0033】~【0035】にはフライ乾燥工程について記載されている。
また、同【0036】には「本発明の即席油揚げ麺は、たんぱく質含量が通常6~10質量%であ」ること、同【0038】~【0040】には「本発明の即席油揚げ麺は、調理後に色差計(コニカミノルタ株式会社製、色彩色差計 CR-410)で測定したL*値(明度)が通常68~74であり」、「本明細書において、「調理後」は、即席油揚げ麺の湯戻し時間及び冷却時間の経過後を意味する。前記湯戻し時間は、使用する原料、麺の幅又は厚みによって変化し、例えば、3~6分間の間で適宜調整することができる。」及び「前記冷却時間は、湯気の影響を受けずに色差の測定が可能となるまでの時間であり、例えば、3~5分間の間で適宜調整することができる。冷却時間が短すぎる場合(湯戻し後すぐ、又は冷却時間が1~2分間)は、湯気の影響が色差に反映するため、好ましくない。冷却時間としては、3分間が好ましい。」ことが記載されている。
さらに、同【0041】~【0075】の実施例及び比較例を参照すると、「実施例1~16の即席油揚げ麺は、たんぱく質含量を6~10質量%に、かつ、調理後のL*値を68~74に設定することで、調理後の麺を、市販の生麺又はチルド麺のような透明感に近づけることができ、従来の即席油揚げ麺の調理後の麺と比べて透明感が感じられ」ることが記載されている。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「即席油揚げ麺のたんぱく質含量を6~10質量%とし、調理後のL*値を68~74と」した「即席揚げ麺」であれば、本件発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1~3は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる上記「即席揚げ麺」をさらに限定したものであり、本件特許発明4及び5は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「即席揚げ麺」の製造方法をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1~5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1~5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、上記第4 1(5)の主張をするものの、本件特許の発明の詳細な説明において、上記「即席油揚げ麺のたんぱく質含量を6~10質量%とし、調理後のL*値を68~74と」した「即席揚げ麺」であることを満足することにより、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていることは、上記(2)に示したとおりであり、また、特許異議申立人Aは本件特許発明の範囲内で課題が解決できないとする具体的な証拠を示すものでもないから、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
イ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、上記第4 2(5)の主張をするものの、本件特許の発明の詳細な説明において、上記「即席油揚げ麺のたんぱく質含量を6~10質量%とし、調理後のL*値を68~74と」した「即席揚げ麺」であることを満足することにより、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていることは、上記(2)に示したとおりである。
よって、特許異議申立人Bの主張は採用できない。
(4)申立理由5A及び5Bについてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5A及び5Bによっては取り消すことはできない。
第8 特許異議申立人が意見書において主張する理由について
特許異議申立人は、それぞれ意見書において、付言として、本件特許の請求項1~5を取り消すべき理由として、次の新たな理由を主張している。これらの主張については、特許異議申立時において主張できたものであるから、時機に失した主張ではあるが、以下、検討する。
1 サポート要件についての特許異議申立人の主張
(1)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは令和7年4月11日に提出された意見書において、生麺に近い外観を有するか否かの境界が明確でないから評価の客観性が担保されていない点、本件特許発明1が規定するL*値の範囲のおよそ半分の範囲については実施例が存在していない点、本件特許発明1が規定する成分及び物性以外の他の成分及び物性が特定されていない点、本件特許発明1の即席揚げ麺の麺種が特定されていない点などを挙げ(第3~10ページ)、技術上の意味が不明である旨主張するが、上記第7 7(2)で判断したとおり、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるし、また、特許異議申立人Aは、本件特許発明の発明特定事項を満たす場合において、具体的に課題を解決できないとする証拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
(2)許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは令和7年4月11日に提出された意見書において、本件特許発明がありとあらゆる厚さ(太さ)及び断面形状の即席揚げ麺を包含する点、発明の詳細な説明に課題の解決手段が認識できる程度に記載されていない点などを挙げ(意見書第4~5ページ)、そのような範囲にまで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない旨主張するが、上記第7 7(2)で判断したとおり、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるし、また、特許異議申立人Bは、本件特許発明の発明特定事項を満たす場合において、具体的に課題を解決できないとする証拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、令和7年4月11日に特許異議申立人A及びBから提出された意見書における主張は上記第7 7(2)の判断に何ら影響しない。
2 実施可能要件についての特許異議申立人の主張
(1)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは令和7年4月11日に提出された意見書において、本件特許発明1はプロダクト・バイ・プロセス形式によって記載された発明であるから、特定のL*値に適合する製品を得るためには過度の試行錯誤を伴い、再現を困難とするものであり技術的に実施可能な発明としての要件を欠いている旨を主張するが(意見書11ページ)、具体的に実施できないとする証拠を提示するものではなく、上記の判断を左右するものではない。
よって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
(2)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは令和7年4月11日に提出された意見書において、本件特許発明のL値*は本件特許権者が独自に設定したものであり、本件特許発明を実施するためには当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を強いるものであり、また、特定されていない種々の材料があるから再現を困難とするものであり技術的に実施可能な発明としての要件を欠いている旨を主張するが(意見書5~6ページ)、具体的に実施できないとする証拠を提示するものではなく、上記の判断を左右するものではない。
よって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、令和7年4月11日に特許異議申立人A及びBから提出された意見書における上記主張は上記第7 6(2)の判断に何ら影響しない。
第9 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、並びに、特許異議申立人A及びBの特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700699